(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物及びそれからなる発泡成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20220921BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20220921BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20220921BHJP
C08G 63/183 20060101ALI20220921BHJP
C08J 9/04 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K5/13
C08L23/26
C08G63/183
C08J9/04 CES
C08J9/04 CFD
(21)【出願番号】P 2018000728
(22)【出願日】2018-01-05
【審査請求日】2020-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2017001196
(32)【優先日】2017-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 大
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-216704(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08J9
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸とエチレングリコールを主成分とするポリエステル樹脂(A)と変性ポリオレフィン樹脂(C)を含有する樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂(A)は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を100モル%含有し、グリコール成分としてエチレングリコールとジエチレングリコールのみを含有し、かつエチレングリコールを90モル%以上含有するものであり、樹脂組成物中のポリエステル樹脂(A)の含有量が85~99.5質量%であり、不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂(C)の含有量が0.
5~10質量%であり、樹脂組成物の極限粘度が0.8~1.2、290℃におけるメルトフローレートが3.5~5.5g/10分、カルボキシル末端基濃度が30当量/t以下であることを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、ヒンダードフェノール系抗酸化剤(B)を含有し、ヒンダードフェノール系抗酸化剤(B)の含有量が0.05~1.0質量%である、請求項1記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂組成物を用いて形成されてなる発泡成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレートを主成分とし、発泡成形体を得るのに適した組成、特性値を有するポリエステル樹脂組成物及びそれからなる発泡成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)は、機械的特性、化学的安定性、透明性等に優れ、かつ、安価であり、各種のシート、フィルム、容器等として幅広く用いられている。また、発泡体として食品容器、包装材、建材等にも使用されている。
【0003】
特許文献1には、ポリエチレンテレフタレートを用いて、良好な発泡体を得ることができる樹脂組成物が提案されている。引用文献1記載の発明は、ポリエチレンテレフタレートの溶融粘度を安定的に増加させることにより、均一且つ微細で高倍率の発泡体を提供するだけでなく、結晶化特性に優れた発泡体を提供する樹脂組成物及び該発泡体の製造法を提供することを目的とするものである。
【0004】
特許文献1記載のポリエステル樹脂組成物は、ポリエチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレート系ブロック共重合体95~5重量部との混合樹脂に対して、多官能エポキシ化合物とアイオノマー樹脂を配合してなるものであった。
【0005】
しかしながら、特許文献1記載のポリエステル樹脂組成物は、発泡性能が未だ不十分であり、得られた発泡体は、気泡形状のバラツキが生じたり、衝撃強度にも劣るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決し、微細な気泡により十分に発泡する発泡性能を有し、しかも衝撃強度の高い発泡体を得ることができる、ポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の課題を解決するために、鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は下記の(1)~(3)を要旨とするものである。
(1)テレフタル酸とエチレングリコールを主成分とするポリエステル樹脂(A)と変性ポリオレフィン樹脂(C)を含有する樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂(A)は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を100モル%含有し、グリコール成分としてエチレングリコールとジエチレングリコールのみを含有し、かつエチレングリコールを90モル%以上含有するものであり、樹脂組成物中のポリエステル樹脂(A)の含有量が85~99.5質量%であり、不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂(C)の含有量が0.5~10質量%であり、樹脂組成物の極限粘度が0.8~1.2、290℃におけるメルトフローレートが3.5~5.5g/10分、カルボキシル末端基濃度が30当量/t以下であることを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
(2)さらに、ヒンダードフェノール系抗酸化剤(B)を含有し、ヒンダードフェノール系抗酸化剤(B)の含有量が0.05~1.0質量%である、(1)記載のポリエステル樹脂組成物。
(3)(1)又は(2)に記載のポリエステル樹脂組成物を用いて形成されてなる発泡成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、極限粘度の高いポリエステル樹脂(A)に、変性ポリオレフィン樹脂(C)を特定量含有させ、特定のメルトフローレートを満足するものであるため、発泡成形に好適な粘度特性を有している。さらに、カルボキシル末端基濃度が30当量/t以下と低いものであることにより、発泡成形時の熱処理による熱分解が生じにくく、熱安定性に優れている。
このため、本発明のポリエステル樹脂組成物を用いて得られる発泡体は、微細な気泡により十分に発泡したものとなり、しかも衝撃強度の高いものを得ることができる、
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂組成物は発泡成形用に好適なものである。本発明のポリエステル樹脂組成物は、テレフタル酸とエチレングリコールを主成分とするポリエステル樹脂(A)を主成分とするものである。
ポリエステル樹脂(A)は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を90モル%含有するものであることが好ましく、中でも95モル%以上、さらには98モル%以上であることが好ましい。テレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、セバシン酸、ダイマー酸等が挙げられ、これらを2種類以上併用してもよく、これらの酸のエステル形成性誘導体を使用してもよい。
【0011】
一方、ポリエステル樹脂(A)は、グリコール成分として、エチレングリコールを90モル%以上含有するものであることが好ましく、中でも95モル%以上、さらには98モル%以上であることが好ましい。エチレングリコール以外のグリコール成分としては、例えば、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサメチレンジオール、ジエチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ダイマージオール、ビスフェノールA又はビスフェノールSのエチレンオキシド付加体等を用いることができる。
【0012】
そして、ポリエステル樹脂(A)は、極限粘度が0.8~1.2であることが好ましく、中でも0.9~1.2であることが好ましく、さらには、1.0~1.2であることが好ましい。本発明のポリエステル樹脂組成物の極限粘度を後述するような値のものとするには、主体として用いるポリエステル樹脂(A)を極限粘度の高いものとすることが好ましい。ポリエステル樹脂(A)の極限粘度を上記範囲のものとするには、ポリマーの製造工程において、溶融重合と固相重合を行い、固相重合の温度と時間を適宜調整することにより可能である。
【0013】
樹脂組成物中のポリエステル樹脂(A)の含有量は、85~99.5質量%であり、中でも90~99質量%であることが好ましい。ポリエステル樹脂組成物中のポリエステル樹脂(A)の含有量が85質量%未満であると、後述するような樹脂組成物の粘性を満足することが困難となる。一方、ポリエステル樹脂(A)の含有量が99.5質量%を超えると、変性ポリオレフィン樹脂(C)やヒンダードフェノール系抗酸化剤(B)の含有量が少なくなりすぎるため、やはり、後述するような樹脂組成物の粘性を満足することが困難となる。
【0014】
次に、ヒンダードフェノール系抗酸化剤(B)について説明する。ヒンダードフェノール系抗酸化剤としては、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’-ブチリデンビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕、3,9-ビス{2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1’-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が用いられるが、効果とコストの点で、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンが好ましい。
【0015】
ヒンダードフェノール系抗酸化剤は、ポリエステル樹脂(A)の重合反応工程中に添加することで、該化合物の一部がポリエステル樹脂中に共重合され、ポリエステルの分子鎖中に組み込まれることで、分子鎖の絡み合いや、架橋構造が生じ、ポリエステル樹脂(A)の粘性を高くすることができる。つまり、得られるポリエステル樹脂組成物の290℃におけるメルトフローレートを3.5~5.5g/10分とすることが可能となる。
【0016】
ポリエステル樹脂組成物中のヒンダードフェノール系抗酸化剤の含有量は、0.05~1.0質量%であり、中でも0.08~0.8質量%であることが好ましい。ヒンダードフェノール系抗酸化剤の含有量が0.05質量%未満では、ポリエステル樹脂組成物の粘性を向上させる効果に乏しいものとなり、樹脂組成物の290℃におけるメルトフローレートを5.5g/10分以下にすることが困難となる。一方、ヒンダードフェノール系抗酸化剤の含有量が1.0質量%を超えると、粘性が高くなり、樹脂組成物の290℃におけるメルトフローレートが、3.5g/10分未満となる場合が多くなる。
【0017】
次に、変性ポリオレフィン樹脂(C)について説明する。本発明における変性ポリオレフィン樹脂とは、ベースとなるポリオレフィン樹脂に、任意の方法で無機酸、不飽和カルボン酸またはその誘導体等の酸をグラフト反応させることにより得られる樹脂をいう。ベースとなるポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等が使用される。不飽和カルボン酸類としては、例えばボロン酸、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、またそれらの酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等である。このような変性ポリオレフィン樹脂(C)のうち市販されているものとしては、三菱化学社製のモディックMシリーズやSシリーズを用いることができる。
【0018】
ポリエステル樹脂組成物中の変性ポリオレフィン樹脂(C)の含有量は、0.5~15質量%であり、中でも0.8~10質量%であることが好ましい。変性ポリオレフィン樹脂(C)はポリエステル樹脂組成物中において、発泡核剤として作用するものである。変性ポリオレフィン樹脂(C)の含有量が0.5質量%未満では、ポリエステル樹脂組成物の発泡性能を付与することができず、十分な発泡倍率で微細な気泡が生じた発泡体を得ることができない。一方、変性ポリオレフィン樹脂(C)の含有量が15質量%を超えると、ポリエステル樹脂組成物の発泡性能が適切なものとはならず、得られる発泡体は、気泡形状のバラツキが生じたり、衝撃強度に劣るものとなる。
【0019】
そして、本発明のポリエステル樹脂組成物は、以下に詳述するような極限粘度、290℃におけるメルトフローレート、カルボキシル末端基濃度の特性値を同時に満足することに特徴がある。
【0020】
このような特性値を満足する本発明のポリエステル樹脂組成物を得るためには、ポリエステル樹脂(A)を得る際に、溶融重合反応と固相重合反応を行うことが好ましく、中でも固相重合反応を特定の条件下で行うことが好ましい。さらには、ポリエステル樹脂(A)を得る重合反応工程中に、ヒンダードフェノール系抗酸化剤(B)を添加し、溶融重合反応と固相重合反応を行うことが好ましい。
【0021】
まず、本発明のポリエステル樹脂組成物は、極限粘度(IV)が、0.8~1.2であることが必要であり、中でも、0.9~1.2であることが好ましい。
なお、極限粘度(IV)は、フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、温度20℃で測定するものである。極限粘度はポリマーの分子量に関与する値であり、ポリエステル樹脂(A)を得る際に、後述するような溶融重合反応と固相重合反応を行うことにより本発明の範囲のものを得ることができる。
【0022】
ポリエステル樹脂組成物の極限粘度が0.8未満の場合は、発泡成形時に樹脂内部に十分な気泡を生じさせることができず、発泡倍率の低い発泡成形体となる。一方、極限粘度が1.2を超える場合は、成形温度を上げる必要があり、得られる成形品の色調などの外観が悪くなる。また、成形温度を高くすることによって、樹脂の熱分解が促進され、成形時に極限粘度の低下が生じるため、発泡成形が困難になったり、得られる発泡成形品は、気泡形状のバラツキが生じたものとなる。
【0023】
ポリエステル樹脂組成物は、290℃におけるメルトフローレート(以下、単にMFRと略することがある)が3.5~5.5g/10分であり、中でも4.0~5.0g/10分であることが好ましい。
本発明における290℃におけるメルトフローレートは、ISO1133準拠の方法により、温度290℃、荷重2.16Kgにて測定するものである。
【0024】
そして、ポリエステル樹脂組成物のMFRが5.5g/10分を超える場合は、発泡成形時に樹脂内部に十分な気泡を生じさせることができず、発泡倍率の低い発泡成形体となる。一方、MFRが3.5g/10分未満の場合は、成形温度を上げる必要があり、得られる成形品の色調などの外観が悪くなる。また、成形温度を高くすることによって、樹脂の熱分解が促進され、成形時に極限粘度の低下が生じるため、発泡成形が困難になったり、得られる発泡成形品は、気泡形状のバラツキが生じたものとなる。
なお、ポリエステル樹脂組成物のMFRを上記範囲内のものとするには、ポリエステル樹脂(A)のMFRを上記範囲内のものとすることが好ましい。そして、ポリエステル樹脂(A)のMFRを上記範囲内のものとするには、後述するような特定の条件で溶融重合反応と固相重合反応を行うことにより可能となる。
【0025】
さらに、本発明のポリエステル樹脂組成物は、カルボキシル末端基濃度が32当量/t以下であることが必要であり、中でも28当量/t以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂組成物のカルボキシル末端基濃度を32当量/t以下とすることによって、発泡成形時の熱処理により樹脂の熱分解が生じることが抑えられ、安定した発泡成形が可能となり、微細な気泡が多数生じた発泡成形体を得ることができる。
【0026】
カルボキシル末端基濃度が30当量/tを超える場合は、たとえ、樹脂の極限粘度やMFRが上記したような範囲のものであったとしても、発泡成形時の熱処理によって、樹脂の熱分解が生じやすくなる。樹脂の熱分解が生じると、発泡成形時に樹脂の粘度が低下し、発泡倍率が十分な発泡体を得ることができなかったり、気泡形状のバラツキのある発泡体となる。
なお、ポリエステル樹脂組成物のカルボキシル末端基濃度を30当量/t以下とするには、ポリエステル樹脂(A)のカルボキシル末端基濃度を30当量/t以下とすることが好ましい。そして、ポリエステル樹脂(A)を後述するような特定の条件で溶融重合反応と固相重合反応を行うことにより可能となる。
【0027】
また、本発明のポリエステル樹脂組成物中には、上記のような添加剤の他、着色防止剤として、例えば、亜リン酸、リン酸、トリメチルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリデシルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリデシルフォスフェート、トリフェニルフォスフォート等のリン化合物を用いることができ、これらのリン化合物は単独で使用しても2種以上使用しても良い。また、ポリエステル樹脂の熱分解による着色を抑制するために酢酸コバルト等のコバルト化合物、酢酸マンガン等のマンガン化合物、アントラキノン系染料化合物、銅フタロシアニン系化合物等の添加剤が含有されていてもよい。
【0028】
また、本発明のポリエステル樹脂組成物を発泡させるには、下記に示すような発泡剤を含有されることにより発泡成形することができる。発泡剤としては、熱分解型の、例えば、アゾ、N-ニトロソ、複素環式窒素含有及びスルホニルヒドラジド基のような分解しうる基を含有する有機化合物、炭酸アンモニウムや炭酸水素ナトリウムなどの無機化合物を挙げることができる。その具体例としては、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾシクロヘキシルニトリル、ジアゾアミノベンゼン、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N’-ジメチル-N,N’-ジニトロソテレフタルアミド、ベンゼンスルホニルヒドラジド、4,4’-オキシ-ビス(ベンゼンスルホニル)ヒドラジド、ジフェニルスルホン-3,3’-ジスルホニルヒドラジド、4-トルエンスルホニルヒドラジド、4,4’-オキシ-ビス(ベンゼンスルホニル)セミカルバジド、4-トルエンスルホニルセミカルバジド、バリウムアゾジカルボキシレート、5-フェニルテトラゾール、トリヒドラジノトリアジン、4-トルエンスルフォニルアザイド、4,4’-ジフェニルジスルフォニルアザイドなどが挙げられる。
【0029】
また、本発明のポリエステル樹脂組成物を発泡させるには、発泡剤として、ガス状フルオロカーボン、窒素、二酸化炭素、空気、ヘリウム、アルゴンなど常温で気体のものや、液状フルオロカーボン、ペンタンなどの常温で液体のものも使用できる。
【0030】
次に、本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法について説明する。まず、ポリエステル樹脂(A)は、エステル化反応、溶融重合反応及び固相重合反応工程を経て得られるものであることが好ましい。エステル化反応と溶融重合反応のみでは、ポリエステル樹脂の極限粘度や粘性を高くすることが困難となる。得られたとしても、溶融重合反応の反応時間が長くなり、得られるポリエステル樹脂は色調が悪いものとなる。固相重合反応における工程や条件を特定のものにすることによって、極限粘度が高く、MFRが低く、かつカルボキシル末端基濃度の低いポリエステル樹脂(A)を得ることができる。
【0031】
具体的には、例えば、次のような方法で製造することができる。なお、ヒンダードフェノール系抗酸化剤(B)を添加する場合は、ポリエステル樹脂(A)の重合反応工程において添加することが好ましい。
酸成分としてテレフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体、グリコール成分としてエチレングリコールを所定の割合でエステル化反応器に仕込み、エステル化反応を行った後、反応生成物を重合反応器に移し、重縮合触媒、必要に応じてヒンダードフェノール系抗酸化剤等の添加剤を添加し、溶融重合反応を行う。ここで得られる共重合ポリエステル(プレポリマー)の極限粘度は、0.5~0.8の範囲であることが好ましい。
【0032】
重縮合触媒としては、一般的にPETに用いられる公知の化合物、例えば、ゲルマニウム、アンチモン、チタンおよびコバルト化合物などの1種以上を用いることができるが、好ましくはゲルマニウムまたはアンチモンの化合物を使用する。さらに、得られるポリエステル樹脂の透明性を非常に重視する場合においては、ゲルマニウム化合物を使用することが好ましい。ゲルマニウムまたはアンチモンの化合物としては、それらの酸化物、無機酸塩、有機酸塩、ハロゲン化物、硫化物などが例示される。これらの重縮合触媒は、生成するポリエステル樹脂の酸成分1モルに対し5×10-5モル~3.0×10-4モルの範囲内、中でも6×10-5モル~2.0×10-4モルの範囲内となるような量で用いることが好ましい。
【0033】
続いて、上記した溶融重合反応により得られたプレポリマーをダイス状、円柱状などの任意の形状のチップとし、該ポリエステルチップを結晶化装置に連続的に供給し、150~180℃の温度で熱処理を行い、結晶化を行う。この後、固相重合機へ連続的に供給する。固相重合反応は、170~230℃の範囲内の温度で行うのが好ましく、180~220℃の範囲内の温度で行うのがより好ましい。また、重合時間は15時間~30時間の範囲で、固相重合機内にて反応させることにより、目標の極限粘度とカルボキシル末端基量を有するポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂(A)中にヒンダードフェノール系抗酸化剤(B)を含有するもの)を得ることができる。
【0034】
上記のようにして得られたポリエステル樹脂(ヒンダードフェノール系抗酸化剤(B)を添加した場合は、ポリエステル樹脂(A)中にヒンダードフェノール系抗酸化剤(B)を含有するもの)と変性ポリオレフィン樹脂(C)を、2軸押出機を用いて、250~290℃で溶融混練することにより、本発明のポリエステル樹脂組成物を得ることができる。
なお、本発明のポリエステル樹脂組成物を得る際に、ポリエステル樹脂(A)中に、変性ポリオレフィン樹脂(C)を20~40質量%含有させたマスターチップを上記と同様の溶融混練により予め作製しておき、発泡成形時に、マスターチップとポリエステル樹脂(A)を所定量用いることにより、本発明のポリエステル樹脂組成物を得る方法を採用することもできる。
【実施例】
【0035】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
(a)極限粘度
前記と同様の方法で測定した。
(b)ポリエステル樹脂組成物のメルトフローレート
前記と同様の方法で測定した。
(c)カルボキシル末端基濃度
得られたポリエステル樹脂組成物0.1gをベンジルアルコール10mlに溶解し、この溶液にクロロホルム10mlを加えた後、1/10規定の水酸化カリウムベンジルアルコール溶液で滴定して求めた。
(d)発泡性
得られた発泡体の断面を目視により観察した。
【0036】
実施例1
エステル化反応器に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のスラリー(TPA/EGモル比=1/1.6)を供給し、温度250℃、圧力50hPaの条件で反応させ、エステル化反応率95%の反応生成物(数平均重合度:5)を得た。
TPAとEGの反応生成物55.5質量部を重合反応器に仕込み、重合触媒として二酸化ゲルマニウム0.008質量部、ヒンダードフェノール系抗酸化剤(ADEKA社製:アデカスタブAO-60)0.12質量部を、それぞれ加え、反応器を減圧にして、温度280℃で溶融重合反応を行い、共重合ポリエステルのプレポリマーを得た。このプレポリマーの極限粘度は、0.72であった。
続いて、該プレポリマーを結晶化装置に連続的に供給し、180℃で熱処理して結晶化をさせた後、乾燥機に供給し、185℃で乾燥を行った。この後、予備加熱機に送り215℃まで加熱した後、固相重合機へ供給し、窒素ガス下にて固相重合反応を209℃で20時間行い、ポリエステル樹脂(ポリエステル樹脂(A)中にヒンダードフェノール系抗酸化剤(B)を含有するもの)を得た。このポリエステル樹脂の極限粘度は1.10であった。
上記のポリエステル樹脂をチップ化し、乾燥させた後、二軸押出成形機(池貝社製「PCM-30」、ダイス直径;4mm×3孔)を用い、押出ヘッド温度;280℃ 、ダイ出口温度;250℃に設定して、チップ化した前記ポリエステル樹脂と変性ポリオレフィン樹脂(C)(三菱化学社製 モディック「M502」)を供給し、溶融混練した後、押出し、ペレット状に加工してポリエステル樹脂組成物を得た。得られたポリエステル樹脂組成物の組成と各種成分の含有量は、表1に示すものであった。
得られたポリエステル樹脂組成物を、二軸押出成形機(池貝社製「PCM-46」の先端にサークルダイ(直径65mm、リップ幅0.7mm)を備えた押出発泡試験装置に供給し、シリンダ温度290℃、吐出量50kg/h下で炭酸ガス2質量%添加して発泡シートを作製した。
【0037】
実施例2~6、比較例1~3、5~6
ポリエステル樹脂組成物中のポリエステル樹脂(A)、ヒンダードフェノール系抗酸化剤(B)及び変性ポリオレフィン樹脂(C)の含有量が表1の値となるように組成を変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を得た。そして得られた樹脂組成物を用い、実施例1と同様にして発泡成形を行い、発泡シートを得た。
【0038】
実施例7
ポリエステル樹脂(A)を得る際の重合反応工程において、ヒンダードフェノール系抗酸化剤を添加せず、固相重合反応時間を25時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を得た。そして得られた樹脂組成物を用い、実施例1と同様にして発泡成形を行い、発泡シートを得た。
【0039】
実施例8
ポリエステル樹脂(A)を得る際の重合反応工程において、ヒンダードフェノール系抗酸化剤を添加せず、固相重合反応時間を30時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を得た。そして得られた樹脂組成物を用い、実施例1と同様にして発泡成形を行い、発泡シートを得た。
【0040】
実施例9
ポリエステル樹脂組成物中の変性ポリオレフィン樹脂(C)の含有量が表1の値となるように組成を変更した以外は、実施例8と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を得た。そして得られた樹脂組成物を用い、実施例1と同様にして発泡成形を行い、発泡シートを得た。
【0041】
比較例4
ポリエステル樹脂(A)を得る際の重合反応工程において、ヒンダードフェノール系抗酸化剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を得た。そして得られた樹脂組成物を用い、実施例1と同様にして発泡成形を行い、発泡シートを得た。
【0042】
比較例7
ポリエステル樹脂(A)を得る際の重合反応工程において、固相重合反応時間を10時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル樹脂組成物を得た。そして得られた樹脂組成物を用い、実施例1と同様にして発泡成形を行い、発泡シートを得た。
【0043】
【0044】
表1から明らかなように、実施例1~9で得られたポリエステル樹脂組成物は、樹脂の組成、極限粘度、MFR、カルボキシル末端基量が本発明で規定する範囲内のものであったため、発泡成形性に優れた性能を有しており、発泡成形を操業性よく行うことができ、かつ得られた発泡成形品(シート)は均一で微細な気泡が多数生じたものであった。
【0045】
一方、比較例1で得られたポリエステル樹脂組成物は、発泡核となる変性ポリオレフィン樹脂の含有量が少なかったため、得られた発泡成形体は、気泡形状が不均一で粗大な気泡が生じたものとなった。
比較例2、比較例4においては、ポリエステル樹脂(A)の重合反応時に添加するヒンダードフェノール系抗酸化剤の含有量が少なかったため、実施例1と同様の固相重合反応では粘度を向上させることができず、両例において得られたポリエステル樹脂組成物は、ともに極限粘度が低いものとなった。このため発泡成形時の溶融粘度も低くなり、得られた発泡成形体は、十分に発泡せず、不均一な気泡が生じたものとなった。
比較例3で得られたポリエステル樹脂組成物は、ヒンダードフェノール系抗酸化剤の含有量が多く、一部ゲル化が見られた。また、MFRが低い値となったため、得られた発泡成形体は、十分に発泡せず、不均一な気泡が生じたものとなった。
【0046】
比較例5で得られたポリエステル樹脂組成物は、発泡核となる変性ポリオレフィン樹脂を含有していなかったため、発泡せず、発泡成形体を得ることができなかった。
比較例6で得られたポリエステル樹脂組成物は、変性ポリオレフィン樹脂の含有量が多く、発泡核が多すぎたため、得られた発泡成形体は、気泡が破れた連続気泡が生じたものとなった。
比較例7においては、ポリエステル樹脂(A)を得る際の固相重合反応時間が短かったため、得られたポリエステル樹脂組成物は、極限粘度が低く、MFRが高く、カルボキシル末端基濃度が高いものとなった。このため、発泡シート成形時に発泡せず、発泡成形体を得ることができなかった。