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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】新規ペルオキシダーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/28 20060101AFI20220921BHJP
   C12N 9/08 20060101ALI20220921BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20220921BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20220921BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220921BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20220921BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20220921BHJP
   A61K 38/44 20060101ALI20220921BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220921BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20220921BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20220921BHJP
   A61K 8/66 20060101ALI20220921BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20220921BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20220921BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20220921BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20220921BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220921BHJP
   A23K 20/189 20160101ALI20220921BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20220921BHJP
【FI】
C12Q1/28 ZNA
C12N9/08
A23L33/17
C12N1/20 E
C12N1/20 A
C12Q1/02
A23L5/00 M
A23L33/135
A61K38/44
A61K48/00
A61K35/74 A
A61P39/06
A61K8/66
A61K8/99
A61Q1/00
A61Q5/00
A61Q17/04
A61Q19/00
A23K20/189
C12N15/53
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018068713
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019176809
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-02-16
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02670
(73)【特許権者】
【識別番号】592216384
【氏名又は名称】兵庫県
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】今井 岳志
(72)【発明者】
【氏名】三原 久明
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-115995(JP,A)
【文献】特開2005-082493(JP,A)
【文献】特開2001-252078(JP,A)
【文献】Protein Expression & Purification,2005年,Vol.41, No.2,p.363-372
【文献】Database UniProtKB [online], Accession No.Q65LA7,2004年10月25日,https://www.uniprot.org/uniprot/Q65LA7.txt?version=102,[検索日:2021年12月22日]
【文献】World Journal of Microbiology & Biotechnology,2007年,Vol.23, No.9,p.1327-1332
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/28
C12N 9/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(i)~(iii)のいずれかを含む、pH8.7~9.0条件下における過酸化脂質または過酸化脂肪酸特異的検出用試薬;
(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であって、かつ過酸化脂質または過酸化脂肪酸の還元を触媒する活性および/または酸化発色型色原体の酸化を触媒する活性を有する、アミノ酸配列からなるタンパク質
(iii)(i)または(ii)をコードする核酸を含む細胞。
【請求項2】
(i)をコードする核酸を含む細胞が、受託番号NITE P-02670で寄託されたBacillus licheniformisである、請求項1に記載の試薬。
【請求項3】
以下の(i)~(iii)のいずれかを含む、pH8.7~9.0条件下における過酸化脂質または過酸化脂肪酸特異的還元用組成物;
(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であって、かつ過酸化脂質または過酸化脂肪酸の還元を触媒する活性および/または酸化発色型色原体の酸化を触媒する活性を有する、アミノ酸配列からなるタンパク質
(iii)(i)または(ii)をコードする核酸を含む細胞。
【請求項4】
(i)をコードする核酸を含む細胞が、受託番号NITE P-02670で寄託されたBacillus licheniformisである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
組成物が、医薬用組成物、食品用組成物、飼料用組成物または化粧用組成物である、請求項3または4に記載の組成物。
【請求項6】
以下の(i)~(iii)のいずれかを含む、pH8.7~9.0条件下における酸化発色型色原体による過酸化脂質または過酸化脂肪酸特異的呈色反応誘導剤;
(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であって、かつ過酸化脂質または過酸化脂肪酸の還元を触媒する活性および/または酸化発色型色原体の酸化を触媒する活性を有する、アミノ酸配列からなるタンパク質
(iii)(i)または(ii)をコードする核酸を含む細胞。
【請求項7】
(i)をコードする核酸を含む細胞が、受託番号NITE P-02670で寄託されたBacillus licheniformisである、請求項5または6に記載の誘導剤。
【請求項8】
以下の(i)~(iii)のいずれかの存在下、pH8.7~9.0の水性媒体中で、被験試料と酸化発色型色原体を反応させ、反応液の呈色を検出することを含む、被験試料中の過酸化脂質または過酸化脂肪酸の特異的検出方法:
(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であって、かつ過酸化脂質または過酸化脂肪酸の還元を触媒する活性および/または酸化発色型色原体の酸化を触媒する活性を有する、アミノ酸配列からなるタンパク質
(iii)(i)または(ii)をコードする核酸を含む細胞。
【請求項9】
(i)をコードする核酸を含む細胞が、受託番号NITE P-02670で寄託されたBacillus licheniformisである、請求項8に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ペルオキシダーゼの同定、並びにそれらの用途に関する。より詳細には、本発明は、新規ペルオキシダーゼ(または新規ペルオキシダーゼをコードする核酸を含む細胞)を含む、ヒドロペルオキシドの検出用試薬、ヒドロペルオキシド還元用組成物、酸化発色型色原体による呈色反応誘導剤またはリグニン分解剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルオキシダーゼは生体内酸化還元反応の過程で生じる過酸化水素を除去するという生理的役割を担っている。ペルオキシダーゼは高等生物から微生物に至るまで、生物界に広く分布し、多くの種類が知られているが、その中には過酸化水素だけでなく、過酸化脂質、過酸化脂肪酸を基質とするものも知られている(非特許文献1)。
【0003】
しかし、過酸化脂質、過酸化脂肪酸を基質とすることが可能なペルオキシダーゼは、ヘム不含型であり、還元剤としてチオールを利用している。そのため、ヘム不含型のペルオキシダーゼは、ヘム含有型のペルオキシダーゼのようにフェノール類を還元剤として利用することができす、呈色を伴う有用な反応を触媒することができない。上記の点から、過酸化脂質、過酸化脂肪酸の検出を目的とした場合、呈色を伴う反応を触媒できる新規酵素が必要とされていた。
【0004】
また、草本類や木質バイオマスの資化において、課題となる難分解性分子リグニンを従来のヘム含有型のペルオキシダーゼは分解可能であるが、反応に高価な過酸化水素を用いる。さらに、これまでに盛んに研究がなされた白色腐朽菌は、リグニンを分解可能なヘム含有型ペルオキシダーゼをコードする遺伝子を有するが、増殖が遅く、関連酵素の大量取得に課題がある。そのため、バイオ技術を用いたリグニンの分解、変性、除去はいずれも実用化に至っていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Hayesら, Free Rad. Res., 31: 273-300 (1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、酸化発色型色原体によって、過酸化水素だけでなく過酸化脂質、過酸化脂肪酸の還元反応も触媒することができる、新規ペルオキシダーゼを提供し、当該新規ペルオキシダーゼを含むヒドロペルオキシドの検出用試薬、ヒドロペルオキシド還元用組成物、酸化発色型色原体による呈色反応誘導剤を提供することである。本発明の別の目的は、リグニンを分解可能な新規ペルオキシダーゼを探索し、当該遺伝子を単離し、新規リグニン分解剤として提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、土壌から独自に単離したBacillus licheniformis(受領番号NITE AP-02670)が、過酸化リノール酸を電子受容体(酸化剤)とし、リグニンのモデル化合物であるグアイアコールやシリンゴールなどのようなフェノール類、あるいはテトラメチルベンジジンやジアミノベンジジンを電子供与体(還元剤)とした、過酸化脂肪酸の還元を触媒する活性を有するタンパク質を発現していることを見出した。さらに、該タンパク質の推定分子量およびゲノム解析結果から、Bacillus属における機能不明のタンパク質YjbIと高い配列同一性を有するタンパク質が当該活性を有していると推測し、該タンパク質をコードしている遺伝子を単離した。単離した遺伝子を発現する組換え大腸菌についても、過酸化リノール酸の還元を触媒する活性が確認された。以上のことから、上記タンパク質は、従来のようなチオールではなく、グアイアコールやシリンゴール、あるいはテトラメチルベンジジンやジアミノベンジジンのような酸化発色型色原体による、過酸化水素、過酸化脂肪または過酸化脂肪酸などのヒドロペルオキシドの還元を触媒できることが分かった。
本発明者らは、これらの知見に基づいて、さらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]以下の(a)または(b)を含む、ヒドロペルオキシドの検出用試薬
(a)YjbI、
(b)YjbIをコードする核酸を含む細胞;
[2-1]YjbIが、以下の(i)または(ii) を含む、[1]に記載の試薬
(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列、
(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつヒドロペルオキシドの還元を触媒する活性および/または酸化発色型色原体の酸化を触媒する活性を有する、アミノ酸配列;
[2-2]配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列が、以下の(i)または(ii)である、[2-1]に記載の試薬
(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列に1~14個のアミノ酸の置換、欠失、挿入または付加を有するアミノ酸配列;
[3-1]YjbIをコードする核酸を含む細胞が、受領番号NITE AP-02670で寄託されたBacillus licheniformisである、[1]~[2-2]のいずれか1つに記載の試薬;
[3-2]さらにヘムを含む、[1]~[3-1]のいずれか1つに記載の試薬;
[3-3]さらに酸化発色型色原体を含む、[1]~[3-2]のいずれか1つに記載の試薬;
[3-4]酸化発色型色原体が、テトラメチルベンジジン、ジアミノベンジジン、グアイアコールまたはシリンゴールである、[1]~[3-3]のいずれか1つに記載の試薬;
[3-5]ヒドロペルオキシドが、過酸化水素、過酸化脂質または過酸化脂肪酸である、[1]~[3-4]のいずれか1つに記載の試薬;
[3-6]過酸化脂肪酸が、過酸化リノール酸である、[3-5]に記載の試薬;
[4]以下の(a)または(b)を含む、ヒドロペルオキシド還元用組成物
(a)YjbI、
(b)YjbIをコードする核酸を含む細胞;
[5-1]YjbIが、以下の(i)または(ii) を含む、[4]に記載の組成物
(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列、
(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつヒドロペルオキシドの還元を触媒する活性および/または酸化発色型色原体の酸化を触媒する活性を有する、アミノ酸配列;
[5-2]配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列が、以下の(i)または(ii)である、[5-1]に記載の組成物
(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列に1~14個のアミノ酸の置換、欠失、挿入または付加を有するアミノ酸配列;
[6-1]YjbIをコードする核酸を含む細胞が、受領番号NITE AP-02670で寄託されたBacillus licheniformisである、[4]~[5-2]のいずれか1つに記載の組成物;
[6-2]さらにヘムを含む、[4]~[6-1]のいずれか1つに記載の組成物;
[6-3]さらに還元剤を含む、[4]~[6-2]のいずれか1つに記載の組成物;
[6-4]還元剤が、ゲニステイン、ゲニステイン-7-グルコシド、ゲニステイン-アセチルグリコシド、ゲニステイン-マロニルグリコシド、ダイゼイン、ダイゼイン-7-グルコシド、ダイゼイン-アセチルグリコシド、ダイゼイン-マロニルグリコシド、グリシテイン、グリシテイン-7-グルコシド、グリシテイン-マロニルグリコシド、ヘスペレチン、エクオール、ケルセチン、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガラート、エピガロカテキンガラート、タンニン酸、テアフラビン、テアルビギン、アザレアチン、フィセチン、ガランギン、ゴッシペチン、ケンペリド、ケンペロール、モリン、ミリセチン、ナツダイダイン、パキポドール、ラムナジン、ラムネチン、タマリキセチン、アストラガリン、アザレイン、ヒペロシド、イソケルシトリン、ケルシトリン、ロビニン、ルチン、スピレオシド、レスベラトロール、アントシアニン、クロロゲン酸、エラグ酸、リグナン、クルクミン、グアイアコール、シリンゴール、バニリン、エチルバニリン、オイゲノール、キャノロール、コーヒー酸、シナピン酸、クマル酸、フェルラ酸、プロトカテク酸、4-ヒドロキシ安息香酸、4-ヒドロキシベンズアルデヒド、4-ヒドロキシフェニル酢酸、バニリン酸、シリング酸、ナリンゲニン、エリオジクチオール-7-ルチノシド、ヘスペレチン-7-ルチノシド、ケンペロール-3-ルチノシド、ケンペロール-3-グルコシド、エリオジクチオールグリコシド、ナリンゲニン-7-ネオヘスペリオドシド、レスベラトロールグルコシドおよびトコフェロールからなる群から選択される、[6-3]に記載の組成物;
[6-5]ヒドロペルオキシドが、過酸化水素、過酸化脂質または過酸化脂肪酸である、[4]~[6-4]のいずれか1つに記載の組成物;
[6-6]過酸化脂肪酸が、過酸化リノール酸である、[6-5]に記載の組成物;
[7]組成物が、医薬用組成物、食品用組成物、飼料用組成物または化粧用組成物である、[4]~[6-6]のいずれか1つに記載の組成物;
[8]以下の(a)または(b)を含む、酸化発色型色原体による呈色反応誘導剤
(a)YjbI、
(b)YjbIをコードする核酸を含む細胞;
[9-1]YjbIが、以下の(i)または(ii) を含む、[8]に記載の誘導剤
(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列、
(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつヒドロペルオキシドの還元を触媒する活性および/または酸化発色型色原体の酸化を触媒する活性を有する、アミノ酸配列;
[9-2]配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列が、以下の(i)または(ii)である、[9-1]に記載の誘導剤
(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列に1~14個のアミノ酸の置換、欠失、挿入または付加を有するアミノ酸配列;
[10-1]YjbIをコードする核酸を含む細胞が、受領番号NITE AP-02670で寄託されたBacillus licheniformisである、[8]~[9-2]のいずれか1つに記載の誘導剤;
[10-2]さらにヘムを含む、[8]~[10-1]のいずれか1つに記載の誘導剤;
[10-3]さらにヒドロペルオキシドを含む、[8]~[10-2]のいずれか1つに記載の誘導剤;
[10-4]ヒドロペルオキシドが、過酸化水素、過酸化脂質または過酸化脂肪酸である、[10-3]に記載の誘導剤;
[10-5]酸化発色型色原体が、テトラメチルベンジジン、ジアミノベンジジン、グアイアコールまたはシリンゴールである、[8]~[10-4]のいずれか1つに記載の誘導剤;
[11-1]以下の(a)または(b)を含む、リグニン分解剤
(a)YjbI、
(b)YjbIをコードする核酸を含む細胞;
[11-2]YjbIが、以下の(i)または(ii) を含む、[11-2]に記載の分解剤
(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列、
(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつヒドロペルオキシドの還元を触媒する活性および/または酸化発色型色原体の酸化を触媒する活性を有する、アミノ酸配列;
[11-3]配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列が、以下の(i)または(ii)である、[11-2]に記載の分解剤;
(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列、
(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列に1~14個のアミノ酸の置換、欠失、挿入または付加を有するアミノ酸配列;
[11-4]YjbIをコードする核酸を含む細胞が、受領番号NITE AP-02670で寄託されたBacillus licheniformisである、[11-1]~[11-3]のいずれか1つに記載の分解剤;
[11-5]さらにヘムを含む、[11-1]~[11-4]のいずれか1つに記載の分解剤;
[11-6]さらにヒドロペルオキシドを含む、[11-1]~[11-5]のいずれか1つに記載の分解剤;
[11-7]ヒドロペルオキシドが、過酸化水素、過酸化脂質または過酸化脂肪酸である、[11-6]に記載の分解剤;
などを提供する。
【発明の効果】
【0009】
YjbIまたはYjbIをコードする核酸を含む細胞は、酸化発色型色原体の呈色によって、被験試料中のヒドロペルオキシドを簡便かつ迅速に検出するための試薬として用いることができる。特に、植物由来タンパク質である西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)と異なり、YjbIは微生物由来タンパク質であるため、安価に大量調製が見込めるうえに、HRPでは利用できない過酸化脂肪酸や過酸化脂質を基質として用いることができる点で優れており、塩基性条件下であれば過酸化脂肪酸や過酸化脂質のみを検出することができる点で利用価値が高い。また、YjbIまたはYjbIをコードする核酸を含む細胞は、ヒドロペルオキシドによる酸化発色型色原体の酸化を触媒することによって呈色反応を誘導することができるため、従来の前記反応の触媒であるHRPを代替することができる。さらに、YjbIまたはYjbIをコードする核酸を含む細胞は、医薬用組成物、食品用組成物、飼料用組成物または化粧用組成物等の組成物に用いることによって、該組成物を投与、摂取、塗布等した対象において、DNA等の損傷に関与する活性酸素を還元することができる。また、ヒドロペルオキシドの一種である過酸化脂肪酸を還元することによって得られる水酸化脂肪酸は、近年、抗炎症、代謝調節などの生理的効果を有することが報告されており、上記組成物による健康増進効果が期待できる。さらに、YjbIまたはYjbIをコードする核酸を含む細胞は、ヒドロペルオキシドによるリグニンのモデル化合物であるグアイアコールやシリンゴールの酸化を触媒できることから、リグニン分解剤として利用することができる。特に植物の破砕によって細胞から放出されるリポキシダーゼは、脂肪酸を酸化することによって過酸化脂肪酸を作り出すため、外部から新たに過酸化脂肪酸を添加する必要がない点で簡便である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】CBB染色および活性染色の結果を示す図である。M:分子量マーカーのCBB染色像、TKS3:TKS3由来抽出タンパク質のCBB染色像、M’:分子量マーカーの活性染色像、TKS3’:TKS3由来抽出タンパク質の活性染色像。矢印がYjbIと推測されるタンパク質のバンド。
図2】TKS3のyjbIの塩基配列(配列番号1)およびその塩基配列がコードするアミノ酸配列(配列番号2)を示す図である。
図3】過酸化リノール酸に対するTKS3のLineweaver-Burkプロットを示す図である。
図4】各pHにおけるTKS3による過酸化リノール酸の還元活性を示す図である。
図5】(a)各pHにおけるTKS3による過酸化水素の還元活性および(b)TKS3による過酸化水素の還元活性と過酸化リノール酸の還元活性との比較を示す図である(pH 8.0におけるTKS3による過酸化リノール酸の還元活性を1.0とした。) 。
図6】各温度におけるTKS3による過酸化リノール酸の還元活性を示す図である。
図7】(a)ヘミンとTKS3の加熱前後の活性(加熱前の各活性を100%とした)、(b)ヘミンによる過酸化水素の還元活性と過酸化リノール酸の還元活性の比較(pH 8.0におけるヘミンによる過酸化リノール酸の還元活性を1.0とした)および (C) ヘミンまたはTKS3による過酸化リノール酸の還元活性に対する2%過酸化水素処理の影響を示す図である(過酸化水素の代わりに蒸留水を添加した際の過酸化リノール酸還元活性を100%とした。)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のYjbIは枯草菌、根粒菌、大腸菌、シアノバクテリア等の細菌に広く分布するタンパク質であり、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質である。
YjbIは、例えば、上記枯草菌等の細菌から単離、精製されるタンパク質であってもよい。また、化学合成もしくは無細胞翻訳系で生化学的に合成されたタンパク質であってもよいし、あるいは上記アミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸を導入された形質転換体から産生される組換えタンパク質であってもよい。
【0012】
配列番号:2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と約90%以上、好ましくは約93%以上、さらに好ましくは約95%以上、特に好ましくは約98%以上の相同性を有するアミノ酸配列などが挙げられる。ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換はタンパク質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247:1306-1310 (1990)を参照)。
本明細書におけるアミノ酸配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。アミノ酸配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら, Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needlemanら, J. Mol. Biol., 48: 444-453 (1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、MyersおよびMiller, CABIOS, 4: 11-17 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version 2.0)に組み込まれている]、Pearsonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられ、それらも同様に好ましく用いられ得る。
より好ましくは、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と約90%以上、好ましくは約93%以上、さらに好ましくは約95%以上、特に好ましくは約98%以上の同一性を有するアミノ酸配列である。
【0013】
配列番号:2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質としては、例えば、前記の配列番号:2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含み、配列番号:2で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質と実質的に同質の活性を有するタンパク質などが好ましい。
【0014】
実質的に同質の活性としては、例えば、電子受容体としてのヒドロペルオキシド(例えば、過酸化水素、過酸化脂質、過酸化脂肪酸など)の還元を触媒する活性、電子供与体としての酸化発色型色原体(例えば、テトラメチルベンジジン、ジアミノベンジジン、グアイアコール、シリンゴールなど)の酸化を触媒する活性などが挙げられる。「実質的に同質」とは、それらの活性が定性的(例えば、生理学的または薬理学的)に同じであることを示す。したがって、ヒドロペルオキシドの還元を触媒する活性や酸化発色型色原体の酸化を触媒する活性などの活性は同等(例えば、約0.5~約2倍)であることが好ましいが、これらの活性の程度やタンパク質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。
ヒドロペルオキシドの還元を触媒する活性や酸化発色型色原体の酸化を触媒する活性の測定は、自体公知の方法に準じて行なうことができるが、例えば、酸化発色型色原体の酸化によって生じる呈色反応を利用して活性を測定することができる。
【0015】
ヒドロペルオキシドとしては、本発明のYjbIによって還元が触媒されるヒドロペルオキシドであれば特に制限はなく、例えば、過酸化水素、過酸化脂質、過酸化脂肪酸などが挙げられる。過酸化脂質としては、例えば、1-パルミトイル-2-(13-ハイドロペルオキシオクタデカジエノイル)-ホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-(9-ハイドロペルオキシオクタデカジエノイル)-ホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-ハイドロペルオキシエイコサテトラエノイル-ホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-ハイドロペルオキシドコサヘキサエノイル-ホスファチジルコリンなどが挙げられる。過酸化脂肪酸としては、例えば、過酸化リノール酸、過酸化オレイン酸、過酸化リノレン酸、過酸化アラキドン酸、過酸化エイコサペンタエン酸、過酸化ドコサヘキサエン酸などが挙げられる。
【0016】
酸化発色型色原体としては、本発明のYjbIによって酸化が触媒される酸化発色型色原体であれば特に制限はなく、例えばロイコ型色原体、酸化カップリング発色型色原体等が挙げられる。
ロイコ型色原体は、ヒドロペルオキシド及び本発明のYjbIの存在下、単独で色素へ変換される物質であり、テトラメチルベンジジン (TMB)、ジアミノベンジジン (DAB)、o-フェニレンジアミン、10-N-カルボキシメチルカルバモイル-3,7-ビス(ジメチルアミノ)-10H-フェノチアジン(CCAP)、10-N-メチルカルバモイル-3,7-ビス(ジメチルアミノ)-10H-フェノチアジン(MCDP)、N-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン ナトリウム塩(DA-64)、10-N-(カルボキシメチルアミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)-10H-フェノチアジン ナトリウム塩(DA-67)、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ジフェニルアミン、ビス〔3-ビス(4-クロロフェニル)メチル-4-ジメチルアミノフェニル〕アミン(BCMA)等が挙げられ、好ましくは、テトラメチルベンジジン、ジアミノベンジジンが挙げられる。
酸化カップリング発色型色原体は、ヒドロペルオキシド及び本発明のYjbIの存在下、2つの化合物が酸化的カップリングして色素を生成する物質である。2つの化合物の組み合わせとしては、カプラーとアニリン類との組み合わせ、カプラーとフェノール類との組み合わせ等が挙げられる。
カプラーとしては、例えば4-アミノアンチピリン(4-AA)、3-メチル-2-ベンゾチアゾリノンヒドラゾン等が挙げられる。
アニリン類としては、N-(3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOOS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン(MAOS)、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(DAOS)、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メチルアニリン(TOPS)、N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン(HDAOS)、N,N-ジメチル-3-メチルアニリン、N,N-ジ(3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-(3-スルホプロピル)-3,5-ジメトキシアニリン、N-エチル-N-(3-スルホプロピル)-3,5-ジメチルアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-3-メトキシアニリン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)アニリン、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-サクシニルエチレンジアミン(EMSE)、N-エチル-N-(3-メチルフェニル)-N’-アセチルエチレンジアミン、N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロピル)-4-フルオロ-3,5-ジメトキシアニリン(F-DAOS)等が挙げられる。
フェノール類としては、フェノール、4-クロロフェノール、3-メチルフェノール、3-ヒドロキシ-2,4,6-トリヨード安息香酸(HTIB)等が挙げられる。
【0017】
また、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、例えば、(1)配列番号:2で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1~14個程度、より好ましくは1~10個程度、さらに好ましくは1~数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸の置換を有するアミノ酸配列、(2)配列番号:2で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1~14個程度、より好ましくは1~10個程度、さらに好ましくは1~数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸の欠失を有するアミノ酸配列、(3)配列番号:2で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1~14個程度、より好ましくは1~10個程度、さらに好ましくは1~数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸の挿入を有するアミノ酸配列、(4)配列番号:2で表されるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1~14個程度、より好ましくは1~10個程度、さらに好ましくは1~数(2、3、4もしくは5)個)のアミノ酸の付加を有するアミノ酸配列、または(5)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含有するタンパク質なども含まれる。
上記のようにアミノ酸配列が置換、欠失、挿入または付加されている場合、その位置は、タンパク質の活性が保持される限り特に限定されない。
【0018】
本発明のYjbIは、好ましくは、配列番号:2で表されるアミノ酸配列(Bacillus licheniformis YjbI(GenBankアクセッション番号:ATI75479)の他、例えば、Bacillus paralicheniformis YjbI(GenBankアクセッション番号:CP005965))を含むタンパク質、Bacillus属に属する他種におけるホモログ[例えば、GenBankにアクセッション番号PAD00377として登録されているBacillus paralicheniformisにおけるホモログ(Bacillus licheniformis YjbIに対して約99%の同一性を有する)等]を含むタンパク質、あるいはBacillus属以外の細菌におけるホモログ[例えば、GenBankにアクセッション番号ACJ34478として登録されているAnoxybacillus flavithermusにおけるホモログ(Bacillus licheniformis YjbIに対して約73%の同一性を有する)等]を含むタンパク質である。より好ましくは、本発明のYjbIは、配列番号:2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質である。
【0019】
YjbIは、前述した枯草菌等の細菌から自体公知のタンパク質の精製方法によって製造することができる。具体的には、枯草菌等の細菌を培養し、培養物から公知の方法で集めた菌体を適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解などによって菌体を破壊した後、遠心分離やろ過により可溶性タンパク質の粗抽出液を得る方法などが適宜用いられる。該緩衝液は、尿素や塩酸グアニジンなどのタンパク質変性剤や、トリトンX-100TMなどの界面活性剤を含んでいてもよい。また、YjbIが菌体外に分泌される場合には、培養物から遠心分離またはろ過等により培養上清を分取するなどの方法が用いられる。
このようにして得られた可溶性画分または培養上清中に含まれるYjbIの単離精製は、自体公知の方法に従って行うことができる。このような方法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法;透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法;イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法;アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法;逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法;等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法;などが用いられる。これらの方法は、適宜組み合わせることもできる。
【0020】
YjbIはまた、公知のペプチド合成法に従って製造することもできる。
ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。カルボキシ基と側鎖の官能基に保護基を付けたアミノ酸誘導体と、アミノ基と側鎖の官能基を保護したアミノ酸誘導体とを縮合し、保護基を脱離することにより目的とするタンパク質を製造することができる。
ここで、縮合や保護基の脱離は、自体公知の方法、例えば、以下の(1)~(5)に記載された方法に従って行われる。
(1) M. BodanszkyおよびM.A. Ondetti, Peptide Synthesis, Interscience Publishers,
New York (1966年)
(2) SchroederおよびLuebke, The Peptide, Academic Press, New York (1965年)
(3) 泉屋信夫他、ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株) (1975年)
(4) 矢島治明および榊原俊平、生化学実験講座 1、タンパク質の化学IV 205 (1977年)
(5) 矢島治明監修、続医薬品の開発、第14巻、ペプチド合成、広川書店
【0021】
このようにして得られたYjbIは、公知の精製法により精製単離することができる。ここで、精製法としては、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶、これらの組み合わせなどが挙げられる。
上記方法で得られるYjbIが遊離体である場合には、該遊離体を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆にYjbIが塩として得られた場合には、該塩を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
【0022】
本発明のYjbIは、それをコードする核酸を含む細胞として提供されてもよい。YjbIをコードする核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAが挙げられる。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。一本鎖の場合は、センス鎖(即ち、コード鎖)であっても、アンチセンス鎖(即ち、非コード鎖)であってもよい。
YjbIをコードするDNAとしては、枯草菌等の細菌由来のゲノムDNAなどが挙げられる。YjbIをコードするゲノムDNAは、上記した枯草菌等の細菌より調製したゲノムDNA画分を鋳型として用い、Polymerase Chain Reaction(以下、「PCR法」と略称する)によって直接増幅することもできる。
【0023】
YjbIをコードするDNAとしては、例えば、配列番号:1で表される塩基配列を含有するDNA、または配列番号:1で表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、前記したYjbIと実質的に同質の活性(例:ヒドロペルオキシドの還元活性や酸化発色型色原体の酸化活性など)を有するタンパク質をコードするDNAなどが挙げられる。
配列番号:1で表される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、配列番号:1で表される塩基配列と約80%以上、好ましくは約85%以上、さらに好ましくは約90%以上、特に好ましくは約95%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有する塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。
本明細書における塩基配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。塩基配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、上記したアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムが同様に好ましく例示される。
【0024】
ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ストリンジェントな条件に従って行なうことができる。
ハイストリンジェントな条件としては、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)中45℃でのハイブリダイゼーション反応の後、0.2×SSC/0.1% SDS中65℃での一回以上の洗浄などが挙げられる。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。
【0025】
YjbIをコードするDNAは、好ましくは配列番号:1で表される塩基配列(Bacillus licheniformis YjbIをコードする塩基配列(GenBankアクセッション番号:CP023729)の他、例えば、Bacillus paralicheniformis YjbI(GenBankアクセッション番号:CP005965))を含むDNA、Bacillus属に属する他種におけるホモログをコードする塩基配列[例えば、GenBankにアクセッション番号NPCO01000007として登録されているBacillus paralicheniformisにおけるホモログをコードする塩基配列等]を含むDNA、あるいはBacillus属以外の細菌におけるホモログをコードする塩基配列[例えば、GenBankにアクセッション番号CP000922として登録されているAnoxybacillus flavithermusにおけるホモログをコードする塩基配列等]を含むDNAである。より好ましくは、本発明のYjbIをコードするDNAは、配列番号:1で表される塩基配列からなる塩基配列である。
【0026】
YjbIをコードするDNAは、該YjbIをコードする塩基配列の一部分を有する合成DNAプライマー(例えば、配列番号3と配列番号4)を用いてPCR法によって増幅するか、または適当な発現ベクターに組み込んだDNAを、YjbIの一部あるいは全領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを標識したものとハイブリダイゼーションすることによってクローニングすることができる。ハイブリダイゼーションは、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(前述)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、該ライブラリーに添付された使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
【0027】
本発明のYjbIをコードする核酸を含む細胞(以下、本発明の細胞ともいう)としては、本発明のYjbIをコードする核酸を含むゲノムを含む細胞、本発明のYjbIをコードする核酸を含む発現ベクターを含む細胞等が挙げられる。
【0028】
本発明のYjbIをコードする核酸を含むゲノムを含む細胞としては、上記の枯草菌等の細菌が挙げられる。本発明のYjbIをコードする核酸を含むゲノムを含む細胞としては、公知の細菌であってもよいし、新規の細菌を単離取得して用いてもよい。発明者らは、後述する実施例の通り、本発明のYjbIをコードする核酸を含むゲノムを含む細胞として、Bacillus licheniformis(TKS3)を同定し、このTKS3を平成30年3月23日に、受託番号NITE P-02670として独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託した。
【0029】
本発明のYjbIをコードする核酸を含む発現ベクターを含む細胞は、公知の手段で得ることができる。例えば、上記の通りにクローン化された本発明のYjbIをコードするDNAを発現可能になるような態様で発現ベクターに連結し、細胞を該発現ベクターで形質転換することによって得ることができる。
【0030】
本発明のYjbIをコードするDNAを含む発現ベクターは、例えば、YjbIをコードするDNA断片を切り出し、該DNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。
発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例、pBR322,pBR325,pUC12,pUC13);枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110,pTP5,pC194);酵母由来プラスミド(例、pSH19,pSH15)などが用いられる。
プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。
例えば、宿主がエシェリヒア属菌である場合、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーターなどが好ましい。
宿主がバチルス属菌である場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなどが好ましい。
【0031】
発現ベクターとしては、上記の他に、所望によりエンハンサー、選択マーカーなどを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、アンピシリン耐性遺伝子(以下、amprと略称する場合がある)等が挙げられる。
また、必要に応じて、宿主に合ったシグナル配列をコードする塩基配列(シグナルコドン)を、YjbIをコードするDNAの5’末端側に付加(またはネイティブなシグナルコドンと置換)してもよい。例えば、宿主がエシェリヒア属菌である場合、PhoAシグナル配列、OmpAシグナル配列などが;宿主がバチルス属菌である場合、α-アミラーゼシグナル配列、サブチリシンシグナル配列などがそれぞれ用いられる。
【0032】
細胞としては、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌などが用いられる。
エシェリヒア属菌としては、例えば、エシェリヒア コリ(Escherichia coli)K12・DH1〔プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),60巻,160 (1968)〕,エシェリヒア コリJM103〔ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research),9巻,309 (1981)〕,エシェリヒア コリJA221〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology),120巻,517 (1978)〕,エシェリヒア コリHB101〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー,41巻,459 (1969)〕,エシェリヒア コリC600〔ジェネティックス(Genetics),39巻,440 (1954)〕などが用いられる。
バチルス属菌としては、例えば、バチルス サブチルス(Bacillus subtilis)MI114〔ジーン (Gene),24巻,255 (1983)〕,バチルス サブチルス207-21〔ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Journal of Biochemistry),95巻,87 (1984)〕などが用いられる。
【0033】
形質転換は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。
エシェリヒア属菌は、例えば、プロシージングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンジイズ・オブ・ザ・ユーエスエー(Proc. Natl. Acad. Sci. USA),69巻,2110 (1972)やジーン(Gene),17巻,107 (1982)などに記載の方法に従って形質転換することができる。
バチルス属菌は、例えば、モレキュラー・アンド・ジェネラル・ジェネティックス(Molecular & General Genetics),168巻,111 (1979)などに記載の方法に従って形質転換することができる。
【0034】
以上の通り、本発明のYjbIをコードするDNAを含む発現ベクターを含む細胞を得ることができる。なお、上記の細胞を培養することによって、本発明のYjbIを製造することもできる。
【0035】
本発明のYjbIまたは本発明の細胞は、酸化発色型色原体の酸化とヒドロペルオキシドの還元を触媒できることから、ヒドロペルオキシドを検出するための試薬として用いることができる。従って、本発明は、YjbIまたはYjbIをコードする核酸を含む細胞を含む、ヒドロペルオキシドの検出用試薬(以下、本発明の検出用試薬)を提供する。従来、酸化発色型色原体による過酸化水素の還元を触媒し、呈色によって過酸化水素を検出することができる代表的酵素は、西洋わさびペルオキシダーゼであったが、酸化発色型色原体による過酸化脂質や過酸化脂肪酸の還元を触媒できる酵素は知られていない。従って、本発明の検出用試薬を用いることによって、過酸化水素のみならず、過酸化脂質や過酸化脂肪酸までも酸化発色型色原体の呈色反応を利用して簡便かつ容易に検出できる。また、植物由来タンパク質である西洋わさびペルオキシダーゼと異なり、本発明のYjbIは微生物由来タンパク質であるため、安価に大量調製が見込める点で優れる。さらに、本発明の検出用試薬は、塩基性条件下においては、過酸化脂質や過酸化脂肪酸のみを検出することができ、検出対象の選択が容易であることも有利な点として挙げられる。なお、過酸化脂質や過酸化脂肪酸は、生体中の酸化ストレスの指標となるため、別の態様として、本発明の検出用試薬は酸化ストレスの検出用試薬としても用いることができる。本発明の検出用試薬で検出できるヒドロペルオキシドは、本発明のYjbIまたは本発明の細胞の存在下、酸化発色型色原体によって還元されるヒドロペルオキシドであれば特に制限はなく、上記したヒドロペルオキシドと同様であってよい。
【0036】
本発明の検出用試薬は、さらにヘムを含んでもよい。後述する実施例の通り、本発明のYjbIは、Bacillus属における機能不明のタンパク質と高いアミノ酸配列同一性を有することから、ヘムタンパク質であることが示唆される。ヘムは、2価の鉄原子とポルフィリンから成る錯体であってもよいし、2価の鉄原子とポルフィリン構造異性体またはポルフォリン類縁体から成る錯体であってもよい。ポルフィリン構造異性体としては、ポルフィセン、コルフィセン、ヘミポルフィセンなどが挙げられる。ポルフィリン類縁体としては、コロール、フタロシアニン、クロリンなどが挙げられる。
【0037】
本発明の検出用試薬は、さらに酸化発色型色原体を含んでもよい。本発明のYjbIは、ヒドロペルオキシドによる酸化発色型色原体の酸化を触媒し、呈色反応を誘導することができる。従って、酸化発色型色原は、本発明の検出用試薬によるヒドロペルオキシドの検出および定量をより迅速かつ簡便にすることができる。本発明の検出用試薬に含まれる酸化発色型色原体は、本発明のYjbIの存在下、ヒドロペルオキシドによる酸化によって呈色する色原体であれば特に制限はなく、上記した酸化発色型色原体と同様であってよい。
【0038】
以上の通り、本発明のYjbIまたは本発明の細胞を用いることによって、ヒドロペルオキシドを検出することができる。従って、本発明はまた、本発明のYjbIまたは本発明の細胞の存在下、被験試料と酸化発色型色原体を反応させ、反応液の呈色を検出することを含む、被験試料中のヒドロペルオキシドの検出方法(以下、本発明の検出方法)を提供する。本発明の検出方法は、本発明の検出用試薬と同様に、さらにヘム、酸化発色型色原体を使用してもよい。
【0039】
本発明の検出方法で用いられる被験試料は、本発明の検出方法を可能とする被験試料であれば特に制限はなく、例えば、生体試料(血液、血漿、血清、リンパ液、尿、汗、唾液等の体液もしくはそのフラクションなど)が挙げられる。
【0040】
本発明の検出方法における、本発明のYjbIの濃度としては、ヒドロペルオキシドの検出に適した濃度であれば特に制限はないが、通常、1~100 kU/Lである。本発明の細胞を用いる場合は、細胞内のYjbIの濃度が上記の濃度になるように細胞数に調整して用いる。
【0041】
本発明の検出方法における、酸化発色型色原体の濃度は、ヒドロペルオキシドの検出に適した濃度であれば特に制限はないが、通常、0.01~10 g/Lである。
【0042】
本発明の検出方法は、通常、pH4.0~10.0の水性媒体中で行われ、pH6.0~9.0の水性媒体中で行われることが好ましい。特に、本発明の検出方法は、pH8.7~9.0の水性媒体中で行われる場合、過酸化水素は検出できないが、過酸化脂質または過酸化脂肪酸は検出可能であるため、好ましい。水性媒体としては、例えば脱イオン水、蒸留水、緩衝液等が挙げられ、緩衝液が好ましい。緩衝液としては、例えばリン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、グッド緩衝液等が挙げられる。
【0043】
また、本発明のYjbIまたは本発明の細胞は、ヒドロペルオキシドの還元を触媒できることから、ヒドロペルオキシドを還元するための組成物として用いることができる。従って、本発明は、YjbIまたはYjbIをコードする核酸を含む細胞を含む、ヒドロペルオキシド還元用組成物(以下、本発明の組成物)を提供する。本発明の組成物は、該組成物中に含有されるヒドロペルオキシドが本発明のYjbIまたは本発明の細胞によって還元されるだけでなく、該組成物を投与、摂取または塗布する対象におけるヒドロペルオキシドを還元することもできる。本発明の組成物で還元できるヒドロペルオキシドは、本発明の検出用試薬で検出できるヒドロペルオキシドと同様であってよい。また、本発明の組成物は、本発明の検出用試薬と同様に、さらにヘムを含んでもよい。
【0044】
本発明の組成物としては、例えば、医薬用組成物、食品用組成物、飼料用組成物または化粧用組成物等が挙げられるが、それに制限されない。
【0045】
本発明の組成物が医薬用組成物である場合、当該医薬用組成物の剤型としては、散剤、顆粒剤、丸剤、ソフトカプセル、ハードカプセル、錠剤、チュアブル錠、速崩錠、シロップ、液剤、懸濁剤、座剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、粘付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製される。
【0046】
注射剤の形で投与する場合には、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、経皮、関節内、滑液嚢内、胞膜内、骨膜内、舌下、口腔内等に投与することが好ましく、特に静脈内投与又は腹腔内投与が好ましい。静脈内投与は、点滴投与、ボーラス投与のいずれであってもよい。
【0047】
本発明の組成物が食品用組成物(または食品用添加物)である場合、当該食品用組成物は、溶液、懸濁物、粉末、固体成形物等、経口摂取可能な形態であればよく、特に限定するものではない。具体例としては、サプリメント、飲料、菓子、即席食品類、油脂食品、小麦粉製品、調味料、畜産加工品、発酵食品などが挙げられる。特に、本発明の食品組成物が発酵食品であった場合、発酵に用いる細菌は本発明の細胞であってもよい。例えば、本発明の食品用組成物が納豆である場合、本発明のYjbIをコードする核酸を含む発現ベクターでBacillus subtilis var. nattoを形質転換し、本発明のYjbIを高発現するBacillus subtilis var. nattoで大豆を発酵させることによって、納豆に含まれるヒドロペルオキシドを還元することができる。
【0048】
本発明の組成物が飼料用組成物(または飼料用添加物)である場合、当該飼料用組成物としては、ペットフード、畜産又は水産養殖飼料用添加物等が挙げられる。
【0049】
本発明の組成物が化粧用組成物である場合、特に限定されないが、基礎化粧品(例、化粧水、乳液、化粧下地、美容液、ナイトクリーム、パック、メイク落とし製品(クレンジングジェル等)、リップクリーム、爪用クリーム等)、メイクアップ化粧品(例、ファンデーション(固形、クリーム状、液状等)、日焼け止めクリーム、BBクリーム、CCクリーム、コンシーラー、口紅、リップグロス、アイシャドウ、アイライナー、チーク、マスカラ、ブロンザー等)、ヘアケア化粧料(ヘアトリートメント剤(例、ヘアトリートメント、アウトバストリートメント、毛髪用美容液、枝毛コート剤等)、ヘアスタイリング剤(例、ブラッシングローション、カーラーローション、ポマード、チック、セット用ヘアスプレー、ヘアミスト、ヘアリキッド、スタイリングフォーム、ヘアジェル、ウォーターグリース等)、髭剃り用製品(例、シェービングクリーム、アフターシェーブローション等)等が挙げられる。
【0050】
本発明の組成物を投与、摂取または塗布する対象としては、ヒト、又はヒト以外の動物(例えば、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ブタ、ウシ、ニワトリ、インコ、九官鳥、ヤギ、ウマ、ヒツジ、サル等)が挙げられる。
【0051】
本発明の組成物の投与、摂取または塗布量は、投与、摂取または塗布する対象、対象疾患、症状、投与ルートなどによっても異なるが、例えば、本発明の組成物に含まれる本発明のYjbIを1日投与、摂取または塗布量として、通常、0.02~100 mg/kg体重、好ましくは、0.2~50 mg/kg体重、より好ましくは、0.5~20 mg/kg体重を、経口的または非経口的に投与または摂取することができる。投与、摂取または塗布は1日に複数回に分けてもよい。また、症状に応じて増量あるいは減量してもよい。本発明の細胞を用いる場合は、細胞内のYjbIの濃度が上記の濃度になるように細胞数に調整して用いる。
【0052】
本発明の組成物は、さらに還元剤を含んでもよい。本発明のYjbIは、該還元剤によるヒドロペルオキシドの還元を触媒することができる。従って、還元剤は、本発明の組成物によるヒドロペルオキシドの還元を触媒する活性をより増幅することができる。本発明の組成物に含まれる還元剤は、本発明のYjbIの存在下、ヒドロペルオキシドを還元できる物質であって、生体に有毒でなければ特に制限はないが、例えば、ゲニステイン、ゲニステイン-7-グルコシド、ゲニステイン-アセチルグリコシド、ゲニステイン-マロニルグリコシド、ダイゼイン、ダイゼイン-7-グルコシド、ダイゼイン-アセチルグリコシド、ダイゼイン-マロニルグリコシド、グリシテイン、グリシテイン-7-グルコシド、グリシテイン-マロニルグリコシド、ヘスペレチン、エクオール、ケルセチン、カテキン、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガラート、エピガロカテキンガラート、タンニン酸、テアフラビン、テアルビギン、アザレアチン、フィセチン、ガランギン、ゴッシペチン、ケンペリド、ケンペロール、モリン、ミリセチン、ナツダイダイン、パキポドール、ラムナジン、ラムネチン、タマリキセチン、アストラガリン、アザレイン、ヒペロシド、イソケルシトリン、ケルシトリン、ロビニン、ルチン、スピレオシド、レスベラトロール、アントシアニン、クロロゲン酸、エラグ酸、リグナン、クルクミン、グアイアコール、シリンゴール、バニリン、エチルバニリン、オイゲノール、キャノロール、コーヒー酸、シナピン酸、クマル酸、フェルラ酸、プロトカテク酸、4-ヒドロキシ安息香酸、4-ヒドロキシベンズアルデヒド、4-ヒドロキシフェニル酢酸、バニリン酸、シリング酸、ナリンゲニン、エリオジクチオール-7-ルチノシド、ヘスペレチン-7-ルチノシド、ケンペロール-3-ルチノシド、ケンペロール-3-グルコシド、エリオジクチオールグリコシド、ナリンゲニン-7-ネオヘスペリオドシド、レスベラトロールグルコシド、トコフェロールなどが挙げられる。
【0053】
また、本発明のYjbIまたは本発明の細胞は、ヒドロペルオキシドによる酸化発色型色原体の酸化を触媒することによって呈色反応を誘導できることから、酸化発色型色原体による呈色反応の誘導剤として用いることができる。従って、本発明は、YjbIまたはYjbIをコードする核酸を含む細胞を含む、酸化発色型色原体による呈色反応誘導剤(以下、本発明の誘導剤)を提供する。上記の通り、還元剤としての酸化発色型色原体と酸化剤としての過酸化水素の酸化還元反応を触媒し、酸化発色型色原体の酸化による呈色反応を誘導することができる代表的酵素は、現行では西洋わさびペルオキシダーゼである。該呈色反応は、医学的または生物学的に有効なツールとして広く利用されている。例えば、臨床検査において、被験者の生体試料中に存在するマーカー抗原をELISAで検出する際に、上記の呈色反応が利用される。あるいは、生物学的基礎研究においては、核酸の解析手段(サザンブロット、ノーザンブロットなと)やタンパク質の解析手段(ウェスタンブロットなど)にに上記の呈色反応が利用される。本発明のYjbIたは本発明の細胞は、西洋わさびペルオキシダーゼを代替することができ、大量調製しやすく、HRPでは利用できない過酸化脂肪酸や過酸化脂質を基質として用いることができる点で優れている。本発明の誘導剤で呈色反応を誘導できる酸化発色型色原体は、上記した酸化発色型色原体と同様であってよい。本発明の誘導剤は、本発明の検出用試薬と同様に、さらにヘムを含んでもよい。
【0054】
本発明の誘導剤は、さらにヒドロペルオキシドを含んでもよい。本発明のYjbIは、ヒドロペルオキシドによる酸化発色型色原体の酸化を触媒し、それによる呈色反応を誘導することができる。従って、ヒドロペルオキシドは、本発明の誘導剤によって誘導される呈色の程度をより大きくすることができる。本発明の誘導剤に含まれるヒドロペルオキシドは、本発明のYjbIまたは本発明の細胞の存在下、酸化発色型色原体によって還元されるヒドロペルオキシドであれば特に制限はなく、上記したヒドロペルオキシドと同様であってよい。
【0055】
以上の通り、本発明のYjbIまたは本発明の細胞を用いることによって、酸化発色型色原体の呈色反応を誘導できる。従って、本発明はまた、本発明のYjbIまたは本発明の細胞の存在下、ヒドロペルオキシドと酸化発色型色原体を反応させることを含む、酸化発色型色原体の呈色反応の誘導方法(以下、本発明の誘導方法)を提供する。本発明の誘導方法は、本発明の検出方法と同様に、さらにヘムを使用してもよい。
【0056】
本発明の誘導方法における、本発明のYjbI、酸化発色型色原体の各濃度は、本発明の検出方法と同様であってよい。本発明の誘導方法におけるヒドロペルオキシドの濃度は、酸化発色型色原体の呈色反応の誘導に適した濃度であれば特に制限はないが、通常、0.01~10 g/Lである。また、本発明の誘導方法は、通常、pH4.0~10.0の水性媒体中で行われる。
【0057】
また、本発明のYjbIまたは本発明の細胞は、ヒドロペルオキシドによるリグニンのモデル化合物であるグアイアコールやシリンゴールの酸化を触媒できることから、リグニンの分解剤として用いることができる。従って、本発明は、YjbIまたはYjbIをコードする核酸を含む細胞を含む、リグニン分解剤(以下、本発明の分解剤)を提供する。バイオ技術を用いたリグニンの分解、変性、除去はいずれも実用化に至っていないのが現状であるが、本発明の分解剤を用いることによって、リグニンの分解が可能になり、セルロースの精製が容易になる。特に、植物の破砕によって植物細胞から放出されるリポキシダーゼは、脂肪酸を酸化することによって過酸化脂肪酸を作り出すため、リグニンの分解のために外部から新たに過酸化脂肪酸を添加する必要がない点で簡便である。本発明の分解剤は、本発明の検出用試薬と同様に、さらにヘムを含んでもよい。また、本発明の分解剤は、リグニンの分解速度を上昇させる目的で、本発明の検出用試薬と同様に、さらにヒドロペルオキシドを含んでもよい。
【0058】
以上の通り、本発明のYjbIまたは本発明の細胞を用いることによって、リグニンを分解できる。従って、本発明はまた、本発明のYjbIまたは本発明の細胞と植物試料を接触させることを含む、植物試料中のリグニンの分解方法(以下、本発明の分解方法)を提供する。
【0059】
本発明の分解方法で用いられる植物試料は、リグニンを含む植物試料であれば特に制限はなく、例えば、植物としては牧草、穀類、イネ、木材となる樹木が挙げられる。そのような植物試料としては、イタリアンライグラス、オーチャードグラス、ギニアグラス、シバ、スムーズブロムグラス、チモシー、トールフェスク、ハイブリッドライグラス、バヒアグラス、フェストロリウム、ペレニアルライグラス、メドウフェスク、ローズグラス、アカクローバ、アルファルファ、シロクローバ、エンバク、ソルガム、トウモロコシ、サトウキビ、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、アカマツ、クロマツ、イチイ、イチョウ、イヌマキ、エゾマツ、カヤ、カラマツ、コウヤマキ、サワラ、スギ、ツガ、トガサワラ、トドマツ、ネズコ、ヒノキ、ヒバ、ヒメコマツ、モミ、アオダモ、アオハダ、アカガシ、アサダ、イスノキ、イタヤカエデ、イヌエンジュ、エゴノキ、オニグルミ、カキ、カツラ、キハダ、キリ、クスノキ、クリ、ケヤキ、コジイ、サクラ、サワグルミ、シナノキ、シラカシ、シラカバ、タブノキ、ツゲ、トチノキ、ドロノキ、ニセアカシア、セン・ハリギリ、ハルニレ、ハンノキ、ブナ、ホオノキ、マカンバ、ミズキ、ミズナラ、ミズメ、ヤチダモ、ヤナギ、ヤマグワ由来の植物試料が挙げられる。植物試料は植物全体に由来する試料であってもよいし、一部分に由来する試料であってもよい。一部分としては、地上部(例えば、幹、枝、樹皮、葉、花、果実および種子)または地下部(例えば、根)が挙げられる。また、試料の形態は、本発明のYjbIまたは本発明の細胞と植物試料の接触が妨げられない形態であれば特に制限されないが、例えば、乾燥試料、破砕試料、粉末試料、凍結乾燥試料などが挙げられる。
【0060】
本発明の分解方法における、本発明のYjbIの濃度としては、リグニンの分解に適した濃度であれば特に制限はないが、通常、1~100 kU/Lである。本発明の細胞を用いる場合は、細胞内のYjbIの濃度が上記の濃度になるように細胞数に調整して用いる。
【0061】
本発明の分解方法は、通常、pH4.0~10.0の水性媒体中で行われ、pH6.0~9.0の水性媒体中で行われることが好ましい。
【0062】
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、これらは単なる例示であって
、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例
【0063】
材料および方法
(1)菌の取得、同定、ゲノム解析
採取した土壌1gをとり、5mLの滅菌済み生理食塩水に懸濁し、上清10μlを分離した。これを0.5% Lignin (Sigma-Aldrich)、0.2% K2HPO4、0.2% KH2PO4、0.2% NaCl、0.01% MgSO4・7H2O、0.01% yeast extractを含むリグニン培地(pH 7.5)に添加し、32℃で一週間振盪培養した。リグニン培地に寒天1.5%を添加、加熱することで予め作製した固形培地上に懸濁がみられた培地100 μLを分離、塗布し、30℃にてさらに一週間静置培養した。固形培地上に現れたコロニーを単離することによってフェノール類を代謝可能な細菌TKS3を取得した。菌種同定は株式会社コーガアイソトープに委託しMALDI/TOFMSにより解析した。また、ゲノムは豊橋技術科学大学の分子遺伝学研究室に委託し、MiSeqシークエンサーにより解析した。
【0064】
(2)ゲノムDNA抽出
TKS3の菌体を約 1×108cell/mL含む培地から、プロメガ社のWizard(登録商標) Genomic DNA Purification Kitを用いて、ゲノムDNAを抽出、精製した。
【0065】
(3)遺伝子配列増幅
Bacillus属のyjbIに相当する、TKS3の遺伝子(以下、特に断らない限り、当該遺伝子を「yjbI」と記載する)配列を以下の条件下でPCRにより増幅した。各10 μMのプライマー(5’-GGATCCGATGGGACAATCG-3’(配列番号3)および 5’-CTCGAGATGTGAACCATCCTCC-3’ (配列番号4))1.5 μL、10×PCR Buffer for KOD -Plus- 5 μL、2 mM dNTPs 5 μL、抽出したTKS3のゲノムDNA 1 μL、滅菌水33 μL、1U/μL KOD-Plus-ポリメラーゼ1μMを含む反応液を作製した後、該反応液をボルテックスにより撹拌した。反応液のPCRは、サーマルサイクラーにて94℃15秒、65℃30秒、68℃2分の反応サイクルを30回繰り返すことによって実施した。
【0066】
(4)遺伝子配列の制限酵素処理
増幅したDNA配列を含む溶液をNucleoSpin(登録商標)Gel and PCR Clean-upのキットおよびプロトコールに従い精製し、分取した溶液2 μLにタカラバイオ株式会社のBamHI 1 μL、XhoI 1 μL、10×Universal Buffer K 2 μL、滅菌水14 μLを加え、37℃1時間反応させることで制限酵素処理を行った。 その後NucleoSpin(登録商標)Gel and PCR Clean-upを用いて精製した。
【0067】
(5)ベクターの制限酵素処理
1 μg/μLプラスミドベクターpET21b(+)溶液1 μLにBamHI 1 μL、XhoI 1 μL、10×K Buffer K 2 μL、滅菌水15 μLを加え、37℃1時間反応させることで制限酵素処理をした。その後NucleoSpin(登録商標)Gel and PCR Clean-upを用いて精製した。
【0068】
(6)組換え大腸菌作製
制限酵素処理したyjbIのDNA溶液3.5 μLおよびベクターDNA溶液3 μLを含む溶液にタカラバイオ株式会社のMighty MIX 7.5 μLを添加し、25℃5分間反応させることでライゲーションを行った。その後、溶液全量を株式会社日本ジーンのECOSTM Competent E. coli BL21(DE3)に氷上で添加し、ボルテックスで撹拌後、氷上にて5分間インキュベーションした。さらに、42℃で45秒間インキュベーションし、ボルテックスで撹拌し、直ちにLB固形培地(LB培地に1.5%寒天を添加、加熱)に塗布し、30℃にて24時間静置培養することで組換え大腸菌のコロニーを得た。コントロールとして、pET21b(+)ベクターを形質転換したE.coli BL21 (DE3)も作製した。
【0069】
(7)菌の培養、保存
TKS3については、LB培地(1% polypeptone、1% NaCl、0.5% yeast extract、pH 7.4) 500 mLにて24時間振盪培養した。また、組換え大腸菌については、500 mLのLB培地にて3時間培養後、1mMとなるようisopropyl-β-D-thiogalactopyranoside (IPTG)を加え、さらに8時間培養することで組換え大腸菌にYjbIを高発現させた。これらの菌体は、遠心分離機によりペレットを分離し、生理食塩水で懸濁後、再び遠心分離することで回収した。回収した菌体は-80℃にて保存した。
【0070】
(8)過酸化リノール酸溶液の作製
本試験では、生体中における代表的な過酸化脂肪酸である過酸化リノール酸を用いた。リノール酸50 μL、50,000 U/mLリポキシダーゼ(Sigma-Aldrich)10 μL、500 mMリン酸緩衝液 830 μL、0.5 M EDTA 10 μL、蒸留水4100 μLをよく混合し、60分ほどポンプを用いた空気によるバブリングを行うことで作製した。
【0071】
(9)3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)溶液の作製
エタノール、アセトンをそれぞれ3:1で混合した溶液1mLにTMB 20 mgを添加し、TMB溶液を作製した。
【0072】
(10)各電子供与体(還元剤)および過酸化リノール酸の活性測定
TKS3またはYjbIによる電子供与体(還元剤)の酸化活性は、上記の過酸化リノール酸溶液10 μL、1M MOPS緩衝液(pH 8.7) 10 μL、蒸留水195 μL、TKS3 (もしくはYjbI発現ベクターによる組換え大腸菌) 10 mg/mL添加生理食塩水5 μLを混合した溶液に、10 μLの各電子供与体(還元剤)基質溶液(20 mg/mL TMB、100 mM グアイアコール、100 mM シリンゴール、20 mg/mL 3,3'-ジアミノベンジジン(DAB))を添加し、10秒間の吸光度変化量から比活性を算出することによって測定した(YjbI発現ベクターによる組換え大腸菌の活性測定ではTMBを用いた)。反応後の各分子を測定する際の波長および吸光係数は以下の通りである;TMB:653 nm, ε= 3.9×104 (M-1cm-1)、グアイアコール:456 nm, ε= 1.2×104(M-1cm-1)、シリンゴール:468 nm, ε= 2.8×104 (M-1cm-1)、3,3'-ジアミノベンジジン(DAB):480 nm, ε= 5.5×103 (M-1cm-1)。また、Km、Vmax値は過酸化リノール酸の終濃度を70、139、278、417、696、1113、1391、2783 μMに変化させた際のTMBの吸光度から、Lineweaver-Burkプロットを作成することで算出した。この際、各試料中のタンパク質濃度はBradford法により算出した。
【0073】
(11)活性染色
まず、0.5M Tris-HCl (pH6.8) 1.2 mL、グリセロール1 mL、0.5% BPB 0.5 mL、蒸留水4.8mLを混合することでサンプルバッファーを作製した。TKS3 10 mgを1 mLのB-PERTMに溶解させることによって全タンパク質を抽出し、そこから分取した10 μLを等量のサンプルバッファーに混合し、さらにそこから分取した15 μLを15% ポリアクリルアミドゲルのウェルにアプライ後にSDS緩衝液中で電気泳動した。泳動後にゲルを取り出し、蒸留水50 mL中に5分振盪した。さらにこのゲルを1M 酢酸緩衝液(pH 5.0) 1 mLとTMB溶液0.5 mL、過酸化リノール酸溶液200 μL、蒸留水15 mLを混合した溶液中に移し、5分間室温にて静置することによって活性染色した。活性染色の結果を撮影後、ゲルを蒸留水500 mLで30分振盪し、CBB染色液(CBB Stain One)によって全タンパク質を染色した。
【0074】
(12)pHによる活性変化の測定
各種緩衝液10 μL (pH4.0、5.0、6.0 の1 M酢酸緩衝液、pH6.0、7.0、8.0、8.7の1 M MOPS緩衝液、pH 8.7、9.6のTris-HCl緩衝液)、過酸化リノール酸溶液もしくは3%過酸化水素10 μL、蒸留水195 μL、TKS3 10 mg/mL添加生理食塩水5 μLを混合した溶液に、10 μLのTMBを添加し、10秒間の吸光度変化量から比活性を算出した。
【0075】
(13)耐熱性の評価
TKS3 10 mg/mL添加生理食塩水を20℃、30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃、90℃の各温度にヒートブロックで10分間加熱し、室温に冷却後5 μlを分取した。これに過酸化リノール酸溶液10 μL、1M MOPS緩衝液(pH 8.7) 10 μL、蒸留水195 μL、TMB 10 μLを添加し、60秒後の吸光度変化量から残存活性を算出した。
【0076】
(14)ヘミンとTKS3の活性比較
ヘミン溶液は、1 mgのヘミンに10% SDS溶液200μLを添加することで作製した。加熱処理試料はTKS3 10 mg/mL添加生理食塩水あるいはヘミン溶液をヒートブロックにて96℃10分間加熱することで作製した。これらを10 μLの20 mg/mL TMB、過酸化リノール酸溶液もしくは3%過酸化水素10 μL、1M MOPS緩衝液(耐熱性評価時:pH 8.7、pHの影響評価時:pH 8.0およびpH 8.7) 10 μL、蒸留水195 μLを混合した溶液にそれぞれ5 μL添加し、60秒後の吸光度変化量を測定することで活性を比較した。
また、3%過酸化水素もしくは蒸留水10 μLにヘミン溶液あるいはTKS3溶液5 μLを添加し(この時点の過酸化水素の終濃度は2%)、10分間室温にてインキュベートすることで過酸化水素への耐性を比較した。その後、溶液に蒸留水185 μL、1M MOPS緩衝液(pH 8.7) 10 μL、TMB 10 μLを添加し、ヘムの過酸化水素に対する活性の失活を確認後、過酸化リノール酸溶液10 μLを添加し、60秒後の吸光度変化量から残存活性を算出した。
【0077】
結果
(1)TKS3の菌種同定
MALDI/TOFMS解析およびゲノム解析結果からTKS3がBacillus licheniformisであることが確認された。
【0078】
(2)TKS3の過酸化リノール酸還元活性
TKS3は、過酸化リノール酸を電子受容体(酸化剤)、テトラメチルベンジジン、ジアミノベンジジン、グアイアコールまたはシリンゴールを各電子供与体(還元剤)とした、過酸化脂肪酸の還元活性を有するタンパク質を発現していることが示された(表1)。また、フェノール類を電子供与体とする性質から、当該タンパク質はヘムを有するタンパク質であると推測された。
【0079】
【表1】
【0080】
(3)過酸化脂肪酸の還元活性を有するタンパク質をコードする遺伝子およびアミノ酸配列の同定
TKS3由来抽出タンパク質の活性染色の結果(図1)から推定した分子量およびゲノム解析結果から、Bacillus属における機能不明のタンパク質YjbIと高い配列同一性を有するタンパク質が当該活性を有していると推測された。そこで、TKS3のゲノムからyjbIに相当する遺伝子配列を含む発現ベクターで形質転換した大腸菌をクローニングし、当該タンパク質を発現させたところ、過酸化リノール酸に対する還元活性が確認された(表2)。また、TKS3のyjbIの塩基配列およびその塩基配列がコードするアミノ酸配列を図2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
(4)TKS3による過酸化リノール酸の還元反応におけるKmおよびVmax値の決定
TMBおよび濃度を変化させた過酸化リノール酸存在下で活性を測定することでLineweaver-Burkプロットを作製した(図3)。この結果から、酵素をTKS3、基質を過酸化リノール酸とした過酸化脂肪酸還元活性のKmおよびVmax値がそれぞれ389 μM、51 μmol/min/mg proteinであることが示された。
【0083】
(5)TKS3による過酸化リノール酸の還元活性に対するpHの影響
TKS3を用いて、過酸化リノール酸の還元活性に対するpHの影響を評価した(図4)。また、過酸化水素を基質とした場合の影響も評価した(図5a、b)。この結果から、8.7以上のpHではTKS3またはYjbIを用いることによって過酸化脂肪酸の特異的な検出が可能であることが示された。
【0084】
(6)TKS3の過酸化リノール酸の還元活性の耐熱性の評価
TKS3の過酸化リノール酸還元活性の熱に対する耐性を評価した(図6)。
【0085】
(7)ヘミンとTKS3の過酸化リノール酸の還元活性比較
ヘミンによるペルオキシダーゼ様活性は熱により失活しないが、TKS3による過酸化リノール酸の還元活性は、加熱(96℃、10分)により失活することが示された(図7a)。また、ヘミンによるペルオキシダーゼ様活性ではいずれのpH条件下においても過酸化水素の還元活性が維持されており、過酸化水素と過酸化脂肪酸を差別化できないことが示された(図7b)。さらに、通常のヘムあるいはヘムタンパク質のペルオキシダーゼ様活性が失活する濃度の過酸化水素処理条件下(2%、10分)であってもTKS3の過酸化リノール酸の還元活性はほとんど影響を受けないことが示された(図7c)。
【産業上の利用可能性】
【0086】
YjbIまたはYjbIをコードする核酸を含む細胞は、植物由来タンパク質であるHRPと異なり、YjbIは微生物由来タンパク質であるため、安価に大量調製が見込めるうえに、HRPでは利用できない過酸化脂肪酸や過酸化脂質を基質として用いることができる点で優れており、塩基性条件下であれば過酸化脂肪酸や過酸化脂質のみを検出することができる点で利用価値が高い。また、YjbIまたはYjbIをコードする核酸を含む細胞は、ヒドロペルオキシドによる酸化発色型色原体の酸化を触媒することによって呈色反応を誘導することができるため従来の前記反応の触媒である西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)を代替することができる。さらに、YjbIまたはYjbIをコードする核酸を含む細胞を投与、摂取、塗布等した対象において、DNA等の損傷に関与する活性酸素を還元することができる。また、ヒドロペルオキシドの一種である過酸化脂肪酸を還元することによって得られる水酸化脂肪酸は、近年、抗炎症、代謝調節などの生理的効果を有することが報告されており、上記組成物による健康増進効果が期待できる。さらに、YjbIまたはYjbIをコードする核酸を含む細胞をリグニン分解剤として利用する場合、植物の破砕によって細胞から放出されるリポキシダーゼは、脂肪酸を酸化することによって過酸化脂肪酸を作り出すため、外部から新たに過酸化脂肪酸を添加する必要がない点で簡便である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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