(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】副室式内燃機関
(51)【国際特許分類】
F02B 19/18 20060101AFI20220921BHJP
F02B 19/08 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
F02B19/18 A
F02B19/08 A
F02B19/18 B
(21)【出願番号】P 2021509283
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020012160
(87)【国際公開番号】W WO2020196210
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-08-13
(31)【優先権主張番号】P 2019061137
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】井上 欣也
(72)【発明者】
【氏名】田中 大
(72)【発明者】
【氏名】城田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】野中 一成
(72)【発明者】
【氏名】津田 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 遼太
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 捷
(72)【発明者】
【氏名】菅田 佳博
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-232987(JP,A)
【文献】特開2002-81321(JP,A)
【文献】特開2011-38465(JP,A)
【文献】実開平4-65921(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 19/18
F02B 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドと、シリンダと、ピストンと、で画定される主室と、
前記シリンダヘッドから前記主室に向かって突出し、前記主室と隔てられる副室と、
前記主室と前記副室を連通する連通路と、
前記主室に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
を備え、
前記連通路は、前記副室内で発生した火炎を前記主室内に噴射する噴射口を有し、
前記噴射口は、前記主室内に発生する旋回流の回転方向の反対方向に前記火炎を導くように構成されている、副室式内燃機関。
【請求項2】
前記噴射口は、前記主室に向かって前記反対方向に延びる、
請求項1に記載の副室式内燃機関。
【請求項3】
前記噴射口の内径は、前記主室に近付くにつれて拡大する、
請求項1または2に記載の副室式内燃機関。
【請求項4】
前記連通路は、前記旋回流の回転軸方向に見たときに、前記副室の内周の接線に沿って形成された内壁面を有する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の副室式内燃機関。
【請求項5】
前記副室の内径は、前記主室から前記シリンダヘッドに向かって拡大する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の副室式内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、副室式内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、主室およびその主室に隣接して設けられる副室を備えた副室式内燃機関が提案されている(例えば、日本国特許第4561522号公報参照)。このような副室式内燃機関では、主室に噴射された燃料から混合気が形成される。形成された混合気は、連通路を介して副室内に供給され、副室内で点火プラグによって点火される。これにより、火炎が形成される。副室内で形成された火炎は、連通路を介して主室に噴射され、主室の混合気を着火する。このように、副室で形成された火炎が主室に噴射されることで、主室の燃焼速度が高まる。これによって、より希薄な空燃比での運転が可能となり、燃費が向上する。
【0003】
日本国特許第4561522号公報に記載された副室式内燃機関では、第1の噴射口の中心軸線は、ピストンが圧縮上死点近傍にある場合において、ピストン冠面に衝突せずにシリンダ内壁面を指向する。また、第2の噴射口の中心軸線は、ピストンが圧縮上死点近傍にある場合において、ピストン冠面のキャビティーの底面外周部を指向する。
【0004】
しかし、日本国特許第4561522号公報に記載された副室式内燃機関では、噴射口がシリンダ内壁面に向いている。このため、シリンダ内壁面に火炎が衝突し、シリンダ内壁面に火炎の熱が奪われる。この結果、冷却損失が発生し、主室の燃焼速度が遅くなる。
【発明の概要】
【0005】
本開示の実施形態は、副室から主室に向けて噴射された火炎がシリンダに衝突することが抑制され、冷却損失の発生が低減された副室式内燃機関に関する。
【0006】
本開示の実施形態によれば、副室式内燃機関は、主室と、副室と、連通路とを備える。主室は、シリンダヘッドと、シリンダと、ピストンと、で画定される。副室は、シリンダヘッドから主室に向かって突出し、主室と隔てられる。連通路は、主室と副室を連通し、副室で発生した火炎を主室内に噴射する噴射口を有する。噴射口は、主室に発生する旋回流の回転方向の反対方向に火炎を導くように構成されている。
【0007】
一般に、燃焼室内に導入される吸気によってスワールなどと呼ばれる旋回流が発生することは広く知られている。そして、燃焼効率を向上させるべく旋回流の発生を促す種々の技術も広く知られている。本開示の実施形態による内燃機関では、連通路の噴射口がこの旋回流の回転方向の反対方向に火炎を導くように構成されている。これにより、噴射口から主室に噴射される火炎の噴射方向は、旋回流の回転方向に対向する。これによって、噴射口から主室に噴射された火炎が旋回流によって乱されて拡散される。これによって、火炎がシリンダに衝突することが抑制され、火炎の熱が奪われることが低減される。このため、冷却損失の発生が低減される。
【0008】
噴射口は、主室に向かって旋回流の回転方向の反対方向に延びてもよい。
【0009】
この構成によれば、噴射口から主室に噴射された火炎が、旋回流によって拡散されやすい。
【0010】
噴射口の内径は、主室に近付くにつれて拡大してもよい。
【0011】
火炎を主室に噴射する連通路の噴射口の面積が大きくなるほど、噴射される火炎は広がり、火炎の直径も大きくなる。噴射口の面積が小さいと、火炎が絞られ、火炎の噴射量が減る。この構成によれば、噴射口の内径が主室に近付くにつれて拡大することで、噴射口の面積が大きくなる。これによって、連通路から噴射される火炎の直径が大きくなるとともに、連通路を通過する火炎の量が減少することが防止される。
【0012】
連通路は、旋回流の回転軸方向に見たときに、副室の内壁の接線に沿って形成された内壁面を有してもよい。
【0013】
この構成によれば、連通路から副室に導入される混合気が、壁の内周に導かれる。これによって、混合気は副室内で渦を形成しやすい。このため、副室内の混合気のムラや、混合気の流動のバラツキが防止される。この結果、副室内の混合気が着火しやすい。
【0014】
壁の内周の直径は、主室からシリンダヘッドに向かって拡大してもよい。
【0015】
この構成によれば、連通路から副室に導入された混合気は、シリンダヘッドへ向かうにつれて、流速が弱まる。すなわち、混合気の渦の流速が弱まる。これによって、混合気の流速が速すぎることによる失火が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示の一実施形態による副室式内燃機関の概略構成を示す縦断面図。
【
図2】
図1の副室式内燃機関の連通路の形成部を示す横断面図。
【
図3】
図1の副室式内燃機関の連通路の形成部を示す縦断面図。
【
図4】
図1の副室式内燃機関の吸気行程および圧縮行程における混合気の状態を説明するための模式図。
【
図5】
図1の副室式内燃機関の点火後における混合気の火炎の状態を説明するための模式図。
【
図6】本開示の他の実施形態による副室の概略構成を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下明細書において、シリンダ軸方向Qとは、シリンダに沿ってピストンの摺動する方向を示す。上下方向と記す場合は、シリンダ軸方向Qを示し、シリンダヘッド側を「上」、ピストン側を「下」とする。また、左右方向Lとは、シリンダ軸方向Qに直交し、吸気ポートおよび排気ポートが配置される方向を示す。また、クランク軸方向Pとは、シリンダ軸方向Qに直交し、気筒が配置される方向を示す。
【0018】
図1に示すように、副室式内燃機関1は、主室4と、副室6と、主室4と副室6とを連通する複数の連通路8と、副室6に設けられる点火プラグ10と、燃料噴射弁12と、旋回流発生部14と、を備える。本実施形態では、副室式内燃機関1は、主室4および副室6を含む気筒Nが、直列に複数配列された直列型内燃機関である。すなわち、主室4、副室6、複数の連通路8、点火プラグ10、および、燃料噴射弁12は、各気筒Nに備えられる。しかし、気筒Nの配列についてはこれに限定されず、V型であっても水平対向型であってもよい。
【0019】
主室4は、シリンダブロック101のシリンダ101a、シリンダヘッド102、およびピストン103で画定された空間である。本実施形態では、主室4は、ペントルーフ形状であり、シリンダヘッド102の吸気ポート105側および排気ポート110側に向けて2つの斜面を有する。主室4は、吸気カム(図示せず)によって駆動される2つの吸気バルブ104aおよび吸気バルブ104bを介して吸気ポート105に接続される。吸気ポート105は、図示しない吸気通路、スロットルバルブ、および、エアクリーナに接続される。また、主室4は、排気カム(図示せず)によって駆動される2つの排気バルブ109aおよび排気バルブ109bを介して、排気ポート110、排気通路(図示せず)、および、排気浄化触媒(図示せず)に接続される。副室式内燃機関1は、気筒Nの配列方向に設けられる、クランク軸(図示せず)によって動力を出力する。ピストン103は、コンロッド(図示せず)を介してクランク軸を駆動する。
【0020】
副室6は、ペントルーフ形状の頂上部に設けられ、主室4と隣接する。副室6は、副室壁61で画定された空間である。副室6は、シリンダヘッド102から主室4に向かって突出し、副室壁61を介して主室4と隔てられる。本実施形態では、副室6は、主室4のペントルーフ形状の2つの斜面の交線(稜線)の略中央に設けられる。しかし、副室6は、主室4の略中央からオフセットして設けられもよい。本実施形態では副室6は主室4と同じ中心X1を有する。副室6の容積は、主室4よりも小さく、点火プラグ10で点火した混合気の火炎が副室6内に素早く伝播する。
【0021】
図2は、連通路8の形成部における副室6の横断面をピストン103側からみた図である。
図1の拡大図および
図2に示すように、副室壁61は、中心X1を中心とした円形の断面を有し、底部61aが半球状に形成される。
図3は、左右方向Lに垂直な連通路8の形成部における縦断面図である。
図3に示すように、副室壁61の内周61cは、主室4側からシリンダヘッド102側に向かって直径Drが拡大する。すなわち、副室壁61の内周61cは、上下方向(シリンダ軸方向Qと同じ)にみて下方から上方に向かって直径Drが拡大する。
【0022】
図2および
図3に示すように、連通路8は、副室壁61の底部61aに複数個設けられる。連通路8は、主室4と副室6とを連通し、主室4の混合気を副室6に導く。副室6に導入された混合気は、副室6内で着火して予備燃焼する。
図2示すように、連通路8は、副室壁61の外周61bの面に、副室6で予備燃焼した火炎を噴射する噴射口8aを有する。噴射口8aは、副室壁61の外周61bの面に沿って形成される。また、連通路8は、副室壁61の内周61cの面に、混合気を副室6に導入する導入口8bを有する。導入口8bは、副室壁61の内周61cの面に沿って形成される。本実施形態では、連通路8は、例えば、4つ設けられる。
【0023】
連通路8の噴射口8aは、噴射口8aから噴射される火炎を、副室壁61の外周61bに沿って主室4内に発生する旋回流SWの回転方向Fの反対方向Uに導くように構成され、本実施形態では、噴射口8aは、主室4に向かって反対方向Uに延びている。ここで、噴射口8aから噴射される火炎は、噴射口8aの中心線C1に沿って噴射される。また、旋回流SWは、中心線C1と外周61bとの交点O1においては、接線S1に沿って流れる。連通路8が、旋回流SWの回転方向Fの反対方向Uに沿って延びるとは、中心線C1(中心線C1の延長線を含む)が、交点O1における垂線R1に対して反対方向Uに傾斜することを言う。すなわち、接線S1と中心線C1がなす角度が鈍角Aとなる。なお、少なくとも噴射口8aが反対方向Uに延びていればよく、連通路8は、噴射口8aを除いて、例えば副室6の径方向に延びてもよい。
【0024】
連通路8は、副室6の外側に位置する内壁面8c(クランク軸方向P、または、左右方向Lにみて中心X1から遠い側の内壁面)と、副室6の内側に位置する内壁面8d(クランク軸方向P、または、左右方向Lにみて中心X1から近い側の内壁面)と、を有する。連通路8の内壁面8cと内壁面8dとは、旋回流SWの回転方向Fの反対方向Uに対向しており、この連通路8内において、副室6の外側に位置する内壁面8cは反対方向Uの上流側に位置し、副室6の内側に位置する内壁面8dは反対方向Uの下流側に位置している。副室6の外側に位置する内壁面8cは、副室壁61の内周61cの接線S2に沿って形成される。好ましくは、連通路8の内壁面8cが、導入口8bから噴射口8aまで接線S2に沿って形成される。これによって、噴射口8aと導入口8bとの間、および導入口8bと副室6の内周61cの面との間に、段差がなくなる。このため、圧縮行程時に混合気が副室6に導入される場合に、段差によって発生する圧力損失が抑制される。この結果、副室6の突出方向と垂直な面に沿ったらせん状の横渦が副室6内に円滑に形成される。また、連通路8は、
図3に示すように、主室4から上下方向に斜めに傾き、かつ
図2に示すように、径方向に対して斜め傾いて形成されてもよい。これによって、横渦が副室6内を上昇する。
【0025】
また、
図2に示すように、連通路8の噴射口8aの内径は、主室4に近付くにつれて拡大する。より具体的には、連通路8の外側の内壁面8cおよび内側の内壁面8dによって形成される空間の導入口8bにおける内径Dbよりも、この空間の噴射口8aにおける内径Daの方が大きく、導入口8bから噴射口8aまで連通路8の内径が徐々に拡大する。このため、噴射口8aの外周61bに沿った面積が、導入口8bの内周61cに沿った面積よりも大きくなる。この結果、連通路8を通過する火炎の噴射量が減ることが防止される。さらに、噴射口8aの内径は、旋回流SWの回転方向Fの反対方向Uに向けて拡大する。すなわち、内壁面8dは、内壁面8cよりも反対方向U(噴射口8aの内径が拡大する方向)に傾いている。これによって、噴射口8aから噴射される火炎は、旋回流SWの回転方向Fの反対方向Uに沿った方向を指向する。この結果、噴射口8aから噴射される火炎が、より旋回流SWによって乱れて拡散されやすくなる。なお、少なくとも噴射口8aの内径が反対方向Uに拡大すればよく、噴射口8aを除く連通路8の内径は、例えば一定でもよい。また、少なくとも噴射口8aにおいて内壁面8dが内壁面8cよりも反対方向Uに延びていればよく、噴射口8aを除く連通路8において、内壁面8dは、例えば内壁面8cと平行でもよい。
【0026】
図1および
図2に示すように、点火プラグ10の中心電極10aは、副室6の中心X1に重なる位置に配置される。
図3に示すように、連通路8の中心線C1は、副室6の副室壁61の内周61cの壁面と、位置Hで交わる。そして、点火プラグ10の中心電極10aの先端部10cは、位置Hよりも高い位置に配置される。
【0027】
燃料噴射弁12は、主室4に向けて設けられる。また、燃料噴射弁12は、副室6の外に設けられる。本実施形態では、燃料噴射弁12は、主室4に直接燃料を噴射する。すなわち、副室式内燃機関1は、直噴型の内燃機関である。燃料噴射弁12の噴射量と噴射時期が制御される。また、燃料噴射弁12は、図示しない燃料噴射ポンプ、および、燃料タンクに接続される。燃料噴射弁12は、シリンダヘッド102の吸気弁104側に配置される。本実施形態では、副室式内燃機関1の空燃比は、理論空燃比よりもリーンな値に設定される。すなわち、副室式内燃機関1は、希薄燃焼で運転される。これによって、燃費性能が向上する。
【0028】
図4に示すように、旋回流発生部14は、回転方向Fに旋回する旋回流SWを主室4に発生させる。本実施形態では、旋回流発生部14は、吸気バルブ104aと吸気バルブ104bのリフト高さを変えることで旋回流SWを発生させる。しかし、旋回流発生部14は、吸気ポート105の形状によって旋回流SWを発生させてもよい。また、本実施形態では、旋回流SWは、ピストン103の摺動方向(シリンダ軸方向Q)に垂直な面に対し、ピストン103側から見て反時計回りに旋回するスワール流である。旋回流SWは、シリンダ101aの内壁面に沿って旋回するとともに、副室壁61の外周61bに沿って旋回する。
【0029】
このように構成された副室式内燃機関1では、吸気行程では、吸気バルブ104aおよび吸気バルブ104bが開弁するとともに、ピストン103が下降し、吸気が主室4および副室6に導入される。このとき、吸気バルブ104aと吸気バルブ104bのリフト高さの違いによって、主室4に旋回流SWが発生する。また、本実施形態では、吸気は、図示しない過給機によって加圧される。これによって、主室4および副室6の圧力は、吸気の圧力と同じになる。吸気行程では、主として主室4に燃料を供給するための燃料噴射が、燃料噴射弁12によって行われる。噴射された燃料は、主室4内で吸気と混じり混合気を形成する。混合気は、ピストン103が下がるとともに主室4全体に供給される。
【0030】
圧縮行程では、吸気バルブ104aおよび吸気バルブ104bが閉弁するとともにピストン103が上昇し、主室4の混合気が圧縮される。
図4に示すように、圧縮行程で、ピストン103が上昇すると、主室4から連通路8を介して混合気が副室6に導入される。このとき、副室6に導入された混合気は、連通路8によって、上昇する横渦(
図4の副室6内の矢印参照)となる。
【0031】
本実施形態では、連通路8の内壁面8cが副室壁61の内周61cの接線S2に沿って形成される。これによって、上昇する横渦が副室6内の内周61cに沿って発生し、点火プラグ10は、この横渦に点火する。一方、副室壁61の内周61cの直径Drは、主室4からシリンダヘッド102に向かって拡大する(
図3参照)。これによって、副室6内の横渦の流速が減速する。この結果、副室6内の横渦の流速が速すぎることが原因となる失火が防止される。
【0032】
副室6に導入された混合気は、点火プラグ10によって点火され燃焼される。
図5に示すように、このとき噴射口8aから火炎Gが噴射される。そして、主室4の混合気が燃焼し、燃焼によって発生する燃焼ガスで圧力が上昇する。これにより、ピストン103が押し下げられ、膨張行程に進む。
【0033】
本実施形態では、連通路8の噴射口8aは、副室壁61の外周61bに沿って主室4内に発生する旋回流SWの回転方向Fの反対方向Uに延びており、反対方向Uに火炎Gを導く。これによって、火炎Gは、噴射されたのち、旋回流SWと対向する。このため、火炎Gは旋回流SWによって、火炎G1のように乱され拡散される。この結果、火炎Gと隣の連通路8から噴射される火炎との間の主室4における空間Vに火炎G1が拡散する。空間Vは、火炎Gが届かず燃焼が不均衡になりやすい。火炎Gが旋回流SWに対向して、旋回流SWによって乱され拡散されることで、空間Vに火炎G1が届く。この結果、主室4は、均質に燃焼する。また、火炎Gは、旋回流SWによって貫徹力が弱められ、シリンダ101aに火炎Gが直接当たることが防止される。これによって、火炎Gがシリンダ101aによって冷却されることで発生する冷却損失が低減される。
【0034】
さらに、本実施形態では、導入口8bにおける連通路8の内径Dbから噴射口8aにおける連通路8の内径Daへと、連通路8の内径が大きくなる。噴射口8aの内径Daが大きくなると、噴射口8aの面積が大きくなる。これによって、噴射口8aから噴射される火炎の直径も大きくなる。このため、連通路8から噴射される火炎Gと隣の連通路8から噴射される火炎Gとの間の主室4における空間Vに大きい火炎G1が噴出される。この結果、空間Vの燃焼が促進される。また、旋回流SWの回転方向Fの反対方向Uに向けて噴射口8aの直径が拡大する。これによって、より多くの火炎Gが旋回流SWと対向する。すなわち、旋回流SWと対向する火炎が多くなる。このため、空間Vに、より多くの火炎G1が供給される。この結果、空間Vの燃焼が促進される。
【0035】
排気行程では、排気バルブ109が開弁するとともに、ピストン103が下死点から上昇し、シリンダ内の燃焼ガス(排気)が排気ポート110に排出される。そして、ピストン103が上死点に達すると、再び吸気行程が始まる。このようにピストン103が2往復すると4つの行程が完了する。
【0036】
以上説明した通り、本実施形態の副室式内燃機関1では、連通路8の噴射口8aは、副室壁61の外周61bに沿って主室4内に発生する旋回流SWの回転方向Fの反対方向Uに火炎Gを導く。これによって、副室6から主室4に向けて噴射された火炎Gの冷却損失の発生が防止され、主室4の燃焼が促進される。
【0037】
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0038】
上記実施形態では、副室式内燃機関1は、直噴型の内燃機関であるが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、吸気ポート105に設けられる吸気ポートインジェクタを備える副室式内燃機関であってもよい。
【0039】
上記実施形態では、連通路8は、副室壁61に4つ設けるが、本開示はこれに限定されるものではない。連通路8は、1つでも複数でもよい。
【0040】
上記実施形態では、連通路8の内径は、副室壁61の外周61bに向かって拡大するが、本開示はこれに限定されない。例えば、連通路8の内径は一定であってもよい。すなわち、
図2における噴射口8aにおける内径Daと、導入口8bにおける内径Dbが同じであってもよい。
【0041】
上記実施形態では、連通路8は、副室6の突出する方向の1つの位置に設けられるが、本開示は、これに限定されない。
図6に示すように、副室6の突出する方向の異なる位置に第1連通路208と、第2連通路209が設けられてもよい。この場合に、第1連通路208と、第2連通路209のいずれか一方の連通路の内径は、一定でもよい。また、他方の連通路の内径は、副室壁261の外周261bに向かって拡大してもよい。例えば、第1連通路208が、第2連通路209よりも点火プラグ210の先端部210cに近い距離に設けられる場合、第1連通路208の内径がが、副室壁261の外周261bに向かって拡大してもよい。一方、第2連通路209の内径は、一定であってもよい。これによって、点火プラグ210の先端部210cに近い第1連通路208からの火炎の噴射量が大きくなる。
【0042】
上記実施形態では、底部61aは半球形状であるが、本開示はこれに限定されない。
図6に示すように、底部261aの形状は円錐台形状であってもよい。また、円錐形状など種々形状であってもよい。
【0043】
上記実施形態では、旋回流発生部14が、スワール流を発生させるが、本開示はこれに限定されない。旋回流発生部14は、シリンダ軸方向Qに平行な面に沿って一方向に旋回する縦型の渦を発生させてもよく、すなわちタンブル流を発生させてもよい。この場合に、連通路8は、タンブル流の回転方向の反対方向に沿って形成されてもよい。
【0044】
上記実施形態では、副室の形状はシリンダ軸方向に垂直な面による断面が円形となる形状(半球や円筒形状など)を例にしている。しかしながら、副室の形状はこれに限られない。断面が楕円や正多角形となる形状であってもよい。火炎伝播の観点からは、対称性のある形状が好ましいが、これに限られない。なお、本開示における「直径方向」「径方向」「接線」などの幾何学的表現は、断面が円形以外の場合であっても、当業者であれば適宜理解することができるであろう。つまり、副室の断面が円形以外になる実施態様であっても、当業者であれば本開示と同様の効果が奏されるように本開示の特徴を適宜適用できるであろう。
【0045】
上記実施形態では、副室に設けられた点火プラグで混合気が点火される火花点火内燃機関を例にしている。本開示の内燃機関では燃料としてガソリンが使用されるが、当然これに限定されず、アルコールなどの他の燃料であってもよい。また、本開示の特徴は、火花点火内燃機関に限られず、ディーゼルエンジンなどの圧縮着火内燃機関にも適用可能である。つまり、副室内に点火プラグ等の火花発生手段を設けることは必須ではなく、内燃機関の1燃焼サイクル(4ストロークエンジンであれば吸入、圧縮、燃焼、排気からなるサイクル)の中で最初の正常燃焼(予備燃焼)が副室内で生じるように設計された内燃機関であれば同様の作用効果が期待される。なお、圧縮着火内燃機関であっても、インジェクタから副室内に燃料を直接噴射させることや圧縮比を適宜設定することで、副室内で予備燃焼を発生させられることは従来周知である。また、圧縮着火内燃機関であっても、燃料は特に軽油に限定されず、ガソリンやアルコール等であってもよい。
【0046】
本開示の実施形態によれば、副室式内燃機関(1)は、
シリンダヘッド(102)と、シリンダ(101a)と、ピストン(103)と、で画定される主室(4)と、
前記シリンダヘッド(102)から前記主室(4)に向かって突出し、前記主室(4)と隔てられる副室(6)と、
前記主室(4)と前記副室(6)を連通する連通路(8)と、
を備え、
前記連通路(8)は、前記副室(6)内で発生した火炎を前記主室(4)内に噴射する噴射口(8a)を有し、
前記噴射口(8a)は、前記主室(4)内に発生する旋回流(SW)の回転方向(F)の反対方向(U)に前記火炎を導くように構成されている。
【0047】
前記噴射口(8a)は、前記主室(4)に向かって前記反対方向(U)に延びてもよい。
【0048】
前記噴射口(8a)の内径(Da)は、前記主室(4)に近付くにつれて拡大してもよい。
【0049】
前記連通路(8)は、前記旋回流(SW)の回転軸方向に見たときに、前記副室(6)の内周(61c)の接線(S2)に沿って形成された内壁面(8c)を有してもよい。
【0050】
前記副室(6)の内径(Dr)は、前記主室(4)から前記シリンダヘッド(102)に向かって拡大してもよい。
【0051】
本出願は、2019年3月27日出願の日本特許出願特願2019-061137に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0052】
1:副室式内燃機関
4:主室
6:副室
8:連通路
8c:内壁面
14:旋回流発生部
61:副室壁
61b:外周
61c:内周
101a:シリンダ
102:シリンダヘッド
103:ピストン
Da:内径
Db:内径
Dr:内周の直径
F:旋回流の回転方向
U:旋回流の回転方向の反対方向
S2:内周の接線
SW:旋回流