IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社GSユアサの特許一覧

<>
  • 特許-鉛蓄電池 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20220921BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20220921BHJP
   H01M 10/06 20060101ALI20220921BHJP
   H01M 10/08 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
H01M4/62 B
H01M4/14 Q
H01M10/06 L
H01M10/08
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021521909
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2020021475
(87)【国際公開番号】W WO2020241878
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2019103301
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】籠橋 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 雄輔
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-182662(JP,A)
【文献】特開昭51-47237(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101937996(CN,A)
【文献】特開平9-147869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/14
H01M 10/06
H01M 10/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、ポリマー化合物を含み、
前記ポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有し、
前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で400ppm未満である、鉛蓄電池。
【請求項2】
正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、ポリマー化合物を含み、
前記ポリマー化合物は、 H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有し、
前記電解液は、前記ポリマー化合物を含み、
前記電解液中の前記ポリマー化合物の濃度は、100ppm以上であり、
前記ポリマー化合物は、少なくとも数平均分子量が1000以上5000以下の化合物を含む、鉛蓄電池。
【請求項3】
前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で400ppm未満である、請求項2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記ポリマー化合物は、末端基に結合した酸素原子と、前記酸素原子に結合した-CH-基および/または-CH<基とを含み、
前記H-NMRスペクトルにおいて、前記ピークの積分値の、前記ピークの積分値と前記-CH-基の水素原子のピークの積分値と前記-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合は、85%以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物を含
前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で400ppm未満である、鉛蓄電池。
【請求項7】
正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、オキシC 2-4 アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物を含み
前記電解液は、前記ポリマー化合物を含み、
前記電解液中の前記ポリマー化合物の濃度は、100ppm以上であり、
前記ポリマー化合物は、少なくとも数平均分子量が1000以上5000以下の化合物を含む、鉛蓄電池。
【請求項8】
前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で400ppm未満である、請求項に記載の鉛蓄電池。
【請求項9】
前記ポリマー化合物は、前記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物および前記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記ヒドロキシ化合物は、ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、およびポリオールのC2-4アルキレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項5~8のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項10】
前記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造は、少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含む、請求項5~9のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項11】
前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で8ppmを超える、請求項1~10のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項12】
前記電解液は、前記ポリマー化合物を含み、
前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、15ppm以上360ppm以下であり、
前記電解液中の前記ポリマー化合物の濃度は、質量基準で500ppm以下である、請求項1~11のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項13】
前記ポリマー化合物は、少なくとも数平均分子量が1000以上の化合物を含む、請求項に記載の鉛蓄電池。
【請求項14】
前記負極電極材料は、さらに硫黄元素含有量が2000μmol/g以上の第1有機防縮剤を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項15】
前記第1有機防縮剤は、硫黄含有基を有する芳香族化合物のユニットを含む縮合物を含み、
前記縮合物は、前記芳香族化合物のユニットとして、ビスアレーン化合物のユニットおよび単環式の芳香族化合物のユニットからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項14に記載の鉛蓄電池。
【請求項16】
前記縮合物は、前記ビスアレーン化合物のユニットと、前記単環式の芳香族化合物のユニットとを含む、請求項15に記載の鉛蓄電池。
【請求項17】
前記単環式の芳香族化合物のユニットは、ヒドロキシアレーン化合物のユニットを含む、請求項15または16に記載の鉛蓄電池。
【請求項18】
前記負極電極材料は、さらに硫黄元素含有量が2000μmol/g未満の第2有機防縮剤を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池には、負極板、正極板、セパレータ(またはマット)、および電解液などが含まれる。様々な機能を付与する観点から、鉛蓄電池の構成部材に添加剤が添加されることがある。
【0003】
特許文献1には、有機高分子を含む活性化剤を電槽内への裂開機構を有する小型密閉容器に封入し、小型密閉容器を電槽または蓋部に装着したことを特徴とする鉛蓄電池が提案されている。
【0004】
特許文献2には、サイズ組成物で被覆された複数の繊維と、バインダ組成物と、1種以上の添加剤とを含み、該添加剤が、ゴム添加剤、ゴム誘導体、アルデヒド、金属塩、エチレン-プロピレンオキサイドブロックコポリマー、硫酸エステル、スルホン酸エステル、リン酸エステル、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、リグニン、フェノールホルムアルデヒド樹脂、セルロース、および木粉などのうち1種以上を含み、該添加剤が、鉛蓄電池における水分損失を減じるように機能し得る繊維貼付マットが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-149980号公報
【文献】特表2017-525092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鉛蓄電池には、長寿命であることが求められる。鉛蓄電池の寿命が短くなる要因に、例えば、正極板の集電体(以下、正極集電体と称する場合がある。)の腐食、電解液の減少(以下、単に減液と称する場合がある。)などが挙げられる。正極集電体の腐食および減液は、過充電により進行する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、ポリマー化合物を含み、
前記ポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する、鉛蓄電池に関する。
【0008】
本発明の他の側面は、正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物を含む、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0009】
鉛蓄電池において、過充電時の充電電気量の優れた低減効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一側面に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、電解液と、を備える。負極板は、負極電極材料を備える。負極電極材料は、ポリマー化合物を含む。ポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する。
なお、H-NMRスペクトルの3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲に現れるピークは、オキシC2-4アルキレンユニットに由来する。ここで、H-NMRスペクトルは、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される。
【0012】
本発明の他の側面に係る鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、電解液と、を備える。負極板は、負極電極材料を備える。負極電極材料は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物を含む。
【0013】
本発明の一側面および他の側面に係る鉛蓄電池では、負極電極材料が、上記のようなポリマー化合物を含む。負極電極材料以外の鉛蓄電池の構成要素にポリマー化合物が含まれているか否かに拘わらず、負極電極材料がポリマー化合物を含有していることが重要である。負極電極材料がポリマー化合物を含有することで、ポリマー化合物を鉛の近傍に存在させることができ、ポリマー化合物の効果を有効に発揮させることができる。このような構成により、負極板における水素過電圧を上昇させることができ、その結果、過充電電気量を低減することができる。過充電時の水素発生が抑制されることで、減液を低減できるため、鉛蓄電池の長寿命化に有利である。
【0014】
一般に、鉛蓄電池では、過充電時の反応は、鉛と電解液との界面における水素イオンの還元反応に大きく影響される。そのため、本発明の一側面および他の側面に係る鉛蓄電池において、過充電電気量が低減されるのは、ポリマー化合物により負極活物質である鉛の表面が覆われた状態となることで、水素過電圧が上昇し、過充電時にプロトンから水素が発生する副反応が阻害されるためと考えられる。
【0015】
ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを有することで線状構造を取り易くなるため、負極電極材料中に留まり難く、電解液中に拡散し易いと考えられる。そのため、上記のポリマー化合物を用いても、過充電電気量の低減効果はほとんど得られないと予想される。ところが、このような予想に反し、本発明者らは、実際には、負極電極材料中にごく僅かな量のポリマー化合物が含まれる場合でも、過充電電気量の低減効果が得られることを見出した。ごく僅かな量のポリマー化合物でも、過充電電気量の低減効果が得られることから、ポリマー化合物を負極電極材料中に含有させることで、鉛の近傍に存在させることができ、これにより、オキシC2-4アルキレンユニットの鉛に対する高い吸着作用が発揮されるものと考えられる。また、ポリマー化合物が鉛の表面に薄く広がった状態となり、鉛表面の広範囲な領域で水素イオンの還元反応が抑制されると考えられる。このことは、ポリマー化合物が線状構造を取り易いこととも矛盾しない。
【0016】
一般に、鉛蓄電池では、電解液に硫酸水溶液が用いられるため、有機系添加剤(オイル、高分子、または有機防縮剤など)を負極電極材料中に含有させると、電解液への溶出と鉛への吸着とのバランスを取ることが難しくなる。例えば、鉛への吸着性が低い有機系添加剤を用いると、電解液中に溶出し易くなり、過充電電気量を低減し難くなる。一方、鉛への吸着性が高い有機系添加剤を用いると、鉛表面に薄く付着させることが難しくなり、有機系添加剤が鉛の細孔内に偏在した状態となり易い。
【0017】
また、一般に、鉛の表面が有機系添加剤で覆われると、水素イオンの還元反応が起こり難くなるため、過充電電気量は減少する傾向にある。鉛の表面が有機系添加剤で覆われた状態になると、放電時に生成した硫酸鉛が充電時に溶出し難くなるため、充電受入性は低下する。そのため、充電受入性の低下抑制と、過充電電気量の低減とは、トレードオフの関係にあり、両立させることは従来困難であった。さらに、有機系添加剤が鉛の細孔内で偏在した状態となると、十分な過充電電気量の低減効果を確保するには、負極電極材料中の有機系添加剤の含有量を多くする必要がある。しかし、有機系添加剤の含有量を多くすると、充電受入性が大きく低下する。
【0018】
鉛の細孔内で有機系添加剤が偏在した状態になると、偏在した有機系添加剤の立体障害により、イオン(鉛イオンおよび硫酸イオンなど)の移動が阻害される。そのため、低温ハイレート(HR)放電性能も低下する。十分な過充電電気量の低減効果を確保するために、有機系添加剤の含有量を多くすると、細孔内におけるイオンの移動もさらに阻害され、低温HR放電性能も低下することになる。
【0019】
それに対し、本発明の一側面および他の側面に係る鉛蓄電池では、オキシC2-4アルキレンユニットを有するポリマー化合物を負極電極材料中に含有させることで、上述のように、薄く広がった状態のポリマー化合物で鉛表面が覆われることになる。そのため、他の有機系添加剤を用いる場合に比べて、負極電極材料中の含有量が少量でも、過充電電気量の優れた低減効果を確保することができる。また、ポリマー化合物は、鉛表面を薄く覆うため、放電時に生成する硫酸鉛の充電時における溶出が阻害され難くなり、これにより充電受入性の低下を抑制することもできる。よって、過充電電気量を低減しながら、充電受入性の低下を抑制することができる。鉛の細孔内におけるポリマー化合物の偏在が抑制されるため、イオンが移動し易くなり、低温HR放電性能の低下を抑制することもできる。
【0020】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池では、ポリマー化合物は、末端基に結合した酸素原子と、酸素原子に結合した-CH-基および/または-CH<基とを含んでもよい。H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の、このピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH-基の水素原子のピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合は、85%以上であることが好ましい。このようなポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを分子中に多く含む。そのため、鉛に吸着し易くなるとともに、線状構造を取り易いことで鉛表面を薄く覆い易くなると考えられる。よって、過充電電気量をより効果的に低減することができる。また、充電受入性および/または低温HR放電性能の低下抑制効果をさらに高めることができる。
【0021】
H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのケミカルシフトの範囲にピークを有するポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物を用いる場合、鉛に対してより吸着し易くなるくなるとともに、線状構造を取り易いことで鉛表面を薄く覆い易くなると考えられる。よって、過充電電気量をより効果的に低減することができる。また、充電受入性および/または低温HR放電性能の低下抑制効果をさらに高めることができる。
【0022】
本明細書中、ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し単位を有するか、および/または数平均分子量(Mn)が500以上であるものをいうものとする。
【0023】
なお、オキシC2-4アルキレンユニットは、-O-R-(RはC2-4アルキレン基を示す。)で表されるユニットである。
【0024】
ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物およびオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。ここで、ヒドロキシ化合物は、ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、およびポリオールのC2-4アルキレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも一種である。このようなポリマー化合物を用いる場合、充電受入性の低下をさらに抑制することができる。また、過充電電気量を低減する効果が高いため、水素ガス発生をより効果的に抑制できるとともに、高い減液抑制効果が得られる。
【0025】
オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造は、少なくともオキシプロピレンユニット(-O-CH(-CH)-CH-)の繰り返し構造を含んでもよい。このようなポリマー化合物は、鉛に対する高い吸着性を有しながらも、鉛表面に薄く広がり易く、これらのバランスに優れていると考えられる。よって、過充電電気量をより効果的に低減することができる。また、充電受入性および/または低温HR放電性能の低下抑制効果をさらに高めることができる。
【0026】
このようにポリマー化合物は、鉛に対する高い吸着性を有しながらも、鉛表面を薄く覆うことができるため、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量が少量(例えば、400ppm未満)であっても過充電電気量を低減することができる。また、含有量が少量でも十分な過充電電気量の低減効果を確保できるため、充電受入性の低下を抑制することもできる。鉛細孔内におけるポリマー化合物の立体障害を低減できるとともに、水素ガスの衝突に起因する負極活物質の構造変化も抑制できるため、高温軽負荷試験後であっても、低温HR放電性能の低下を抑制することもできる。より高い過充電電気量の低減効果を確保する観点からは、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量は、8ppmより多いことが好ましい。
【0027】
ポリマー化合物は、電解液中にも含まれていてもよい。電解液中のポリマー化合物の濃度は、質量基準で500ppm以下であってもよい。負極電極材料中のポリマー化合物の含有量は、質量基準で、8ppmより多く400ppm未満であってもよく、15ppm以上360ppm以下であってもよい。このように負極電極材料および電解液に含まれるポリマー化合物の量が少量の場合でも、過充電電気量を低減できるとともに、充電受入性および/または低温HR放電性能の低下を抑制することができる。
【0028】
ポリマー化合物は、少なくともMnが1000以上の化合物を含むことが好ましい。この場合、ポリマー化合物が負極電極材料中に留まり易いことに加え、鉛に対する吸着性が高まるため、過充電電気量を低減する効果がより高まる。また、過充電電気量を低減させることで、水素ガスが負極電極材料に衝突することに起因する負極活物質の構造変化も抑制することができる。よって、負極活物質の構造変化が起こりやすい高温軽負荷試験の後であっても、低温HR放電性能の低下を抑制する効果を高めることができる。
【0029】
また、電解液中のポリマー化合物の濃度が、100ppm以上である場合も好ましい。このとき、ポリマー化合物は、少なくともMnが1000以上5000以下の化合物を含むことが好ましい。Mnが5000以下のポリマー化合物は、電解液中に溶解し易く、電解液中を移動し易いため、負極電極材料中に移動して、過充電電気量を低減する効果をさらに高めることができる。水素ガスによる負極活物質の構造変化も抑制されるため、高温軽負荷試験後の低温HR放電性能の低下を抑制することもできる。Mnが1000以上のポリマー化合物では、鉛に対する吸着性がより高くなると考えられ、過充電電気量の低減効果をさらに高めることができる。鉛蓄電池を長期間使用すると負極活物質の構造変化が徐々に進行して、負極板からポリマー化合物が溶出し易くなる傾向がある。しかし、電解液がある程度の濃度のポリマー化合物を含むことで、負極板からのポリマー化合物の溶出を抑制することができ、負極電極材料中にポリマー化合物を保持できるとともに、電解液中からポリマー化合物を負極板に補充することができる。
【0030】
なお、ポリマー化合物を負極電極材料中に含有させることができればよく、負極電極材料に含まれるポリマー化合物の由来は特に制限されない。同様に、電解液中に含まれるポリマー化合物の由来も特に制限されない。ポリマー化合物は、鉛蓄電池を作製する際に、鉛蓄電池の構成要素(例えば、負極板、正極板、電解液、および/またはセパレータなど)のいずれに含有させてもよい。ポリマー化合物は、1つの構成要素に含有させてもよく、2つ以上の構成要素(例えば、負極板および電解液など)に含有させてもよい。
【0031】
負極電極材料は、さらに硫黄元素含有量が2000μmol/g以上の有機防縮剤(第1有機防縮剤)を含んでもよい。このような有機防縮剤とポリマー化合物とを併用する場合、充電受入性の低下をさらに抑制できる。充電受入性は、負極板における充電時の硫酸鉛の溶解速度に支配される。放電時に生成する硫酸鉛の粒子径は、放電量が同じ場合、第1有機防縮剤を用いると、硫黄元素含有量が小さい(例えば、2000μmol/g未満、好ましくは1000μmol/g以下の)有機防縮剤(第2有機防縮剤)を用いる場合に比べて小さくなり、硫酸鉛の比表面積が大きくなる。そのため、第1有機防縮剤を用いる場合には、第2有機防縮剤を用いる場合に比べて、硫酸鉛の表面がポリマー化合物により被覆される割合が小さくなる。そのため、硫酸鉛の溶解が阻害されにくくなり、充電受入性の低下が抑制されると考えられる。
【0032】
負極電極材料は、第2有機防縮剤を含んでもよい。第2有機防縮剤とポリマー化合物とを併用する場合、コロイドの粒子径を小さくすることができるため、低温HR放電性能の低下を抑制する効果をさらに高めることができる。
【0033】
負極電極材料は、第1有機防縮剤に加え、第2有機防縮剤を含んでもよい。第1有機防縮剤および第2有機防縮剤とポリマー化合物とを併用する場合、充電受入性の低下を抑制する効果を相乗的に高めることができる。第1有機防縮剤および第2有機防縮剤は、負極電極材料中で、それぞれ異種のコロイドを形成する。異種のコロイドが接する境界では、同種のコロイドが接する境界に比べてコロイド間の密着性が低い。そのため、鉛イオンが異種のコロイドが接する境界を透過し易い。これにより、硫酸鉛の溶解が進行し易くなる。その結果、充電受入性の低下抑制における相乗効果が得られると考えられる。
【0034】
第1有機防縮剤は、硫黄含有基を有する芳香族化合物のユニットを含む縮合物を含み、縮合物は、芳香族化合物のユニットとして、ビスアレーン化合物のユニットおよび単環式の芳香族化合物のユニットからなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。また、縮合物は、ビスアレーン化合物のユニットと、単環式の芳香族化合物のユニットとを含むものであってもよい。単環式の芳香族化合物のユニットは、ヒドロキシアレーン化合物のユニットを含んでもよい。このような縮合物は、常温より高い環境を経験しても、低温HR放電性能が損なわれないため、高温軽負荷試験後の低温HR放電性能の低下を抑制する上でより有利である。
【0035】
有機防縮剤中の硫黄元素の含有量がXμmol/gであるとは、有機防縮剤の1g当たりに含まれる硫黄元素の含有量がXμmolであることをいう。
【0036】
なお、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量、および電解液中のポリマー化合物の濃度は、それぞれ、満充電状態の鉛蓄電池について求めるものとする。
【0037】
鉛蓄電池は、制御弁式(密閉式)鉛蓄電池および液式(ベント式)鉛蓄電池のいずれでもでもよい。
【0038】
本明細書中、液式の鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2006の定義によって定められる。より具体的には、鉛蓄電池を、定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで充電した状態を満充電状態とする。また、制御弁式の鉛蓄電池の場合、満充電状態とは、25℃±2℃の気槽中で、定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流(A)が定格容量(Ah)に記載の数値の0.005倍になった時点で充電を終了した状態である。なお、定格容量として記載の数値は単位をAhとした数値である。定格容量として記載の数値を元に設定される電流の単位はAとする。
【0039】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電したものをいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0040】
本明細書中、数平均分子量Mnは、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められるものである。Mnを求める際に使用する標準物質は、ポリエチレングリコールとする。
【0041】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0042】
[鉛蓄電池]
(負極板)
負極板は、通常、負極電極材料に加え、負極集電体を備える。負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いたものである。なお、負極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は負極板と一体として使用されるため、負極板に含まれるものとする。また、負極板がこのような部材を含む場合には、負極電極材料は、負極集電体および貼付部材を除いたものである。ただし、セパレータにマットなどの貼付部材が貼り付けられている場合には、貼付部材の厚みは、セパレータの厚みに含まれる。
【0043】
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として負極格子を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0044】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、表面層を備えていてもよい。負極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、負極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、負極集電体の耳部に形成されていてもよい。耳部の表面層は、SnまたはSn合金を含有するものであってもよい。
【0045】
負極電極材料は、上記のポリマー化合物を含む。負極電極材料は、さらに、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含んでいる。負極電極材料は、防縮剤、炭素質材料、および/または他の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、硫酸バリウム、繊維(樹脂繊維など)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0046】
(ポリマー化合物)
ポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する。このようなポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを有する。オキシC2-4アルキレンユニットとしては、オキシエチレンユニット、オキシプロピレンユニット、オキシトリメチレンユニット、オキシ2-メチル-1,3-プロピレンユニット、オキシ1,4-ブチレンユニット、オキシ1,3-ブチレンユニットなどが挙げられる。ポリマー化合物は、このようなオキシC2-4アルキレンユニットを一種有していてもよく、二種以上有していてもよい。
【0047】
ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。繰り返し構造は、一種のオキシC2-4アルキレンユニットを含むものであってもよく、二種以上のオキシC2-4アルキレンユニットを含むものであってもよい。ポリマー化合物には、一種の上記繰り返し構造が含まれていてもよく、二種以上の繰り返し構造が含まれていてもよい。
【0048】
ポリマー化合物としては、例えば、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物(ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、ポリオールのC2-4アルキレンオキサイド付加物など)、これらのヒドロキシ化合物のエーテル化物またはエステル化物などが挙げられる。
【0049】
共重合体としては、異なるオキシC2-4アルキレンユニットを含む共重合体、ポリC2-4アルキレングリコールアルキルエーテル、カルボン酸のポリC2-4アルキレングリコールエステルなどが挙げられる。共重合体は、ブロック共重合体であってもよい。
【0050】
ポリオールは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール、芳香族ポリオール、および複素環式ポリオールなどのいずれであってもよい。ポリマー化合物が鉛表面に薄く広がり易い観点からは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール(例えば、ポリヒドロキシシクロヘキサン、ポリヒドロキシノルボルナンなど)などが好ましく、中でも脂肪族ポリオールが好ましい。脂肪族ポリオールとしては、例えば、脂肪族ジオール、トリオール以上のポリオール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、糖アルコールなど)などが挙げられる。脂肪族ジオールとしては、炭素数が5以上のアルキレングリコールなどが挙げられる。アルキレングリコールは、例えば、C5~14アルキレングリコールまたはC5-10アルキレングリコールであってもよい。糖アルコールとしては、例えば、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトールなどが挙げられる。ポリオールのアルキレンオキサイド付加物においては、アルキレンオキサイドは、ポリマー化合物のオキシC2-4アルキレンユニットに相当し、少なくともC2-4アルキレンオキサイドを含む。ポリマー化合物が線状構造を取りやすい観点からは、ポリオールはジオールであることが好ましい。
【0051】
エーテル化物は、上記のオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエーテル化された-OR基を有する(式中、Rは有機基である。)。ポリマー化合物の末端のうち、一部の末端がエーテル化されていてもよく、全ての末端がエーテル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-OR基であってもよい。
【0052】
エステル化物は、上記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエステル化された-O-C(=O)-R基を有する(式中、Rは有機基である。)。ポリマー化合物の末端のうち、一部の末端がエステル化されていてもよく、全ての末端がエステル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-O-C(=O)-R基であってもよい。
【0053】
有機基RおよびRのそれぞれとしては、炭化水素基が挙げられる。炭化水素基は、置換基(例えば、ヒドロキシ基、アルコキシ基、および/またはカルボキシ基など)を有するものであってもよい。炭化水素基は、脂肪族、脂環族、および芳香族のいずれであってもよい。芳香族炭化水素基および脂環族炭化水素基は、置換基として、脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基など)を有するものであってもよい。置換基としての脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、1~20であってもよく、1~10であってもよく、1~6または1~4であってもよい。
【0054】
芳香族炭化水素基としては、例えば、炭素数が24以下(例えば、6~24)の芳香族炭化水素基が挙げられる。芳香族炭化水素基の炭素数は、20以下(例えば、6~20)であってもよく、14以下(例えば、6~14)または12以下(例えば、6~12)であってもよい。芳香族炭化水素基としては、アリール基、ビスアリール基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。ビスアリール基としては、例えば、ビスアレーンに対応する一価基が挙げられる。ビスアレーンとしては、ビフェニル、ビスアリールアルカン(例えば、ビスC6-10アリールC1-4アルカン(2,2-ビスフェニルプロパンなど)など)が挙げられる。
【0055】
脂環族炭化水素基としては、例えば、炭素数が16以下の脂環族炭化水素基が挙げられる。脂環族炭化水素基は、架橋環式炭化水素基であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、10以下または8以下であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、例えば、5以上であり、6以上であってもよい。
【0056】
脂環族炭化水素基の炭素数は、5(または6)以上16以下、5(または6)以上10以下、あるいは5(または6)以上8以下であってもよい。
【0057】
脂環族炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基など)、シクロアルケニル基(シクロヘキセニル基、シクロオクテニル基など)などが挙げられる。脂環族炭化水素基には、上記の芳香族炭化水素基の水素添加物も包含される。
【0058】
鉛表面にポリマー化合物が薄く付着し易い観点からは、炭化水素基のうち、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ジエニル基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0059】
脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、30以下であり、26以下または22以下であってもよく、20以下または16以下であってもよく、14以下または10以下であってもよく、8以下または6以下であってもよい。炭素数の下限は、脂肪族炭化水素基の種類に応じて、アルキル基では1以上、アルケニル基およびアルキニル基では2以上、ジエニル基では3以上である。鉛表面にポリマー化合物が薄く付着し易い観点からは中でもアルキル基やアルケニル基が好ましい。
【0060】
アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、i-ペンチル、s-ペンチル、3-ペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル、n-オクチル、n-デシル、i-デシル、ラウリル、ミリスチル、セチル、ステアリル、ベヘニルなどが挙げられる。
【0061】
アルケニル基の具体例としては、ビニル、1-プロペニル、アリル、パルミトレイル、オレイルなどが挙げられる。アルケニル基は、例えば、C2-30アルケニル基またはC2-26アルケニル基であってもよく、C2-22アルケニル基またはC2-20アルケニル基であってもよく、C10-20アルケニル基であってもよい。
【0062】
ポリマー化合物のうち、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物および/またはオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物を用いると、充電受入性の低下抑制効果をさらに高めることができるため好ましい。また、これらのポリマー化合物を用いた場合にも高い減液抑制効果を確保することができる。
【0063】
負極電極材料は、ポリマー化合物を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0064】
過充電電気量の低減効果をさらに高めることができるとともに、充電受入性および/または低温HR放電性能の低下抑制効果を高める観点からは、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造が少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。オキシプロピレンユニットを含むポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm~3.8ppmの範囲に、オキシプロピレンユニットの-CH<および-CH-に由来するピークを有する。これらの基における水素原子の原子核の周囲の電子密度が異なるため、ピークがスプリットした状態となる。このようなポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、例えば、3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲と、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲とのそれぞれにピークを有する。3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲のピークは、-CH-に由来し、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲のピークは、-CH<および-CH-に由来する。
【0065】
このようなポリマー化合物としては、ポリプロピレングリコール、オキシプロピレンの繰り返し構造を含む共重合体、上記ポリオールのプロピレンオキサイド付加物、またはこれらのエーテル化物もしくはエステル化物などが挙げられる。共重合体としては、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体(ただし、オキシアルキレンは、オキシプロピレン以外のC2-4アルキレン)、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル、カルボン酸のポリプロピレングリコールエステルなどが挙げられる。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体としては、オキシプロピレン-オキシエチレン共重合体、オキシプロピレン-オキシトリメチレン共重合体などが例示される。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体は、ブロック共重合体であってもよい。
【0066】
オキシプロピレンの繰り返し構造を含むポリマー化合物において、オキシプロピレンユニットの割合は、例えば、5mol%以上であり、10mol%以上または20mol%以上であってもよい。
【0067】
鉛に対する吸着性が高まるとともに、線状構造を取り易くなる観点から、ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットを多く含むことが好ましい。このようなポリマー化合物は、例えば、末端基に結合した酸素原子と、酸素原子に結合した-CH-基および/または-CH<基とを含んでいる。ポリマー化合物のH-NMRスペクトルでは、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の、このピークの積分値と、-CH-基の水素原子のピークの積分値と、-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合が大きくなる。この割合は、例えば、50%以上であり、80%以上であってもよい。過充電電気量の低減効果がさらに高まるとともに、充電受入性および/または低温HR放電性能の低下抑制効果がさらに高まる観点からは、上記の割合は、85%以上が好ましく、90%以上であることがより好ましい。例えば、ポリマー化合物が末端に-OH基を有するとともに、この-OH基の酸素原子に結合した-CH-基や-CH<基を有する場合、H-NMRスペクトルにおいて、-CH-基や-CH<基の水素原子のピークは、ケミカルシフトが3.8ppmを超え4.0ppm以下の範囲にある。
【0068】
ポリマー化合物は、Mnが500以上の化合物を含んでもよく、Mnが600以上の化合物を含んでもよく、Mnが1000以上の化合物を含んでもよい。このような化合物のMnは、例えば、20000以下であり、15000以下または10000以下であってもよい。負極電極材料中に化合物を保持させ易く、鉛表面により薄く広がり易い観点からは、上記化合物のMnは、5000以下が好ましく、4000以下または3000以下であってもよい。
【0069】
上記の化合物のMnは、500以上(または600以上)20000以下、500以上(または600以上)15000以下、500以上(または600以上)10000以下、500以上(または600以上)5000以下、500以上(または600以上)4000以下、500以上(または600以上)3000以下、1000以上20000以下(または15000以下)、1000以上10000以下(または5000以下)、あるいは1000以上4000以下(または3000以下)であってもよい。
【0070】
ポリマー化合物は、少なくともMnが1000以上の化合物を含むことが好ましい。このような化合物のMnは、1000以上20000以下であってもよく、1000以上15000以下であってもよく、1000以上10000以下であってもよい。負極電極材料中に化合物を保持させ易く、鉛表面により薄く広がり易い観点からは、上記化合物のMnは、1000以上5000以下が好ましく、1000以上4000以下であってもよく、1000以上3000以下であってもよい。このようなMnを有する化合物を用いる場合、過充電電気量をより容易に低減させることができる。また、過充電電気量を低減させることで、水素ガスが負極活物質に衝突することに起因する負極活物質の構造変化も抑制することができる。よって、高温軽負荷試験後の低温HR放電性能の低下を抑制する効果を高めることもできる。上記のようなMnを有する化合物は、電解液中に含まれる場合でも負極電極材料中に移動し易いため、負極電極材料中に化合物を補充することができ、このような観点からも負極電極材料中に化合物を保持させ易い。ポリマー化合物としては、Mnが異なる2種以上の化合物を用いてもよい。つまり、ポリマー化合物は、分子量の分布において、Mnのピークを複数有するものであってもよい。
【0071】
負極電極材料中のポリマー化合物の含有量は、質量基準で、例えば8ppmより多く、13ppm以上が好ましく、15ppm以上または16ppm以上がより好ましい。ポリマー化合物の含有量がこのような範囲である場合、水素発生電圧をより高め易く、過充電電気量を低減する効果をさらに高めることができる。より高い低温HR放電性能を確保し易い観点からは、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量(質量基準)は、50ppm以上または80ppm以上であってもよい。負極電極材料中のポリマー化合物の含有量(質量基準)は、例えば400ppm未満であり、360ppm以下が好ましく、350ppm以下がより好ましい。ポリマー化合物の含有量が400ppm以下である場合、鉛の表面がポリマー化合物で過度に覆われることが抑制されるため、低温HR放電性能の低下を効果的に抑制できる。より高い低温HR放電性能を確保し易い観点からは、ポリマー化合物の含有量(質量基準)は、240ppm以下が好ましく、200ppm以下がより好ましく、165ppm以下または164ppm以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは、任意に組み合わせることができる。
【0072】
ポリマー化合物の含有量(質量基準)は、8ppmを超え(または13ppm以上)400ppm未満、8ppmを超え(または13ppm以上)360ppm以下、8ppmを超え(または13ppm以上)350ppm以下、8ppmを超え(または13ppm以上)240ppm以下、8ppmを超え(または13ppm以上)200ppm以下、8ppmを超え(または13ppm以上)165ppm以下、8ppmを超え(または13ppm以上)164ppm以下、15ppm以上(または16ppm以上)400ppm未満、15ppm以上(または16ppm以上)360ppm以下、15ppm以上(または16ppm以上)350ppm以下、15ppm以上(または16ppm以上)240ppm以下、15ppm以上(または16ppm以上)200ppm以下、15ppm以上(または16ppm以上)165ppm以下、15ppm以上(または16ppm以上)164ppm以下、50ppm以上(または80ppm以上)400ppm未満、50ppm以上(または80ppm以上)360ppm以下、50ppm以上(または80ppm以上)350ppm以下、50ppm以上(または80ppm以上)240ppm以下、50ppm以上(または80ppm以上)200ppm以下、50ppm以上(または80ppm以上)165ppm以下、もしくは50ppm以上(または80ppm以上)164ppm以下であってもよい。
【0073】
(防縮剤)
負極電極材料は、防縮剤を含むことができる。防縮剤としては、有機防縮剤が好ましい。有機防縮剤には、リグニン類および/または合成有機防縮剤を用いてもよい。リグニン類としては、リグニン、リグニン誘導体などが挙げられる。リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸またはその塩(アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)など)などが挙げられる。有機防縮剤は、通常、リグニン類と合成有機防縮剤とに大別される。合成有機防縮剤は、リグニン類以外の有機防縮剤であるとも言える。合成有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子であり、一般に、分子内に複数の芳香環を含むとともに、硫黄含有基として硫黄元素を含んでいる。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。負極電極材料は、防縮剤を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0074】
有機防縮剤としては、少なくとも芳香族化合物のユニットを含む縮合物を用いることが好ましい。このような縮合物としては、例えば、芳香族化合物の、アルデヒド化合物(アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)および/またはその縮合物など)による縮合物が挙げられる。有機防縮剤は、一種の芳香族化合物のユニットを含んでもよく、二種以上の芳香族化合物のユニットを含んでいてもよい。
なお、芳香族化合物のユニットとは、縮合物に組み込まれた芳香族化合物に由来するユニットを言う。
【0075】
有機防縮剤としては、公知の方法により合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。芳香族化合物のユニットを含む縮合物は、例えば、芳香族化合物と、アルデヒド化合物とを反応させることにより得られる。例えば、この反応を亜硫酸塩の存在下で行ったり、硫黄元素を含む芳香族化合物(例えば、ビスフェノールSなど)を用いたりすることで、硫黄元素を含む有機防縮剤を得ることができる。例えば、亜硫酸塩の量および/または硫黄元素を含む芳香族化合物の量を調節することで、有機防縮剤中の硫黄元素含有量を調節することができる。他の原料を用いる場合も、この方法に準じて得ることができる。
【0076】
芳香族化合物が有する芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。芳香族化合物が複数の芳香環を有する場合には、複数の芳香環は直接結合や連結基(例えば、アルキレン基(アルキリデン基を含む)、スルホン基など)などで連結していてもよい。このような構造としては、例えば、ビスアレーン構造(ビフェニル、ビスフェニルアルカン、ビスフェニルスルホンなど)が挙げられる。芳香族化合物としては、例えば、上記の芳香環と、ヒドロキシ基および/またはアミノ基とを有する化合物が挙げられる。ヒドロキシ基やアミノ基は、芳香環に直接結合していてもよく、ヒドロキシ基やアミノ基を有するアルキル鎖として結合していてもよい。なお、ヒドロキシ基には、ヒドロキシ基の塩(-OMe)も包含される。アミノ基には、アミノ基の塩(アニオンとの塩)も包含される。Meとしては、アルカリ金属(Li、K、Naなど)、周期表第2族金属(Ca、Mgなど)などが挙げられる。
【0077】
芳香族化合物としては、ビスアレーン化合物[ビスフェノール化合物、ヒドロキシビフェニル化合物、アミノ基を有するビスアレーン化合物(アミノ基を有するビスアリールアルカン化合物、アミノ基を有するビスアリールスルホン化合物、アミノ基を有するビフェニル化合物など)、ヒドロキシアレーン化合物(ヒドロキシナフタレン化合物、フェノール化合物など)、アミノアレーン化合物(アミノナフタレン化合物、アニリン化合物(アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸など)など)など]が好ましい。芳香族化合物は、さらに置換基を有していてもよい。有機防縮剤は、これらの化合物の残基を一種含んでもよく、複数種含んでもよい。ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどが好ましい。
【0078】
縮合物は、少なくとも硫黄含有基を有する芳香族化合物のユニットを含むことが好ましい。中でも、硫黄含有基を有するビスフェノール化合物のユニットを少なくとも含む縮合物を用いると、高温軽負荷試験後の低温HR放電性能の低下を抑制する効果を高めることができる。この場合に限らず、硫黄含有基を有するとともに、ヒドロキシ基および/またはアミノ基を有するナフタレン化合物のアルデヒド化合物による縮合物を用いてもよい。
【0079】
硫黄含有基は、化合物に含まれる芳香環に直接結合していてもよく、例えば、硫黄含有基を有するアルキル鎖として芳香環に結合していてもよい。硫黄含有基としては、特に制限されないが、例えば、スルホニル基、スルホン酸基またはその塩などが挙げられる。
【0080】
また、有機防縮剤として、例えば、上記のビスアレーン化合物のユニットおよび単環式の芳香族化合物(ヒドロキシアレーン化合物、および/またはアミノアレーン化合物など)のユニットからなる群より選択される少なくとも一種を含む縮合物を少なくとも用いてもよい。有機防縮剤は、ビスアレーン化合物のユニットと単環式芳香族化合物(中でも、ヒドロキシアレーン化合物)のユニットとを含む縮合物を少なくとも含んでもよい。このような縮合物としては、ビスアレーン化合物と単環式の芳香族化合物との、アルデヒド化合物による縮合物が挙げられる。ヒドロキシアレーン化合物としては、フェノールスルホン酸化合物(フェノールスルホン酸またはその置換体など)が好ましい。アミノアレーン化合物としては、アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸などが好ましい。単環式の芳香族化合物としては、ヒドロキシアレーン化合物が好ましい。
【0081】
負極電極材料は、上記の有機防縮剤のうち、例えば、硫黄元素含有量が2000μmol/g以上の第1有機防縮剤を含んでもよい。第1有機防縮剤としては、上記の合成有機防縮剤(上記の縮合物など)などが挙げられる。
【0082】
第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、2000μmol/g以上であればよく、3000μmol/g以上が好ましい。有機防縮剤の硫黄元素含有量の上限は特に制限されないが、減液を抑制する効果が高まる観点からは、9000μmol/g以下が好ましく、8000μmol/g以下または7000μmol/g以下がより好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。このような有機防縮剤とポリマー化合物とを組み合わせることで、充電時の硫酸鉛の溶解が阻害されにくくなるため、充電受入性の低下を抑制できる。
【0083】
第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、例えば、2000μmol/g以上(または3000μmol/g以上)9000μmol/g以下、2000μmol/g以上(または3000μmol/g以上)8000μmol/g以下、もしくは2000μmol/g以上(または3000μmol/g以上)7000μmol/g以下であってもよい。
【0084】
第1有機防縮剤の重量平均分子量(Mw)は、例えば、7000以上であることが好ましい。第1有機防縮剤のMwは、例えば、100,000以下であり、20,000以下であってもよい。
【0085】
なお、本明細書中、有機防縮剤のMwは、GPCにより求められるものである。Mwを求める際に使用する標準物質は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムとする。
Mwは、下記の装置を用い、下記の条件で測定される。
GPC装置:ビルドアップGPCシステムSD-8022/DP-8020/AS-8020/CO-8020/UV-8020 (東ソー(株)製)
カラム:TSKgel G4000SWXL,G2000SWXL(7.8mmI.D.×30cm)(東ソー(株)製)
検出器:UV検出器、λ=210nm
溶離液:濃度1mol/LのNaCl水溶液:アセトニトリル(体積比=7:3)の混合溶液
流速:1mL/min.
濃度:10mg/mL
注入量:10μL
標準物質:ポリスチレンスルホン酸Na(Mw=275,000、35,000、12,500、7,500、5,200、1,680)
【0086】
負極電極材料は、例えば、硫黄元素含有量が2000μmol/g未満の第2有機防縮剤を含むことができる。第2有機防縮剤としては、上記の有機防縮剤のうち、リグニン類、合成有機防縮剤(特に、リグニン類)などが挙げられる。第2有機防縮剤の硫黄元素含有量は、1000μmol/g以下が好ましく、800μmol/g以下であってもよい。第2有機防縮剤中の硫黄元素含有量の下限は特に制限されないが、例えば、400μmol/g以上である。第2有機防縮剤とポリマー化合物とを併用することで、コロイドの粒子径を小さくすることができるため、低温HR放電性能の低下を抑制する効果をさらに高めることができる。
【0087】
第2有機防縮剤のMwは、例えば、7000未満である。第2有機防縮剤のMwは、例えば、3000以上である。
【0088】
第1有機防縮剤と第2有機防縮剤とを併用する場合、これらの質量比は任意に選択できる。充電受入性の低下抑制における相乗効果を確保し易い観点からは、第1有機防縮剤と第2有機防縮剤との総量に占める第1有機防縮剤の比率は、20質量%以上が好ましく、25質量%以上であってもよい。同様の観点から、第1有機防縮剤と第2有機防縮剤との総量に占める第1有機防縮剤の比率は、80質量%以下が好ましく、75質量%以下であってもよい。
【0089】
第1有機防縮剤と第2有機防縮剤との総量に占める第1有機防縮剤の比率は、20質量%以上80質量%以下(または75質量%以下)、もしくは25質量%以上80質量%以下(または75質量%以下)であってもよい。
【0090】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば、0.01質量%以上であり、0.05質量%以上であってもよい。有機防縮剤の含有量は、例えば、1.0質量%以下であり、0.5質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0091】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、0.01質量%以上1.0質量%以下、0.05質量%以上1.0質量%以下、0.01質量%以上0.5質量%以下、または0.05質量%以上0.5質量%以下であってもよい。
【0092】
(炭素質材料)
負極電極材料中に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素質材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。炭素質材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせてもよい。
【0093】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。炭素質材料の含有量は、例えば5質量%以下であり、3質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0094】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、0.05質量%以上5質量%以下、0.05質量%以上3質量%以下、0.10質量%以上5質量%以下、または0.10質量%以上3質量%以下であってもよい。
【0095】
(硫酸バリウム)
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、3質量%以下であり、2質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0096】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上3質量%以下、0.05質量%以上2質量%以下、0.10質量%以上3質量%以下、または0.10質量%以上2質量%以下であってもよい。
【0097】
(負極電極材料の構成成分の分析)
以下に、負極電極材料またはその構成成分の分析方法について説明する。分析に先立ち、化成後の鉛蓄電池を満充電してから解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板を水洗し、負極板から硫酸分を除去する。水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した負極板は、減圧環境下、60±5℃で6時間程度乾燥する。乾燥後に添付部材が含まれる場合には剥離により負極板から添付部材が除去される。次に、負極板から負極電極材料を分離することにより試料(以下、試料Aと称する。)を得る。試料Aは、必要に応じて粉砕され、分析に供される。
【0098】
(1)ポリマー化合物の分析
(1-1)ポリマー化合物の定性分析
粉砕した100.0±0.1gの試料Aに150.0±0.1mLのクロロホルムを加え、20±5℃で16時間撹拌し、ポリマー化合物を抽出する。その後、ろ過によって固形分を除く。抽出により得られるポリマー化合物が溶解したクロロホルム溶液またはクロロホルム溶液を乾固することにより得られるポリマー化合物について、赤外分光スペクトル、紫外可視吸収スペクトル、NMRスペクトル、LC-MSおよび/または熱分解GC-MSなどから情報を得ることで、ポリマー化合物を特定する。
【0099】
抽出により得られるポリマー化合物が溶解したクロロホルム溶液から、クロロホルムを減圧下で留去することによりクロロホルム可溶分を回収する。クロロホルム可溶分を重クロロホルムに溶解させて、下記の条件でH-NMRスペクトルを測定する。このH-NMRスペクトルから、ケミカルシフトが3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲のピークを確認する。また、この範囲のピークから、オキシC2-4アルキレンユニットの種類を特定する。
【0100】
装置:日本電子(株)製、AL400型核磁気共鳴装置
観測周波数:395.88MHz
パルス幅:6.30μs
パルス繰り返し時間:74.1411秒
積算回数:32
測定温度:室温(20~35℃)
基準:7.24ppm
試料管直径:5mm
【0101】
H-NMRスペクトルから、ケミカルシフトが3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲に存在するピークの積分値(V)を求める。また、ポリマー化合物の末端基に結合した酸素原子に対して結合した-CH-基および-CH<基の水素原子のそれぞれについて、H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値の合計(V)を求める。そして、VおよびVから、VがVおよびVの合計に占める割合(=V/(V+V)×100(%))を求める。
【0102】
なお、定性分析で、H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値を求める際には、H-NMRスペクトルにおいて、該当するピークを挟むように有意なシグナルがない2点を決定し、この2点間を結ぶ直線をベースラインとして各積分値を算出する。例えば、ケミカルシフトが3.2ppm~3.8ppmの範囲に存在するピークについては、スペクトルにおける3.2ppmと3.8ppmとの2点間を結ぶ直線をベースラインとする。例えば、ケミカルシフトが3.8ppmを超え4.0ppm以下の範囲に存在するピークについては、スペクトルにおける3.8ppmと4.0ppmとの2点間を結ぶ直線をベースラインとする。
【0103】
(1-2)ポリマー化合物の定量分析
上記のクロロホルム可溶分の適量を、±0.0001gの精度で測定したm(g)のテトラクロロエタン(TCE)と共に重クロロホルムに溶解させて、H-NMRスペクトルを測定する。ケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲に存在するピークの積分値(S)とTCEに由来するピークの積分値(S)を求め、以下の式から負極電極材料中のポリマー化合物の質量基準の含有量C(ppm)を求める。
【0104】
=S/S×N/N×M/M×m/m×1000000
(式中、Mはケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲にピークを示す構造の分子量(より具体的には、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造の分子量)であり、Nは繰り返し構造の主鎖の炭素原子に結合した水素原子の数である。Nr、はそれぞれ基準物質の分子に含まれる水素数、基準物質の分子量であり、m(g)は抽出に使用した負極電極材料の質量である。)
なお、本分析での基準物質はTCEであるため、N=2、M=168である。また、m=100である。
【0105】
例えば、ポリマー化合物がポリプロピレングリコールの場合、Mは58であり、Nは3である。ポリマー化合物がポリエチレングリコールの場合、Mは44であり、Nは4である。共重合体の場合には、Nは、各モノマー単位のN値を繰り返し構造に含まれる各モノマー単位のモル比率(モル%)を用いて平均化した値であり、Mは各モノマー単位の種類に応じて決定される。
【0106】
なお、定量分析では、H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値は、日本電子(株)製のデータ処理ソフト「ALICE」を用いて求める。
【0107】
(1-3)ポリマー化合物のMn測定
ポリマー化合物のGPC測定を、下記の装置を用い、下記の条件で行う。別途、標準物質のMnと溶出時間のプロットから校正曲線(検量線)を作成する。この検量線およびポリマー化合物のGPC測定結果に基づき、ポリマー化合物のMnを算出する。
【0108】
分析システム:20A system((株)島津製作所製)
カラム:GPC KF-805L(Shodex社製)2本を直列接続
カラム温度:30℃
移動相:テトラヒドロフラン
流速:1mL/min.
濃度:0.20質量%
注入量:10μL
標準物質:ポリエチレングリコール(Mn=200,0000、20,0000、20,000、2,000、200)
検出器:示差屈折率検出器(Shodex社製、Shodex RI-201H)
【0109】
(2)有機防縮剤の分析
(2-1)負極電極材料中の有機防縮剤の定性分析
試料Aを1mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。次に、抽出物から、第1有機防縮剤と第2有機防縮剤とを分離する。各有機防縮剤を含む分離物のそれぞれについて、不溶成分を濾過で取り除き、得られた溶液を脱塩した後、濃縮し、乾燥する。脱塩は、脱塩カラムを用いて行うか、溶液をイオン交換膜に通すことにより行うか、もしくは、溶液を透析チューブに入れて蒸留水中に浸すことにより行なう。これを乾燥することにより有機防縮剤の粉末試料(以下、粉末試料Bとも称する。)が得られる。
【0110】
このようにして得た有機防縮剤の粉末試料を用いて測定した赤外分光スペクトルや、粉末試料を蒸留水等で希釈し、紫外可視吸光度計で測定した紫外可視吸収スペクトル、重水等の所定の溶媒で溶解し、得られた溶液のNMRスペクトルなどから得た情報を組み合わせて用いて、有機防縮剤種を特定する。
【0111】
なお、上記抽出物からの第1有機防縮剤と第2有機防縮剤との分離は、次のようにして行なう。まず、上記抽出物を、赤外分光、NMR、および/またはGC-MSで測定することにより、複数種の有機防縮剤が含まれているかどうかを判断する。次いで、上記抽出物のGPC分析により分子量分布を測定し、複数種の有機防縮剤が分子量により分離可能であれば、分子量の違いに基づいて、カラムクロマトグラフィーにより有機防縮剤を分離する。分子量の違いによる分離が難しい場合には、有機防縮剤が有する官能基の種類および/または官能基の量により異なる溶解度の違いを利用して、沈殿分離法により一方の有機防縮剤を分離する。具体的には、上記抽出物をNaOH水溶液に溶解させた混合物に、硫酸水溶液を滴下して、混合物のpHを調節することにより、一方の有機防縮剤を凝集させ、分離する。分離物を再度NaOH水溶液に溶解させたものから上記のように不溶成分を濾過により取り除く。また、一方の有機防縮剤を分離した後の残りの溶液を、濃縮する。得られた濃縮物は、他方の有機防縮剤を含んでおり、この濃縮物から上記のように不溶成分を濾過により取り除く。
【0112】
(2-2)負極電極材料中における有機防縮剤の含有量の定量
上記(2-1)と同様に、有機防縮剤を含む分離物のそれぞれについて不溶成分を濾過で取り除いた後の溶液を得る。得られた各溶液について、紫外可視吸収スペクトルを測定する。各有機防縮剤に特徴的なピークの強度と、予め作成した検量線とを用いて、負極電極材料中の各有機防縮剤の含有量を求める。
【0113】
なお、有機防縮剤の含有量が未知の鉛蓄電池を入手して有機防縮剤の含有量を測定する際に、有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができないために検量線に同一の有機防縮剤が使用できないことがある。この場合には、当該電池の負極から抽出した有機防縮剤と、紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、およびNMRスペクトルなどが類似の形状を示す、別途入手可能な有機高分子を使用して検量線を作成することで、紫外可視吸収スペクトルを用いて有機防縮剤の含有量を測定するものとする。
【0114】
(2-3)有機防縮剤中の硫黄元素の含有量
上記(2-1)と同様に、有機防縮剤の粉末試料を得た後、酸素燃焼フラスコ法によって、0.1gの有機防縮剤中の硫黄元素を硫酸に変換する。このとき、吸着液を入れたフラスコ内で粉末試料を燃焼させることで、硫酸イオンが吸着液に溶け込んだ溶出液を得る。次に、トリン(thorin)を指示薬として、溶出液を過塩素酸バリウムで滴定することにより、0.1gの有機防縮剤中の硫黄元素の含有量(C1)を求める。次に、C1を10倍して1g当たりの有機防縮剤中の硫黄元素の含有量(μmol/g)を算出する。
【0115】
(3)炭素質材料と硫酸バリウムの定量
未粉砕の試料Aを粉砕し、粉砕された試料A10gに対し、20%質量濃度硝酸を50ml加え、約20分加熱し、鉛成分を硝酸鉛として溶解させる。次に、硝酸鉛を含む溶液を濾過して、炭素質材料、硫酸バリウム等の固形分を濾別する。
【0116】
得られた固形分を水中に分散させて分散液とした後、篩いを用いて分散液から炭素質材料および硫酸バリウム以外の成分(例えば補強材)を除去する。次に、分散液に対し、予め質量を測定したメンブレンフィルタを用いて吸引ろ過を施し、濾別された試料とともにメンブレンフィルタを110℃±5℃の乾燥器で乾燥する。濾別された試料は、炭素質材料と硫酸バリウムとの混合試料である。乾燥後の混合試料とメンブレンフィルタとの合計質量からメンブレンフィルタの質量を差し引いて、混合試料の質量(M)を測定する。その後、乾燥後の混合試料をメンブレンフィルタとともに坩堝に入れ、700℃以上で灼熱灰化させる。残った残渣は酸化バリウムである。酸化バリウムの質量を硫酸バリウムの質量に変換して硫酸バリウムの質量(M)を求める。質量Mから質量Mを差し引いて炭素質材料の質量を算出する。
【0117】
(その他)
負極板は、負極集電体に負極ペーストを塗布または充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と有機防縮剤および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成する際には、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0118】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0119】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板は、ペースト式、クラッド式などに分類できる。ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。ペースト式正極板では、正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いたものである。正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、複数の芯金を連結する集電部と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。クラッド式正極板では、正極電極材料は、チューブ、芯金、集電部、および連座を除いたものである。クラッド式正極板では、芯金と集電部とを合わせて正極集電体と称する場合がある。
【0120】
正極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は正極板と一体として使用されるため、正極板に含まれるものとする。また、正極板がこのような部材を含む場合には、正極電極材料は、ペースト式正極板では、正極板から正極集電体および貼付部材を除いたものである。
【0121】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、表面層を備えていてもよい。正極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、正極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、正極集電体の格子部分のみや、耳部分のみ、枠骨部分のみに形成されていてもよい。
【0122】
正極板に含まれる正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0123】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、および硫酸を混練することで調製される。未化成のクラッド式正極板は、集電部で連結された芯金が挿入された多孔質なチューブに鉛粉またはスラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。その後、これらの未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0124】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0125】
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、セパレータを配置することができる。セパレータとしては、不織布、および/または微多孔膜などが用いられる。負極板と正極板との間に介在させるセパレータの厚さや枚数は、極間距離に応じて選択すればよい。
【0126】
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。不織布は、例えば、不織布の60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル繊維など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分、例えば耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよい。
【0127】
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤(ポリマー粉末および/またはオイルなど)を含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とするものが好ましい。ポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0128】
セパレータは、例えば、不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
【0129】
セパレータは、シート状であってもよく、袋状に形成されていてもよい。正極板と負極板との間に1枚のシート状のセパレータを挟むように配置してもよい。また、折り曲げた状態の1枚のシート状のセパレータで極板を挟むように配置してもよい。この場合、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ正極板と、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ負極板とを重ねてもよく、正極板および負極板の一方を折り曲げたシート状のセパレータで挟み、他方の極板と重ねてもよい。また、シート状のセパレータを蛇腹状に折り曲げ、正極板および負極板を、これらの間にセパレータが介在するように、蛇腹状のセパレータに挟み込んでもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータを用いる場合、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が水平方向と平行になるように)セパレータを配置してもよく、鉛直方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が鉛直方向と平行になるように)セパレータを配置してもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータでは、セパレータの両方の主面側に交互に凹部が形成されることになる。正極板や負極板の上部には通常耳部が形成されているため、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うようにセパレータを配置する場合、セパレータの一方の主面側の凹部のみに正極板および負極板が配置される(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、二重のセパレータが介在した状態となる)。折り曲げ部が鉛蓄電池の鉛直方向に沿うようにセパレータを配置する場合、一方の主面側の凹部に正極板を収容し、他方の主面側の凹部に負極板を収容することができる(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、セパレータが一重に介在した状態とすることができる。)。袋状のセパレータを用いる場合、袋状のセパレータが正極板を収容していてもよいし、負極板を収容してもよい。
【0130】
なお、本明細書中、極板における上下方向は、鉛蓄電池の鉛直方向における上下方向を意味する。
【0131】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。
電解液には、上記のポリマー化合物が含まれていてもよい。
【0132】
電解液中のポリマー化合物の濃度は、質量基準で、例えば、500ppm以下であってもよく、300ppm以下または200ppm以下であってもよい。このように電解液に含まれるポリマー化合物の量が少量の場合でも、過充電電気量を低減できるとともに、充電受入性および低温HR放電性能の低下を抑制することができる。電解液中のポリマー化合物の濃度は、質量基準で、1ppm以上であってもよく、5ppm以上であってもよい。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。
【0133】
電解液中のポリマー化合物の濃度は、質量基準で、1ppm以上500ppm以下、1ppm以上300ppm以下、1ppm以上200ppm以下、5ppm以上500ppm以下、5ppm以上300ppm以下、または5ppm以上200ppm以下であってもよい。
【0134】
電解液中のポリマー化合物の濃度は、質量基準で、例えば、100ppm以上であってもよく、200ppm以上または500ppm以上であってもよく、500ppmより高くてもよく、600ppm以上であってもよい。ポリマー化合物は、少なくともMnが1000以上5000以下(例えば、4000以下または3000以下)の化合物を含むことが好ましい。負極電極材料にポリマー化合物が含まれるとともに、電解液がある程度の濃度のポリマー化合物を含むことで、負極板からのポリマー化合物の溶出を抑制することができるとともに、電解液中からポリマー化合物を負極板に補充することができる。
【0135】
電解液中のポリマー化合物の濃度は、質量基準で、例えば、5000ppm以下であり、4000ppm以下であってもよく、3000ppm以下であってもよく、2500ppm以下または2400ppm以下であってもよい。
【0136】
電解液中のポリマー化合物の濃度は、質量基準で、100ppm以上(または200ppm以上)5000ppm以下、100ppm以上(または200ppm以上)4000ppm以下、100ppm以上(または200ppm以上)3000ppm以下、100ppm以上(または200ppm以上)2500ppm以下、100ppm以上(または200ppm以上)2400ppm以下、500ppm以上(または500ppmより高く)5000ppm以下、500ppm以上(または500ppmより高く)4000ppm以下、500ppm以上(または500ppmより高く)3000ppm以下、500ppm以上(または500ppmより高く)2500ppm以下、500ppm以上(または500ppmより高く)2400ppm以下、600ppm以上5000ppm以下(または4000ppm以下)、600ppm以上3000ppm以下(または2500ppm以下)、あるいは600ppm以上2400ppm以下であってもよい。
【0137】
電解液中のポリマー化合物の濃度は、既化成の満充電状態の鉛蓄電池から取り出した所定量(m(g))の電解液にクロロホルムを加えて混合し、静置して二層に分離させた後、クロロホルム層のみを取り出す。この作業を数回繰り返した後、クロロホルムを減圧下で留去し、クロロホルム可溶分を得る。クロロホルム可溶分の適量をTCE0.0212±0.0001gと共に重クロロホルムに溶解させて、H-NMRスペクトルを測定する。ケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲に存在するピークの積分値(S)とTCEに由来するピークの積分値(S)を求め、以下の式から電解液中のポリマー化合物の含有量Cを求める。
=S/S×N/N×M/M×m/m×1000000
(式中、MおよびNは、それぞれ前記に同じ。)
【0138】
電解液は、必要に応じて、カチオン(例えば、ナトリウムイオン、リチウムイオン、マグネシウムイオン、および/またはアルミニウムイオンなどの金属カチオン)、および/またはアニオン(例えば、リン酸イオンなどの硫酸アニオン以外のアニオン)を含んでいてもよい。
【0139】
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.20以上であり、1.25以上であってもよい。電解液の20℃における比重は、1.35以下であり、1.32以下であることが好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。電解液の20℃における比重は、1.20以上1.35以下、1.20以上1.32以下、1.25以上1.35以下、または1.25以上1.32以下であってもよい。
【0140】
鉛蓄電池は、電槽に、正極板、負極板、および電解液を収容することにより鉛蓄電池を組み立てる工程を含む製造方法により得ることができる。鉛蓄電池の組み立て工程において、セパレータは、通常、正極板と負極板との間に介在するように配置される。鉛蓄電池の組み立て工程は、正極板、負極板、および電解液を電槽に収容する工程の後、必要に応じて、正極板および/または負極板を化成する工程を含んでもよい。正極板、負極板、電解液、およびセパレータは、それぞれ、電槽に収容される前に準備される。
【0141】
図1に、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0142】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0143】
正極棚部5は、各正極板3の上部に設けられた耳部同士をキャストオンストラップ方式やバーニング方式で溶接することにより形成される。負極棚部6も、正極棚部5の場合に準じて各負極板2の上部に設けられた耳部同士を溶接することにより形成される。
【0144】
なお、鉛蓄電池の蓋15は、一重構造(単蓋)であるが、図示例の場合に限らない。蓋15は、例えば、中蓋と外蓋(または上蓋)とを備える二重構造を有するものであってもよい。二重構造を有する蓋は、中蓋と外蓋との間に、中蓋に設けられた還流口から電解液を電池内(中蓋の内側)に戻すための還流構造を備えるものであってもよい。
【0145】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
(1)正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、ポリマー化合物を含み、
前記ポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する、鉛蓄電池。
【0146】
(2)上記(1)において、前記ポリマー化合物は、末端基に結合した酸素原子と、前記酸素原子に結合した-CH-基および/または-CH<基とを含み、前記H-NMRスペクトルにおいて、前記ピークの積分値の、前記ピークの積分値と前記-CH-基の水素原子のピークの積分値と前記-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合は、50%以上、80%以上、85%以上、または90%以上であってもよい。
【0147】
(3)上記(1)または(2)において、前記ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含んでもよい。
【0148】
(4)正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物を含む、鉛蓄電池。
【0149】
(5)上記(3)または(4)において、前記ポリマー化合物は、前記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物および前記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記ヒドロキシ化合物は、ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、およびポリオールのC2-4アルキレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
【0150】
(6)正極板と、負極板と、電解液と、を備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、ポリマー化合物を含み、
前記ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物およびオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記ヒドロキシ化合物は、ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、およびポリオールのC2-4アルキレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも一種である、鉛蓄電池。
【0151】
(7)上記(5)または(6)において、前記エーテル化物は、前記ヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基がエーテル化された-OR基(式中、Rは有機基である。)を有し、前記有機基Rは、炭化水素基であってもよい。
【0152】
(8)上記(5)または(6)において、前記エステル化物は、上記ヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基がエステル化された-O-C(=O)-R基(式中、Rは有機基である。)を有し、前記有機基Rは、炭化水素基であってもよい。
【0153】
(9)上記(7)または(8)において、前記炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってもよい。
【0154】
(10)上記(9)において、前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0155】
(11)上記(9)または(10)において、前記脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、30以下であり、26以下または22以下であってもよく、20以下または16以下であってもよく、14以下または10以下であってもよく、8以下または6以下であってもよい。
【0156】
(12)上記(9)~(11)のいずれか1つにおいて、前記脂肪族炭化水素基は、アルキル基またはアルケニル基であってもよい。
【0157】
(13)上記(12)において、前記アルキル基の炭素数は、1以上であり、前記アルケニル基の炭素数は、2以上であってもよい。
【0158】
(14)上記(12)または(13)において、前記アルキル基は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、i-ペンチル、s-ペンチル、3-ペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル、n-オクチル、n-デシル、i-デシル、ラウリル、ミリスチル、セチル、ステアリルおよびベヘニルからなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
【0159】
(15)上記(12)または(13)において、前記アルケニル基は、例えば、C2-30アルケニル基またはC2-26アルケニル基であってもよく、C2-22アルケニル基またはC2-20アルケニル基であってもよく、C10-20アルケニル基であってもよい。
【0160】
(16)上記(12)、(13)または(15)において、前記アルケニル基は、ビニル、1-プロペニル、アリル、パルミトレイル、およびオレイルからなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
【0161】
(17)上記(3)~(16)のいずれか1つにおいて、前記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造は、少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含んでもよい。
【0162】
(18)上記(17)において、前記ポリマー化合物(1分子)中の前記オキシプロピレンユニットの割合は、5mol%以上、10mol%以上、または20mol%以上であってもよい。
【0163】
(19)上記(1)~(18)のいずれか1つにおいて、前記ポリマー化合物は、Mnが500以上の化合物を含んでもよく、Mnが600以上の化合物を含んでもよく、Mnが1000以上の化合物を含んでもよい。
【0164】
(20)上記(19)において、前記化合物のMnは、20000以下、15000以下、10000以下、5000以下、4000以下、または3000以下であってもよい。
【0165】
(21)上記(1)~(18)のいずれか1つにおいて、前記ポリマー化合物は、少なくともMnが1000以上の化合物を含んでもよい。
【0166】
(22)上記(21)において、前記化合物のMnは、1000以上20000以下、1000以上15000以下、1000以上10000以下、1000以上5000以下、1000以上4000以下、または1000以上3000以下であってもよい。
【0167】
(23)上記(1)~(22)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で8ppmより多くてもよく、13ppm以上、15ppm以上、16ppm以上、50ppm以上、または80ppm以上であってもよい。
【0168】
(24)上記(1)~(23)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、質量基準で400ppm未満であってもよく、360ppm以下、350ppm以下、240ppm以下、200ppm以下、165ppm以下,または164ppm以下であってもよい。
【0169】
(25)上記(1)~(24)のいずれか1つにおいて、前記電解液は、前記ポリマー化合物を含んでもよい。
【0170】
(26)上記(25)において、前記電解液中の前記ポリマー化合物の濃度は、質量基準で、500ppm以下、300ppm以下、または200ppm以下であってもよい。
【0171】
(27)上記(25)または(26)において、前記電解液中のポリマー化合物の濃度は、質量基準で、1ppm以上、または5ppm以上であってもよい。
【0172】
(28)上記(25)において、前記電解液中の前記ポリマー化合物の濃度は、質量基準で、100ppm以上であってもよく、200ppm以上または500ppm以上であってもよく、500ppmより高くてもよく、600ppm以上であってもよい。
【0173】
(29)上記(28)において、前記電解液中の前記ポリマー化合物の濃度は、質量基準で、5000ppm以下、4000ppm以下、3000ppm以下、2500ppm以下、または2400ppm以下であってもよい。
【0174】
(30)上記(1)~(25)のいずれか1つにおいて、前記電解液は、前記ポリマー化合物を含み、前記負極電極材料中の前記ポリマー化合物の含有量は、15ppm以上360ppm以下であり、前記電解液中の前記ポリマー化合物の濃度は、質量基準で500ppm以下であってもよい。
【0175】
(31)上記(30)において、前記ポリマー化合物は、少なくともMnが500以上(または600以上、好ましくは1000以上)の化合物を含んでもよい。
【0176】
(32)上記(25)において、前記化合物のMnは、5000以下であってもよく、4000以下または3000以下であってもよい。
【0177】
(33)上記(1)~(29)のいずれか1つにおいて、前記電解液は、前記ポリマー化合物を含み、前記電解液中の前記ポリマー化合物の濃度は、100ppm以上であり、前記ポリマー化合物は、少なくともMnが1000以上5000以下(例えば、4000以下または3000以下)の化合物を含んでもよい。
【0178】
(34)上記(1)~(33)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料は、さらに有機防縮剤を含んでもよい。
【0179】
(35)上記(34)において、前記有機防縮剤(または前記負極電極材料)は、硫黄元素含有量が2000μmol/g以上または3000μmol/g以上の第1有機防縮剤を含んでもよい。
【0180】
(36)上記(35)において、前記第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、9000μmol/g以下であってもよく、8000μmol/g以下または7000μmol/g以下であってもよい。
【0181】
(37)上記(25)または(36)において、前記第1有機防縮剤は、硫黄含有基を有する芳香族化合物のユニットを含む縮合物を含み、前記縮合物は、前記前記芳香族化合物のユニットとして、ビスアレーン化合物のユニットおよび単環式の芳香族化合物のユニットからなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0182】
(38)上記(37)において、前記縮合物は、前記ビスアレーン化合物のユニットと、前記単環式の芳香族化合物のユニットとを含んでもよい。
【0183】
(39)上記(37)または(38)において、前記単環式の芳香族化合物のユニットは、ヒドロキシアレーン化合物のユニットを含んでもよい。
【0184】
(40)上記(37)において、前記硫黄含有基は、スルホン酸基およびスルホニル基からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0185】
(41)上記(34)~(39)のいずれか1つにおいて、前記有機防縮剤(または前記負極電極材料)は、硫黄元素含有量が2000μmol/g未満(または1000μmol/g以下もしくは800μmol/g以下)の第2有機防縮剤を含んでもよい。
【0186】
(42)上記(41)において、前記第2有機防縮剤の硫黄元素含有量は、400μmol/g以上であってもよい。
【0187】
(43)上記(41)において、前記第1有機防縮剤と前記第2有機防縮剤との総量に占める前記第1有機防縮剤の比率は、20質量%以上または25質量%以上であってもよい。
【0188】
(44)上記(41)または(43)において、前記第1有機防縮剤と前記第2有機防縮剤との総量に占める前記第1有機防縮剤の比率は、80質量%以下または75質量%以下であってもよい。
【0189】
(45)上記(34)~(44)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中に含まれる前記有機防縮剤の含有量は、0.01質量%以上、または0.05質量%以上であってもよい。
【0190】
(46)上記(34)~(45)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中に含まれる前記有機防縮剤の含有量は、1.0質量%以下または0.5質量%以下であってもよい。
【0191】
(47)上記(1)~(46)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料は、炭素質材料を含んでもよい。
【0192】
(48)上記(47)において、前記負極電極材料中の前記炭素質材料の含有量は、0.05質量%以上または0.10質量%以上であってもよい。
【0193】
(49)上記(47)または(48)において、前記負極電極材料中の前記炭素質材料の含有量は、5質量%以下または3質量%以下であってもよい。
【0194】
(50)上記(1)~(49)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料は、硫酸バリウムを含んでもよい。
【0195】
(51)上記(50)において、前記負極電極材料中の前記硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上または0.10質量%以上であってもよい。
【0196】
(52)上記(50)または(51)において、前記負極電極材料中の前記硫酸バリウムの含有量は、3質量%以下または2質量%以下であってもよい。
【0197】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0198】
《鉛蓄電池E1~E2およびR1》
(1)鉛蓄電池の準備
(a)負極板の作製
原料の鉛粉と、硫酸バリウムと、カーボンブラックと、ポリマー化合物(ポリプロピレングリコール、Mn=2000)と、表1に示す有機防縮剤とを、適量の硫酸水溶液と混合して、負極ペーストを得る。このとき、いずれも既述の手順で求められる、負極電極材料(負極ペーストの固形分)中のポリマー化合物の含有量が表1に示す値となるとともに、硫酸バリウムの含有量が0.6質量%、カーボンブラックの含有量が0.3質量%、有機防縮剤の含有量が0.1質量%となるように各成分を混合する。負極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の負極板を得る。
【0199】
有機防縮剤としては、下記のものが用いられる。
(e1):スルホン酸基を導入したビスフェノール化合物のホルムアルデヒドによる縮合物(硫黄元素含有量:5000μmol/g、Mw=9600)
(e2):スルホン酸基を導入したビスフェノールS化合物とフェノールスルホン酸とのホルムアルデヒドによる縮合物(硫黄元素含有量:4000μmol/g、Mw=8000)
【0200】
(b)正極板の作製
原料の鉛粉を硫酸水溶液と混合して、正極ペーストを得る。正極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の正極板を得る。
【0201】
(c)試験電池の作製
試験電池は定格電圧2V、定格5時間率容量は32Ahである。試験電池の極板群は、正極板7枚と負極板7枚で構成する。負極板はポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容し、正極板と交互に積層し、極板群を形成する。極板群をポリプロピレン製の電槽に電解液(硫酸水溶液)とともに収容して、電槽内で化成を施し、液式の鉛蓄電池を作製する。化成後の電解液の比重は1.28(20℃換算)である。なお、鉛蓄電池E1~E2では、既述の手順で求められる電解液中のポリマー化合物の濃度は296ppm以下である。
【0202】
なお、既述の手順で測定されるポリマー化合物のH-NMRスペクトルでは、3.2ppm以上3.42ppm以下のケミカルシフトの範囲にオキシプロピレンユニットの--CH-に由来するピークが観察され、3.42ppmを超え3.8ppm以下のケミカルシフトの範囲にオキシプロピレンユニットの-CH<および-CH-に由来するピークが観察される。また、H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の、このピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH-基の水素原子のピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合は、98.1%である。
【0203】
(2)評価
(a)過充電電気量
上記鉛蓄電池を用いて、以下の条件で実施する。
JIS D5301に指定される通常の4分-10分試験よりも過充電条件にするために、放電1分-充電10分の試験(1分-10分試験)を75℃±3℃で実施する(高温軽負荷試験)。高温軽負荷試験において充放電を1220サイクル繰り返すことで高温軽負荷試験を行う。1220サイクルまでの各サイクルにおける過充電電気量(充電電気量-放電電気量)を合計し、平均化することにより1サイクル当たりの過充電電気量(Ah)を求める。鉛蓄電池R1の1サイクル当たりの過充電電気量(Ah)を100としたときの比率(%)で過充電電気量を評価する。
放電:25A、1分
充電:2.47V/セル、25A、10分
水槽温度:75℃±3℃
【0204】
(b)軽負荷試験後の低温HR放電性能
上記(a)における高温軽負荷試験後の満充電後の試験電池を、放電電流150Aにて、-15℃±1℃で端子電圧が1.0V/セルに到達するまで放電し、このときの放電時間(軽負荷試験後の低温HR放電持続時間)(s)を求める。放電持続時間が長いほど、低温HR放電性能に優れる。鉛蓄電池R1の放電持続時間を100としたときの比率(%)で各電池の低温HR放電性能を評価する。
【0205】
(c)充電受入性
満充電後の試験電池を用いて、10秒目電気量を測定する。具体的には、試験電池を、6.4Aで30分放電し、16時間放置する。その後、試験電池を電流の上限を200Aとし2.42V/セルで定電流定電圧充電し、このときの10秒間の積算電気量(10秒目電気量)を測定する。いずれの作業も、25℃±2℃の水槽中で行う。
【0206】
《鉛蓄電池R2-1、R2-2、R3-1およびR3-2》
負極ペーストの構成成分を混合する際に、ポリマー化合物に代えて、リグニンスルホン酸塩(硫黄元素含有量が600μmol/g、Mw=5500)またはオイルを負極電極材料中の含有量が表1に示す値となるように添加する。これ以外は、鉛蓄電池E1と同様にして試験電池を作製し、評価を行う。オイルとしては、パラフィン系オイルを用いる。パラフィン系オイルおよびリグニンスルホン酸塩はいずれも、重クロロホルムを溶媒として用いて測定されるH-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有さない。
鉛蓄電池E1~E2、R1、R2-1、R2-2、R3-1、およびR3-2の結果を表1に示す。
【0207】
【表1】
【0208】
表1に示されるように、鉛蓄電池E1およびE2では、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量が82ppmとごく僅かでも過充電電気量を効果的に低減できる。一方、リグニンスルホン酸塩やオイルを用いた鉛蓄電池R2-1またはR3-1では、ポリマー化合物を用いた鉛蓄電池E1およびE2とは異なり、過充電電気量を低減する効果は全く見られない。このことから、ポリマー化合物は、負極電極材料中において、リグニンスルホン酸塩やオイルとは鉛や硫酸鉛に対する吸着作用などの相互作用が異なる状態にあると考えられる。このように、ポリマー化合物に代わりに、従来の有機系添加剤(具体的には、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有さないもの)を用いても、過充電電気量を低減する効果は得られない。そのため、鉛蓄電池R2-1およびR3-1では、過充電時の水素発生を抑制する効果が小さく、減液抑制効果が小さい。
【0209】
また、R2-2およびR3-2に示されるように、リグニンスルホン酸塩やオイルを用いる場合でも、負極電極材料中の含有量が多い場合には、ある程度、過充電電気量の低減効果が得られる。しかし、過充電電気量の低減効果が得られるほどリグニンスルホン酸塩やオイルを添加すると、充電受入性も低下する。つまり、従来の有機系添加剤では、過充電電気量を低減しながら、充電受入性の低下を抑制することは困難である。それに対し、鉛蓄電池E1およびE2では、過充電電気量の高い低減効果が得られるにも拘わらず、充電受入性の低下が抑制され、高い充電受入性を確保できている。このことから、負極電極材料中では、鉛や硫酸鉛の表面の多くがポリマー化合物で薄く覆われた状態となり、負極板における水素過電圧が上昇したものと考えられる。また、ポリマー化合物により鉛表面が薄く覆われることで、硫酸鉛の溶出が阻害され難くなるため、鉛蓄電池E1およびE2では、充電受入性の低下が抑制されると考えられる。従って、リグニンスルホン酸塩やオイルなどの他の有機系添加剤を用いる場合に比べて、ポリマー化合物を用いる場合には、過充電電気量を低減する効果と充電受入性の低下を抑制する効果とを両立する効果が高まると言える。
【0210】
また、鉛蓄電池E1およびE2では、鉛蓄電池R1に比べて、高温軽負荷試験後でも、高い低温HR放電性能を確保することができる。これは、鉛の細孔内におけるポリマー化合物の偏在が抑制されることで、イオンが移動し易くなること、および過充電時の水素ガスの発生が抑制され、水素ガスの衝突による負極活物質の構造変化が低減されたことによるものと考えられる。
【0211】
《鉛蓄電池E3~E9》
負極電極材料中のポリマー化合物の含有量が表2に示す値となるように各成分を混合する。これ以外は、鉛蓄電池E1と同様にして試験電池を作製し、評価を行う。なお、鉛蓄電池E3~E9では、既述の手順で求められる電解液中のポリマー化合物の濃度は296ppm以下である。
【0212】
鉛蓄電池E3~E9の結果を表2に示す。表2には、鉛蓄電池E1およびR1の結果も合わせて示す。
【0213】
【表2】
【0214】
表2に示されるように、負極電極材料中にポリマー化合物が含まれることで、過充電電気量の優れた低減効果が得られる。表1の鉛蓄電池R2-2およびR3-2では、リグニンスルホン酸塩やオイルを0.1質量%添加した場合でも、過充電電気量は、R1の82%や86%までしか低下しない。それに対し、鉛蓄電池E1、E3~E9の結果に示されるように、ごく僅かなポリマー化合物が負極電極材料中に含まれる場合でも、過充電電気量の低減効果が得られる。また、ポリマー化合物の含有量が、鉛蓄電池R2-2およびR3-2における添加剤の含有量の半分以下にも拘わらず、R1の41%まで過充電電気量を低減できる。より高い過充電電気量の低減効果が得られる観点からは、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量は、8ppmより多いことが好ましい。より高い低温HR放電性能を確保する観点からは、負極電極材料中のポリマー化合物の含有量は、400質量ppm未満が好ましい。
【0215】
《鉛蓄電池E10~E12》
表3に示すMnを有するポリマー化合物(ポリプロピレングリコール)を用いる。負極電極材料(負極ペーストの固形分)中のポリマー化合物の含有量が82ppmとなるように負極ペーストの構成成分を混合する。これら以外は、鉛蓄電池E1と同様にして試験電池を作製し、評価を行う。なお、ポリマー化合物について、H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の、このピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH-基の水素原子のピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合は、90.8%~98.7%である。
鉛蓄電池E10~E12の結果を表3に示す。表3には、鉛蓄電池R1およびE1の結果も合わせて示す。
【0216】
【表3】
【0217】
表3に示されるように、ポリマー化合物のMnが1000以上になると、過充電電気量を低減する効果が高まる。これは、ポリマー化合物が負極電極材料中に留まり易いことによるものと考えられる。さらに、Mnが1000以上になると、優れた高温軽負荷試験後の低温HR放電性能を確保することができる。これは、過充電電気量が低くなることで、水素ガスが負極活物質に衝突することに起因する負極活物質の構造変化が抑制されるためと考えられる。
【0218】
《鉛蓄電池E13-1~E16-1およびE13-2~E16-2》
表4に示すMnを有するポリマー化合物(ポリプロピレングリコール)を負極電極材料および電解液に添加する。既述の手順で求められる負極電極材料(負極ペーストの固形分)中のポリマー化合物の含有量が表4に示す値となるように負極ペーストの組成を調節する。既述の手順で求められる電解液中のポリマー化合物の濃度が表4に示す値となるように電解液中にポリマー化合物を添加する。これら以外は、鉛蓄電池E1と同様にして試験電池を作製し、過充電電気量の評価を行う。E13-1~E16-1で用いたポリマー化合物は、それぞれ、E10、E11、E1、およびE12で用いたポリマー化合物と同じである。E13-2~E16-2で用いたポリマー化合物も、それぞれ、E10、E11、E1、およびE12で用いたポリマー化合物と同じである。
鉛蓄電池E13-1~E16-1およびE13-2~E16-2の結果を表4に示す。表4には、鉛蓄電池R1の結果も合わせて示す。
【0219】
【表4】
【0220】
表4に示されるように、ポリマー化合物のMnが1000以上になると、過充電電気量を低減する効果が顕著に高まる。これは、鉛に対する吸着性が高まることによるものと考えられる。また、電解液にポリマー化合物がある程度の濃度で含まれることで、負極板からのポリマー化合物の溶出も抑制されていると考えられる。
【0221】
《鉛蓄電池E17~E19およびR4~R6》
表5に示す硫黄(S)元素含有量を有する有機防縮剤を用いる以外は、鉛蓄電池E1と同様にして試験電池を作製し、過充電電気量および充電受入性の評価を行う。また、鉛蓄電池を用いて、下記(d)の手順で初期の低温HR放電性能の評価を行う。
【0222】
有機防縮剤としては、下記のものが用いられる。
(e3):リグニンスルホン酸塩(硫黄元素含有量:600μmol/g、Mw=5500)
(e4):スルホン酸基を導入したビスフェノール化合物のホルムアルデヒドによる縮合物(硫黄元素含有量:3000μmol/g、Mw=9000)
(e5):スルホン酸基を導入したビスフェノール化合物のホルムアルデヒドによる縮合物(硫黄元素含有量:7000μmol/g、Mw=9000)
なお、有機防縮剤中の硫黄元素含有量(μmol/g)については、負極電極材料を調製する前の値と、鉛蓄電池を解体し、各有機防縮剤を抽出して測定した値には実質的に差がない。
【0223】
(d)初期の低温HR放電性能
満充電後の試験電池を、放電電流150Aにて、-15℃で端子電圧が1.0V/セルに到達するまで放電し、このときの放電時間(初期の低温HR放電持続時間)(s)を求める。放電持続時間が長いほど、低温HR放電性能に優れる。
【0224】
また、鉛蓄電池R1およびE1についても上記に準じて初期の低温HR放電性能の評価を行う。
鉛蓄電池E17、E18、E1、およびE19の過充電電気量および初期の低温HR放電性能は、それぞれ、同じ硫黄元素含有量の有機防縮剤を用いる鉛蓄電池R4、R5、R1、およびR6のデータを100としたときの比率(%)で評価する。
【0225】
鉛蓄電池E17、E18、E1、およびE19の充電受入性は、それぞれ、同じ硫黄元素含有量の有機防縮剤を用いる鉛蓄電池R4、R5、R1、およびR6の10秒目電気量を100としたときの比率(%)で評価する。
【0226】
鉛蓄電池E17~E19およびR4~R6の結果を表5に示す。表5には鉛蓄電池R1およびE1の結果も合わせて示す。
【0227】
【表5】
【0228】
表5に示されるように、ポリマー化合物と第1有機防縮剤(好ましくは硫黄元素含有量が3000μmol/g以上の有機防縮剤)とを併用すると、充電受入性の低下がさらに抑制される。第1有機防縮剤を用いると、硫黄元素含有量が少ない有機防縮剤を用いる場合に比べて、放電時に生成する硫酸鉛の粒子サイズが小さく、比表面積が大きくなるため、硫酸鉛がポリマー化合物に被覆されにくくなる。その結果、第1有機防縮剤を用いる場合には、硫黄元素含有量が少ない有機防縮剤を用いる場合に比べて、充電受入性の低下が抑制されると考えられる。
【0229】
また、リグニンスルホン酸塩などの硫黄元素含有量が少ない第2有機防縮剤と、ポリマー化合物とを併用すると、初期の低温HR放電性能が大きく向上する。これは、第2有機防縮剤が硫酸中で形成するコロイドの粒子径が、ポリマー化合物の界面活性作用により、ポリマー化合物を用いない場合と比べて小さくなることで、放電反応が進行し易くなったことによるものと考えられる。一方、硫黄元素含有量が多い第1有機防縮剤は、ポリマー化合物を用いない場合でも、生成するコロイドの粒子径が小さいため、ポリマー化合物の添加に伴う粒子径の変化が小さい。そのため、低温HR放電性能の向上効果は小さくなったと考えられる。
【0230】
《鉛蓄電池E20~E24》
表6に示す硫黄(S)元素含有量を有する第1有機防縮剤および/または第2有機防縮剤を、既述の手順で求められる各有機防縮剤の含有量が表6に示す値となるように各成分を混合する。これら以外は、鉛蓄電池E1と同様にして試験電池を作製し、充電受入性の評価を行う。なお、第1有機防縮剤としては、鉛蓄電池E1と同じ(e1)を用い、第2有機防縮剤としてはE17と同じリグニンスルホン酸塩(e3)を用いる。なお、有機防縮剤中の硫黄元素含有量(μmol/g)については、負極電極材料を調製する前の値と、鉛蓄電池を解体し、各有機防縮剤を抽出して測定した値には実質的に差がない。
鉛蓄電池E20~E24の充電受入性は、鉛蓄電池E20の10秒目電気量を100としたときの比率(%)で評価する。
【0231】
鉛蓄電池E20~E24の結果を表6に示す。
【0232】
【表6】
【0233】
表6に示されるように、ポリマー化合物を用いる場合に、双方の有機防縮剤を併用することで高い充電受入性が得られる。第1有機防縮剤と第2有機防縮剤とを併用する場合の結果は、各有機防縮剤を単独で用いる場合から想定される充電受入性の値よりも優れている。このことから、ポリマー化合物を用いる場合に、第1有機防縮剤および第2有機防縮剤を用いることで、相乗効果が得られていると言える。
【0234】
《鉛蓄電池E25~E30》
ポリマー化合物として、表7に示すものを用いる以外は、鉛蓄電池E1と同様にして試験電池を作製し、評価を行う。なお、ポリマー化合物について、H-NMRスペクトルにおいて、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値の、このピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH-基の水素原子のピークの積分値と、酸素原子に結合した-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計に占める割合は、97.6%~99.7%である。
鉛蓄電池E25~E30の結果を表7に示す。表7には、鉛蓄電池R1およびE7の結果も合わせて示す。
鉛蓄電池E25~E30の充電受入性は、鉛蓄電池R1の10秒目電気量を100としたときの比率(%)で評価する。
【0235】
【表7】
【0236】
表7に示されるように、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物やエステル化物を用いる場合にも、過充電電気量を低減しながら、充電受入性の低下が抑制されている。
【産業上の利用可能性】
【0237】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、例えば、車両(自動車、バイクなど)の始動用電源や、電動車両(フォークリフトなど)などの産業用蓄電装置などの電源として好適に利用できる。なお、これらの用途は単なる例示であり、これらの用途に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0238】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓
図1