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特許7143690磁性体検査システム、磁性体検査装置および磁性体検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】磁性体検査システム、磁性体検査装置および磁性体検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/83 20060101AFI20220921BHJP
【FI】
G01N27/83
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018164216
(22)【出願日】2018-09-03
(65)【公開番号】P2020038072
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100101753
【弁理士】
【氏名又は名称】大坪 隆司
(72)【発明者】
【氏名】飯島 健二
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-142289(JP,A)
【文献】特開平11-072481(JP,A)
【文献】特表2017-520005(JP,A)
【文献】国際公開第2018/138850(WO,A1)
【文献】特開2003-035701(JP,A)
【文献】特開平07-306185(JP,A)
【文献】特開昭59-000650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72 - G01N 27/9093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体から成る長尺材の異常を検査する磁性体検査システムであって、
前記長尺材の長さ方向に対して異なる位置に配設された一対のコイル部からなり、前記長尺材と前記一対のコイル部との前記長尺材に対する長さ方向の位置を相対的に移動させつつ、前記一対のコイル部のうちの一方のコイル部の出力値から他方のコイル部の出力値を減算することにより検知信号を出力する差動コイルを含む磁性体検査装置と、
前記差動コイルから出力された検知信号に基づいて前記長尺材の状態を判定する判定装置と、を備え、
前記判定装置は、前記検知信号の強度を一方の軸とし前記長尺材の長さ方向に関するパラメータを他方の軸とするグラフにおいて前記他方の軸方向の所定の領域を規定する窓領域を設定し、該窓領域を該他方の軸の方向に移動させつつ、該窓領域内において前記検知信号における下側ピークと上側ピークとが予め定められた順序で発生し、かつ、下側ピーク値と上側ピーク値との差が予め定められた設定値以上となったときに、前記長尺材の異常を検出することを特徴とする磁性体検査システム。
【請求項2】
磁性体から成る長尺材の異常を検査する磁性体検査システムであって、
前記長尺材の長さ方向に対して異なる位置に配設された一対のコイル部からなり、前記長尺材と前記一対のコイル部との前記長尺材に対する長さ方向の位置を相対的に移動させつつ、前記一対のコイル部のうちの一方のコイル部の出力値から他方のコイル部の出力値を減算することにより検知信号を出力する差動コイルを含む磁性体検査装置と、
前記差動コイルから出力された検知信号に基づいて前記長尺材の状態を判定する判定装置と、を備え、
前記判定装置は、前記検知信号の強度を一方の軸とし前記長尺材の長さ方向に関するパラメータを他方の軸とするグラフにおいて前記他方の軸方向の所定の領域を規定する窓領域を設定し、該窓領域を該他方の軸の方向に移動させつつ、該窓領域内における前記検知信号の大きさの変化量が予め定められた設定値以上となったときに、前記長尺材の異常を検出することを特徴とする磁性体検査システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の磁性体検査システムにおいて、
前記長尺材は、複数の素線により形成されたワイヤーロープであり、
前記判定装置は、前記検知信号に基づいて、前記ワイヤーロープの素線断線、または、前記ワイヤーロープへの長尺材の付着の有無を判定する磁性体検査システム。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の磁性体検査システムにおいて、
前記差動コイルは、前記長尺材の磁性体を励振する励振コイルを含む磁性体検査システム。
【請求項5】
磁性体から成る長尺材の異常を検査する磁性体検査装置であって、
前記長尺材の長さ方向に対して異なる位置に配設された一対のコイル部からなり、前記長尺材と前記一対のコイル部との前記長尺材に対する長さ方向の位置を相対的に移動させつつ、前記一対のコイル部のうちの一方のコイル部の出力値から他方のコイル部の出力値を減算することにより検知信号を出力する差動コイルと、
前記差動コイルから出力された検知信号に基づいて前記長尺材の状態を判定する判定部と、を備え、
前記判定部は、前記検知信号の強度を一方の軸とし前記長尺材の長さ方向に関するパラメータを他方の軸とするグラフにおいて前記他方の軸方向の所定の領域を規定する窓領域を設定し、該窓領域を該他方の軸の方向に移動させつつ、該窓領域内において、前記検知信号における下側ピークと上側ピークとが予め定められた順序で発生し、かつ、下側ピーク値と上側ピーク値との差が予め定められた設定値以上となったときに、前記長尺材の異常を検出することを特徴とする磁性体検査装置。
【請求項6】
磁性体から成る長尺材の異常を検査する磁性体検査装置であって、
前記長尺材の長さ方向に対して異なる位置に配設された一対のコイル部からなり、前記長尺材と前記一対のコイル部との前記長尺材に対する長さ方向の位置を相対的に移動させつつ、前記一対のコイル部のうちの一方のコイル部の出力値から他方のコイル部の出力値を減算することにより検知信号を出力する差動コイルと、
前記差動コイルから出力された検知信号に基づいて前記長尺材の状態を判定する判定部と、を備え、
前記判定部は、前記検知信号の強度を一方の軸とし前記長尺材の長さ方向に関するパラメータを他方の軸とするグラフにおいて前記他方の軸方向の所定の領域を規定する窓領域を設定し、該窓領域を該他方の軸の方向に移動させつつ、該窓領域内における前記検知信号の大きさの変化量が予め定められた設定値以上となったときに、前記長尺材の異常を検出することを特徴とする磁性体検査装置。
【請求項7】
磁性体から成る長尺材の異常を検査する磁性体検査方法であって、
前記長尺材と、前記長尺材の長さ方向に対して異なる位置に配設された一対のコイル部を備えた差動コイルとの前記長尺材に対する長さ方向の位置を相対的に移動させつつ、前記差動コイルにおける一対のコイル部のうちの一方のコイル部の出力値から他方のコイル部の出力値を減算することにより検知信号を出力するステップと、
前記検知信号の強度を一方の軸とし前記長尺材の長さ方向に関するパラメータを他方の軸とするグラフにおいて前記他方の軸方向の所定の領域を規定する窓領域を設定し、該窓領域を該他方の軸の方向に移動させつつ、該窓領域内で、前記検知信号において下側ピークと上側ピークとが予め定められた順序で発生し、かつ、下側ピーク値と上側ピーク値との差が予め定められた設定値以上となったときに、前記長尺材の異常を検出するステップと、
を備える磁性体検査方法。
【請求項8】
磁性体から成る長尺材の異常を検査する磁性体検査方法であって、
前記長尺材と、前記磁性体の長さ方向に対して異なる位置に配設された一対のコイル部を備えた差動コイルとの前記長尺材に対する長さ方向の位置を相対的に移動させつつ、前記差動コイルにおける一対のコイル部のうちの一方のコイル部の出力値から他方のコイル部の出力値を減算することにより検知信号を出力するステップと、
前記検知信号の強度を一方の軸とし前記長尺材の長さ方向に関するパラメータを他方の軸とするグラフにおいて前記他方の軸方向の所定の領域を規定する窓領域を設定し、該窓領域を該他方の軸の方向に移動させつつ、該窓領域内における前記検知信号の大きさの変化量が予め定められた設定値以上となったときに、前記長尺材の異常を検出するステップと、
を備える磁性体検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、磁性体検査システム、磁性体検査装置および磁性体検査方法に関し、特に磁性体の磁束を検知する磁性体検査システム、磁性体検査装置および磁性体検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性体の磁束を検知する磁性体検査方法の一つとして、全磁束法が利用されている。全磁束法は、磁性体中に流れる磁束量が磁性体の断面積に比例することを原理とした検査方法であり、例えば、ワイヤーロープ(磁性体)を磁化させ、ワイヤーロープの磁束が総量としてどれくらい変化しているかを測定することによりワイヤーロープの異常を検査する方法である。
【0003】
特許文献1には、有節長尺材を囲む励磁コイルと、励磁コイルで発生させた渦電流による誘導を検出する一対の検出コイルと、一対の検出コイルの出力の一方から他方を減算する減算器とを備え、一方向に搬送される有節長尺材の傷を検査することができる有節長尺材の渦流探傷装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-302379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような磁性体から成るワイヤーロープとしてのスチールワイヤーロープは、数本から数十本の素線(ワイヤ)をより合わせた複数本のストランドを、心綱の周りに所定のピッチでより合わせた構造を有する。このため、多数の素線のうちの数少ない素線に断線等の異常が生じた場合においては、スチールワイヤーロープの磁束量の変化はわずかであり、素線の断線を正確に検出することが困難となる。
【0006】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、差動コイルによる検知信号の特徴を利用することにより、磁性体の異常を正確に検出することが可能な磁性体の検査システム、磁性体検査装置および磁性体検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、磁性体から成る長尺材の異常を検査する磁性体検査システムであって、前記長尺材の長さ方向に対して異なる位置に配設された一対のコイル部からなり、前記長尺材と前記一対のコイル部との前記長尺材に対する長さ方向の位置を相対的に移動させつつ、前記一対のコイル部のうちの一方のコイル部の出力値から他方のコイル部の出力値を減算することにより検知信号を出力する差動コイルを含む磁性体検査装置と、前記差動コイルから出力された検知信号に基づいて前記長尺材の状態を判定する判定装置と、を備え、前記判定装置は、前記検知信号の強度を一方の軸とし前記長尺材の長さ方向に関するパラメータを他方の軸とするグラフにおいて前記他方の軸方向の所定の領域を規定する窓領域を設定し、該窓領域を該他方の軸の方向に移動させつつ、該窓領域内において前記検知信号における下側ピークと上側ピークとが予め定められた順序で発生し、かつ、下側ピーク値と上側ピーク値との差が予め定められた設定値以上となったときに、前記長尺材の異常を検出することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、磁性体から成る長尺材の異常を検査する磁性体の検査システムであって、前記長尺材の長さ方向に対して異なる位置に配設された一対のコイル部からなり、前記長尺材と前記一対のコイル部との前記長尺材に対する長さ方向の位置を相対的に移動させつつ、前記一対のコイル部のうちの一方のコイル部の出力値から他方のコイル部の出力値を減算することにより検知信号を出力する差動コイルを含む磁性体検査装置と、前記差動コイルから出力された検知信号に基づいて前記長尺材の状態を判定する判定装置と、を備え、前記判定装置は、前記検知信号の強度を一方の軸とし前記長尺材の長さ方向に関するパラメータを他方の軸とするグラフにおいて前記他方の軸方向の所定の領域を規定する窓領域を設定し、該窓領域を該他方の軸の方向に移動させつつ、該窓領域内における前記検知信号の大きさの変化量が予め定められた設定値以上となったときに、前記長尺材の異常を検出することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記磁性体は、複数の素線により形成されたワイヤーロープであり、前記判定装置は、前記検知信号に基づいて、前記ワイヤーロープの素線断線、または、前記ワイヤーロープへの磁性体の付着の有無を判定する。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記差動コイルは、前記磁性体を励振する励振コイルを含む。
【0011】
請求項5に記載の発明は、磁性体から成る長尺材の異常を検査する磁性体検査装置であって、前記長尺材の長さ方向に対して異なる位置に配設された一対のコイル部からなり、前記長尺材と前記一対のコイル部との前記長尺材に対する長さ方向の位置を相対的に移動させつつ、前記一対のコイル部のうちの一方のコイル部の出力値から他方のコイル部の出力値を減算することにより検知信号を出力する差動コイルと、前記差動コイルから出力された検知信号に基づいて前記長尺材の状態を判定する判定部と、を備え、前記判定部は、前記検知信号の強度を一方の軸とし前記長尺材の長さ方向に関するパラメータを他方の軸とするグラフにおいて前記他方の軸方向の所定の領域を規定する窓領域を設定し、該窓領域を該他方の軸の方向に移動させつつ、該窓領域内において、前記検知信号における下側ピークと上側ピークとが予め定められた順序で発生し、かつ、下側ピーク値と上側ピーク値との差が予め定められた設定値以上となったときに、前記長尺材の異常を検出することを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、磁性体から成る長尺材の異常を検査する磁性体検査装置であって、前記長尺材の長さ方向に対して異なる位置に配設された一対のコイル部からなり、前記長尺材と前記一対のコイル部との前記長尺材に対する長さ方向の位置を相対的に移動させつつ、前記一対のコイル部のうちの一方のコイル部の出力値から他方のコイル部の出力値を減算することにより検知信号を出力する差動コイルと、前記差動コイルから出力された検知信号に基づいて前記長尺材の状態を判定する判定部と、を備え、前記判定部は、前記検知信号の強度を一方の軸とし前記長尺材の長さ方向に関するパラメータを他方の軸とするグラフにおいて前記他方の軸方向の所定の領域を規定する窓領域を設定し、該窓領域を該他方の軸の方向に移動させつつ、該窓領域内における前記検知信号の大きさの変化量が予め定められた設定値以上となったときに、前記長尺材の異常を検出することを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、磁性体から成る長尺材の異常を検査する磁性体検査方法であって、前記長尺材と、前記長尺材の長さ方向に対して異なる位置に配設された一対のコイル部を備えた差動コイルとの前記長尺材に対する長さ方向の位置を相対的に移動させつつ、前記差動コイルにおける一対のコイル部のうちの一方のコイル部の出力値から他方のコイル部の出力値を減算することにより検知信号を出力するステップと、前記検知信号の強度を一方の軸とし前記長尺材の長さ方向に関するパラメータを他方の軸とするグラフにおいて前記他方の軸方向の所定の領域を規定する窓領域を設定し、該窓領域を該他方の軸の方向に移動させつつ、該窓領域内で、前記検知信号において下側ピークと上側ピークとが予め定められた順序で発生し、かつ、下側ピーク値と上側ピーク値との差が予め定められた設定値以上となったときに、前記長尺材の異常を検出するステップと、を備える。
【0014】
請求項8に記載の発明は、磁性体から成る長尺材の異常を検査する磁性体検査方法であって、前記長尺材と、前記磁性体の長さ方向に対して異なる位置に配設された一対のコイル部を備えた差動コイルとの前記長尺材に対する長さ方向の位置を相対的に移動させつつ、前記差動コイルにおける一対のコイル部のうちの一方のコイル部の出力値から他方のコイル部の出力値を減算することにより検知信号を出力するステップと、前記検知信号の強度を一方の軸とし前記長尺材の長さ方向に関するパラメータを他方の軸とするグラフにおいて前記他方の軸方向の所定の領域を規定する窓領域を設定し、該窓領域を該他方の軸の方向に移動させつつ、該窓領域内における前記検知信号の大きさの変化量が予め定められた設定値以上となったときに、前記長尺材の異常を検出するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0015】
請求項1、請求項5および請求項7に記載の発明によれば、磁性体に異常が発生している場合、差動コイルにおける一対のコイル部のうちの一方のコイル部の出力値から他方のコイル部の出力値を減算して得た検知信号には、磁性体の長さ方向に対する予め設定した領域内において下側ピークと上側ピークとが予め定められた順序で発生するという特徴を利用し、それらの下側ピーク値と上側ピーク値との差が予め定められた設定値以上となったときに異常を検出することから、磁性体の異常を正確に検出することが可能となる。
【0016】
請求項2、請求項6および請求項8に記載の発明によれば、差動コイルにおける一対のコイル部のうちの一方のコイル部の出力値から他方のコイル部の出力値を減算して得た検知信号の大きさの変化量は、ノイズ等と比較して大きいことを利用し、検知信号の大きさの変化量が予め定められた設定値以上となったときに異常を検出することから、磁性体の異常を正確に検出することが可能となる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、ワイヤーロープの素線断線、または、ワイヤーロープへの磁性体の付着の有無を判定することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、励振コイルにより励振された磁性体を利用して異常を検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】この発明に係るワイヤーロープの検査装置100を適用したエレベータ装置の概要図である。
図2】この発明に係るワイヤーロープの検査装置100の構成を示す模式図である。
図3】この発明に係るワイヤーロープの検査装置100における励振コイル付差動コイル74をワイヤーロープ91とともに示す概要図である。
図4】他の実施形態に係る励振コイル付差動コイル74をワイヤーロープ91とともに示す概要図である。
図5】他の実施形態に係る励振コイル付差動コイル74をワイヤーロープ91とともに示す概要図である。
図6】励振コイル付差動コイル74から出力される検知信号を示すグラフである。
図7】検知信号の上側ピークと下側ピークを検出するための窓領域W付近を示す拡大図である。
図8】検知信号に対して設定された窓領域W付近を示す拡大図である。
図9図8に示す窓領域W付近を拡大して模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。最初に、この発明に係るワイヤーロープの検査装置を使用するエレベータ装置の構成について説明する。図1は、この発明に係るワイヤーロープの検査装置100を適用したエレベータ装置の概要図である。
【0021】
このエレベータ装置は、かご92と、このかご92を、巻き上げプーリ93およびガイドプーリ94を介して図示しないカウンターウエイトと連結するワイヤーロープ91とを備える。そして、壁面95に、この発明に係るワイヤーロープの検査装置100が配設されている。このワイヤーロープの検査装置100は、かご92の昇降に伴って移動するワイヤーロープ91に対して、その異常を検査する。
【0022】
なお、このエレベータ装置に使用されるワイヤーロープ91は、磁性体である鋼(steel)の素線をより合わせたスチールワイヤーロープから構成されている。但し、鋼以外の磁性体から成るワイヤーロープを使用してもよい。
【0023】
次に、この発明に係るワイヤーロープの検査装置の構成について説明する。図2は、この発明に係るワイヤーロープの検査装置100の構成を示す模式図である。また、図3は、この発明に係るワイヤーロープの検査装置100における励振コイル付差動コイル74をワイヤーロープ91とともに示す概要図である。
【0024】
この発明に係るワイヤーロープの検査装置100は、ワイヤーロープ91の状態を示す検知信号を出力するための励振コイル付差動コイル74を備える。
【0025】
励振コイル付差動コイル74は、図3に示すように、ワイヤーロープ91の長さ方向(図2および図3における左右方向であり図1における上下方向)に対して異なる位置に隣接して配設された一対のコイル部71、72から構成される差動コイルと、ワイヤーロープ91を励振するための励振コイル73とを備える。コイル部71およびコイル部72は、ワイヤーロープ91を中心とした円筒状の形状を有する。また、励振コイル73は、コイル部71およびコイル部72の外側を囲う円筒状の形状を有する。
【0026】
ここで、励振コイル73は、励振電流が流されることにより磁界を発生し、この磁界がワイヤーロープ91に印加されることによりワイヤーロープ91が励振する。そして、一対のコイル部71、72から構成される差動コイルにより、ワイヤーロープ91から生ずる磁界が検出される。
【0027】
図4および図5は、他の実施形態に係る励振コイル付差動コイル74をワイヤーロープ91とともに示す概要図である。
【0028】
図3に示す励振コイル付差動コイル74は、一対のコイル部71、72から構成される差動コイルの外側に励振コイル73を配設している。これに対して、図4に示す実施形態においては、一対のコイル部71、72から構成される差動コイルの内側に励振コイル73を配設している。また、図5に示す実施形態においては、励振コイル73に対してワイヤーロープ91の長手方向の両側に、差動コイルを構成する一対のコイル部71、72を配設している。
【0029】
再度図2を参照して、励振コイル付差動コイル74は、かご92の昇降動作に伴って励振コイル付差動コイル74に対するワイヤーロープ91の長さ方向の位置を変化させた状態で、差動コイルにおける一対のコイル部71、72のうちの一方のコイル部71の出力値から他方のコイル部72の出力値を減算することにより、ワイヤーロープ91の状態を示す検知信号を出力する。
【0030】
また、この発明に係るワイヤーロープの検査装置100は、ワイヤーロープ91の長さ方向に対して励振コイル付差動コイル74の両側に配設された複数の永久磁石61、62、63、64から構成される磁界印加機構を備える。この永久磁石61、62、63、64から構成される磁界印加機構は、ワイヤーロープ91に対して予め磁界を印加することにより、ワイヤーロープ91の磁化の方向を整えるために使用されるものである。
【0031】
すなわち、ワイヤーロープ91の内部の磁化の方向は、図1に示す巻き上げプーリ93やガイドプーリ94を通過する際に、応力や曲がり等が加わることにより変化して不均一となる。また、ワイヤーロープ91の内部の磁化の方向がワイヤーロープ91の製造直後から不均一となっている場合もある。このため、ワイヤーロープ91に断線等がない均一な部分であっても、ワイヤーロープ91が有する磁化の方向のバラツキに起因して、励振コイル付差動コイル74がノイズに基づいた信号を検出してしまう場合がある。このため、このワイヤーロープの検査装置100は、ワイヤーロープ91に対して予め磁界を印加することにより、ワイヤーロープ91の磁化の方向を略整える構成を採用している。
【0032】
このような構成を採用することにより、励振コイル付差動コイル74に対してワイヤーロープ91を図2に示す右方向に移動させるときには、ワイヤーロープ91が励振コイル付差動コイル74に到達する前に、一対の永久磁石61、62により磁化の方向が整えられる。一方、励振コイル付差動コイル74に対してワイヤーロープ91を図2に示す左方向に移動させるときには、ワイヤーロープ91が励振コイル付差動コイル74に到達する前に、一対の永久磁石63、64により磁化の方向が整えられる。
【0033】
また、この発明に係るワイヤーロープの検査装置100は、励振コイル付差動コイル74から出力された検知信号に基づいてワイヤーロープ91の状態を判定し、その判定結果を図2に示す表示部15等に表示する判定部82を備える。
【0034】
なお、判定部82は、ソフトウエアがインストールされたコンピュータから構成される。この判定部82に含まれる判定機能は、コンピュータにインストールされているソフトウエアを実行することで実現される。
【0035】
図6は、励振コイル付差動コイル74から出力される検知信号を示すグラフであり、図7は、その上側ピークと下側ピークを検出するための窓領域W付近を示す拡大図である。図6および図7における縦軸は、検知信号の大きさを示している。
【0036】
上述したように、励振コイル付差動コイル74は、一対のコイル部71、72のうちの一方のコイル部71の出力値から他方のコイル部72の出力値を減算することにより、判定部82に対してワイヤーロープ91の状態を示す検知信号を出力している。このため、ワイヤーロープ91を構成する素線に素線断線等の異常が生じた場合や、ワイヤーロープ91に磁性体の付着が生じた場合においては、ワイヤーロープ91における磁束量が変化することから、差動コイルにおける一対のコイル部71、72のうちの一方のコイル部71の出力値から他方のコイル部72の出力値を減算して得た検知信号には、図6における領域A、B、Cに示すように、ワイヤーロープ91の長さ方向に対する予め設定した領域内において下側ピークと上側ピークとが予め定められた順序で発生する。
【0037】
判定部82は、励振コイル付差動コイル74から送信された検知信号に対して、図7における符号Wで示すように、ワイヤーロープ91の長さ方向に対する所定の領域を規定する窓領域Wを設定する。そして、この窓領域Wを、ワイヤーロープ91に対して相対的に、ワイヤーロープ91の長さ方向に移動させる。
【0038】
この窓領域Wは、ワイヤーロープ91を定速で移送させる場合においては、一定の時間として設定される。また、ワイヤーロープ91の位置情報を取得する場合においては、一定の距離として設定される。いずれの場合においても、この窓領域Wは、ワイヤーロープ91の長さ方向に対して予め設定された領域となる。
【0039】
判定部82は、最初に、この窓領域Wで規定される領域内において、検知信号における下側ピークと上側ピークとが予め定められた順序で発生しているか否かを判断する。図7においては、右側に示す窓領域Wで規定される領域内においては、検知信号における下側ピークと上側ピークとが発生していないが、左側に示す窓領域Wで規定される領域内においては、検知信号における下側ピークと上側ピークとが予め定められた順序で発生している。
【0040】
なお、下側ピークと上側ピークの発生の順序は、ワイヤーロープ91の長さ方向に対する窓領域Wの移動方向がいずれの方向か、あるいは、差動コイルにおける一対のコイル部71、72のうちのコイル部71の出力値からコイル部72の出力値を減算するかコイル部72の出力値からコイル部71の出力値を減算するかにより逆となる。また、ワイヤーロープ91に断線が生じている場合と、ワイヤーロープ91に磁性体が付着している場合とで逆となる。
【0041】
検知信号における下側ピークと上側ピークとが予め定められた順序で発生している場合においては、判定部82は、次に、下側ピーク値と上側ピーク値との差が予め定められた設定値以上であるか否かを判断する。
【0042】
そして、判定部82が、ワイヤーロープ91の長さ方向に対する所定の領域を規定する窓領域W内において、検知信号における下側ピークと上側ピークとが予め定められた順序で発生し、かつ、下側ピーク値と上側ピーク値との差が予め定められた設定値以上であると判断したときに、ワイヤーロープ91の異常を検出する。この時には、判定部82は、表示部15に対して異常の発生を知らせる警告表示を行うと共に、必要に応じ警告音を発生させる。なお、この異常の発生の通知は、院内ネットワーク等を介して他の管理装置に送信してもよい。
【0043】
次に、判定部82によるワイヤーロープ91の状態判定の他の実施形態について説明する。図8は、図6に示す検知信号に対して設定された窓領域W付近を示す拡大図である。また、図9は、図8に示す窓領域W付近を拡大して模式的に示す説明図である。図8および図9における横軸は、ワイヤーロープ91の長さ方向の位置を示している。また、図8および図9における縦軸は、検知信号の大きさを示している。
【0044】
上述した実施形態においては、ワイヤーロープ91の長さ方向に対する予め設定した領域内において検知信号における下側ピークと上側ピークとが予め定められた順序で発生し、かつ、下側ピーク値と上側ピーク値との差が予め定められた設定値以上となったときにワイヤーロープ91の異常を検出している。これに対し、この実施形態においては、ワイヤーロープ91の長さ方向に対する予め設定した領域内における検知信号の大きさの変化量が予め定められた設定値以上となったときにワイヤーロープ91の異常を検出する構成を採用している。
【0045】
すなわち、励振コイル付差動コイル74における一対のコイル部71、72のうちの一方のコイル部71の出力値から他方のコイル部72の出力値を減算することにより得られた検知信号は、下側ピーク領域と上側ピーク領域の間において、ノイズ等と比較してはるかに大きな変化を示す。このため、ワイヤーロープ91を構成する素線に断線等の異常が生じた領域においては、検知信号の大きさが急激に変化することになる。
【0046】
判定部82は、励振コイル付差動コイル74から送信された検知信号に対して、図8における符号Wで示すように、ワイヤーロープ91の長さ方向に対する所定の領域を規定する窓領域Wを設定する。この窓領域Wのワイヤーロープ91の長さ方向に対応する領域の大きさは、下側ピーク領域と上側ピーク領域との間に入り得る領域となるように予め設定されている。そして、この窓領域Wを、ワイヤーロープ91に対して相対的に、ワイヤーロープ91の長さ方向に移動させる。
【0047】
そして、判定部82は、この窓領域Wで規定される領域内における検知信号の大きさの変化量D(図9参照)が予め定められた設定値以上であると判断したときに、ワイヤーロープ91の異常を検出する。
【0048】
なお、上述した実施形態においては、いずれも、ワイヤーロープの検査装置に対してワイヤーロープを移動させているが、ワイヤーロープに対してワイヤーロープの検査装置を移動させてもよい。また、ワイヤーロープの検査装置をオペレータが手で持ち、これをワイヤーロープに対して移動させることによりワイヤーロープの異常を検出する構成としてもよい。
【0049】
また、上述した実施形態においては、この発明を励振コイル付差動コイル74と判定部82とを備えた磁性体検査装置に適用した場合について説明したが、この発明を、磁性体検査装置と判定装置とを個別に備えた磁性体検査システムに適用してもよい。
【符号の説明】
【0050】
61 永久磁石
62 永久磁石
63 永久磁石
64 永久磁石
71 コイル部
72 コイル部
73 励振コイル
74 励振コイル付差動コイル
82 判定部
91 ワイヤーロープ
92 かご
93 巻き上げプーリ
94 ガイドプーリ
100 ワイヤーロープの検査装置
W 窓領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9