(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】指紋の目立ちにくいステンレス加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25F 3/24 20060101AFI20220921BHJP
C25F 1/06 20060101ALI20220921BHJP
C25D 11/36 20060101ALI20220921BHJP
C25D 11/38 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C25F3/24
C25F1/06 B
C25D11/36 301
C25D11/38 302
(21)【出願番号】P 2018178164
(22)【出願日】2018-09-22
【審査請求日】2021-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】515005080
【氏名又は名称】株式会社アサヒメッキ
(74)【代理人】
【識別番号】100167645
【氏名又は名称】下田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】川見 和嘉
(72)【発明者】
【氏名】木下 淳之
(72)【発明者】
【氏名】福田 智之
(72)【発明者】
【氏名】澤田 泰伸
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/047527(WO,A1)
【文献】特許第5860991(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25F 1/00- 7/02
C25D 11/00- 11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削材と圧縮空気の混合物をステンレス加工品表面に吹き付けることにより、前記ステンレス加工品表面に凹凸面を形成するサンドブラスト処理工程、
サンドブラスト処理されたステンレス加工品を電解洗浄剤中で
前記ステンレス加工品を陽極として陽極電解洗浄を行う電解洗浄処理工程、
電解洗浄処理されたステンレス加工品表面を電解研磨する電解研磨処理工程、
とからなることを特徴とする表面に凹凸面が形成されたステンレス加工品の製造方法。
【請求項2】
研削材と圧縮空気の混合物をステンレス加工品表面に吹き付けることにより、前記ステンレス加工品表面に凹凸面を形成するサンドブラスト処理工程、
サンドブラスト処理されたステンレス加工品を電解洗浄剤中で
前記ステンレス加工品を陽極として陽極電解洗浄を行う電解洗浄処理工程、
電解洗浄処理されたステンレス加工品表面を、電解研磨する電解研磨処理工程、
電解研磨処理されたステンレス加工品を、クロム酸と硫酸の混合溶液からなる発色処理液に浸漬して、ステンレス加工品表面に発色皮膜を形成する発色処理工程、
発色処理されたステンレス加工品を、クロム酸とリン酸の混合溶液からなる硬化処理液に浸漬して、発色処理工程で形成された発色皮膜を硬化する硬化処理工程、
とからなることを特徴とする表面に凹凸面が形成された化学発色ステンレス加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面凹凸を有する付着した指紋や汚れが目立ちにくいステンレス加工品の製造方法に関する。さらには、付着した指紋や汚れが目立ちにくい発色処理したステンレス加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス加工品は、耐腐食性に優れるため工業製品、家庭用品等のステンレス加工品として広く採用されている。しかしながら、人の手が接触する可能性の高い部位に使用されるステンレス加工品の表面には使用中に指紋が付着する。指紋がステンレス加工品の表面に付着すると、見る角度により指紋付着部がその周囲に対して青白く見えたり、赤褐色を帯びた色に見えたりすることで、汚らしく見える。この指紋汚れはステンレス加工品の外観に問題となっている。
【0003】
この指紋汚れに対する抵抗(以下、「耐指紋性」という。)を付与する方法としては、金属素材表面に撥水、撥油性のある被膜を形成する技術が提案されている。特許文献1には、フッ素化合物を含有するコーティング層を形成することが開示されている。しかしながら、コーティング層を形成することは、金属素材固有の質感を損なうこととなり、耐腐食性に優れるステンレス加工品においてはステンレス固有の特性を損なうことになる。また、発色処理したステンレス加工品においては、コーティング層により色調の変化が生じるという問題がある。
【0004】
耐指紋性を付与する方法として、特許文献2には、指紋が付着した金属表面の極微細な凹凸に起因する光散乱現象を極小とすることで、指紋が付着しても目立ちにくい金蔵表面を形成することが提案されている。具体的には、中心線平均粗さ(Ra)が0.5μm以上で、かつ、表面粗さのパワースペクトル解析で10μm以下の波長領域の凹凸が検出されないこと等が開示されている。しかしながら、かかる金属表面の極微細な凹凸を制御することは、加工品製造の制御が難しく、生産性の観点からも、耐指紋性を付与する方法として適切ではない。
【0005】
特許文献3には、ステンレス鋼にブラスト処理及び電解研磨処理を行うことで、指紋隠蔽性、耐食性、洗浄性等の優れる表面凹凸形状の面内均一性に優れたステンレス鋼の製造方法が開示されている。しかしながら、かかる方法を採用しても耐指紋性は、必ずしも満足のいくものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-221528号公報
【文献】特開平11-226606号公報
【文献】特許第5860991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、耐指紋性に優れ、かつ表面の色むらがないステンレス加工品及び発色処理したステンレス加工品並びにその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は、以下の態様により解決できる。具体的には、
【0009】
(態様1) 研削材と圧縮空気の混合物をステンレス加工品表面に吹き付けることにより、前記ステンレス加工品表面に凹凸面を形成するサンドブラスト処理工程、サンドブラスト処理されたステンレス加工品を電解洗浄剤中で前記ステンレス加工品を陽極として陽極電解洗浄を行う電解洗浄処理工程、電解洗浄処理されたステンレス加工品表面を電解研磨する電解研磨処理工程、とからなることを特徴とする表面に凹凸面が形成されたステンレス加工品の製造方法である。
サンドブラスト処理後に電解洗浄を行うことにより、サンドブラスト処理によりステンレス加工表面に残った微細な研削材及び研削されたステンレス屑が除去されて、電解研磨処理によってステンレス加工品表面に形成される表面凹凸が均一となり、ステンレス加工表面の光散乱が付着託指の隠蔽に効果的に作用するからである。
【0010】
(態様2) 研削材と圧縮空気の混合物をステンレス加工品表面に吹き付けることにより、前記ステンレス加工品表面に凹凸面を形成するサンドブラスト処理工程、サンドブラスト処理されたステンレス加工品を電解洗浄剤中で前記ステンレス加工品を陽極として陽極電解洗浄を行う電解洗浄処理工程、電解洗浄処理されたステンレス加工品表面を、電解研磨する電解研磨処理工程、電解研磨処理されたステンレス加工品を、クロム酸と硫酸の混合溶液からなる発色処理液に浸漬して、ステンレス加工品表面に発色皮膜を形成する発色処理工程、発色処理されたステンレス加工品を、クロム酸とリン酸の混合溶液からなる硬化処理液に浸漬して、発色処理工程で形成された発色皮膜を硬化する硬化処理工程、とからなることを特徴とする表面に凹凸面が形成された化学発色ステンレス加工品の製造方法である。
サンドブラスト処理後に電解洗浄を行うことにより、サンドブラスト処理によりステンレス加工表面に残った微細な研削材及び研削されたステンレス屑が除去されて、電解研磨処理によってステンレス加工品表面に形成される表面凹凸が均一となり、発色処理したステンレス加工表面の光散乱が付着託指の隠蔽に効果的に作用するからである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、サンドブラスト処理後に電解洗浄を行うことにより、ステンレス加工品の表面凹凸が均一となり、表面凹凸による光散乱が指紋隠蔽に効果的となり、耐指紋性に優れ、かつ色むらがない、ステンレス加工品を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のステンレス加工品の製造方法を構成する工程の流れを示す工程図である。
【
図2】本発明の発色ステンレス加工品の製造方法を構成する工程の流れを示す工程図である。
【
図3】本発明の製造方法により作製した発色ステンレス加工品の外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の耐指紋性に優れる表面凹凸を有するステンレス加工品の製造方法を構成する工程の流れを示す工程図である。本発明の耐指紋性に優れる表面凹凸を有するステンレス加工品は、サンドブラスト処理、電解洗浄処理、電解研磨処理をこの順によって行うことにより製造することができる。特に、サンドブラスト処理後に電解洗浄処理を行うことで耐指紋性が向上する。
図2は、本発明の耐指紋性に優れる表面凹凸を有する発色ステンレス加工品の製造方法を構成する工程の流れを示す工程図である。本発明の耐指紋性に優れる表面凹凸を有する発色ステンレス加工品は、サンドブラスト処理、電解洗浄処理、電解研磨処理、発色処理、硬化処理をこの順によって行うことにより製造することができる。サンドブラスト処理後に電解洗浄処理を行うことで耐指紋性が向上する点は、
図1に示したステンレス加工品と同様である。
以下、本発明において、処理対象となる金属材及び金属材加工品、並びに処理方法であるサンドブラスト処理工程、電解洗浄工程、電解研磨処理工程、発色処理工程、硬化処理工程の順に説明し、併せて評価方法についても説明する。なお、本発明は以下の発明を実施するための態様に限定されるものではない。
【0014】
(1)金属材
本発明において使用する金属材としては、サンドブラスト処理、電解洗浄処理、電解研磨処理により表面凹凸加工が可能であって、かつ化学発色処理が可能な金属材であれば、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼などのステンレス鋼材に限定されるものではない。具体的には、アルミ、アルミ合金、鉄、鉄合金、ステンレス、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金、タングステン、タングステン合金、モリブデン、モリブデン合金、亜鉛、又は、亜鉛合金等が挙げられ、さらに公知の金属材料も使用することができる。
【0015】
アルミ及びアルミ合金としては、例えばAlを40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99質量%以上含むものを使用することができる。例えば、JIS H 4000~JIS H 4180、JIS H 5202、JIS H 5303あるいはJIS Z 3232~JIS Z 3263に規格されているアルミ及びアルミ合金を用いることができる。例えば、JIS H 4000に規格されているアルミニウムの合金番号1085、1080、1070、1050、1100、1200、1N00、1N30に代表される、Al:99.00質量%以上のアルミニウム又はその合金等を用いることができる。
【0016】
鉄合金としては、例えばステンレス、軟鋼、炭素鋼、鉄ニッケル合金、鋼等を用いることができる。例えばJIS G 3101~JIS G 7603、JIS C 2502~JIS C 8380、JIS A 5504~JIS A 6514またはJIS E 1101~JIS E 5402-1に記載されている鉄または鉄合金を用いることができる。
ステンレスは、SUS 301、SUS 304、SUS 310、SUS 316、SUS 430、SUS 631(いずれもJIS規格)などを用いることができる。軟鋼は、炭素が0.15質量%以下の軟鋼を用いることができ、JIS G3141に記載の軟鋼等を用いることができる。鉄ニッケル合金は、Niを35~85質量%含み、残部がFe及び不可避不純物からなり、具体的には、JIS C2531に記載の鉄ニッケル合金等を用いることができる。
【0017】
ニッケル及びニッケル合金としては、例えばNiを40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99.0質量%以上含むものを使用することができる。例えば、JIS H 4541~JIS H 4554、JIS H 5701またはJIS G 7604~ JIS G 7605、JIS C 2531に規格されているニッケルまたはニッケル合金を用いることができる。また、例えば、JIS H4551に記載の合金番号NW2200、NW2201に代表される、Ni:99.0質量%以上のニッケル又はその合金等を用いることができる。
【0018】
チタン及びチタン合金としては、例えばTiを40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99.0質量%以上含むものを使用することができる。例えば、JIS H 4600~JIS H 4675、JIS H 5801に規格されているチタン及びチタン合金を用いることができる。
【0019】
マグネシウム及びマグネシウム合金としては、例えばMgを40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99.0質量%以上含むものを使用することができる。例えば、JIS H 4201~JIS H 4204、JIS H 5203~JIS H 5303、JIS H 6125に規格されているマグネシウム及びマグネシウム合金を用いることができる。
【0020】
タングステン及びタングステン合金としては、例えばWを40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99.0質量%以上含むものを使用することができる。例えば、JIS H 4463に規格されているタングステン及びタングステン合金を用いることができる。
【0021】
モリブデン及びモリブデン合金としては、例えばMoを40質量%以上含むあるいは、80質量%以上含む、あるいは99.0質量%以上含むものを使用することができる。
【0022】
(2)金属材加工品
本発明の金属材加工品としては、塗装などの表面被覆層を形成していない無垢表面を有する金属材加工物品、具体的には、建築用資材(手摺、フェンス)、食品製造装置(切断機、洗浄機、ミキサー、熱交換器)、食品用ショーケース等がある。また、化学発色処理を行って優れた美観を呈する意匠性に優れた金属材加工物品がある。これらは、完成品、部品を問わない。具体的には、建築用資材(例えば、釘、ボルト、ナット、ネジ、ヤスリ、線材、パイプ、鋼板、ホース継手、鍵穴キャップ等)、日用品(例えば、マグカップ、スプーン、ホーク、メガネフレーム、しおり、カゴ、椅子、机、魔法瓶、玩具、爪切り等)、水回り用品(シンク、浴槽、システムキッチン、水切りプレート、洗いかご等)、服飾用品(ホック、ボタン、かんざし、バックル、ファスナー、メダル等)、機械部品(チェーン、フリクションリング、マニホールド、自動車のボディー、自転車のフレーム、車いすのフレーム等)、その他広告パネル等がある。
金属材加工品は化学発色処理をした金属材を加工したものでも、金属材を加工した後に化学発色処理をしたもののいずれでもよい。
【0023】
(3)サンドブラスト処理
サンドブラスト処理は、投射材(研削材や研磨剤と称されることもある。)を被処理体に衝突させて表面処理を行うものである。投射材の投射方法には、機械式、空気式、湿式がある。空気式には、負圧によって投射材を運ぶバキューム式と、正圧によって投射材を運ぶ直圧式がある。
サンドブラスト処理工程において、金属材表面を効率良く加工するために本工程で使用される投射材としては、金属材より高硬度(例えば、モース硬度で6以上、より好適には8以上のもの)な無機材料を使用することが好ましく、球形あるいは多角形などの角のある粒子が好ましく、とくに角のある粒子が好ましい。具体例としては、ガラスビーズ、ジルコニア粒子、スチールグリッド、アルミナ粒子、シリカ粒子、炭化ケイ素粒子などがある。
【0024】
投射材の粒度(番手)は、#70~#800のものが好ましく、#90~#500のものがより好ましい。粒度が#70より小さいものは粒子径が大きく、処理品のヘイズが高くなり、視認性が低下する傾向となる。粒度が#800を超えるものは、粒子径が小さいために、サンドブラスト処理が非効率となりやすいからである。
【0025】
投射材が金属材に投射されるときの投射圧は、0.05~1MPaが好ましく、0.1~0.5MPaがより好ましい。投射圧が0.05未満であると、投射圧が低いために、サンドブラスト工程が非効率となり、かつばらつきのある凹凸表面が形成されやすい。投射圧が1MPaを超えると、投射材が金属材表面に到達するときの衝突エネルギーが大きくなりやすく、処理面の凹凸の形状が大きくなり、化学発色処理をした金属材表面の色調が劣ることになるからである。
【0026】
投射材を金属材に投射するときの投射角度は、金属材表面を0°とした場合に、10~90°とすることが好ましい。10°未満だと、サンドブラスト工程が非効率となりやすいからである。効率性を考慮すると、投射角度は、好ましくは15°以上、より好ましくは20°以上である。
【0027】
投射材を金属材表面に投射するときの投射距離(投射開始位置から金属材板面までの距離)は、5~300mmが好ましく、10~250mmがより好ましい。1mm未満だと、衝突エネルギーが大きくなり、金属材処理面のヘイズが高くなり、視認性が低下する。400mmを超えると、サンドブラスト処理が非効率となりやすいからである。
【0028】
投射材を金属材表面に投射するときの投射量は、50~300g/minが好ましく、100~200g/minがより好ましい。50g/min未満であるとサンドブラスト処理が非効率となりやすく、300g/minを超えると、処理品に目視で確認できる程度のムラが発生しやすくなるからである。
【0029】
(4)電解洗浄処理
電解洗浄は、電解液中で被処理体を陽極または陰極として電解する洗浄方法である。被処理体表面から発生するガスの攪拌作用により汚れが除去される。被処理体を陽極とする陽極電解洗浄法は、被処理体表面に発生する酸素ガスにより有機物汚れが酸化反応を受け破壊される効果がある。陽極電解洗浄法は不純物に強く、水素脆性を防ぐこともできる。被処理体を陰極とする陰極電解洗浄法は、被処理体表面に水素ガスが発生する。同じ電流密度で電解するとガス発生量は、陽極電解洗浄法の2倍量で、ガスによる攪拌効果による洗浄性が高い。水素脆性が問題となる素材は、後処理で水素除去処理を行う必要がある。
本発明では、被処理体を陽極とする陽極電解洗浄法が好ましい。
【0030】
電解洗浄は、一般的にアルカリ水溶液中で行うが、酸水溶液中で行う電解酸洗浄がある。電解酸洗浄は、酸によるスケールと錆の溶解力、電気分解により発生するガス(酸素、水素)の攪拌作用、水素による還元力を利用できる。電解酸洗浄は鉄鋼系素材だけに使用されている。
本発明では、電解酸洗浄が好ましい。
【0031】
電解洗浄に用いる電解液には、緩衝作用によるPHの確保、汚れの乳化・分散作用、硬水軟化作用を有する無機酸塩(炭酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩)、汚れ成分への湿潤・浸透・再付着防止作用を有する界面活性剤、金属イオンの補足・酸化膜の除去作用を有するキレート剤を添加することができる。
【0032】
電解酸洗浄の条件(電解液組成、処理温度、処理時間、電流密度)は、被処理体により好適に選択することができる。一般的には、処理温度は15~50℃、処理時間は30~180min、電流密度は3~10A/dm2である。
【0033】
(5)電解研磨処理
電解研磨は、金属に応じた電解研磨溶液中で、金属をプラスとして直流電流を流して、微細な凹凸のある金属表面の凸部分の溶解により金属表面を平滑化し光沢化する研磨方法である。バフ研磨などの物理的研磨により発生した汚れ、異物、加工変質層を除去できる。
【0034】
電解研磨液の種類は過酸化水素水,氷酪酸,燐酸,硫酸,硝酸,クロム酸,重クロム酸ソーダ等の単独または混合酸性水溶液が好ましい。その他、添加剤としてエチレングリコールモノエチルエーテル,エチレングリコールモノブチルエステルやグリセリンを使用することができる。これら添加剤は電解液を安定化させ、濃度変化、経時変化、使用による劣化に対して適正電解範囲を広げる効果がある。
【0035】
具体的には、40~80vol%リン酸、5~30vol%硫酸、15~20vol%水、0~35vol%エチレングリコールからなる電解液中で、40~70℃、3~10min、直流(10~30V、3~60A/dm3)で行うことができる。
【0036】
(6)発色処理
発色処理により、サンドブラスト処理、電解研磨処理を経た金属材表面に極薄の光透過性酸化皮膜(以下、「発色皮膜」という。)が形成される。金属材は発色皮膜による光の干渉作用を利用して発色する。金属材の素地表面が持つ美麗さを反映した趣のある色調を発現させることが可能である。以下は、ステンレス加工品を具体例として述べる。
【0037】
(6-1)発色処理
発色方法としては、硫酸とクロム酸との混合液(以下、「発色溶液」という。)中にステンレス加工品を陽極として直流による電気分解を行い、水溶液中に浸漬した参照電極との電位差により所望する発色皮膜を生成する、いわゆるインコ法を採用する(特開昭48-011243号公報参照)。
光の干渉ピークから光学的に発色皮膜の厚みを求めると、ステンレス加工品の表面に生成される発色皮膜の厚みは、陽極と参照極との電位差(以下、「発色電位」という。)に比例する。その値は、各色調において、6mV(ブルー:90nm)、13mV(ゴールド:150nm)、16mV(レッド:180nm)、19.5mV(グリーン:220nm)である(竹内 武著、実務表面技術33巻11号、1986年 参照)。この発色皮膜の厚みは、ステンレス加工品に生成されている不動態皮膜の厚み(1~3nm)に比べて有意に大きい。
したがって、発色ステンレス加工品に生じる色ムラは、発色皮膜の厚みのばらつきにより生じるため、発色皮膜の厚みを制御することが肝要である。
【0038】
(6-2)発色皮膜
発色皮膜の生成速度を低くすることで、色調の発現を穏やかにして、色むらを低減することができる。ステンレス加工品の表面に生成される発色皮膜の厚みは、発色電位と相関があるからである。
発色溶液中の硫酸とクロム酸の混合比(クロム酸/硫酸)は、クロム酸15~30wt/vl%に対し、硫酸40~50wt/vl%が好適である。クロム酸濃度を低減することで、発色皮膜の生成速度を低くすることができ、発色皮膜の生成厚みを精密に制御できるからである。
発色皮膜の生成速度は、発色電位速度(mV/sec)で制御することができる。発色電位速度は、0.02~0.08mV/sec、好ましくは0.050~0.065mV/secである。発色電位速度が0.02mV/sec未満であると発色皮膜の生成が遅れ生産性が低下するからである。発色電位速度が0.08mV/secを超えると生成した発色皮膜の厚みが不均一となり、色調の違和感、色ムラが生じるからである。
【0039】
(6-3)マンガンイオン
発色溶液中のクロム酸濃度の低減に伴う発色皮膜の生成速度を補うために、マンガンイオン(Mn2+)を添加することができる。発色溶液に用いるマンガン塩としては、塩酸マンガン(MnCl2)、硫酸マンガン(MnSO4)、硝酸マンガン(Mn(NO3)2)などがあり、これらの中の1種または2種以上を用いることができる。発色溶液中のマンガンイオン(Mn2+)濃度は、0.5~300mmol/Lが好ましく、5~150mmol/Lがより好ましい。マンガンイオン(Mn2+)濃度が0.5mmol/L未満では、発色皮膜の生成を促す効果がなく、マンガンイオン(Mn2+)濃度が300mmol/Lを超えると不溶な部分が残って、発色皮膜の生成に影響を及ぼすからである。
【0040】
(7)硬化処理
酸化発色させて発色皮膜を形成したステンレス加工品を電解処理して発色皮膜を硬化させる。この硬化処理は、リン酸とクロム酸との混液中で電解によりクロムを発色皮膜の多孔部分に埋め込ませることにより発色皮膜を硬化させる(硬化処理を施し、ステンレス加工品表面に金属光沢を有する各種色調の発色を施すようにしたものである。
【0041】
(8)評価
無垢および発色ステンレス加工品のいずれについても耐指紋視認性を目視により評価した。また、発色ステンレス加工品については、「60度鏡面光沢度〔Gs(60°)〕」も評価した。
【0042】
(8-1)耐指紋視認性
耐指紋視認性の評価は目視で行った。具体的には、人間の手の指(親指)を試験片に3秒間押しつけ、その指紋痕の目立つ程度を目視にて観察し、以下の基準で表記した。
・指紋痕が全く判別できないもの 〇
・指紋痕が明瞭に判別できるもの ×
【0043】
(8-2)60度鏡面光沢度(Gs60°)
本試験品表面の鏡面状態を数値として表すために、60°鏡面光沢法(Gs60°)を用いた。60°鏡面光沢度の測定方法は、JIS Z8741「鏡面光沢度-測定方法」に記載されており、この記載に基づいて発色ステンレス加工品表面の光沢度を測定した。測定装置は、光沢度計(東洋精機製作所製 グロスメーターU)を用いた。
【実施例】
【0044】
次に本発明の効果を奏する実施態様を実施例として示す。また、そのまとめを表1に示す。
【0045】
【0046】
<実施例1>
(1)サンドブラスト処理
試験片(30×30×1mmt)をサンドブラスト装置(図示せず)に入れ、試験片の主面に対して、以下の条件でサンドブラスト処理を行い、サンドブラスト処理品1を作製した。
〔サンドブラスト処理条件〕
・研削材 ガラスパウダー(#60)
・投射圧 0.4MPa
・投射角度 40°
・投射時間 15sec
・投射距離 50mm
・投射量 450g/min
【0047】
(2)電解洗浄処理
サンドブラスト処理品1を以下の条件で電解洗浄処理を行い、電解洗浄処理品1を作製した。
〔電解洗浄処理条件〕
・電解洗浄液組成 亜硫酸ナトリウム100g/L、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル10ml/L、ポリオキシエチレンアルキルエーテル1ml/L、ラウリル硫酸ナトリウム2ml/L
・処理温度 45℃
・処理時間 4min
・電流密度 8.0A/dm2
・超音波処理 1min 基準周波数24.5~27.5kHz
【0048】
(3)電解研磨処理
電解洗浄処理品1を以下の条件で、電解研磨処理を行い、電解研磨処理品1(以下、「実施例1品」という。)を作製した。
[電解研磨処理条件]
・電解研磨液組成 リン酸700ml/L、硫酸200ml/L、エチレングリコール0.2ml/L
・処理温度 70℃
・処理時間 8min
・電流密度 8.0A/dm2
【0049】
<実施例2>
サンドブラスト処理の研削材をガラスビーズ(#200)とした以外は、実施例1と同様にして、電解研磨処理品2(以下、「実施例2品」という。)を作製した。
【0050】
<実施例3>
サンドブラスト処理の研削材をジルコン(#60)とした以外は、実施例1と同様にして、電解研磨処理品3(以下、「実施例3品」という。)を作製した。
【0051】
<実施例4>
(1)サンドブラスト処理
試験片(30×30×1mmt)をサンドブラスト装置(図示せず)に入れ、試験片の主面に対して、以下の条件でサンドブラスト処理を行い、サンドブラスト処理品4を作製した。
〔サンドブラスト処理条件〕
・研削材 ガラスパウダー(#60)
・投射圧 0.4MPa
・投射角度 40°
・投射時間 15sec
・投射距離 50mm
・投射量 450g/min
【0052】
(2)電解洗浄処理
サンドブラスト処理品1を以下の条件で電解洗浄処理を行い、電解洗浄処理品4を作製した。
〔電解洗浄処理条件〕
・電解洗浄液組成 亜硫酸ナトリウム100g/L、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル10ml/L、ポリオキシエチレンアルキルエーテル1ml/L、ラウリル硫酸ナトリウム2ml/L
・処理温度 45℃
・処理時間 4min
・電流密度 8.0A/dm2
・超音波処理 1min 基準周波数24.5~27.5kHz
【0053】
(3)電解研磨処理
電解洗浄処理品1を以下の条件で、電解研磨処理を行い、電解研磨処理品4を作製した。
[電解研磨処理条件]
・電解研磨液組成 リン酸700ml/L、硫酸200ml/L、エチレングリコール0.2ml/L
・処理温度 70℃
・処理時間 8min
・電流密度 8.0A/dm2
【0054】
(4)発色処理
電解研磨処理品4を以下の条件で発色処理を行い、発色処理品4を作製した。
〔発色処理条件〕
・発色液組成 酸化クロム250g/L、硫酸500g/L
・処理温度 80℃
・処理時間 8min
・発色電位 8mV
【0055】
(5)硬化処理
発色処理品4を以下の条件で硬化処理を行い、硬化処理品4(以下、「実施例4品」という。)を作製した。
〔硬化処理条件〕
・硬化液組成 酸化クロム250g/L、リン酸2.5g/L
・処理温度 25℃
・処理時間 10min
・電流密度 0.5A/dm2
【0056】
<実施例5>
サンドブラスト処理の研削材をガラスビーズ(#200)とした以外は、実施例4と同様にして、硬化処理品5(以下、「実施例5品」という。)を作製した。
【0057】
<実施例6>
サンドブラスト処理の研削材をジルコン(#60)とした以外は、実施例4と同様にして、硬化処理品6(以下、「実施例6品」という。)を作製した。
【0058】
<比較例1>
(1)サンドブラスト処理
試験片(30×30×1mmt)をサンドブラスト装置(図示せず)に入れ、試験片の主面に対して、以下の条件(実施例1と同じ)でサンドブラスト処理を行い、比較例1品を作製した。
〔サンドブラスト処理条件〕
・研削材 ガラスビーズ(#200)
・投射圧 0.4MPa
・投射角度 40°
・投射時間 15sec
・投射距離 50mm
・投射量 450g/min
【0059】
<比較例2>
未処理の試験片(30×30×1mmt)を比較例2品とした。
【0060】
<比較例3>
(1)サンドブラスト処理
試験片(30×30×1mmt)をサンドブラスト装置(図示せず)に入れ、試験片の主面に対して、以下の条件(実施例1と同じ)でサンドブラスト処理を行い、サンドブラスト処理品7を作製した。
〔サンドブラスト処理条件〕
・研削材 ガラスビーズ(#200)
・投射圧 0.4MPa
・投射角度 40°
・投射時間 15sec
・投射距離 50mm
・投射量 450g/min
【0061】
(2)発色処理
サンドブラスト処理品7を以下の条件(実施例5と同じ)で発色処理を行い、発色処理品7を作製した。
〔発色処理条件〕
・発色液組成 酸化クロム250g/L、硫酸500g/L
・処理温度 80℃
・処理時間 8min
・発色電位 8mV
【0062】
(3)硬化処理
発色処理品7を以下の条件(実施例5と同じ)で硬化処理を行い、硬化処理品7(以下、「比較例3品」という。)を作製した。
〔硬化処理条件〕
・硬化液組成 酸化クロム250g/L、リン酸2.5g/L
・処理温度 25℃
・処理時間 10min
・電流密度 0.5A/dm2
【0063】
<比較例4>
(1)発色処理
試験片(30×30×1mmt)を以下の条件(実施例5と同じ)で発色処理を行い、発色処理品8を作製した。
〔発色処理条件〕
・発色液組成 酸化クロム250g/L、硫酸500g/L
・処理温度 80℃
・処理時間 8min
・発色電位 8mV
【0064】
(3)硬化処理
発色処理品8を以下の条件(実施例5と同じ)で硬化処理を行い、硬化処理品8(以下、「比較例4品」という。)を作製した。
〔硬化処理条件〕
・硬化液組成 酸化クロム250g/L、リン酸2.5g/L
・処理温度 25℃
・処理時間 10min
・電流密度 0.5A/dm2
の研削材をガラスビーズ(#200)とした以外は、実施例4と同様にして、硬化処理品5(以下、「実施例5品」という。)を作製した。
【0065】
<評価>
(1)60度鏡面光沢度(Gs60°)評価
実施例4品、実施例5品、実施例6品、比較例3品、比較例4品、それぞれについて、60度鏡面光沢度(Gs60°)はJIS Z8741に準拠した光沢度計(東洋精機製作所製 グロスメーターU)を使用して入射角60度で測定した。光沢度は、表1に示す通りである。
また、実施例4品、実施例5品、実施例6品、比較例3品、比較例4品の光反射の状況を
図3に示す。60度鏡面光沢度及び光反射の状況から、実施例品は比較例品に比べて光散乱性に優れる。
【0066】
(2)耐指紋性評価
指に人工指紋液(伊勢久(株)製、JIS C9606の付属書4に準拠)を付着させたものを、実施例1品~実施例6品及び比較例1品~比較例4品に押し付けて指紋を付着させた。これを目視観察し、以下の基準で評価した。評価結果を表1に示す。実施例品は、いずれも耐指紋性は「〇」であった。
〇:指紋の付着跡が見えない。
×:指紋の付着跡が見える
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明により、耐指紋性に優れるステンレス加工品を提供できる。