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特許7143972エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスと、その製法及び用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスと、その製法及び用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/17 20060101AFI20220921BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220921BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20220921BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220921BHJP
   A61K 135/00 20060101ALN20220921BHJP
【FI】
A61K36/17
A61P35/00
A61P35/04
A23L33/105
A61K135:00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020108566
(22)【出願日】2020-06-24
(62)【分割の表示】P 2015549167の分割
【原出願日】2014-11-19
(65)【公開番号】P2020172491
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2020-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2013240823
(32)【優先日】2013-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】595132360
【氏名又は名称】株式会社常磐植物化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】597128004
【氏名又は名称】国立医薬品食品衛生研究所長
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100135415
【弁理士】
【氏名又は名称】中濱 明子
(72)【発明者】
【氏名】花輪 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】日向 須美子
(72)【発明者】
【氏名】合田 幸広
(72)【発明者】
【氏名】日向 昌司
(72)【発明者】
【氏名】天倉 吉章
(72)【発明者】
【氏名】好村 守生
(72)【発明者】
【氏名】山下 忠俊
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-167226(JP,A)
【文献】特開2011-256135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/17
A61P 35/00
A61P 35/04
A23L 33/105
A61K 135/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを有効成分とするがん治療薬であって、該エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、麻黄の熱水抽出液/または熱水抽出物の水溶液を酸性陽イオン交換樹脂に通液し、吸着されずに通過した画分を集めることにより得られるものである、前記がん治療薬
【請求項2】
前記エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、エフェドリンアルカロイドの含量が0.23%以下であり、ここでエフェドリンアルカロイドは、エフェドリンとプソイドエフェドリンの合計をいうものである、請求項1に記載のがん治療薬
【請求項3】
前記エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、エフェドリンアルカロイドの含量が0.023%以下である、請求項2に記載のがん治療薬
【請求項4】
前記エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、エフェドリンアルカロイド含量が0.05ppm以下である、請求項2に記載のがん治療薬
【請求項5】
漢方製剤、食品または栄養補助食品の形態である、請求項1~4のいずれかに記載のがん治療薬
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、より安全性の高いエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスと、それを製造するための方法並びにそれを有効成分とする抗がん・抗転移薬、疼痛抑制薬、及び抗インフルエンザウイルス薬に関する。
【背景技術】
【0002】
麻黄はマオウ科植物Ephedra sinica Stapf、Ephedra intermedia Schrenk et C. A. MeyerまたはEphedra equisetina Bunge(Ephedraceae)の地上茎である。麻黄は古来より使われてきた最重要の生薬であり、麻黄を構成生薬として含有する漢方薬(漢方処方)としては、鳥頭湯(うずとう)、鳥薬順気湯(うやくじゅんきとう)、越婢湯(えっぴとう)、越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)、回首散料(かいしゅさんりょう)、華蓋散料(かがいさんりょう)、葛根湯(かっこんとう)、葛根湯加川きゅう辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)、葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう)、葛根加半夏湯(かっこんかはんげとう)、甘草麻黄湯(かんぞうまおうとう)、桂姜棗草黄辛附湯(けいきょうそうそうおうしんぶとう)、桂枝芍薬知母湯(けいししゃくやくちもとう)、桂枝二越婢一湯(けいしにえっぴいっとう)、桂枝麻黄各半湯(けいしまおうかくはんとう)、厚朴麻黄湯(こうぼくまおうとう)、五虎湯(ごことう)、五虎二陳湯(ごこにちんとう)、五積散料(ごしゃくさんりょう)、柴葛解肌湯(さいかつげきとう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、小続命湯(しょうぞくめいとう)、神秘湯(しんぴとう)、続命湯(ぞくめいとう)、大青竜湯(だいせいりゅうとう)、独活葛根湯(どっかつかっこんとう)、防風通聖散料(ぼうふうつうしょうさんりょう)、麻黄湯(まおうとう)、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)、麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)、麻杏よく甘湯(まきょうよくかんとう)、射干麻黄湯(やかんまおうとう)、よく苡仁湯(よくいにんとう)、麗沢通気湯(れいたくつうきとう)などが挙げられる。また、現在、健康保険収載漢方処方中で麻黄を構成生薬として含む漢方処方は以下の16処方ある:越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)、葛根湯(かっこんとう)、葛根湯加川きゅう辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)、葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう)、桂枝麻黄各半湯(けいしまおうかくはんとう)、五虎湯(ごことう)、五積散料(ごしゃくさんりょう)、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、神秘湯(しんぴとう)、続命湯(ぞくめいとう)、防風通聖散料(ぼうふうつうしょうさんりょう)、麻黄湯(まおうとう)、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)、麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)、麻杏よく甘湯(まきょうよくかんとう)、よく苡仁湯(よくいにんとう)が挙げられる。
【0003】
麻黄の有効成分としては、エフェドリンアルカロイド類((-)-ephedrine, (+)-pseudoephedrine,)が有名であり、日本薬局方においては、Ephedra sinica Stapf,Ephedra intermediaSchrenk et C. A. Meyer 又はEphedra equisetina Bunge(Ephedraceae)の地上茎を乾燥したものを定量するとき,総アルカロイド(エフェドリンおよびプソイドエフェドリン)0.7%以上を含むと規定されている。麻黄には中枢神経興奮作用、交感神経興奮作用、発汗作用、鎮咳作用、抗炎症作用、抗アレルギー作用が知られており(非特許文献1)、これらの薬理作用は、エフェドリンアルカロイドに由来すると考えられてきた(非特許文献2)。さらに、麻黄は身体疼痛の諸症状に用いられており、麻黄の鎮痛作用はプソイドエフェドリンの抗炎症作用によって説明されている(非特許文献3)。一方、本発明者らは、麻黄の新たな薬理作用として、がん細胞の運動能抑制作用を介したがん転移抑制効果や、がん細胞の増殖抑制効果を介した抗腫瘍効果を、マウスを用いたin vivoの解析から明らかにし(非特許文献4)、その分子機構として、肝細胞増殖因子(HGF)の受容体であるMet阻害によるHGF-Met-Aktシグナルの抑制によるものであることを報告した(特許文献1、非特許文献5)。これらの作用はエフェドリンアルカロイド単独では観察されなかったため、活性成分を探索した結果、フラボノイド化合物ヘルバセチン(Herbacetin)配糖体を見出した(非特許文献6)。しかしながら、ヘルバセチン配糖体の含有量は約0.005%と低く、本成分のみで麻黄の新たな薬理作用を説明できず、複数の成分が関与していると考えられる(非特許文献7)。したがって、麻黄の薬効を有効に利用するためには、麻黄エキスのまま医薬品として用いることが望ましい。
【0004】
麻黄には、交感神経刺激作用及び中枢神経刺激作用があるので、狭心症、心筋梗塞、高血圧の既往のある人は原則として禁忌である。また、高齢者に対しては、注意して使用する必要がある。さらに、胃腸の弱い人は、食欲不振や急性胃粘膜病変による腹痛を引き起こす可能性がある。その他、動悸、興奮、排尿障害、不眠、発疹などに注意が必要である(非特許文献8)。これらの副作用は、エフェドリンアルカロイドに由来すると考えられている(非特許文献9)。米国では、麻黄をサプリメントとして使用していたが、過剰摂取などの不適切な使用から、死亡事故が発生したことを受け、FDAは、麻黄などのエフェドリンアルカロイドを含むものについては、一切の販売を禁止することを定め、消費者に対しても注意喚起している(2004年エフェドラ禁止令)。その根拠となったランドレポートでは、膨大な数の論文とFDAに届けられた百数十件の死亡例を含む1万数千件の副作用報告を綿密に検証し、麻黄製剤には動悸や悪心嘔吐などの軽度から中等度の副作用があると結論付けている(非特許文献10)。日本においては、麻黄は、専ら医薬品として使用される材料に分類されており、医薬品として承認されたものが使用を許されているが、医療の現場では、患者の体質や病状によっては重篤な副作用が生じることが懸念されているのが現状である。
【0005】
これまで、麻黄の薬効は、ほとんど全てエフェドリンアルカロイドに起因するものと信じられてきた。その根拠は、非特許文献2に記載の脱アルカロイド麻黄エキスが、麻黄の有する薬効を全て失っていたことによる。このことから、麻黄の主作用と副作用を分離することは困難であると考えられ、麻黄の副作用を除くために、麻黄からエフェドリンアルカロイドを除去するという発想は、これまで全くなかった。しかし、発明者らは、前述したように、麻黄に、エフェドリンアルカロイドに依存しない有用な薬効を見出だし、副作用の原因物質であるエフェドリンアルカロイドを選択的に除去することで、安全性の高い医薬品として麻黄エキスを提供できるとの発想に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】「麻黄を成分とするMET阻害剤」特願2009-86363(2009年3月31日)
【非特許文献】
【0007】
【文献】麻黄の薬効・薬理、現代東洋医学、15(4)、551-554、1994。
【文献】麻黄の薬理、現代東洋医学、1(2)、34-39、1980。
【文献】漢方薬の中での鎮痛剤の位置づけと種類、痛みと臨床、5(3)、262―268、2005。
【文献】Basic research on the use of Kampo medicines to protect against cancer recurrence and metastasis, J. Trad. Med., 30(1), 19-26, 2013。
【文献】Ephedrae herba, a major component of maoto, inhibits the HGF-induced motility of human breast cancer MDA-MB-231 cells through suppression ofc-Met tyrosine phosphorylation and c-Met expression. J. Trad. Med., 28, 128-138, 2011.
【文献】Characterization of phenolic constitutes from Ephedra Herba extract. Molecules, 18, 5326-5334, 2013.
【文献】麻黄エキスに含まれる成分研究, 日本薬学会年会要旨集133年会2号, 185, 2013.
【文献】花輪壽彦著「漢方診療のレッスン」増補版、p46-47、金原出版、2003年
【文献】Haller CA, Benowitz NL., Adverse cardiovascular and central nervous system events associated with dietary supplements containing ephedra alkaloids, N Engl J Med. 2000 Dec 21;343(25):1833-8.
【文献】Final Rule Declaring Dietary Supplements Containing Ephedrine Alkaloids Adulterated Because They Present an Unreasonable Risk. Federal Register: 69 (28), pp 6787-6854, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、麻黄の有するいくつかの薬効を保持したまま麻黄エキスからエフェドリンアルカロイドを除去することにより、安全性の高いエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを製造するための方法並びにそれを有効成分とする抗がん・抗転移薬、疼痛抑制薬及び抗インフルエンザウイルス薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
非特許文献2には、麻黄をNH4OH及びエーテルで処理することによってアルカロイドを除去し、脱アルカロイド麻黄エキスを作製する方法が記載されている。しかし、この方法で作製した脱アルカロイド麻黄エキスは、残存総アルカロイドを高濃度(0.33-0.5%)で含んでおり、さらに、NH4OH処理は、植物成分の構造に化学的変化を起こすことから(大原誠資、木材学会誌、55, 59-68, 2009;D. Ferreira et al., J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 203-208、1990)、元の麻黄エキスとは異なるartificialな成分を含有していると考えられる。非特許文献2の著者もこの件については言及している。また、非特許文献2に記載の脱アルカロイド麻黄エキスは、麻黄の有する薬理効果が全て失われていたことから、麻黄の薬効に影響を与える製造方法であり、麻黄からエフェドリンアルカロイドを除去して医薬品として利用するには、不適切な方法である。
【0010】
本発明者らは、脱アルカロイド麻黄エキスの高いアルカロイド含量や、含有成分の化学的な構造変化、さらに薬効消失といった問題点を克服し、上記の課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、麻黄エキスの含有する成分の構造に影響を与えず、薬効を保持したままで、麻黄エキスから簡便にエフェドリンアルカロイドを除去するマイルドな製造法の開発に成功した。さらに、得られるエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスが抗がん・抗転移作用を保持していること、加えて疼痛抑制作用及び抗インフルエンザウイルス作用も保持していることを見いだして、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明はより具体的には以下(1)~(9)を提供するものである。
(1)麻黄エキスからエフェドリンアルカロイドを除いたエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス。
(2)エフェドリンアルカロイドを0.23 %以下の量で含む(1)に記載のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス。
(3)エフェドリンアルカロイドを0.023 %以下の量で含む(1)に記載のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス。
(4)エフェドリンアルカロイドを0.05ppm(検出限界)以下の量で含む(1)に記載のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス。
(5)麻黄の抽出液/または抽出物の水溶液に含まれる成分のうち陽イオン交換樹脂に吸着されない成分を含む(1)~(4)のいずれかに記載のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス。
(6)(1)~(5)のいずれかに記載のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを含む漢方製剤。
(7)麻黄の抽出液および/または抽出物からイオン交換クロマトグラフィーによりエフェドリンアルカロイドを除去することを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの製造方法。
(8)(1)~(5)のいずれかに記載のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを有効成分とする抗がん・抗転移薬。
(9)(1)~(5)のいずれかに記載のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを有効成分とする疼痛抑制薬。
(10)(1)~(5)のいずれかに記載のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを有効成分とする抗インフルエンザウイルス薬。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法は、麻黄エキスをある種の陽イオン交換カラムに通液させるだけで0.23%以下、あるいは0.023 %以下、あるいは0.05ppm(検出限界)以下までエフェドリンアルカロイドを除去することが可能な極めて簡便で有用な製造方法である。また、本発明のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、麻黄の抗転移作用の機構として明らかにされているMetキナーゼの阻害活性を元の麻黄エキスと同程度に抑制し、さらに、Met高発現ヒト肺癌細胞株H1975の細胞増殖を元の麻黄エキスと同様に濃度依存的に抑制した。これらの結果から、本発明の製造方法は、麻黄エキスの有するMET阻害を介した抗がん・抗転移作用を保持したままエフェドリンアルカロイドを除去できることを示しており、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを有効成分とする抗がん・抗転移薬を提供できることが明らかとなった。
【0013】
麻黄剤(麻黄を主薬とする漢方薬)は関節痛の治療薬としても頻用されることから、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの鎮痛効果に着目し、マウスを用いた疼痛試験(ホルマリン試験)によって評価した。その結果、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの経口投与によって、疼痛が有意に抑制され、麻黄エキスよりも高い疼痛抑制効果を示した。これまで、麻黄の鎮痛効果はプソイドエフェドリンに由来すると考えてられてきたことから、この結果はこれまでの麻黄に対する考えを覆す発見であった。したがって、本発明によって、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを有効成分とする疼痛抑制薬を提供できることが明らかとなった。
【0014】
麻黄剤のひとつである麻黄湯は、インフルエンザ初期の治療に用いられていることから、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスがインフルエンザウイルスの感染を抑制できるか、MDCK細胞を用いたインフルエンザウイルス感染試験で評価した。その結果、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、元の麻黄エキスと同程度にインフルエンザウイルス感染を抑制した。したがって、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを有効成分とする抗インフルエンザウイルス薬を提供できることが明らかとなった。
【0015】
以上のことから、本発明のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスはより安全性の高い抗がん・抗転移薬、疼痛抑制薬及び抗インフルエンザウイルス薬としての利用が期待される。さらに、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、がん治療とがん性疼痛の治療を同時に行うことができる新しいタイプのがん治療薬となる。
【0016】
麻黄は漢方薬の構成生薬として幅広く用いられていることから、麻黄を含有する漢方薬の麻黄を、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスに置き換えることで、より安全性の高い新規の漢方製剤を提供できる。
【0017】
例えば、麻黄湯を抗がん・抗転移薬として利用する際、新規の効能効果を付与しつつ、従来の麻黄湯に感受性の患者にも適応拡大できる。
【0018】
また、例えば、高齢者の関節痛利用への応用が可能である。高齢者の関節痛は、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)低下の原因のひとつであり、その多くは変形性関節症によって生じる。このような関節痛は、高齢者の要支援・要介護の原因の約1割を占め、要支援の原因のトップとなっている(Matsui, Y., National Center for Geriatrics & Gerontology, 42, 1-4, 2013)。関節痛の治療は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が中心であるが、副作用の胃腸障害から長期の服用が困難であり、NSAIDsに代わる鎮痛薬が求められている。最近、ある製薬企業が、鎮痛作用を有する抗体医薬品の開発を行い、臨床治験を行ったが、一部の患者で変形性関節症が悪化し治験が中止となった(Yamaguchi, A, Drug Delivery System, 26(5), 457-460, 2011)。この症状悪化は、強い鎮痛効果により、患者の行動が急激に増加したことが原因と考えられている。一方、麻黄を含む漢方薬(葛根湯、麻杏よく甘湯、越婢加朮湯、よく苡仁湯など)は、関節痛の治療に有効であり、その鎮痛効果は緩やかなため、患者の急激な活動増加を招きにくく、変形性関節症の悪化を起こすことがない。しかし、麻黄の副作用(動悸、血圧上昇、不眠、排尿障害など)のため、麻黄含有漢方薬の高齢者への投与は注意を要する。これらの漢方薬の麻黄をエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスに置き換えた漢方製剤を用いることで、変形性関節症の悪化を起こすことなく、安全に、高齢者の関節痛をコントロールすることができ、QOLの改善に寄与できる。
【0019】
さらに、インフルエンザ初期の治療に用いられる麻黄湯は、臨床研究から、西洋薬のオセルタミビルと同程度のインフルエンザ治療効果を有することが報告されているが(Nabeshima, S., et al., J. Trad. Med., 27, 148-156, 2010;木本博史, 治療学, 40, 385-388, 2006)、麻黄による副作用から、高齢者や麻黄感受性の患者への投与は控える必要がある。しかし、麻黄をエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスに置き換えた麻黄湯を用いれば高齢者や麻黄感受性の患者への投与が可能になる。また、麻黄湯は麻黄による副作用から、長期投与が難しい漢方薬であったが、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを用いた麻黄湯を用いれば、インフルエンザ感染予防の目的で、感染の危険性が高い人に予防的投与を長期に行うことが可能となる。
【0020】
本願発明により、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスが、麻黄エキスの有する抗がん・抗転移薬、疼痛抑制薬、及び抗インフルエンザウイルス薬としての作用を有することが明らかになり、かつ副作用の原因物質であるエフェドリンアルカロイドが選択的に除去された、安全性の高い医薬品として用いうることが確認された。本発明は、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを医薬品として提供するための極めて重要な基盤技術である。本願発明の臨床分野における利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例4に記載する、イオン交換クロマトグラフィー精製前後の麻黄エキス及びエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスのHPLCチャートを示す。
図2】実施例5に記載する、イオン交換クロマトグラフィー精製前後の麻黄エキス及びエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスのフィンガープリントを示す。
図3】実施例6に記載する、イオン交換クロマトグラフィー精製前後の麻黄エキス及びエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスのLC-MSチャートを示す。
図4】実施例7に記載する、麻黄エキスおよびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスのMETキナーゼ阻害作用を示す。
図5】実施例8に記載する、麻黄エキスおよびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスのヒト非小細胞肺がんH1975細胞の増殖に対する抑制作用を示す。
図6】実施例9に記載する、麻黄エキスおよびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの疼痛抑制作用を示す。
図7A】実施例10に記載する、麻黄エキスおよびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスのインフルエンザウイルス感染抑制作用を示す。
図7B】実施例10に記載する、麻黄エキスおよびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスのインフルエンザウイルス感染抑制作用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
麻黄エキス
本発明に用いられる麻黄はマオウ科植物Ephedra sinica Stapf、Ephedra intermedia Schrenk et C. A. MeyerまたはEphedra equisetina Bunge (Ephedraceae)の地上茎を用いる。生、乾燥もしくは地上茎を加工したものを利用できる。
【0023】
本発明の製造方法において行なう麻黄の抽出工程は、周知の方法のいずれかに基づいて行なうことができる。抽出溶媒としては、水または温水、熱水、アルコール系溶媒、およびアセトンなどその他の有機溶媒を用いることができる。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノールなどを例示することができる。これらの溶媒は単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。
【0024】
抽出溶媒の量は麻黄の乾燥重量に対して、2-100重量部が好ましい。抽出温度は4-98℃が好ましい。抽出時間は30分-2時間が好ましい。抽出方法は攪拌抽出、浸漬抽出、向流抽出、超音波抽出、超臨界抽出などの任意の方法で行うことができる。
【0025】
得られた抽出液、または抽出液を濾過し得られた濾液、もしくは濾液を濃縮した濃縮液、濃縮液を乾燥して得られる乾燥物をこのようにして得られた抽出成分は次の陽イオン交換クロマトグラフィーによる精製工程に付してもよいが、その前に構成成分を粗く分離しておくのが好ましい。例えば、適当なフィルターを用いて濾過したり、遠心分離したりすることによって、細かい固体成分を簡単に除去することができ、次のクロマトグラフィーを行なう際にカラムが詰まるなどのトラブルを防止することができる。
【0026】
後述する実施例1では、このようにして得られた麻黄エキス中のエフェドリンアルカロイドは4.74%(エフェドリンが3.19%、プソイドエフェドリンが1.55%)であった。
【0027】
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス
上記工程を経ることによって得られる麻黄エキスは、陽イオン交換クロマトグラフィーによってエフェドリンを除去し、濃縮乾燥を経て、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを得ることができる。エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、EFM(ephedrine alkaloids free Mao extract)と略記されることもある。
【0028】
本発明のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの製造に適したイオン交換クロマトグラフィーの充填剤を決定するために検討を行った。麻黄エキスを各種イオン交換樹脂で処理した後に、エキスに含まれるエフェドリンアルカロイドをTLC及びHPLCで解析した。検討したイオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂13種類、両性イオン交換樹脂1種類、陰イオン交換樹脂8種類の計22種類である。その結果、エフェドリンアルカロイド除去に適したイオン効果樹脂は、陽イオン交換樹脂であることがわかった。そこで、弱酸性陽イオン交換樹脂WK10、WK11、WK20、WK40L、FPC3500、強酸性陽イオン交換樹脂SK104、SK110、SK1B、UBK530、UBK12、PK216、IR120B、1060Hを用いて、麻黄エキスを処理した後のエキスに含まれるエフェドリンアルカロイド含量をHPLCにより定量した。その結果を下記の表に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
以上の結果から、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの製造に適した陽イオン交換カラムは、次のようになる。エフェドリンアルカロイド含量が0.23%以下のEFMの製造には、弱酸性陽イオン交換樹脂WK20、強酸性陽イオン交換樹脂SK104、SK110、SK1B、UBK530、PK216、IR120B、FPC3500、1060Hの中からカラム充填剤として選択することができる。エフェドリンアルカロイド含量が0.023 %以下のEFM製造には、弱酸性陽イオン交換樹脂WK20、強酸性陽イオン交換樹脂SK104、SK110、SK1B、UBK530、PK216、IR120B、1060Hの中からカラム充填剤として選択することができる。さらに、エフェドリンアルカロイド含量が0.05ppm以下のEFMの製造には、強酸性陽イオン交換樹脂PK216をカラム充填剤として選択できるほか、実施例2及び実施例3から、強酸性陽イオン交換樹脂SK1B、IR120Bも選択することができる。
【0031】
クロマトグラフィーの具体的な実施方法は、当業者に周知な方法のいずれかによる。
【0032】
乾燥方法は、減圧乾燥、凍結乾燥、スプレー乾燥などの任意の方法で行うことができる。必要な場合にはデキストリンなどの賦形剤を入れてもよい。
【0033】
本発明のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、麻黄エキスからエフェドリンアルカロイドを除いたエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスであり、エフェドリンアルカロイド(エフェドリンとプソイドエフェドリンの合計)を0.23 %%以下の量で含むものが好ましく、より好ましくはエフェドリンアルカロイドを0.023 %%以下の量で含むものであり、さらに好ましくは0.05ppm(検出限界)以下の量で含む。
【0034】
日本薬局方では、麻黄は生薬の乾燥物に対し,総アルカロイド(エフェドリン及びプソイドエフェドリン)を0.7%以上含むと規定されており、この量は麻黄エキスで換算した場合、約2.3 %~3.5 %以上含むものと計算されるので、本発明のエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは現在使用されている麻黄エキスと明確に区別される。
【0035】
なお、上記の麻黄エキス中の総アルカロイド含量の換算は、非特許文献(成川一郎「漢方の主張―現代科学と漢方製剤」p162-163、(株)健友館、1991年発行)及び実施例1から求められる。EFMの製造に用いた日本薬局方の麻黄から、麻黄エキスを作製すると、麻黄に含まれるエフェドリンアルカロイドは、ほぼ全て麻黄エキスへ移行する。しかし、麻黄から得られる麻黄エキスの収率は20%から30%になるため、麻黄エキスに含まれる総アルカロイドは、3.3倍~5倍に濃縮される。したがって、局方で規定される麻黄の総アルカロイド0.7%以上を3.3倍~5倍にした数値 2.3 %~3.5 %以上が麻黄エキスの総アルカロイドの規定値となる。
【0036】
本EFMのアルカロイド含量は、以下の非特許文献から定めた。漢方薬のプラセボを作製する場合、10%の実薬を混合することから(寺澤捷年、喜多敏明 編集「EBM漢方」p8, 2003年3月20日,医歯薬出版株式会社)、10分の1以下の含量ならば、その薬理作用が出現する可能性が極めて低いと考えられる。麻黄エキスでは2.3 %~3.5 %以上エフェドリンアルカロイドを含有することから、その10分の1の0.23 %~0.35 %以下とすることで、エフェドリンアルカロイドの副作用の出現の可能性が極めて少ない数値と考えられる。本発明では、非特許文献2の脱アルカロイド麻黄エキス(残存アルカロイド含量0.33 %~0.5 %)と明確に区別するために、0.23%以下とした。さらに確実性を高めるために0.023%以下を規定した。また、より好ましいのは、実施例1に示す0.05ppm以下(検出限界以下)である。
【0037】
エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス含有漢方製剤
麻黄は漢方薬の構成生薬として幅広く用いられていることから、麻黄を含有する漢方薬の麻黄を、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスに置き換えることで、エフェドリンアルカロイドに起因する副作用が排除された、より安全性の高い漢方製剤を提供できる。たとえば、関節痛の治療に用いられている麻杏よく甘湯は、麻黄、杏仁、ヨクイニン、甘草から構成されるので、麻黄以外の構成生薬、すなわち、杏仁、ヨクイニン、甘草から調製したエキスに、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを添加することで、副作用の少ない麻杏よく甘湯を作製することができる。
【0038】
また、インフルエンザの初期に用いられる麻黄湯は、麻黄、桂皮、杏仁、甘草から構成されるので、桂皮、杏仁、甘草から調製したエキスにエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを添加することで、副作用の少ない麻黄湯を作製することができる。
【0039】
医薬組成物
本発明はさらに、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを含む組成物を提供し、組成物は抗がん・抗転移薬、疼痛抑制薬、または抗インフルエンザウイルス薬として用いることができ、食品、栄養補助食品または医薬品の形でありうる。
【0040】
組成物に用いるエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスとしては、上述したエフェドリンアルカロイド含量が0.23%以下もしくは0.023%以下であるものが好ましい。より好ましいのは、エフェドリアルカロイド含量が0.05ppm(検出限界)以下である。
【0041】
本発明の組成物が医薬用組成物であるときの投与方法は特に限定されるものではないが、経口投与可能な剤形が好ましい。本発明の医薬用組成物は種々の剤形とすることができる。
【0042】
例えば、経口投与のためには、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁剤、溶液剤、酒精剤、シロップ剤、エキス剤、エリキシル剤とすることができるが、これらに限定されない。また、製剤には薬剤的に許容できる種々の担体を加えることができる。
【0043】
例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着香剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、コーティング剤、ビタミンC、抗酸化剤を含むことができるが、これらに限定されない。
【0044】
本発明の医薬用組成物の投与量は、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスに換算すると、成人1日用量として100mg~3gの範囲で用いることができる。一般的な麻黄エキスの投与量を根拠として、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスに換算すると、成人1日用量として740mg~ 770mgと見積もることができるが、エフェドリンアルカロイドに起因する副作用が排除されているため、投与量を増加させることが可能である。
【0045】
もちろん個別的に、投与されるヒトの年齢、体重、症状、投与経路、投与期間、治療経過等に応じて変化させることもできる。
【0046】
1日あたりの量を数回に分けて投与することもできる。また、他の疼痛抑制剤または抗癌剤と組み合わせて投与することもできる。
【0047】
本発明の組成物は、食品又は栄養補助食品の形態とすることもできる。例えば、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスを原材料に配合することにより、麺類、パン、キャンディー、ゼリー、クッキー、スープ、健康飲料の形態とすることができる。
【0048】
このような食品、栄養補助食品にはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの他に、鉄、カルシウム等の無機成分、種々のビタミン類、オリゴ糖、キトサン等の食物繊維、大豆抽出物等のタンパク質、レシチンなどの脂質、ショ糖、乳糖等の糖類を加えることができる。
【0049】
抗がん・抗転移薬
本発明の組成物を抗がん・抗転移薬として用いることができるがんの種類は、主にMET発現がんである。METは胃癌、大腸癌、肺癌、卵巣癌、乳癌、骨肉腫、脳腫瘍など種々のがん細胞表面に発現していることから、これらのがんの治療に用いることが可能である。HGF-c-Metシグナルは、がん細胞の増殖、運動能、細胞分散、生存、血管新生を促進し、癌細胞の増殖、浸潤及び転移の鍵となる。したがって、本発明の組成物は、がんの再発・転移防止薬としても有効である。
【0050】
疼痛抑制薬
本発明の組成物を疼痛抑制剤として用いることができる疾患としては、筋肉痛、関節痛、腰痛、リューマチ、痛風、がん性疼痛などが挙げられる。
【0051】
抗インフルエンザウイルス薬
本発明の組成物は、インフルエンザウイルスの感染予防及び感染初期の治療に有効である。
【実施例
【0052】
これより本発明を以下の実施例で詳しく説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0053】
実施例1:麻黄エキスの作製。
麻黄の乾燥原料をミキサーにより粉砕し、その粉砕物50gに500mLの水を加え、攪拌しながら、95℃、1時間抽出した。固液分離し、抽出液を3000rpmにて10分間遠心分離を行った。得られた上清液を60℃にて減圧濃縮したと、60℃で一晩減圧乾燥を行い、麻黄エキスとして9.6gを得た。
【0054】
実施例2:イオン交換樹脂SK1Bによるエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの作製。
麻黄の乾燥原料をミキサーにより粉砕し、その粉砕物50gに500mLの水を加え、攪拌しながら、95℃、1時間抽出した。固液分離し、抽出液を3000rpmにて10分間遠心分離を行い、得られた上清液を25mLの強酸型陽イオン交換樹脂SK1B(三菱化学製)に通液させた。通過液を5%のNaHCO3でpH=5.2まで調整し、60℃にて減圧濃縮したと、60℃で一晩減圧乾燥を行い、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスとして6.3gを得た。
【0055】
実施例3:イオン交換樹脂IR120Bによるエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの作製。
麻黄の乾燥原料をミキサーにより粉砕し、その粉砕物50gに500mLの水を加え、攪拌しながら、95℃、1時間抽出した。固液分離し、抽出液を3000rpmにて10分間遠心分離を行い、得られた上清液を25mLの強酸型陽イオン交換樹脂IR120B(オルガノ社製)に通液させた。通過液を5%のNaHCO3でpH=5.2まで調整し、60℃にて減圧濃縮したと、60℃で一晩減圧乾燥を行い、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスとして6.3gを得た。
【0056】
実施例4:高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による麻黄エキス(実施例1)およびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(実施例2と実施例3)に含まれるエフェドリンの含量比較。
麻黄エキス(実施例1)およびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(実施例2)のHPLCチャートを図1に示す。
分析条件
カラム :SHISEIDO AG120 4.6×150mm 5μ
移動相 :ラウリル硫酸ナトリウム溶液(1→128)/アセトニトリル/リン酸混液(640:360:1)
温度 :45℃
検出 :紫外線吸光光度計(測定波長:210nm)
流速 :0.6mL/分(エフェドリンが14分付近になるよう調整)
サンプル :麻黄エキス、またはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの乾燥物を各10mg取り、メタノール1mLを加え混合し、各20μLを注入した。
標準溶液 :エフェドリン標準溶液(1.0mg/50%メタノール10mL)およびプソイドエフェドリン標準溶液(1.0mg/50%メタノール10mL)を各20μL注入した。
【0057】
得られた結果を以下の表1に示す。これらの結果から、強酸型陽イオン交換樹脂SK1B、あるいはIR120Bを用いたカラムクロマトグラフィーによって、麻黄エキスからエフェドリンアルカロイド(エフェドリン及びプソイドエフェドリン)を検出限界(0.05ppm)以下まで除去できることが明らかになった。
【0058】
【表2】
【0059】
実施例5:3次元高速液体クロマトグラフィー(3D-HPLC)による麻黄エキス(実施例1)およびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(実施例2)の組成成分の比較。
分析条件
カラム :TSK-GEL 80TS 4.6×250mm 5μ
移動相 :(A)0.05M酢酸アンモニウム(pH3.6)
(B)アセトニトリル
0分:B液10% → 60分:B液100%
温度 :40℃
検出 :フォトダイオードアレイ(PDA)
流速 :1.0mL/分
サンプル :麻黄エキス、またはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの乾燥物を各10mg取り、メタノール1mLを加え混合し、各20μLを注入した。
標準溶液 :エフェドリン標準溶液(1.0mg/10mLメタノール)およびプソイドエフェドリン標準溶液(1.0mg/10mLメタノール)を各20μL注入した。
【0060】
3D-HPLCのフィンガープリントは図2に示す。
【0061】
3D-HPLCにより麻黄エキスとエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの組成成分を比較した結果、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスにおいてはエフェドリンアルカロイドのピークが消失したが、他の成分のパターンは麻黄エキスとほぼ同じであった。
【0062】
実施例6:LC/MSによる麻黄エキス(実施例1)とエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(実施例2)の組成解析および比較検討
分析条件
カラム:Inertsil ODS-3 (2.1×150 mmI.D. 5 mm)
移動相:0.1% HCOOH in water (A)-0.1% HCOOH in MeOH (B) in a gradient mode: 5%B (0-10 min)→75%B (70 min)
温度:40 ℃
検出 1:PDA 検出器 (200-400 nm)
検出 2:MS 検出器
Interface, ESI positive/negative; ESI source voltage, 4.0 kV; capillary voltage, 10V; source temperature, 300℃; sheath gas flow rate, 50; auxiliary gas flow rate, 25; scan range, m/z 150-2000; mass resolution, 30,000 full width.
流速:0.2 mL/min
サンプル:); injection volume, 1 μL at 5 mg/mL
【0063】
LC/MSのチャートは図3に示す。
【0064】
LC/MSにより麻黄エキスとエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスの組成成分を比較した結果、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスにおいては、l-ephedrine、pseudoephedrine、methylephedrine、norephedrineの各ピークが消失していることを確認した(図3)。
【0065】
実施例7:麻黄エキス(実施例1)およびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(実施例2)のMETキナーゼ阻害作用
METキナーゼ活性は,Poly E4Y1ペプチドを基質とした組換えMETキナーゼドメインによるATP消費に伴うADPの産生量を指標とした。組換えMETキナーゼドメインにPoly E4Y1ペプチドとATPを含む反応緩衝液の混合物に、麻黄エキス、あるいはエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(2ロット)を、それぞれ1μg/mL、5μg/mL、及び10μg/mLとなるように添加し、室温で1時間インキュベートした。反応停止後、ADP-Glo試薬を用いてADP量に依存したルミノール発光強度を測定し、相対METキナーゼ活性を調べた。
【0066】
その結果、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは麻黄エキスと同程度にMETキナーゼ作用を阻害することが明らかとなった。麻黄エキス(実施例1)とエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(実施例2)のMETキナーゼ阻害曲線を図4に示す。
【0067】
実施例8:麻黄エキス(実施例1)およびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(実施例2)のヒト肺癌由来H1975細胞の増殖に対する抑制効果
H1975細胞は、米国生物資源バンク(ATCC)より購入した。H1975細胞を10%FCS-RPMI培地に懸濁し、96穴培養プレートの各ウエルあたり、2×103個/100μLでまいた。一晩培養した後、培養上清を除去し、麻黄エキスおよびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(3ロット)を、それぞれ50、100、150、200μg/mLで添加し、コントロールは10%FCS-RPMI培地を添加した。72時間培養した後、Cell counting kit-8を10μL各ウエルに添加し、4時間を培養した後、各ウエルの吸光度(450 nm)をプレートリーダーにて測定した。各エキスの濃度ごとに4ウエル測定し、その平均値から相対細胞数を算出した(図5)。
【0068】
その結果、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは麻黄エキスと同様にヒト肺癌由来H1975細胞の増殖を抑制することが明らかとなった。
【0069】
実施例9:動物試験における麻黄エキス(実施例1)およびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(実施例2)の疼痛に対する抑制効果
実験動物は4週齢の雄性ICRマウスを48匹用いた。実験開始日に体重測定を行い、各群でほぼ同じになるようにコントロール群,麻黄エキス2群及びエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス2群(1日投与量はそれぞれ350と700mg/kg)に分けた。麻黄エキスおよびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスには注射用蒸留水を加え、37℃、30分間撹拌しながら懸濁させた。懸濁液は、経口投与直前にボルテックスをかけて均一にしてからゾンデで投与した。1日目と2日目は、単回の投与量が175 mg/kg、また375 mg/kgとし、一日2回(9時と17時)を投与した。3日目は、午前中に350mg/kg または700 mg/kgの1回のみを投与した。
【0070】
3日目の午前中の最終投与6時間後に2.5%ホルマリン溶液を20μL足底部皮下に投与した。投与後速やかにマウスを円柱プラスチック容器(内径116mm、高152mm)に入れ、45分間ビデオ撮影した。疼痛関連行動は投与直後から10分後までに生じる第1相と15分以降30分まで生じる第2相を対象とし、一定時間ごとの処置の足を舐めるまたは噛む行動時間を計測した。統計学的解析はコントロール群と被験物質投与群の疼痛行動時間をDunnett’s testsにて行い、有意水準は5%とした。
【0071】
その結果、麻黄エキスは、700 mg/kg投与した場合、第2相の疼痛関連行動を有意に抑制した。エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは、350 mg/kg、及び700mg/kgの両投与量で、第2相の疼痛関連行動を濃度依存的に有意に抑制し、エフェドリン除去前の麻黄エキスより疼痛抑制作用が高かった(図6)。以上の結果より、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは麻黄エキスより、高い疼痛抑制効果を有することが明らかとなった。
【0072】
実施例10: 麻黄エキス(実施例1)およびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキス(実施例2)のインフルエンザウイルス感染阻害作用
アッセイは、インフルエンザウイルスの感染によりMDCK細胞が溶解することを利用し、残存細胞を色素で染色することで検出した。
【0073】
麻黄エキスおよびエフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスについて、それぞれ10%FBS-MEMで200μg/mLの溶液に調製し、さらに10段階の2倍希釈系列を作製し、試料溶液とした。インフルエンザウイルス(A/WSN/33 (H1N1)株)を含む液を10%FBS-MEMで1000TCID50/mLに希釈し、インフルエンザウイルス液とした。MDCK細胞を10%FBS-MEMで懸濁し、96穴培養プレートの各ウエルあたり、3x104個/100μLで播種した。24時間培養した後、培養上清を除去し、試料溶液100μLを各ウエルに添加し、さらに100μLのインフルエンザウイルス液もしくは10%FBS-MEMを添加した。72時間培養した後、クリスタルバイオレットで染色し、マイクロプレートリーダーで各ウエルの560nmにおける吸光度を測定した。
【0074】
その結果、10%FBS-MEMを添加した系列では、試料濃度1.56~25μg/mLの範囲において、いずれのエキスにおいても細胞数の低下は観察されなかったことから、この添加濃度域では細胞毒性は示していないことが確認された(図7B)。一方、インフルエンザウイルス液を添加した系列では、いずれのエキスも、この試料濃度域で濃度依存的に細胞が溶解していることが観察された(図7A)。4パラメーターロジスティック曲線の近似式を求め、そのパラメーターよりIC50値を算出した結果、麻黄エキスでは8.6μg/mL、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスでは8.3μg/mLであった。以上の結果より、エフェドリンアルカロイド除去麻黄エキスは麻黄エキスと同程度にMDCK細胞に対するインフルエンザウイルスの感染を阻害することが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B