IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 積水化学工業株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人山口大学の特許一覧

特許7144013硫黄-炭素材料複合体、リチウム硫黄二次電池用正極材及びリチウム硫黄二次電池
<>
  • 特許-硫黄-炭素材料複合体、リチウム硫黄二次電池用正極材及びリチウム硫黄二次電池 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】硫黄-炭素材料複合体、リチウム硫黄二次電池用正極材及びリチウム硫黄二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20220921BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220921BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20220921BHJP
   C01B 32/182 20170101ALI20220921BHJP
   C01B 32/225 20170101ALI20220921BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/58
C01B32/182
C01B32/225
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019523492
(86)(22)【出願日】2018-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2018020981
(87)【国際公開番号】W WO2018225619
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-02-12
(31)【優先権主張番号】P 2017110629
(32)【優先日】2017-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 博之
(72)【発明者】
【氏名】野里 省二
(72)【発明者】
【氏名】堤 宏守
(72)【発明者】
【氏名】上野 和英
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0119321(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0315100(US,A1)
【文献】特開2013-214503(JP,A)
【文献】特表2013-527579(JP,A)
【文献】特表2013-539193(JP,A)
【文献】特開2013-139371(JP,A)
【文献】国際公開第2014/034156(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0030590(US,A1)
【文献】Xi Yang et al.,Sulfur-Infiltrated Graphene-Based Layered Porous Carbon Cathodes for High-Performance Lithium-Sulfur Batteries,ACS NANO,2014年,Vol.8, No.5,pp.5208-5215
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-4/62
C01B 32/182
C01B 32/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェン積層構造を有する第1の炭素材料と、
前記第1の炭素材料のグラフェン層間又は端部に少なくとも一部が配置されている、スペーサーと、
前記第1の炭素材料のグラフェン層間又は端部に少なくとも一部が配置されている、硫黄又は硫黄を含む化合物と、
を含み、
前記第1の炭素材料が、グラファイト構造を有し、端縁部においてグラファイトが部分的に剥離されている、部分剥離型薄片化黒鉛である、硫黄-炭素材料複合体。
【請求項2】
前記硫黄-炭素材料複合体中における前記硫黄又は前記硫黄を含む化合物の含有量が、20重量%以上、90重量%以下である、請求項1に記載の硫黄-炭素材料複合体。
【請求項3】
前記第1の炭素材料のC/O比が、2以上、20以下である、請求項1又は2に記載の硫黄-炭素材料複合体。
【請求項4】
前記スペーサーが、樹脂により構成されている、請求項1~のいずれか1項に記載の硫黄-炭素材料複合体。
【請求項5】
前記スペーサーが、前記第1の炭素材料とは異なる第2の炭素材料により構成されている、請求項1~のいずれか1項に記載の硫黄-炭素材料複合体。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の硫黄-炭素材料複合体を含む、リチウム硫黄二次電池用正極材。
【請求項7】
請求項に記載のリチウム硫黄二次電池用正極材により構成される正極を備える、リチウム硫黄二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄と炭素材料とを含む硫黄-炭素材料複合体、該硫黄-炭素材料複合体を用いたリチウム硫黄二次電池用正極材及びリチウム硫黄二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話やノートパソコンなどの小型通信機器、情報端末用途や、電気自動車等の車載用途において、リチウムイオン二次電池が広く用いられている。リチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度を有するので、機器の小型化や軽量化を実現することができる。もっとも、今後さらなる利用拡大が見込まれる中で、より一層の高容量化が求められている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の高容量化には、正極及び負極の活物質による容量拡大が不可欠である。このうち正極については、従来の金属酸化物系の活物質では容量に限界があることから、画期的な容量拡大が可能な新しい活物質として硫黄系の活物質が提案され、検討が進められている。
【0004】
下記の特許文献1には、二次電池用正極材料として、メソポーラス炭素と該メソポーラス炭素のメソ孔内に配置された硫黄とを含むメソポーラス炭素複合材料が開示されている。特許文献2には、二次電池用正極材料として、ケッチェンブラックに硫黄粒子が内包されてなる複合体が開示されている。また、特許文献3には、二次電池用正極材料として、薄層グラファイト構造間の空隙に硫黄が充填されてなるカーボン硫黄複合体が開示されている。特許文献3では、上記空隙の平均距離が3nm未満であることされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-95390号公報
【文献】特開2012-204332号公報
【文献】特開2013-214503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の正極材料は、その構造から十分に硫黄を担持できないという問題がある。そのため、二次電池の充放電時において、多硫化物が電解液中に溶出し、サイクル特性が劣化することがある。また、特許文献3の正極材料は、硫黄を充填する間隙が十分に確保できないことから、電極の容量に制約が生じるという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、二次電池の電極に用いたときに、二次電池の充放電時におけるサイクル特性を劣化させ難い、硫黄-炭素材料複合体、該硫黄-炭素材料複合体を用いたリチウム硫黄二次電池用正極材及びリチウム硫黄二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る硫黄-炭素材料複合体は、グラフェン積層構造を有する第1の炭素材料と、前記第1の炭素材料のグラフェン層間又は端部に少なくとも一部が配置されている、スペーサーと、前記第1の炭素材料のグラフェン層間又は端部に少なくとも一部が配置されている、硫黄又は硫黄を含む化合物と、を含む。
【0009】
本発明に係る硫黄-炭素材料複合体のある特定の局面では、前記硫黄-炭素材料複合体中における前記硫黄又は前記硫黄を含む化合物の含有量が、20重量%以上、90重量%以下である。
【0010】
本発明に係る硫黄-炭素材料複合体の他の特定の局面では、前記第1の炭素材料が、薄片化黒鉛である。
【0011】
本発明に係る硫黄-炭素材料複合体のさらに他の特定の局面では、前記第1の炭素材料が、グラファイト構造を有し、部分的にグラファイトが剥離されている、部分剥離型薄片化黒鉛である。
【0012】
本発明に係る硫黄-炭素材料複合体のさらに他の特定の局面では、前記第1の炭素材料のC/O比が、2以上、20以下である。
【0013】
本発明に係る硫黄-炭素材料複合体のさらに他の特定の局面では、前記スペーサーが、樹脂により構成されている。
【0014】
本発明に係る硫黄-炭素材料複合体のさらに他の特定の局面では、前記スペーサーが、前記第1の炭素材料とは異なる第2の炭素材料により構成されている。
【0015】
本発明に係るリチウム硫黄二次電池用正極材は、本発明従って構成される硫黄-炭素材料複合体を含む。
【0016】
本発明に係るリチウム硫黄二次電池は、本発明に従って構成されるリチウム硫黄二次電池用正極材により構成される正極を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、二次電池の電極に用いたときに、二次電池の充放電時におけるサイクル特性を劣化させ難い、硫黄-炭素材料複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施例及び比較例において、リチウム硫黄二次電池の作製方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の詳細を具体的な実施形態に基づき説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
[硫黄-炭素材料複合体]
本発明の硫黄-炭素材料複合体は、グラフェン積層構造を有する炭素材料と、スペーサーと、硫黄又は硫黄を含む化合物とを含む。スペーサーの少なくとも一部は、上記炭素材料のグラフェン層間又は端部に配置されている。また、スペーサーの少なくとも一部は、上記炭素材料のグラフェン層間に配置されていることが好ましい。硫黄又は硫黄を含む化合物の少なくとも一部は、上記炭素材料のグラフェン層間又は端部に配置されている。また、硫黄又は硫黄を含む化合物の少なくとも一部は、上記炭素材料のグラフェン層間に配置されていることが好ましい。本発明においては、硫黄又は硫黄を含む化合物の全部が、上記炭素材料のグラフェン層間に配置されていることが好ましい。もっとも、硫黄又は硫黄を含む化合物の一部は、上記炭素材料の表面に設けられていてもよい。
【0021】
ここで、スペーサーの少なくとも一部が、上記炭素材料のグラフェン層間又は端部に配置されているか否かは、例えば、本発明の硫黄-炭素材料複合体を二次電池の電極に用いる場合は、スライサーで切断した電極断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察することで確認することができる。
【0022】
また、硫黄又は硫黄を含む化合物の少なくとも一部が、上記炭素材料のグラフェン層間又は端部に配置されているか否かは、例えば、本発明の硫黄-炭素材料複合体を二次電池の電極に用いる場合は、以下のようにして確認することができる。具体的には、スライサーで切断した電極断面をSEM-EDX装置(日立ハイテク社製、品番「S-4300SE/N」)で観察し、2種類の元素(炭素と硫黄)によるマッピングを行うことで確認することができる。
【0023】
本発明の硫黄-炭素材料複合体は、グラフェン積層構造を有する炭素材料を含んでいるので、導電性が高められている。また、上記炭素材料のグラフェン層間には、硫黄又は硫黄を含む化合物に加えて、スペーサーが設けられている。このような硫黄-炭素材料複合体を例えば二次電池の正極に用いて充放電を繰り返した場合、スペーサーにより、硫黄又は硫黄を含む化合物の電解液中への溶出が抑制される。硫黄又は硫黄を含む化合物の電解液中への溶出が抑制されることから、充放電の繰り返しによるサイクル特性が劣化し難くなり、二次電池の容量を高いレベルで維持することが可能となる。
【0024】
このように、本発明の硫黄-炭素材料複合体は、二次電池の電極に用いたときに、二次電池の充放電時におけるサイクル特性を劣化させ難く、容量を高いレベルで維持することができる。
【0025】
以下、本発明の硫黄-炭素材料複合体を構成する各材料の詳細について説明する。
【0026】
(グラフェン積層構造を有する炭素材料)
グラフェン積層構造を有する炭素材料としては、例えば、黒鉛、薄片化黒鉛、酸化薄片化黒鉛などが挙げられる。
【0027】
黒鉛とは、複数のグラフェンシートの積層体である。黒鉛のグラフェンシートの積層数は、通常、10万層~100万層程度である。黒鉛としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛又は膨張黒鉛などを用いることができる。膨張黒鉛は、通常の黒鉛よりもグラフェン層同士の層間が大きい。従って、黒鉛としては、膨張黒鉛を用いることが好ましい。
【0028】
薄片化黒鉛とは、元の黒鉛を剥離処理して得られるものであり、元の黒鉛よりも薄いグラフェンシート積層体をいう。薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、元の黒鉛より少なければよい。
【0029】
薄片化黒鉛において、グラフェンシートの積層数は、好ましくは1000層以下であり、より好ましくは500層以下である。グラフェンシートの積層数が上記上限以下である場合、薄片化黒鉛の比表面積をより一層大きくすることができる。
【0030】
薄片化黒鉛は、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛であることが好ましい。
【0031】
より具体的に、「部分的にグラファイトが剥離されている」とは、グラフェンの積層体において、端縁からある程度内側までグラフェン層間が開いており、すなわち端縁にてグラファイトの一部が剥離しており、中央側の部分ではグラファイト層が元の黒鉛又は一次薄片化黒鉛と同様に積層していることをいうものとする。従って、端縁にてグラファイトの一部が剥離している部分は、中央側の部分に連なっている。さらに、上記部分剥離型薄片化黒鉛には、端縁のグラファイトが剥離され薄片化したものが含まれていてもよい。
【0032】
ここで、薄片化黒鉛が、部分的にグラファイトが剥離されている構造を有する部分剥離型薄片化黒鉛である場合、スペーサー及び硫黄又は硫黄を含む化合物が、部分的にグラファイトが剥離されることによって層間が拡がったグラフェン層間に存在しているときも、上記炭素材料のグラフェン層間に配置されているといえる。
【0033】
このように、部分剥離型薄片化黒鉛は、中央側の部分において、グラファイト層が元の黒鉛又は一次薄片化黒鉛と同様に積層している。そのため、従来の酸化グラフェンやカーボンブラックより黒鉛化度が高く、導電性に優れている。従って、二次電池の電極に用いた場合、電極内での電子伝導性をより一層大きくすることができ、より一層大きな電流での充放電が可能となる。
【0034】
このような部分剥離型薄片化黒鉛は、黒鉛もしくは一次薄片化黒鉛と、樹脂とを含み、樹脂が黒鉛又は一次薄片化黒鉛にグラフト又は吸着により固定されている組成物を用意し、熱分解することにより得ることができる。なお、上記組成物中に含まれている樹脂の一部は残存していることが好ましい。すなわち、樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛であることが好ましい。もっとも、樹脂が完全に除去された部分剥離型薄片化黒鉛であってもよい。
【0035】
樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛は、グラフェン層間の層間距離が拡げられている部分剥離型薄片化黒鉛と、部分剥離型薄片化黒鉛のグラフェン層間に残存しており、部分剥離型薄片化黒鉛を構成するグラフェンに結合されている樹脂とを含む、複合材料である。
【0036】
このような樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛は、例えば、国際公開第2014/034156号に記載の製造方法により製造することができる。すなわち、例えば、樹脂が黒鉛または一次薄片化黒鉛に固定されている原料組成物に含まれている樹脂を熱分解することにより、樹脂の一部を残存させながら黒鉛または一次薄片化黒鉛を剥離する製造方法により製造することができる。
【0037】
原料として用いられる黒鉛としては、膨張黒鉛が好ましい。膨張黒鉛は、通常の黒鉛よりもグラフェン層の層間が大きいため、容易に剥離され得る。そのため、原料黒鉛として膨張黒鉛を用いることにより、樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛を容易に製造することができる。
【0038】
上記黒鉛では、グラフェンの積層数が10万層~100万層程度であり、BET比表面積は20m/g以下の値を有する。
【0039】
一方、樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛では、グラフェンの積層数が3000層以下であることが好ましい。樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛のBET比表面積は、40m/g以上であることが好ましく、100m/g以上であることがより好ましい。なお、樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛におけるBET比表面積の上限値は、通常、2500m/g以下である。
【0040】
なお、原料としては、黒鉛の代わりに一次薄片化黒鉛を用いてもよい。一次薄片化黒鉛とは、黒鉛を剥離することにより得られた薄片化黒鉛や、部分剥離型薄片化黒鉛、樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛のほか、従来公知の方法によって黒鉛を剥離することにより得られた薄片化黒鉛を広く含むものとする。一次薄片化黒鉛は、黒鉛を剥離することにより得られるものであるため、その比表面積は、黒鉛よりも大きいものであればよい。
【0041】
樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛に含まれる樹脂としては、特に限定されず、ラジカル重合性モノマーの重合体であることが好ましい。この場合、1種のラジカル重合性モノマーの単独重合体であってもよく、複数種のラジカル重合性モノマーの共重合体であってもよい。ラジカル重合性モノマーは、ラジカル重合性の官能基を有するモノマーである限り、特に限定されない。
【0042】
ラジカル重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、α-エチルアクリル酸メチル、α-ベンジルアクリル酸メチル、α-[2,2-ビス(カルボメトキシ)エチル]アクリル酸メチル、イタコン酸ジブチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジシクロヘキシル、α-メチレン-δ-バレロラクトン、α-メチルスチレン、α-アセトキシスチレンからなるα-置換アクリル酸エステル、グリシジルメタクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレートなどのグリシジル基や水酸基を持つビニルモノマー;アリルアミン、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートのようなアミノ基を有するビニルモノマー、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸、クロトン酸、2-アクリロイルオキシエチルサクシネート、2-メタクリロイルオキシエチルサクシネート、2-メタクリロイロキシエチルフタル酸などのカルボキシル基を有するモノマー;ユニケミカル社製、ホスマーM、ホスマーCL、ホスマーPE、ホスマーMH、ホスマーPPなどのリン酸基を有するモノマー;ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのアルコキシシリル基を有するモノマー;アルキル基やベンジル基などを有する(メタ)アクリレート系モノマーなどが挙げられる。
【0043】
樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛に含まれる樹脂としては、好ましくは、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、スチレンポリマー(ポリスチレン)、酢酸ビニルポリマー(ポリ酢酸ビニル)、ポリグリシジルメタクリレート、又はブチラール樹脂が好ましい。なお、上記樹脂は、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0044】
樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛中における樹脂の含有量は、1質量%~60質量%であることが好ましい。より好ましくは、5質量%~30質量%であり、さらに好ましくは10質量%~20質量%である。樹脂の含有量が少なすぎると、取り扱い性が低下したり、硫黄をグラフェン層間に十分に挿入できなかったりする場合がある。樹脂の含有量が多すぎると、十分な量の硫黄をグラフェン層間に挿入することができない場合がある。
【0045】
樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛においては、製造時に酸化工程を経ていないので、グラフェンが酸化されていない。従って、優れた導電性を発現する。また、グラフェンが酸化されていないため、高温及び不活性ガス存在下における煩雑な還元処理を必要としない。
【0046】
また、樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛では、グラフェン層間の層間距離が拡げられており、その比表面積が大きい。さらに、樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛は、中心部分がグラファイト構造を有し、エッジ部分が薄片化している構造を有することから、従来の薄片化黒鉛よりも取り扱いが容易である。また、樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛は、樹脂を含むため、他の樹脂中への分散性が高い。特に、他の樹脂が、樹脂残存型の薄片化黒鉛に含まれる樹脂と親和性の高い樹脂である場合、樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛の他の樹脂への分散性は、より一層高められることとなる。
【0047】
本発明において、グラフェン積層構造を有する炭素材料のC/O比は、2以上、20以下であることが好ましい。炭素材料のC/O比が、上記範囲内にある場合、硫黄-炭素材料複合体の導電性をより一層高めることができる。
【0048】
また、本発明において、グラフェン積層構造を有する炭素材料1gあたりのメチレンブルー吸着量(μmol/g)をyとし、上記炭素材料のBET比表面積(m/g)をxとしたときに、比y/xが、0.15以上であることが好ましい。なお、比y/xの上限は、特に限定されないが、例えば1.0程度とすることができる。
【0049】
メチレンブルー吸着量(μmol/g)は、次のようにして測定される。最初に、10mg/L濃度のメチレンブルーのメタノール溶液の吸光度(ブランク)を測定する。次に、メチレンブルーのメタノール溶液に測定対象物(上記炭素材料)を投入し、遠心分離により得られた上澄み液の吸光度(サンプル)を測定する。最後に、吸光度(ブランク)と吸光度(サンプル)との差から1g当たりのメチレンブルー吸着量(μmol/g)を算出する。
【0050】
なお、上記メチレンブルー吸着量と、炭素材料のBETにより求められた比表面積には相関が存在する。従来から知られている球状の黒鉛粒子では、BET比表面積(m/g)をx、上記メチレンブルー吸着量(μmol/g)をyとしたとき、y≒0.13xの関係にあった。これは、BET比表面積が大きい程、メチレンブルー吸着量が多くなることを示している。従って、メチレンブルー吸着量は、BET比表面積の代わりの指標となり得るものである。
【0051】
本発明では、上述のとおり、上記炭素材料の比y/xが、0.15以上であることが好ましい。これに対して、従来の球状の黒鉛粒子では、比y/xが0.13である。従って、比y/xが0.15以上である場合、従来の球状の黒鉛とは、同じBET比表面積でありながら、メチレンブルー吸着量が多くなる。すなわち、この場合、乾燥状態では幾分凝縮するものの、メタノール中などの湿式状態では、乾燥状態に比べグラフェン層間又はグラファイト層間をより一層拡げることができる。なお、比y/xが0.15以上の上記炭素材料としては、例えば、上述の樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛が挙げられる。
【0052】
(スペーサー)
スペーサーの少なくとも一部は、グラフェン積層構造を有する炭素材料のグラフェン層間に配置されていることが好ましい。スペーサーは、上記炭素材料の端部におけるグラフェン層間に配置されていてもよい。なお、スペーサーの全部が上記炭素材料のグラフェン層間に配置されていることが好ましいが、スペーサーの一部は上記炭素材料のグラフェン層間に配置されていなくてもよい。この場合、スペーサーの一部は、上記炭素材料のグラフェン層における端面に付着していてもよく、上記炭素材料の表面に付着していてもよい。
【0053】
また、スペーサーは、グラフェン積層構造を有する炭素材料のグラフェン層間において、炭素材料を構成するグラフェンに吸着又はグラフトにより結合していることが望ましい。
【0054】
スペーサーの材料としては、例えば、樹脂が挙げられる。樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、スチレンポリマー、酢酸ビニルポリマー、ポリグリシジルメタクリレート、ブチラール樹脂が挙げられる。
【0055】
スペーサーが樹脂である場合、例えば、上述した樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛を用いることができる。この場合、残存している樹脂がスペーサーであり、部分剥離型薄片化黒鉛が炭素材料である。樹脂の少なくとも一部が、部分剥離型薄片化黒鉛のグラフェン層間に配置されており、部分剥離型薄片化黒鉛を構成するグラフェンにグラフトにより結合されている。
【0056】
また、グラフェン積層構造を有する炭素材料を第1の炭素材料としたときに、スペーサーの材料として、第1の炭素材料とは異なる第2の炭素材料を用いてもよい。第2の炭素材料としては、特に限定されないが、各種の活性炭、多孔質構造を有するメソポーラスカーボン、中空構造を有するナノカーボン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェンなどを用いることができる。このように、スペーサー材料としては、それ自体が大きな比表面積を持つ材料を用いることがより好ましい。このような材料を用いることで、後述する硫黄との複合体を作製する際に、より一層多くの硫黄を担持することが可能となる。
【0057】
スペーサーが第2の炭素材料である場合、例えば、上述した樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛における残存樹脂を第2の炭素材料に置換した置換型の部分剥離型薄片化黒鉛を用いることができる。
【0058】
このような置換型の部分剥離型薄片化黒鉛は、樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛に、スペーサーとなる第2の炭素材料を吸着させた後、残存樹脂を加熱除去することによって得ることができる。
【0059】
なお、スペーサーとしては、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)などの無機微粒子を用いてもよい。
【0060】
(硫黄)
硫黄又は硫黄を含む化合物の少なくとも一部は、上記炭素材料のグラフェン層間に配置されている。硫黄又は硫黄を含む化合物の全部が、炭素材料のグラフェン層間に配置されていることが好ましい。もっとも、硫黄又は硫黄を含む化合物の一部は、炭素材料の表面に付着していてもよい。
【0061】
硫黄を含む化合物としては、特に限定されず、例えば、硫化リチウム、硫化チタン、硫化リンなどの無機化合物や、直鎖アルキル、分岐アルキル、環状アルカン、芳香族炭化水素、ヘテロ原子含有芳香族炭化水素などの構造を有する有機化合物と、硫黄とが結合した化合物などが挙げられる。
【0062】
また、硫黄又は硫黄を含む化合物と、他の材料との複合材を用いてもよい。このような複合材としては、例えばポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアクリロニトリル、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)などの導電性ポリマーと、硫黄又は硫黄を含む化合物との複合材が挙げられる。
【0063】
グラフェン積層構造を有する炭素材料として、樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛や、置換型の部分剥離型薄片化黒鉛を用いる場合、例えば、以下のようにして硫黄又は硫黄を含む化合物と複合化することができる。
【0064】
具体的な方法としては、樹脂残存型又は置換型の部分剥離型薄片化黒鉛を分散させた水又は有機溶媒中に、硫黄又は硫黄を含む化合物を加えて、上記部分剥離型薄片化黒鉛に硫黄又は硫黄を含む化合物を吸着させることにより複合化する方法が挙げられる。上記吸着は、グラフトのような化学的吸着であってもよく、物理的吸着であってもよい。また、硫黄又は硫黄を含む化合物と、部分剥離型薄片化黒鉛とを乾式混合した後、混合物を硫黄の融点(約115℃)又は硫黄を含む化合物の融点以上に加熱して硫黄又は硫黄を含む化合物を融解複合化させる方法などを用いてもよい。
【0065】
なお、樹脂残存型又は置換型の部分剥離型薄片化黒鉛の代わりに、他のグラフェン積層構造を有する炭素材料とスペーサーの複合材を用いて、上記方法により硫黄又は硫黄を含む化合物と複合化させてもよい。
【0066】
硫黄又は硫黄を含む化合物の含有量は、特に限定されず、硫黄-炭素材料複合体中における硫黄又は硫黄を含む化合物の含有量が、20重量%以上、90重量%以下であることが好ましい。硫黄又は硫黄を含む化合物の含有量が、上記下限以上である場合、二次電池の容量をより一層大きくすることができる。硫黄又は硫黄を含む化合物の含有量が、上記上限以下である場合、充放電時における硫黄の流出をより一層効果的に抑制することができる。
【0067】
[リチウム硫黄二次電池用正極材]
本発明のリチウム硫黄二次電池用正極材は、本発明に従って構成される硫黄-炭素材料複合体を含む。従って、本発明のリチウム硫黄二次電池用正極材を用いてリチウム硫黄二次電池を作製した場合、リチウム硫黄二次電池の充放電時におけるサイクル特性の劣化が生じ難く、リチウム硫黄二次電池の容量を高いレベルで維持することができる。
【0068】
本発明のリチウム硫黄二次電池用正極材は、上記活物質-炭素材料複合体のみで形成されていてもよいが、正極をより一層容易に形成する観点から、バインダー樹脂がさらに含まれていてもよい。
【0069】
バインダー樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系ポリマー、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリブチラール、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂などから選択することができる。
【0070】
また、本発明のリチウム硫黄二次電池用正極材は、導電助剤をさらに含んでいてもよい。この場合、リチウム硫黄二次電池用正極材の導電性をより一層高めることができる。
【0071】
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラックや、人造黒鉛・天然黒鉛などの黒鉛系材料、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバー、グラフェンなどを用いることができる。
【0072】
本発明のリチウム硫黄二次電池正極材の形状としては、特に限定されず、フィルム状、シート状、粒状などの適宜の形状のものを用いることができる。
【0073】
本発明のリチウム硫黄二次電池正極材を製造する方法は、特に限定されないが、例えば、本発明の硫黄-炭素材料複合体を水または有機溶媒に溶解または分散させてスラリーを作製した後、該スラリーを電流集電体上に塗布する方法が挙げられる。上記スラリーを作製する際には、必要に応じ、上記のバインダー樹脂や導電助剤を添加することができる。
【0074】
上記電流集電体としては、ステンレススチール、アルミニウム、カーボンペーパー、銅などを用いることができる。なかでも、アルミニウムが好適に用いられる。
【0075】
(リチウム硫黄二次電池)
本発明に係るリチウム硫黄二次電池は、本発明に従って構成されるリチウム硫黄二次電池正極材により構成される正極を備える。そのため、充放電時におけるサイクル特性の劣化が生じ難く、容量を高いレベルで維持することができる。
【0076】
リチウム硫黄二次電池の対極となる負極としては、特に限定されないが、例えば、黒鉛などの炭素系材料や、シリコン若しくはその化合物、金属リチウム、あるいはこれらの複合体からなる活物質を電極板上に塗布したものを用いることができる。
【0077】
また、リチウム硫黄二次電池の電解液としては、例えば、塩化リチウム(LiCl)、パークロロリチウム(LiClO)、硝酸リチウム(LiNO)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCFSO)、リチウムトリフルオロメタンスルホニルアミド(LiTFSA)からなる群から選ばれる1種または複数の電解質を、溶媒に溶解したものを好適に用いることができる。上記溶媒としては、ジオキソラン(DOL)、ジメトキシエタン(DME)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、又はこれらのうち2種以上を含む混合溶媒が挙げられる。
【0078】
リチウム硫黄二次電池を構成するに当たっては、正極及び負極を、セパレーターを介して対向させ、その間隙に電解液を充填する。セパレーターとしては、例えば、ポリオレフィン樹脂、フッ素含有樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ナイロン樹脂、アラミド樹脂などにより構成される多孔質膜や不織布などを用いることができる。
【0079】
次に、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより本発明を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0080】
(実施例1)
(樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛の調製)
膨張化黒鉛(東洋炭素社製、商品名「PFパウダー8F」、BET比表面積=22m/g)10gと、熱分解性発泡剤としてのADCA(永和化成工業社製、商品名「ビニホール AC#R-K3」、熱分解温度:210℃)20gと、ポリプロピレングリコール(三洋化成工業社製、商品名「サンニックスGP-3000」、平均分子量=3000)200gと、溶媒としてのテトラヒドロフラン200gとを混合し、原料組成物を用意した。原料組成物に、超音波処理装置(本多電子社製)を用い、100W、発振周波数:28kHzで5時間超音波を照射した。超音波照射により、ポリプロピレングリコール(PPG)を膨張化黒鉛に吸着させた。このようにして、ポリプロピレングリコールが膨張化黒鉛に吸着されている組成物を用意した。
【0081】
次に、上記超音波照射後に、上記ポリプロピレングリコールが膨張化黒鉛に吸着されている組成物を溶液流延法により成形し、温度80℃で2時間、110℃で1時間、150℃で1時間加熱乾燥した。しかる後、110℃で1時間維持し、さらには、230℃で2時間維持した。それによって、上記組成物中において上記ADCAを熱分解し、発泡させた。
【0082】
次に、450℃の温度で0.5時間維持する加熱工程を実施した。それによって、上記ポリプロピレングリコールの一部を熱分解し、樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛を得た。この樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛では、ポリプロピレングリコールの一部が残存しており、ポリプロピレングリコールは、部分剥離型薄片化黒鉛の層間において、部分剥離型黒鉛を構成するグラフェンに吸着していた。
【0083】
得られた樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛のBET比表面積を、比表面積測定装置(島津製作所社製、品番「ASAP-2000」、窒素ガス)を用いて測定した結果、104m/gであった。
【0084】
また、得られた樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛のメチレンブルー吸着量は、下記手順にて測定した結果、67.0μmol/gであった。また、前述のBET比表面積をxとし、メチレンブルー吸着量をyとしたとき、比y/xは、0.447であった。
【0085】
メチレンブルー吸着量の測定は、次の通りに実施した。最初に、メスフラスコに、10.0mg/L、5.0mg/L、2.5mg/L、1.25mg/Lの濃度のメチレンブルー(関東化学社製、特級試薬)のメタノール溶液を調製し、各々の吸光度を紫外可視分光光度計(島津製作所社製、品番「UV-1600」)で測定し、検量線を作成した。次に、10.0mg/Lのメチレンブルーを調製し、100mLのナスフラスコに測定対象の炭素材料である樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛(0.005~0.05g、試料のBET値によって変更)、メチレンブルー溶液(10.0mg/L、50mL)、及びスターラーバーを加え、15分間超音波洗浄機(AS ONE社製)で処理した後に、冷却バス(25℃)中で60分撹拌した。さらに、吸着平衡に達した後、遠心分離により炭素材料(樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛)と上澄み液とを分離し、ブランクの10mg/Lのメチレンブルー溶液、及び上記上澄み液の吸光度を紫外可視分光光度計で測定し、ブランクと上澄み液との吸光度の差を算出した。
【0086】
最後に、上記吸光度の差と上記検量線からメチレンブルー溶液の濃度の減少量を算出し、下記式(1)により、測定対象の炭素材料表面のメチレンブルー吸着量を算出した。
【0087】
吸着量(mol/g)={メチレンブルー溶液の濃度の減少量(g/L)×測定溶媒の体積(L)}/{メチレンブルーの分子量(g/mol)×測定に用いた炭素材料の質量(g)}…式(1)
【0088】
(硫黄-炭素材料複合体の作製)
上記のようにして得られた樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛と硫黄(アルドリッチ社製)とを重量比で1:2になるように乳鉢で混合後、155℃にて8時間加熱処理することにより、部分剥離型薄片化黒鉛-硫黄複合体(硫黄-炭素材料複合体)を得た。従って、硫黄-炭素材料複合体中における硫黄の含有量は、66.7重量%であった。
【0089】
(リチウム硫黄二次電池用正極の作製)
上記硫黄-炭素材料複合体に、バインダーとしてのアルギン酸ナトリウム(キシダ化学社製)を、重量比で9:1となるように混合し、溶媒としての水の中に分散させることにより、スラリーを作製した。スラリーの固形分濃度を測定したところ、14重量%であった。上記の手順で調製したスラリーを、電極板としてカーボンペーパー(東レ社製、品番「TGP-H-060」)上に塗布し、60℃で12時間乾燥させることにより、リチウム硫黄二次電池用正極を作製した。
【0090】
(リチウム硫黄二次電池用正極中の硫黄担持状態の確認)
上記のようにして作製したリチウム硫黄二次電池用正極中での硫黄担持状態を確認するため、電極(正極)断面観察による元素分析を実施した。スライサーで切断した電極断面をSEM-EDX装置(日立ハイテク社製、品番「S-4300SE/N」)で観察し、2種類の元素(炭素と硫黄)によるマッピングを行った。その結果、電極内においては硫黄が主として部分剥離型薄片化黒鉛の層間に担持されていることが確認された。
【0091】
また、スライサーで切断した電極断面をSEM(走査型電子顕微鏡、日立ハイテク社製、品番「S-4300SE/N」、倍率30000倍)で観察した結果、樹脂が部分剥離型薄片化黒鉛の層間や端部に存在していることが確認された。
【0092】
(実施例2)
バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(クレハ社製)をN-メチルピロリドンに溶解させた溶液に対し、実施例1と同様にして作製した硫黄-炭素材料複合体を、バインダーとの重量比(固形分)が9:1となるように加え、15分間撹拌し、3分間脱泡してスラリーを作製した。スラリーの固形分濃度を測定したところ、41重量%であった。
【0093】
上記の手順で調製したスラリーを、電極板としてアルミ箔上に塗布し、60℃で12時間乾燥させることにより、リチウム硫黄二次電池用正極を作製した。
【0094】
(実施例3)
チオ硫酸ナトリウム法による硫黄-炭素材料複合体の調製;
実施例1と同様に得られた樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛0.13gをテトラヒドロフラン水溶液(体積比1:1)29.6gに分散させ、3時間超音波処理を行った。この分散液にチオ硫酸ナトリウム(Na・5HO)2.04gと塩酸0.253mlを加え、70℃で5分間攪拌後、水による洗浄と遠心分離を5サイクル行い、さらに室温で真空乾燥を行って硫黄-炭素材料複合体を得た。
【0095】
このようにして得られた硫黄-炭素材料複合体を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム硫黄二次電池用正極を作製した。
【0096】
なお、得られた電極(正極)内において、硫黄が主として部分剥離型薄片化黒鉛の層間に担持されていること、樹脂が部分剥離型薄片化黒鉛の層間や端部に存在していることを実施例1と同様の方法で確認した。
【0097】
(実施例4)
残存樹脂を置換した部分剥離型薄片化黒鉛の調製;
実施例1と同様にして得られた樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛0.3gを、テトラヒドロフラン(THF)15gに対し分散させた。得られた分散液に、別途、微粒子としてカーボンブラック(ライオン社製、商品名「ケッチェンブラックEC600JD」)をTHFに0.15g分散させた分散液を添加し、部分剥離型薄片化黒鉛(樹脂比率65重量%)と活性炭を重量比で2:1の割合で混合した。得られた混合液について、ろ過により溶媒を除いた後、真空乾燥を行った。続いて、得られた粉体を400℃で3時間、加熱することにより、樹脂のみを選択的に取り除き、複合体を得た。従って、得られた複合体において、樹脂は除去されており、炭素材料である部分剥離型薄片化黒鉛と、微粒子である活性炭の重量比は、1:1であった。
【0098】
実施例1の樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛の代わりに、このようにして得られた置換型の部分剥離型薄片化黒鉛を用いたこと以外は、実施例1と同様にして硫黄-炭素材料複合体及びリチウム硫黄二次電池用正極を作製した。
【0099】
なお、得られた電極(正極)内において、硫黄が主として部分剥離型薄片化黒鉛の層間に担持されていることを実施例1と同様の方法で確認した。また、スライサーで切断した電極断面をSEM(走査型電子顕微鏡、日立ハイテク社製、品番「S-4300SE/N」、倍率30000倍)で観察した結果、微粒子としてのカーボンブラックが部分剥離型薄片化黒鉛の層間や端部に存在していることが確認された。
【0100】
(比較例1)
樹脂残存型の部分剥離型薄片化黒鉛の代わりにケッチェンブラック(ライオン社製、商品名「EC300J」)を用い、ケッチェンブラックと硫黄(アルドリッチ社製)とを重量比で1:2になるように乳鉢で混合後、155℃にて8時間加熱処理することにより複合体を作製した。
【0101】
得られた複合体に、バインダーとしてのPVA(クラレ社製、71%けん化品)を、重量比で9:1となるように混合し、溶媒としてのN-メチルピロリドンに分散させることにより、スラリーを作製した。スラリーの固形分濃度を測定したところ、18重量%であった。
【0102】
上記スラリーをカーボンペーパー(東レ社製、品番「TGP-H-060」)上に塗布し、60℃で12時間乾燥させることにより、リチウム硫黄二次電池用正極を作製した。
【0103】
(比較例2)
ケッチェンブラックの代わりにアセチレンブラック(デンカ社製)を用いたこと以外は、比較例1と同様の手順でスラリーを作製した。得られたスラリーを用いて、比較例1と同様の手順でリチウム硫黄二次電池用正極を作製した。
【0104】
(評価方法)
実施例及び比較例において、BET比表面積及び硫黄担持量は、以下のようにして測定した。
【0105】
BET比表面積;
BET比表面積は、比表面積測定装置(島津製作所社製、品番「ASAP-2000」)により窒素ガスを用いて測定した。
【0106】
硫黄担持量;
硫黄担持量は、電極重量から集電体の重量を差し引き、硫黄の仕込み比を乗ずることにより算出した。
【0107】
(リチウム硫黄二次電池の作製)
実施例1,2及び比較例1,2において作製したリチウム硫黄二次電池用正極を用いて、リチウム硫黄二次電池を作製した。なお、図1は、リチウム硫黄二次電池の作製方法を説明するための模式図である。
【0108】
具体的には、実施例1,2及び比較例1,2において作製したリチウム硫黄二次電池用正極を10mm径に打ち抜いて正極2とした。2032型コインセル容器1に正極2、セパレーター3(セルガード社製、厚み200μm)、リチウム金属負極4(厚み100μm)、負極蓋5を順に積層し、正極2とセパレーター3との間隙及びセパレーター3とリチウム金属負極4との間隙に電解液160μLを充填、封止してコインセル型リチウム硫黄二次電池を作製した。用いた電解液は1mol/Lのリチウムトリフルオロメタンスルホニルアミド(LiTFSA)と、0.1mol/LのLiNO(DOL/DME 1:1wt%混合液)である。
【0109】
(充放電試験)
上記のようにして作製したコインセル型リチウム硫黄二次電池を用いて充放電試験を実施した。充放電は、電圧1.7Vから3.3Vの範囲において、充放電レート1/12Cで実施した。このようにして実施した充放電試験において、下記式(2)で示す50サイクル充放電後における容量維持率を下記の表1に示す。
【0110】
容量維持率(%)=((50サイクル充放電後の容量)/(初期容量))×100…式(2)
【0111】
下記の表1に示すように、実施例1,2では、比較例1,2に比べて電池容量のサイクル劣化が抑制されおり、高いレベルで容量を維持できていることが確認できた。
【0112】
なお、下記の表1には記載していないが、実施例3,4においても実施例1と同等の容量維持率が得られることを確認した。
【0113】
【表1】
【符号の説明】
【0114】
1…2032型コインセル容器(正極缶)
2…正極
3…セパレーター
4…リチウム金属負極
5…負極蓋
図1