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特許7144007血液検体を用いたMCI及び認知症の補助診断方法
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  • 特許-血液検体を用いたMCI及び認知症の補助診断方法 図1
  • 特許-血液検体を用いたMCI及び認知症の補助診断方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】血液検体を用いたMCI及び認知症の補助診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20220921BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20220921BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220921BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/68 ZNA
G01N27/62 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018177844
(22)【出願日】2018-09-21
(65)【公開番号】P2020051749
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-06-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28~30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、脳科学研究戦略推進プログラム、「新たな作用機序を介する分子を標的としたアルツハイマー病の予防的治療法の実証的研究」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 正樹
(72)【発明者】
【氏名】池内 健
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/097978(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0086836(US,A1)
【文献】国際公開第2015/103594(WO,A1)
【文献】特表2008-537143(JP,A)
【文献】Lei Liu, Naoki Watanabe, Hiroyasu Akatsu, Masaki Nishimura,Neuronal expression of ILEI/FAM3C and its reduction in Alzheimer’s disease,Neuroscience,2016年05月30日,Volume 330,Pages 236-246
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 -33/98
G01N 27/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、MCI及び/又は認知症の罹患の可能性を検査する方法:
(1)被験対象から採取された血液中における、ILEI (interleukin-like epithelial-mesenchymal transition inducer)の量を測定する工程、及び
(2)工程(1)で得られた測定値が、血液中のILEIの量の正常値と比較して低い場合に、MCI及び/又は認知症に罹患している可能性が高いと評価するための工程。
【請求項2】
前記認知症が、アルツハイマー病である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(1)におけるILEIの量の測定を、ELISA、ウェスタンブロッティング、又は質量分析法により行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(2)、前記測定値が、血液中のILEIの量の正常値と比較して10%以上低い場合に、MCI及び/又は認知症に罹患している可能性が高いと評価するための工程である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液検体を用いMCI及び/又は認知症の診断を補助する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、初老期から老年期に起こる進行性の認知症を特徴とする疾患であり、現在、国内の患者数は460万人以上と言われている。さらに今後、人口の高齢化に伴いその数は確実に増加すると予想される。アルツハイマー病の研究の進歩により、根本的治療薬開発が精力的に進められている。これらの新規薬剤を用いてアルツハイマー病治療を行うためには、アルツハイマー病を早期に且つ正確に診断する非侵襲的方法が不可欠である。
【0003】
アルツハイマー病の臨床症状は、記憶障害、高次脳機能障害(失語、失行、失認、構成失行)等である。その症状は他の認知症疾患でも共通して見られることが多く、臨床症状だけでアルツハイマー病と確定診断することは極めて困難である。
【0004】
また、認知症の前段階にあるのがMCI (Mild Cognitive Impairment)(軽度認知障害)である。MCIは、認知症と健常者との中間の段階(グレーゾーン)にあたる症状のことであり、認知機能(記憶、決定、理由づけ、実行等)の内の1つに問題が生じているが、日常生活には支障が無い状態のことである。MCIを放置すると、認知機能の低下が続き、約半数が認知症へとステージが進行すると言われている。現時点では認知症を完治することはほとんどできないため、MCIの段階で適切な予防を行い、症状の進行を防ぐことは極めて重要である。
【0005】
特許文献1ではアルツハイマー病のバイオマーカーについて報告されている。具体的には、被験体におけるアルツハイマー病の状態を定性化するための方法であり、(a)該被験体由来の生体試料中の少なくとも1つのバイオマーカーを測定する工程であって、該少なくとも1つのバイオマーカーは、サポシンD(I)、サポシンD(II)、サポシンD(III)及びFAM3C(I)から選択される、工程;ならびに(b)該測定結果をアルツハイマー病の状態と関連付ける工程、を包含することを特徴としている。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、FAM3Cについては、実際にはアルツハイマー病の患者の脳脊髄液において増加することが報告されているだけである。
【0007】
また、特許文献2では、ILEI (interleukin-like epithelial-mesenchymal transition inducer) (別名 family with sequence similarity 3, member C (FAM3C))が、アミロイドβタンパク質(Aβ)の前駆体(APP)であるAPP-C99を選択的に減らすことにより細胞のAβ産生を減少させながら、Notch切断を阻害しないという効果を有することが報告されている。Notchタンパク質は、APP-C99と共にγ-セクレターゼの基質となるタンパク質である。Notchタンパク質の切断不全によると考えられる副作用として認知症の増悪や皮膚癌発症頻度の増加が認められることが明らかになっている。
【0008】
しかしながら、特許文献2では、ILEIの投与により細胞のAβ産生を減少させることで、Aβが異常に蓄積する疾患の進行を予防及び治療することができることが記載されているだけであって、ILEIのその他の用途については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2008-537143号公報
【文献】国際公開第2014/097978号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、MCI及び認知症に対して有効な新たな血液バイオマーカーを利用した、MCI及び/又は認知症の診断を補助する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、血漿ILEIがアルツハイマー病群及びMCI群では、健常対照群と比較して有意に低下する傾向が見られるという知見を得た。また、アルツハイマー病群だけでなく、認知症の初期に当たるMCI群と健常対象群との間にも有意差が見られるという知見も得た。
【0012】
特許文献1で述べられているのは、アルツハイマー病の患者の脳脊髄液においてILEIが増加することであり、これは本発明とは生体試料の種類が異なっている上、増加と減少が逆になっている。また、特許文献2では、脳内におけるILEIとAβの量の関係が述べられているだけであり、体内の他の部分でのILEIの量については言及されていない。ILEIは全身で発現しているタンパク質であり、発現量は細胞及び組織レベルで異なるものである。さらに、ILEIは分泌型タンパク質であり、細胞において産生された後に分泌されるが、脳脊髄液中ないし血漿中のILEIがそれぞれ主にどの組織のどの細胞に由来するかは不明である。
【0013】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次のMCI及び/又は認知症の診断を補助する方法を提供するものである。
【0014】
項1.以下の工程を含む、MCI及び/又は認知症の診断を補助する方法:
(1)被験対象から採取された血液中における、ILEIの量を測定する工程、及び
(2)工程(1)で得られた測定値が、血液中のILEIの量の正常値と比較して低い場合に、MCI及び/又は認知症であると予測する工程。
項2.前記認知症が、アルツハイマー病である、項1に記載の方法。
項3.前記工程(1)におけるILEIの量の測定を、ELISA、ウェスタンブロッティング、又は質量分析法により行う、項1又は2に記載の方法。
項4.前記工程(2)において、前記測定値が、血液中のILEIの量の正常値と比較して10%以上低い場合に、MCI及び/又は認知症であると予測する、項1~3のいずれか一項に記載の方法。
項5.以下の工程を含む、MCI及び/又は認知症を診断及び治療する方法:
(1)被験対象から採取された血液中における、ILEIの量を測定する工程、
(2)工程(1)で得られた測定値が、血液中のILEIの量の正常値と比較して低い場合に、MCI及び/又は認知症であると予測する工程、及び
(3)MCI及び/又は認知症であると予測された被験対象に対して、認知症治療薬の有効量を投与する工程。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、新たなMCI及び認知症に対して有効なバイオマーカー(血液中のILEI)を見出すことができ、血液中のILEIの量の低下を指標にすることでMCI及び認知症の診断が可能となる。本発明によれば、認知症だけでなく、MCIの診断も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】試験例の結果を示すグラフである。対照群、MCI群、AD群における血漿ILEIの量(平均±標準偏差)を示す。n=10, AD+MCI vs. 対照例:p = 0.007, MCI vs. 対照例:p = 0.007
図2】各被験者の年齢に対する血漿ILEIの量をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
なお、本明細書において「含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0019】
本発明のMCI及び/又は認知症の診断を補助する方法は、以下の工程を含むことを特徴とする。
(1)被験対象から採取された血液中における、ILEIの量を測定する工程、及び
(2)工程(1)で得られた測定値が、血液中のILEIの量の正常値と比較して低い場合に、MCI及び/又は認知症であると予測する工程。
【0020】
「認知症」とは、後天的な脳の器質的障害により、一旦正常に発達した知能が不可逆的に低下した状態である。本発明において、認知症としては、特に限定されず、好ましくはアルツハイマー病である。
【0021】
ILEIは4へリックスバンドル構造を有するサイトカイン様構造に対するデータベース検索で同定された分泌型タンパク質であり、進化的によく保存されている。ILEIは、翻訳後に全長前駆体タンパク質のシグナル配列が切断され分泌小胞の膜から遊離される。
【0022】
本明細書において「ILEI」とは、特に記載が無い限りタンパク質のことを意味する。
【0023】
ILEIのアミノ酸配列としては、配列番号1に記載されるものが挙げられる(GenBank Accession No.NP_055703)。配列番号1の1~24位はシグナルペプチドであり、成熟タンパク質は配列番号1の25~227位のアミノ酸配列からなるタンパク質である(配列番号2)。
【0024】
本発明におけるILEIは、全長タンパク質及び成熟タンパク質のいずれも包含するものである。
【0025】
本発明において、ILEIは、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の生物学的活性を有するものであれば、配列番号1又は2で表されるタンパク質の変異体であってもよい。同等の生物学的活性を有するタンパク質に関しては、例えば、他の生物由来の同種のタンパク質のアミノ酸配列との比較から類推することができる。
【0026】
変異体としては、例えば、配列番号1又は2で表されるアミノ酸配列において、1又は2以上、例えば1~50個、1~25個、1~12個、1~9個、1~5個のアミノ酸が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質などが挙げられる。
【0027】
本発明における被験対象は、哺乳動物(ヒト、マウス、ラット、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ等)であり、好ましくはヒトである。また、MCI及び/又は認知症に罹患している可能性がある者を被験対象とすることが望ましい。ILEIの量の測定に用いる生体試料は、被験対象から採取された血液である。血液中のILEIの量の測定には、血液以外にも、血清、血漿などを用いることができる。
【0028】
ILEIの量を測定する方法(定量方法)としては、ILEIを定量できる方法であれば特に限定されず、各種公知のタンパク質の定量方法を使用することができ、例えば、ELISA (酵素結合免疫吸着法)、RIA (ラジオイムノアッセイ)、ウェスタンブロッティング、ドットブロッティング法、プロテインチップによる解析法、質量分析法等が挙げられる。本発明において、ILEI量の測定は、ELISAにより行うことが好ましい。
【0029】
ILEIの量を測定するために使用する抗体は、公知の方法に従って作製すること、又は市販品を入手することができる。抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれでもよく、またヒト化されたキメラ抗体であってもよい。抗体はまた、抗体断片であってもよく、そのような抗体断片としてはFab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFv、sc(Fv)2、ダイヤボディ等が挙げられる。抗体は、酵素、蛍光物質、放射性化合物、ビオチン等により修飾されていてもよい。
【0030】
本発明において、血液中のILEIの量の測定値は、血液中のILEIの量の正常値との比較を行う。血液中のILEIの量の正常値とは、MCI及び認知症のいずれにも罹患していない健常者の血液中のILEIの量である。血液中のILEIの量の正常値は、過去に得られたデータから標準化されたものを使用することもできる。
【0031】
本発明において、血液中のILEIの量の測定値が、血液中のILEIの量の正常値と比較して低い場合、好ましくは10%以上低い場合、より好ましくは15%以上低い場合、更に好ましくは20%以上低い場合、特に好ましくは22%以上低い場合、最も好ましくは25%以上低い場合に、MCI及び/又は認知症であると予測(判定)する。なお、ここでの%は、望ましくは質量%を示す。
【0032】
また、本発明において、血漿中のILEIの量の測定値が、好ましくは500 ng/mL以下、より好ましくは480 ng/mL以下、更に好ましくは450 ng/mL以下、特に好ましくは430 ng/mL以下、最も好ましくは400 ng/mL以下の場合に、MCI及び/又は認知症であると予測(判定)する。
【0033】
後述する実施例において示すように、MCI及びアルツハイマー病の患者は、血漿中のILEIの量が健常者と比べて有意に低下しているので、血液中のILEIの量の測定値が低いことによりMCI及び/又は認知症であると予測することが可能になる。
【0034】
なお、本発明の方法において、血液中のILEIの量に加えて、それ以外のMCI及び/又は認知症のバイオマーカーもMCI及び/又は認知症の診断に利用することができる。このように、血液中のILEIの量以外のバイオマーカーも組み合わせて使用することで、MCI及び/又は認知症の診断の精度を向上させることが可能となる。そのようなMCI及び/又は認知症のバイオマーカーとしては、特に制限されず、各種公知のバイオマーカーを使用でき、例えば、Aβ、総タウタンパク質、リン酸化タウタンパク質などが挙げられる。
【0035】
本発明の方法により、MCI及び/又は認知症であると予測された場合は、被験対象に対して、認知症治療薬を投与することにより認知症の治療を行うこともできる。
【0036】
認知症治療薬としては、認知症に治療効果のある医薬であれば特に限定されず、そのような薬剤としては、例えば、ドネペジル、メマンチン、ガランタミン、リバスチグミン、Aβ免疫治療薬、セクレターゼ阻害薬などを挙げることができる。
【0037】
認知症治療薬の投与方法は特に限定されず、例えば、動脈内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮膚内投与、腹腔内投与、皮下投与、口腔内投与、直腸投与、経腸投与、経皮投与、経口投与などが挙げられる。
【0038】
認知症治療薬は、有効成分をそのまま使用するか、又は医薬品において許容される無毒性の担体、希釈剤若しくは賦形剤とともに、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤などを含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、シロップ、ペースト、注射剤(使用時に、蒸留水又はアミノ酸輸液や電解質輸液等の輸液に配合して液剤として調製する場合を含む)などの形態に調製して使用される。
【0039】
被験対象に投与される認知症治療薬中の有効成分の含量は、医薬製剤全量中0.0001~100質量%、好ましくは0.001~99.9質量%、より好ましくは0.01~99質量%の範囲から適宜選択することが可能である。
【0040】
認知症治療薬の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。
【0041】
本発明の方法により、血液中のILEIの量の低下を指標にすることでMCI及び認知症の診断が可能となる。本発明の方法により、認知症だけでなく、MCIの診断も可能となる。
【実施例
【0042】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0043】
試験例
<器具及び試薬>
・96ウェルプレート : Nunc Maxsorp 96 well plate (Nunc, code.469914)
・固相化用希釈バッファー : 0.2M sodium carbonate/bicarbonate (pH9.4)
・サンプル希釈バッファー : Human LRG EIA Buffer 100 (IBL, code.27769D100)
・検出抗体希釈バッファー : IMMUNO SHOT Reagent 2 ,- (-) (コスモ・バイオ株式会社, code.IS-002-250)
・ブロッキングバッファー : Blocking Reagent for ELISA-Chemically Defined- (コスモ・バイオ株式会社, code.IS-CD-500E)
・10×PBS (ナカライテスク株式会社, code.27575-31)
・Tween(登録商標)20 (SIGMA-ALDRICH, code.P7949)
・Na2CO3 (SIGMA-ALDRICH, code.S-7795)
・NaHCO3 (SIGMA-ALDRICH, code.S-6297)
・HRP検出試薬 : TMB Microwell Peroxidase Substrate System (KPL, code.5120-0047)
・Stop solution : 1M硫酸 (ナカライテスク株式会社, code.95626-06)
・HRP-labeling : Peroxidase Labeling kit-NH2 (Dojindo, code.LK11)
・測定機器 : Benchmark Plus (Bio Rad)
・スタンダード : Mouse ILEI (R&D, code.2868-FM-50)
【0044】
<抗体>
・固相化抗体(capture) : FAM3C 42C1 (1.08 mg/mL)
・検出抗体(detect) : FAM3C 24C1 (1.15 mg/mLをHRPラベルし、430μg/mLに調製)
【0045】
<ELISAのバリデーション>
ELISAのバリデーションは、Standard curve, Dilution parallelism及びSpiking recoveryにより行った。
【0046】
<被験者>
・対照例:66.6±6.0歳、男性7人,女性3人
・軽度認知機能低下例(MCI):71.3±6.2歳、男性6人,女性4人
・アルツハイマー病例(AD):72.5±5.2歳、男性3人,女性7人
年齢は平均±標準偏差
【0047】
<方法>
0.2M sodium carbonate/bicarbonate (pH9.4)で1.44μg/mL(×750)に希釈した固相化抗体を100μL/wellで分注した。プレートシールを貼り、蒸発を防いで4℃オーバーナイトでインキュベートした。その後、固相化した抗体をデカンタで廃棄し、液をよく切った。
【0048】
各ウェルにPBS-T (0.1% Tween20)を300μL/well加えてウォッシュした。これを3回繰り返した。次に、ブロッキングバッファーを200μL/wellで添加し、37℃で1hrインキュベートした。その後、ブロッキングバッファーをデカンタで廃棄し、タッピングして完全にブロッキング液を除去した。使用まで時間が空く場合、4℃で保管しておいた(1週間は保管可能)。
【0049】
スタンダード及びサンプルを100μL/wellで添加し、プレートシールを貼り、4℃オーバーナイトでインキュベートした(血漿サンプル:150倍希釈して使用、スタンダード:20 ng/mL~2倍希釈の7 dose設定)。その後、スタンダード及びサンプルをデカンタで廃棄し、液をよく切った。
【0050】
各ウェルにPBS-T (0.1% Tween20)を300μL/well加えてウォッシュした。これを5回繰り返した。検出抗体を0.5μg/mL(×860)になる様に希釈し、各ウェルに100μL/wellずつ添加した。4℃で1時間インキュベートした。
【0051】
抗体液をデカンタで捨てて液をよく切り、各ウェルにPBS-T (0.1%Tween20)を300μL/well加えてウォッシュした。これを5回繰り返した。次に、TMB solutionを100μL/wellで添加し、室温で30分間インキュベートした。その後、1M硫酸を各ウェルに100μL/wellずつ添加し、反応を停止した。
【0052】
プレートリーダーで450 nmの吸光度を測定した。スタンダード検量線を描き、サンプルのILEIを計算した。softmax proの検量線からサンプルのILEI濃度を計算した。
【0053】
<統計解析>
Student-t検定で健常者群との比較をした。
【0054】
<結果>
結果を図1及び以下に示す。図1及び以下のデータから、AD群及びMCI群では、血漿ILEIが健常対照群と比較して有意に低下する傾向が見られた。認知機能異常群(AD)ばかりではなく、認知症の初期に当たるMCI群と健常対象群との間にも有意差が見られた。
対照例=519.6±104.0 ng/mL
MCI=395.0±77.4 ng/mL
AD=430.1±103.6 ng/mL
値は平均±標準偏差
AD+MCI vs. 対照例:p = 0.007
MCI vs. 対照例:p = 0.007
AD vs. 対照例:p = 0.070
【0055】
さらに、今回の被験者の全てについて、年齢と血漿ILEIの量の関係を図2に示す。図2から、年齢と血漿ILEIの量に相関が無いことが分かる。そのため、血漿ILEIの量の低下が単純な加齢性の変化ではないことが分かる。結果として、血漿ILEIの量は、認知機能の変化と相関している可能性がある。
図1
図2
【配列表】
0007144007000001.app