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特許7143674金属化フィルムおよびフィルムコンデンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】金属化フィルムおよびフィルムコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20220921BHJP
   H01G 4/32 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
B32B15/08 P
H01G4/32 511D
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018149669
(22)【出願日】2018-08-08
(65)【公開番号】P2020031075
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】出口 洋成
(72)【発明者】
【氏名】松村 紀明
(72)【発明者】
【氏名】藤根 正義
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第02/101770(WO,A1)
【文献】特開平10-189382(JP,A)
【文献】特開平09-111439(JP,A)
【文献】実開平03-106722(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
H01G 1/00 - 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムの一方の面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第一の金属からなる膜と、酸化物のバンドギャップが5eV未満である第二の金属からなる膜とをこの順に備え、上記プラスチックフィルムの他方の面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第三の金属からなる膜を備え、前記第一~第三の金属からなる膜の合計の膜抵抗値が、40~60Ω/□である、金属化フィルム。
【請求項2】
プラスチックフィルムの片面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第一の金属からなる膜と、酸化物のバンドギャップが5eV未満である第二の金属からなる膜と、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第三の金属からなる膜とをこの順に備える、金属化フィルム。
【請求項3】
上記第一~第三の金属からなる膜の合計の膜抵抗値が、6~60Ω/□である、請求項に記載の金属化フィルム。
【請求項4】
上記第二の金属が、亜鉛、スズ、およびインジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属である、請求項1~3の何れか一項に記載の金属化フィルム。
【請求項5】
上記第一の金属および第三の金属がそれぞれ、アルミニウム、マグネシウム、および金属シリコンからなる群より選択される少なくとも一種の金属である、請求項1~の何れか一項に記載の金属化フィルム。
【請求項6】
上記第一~第三の金属からなる膜が、蒸着によって形成されている、請求項1~5の何れか一項に記載の金属化フィルム。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の金属化フィルムを巻回してなる、フィルムコンデンサ。
【請求項8】
プラスチックフィルムの片面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第一の金属からなる膜と、酸化物のバンドギャップが5eV未満である第二の金属からなる膜とをこの順に備える第一の金属化フィルムと、
プラスチックフィルムの片面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第三の金属からなる膜を備える第二の金属化フィルムと、を含み、
上記第一の金属化フィルムと第二の金属化フィルムとを、上記膜を備えていないプラスチックフィルムの面同士を接触させた状態で巻回してなる、フィルムコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックフィルムの表面に金属からなる膜を備える金属化フィルム、およびフィルムコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プラスチックフィルムの表面に金属を蒸着させることによって作製された金属化フィルムを巻回してなるフィルムコンデンサ(金属蒸着フィルムコンデンサ、メタライズドフィルムコンデンサ、金属化有機フィルムコンデンサ等とも称される)が知られている。フィルムコンデンサは、セラミックコンデンサおよび電解コンデンサと比較して容量は小さいものの、高電圧に対応可能であり、高周波特性が良好で誘電体損失が少ないという特徴を備えている。それゆえ、フィルムコンデンサは、電子用途、車載用途、産業用途等に広く使用されている。特に近年、フィルムコンデンサは、ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)等の車載用途において、寿命および自己保安性に課題を有するアルミニウム電解コンデンサとの置き換え需要によって市場規模を拡大している。アルミニウム電解コンデンサの代わりにフィルムコンデンサを用いることにより、小型化(コンパクト化)、軽量化、およびコストダウンを図ることができる。
【0003】
上記フィルムコンデンサとしては、従来、プラスチックフィルムの表面に金属としてアルミニウムが蒸着されたフィルムコンデンサ(特許文献1)、プラスチックフィルムの表面に金属として亜鉛が蒸着されたフィルムコンデンサ(特許文献2)、並びに、ポリプロピレンフィルムの表面にアルミニウムと亜鉛との合金が蒸着されたフィルムコンデンサ(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-115230号公報
【文献】特開平8-17672号公報
【文献】特開2009-88258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、小型化、軽量化、およびコストダウンを図りつつ、より高い電界(電位傾度)で使用することができるフィルムコンデンサが求められている。しかしながら、アクティブ部(電極として機能する部位)に金属としてアルミニウムが蒸着されたフィルムコンデンサは、破壊電圧が高く、より高い電界で使用することができるものの、リプル電流が大きい使用条件では容量の減少が速くなり、寿命が短くなってしまうという課題が存在する。また、アクティブ部に金属として亜鉛が蒸着されたフィルムコンデンサは、アルミニウムが蒸着されたフィルムコンデンサと比較して、リプル電流が大きい使用条件においても容量の減少が遅く、長寿命であるものの、破壊電圧が低く、より高い電界で使用することができないという課題が存在する。
【0006】
即ち、上述の従来技術では、より高い電界で使用することと、リプル電流が大きい使用条件においても長寿命であることとを両立する(同時に達成する)ことができるフィルムコンデンサを提供することができないという問題がある。
【0007】
本発明の一態様は、小型化(コンパクト化)、軽量化、およびコストダウンを図りつつ、より高い電界(電位傾度)で使用することと、リプル電流が大きい使用条件においても長寿命であることとを両立する(同時に達成する)ことができるフィルムコンデンサ、および当該フィルムコンデンサを構成する金属化フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、下記<1>~<8>で示される発明を包含している。
<1> プラスチックフィルムの一方の面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第一の金属からなる膜と、酸化物のバンドギャップが5eV未満である第二の金属からなる膜とをこの順に備え、上記プラスチックフィルムの他方の面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第三の金属からなる膜を備える、金属化フィルム。
<2> プラスチックフィルムの片面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第一の金属からなる膜と、酸化物のバンドギャップが5eV未満である第二の金属からなる膜と、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第三の金属からなる膜とをこの順に備える、金属化フィルム。
<3> 上記第二の金属が、亜鉛、スズ、およびインジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属である、<1>または<2>に記載の金属化フィルム。
<4> 上記第一の金属および第三の金属がそれぞれ、アルミニウム、マグネシウム、および金属シリコンからなる群より選択される少なくとも一種の金属である、<1>~<3>の何れか一項に記載の金属化フィルム。
<5> 上記第一~第三の金属からなる膜の合計の膜抵抗値が、6~60Ω/□である、<1>~<4>の何れか一項に記載の金属化フィルム。
<6> 上記第一~第三の金属からなる膜が、蒸着によって形成されている、<1>~<5>の何れか一項に記載の金属化フィルム。
<7> <1>~<6>の何れか一項に記載の金属化フィルムを巻回してなる、フィルムコンデンサ。
<8> プラスチックフィルムの片面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第一の金属からなる膜と、酸化物のバンドギャップが5eV未満である第二の金属からなる膜とをこの順に備える第一の金属化フィルムと、プラスチックフィルムの片面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第三の金属からなる膜を備える第二の金属化フィルムと、を含み、上記第一の金属化フィルムと第二の金属化フィルムとを、上記膜を備えていないプラスチックフィルムの面同士を接触させた状態で巻回してなる、フィルムコンデンサ。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、金属化フィルムを巻回してなるフィルムコンデンサは、プラスチックフィルムの表面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第一または第三の金属からなる膜を備える。第一または第三の金属からなる膜には、当該膜の形成時に、プラスチックフィルム側の面(界面)に、ワイドギャップの絶縁体である酸化物が形成される。それゆえ、プラスチックフィルムへのキャリアの注入を防止することができ、当該プラスチックフィルム内でのキャリア挙動が小さくなる。従って、フィルムコンデンサは、破壊電圧が高くなる。一方、上記フィルムコンデンサは、酸化物のバンドギャップが5eV未満である第二の金属からなる膜を備え、当該膜が通電時に電路となる。そして、リプル電流が流れると陽極酸化反応によって第二の金属から酸化物が形成されるものの、当該酸化物はナローギャップの電子導電体であるため、第二の金属からなる膜は電極としての機能を維持する。従って、フィルムコンデンサは、リプル電流が大きい使用条件においても、容量の減少が抑制される。
【0010】
それゆえ、本発明の一態様によれば、小型化(コンパクト化)、軽量化、およびコストダウンを図りつつ、互いにトレードオフの関係にある、より高い電界(電位傾度)で使用することと、リプル電流が大きい使用条件においても長寿命であることとを両立する(同時に達成する)ことができるフィルムコンデンサ、および当該フィルムコンデンサを構成する金属化フィルムを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態1に係る金属化フィルムの構成を示す概略の断面図である。
図2】本発明の実施形態2に係る金属化フィルムの構成を示す概略の断面図である。
図3】本発明の実施形態3に係る金属化フィルムの構成を示す概略の断面図である。
図4】本発明の一態様に係るフィルムコンデンサの構成を示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各実施形態や各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0013】
〔実施形態1〕
本発明の一実施形態について、以下に説明する。
【0014】
図1に示すように、本発明の実施形態1に係る金属化フィルム5は、プラスチックフィルム1の一方の面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第一の金属からなる膜2と、酸化物のバンドギャップが5eV未満である第二の金属からなる膜3とをこの順に備え、上記プラスチックフィルム1の他方の面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第三の金属からなる膜4を備えている。
【0015】
[プラスチックフィルム]
本発明の一態様に係るプラスチックフィルム1には、従来の金属化フィルムに用いられている一般的なプラスチックフィルムを用いることができる。具体的には、プラスチックフィルム1としては、二軸延伸されたポリプロピレン(PP)フィルムおよびポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等が好適である。プラスチックフィルム1は、積層体であってもよい。
【0016】
プラスチックフィルム1の厚さは、特に限定されないものの、1μm~20μmが好ましく、2μm~10μmがより好ましい。また、プラスチックフィルム1の大きさは、フィルムコンデンサの用途に応じて設定すればよいものの、幅は10mm~150mmが好ましく、40mm~120mmがより好ましく、長さは10m~2000mが好ましく、100m~1000mがより好ましい。即ち、プラスチックフィルム1は、金属化フィルム5を巻回してフィルムコンデンサを形成することができるように、長尺物であることが好ましい。
【0017】
[第一の金属~第三の金属]
一般に、金属化フィルムを構成する種々の金属は、バンドギャップが5eV以上である酸化物を形成する金属と、バンドギャップが5eV未満である酸化物を形成する金属とに分類することができる。バンドギャップが5eV以上である酸化物は、ワイドギャップの絶縁体である。バンドギャップが5eV未満である酸化物は、ナローギャップの電子導電体である。本発明の一態様に係る金属化フィルム5においては、バンドギャップが5eV以上である酸化物を形成する金属を第一の金属および第三の金属として用い、バンドギャップが5eV未満である酸化物を形成する金属を第二の金属として用いる。
【0018】
(第一の金属からなる膜、第三の金属からなる膜)
第一の金属および第三の金属としては、アルミニウム、マグネシウム、および金属シリコンからなる群より選択される少なくとも一種の金属が好ましく、アルミニウムおよびマグネシウムがより好ましく、アルミニウムがさらに好ましい。アルミニウムの酸化物(Al)のバンドギャップは8eVであり、マグネシウムの酸化物(MgO)のバンドギャップは5.5eVであり、金属シリコンの酸化物(SiO)のバンドギャップは7eVである。
【0019】
第一の金属からなる膜2または第三の金属からなる膜4には、当該膜2,4の形成時に、プラスチックフィルム1側の面(界面)に、ワイドギャップの絶縁体である酸化物が形成される。それゆえ、プラスチックフィルム1へのキャリアの注入を防止することができ、当該プラスチックフィルム1内でのキャリア挙動が小さくなる。
【0020】
第一の金属および第三の金属は、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよいが、互いに同じであることが好ましい。また、第一の金属からなる膜2、および、第三の金属からなる膜4は、単一の金属からなる膜であってもよく、複数種類の金属からなる膜であってもよいが、単一の金属からなる膜であることが好ましい。さらに、第一の金属からなる膜2、および、第三の金属からなる膜4は、それぞれ一層であってもよく、複数層(積層体)であってもよいが、一層であることが好ましい。
【0021】
(第二の金属からなる膜)
第二の金属としては、亜鉛、スズ、およびインジウムからなる群より選択される少なくとも一種の金属が好ましく、亜鉛およびスズがより好ましく、亜鉛がさらに好ましい。亜鉛の酸化物(ZnO)のバンドギャップは3eVであり、スズの酸化物(SnO)のバンドギャップは3eVであり、インジウムの酸化物(In)のバンドギャップは3eVである。
【0022】
第二の金属からなる膜3は、リプル電流が流れると陽極酸化反応によってその端部(露出部分)から酸化物を徐々に形成するものの、当該酸化物はナローギャップの電子導電体であるため、第二の金属からなる膜3は電極としての機能を維持する。
【0023】
第二の金属からなる膜3は、単一の金属からなる膜であってもよく、複数種類の金属からなる膜であってもよいが、単一の金属からなる膜であることが好ましい。さらに、第二の金属からなる膜3は、一層であってもよく、複数層(積層体)であってもよいが、一層であることが好ましい。
【0024】
(第一~第三の金属からなる膜)
第一の金属からなる膜2、第二の金属からなる膜3、および第三の金属からなる膜4の形成方法は、特に限定されないものの、蒸着によって形成されていることが好ましい。これら膜2~4は、公知の蒸着装置を用いた真空蒸着によって形成することができる。
【0025】
上記第一~第三の金属からなる膜2~4におけるアクティブ部(電極として機能する部位)の合計の膜抵抗値は、特に限定されないものの、6~60Ω/□(Ωsquare)であることが好ましく、40~50Ω/□であることがより好ましい。尚、上記第一~第三の金属からなる膜2~4の合計の厚さは、およそ3nm~20nmであり、およそ5nm~8nm(金属原子の層でおよそ50層)が好適である。
【0026】
尚、フィルムコンデンサの製造時に、例えば溶射することによってプラスチックフィルム1の端面に電極を形成するので、プラスチックフィルム1の表面の少なくとも二辺には、短絡を避けるために、上記第一~第三の金属からなる膜2~4が形成されない部分(幅はおよそ2mm)が存在する。
【0027】
以上のように、本発明の実施形態1に係る金属化フィルム5は、プラスチックフィルム1の一方の面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第一の金属からなる膜2と、酸化物のバンドギャップが5eV未満である第二の金属からなる膜3とをこの順に備え、上記プラスチックフィルム1の他方の面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第三の金属からなる膜4を備えている。それゆえ、本発明の一態様によれば、互いにトレードオフの関係にある、より高い電界(電位傾度)で使用することと、リプル電流が大きい使用条件においても長寿命であることとを両立する(同時に達成する)ことができるフィルムコンデンサを構成する金属化フィルム5を提供することができる。
【0028】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。尚、説明の便宜上、実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0029】
図2に示すように、本発明の実施形態2に係る金属化フィルム6は、プラスチックフィルム11の片面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第一の金属からなる膜2と、酸化物のバンドギャップが5eV未満である第二の金属からなる膜3とをこの順に備える第一の金属化フィルムと、プラスチックフィルム12の片面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第三の金属からなる膜4を備える第二の金属化フィルムと、で構成されている。即ち、本発明の一態様に係る金属化フィルムは、上記二枚の金属化フィルムで構成されていてもよい。
【0030】
プラスチックフィルム11およびプラスチックフィルム12の材質は、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよいが、互いに同じであることが好ましい。プラスチックフィルム11およびプラスチックフィルム12は、積層体であってもよい。プラスチックフィルム11,12の合計の厚さは、プラスチックフィルム1の厚さと同程度であればよい。プラスチックフィルム11,12の大きさは、プラスチックフィルム1の大きさと同程度であればよい。
【0031】
金属化フィルム6は、第一の金属化フィルムと第二の金属化フィルムとを、上記膜2~4を備えていないプラスチックフィルム11,12の面同士を接触させた状態で巻回することによって、フィルムコンデンサを構成する。即ち、本発明の実施形態2に係る金属化フィルム6を巻回してなるフィルムコンデンサは、プラスチックフィルム11の片面に、第一の金属からなる膜2と、第二の金属からなる膜3とをこの順に備える第一の金属化フィルムと、プラスチックフィルム12の片面に、第三の金属からなる膜4を備える第二の金属化フィルムと、を含み、上記第一の金属化フィルムと第二の金属化フィルムとを、上記膜2~4を備えていないプラスチックフィルム11,12の面同士を接触させた状態で巻回することによって構成される。
【0032】
それゆえ、本発明の一態様によれば、実施形態1に係る金属化フィルム5と同様に、より高い電界(電位傾度)で使用することと、リプル電流が大きい使用条件においても長寿命であることとを両立する(同時に達成する)ことができるフィルムコンデンサを構成する金属化フィルム6を提供することができる。
【0033】
尚、上述した説明においては、膜2と膜3とがこの順にプラスチックフィルム11の片面に備えられている構成を例に挙げたが、膜3は、プラスチックフィルム12側に備えられていてもよい。即ち、金属化フィルム6は、プラスチックフィルム11の片面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第一の金属からなる膜2を備える第一の金属化フィルムと、プラスチックフィルム12の片面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第三の金属からなる膜4と、酸化物のバンドギャップが5eV未満である第二の金属からなる膜3とをこの順に備える第二の金属化フィルムと、で構成されていてもよい。
【0034】
〔実施形態3〕
本発明のさらに他の実施形態について、以下に説明する。尚、説明の便宜上、実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0035】
図3に示すように、本発明の実施形態3に係る金属化フィルム7は、プラスチックフィルム1の片面に、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第一の金属からなる膜2と、酸化物のバンドギャップが5eV未満である第二の金属からなる膜3と、酸化物のバンドギャップが5eV以上である第三の金属からなる膜4とをこの順に備えている。
【0036】
それゆえ、本発明の一態様によれば、実施形態1に係る金属化フィルム5と同様に、より高い電界(電位傾度)で使用することと、リプル電流が大きい使用条件においても長寿命であることとを両立する(同時に達成する)ことができるフィルムコンデンサを構成する金属化フィルム7を提供することができる。
【0037】
また、本発明の実施形態3に係る金属化フィルム7は、プラスチックフィルム1上に、上記第一~第三の金属からなる膜2~4の積層体を構成するので、当該膜2~4に、例えばヒューズ機能を備えるパターン形状を形成することができる。上記膜2~4にヒューズ機能を備えるパターン形状を形成することにより、金属化フィルム7を巻回してなるフィルムコンデンサは、絶縁破壊が生じた場合においても、当該ヒューズ機能によって膜2~4をガス化させ、欠陥のある部位の電極を切り離す(絶縁性を回復する)ことができる。つまり、当該フィルムコンデンサは、自己回復性(セルフヒーリング)を備えることができる。これにより、金属化フィルム7を巻回してなるフィルムコンデンサは、容量の減少を少なく留めることができると共に、寿命および自己保安性を向上させることができ、信頼性が高まる。
【0038】
〔実施形態4〕
本発明のさらに他の実施形態について、以下に説明する。尚、説明の便宜上、実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を省略する。
【0039】
図4に示すように、本発明の一態様に係るフィルムコンデンサ10は、本発明の一態様に係る金属化フィルムを二枚、或いは二組重ね合わせた後、巻回することによって、構成されている。具体的には、本発明の一態様に係るフィルムコンデンサ10は、例えば、本発明の実施形態1に係る金属化フィルム5、本発明の実施形態2に係る金属化フィルム6、または本発明の実施形態3に係る金属化フィルム7を二枚、或いは二組巻回することによって、構成されている。
【0040】
金属化フィルムを巻回することにより、第一~第三の金属からなる膜2~4はプラスチックフィルム1によって挟持された状態となり、フィルムコンデンサ10は、プラスチックフィルム1/膜2/膜3/膜4/プラスチックフィルム1で示される構造を有することになる。
【0041】
第一の金属からなる膜2または第三の金属からなる膜4には、当該膜2,4の形成時に、プラスチックフィルム1側の面(界面)に、ワイドギャップの絶縁体である酸化物が形成される。それゆえ、プラスチックフィルム1へのキャリアの注入を防止することができ、当該プラスチックフィルム1内でのキャリア挙動が小さくなる。従って、フィルムコンデンサ10は、破壊電圧が高くなる。尚、第一の金属からなる膜2または第三の金属からなる膜4は、リプル電流が流れると陽極酸化反応によってワイドギャップの絶縁体である酸化物2a,4aを、その端部(露出部分)から徐々に形成し、これにより、電極としての機能を徐々に失う。
【0042】
一方、第二の金属からなる膜3は、リプル電流が流れると陽極酸化反応によってその端部(露出部分)から酸化物3aを徐々に形成するものの、当該酸化物3aはナローギャップの電子導電体であるため、通電時に電路となり、電極としての機能を維持する。従って、フィルムコンデンサ10は、リプル電流が大きい使用条件においても、容量の減少が抑制される。
【0043】
それゆえ、本発明の一態様によれば、より高い電界(電位傾度)で使用することと、リプル電流が大きい使用条件においても長寿命であることとを両立する(同時に達成する)ことができるフィルムコンデンサ10を提供することができる。
【実施例
【0044】
次に、本発明に係る金属化フィルムおよびフィルムコンデンサについて、実施例および比較例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明は係る実施例のみに制限されるものではない。
【0045】
〔実施例1〕
本発明の実施形態1に係る金属化フィルム5に相当する金属化フィルムを作製した。具体的には、プラスチックフィルム1として、二軸延伸されたポリプロピレンフィルム(幅50mm、長さ55m、厚さ5μm)を用いた。第一~第三の金属として、この順に、アルミニウム、亜鉛、アルミニウムを選択した。即ち、プラスチックフィルムに蒸着する金属をアルミニウム/亜鉛/アルミニウムの三層構造とした。第一~第三の金属からなる膜2~4におけるアクティブ部(電極として機能する部位)の合計の膜抵抗値は、50Ω/□であった。そして、上記金属化フィルムを巻回してフィルムコンデンサを作製した。当該フィルムコンデンサの静電容量は、20μFであった。
【0046】
そして、作製したフィルムコンデンサを、直流での絶縁破壊試験の絶縁破壊電圧、並びに、交流での課電試験の容量減少率によって評価した。上記絶縁破壊試験は、JIS C 2151(電気用プラスチックフィルム試験方法)17.2.2項に従って行い、電圧上昇速度を100V/秒とした。課電試験では、印加電圧を60Hz,350Vrms とし、1000時間印加した。
【0047】
その結果、作製したフィルムコンデンサの絶縁破壊電圧は3000Vであり、容量減少率は1%であった。
【0048】
〔比較例1〕
本発明の実施形態2に係る第一の金属化フィルムに相当する金属化フィルムを作製した。具体的には、プラスチックフィルム11として、実施例1と同様の二軸延伸されたポリプロピレンフィルムを用いた。第一および第二の金属として、この順に、アルミニウム、亜鉛を選択した。即ち、プラスチックフィルムに蒸着する金属をアルミニウム/亜鉛の二層構造とした。第一および第二の金属からなる膜2,3におけるアクティブ部の合計の膜抵抗値は、50Ω/□であった。そして、上記金属化フィルムを巻回してフィルムコンデンサを作製した。当該フィルムコンデンサの静電容量は、20μFであった。
【0049】
そして、作製したフィルムコンデンサを、実施例1と同様にして評価した。その結果、作製したフィルムコンデンサの絶縁破壊電圧は2400Vであり、容量減少率は1%であった。
【0050】
〔比較例2〕
本発明の実施形態2に係る第二の金属化フィルムに相当する金属化フィルムを作製した。具体的には、プラスチックフィルム12として、実施例1と同様の二軸延伸されたポリプロピレンフィルムを用いた。第三の金属として、アルミニウムを選択した。第三の金属からなる膜4におけるアクティブ部の膜抵抗値は、50Ω/□であった。そして、上記金属化フィルムを巻回してフィルムコンデンサを作製した。当該フィルムコンデンサの静電容量は、20μFであった。
【0051】
そして、作製したフィルムコンデンサを、実施例1と同様にして評価した。その結果、作製したフィルムコンデンサの絶縁破壊電圧は3000Vであり、容量減少率は5%であった。
【0052】
(まとめ)
上記実施例1および比較例1,2の結果から、本発明の一態様によれば、互いにトレードオフの関係にある、より高い電界(電位傾度)で使用することと、リプル電流が大きい使用条件においても長寿命であることとを両立する(同時に達成する)ことができるフィルムコンデンサを提供することができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係るフィルムコンデンサは、直流コンデンサとして、電子用途、車載用途、産業用途等に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 プラスチックフィルム
2 第一の金属からなる膜
3 第二の金属からなる膜
4 第三の金属からなる膜
2a~4a 酸化物
5~7 金属化フィルム
10 フィルムコンデンサ
図1
図2
図3
図4