(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】有機薄膜太陽電池
(51)【国際特許分類】
H01L 51/44 20060101AFI20220921BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220921BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20220921BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
H01L31/04 132
C08J5/18 CFG
B32B27/34
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2018145648
(22)【出願日】2018-08-02
【審査請求日】2021-06-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)2018年第65回応用物理学会春季学術講演会予稿集 発行日 平成30年3月5日 (2)2018年第65回応用物理学会春季学術講演会 開催場所 早稲田大学西早稲田キャンパス(東京都新宿区大久保3-8-2)開催日 平成30年3月18日(3)ウェブサイトの掲載アドレス http://www.pnas.org/content/115/18/4589 掲載日 平成30年4月16日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(個人型研究(さきがけ))「素材・デバイス・システム融合による革新的ナノエレクトロニクスの創成/ナノ膜厚ポリマー絶縁膜を利用した全印刷型基板レス有機集積回路の創成」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 憲二郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 博紀
(72)【発明者】
【氏名】染谷 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】福川 健一
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 真喜
(72)【発明者】
【氏名】浦上 達宣
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-203984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02、5/12-5/22
B32B 1/00-43/00
C08G 73/10
H01L 31/04-31/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(3)を全て満たすポリイミド層を含む、フレキシブル・エレクトロニクス素子用基板
と、
第1の電極と、
光電変換層と、
第2の電極と、
がこの順に積層されており、
前記ポリイミド層が、下記一般式(1)で表される繰り返し構成単位を有するポリイミドを含む、
有機薄膜太陽電池。
(1)厚さ5μmにおける波長400±5nmの最大透過率が70%以上である
(2)厚さ5μmにおけるL
*a
*b
*表色系のb
*値が5以下である
(3)厚さ5μmにおける波長350nmの光の透過率が、10%以下である
【化1】
(一般式(1)において、R
1
は
【化2】
からなる群から選ばれる少なくとも1種の2価の基であり、
を含み、Y
1
は
【化3】
を含む)
【請求項2】
前記ポリイミド層が、下記(4)~(7)をさらに満たす、
請求項1に記載の
有機薄膜太陽電池。
(4)JIS P8115に準拠して測定される、厚さ10μmにおけるMIT耐折性試験での耐折回数が、1万回以上である
(5)ガラス転移温度が200℃以上である
(6)厚さ10μm以下である
(7)少なくとも一方の面の表面粗さ(Ra)が5nm以下である
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル・エレクトロニクス素子用基板、有機薄膜太陽電池、積層構造体およびその製造方法、ならびにフレキシブル・エレクトロニクス素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フレキシブル性を有するエレクトロニクス素子(本明細書では、「フレキシブル・エレクトロニクス素子」とも称する)が注目されている。中でも、軽量化かつ低コスト化を期待できることから、主に有機材料から構成される素子が注目されており、特に有機薄膜太陽電池の実用化が期待されている。
【0003】
従来、薄膜太陽電池用の基板として、主にガラス基板が使用されてきた。しかしながら、ガラス基板は割れやすく、取り扱いに十分な注意が必要であるとともに、フレキシブル性が低いとの欠点がある。そこでガラス基板を、可撓性を有する樹脂製の基板に代替することが検討されている。
【0004】
例えば非特許文献1には、ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムを基板とした太陽電池が記載されている。また、非特許文献2には、パリレンをCVD法で形成した膜に、太陽電池の素子部を形成すること等が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Nature communications,2012,3:770
【文献】Nature Energy 2 780-785 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、エレクトロニクス素子は、紫外光の影響を受けやすい。例えば薄膜太陽電池では、紫外光に長期間晒されると、光電変換効率が低下する。これに対し、上述のガラス基板やPETフィルム、パリレンからなる膜等は、紫外光の透過性が高い。そのため、これらの基板に、紫外光を吸収もしくは反射するためのフィルター(以下、「UVカットフィルター」とも称する)を積層することが検討されている。しかしながら、一般的なUVカットフィルターを配置すると、UVカットフィルターを積層しない場合と比較して、光電変換に有効な波長を含めて遮蔽するので、光電変換効率が低下する等の課題が生じる。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、低い紫外光透過性と、高い可視光透過性とを兼ね備え、エレクトロニクス素子の性能を低下させることなく紫外線劣化を抑制可能なポリイミド層を含むフレキシブル・エレクトロニクス素子用基板を提供することをその目的とする。また、当該フレキシブル・エレクトロニクス素子用基板を含む有機薄膜太陽電池の提供や、ポリイミド基板と、剛性を有する剥離用基板とを備え、エレクトロニクス素子部の形成後には、剥離用基板を容易に剥離可能な積層構造体およびその製造方法、ならびにこれを用いたフレキシブル・エレクトロニクス素子の製造方法の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のフレキシブル・エレクトロニクス素子用基板を提供する。
[1]下記(1)~(3)を全て満たすポリイミド層を含む、フレキシブル・エレクトロニクス素子用基板。
(1)厚さ5μmにおける波長400±5nmの最大透過率が70%以上である
(2)厚さ5μmにおけるL*a*b*表色系のb*値が5以下である
(3)厚さ5μmにおける波長350nmの光の透過率が、10%以下である
【0009】
[2]前記ポリイミド層が、下記(4)~(7)をさらに満たす、[1]に記載のフレキシブル・エレクトロニクス素子用基板。
(4)JIS P8115に準拠して測定される、厚さ10μmにおけるMIT耐折性試験での耐折回数が、1万回以上である
(5)ガラス転移温度が200℃以上である
(6)厚さ10μm以下である
(7)少なくとも一方の面の表面粗さ(Ra)が5nm以下である
【0010】
[3]基材をさらに有する、[1]または[2]に記載のフレキシブル・エレクトロニクス素子用基板。
【0011】
[4]前記ポリイミド層が、下記一般式(1)で表される繰り返し構成単位または下記一般式(2)で表される繰り返し構成単位を有するポリイミドを含む、[1]~[3]のいずれかに記載のフレキシブル・エレクトロニクス素子用基板。
【化1】
(上記一般式(1)において、R
1は脂環式炭化水素構造を含む炭素数4~15の2価の基、または炭素数5~12の2価の直鎖状脂肪族基を表し、Y
1は、芳香環を含む炭素数6~27の4価の基を表す)
【化2】
(上記一般式(2)において、R
2は芳香環を含む炭素数6~27の2価の基を表し、Y
2は、脂環式炭化水素構造を含む炭素数4~12の4価の基を表す)
【0012】
[5]前記一般式(1)で表される構成単位のR
1が、
【化3】
からなる群から選ばれる少なくとも1種の2価の基であり、前記一般式(1)で表される構成単位のY
1が、
【化4】
からなる群から選ばれる少なくとも1種の4価の基であり、前記一般式(2)で表される構成単位のR
2が、
【化5】
(X
1~X
3は、それぞれ独立に、
【化6】
からなる群から選ばれる単結合または2価の基を表す)からなる群から選ばれる少なくとも一種の2価の基であり、前記一般式(2)で表される構成単位のY
2が、
【化7】
からなる群から選ばれる少なくとも一種の4価の基である、[4]に記載のフレキシブル・エレクトロニクス素子用基板。
【0013】
本発明は、以下の有機薄膜太陽電池も提供する。
[6]上述の[1]~[5]のいずれかに記載のフレキシブル・エレクトロニクス素子用基板と、第1の電極と、光電変換層と、第2の電極と、がこの順に積層された、有機薄膜太陽電池。
【0014】
本発明は、以下の積層構造体も提供する。
[7]剥離用基板と、前記剥離用基板上に配置された、水との接触角が13°以上85°以下であるフッ素系樹脂層と、前記フッ素系樹脂層に隣接して配置されたポリイミド基板と、を含む積層構造体であり、前記ポリイミド基板の厚さ5μmにおける波長350nmの光の透過率が、10%以下である、積層構造体。
【0015】
[8]前記ポリイミド基板が、下記一般式(3)で表される繰り返し構成単位または下記一般式(4)で表される繰り返し構成単位を有するポリイミドを含む、[7]に記載の積層構造体。
【化8】
(上記一般式(3)において、R
1は脂環式炭化水素構造を含む炭素数4~15の2価の基、または炭素数5~12の2価の直鎖状脂肪族基を表し、Y
1は、芳香環を含む炭素数6~27の4価の基を表す)
【化9】
(上記一般式(4)において、R
2は芳香環を含む炭素数6~27の2価の基を表し、Y
2は、脂環式炭化水素構造を含む炭素数4~12の4価の基を表す)
【0016】
[9]前記一般式(3)で表される構成単位のR
1が、
【化10】
からなる群から選ばれる少なくとも1種の2価の基であり、前記一般式(3)で表される構成単位のY
1が、
【化11】
からなる群から選ばれる少なくとも1種の4価の基であり、前記一般式(4)で表される構成単位のR
2が、
【化12】
(X
1~X
3は、それぞれ独立に、
【化13】
からなる群から選ばれる単結合または2価の基を表す)からなる群から選ばれる少なくとも一種の2価の基であり、前記一般式(4)で表される構成単位のY
2が、
【化14】
からなる群から選ばれる少なくとも一種の4価の基である、[8]に記載の積層構造体。
【0017】
本発明は、以下の積層構造体の製造方法も提供する。
[10]上記[7]~[9]のいずれかに記載の積層構造体の製造方法であって、剥離用基板上に、前記フッ素系樹脂層を形成する工程と、前記フッ素系樹脂層上に、前記ポリイミド基板を形成する工程と、を含み、前記フッ素系樹脂層の表面の水接触角が13°以上85°以下である、積層構造体の製造方法。
【0018】
本発明は、以下のフレキシブル・エレクトロニクス素子の製造方法も提供する。
[11]上記[7]~[9]のいずれかに記載の積層構造体の前記ポリイミド基板上にエレクトロニクス素子部を形成する工程と、前記エレクトロニクス素子部の形成後、前記ポリイミド基板から、前記フッ素系樹脂層および前記剥離用基板を剥離する工程と、を有する、フレキシブル・エレクトロニクス素子の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、低い紫外光透過性と、高い可視光透過性とを兼ね備え、エレクトロニクス素子の性能を低下させることなく紫外線劣化を抑制可能なポリイミド層を含むフレキシブル・エレクトロニクス素子用基板が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0021】
1.フレキシブル・エレクトロニクス素子用基板
本発明のフレキシブル・エレクトロニクス素子用基板(以下、単に「素子用基板」とも称する)は、フレキシブル・エレクトロニクス素子(以下、単に「エレクトロニクス素子」とも称する)に用いられる基板であり、当該素子用基板上に、各種エレクトロニクス素子部を配置するための基板である。エレクトロニクス素子の例には、有機薄膜太陽電池等の太陽電池、LED素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、及びトランジスタ等が含まれる。
【0022】
前述のように、薄膜太陽電池等、各種エレクトロニクス素子の基板には、主にガラス基板が使用されてきたが、フレキシブル性の観点で、樹脂製の基板の適用が求められている。また、一般的なエレクトロニクス素子は、紫外光によって影響を受けやすく、屋外で使用される薄膜太陽電池等では特に、紫外光に長期間晒されると、性能が低下する等の課題があった。そこで、各種素子用基板にUVカットフィルター等を積層することが検討されている。しかしながら、一般的なUVカットフィルターを積層すると、素子が厚膜化したり、素子のフレキシブル性が低下したりする。また、薄膜太陽電池では、光電変換効率が低下する等の課題もあった。
【0023】
これに対し、本発明の素子用基板は、波長350nmの光の透過率が10%以下であり、波長400±5nmの光の最大透過率が70%以上であり、さらにL*a*b*表色系のb*値が5以下であるポリイミド層を備える。このようなポリイミド層を備える素子用基板は、紫外光(波長350nm以下の光)の透過率が非常に低い。一方で、当該素子用基板は可視光の透過率が高く、さらには透明性も高い。したがって、従来のガラス基板や樹脂基板等と、本発明の素子用基板とを代替することで、エレクトロニクス素子の外観を殆ど変化させることなく、エレクトロニクス素子の長時間連続駆動が可能となる。またエレクトロニクス素子に、別途UVカットフィルターを設ける必要がないことから、エレクトロニクス素子の薄膜化が可能であり、さらには高いフレキシブル性を付与することも可能である。
【0024】
また、薄膜太陽電池では、一般的なUVカットフィルターで紫外光を遮蔽すると、上述のように、光電変換効率が大きく低下するという課題があった。これに対し、本発明の素子用基板を用いた薄膜太陽電池では、光電変換効率が低下し難い。その理由は定かではないが、UVカットフィルターでは、光電変換に有効な波長域の光まで遮蔽する可能性があるが、本発明の素子用基板(ポリイミド層)は、このような光まで遮蔽し難いと考えられる。またさらに、当該素子用基板(ポリイミド層)は、薄膜太陽電池の光電変換層と熱膨張係数が近く、薄膜太陽電池作製時の変形が少ないことも、1つの要因として考えられる。
【0025】
つまり、本発明の素子用基板を用いた薄膜太陽電池では、フレキシブル性を発現できる薄さを担保したまま、素子の紫外光劣化を抑制できるだけでなく、光電変換効率も十分に確保することができる。またさらに、本発明の素子用基板を用いることで、紫外光の影響を受けやすい材料等も素子材料として用いることが可能となり、素子材料の選択性が広がる、という利点もある。
【0026】
なお、本発明の素子用基板は、ポリイミド層のみから構成されていてもよい。また、ポリイミド層と、可視光透過性や、フレキシブル性、剛性等を兼ね備える基材とが積層された構成とされていてもよい。ポリイミド層と基材とが積層されている場合、ポリイミド層が、紫外光を遮蔽するため層等としての機能を果たす。なお、当該素子用基板には、必要に応じて、ポリイミド層および基材以外の層が含まれていてもよい。以下、本発明の素子用基板について詳しく説明する。
【0027】
1-1.ポリイミド層について
(物性)
本発明の素子用基板に含まれるポリイミド層は、下記(1)~(3)を少なくとも満たす。
(1)厚さ5μmにおける波長400±5nmの最大透過率が70%以上である
(2)厚さ5μmにおけるL*a*b*表色系のb*値が5以下である
(3)厚さ5μmにおける波長350nmの光の透過率が、10%以下である
【0028】
ポリイミド層は、(1)厚さ5μmにおける波長400±5nmの最大透過率が70%以上であり、好ましくは74%以上であり、さらに好ましくは78%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、特に好ましくは85%以上である。波長400±5nmにおける最大透過率が当該範囲であると、素子用基板を例えば有機薄膜太陽電池の受光面側の基板に用いた時に、十分な光電変換効率を実現することができる。また、素子用基板を例えば有機EL素子等の光取り出し面側の基板に用いた時、十分に光を取り出すことが可能となる。
【0029】
上記最大透過率は、ポリイミド層を構成するポリイミドの種類や構造によって調整することが可能である。例えば、ポリイミドの繰返し単位中に、脂環族を含めることで、上記最大透過率を格段に向上させることができる。また、ポリイミド製造時の条件を調整することでも、最大透過率を高めることができる。ポリアミド酸をイミド化する際の環境をイナート雰囲気(例えば窒素気流下)にして酸素濃度を下げることで、酸化による着色が抑制され、上記最大透過率が高まりやすくなる。
【0030】
なお、ポリイミド層の波長400±5nmの光線透過率は、分光光度計によって測定され、本明細書では、波長400±5nmの範囲内で測定される最大の透過率を、上記最大透過率とする。また、本明細書で特定する最大透過率は、ポリイミド層の厚さを5μmとしたときの値である。例えば、厚さ5μmのポリイミド層について、上記最大透過率を測定してもよいが、異なる厚さのポリイミド層の最大透過率を測定し、当該測定値をランベルト・ベールの法則に従って換算してもよい。また、ポリイミド層が基材等と積層されている場合、ポリイミド層を基材等から剥離して光線透過率を測定してもよい。また、素子用基板全体の光線透過率を測定し、当該測定値から基材等の光線透過率を勘案してポリイミド層の光線透過率を特定してもよい。
【0031】
また、ポリイミド層は、(2)厚さ5μmにおけるL*a*b*表色系のb*値が5以下であり、好ましくは4以下であり、さらに好ましくは3以下である。また、b*値は-1以上であることが好ましい。b*値が当該範囲であると、ポリイミド層が無色となり、可視光の透過性が良好になる。つまり、素子用基板を有機薄膜太陽電池の受光面側の基板として用いた場合の光電変換効率が高まったり、有機EL素子の光取り出し面側の基板として用いた場合の光取り出し効率が高まったりする。当該b*値は、ポリイミドの構造によって調整することが可能であり、例えば繰返し単位中に脂環式構造を多く含めることで、b*値を低くすることができる。また、ポリイミド製造時の条件の調整によっても、b*値を低くすることができる。例えば、アミド酸をイミド化する際の雰囲気をイナート雰囲気(例えば、窒素気流下)にして酸素濃度を下げることで、酸化による着色が抑制される。その結果、b*値が低くなる。
【0032】
L*a*b*表色系のb*値は、スガ試験機製Color Cute i型を用いて測定することができる。具体的には、上記試験機を白色標準板によって校正した後、透過モード、測光方式8°diにて、太陽電池用基板のb*値を測定することで、特定される。なお、本明細書で特定するb*値は、太陽電池用基板の厚さを5μmとしたときの値であり、厚さ5μmの太陽電池用基板について、b*値を測定してもよい。一方で、異なる厚さの太陽電池用基板のb*値を測定し、これを常法に従って換算してもよい。
【0033】
また、ポリイミド層は、(3)厚さ5μmにおける波長350nmの光の透過率が、10%以下であり、好ましくは5%以下であり、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。一方で、好ましい下限値は0%である。ポリイミド層の波長350nmの光の透過率が10%以下であると、各種エレクトロニクス素子の紫外光による劣化が十分に抑制されやすくなり、紫外光が照射される環境下でも、各種エレクトロニクスを長期間に亘って安定して使用することが可能となる。
【0034】
上記ポリイミド層の波長350nmにおける光線透過率は、分光光度計によって測定でき、上述の波長400±5nmにおける光線透過率の測定方法と同様の方法により測定することができる。ポリイミド層の波長350nmの光線透過率は、適度な厚みのポリイミド層とすること、さらにはポリイミド骨格中における芳香族性を示す部位等によって調整することができ、ポリイミド骨格中の共役部位を適度にのばすことで、当該光線透過率が低くなりやすい。
【0035】
また、ポリイミド層の(4)JIS P8115に準拠して測定される、厚さ10μmにおけるMIT耐折性試験での耐折回数は、1万回以上であることが好ましく、より好ましくは2万回以上であり、さらに好ましくは3万回以上であり、特に好ましくは5万回以上である。MIT耐折性試験の耐折回数が1万回以上であると、素子用基板(ポリイミド層)を各種エレクトロニクス素子に用いる際に、屈曲させて使用すること等が可能である。また、MIT耐折性試験の結果が1万回以上であれば、当該素子用基板は十分な強度を有するといえる。また、耐折回数が3万回以上であれば1日に30回折り曲げても3年間、耐久性を確保することができる。耐折性は、例えばポリイミドの構造によって調整することが可能であり、その繰返し単位中に、比較的柔軟な構造を有する構造単位(例えば脂環族ジアミン由来の構造単位や脂肪族ジアミン由来の構造単位等)を含めることで、耐折性を高めることができる。
【0036】
MIT耐折性試験は、厚さ10μmのポリイミド層を準備し、MIT耐折度試験機(例えば、安田精機製作所製、307型等)によって、試験片の一端を固定したうえで、他端を把持して試験片を往復折り曲げし、試験片が破断するまでの折り曲げ回数を測定することで特定することができる。
【0037】
また、ポリイミド層は、(5)ガラス転移温度が200℃以上であることが好ましく、より好ましくは230℃~370℃であり、さらに好ましくは260℃~370℃であり、特に好ましくは280℃~370℃である。ポリイミド層のガラス転移温度が200℃以上であると、素子用基板上に各種エレクトロニクス素子部を作製する際、素子用基板(ポリイミド層)に変形等が生じ難くなる。また、例えば有機薄膜太陽電池の作製の際には、アニール処理等が行われることもあるが、ポリイミド層のガラス転移温度が200℃以上であれば、このような処理にも十分に耐えることが可能である。特に、酸化インジウムスズ(ITO)等の透明電極は、アニール温度を上げると導電性が向上するため、このような用途では、素子用基板(ポリイミド層)のガラス転移温度は高いほうが好ましい。ポリイミド層のガラス転移温度は、ポリイミド中に含まれるイミド基の当量、ポリイミドを構成するジアミン成分またはテトラカルボン酸二無水物成分の構造等によってガラス転移温度を調整することができる。上記ガラス転移温度は、熱機械分析装置(TMA)にて測定される。
【0038】
また、ポリイミド層は、(6)厚さ10μm以下であることが好ましい。ここで、素子用基板に後述の基材が含まれない場合、つまり素子用基板が主にポリイミド層からなる場合、ポリイミド層の厚さは、0.5μm~5μmであることが好ましく、1μm~3μmであることが好ましい。ポリイミド層が10μm以下であると、当該素子用基板を用いて得られる各種素子の厚みを薄くすることができる。また素子用基板の厚さが0.5μm以上であると、素子用基板の強度を十分に高めることができる。
【0039】
なお、素子用基板に後述の基材が含まれる場合、ポリイミド層の厚さは、数百nm~数十μm程度であることが好ましい。ポリイミド層の厚さが数百nm以上であると、ポリイミド層によって、波長350nm以下の光を十分に遮蔽することが可能となり、素子の劣化等を抑制することが可能となる。また、数十μm以下とすることで、素子用基板全体が厚膜化することを抑制できる。
【0040】
また、ポリイミド層は、(7)少なくとも一方の面の表面粗さ(Ra)が5nm以下であることが好ましく、より好ましくは2nm以下であり、さらに好ましく1nm以下である。一方で、下限値は通常0.1nm程度である。ポリイミド層の表面粗さ(Ra)が当該範囲であると、当該ポリイミド層上にエレクトロニクス素子部等を形成した場合に、短絡等が生じ難くなる。ポリイミド層の表面粗さ(Ra)は、一方のみが上記範囲であってもよく、両方が上記範囲であってもよい。なお、素子用基板に、後述の基材が含まれる場合、エレクトロニクス素子部を形成する面(基材とは反対側の面)の表面粗さ(Ra)が5nm以下であることが好ましい。
【0041】
なお、ポリイミド層の表面粗さは、ポリイミド層の形成方法(例えば塗布法により、自由表面を形成すること等)によって調整することが可能である。また、ポリイミド層の形成(イミド化)時の昇温速度、ポリアミド酸ワニスの粘度および濃度の調整等によっても、表面粗さを小さくすることができる。上記表面粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM)によって測定することができる。さらに接触型の表面粗さ計で測定することも可能である。
【0042】
(ポリイミド層の組成)
ポリイミド層には、以下の一般式(1)および/または一般式(2)で表される繰返し単位を有するポリイミドが含まれることが好ましい。ポリイミドには、一般式(1)で表される繰返し単位および一般式(2)で表される繰返し単位のうち、いずれか一方のみが含まれていてもよく、両方が含まれていてもよい。また、当該ポリイミドには、一般式(1)で表される繰返し単位および/または一般式(2)で表される繰返し単位以外の繰返し単位が含まれていてもよいが、ポリイミドを構成する繰返し単位の総量に対して、一般式(1)で表される繰返し単位および一般式(2)で表される繰返し単位の総量が50モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましく、95モル%以上であることが特に好ましい。これらの総量が50モル%以上であると、上述の物性を有するポリイミド層が得られやすく、ポリイミド層全体に亘って物性が均一になりやすい。
【0043】
【化15】
上記一般式(1)において、R
1は脂環式炭化水素構造を含む炭素数4~15の2価の基、または炭素数5~12の2価の直鎖状脂肪族基を表す。R
1の具体例には、以下に示す2価の基が含まれる。
【化16】
【0044】
これらの中でも、R
1は、
【化17】
であることが特に好ましい。
【0045】
一方、上記一般式(1)において、Y
1は、芳香環を含む炭素数6~27の4価の基を表す。Y
1の具体例には、以下に示す4価の基が含まれる。
【化18】
【0046】
これらの中でも、Y
1は、
【化19】
であることが特に好ましい。
【0047】
【化20】
また、上記一般式(2)において、R
2は芳香環を含む炭素数6~27の2価の基を表す。R
2の具体例には、以下に示す2価の基が含まれる。
【化21】
上記式中のX
1~X
3は、それぞれ独立に以下の2価の基を表す。一つの繰返し単位にX
2またはX
3が複数含まれる場合、これらは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【化22】
【0048】
一方、上記一般式(2)におけるY
2は、脂環式炭化水素構造を含む炭素数4~12の4価の基を表す。Y
2の例には、以下に示す4価の基が含まれる。
【化23】
【0049】
1-2.基材およびその他の層について
本発明の素子用基板には、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、基材やその他の層が含まれていてもよい。
【0050】
素子用基板に含まれる基材は、上述のポリイミド層と同等以上のフレキシブル性(MIT耐折性)と、可視光透過性(波長400±5nmの最大透過率)と、を有することが好ましい。また、L*a*b*表色系のb*値は5以下であることが好ましい。このような基材としては、従来の有機薄膜太陽電池素子の基板等に適用可能な樹脂フィルムが挙げられ、その例にはポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PET)等のポリエステルフィルムや、パリレン、ポリアミドフィルム等が含まれる。
【0051】
また、素子用基板には、必要に応じてその他の層が含まれていてもよく、このような層の例としてガスバリア層、表面ハードコート層等が挙げられる。
【0052】
なお、基材やその他の層の厚さは十分に薄いことが好ましく、上述のポリイミド層と合わせて10μm以下となる厚さであることが好ましい。
【0053】
1-3.素子用基板の製造方法
上述の素子用基板の製造方法の製造方法は、上述のポリイミド層を含むように形成可能であれば特に制限されず、素子用基板の構成に応じて適宜選択される。
【0054】
例えば、素子用基板が、ポリイミド層のみから構成される場合、特定の構造を有するジアミンと、特定の構造を有するテトラカルボン酸二無水物とを、溶媒中で重合反応させてアミド酸含有ワニスとし、当該アミド酸含有ワニスを、支持体上に塗布する。そして、当該支持体上でアミド酸をイミド化(イミド閉環)させた後、ポリイミド層(素子用基板)から支持体を剥離する。ただし、支持体上に直接ポリアミド酸ワニスを塗布し、ポリアミド酸をイミド化させると、素子用基板(ポリイミド層)から、支持体を剥離し難いことがある。そこで、このような素子用基板は、後述の「積層構造体」で説明する方法で作製することが好ましい。なお、ポリイミド層を作製するためのジアミンやテトラカルボン酸二無水物、溶媒、各種製造条件等については、「積層構造体」の欄で詳しく説明する。
【0055】
一方で、素子用基板が、ポリイミド層および基材を含む場合、基材上に、所望の厚さとなるように上記アミド酸含有ワニスを塗布し、これをイミド化させることで、素子用基板を得ることができる。
【0056】
2.有機薄膜太陽電池
上述の素子用基板は、有機薄膜太陽電池の基板として用いることができる。上述のように、本発明の素子用基板は、350nm以下の光の透過性が低く、400nm以上の光の透過性が高い。そこで特に波長350nm超の領域に極大吸収波長を有する有機薄膜太陽電池に適用することで、その効果を十分に発揮することが可能である。
【0057】
本発明の有機薄膜太陽電池は、例えば素子用基板と、第1の電極と、光電変換層と、第2の電極と、がこの順に積層された構造を有していればよく、例えば素子用基板(受光面側基板)/第1の電極/電子輸送層/光電変換層/正孔輸送層/第2の電極/裏面側基板がこの順に積層された構造等とすることができる。ただし、有機薄膜太陽電池の構成は、当該構成に限定されない。
【0058】
受光面側基板は、上述の素子用基板からなる。上述の素子用基板は、低い紫外光透過性と、高い可視光透過性とを兼ね備える。したがって、当該素子用基板を、有機薄膜太陽電池の受光面側基板に使用することで、光電変換効率を低下させることなく、光電変換層等の劣化を抑制できる。
【0059】
第1の電極は、負極とすることができる。第1の電極は、有機薄膜太陽電池の受光面側に位置することから、例えば銀(銀ナノワイヤや銀メッシュ等)、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アルミニウム亜鉛(AZO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等の透明導電性の金属化合物や、グラフェン等の2次元材料を含む層であることが好ましい。
【0060】
また、電子輸送層は、第1の電極と光電変換層との間に設けられ、光電変換層から第1の電極に電子を移動させやすくする機能を担う層である。なお、電子輸送層は、光電変換層から第1の電極に正孔を移動させにくくする機能を担っていてもよい。電子輸送層は、電子移動度が高い材料で形成されていればよく、公知の有機半導体分子や、ZnO等の無機化合物を含む層とすることができる。
【0061】
光電変換層は、電子供与性を有する公知のp型有機半導体と、電子受容性を有し、p型有機半導体とバルクヘテロ接合を形成する公知のn型有機半導体とがナノレベルで混合された層等とすることができる。p型有機半導体としては、例えば特開2016-17117号公報に記載の高分子化合物が挙げられる。一方、n型有機半導体としては、フラーレン、フラーレン誘導体、カーボンナノチューブ、化学修飾を施したカーボンナノチューブなどの炭素材料や、縮合環芳香族化合物、5~7員のヘテロ環化合物、ポリアリーレン化合物、フルオレン化合物、シクロペンタジエン化合物、シリル化合物、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体等が挙げられる。光電変換層には目的に応じてペロブスカイト型化合物を使うことも有効である。また目的に応じて、光電変換層に電流もしくは電界発光材料を使って、発光デバイスとすることも可能である。
【0062】
また、正孔輸送層は、第2の電極と光電変換層との間に設けられ、光電変換層から第2の電極に正孔を移動させやすくする機能を担う層である。正孔輸送層は、光電変換層から第1の電極に電子を移動させにくくする機能を担っていてもよい。正孔輸送層は、例えば公知の導電性高分子や、MoO3、WO3等の無機化合物、有機半導体分子等を含む層とすることができる。
【0063】
さらに、第2の電極は陽極とすることができる。第2の電極の材料は導電性を有していればよく、例えば、Au、Pt、Ag、Cu、Al、Mg、Li、Kなどの金属、あるいはカーボン電極などを含む層とすることができる。
【0064】
裏面側基板は、特に制限されず、公知の有機薄膜太陽電池に使用される基板と同様のものを用いることができる。なお、上述の素子用基板を裏面側基板に用いてもよい。
【0065】
ここで、有機薄膜太陽電池の製造方法は特に制限されないが、素子用基板(受光面側基板)上に順次、各層を積層することが好ましい。このとき、後述の「積層構造体を用いたフレキシブル・エレクトロニクス素子の製造方法」で説明するように、素子用基板(ポリイミド基板)を剥離用基板上に固定した状態で、各層を積層し、その後、素子用基板(ポリイミド基板)から剥離用基板を剥離することが好ましい。
【0066】
3.積層構造体
本発明の積層構造体は、剥離用基板と、フッ素系樹脂層と、ポリイミド基板とが、積層された構造を有する。
【0067】
一般的に、フレキシブル性を有する基板上にエレクトロニクス素子部を形成すると、素子用基板が撓んだり歪んだりすることがあり、エレクトロニクス素子部の位置がずれたり、得られるエレクトロニクス素子に歪み等が生じることがある。そこで、基板を剥離用基板等に固定した状態で、エレクトロニクス素子部を形成することが考えられる。しかしながら、当該手法では、エレクトロニクス素子部の形成後、基板から剥離用基板材を剥離することが難しく、得られるエレクトロニクス素子が破損しやすい等の課題があった。
【0068】
これに対し、本発明の積層構造体では、素子を形成するためのポリイミド基板と、剥離用基板とが、フッ素系樹脂層を介して積層されている。したがって、積層構造体のポリイミド基板上にエレクトロニクス素子部を作製した後、ポリイミド基板とフッ素系樹脂層との界面で、容易に剥離することが可能となる。
以下、本発明の積層構造体の各構成について説明する。
【0069】
3-1.剥離用基板
剥離用基板は、ポリイミド基板を十分に支持可能な剛性を有し、かつその表面に後述のフッ素系樹脂層を均一に形成可能な基板であれば特に制限されない。剥離用基板の形状は、作製するエレクトロニクス素子の形状に合わせて適宜選択され、例えば平板状の基板であってもよく、屈曲した構造を有する基板等であってもよい。
【0070】
また、剥離用基板の材料は特に制限されず、アルカリ金属酸化物(Na2O、K2O)を含有するアルカリガラス基板であってもよく、無アルカリガラス基板であってもよい。また、剥離用基板として、Siウェハや剛性の高いポリマーフィルム等を用いてもよい。
【0071】
またさらに、剥離用基板の厚みは、通常50~3000μmであることが好ましく、より好ましくは100~1000μmであり、さらに好ましくは100~700μmである。剥離用基板の厚みが当該範囲であると、積層構造体上にエレクトロニクス素子部を形成する際の取扱性が良好となる。また、積層構造体の強度が高くなりやすい。なお、厚さが100μm以下の無機ガラス板は強度が多少低い場合がある。剥離用基板として、このような無機ガラス板を用いる場合、表面のクラックを埋めるように、硬化性樹脂でコーティング処理すると、無機ガラス板が破損し難くなる。
【0072】
また、剥離用基板の表面のうち、ポリイミド基板が積層される面の表面粗さ(Ra)は十分に小さいことが好ましく、10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)によって測定することができる。また、表面粗さ(Ra)は、接触式の表面粗さ計によって測定することもできる。表面粗さが大きくなると、剥離用基板が割れやすくなったり、ポリイミド基板から剥離し難くなったりする。また、ポリイミド基板上にエレクトロニクス素子を形成する際に、剥離用基板によって後方散乱が大きくなる場合がある。
【0073】
3-2.フッ素系樹脂層
フッ素系樹脂層は、剥離用基板とポリイミド基板との間に形成される層であり、分子構造中にフッ素を含む樹脂を含む層である。フッ素系樹脂層の表面の水接触角が13°以上85°以下であり、水接触角は、好ましくは23°以上80°以下であり、さらに好ましくは23°以上70°以下である。後述するように、ポリイミド基板は、通常、フッ素系樹脂層上に、ポリアミド酸を含むワニス等を塗布して形成される。
【0074】
このとき、フッ素系樹脂層表面の水接触角が高すぎると、ワニスを弾いてしまい、均一にポリイミド基板を形成することができない。これに対し、フッ素系樹脂層表面の水接触角が85°以下であれば、ポリイミド基板をムラなく均一に形成することができる。一方、フッ素系樹脂層表面の水接触角が低すぎると、エレクトロニクス素子部の形成後、ポリイミド基板から剥離用基板およびフッ素系樹脂層を剥離する際に、ポリイミド基板とフッ素系樹脂層との界面での剥離が生じ難くなるが、フッ素系樹脂層表面の水接触角を13°以上とすることで、良好な剥離性が得られやすい。フッ素系樹脂層表面の水接触角は、フッ素系樹脂層の種類や、表面処理等によって、調整することが可能である。
【0075】
ここで、フッ素系樹脂層表面の水接触角とは、フッ素系樹脂層を露出させたときの水接触角であり、例えば積層構造体から、ポリイミド基板を剥離することで、測定することができる。また、フッ素系樹脂層表面の水接触角は、液滴法により測定することができる。
【0076】
フッ素系樹脂層は、例えば、公知のフッ素系樹脂(例えばハイドロフルオロエーテル)を基材上に塗布し、乾燥させること等により形成することが可能である。フッ素樹脂の市販品の例には、ノベック 2702、1700、1720、7000、7100、7200、7300、71IPE(いずれもスリーエム社製);テフロン(登録商標)AF1600、AF2400(いずれも三井・デュポン フロロケミカル社製)等が含まれる。これらは1種単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0077】
また、フッ素系樹脂層は、フッ素系樹脂を含む層の形成後、例えば酸素プラズマ処理等が行われたものであってもよい。酸素プラズマ処理を行うことで、水接触角を所望の範囲に調整することができる。
【0078】
フッ素系樹脂層の厚さは、0.01~10μmであることが好ましく、0.1~3μmであることがより好ましい。フッ素系樹脂層の厚さが0.01μm以上であると、ポリイミド基板からの剥離性が十分に高まりやすい。
【0079】
3-3.ポリイミド基板
ポリイミド基板は、フレキシブル・エレクトロニクス素子を形成するための基板であり、厚さ5μmにおける波長350nmの光の透過率が10%以下である。当該ポリイミド基板は、上述の素子用基板のポリイミド層と同様の物性を有することが好ましい。
【0080】
3-4.積層構造体の製造方法
上述の積層構造体は、剥離用基板上にフッ素系樹脂層を形成する工程と、当該フッ素系樹脂層上にポリイミド基板を形成する工程と、を行うことで、製造することができる。
【0081】
(フッ素系樹脂層形成工程)
まず、前述の剥離用基板を準備し、当該剥離用基板上にフッ素系樹脂層形成用組成物を塗布する。フッ素系樹脂層形成用組成物は、前述のフッ素系樹脂もしくはその前駆体と、溶媒とを含む組成物等とすることができる。
【0082】
フッ素系樹脂層形成用組成物の塗布方法は特に制限されず、例えばスピンコート法、バーコート法、ディップコート法、スリットコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、ダイコート法等とすることができる。
【0083】
フッ素系樹脂層形成用組成物の塗布後、当該組成物中の溶媒を除去し、乾燥させる。乾燥方法は、フッ素系樹脂層形成用組成物中に含まれる成分に応じて適宜選択され、例えば加熱乾燥を行ってもよく、室温乾燥を行ってもよい。
【0084】
さらに、フッ素系樹脂層形成用組成物の乾燥後、必要に応じて、表面に酸素プラズマ処理等を行ってもよい。酸素プラズマの処理条件は、フッ素系樹脂層の表面の水接触角が13°以上85°以下となるように、適宜選択する。
【0085】
(ポリイミド基板の形成工程)
続いて、上記フッ素系樹脂層上にポリイミド基板を形成する。まず、特定の構造を有するジアミンと、特定の構造を有するテトラカルボン酸二無水物とを、溶媒中で重合反応させてアミド酸含有ワニスとする。そして、当該アミド酸含有ワニスを、フッ素系樹脂層上に塗布した後、アミド酸をイミド化(イミド閉環)させる。これにより、剥離用基板、フッ素系樹脂層、およびポリイミド基板が積層された積層構造体が得られる。以下、詳しく説明する。
【0086】
・ポリアミド酸ワニスの調製
まず、所定の構造を有するジアミンと、特定の構造を有するテトラカルボン酸二無水物とを、溶媒中で重合反応させてアミド酸含有ワニスとする。
【0087】
ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物は、調製するポリイミドの構造に合わせて適宜選択される。例えば、上記一般式(1)で表される繰返し構造を有するポリイミドを含む素子用基板を作製する場合、脂環式炭化水素構造を有するジアミンまたは直鎖脂肪族ジアミンと、芳香環を含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させて、ポリアミド酸を調製する。ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物は、それぞれ一種のみ用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
脂環式炭化水素構造を有するジアミンの例には、シクロブタンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン〕、ジアミノビシクロヘプタン、ジアミノメチルビシクロヘプタン(ノルボルナンジアミンなどのノルボルナンジアミン類を含む)、ジアミノオキシビシクロヘプタン、ジアミノメチルオキシビシクロヘプタン(オキサノルボルナンジアミンを含む)、イソホロンジアミン、ジアミノトリシクロデカン、ジアミノメチルトリシクロデカン、ビス(アミノシクロへキシル)メタン、ビス(アミノシクロヘキシル)イソプロピリデン等が含まれる。
【0089】
直鎖状脂肪族ジアミンの例には、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン等が含まれる。
【0090】
また、芳香環を含むテトラカルボン酸二無水物の例には、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、2,2-ビス[(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、4,4’-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、ナフタレン2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-(9-フルオレニリデン)ビス無水フタル酸等が含まれる。
【0091】
一方、上記一般式(2)で表される繰返し構造を有するポリイミドを含む素子用基板を作製する場合、芳香環を含むジアミンと、脂環式炭化水素構造を含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させて、ポリアミド酸を調製する。ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物は、それぞれ一種のみ用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0092】
芳香環を含むジアミンの例には、ベンゼン環を1つ有するジアミンである、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン;ベンゼン環を2つ有するジアミンである、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)プロパン、1,5-ジアミノナフタレン、;ベンゼン環を3つ有するジアミンである、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノベンゾイル)ベンゼン、2,6-ビス(3-アミノフェノキシ)ピリジン;ベンゼン環を4つ有するジアミンである、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン;等が含まれる。
【0093】
一方、脂環式炭化水素構造を含むテトラカルボン酸二無水物の例には、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2.]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5-トリカルボン酸-6-酢酸二無水物,1-メチル-3-エチルシクロヘキサ-1-エン-3-(1,2),5,6-テトラカルボン酸二無水物、デカヒドロ-1,4,5,8-ジメタノナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-テトラリン-1,2-ジカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物等が含まれる。
【0094】
ポリアミド酸ワニスは、上記ジアミンと、テトラカルボン酸二無水物とを、非プロトン性極性溶媒または水溶性アルコール系溶媒中で重合することにより得られる。非プロトン性極性溶媒の例には、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルフォスフォラアミド等;エーテル系化合物である、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-(メトキシメトキシ)エトキシエタノール、2-イソプロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどが含まれる。水溶性アルコール系溶媒の例には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ジアセトンアルコール等が含まれる。
【0095】
これらの溶剤は1種単独で、もしくは2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンもしくはこれらの組み合わせが好ましい。
【0096】
ポリアミド酸ワニスの調製手順に特に制限はない。例えば、撹拌機及び窒素導入管を備えた容器を用意する。窒素置換した容器内に前述の溶媒を投入し、固形分濃度が30しつりょう%程度となるようにジアミンを加えて攪拌し、溶解させる。この溶液に、ジアミン化合物に対して、モル比率が1程度となるようにテトラカルボン酸二無水物を加え、温度を調整して1~50時間程度攪拌する。これにより、ポリアミド酸が溶媒に分散されたポリアミド酸ワニスを得ることができる。
【0097】
・ポリアミド酸ワニスの塗布およびイミド化
上述のポリアミド酸ワニスを、前述のフッ素系樹脂層上に塗布し、加熱し、ポリアミド酸をイミド化させる。ここで、ポリアミド酸ワニスの塗布方法は特に制限されず、例えば例えばスピンコート法、バーコート法、ディップコート法、スリットコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、ダイコート法等とすることができる。
【0098】
ポリアミド酸のイミド化は、通常の加熱乾燥炉で行うことができる。乾燥炉の雰囲気としては、空気、イナートガス(窒素、アルゴン)等が利用できるが、酸素濃度が5%以下の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。環境雰囲気中の酸素濃度を低くすることで、得られる素子用基板(ポリイミド基板)の透明性を高めることができる。また、得られる素子用基板(ポリイミド基板)の耐折性や引張強度も高まりやすい。不活性ガスの環境雰囲気における酸素濃度は、0.1%以下がより好ましい。
【0099】
一方、イミド化時の平均昇温速度は、50~300℃の範囲で、例えば0.25~50℃/分ことができ、好ましくは1~10℃/分、より好ましくは2~5℃/分である。昇温速度は、一定としてもよく、2段階以上に変えてもよい。2段階以上に変える場合は、各昇温速度を0.25~50℃/分とすることが好ましい。得られるポリイミド基板の透明性が高くなり、さらに、引張強度や耐折性も高くなる。さらに、昇温は、連続的でも段階的(逐次的)でもよいが、連続的とすることが、得られるポリイミド基板の外観不良やイミド化反応に伴う白化を抑制できる点から好ましい。なお、塗膜は必ずしも300℃まで加熱する必要はない。昇温終了温度が300℃未満である場合、150℃からその昇温終了温度までの範囲における平均昇温速度を0.25~50℃/分とすることが好ましい。
【0100】
昇温終了(到達最高)温度は、通常、高めの温度、具体的にはポリイミドのガラス転移温度Tgより10℃以上高い温度とすることが好ましい。昇温終了(到達最高)温度を当該温度とすることで、塗膜に含まれる残存溶剤を除去しやすくなる。また、得られるポリイミド基板の耐折性が高くなる。昇温終了(到達最高)温度は、例えば200~300℃が好ましく、より好ましくは250~290℃であり、さらに好ましくは270~290℃である。昇温終了後の加熱時間は、例えば1秒~10時間程度とすることができる。
【0101】
4.積層構造体を用いたフレキシブル・エレクトロニクス素子の製造方法
上述の積層構造体を用いてフレキシブル・エレクトロニクス素子を製造する場合、まず、積層構造体のポリイミド基板上にエレクトロニクス素子部を形成する工程を行い、その後、ポリイミド基板から、フッ素系樹脂層および剥離用基板を剥離する工程を行う。
【0102】
本発明の方法によれば、剛性を有する剥離用基板によって支持しながら、エレクトロニクス素子部を形成することが可能である。したがって、エレクトロニクス素子部の形成時に、ポリイミド基板が撓んだりすること等がなく、所望の位置に精度よくエレクトロニクス素子部を形成することが可能である。
【0103】
一方で、エレクトロニクス素子部を形成した後は、ポリイミド基板から剥離用基板およびフッ素系樹脂層を容易に剥離することが可能である。したがって、エレクトロニクス素子部を破損させること等なく、剥離を行うことが可能であり、フレキシブル性を有するエレクトロニクス素子が容易に得られる。
【実施例】
【0104】
以下において、実施例を参照して本発明を説明する。実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0105】
1.積層構造体の作製
<実施例1>
・フッ素系樹脂層の形成
フッ素系コーティング剤1(3M社製、NOVEC 270)およびフッ素系コーティング剤2(3M社製、NOVEC200)を質量比1:1で混合したフッ素系樹脂層形成用組成物を、無機ガラス板からなる剥離用基板(アルカリガラス、0.7mm厚)上に200μl滴下し、スピンコートした。スピンコートの条件は、1000rpm、60秒間とした。その後、当該積層体を室温で3分静置し、無機ガラス板上に厚さ100nmのフッ素系樹脂層を形成した。得られたフッ素系樹脂層の表面に、酸素プラズマ処理を行った。プラズマ処理は、SAMCO社製PC300にて、酸素ガス流量5sccm、電力50Wで30秒間行った。
【0106】
・ポリイミド基板(素子用基板)の作製
温度計、攪拌機、窒素導入管、滴下ロートを備えた300mLの5つ口セパラブルフラスコに、1,4-ジアミノシクロヘキサン(CHDA)5.71g(0.05モル)、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン(14BAC)7.11g(0.05モル)、およびN,N‐ジメチルアセトアミド(DMAc)229.7gを加えて撹拌した。
【0107】
ここに、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物(ODPA)30.9g(0.1モル)を装入し、反応容器を120℃に保持したオイルバス中に5分間浴し、速やかに再溶解していく様子を確認した。オイルバスを外してから、さらに18時間室温で攪拌し、ポリアミド酸を含むポリアミド酸ワニスを得た。当該ポリアミド酸ワニスを、上述のフッ素系樹脂層の上に200μl/cm2となるように滴下し、スピンコートした。スピンコートの条件は、5000rpm、60秒間とした。その後、当該積層体をイナートオーブンにて、昇温速度2℃/分で270℃まで昇温させ、270°で2時間焼成した。これにより、無機ガラス板上に厚さ1μmのポリイミド基板(素子用基板)を形成した。
【0108】
<評価>
ポリイミド基板(フレキシブル・エレクトロニクス素子用基板)について、以下の評価を行った。なお、別途準備した無機ガラス板(アルカリガラス、0.7mm厚)およびパリレン膜をそれぞれ比較例1-1および比較例1-2とし、これらについても同様の評価を行った。
【0109】
・厚さ5μmにおける波長350nmの透過率、および波長400nm±5nmの最大透過率の測定
上記ポリイミド基板の作製に用いたポリアミド酸ワニスを用い、スピンコートの条件だけを変えて、厚みが5μmであるポリイミド基板を作製した。得られたポリイミド基板の波長350nmの光線透過率、および波長400nm±5nmにおける最大透過率を、島津製作所社製 分光光度計(MultiSpec-1500)で測定した。同様に、無機ガラス板(比較例1-1)および厚みが5μmであるパリレン膜(比較例1-2)についても、同様に波長350nmの光線透過率、および波長400nm±5nmにおける最大透過率を特定した。
【0110】
・厚さ5μmにおけるL*a*b*表色系におけるb*値
上記ポリイミド基板の作製に用いたポリアミド酸ワニスを用い、スピンコートの条件だけを変えて、厚みが5μmとなるポリイミド基板を作製した。得られたポリイミド基板のL*a*b*表色系におけるb*値を、スガ試験機製Color Cute i型を用いて、透過モード、測光方式8°diにて白色標準板による校正を行った後、測定した。同様に無機ガラス板(比較例1-1)および厚みが5μmであるパリレン膜(比較例1-2)についても、b*値を測定した。なお、無機ガラス板については、測定値を、基板の厚みが5μmである場合のb*値に換算した。
【0111】
・MIT耐折性
上記ポリイミド基板の作製に用いた各ポリアミド酸ワニスを用い、スピンコートの条件だけを変えて、厚みが10μmとなるポリイミド基板を作製した。得られたポリイミド基板を、長さ約120mm×幅15mmの形状にカットし、試験片とした。この試験片の一端を、安田精機製作所製 MIT型耐折試験機(307型)にセットして、他端を把持し、曲率半径0.38mm、荷重0.5Kg、折り曲げ確度270度(左右135度)、折り曲げ速度175回/分の条件で往復折り曲げし、破断するまでの回数を測定した。測定条件は以下の通りとした。なお、試験時には、試験片の一方側への折り曲げを1回と数えた。3つの試験片についてそれぞれ試験を行い、これらの試験結果の算術平均値について有効数値2ケタで四捨五入した値を耐折性の測定結果とした。また、耐折性の測定結果の上限値は、100万回とした。パリレン膜(比較例1-2)についても同様に評価を行ったが、ガラス基板(比較例1-1)については、耐折性を測定することができなかった。
【0112】
(測定条件)
曲げ半径:R=0.38mm
荷重:0.5kgf
折り曲げ角度:270°(左右135°)
折り曲げ速度:175回/分
試験回数:n=3
【0113】
・ガラス転移温度(Tg)の測定
上記ポリイミド基板の作製に用いたポリアミド酸ワニスを用い、スピンコートの条件だけを変えて、厚みが5μmとなるポリイミド基板を作製した。得られたポリイミド基板を、幅4mm、長さ20mmに裁断した。これを島津製作所社製 熱分析装置(TMA-50)で測定した。パリレン膜(比較例1-2)についても同様に評価を行った。
【0114】
・表面粗さ(Ra)の測定
上記ポリイミド基板ならびに無機ガラス板(比較例1-1)およびパリレン膜(比較例1-2)の表面粗さ(Ra)を、AFM(SII社製NanoNavi IIs Nanocute)により測定した。
【0115】
・成膜性
得られたポリイミド基板が、凝集や液の弾き等による厚みの不均一性のない滑らかな表面であるかを確認し、成膜性を評価した。滑らかな表面である場合を○、凝集や液の弾き等がある場合を×とした。
【0116】
・剥離性
積層構造体における、ポリイミド基板の剥離用基板(無機ガラス板)からの剥離性を、以下のように評価した。まず、積層構造体(無機ガラス板上にポリイミド基板を成膜したもの)の周縁部4辺に、メスにて「ロ」の字型に切込みを入れた。そして、ポリイミド基板の周縁部に、粘着テープを接着させて、手またはピンセットで保持しながら引き剥がした。このとき、ポリイミド基板が切込みどおりの「ロ」の字型の形状を保持したまま、無機ガラス板から剥離できた場合を○、剥離できなかった場合を×とした。
【0117】
【0118】
上記表1に示すように、ポリイミド基板は、波長350nmの光の透過率が非常に低いにもかかわらず波長400nm±5nmの光の最大透過率は70%以上であり、b*値も5以下であった。つまり、可視領域の光透過性は優れる一方で、紫外領域の光透過性は低かった。また、当該ポリイミド基板は、さらには表面粗さが小さく、MIT耐折性が良好であること等から、フレキシブル・エレクトロニクス素子用の基板として非常に優れることが明らかであった。これに対し、ガラスやパリレンは、波長350nmの光の透過率が高く、これらの基板のみでは、エレクトロニクス素子の紫外光劣化を抑制することは難しいといえる。
【0119】
2.有機薄膜太陽電池の作製
<実施例2>
上述の積層構造体の作製方法と同様に、無機ガラス板(剥離用基板)上に、フッ素系樹脂層を形成し、さらにポリイミド基板(厚さ1.2μm)を作製した。得られたポリイミド基板の物性は、上述の表1に示す値と同じである。
【0120】
この積層構造体のポリイミド基板上に、酸化インジウムスズ(ITO)層をスパッタ法で成膜した。ITO層(第1の電極)の厚さは100nmとした。得られたITO層に、SAMCO社製PC300にて、酸素ガス流量5sccm、電力300Wで1分間酸素プラズマ処理を行った。
【0121】
続いて、2-メトキシエタノール5mlに酢酸亜鉛二水和物549mgおよびエタノールアミン160μlを溶解させた溶液を、ITO層上に滴下し、スピンコートした。スピンコートの条件は、5000rpmm、30秒間とした。その後、当該積層体を70℃に加熱した後、180℃まで昇温させて30分間保持し、室温まで冷却させて、ZnO層(電子輸送層、厚さ30nm)を得た。
【0122】
次に、o-ジクロロベンゼン中に、下記式(7)で表される構造を有する化合物(PTzNTz-BOBO)と、下記式(8)で表される構造を有する化合物(PC
71BM)とを1:2の質量比で溶解させた溶液を準備した。そして、当該溶液をZnO層上に加熱スピンコートした。スピンコートの条件は、100℃、600rpm、20秒間とした。これにより、厚さ300~400nmの光電変換層を得た。
【化24】
【0123】
続いて、上記光電変換層上に酸化MoO3層(正孔輸送層)およびAg層(第2の電極)を真空蒸着法で成膜した。成膜時の圧力は、いずれも1×10-3Pa未満とした。さらに酸化モリブデンの成膜レートは、0.1Å/s以下、銀の成膜レートは1Å/s以下とした。また、MoO3層の厚みは7.5nm、Ag層の厚みは100nmとした。その後、当該積層体から、無機ガラス板(剥離用基板)およびフッ素系樹脂層を剥離し、有機薄膜太陽電池を得た。
【0124】
<比較例2-1>
上述の積層構造体の代わりに無機ガラス板(アルカリガラス、厚み0.7mm)を用い、無機ガラス板上に各層を形成した以外は、実施例2と同様に薄膜太陽電池を作製した。なお、当該無機ガラス板の物性は、上述の表1に示す値と同じである。
【0125】
<比較例2-2>
無機ガラス板の一方の面に、UVバンドパスフィルター(シグマ光機社製UTVAF-34U(以下「UVP」とも称する))を配置し、他方の面に各層を形成した以外は、実施例2と同様に薄膜太陽電池を作製した。
【0126】
<比較例2-3>
ガラス基板上にパリレン膜(1μm)を形成し、当該パリレン膜上に各層を形成した以外は、実施例2と同様に有機薄膜太陽電池を作製した。
【0127】
<評価>
実施例2および比較例2-1~2-3で作製した薄膜太陽電池について、フレキシブル性および連続駆動試験における規格光電変換効率(PCE)を測定した。評価結果を表2に示す。
【0128】
・フレキシブル性
薄膜太陽電池を曲率半径1mmまで曲げ、この場合にも素子性能が90%以上である場合を○、素子性能が90%未満となった場合を×とした。
【0129】
・連続駆動試験における規格化光電変換効率(PCE)
実施例2および比較例2-1~2-3で作製した薄膜太陽電池(活性領域 0.04cm2)に、ソーラシュミレーターでAM1.5G条件の光を照射強度1000W/m2で照射して、大気圧下、室温(22℃)、ケースレー社製2400 ソースメータで電流-電圧特性を測定した。この時、常に最大電力を追従できるようにプログラムされた制御を課して(Maximum Power Point Tracking)薄膜太陽電池を駆動させ、電流-電圧曲線から求められる規格化光電変換効率(PCE)を測定した。
【0130】
【0131】
上記表1および表2に示されるように、波長350nmの光の透過率が10%以下であり、波長400±5nmの光の最大透過率が70%以上であり、さらにL*a*b*表色系のb*値が5以下であるポリイミド基板(表1の実施例1と同じ物性の基板)を用いた場合には(実施例2)、PCE低下抑制率が非常に高かった。上記ポリイミド基板を用いることで、太陽電池素子の紫外光照射による劣化を抑制できたといえる。また、当該ポリイミド基板を用いた場合、初期PCEが十分に高かった。つまり、本発明の素子用基板によれば、高い光電変換効率を維持したまま、紫外光劣化を抑制することができた。
【0132】
これに対し、ガラス基板用いた場合(比較例2-1)やパリレンを用いた場合(比較例2-3)には、PCE低下抑制率が低く、太陽電池素子が劣化しやすいことが明らかであった。また、ガラス基板とUVバンドパスフィルター(UVP)とを用いた場合には(比較例2-2)、初期PCEが低くなり、さらにはPCE低下抑制率も、ポリイミド基板と比較して低かった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明のフレキシブル・エレクトロニクス素子用基板は、低い紫外光透過性と、高い可視光透過性とを兼ね備え、エレクトロニクス素子の性能を低下させることなく紫外線劣化を抑制可能なポリイミド層を含む。したがって、各種フレキシブル・エレクトロニクス素子の基板として非常に有用である。また、本発明の積層構造体は、フレキシブル・エレクトロニクス素子に好適なポリイミド基板を容易に剥離することができる。したがって、各種フレキシブル・エレクトロニクス素子の作製に有用である。