(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】推進装置
(51)【国際特許分類】
B63H 1/18 20060101AFI20220921BHJP
【FI】
B63H1/18
(21)【出願番号】P 2018081488
(22)【出願日】2018-04-20
【審査請求日】2021-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】594147361
【氏名又は名称】狩野 治
(73)【特許権者】
【識別番号】315011175
【氏名又は名称】吉村 幸丞
(73)【特許権者】
【識別番号】515292727
【氏名又は名称】堀田 学
(73)【特許権者】
【識別番号】520081558
【氏名又は名称】井上 貴文
(74)【代理人】
【識別番号】230120499
【氏名又は名称】藤江 和典
(74)【代理人】
【識別番号】100201385
【氏名又は名称】中安 桂子
(72)【発明者】
【氏名】狩野 治
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-026796(JP,U)
【文献】米国特許第02803211(US,A)
【文献】国際公開第2008/147208(WO,A1)
【文献】特開平11-278380(JP,A)
【文献】特開平08-002486(JP,A)
【文献】特開平05-193563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を吸入側から吸い込み、吐出側から吐出する推進装置であって、
回転軸に対してらせん状に配置された複数のブレードを有するスクリューと、
前記複数のブレードが内側側面に固定され
前記複数のブレードと一体で回転する管状ハウジングと、を有し、
前記管状ハウジングは、その前記吸入側の縁部、かつ、隣接する前記ブレード間に、前記回転軸の方向の凹みを有する
、
推進装置。
【請求項2】
前記管状ハウジングは、前記吐出側における前記回転軸から前記内側側面までの第1半径が、前記吸入側における前記回転軸から前記内側側面までの第2半径よりも小さい、
請求項1記載の推進装置。
【請求項3】
前記管状ハウジングは、前記吐出側における前記回転軸から前記内側側面までの第1半径が、前記吸入側における前記回転軸から前記内側側面までの第2半径よりも大きい
、
請求項1記載の推進装置。
【請求項4】
前記管状ハウジングを回転自在に収納するケーシングをさらに有する、
請求項1~
3記載の推進装置。
【請求項5】
前記ケーシングは、前記管状ハウジングの前記吐出側に対向して配置され、かつ、前記吐出側に先細りに突出して形成された整流突起を有する、
請求項
4記載の推進装置。
【請求項6】
前記スクリューは、前記スクリューの回転軸上かつ前記吐出側に軸状突起を有し、
前記整流突起は、前記軸状突起を回転可能に支持する軸受を有する、
請求項
5記載の推進装置。
【請求項7】
流体を吸入側から吸い込み、吐出側から吐出する撹拌機であって、
回転軸に対してらせん状に配置された複数のブレードを有するスクリューと、
前記複数のブレードが内側側面に固定され
前記複数のブレードと一体で回転する管状ハウジングと、を有し、
前記管状ハウジングは、その前記吸入側の縁部、かつ、隣接する前記ブレード間に、前記回転軸の方向の凹みを有する
、
撹拌機。
【請求項8】
前記管状ハウジングは、前記吐出側における前記回転軸から前記内側側面までの第1半径が、前記吸入側における前記回転軸から前記内側側面までの第2半径よりも小さい、
請求項7記載の撹拌機。
【請求項9】
前記管状ハウジングは、前記吐出側における前記回転軸から前記内側側面までの第1半径が、前記吸入側における前記回転軸から前記内側側面までの第2半径よりも大きい
、
請求項7記載の撹拌機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体中で使用される推進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶等においては、流体中で使用される推進装置として、スクリュー等が使用されてきた。スクリューは流体中で回転することによって回転軸方向に推進力を発生させるものであり、一般に、回転軸となるボスと、ボスから伝達された回転によって推進力を発生させる複数のブレード部分から構成されている。
【0003】
このようなスクリューを使用する推進装置には、従来、キャビテーションの問題が知られている。キャビテーションとは、流体が飽和水蒸気圧以下に低下することによって、流体中に気泡が発生することをいう。特に、従来の船舶用スクリューでは、ブレードの端部から自由渦が放出され、その渦の中心部の圧力が低下することによって発生するキャビテーションであるチップボルテックスキャビテーションが知られている。キャビテーションが発生すると、船舶の推進力を低下させる、あるいは、ブレード表面に気泡が衝突することによって、ブレード表面を損傷させてしまう。
【0004】
このようなキャビテーションを解消するための技術として、様々な推進装置が開発されている。例えば、特許文献1に記載の推進装置は、回転駆動される回転基体内に流体を吸い込み、吸い込んだ流体を、回転基体内に設けられた流路に沿って流動させると共に遠心力を与えることにより加速させるように構成されている。この推進装置は、回転基体から流体を吐出する際に生じる反力から推進力を発生させている。
また、特許文献2に記載の推進装置も、回転体から流体を吐出する際に生じる反力から推進力を発生させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2015115072
【文献】特開2014-196099号公報
【文献】特表2015-525320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載の推進装置では、推進装置の構成部材と流体との接触面に負圧が生じにくく、キャビテーションが発生しにくい構成となっている。また、特許文献3にはキャビテーションについての言及がないが、特許文献3に記載の推進装置は、キャビテーションが発生しにくい構造となっていると考えられる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、キャビテーションの発生を抑制しつつ、特許文献1乃至3に記載の推進装置よりもさらに高い推進力を発生させる推進装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本項において、発明とは、特許請求の範囲に記載されている発明をいう。
第1の発明は、
流体を吸入側から吸い込み、吐出側から吐出する推進装置であって、
回転軸に対してらせん状に配置された複数のブレードを有するスクリューと、
前記複数のブレードが内側側面に固定されるとともに、前記吸入側の縁部、かつ、隣接する前記ブレード間に、前記回転軸の方向の凹みを有する管状ハウジングと、
を有する推進装置である。
【0009】
第2の発明は、
前記管状ハウジングは、前記吐出側における前記回転軸から前記内側側面までの第1半径が、前記吸入側における前記回転軸から前記内側側面までの第2半径よりも小さい、
第1の発明記載の推進装置である。
【0010】
第3の発明は、
流体を吸入側から吸い込み、吐出側から吐出する推進装置であって、
回転軸に対してらせん状に配置された複数のブレードを有するスクリューと、
前記複数のブレードが内側側面に固定され、かつ、前記吐出側における前記回転軸から前記内側側面までの第1半径が、前記吸入側における前記回転軸から前記内側側面までの第2半径よりも大きい、管状ハウジングと、
を有する推進装置、である。
「らせん状」とは、回転軸に対して傾斜して配置されていればよく、また、ブレードの全ての部分が傾斜している必要はない。
「固定」とは、ブレードと管状ハウジングとが接続された状態であればよい。すなわち、ブレードと管状ハウジングとは必ずしも別個の構成要素である必要はなく、ブレードと管状ハウジングとは一体成型された部材であってもよい。
【0011】
第4の発明は、
前記管状ハウジングは、前記吸入側の縁部、かつ、隣接する前記ブレード間に、前記回転軸の方向の凹みを有する、
第3の発明記載の推進装置である。
【0012】
第5の発明は、
前記管状ハウジングを回転自在に収納するケーシングをさらに有する、
第1~4の発明記載の推進装置である。
【0013】
第6の発明は、
前記ケーシングは、前記管状ハウジングの前記吐出側に対向して配置され、かつ、前記吐出側に先細りに突出して形成された整流突起を有する、
第5の発明記載の推進装置である。
【0014】
第7の発明は、
前記スクリューは、前記スクリューの回転軸上かつ前記吐出側に軸状突起を有し、
前記整流突起は、前記軸状突起を回転可能に支持する軸受を有する、
第6の発明記載の推進装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の推進装置によれば、キャビテーションの発生を抑制しつつ、従来のスクリューを用いた推進装置よりも高い推進力を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図5】本発明の実施形態1の推進装置の管状ハウジングに設けられた凹みの拡大図
【
図7】本発明の実施形態1の推進装置を用いた測定結果
【
図8】本発明の実施形態1の推進装置を用いた測定結果
【
図9】本発明の実施形態1の変形例1の推進装置を示す図
【
図10】本発明の実施形態1の変形例1の推進装置を用いた測定結果
【
図11】本発明の実施形態1の変形例2の推進装置を示す図
【
図16】本発明の実施形態3における推進装置の斜視図
【
図17】本発明の実施形態3における推進装置の正面図
【
図18】本発明の実施形態3における推進装置の背面図
【
図19】本発明の実施形態3における推進装置の側面図
【
図20】本発明の実施形態3の推進装置を用いた測定結果
【
図21】本発明の実施形態3の変形例1の推進装置の斜視図
【
図22】本発明の実施形態3の変形例1の推進装置の正面図
【
図23】本発明の実施形態3の変形例1の推進装置の背面図
【
図24】本発明の実施形態3の変形例1の推進装置の側面図
【
図25】本発明の実施形態3の変形例1の推進装置を示す図
【
図26】本発明の実施形態3の変形例2の推進装置の斜視図
【
図27】本発明の実施形態3の変形例2の推進装置の正面図
【
図28】本発明の実施形態3の変形例2の推進装置の背面図
【
図29】本発明の実施形態3の変形例2の推進装置の側面図
【
図30】本発明の実施形態3の変形例2の推進装置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、本発明とは、特許請求の範囲又は課題を解決するための手段の項に記載された発明を意味するものであり、以下の実施形態に限定されるものではない。また、少なくともかぎ括弧内の語句は、特許請求の範囲又は課題を解決するための手段の項に記載された語句を意味し、同じく以下の実施形態に限定されるものではない。
特許請求の範囲の従属項に記載の構成及び方法、従属項に記載の構成及び方法に対応する実施形態の構成及び方法、並びに特許請求の範囲に記載がなく実施形態のみに記載の構成及び方法は、本発明においては任意の構成及び方法である。特許請求の範囲の記載が実施形態の記載よりも広い場合における実施形態に記載の構成及び方法も、本発明の構成及び方法の例示であるという意味で、本発明においては任意の構成及び方法である。いずれの場合も、特許請求の範囲の独立項に記載することで、本発明の必須の構成及び方法となる。
実施形態に記載した効果は、本発明の例示としての実施形態の構成を有する場合の効果であり、必ずしも本発明が有する効果ではない。
複数の実施形態がある場合、各実施形態に開示の構成は各実施形態のみで閉じるものではなく、実施形態をまたいで組み合わせることが可能である。例えば一の実施形態に開示の構成を、他の実施形態に組み合わせても良い。また、複数の実施形態それぞれに開示の構成を集めて組み合わせても良い。
発明が解決しようとする課題に記載した課題は公知の課題ではなく、本発明者が独自に知見したものであり、本発明の構成及び方法と共に発明の進歩性を肯定する事実である。
【0018】
(実施形態1)
以下、本発明の実施形態1について、
図1乃至
図4を参照して説明する。
図1は実施形態1の推進装置10の斜視図を、
図2は推進装置10の正面図を、
図3は推進装置10の背面図を、
図4は推進装置10の側面図を、それぞれ示している。
ここで、推進装置10は、
図1右側の流体吸入側から流体を吸い込み、
図1左側の流体吐出側から流体を吐出することによって推進力を得る。
【0019】
推進装置10は、スクリュー部100および管状ハウジング101を備える。スクリュー部100は、ボス102、複数のブレード103、及び整流突起104を有している。また、
図1乃至
図4に示す推進装置10の流体吸入側には、モータ等の回転力を推進装置10に伝達するための駆動軸105が取り付けられている。
【0020】
ボス102はスクリュー部100の回転軸として機能する。ボス102の流体吸入側には駆動軸105が取り付けられており、モータ(図示せず)等によって生成された回転力を、駆動軸105を介して受け取る。
なお、図面に示すボス102は円柱形状を有しているが、後述する実施形態3、4に記載のボスと同様、流体吸入側から流体吐出側に向かって断面が増大するような形状、例えば円錐形状を有してもよい。
【0021】
ボス102の側面には、ボス102の回転軸方向に対してらせん状に配置された3枚のブレード103が取り付けられている。このブレード103は、従来のスクリュープロペラに設けられたブレードと同様、ボス102とともに回転することによって回転軸方向に揚力を生成し、これにより、推進装置10に推進力を発生させる部分である。
【0022】
ブレード103は、流体吸入側から流体吐出側に向かって捻じれて形成されている。すなわち、ボス102に取り付けられるブレード103の縁部を内縁部106、内縁部106の反対側に位置するブレード103の縁部を外縁部107とすると、
図4に示すように、ボス102の回転軸方向に対する内縁部106の取り付け角度αと、ボス102の回転軸方向に対する外縁部107の傾き角度βは異なっており、外縁部107の角度βの方が内縁部106の角度αよりも大きくなるように形成されている。
【0023】
なお、本明細書中では、スクリュー部100が3枚のブレード103を有する構成を図示し、説明しているが、ブレードの枚数は任意の数とすることができる。
【0024】
ボス102の流体吐出側の端部には、吐出側に先細りに突出して形成された円錐形の整流突起104が設けられている。整流突起104は、スクリュー部100の回転軸周囲で流体吐出側から吐出される流体を整流する。ただし、整流突起は必須の構成ではなく省略してもよい。
【0025】
管状ハウジング101は、スクリュー部100の周囲に配置されており、その内側側面には3枚のブレード103の外縁部107が固定される。
図1乃至4に示す構成では、内側側面には、ブレード103の外縁部107がその全長にわたって固定されている。しかしながら、管状ハウジング101とブレード103とが一体回転できるようにブレード103の外縁部107が管状ハウジング101の内側側面に固定されていればよく、ブレード103の外縁部107の一部のみが内側側面に固定される構成であってもよい。
【0026】
また、スクリュー部100と管状ハウジング101は、それぞれ別個の構成要素として形成した後、溶接等によってスクリュー部100が管状ハウジング101の内側側面に固定することができる。しかしながら、上述したとおり、スクリュー部100と管状ハウジング101とは一体回転できるように固定されていればよく、例えば、スクリュー部100と管状ハウジング101とを鋳造等によって一体的に形成してもよい。
【0027】
管状ハウジング101は、スクリュー部100の回転軸に対して垂直方向に円形の断面を有している。そして、流体吐出側の円形断面は、回転軸から内側側面まで半径r11(本発明における「第1半径」)を有し、流体吸入側の円形断面は、回転軸から内側側面まで半径r12(本発明における「第2半径」)を有しており、流体吐出側の半径r11は流体吸入側の半径r12よりも小さくなるように構成されている。
【0028】
さらに、管状ハウジング101は、吸入側の縁部、かつ、隣接する2つのブレード103の間に配置された凹み108を有する。
図5は、凹み108の拡大図を示している。
図5に示すとおり、凹み108は、管状ハウジング101の流体吐出側の縁部から凹み108の底部までの距離x
1が、管状ハウジング101の流体吐出側の縁部から流体吸入側の縁部までの距離x
2よりも短くなるような方向、すなわち、回転軸の方向に設けられている。なお、
図1乃至
図3においては、凹み108の構成は省略されている。
【0029】
凹み108は、本発明の推進装置の推進力を増大させるため、管状ハウジング101内に流体が流入しやすくすることを意図して設けられている。
図5に示す実施形態では、凹み108は略半楕円形状を有し、さらに、ブレード103の周囲により多くの流体が吸入されるように、管状ハウジング101の流体吸入側の縁部から凹み108の底部までの傾斜が、ブレード103の近位側では、ブレード103の遠位側よりも急な傾斜となっている。しかしながら、凹み108の形状は、図示する形状に限定されるものではない。
なお、凹み108は任意の構成であって、管状ハウジング101は、凹み108を有していなくともよい。
【0030】
流体が円筒中を流れる場合、ベルヌーイの定理より、円筒の断面積が小さくなるにつれて流速は増加する。つまり、推進装置10では、流体速度が流体吸入側よりも流体吐出側で速くなり推進装置内で流体が加速されるため、推進装置10では高い推進力を得ることが可能となる。
【0031】
図6は従来のスクリューによって得られる推力の測定結果を、
図7は本実施形態1の推進装置10によって得られる推力の測定結果を示している。
図6、7に示す測定値は、駆動軸105の先端にモータを取り付けた推進装置を水中に配置し、モータを駆動させた場合に推進装置が前進しようとする力(以下、牽引力という)をばね測りで測定するとともに、その時点でのモータの消費電力を測定したものである。回転数600rpmと1110rpmそれぞれについて15回の測定を行い、その平均値を算出した。
【0032】
図6は、4枚のブレードを有し、回転軸からスクリューブレードの最外縁までの半径が30mmのスクリューの測定結果を示している。また、
図7は、流体吐出側の半径r
11が30mm、流体吸入側の半径r
12が35mm、4枚のブレードを有し、整流突起および吸入側の縁部に凹みを有しない仕様の推進装置10の測定結果を示している。
【0033】
実施形態1と従来のスクリューとを比較してみると、実施形態1の牽引力は、回転数が600rpm、1110rpmいずれの場合にも従来のスクリューに対して2倍以上増加している。これに対し、推進装置10の測定時の消費電力は、回転数が600rpm、1110rpmいずれの場合も従来のスクリューより増加するが、その増加率はそれぞれ約20%、約78%であり、牽引力の増加率に対して消費電力の増加率は低い。したがって、推進装置10では、従来のスクリューよりもエネルギー効率が向上する。
すなわち、推進装置10によれば、従来のスクリューと比較してエネルギー効率を改善することができ、さらに、スクリューの周囲に管状ハウジングを設けることにより、ブレードの端部にキャビテーションが発生するのを防ぐことが可能となる。
【0034】
さらに、
図8は、実施形態1の推進装置10について、凹み108を有しない場合(a)と凹み108を有する場合(b)の構成を、同じ条件下(回転数575rpm)で測定したときの測定結果を示している。凹みを有しない推進装置10(a)と、凹みを有する推進装置10(b)とを比較してみると、推進装置10(b)は推進装置10(a)と比較して、消費電力が約7%低下し、さらに牽引力が約15%増加している。
以上のことから、推進装置の吸入側の縁部に凹みを設けることにより、エネルギー効率の向上を図るとともに、牽引力を向上させることが可能となる。
【0035】
(変形例1)
本実施形態1における推進装置10はさらに、推進装置10の流体吸入側において、駆動軸105の周囲を流れる流体が管状ハウジング101内に流入しやすくなるように、流体吸入側に導流板を有してもよい。
【0036】
図9は、ブレード103の流体吸入側の縁部と駆動軸105の間を滑らかに接続するように設けられた導流板109を有する推進装置10を示している。すなわち、導流板109は、ブレード103と一体となって広義のブレードとして機能する。このような導流板109を設けた場合、流体は流体吸入側から導流板109に沿って管状ハウジング101内に流入することができる。
【0037】
図10は、回転数が1110rpm、流体吐出側の半径r
11が30mm、流体吸入側の半径r
12が35mmであって、3枚のブレードを有し、整流突起および吸入側の縁部に凹みを有する仕様の推進装置10の測定結果を示している。
【0038】
ここで、
図6に示す測定では、スクリューが4枚のブレードを有する装置を使用しているのに対し、
図10に示す測定では、スクリューが3枚のブレードを有する推進装置を使用しているため、これらの測定結果を単純に比較することはできないが、一般に、ブレードの枚数が少ない場合、ブレードの回転によって発生する推進力は小さくなるため、得られる牽引力は小さくなると考えられる。しかしながら、
図10に示す測定結果によれば、本変形例の推進装置は従来のスクリューに対して約1.9倍の牽引力が発生している。消費電力は従来のスクリューより増加するが、その増加率は約60%であり、牽引力の増加率に対して消費電力の増加率は低い。すなわち、本変形例の推進装置によれば、エネルギー効率が向上する。
【0039】
(変形例2)
上述したとおり、
図1乃至
図4に示す推進装置10では、推進装置10の流体吸入側から吐出側へと流体を吐出することによって高い推進力を得ることができる。しかしながら、推進装置10を取り付けた船舶等の移動速度が増加した場合、推進装置10周囲の流体と管状ハウジング101との間に生じる抵抗が増加してしまうことが考えられる。このような抵抗を低減させるため、推進装置10はさらに、管状ハウジング101の外側に、管状ハウジング101を回転自在に収納するケーシング110を有してもよい。
【0040】
図11は、推進装置10の周囲にケーシング110を配置した構成を示している。
図11に示す例では、ケーシング110は、推進装置10の管状ハウジング101の外形に沿った形状を有し、流体吸入側から流体吐出側に向かって円形断面の半径が小さくなるような形状を有するフロントケーシング111と、フロントケーシング111の流体吐出側の端部に接続され、流体吸入側から流体吐出側とで同一半径の円筒形状を有するリアケーシング112とから構成されている。ケーシング110の内部には、管状ハウジング及びスクリュー部が配置されており、固定部113等によって船底などに固定される。フロントケーシング111の流体吸入側から流入する流体は管状ハウジング101内へと吸入され、管状ハウジング101から吐出された流体は、リアケーシング112の流体吐出側の開口から吐出される。
なお、ケーシング110は、管状ハウジング101を回転自在に収納できればよく、ケーシング110の形状は
図11に示す形状や構成に限定されるものではない。例えば、ケーシング110はさらに、ケーシング110内を通過する流体の流れを整えるための整流板を備えてもよく、あるいは、後述するように整流突起等を有してもよい。
【0041】
(実施形態2)
実施形態1では、推進装置10の管状ハウジング101の円形断面の半径が、流体吸入側から流体吐出側に向かって小さくなる形状を有する構成を説明した。本実施形態2は、管状ハウジングの円形断面の半径が、流体吸入側から流体吐出側に向かって大きくなる形状を有するという点で、推進装置10の構成とは異なっている。以下に、実施形態2の推進装置20について、実施形態1との相違点を中心に説明する。
【0042】
図12は実施形態2の推進装置20の斜視図を、
図13は推進装置20の正面図を、
図14は推進装置20の背面図を、
図15は推進装置20の側面図をそれぞれ示している。実施形態1に係る
図1と同様、推進装置20は
図12右側の流体吸入側から流体を吸い込み、
図12左側の流体吐出側から流体を吐出することによって推進力を得る。
【0043】
推進装置20の管状ハウジング201は、流体吐出側の円形断面が、回転軸から内側側面まで半径r21を有し、流体吸入側の円形断面が、回転軸から内側側面まで半径r22を有しており、流体吸入側の半径r21は流体吸入側の半径r22よりも大きくなるように構成されている。
【0044】
さらに、
図15に示すように、本実施形態2における管状ハウジング201は、実施形態1と同様、吸入側の縁部、かつ、2つの隣接するブレード間に、
図5で図示するような凹み208を任意で有する。
【0045】
ベルヌーイの定理によれば、流体が円筒中を流れる場合、円筒の断面積が大きくなるにつれて流速が低下するため、推進装置によって発生する推進力は低下する。これに対し、本実施形態2の構成によれば、スクリュー200及び管状ハウジング201の回転によって遠心力が加わることにより、推進装置10に吸入される流体速度が増加する。さらに、この遠心力は、流体吸入側から流体吐出側に向かって増大するため、その内部を流れる流体もまた流体吸入側から流体吐出側に向けて加速することができるため、実施形態1の原理とは異なる原理により、推進装置20の推進力を高めることが可能となる。
【0046】
(実施形態3)
実施形態1,2では、管状ハウジングの流体吸入側と流体吐出側とで円形断面の半径が異なる構成を示した。本実施形態3では、管状ハウジングの流体吸入側と流体吐出側における円形断面の半径が等しい構成を説明する。
【0047】
図16は実施形態3の推進装置30の斜視図を、
図17は推進装置30の正面図を、
図18は推進装置30の背面図を、
図19は推進装置30の側面図をそれぞれ示している。実施形態1、2と同様、推進装置30は、
図16右側の流体吸入側から流体を吸い込み、
図16左側の流体吐出側から流体を吐出することによって推進力を得る。
【0048】
図16乃至
図19に示すように、推進装置30の管状ハウジング301では、流体吐出側の円形断面における回転軸から内側側面までの半径r
31と、流体吸入側の円形断面における回転軸から内側側面までの半径r
32とが等しくなるように構成されている。
【0049】
また、
図19に示す側面図では、管状ハウジング301が、吸入側の縁部、かつ、2つの隣接するブレード間に、凹み308を有しているが、凹み308は任意の構成である。なお、本実施形態3におけるボス302は、円筒形を有している。また、
図16に示す推進装置30は整流突起を有していないが、任意で整流突起を設けてもよい。
また、推進装置30は、実施形態1、2と同様、管状ハウジング30を回転自在に収納するケーシング(図示せず)を有してもよい。
【0050】
図20は、実施形態3の推進装置30によって得られる推力の測定結果を示しており、実施形態1の場合と同じ測定方法を用いて牽引力を測定した。
【0051】
ここでは、管状ハウジングの半径r31、r32を30mmとし、4枚のブレードを有する推進装置30の測定結果を示している。
【0052】
図20に示す実施形態3の測定結果と、
図6に示す従来のスクリューとの測定結果とを比較してみると、実施形態3の推進装置30の牽引力は、回転数が600rpm、1110rpmいずれの場合にも従来のスクリューに対して約1.5倍増加している。推進装置30の消費電力は、回転数が1110rpmの場合には約68%増加するが、回転数が600rpmの場合には約10%しか増加していない。すなわち、本実施形態3では、特に低回転において、エネルギー効率が向上する。
【0053】
(変形例1)
本変形例1では、上記実施形態3に示す推進装置30とは異なり、ボスの断面が、流体吸入側から流体吐出側に向けて、半径方向外側に増大するような形状に構成された推進装置40を説明する。本変形例1による推進装置40を、
図21乃至
図24に示す。
図24の側面図から明らかなとおり、回転軸に対して垂直方向の、管状ハウジング401が形成する流体の経路の断面積は、流体吸入側から流体吐出側に向かって減少するとともに、管状ハウジング401内の流体の経路は、流体吸入側から流体吐出側に向かって回転軸から離れる方向に形成される。その結果、管状ハウジング401の流体吐出側は、管状ハウジング401の内側側面に沿って周方向に延びた形状の流体吐出口414を有する。
【0054】
このように、管状ハウジング401内の流体の経路を、流体吸入側から流体吐出側に向かって回転軸から離れる方向に形成することにより、管状ハウジング401内で流体吸入側に発生する遠心力よりも、流体吐出側に発生する遠心力を高めることができる。
そして、管状ハウジング401内を通過する流体の速度は、遠心力の増加に合わせて、流体吸入側から流体吐出側に向けて加速されるため、実施形態2における効果と同様、推進力を高める効果を得ることが可能となる。
【0055】
なお、本変形例1の推進装置40には、ボス402の流体吐出側の端部に、吐出側に先細りに突出して形成された円錐形の整流突起404が設けられている。
図21に示す例では、整流突起404の流体吸入側は、ボス302の流体吐出側の断面と同じ面積の円形断面を有しており、実施形態1、2における整流突起104、204と比較して、大きく構成されている。しかしながら、整流突起は、任意の大きさに構成してもよい。
【0056】
また、推進装置40は、実施形態1、2と同様、管状ハウジング401を回転自在に収納するケーシング410を有してもよい。
図25は、本変形例1の推進装置40とケーシング410の構成を示している。
図25に示すケーシング410では、フロントケーシング411とリアケーシング412を有し、固定部413によって、船底等に固定される。さらに、
図25のケーシング410は、リアケーシング412に、流体の流れを整えるための整流板415を有しているが、整流板415は任意の構成である。
【0057】
(変形例2)
実施形態1、2、及び実施形態3の変形例1では、推進装置が、スクリューの流体吐出側に、先細りに突出して形成された整流突起を有する構成を示した。本変形例2では、整流突起に代わり、軸状突起を有する構成を説明する。
【0058】
図26は変形例2の推進装置50の斜視図を、
図27は推進装置50の正面図を、
図28は推進装置50の背面図を、
図29は推進装置50の側面図を、それぞれ示している。その他の実施形態と同様、推進装置50は、
図26右側の流体吸入側から流体を吸い込み、
図26左側の流体吐出側から流体を吐出することによって推進力を得る。
【0059】
図26乃至
図29に示す推進装置50の管状ハウジング501は、流体吐出側の円形断面における回転軸から内側側面までの半径r
51と、流体吸入側の円形断面における回転軸から内側側面までの半径r
52とが等しくなるように構成されている。
【0060】
さらに、実施形態3の変形例1と同様、本変形例2のボス502は、その断面が流体吸入側から流体吐出側に向けて半径方向外側に増大するような形状に構成されており、管状ハウジング501の流体吐出側は、管状ハウジング501の内側側面に沿って周方向に延びた形状の流体吐出口514を有している。
【0061】
また、
図29に示す側面図では、管状ハウジング501が、吸入側の縁部、かつ、2つの隣接するブレード間に、凹み508を有しているが、凹み508は任意の構成である。
【0062】
図26および
図29に示すように、スクリュー500は、スクリュー500の回転軸上に、流体吐出側に突出する軸状突起516を有している。ここで、
図26等に示す軸状突起516は、ボス502と一体的に形成されたものとして構成されている。しかしながら、ボス502の流体吸入側においてボス502と接続している駆動軸505が、ボス502を貫通するように構成され、ボス502の流体吐出側から突出した駆動軸505の端部を軸状突起516としてもよい。
【0063】
図30はさらに、本変形例2の推進装置50の管状ハウジング501を回転自在に収納したケーシング510を示している。ケーシング510は、ケーシング111と同様、フロントケーシング511とリアケーシング512を有する。ケーシング510は、固定部513によって、船底等に固定される。
【0064】
リアケーシング512は、管状ハウジング501の吐出側に対向して配置されるとともに、流体吐出側に先細りに突出する整流突起504を有する。このような整流突起504を有することにより、管状ハウジング401から吐出された流体のうち、回転軸の周辺に位置する流体を整流することができる。
図30に示す例では、整流突起504は、整流板515によってリアケーシング512の内側側面に固定されている。しかしながら、整流板515に代えて、簡単な支持部によってリアケーシング512の内側側面に固定してもよい。
【0065】
さらに、整流突起504の流体吸入側には、切り欠き部517が設けられており、切り欠き部517の内側には軸受518が配置されている。つまり、スクリュー500の流体吐出側に突出する軸状突起516が、リアケーシング512の整流突起504に設けられた切り欠き部517に挿入されると、切り欠き部516の内側に配置された軸受518によって回転可能に支持される。
【0066】
(総括)
以上、本発明の各実施形態における推進装置の特徴について説明した。
【0067】
なお、複数の実施形態およびその変形例を説明したが、各実施形態あるいは変形例の特徴を2以上含むようにしてもよい。つまり、各実施形態は、実施形態または変形例同士で組み合わせることが可能である。例えば、実施形態1と実施形態4とを組み合わせ、推進装置10のスクリュー部100の流体吐出側から軸状突起が突出するように形成し、ケーシング112に整流突起を設けるとともに、整流突起が軸状突起を回転可能に支持する軸受を有するように構成してもよい。
【0068】
また、各実施形態に開示の構成、方法は、その要素を本発明に適宜組み合わせることができる。つまり、各実施形態に開示の要素同士が必須の組み合わせという訳ではなく、各要素を適宜発明として組み込むことが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、主として船舶の推進装置に用いられるものであるが、本発明は推進装置の用途に限られるものではなく、例えば、撹拌機や発電機などに用いてもよい。
【符号の説明】
【0070】
10、20、30、40、50 推進装置
100、200、300、400、500 スクリュー
101、201、301、401、500 管状ハウジング
102、202、302、402、502 ボス
103、203、303、403、503 ブレード
104、204、404、502 整流突起
105、205、305、405、505 駆動軸
106 内縁部
107 外縁部
108、208、308、408、508 凹み
109 導流板
110、410、510 ケーシング
111、411、511 フロントケーシング
112、412、512 リアケーシング
113、413、513 固定部
414、514 流体吐出口
415、515 整流板
516 軸状突起
517 切り欠き部
518 軸受