IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-金属ベース基板 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】金属ベース基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/05 20060101AFI20220921BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20220921BHJP
   H05K 3/34 20060101ALI20220921BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20220921BHJP
   H01L 23/14 20060101ALI20220921BHJP
   H01B 5/14 20060101ALN20220921BHJP
【FI】
H05K1/05 Z
H05K1/09 A
H05K3/34 501D
H01L23/12 Q
H01L23/14 M
H01B5/14 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018134788
(22)【出願日】2018-07-18
(65)【公開番号】P2020013873
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】石川 史朗
(72)【発明者】
【氏名】野中 荘平
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-146679(JP,A)
【文献】米国特許第7957100(US,B1)
【文献】特開2007-201359(JP,A)
【文献】特開2000-256081(JP,A)
【文献】特開2006-128286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B5/14
H01L23/12―23/15
H05K1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板と、絶縁層と、回路層とがこの順で積層された金属ベース基板であって、
前記絶縁層は、絶縁性樹脂とセラミック粒子とを含む絶縁性樹脂組成物から形成され
前記回路層は、膜厚が10μm以上1000μm以下の範囲内にあって、降伏応力が10MPa以上150MPa以下の範囲内にあることを特徴とする金属ベース基板。
【請求項2】
前記回路層の前記降伏応力が110MPa以下である請求項1に記載の金属ベース基板。
【請求項3】
前記回路層は、アルミニウムからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属ベース基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ベース基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子などの電子部品を実装するための基板の一つとして、金属ベース基板が知られている。金属ベース基板は、金属基板と、絶縁層と、回路層とがこの順で積層された積層体である。電子部品は、回路層の上に、はんだを介して実装される。このような構成とされた金属ベース基板では、電子部品にて発生した熱は、絶縁層を介して金属基板に伝達され、金属基板から外部に放熱される。
【0003】
金属ベース基板の絶縁層は、一般に絶縁性に優れる樹脂と、熱伝導率に優れるセラミック粒子(熱伝導性フィラー)とを含む絶縁性樹脂組成物から形成されている。絶縁層用の樹脂としては、ポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂、シリコーン樹脂が用いられている。例えば、特許文献1には、絶縁層として、熱伝導性フィラーを40~80vol%の範囲内で含有するポリイミド樹脂層を用いた金属張積層体が開示されている。また、特許文献2には、絶縁層を形成する樹脂がポリジメチルシロキサン骨格からなるシリコーン樹脂であり、絶縁層中の無機充填材が45~60体積%であり、無機充填材の25質量%以上が結晶性シリカである回路基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5665449号公報
【文献】特開2017-152610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載されているような金属張積層体は一般に熱膨張率が大きく、通常セラミックからなる電子部品は熱膨張率が低い。金属張積層体と電子部品との熱膨張率の差が大きくなると、電子部品のオン/オフや外部環境による冷熱サイクルによって、電子部品と金属ベース基板とを接合しているはんだに付与される応力が大きくなり、はんだクラックが発生しやすくなるという問題があった。
【0006】
一方、特許文献2に記載されているシリコーン樹脂は、ポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂と比較すると弾性が低い。しかしながら、金属ベース基板の絶縁層には、熱伝導性フィラーが含まれているため、絶縁層の弾性はシリコーン樹脂単体と比較して低下する。このため、絶縁層用の樹脂としてシリコーン樹脂を用いることだけでは、冷熱サイクルによって、電子部品と金属ベース基板とを接合しているはんだに付与される応力を十分に低減させることは難しい。
【0007】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、はんだを介して電子部品を実装した状態で、冷熱サイクルを付与しても、はんだクラックの発生が起こりにくい金属ベース基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の金属ベース基板は、金属基板と、絶縁層と、回路層とがこの順で積層された金属ベース基板であって、前記絶縁層は、絶縁性樹脂とセラミック粒子とを含む絶縁性樹脂組成物から形成され、前記回路層は、膜厚が10μm以上1000μm以下の範囲内にあって、降伏応力が10MPa以上150MPa以下の範囲内にあることを特徴としている。
【0009】
本発明の金属ベース基板によれば、回路層は、膜厚が10μm以上1000μm以下の範囲内にあって、降伏応力が10MPa以上150MPa以下の範囲内にあるので、変形しやすい。このため、冷熱サイクルが付与された場合には、回路層が変形することによって、はんだに付与される応力を緩和することができるので、はんだクラックの発生を抑制することができる。
【0010】
ここで、本発明の金属ベース基板においては、前記回路層の前記降伏応力が110MPa以下であることが好ましい。
この場合、回路層がより変形しやすくなるので、はんだに付与される応力をより確実に緩和することができる。
【0011】
また、本発明の金属ベース基板において、前記回路層は、アルミニウムからなることが好ましい。
この場合、アルミニウムは熱処理によって降伏応力(0.2%耐力)が低減しやすいため、回路層によるはんだクラックの発生を抑制する効果を熱処理により比較的容易に高くすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、はんだを介して電子部品を実装した状態で、冷熱サイクルを付与しても、はんだクラックの発生が起こりにくい金属ベース基板を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態にかかる金属ベース基板を用いたモジュールの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態である金属ベース基板について、添付した図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかる金属ベース基板を用いたモジュールの概略断面図である。
【0015】
図1において、モジュール1は、金属ベース基板2と、金属ベース基板2の上に実装された電子部品3とを含む。金属ベース基板2は、金属基板10と、絶縁層20と、密着層30と、回路層40とがこの順で積層された積層体である。回路層40は、回路パターン状に形成されている。その回路パターン状に形成された回路層40の上に、電子部品3がはんだ4を介して接合されている。
【0016】
金属基板10は、金属ベース基板2のベースとなる部材である。金属基板10としては、銅板、アルミニウム板及びこれらの積層板を用いることができる。
【0017】
絶縁層20は、金属基板10と回路層40とを絶縁するための層である。絶縁層20は、絶縁性樹脂21とセラミック粒子22(熱伝導性フィラー)とを含む絶縁性樹脂組成物から形成されている。絶縁層20を、絶縁性が高い絶縁性樹脂21と、熱伝導度が高いセラミック粒子22とを含む絶縁性樹脂組成物から形成することによって、絶縁性を維持しつつ、回路層40から金属基板10までの金属ベース基板2全体の熱抵抗をより低減させることができる。
【0018】
絶縁性樹脂21は、ポリイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂、もしくはこれらの混合物であることが好ましい。ポリイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂は、イミド結合を持つので、優れた耐熱性と機械特性を有する。
【0019】
セラミック粒子22としては、シリカ(二酸化ケイ素)粒子、アルミナ(酸化アルミニウム)粒子、窒化ホウ素(BN)粒子、酸化チタン粒子、アルミナドープシリカ粒子、アルミナ水和物粒子、窒化アルミニウム粒子などを用いることができる。セラミック粒子22は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組合せて使用してもよい。これらのセラミック粒子の中では、アルミナ粒子は熱伝導性が高い点で好ましい。セラミック粒子22の形態は、特に制限はないが、微細なセラミック粒子の凝集粒子、あるいは単結晶のセラミック粒子であることが好ましい。
【0020】
微細なセラミック粒子の凝集粒子は、一次粒子が比較的弱く連結しているアグロメレートであってもよいし、一次粒子が比較的強く連結しているアグリゲートであってもよい。また、凝集粒子同士がさらに集合した粒子集合体を形成していてもよい。セラミック粒子22の一次粒子が凝集粒子を形成して絶縁層20中に分散していることによって、セラミック粒子22間の相互接触によるネットワークが形成されて、セラミック粒子22の一次粒子間を熱が伝導しやすくなり、絶縁層20の熱伝導度が向上する。
【0021】
微細なセラミック粒子の凝集粒子の市販品としては、AE50、AE130、AE200、AE300、AE380、AE90E(いずれも、日本アエロジル株式会社製)、T400(ワッカー社製)、SFP-20M(デンカ株式会社製)などのシリカ粒子、Alu65(日本アエロジル株式会社製)、AA-04(住友化学株式会社製)などのアルミナ粒子、AP-170S(Maruka社製)などの窒化ホウ素粒子、AEROXIDE(R)TiO2 P90(日本アエロジル株式会社製)などの酸化チタン粒子、MOX170(日本アエロジル株式会社製)などのアルミナドープシリカ粒子、Sasol社製のアルミナ水和物粒子などを用いることができる。
【0022】
単結晶のセラミック粒子は、αアルミナ(αAl)の結晶構造を有するαアルミナ単結晶粒子であることが好ましい。αアルミナ単結晶粒子の市販品としては、住友化学株式会社から販売されているアドバンストアルミナ(AA)シリーズのAA-03、AA-04、AA-05、AA-07、AA-1.5などを用いることができる。
【0023】
絶縁層20のセラミック粒子22の含有量は、5体積%以上60体積%以下の範囲内にあることが好ましい。セラミック粒子22の含有量が少なくなりすぎると、絶縁層20の熱伝導性が十分に向上しないおそれがある。一方、セラミック粒子22の含有量が多くなりすぎると、絶縁性樹脂21の含有量が相対的に減少して、絶縁層20の形状を安定に維持できなくなるおそれがある。また、セラミック粒子22が過剰に大きな凝集粒子を形成しやすくなり、絶縁層20の密着層30側の表面粗さRaが大きくなるおそれがある。絶縁層20の熱伝導性を確実に向上させるためには、セラミック粒子22の含有量は10体積%以上であることが好ましい。また、絶縁層20の形状の安定性を確実に向上させ、表面粗さRaを低くするためには、セラミック粒子22の含有量は50体積%以下であることが特に好ましい。
【0024】
絶縁層20の膜厚は、特には制限されるものではないが、1μm以上200μm以下の範囲内にあることが好ましく、3μm以上100μm以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0025】
密着層30は、絶縁層20と回路層40との密着性を向上させるための層である。密着層30は、ヤング率が低く、絶縁層20と回路層40との密着性が高いことが好ましい。密着層30の25℃におけるヤング率は、5GPa以下であることが好ましく、0.01GPa以上3GPa以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0026】
密着層30は、樹脂からなることが好ましい。樹脂としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂を用いることができる。シリコーン樹脂は、各種有機基を導入した変性シリコーン樹脂を含む。変性シリコーン樹脂の例としては、ポリイミド変性シリコーン樹脂、ポリエステル変性シリコーン樹脂、ウレタン変性シリコーン樹脂、アクリル変性シリコーン樹脂、オレフィン変性シリコーン樹脂、エーテル変性シリコーン樹脂、アルコール変性シリコーン樹脂、フッ素変性シリコーン樹脂、アミノ変性シリコーン樹脂、メルカプト変性シリコーン樹脂、カルボキシ変性シリコーン樹脂を挙げることができる。エポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂などを挙げることができる。これらの樹脂は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組合せて使用してもよい。
【0027】
密着層30は、熱伝導性を向上させるために、熱伝導性フィラーを分散させてもよい。熱伝導性フィラーとしては、セラミック粒子を用いることができる。セラミック粒子の例としては、シリカ(二酸化ケイ素)粒子、アルミナ(酸化アルミニウム)粒子、窒化ホウ素粒子、酸化チタン粒子、アルミナドープシリカ粒子、アルミナ水和物粒子、窒化アルミニウム粒子などが挙げられる。密着層30中の熱伝導性フィラーの含有量は、5体積%以上60体積%以下の範囲内にあることが好ましく、10体積%以上50体積%以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0028】
密着層30の膜厚は、特には制限されるものではないが、0.1μm以上20μm以下の範囲内にあることが好ましく、0.5μm以上5μm以下の範囲内にあることが特に好ましい。
【0029】
回路層40は、降伏応力が10MPa以上150MPa以下の範囲内とされている。降伏応力が10MPa未満であると、回路層40が柔らかくなりすぎて、回路層40に電子部品3を接合する際の作業性が低下するおそれがある。一方、降伏応力が150MPaを超えると、回路層40が変形しにくくなる。回路層40の降伏応力は110MPa以下であることが好ましく、90MPa以下であることがより好ましい。
【0030】
回路層40の降伏応力は、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法)に記載の方法に準拠して測定した値である。なお、降伏応力の測定に際して、明確な降伏点が確認できない場合は0.2%耐力を、降伏応力とする。
【0031】
回路層40を構成する金属は、平均結晶粒径が大きくなるにしたがって、転位のすべりを抑制する結晶粒界が減少するため、金属結晶粒同士がすべりやすくなる傾向がある。このため、回路層40は、平均結晶粒径が大きくなるにしたがって、変形しやすくなる。回路層40をより確実に変形しやすくするためには、回路層40の平均結晶粒径は、0.3μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましく、20μm以上1000μm以下の範囲内にあることが特に好ましい。結晶粒径が0.3μm以下であると、加工硬化を起こしやすく、半田にクラックが入りやすくなる。結晶粒径が1000μmを超えると、そのような試料の作製が難しく、またハンドリングもしにくい。なお、回路層40の平均結晶粒径は、EBSD法(電子線後方散乱回折分析法)により測定した値である。
【0032】
また、回路層40を構成する金属は、純度が高く、不純物が少なくなるにしたがって、欠陥が減るために金属結晶粒同士がすべりやすくなる傾向がある。このため、回路層40は、純度が高くなるにしたがって、変形しやすくなる。回路層40をより確実に変形しやすくするためには、回路層40の純度は、99質量%以上であることが好ましく、99.99質量%以上であることがより好ましく、99.999質量%以上であることが特に好ましい。なお、回路層40の純度は、差数法により測定した値である。差数法とは、試料中の不純物元素の含有率を測定し、100質量%から不純物元素の含有率を差し引いた値を試料の純度とする方法である。本実施形態では、不純物元素の含有率は、ICP-MS法により測定し、測定対象の不純物元素は、試料中に0.01質量ppm以上含まれる元素とする。
【0033】
回路層40の材料としては、アルミニウム、銅、銀、金、錫、鉄、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、パラジウム、チタン、亜鉛及びこれら金属の合金を用いることができる。これらの金属の中では、アルミニウム、銅が好ましく、特にアルミニウムが好ましい。回路層40の膜厚は、10μm以上1000μm以下の範囲内、好ましくは20μm以上100μm以下の範囲内にある。回路層40の膜厚が薄くなりすぎると、熱抵抗が高くなるおそれがある。一方、回路層40の膜厚が厚くなりすぎると、エッチングにより回路パターンを形成するのが困難となるおそれがある。また、回路層40の膜厚が厚くなりすぎると、モジュール1を構成する各材料の熱膨張係数の際によって、回路層40に付与される熱応力が大きくなり、冷熱サイクル中に、絶縁層20と回路層40とが剥離しやすくなるおそれがある。
【0034】
回路層40に実装される電子部品3の例としては、特に制限はなく、半導体素子、抵抗、キャパシタ、水晶発振器などが挙げられる。半導体素子の例としては、MOSFET(Metal-oxide-semiconductor field effect transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、LSI(Large Scale Integration)、LED(発光ダイオード)、LEDチップ、LED-CSP(LED-Chip Size Package)が挙げられる。
【0035】
次に、本実施形態の金属ベース基板2の製造方法について説明する。
本実施形態の金属ベース基板2は、例えば、金属基板10の上に、絶縁層20と密着層30とをこの順で積層し、次いで密着層30の上に回路層40を貼り付ける方法によって製造することができる。
【0036】
金属基板10の上に、絶縁性樹脂21とセラミック粒子22とを含む組成物からなる絶縁層20を形成する方法としては、塗布法あるいは電着法を用いることができる。
【0037】
塗布法は、絶縁性樹脂21とセラミック粒子22と溶剤とを含む絶縁層形成用塗布液を、金属基板10の表面に塗布して塗布層を形成し、次いで塗布層を加熱し、乾燥させて絶縁層20を金属基板10の上に形成する方法である。絶縁層形成用塗布液を、金属基板10の表面に塗布する方法としては、スピンコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、ディップコート法などを用いることができる。
【0038】
電着法は、電荷を有する絶縁性樹脂粒子とセラミック粒子が分散されている電着液に、金属基板10と電極とを浸漬し、金属基板10と電極との間に直流電圧を印加することによって、金属基板10の表面に絶縁性樹脂粒子とセラミック粒子を電着させて電着層を形成し、次いで電着層を加熱し、乾燥させて絶縁層20を金属基板10の上に形成する方法である。電着液は、例えば、セラミック粒子を含む絶縁性樹脂溶液に、絶縁性樹脂の貧溶媒を加えて、絶縁性樹脂を析出させることによって調製することができる。絶縁性樹脂の貧溶媒としては、例えば、水を用いることができる。
【0039】
絶縁層20の上に密着層30を形成する方法としては、塗布法を用いることができる。
密着層30は、密着層形成用の樹脂と溶剤と必要に応じて添加される熱伝導性フィラーとを含む密着層形成用塗布液を、絶縁層20の表面に塗布して塗布層を形成し、次いで塗布層を加熱し、乾燥させることによって形成することができる。密着層形成用塗布液を絶縁層20の表面に塗布する方法としては、スピンコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法、ディップコート法などを用いることができる。
【0040】
回路層40は、密着層30の上に回路層40を重ね合わせ、次いで、回路層40を加圧しながら加熱することによって貼り合わせることができる。加熱は、回路層40が酸化しないように、非酸化性雰囲気中(例えば、窒素雰囲気中、真空中)で行なうことが好ましい。
【0041】
回路層40は、密着層30に貼り合わせる前に、降伏応力が10MPa以上150MPa以下の範囲内となるように調整することが好ましい。回路層40の降伏応力は、例えば、熱処理によって調整することができる。アルミニウムは、熱処理によって降伏強度が低下しやすい。熱処理は、200℃以上500℃以下の温度で行うことが好ましい。熱処理の時間は、加熱温度によって異なるが、通常は、5分間以上500分間以下の範囲内である。
【0042】
以上のような構成とされた本実施形態の金属ベース基板2によれば、回路層40は、膜厚が10μm以上1000μm以下の範囲内にあって、降伏応力が10MPa以上150MPa以下の範囲内にあるので、変形しやすい。このため、冷熱サイクルが付与された場合には、回路層40が変形することによって、はんだに付与される応力を緩和することができるので、はんだクラックの発生を抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態の金属ベース基板2においては、回路層40の降伏応力が110MPa以下である場合は、回路層40がより変形しやすくなるので、はんだに付与される応力をより確実に緩和することができる。
【0044】
また、本実施形態の金属ベース基板2においては、回路層40がアルミニウムからなる場合は、回路層40によるはんだクラックの発生を抑制する効果を熱処理により比較的容易に高くすることができる。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、絶縁層20と回路層40との間に密着層30を設けた構成を説明したがこれに限定されることはない。絶縁層20単独で回路層40との密着性を十分に確保できる場合は、密着層30を設けなくてもよい。また、絶縁層20と密着層30の順番を逆にしてもよい。この場合、回路層40、絶縁層20、密着層30を、この順に積層した積層体を作製し、この積層体の密着層30と金属基板10とを熱圧着により圧着させることによって金属ベース基板を製造することができる。
【実施例
【0046】
以下に、本発明の作用効果を実施例により説明する。
【0047】
[本発明例1]
容量300mLのセパラブルフラスコに、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、およびNMP(N-メチル-2-ピロリドン)を仕込んだ。NMP量は、得られるポリアミック酸の濃度が40質量%になるように調整した。常温で撹拌して、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを完全に溶解させた後、内温が30℃を超えないよう、所定量のテトラカルボン酸2無水物を少量ずつ添加した。その後、窒素雰囲気下で16時間の撹拌を続け、ポリアミック酸(ポリイミド前駆体)溶液を調製した。
【0048】
セラミック粒子(熱伝導性フィラー)として、アルミナ粒子(平均粒子径:0.5μm)を用意した。用意したアルミナ粒子1.0gとNMP10gとを混合し、30分間超音波処理して、アルミナ粒子分散液を調製した。
【0049】
上記のようにして調製したポリアミック酸溶液とアルミナ粒子分散液とを、加熱によって生成する固形物(絶縁層)中のアルミナ粒子の含有量が30体積%となるように混合し、次いで、NMPで、混合物中のポリアミック酸の濃度が5質量%となるように希釈した。続いて得られた混合物を、株式会社スギノマシン社製スターバーストを用い、圧力50MPaの高圧噴射処理を10回繰り返すことにより分散処理を行って、アルミナ粒子分散ポリアミック酸溶液(絶縁層形成用塗布液)を調製した。
【0050】
厚み0.3mmで30mm×20mmの銅基板の表面に、絶縁層形成用塗布液を、加熱によって生成する絶縁層の膜厚が10μmとなるようにバーコート法により塗布して絶縁層形成用塗布層を形成した。次いで、絶縁層形成用塗布層を形成した銅基板をホットプレート上に配置して、室温から3℃/分で60℃まで昇温し、60℃で100分間、さらに1℃/分で120℃まで昇温し、120℃で100分間加熱して、絶縁層形成用塗布層を乾燥させた。その後、銅基板を250℃で1分間、400℃で1分間加熱して、絶縁層付き銅基板を作製した。
【0051】
ポリアミドイミド(弾性率:2GPa)とNMPとを、質量比で1:6となる割合で混合し、ポリアミドイミドを溶解させてポリアミドイミド溶液(密着層形成用塗布液)を調製した。
上記の絶縁層付き銅基板の絶縁層の上に、密着層形成用塗布液を、加熱によって生成する密着層の膜厚が1μmとなるようにスピンコート法により塗布して、密着層形成用塗布層を形成した。次いで、密着層形成用塗布層を形成した絶縁層付き銅基板を加熱し、密着層形成用塗布層を乾燥させて、絶縁層の上に密着層を形成して、銅基板と絶縁層と密着層がこの順で積層された積層体を得た。
【0052】
アルミニウム箔(膜厚:40μm、サイズ:30mm×20mm)を用意した。このアルミニウム箔は、純度が99.999431質量%、平均結晶粒径が0.2μm、降伏応力(0.2%耐力)が132MPaであった。なお、アルミニウム箔の純度及び平均結晶粒径は、下記の方法により測定した。
【0053】
(純度の測定方法)
アルミニウム箔を酸で溶解し、得られたアルミニウム溶液中の不純物元素含有量をICP-MS法により測定した。得られた不純物元素含有量から、アルミニウム箔中の不純物元素の合計含有率を求め、100質量%から不純物元素の合計含有率を差し引いた値をアルミニウム箔の純度とした。不純物元素は、Na,Mg,Si,P,K,Ca,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Nb,Mo,Ru,Pd,Ag,In,Sn,Sb,Ba,Hf,W,Pt,Au,Pb,Biとした。
【0054】
(平均結晶粒径の測定方法)
EBSD測定装置(FEI社製Quanta FEG 450,EDAX/TSL社製OIM Data Collection)と、解析ソフト(EDAX/TSL社製OIM Data Analysis ver.5.3)とを用い、電子線の加速電圧:15kV、測定ステップ:0.5μm、測定範囲:84μm×56μm、解析範囲:84μm×56μmmの条件でEBSD法により測定した。
【0055】
用意したアルミニウム箔の一方の表面を、表面処理液(メック株式会社製、アマルファA-10201M)に2分間浸漬させた。次いで、表面処理液から取出したアルミニウム箔を水洗し、濃度5質量%の硫酸水溶液に20秒間浸漬して中和した後、再度水洗して乾燥して、表面処理済みアルミニウム箔を得た。上記の積層体の密着層の上に、表面処理済みアルミニウム箔を、表面処理した面が密着層に接するように重ね合わせ、次いで、カーボン治具を用いて5MPaの圧力を付与しながら、真空中にて215℃の温度で20分間加熱して、密着層とアルミニウム箔とを貼り合わせた。こうして銅基板と絶縁層と密着層とアルミニウム箔からなる回路層がこの順で積層された金属ベース基板を作製した。
【0056】
[本発明例2~23、比較例1~3]
アルミニウム箔として、膜厚と純度と平均結晶粒径と降伏応力(0.2%耐力)が下記の表1に示す値であるものを用いたこと以外は、本発明例1と同様にして金属ベース基板を作製した。なお、本発明例2~5、7~23及び比較例3では、アルミニウム箔を300℃の温度にて下記の表1に示す熱処理時間で熱処理することによって、平均結晶粒径と降伏応力(0.2%耐力)を調整した。
【0057】
[評価]
金属ベース基板の回路層上に、Sn-Ag-Cuはんだ(千住金属工業株式会社製:M705)を塗布して、厚み100μmで2.5mm×2.5mmのはんだ層を形成し、そのはんだ層の上に、2.5mm×2.5mm角のSiチップを搭載して、試験体を作製した。作製した試験体に、1サイクルが-40℃×30分間~150℃×30分間の冷熱サイクルを3000サイクル付与した。冷熱サイクル付与後の試験体を、樹脂埋めし、断面を研磨によって出した。試験体のはんだ層の断面を観察し、はんだ層に生じたクラックの長さ(μm)を測定した。その結果を下記の表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
回路層(アルミニウム箔)の降伏応力(0.2%耐力)が10MPa以上150MPa以下の範囲内にある本発明例1~23の金属ベース基板は、回路層の降伏応力(0.2%耐力)が150MPaを超える比較例1~2の金属ベース基板と比較して、冷熱サイクル付与後のはんだ層のクラック長さが短くなった。これは、本発明例1~23の金属ベース基板では、冷熱サイクル付与時に回路層が変形することによって、はんだ層に付与される応力が緩和されたためであると考えられる。特に、回路層の降伏応力(0.2%耐力)が110MPa以下とされた本発明例2~5、7~16、19~23の金属ベース基板は、冷熱サイクル付与後のはんだ層のクラック長さが0.2μm以下と顕著に短くなった。また、回路層(アルミニウム箔)の膜厚が、本発明の範囲を超える比較例3の金属ベース基板は、冷熱サイクル中に絶縁層と回路層とが剥離した。
【0060】
[本発明例24~26、比較例4]
アルミニウム箔の代わりに、膜厚と純度と平均結晶粒径と降伏応力(0.2%耐力)が下記の表2に示す値である銅箔を用いたこと以外は、本発明例1と同様にして金属ベース基板を作製し、冷熱サイクル付与後のはんだ層のクラック長さを測定した。銅箔は、300℃の温度にて下記の表2に示す熱処理時間で熱処理することによって、平均結晶粒径と降伏応力(0.2%耐力)を調整した。なお、銅箔の純度は、不純物元素を、Na,Mg,Si,Al,P,K,Ca,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Zn,Ga,Ge,Nb,Mo,Ru,Pd,Ag,In,Sn,Sb,Ba,Hf,W,Pt,Au,Pb,Biとしたこと以外は、アルミニウム箔の純度と同様にして測定した。銅箔の平均結晶粒径は、アルミニウム箔の平均結晶粒径と同様にして測定した。
【0061】
【表2】
【0062】
回路層に銅箔を用いた場合についても同様に、回路層の降伏応力(0.2%耐力)が10MPa以上150MPa以下の範囲内にある本発明例24~26の金属ベース基板は、回路層の降伏応力(0.2%耐力)が150MPaを超える比較例4の金属ベース基板と比較して、冷熱サイクル付与後のはんだ層のクラック長さが短くなった。特に、回路層の降伏応力(0.2%耐力)が110MPa以下とされた本発明例25~26の金属ベース基板は、冷熱サイクル付与後のはんだ層のクラック長さが0.2μm以下と顕著に短くなった。
【0063】
以上の結果から、本発明例によれば、はんだを介して電子部品を実装した状態で、冷熱サイクルを付与しても、はんだクラックの発生が起こりにくい金属ベース基板を提供することが可能となることが確認された。
【符号の説明】
【0064】
1 モジュール
2 金属ベース基板
3 電子部品
4 はんだ
10 金属基板
20 絶縁層
21 絶縁性樹脂
22 セラミック粒子
30 密着層
40 回路層
図1