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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220921BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20220921BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20220921BHJP
   C21D 8/12 20060101ALN20220921BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
H01F1/147 183
C21D8/12 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020554979
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2019043021
(87)【国際公開番号】W WO2020091039
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2018206970
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】屋鋪 裕義
(72)【発明者】
【氏名】名取 義顕
(72)【発明者】
【氏名】冨田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】竹田 和年
(72)【発明者】
【氏名】松本 卓也
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-246810(JP,A)
【文献】国際公開第2018/179871(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/147044(WO,A1)
【文献】特開2011-256426(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105950960(CN,A)
【文献】特開2012-140676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材の化学組成が、質量%で、
C:0.0050%以下、
Si:3.7%を超えて4.4%以下、
Mn:0.2%を超えて1.5%以下、
sol.Al:0.05~0.45%、
P:0.030%以下、
S:0.0030%以下、
N:0.0030%以下、
Ti:0.0050%未満、
Nb:0.0050%未満、
Zr:0.0050%未満、
V:0.0050%未満、
Cu:0.200%未満、
Ni:0.500%未満、
Sn:0~0.100%、
Sb:0~0.100%、および
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式を満足し、
前記母材の平均結晶粒径が、40μmを超えて120μm以下である、
無方向性電磁鋼板。
Si+sol.Al+0.5×Mn≧4.3 ・・・(i)
但し、上記式中の元素記号は、各元素の質量%での含有量である。
【請求項2】
引張強さが600MPa以上である、
請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記化学組成が、質量%で、
Sn:0.005~0.100%、および、
Sb:0.005~0.100%、
から選択される1種または2種を含有する、
請求項1または請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記母材の表面に絶縁被膜を有する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板に関する。
本願は、2018年11月2日に、日本に出願された特願2018-206970号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題が注目されており、省エネルギーへの取り組みに対する要求は、一段と高まってきている。省エネルギーへの取り組みに対する要求の中でも、電気機器の高効率化が強く要求されている。このため、モータまたは発電機等の鉄心材料として広く使用されている無方向性電磁鋼板においても、磁気特性の向上に対する要求がさらに強まっている。電気自動車およびハイブリッド自動車用の駆動モータならびにエアコンのコンプレッサ用モータにおいては、その傾向が顕著である。
【0003】
上記のような各種モータのモータコアは、固定子であるステータおよび回転子であるロータから構成される。モータコアを構成するステータおよびロータに求められる特性は、互いに相違するものである。ステータには、優れた磁気特性(低鉄損および高磁束密度)、特に低鉄損が求められるのに対し、ロータには、優れた機械特性(高強度)が求められる。
【0004】
ステータとロータとで求められる特性が異なることから、ステータ用の無方向性電磁鋼板とロータ用の無方向性電磁鋼板とを作り分けることで、所望の特性を実現することができる。しかしながら、2種類の無方向性電磁鋼板を準備することは、歩留まりの低下を引き起こす。そこで、ロータに求められる高強度を実現しつつ、歪取焼鈍を行わなくともステータに求められる低鉄損を実現するために、強度に優れ、かつ、磁気特性にも優れた無方向性電磁鋼板が、従来から検討されてきた。
【0005】
例えば、特許文献1~3では、優れた磁気特性と高い強度とを実現するための試みがなされている。また、特許文献4では、優れた磁気特性と高い強度とを実現し、更に特性ばらつきを低減するための試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開2004-300535号公報
【文献】日本国特開2007-186791号公報
【文献】日本国特開2012-140676号公報
【文献】日本国特開2010-90474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年、電気自動車またはハイブリッド自動車のモータに求められる省エネルギー特性を実現するには、特許文献1~3で開示されているような技術では、ステータ素材としての低鉄損化が不十分であった。また、特許文献4では、低温域で仕上焼鈍を行うことで再結晶粒を微細化しているため、ヒステリシス損が大きくなり、特許文献1~3と同様に、ステータ素材として低鉄損化が不十分であるという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、高い強度および優れた磁気特性を有する無方向性電磁鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記の無方向性電磁鋼板を要旨とする。
【0010】
(1)本発明の一態様に係る無方向性電磁鋼板は、母材の化学組成が、質量%で、
C:0.0050%以下、
Si:3.7%を超えて4.4%以下、
Mn:0.2%を超えて1.5%以下、
sol.Al:0.05~0.45%、
P:0.030%以下、
S:0.0030%以下、
N:0.0030%以下、
Ti:0.0050%未満、
Nb:0.0050%未満、
Zr:0.0050%未満、
V:0.0050%未満、
Cu:0.200%未満、
Ni:0.500%未満、
Sn:0~0.100%、
Sb:0~0.100%、および
残部:Feおよび不純物であり、
下記(i)式を満足し、
前記母材の平均結晶粒径が、40μmを超えて120μm以下である。
Si+sol.Al+0.5×Mn≧4.3 ・・・(i)
但し、上記式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)である。
(2)上記(1)に記載の無方向性電磁鋼板は、引張強さが600MPa以上であってもよい。
(3)上記(1)または(2)に記載の無方向性電磁鋼板は、前記化学組成が、質量%で、
Sn:0.005~0.100%、および、
Sb:0.005~0.100%、
から選択される1種または2種を含有してもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板は、前記母材の表面に絶縁被膜を有してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る上記態様によれば、高い強度および優れた磁気特性を有する無方向性電磁鋼板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意検討を行った結果、以下の知見を得た。
【0013】
Si、MnおよびAlは、鋼の電気抵抗を上昇させて渦電流損を低減させる効果を有する元素である。また、これらの元素は、鋼の高強度化にも寄与する元素である。
【0014】
Si、MnおよびAlの中でも、Siは電気抵抗の上昇に最も効率的に寄与する元素である。AlもSiと同様、電気抵抗を効率的に上昇させる効果を有する。一方、Mnは、SiおよびAlに比べて電気抵抗を上昇させる効果はやや低い。
【0015】
これらのことから、本実施形態においては、Si、AlおよびMnの含有量を適切な範囲内に調整することで、高強度化および磁気特性の向上を達成する。
【0016】
さらに、本実施形態では、高強度化および磁気特性の向上のためには、結晶粒径の制御も重要である。高強度化の観点からは、鋼中の結晶粒は細粒であることが望ましい。
【0017】
また、無方向性電磁鋼板の磁気特性を向上させるためには、高周波鉄損を改善する必要がある。鉄損は主にヒステリシス損と渦電流損とからなる。ここで、ヒステリシス損を低減するためには結晶粒は粗大化させることが好ましく、渦電流損を低減するためには結晶粒は微細化させることが好ましい。すなわち、両者の間にはトレードオフの関係が存在する。
【0018】
そこで本発明者らが、さらに検討を重ねた結果、高強度化および磁気特性の向上を達成するための好適な粒径の範囲があることを見出した。
【0019】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。以下、本発明の好適な実施形態について詳しく説明する。ただし、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0020】
1.全体構成
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、高い強度を有し、かつ優れた磁気特性を有するため、ステータおよびロータの双方に好適である。また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、以下に説明する母材の表面に絶縁被膜を備えていることが好ましい。
【0021】
2.母材の化学組成
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の母材の化学組成において、各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。「~」を挟んで記載する数値限定範囲には、下限値および上限値がその範囲に含まれる。
【0022】
C:0.0050%以下
C(炭素)は、無方向性電磁鋼板の鉄損劣化を引き起こす元素である。C含有量が0.0050%を超えると、無方向性電磁鋼板の鉄損が劣化し、良好な磁気特性を得ることができない。したがって、C含有量は0.0050%以下とする。C含有量は0.0040%以下であるのが好ましく、0.0035%以下であるのがより好ましく、0.0030%以下であるのがより一層好ましい。なお、Cは無方向性電磁鋼板の高強度化に寄与することから、その効果を得たい場合には、C含有量は0.0005%以上であるのが好ましく、0.0010%以上であるのがより好ましい。
【0023】
Si:3.7%を超えて5.0%以下
Si(ケイ素)は、鋼の電気抵抗を上昇させて渦電流損を低減させ、無方向性電磁鋼板の高周波鉄損を改善する元素である。また、Siは、固溶強化能が大きいため、無方向性電磁鋼板の高強度化にも有効な元素である。これらの効果を得るために、Si含有量は3.7%超とする。Si含有量は3.8%以上であるのが好ましく、3.9%以上であるのがより好ましく、4.0%超であるのがより一層好ましい。一方、Si含有量が過剰であると、加工性が著しく劣化し、冷間圧延を実施することが困難となる。したがって、Si含有量は5.0%以下とする。Si含有量は4.8%以下であるのが好ましく、4.5%以下であるのがより好ましい。
【0024】
Mn:0.2%を超えて1.5%以下
Mn(マンガン)は、鋼の電気抵抗を上昇させて渦電流損を低減し、無方向性電磁鋼板の高周波鉄損を改善するために有効な元素である。また、Mn含有量が低すぎる場合には、電気抵抗の上昇効果が小さいうえに、鋼中に微細な硫化物(MnS)が析出することで、仕上焼鈍時に十分に粒成長しない場合がある。そのため、Mn含有量は0.2%超とする。Mn含有量は0.3%以上であるのが好ましく、0.4%以上であるのがより好ましい。一方、Mn含有量が過剰であると、無方向性電磁鋼板の磁束密度の低下が顕著となる。したがって、Mn含有量は1.5%以下とする。Mn含有量は1.4%以下であるのが好ましく、1.2%以下であるのがより好ましい。
【0025】
sol.Al:0.05~0.45%
Al(アルミニウム)は、鋼の電気抵抗を上昇させることで渦電流損を低減し、無方向性電磁鋼板の高周波鉄損を改善する効果を有する元素である。また、Alは、Siほどではないが、固溶強化により無方向性電磁鋼板の高強度化に寄与する元素である。これらの効果を得るために、sol.Al含有量は0.05%以上とする。sol.Al含有量は0.10%以上であるのが好ましく、0.15%以上であるのがより好ましい。一方、sol.Al含有量が過剰であると、無方向性電磁鋼板の磁束密度の低下が顕著となる。したがって、sol.Al含有量は0.45%以下とする。sol.Al含有量は0.40%以下であるのが好ましく、0.35%以下であるのがより好ましく、0.30%以下であるのがより一層好ましい。なお、本実施形態において、sol.Al含有量とは、sol.Al(酸可溶Al)の含有量を意味する。
【0026】
本実施形態においては、Si、AlおよびMnの含有量を適切に制御することによって、鋼の電気抵抗を確保する。また、強度の確保の観点からも、Si、AlおよびMnの含有量を適切に制御することが必要である。そのため、Si、AlおよびMnの含有量がそれぞれ上記の範囲内であることに加えて、下記(i)式を満足する必要がある。下記(i)式の左辺の値は、4.4以上であるのが好ましく、4.5以上であるのがより好ましい。
【0027】
Si+sol.Al+0.5×Mn≧4.3 ・・・(i)
但し、上記式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)である。
【0028】
P:0.030%以下
P(リン)は、不純物として鋼中に含まれ、その含有量が過剰であると、無方向性電磁鋼板の延性が著しく低下する。したがって、P含有量は0.030%以下とする。P含有量は0.025%以下であるのが好ましく、0.020%以下であるのがより好ましい。P含有量は0%であることが好ましいが、P含有量の極度の低減は製造コストの増加を引き起こす場合があるため、P含有量は0.003%以上としてもよい。
【0029】
S:0.0030%以下
S(硫黄)は、MnSの微細析出物を形成することで鉄損を増加させ、無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させる元素である。したがって、S含有量は0.0030%以下とする。S含有量は0.0020%以下であるのが好ましく、0.0015%以下であるのがより好ましい。なお、S含有量の極度の低減は製造コストの増加を引き起こす場合があるため、S含有量は0.0001%以上であるのが好ましく、0.0003%以上であるのがより好ましく、0.0005%以上であるのがより一層好ましい。
【0030】
N:0.0030%以下
N(窒素)は、鋼中に不可避的に混入する元素であり、窒化物を形成して鉄損を増加させ、無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させる元素である。したがって、N含有量は0.0030%以下とする。N含有量は0.0025%以下であるのが好ましく、0.0020%以下であるのがより好ましい。なお、N含有量の極度の低減は製造コストの増加を引き起こす場合があるため、N含有量は0.0005%以上であるのが好ましい。
【0031】
Ti:0.0050%未満
Ti(チタン)は、鋼中に不可避的に混入する元素であり、炭素または窒素と結合して析出物(炭化物、窒化物)を形成し得る。炭化物または窒化物が形成された場合には、これらの析出物そのものが無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させる。さらには、仕上焼鈍中の結晶粒の成長を阻害して、無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させる。したがって、Ti含有量は0.0050%未満とする。Ti含有量は0.0040%以下であるのが好ましく、0.0030%以下であるのがより好ましく、0.0020%以下であるのがより一層好ましい。なお、Ti含有量の極度の低減は製造コストの増加を引き起こす場合があるため、Ti含有量は0.0005%以上であるのが好ましい。
【0032】
Nb:0.0050%未満
Nb(ニオブ)は、炭素または窒素と結合して析出物(炭化物)を形成することで高強度化に寄与する元素であるが、これらの析出物そのものが無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させる。したがって、Nb含有量は0.0050%未満とする。Nb含有量は0.0040%以下であるのが好ましく、0.0030%以下であるのがより好ましく、0.0020%以下であるのがより一層好ましい。また、Nb含有量は、測定限界以下であるのが更に好ましく、具体的には、0.0001%未満であることが更に好ましい。Nb含有量は低ければ低いほど好ましいため、Nb含有量は0%としてもよい。
【0033】
Zr:0.0050%未満
Zr(ジルコニウム)は、炭素または窒素と結合して析出物(炭化物、窒化物)を形成することで高強度化に寄与する元素であるが、これらの析出物そのものが無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させる。したがって、Zr含有量は0.0050%未満とする。Zr含有量は0.0040%以下であるのが好ましく、0.0030%以下であるのがより好ましく、0.0020%以下であるのがより一層好ましい。また、Zr含有量は測定限界以下であるのが更に好ましく、具体的には、0.0001%以下であることが更に好ましい。Zr含有量は低ければ低いほど好ましいため、Zr含有量は0%としてもよい。
【0034】
V:0.0050%未満
V(バナジウム)は、炭素または窒素と結合して析出物(炭化物、窒化物)を形成することで高強度化に寄与する元素であるが、これらの析出物そのものが無方向性電磁鋼板の磁気特性を劣化させる。したがって、V含有量は0.0050%未満とする。V含有量は0.0040%以下であるのが好ましく、0.0030%以下であるのがより好ましく、0.0020%以下であるのがより一層好ましい。V含有量は測定限界以下であるのが更に好ましく、具体的には、0.0001%以下であるのが更に好ましい。V含有量は低ければ低いほど好ましいため、V含有量は0%としてもよい。
【0035】
Cu:0.200%未満
Cu(銅)は、鋼中に不可避的に混入する元素である。意図的にCuを含有させると、無方向性電磁鋼板の製造コストが増加する。したがって、本実施形態においては、Cuは積極的に含有させる必要はなく、不純物レベルでよい。Cu含有量は、製造工程において不可避的に混入しうる最大値である0.200%未満とする。Cu含有量は0.150%以下であるのが好ましく、0.100%以下であるのがより好ましい。なお、Cu含有量の下限値は、特に限定されるものではないが、Cu含有量の極度の低減は製造コストの増加を引き起こす場合がある。そのため、Cu含有量は0.001%以上であるのが好ましく、0.003%以上であるのがより好ましく、0.005%以上であるのがより一層好ましい。
【0036】
Ni:0.500%未満
Ni(ニッケル)は、鋼中に不可避的に混入する元素である。しかし、Niは、無方向性電磁鋼板の強度を向上させる元素でもあるため、意図的に含有させてもよい。ただし、Niは高価であるため、Ni含有量は0.500%未満とする。Ni含有量は0.400%以下であるのが好ましく、0.300%以下であるのがより好ましい。なお、Ni含有量の下限値は、特に限定されるものではないが、Ni含有量の極度の低減は製造コストの増加を引き起こす場合がある。そのため、Ni含有量は0.001%以上であるのが好ましく、0.003%以上であるのがより好ましく、0.005%以上であるのがより一層好ましい。
【0037】
Sn:0~0.100%
Sb:0~0.100%
Sn(スズ)およびSb(アンチモン)は、母材表面に偏析し焼鈍中の酸化および窒化を抑制することで、無方向性電磁鋼板において低い鉄損を確保するのに有用な元素である。また、SnおよびSbは、結晶粒界に偏析して集合組織を改善し、無方向性電磁鋼板の磁束密度を高める効果も有する。そのため、必要に応じてSnおよびSbの少なくとも一方を含有させてもよい。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰であると、鋼の靱性が低下して冷間圧延が困難となる場合がある。したがって、SnおよびSbの含有量は、それぞれ0.100%以下とする。SnおよびSbの含有量は、それぞれ0.060%以下であるのが好ましい。なお、上記の効果を確実に得たい場合には、SnおよびSbの少なくとも一方の含有量を、0.005%以上とするのが好ましく、0.010%以上とするのがより好ましい。
【0038】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の母材の化学組成において、残部はFeおよび不純物である。ここで「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の特性に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0039】
なお、不純物元素として、CrおよびMoの含有量に関しては、特に規定されるものではない。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、これらの元素をそれぞれ0.5%以下の範囲で含有しても、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の特性に特に影響は無い。また、CaおよびMgをそれぞれ0.002%以下の範囲で含有しても、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の特性に特に影響は無い。希土類元素(REM)を0.004%以下の範囲で含有しても、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の特性に特に影響はない。なお、本実施形態においてREMとは、Sc、Yおよびランタノイドからなる合計17元素を指し、上記REMの含有量とは、これらの元素の合計の含有量を指す。
【0040】
Oも不純物元素であるが、0.05%以下の範囲で含有しても、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の特性に影響はない。Oは、焼鈍工程において鋼中に混入することもあるため、スラブ段階(すなわち、レードル値)の含有量においては、0.01%以下の範囲で含有しても、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の特性に特に影響はない。
【0041】
また、上記の元素の他に、不純物元素として、Pb、Bi、As、B、Seなどの元素が含まれうるが、それぞれの含有量が0.0050%以下の範囲であれば、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の特性を損なうものではない。
【0042】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の母材の化学組成は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。なお、sol.Alは、試料を酸で加熱分解した後の濾液を用いてICP-AESによって測定すればよい。また、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用いて測定すればよい。
【0043】
3.結晶粒径
無方向性電磁鋼板の高強度化の観点からは、鋼中の結晶粒は細粒であることが望ましい。加えて、ヒステリシス損を低減するためには結晶粒は粗大化させることが好ましく、渦電流損を低減するためには結晶粒は微細化させることが好ましい。
【0044】
母材の平均結晶粒径が40μm以下では、ヒステリシス損が著しく悪化し、無方向性電磁鋼板の磁気特性を改善することが困難になる。一方、母材の平均結晶粒径が120μmを超えると、鋼の強度が低下するだけでなく、渦電流損の悪化が著しくなり、無方向性電磁鋼板の磁気特性を改善することが困難になる。したがって、母材の平均結晶粒径は、40μm超、120μm以下とする。母材の平均結晶粒径は45μm以上であるのが好ましく、50μm以上であるのがより好ましく、55μm以上であるのがより一層好ましい。また、母材の平均結晶粒径は110μm以下であるのが好ましく、100μm以下であるのがより好ましい。
【0045】
本実施形態において、母材の平均結晶粒径は、JIS G 0551(2013)「鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法」に従って求める。具体的には、まず、無方向性電磁鋼板の端部から10mm以上離れた位置から、圧延方向に平行な板厚断面が観察面となるように試験片を採取する。撮影機能を有する光学顕微鏡を用いて、倍率100倍で、腐食液によるエッチングで結晶粒界が明瞭に観察できる観察面を撮影する。得られた観察写真を用いて、JIS G 0551(2013)に記載の切断法により、観察される結晶粒の平均結晶粒径を測定する。切断法では、圧延方向に長さ2mmの直線を板厚方向に等間隔で5本以上引き、合計で10mm以上の直線で捕捉した捕捉結晶粒数と、圧延方向の直線と直交する板厚方向に平行な直線を、圧延方向に等間隔で5本以上引き、合計で(板厚×5)mm以上の直線で補足した補足結晶粒数との2種類の補足結晶粒数を用いて評価する。
【0046】
4.磁気特性
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板において、磁気特性に優れるとは、鉄損W10/400が低く、磁束密度B50が高いことを意味する。具体的には、磁気特性に優れるとは、無方向性電磁鋼板の板厚が0.30mm超、0.35mm以下では鉄損W10/400が16.0W/kg以下且つ磁束密度B50が1.60T以上、0.25mm超、0.30mm以下では15.0W/kg以下且つ磁束密度B50が1.60T以上、0.20mm超、0.25mm以下では13.0W/kg以下且つ磁束密度B50が1.60T以上、0.20mm以下では12.0W/kg以下且つ磁束密度B50が1.59T以上の場合をいう。ここで、本実施形態では、上記の磁気特性(鉄損W10/400および磁束密度B50)は、JIS C 2550-1(2011)に規定されたエプスタイン試験により、測定する。なお、鉄損W10/400は、最大磁束密度が1.0Tで周波数400Hzという条件下で発生する鉄損を意味し、磁束密度B50は、5000A/mの磁場における磁束密度を意味する。
【0047】
5.機械的特性
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板において、高い強度を有するとは、引張(最大)強さが600MPa以上であることを意味する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、引張強さが600MPa以上である。引張強さは610MPa以上であるのが好ましい。また、引張強さの上限は、特に制限されないが、720MPa以下であればよい。ここで、引張強さは、JIS Z 2241(2011)に準拠した引張試験を行うことで、測定する。
【0048】
6.絶縁被膜
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板においては、母材の表面に絶縁被膜を有することが好ましい。無方向性電磁鋼板は、コアブランクを打ち抜いた後に積層されてから使用されるため、母材の表面に絶縁被膜を設けることで、板間の渦電流を低減することができ、コアとして渦電流損を低減することが可能となる。
【0049】
本実施形態では、絶縁被膜の種類については特に限定されず、無方向性電磁鋼板の絶縁被膜として用いられる公知の絶縁被膜を用いることが可能である。このような絶縁被膜として、例えば、無機物を主体とし、さらに有機物を含んだ複合絶縁被膜を挙げることができる。ここで、複合絶縁被膜とは、例えば、クロム酸金属塩、リン酸金属塩等の金属塩、または、コロイダルシリカ、Zr化合物、Ti化合物等の無機物の少なくともいずれか一方を主体とし、微細な有機樹脂の粒子が分散している絶縁被膜である。特に、近年ニーズの高まっている製造時の環境負荷低減の観点からは、リン酸金属塩、ZrもしくはTiのカップリング剤を出発物質として用いた絶縁被膜、または、リン酸金属塩、ZrもしくはTiのカップリング剤の炭酸塩あるいはアンモニウム塩を出発物質として用いた絶縁被膜が好ましく用いられる。
【0050】
絶縁被膜の付着量は、特に限定するものではないが、例えば、片面あたり200~1500mg/m程度とすることが好ましく、片面あたり300~1200mg/mとすることがより好ましい。上記範囲内の付着量となるように絶縁被膜を形成することで、優れた均一性を保持することが可能となる。なお、絶縁被膜の付着量を、事後的に測定する場合には、公知の各種測定法を利用することが可能であり、例えば、水酸化ナトリウム水溶液浸漬前後の質量差を測定する方法、または検量線法を用いた蛍光X線法等を適宜利用すればよい。
【0051】
7.製造方法
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法については特に制限されるものではないが、例えば、上述した化学組成を有する鋼塊に対して、熱間圧延工程、熱延板焼鈍工程、酸洗工程、冷間圧延工程および仕上焼鈍工程を順に実施することによって製造することが可能である。また、絶縁被膜を母材の表面に形成する場合には、上記仕上焼鈍工程の後に絶縁被膜形成工程が行われる。以下、各工程について、詳細に説明する。
【0052】
<熱間圧延工程>
上記の化学組成を有する鋼塊(スラブ)を加熱し、加熱された鋼塊に対して熱間圧延を行い、熱延鋼板を得る。ここで、熱間圧延に供する際の鋼塊の加熱温度については、特に規定するものではないが、例えば、1050~1250℃とすることが好ましい。また、熱間圧延後の熱延鋼板の板厚についても、特に規定するものではないが、母材の最終板厚を考慮して、例えば、1.5~3.0mm程度とすることが好ましい。
【0053】
<熱延板焼鈍工程>
熱間圧延の後、無方向性電磁鋼板の磁束密度を上昇させることを目的として、必要に応じて熱延板焼鈍を実施する。熱延板焼鈍における熱処理条件については、例えば、連続焼鈍の場合には、熱延鋼板に対して、700~1000℃で10~150s間保持する焼鈍を行うことが好ましい。熱処理条件は、800~980℃で10~150sとすることがより好ましく、850~950℃で10~150sとすることがより一層好ましい。
【0054】
箱焼鈍の場合には、熱延鋼板に対して600~900℃で30min~24h保持することが好ましい。より好ましくは、650~850℃で1h~20hの均熱である。なお、熱延板焼鈍工程を実施した場合と比較して磁気特性は劣ることとなるが、コスト削減のために、上記の熱延板焼鈍工程を省略してもよい。
【0055】
<酸洗工程>
上記熱延板焼鈍の後には、酸洗が実施され、母材の表面に生成したスケール層が除去される。ここで、酸洗に用いられる酸の濃度、酸洗に用いる促進剤の濃度、酸洗液の温度等の酸洗条件は、特に限定されるものではなく、公知の酸洗条件とすることができる。なお、熱延板焼鈍が箱焼鈍である場合、脱スケール性の観点から、酸洗工程は、熱延板焼鈍前に実施することが好ましい。この場合、熱延板焼鈍後に酸洗を実施する必要はない。
【0056】
<冷間圧延工程>
上記酸洗の後(熱延板焼鈍が箱焼鈍で実施される場合は、熱延板焼鈍工程の後になる場合もある。)には、冷間圧延が実施される。冷間圧延では、母材の最終板厚が0.10~0.35mmとなるような圧下率で、スケール層の除去された酸洗板が圧延される。
【0057】
<仕上焼鈍工程>
上記冷間圧延の後には、仕上焼鈍が実施される。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法では、仕上焼鈍には、連続焼鈍炉を使用する。仕上焼鈍工程は、母材の平均結晶粒径を制御するために、重要な工程である。
【0058】
ここで、仕上焼鈍条件は、均熱温度を850~1050℃とし、均熱時間を1~300sとし、Hの割合が10~100体積%である、HおよびNの混合雰囲気(すなわち、H+N=100体積%)とし、雰囲気の露点を30℃以下とすることが好ましい。
【0059】
均熱温度が850℃未満の場合には、結晶粒径が細かくなり、無方向性電磁鋼板の鉄損が劣化するため好ましくない。均熱温度が1050℃を超える場合には、無方向性電磁鋼板において強度不足となり、鉄損も劣化するため、好ましくない。均熱温度は、より好ましくは875~1025℃であり、より一層好ましくは900~1000℃である。均熱時間が1s未満であると、十分に結晶粒を粗大化することができない。均熱時間が300s超であると、製造コストの増加を引き起こす。雰囲気中のHの割合は、より好ましくは15~90体積%である。雰囲気の露点は、より好ましくは10℃以下であり、さらに好ましくは0℃以下である。
【0060】
<絶縁被膜形成工程>
上記仕上焼鈍の後には、必要に応じて、絶縁被膜形成工程が実施される。ここで、絶縁被膜の形成方法は、特に限定されるものではなく、下記に示すような公知の絶縁被膜を形成する処理液を用いて、公知の方法により処理液の塗布および乾燥を行えばよい。公知の絶縁被膜として、例えば、無機物を主体とし、さらに有機物を含んだ複合絶縁被膜を挙げることができる。複合絶縁被膜とは、例えば、クロム酸金属塩、リン酸金属塩等の金属塩、または、コロイダルシリカ、Zr化合物、Ti化合物等の無機物の少なくともいずれか一方を主体とし、微細な有機樹脂の粒子が分散している絶縁被膜である。特に、近年ニーズの高まっている製造時の環境負荷低減の観点からは、リン酸金属塩、ZrもしくはTiのカップリング剤を出発物質として用いた絶縁被膜、または、リン酸金属塩、ZrもしくはTiのカップリング剤の炭酸塩あるいはアンモニウム塩を出発物質として用いた絶縁被膜が好ましく用いられる。
【0061】
絶縁被膜が形成される母材の表面は、処理液を塗布する前に、アルカリなどによる脱脂処理、または塩酸、硫酸、リン酸などによる酸洗処理など、任意の前処理を施してもよい。これら前処理を施さずに仕上焼鈍後のまま、母材の表面に処理液を塗布してもよい。
【実施例
【0062】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、実施例での条件は本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した例に過ぎず、本発明はこの条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0063】
表1に示す成分組成のスラブを1150℃に加熱した後、仕上温度850℃、仕上板厚2.0mmにて熱間圧延を施し、650℃で巻取って熱延鋼板とした。得られた熱延鋼板に対して、表2に示す試験No.1~16、22、23、25および26では、連続焼鈍炉による900℃×50sの熱延板焼鈍を施し、酸洗により表面のスケールを除去した。また、得られた熱延鋼板に対して、表2に示す試験No.17~21では、酸洗により表面のスケールを除去した後、箱焼鈍炉による750℃×10hの熱延板焼鈍を施した。更に、表2に示す試験No.24では、連続焼鈍炉による1000℃×50sの熱延板焼鈍を施し、酸洗により表面のスケールを除去した。こうして得られた鋼板を、冷間圧延により板厚0.25mmの冷延鋼板とした。
【0064】
さらに、H:30%、N:70%、露点0℃の混合雰囲気にて、以下の表2に示すような平均結晶粒径となるように、焼鈍温度:850~1050℃および均熱時間:1~300sの範囲内で、仕上焼鈍条件を変えて焼鈍した。具体的には、平均結晶粒径が大きくなるように制御する場合には、仕上焼鈍温度をより高く、および/または、均熱時間をより長くした。また、平均結晶粒径が小さくなるように制御する場合は、その逆とした。その後、絶縁被膜を塗布して、無方向性電磁鋼板を製造し試験材とした。
【0065】
また、上記の絶縁被膜は、リン酸アルミニウムおよび粒径0.2μmのアクリル-スチレン共重合体樹脂エマルジョンからなる絶縁被膜を所定付着量となるよう塗布し、大気中、350℃で焼付けることで形成した。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
得られた各試験材について、JIS G 0551(2013)「鋼-結晶粒度の顕微鏡試験方法」に従って、母材の平均結晶粒径を計測した。また、各試験材の圧延方向および幅方向からエプスタイン試験片を採取し、JIS C 2550-1(2011)に則したエプスタイン試験により、磁気特性(鉄損W10/400および磁束密度B50)を評価した。鉄損W10/400が13.0W/kg以下且つ磁束密度B50が1.60T以上の場合を、磁気特性に優れるとして合格と判定した。この条件を満たさない場合、磁気特性に劣るとして不合格と判定した。なお、この合格条件としたのは、各試験材の板厚が0.20mm超、0.25mm以下であったためである。
【0069】
さらに、各試験材から、JIS Z 2241(2011)に従い、長手方向が鋼板の圧延方向と一致するようにJIS5号引張試験片を採取した。そして、上記試験片を用いてJIS Z 2241(2011)に従い引張試験を行い、引張強さを測定した。引張強さが600MPa以上の場合を、高い強度を有するとして合格と判定した。引張強さが600MPa未満の場合を、強度に劣るとして不合格と判定した。
【0070】
上記エプスタイン試験および引張試験の結果を表2に併せて示す。
【0071】
鋼板の化学組成および仕上焼鈍後の平均結晶粒径が本発明の規定を満足する試験No.2、4、5、7、10、12、15、16、18~20、25および26では、鉄損が低く、磁束密度が高く、かつ、600MPa以上の高い引張強さを有していることが分かった。
【0072】
それらに対して、比較例である試験No.1、3、6、8、9、11、13、14、17、21~24では、磁気特性および引張強さの少なくともいずれか一方が劣るか、靱性が著しく劣化し製造が困難となった。
【0073】
具体的には、試験No.1では、Si含有量が規定範囲より低いため、引張強さが劣る結果となった。また、化学組成が規定を満足する試験No.3~6を比較すると、試験No.3では、平均結晶粒径が規定範囲より小さいため鉄損が劣っており、試験No.6では、平均結晶粒径が規定範囲より大きいため引張強さが劣る結果となった。
【0074】
また、試験No.8では、Si含有量が規定範囲を超え、試験No.13では、sol.Al含有量が規定範囲を超え、試験No.22では、P含有量が規定範囲を超えたため、靱性が劣化して冷間圧延時に破断し、平均結晶粒径、引張強さおよび磁気特性の測定を実施できなかった。
試験No.11では、(i)式を満足しないため、鉄損および引張強さが劣る結果となった。
【0075】
試験No.9では、sol.Al含有量が規定範囲を下回り、試験No.14では、S含有量が規定範囲を超えたため、鉄損が劣る結果となった。そして、化学組成が規定を満足する試験No.17~21を比較すると、試験No.17では、平均結晶粒径が規定範囲より小さいため鉄損が劣っており、試験No.21では、平均結晶粒径が規定範囲より大きいため引張強さが劣る結果となった。
【0076】
試験No.23および24では、Si含有量が規定範囲より低いため、規定範囲より低い平均結晶粒径にすることで600MPa以上の引張強さを得ることが出来たが、鉄損が劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上のように、本発明によれば、高い強度および優れた磁気特性を有する無方向性電磁鋼板を得ることができる。