(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】自己位置補正方法及び自己位置補正装置
(51)【国際特許分類】
G01C 21/28 20060101AFI20220921BHJP
【FI】
G01C21/28
(21)【出願番号】P 2021519224
(86)(22)【出願日】2019-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2019019411
(87)【国際公開番号】W WO2020230314
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】野尻 隆宏
【審査官】貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-218043(JP,A)
【文献】特開平11-95837(JP,A)
【文献】特開2009-115545(JP,A)
【文献】特開2013-104861(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第3480560(EP,A1)
【文献】特開2008-122230(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 21/00 - 21/36
G08G 1/00 - 1/16
B60W 10/00 - 10/30
B60W 30/00 - 60/00
G09B 29/00 - 29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の移動量を逐次積算することで推定される、地図データ上の前記車両の位置を、前記車両の周囲の物標を検出する検出部からの測定結果に基づいて補正する自己位置補正方法であって、
前記車両の前後方向に平行な軸の座標を縦座標として、
前記地図データ上に登録された前記物標の位置が持つ前記縦座標の値を第1登録値とし、
前記検出部によって検出された前記物標の位置が持つ前記縦座標の値を第1観測値とし、
前記第1登録値から前記第1観測値を差し引いて得られる縦補正量に基づいて修正量を設定し、
前記車両の車速に前記修正量を加算して修正後車速を算出し、
前記修正後車速と前記車両のヨーレートとによって前記車両の前記移動量を算出し、
前記移動量を逐次積算して前記車両の位置を推定すること
を特徴とする自己位置補正方法。
【請求項2】
請求項1に記載の自己位置補正方法であって、
前記縦補正量が大きいほど、前記修正量を前記車速で除した値が大きく設定されること
を特徴とする自己位置補正方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自己位置補正方法であって、
前記縦補正量に正の所定係数を乗算して前記修正量を設定すること
を特徴とする自己位置補正方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の自己位置補正方法であって、
前記縦補正量が所定閾値以下である場合には、前記縦補正量を、前記車両の前記縦座標の値に加算すること
を特徴とする自己位置補正方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の自己位置補正方法であって、
前記車両の幅方向に平行な軸の座標を横座標として、
前記地図データ上に登録された前記物標の位置が持つ前記横座標の値を第2登録値とし、
前記検出部によって検出された前記物標の位置が持つ前記横座標の値を第2観測値とし、
前記第2登録値から前記第2観測値を差し引いて得られる横補正量を、前記車両の前記横座標の値に加算すること
を特徴とする自己位置補正方法。
【請求項6】
車両の周囲の物標を検出する検出部と、
コントローラと、
を備える、前記車両の移動量を逐次積算することで推定される、地図データ上の前記車両の位置を補正する自己位置補正装置であって、
前記コントローラは、
前記車両の前後方向に平行な軸の座標を縦座標として、
前記地図データ上に登録された前記物標の位置が持つ前記縦座標の値を第1登録値とし、
前記検出部によって検出された前記物標の位置が持つ前記縦座標の値を第1観測値とし、
前記第1登録値から前記第1観測値を差し引いて得られる縦補正量に基づいて修正量を設定し、
前記車両の車速に前記修正量を加算して修正後車速を算出し、
前記修正後車速と前記車両のヨーレートとによって前記車両の前記移動量を算出し、
前記移動量を逐次積算して前記車両の位置を推定すること
を特徴とする自己位置補正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己位置補正方法及び自己位置補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航法衛星を利用して測定した車両位置に基づき車両の位置軌跡を生成し、車両が走行する走行車線と位置軌跡との形状を比較することで、車両位置の位置補正量を算出する車両位置補正装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術によれば、地図データ上での車両の現在の位置を示す位置情報に位置補正量を加算することで、当該位置情報を補正する。そのため、所定の軌道を走行するよう制御された車両(例えば、自動運転車両)の位置情報を補正する際、位置補正量が大きい場合には、位置情報の補正に起因して車両の操舵角が急変する恐れがあり、乗員に不安感を与えてしまう恐れがあるという問題がある。このような位置補正に起因する操舵角の急変は、例えば、車両がカーブ路を走行中である場合に生じやすい。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車両の位置情報を補正する際に、位置補正に起因する操舵角の急変を抑制しつつ、車両の位置情報を補正できる自己位置補正方法及び自己位置補正装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した問題を解決するために、本発明の一態様に係る自己位置補正方法及び自己位置補正装置は、車両の前後方向に平行な軸の座標を縦座標として、地図データ上に登録された物標の位置が持つ縦座標の値から検出部によって検出された物標の位置が持つ縦座標の値を差し引いて得られる縦補正量に基づいて設定した修正量を、車速に加算して修正後車速を算出し、修正後車速と車両のヨーレートとによって算出された車両の移動量を逐次積算して車両の位置を推定することで、地図データ上の車両の位置を補正する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、所定の軌道を走行するよう制御された車両の位置情報を補正する際に、位置補正に起因する操舵角の急変を抑制しつつ、車両の位置情報を補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る自己位置補正装置を有する自己位置推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る自己位置補正の処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、車両の位置に関する縦補正量を説明する模式図である。
【
図4】
図4は、車両の位置に関する横補正量を説明する模式図である。
【
図5】
図5は、カーブ路における車両の操舵角の変化の様子を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。説明において、同一のものには同一符号を付して重複説明を省略する。
【0010】
[自己位置補正装置の構成]
図1は、本実施形態に係る自己位置補正装置を有する自己位置推定装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、自己位置推定装置は、地図取得装置51と、GPS受信機53と、レーダー55と、カメラ57と、車速センサ71と、慣性計測センサ73と、コントローラ100と、出力部91と、を備えている。
【0011】
ここで、GPS受信機53、レーダー55、カメラ57、車速センサ71、慣性計測センサ73は、車両に搭載されるが、地図取得装置51、コントローラ100、出力部91は、車両に搭載されるものであってもよいし、車両の外部に設置されるものであってもよい。地図取得装置51、GPS受信機53、レーダー55、カメラ57、車速センサ71、慣性計測センサ73、出力部91は、有線あるいは無線の通信路によって、コントローラ100と接続されている。
【0012】
地図取得装置51は、車両が走行する道路の構造を示す地図データを取得する。地図取得装置51が取得する地図データには、車線の絶対位置、車線の接続関係、相対位置関係などの道路構造の情報が含まれる。また、地図取得装置51が取得する地図データには、駐車場、ガソリンスタンドなどの施設情報も含まれうる。その他、地図データには、信号機の位置情報や、信号機の種別などが含まれうる。地図取得装置51は、地図データを格納した地図データベースを所有してもよいし、クラウドコンピューティングにより地図データを外部の地図データサーバから取得してもよい。また、地図取得装置51は、車車間通信、路車間通信を用いて地図データを取得してもよい。
【0013】
GPS受信機53は、GPS(全地球測位システム)衛星からの電波を受信することにより、地上における車両の位置を検出する。
【0014】
レーダー55は、電波を車両の周囲に向けて発射し、その反射波を測定することにより、道路標識や建物などの車両の周囲の立体物を検出する。
【0015】
カメラ57は、車両の周囲を撮像し、車両の周囲の白線や停止線等が写った画像を取得する。
【0016】
GPS受信機53、レーダー55、カメラ57を、総称して、以下では検出部と呼ぶ。ここに挙げた例は、検出部の一例であって、これらの例に限定されない。例えば、検出部としては、図示しないライダー(LiDAR)であってもよい。
【0017】
車速センサ71は、車両の車速を検知する。なお、車速センサ71は、車両の車輪の回転速度から車速を検知するものであってもよいし、車両が走行する道路に対する相対速度をドップラー効果等により検知するものであってもよい。
【0018】
慣性計測センサ73は、車両に加わる加速度を検知する加速度センサ、車両の回転角速度を検知する回転角加速度センサやジャイロセンサ、その他、車両の方位を検知する磁界センサなどからなる。特に、慣性計測センサ73は、車両のヨーレートを検知する。
【0019】
出力部91は、後述するコントローラ100での処理結果を出力する。例えば、出力部91は、図示しない自動運転装置に対して、自己位置補正が行われた後の車両の位置を出力する。
【0020】
コントローラ100(制御部または処理部の一例)は、CPU(中央処理装置)、メモリ、及び入出力部を備える汎用のマイクロコンピュータである。コントローラ100には、自己位置補正装置として機能させるためのコンピュータプログラム(自己位置補正装置プログラム)がインストールされている。コンピュータプログラムを実行することにより、コントローラ100は、複数の情報処理回路(110、120、130、140、150、160)として機能する。
【0021】
なお、ここでは、ソフトウェアによって自己位置補正装置が備える複数の情報処理回路(110、120、130、140、150、160)を実現する例を示す。ただし、以下に示す各情報処理を実行するための専用のハードウェアを用意して、情報処理回路(110、120、130、140、150、160)を構成することも可能である。また、複数の情報処理回路(110、120、130、140、150、160)を個別のハードウェアにより構成してもよい。更に、情報処理回路(110、120、130、140、150、160)は、車両にかかわる他の制御に用いる電子制御ユニット(ECU)と兼用してもよい。
【0022】
コントローラ100は、複数の情報処理回路(110、120、130、140、150、160)として、物標認識部110、縦補正量算出部120、横補正量算出部130、車速補正部140、積算部150、横位置補正部160を備える。
【0023】
物標認識部110は、車両の位置を決定するための基準となる物標を認識し、認識した物標との、車両との相対的な位置関係を算出する。
【0024】
物標認識部110の例として、GPS受信機53に基づく位置認識部が挙げられる。この他にも、物標認識部110の例として、レーダー55あるいは図示しないライダー(LiDAR)によって道路標識や建物などの車両周囲の立体物(静止物体)を検出するランドマーク認識部、カメラ57によって撮像した画像に基づいて、車両周囲の白線を認識する白線認識部、停止線を検出する停止線認識部などがある。
【0025】
なお、白線や停止線等の車両周囲の道路上の表示や道路標識、建物等の車両周囲の立体物等の、静止した目標物を以下では物標と記載する。
【0026】
特に、物標認識部110は、車両の前後方向に平行な軸の座標を縦座標として、検出部によって検出された物標の位置が持つ縦座標の値を第1観測値として算出する。また、物標認識部110は、車両の幅方向に平行な軸の座標を横座標として、検出部によって検出された物標の位置が持つ横座標の値を第2観測値として算出する。
【0027】
なお、縦座標及び横座標で定義される座標系を車両座標系と呼ぶ。車両座標系は、地図データに登録された位置情報を表す際に用いられる地図座標系とは異なるが、地図座標系における車両の位置及び方位と、車両座標系における車両の位置が定まれば、地図座標系と車両座標系とは座標変換(平行移動および回転移動による変換)によって相互に関連付けることができる。すなわち、座標変換を用いることで、地図座標系で表された位置情報を車両座標系での位置情報に変換することができる。
【0028】
縦補正量算出部120は、地図取得装置51によって取得した地図データから、物標認識部110で認識した物標に関して、地図データに登録された位置情報を抽出し、抽出した位置情報を座標変換し、認識した物標の位置が持つ縦座標の値を第1登録値として算出する。そして、縦補正量算出部120は、第1登録値から第1観測値を差し引いて縦補正量を算出する。
【0029】
縦補正量の算出について、
図3を用いて説明する。
図3は、車両の位置に関する縦補正量を説明する模式図である。
図3において、点P1に車両が位置していると推定されたとする。
【0030】
ここで、地図データ上では、位置TG1に位置するとして登録されている物標が、物標認識部110によって、位置TG2にあるものとして認識されたとする。位置TG1と位置TG2とを比較すると、位置P1に位置する車両の車両座標系でみて、位置TG2は、位置TG1よりも縦座標でΔxだけ点P1に近い位置にある。
【0031】
このことは、点P1に車両が位置しているという推定には誤差が含まれており、実際には、点P1よりも縦座標でΔxだけ車両の前方向(あるいは車両の進行方向、図中のx軸方向)に進んだ点Q1に車両が位置していることを意味する。そのため、Δxは、車両の位置P1を位置Q1に補正するための縦補正量として取り扱われる。
【0032】
その他、縦補正量算出部120によって縦補正量を算出できるタイミングについて注記する。典型的には、車両の前方あるいは後方に位置する物標を認識することができたタイミングで、縦補正量は算出される。しかしながら、車両の前方あるいは後方に位置する物標は、車両の周囲を走行する他車両によって遮蔽されて認識できない場合がある。そのような場合には、縦補正量を算出することはできない。
【0033】
横補正量算出部130は、地図取得装置51によって取得した地図データから、物標認識部110で認識した物標に関して、地図データに登録された位置情報を抽出し、抽出した位置情報を座標変換し、認識した物標の位置が持つ横座標の値を第2登録値として算出する。そして、横補正量算出部130は、第2登録値から第2観測値を差し引いて横補正量を算出する。
【0034】
横補正量の算出について、
図4を用いて説明する。
図4は、車両の位置に関する横補正量を説明する模式図である。
図4において、道路の幅方向の中央TRに位置する点P1に車両が位置していると推定されたとする。
【0035】
ここで、物標認識部110によって道路の白線を認識した結果、地図データに登録された位置より車両の幅方向に沿って右側にΔyだけ偏差した位置に、白線が存在すると認識されたとする。
【0036】
このことは、点P1に車両が位置しているという推定には誤差が含まれており、実際には、点P1よりも横座標でΔyだけ車両の幅方向に左側(図中のy軸方向)に進んだ点Q1に車両が位置していることを意味する。そのため、Δyは、車両の位置P1を位置Q1に補正するための横補正量として取り扱われる。
【0037】
その他、横補正量算出部130によって横補正量を算出できるタイミングについて注記する。典型的には、車両の側方に位置する物標を認識することができたタイミングで、横補正量は算出される。車両の前方あるいは後方に位置する物標と比較して、車両の側方に位置する物標が車両の周囲を走行する他車両によって遮蔽されて認識できない場合は少ない。したがって、横補正量を算出できるタイミングは、縦補正量を算出できるタイミングよりも多い傾向にある。
【0038】
その他、物標認識部110で認識した物標が複数個存在する場合には、縦補正量算出部120は、認識した各物標に対して縦補正量を算出し、複数の縦補正量の平均値を、代表的な縦補正量として算出するものであってもよい。同様に、横補正量算出部130は、認識した各物標に対して横補正量を算出し、複数の横補正量の平均値を、代表的な横補正量として算出するものであってもよい。
【0039】
車速補正部140は、縦補正量に基づいて、車速センサ71によって検知した車速に対する修正量を設定する。
【0040】
例えば、縦補正量Δxが大きいほど車速にたいする修正量Δvを車速vで除した値(Δv/v)が大きく設定されるよう、車速補正部140は修正量Δvを設定するものであってもよい。
【0041】
縦補正量Δxが大きくなるにつれてΔv/vが段階的に増加するように、車速補正部140は修正量Δvを設定するものであってもよい(縦補正量Δxが所定値未満である場合には、Δv/v=1%とし、縦補正量Δxが所定値以上である場合には、Δv/v=10%とするなど)。
【0042】
縦補正量Δxが大きくなるにつれてΔv/vが連続的に増加するように、車速補正部140はΔvを設定するものであってもよい。
【0043】
また、縦補正量Δxに正の所定係数αを乗算して修正量Δvを設定するものであってもよい(すなわち、「Δv=α・Δx」)。
【0044】
車速補正部140は、上述のようにして設定した修正量を車速センサ71によって検知した車速に加算して、修正後車速を算出する。
【0045】
積算部150は、デッドレコニング(Dead Reckoning)の手法を用いて、地図データ上の車両の位置を推定する。すなわち、車両の車速及びヨーレートに基づいて、所定の時間間隔の間での車両の移動量(ベクトル成分)を算出し、算出した移動量を逐次積算していくことで、地図データ上の車両の位置を推定する。すなわち、ある過去の時刻における車両の位置を起点として、その過去の時間から現在の時刻に向けて、車両の単位時間当たりの移動量を時間積分することにより、現在の時刻における、地図データ上の車両の位置を推定する。
【0046】
なお、一般的なデッドレコニングでは、車速センサ71によって検知した車速と、慣性計測センサ73によって検知した車両のヨーレートに基づいて、車両の移動量を算出する。一方、本実施形態における積算部150では、車速センサ71によって検知した車速を用いる代わりに、車速補正部140において算出した修正後車速を用いて、車両の移動量を算出する。
【0047】
ここで時間間隔をΔtとした場合、修正後車速を用いて車両の移動量を算出するため、デッドレコニングを行う過程における1回分の移動量には「Δv・Δt」の補正量が加算されることになる。デッドレコニングを行う過程で算出される複数個の移動量のそれぞれに加算される補正量「Δv・Δt」を足し合わせていくと、移動量が逐次積算されていくにつれて、足し合わされた補正量の大きさは、縦補正量Δxに近づいていくことになる。したがって、デッドレコニングにより十分な個数の移動量が積算された後には、縦補正量Δxの補正が完了することになる。
【0048】
積算部150は、1回分の移動量を積算が完了した後、縦補正量から1回分の移動量に含まれる補正量「Δv・Δt」を減算し、減算後の縦補正量を算出する。減算後の縦補正量は、車速補正部140における次回以降の修正量の設定に用いられる。
【0049】
その他、積算部150は、縦補正量が所定閾値以下である場合に、縦補正量を車両の縦座標の値に加算して、車両の位置を補正するものであってもよい。ここで、縦補正量を車両の縦座標の値に加算することにより生じる操舵角の突発的な変動が乗員にとって無視できるレベルを考慮して、所定閾値は定められる。
【0050】
例えば、車両の走行予定ルートが直線形状である場合には、縦補正量を車両の縦座標の値に加算して車両の位置を補正しても、補正後の車両の位置が走行予定ルートから大幅にずれることはない。そのため、車両の走行予定ルートの曲率半径が小さい場合には、前述の所定閾値を小さく設定し、車両の走行予定ルートの曲率半径が大きい場合には、前述の所定閾値を大きく設定するものであってもよい。
【0051】
横位置補正部160は、横補正量を車両の横座標の値に加算して、車両の位置を補正する。
【0052】
横位置補正部160による横補正量に基づく車両の位置の補正は、車速補正部140及び積算部150での処理による縦補正量に基づく車両の位置の補正とは異なる。具体的には、縦補正量に基づく車両の位置の補正は、車速の修正を行っていたのに対し、横補正量に基づく車両の位置の補正は、直接、車両の位置に対して行われる。
【0053】
横補正量を算出できるタイミングは、縦補正量を算出できるタイミングよりも多い傾向にあるため、横補正量に基づく車両の位置の補正は、縦補正量に基づく車両の位置の補正よりも頻繁に行われやすい傾向にあり、縦補正量と比較して横補正量は大きくなりにくい。また、車両の前後方向の車速に比べて車両の幅方向の車速は小さいため、縦補正量と比較して横補正量は大きくなりにくい傾向にある。したがって、横補正量に基づく車両の位置の補正を、直接、車両の位置に対して行っても、操舵角の急変が生じる可能性は小さいのである。
【0054】
[自己位置補正装置の処理手順]
次に、本実施形態に係る自己位置補正装置による自己位置補正の処理手順を、
図2のフローチャートを参照して説明する。
図2に示す自己位置補正の処理は、車両のイグニッションがオンされると開始し、イグニッションがオンとなっている間、繰り返し実行される。
【0055】
ステップS01において、物標認識部110は、車両の位置を決定するための基準となる物標を認識し、認識した物標との、車両との相対的な位置関係を算出する。
【0056】
ステップS03において、縦補正量算出部120は縦補正量を算出し、横補正量算出部130は横補正量を算出する。
【0057】
ステップS05において、車速補正部140は、縦補正量に基づいて、検知した車速に対する修正量を設定し、修正量を検知した車速に加算して、修正後車速を算出する。
【0058】
ステップS07において、積算部150は、算出した修正後車速を用いて車両の移動量を算出し、移動量を積算して、車両の位置を推定する。
【0059】
ステップS09において、横位置補正部160は、横補正量を車両の横座標の値に加算して、車両の位置を補正する。
【0060】
ステップS11において、出力部91は、補正が行われた後の車両の位置を出力する。
【0061】
[実施形態の効果]
以上詳細に説明したように、本実施形態に係る自己位置補正方法及び自己位置補正装置は、車両の移動量を逐次積算して地図データ上の車両の位置を推定する際に、車両の前後方向に平行な軸の座標を縦座標として、地図データ上に登録された物標の位置が持つ縦座標の値から検出部によって検出された物標の位置が持つ縦座標の値を差し引いて得られる縦補正量に基づいて設定した修正量を、車速に加算して修正後車速を算出し、修正後車速と車両のヨーレートとによって算出された車両の移動量を逐次積算して車両の位置を推定することで、地図データ上の車両の位置を補正する。
【0062】
これにより、車両の縦座標に縦補正量が直接加算されることがないので、位置補正に起因する操舵角の急変が抑制される。一方、デッドレコニングを行う際に、車速の修正量を介して車両の縦座標に補正量が加算され、移動量が逐次積算されていくにつれて、足し合わされた補正量の大きさが縦補正量に近づくため、確実に、車両の位置の補正を行うことができる。
【0063】
車両の縦座標に縦補正量を直接加算する代わりに、車速の修正量を介して車両の縦座標に補正量が加算することにより、操舵角の急変が抑制される原理は、
図3及び
図5により説明できる。例えば、
図3のように、点P1に車両が位置していると推定された状況を想定する。デッドレコニングを行う過程における1回分の移動量は、点P1に位置する車両の車速及びヨーレートに基づいて算出され、所定の時間間隔の後には、点P1から点P2に向けて車両が移動すると算出されたとする。
【0064】
ここで、縦補正量Δxを点P1の車両の縦座標に直接加算する場合(デッドレコニングの1回のステップで、縦補正量Δxのすべてを車両の縦座標に加算する場合)には、車両の位置は、点P1から点Q1に修正される。しかし、点P1に位置する車両の車速及びヨーレートに基づいて算出された、デッドレコニングを行う過程における1回分の移動量は修正されないため、所定の時間間隔の後には、点Q1から点Q2に向けて車両が移動すると算出されることになる。ここで、点P1を始点として点P2を終点とするベクトルと、点Q1を始点として点Q2を終点とするベクトルは、大きさ及び向きが同じである。
【0065】
したがって、縦補正量Δxを点P1の車両の縦座標に直接加算する場合、縦補正量Δxが大きい場合には、補正後の車両の位置が、車両が本来走行すべき経路(
図3では経路TR)から大幅に外れた点Q2になってしまい、
図5のグラフC2のように、操舵角の急変が生じる可能性がある。
図5では、時刻t1で縦補正量の補正が行われた結果、時刻t1から時刻t3において、操舵角が急変している様子が示されている。グラフC2に示すように、操舵角の時間変化率は、時刻t1、時刻t2、時刻t3で不連続になっている。
【0066】
一方、車速の修正量を介して車両の縦座標に補正量が加算する場合には、デッドレコニングの複数回のステップで、縦補正量Δxを分割して車両の縦座標に加算することになるため、補正後の車両の位置が、車両が本来走行すべき経路(
図3では経路TR)から大幅に外れた位置になる恐れがなくなる。
【0067】
車速の修正量を介して車両の縦座標に補正量が加算する場合には、
図5のグラフC1のように、操舵角の急変は生じず、操舵角の時間変化率が不連続になることが抑制される。
【0068】
また、本実施形態に係る自己位置補正方法及び自己位置補正装置において、縦補正量が大きいほど、修正量を車速で除した値が大きく設定されるものであってもよい。これにより、縦補正量が大きいほど、また、車速が大きいほど、車速の修正量が大きく設定されるため、位置補正に起因する操舵角の急変を抑制しつつ、車両の位置が補正されるまでの時間を短縮することができる。その結果、縦補正量の大きさとは無関係に、修正量を車速で除した値が一定となるように修正量が設定される場合と比較して、より短い時間内での車両の位置の補正が可能となる。
【0069】
さらに、本実施形態に係る自己位置補正方法及び自己位置補正装置において、縦補正量に正の所定係数を乗算して修正量が設定されるものであってもよい。これにより、縦補正量が大きいほど、車速の修正量が大きく設定されるため、位置補正に起因する操舵角の急変を抑制しつつ、車両の位置が補正されるまでの時間を短縮することができる。また、所定係数の大きさを調整することで、車両の位置が補正されるまでの時間を制御することができる。
【0070】
また、本実施形態に係る自己位置補正方法及び自己位置補正装置において、縦補正量が所定閾値以下である場合には、縦補正量を車両の縦座標の値に加算するものであってもよい。これにより、乗員が感じるレベルと比較して、縦補正量を車両の縦座標に直接加算した際に生じる操舵角の変動が、十分に小さいと予想される場合には、縦補正量に基づいて直接、車両の位置を補正でき、より短い時間内での車両の位置の補正が可能となる。
【0071】
さらに、本実施形態に係る自己位置補正方法及び自己位置補正装置において、車両の幅方向に平行な軸の座標を横座標として、地図データ上に登録された物標の位置が持つ横座標の値から検出部によって検出された物標の位置が持つ横座標の値を差し引いて得られる横補正量を、車両の横座標の値に加算するものであってもよい。これにより、縦補正量に基づく車両位置の補正よりもより計算負荷の少ない方法で、横補正量に基づく車両位置の補正を行うことができる。また、横補正量に基づく車両の位置の補正を、短時間で行うことができる。
【0072】
上述の実施形態で示した各機能は、1又は複数の処理回路によって実装されうる。処理回路には、プログラムされたプロセッサや、電気回路などが含まれ、さらには、特定用途向けの集積回路(ASIC)のような装置や、記載された機能を実行するよう配置された回路構成要素なども含まれる。
【0073】
以上、実施形態に沿って本発明の内容を説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。この開示の一部をなす論述および図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0074】
本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0075】
51 地図取得装置
53 GPS受信機
55 レーダー
57 カメラ
71 車速センサ
73 慣性計測センサ
91 出力部
100 コントローラ
110 物標認識部
120 縦補正量算出部
130 横補正量算出部
140 車速補正部
150 積算部
160 横位置補正部