(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】熱交換器
(51)【国際特許分類】
F28D 9/00 20060101AFI20220921BHJP
F28F 3/08 20060101ALI20220921BHJP
F01K 25/10 20060101ALI20220921BHJP
F28B 1/02 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
F28D9/00
F28F3/08 301Z
F01K25/10 C
F28B1/02
(21)【出願番号】P 2018161844
(22)【出願日】2018-08-30
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(73)【特許権者】
【識別番号】598117056
【氏名又は名称】株式会社ゼネシス
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】池上 康之
(72)【発明者】
【氏名】安永 健
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 敬之
(72)【発明者】
【氏名】實原 定幸
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】特許第3100371(JP,B1)
【文献】特開昭63-267877(JP,A)
【文献】特開昭61-161189(JP,A)
【文献】特開2007-309295(JP,A)
【文献】国際公開第2007/020707(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 9/00
F28F 3/08
F01K 25/10
F28B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から流入する気相の高温流体と液相の低温流体とを伝熱性材料製の熱交換部を介して熱交換させ、気相の高温流体を凝縮させると共に、液相の低温流体を蒸発させる熱交換器において、
隔壁で外部から隔離された内部空間を有し、当該内部空間に外部から前記気相の高温流体を導入可能且つ内部空間から外部へ凝縮した液相の高温流体を取出し可能とされると共に、隔壁を貫通する前記低温流体の流入出用流路を設けられる中空容器状のシェルを備え、
前記気相の高温流体が、水蒸気であり、
前記液相の低温流体が、蒸気動力サイクルの作動流体で液相のものであり、
前記熱交換部が、複数並列状態とされた略矩形状金属薄板製の各熱交換用プレートを、所定の略平行をなす二端辺部位で隣合う一の熱交換用プレートと水密状態として溶接される一方、隣合う他の熱交換用プレートと前記二端辺と略直交する他の略平行な二端辺部位で水密状態として溶接されて全て一体化され、各熱交換用プレート間に前記水蒸気及び当該水蒸気の凝縮した凝縮水の通る第一流路と作動流体の通る第二流路とをそれぞれ一つおきに生じさせ、且つ水蒸気及び凝縮水が流入出可能な前記第一流路の開口部分と、作動流体が流入出可能な前記第二流路の開口部分とが、直角をなす配置として形成され、
前記熱交換部が、前記シェルの内部空間に、前記第二流路の開口部分以外でシェル隔壁内面との間に所定の隙間を介在させ、且つ第一流路の開口部分を上下に位置させて配設され、前記流入出用流路と前記第二流路の開口部分とを接続されてなり、
前記流入出用流路を通じて流入する液相の作動流体とシェル内部空間から流入する水蒸気とを熱交換させ、当該熱交換で、水蒸気を凝縮させて凝縮水としての真水を得る造水用凝縮器をなすと共に、液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体を得る蒸気動力サイクルの蒸発器をなすものであることを
特徴とする熱交換器。
【請求項2】
前記請求項1に記載の熱交換器において、
前記熱交換部が、前記シェル内部空間に、前記第二流路における作動流体流出側の開口部分が作動流体流入側の開口部分に対し上側となるように熱交換部全体を傾けて配設されることを
特徴とする熱交換器。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の熱交換器において、
前記シェルの内部空間に連通する蒸発用空間を内部に有し、当該蒸発用空間を大気圧より低い減圧状態とされる中空の減圧容器と、
当該減圧容器内に配設され、減圧容器の内部空間に外部から導入された海水を噴射する噴射部と、
少なくとも前記減圧容器の蒸発用空間に連通させて配設され、前記蒸発用空間及びシェルの内部空間を前記海水の飽和蒸気圧より低い圧力に調整する減圧装置とを備え、
前記減圧容器の蒸発用空間で噴射部から噴射された海水をフラッシュ蒸発させ、蒸発で得られた水蒸気を前記熱交換部で凝縮させることを
特徴とする熱交換器。
【請求項4】
前記請求項3に記載の熱交換器において、
前記減圧容器が、シェルの下側にシェルと一体に配設され、
減圧容器の蒸発用空間とシェルの内部空間とを隔てる隔壁の一部が、蒸発用空間からシェルの内部空間への気体の移動は許容しつつ、蒸発用空間に存在する液体の海水がシェルの内部空間へ進行するのを阻止するミスト除去部とされることを
特徴とする熱交換器。
【請求項5】
前記請求項1ないし4のいずれかに記載の熱交換器において、
前記蒸気動力サイクルの作動流体循環流路における液相作動流体の液面位置が、前記熱交換部より上側に設定され、熱交換部の第二流路全域に液相の作動流体が存在して、熱交換部の熱交換用プレートを介して第一流路の水蒸気と熱交換可能とされることを
特徴とする熱交換器。
【請求項6】
前記請求項2に記載の熱交換器において、
前記熱交換部における前記第一流路の上側又は下側の少なくとも一方の開口部分のうち、前記第二流路における冷却用流体流入側の開口部分に近い所定範囲部分を覆って配設される、略箱状の不凝縮ガス収集部と、
当該不凝縮ガス収集部の内側領域に一方の開口端部を連通させると共に、前記シェルの外側に他方の開口端部を位置させて配設され、不凝縮ガス収集部に集まった不凝縮ガスをシェル外に排出可能とする略管状の不凝縮ガス排出部とを備えることを
特徴とする熱交換器。
【請求項7】
外部から流入する気相の高温流体と液相の低温流体とを伝熱性材料製の熱交換部を介して熱交換させ、気相の高温流体を凝縮させると共に、液相の低温流体を蒸発させる熱交換器において、
隔壁で外部から隔離された内部空間を有し、当該内部空間に外部から前記気相の高温流体を導入可能且つ内部空間から外部へ凝縮した液相の高温流体を取出し可能とされると共に、隔壁を貫通する低温流体流入出用流路を設けられる中空容器状のシェルを備え、
前記熱交換部が、複数並列状態とされた略矩形状金属薄板製の各熱交換用プレートを、所定の略平行をなす二端辺部位で隣合う一の熱交換用プレートと水密状態として溶接される一方、隣合う他の熱交換用プレートと前記二端辺と略直交する他の略平行な二端辺部位で水密状態として溶接されて全て一体化され、各熱交換用プレート間に高温流体の通る第一流路と低温流体の通る第二流路とをそれぞれ一つおきに生じさせ、且つ高温流体が流入出可能な前記第一流路の開口部分と低温流体が流入出可能な前記第二流路の開口部分とが直角をなす配置として形成され、
前記熱交換部が、前記シェルの内部空間に、前記第二流路の開口部分以外でシェル隔壁内面との間に所定の隙間を介在させ、且つ第一流路の開口部分を上下に位置させつつ、前記第二流路における低温流体流出側の開口部分が低温流体流入側の開口部分に対し上側となるように熱交換部全体を傾けて配設され、前記低温流体流入出用流路と前記第二流路の開口部分とを接続されて、低温流体流入出用流路を通じて流入する液相低温流体とシェル内部空間から流入する気相高温流体とを熱交換させることを
特徴とする熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハイブリッドサイクル方式の海洋温度差発電装置に適応して蒸気動力サイクルの蒸発器及び淡水化用の凝縮器として用いることのできる、熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
海洋における表層海水と深層海水の温度エネルギーを利用して発電を行う海洋温度差発電は、その実用化を強く期待されており、各国で研究開発が進められている。
この海洋温度差発電の方式としては、オープンサイクル、クローズドサイクル、ハイブリッドサイクルの三種類が広く知られている。このうち、ハイブリッドサイクルは、クローズドサイクル同様の低沸点媒体を作動流体とする蒸気動力サイクルを採用することで、オープンサイクルの場合のような特殊なタービンを用いずに済む点や、高温熱源として水蒸気を用いることで、クローズドサイクルの場合のように、作動流体の蒸発器において、高温熱源としての表層海水と蒸発器伝熱面とが接触することに伴う、伝熱面の生物汚れや海水による腐食の発生を懸念する必要がない点などの特長を有しており、また、蒸発器で作動流体との熱交換に使用された海水由来の水蒸気の凝縮した水を飲用等に使用できることから、海水淡水化を必要とする地域での実用化が望まれている。
【0003】
こうしたハイブリッドサイクルによる海洋温度差発電システムにおいて、作動流体を蒸発させる蒸発器は、海水を蒸発させた水蒸気と作動流体を熱交換させることで作動流体を蒸発させると同時に、水蒸気を凝縮させて凝縮液としての真水を得ており、海水淡水化装置の凝縮器を兼ねるものとなっている。
【0004】
こうした蒸発器と凝縮器を兼ねる熱交換器としては、従来、シェルアンドチューブ型の熱交換器を用いることが検討されていたが、海洋温度差発電システムでは各熱交換媒体間の温度差が小さいことで、熱交換器の規模を大きくすることが避けられないため、このような用途の熱交換器として、プレートを伝熱要素とすることでコンパクト化を図りやすいプレート式熱交換器や、その改良型の適用が提案されている。
こうした従来のプレート式の熱交換器の一例として、特許第3100371号公報に記載されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のプレート式の熱交換器は、前記特許文献に示されるようにプレートを主な構成要素とすることでコンパクトを図ることができるものであった。前記特許文献に示されるもののように、主に蒸発器として用いられる熱交換器の場合、作動流体側の流路では蒸発、すなわち液相から気相への相変化が生じているが、こうした従来の蒸発器は、蒸発が効率よく行われるようにした構成、すなわち、蒸発する作動流体の流路が上下方向に延びるものとなっている。
【0007】
こうした従来の蒸発器の、ハイブリッドサイクルの海洋温度差発電システムにおける作動流体蒸発用の蒸発器への適用を考えると、ハイブリッドサイクルのシステムにおいて作動流体を蒸発させる蒸発器は、同時に、水蒸気を凝縮させて真水の凝縮液を得ることとなり、この水蒸気側については凝縮器と見なせる。
【0008】
仮に、水蒸気側で凝縮が効率よく行われるように、前記特許文献に示される従来の蒸発器の水蒸気側(高温流体側)の流路が上下方向となるようにすると、従来の蒸発器は熱交換対象の流体同士が直交流をなす構成であることから、蒸発器における作動流体側の流路は横向きとなる。この場合、横向きに熱交換器に流入する液相の作動流体が熱交換で蒸発すると、蒸発後の気相の作動流体は液相の作動流体に対し上方に向かうようになることで、気相の作動流体が流路上部に滞留して熱交換器の外に出ない問題が生じやすく、滞留した気相分が液相の作動流体と伝熱面との接触を阻害して、作動流体の蒸発の効率が低下すると共に、滞留部分が熱抵抗となり、この部分で伝熱面を介した水蒸気との熱交換の効率が落ちることで、熱交換器全体として伝熱面を介した液相作動流体と水蒸気との熱交換もうまく進まず、目論み通りに凝縮の効率を高めることはできないという課題を有していた。
【0009】
また、前記従来の蒸発器において、一般的な蒸発器と同様に、蒸発が効率よく行われるように、蒸発する作動流体側の流路が上下方向となるようにすると、直交流をなす水蒸気側(高温流体側)の流路が横向きとなる。この場合、横向きに熱交換器に流入する水蒸気が熱交換で凝縮すると、凝縮後の凝縮液は気相の水蒸気に対し下方に向かうようになるのに伴い、水蒸気の凝縮した凝縮液が流路下部に集まって、横向きとなった開口から排出されにくくなり、内部に滞留して再蒸発したり、過冷液部として熱抵抗を発生させるといった問題が生じ、その分、水蒸気と作動流体との熱交換の効率が落ちることで、前記同様、熱交換器全体としての蒸発の効率を目論み通りに高めることはできないという課題を有していた。
【0010】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、プレートを組み合わせた熱交換部をシェル内に適切な向きで配設し、気相高温流体と液相低温流体との熱交換を確実に行わせるようにして、熱交換部で低温流体の蒸発と高温流体の凝縮を並行して効率よく進行させられる熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る熱交換器は、外部から流入する気相の高温流体と液相の低温流体とを伝熱性材料製の熱交換部を介して熱交換させ、気相の高温流体を凝縮させると共に、液相の低温流体を蒸発させる熱交換器において、隔壁で外部から隔離された内部空間を有し、当該内部空間に外部から前記気相の高温流体を導入可能且つ内部空間から外部へ凝縮した液相の高温流体を取出し可能とされると共に、隔壁を貫通する前記低温流体の流入出用流路を設けられる中空容器状のシェルを備え、前記気相の高温流体が、水蒸気であり、前記液相の低温流体が、蒸気動力サイクルの作動流体で液相のものであり、前記熱交換部が、複数並列状態とされた略矩形状金属薄板製の各熱交換用プレートを、所定の略平行をなす二端辺部位で隣合う一の熱交換用プレートと水密状態として溶接される一方、隣合う他の熱交換用プレートと前記二端辺と略直交する他の略平行な二端辺部位で水密状態として溶接されて全て一体化され、各熱交換用プレート間に前記水蒸気及び当該水蒸気の凝縮した凝縮水の通る第一流路と作動流体の通る第二流路とをそれぞれ一つおきに生じさせ、且つ水蒸気及び凝縮水が流入出可能な前記第一流路の開口部分と、作動流体が流入出可能な前記第二流路の開口部分とが、直角をなす配置として形成され、前記熱交換部が、前記シェルの内部空間に、前記第二流路の開口部分以外でシェル隔壁内面との間に所定の隙間を介在させ、且つ第一流路の開口部分を上下に位置させて配設され、前記流入出用流路と前記第二流路の開口部分とを接続されてなり、前記流入出用流路を通じて流入する液相の作動流体とシェル内部空間から流入する水蒸気とを熱交換させ、当該熱交換で、水蒸気を凝縮させて凝縮水としての真水を得る造水用凝縮器をなすと共に、液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体を得る蒸気動力サイクルの蒸発器をなすものである。
【0012】
このように本発明によれば、水蒸気と蒸気動力サイクルの作動流体とを熱交換させ、水蒸気を凝縮させて真水を得る淡水化用凝縮器と、液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体を得る蒸発器とを兼ねる熱交換器として、複数の略矩形状の熱交換用プレートを並列状態で一体化した熱交換部をシェル内に配設した構造を採用し、熱交換部をなす並列する各熱交換用プレート間には熱交換対象の水蒸気と作動流体の通る各流路を一つおきに生じさせて、これら各流路に水蒸気と作動流体とを熱交換用プレートを隔てて直交流となるように流通させ、作動流体を蒸発、水蒸気を凝縮させることにより、熱交換用プレートを介して水蒸気と作動流体との熱交換を行わせるようにして熱交換部を小型化でき、熱交換器を有する淡水化及び蒸気動力サイクルの機構が含まれるシステム全体の小型化やそれに伴う負荷軽減が図れる。また、熱交換部の並列する熱交換用プレート間の第一流路に水蒸気がシェルの内部空間から直線的にスムーズに進入でき、流路の圧力損失を抑えてスムーズに凝縮を進行させられ、凝縮水を流下させて効率よく取り出せる。さらに、水蒸気と熱交換用プレートとの接触とそれに伴う伝熱が滞りなくスムーズに生じることで、この水蒸気と、プレートを隔てた第二流路に流入した液相の作動流体との熱交換も無理なく進行させられ、作動流体を効率よく蒸発させられる。
【0013】
また、本発明に係る熱交換器は必要に応じて、前記熱交換部が、前記シェル内部空間に、前記第二流路における作動流体流出側の開口部分が作動流体流入側の開口部分に対し上側となるように熱交換部全体を傾けて配設されるものである。
【0014】
このように本発明によれば、シェル内部空間に熱交換部を傾けた状態で配設して、液相作動流体を熱交換部の第二流路に流入させ、水蒸気との熱交換によりこの第二流路で蒸発させると、発生する気相作動流体の上方に進もうとする性質に伴い、第二流路上部に向かうと共に開口部分の方へ進むことにより、気相作動流体が第二流路の開口部分上部から外部に流出可能となり、気相作動流体が第二流路を上昇する動きが続いても作動流体が第二流路の上部に滞留せず、溜まった気相作動流体が液相作動流体と熱交換用プレート表面との接触を妨げて液相作動流体と水蒸気との熱交換及び作動流体の蒸発がスムーズに行われない状態となるのを確実に防ぐことができ、熱交換器で効率よく作動流体の蒸発と水蒸気の凝縮を行わせることができる。
【0015】
また、第一流路で水蒸気の凝縮した水が熱交換部を傾けた側に寄り集まり、開口部分の最も下寄りとなった所定範囲から熱交換部外へ流下することとなり、凝縮した水を受けてシェル外部に導く水回収部を小さくして熱交換器のコンパクト化が図れる。
【0016】
また、本発明に係る熱交換器は必要に応じて、前記シェルの内部空間に連通する蒸発用空間を内部に有し、当該蒸発用空間を大気圧より低い減圧状態とされる中空の減圧容器と、当該減圧容器内に配設され、減圧容器の内部空間に外部から導入された海水を噴射する噴射部と、少なくとも前記減圧容器の蒸発用空間に連通させて配設され、前記蒸発用空間及びシェルの内部空間を前記海水の飽和蒸気圧より低い圧力に調整する減圧装置とを備え、前記減圧容器の蒸発用空間で噴射部から噴射された海水をフラッシュ蒸発させ、蒸発で得られた水蒸気を前記熱交換部で凝縮させるものである。
【0017】
このように本発明によれば、シェルの内部空間に連通する減圧容器の蒸発用空間に海水を噴射する噴射部を設け、噴射部から海水を霧状、水滴状、水膜状、又は水柱状、等となるように噴射すると共に、蒸発用空間を減圧装置で減圧状態として、海水を蒸発用空間でフラッシュ蒸発させ、得られた水蒸気をシェルの内部空間に導いて熱交換部で凝縮するようにし、海水から蒸発させた水蒸気を継続的に熱交換部に導入することにより、効率良く海水淡水化が行えると共に、減圧容器内圧力を下げる減圧装置以外の蒸発・凝縮に係るエネルギー消費を抑えられることとなり、低コストで淡水を得ることができる。さらに、蒸発させる海水を所定の排熱を回収したものとすれば、熱交換器での作動流体との温度差に相当する熱エネルギーを蒸気動力サイクルで回収でき、凝縮水の収量を確保しつつ排熱を有効利用でき、エネルギーの利用効率を高められる。
【0018】
また、本発明に係る熱交換器は必要に応じて、前記減圧容器が、シェルの下側にシェルと一体に配設され、減圧容器の蒸発用空間とシェルの内部空間とを隔てる隔壁の一部が、蒸発用空間からシェルの内部空間への気体の移動は許容しつつ、蒸発用空間に存在する液体の海水がシェルの内部空間へ進行するのを阻止するミスト除去部とされるものである。
【0019】
このように本発明によれば、減圧容器をシェルと一体化してシェルの内部空間と蒸発用空間を近接させ、蒸発用空間で生じた水蒸気が速やかにシェルの内部空間を経て熱交換部の第一流路に流入させられることにより、熱交換部へ移動する水蒸気の圧力損失を小さくして、水蒸気の温度低下とそれに伴う熱交換性能低下を阻止でき、効率よく水蒸気の凝縮と作動流体の蒸発を進められる。また、蒸発用空間とシェルの内部空間とをミスト除去部で分離して、水蒸気のシェル内部空間への進行は許容しつつ、海水が蒸発用空間からシェル内部空間へ進むのを防ぐことで、海水が存在する蒸発用空間をシェル内部空間に近い配置としていても、誤って海水の成分が熱交換部へ流入することはなく、熱交換部の汚染や腐食を確実に防止してメンテナンス頻度を抑えられる。
【0020】
また、本発明に係る熱交換器は必要に応じて、前記蒸気動力サイクルの作動流体循環流路における液相作動流体の液面位置が、前記熱交換部より上側に設定され、熱交換部の第二流路全域に液相の作動流体が存在して、熱交換部の熱交換用プレートを介して第一流路の水蒸気と熱交換可能とされるものである。
【0021】
このように本発明によれば、蒸気動力サイクルの作動流体流路における液相作動流体の液面位置を調整して、液相作動流体の液面を熱交換部より上側とし、作動流体を水蒸気との熱交換により第二流路で蒸発させると、発生する気相作動流体が気泡として上方に進みながら、蒸発していない液相作動流体中を第二流路の開口部分の方へ進み、開口部分から外部に流出することにより、気相作動流体が第二流路を上昇する動きが続いても作動流体が第二流路の上部に滞留せず、溜まった気相作動流体が液相作動流体と熱交換用プレート表面との接触を妨げて液相作動流体と水蒸気との熱交換及び作動流体の蒸発がスムーズに行われない状態となるのを確実に防ぐことができ、熱交換器で効率よく作動流体の蒸発と水蒸気の凝縮を行わせることができる。
【0022】
また、本発明に係る熱交換器は必要に応じて、前記熱交換部における前記第一流路の上側又は下側の少なくとも一方の開口部分のうち、前記第二流路における冷却用流体流入側の開口部分に近い所定範囲部分を覆って配設される、略箱状の不凝縮ガス収集部と、当該不凝縮ガス収集部の内側領域に一方の開口端部を連通させると共に、前記シェルの外側に他方の開口端部を位置させて配設され、不凝縮ガス収集部に集まった不凝縮ガスをシェル外に排出可能とする略管状の不凝縮ガス排出部とを備えるものである。
【0023】
このように本発明によれば、第一流路における第二流路入口近くの低温で凝縮が進行しやすく、蒸気に含まれていた不凝縮ガスが滞留しやすい領域に沿って、不凝縮ガス収集部を設けて、不凝縮ガス排出部を接続し、これら不凝縮ガス収集部と不凝縮ガス排出部を通じて不凝縮ガスを流路の外に排出可能とすることで、滞留した不凝縮ガスを不凝縮ガス収集部に引き寄せて第一流路から外部に排除でき、第一流路に溜まった不凝縮ガスが水蒸気と熱交換用プレートとの接触を妨げて凝縮が進まない状態となるのを防ぐことができ、効率よく凝縮を行わせることができる
【0024】
また、本発明に係る熱交換器は、外部から流入する気相の高温流体と液相の低温流体とを伝熱性材料製の熱交換部を介して熱交換させ、気相の高温流体を凝縮させると共に、液相の低温流体を蒸発させる熱交換器において、隔壁で外部から隔離された内部空間を有し、当該内部空間に外部から前記気相の高温流体を導入可能且つ内部空間から外部へ凝縮した液相の高温流体を取出し可能とされると共に、隔壁を貫通する低温流体流入出用流路を設けられる中空容器状のシェルを備え、前記熱交換部が、複数並列状態とされた略矩形状金属薄板製の各熱交換用プレートを、所定の略平行をなす二端辺部位で隣合う一の熱交換用プレートと水密状態として溶接される一方、隣合う他の熱交換用プレートと前記二端辺と略直交する他の略平行な二端辺部位で水密状態として溶接されて全て一体化され、各熱交換用プレート間に高温流体の通る第一流路と低温流体の通る第二流路とをそれぞれ一つおきに生じさせ、且つ高温流体が流入出可能な前記第一流路の開口部分と低温流体が流入出可能な前記第二流路の開口部分とが直角をなす配置として形成され、前記熱交換部が、前記シェルの内部空間に、前記第二流路の開口部分以外でシェル隔壁内面との間に所定の隙間を介在させ、且つ第一流路の開口部分を上下に位置させつつ、前記第二流路における低温流体流出側の開口部分が低温流体流入側の開口部分に対し上側となるように熱交換部全体を傾けて配設され、前記低温流体流入出用流路と前記第二流路の開口部分とを接続されて、低温流体流入出用流路を通じて流入する液相低温流体とシェル内部空間から流入する気相高温流体とを熱交換させるものである。
【0025】
このように本発明によれば、複数の略矩形状の熱交換用プレートを並列状態で一体化した熱交換部をシェル内部空間に傾けた状態で配設し、熱交換部をなす並列する各熱交換用プレート間には熱交換対象の気相の高温流体と液相の低温流体の通る第一と第二の各流路を一つおきに生じさせて、これら各流路に高温流体と低温流体とを熱交換用プレートを隔てて直交流となるように流通させ、気相の高温流体を凝縮させると共に、液相の低温流体を蒸発させることにより、熱交換用プレートを介して高温流体と低温流体との熱交換を行わせるようにして熱交換部を小型化でき、熱交換器を含むシステム全体の小型化やそれに伴う負荷軽減が図れる。また、傾けた状態の熱交換部に対し、液相低温流体を熱交換部の第二流路に流入させ、高温流体との熱交換によりこの第二流路で蒸発させると、発生する気相低温流体が、その上方に進もうとする性質に伴い、第二流路上部に向かうと共に第二流路開口部分の方へ進むことで、気相低温流体が第二流路の開口部分上部から外部に流出可能となり、気相低温流体が第二流路を上昇する動きが続いても低温流体が第二流路の上部に滞留せず、溜まった気相低温流体が液相低温流体と熱交換用プレート表面との接触を妨げて液相低温流体と気相高温流体との熱交換及び液相低温流体の蒸発がスムーズに行われない状態となるのを確実に防ぐことができ、熱交換器で効率よく液相低温流体の蒸発と気相高温流体の凝縮を行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る熱交換器の正面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る熱交換器における熱交換部の概略構成説明図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る熱交換器を適用する海洋温度差発電システムの概略説明図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る熱交換器の縦断面図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係る熱交換器の縦断面図である。
【
図6】本発明の第3の実施形態に係る熱交換器の正面図である。
【
図7】本発明の第3の実施形態に係る熱交換器における熱交換部及び不凝縮ガス収集部の概略斜視図である。
【
図8】本発明の第3の実施形態に係る熱交換器における他の熱交換部及び不凝縮ガス収集部の概略斜視図である。
【
図9】本発明の第4の実施形態に係る熱交換器における熱交換部及び不凝縮ガス収集部の概略正面図である。
【
図10】本発明の第4の実施形態に係る熱交換器における不凝縮ガス収集部の一部切欠斜視図である。
【
図11】本発明の第4の実施形態に係る熱交換器における不凝縮ガス収集部の熱交換用プレートへの取付状態説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態を
図1ないし
図4に基づいて説明する。本実施形態では、ハイブリッドサイクル方式の海洋温度差発電システムに適用した例について説明する。
【0028】
前記各図において本実施形態に係る熱交換器10は、複数の略矩形状金属薄板製の各熱交換用プレート15を並列状態で一体化して形成され、外部から流入する気相の高温流体と液相の低温流体とを熱交換させる熱交換部11と、隔壁で外部から隔離された内部空間を有し、この内部空間に熱交換部11を収める状態で配設される中空容器状のシェル12とを備える構成である。
【0029】
前記熱交換部11は、シェル12の内部空間に配設され、外部から流入する高温流体としての蒸気と低温流体としての液相の作動流体とを熱交換させ、蒸気を凝縮させて凝縮液を得ると共に、液相の作動流体の少なくとも一部を蒸発させて気相作動流体を得るものである。
【0030】
この熱交換部11は、複数並列状態とされた略矩形状金属薄板製の各熱交換用プレート15を、所定の略平行をなす二端辺部位で隣合う一の熱交換用プレートと水密状態として溶接される一方、隣合う他の熱交換用プレートと前記二端辺と略直交する他の略平行な二端辺部位で水密状態として溶接されて、全て一体化されて形成される構成である(
図2参照)。
【0031】
そして、熱交換部11は、各熱交換用プレート15間に、前記蒸気及びこの蒸気の凝縮した凝縮液の通る第一流路15bと、前記作動流体の通る第二流路15cとをそれぞれ一つおきに生じさせ、且つ蒸気及び凝縮液が流入出可能な前記第一流路15bの開口部分と、作動流体が流入出可能な前記第二流路15cの開口部分とが、直角をなす配置とされる構成である。すなわち、熱交換部11は、前記各第一流路15bを通る蒸気と前記各第二流路15cを通る作動流体とが直交流をなす、いわゆるクロスフロー型熱交換器の構造を採ることとなる。
【0032】
加えて、熱交換部11は、シェル12の内部空間に、第二流路15cにおける作動流体流出側の開口部分が作動流体流入側の開口部分に対し上側となるように熱交換部全体を傾けて配設される。
【0033】
なお、熱交換部11を傾けて配設するにあたっては、シェル12に対し熱交換部11を傾けた状態で取り付ける態様(
図1参照)に限られるものではなく、熱交換部を内部に配設したシェルを傾けて設置することで、シェルと一体の熱交換部が傾いた状態を得るようにしてもかまわない。
【0034】
前記シェル12は、外部から隔離された内部空間を有する中空容器状に形成され、内部空間に外部から蒸気を導入可能且つ内部空間から外部へ凝縮液を取出し可能とされると共に、隔壁を貫通する作動流体の流入出用流路を設けられる構成である。
【0035】
このシェル12内に傾けて収められる熱交換部11が、作動流体の流入出用流路と第二流路15cの開口部分とを接続されると共に、この第二流路15cの開口部分以外でシェル隔壁内面との間に所定の隙間を介在させ、且つ第一流路15bの開口部分を上下に向けるように配置され、流入出用流路を通じて各第二流路15cに流入する作動流体と、シェル内部空間から各第一流路15bに流入する蒸気とを熱交換させることとなる。
【0036】
この他、シェル12の内部空間には、傾けて配設される熱交換部11から凝縮液が偏って流下するのに対応して、凝縮液を受ける水回収部12bがシェル12の側面寄りに設けられる。
【0037】
また、シェル12の外側には、熱交換部11の各第二流路15cに前記流入出用流路を通じて作動流体を流入出させる、蒸気動力サイクルの作動流体循環流路をなす管路13が接続される構成である。さらに、このシェル12の外側には、熱交換部11から流下してシェル12内部空間に達し、最終的にシェル外に排出される凝縮液を回収する貯留部19も接続される。
【0038】
本実施形態に係る熱交換器10を適用する海洋温度差発電システム1は、作動流体の得た熱エネルギーを動力に変換する蒸気動力サイクル部50と、この蒸気動力サイクル部50で熱エネルギーから変換された動力を利用して発電を行う発電装置55と、海水の一部を蒸発させて水蒸気を得るフラッシュ蒸発器61とを備える構成である。
【0039】
前記熱交換器10は、前記フラッシュ蒸発器61で生じさせた表層海水由来の水蒸気を前記高温流体として供給され、シェル12内部空間を経て流入する水蒸気と、シェル12の流入出用流路を通じて流入する液相の作動流体とを熱交換部11で熱交換させることで、水蒸気を凝縮させて凝縮水としての真水を得る造水用(海水淡水化用)凝縮器をなすと共に、液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体を得る蒸気動力サイクル部50の蒸発器をなすものである。
【0040】
前記蒸気動力サイクル部50は、例えばアンモニア等の低沸点媒体からなる作動流体と前記高温流体としての水蒸気とを熱交換させ、作動流体を蒸発させて気相の作動流体を得る蒸発器としての熱交換器10と、気相の作動流体を導入されて作動し、作動流体の保有する熱エネルギーを動力に変換するタービン52と、このタービン52を出た気相の作動流体を深層海水等の所定の冷却用流体と熱交換させることで凝縮させて液相とする凝縮器53と、凝縮器53から取出された液相作動流体を蒸発器31に送込むポンプ54とを備える構成である。このうち、タービン52及びポンプ54については、一般的な蒸気動力サイクルで用いられるのと同様の公知の装置であり、説明を省略する。
【0041】
前記発電装置55は、蒸気動力サイクル部50で熱エネルギーから変換された動力を利用して発電を行う、具体的には、タービン52により駆動されて発電を行うものである。この発電装置55は、公知のタービンを駆動源とする発電に用いられるのと同様のものであり、詳細な説明を省略する。これら蒸気動力サイクル部50と発電装置55とで、蒸気動力サイクルで発電を行う温度差発電装置が構成される。
【0042】
前記フラッシュ蒸発器61は、熱交換器10のシェル12の内部空間に連通する蒸発用空間を内部に有し、この蒸発用空間を大気圧より低い減圧状態とされる中空の減圧容器61aと、この減圧容器61a内に配設され、減圧容器61aの蒸発用空間に外部から導入された海水を霧状、水滴状、水膜状、又は水柱状、等となるように噴射する噴射部61bとを備え、噴射部61bから噴射された海水を減圧容器61a内の蒸発用空間でフラッシュ蒸発させて水蒸気を得る構成である。
【0043】
このフラッシュ蒸発器61の減圧容器61aが、熱交換器10のシェル12と連通することで、フラッシュ蒸発器61で生じた水蒸気をシェル12の内部空間に導入可能とされる。
【0044】
また、熱交換器10のシェル12には、減圧排気装置16が管路等を通じて接続され、シェル12の内部空間及びこれに連通するフラッシュ蒸発器61の減圧容器61aにおける蒸発用空間を、減圧容器61a内で蒸発させようとする海水と同温度における水の飽和蒸気圧より低い圧力に調整し、減圧容器61a内で海水中の水分が液相から気相に変化する(蒸発する)温度、及び、シェル12内の熱交換部11で蒸気の気相から液相に変化する(凝縮する)温度をそれぞれ大気圧における各温度に比べて低くなるよう維持する仕組みとされる。
【0045】
これにより減圧容器61a内に導入された海水の一部が液相から気相に変化すると共に、液相で残った海水の温度が低下する仕組みである。この減圧容器61a内で蒸発しなかった分の海水は、減圧容器61aから排水されて海へ排出されることとなる。
【0046】
フラッシュ蒸発器61に導入して蒸発させる海水は、例えば海洋表層の温海水とされ、海から取水した海水をいったん脱気装置(図示を省略)に導いて、海水中の空気を除去した後、フラッシュ蒸発器61に導くようにされる。
【0047】
以上のような、海水を減圧容器61a内でフラッシュ蒸発させて水蒸気を得るフラッシュ蒸発器61と、このフラッシュ蒸発器61で蒸発させた水蒸気を凝縮させる熱交換器10とを組み合わせたものが、海水から塩分を含まない真水を得る海水淡水化装置60をなすこととなる。
【0048】
次に、前記構成に基づく熱交換器の作動状態について説明する。前提として、熱交換器10を含む海洋温度差発電システム1の蒸気動力サイクル部50と海水淡水化装置60とがいずれも作動状態にあり、熱交換器10で水蒸気と作動流体との熱交換が継続的に行われているものとする。
【0049】
熱交換器10では、シェル内の熱交換部11における第一流路15bに高温流体としての海水由来の水蒸気を流通させると共に、熱交換部11の第二流路15cに低温流体としての蒸気動力サイクル部50の液相作動流体を流通させ、これら各第一流路15bを通る水蒸気と各第二流路15cを通る作動流体とを熱交換させる。
【0050】
ここで、作動流体の通る第二流路15cに着目すると、シェル12の流入出用流路を通じて熱交換部11の各第二流路15cに流入する液相の作動流体は、熱交換用プレート15を介して第一流路15bの水蒸気と熱交換し、一部が蒸発する。作動流体が第二流路15cで蒸発すると、気泡として発生する気相作動流体は、液相作動流体中でその上方に進もうとする性質に伴い、傾けて設置した熱交換部11の第二流路15c上部に向かうと共に、上寄りに位置する第二流路15cの流出側の開口部分の方へ進むこととなる。
【0051】
このように、第二流路15cにおける作動流体流出側の開口部分が上部に位置するように熱交換部11を傾けて配設していることで、蒸発の進行で気相作動流体が第二流路15cを上昇する状況が続いても、気相作動流体は第二流路15cの開口部分上部から第二流路15cの外に抜け出すことができ、気相作動流体が第二流路15cの上部に滞留するようなことはない。
【0052】
このため、従来の蒸発器をその作動流体流路を単に横向きとして設けた場合のように、熱交換で液相の作動流体が蒸発すると、蒸発後の気相の作動流体が流路の外に出ずに流路上部に滞留し、滞留した気相作動流体が液相の作動流体と熱交換用プレート表面との接触を妨げることで、作動流体と水蒸気との熱交換の効率が低下する、といった状態となるのを防止できる。
【0053】
こうして、熱交換器10が液相の作動流体を水蒸気と熱交換させ、作動流体を昇温、蒸発させるのに続いて、蒸気動力サイクル部50側では、熱交換器10で蒸発して気相となった作動流体が、タービン52を作動させ、このタービン52により発電装置55が駆動されて発電を行う。タービン52を出た作動流体は凝縮器53に導入され、これとは別に凝縮器53内に導入された冷却用流体との熱交換により凝縮され、液相となる。液相の作動流体はポンプ54による加圧を経て熱交換器10内に戻り、さらに蒸発以降の各過程を繰返すこととなる。
【0054】
一方、海水淡水化装置60側では、まず、海から取水された海水が、いったん脱気装置(図示を省略)に導かれ、海水中の空気を除去された後、フラッシュ蒸発器61に導入される。
【0055】
海水は、フラッシュ蒸発器61の減圧容器61a内で、噴射部61bから霧状、水滴状、水膜状、又は水柱状、等となるように減圧容器61a内の空間に噴射される。約10~60mmHg程度まで圧力を低くされた減圧容器61a内で、海水中の水分の大部分がフラッシュ蒸発により不純物を含まない気相の水、すなわち水蒸気に相変化し、同時に海水の温度は降下する。
水分の蒸発により得られた水蒸気は、周囲のガスと共に減圧容器61a内を進み、液分(ミスト)と分離された状態で熱交換器10に到達する。
【0056】
熱交換器10では、水蒸気がシェル12の上部の開口から内部空間に進入する。そして、水蒸気は、シェル12の内部空間を進んで熱交換部11の第一流路15bにおける上下の開口部分から流入する。すなわち、水蒸気は、シェル12の内部空間から熱交換部11における第一流路15bの上側の開口部分から第一流路15bに流入して、第一流路15bを下向きに進みながら、熱交換用プレート15を介して作動流体と熱交換して、第一流路15bに面する熱交換用プレート15表面で凝縮し、液相の水となる。また、水蒸気は、シェル12の内部空間を下方に進んで熱交換部11の横を通り、熱交換部11の下に達した後、上向きに転じて熱交換部11における第一流路15bの下側の開口部分からも第一流路15bに流入し、第一流路15bを上向きに進みながら、熱交換用プレート15を介して作動流体と熱交換して、第一流路15bに面する熱交換用プレート15表面で凝縮し、液相の水となる。
【0057】
こうして上下の開口部分から第一流路15bに流入した水蒸気が、熱交換部11内部を進みながら、熱交換用プレート15を介して作動流体と熱交換して凝縮する中、特に下側の開口部分から流入した水蒸気が速やかに熱交換用プレート15の下部に接触できることで、水蒸気の熱交換用プレート15各部との接触に伴う熱交換がスムーズに進んで、熱交換器内部へ向って流れる未凝縮の水蒸気を順次凝縮させられる。
【0058】
熱交換用プレート15表面で凝縮した水分は、流下して熱交換部11における第一流路15bの下側の開口部分に向かうが、熱交換部11を傾けて配設していることで、第一流路15bで水蒸気の凝縮した水が、下側となった熱交換部11における第二流路15cの流入側開口部分の側に熱交換用プレート15表面を流れて寄り集まり、第一流路15bの下側開口部分の最も下寄りとなった一部範囲から熱交換部11外へ流下することとなる。
【0059】
これにより、シェル12の内部空間に凝縮した水を受けて外部に導く水回収部12bを設ける場合、こうした水回収部12bを第一流路15bの下側開口部分における凝縮水の流下しうる一部範囲に対応する程度に小さくすることができ、熱交換器のコンパクト化が図れる。
熱交換部11から流下した水は、シェル12の外に出て貯溜部19内に集められ、まとまった量の水として外部に送出される。
【0060】
このように、本実施形態に係る熱交換器においては、水蒸気と蒸気動力サイクルの作動流体とを熱交換させ、水蒸気を凝縮させて真水を得る凝縮器と、液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体を得る蒸発器とを兼ねる熱交換器10として、複数の略矩形状の熱交換用プレート15を並列状態で一体化した熱交換部11をシェル12内に配設した構造を採用し、熱交換部11をなす並列する各熱交換用プレート15間には熱交換対象の水蒸気と作動流体の通る各流路を一つおきに生じさせて、これら各流路に水蒸気と作動流体とを熱交換用プレートを隔てて直交流となるように流通させ、作動流体を蒸発、水蒸気を凝縮させることから、熱交換用プレート15を介して水蒸気と作動流体との熱交換を行わせるようにして熱交換部11を小型化でき、熱交換器10を有する淡水化及び蒸気動力サイクルの機構が含まれるシステム全体の小型化やそれに伴う負荷軽減が図れる。また、熱交換部11の並列する熱交換用プレート15間の第一流路15bに水蒸気がシェル12の内部空間から直線的にスムーズに進入でき、流路の圧力損失を抑えてスムーズに凝縮を進行させられ、凝縮水を流下させて効率よく取り出せる。さらに、水蒸気と熱交換用プレート15との接触とそれに伴う伝熱が滞りなくスムーズに生じることで、この水蒸気と、プレートを隔てた第二流路15cに流入した液相の作動流体との熱交換も無理なく進行させられ、作動流体を効率よく蒸発させられる。
【0061】
なお、前記実施形態に係る熱交換器において、熱交換部11の第二流路15cで液相作動流体の蒸発を行わせて気相の作動流体を得ると、この熱交換器10で液相作動流体と気相作動流体とを分離して、出口側の作動流体流路には気相作動流体のみを流出させる、すなわち、液相作動流体の到達限界としての液面位置を熱交換部11内にとどめる構成としているが、この他、蒸気動力サイクルにおける熱交換器の後段側に気液分離器を設けて、この気液分離器で液相作動流体と気相作動流体とを分離可能とした上で、蒸気動力サイクルの作動流体流路における液相作動流体の液面位置を調整して、液相作動流体の液面を熱交換部より上側に位置させる構成とすることもできる。
【0062】
この場合、作動流体を水蒸気との熱交換により第二流路で蒸発させると、発生する気相作動流体が気泡として上方に進みながら、蒸発していない液相作動流体と共に第二流路の開口部分の方へ進み、開口部分から外部に流出することとなり、気相作動流体が第二流路を上昇する動きが続いても作動流体が第二流路の上部に滞留せず、溜まった気相作動流体が液相作動流体と熱交換用プレート表面との接触を妨げて液相作動流体と水蒸気との熱交換及び作動流体の蒸発がスムーズに行われない状態となるのを確実に防ぐことができ、熱交換器で効率よく作動流体の蒸発と水蒸気の凝縮を行わせることができる。
【0063】
そして、このように液面位置を熱交換器の熱交換部より上側とする場合は、前記実施形態のようにシェルの内部空間に熱交換部を傾けて配設する必要はなく、熱交換部の第二流路における作動流体流出側の開口部分と作動流体流入側の開口部分との上下方向における位置を同じにしてもかまわない。
【0064】
また、前記実施形態に係る熱交換器においては、ハイブリッドサイクル方式の海洋温度差発電システムに適用して、海水由来の水蒸気と作動流体とを熱交換させ、水蒸気を凝縮させて真水を得る凝縮器の役割と共に、液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体を得る蒸発器の役割を与えられる構成としているが、これに限らず、他の気相の高温流体と液相の低温流体とを熱交換させ、気相の高温流体を凝縮させると共に、液相の低温流体を蒸発させる熱交換器とすることもできる。
【0065】
(本発明の第2の実施形態)
前記第1の実施形態に係る熱交換器においては、フラッシュ蒸発器61と組み合わせて海水淡水化装置60をなすようにし、シェル12の内部空間をフラッシュ蒸発器61の減圧容器61aと連通させる構成としているが、これに限らず、
図5に示すように、熱交換器20のシェル22が所定の大きさとされて、シェル22がフラッシュ蒸発器の減圧容器を兼ねてフラッシュ蒸発器65の噴射部65bや海水の導入流路等を熱交換部21と共に収容して、海水淡水化装置の蒸発部分と凝縮部分が共通のシェル内に一まとめに配設される構成とすることもできる。
【0066】
この場合、フラッシュ蒸発器65は、内部空間を大気圧以下に減圧される減圧容器を兼ねる熱交換器20のシェル22と、このシェル22内に配設される海水噴射用の噴射部65bと、シェル22内を熱交換部21へ向う蒸気流の中に混じった海水の微細水滴(ミスト)を捕捉して取除くミスト除去部65cとを備えるものとなる。このフラッシュ蒸発器65では、海水が噴射部65bに導かれ、シェル22の内部空間へ上向きに噴射される。シェル22内は、前記実施形態同様、噴射部65bから噴射される海水と同温度における水の飽和蒸気圧以下の圧力に減圧排気装置(図示を省略)により減圧されている。
【0067】
海水は、シェル22内に配置された多数の噴射部65bから上向きに霧状、水滴状、水膜状、又は水柱状、等となるように噴射され、水分の一部はフラッシュ蒸発により水蒸気に相変化し、同時に海水の温度は降下する。水分の蒸発により得られた水蒸気はミスト除去部65cを通り、同じシェル22内の熱交換部21に流入する。シェル22内に蒸発部分と凝縮部分が一体に収容されていることで、蒸発側から凝縮側へ向う水蒸気の流れにおける圧力損失を小さくできる。
【0068】
このように、本実施形態に係る熱交換器においては、熱交換器20のシェル22内にフラッシュ蒸発器65をなす各部と熱交換部21が収容されて蒸発器と凝縮器とが一体に配設され、フラッシュ蒸発器65で得られた水蒸気がそのまま熱交換部21に進入可能となることから、減圧した圧力を維持しやすく確実に水蒸気を気相で熱交換部21に到達させて凝縮させられることとなり、シェル22内でスムーズに蒸発から凝縮までの一連の過程を進ませられ、凝縮に係る効率を高められると共に、シェル22内からの排気をそのまま減圧排気装置に導いて排出できるなど、装置全体をシンプル且つコンパクトな構造として低コスト化も図れる。
【0069】
(本発明の第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態を
図6及び
図7に基づいて説明する。
前記各図において本実施形態に係る熱交換器は、前記第1の実施形態同様、熱交換部11と、シェル12とを備える一方、異なる点として、熱交換部11における第一流路15bの開口部分における所定範囲部分を覆って配設される略箱状の不凝縮ガス収集部17と、この不凝縮ガス収集部17の内側領域に連通して、不凝縮ガスをシェル12外に排出可能とする略管状の不凝縮ガス排出部18とをさらに備える構成を有するものである。
【0070】
前記不凝縮ガス収集部17は、一部開放状態とした略箱状体で形成され、熱交換部11における第一流路15bの上側又は下側の少なくとも一方の開口部分のうち、第二流路15cにおける作動流体流入側の開口部分に近い所定範囲部分を覆って配設される構成である。
【0071】
前記不凝縮ガス排出部18は、略管状に形成され、前記不凝縮ガス収集部17の内側領域に一方の開口端部を連通させると共に、前記シェル12の外側に他方の開口端部を位置させて配設される構成であり、この他方の開口端部に減圧装置(図示を省略)を接続されて、不凝縮ガス収集部17に集まった不凝縮ガスをシェル12外に排出可能とするものである。
【0072】
次に、前記構成に基づく熱交換器における不凝縮ガスの除去について説明する。前提として、前記第1の実施形態同様、海から取水された海水が、いったん脱気装置(図示を省略)に導かれ、海水中の空気を除去された後、フラッシュ蒸発器61に導入され、減圧されたフラッシュ蒸発器61の減圧容器61a内の空間に噴射された海水中の水分の大部分がフラッシュ蒸発により蒸気となって、この蒸気が熱交換器10に流入するものとする。
【0073】
熱交換器10では、前記第1の実施形態同様、蒸気がシェル12の上部の開口から内部空間に進入する。そして、蒸気は、シェル12の内部空間を進んで熱交換部11の第一流路15bにおける上下の開口部分から流入する。
【0074】
蒸気のうち、上側の開口部分から第一流路15bに流入した蒸気は、第一流路15bを下向きに進みながら、熱交換用プレート15を介して作動流体と熱交換して、第一流路15bに面する熱交換用プレート15表面で凝縮し、液相の水となる。また、下側の開口部分から第一流路15bに流入した蒸気は、第一流路15bを上向きに進みながら、熱交換用プレート15を介して作動流体と熱交換して、第一流路15bに面する熱交換用プレート15表面で凝縮し、液相の水となる。
【0075】
蒸気が凝縮すると、蒸気と共に第一流路15bに流入していた不凝縮ガスが、凝縮し液相となった水と分離する。この不凝縮ガスは、通常は第一流路15bの外に自然に出て、シェル12の内部空間を経て減圧排気装置16でシェル12外に排出される。しかし、熱交換部11の第一流路15bのうち、熱交換用プレートを隔てた第二流路15cにおける作動流体流入側の開口部分に近い部分では、第二流路15c側の作動流体の温度が他部より低いことで、蒸気の凝縮が進みやすく、分離する不凝縮ガスの量も多くなる。こうして不凝縮ガスが多くなることで、この部分では不凝縮ガスの排出が滞って滞留状態になりやすく、そのままでは、溜まった不凝縮ガスが蒸気と熱交換用プレート15との接触を妨げて蒸気の凝縮が進まない状態となりかねない。
【0076】
これに対し、熱交換部11における第一流路15bの上側の開口部分のうち、第二流路15cにおける作動流体流入側の開口部分に近い所定範囲部分を覆うように不凝縮ガス収集部17を配設して、この不凝縮ガス収集部17と不凝縮ガス排出部18を通じて不凝縮ガスを第一流路15bから吸引して、滞留した不凝縮ガスを除去でき、第一流路15bにおける蒸気と熱交換用プレート表面との接触、熱交換による蒸気の凝縮を、不凝縮ガスに妨げられることなく継続させられる。
【0077】
このように、本実施形態に係る熱交換器においては、第一流路15bにおける第二流路入口近くの低温で凝縮が進行しやすく、蒸気に含まれていた不凝縮ガスが滞留しやすい領域に沿って、不凝縮ガス収集部17を設けると共に、この不凝縮ガス収集部17に不凝縮ガス排出部18を接続し、これら不凝縮ガス収集部17と不凝縮ガス排出部18を通じて不凝縮ガスを第一流路15bからシェル外部に排出可能とすることから、第一流路15bの一部に滞留した不凝縮ガスを不凝縮ガス収集部17に引き寄せて除去でき、第一流路15bに溜まった不凝縮ガスが蒸気と熱交換用プレート15との接触を妨げて蒸気の凝縮が進まない状態となるのを適切に防いで、効率よく凝縮を行わせることができる。
【0078】
なお、前記実施形態に係る熱交換器においては、不凝縮ガス収集部を上側の開口部分に設けるようにしているが、熱交換部11の第一流路15bのうち、第二流路15cにおける作動流体流入側の開口部分に近い所定範囲部分に対応する開口部分であれば、
図8に示すように、不凝縮ガス収集部17を下側に設けるようにしてもかまわない。
【0079】
(本発明の第4の実施形態)
前記第3の実施形態に係る熱交換器においては、不凝縮ガス収集部を箱状に形成して開口部分の一部を覆うように配設する構成としているが、この他、
図9ないし
図11に示すように、不凝縮ガス収集部17の端部を、突出する凸部17bが歯型状に複数並ぶ形状とし、この端部の凸部17bを第一流路15bに所定深さまで挿入すると共に、第一流路15bを挟む各熱交換用プレート15に固定して、第一流路の開口部分寄り部位をシェルの内部空間に通じる部分と前記不凝縮ガス収集部17に通じる部分とに分ける隔壁として機能させる構成とすることもできる。
【0080】
この場合、不凝縮ガス収集部17の端部が隔壁として第一流路15bを区画し、仮に蒸気が第一流路開口部分における不凝縮ガス収集部17に近い位置に流入しても、隔壁部分で不凝縮ガス収集部17の方へ進むのを阻止されることから、開口部分に流入した蒸気が不凝縮ガス収集部17へ向かわずにそのまま第一流路15bを奥まで進む状態として、蒸気の不凝縮ガス収集部17への流入を抑制できることとなり、不凝縮ガス収集部17を通じて誤って蒸気が排出されるのを防いで、蒸気をもれなく確実に凝縮させることができる。
【符号の説明】
【0081】
1 海洋温度差発電システム
10 熱交換器
11 熱交換部
12 シェル
12b 水回収部
13 管路
15 熱交換用プレート
15b 第一流路
15c 第二流路
16 減圧排気装置
17 不凝縮ガス収集部
17b 凸部
18 不凝縮ガス排出部
19 貯溜部
20 熱交換器
21 熱交換部
22 シェル
50 蒸気動力サイクル部
52 タービン
53 凝縮器
54 ポンプ
55 発電装置
60 海水淡水化装置
61、65 フラッシュ蒸発器
61a 減圧容器
61b、65b 噴射部
65c ミスト除去部