IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧

特許7143864リチウム複合酸化物、蓄電デバイス及びリチウム複合酸化物の製造方法
<>
  • 特許-リチウム複合酸化物、蓄電デバイス及びリチウム複合酸化物の製造方法 図1
  • 特許-リチウム複合酸化物、蓄電デバイス及びリチウム複合酸化物の製造方法 図2
  • 特許-リチウム複合酸化物、蓄電デバイス及びリチウム複合酸化物の製造方法 図3
  • 特許-リチウム複合酸化物、蓄電デバイス及びリチウム複合酸化物の製造方法 図4
  • 特許-リチウム複合酸化物、蓄電デバイス及びリチウム複合酸化物の製造方法 図5
  • 特許-リチウム複合酸化物、蓄電デバイス及びリチウム複合酸化物の製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】リチウム複合酸化物、蓄電デバイス及びリチウム複合酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20220921BHJP
   C01G 45/02 20060101ALI20220921BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20220921BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20220921BHJP
【FI】
H01M4/505
C01G45/02
H01G11/30
H01M4/131
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020023523
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021128880
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬原 優治
(72)【発明者】
【氏名】岡 秀亮
(72)【発明者】
【氏名】中野 広幸
【審査官】石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/231630(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/047020(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/047022(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M10/05-10/0587
C01G45/02
H01G11/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスの電極活物質に用いられるリチウム複合酸化物であって、
リチウムと金属元素とフッ素とを含み、XRDスペクトルがランダム岩塩構造のピークパターンを示
一般式Li 1+x MO 2 x (但し、MはMnであり、0.2≦x≦0.8を満たす)で表される、リチウム複合酸化物。
【請求項2】
XRDスペクトルにおける2θが42°以上48°以下の範囲に存在する回折ピークから見積もられた格子面間隔dが2.048Å以上2.078Å以下の範囲である、請求項1に記載のリチウム複合酸化物。
【請求項3】
前記格子面間隔dが2.065Å以下の範囲である、請求項に記載のリチウム複合酸化物。
【請求項4】
STEM/EDXにて測定された元素分布においてMnとFとが均一に分布している、請求項1~のいずれか1項に記載のリチウム複合酸化物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のリチウム複合酸化物を正極活物質として有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
【請求項6】
前記正極は、初期放電容量が200mAh/g以上である、
請求項に記載の蓄電デバイス。
【請求項7】
蓄電デバイスの電極活物質に用いられるリチウム複合酸化物の製造方法であって、
斜方晶のリチウム複合酸化物とフッ化リチウムとを混合粉砕することにより、リチウムと金属元素とフッ素とを含み、XRDスペクトルがランダム岩塩構造のピークパターンを示すフッ素含有リチウム複合酸化物を得る調整工程、をみ、
前記調整工程では、一般式Li 1+x MO 2 x (但し、MはMnであり、0.2≦x≦0.8を満たす)となるよう原料を配合する、リチウム複合酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、リチウム複合酸化物、蓄電デバイス及びリチウム複合酸化物の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池に用いられる正極活物質としては、例えば、組成Lixy2(0.6≦y≦0.85かつ0≦x+y≦2)を有する正極活性リチウム過剰型金属酸化物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この酸化物は、リチウム二次電池に用いると、カチオン無秩序に関して非感受性であり、高い可逆容量を有するとされている。また、リチウム二次電池に用いられる正極活物質としては、例えば、岩塩型構造を有するリチウムモリブデン複合酸化物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この複合酸化物は、準安定相である岩塩型構造を有することにより、放電容量や放電容量の維持率が良好であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-92958号公報
【文献】特開2017-202954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1では、Li1.233Mo0.467Cr0.32が280mAh/gを超える放電容量を示すとしているが、多価数変動を誘起しやすいCrが用いられており、このCrは環境負荷が大きい元素であり、実用的な制約が大きい問題があった。また、特許文献2では、組成内にリチウム及びモリブデンを含む複合酸化物正極材をメカノケミカル法で作製し、300mAh/gを超える高放電容量を示すとしているが、充放電における下限電圧範囲が1.0Vと低電圧条件で放電を行っており、実際にフルセルとして実用できる放電量はおよそ150mAh/g程度に予想される。このように、上述した文献では、放電容量などが良好であるとされているが、まだ十分でなく、更なる改良が望まれていた。即ち、放電容量をより高めることができる新規な複合酸化物が望まれていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、放電容量より高めることができる新規なリチウム複合酸化物、蓄電デバイス及びリチウム複合酸化物の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、リチウム複合酸化物において、ランダム岩塩構造を有し、更にフッ素を含むものとすると、放電容量をより高めることができることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本明細書で開示するリチウム複合酸化物は、
蓄電デバイスの電極活物質に用いられるリチウム複合酸化物であって、
リチウムと金属元素とフッ素とを含み、XRDスペクトルがランダム岩塩構造のピークパターンを示すものである。
【0008】
本明細書で開示する蓄電デバイスは、
上述したリチウム複合酸化物を正極活物質として有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【0009】
本明細書で開示するリチウム複合酸化物の製造方法は、
蓄電デバイスの電極活物質に用いられるリチウム複合酸化物の製造方法であって、
斜方晶のリチウム複合酸化物とフッ化リチウムとを混合粉砕することにより、リチウムと金属元素とフッ素とを含み、XRDスペクトルがランダム岩塩構造のピークパターンを示すフッ素含有リチウム複合酸化物を得る調整工程、
を含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示では、放電容量より高めることができる新規なリチウム複合酸化物、蓄電デバイス及びリチウム複合酸化物の製造方法を提供することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、組成内にフッ素を含むランダム岩塩型正極材料は、これまで実用されてきた層状型正極とは異なり、Liが3次元的に泳動可能であり、Fの隣接によって金属酸化物クラスターの電子が引かれることによって、レドックス性が向上しより多くのLi+を挿入脱離可能となるものと推察される。このような容量向上効果はFが正極物質内に固溶している時に得られる効果であると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】蓄電デバイス20の構成の一例を示す模式図。
図2】実験例1のフッ素含有リチウムマンガン複合酸化物のXRD測定結果。
図3】実験例1~11のF含有量と格子面間隔dとの関係図。
図4】実験例1、9のリチウム複合酸化物のSTEM/EDX像。
図5】実験例1、8のリチウム複合酸化物を電極に用いたセルの初回放電曲線。
図6】実験例1~11のF含有量と、電極に用いたセルの放電容量との関係図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(リチウム複合酸化物)
本開示のリチウム複合酸化物は、蓄電デバイスの電極活物質に用いられるものである。このリチウム複合酸化物は、リチウムと金属元素とフッ素とを含み、XRDスペクトルがランダム岩塩構造のピークパターンを示すものである。この金属元素Mは、例えば、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga及びGeのうち1以上が挙げられ、このうちMnがより好ましい。ランダム岩塩構造は、XRDスペクトルにおいて、2θが35°以上49°以下の範囲、42°以上48°以下の範囲、62°以上68°以下の範囲、及び80°以上84°以下の範囲の4つに回折ピークを有するピークパターンを示す。また、ランダム構造を有することから、回折ピークは比較的ブロードであり、2θ=42°~48°のメインピークの半価幅が1.5°以上を示し、2θ=62°~68°のピークの半価幅が2°以上を示す。
【0013】
このリチウム複合酸化物は、一般式Li1+xMO2xで表されるもととしてもよい。但し、MはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga及びGeのうち1以上であり、0≦x≦1を満たすものとする。このFの含有量xは、0.2≦x≦0.8を満たすことが好ましく、0.4≦x≦0.6を満たすことがより好ましい。0.2≦x≦0.8の範囲では、より確実により高い容量を示すため好ましい。また、このリチウム複合酸化物は、金属元素MがMnである、フッ素含有リチウム複合酸化物であることが好ましい。このフッ素含有リチウム複合酸化物は、一般式Li1+xMnO2xで表されるものとしてもよい。
【0014】
このリチウム複合酸化物は、XRDスペクトルにおける2θが42°以上48°以下の範囲に存在する回折ピークから見積もられた格子面間隔dが2.048Å以上2.078Å以下の範囲であるものとしてもよい。また、このリチウム複合酸化物において、格子面間隔dが2.065Å以下の範囲であることがより好ましい。この範囲では、蓄電デバイスの容量をより高めることができ、好ましい。更に、リチウム複合酸化物において、一般式Li1+xMO2xで表されるFの含有量xが0.2≦x≦0.8を満たし、且つ格子面間隔dが2.065Å以下の範囲であることが更に好ましい。このような範囲を満たすと、より確実に蓄電デバイスの容量をより高めることができ、好ましい。
【0015】
このリチウム複合酸化物は、STEM/EDXにて測定された元素分布においてMnとFとが均一に分布していることが好ましい。Fが均一に分布すると、蓄電デバイスのキャリアイオン(例えばリチウムイオン)が偏らずに複合酸化物に吸蔵、放出されるため、好ましい。Fの分布は、原料の混合状態にもよるが、Fの含有量xに依存する傾向を示し、x≦1.0を満たすとFの偏りがより低減し、x≦0.8を満たすとFがより均一に存在するものとすることができる。
【0016】
このリチウム複合酸化物は、蓄電デバイスの電極活物質として用いた際に、初期容量が200mAh/g以上であることが好ましい。この初期容量は、より大きいことがより好ましく、例えば、215mAh/g以上であることが好ましく、230mAh/g以上がより好ましく、270mAh/g以上が更に好ましく、300mAh/g以上が最も好ましい。この初期容量は、Fの含有量xや、岩塩構造のランダム性などに依存して調製することができる。
【0017】
(リチウム複合酸化物の製造方法)
本開示の製造方法は、蓄電デバイスの電極活物質に用いられる上述したリチウム複合酸化物の製造方法である。この製造方法は、例えば、複合酸化物の構造を調整する調整工程を含むものとしてもよい。また、この調整工程は、原料作製処理と混合粉砕処理とを含むものとしてもよい。この製造方法では、斜方晶のリチウム複合酸化物とフッ化リチウムとを混合粉砕することにより、リチウムと金属元素とフッ素とを含み、XRDスペクトルがランダム岩塩構造のピークパターンを示すフッ素含有リチウム複合酸化物を得るものとしてもよい。この製造方法において、Fの含有量xや原料の配合比など、上記リチウム複合酸化物で説明した範囲を適宜採用することができる。
【0018】
原料作製処理では、斜方晶のリチウム複合酸化物を焼成条件を調整しつつ作製する。この処理では、原料のリチウム複合酸化物として、LiMnO2を作製するものとしてもよい。この処理では、800℃以上1100℃以下、6時間以上15時間以下の範囲で焼成することにより原料のLi2MnO3を得る。LiMnO2は、Li2MnO3とMnOとを等モルで配合し、不活性雰囲気中(例えばAr中)、900℃以上1100℃以下の範囲、6時間以上24時間以下の範囲で焼成することにより得ることができる。
【0019】
混合粉砕処理では、上記作製したリチウム複合酸化物とLiFとを所定比率で配合し、粉砕条件を調整しつつ混合粉砕する。この処理では、一般式Li1+xMO2x(但し、MはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga及びGeのうち1以上)であり、0≦x≦1を満たす範囲となるよう原料を配合する。混合粉砕処理では、この処理では、2時間以上40時間以下の範囲で混合粉砕するものとしてもよい。混合粉砕は、例えば、ボールミルや遊星ボールミルなどで行うことができ、特に遊星ボールミルで行うことが好ましい。遊星ボールミルにおいて、その回転数は、原料を収容する容積に応じて適宜設定すればよいが、例えば、400rpm以上1000rpm以下の範囲が好ましく、500rpm以上800rpm以下の範囲がより好ましく、550rpm以上650rpm以下の範囲がより好ましい。このような調整工程を行うことにより、上述したリチウム複合酸化物を作製することができる。
【0020】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体とを備えている。この蓄電デバイスは、上述したリチウム複合酸化物を正極活物質として有する。また、この蓄電デバイスは、金属リチウムやリチウム合金を負極活物質とするリチウム二次電池や、リチウムイオンを吸蔵放出する負極活物質を有するリチウムイオン二次電池や、イオンを吸着、脱離する負極活物質を有するハイブリッドキャパシタとしてもよい。
【0021】
正極は、正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極に含まれる導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。正極に含まれる結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0022】
負極は、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよいし、例えば負極活物質と結着材と必要に応じて導電材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時における不可逆容量を少なくできるため、好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極活物質としては、このうち、炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0023】
イオン伝導媒体は、リチウムを含む支持塩と、非水系の溶媒とを含む非水系電解液としてもよい。非水系電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。
【0024】
支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水系電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。
【0025】
本開示の蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0026】
本開示の蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、こうした蓄電デバイスを複数直列に接続して電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図1は、本実施形態の蓄電デバイス20の一例を示す模式図である。この蓄電デバイス20は、集電体21に正極合材22を形成した正極シート23と、集電体24の表面に負極合材25を形成した負極シート26と、正極シート23と負極シート26との間に設けられたセパレータ28と、正極シート23と負極シート26との間を満たす非水系電解液29と、を備えている。この蓄電デバイス20では、正極シート23と負極シート26との間にセパレータ28を挟み、これらを捲回して円筒ケース32に挿入し、正極シート23に接続された正極端子34と負極シート26に接続された負極端子36とを配設して形成されている。正極合材22には、リチウムと金属元素とフッ素とを含みXRDスペクトルがランダム岩塩構造のピークパターンを示す複合酸化物を正極活物質として含んでいる。
【0027】
以上詳述した本実施形態のリチウム複合酸化物及びその製造方法、蓄電デバイスでは、放電容量より高めることができる新規なものを提供することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、組成内にフッ素を含むランダム岩塩型正極材料は、これまで実用されてきた層状型正極とは異なり、Liが3次元的に泳動可能であり、Fの隣接によって金属酸化物クラスターの電子が引かれることによって、レドックス性が向上しより多くのLi+を挿入脱離可能となるものと推察される。このような容量向上効果はFが正極物質内に固溶している時に得られる効果であると推察される。
【0028】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例
【0029】
以下には、本開示のリチウム複合酸化物及び蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。なお、実験例1~7が実施例に相当し、実験例8~11が参考例に相当する。
【0030】
(合成原料の作製)
斜方晶のLiMnO2とLiFとをメノウ鉢にて混合したのち、Ar雰囲気下でジルコニア製ポットに封入し、遊星型ボールミルにて粉砕処理を行うことでフッ素含有リチウムマンガン複合酸化物を得た。合成条件はボールミルのポット、ボールの種類、処理時間の異なる2つの合成条件A,Bで行った。以下にその合成条件を示す。
(合成条件A)
ポット:500mLジルコニア製ポット
ボール:直径5mmジルコニア製ボール
回転数:560rpm
処理時間:28h
(合成条件B)
ポット:80mLジルコニア製ポット
ボール:直径10mmジルコニア製ボール
回転数:600rpm
処理時間:5h
【0031】
(実験例1~4)
一般式Li1+xMnO2xのxが0.5、0.8、1.0、0.2となるように原料を配合し、合成条件Aで作製したフッ素含有リチウムマンガン複合酸化物をそれぞれ実験例1~4とした。
【0032】
(実験例5~7、9、10)
一般式Li1+xMnO2xのxが0.5、0.8、0.2、1.2、1.0となるように原料を配合し、合成条件Bで作製したフッ素含有リチウムマンガン複合酸化物をそれぞれ実験例5~7、9、10とした。
【0033】
(実験例8、11)
一般式LiMnO2(x=0)となるように原料を配合し、合成条件Aで作製したリチウムマンガン複合酸化物を実験例8とした。一般式LiMnO2(x=0)となるように原料を配合し、合成条件Bで作製したリチウムマンガン複合酸化物を実験例11とした。
【0034】
(STEM/EDX測定)
得られたリチウムマンガン複合酸化物の走査透過型電子顕微鏡(STEM)観察/エネルギー分散X線(EDX)測定を行った。測定試料は活物質をメタノールに分散させ、Cu製マイクログリッドに滴下することで作製した。測定は、STEM(日本電子製JEM-2100F)、およびEDX(Thermo社製)を用い、加速電圧200kVの条件で行った。
【0035】
(X線回折測定)
試料の粉末X線回折測定を行った。測定は放射線としてCuKα線(波長1.54051Å)を使用したX線回折装置(リガク社製UltimaIV)を用いて行った。印加電圧を50kV、電流40mAに設定して測定を行った。また、測定は5°/分の走査速度で2θが10°~100°の角度範囲で記録した。また、2θが42°以上48°以下の範囲(45°近傍)に存在する回折ピークから格子面間隔d(Å)をブラッグの条件の計算によって見積もった。
【0036】
(二極式評価セルの作製)
得られた試料を正極活物質とし、合材割合として活物質を70質量%、導電材としてケッチェンブラック(三菱化学製ECP-600)を25質量%、結着材としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE,ダイキン工業製F-104)を5質量%秤量してミキサーで解砕し、混合した。得られた乾式合材を直径10mmの円形ペレットに成形し、Alエキスパントメタルに載せプレスし、正極とした。リチウム金属箔(厚さ300μm)を負極として、両電極の間に非水系電解液を含浸させたポリエチレン製セパレータ(東燃化学株式会社製E20MMS)を挟んで二極式評価セルを作製した。非水系電解液には、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を体積比で30/40/30で混合した混合溶媒に、LiPF6を1Mの濃度で溶解させたものを用いた。
【0037】
(充放電試験)
上記二極式評価セルを用い、20℃の温度環境下、リチウム基準電位で5.0V~2.0Vの電位範囲で、電流値20mA/gで定電流、定電圧充放電測定を行った。
【0038】
(結果と考察)
実験例1~11の評価結果を表1にまとめて示す。表1は、実験例1~11の、F含有量x、合成条件、Mn、Fの元素分布の偏りの有無、格子面間隔d(Å)及び放電容量をまとめた。図2は、実験例1のフッ素含有リチウムマンガン複合酸化物のX線回折測定結果である。図3は、実験例1~11のF含有量と格子面間隔dとの関係図である。図4は、実験例1(図4A)、実験例9(図4B)のリチウム複合酸化物のSTEM/EDX像である。図5は、実験例1、8のリチウム複合酸化物を電極に用いたセルの初回放電曲線である。図6は、実験例1~11のF含有量と、電極に用いたセルの放電容量との関係図である。
【0039】
図2に示すように、実験例1では、結晶構造がランダム岩塩構造であることがわかった。また、実験例2~11についても、同様に、結晶構造がランダム岩塩構造であることがわかった。また、図3、表2に示すように、格子面間隔dは、Fの含有量に依存し、Fの含有量が増加すると格子面間隔dが減少する傾向を示した。合成条件Aでは、フッ素含有リチウムマンガン複合酸化物は、格子面間隔dが2.065Å以下の範囲であった。また、合成条件Bでは、フッ素含有リチウムマンガン複合酸化物は、格子面間隔dが2.080Å以下の範囲であった。
【0040】
図4Aに示すように、実験例1では、MnとFには分布の偏りがなく、Fは、均一に分散していることがわかった。また、実験例2~7も同様に分布の偏りはなかった。一方、図4Bに示すように、実験例9では、MnとFには分布の偏りがあり、Fが偏析した領域があることがわかった。更に、実験例10においても、MnとFにはわずかに分布の偏りがあった。即ち、Fの均一な分布の観点からは、一般式Li1+xMnO2xにおいて、Fの含有量xは1.0以下が好ましく、0.8以下の範囲がより好ましいことがわかった。
【0041】
図5、表1に示すように、実験例1は、実験例8に比して大きな容量を有することがわかった。実験例1~7では、容量が200mAh/g以上、更には、215mAh/g以上を示し、Fを含まない実験例8,11に比して大きな容量を示すことがわかった。また、Fの含有量の多い実験例9、10では、Fの偏析などが生じており、容量が低下することがわかった。また、図6に示すように、一般式Li1+xMnO2xにおいて、Fの含有量xが0.2≦x≦1.0の範囲が容量増加の観点から好ましく、0.2≦x≦0.8の範囲がより好ましく、0.4≦x≦0.6の範囲が更に好ましいことがわかった。
【0042】
【表1】
【0043】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本明細書で開示したリチウム複合酸化物、蓄電デバイス及びリチウム複合酸化物の製造方法は、二次電池の技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
20 蓄電デバイス、21 集電体、22 正極合材、23 正極シート、24 集電体、25 負極合材、26 負極シート、28 セパレータ、29 非水系電解液、32 円筒ケース、34 正極端子、36 負極端子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6