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特許7143859ヒートシールシート、その製造方法及び滅菌包装体
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  • 特許-ヒートシールシート、その製造方法及び滅菌包装体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】ヒートシールシート、その製造方法及び滅菌包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/28 20060101AFI20220921BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20220921BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20220921BHJP
   D21H 19/20 20060101ALI20220921BHJP
   D21H 19/22 20060101ALI20220921BHJP
   B65D 65/02 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
B32B27/28 101
B32B27/32 Z
B32B27/12
D21H19/20 B
D21H19/22
B65D65/02 E
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019557071
(86)(22)【出願日】2018-10-24
(86)【国際出願番号】 JP2018039564
(87)【国際公開番号】W WO2019107025
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2017231979
(32)【優先日】2017-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018062292
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(72)【発明者】
【氏名】萬道 律雄
(72)【発明者】
【氏名】川北 真裕
(72)【発明者】
【氏名】小▲柳▼ 淳
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-293004(JP,A)
【文献】特開2017-020130(JP,A)
【文献】特表2007-519814(JP,A)
【文献】特開2010-121016(JP,A)
【文献】特開2005-112424(JP,A)
【文献】特開2016-211089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/28
B32B 27/32
B32B 27/12
D21H 19/20
D21H 19/22
B65D 65/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性基材と、前記通気性基材の少なくとも一方の面に設けられた熱接着層とを備え、
前記熱接着層が、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂とポリエチレン樹脂とを含み、
前記熱接着層が、前記ポリエチレン樹脂のみが存在する直径1~30μmの円形の領域を有し、
前記熱接着層が、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂のみが存在する直径1~30μmの円形の領域を有し、
前記ポリエチレン樹脂の含有量が、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂100質量部に対して20~400質量部であり、
JIS P 8117:2009に準じて測定される王研式透気度が700秒以下であるヒートシールシート。
【請求項2】
前記熱接着層の前記通気性基材の表面被覆率が20~100面積%である請求項1に記載のヒートシールシート。
【請求項3】
前記ポリエチレン樹脂が粒子状であり、
前記ポリエチレン樹脂の平均粒子径が1~20μmである請求項1又は2に記載のヒートシールシート。
【請求項4】
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂が粒子状であり、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂の平均粒子径が1~20μmである請求項3に記載のヒートシールシート。
【請求項5】
前記ポリエチレン樹脂の平均粒子径が、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂の平均粒子径に対して、0.1~4.0倍である請求項4に記載のヒートシールシート。
【請求項6】
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂の最低造膜温度が70℃以上である請求項4又は5に記載のヒートシールシート。
【請求項7】
前記熱接着層が、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂100質量部に対して10~50質量部のタッキファイヤーをさらに含む請求項1~6のいずれか一項に記載のヒートシールシート。
【請求項8】
前記通気性基材がポリアクリルアミド樹脂を含み、
前記ポリアクリルアミド樹脂の濃度が、前記通気性基材の少なくとも一方の面において中心部よりも大きい請求項1~7のいずれか一項に記載のヒートシールシート。
【請求項9】
前記通気性基材が木材パルプを含み、
前記ヒートシールシートの熱接着面1.0cm内に1000μmより大きな前記熱接着層が設けられていない部分が10個以下であり、
前記通気性基材を形成するパルプの総質量のうち51~100質量%が針葉樹パルプであり、
前記ヒートシールシートの前記王研式透気度が500秒以下であり、
前記ヒートシールシートを水酸化ナトリウムでpH10.0に調整した水を使用して、
JIS P 8220-1:2012に準じて再離解し、前記再離解後に得られたパルプについてJIS P 8121-2:2012に準じて測定されたカナダ標準ろ水度が470~620mLCSFである、請求項1~8のいずれか一項に記載のヒートシールシート。
【請求項10】
前記通気性基材は、乾燥紙力増強剤を前記通気性基材の総質量に対して0.5~2.0質量%含有する請求項9に記載のヒートシールシート。
【請求項11】
前記通気性基材は、湿潤紙力増強剤を前記通気性基材の総質量に対して0.2~2.0質量%含有する請求項9又は10に記載のヒートシールシート。
【請求項12】
前記通気性基材は、定着剤を前記通気性基材の総質量に対して0.3~2.0質量%含有する請求項9~11のいずれか一項に記載のヒートシールシート。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか一項に記載のヒートシールシートと、包装紙、ラミネート紙、フィルム又は滅菌用成形容器とが熱圧着された滅菌包装体。
【請求項14】
前記ヒートシールシートと、前記包装紙、フィルム又は滅菌用成形容器とを、JIS P 8113:2006に準じて剥離速度300mm/分で180°剥離する際の剥離強度が、1.0~15N/15mmである請求項13に記載の滅菌包装体。
【請求項15】
請求項9~12のいずれか一項に記載のヒートシールシートと、滅菌用成形容器とが熱圧着された滅菌包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシールシート、その製造方法及び滅菌包装体に関する。
本願は、2017年12月1日に、日本に出願された特願2017-231979号、及び2018年3月28日に、日本に出願された特願2018-062292号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
手術、治療等に使用する器具類は、使用前に滅菌包装体に収納されて滅菌される。病院や医療器具メーカー等で実施される滅菌方法としては、メスや鉗子等の被滅菌物を滅菌包装体に入れて密封した後、ガス滅菌法、高圧蒸気滅菌法、放射線滅菌法等を用いて滅菌を行う方法が挙げられる。ガス滅菌法は、包装物を耐圧容器中に入れて容器内を減圧し、包装物内部の空気を排出させた後、エチレンオキサイドガス(EOG)等を容器内に満たして包装物内部にガスを浸透させて滅菌する。高圧蒸気滅菌法は、オートクレーブ等を用いて包装物を高温の蒸気に曝し、減圧と加圧を繰り返して滅菌する。放射線滅菌法は、放射線を照射して滅菌する。このうち、コスト及び簡便性の面から、ガス滅菌法又は高圧蒸気滅菌法が多く用いられる。
【0003】
滅菌後の器具は、手術等に使用するまで、この滅菌包装体内に収納され、手術や治療に用いる際に開封して使用される。開封に際しては一般的に、病院内で医師や施術者が手袋を使用していても開封しやすいように、ピールオープン方式や引裂き方式がとられる。ピールオープン方式の滅菌包装体は、裏表の二枚の矩形のシートを剥離可能に接着して製造される。引裂き方式の滅菌包装体は、易裂開性(引裂き開封し易い)シートを用いて製造される。
【0004】
前記のガス滅菌法や高圧蒸気滅菌法に使用される滅菌包装体は、その滅菌方法から、通気性を有することが必須である。放射線滅菌法に使用される滅菌包装体も、滅菌処理中に内包物が含有する残留溶剤や臭気を揮散させる場合があるため、通気性を有することが好ましい。そのため、通気性を有するシートが滅菌包装体に用いられる。
【0005】
袋状や容器状の滅菌包装体には、熱圧着により密封状態を形成するヒートシールシートが用いられる。例えば、トレイやカップ等の成形容器の蓋を形成するヒートシールシートは、開口部を囲むフランジ部分に熱圧着されて、容器を密封する。
ヒートシールシートには、滅菌処理が可能な通気性を確保しながら、滅菌処理後の完全なクロージャー(滅菌状態の維持)を実現することが求められる。
【0006】
特許文献1には、ヒートシールシートの熱接着層を網目状に形成することにより通気性を確保したものが提案されている。しかし、ヒートシールシートが熱圧着されるフランジ部分は通常幅が狭く、網目状の熱接着層ではクロージャーの完全性に疑問があった。
一方、特許文献2には、熱接着層に粒状の熱可塑性樹脂を配合することにより、通気性を確保しながら、熱接着層をいわゆるベタ塗にすることを可能としたヒートシールシートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-43866号公報
【文献】特開2017-20130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2のヒートシールシートは、熱接着層側の表面(熱接着面)にグリップ感があり、耐擦過性に劣る。すなわち熱接着面が擦られたときに熱接着層の一部が脱落することがある。熱接着層の脱落を抑えるためにポリビニルアルコール等の水溶性高分子バインダーやスチレン-ブタジエン共重合体エマルション等の水性バインダーを併用しても熱接着層の脱落を抑える効果は十分得られず、また熱接着性が低下し、通気性も損なわれてしまうおそれがある。
【0009】
また、特許文献2のヒートシールシートは、ベタ塗したことによりクロージャーの完全性は向上したものの、フランジ部全面に接着されているため、開封時に意図しない箇所で破れる場合がある。
【0010】
本発明の一態様は、十分な熱接着性と通気性を有し、且つ熱接着面の耐擦過性に優れたヒートシールシート、その製造方法、及びこれを用いた滅菌包装体を提供することを目的とする。
【0011】
本発明の他の一態様は、滅菌処理時の良好な通気性と、滅菌処理後の完全なクロージャーとを兼ね備え、開封時の意図しない箇所での破れが起こり難いヒートシールシート、及びそのヒートシールシートを備えた滅菌包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]通気性基材と、前記通気性基材の少なくとも一方の面に設けられた熱接着層とを備え、
前記熱接着層が、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂とポリエチレン樹脂とを含み、
前記ポリエチレン樹脂の含有量が、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂100質量部に対して20~400質量部であり、
JIS P 8117:2009に準じて測定される王研式透気度が700秒以下であるヒートシールシート。
[2]前記熱接着層の前記通気性基材の表面被覆率が20~100面積%である[1]のヒートシールシート。
[3]前記熱接着層が、前記ポリエチレン樹脂のみが存在する直径1~30μmの円形の領域を有する[1]又は[2]のヒートシールシート。
[4]前記熱接着層が、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂のみが存在する直径1~30μmの円形の領域を有する[3]のヒートシールシート。
[5]前記ポリエチレン樹脂が粒子状であり、
前記ポリエチレン樹脂の平均粒子径が1~20μmである[1]~[4]のいずれかのヒートシールシート。
[6]前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂が粒子状であり、
前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂の平均粒子径が1~20μmである[5]のヒートシールシート。
[7]前記ポリエチレン樹脂の平均粒子径が、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂の平均粒子径に対して、0.1~4.0倍である[6]のヒートシールシート。
[8]前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂の最低造膜温度が70℃以上である[6]又は[7]のヒートシールシート。
[9]前記熱接着層が、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂100質量部に対して10~50質量部のタッキファイヤーをさらに含む[1]~[8]のいずれかのヒートシールシート。
[10]前記通気性基材がポリアクリルアミド樹脂を含み、
前記ポリアクリルアミド樹脂の濃度が、前記通気性基材の少なくとも一方の面において中心部よりも大きい[1]~[9]のいずれかのヒートシールシート。
[11]木材パルプを含む通気性基材と、前記通気性基材の少なくとも一方の面に設けられた熱接着層と、を備えたヒートシールシートであって、前記ヒートシールシートの熱接着面1.0cm内に1000μmより大きな前記熱接着層が設けられていない部分が10個以下であり、前記通気性基材を形成するパルプの総質量のうち51~100質量%が針葉樹パルプであり、前記ヒートシールシートのJIS P 8117:2009に準じて測定される王研式透気度が500秒以下であり、前記ヒートシールシートを水酸化ナトリウムでpH10.0に調整した水を使用して、JIS P 8220-1:2012に準じて再離解し、前記再離解後に得られたパルプについてJIS P 8121-2:2012に準じて測定されたカナダ標準ろ水度が470~620mLCSFである、ヒートシールシート。
[12]前記通気性基材は、乾燥紙力増強剤を前記通気性基材の総質量に対して0.5~2.0質量%含有する[11]のヒートシールシート。
[13]前記通気性基材は、湿潤紙力増強剤を前記通気性基材の総質量に対して0.2~2.0質量%含有する[11]又は[12]のヒートシールシート。
[14]前記通気性基材は、定着剤を前記通気性基材の総質量に対して0.3~2.0質量%含有する[11]~[13]のいずれかのヒートシールシート。
[15]通気性基材の少なくとも一方の面に熱接着層用塗料を塗布し、乾燥する工程を有し、
前記熱接着層用塗料が、平均粒子径が1~20μmのエチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂粒子と、平均粒子径が1~20μmのポリエチレン樹脂粒子と、分散媒とを含み、
前記ポリエチレン樹脂粒子の含有量が、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂粒子100質量部に対して20~400質量部であるヒートシールシートの製造方法。
[16]前記熱接着層用塗料を塗布した後、前記エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂粒子の最低造膜温度以上の温度で乾燥する[15]のヒートシールシートの製造方法。
[17][1]~[10]のいずれかのヒートシールシートと、包装紙、ラミネート紙、フィルム又は滅菌用成形容器とが熱圧着された滅菌包装体。
[18]前記ヒートシールシートと、前記包装紙、フィルム又は滅菌用成形容器とを、JIS P 8113:2006に準じて剥離速度300mm/分で180°剥離する際の剥離強度が、1.0~15N/15mmである[17]の滅菌包装体。
[19][11]~[14]のいずれかのヒートシールシートと、滅菌用成形容器とが熱圧着された滅菌包装体。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様のヒートシールシートは、十分な熱接着性と通気性を有し、且つ熱接着面の耐擦過性に優れる。
【0014】
本発明の他の一態様のヒートシールシートは、滅菌処理時の良好な通気性と、滅菌処理後の完全なクロージャーとを兼ね備え、開封時の意図しない箇所での破れが起こり難い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の態様又は第2の態様のヒートシールシートの一実施形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明において「シート」とは、シート、フィルム等の薄葉体の総称である。
「王研式透気度」は、JIS P 8117:2009に準じて測定される値である。
「カナダ標準ろ水度」は、JIS P 8121-2:2012に準じて測定される値である。
「坪量」は、JIS P 8124:2011に準じて測定される値である。
「密度」は、JIS P 8118:1998に準じて厚さを測定し、厚さと坪量の測定値から計算で求められる値である。
「軟化点(環球法)」は、JIS K 2207:1996に準じて測定される値である。
「融点」は、JIS K 7121:1987に準じて測定される融解ピーク温度である。
「最低造膜温度」は、JIS K 6828-2:2003に準じて測定される値である。
「層間強度」は、ISO 16260:2016に準じて測定される値である。
「抄紙機の縦方向の引裂強度」は、JIS P 8116:2000に準じて測定される値である。
「ステキヒトサイズ度」は、JIS P 8122:2004に準じて測定される値である。
「剥離強度」は、JIS P 8113:2006に準じて測定される値である。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0017】
〔第1の態様〕
本発明の第1の態様のヒートシールシート(以下、「ヒートシールシートA」とも記す。)は、通気性基材と、通気性基材の少なくとも一方の面に設けられた熱接着層とを備える。熱接着層は、通気性基材の一方の面のみに設けられていてもよく、一方の面及びその反対側の他方の面に設けられていてもよい。
【0018】
ヒートシールシートAの一実施形態は、図1に示すように、通気性基材2と、通気性基材2の一方の面に設けられた熱接着層3とを備えるヒートシールシート1である。説明の便宜上、図1における寸法等は実際とは異なるものになっている。
【0019】
ヒートシールシートAは、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、通気性基材と熱接着層との間に他の層をさらに備えていてもよい。熱接着層が通気性基材の一方の面のみに設けられている場合、通気性基材の他方の面に他の層が設けられていてもよい。
【0020】
ヒートシールシートAは、王研式透気度が700秒以下であり、300秒以下がより好ましく、100秒以下が特に好ましい。ヒートシールシートAの王研式透気度が上記上限値以下であると、透気性が求められるガス滅菌法にヒートシールシートAを適用できる。このため、放射線滅菌法、ガス滅菌法等の各種の滅菌法に適用可能なヒ-トシールシートを実現できる。
ヒートシールシートAの王研式透気度の下限値は、特に限定されないが、例えば3秒とすることができる。
ヒートシールシートAの王研式透気度は、例えば3~700秒であってよく、3~300秒であってよく、3~100秒であってよい。
なお、ヒートシールシートAの王研式透気度は、後述するヒートシールシートの製造方法Aにおいて、熱接着層用塗料に用いる樹脂粒子の平均粒子径、熱接着層用塗料の塗布量(単位面積当たりの熱接着層の質量)、熱接着層用塗料の乾燥条件、通気性基材のパルプのフリーネス、通気性基材の坪量等をそれぞれ適切に選択することによって制御することが可能である。
【0021】
(通気性基材)
ヒートシールシートAの通気性基材の通気性は、王研式透気度として、500秒以下が好ましく、50秒以下がより好ましく、20秒以下が特に好ましい。通気性基材の王研式透気度が上記上限値以下であると、ヒートシールシートAの王研式透気度を上記上限値以下としやすい。
通気性基材の王研式透気度の下限値は、特に限定されない。ただし、遮菌性を損なうようなピンホールは存在しない。
【0022】
通気性基材としては、通気性を有していればよく、特に限定されないが、例えば紙基材を用いることができる。
紙基材は、パルプで構成される。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ等が挙げられる。木材パルプとしては、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ等が挙げられ、いずれを用いてもよい。また、木材パルプの蒸解方法や漂白方法は、特に限定されない。非木材パルプとしては、麻パルプ、ケナフパルプ、竹パルプ、コットンパルプ等が挙げられる。これらのパルプは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
紙基材は、パルプ以外の繊維材料を含んでいてもよい。前記繊維材料としては、レーヨン繊維、ナイロン繊維、その他熱融着繊維等が挙げられる。
【0023】
紙基材を構成するパルプの総質量に対する針葉樹パルプの含有量は、0~100質量%の範囲内で適宜選定できる。例えば、後述するヒートシールシートBと同様に51~100質量%であってもよく、0質量%以上51質量%未満であってもよい。
紙基材を構成するパルプの総質量に対する針葉樹パルプの含有量は、0~95質量%が好ましい。すなわち、紙基材を構成するパルプの総質量に対する、針葉樹パルプ以外のパルプの含有量は、5~100質量%が好ましい。針葉樹パルプの含有量が95質量%以下であると、パルプの叩解を進めた(カナダ標準ろ水度を小さくした)ときに紙基材の通気性が低下しにくいので、紙基材の通気性を保ったまま紙力を高くすることができる。
針葉樹パルプ以外のパルプとしては、広葉樹パルプ、非木材パルプ等が挙げられ、広葉樹パルプが好ましい。
【0024】
紙基材は、例えば、パルプスラリーを含む抄紙原料を抄紙することにより得られる。
パルプスラリーは、パルプを水の存在下で叩解することにより得られる。パルプの叩解方法、叩解装置は特に限定されるものではないが、例えば叩解効率が高いダブルディスクリファイナー(DDR)が好適に使用される。
パルプの叩解は、パルプのカナダ標準ろ水度が250mLCSF以上700mLCSF以下となるように行うことが好ましく、250mLCSF以上600mLCSF以下となるように行うことがより好ましく、300mLCSF以上500mLCSFとなるように行うことが特に好ましい。パルプのカナダ標準ろ水度を上記下限値以上とすることにより、紙基材の透気性をより効果的に向上させることができる。また、パルプのカナダ標準ろ水度を上記上限値以下とすることにより、紙の強度を向上させて、イージーピール性の向上に寄与することができる。
一般にパルプの叩解と紙力の関係については、叩解をあまりすすめない状態では紙力は得られにくく、その理由としては、パルプ繊維同士のからみが弱く、繊維間結合(水素結合)のポイントも少ないためと考えられており、ある程度叩解を進めることで紙力は向上する。一方、叩解をすすめると、パルプ繊維同士のからみが増え、繊維間結合のポイントが増えるため、紙力は得られるが繊維の空隙が減少し、原紙の透気性が低下する。
パルプのカナダ標準ろ水度が前記の値の範囲であると、通気性基材の通気性を保ったまま紙力を充分に高くすることができ、ヒートシールシートAのイージーピール適性をさらに向上させることが可能となる。
【0025】
必要に応じて、叩解により得られたパルプスラリーに各種製紙用内添薬品を添加し、抄紙原料を調成することができる。パルプスラリーに前記繊維材料を配合することも可能である。
内添薬品としては、例えばサイズ剤、紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、硫酸バンド、カチオン化デンプン等の各種の定着剤が挙げられる。また、これらの他にも内添薬品として保水剤、歩留向上剤、消泡剤、填料、着色剤等を、抄紙原料に対して任意に配合可能である。これらの内添薬品はそれぞれ公知のものを使用できる。
【0026】
サイズ剤としては、例えばアルケニル無水コハク酸、アルキルケテンダイマー、ロジンが挙げられる。これらのサイズ剤はいずれか一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。
紙力増強剤としては、例えばポリアクリルアミド樹脂、カチオン化デンプン、ポリビニルアルコールが挙げられる。これらの紙力増強剤はいずれか一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。
湿潤紙力増強剤としては、例えばポリアミドエポキシ樹脂、エピクロル樹脂、メラミン樹脂が挙げられる。これらの湿潤紙力増強剤はいずれか一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。
保水剤としては、例えばカルボキシメチルセルロースが挙げられる。
填料としては、例えばタルクが挙げられる。
【0027】
通気性基材はポリアクリルアミド樹脂を含むことが好ましい。これにより、イージーピール性が高まる。
特に、通気性基材が紙基材である場合には、ポリアクリルアミド樹脂を紙力増強剤として内添させることにより、通気性基材の強度をより効果的に向上させて、滅菌包装体とした後にヒートシールシートAを剥離する際の基材破壊を防止し、イージーピール性をさらに向上させることが可能となる。
紙基材の強度をさらに増強させるために、抄紙工程で得られた原紙に対し、抄紙工程の後工程であるサイズプレスやゲートロール等でポリアクリルアミド樹脂を塗布することも可能である。あるいは、原紙の少なくとも一方の面にポリアクリルアミド樹脂を含む下塗り剤を塗布して通気性基材を形成することもできる。このようにして得られる通気性基材は、ポリアクリルアミド樹脂の濃度が、通気性基材の少なくとも一方の面において中心部よりも大きくなる。典型的には、通気性基材は、一方の面から中心部側に向けてポリアクリルアミド樹脂の濃度が漸減する領域を有する。
【0028】
通気性基材中の各領域におけるポリアクリルアミド樹脂の濃度は、例えば熱分解-ガスクロマトグラフィー質量分析法(以下、「熱分解GCMS」とも記す。)により測定できる。例えば、通気性基材の一方の面及び他方の面、ならびに通気性基材を適当な粘着テープを用いて2層に層分割した分割面について、それぞれの一部をかみそり等で削って熱分解GCMSを行うことにより、一方の面、他方の面、及び中心部におけるポリアクリルアミド樹脂の濃度を確認することが可能である。
ここで、通気性基材の中心部とは、通気性基材の一方の面の平均面と、他方の面の平均面との中点を結んで形成される平面部分を指す。一方の面の平均面と他方の面の平均面との中点とは、一方の面の平均面の特定点から他方の面の平均面までを最短距離で結ぶ線分の中点のことをいう。また、各面の平均面とは、表面に凹凸形状がある場合は、凹部と凸部全体の高さの平均の高さを通る面をいい、表面に凹凸形状がない場合は、各面のことをいう。
【0029】
ポリアクリルアミド樹脂としては、例えばアニオン性、カチオン性、両性、又はノニオン性のポリアクリル樹脂を用いることができる。これらの中でも、優れた紙力増強効果を発現する点で、両性のポリアクリルアミド樹脂が好ましい。
ポリアクリルアミド樹脂の質量平均分子量(Mw)は、200万~1000万が好ましい。質量平均分子量が上記下限値以上であると、紙力増強効果がより優れる。質量平均分子量が上記上限値以下であると、粘度が充分に低く添加が容易となることから、操業上、好ましい。
ポリアクリルアミド樹脂の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリエチレンオキシド換算値である。
【0030】
通気性基材の坪量は、例えば30g/m以上が好ましく、40g/m以上がより好ましく、45g/m以上がさらに好ましい。通気性基材の坪量が上記下限値以上であると、ヒートシールシートAの剥離に耐えうる強度が得られやすく、剥離時の基材破壊がさらに起こりにくくなる。また、滅菌包装体に使用した場合でも遮菌性を損なうピンホールの発生を抑えることができる。
また、通気性基材の坪量は、透気性の観点から、例えば300g/m以下が好ましく、250g/m以下がより好ましく、200g/m以下がさらに好ましい。
通気性基材の坪量は、例えば30~300g/mであってよく、40~250g/mであってよく、45~200g/mであってよい。
【0031】
通気性基材の密度は、例えば0.50~1.20g/cmが好ましく、0.65~1.10g/cmがより好ましい。通気性基材の密度が上記下限値以上であると、イージーピールに耐えうる強度が得られやすく、剥離時の基材破壊がさらに起こりにくくなる。通気性基材の密度が上記上限値以下であると、十分な通気性を保つことができる。
【0032】
(熱接着層)
ヒートシールシートAの熱接着層は、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(以下、「EVA」とも記す。)と、ポリエチレン樹脂(以下、「PE」とも記す。)とを含む。
【0033】
EVAは、エチレン単位と酢酸ビニル単位とを有する共重合体である。必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、エチレン及び酢酸ビニル以外の他の単量体単位をさらに有していてもよい。
【0034】
PEは、熱接着面(ヒートシール面)の耐擦過性の改善のために用いられる。
PEとしては、低密度ポリエチレンでも高密度ポリエチレンでもよく、それらの中間の密度のポリエチレンでもよい。いずれのものでも熱接着面の耐擦過性が改善効果を示し、好ましく用いられる。これらはいずれか一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。
PEの軟化点(環球法)又は融点は、例えば90~140℃であってよい。
【0035】
熱接着層中のPEの含有量は、EVA100質量部に対して20~400質量部であり、40~200質量部が好ましく、50~170質量部がより好ましく、60~150質量部が特に好ましい。PEの含有量が上記下限値以上であると、熱接着面が擦られたときの熱接着層の脱落を十分に抑制できる。PEの含有量が上記上限値以下であると、ヒートシール時に十分な接着力が得られる。
【0036】
熱接着層中のEVA100質量部に対するPEの含有量は、例えば、熱接着層の形成に用いたEVA及びPEそれぞれの質量から算出できる。あるいは、以下の方法によって求めることも可能である。
EVAは常温でトルエンに溶解する。一方、PEは60℃以下の液温のトルエンには殆ど溶解せず、80℃の液温のトルエンには溶解する。この性質を利用し、以下の1~5の手順でEVAとPEとの質量比を特定する。この質量比から、EVA100質量部に対するPEの含有量(質量部)を算出する。
1.ヒートシールシート表面から熱接着層成分を掻き落とす。
2.掻き落とした熱接着層成分を二等分して2つのサンプルを作成する。
3.一方のサンプルを常温のトルエンに溶解し、目開き0.1μmの精密フィルターでろ過する。得られたろ液中の溶質の主成分を、熱接着層を構成していたEVAとして、核磁気共鳴装置を用いて、酢酸ビニルエステルに対するエチレンの質量比a(酢酸ビニルエステルの質量を1としたときのエチレンの質量割合)を特定する。
4.他方のサンプルを80℃に加温したトルエンに溶解し、目開き0.1μmの精密フィルターでろ過する。得られたろ液中には、熱接着層中のEVAとPEの両方が溶解しているとして、核磁気共鳴装置を用いて、酢酸ビニルエステルに対するエチレンの質量比b(酢酸ビニルエステルの質量を1としたときのエチレンの質量割合)を特定する。
5.下記式1により、EVAとPEとの質量比(EVAの含有質量:PEの含有質量)を算出する。
(EVAの含有質量):(PEの含有質量)=(1+a):(b-a) ・・・式1
【0037】
ヒートシールシートA全体での王研式透気度が700秒以下であるため、熱接着層は、通気性基材と同様、通気性を有しており、熱接着層中には通常、熱接着層と通気性基材との界面と、熱接着層の表面とを連通する空隙が存在する。
【0038】
熱接着層は、典型的には、EVA粒子とPE粒子と分散媒とを含む熱接着層用塗料を塗布し、乾燥することにより形成される。
通常、EVA粒子はPE粒子よりも低温で融解する。そのため、乾燥条件によって、EVA粒子及びPE粒子の両方が融解する場合、EVA粒子のみが融解する場合、EVA粒子及びPE粒子のどちらも融解しない場合等がある。また、EVA粒子やPE粒子が融解する場合には、完全に溶解し、粒子の形態を保っていない場合と、部分的に溶解し、粒子の形態をある程度保っている場合とがある。
【0039】
熱接着層は、PEのみが存在する直径1~30μmの円形の領域(以下、「PE領域」とも記す。)を有することが好ましい。
熱接着層がPE領域を有する場合、PE領域は通常、熱接着層中に複数存在し、各領域の間に空隙が存在する。PE領域の直径が上記範囲内であると、熱接着層の通気性が優れる。また、ヒートシールシートAを包装紙、ラミネート紙、フィルム又は滅菌用成形容器(以下、これらをまとめて「被着体」とも記す。)に熱圧着して滅菌包装体とした後、被着体から剥離する際の基材破壊を効果的に抑制できる。
PE領域の形状は、全体として円形であればよく、略真円形、略楕円形、不定形の塊状等であってよい。通気性を容易に制御する観点から、不定形の塊状以外の形状であることが好ましい。
PE領域の直径は、1~25μmが好ましく、1~15μmがより好ましく、1~6μmが特に好ましい。PE領域の直径は、真円換算直径である。
PE領域の直径は、熱接着層用塗料に用いるPE粒子の平均粒子径により調整できる。例えばPE粒子の平均粒子径が1~20μmであると、直径1~30μmのPE領域が得られる。
【0040】
熱接着層において、PEは、粒子状でもよく粒子状でなくてもよく、通気性の観点から、粒子状であることが好ましい。
熱接着層においては、PEが粒子状であり、PEの平均粒子径が1~20μmであることが好ましい。PEが粒子状であり、PEの平均粒子径が1~20μmであると、熱接着層の通気性がより優れる。また、ヒートシールシートAを被着体に熱圧着して滅菌包装体とした後、被着体から剥離する際の基材破壊をより効果的に抑制できる。
粒子状のPEの平均粒子径は、1~12μmが好ましく、3~12μmがより好ましく、5~12μmが特に好ましい。
粒子状のPEの形状は特に限定されないが、透気性の向上や基材破壊の抑制の観点から、略球状又は略楕円体状のPEが含まれていることが好ましい。
【0041】
熱接着層がPE領域を有する場合、熱接着層は、EVAのみが存在する直径1~30μmの円形の領域(以下、「EVA領域」とも記す。)を有してもよく、有さなくてもよい。熱接着層の通気性がより優れる点では、EVA領域を有することが好ましい。
EVA領域の形状は、全体として円形であればよく、略真円形、略楕円形、不定形の塊状等であってよい。通気性を容易に制御する観点から、不定形の塊状以外の形状であることが好ましい。
EVA領域の直径は、1~20μmが好ましく、1~15μmがより好ましく、1~12μmが特に好ましい。EVA領域の直径は、真円換算直径である。
【0042】
熱接着層において、PEが粒子状である場合、EVAは、粒子状でもよく粒子状でなくてもよい。熱接着層の通気性がより優れる点では、EVAが粒子状であることが好ましい。PE及びEVAが共に粒子状である場合、熱接着層中のこれらの樹脂の間には空隙が存在している。各粒子の平均粒子径が前記範囲内であることにより、熱接着層が優れた通気性を有し、ヒートシールシートAが全体として優れた通気性を示すものとなる。
粒子状のEVAの平均粒子径は、1~12μmが好ましく、3~12μmがより好ましく、5~12μmが特に好ましい。
粒子状のEVAの形状は特に限定されないが、透気性の向上や基材破壊の抑制の観点から、略球状又は略楕円体状のPEが含まれていることが好ましい。
【0043】
粒子状のEVAの最低造膜温度は、70℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。EVAの最低造膜温度が上記下限値以上であると、ヒートシールシートAの製造時の製造機の汚染やヒートシールシートAの巻取のブロッキングの発生を防止できる。
EVAの最低造膜温度は、ヒートシールシートAの被着体に対するヒートシール性を向上させる観点から、180℃以下が特に好ましい。
EVAの最低造膜温度は、例えば70~180℃であってよく、75~180℃であってよい。
【0044】
PE及びEVAが共に粒子状である場合、PEの平均粒子径は、EVAの平均粒子径に対して、0.1~4.0倍が好ましく、0.3~3.0倍がより好ましく、0.5~2.0倍が特に好ましい。PEの平均粒子径が上記範囲内であると、熱接着層の形成時、用いた熱接着層用塗料におけるEVA粒子とPE粒子との処方比率に近い比率でEVA粒子とPE粒子が通気性基材表面上にとどまり、所望の効果が得られ易い。
【0045】
ここで、PE領域、EVA領域それぞれの直径は、顕微ラマン分光装置によるマッピング画像により求められる。
【0046】
粒子状のEVA及び粒子状のPEそれぞれの平均粒子径は、コールターカウンターにより測定される体積平均粒子径である。すなわち、コールターカウンターを用い、細孔電気抵抗法で求めた体積基準粒度分布における平均粒子径である。熱接着層の形成に用いた粒子(EVA粒子又はPE粒子)の分散液について測定した平均粒子径をそのまま熱接着層中の各粒子の平均粒子径とすることができる。
便宜上、上記方法の代わりに、下記の電子顕微鏡を用いる測定方法A、又は下記の顕微ラマン分光装置を用いる測定方法Bにより平均粒子径を測定してもよい。この場合でも同様の結果が得られるが、コールターカウンターによる測定方法と測定方法A又はBとで測定値が異なる場合は、本発明においてはコールターカウンターによる測定値を採用する。
測定方法A:粒子(EVA粒子又はPE粒子)の分散液を基材に塗工し、その50μm×50μmの任意の領域を電子顕微鏡で観察し、当該領域から100個の粒子を選択し、各粒子の最大径を測定し、それらの形状を球形と仮定して体積を算出し、その値から体積平均粒子径を算出する。
測定方法B:熱接着層表面の顕微ラマン分光装置によるマッピングで、熱接着層中の粒子を判別、観察し、EVA粒子及びPE粒子それぞれについて、100個の粒子の最大径を測定し、それらの測定値からA法と同様にして各粒子の体積平均粒子径を算出する。
【0047】
EVAとPEの平均粒子径の関係の求め方としては、例えば以下の方法が挙げられる。
前述の平均粒子径の測定方法Aにより求められた100個の粒子の測定結果から粒度分布を求める。前記粒度分布に存在するピークが一つの場合は、PEの平均粒子径はEVAの平均粒子径と略同じと判断できる。前記粒度分布に存在するピークが二つの場合は、測定方法Bによりそれぞれの粒子の平均粒子径を求める。これによりEVAとPEの平均粒子径の関係が求められる。
【0048】
熱接着層は、本発明の効果を損なわない範囲で、EVA及びPE以外の他の樹脂をさらに含んでいてもよい。他の樹脂としては、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体粒子、アクリル酸エステル重合体粒子、ポリブテン樹脂粒子等が挙げられる。
【0049】
熱接着層中、他の樹脂の含有量は、EVAの100質量部に対して、0~150質量部が好ましく、0~100質量部がより好ましい。
【0050】
熱接着層は、タッキファイヤーをさらに含むことができる。熱接着層がタッキファイヤーを含むと、EVA粒子の成膜が促進され、熱接着面が擦られたときの熱接着層の脱落をより効果的に抑制できる。
【0051】
タッキファイヤーとしては、例えばロジン系樹脂(強化ロジン、酸価付与ロジン、ロジン変性フェノール等)、テルペン系樹脂、石油樹脂(C5系、C9系、C5-C9共重合系、水添石油系)等が挙げられる。これらのタッキファイヤーはいずれか一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。
タッキファイヤーとしては、成膜効果が高い点では、ロジン系樹脂が好ましい。
タッキファイヤーとしては、淡色であり、臭気も軽微な点では、水添石油系が好ましく、なかでも脂環系石油樹脂が特に好ましい。脂環系石油樹脂の具体例としては、脂環族飽和炭化水素樹脂等が挙げられる。
【0052】
熱接着層がタッキファイヤーを含む場合、その含有量は、特に規定するものではないが、例えばEVAの100質量部に対して10~50質量部が好ましく、10~30質量部がより好ましい。タッキファイヤーの含有量が上記下限値以上であると、十分な成膜効果が得られやすい。タッキファイヤーの含有量が上記上限値以下であると、透気度の著しい上昇が抑えられるため、通気性が良好である。
【0053】
熱接着層は、プライマーを含んでいてもよい。熱接着層がプライマーを含むと、ポリプロピレン等の極性の低い被着体に対するヒートシール性が向上するため好ましい。
プライマーとしては、例えば、酸変性ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂、アクリル変性塩素化ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
熱接着層に任意成分として含まれるプライマーは1種単独でもよいし、2種以上でもよい。
【0054】
熱接着層は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分をさらに含んでいてもよい。その他の成分としては、特に限定されず、ヒートシールシートの熱接着層を構成する材料として一般的に使用され得るものを用いることができる。
【0055】
ヒートシールシートAにおいて、熱接着層の通気性基材の表面被覆率は、20~100面積%が好ましく、30~99面積%がより好ましく、50~99面積%がさらに好ましい。表面被覆率が20面積%以上であると、満足な熱接着力が得られやすい。表面被覆率が99面積%以下であると、ヒートシールシートAの通気性がより優れる。
表面被覆率は、以下の方法により求められる。
ヒートシールシートの表面3.1mm以上の視野で、顕微ラマン分光装置を用いてマッピングを行い、EVA、PEそれぞれの占有面積率を算出する。同様の測定を別の4か所(合計5カ所)で行い、得られた値の平均値をEVA、PEそれぞれの占有面積率とし、EVAの占有面積率とPEの占有面積率との合計を表面被覆率(%)とする。
【0056】
単位面積当たりの熱接着層の質量は、特に限定されず、熱接着層が接着される被着体の材質やヒートシール条件に応じて適宜選択される。
好ましい一実施形態において、単位面積当たりの熱接着層の質量は、0.1g/m以上であり、0.3g/m以上が好ましい。これにより、満足な熱接着力が得られやすい。例えば被着体に熱圧着されたときに、ヒートシールシートAが剥がれにくい。
本実施形態においては特に、ヒートシールシートAのヒートシール性を向上させる観点や、ヒートシールシートAの剥離後に被着体側に熱接着層を残存させる観点から、単位面積当たりの熱接着層の質量を1g/m以上とすることが好ましく、3g/m以上とすることがより好ましく、5g/m以上とすることが特に好ましい。
なお、これまでは、3g/m以上という高い塗工量とした場合、十分な通気性を有するヒートシールシートを実現することは困難であった。本実施形態によれば、特定の平均粒子径の樹脂粒子を熱接着層中に含むことから、このような高い塗工量を採用した場合であっても良好な通気性を実現することが可能となる。
本実施形態において、単位面積当たりの熱接着層の質量は、30g/m以下が好ましく、10g/m以下がより好ましく、5g/m以下がさらに好ましい。これにより、通気性が優れる。また、イージーピール時に通気性基材の破壊が発生しにくい。また、熱接着層が曳糸性を発現しにくく、被収容物の汚染が生じにくい。
単位面積当たりの熱接着層の質量は、例えば0.1~30g/mであってよく、0.3~30g/mであってよく、1~10g/mであってよく、3~10g/mであってよい。
【0057】
(他の層)
他の層としては、例えば、下塗り層、印刷層、印刷適性向上層、オーバープリント層、遮光層等が挙げられる。
例えば、通気性基材と熱接着層との間に、通気性基材の表面の強度を補強する下塗り層、被着体側に剥離痕を残すための下塗り層(剥離層)、印刷適性向上層、オーバープリント層、遮光層等が設けられてもよい。通気性基材と熱接着層との間に設けられる他の層は1層でもよく2層以上でもよい。
透気度や剥離強度が本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、通気性基材の両面に印刷層を有してもよい。印刷層上にさらにオーバープリント層を有してもよい。また、滅菌状態を示すインジケーター印刷が施されていてもよい。EOG滅菌用インジケーター印刷は、熱接着層が形成される側の通気性基材の表面、又は熱接着層の表面に施されることが好ましい。
【0058】
(ヒートシールシートAの製造方法)
ヒートシールシートAは、通気性基材の少なくとも一方の面に熱接着層を形成することにより製造される。
ヒートシールシートAの製造方法の一例として、下記のヒートシールシートの製造方法Aが挙げられる。
【0059】
ヒートシールシートの製造方法A:
通気性基材の少なくとも一方の面に熱接着層用塗料を塗布し、乾燥する工程を有し、
前記熱接着層用塗料が、平均粒子径が1~20μmのEVA粒子と、平均粒子径が1~20μmのPE粒子と、分散媒とを含み、
前記PE粒子の含有量が、前記EVA粒子100質量部に対して20~400質量部であるヒートシールシートの製造方法。
【0060】
塗布した熱接着層用塗料を乾燥することにより熱接着層が形成される。
熱接着層用塗料は、通気性基材の一方の面のみに塗布してもよく、通気性基材の一方の面及び他方の面に塗布してもよい。
必要に応じて、熱接着層用塗料を塗布する前に、通気性基材の表面を平滑化処理してもよい。熱接着層の形成後、得られたヒートシールシートの表面を平滑化処理してもよい。
必要に応じて、熱接着層を形成する工程の前に、通気性基材の少なくとも一方の面に他の層を形成する工程を有することができる。
【0061】
熱接着層用塗料は、平均粒子径が1~20μmのEVA粒子と、平均粒子径が1~20μmのPE粒子と、分散媒とを含む。熱接着層用塗料は必要に応じて、他の樹脂、タッキファイヤー、プライマー、その他の成分をさらに含むことができる。
熱接着層用塗料の固形分に対する各成分の割合は、形成される熱接着層の総質量に対する各成分の割合とみなすことができる。
【0062】
EVA粒子は、EVAを主成分とする粒子である。「EVAを主成分とする」とは、1つの粒子中のEVAの割合が80質量%以上であることを意味する。EVA粒子中のEVAの割合は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
EVA粒子の形状は、略球状、略楕円体状、球がつぶれた円盤状、不定形の塊状等のいずれの形状であってもよく、通気性を容易に制御する観点から、不定形の塊状以外の形状であることが好ましい。
【0063】
EVA粒子の平均粒子径は、1~20μmであり、1~12μmが好ましく、3~12μmがより好ましく、5~12μmが特に好ましい。EVA粒子の平均粒子径が上記範囲内であると、塗工後に通気性基材表面にとどまり易いため効率的に機能を発揮するだけでなく、樹脂粒子間に空隙が生じやすく、優れた通気性が得られやすい。また、得られるヒートシールシートを被着体に熱圧着して滅菌包装体とした後、被着体から剥離する際の基材破壊を効果的に抑制できる。
【0064】
EVA粒子の最低造膜温度は、70℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。EVA粒子の最低造膜温度が上記下限値以上であると、ヒートシールシートの製造時の製造機の汚染やヒートシールシートの巻取のブロッキングの発生を防止できる。
EVA粒子の最低造膜温度は、ヒートシールシートの被着体に対するヒートシール性を向上させる観点から、180℃以下が特に好ましい。
EVA粒子の最低造膜温度は、例えば70~180℃であってよく、75~180℃であってよい。
【0065】
PE粒子は、ポリエチレン樹脂(PE)を主成分とする粒子である。「PEを主成分とする」とは、1つの粒子中のPEの割合が80質量%以上であることを意味する。PE粒子中のPEの割合は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
PE粒子の形状は、略球状、略楕円体状、球がつぶれた円盤状、不定形の塊状等のいずれの形状であってもよく、通気性を容易に制御する観点から、不定形の塊状以外の形状であることが好ましい。
【0066】
PE粒子の平均粒子径は、1.0~20μmであり、3.0~13μmが好ましく、4.0~10μmがより好ましい。PE粒子の平均粒子径が上記下限値以上であると、樹脂粒子間に空隙が生じやすく、優れた通気性が得られやすい。PE粒子の平均粒子径が上記上限値以下であると、熱接着層が十分な熱接着性を有し、被着体に対する十分な接着強度が得られる。
【0067】
PE粒子の平均粒子径は、EVA粒子の平均粒子径に対して、0.1~4.0倍が好ましく、0.3~3.0倍がより好ましく、0.5~2.0倍が特に好ましい。PE粒子の平均粒子径が上記範囲内であると、EVA粒子とPE粒子とが、熱接着層の形成に用いた熱接着層用塗料におけるそれらの粒子の処方比率に近い比率で通気性基材表面上にとどまり、所望の効果が得られ易い。
【0068】
熱接着層用塗料中、PE粒子の含有量は、EVA粒子の100質量部に対して20~400質量部であり、40~200質量部が好ましく、50~170質量部がより好ましく、60~150質量部が特に好ましい。PE粒子の含有量が上記下限値以上であると、熱接着面が擦られたときの熱接着層の脱落を十分に抑制できる。PE粒子の含有量が上記上限値以下であると、ヒートシール時に十分な接着力が得られる。
【0069】
熱接着層用塗料の平均粒子径、つまり熱接着層用塗料に含まれる全ての粒子(EVA粒子及びPE粒子等)の平均粒子径は、EVA粒子及びPE粒子それぞれの平均粒子径が前述の範囲内である限り特に限定されないが、例えば0.5~20μmが好ましく、1.0~13μmがより好ましい。
【0070】
熱接着層用塗料は、典型的には、EVA粒子の分散液と、PE粒子の分散液と、必要に応じて更なる分散媒、他の樹脂、タッキファイヤー、プライマー、その他の成分を混合して調製される。
分散媒としては、水が好ましい。
【0071】
熱接着層用塗料の塗布方法は、特に限定されず、各種公知の湿式塗布法が適用される。
例えば抄紙機のオンマシンサイズプレス装置、トランスファーロールコーター(シムサイザー、ゲートロールコーター等)、スプレー装置等を用いて行うことができる。また、オフマシンでは、一般的な塗工装置、例えばブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、シムサイザー、ゲートロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、スロットダイコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーター、ブラシコーター、ツーロールコーター、ビルブレードコーター、ショートドウェルコーター等を用いて塗布することができる。また、グラビア印刷機、フレキソ印刷機等の印刷機による塗布も可能である。
塗布した熱接着層用塗料を乾燥する装置は、塗布面と接触するシリンダードライヤーを用いてもよいが、装置の汚れを防止する観点から塗布面と接触しないエアードライヤー、赤外線ヒーター等が好ましい。操業性、生産性を考慮すると、熱接着層用塗料の塗布及び乾燥は、オンマシン式で行われることが好ましい。
通気性基材を抄紙する抄紙機のタイプは、特に限定されず、長網抄紙機、短網抄紙機、円網抄紙機等が挙げられる。塗布装置、乾燥機を装備するオンマシン型の抄紙機が好ましい。
熱接着層用塗料の塗工量は、形成する熱接着層の単位面積当たりの質量に応じて設定される。熱接着層用塗料の乾燥塗工量は、熱接着層の単位面積当たりの質量とみなすことができる。
【0072】
熱接着層用塗料を塗布した後の乾燥条件としては、例えば60~130℃、20秒~5分の条件が挙げられる。
乾燥温度については、EVA粒子の最低造膜温度以上にすることが好ましい。EVA粒子の最低造膜温度以上の温度で乾燥すると、粒子同士が融着するため、熱接着面が擦られたときに熱接着層が脱落しにくい。また、EVA粒子は平均粒子径が1~20μmのため、最低造膜温度以上で乾燥して粒子同士が融着しても、粒子間空隙が完全に埋まらない限りは通気性が損なわれることはない。
乾燥の際、熱接着用塗料中のEVA粒子、PE粒子が完全又は部分的に融解して、粒子形状を保っていなくても、本発明の効果である通気性、熱接着性、イージーピール性、耐擦過性を損なわない限りにおいて問題ない。このような場合、熱接着層中のEVA粒子、PE粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡観察において観察される粒子様輪郭の直径を計測することにより得ることができる。
EVA粒子、PE粒子のいずれかが、部分的に又は完全に融解した場合は、前記の表面被覆率の測定方法により、それぞれの粒子の含有率を求めることができる。
なお、熱接着層用塗料がPE粒子を含まない場合、EVA粒子の最低造膜温度以上で乾燥させて成膜を進めても、熱接着層の脱落防止効果は不十分である。これは、EVA粒子同士が融着して成膜した表面のグリップ感が大きく、反復的なこすれにより脱落してしまうためと考えられる。
【0073】
(作用効果)
ヒートシールシートAにあっては、通気性基材と熱接着層とを備え、熱接着層がEVAとPEとを含み、PEの含有量がEVA100質量部に対して20~400質量部であり、王研式透気度が700秒以下であるため、十分な熱接着性と通気性を有し、且つ熱接着面の耐擦過性に優れる。
ヒートシールシートA全体の通気性が良好であるため、ヒートシールシートAは、放射線を照射して滅菌する放射線滅菌法のみならず、滅菌ガスを用いるガス滅菌法にも適用できる。
熱接着層がEVAを含むことにより、ヒートシールシートAを被着体に熱圧着した後、被着体から剥離する際に、熱接着層が凝集剥離しやすい。そのため、剥離時に通気性基材において基材破壊が生じることを抑制できる。
一方、EVAは成膜性に乏しいため、熱接着層がEVAのみで構成される場合、加工工程中に加工設備の部材が熱接着層表面(熱接着面)と接触すると、熱接着層が簡単に脱落し、異物として問題を起こす虞や、包装体開封時にも同様に異物を発生させる虞がある。本態様では、PEを併用することで、EVAによるグリップ感が軽減され、熱接着層の脱落、それに伴う異物発生を抑制できる。
したがって、本態様によれば、通気性を阻害せずに、熱接着層の脱落を防止し、加えて、被着体からの剥離時における基材破壊を抑制しつつ、各種滅菌法に適用することが可能なヒートシールシート及び滅菌包装体を実現することができる。
ヒートシールシートAの被着体からの剥離時における基材破壊が抑制できることから、通気性基材の毛羽立ちや通気性基材からの紙片の剥離を抑制できる。さらに擦られた場合の熱接着層の脱落も抑制できる。したがって、毛羽立った部分から脱落した繊維や剥離した紙片、脱落した熱接着層が、被着体に付着することや環境中に散乱することを防止できる。
【0074】
〔第2の態様〕
本発明の第2の態様のヒートシールシート(以下、「ヒートシールシートB」とも記す。)は、木材パルプを含む通気性基材と、前記通気性基材の少なくとも一方の面に設けられた熱接着層とを備える。前記ヒートシールシートBの熱接着面1.0cm内に1000μmより大きな前記熱接着層が設けられていない部分が10個以下である。さらに、前記通気性基材を形成するパルプの総質量のうち51~100質量%が針葉樹パルプであり、前記ヒートシールシートBの王研式透気度が500秒以下であり、前記ヒートシールシートBを水酸化ナトリウムでpH10.0に調整した水を使用して、JIS P 8220-1:2012に準じて再離解し、前記再離解後に得られたパルプについて測定されたカナダ標準ろ水度が470~620mLCSFである。
熱接着層は、通気性基材の一方の面のみに設けられていてもよく、一方の面及びその反対側の他方の面に設けられていてもよい。
【0075】
ヒートシールシートBの一実施形態は、図1に示すように、通気性基材2と、通気性基材2の一方の面に設けられた熱接着層3とを備えるヒートシールシート1である。説明の便宜上、図1における寸法等は説明の便宜上実際とは異なるものになっている。
【0076】
ヒートシールシートBは、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、通気性基材と熱接着層との間に他の層をさらに備えていてもよい。熱接着層が通気性基材の一方の面のみに設けられている場合、通気性基材の他方の面に他の層が設けられていてもよい。
【0077】
ヒートシールシートBの熱接着層の熱接着面(加熱によって接着性を呈する面)の無作為に選択される箇所を電子顕微鏡で観察したときに、次の状態が観察される。すなわち、ヒートシールシートBの熱接着面1.0cm内に、1000μmより大きな熱接着層が設けられていない部分は10個以下である。前記範囲における前記部分の個数は、5個以下が好ましく、1個以下がより好ましい。前記部分が少ないほど、熱接着層の接着性が安定して高まりやすい。
ヒートシールシートBの熱接着面1.0cm内に、1000μmより大きな熱接着層が設けられていない部分は、例えば、0~10個であってよく、0~5個であってよく、0~1個であってよい。
ヒートシールシートBの通気性を高める観点から、熱接着層の内部及び熱接着面の少なくとも一方には、後述するように熱可塑性樹脂粒子を含むことが好ましい。
【0078】
ヒートシールシートBの層間強度は、500J/m以上であることが好ましい。層間強度を500J/m以上とすることで、滅菌包装体の開封時の紙粉飛散や紙層剥離を防止できる。より好ましくは800J/m以上であり、さらに好ましくは1000J/m以上である。上記層間強度の上限値は特に限定されず、例えば2000J/m程度とすることができる。
ヒートシールシートBの層間強度は、例えば、500~2000J/mであってよく、800~2000J/mであってよく、1000~2000J/mであってよい。
【0079】
ヒートシールシートBの抄紙機の縦方向の引裂強度は、500mN以上であることが好ましい。引裂強度を500mN以上とすることで、滅菌包装体の開封時の紙破れや紙残りを防止できる。より好ましくは800mN以上である。上記引裂強度の上限値は特に限定されず、例えば2000mN程度とすることができる。
ヒートシールシートBの抄紙機の縦方向の引裂強度は、例えば、500~2000mNであってよく、800~2000J/mであってよい。
【0080】
ヒートシールシートBの王研式透気度は、500秒以下であり、300秒以下が好ましく、100秒以下がより好ましく、50秒以下がさらに好ましく、20秒以下が特に好ましい。上記王研式透気度が上記上限値以下であると、放射線滅菌法、ガス滅菌法等の各種の滅菌法が適用可能である。上記王研式透気度の下限値は、特に限定されないが、例えば3秒とすることができる。
ヒートシールシートBの王研式透気度は、例えば、3~500秒であってよく、3~300秒であってよく、3~100秒であってよく、3~50秒であってよく、3~20秒であってよい。
【0081】
ヒートシールシートBの王研式透気度は、通気性基材に用いられる木材パルプの種類、叩解度、熱接着層用塗料に用いる熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径、熱接着層用塗料の塗工量、熱接着層用塗料の乾燥条件、通気性基材の坪量等をそれぞれ適切に選択することによって制御することが可能である。
【0082】
ヒートシールシートBの坪量は、60~150g/mが好ましく、70~120g/mがより好ましく、80~110g/mがさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると、引裂強度が向上し、滅菌包装体の開封時の意図しない箇所での破れをより確実に防止できる。上記範囲の上限値以下であると、通気性が向上する。
【0083】
水酸化ナトリウムでpH10.0に調整した水を使用して、JIS P 8220-1:2012に準じてヒートシールシートBを再離解して得られるパルプについて測定されたカナダ標準ろ水度は、470~620mLCSFである。上記カナダ標準ろ水度の範囲は、470~570mLCSFが好ましく、490~560mLCSFがより好ましく、510~550mLCSFがもっとも好ましい。上記カナダ標準ろ水度が上記範囲であると、引裂強度が向上し、滅菌包装体の開封時の意図しない箇所での破れを確実に防止することができる。さらに、通気性基材の通気性が良好となり、また通気性基材の地合が良好となり、ピンホールも発生し難くなる。
【0084】
(通気性基材)
ヒートシールシートBの通気性基材を構成するパルプの総質量に対する針葉樹パルプの含有量は、51~100質量%であり、70~95質量%が好ましい。
通気性基材に針葉樹パルプが上記の割合で含まれていることにより、内部結合力が高まり、引裂強度が向上し、滅菌包装体の開封時の意図しない箇所での破れを確実に防止することができる。
【0085】
通気性基材を構成する針葉樹パルプ以外の残部のパルプは、広葉樹パルプ又は非木材パルプであることが好ましく、広葉樹パルプであることがより好ましい。
本発明の効果を損なわない範囲で、木材パルプ及び非木材パルプ以外の繊維材料を通気性基材の原料として含んでいてもよい。
針葉樹パルプ及び広葉樹パルプは公知のパルプが適用される。
非木材パルプとしては、例えば、麻パルプ、ケナフパルプ、竹パルプ、コットンパルプ等が挙げられる。
前記繊維材料としては、例えば、レーヨン繊維、ナイロン繊維、その他熱融着性繊維等が挙げられる。
各パルプ原料及び繊維材料は、一種が単独で含まれていてもよく、二種以上が含まれていてもよい。
【0086】
通気性基材を構成するパルプは、水の存在下で叩解されてパルプスラリーとして用いられる。パルプの叩解方法、叩解装置は特に制限されない。例えば叩解効率が高いダブルディスクリファイナー(DDR)を用いる場合、短時間で叩解を終えることができる。
【0087】
ヒートシールシートBの再離解後のカナダ標準ろ水度の範囲を前述の範囲にするためには、通気性基材を構成する針葉樹パルプの叩解を、針葉樹パルプのカナダ標準ろ水度が550~700mLCSFとなるように行うことが好ましく、580~650mLCSFとなるように行うことがより好ましい。針葉樹パルプのカナダ標準ろ水度を上記範囲とすることにより、ヒートシールシートBの再離解後のカナダ標準ろ水度の範囲が上記範囲となりやすい。
なお、ヒートシールシートBの再解離後のカナダ標準ろ水度には、通気性基材を構成する木材パルプの叩解程度の他に、内添紙力剤(乾燥、湿潤)や定着剤も影響を与える。内添紙力剤の添加部数が大きい程、再解離後のカナダ標準ろ水度は小さくなる傾向がある。定着剤の添加部数が大きい程、再解離後のカナダ標準ろ水度は小さくなる傾向がある。
【0088】
通気性基材には、各種の製紙用の内添薬品が含まれていてもよい。内添薬品は、通気性基材の製造時に必要に応じて、抄紙原料のパルプスラリーに添加される。
内添薬品としては、例えば乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、定着剤、サイズ剤、保水剤、歩留向上剤、消泡剤、填料、着色剤等の公知の内添薬品が挙げられる。
【0089】
乾燥紙力増強剤としては、例えば、各種のポリアクリルアミド樹脂、カチオン化デンプン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。これらの乾燥紙力増強剤は、一種が単独で含まれてもよく、二種以上が含まれてもよい。
【0090】
ポリアクリルアミド樹脂としては、第1の態様において挙げたポリアクリルアミド樹脂と同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
【0091】
乾燥紙力増強剤を含有する場合、含有量は、通気性基材の総質量に対して0.5~2.0質量%が好ましく、0.5~1.2質量%がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると、充分な紙力や滅菌包装体の開封時の紙層剥離や紙粉飛散防止効果が得られる。上記範囲の下限値以下であると、パルプスラリーの分散状態が良好に保たれ、紙力低下や抄紙機の汚れが生じ難いため好ましい。
【0092】
湿潤紙力増強剤としては、例えば、ポリアミドエポキシ樹脂、エピクロル樹脂、メラミン樹脂が挙げられる。これらの湿潤紙力増強剤は、一種が単独で含まれてもよく、二種以上が含まれてもよい。
【0093】
湿潤紙力増強剤を含有する場合、含有量は、通気性基材の総質量に対して0.2~2.0質量%が好ましく、0.3~1.2質量%がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると、充分な紙力や滅菌包装体の開封時の紙層剥離や紙粉飛散防止効果が得られる。上記範囲の下限値以下であると、パルプスラリーの分散状態が良好に保たれ、紙力低下や抄紙機の汚れが生じ難いため好ましい。
【0094】
定着剤としては、例えば、硫酸バンド、各種のアルミン酸ソーダ、等が挙げられる。なかでも硫酸バンド、アルミン酸ソーダが好ましい。
【0095】
定着剤を含有する場合、含有量は、通気性基材の総質量に対して0.3~2.0質量%が好ましく、0.4~1.0質量%がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると、乾燥紙力増強剤及び湿潤紙力増強剤のパルプ繊維への定着を促進し、充分な紙力を有するヒートシールシートが得られる。上記範囲の上限値以下であると、パルプスラリーの分散状態が良好に保たれ、紙力低下や抄紙機の汚れが生じ難いため好ましい。
【0096】
通気性基材は、熱接着層の成分の浸透を防ぐ、サイズ性を有することが好ましい。
サイズ性を発現させる方法としては、内添サイズ剤をパルプスラリーに添加する方法、外添サイズ剤(表面サイズ剤)をサイズプレス等で抄紙後に塗布又は含浸する方法、これらを併用する方法等が挙げられる。
内添サイズ剤としては、例えば、アルケニル無水コハク酸、アルキルケテンダイマー、ロジンが挙げられる。これらのサイズ剤はいずれか一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。
外添サイズ剤としては、上記内添サイズ剤と同じものが挙げられる。さらに、スチレン・アクリル酸共重合体、オレフィン系重合体、スチレン・マレイン酸共重合体、スチレン・アクリル酸エステル共重合体、スチレン・マレイン酸エステル共重合体等が挙げられる。中でもアルキルケテンダイマー、スチレン・アクリル酸共重合体、オレフィン系重合体、スチレン・マレイン酸共重合体が好ましい。添加する際の剤形は、エマルジョンタイプ、溶液タイプのいずれでもよい。
上記の内添サイズ剤、外添サイズ剤の他、撥水性、耐水性が発現する材料をサイズ剤として用いてもよい。
サイズ剤は、一種が単独で含まれてもよいし、二種以上が含まれてもよい。
【0097】
通気性基材は、例えば以下の方法で製造される。
パルプスラリーに内添薬品を添加して調製した抄紙原料を抄紙して通気性基材が得られる。次いで、任意に、他の成分を含む下塗り剤を常法により通気性基材の表面に塗布し、乾燥して下塗り層を形成する。
【0098】
通気性基材のステキヒトサイズ度は、例えば、5~500秒が好ましく、10~200秒がより好ましく、20~150秒がさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると熱接着層の成分の浸み込みが抑制され、良好な接着強度が得られ、通気性の低下も起こり難い。上記範囲の上限値以下であると、通気性基材自体の通気性の低下が抑制されるため好ましい。
【0099】
保水剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ソーダが挙げられる。填料としては、例えば、タルク、炭酸カルシウムが挙げられる。
【0100】
通気性基材の坪量は、60~150g/mが好ましく、80~120g/mがより好ましい。上記範囲の下限値以上であると、滅菌包装体の開封に耐える引裂強度を得やすく、開封時の基材破壊がさらに起こりにくくなる。また、滅菌包装体クロージャーの完全性を損なうピンホールの発生を抑えることができる。上記範囲の上限値以下であると、良好な通気性が得られるほか、経済的にも好ましい。
【0101】
通気性基材の密度は、例えば、0.50~1.20g/cmが好ましく、0.65~1.10g/cmがより好ましい。上記範囲の下限値以上であれば、滅菌包装体の開封に耐える引裂強度を得やすく、開封時の基材破壊がさらに起こりにくくなる。上記範囲の上限値以下であれば、充分な通気性が得られる。
【0102】
(熱接着層)
ヒートシールシートBの熱接着層は、加熱により接着性を呈する熱可塑性樹脂粒子を含む層であることが好ましい。熱可塑性樹脂粒子を含むことで、連続塗工方法においても粒子間空隙による通気性が確保される。ここで、「粒子」の形状は、略球状、略楕円体状、球がつぶれた円盤状、不定形の塊状等のいずれの形状であってもよく、通気性を容易に制御する観点から、不定形の塊状以外の形状であることが好ましい。熱接着層に含まれる複数の熱可塑性樹脂粒子は、互いに接触していてもよい。熱接着層は熱可塑性樹脂粒子を含むので、良好な通気性を呈する。熱接着層を形成する際の乾燥条件によっては粒子同士が溶融して粒子状の形態を保持しない場合があるが、粒子間空隙が埋まらない限りは、通気性は保持される。
【0103】
熱接着層に含まれる熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、1μm~30μmが好ましく、3μm~20μmがより好ましく、5μm~15μmがもっとも好ましい。上記範囲の下限値以上であると、通気性が高まる。上記範囲の上限値以下であると、被着体に対するヒートシール性が高まる。
【0104】
熱接着層に含まれる熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、下記の電子顕微鏡を用いる測定方法で測定される平均粒子径である。
電子顕微鏡を用いる測定方法:粒子の分散液を基材に塗工し、その50μm×50μmの任意の領域を電子顕微鏡で観察し、当該領域から100個の粒子を無作為に選択し、各粒子の最大径を測定し、それらの形状を球形と仮定して体積を算出し、その値から体積平均粒子径を算出する。
熱接着層の大部分が溶融している場合は、観察可能な粒子の粒子径から平均粒子径を求めることができる。この場合の測定領域は、100個の粒子を無作為に選択するために上記の条件より大きくなってもよい。
【0105】
熱可塑性樹脂粒子を構成する熱可塑性樹脂のガラス転移点は、例えば、70~180℃が好ましく、75~160℃がより好ましい。上記範囲の下限値以上であると、比較的低温で行われる乾燥処理等の熱接着を意図しない処理の際に熱接着層が溶融することを防止できる。上記範囲の上限値以下であると、ヒートシール性が高まる。ガラス転移点は、示差走査熱量測定等を用いて測定される。
【0106】
熱可塑性樹脂粒子の成分(熱可塑性樹脂の種類)としては、例えば、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アクリル酸エステル重合体、ポリエチレン、ポリブテン等が挙げられる。
【0107】
熱接着層には、粒状の熱可塑性樹脂の他に、非粒状の熱可塑性樹脂が含まれていてもよい。熱接着層が非粒子状の熱可塑性樹脂を含む場合、ヒートシールシートBを備えた滅菌包装体の開封時に熱接着層が膜状に凝集して剥離しやすく、通気性基材の基材破壊を抑制することができる。
熱接着層に含まれる非粒子状の熱可塑性樹脂は、製造時に熱可塑性樹脂粒子が溶融してなる樹脂、すなわち熱可塑性樹脂粒子に由来する樹脂であってもよいし、製造時に熱可塑性樹脂粒子とは別に添加された樹脂でもよい。非粒子状の熱可塑性樹脂の具体的な樹脂の種類は特に限定されず、熱可塑性樹脂粒子の成分として例示した上記の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0108】
熱接着層の通気性基材とは反対側の表面の50μm×50μmの任意の領域を電子顕微鏡で観察したときに、当該領域の総面積に対する熱可塑性樹脂粒子が占める割合は、20~100%が好ましく、30~99%がより好ましく、50~99%がさらに好ましい。上記範囲の下限値以上であると、通気性が良好となる。上記範囲の上限値以下であると、ヒートシール性が良好となり、クロージャーの完全性を得やすい。
【0109】
熱接着層の総質量に対する熱可塑性樹脂の含有量は、50~100質量%が好ましく、60~90質量%がより好ましい。上記範囲であると、ヒートシール性が良好となる。
熱接着層の主成分は、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アクリル酸エステル重合体、ポリエチレン、及びポリブテンの群から選択される1種又は2種以上であることが好ましく、2種以上であることがより好ましい。通気性及びヒートシール性を両立させる観点から、EVAとポリエチレンの2種を含むことが得に好ましい。ここで、主成分であるとは、熱接着層の総質量に対して50~100質量%含まれることを意味する。
熱接着層には熱可塑性樹脂以外の他の成分が含まれていてもよい。
【0110】
熱接着層は、タッキファイヤーを含んでいてもよい。熱接着層がタッキファイヤーを含むと、熱可塑性樹脂の溶融粘度が低下して、被接着物との接着性が向上するため好ましい。
タッキファイヤーとしては、例えば第1の態様において挙げたタッキファイヤーと同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。熱接着層に任意成分として含まれるタッキファイヤーは1種単独でもよいし、2種以上でもよい。
【0111】
熱接着層がタッキファイヤーを含む場合、その含有量は、例えば、熱可塑性樹脂の100質量部に対して10~50質量部が好ましい。上記範囲の下限値以上であると、充分な成膜効果が得られやすい。上記範囲の上限値以下であると、適度な通気性が得られやすい。
【0112】
熱接着層は、プライマーを含んでいてもよい。熱接着層がプライマーを含むと、ポリプロピレン等の極性の低い被着体に対するヒートシール性が向上するため好ましい。
プライマーとしては、例えば第1の態様において挙げたプライマーと同様のものが挙げられる。熱接着層に任意成分として含まれるプライマーは1種単独でもよいし、2種以上でもよい。
【0113】
熱接着層は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分として、公知のヒートシールシートの熱接着層を構成する材料をさらに含んでいてもよい。
【0114】
熱接着層は、第1の態様における熱接着層と同じものであってよい。
【0115】
(他の層)
他の層としては、第1の態様において挙げた他の層と同様のものが挙げられる。
【0116】
(ヒートシールシートBの製造方法)
ヒートシールシートBは、通気性基材の少なくとも一方の面に熱接着層を形成することにより製造される。
【0117】
熱接着層は、例えば、通気性基材の少なくとも一方の面に熱接着層用塗料を塗布し、乾燥することにより形成できる。
熱接着層用塗料は、通気性基材の一方の面のみに塗布してもよく、通気性基材の一方の面及び他方の面に塗布してもよい。
熱接着層用塗料を塗布する前に、通気性基材の表面を平滑化処理したり、前記他の層を形成したりしてもよい。熱接着層の形成後、得られたヒートシールシートの表面を平滑化処理してもよい。
【0118】
熱接着層用塗料は、好ましくは熱可塑性樹脂粒子を含み、所望により、タッキファイヤー、プライマー、分散媒等を含む。熱接着層用塗料は、熱接着層の含有量に応じた配合量で各材料を常法により混合して調製される。
熱接着層用塗料に配合される熱可塑性樹脂粒子は、分散媒に分散された状態、すなわちエマルションタイプまたはディスパーションタイプであることが好ましい。エマルションタイプまたはディスパーションタイプであることにより、形成する熱接着層中に熱可塑性樹脂粒子を均一に分散することができる。
【0119】
熱接着層用塗料に含まれる熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、1μm~30μmであることが好ましく、3μm~20μmがより好ましく、5μm~15μmがさらに好ましい。
熱接着層用塗料に含まれる熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、コールターカウンターにより測定される体積平均粒子径である。
【0120】
熱接着層用塗料の塗布方法は、第1の態様において挙げた熱接着層用塗料の塗布方法と同様である。
【0121】
通気性基材に塗布した熱接着層用塗料を乾燥する温度は、当該塗料に熱可塑性樹脂粒子が含まれる場合、前記熱可塑性樹脂粒子の少なくとも一部が溶けずに粒子として判別可能な形状を保つことが可能な温度であることが好ましい。例えば、ポリエチレン製の樹脂粒子を用いる場合、乾燥温度は、70~130℃が好ましく、80~120℃がより好ましい。
【0122】
熱接着層用塗料の塗工量(塗布後に乾燥した質量)は、熱接着層が接着される被着体の材質やヒートシール条件に応じて適宜選択され、例えば、0.1~20g/mが好ましく、0.5~10g/mがより好ましく、1.0~7.0g/mがさらに好ましい。上記範囲の下限値以上とすれば、接着性がより一層良好となり、上記範囲の上限値以下とすれば、通気性がより一層良好となる。
【0123】
通気性基材の片面の全体に対する熱接着層の形成面積は、50~100%が好ましく、70~100%がより好ましく、90~100%がさらに好ましい。通気性基材の表面における熱接着層が占める割合が上記範囲であると、クロージャーの完全性及び剥離強度が向上する。
【0124】
〔用途〕
ヒートシールシートA,Bは、例えば、滅菌包装体に用いられる。ヒートシールシートA又はBの一部と、包装紙、ラミネート紙、フィルム、滅菌用成形容器等の被着体の一部とを、内側に空間が形成されるように重ねて熱圧着することで、ヒートシールシートA又はBと被着体とが熱圧着された滅菌包装体を形成できる。
フィルム又は滅菌用成形容器としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-アクリル共重合樹脂又はこれらの積層体等により構成される、フィルム又は滅菌用成形容器が挙られる。
滅菌用成形容器は、典型的には、収容物を収容するための1以上の凹部を有する。この場合、ヒートシールシートA,Bは、典型的には、前記1以上の凹部の開口を封止する蓋材として用いられる。
ヒートシールシートBと熱圧着される被着体としては、比較的狭いシール幅でも基材破壊を来たさずに十分な剥離強度が求められる点で、滅菌用成形容器が好ましい。
【0125】
滅菌包装体は、互いに熱圧着されたヒートシールシートA又はBと被着体により、医療器具等の収容物を収容するための空間が形成されている。ヒートシールシートA又はBと被着体とは、収容物を収容した後に熱圧着される。
収容物としての医療器具は、使用前に滅菌することが求められる医療器具であれば特に限定されない。具体例としては、注射針、注射器、カテーテル、手袋、メス、鉗子、摂子、剪刀、ガーゼ、絆創膏等が挙げられる。
【0126】
滅菌包装体は、収容物を収容した状態で滅菌処理に供される。例えば、オートクレーブ、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌、電子線滅菌、γ線滅菌等の滅菌方法により滅菌処理が行われる。そして、収容物を使用する際には、被着体からヒートシールシートA又はBを剥離して収容物を取り出すこととなる。
ヒートシールシートA又はBの用途は滅菌包装体に限定されるものではなく、食品や一般工業製品等の包装にも使用することができる。
【0127】
ヒートシールシートAと被着体との滅菌包装体において、ヒートシールシートAと被着体とを剥離速度300mm/分で180°剥離する際の剥離強度は、1.0~15N/15mmが好ましく、1.5~10N/15mmがより好ましく、2.0~7.5N/15mmが特に好ましい。剥離強度が前記範囲内であると、イージーピール性とヒートシール性のバランスに優れる。
上記剥離強度は、例えば熱接着層用塗料の塗工量や種類、乾燥条件、熱接着層中に含まれる樹脂粒子の平均粒子径等をそれぞれ適切に選択することによって制御することが可能である。
【0128】
ヒートシールシートBと被着体との滅菌包装体において、ヒートシールシートBと被着体とを剥離速度300mm/分で180°剥離する際の剥離強度は、0.067~1.0N/mmが好ましく、0.1~0.67N/mmがより好ましく、0.13~0.5N/mmがさらに好ましい。剥離強度が前記範囲内であると、イージーピール性とヒートシール性のバランスに優れる。
ヒートシールシートBが、ポリプロピレン樹脂で成形された容器の蓋材として使用される場合、ヒートシールシートBの剥離強度は、0.4~0.9N/mmであることが好ましく、0.6~0.8N/mmがより好ましい。
上記剥離強度は、例えば、熱接着層用塗料の塗工量や種類、乾燥条件等をそれぞれ適切に選択することによって制御することが可能である。
【実施例
【0129】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、%は質量%であり、部は質量部である。後述する例A1~A20、B1~B11のうち、A1~A16、B1~B11は実施例であり、A17~A20は比較例である。
各例で用いた測定、評価方法を以下に示す。
【0130】
[王研式透気度の測定]
通気性基材及びヒートシールシートの王研式透気度は、JIS P 8117:2009に準じて測定した。
【0131】
[剥離試験I]
ヒートシールシートと、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)とPEとの複合フィルムとを、ヒートシールシートの熱接着層側の面(熱接着面)が複合フィルムのPE側の面と接するように重ね、熱プレス試験機を用いて150℃、0.2MPa、1.0秒間の熱圧着条件で熱圧着して熱圧着物を作製した。
上記の方法で作成した熱圧着物を幅15mmに断裁して、剥離強度測定用サンプルを作成した。得られた剥離強度測定用サンプルの剥離強度(N/15mm)を、JIS P 8113:2006に準じ、引張試験機(型式:テンシロンRTC-1250A、オリエンテック社製)を用いて、サンプルの複合フィルム、ヒートシールシートそれぞれの端部をチャッキングし、180度ピール法で剥離速度300mm/分で剥離することにより測定した。剥離強度が大きいほど、熱接着性に優れる。
【0132】
また、剥離強度の測定の際、ヒートシールシートの基材破壊の状態を目視で確認し、以下の基準で評価した。
「評価基準」
○:基材破壊が起こらなかった。
△:ヒートシールシートを剥離できたが、複合フィルムに紙片やケバの付着が見られた。
×:基材破壊が発生した。
【0133】
[熱接着面の擦過性試験]
ヒートシールシートを200mm×100mmにカットし、東洋精機製作所製の「サウザランド・ラブテスター」のサンプル台に、熱接着面が上になるように固定した。
別途、質量が1916gで、ヒートシールシートとの接触面の大きさが20mm×20mmのゴム板形状に加工したしゅう動子を用意した。このしゅう動子のゴム板部分を覆うように幅20mmの黒画用紙の短冊を巻きつけた。このしゅう動子をサウザランド・ラブテスターにセットし、円弧軌道上を一定速度で100往復させ、ヒートシールシートの熱接着面と黒画用紙の1面とを擦った。その後、熱接着面の状態を目視で確認し、以下の基準で熱接着層の脱落の度合いを評価した。
「評価基準」
◎:熱接着層が全く脱落せず、表面の傷つきもみられなかった。
○:熱接着層の脱落はなかったが、表面に傷つきがみられた。
△:熱接着層が若干脱落した。
×:熱接着層が糸状の粕として脱落した。
【0134】
[再離解]
ヒートシールシートの再離解は、水酸化ナトリウムでpH10.0に調整した水を使用して、JIS P 8220-1:2012に準じて行った。
再離解後のパルプについて、JIS P 8121-2:2012に準じて、カナダ標準ろ水度を測定した。
[層間強度の測定]
ヒートシールシートの層間強度は、ISO 16260:2016に準じて測定した。
[抄紙機縦方向引裂強度の測定]
ヒートシールシートの抄紙機縦方向の引裂強度は、JIS P 8116:2000に準じて測定した。
【0135】
[剥離試験II]
ヒートシールシートと、ポリプロピレン製ブロック(接着面の大きさ:幅4.5mm×長さ80mm)とを、ヒートシールシートの熱接着層側の面(熱接着面)がポリプロピレン製ブロック面と接するように重ね、熱プレス試験機を用いて200℃、1.6MPa、2.0秒間の熱圧着条件で熱圧着して熱圧着物を作製した。
上記の方法で作成した熱圧着物を、JIS P 8113:2006に準じ、引張試験機(型式:テンシロンRTC-1250A、オリエンテック社製)を用いて、サンプルのポリプロピレンブロック、ヒートシールシートの端部をチャッキングし、180度ピール法で剥離速度300mm/分で剥離することにより剥離強度を測定した。剥離強度が大きいほど、熱接着性が優れ、クロージャーの完全性が高いといえる。
【0136】
また、剥離強度の測定の際、ヒートシールシートの基材破壊の状態を目視で確認し、以下の基準で評価した。
「評価基準」
◎:基材破壊やケバ付着が見られなかった。
○:ヒートシールシートの剥離は問題なかったが、剥離後のポリプロピレンブロックにケバが僅かに見られた。
△:ヒートシールシートは基材破壊を起こさず剥離できたが、ポリプロピレンブロックに紙片やケバの付着が見られた。
×:基材破壊が発生した。
【0137】
<例A1>
(通気性基材の製造)
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)をDDRにてJIS P 8121-2:2012に記載されるカナダ標準ろ水度(フリーネス)が390mLになるように叩解し、パルプスラリーを得た。前記パルプスラリーに内添薬品として、パルプ質量に対し、絶乾で硫酸バンド0.5%、あらかじめカチオン化澱粉(ピラー3YK、ピラースターチ社製)で分散させたアルケニル無水コハク酸サイズ剤(ファイブラン81K、荒川化学工業社製)0.05%、両性ポリアクリルアミド系樹脂紙力増強剤(PAM)(商品名:ポリストロンOFT-3、荒川化学工業社製、質量平均分子量300万)0.7%、エピクロル樹脂湿潤紙力増強剤0.4%、を添加して抄紙原料を得た。前記抄紙原料を長網抄紙機で抄紙して通気性基材を得た。得られた通気性基材の坪量は60g/m、密度は0.7g/cm、王研式透気度は12秒であった。
【0138】
(熱接着層用塗料の調製)
EVAディスパーション(ケミパールV200、三井化学社製、EVA粒子の平均粒子径7μm、最低造膜温度85℃、固形分濃度40%)の138部、PEディスパーション(ケミパールW400、三井化学社製、PE粒子の平均粒子径4μm、固形分濃度40%、PEの密度920kg/m、軟化点110℃)の90部、強化ロジン系エマルション(サイズパインN775、荒川化学工業社製、軟化点100℃未満、固形分濃度50%)の18部、希釈水154部を混合撹拌して固形分濃度25%の熱接着層用塗料を得た。なお、ディスパーション及びエマルションの配合量(部)は、分散媒を含めた質量である。熱接着層用塗料の平均粒子径をコールターカウンターにより測定したところ、5.6μmであった。
【0139】
(ヒートシールシートの製造)
上記熱接着層用塗料を上記で得られた通気性基材の一面にバーコーターを用いて塗布し、送風乾燥機にて100℃、1分間の条件で乾燥して熱接着層を形成した。ここでは、乾燥後の熱接着層用塗料の塗布量が2.0g/mとなるように塗布した。これにより、ヒートシールシートを得た。
【0140】
得られたヒートシールシートの熱接着層を電子顕微鏡により観察したところ、熱接着層が複数の粒子を含み、粒子間に空隙を有していることが確認された。
【0141】
<例A2>
例A1の熱接着層用塗料の調製において、ケミパールV200の代わりにEVAディスパーション(ケミパールV300、三井化学社製、EVA粒子の平均粒子径6μm、最低造膜温度75℃、固形分濃度40%)の138部を使用した以外は例A1と同様にしてヒートシールシートを得た。熱接着層用塗料の平均粒子径をコールターカウンターにより測定したところ、5.0μmであった。
【0142】
<例A3>
例A1の熱接着層用塗料の調製において、ケミパールV200の代わりにEVAディスパーション(ケミパールV100、三井化学社製、平均粒子径12μm、最低造膜温度75℃、固形分濃度40%)の138部を使用し、ケミパールW400の代わりにPEディスパーション(SNダルアクト1001W、サンノプコ社製、PE粒子の平均粒子径12μm、固形分濃度42%、PEの融点125℃)の86部を使用し、希釈水を158部とした以外は例A1と同様にしてヒートシールシートを得た。熱接着層用塗料の平均粒子径をコールターカウンターにより測定したところ、12μmであった。
【0143】
<例A4>
例A1の熱接着層用塗料の調製において、ケミパールW400の代わりにPEディスパーション(SNコート950、サンノプコ社製、PE粒子の平均粒子径20μm、固形分濃度40%、PEの融点140℃)の90部を使用した以外は例A1と同様にしてヒートシールシートを得た。熱接着層用塗料の平均粒子径をコールターカウンターにより測定したところ、12μmであった。
【0144】
<例A5>
例A1の熱接着層用塗料の調製において、サイズパインN775の代わりに脂環系石油樹脂エマルション(AM-1000-NT、荒川化学工業社製、軟化点100℃、固形分濃度50%)の18部を使用した以外は例A1と同様にしてヒートシールシートを得た。
【0145】
<例A6>
例A1の熱接着層用塗料の調製において、サイズパインN775の代わりに特殊ロジンエステルエマルション(スーパーエステルE-788、荒川化学工業社製、軟化点160℃、固形分濃度50%)の18部を使用した以外は例A1と同様にしてヒートシールシートを得た。
【0146】
<例A7>
例A1の熱接着層用塗料の調製において、サイズパインN775の代わりに酸価付与ロジン系樹脂エマルション(スーパーエステルNS-121、荒川化学工業社製、軟化点120℃、固形分濃度50%)の18部を使用した以外は例A1と同様にしてヒートシールシートを得た。
【0147】
<例A8>
例A1の熱接着層用塗料の調製において、サイズパインN775を使用しなかったこと以外は例A1と同様にしてヒートシールシートを得た。
【0148】
<例A9>
例A1の通気性基材の製造において、抄紙パートの後工程のサイズプレスコーターでポリアクリルアミド樹脂(ポリマセット512、荒川化学工業社製)を原紙の両面に、両面合計の塗工量が1.5g/mとなるように塗工して通気性基材を得たこと以外は例A1と同様にしてヒートシールシートを得た。
【0149】
<例A10>
例A1において、乾燥後の熱接着層用塗料の塗布量を4.0g/mとした以外は例A1と同様にしてヒートシールシートを得た。
【0150】
<例A11>
例A1の熱接着層用塗料の調製において、ケミパールV200の使用量を182部、ケミパールW400の使用量を46部とした以外は例A1と同様にしてヒートシールシートを得た。熱接着層用塗料の平均粒子径をコールターカウンターにより測定したところ、6.3μmであった。
【0151】
<例A12>
例A1の熱接着層用塗料の調製において、ケミパールV200の使用量を46部、ケミパールW400の使用量を182部とした以外は例A1と同様にしてヒートシールシートを得た。熱接着層用塗料の平均粒子径をコールターカウンターにより測定したところ、4.5μmであった。
【0152】
<例A13>
例A1のヒートシールシートの製造において、送風乾燥機による乾燥条件を110℃、1分間とした以外は例A1と同様にしてヒートシールシートを得た。
【0153】
<例A14>
例A1のヒートシールシートの製造において、送風乾燥機による乾燥条件を120℃、1分間とした以外は例A1と同様にしてヒートシールシートを得た。
【0154】
<例A15>
例A1の通気性基材の製造において、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)80質量部と針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)20質量部とを使用した以外は例A1と同様にしてヒートシールシートを得た。
【0155】
<例A16>
例A1の熱接着層用塗料の調製において、ケミパールW400の代わりにPEディスパーション(ケミパールW401、三井化学社製、PE粒子の平均粒子径1μm、固形分濃度40%、PEの密度920kg/m、軟化点110℃)の90部を使用した以外は例A1と同様にしてヒートシールシートを得た。熱接着層用塗料の平均粒子径をコールターカウンターにより測定したところ、4.6μmであった。
【0156】
なお、例A1~A12、A15、A16で得られたヒートシールシートについて電子顕微鏡による表面観察及び顕微ラマン分光装置を用いてマッピングを行ったところ、EVA粒子及びPE粒子はともに融解していないことが観察された。例A13で得られたヒートシールシートについて電子顕微鏡による表面観察及び顕微ラマン分光装置を用いてマッピングを行ったところ、EVA粒子は融解しており、PE粒子は融解していないことが観察された。例A14で得られたヒートシールシートについて電子顕微鏡による表面観察及び顕微ラマン分光装置を用いてマッピングを行ったところ、EVA粒子、PE粒子ともに融解していることが観察された。
例A1~A12、A15、A16における熱接着層の表面被覆率はいずれも20面積%以上であった。また、例A13、A14における熱接着層の表面被覆率はいずれも80面積%以上であった。
【0157】
<例A17>
例A1の熱接着層用塗料の調製において、ケミパールW400を使用しなかった以外は例A1と同様にしてヒートシールシートを得た。熱接着層用塗料の平均粒子径をコールターカウンターにより測定したところ、7.0μmであった。
【0158】
<例A18>
例A1の熱接着層用塗料の調製において、ケミパールV200の使用量を207部、ケミパールW400の使用量を21部とした以外は例A1と同様にしてヒートシールシートを得た。熱接着層用塗料の平均粒子径をコールターカウンターにより測定したところ、6.5μmであった。
【0159】
<例A19>
例A1の熱接着層用塗料の調製において、ケミパールV200の使用量を21部、ケミパールW400の使用量を207部とした以外は例A1と同様にしてヒートシールシートを得た。熱接着層用塗料の平均粒子径をコールターカウンターにより測定したところ、4.2μmであった。
【0160】
<例A20>
例A1の熱接着層用塗料の調製において、ケミパールW400の代わりにスチレンブタジエン共重合体ラテックス(X300B、JSR社製、固形分濃度48%)の75部を使用し、希釈水を169部にした以外は例A1と同様にしてヒートシールシートを得た。熱接着層用塗料の平均粒子径をコールターカウンターにより測定したところ、7.0μmであった。
【0161】
例A1~A20それぞれのヒートシールシートについて、王研式透気度の測定、剥離試験I及び擦過性試験を行った。結果を表1に示す。
【0162】
【表1】
【0163】
上記結果に示すとおり、例A1~A16のヒートシールシートは、透気度が700秒以下と低かった。また、十分な剥離強度が得られ、かつ剥離時に基材破壊が見られなかった。さらに熱接着面の耐擦過性にも優れていた。したがって、ガス滅菌法等の、透気性が求められる滅菌法にも好適に用いることができるものであった。
一方、例A17、A18、A20のヒートシールシートは、熱接着面の耐擦過性が劣っていた。比較例A19のヒートシールシートは、十分な剥離強度が得られず熱接着性に劣っていた。
【0164】
<例B1>
(通気性基材の製造)
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)75質量部と、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)25質量部をDDRにてJIS P 8121-2:2012に記載されるカナダ標準ろ水度(フリーネス)が600mLCSFになるように叩解し、パルプスラリーを得た。
前記パルプスラリーに内添薬品として、パルプ質量(100質量%)に対し、絶乾で硫酸バンド0.75質量%、両性ポリアクリルアミド系樹脂(乾燥紙力増強剤)(PAM)(商品名:ポリストロン1250、荒川化学工業社製)1.2質量%、エピクロル樹脂(湿潤紙力増強剤)(商品名:アラフィックス#255、荒川化学工業社製)0.35質量%を添加して、抄紙原料を得た。
前記抄紙原料を長網抄紙機で抄紙した。その後、サイズプレスパートにて、スチレン・アクリル酸共重合体(表面サイズ剤)(商品名:SE2018、星光PMC社製)を絶乾で30質量部と、アクリル樹脂エマルジョン(商品名:ボンコートAK-3090、DIC社製)を絶乾で70質量部とを含むように調製されたサイズプレス液(固形分濃度:4.0質量%)を、抄紙した紙の両面に塗工した。両面の塗工量の合計は、絶乾で1.4g/mとなるようにした。塗工に続けて乾燥した後、オンマシンカレンダー処理を行って、坪量90.0g/mの通気性基材を得た。
【0165】
(熱接着層用塗料の調製)
EVAディスパーション(ケミパールV200、三井化学社製、EVA粒子の平均粒子径7μm、最低造膜温度85℃、固形分濃度40%)の138部、PEディスパーション(ケミパールW400、三井化学社製、PE粒子の平均粒子径4μm、固形分濃度40%、PEの密度920kg/m、軟化点110℃)の90部、強化ロジン系エマルション(サイズパインN775、荒川化学工業社製、軟化点100℃未満、固形分濃度50%)の18部、希釈水154部を混合撹拌して固形分濃度25%の熱接着層用塗料を得た。
【0166】
(ヒートシールシートの製造)
上記の熱接着層用塗料を上記の通気性基材の一面にバーコーターを用いて塗布し、送風乾燥機にて100℃、1分間の条件で乾燥して熱接着層を形成した。ここでは、乾燥後の熱接着層用塗料の塗布量が3.5g/mとなるように塗布した。これにより、片面にベタ塗の熱接着層を有する坪量93.5g/mのヒートシールシートを得た。
得られたヒートシールシートの熱接着層に含まれる熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、5.6μmであった。
得られたヒートシールシートの熱接着面(ヒートシール面)を電子顕微鏡で観察した結果、1.0cm内に1000μmより大きな熱接着層が設けられていない部分は0個であった。
得られたヒートシールシートを再離解して測定したカナダ標準ろ水度は520mLCSFであった。
【0167】
<例B2>
例B1の通気性基材の製造において、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)60質量部と広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)40質量部を使用した以外は例B1と同様にしてヒートシールシートを得た。
得られたヒートシールシートの熱接着層に含まれる熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、5.6μmであった。
得られたヒートシールシートの熱接着面を電子顕微鏡で観察した結果、1.0cm内に1000μmより大きな熱接着層が設けられていない部分は0個であった。
得られたヒートシールシートを再離解して測定したカナダ標準ろ水度は520mLCSFであった。
【0168】
<例B3>
例B1の通気性基材の製造において、硫酸バンドの使用量を絶乾で0.20質量%とした以外は例B1と同様にしてヒートシールシートを得た。
得られたヒートシールシートの熱接着層に含まれる熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、5.6μmであった。
得られたヒートシールシートの熱接着面を電子顕微鏡で観察した結果、1.0cm内に1000μmより大きな熱接着層が設けられていない部分は0個であった。
得られたヒートシールシートを再離解して測定したカナダ標準ろ水度は550mLCSFであった。
【0169】
<例B4>
例B1の通気性基材の製造において、両性ポリアクリルアミド系樹脂紙力増強剤(PAM)(商品名:ポリストロン1250、荒川化学工業社製)の使用量を絶乾で0.6質量%とした以外は例B1と同様にしてヒートシールシートを得た。
得られたヒートシールシートの熱接着層に含まれる熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、5.6μmであった。
得られたヒートシールシートの熱接着面を電子顕微鏡で観察した結果、1.0cm内に1000μmより大きな熱接着層が設けられていない部分は0個であった。
得られたヒートシールシートを再離解して測定したカナダ標準ろ水度は530mLCSFであった。
【0170】
<例B5>
例B1の通気性基材の製造において、エピクロル樹脂湿潤紙力増強剤(商品名:アラフィックス#255、荒川化学工業社製)の使用量を絶乾で0.2質量%とした以外は例B1と同様にしてヒートシールシートを得た。
得られたヒートシールシートの熱接着層に含まれる熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、5.6μmであった。
得られたヒートシールシートの熱接着面を電子顕微鏡で観察した結果、1.0cm内に1000μmより大きな熱接着層が設けられていない部分は0個であった。
得られたヒートシールシートを再離解して測定したカナダ標準ろ水度は550mLCSFであった。
【0171】
<例B6>
例B1の通気性基材の製造において、基材の坪量を115g/mとなるように製造した以外は例B1と同様にしてヒートシールシートを得た。
得られたヒートシールシートの熱接着層に含まれる熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、5.6μmであった。
得られたヒートシールシートの熱接着面を電子顕微鏡で観察した結果、1.0cm内に1000μmより大きな熱接着層が設けられていない部分は0個であった。
得られたヒートシールシートを再離解して測定したカナダ標準ろ水度は520mLCSFであった。
【0172】
<例B7>
例B1の通気性基材の製造において、あらかじめカチオン化澱粉(ピラー3YK、ピラースターチ社製)で分散させたアルケニル無水コハク酸サイズ剤(ファイブラン81K、荒川化学工業社製)を絶乾で0.05%となるように添加して、且つ、サイズプレス液にスチレン・アクリル系表面サイズ剤(商品名:SE2018、星光PMC社製)を添加しなかった以外は例B1と同様にしてヒートシールシートを得た。
得られたヒートシールシートの熱接着層に含まれる熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、5.6μmであった。
得られたヒートシールシートの熱接着面を電子顕微鏡で観察した結果、1.0cm内に1000μmより大きな熱接着層が設けられていない部分は0個であった。
得られたヒートシールシートを再離解して測定したカナダ標準ろ水度は520mLCSFであった。
【0173】
<例B8>
例B1の通気性基材の製造において、あらかじめカチオン化澱粉(ピラー3YK、ピラースターチ社製)で分散させたアルケニル無水コハク酸サイズ剤(ファイブラン81K、荒川化学工業社製)を絶乾で0.05%となるように添加して、且つ、サイズプレス液にポリアクリルアミド系樹脂表面紙力剤(商品名:ポリマセット512、荒川化学工業社製)の固形濃度4.0質量%液を使用した以外は例B1と同様にしてヒートシールシートを得た。
得られたヒートシールシートの熱接着層に含まれる熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、5.6μmであった。
得られたヒートシールシートの熱接着面を電子顕微鏡で観察した結果、1.0cm内に1000μmより大きな熱接着層が設けられていない部分は0個であった。
得られたヒートシールシートを再離解して測定したカナダ標準ろ水度は520mLCSFであった。
【0174】
<例B9>
例B1の通気性基材の製造において、硫酸バンドを使用しなかった以外は例B1と同様にしてヒートシールシートを得た。
得られたヒートシールシートの熱接着層に含まれる熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、5.6μmであった。
得られたヒートシールシートの熱接着面を電子顕微鏡で観察した結果、1.0cm内に1000μmより大きな熱接着層が設けられていない部分は0個であった。
得られたヒートシールシートを再離解して測定したカナダ標準ろ水度は550mLCSFであった。
【0175】
<例B10>
例B1の通気性基材の製造において、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)40質量部と広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)60質量部を使用した以外は例B1と同様にしてヒートシールシートを得た。
得られたヒートシールシートの熱接着層に含まれる熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、5.6μmであった。
得られたヒートシールシートの熱接着面を電子顕微鏡で観察した結果、1.0cm内に1000μmより大きな熱接着層が設けられていない部分は0個であった。
得られたヒートシールシートを再離解して測定したカナダ標準ろ水度は520mLCSFであった。
【0176】
<例B11>
例B1の通気性基材の製造において、原料パルプのDDRによるJIS P 8121-2:2012に記載されるカナダ標準ろ水度(フリーネス)を450mLCSFになるように叩解した以外は例B1と同様にしてヒートシールシートを得た。
得られたヒートシールシートの熱接着層に含まれる熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径は、5.6μmであった。
得られたヒートシールシートの熱接着面を電子顕微鏡で観察した結果、1.0cm内に1000μmより大きな熱接着層が設けられていない部分は0個であった。
得られたヒートシールシートを再離解して測定したカナダ標準ろ水度は400mLCSFであった。
【0177】
例B1~B11それぞれのヒートシールシートについて、層間強度、引裂強度、王研式透気度の測定、剥離試験II、剥離状態の観察及び擦過性試験を行った。結果を表2に示す。
【0178】
【表2】
【0179】
例B1~B11のヒートシールシートはいずれも、熱接着面の耐擦過性に優れていた。
例B1~B8のヒートシールシートは、透気度が50秒以下であり低かった(通気性が良好であった)。また、十分な剥離強度が得られ、かつ剥離時に基材破壊が見られなかったため、滅菌包装体用のヒートシールシートとして優れた部材であった。
例B9のヒートシールシートは、薬品定着剤である硫酸バンドの添加量を減らしたため、層間強度が低下し、剥離後のポリプロピレンブロック表面にケバの付着が確認されたが、剥離には影響なかった。
例B10のヒートシールシートは、透気度は低いが、ポリエチレンブロックからの剥離時に破れた。
例B11のヒートシールシートは、透気度が高く(通気性が悪く)、EOG滅菌用途では使用できないおそれがあり、また剥離時に基材破壊が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0180】
本発明の一態様のヒートシールシートAは、十分な熱接着性と通気性を有し、且つヒートシール面の耐擦過性に優れる。
【0181】
本発明の他の一態様のヒートシールシートBは、滅菌処理時の良好な通気性と、滅菌処理後の完全なクロージャーを兼ね備え、さらに従来よりも引裂強度が向上しており、開封時の意図しない箇所での破れが起こり難い。
【符号の説明】
【0182】
1…ヒートシールシート、2…通気性基材、3…熱接着層
図1