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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/06 20060101AFI20220921BHJP
   A61K 8/14 20060101ALI20220921BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20220921BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
A61K8/06
A61K8/14
A61K8/73
A61Q11/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022031258
(22)【出願日】2022-03-01
【審査請求日】2022-03-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(73)【特許権者】
【識別番号】303034274
【氏名又は名称】悠香ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 和夫
(72)【発明者】
【氏名】今井 洋子
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 佳那
(72)【発明者】
【氏名】山下 和也
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 悟
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-087096(JP,A)
【文献】特開2010-235512(JP,A)
【文献】特開2016-074656(JP,A)
【文献】国際公開第2010/064678(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 6/00- 6/90
C09K 23/00-23/56
A01N 1/00-65/48
A01P 1/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油性抗菌成分を含む油相と、
水相と、
前記油相と前記水相との界面に存在し、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体および水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子の少なくとも一方と
を含み、O/W型エマルションであることを特徴とする口腔用組成物。
【請求項2】
前記口腔用組成物中の前記油相の含有割合は、5.00×10-3質量%以上80.00質量%以下である、請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
前記口腔用組成物中の前記油性抗菌成分の含有割合は、5.00×10-3質量%以上10.00質量%以下である、請求項1または2に記載の口腔用組成物。
【請求項4】
前記油性抗菌成分は、炭素数6以上16以下のアルキル脂肪酸、低級脂肪酸モノグリセリド、分子量600以下のモノテルペン炭化水素類、セスキテルペン炭化水素類、ジテルペン炭化水素類、モノテルペンアルコール類、セスキテルペンアルコール類、ジテルペンアルコール類、フェノール類、ケトン類、テルペンアルデヒド類、脂肪族アルデヒド類、芳香族アルデヒド類、フェノールエーテル類、ラクトン類、エステル類、エーテル類、オキサイド類、カルボン酸類および有機酸類からなる群より選択される1種以上の抗菌成分である、請求項1~3のいずれか1項に記載の口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内には、様々な細菌や真菌が存在し、これらの複数の口腔常在菌によりバイオフィルムが形成される。このバイオフィルムのケアが不十分であると歯周病や口臭のみならず、全身に悪影響を及ぼすことが明らかになっている。こうした状況から、口腔内に存在する細菌や真菌への対策を講じることが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、25℃で液体である油剤(A)を含有すると共に、メントール(B)、チモール(C-1)およびカルバクロール(C-2)から選ばれる1種または2種以上と、ローズ、ラベンダー、カモミール、ジャスミン、オリスおよびバイオレットから選ばれる1種以上の成分(D)とを含有してなる油層と、水層との2層が分離してなる2層分離型液体口腔用組成物が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、1つ又は2つ以上の抗菌精油を含む油相と、少なくとも1つのポリオール溶媒及び少なくとも1つの糖アルコール溶媒を含む溶媒系と、少なくとも1つのアルキルサルフェート界面活性剤と、任意に少なくとも1つの追加の界面活性剤と、水を含む水相と、を含む、抗菌口内洗浄剤組成物が記載されている。抗菌口内洗浄剤組成物中の油相と溶媒系とアルキルサルフェート界面活性剤との比は、重量で1:60:1.5程度である。
【0005】
また、口腔用途以外では、家畜の腸内に存在する菌類の生育を抑制する目的として、水相に、自発的自己組織化作用で形成される両親媒性物質の閉鎖小胞体並びに、中鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸モノグリセリドの少なくとも一方を含む油性成分を含み、酸性域に維持され、閉鎖小胞体が水相と油性成分の油滴相との界面に介在することにより油性成分が乳化状態に維持される家畜用乳化状酸性組成物が特許文献3に記載されている。
【0006】
また、皮膚に塗布して用いられ、内相は油相であり、外相は水相であり、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体または水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子を含むO / W エマルション型であり、さらに、消臭成分を含有する制汗剤またはデオドラント剤が特許文献4に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-051445号公報
【文献】特開2012-012394号公報
【文献】特開2015-131769号公報
【文献】特開2016-104713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のような2層分離型の口腔用組成物では、混ざりにくい成分を混合している。そのため、時間の経過と共に、各成分が分離し、口腔用組成物の作用が低下する。また、特許文献2の抗菌口内洗浄剤組成物では、界面活性剤が用いられている。場合によっては、界面活性剤の含有量は油相の含有量よりも多い。界面活性剤には、刺激が強いなどの問題がある。特に、口腔用組成物は口腔内で使用されるため、口腔用組成物には嗜好性が求められる。また、口腔用組成物が口腔内で長期間に亘って安定した抗菌特性を発揮するためには、口腔内における口腔用組成物の滞留性の向上が求められている。また、口腔用組成物にアルコールが含まれている場合には、アルコール耐性の低い人には不向きであること、アルコールは刺激があるので味覚に悪影響を与えること、抗菌成分や溶剤のアルコールへの高溶解性により口腔用組成物の滞留性が低下することなどがある。また、特許文献3の家畜用乳化状酸性組成物は、直接家畜腸内に抗菌成分を入れるため、腸内に届くまでの乳化状態を安定的に維持する技術であり、特許文献4の制汗剤またはデオドラント剤は、皮膚に塗布して、皮膚に対する良好な使用感および消臭成分の皮膚付着性を改善する技術であることから、口腔内で生じる様々な問題を解決する技術分野とは大きくかけ離れている。
【0009】
本発明の目的は、安定して優れた抗菌特性を有すると共に良好な嗜好性ならびに口腔内の分散性および滞留性を有する口腔用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1] 油性抗菌成分を含む油相と、水相と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体および水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子の少なくとも一方とを含み、O/W型エマルションであることを特徴とする口腔用組成物。
[2] 前記口腔用組成物中の前記油相の含有割合は、5.00×10-3質量%以上80.00質量%以下である、上記[1]に記載の口腔用組成物。
[3] 前記口腔用組成物中の前記油性抗菌成分の含有割合は、5.00×10-3質量%以上10.00質量%以下である、上記[1]または[2]に記載の口腔用組成物。
[4] 前記油性抗菌成分は、炭素数6以上16以下のアルキル脂肪酸、低級脂肪酸モノグリセリド、分子量600以下のモノテルペン炭化水素類、セスキテルペン炭化水素類、ジテルペン炭化水素類、モノテルペンアルコール類、セスキテルペンアルコール類、ジテルペンアルコール類、フェノール類、ケトン類、テルペンアルデヒド類、脂肪族アルデヒド類、芳香族アルデヒド類、フェノールエーテル類、ラクトン類、エステル類、エーテル類、オキサイド類、カルボン酸類および有機酸類からなる群より選択される1種以上の抗菌成分である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、安定して優れた抗菌特性を有すると共に良好な嗜好性ならびに口腔内の分散性および滞留性を有する口腔用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例7-1で染色したアパタイトプレートをデジタルカメラで撮影した写真である。
図2図2は、比較例7-1で染色したアパタイトプレートをデジタルカメラで撮影した写真である。
図3図3は、比較例7-2で染色したアパタイトプレートをデジタルカメラで撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態に基づき詳細に説明する。
【0014】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、界面活性剤による乳化機構と全く異なる三相乳化技術を適用して油性抗菌成分を乳化することで、口腔内の分散性および滞留性を向上でき、油性抗菌成分を含む乳化粒子(三相乳化粒子)が水相中に安定して分散するために、優れた抗菌特性を長期間に亘って安定して発揮でき、さらには従来のような界面活性剤を用いた口腔用組成物に比べて嗜好性を向上できることを見出し、かかる知見に基づき本開示を完成させるに至った。
【0015】
実施形態の口腔用組成物は、油性抗菌成分を含む油相と、水相と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体(以下、単に閉鎖小胞体ともいう)および水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子(以下、単に重縮合ポリマーの粒子ともいう)の少なくとも一方とを含み、O/W型エマルションである。口腔用組成物は、閉鎖小胞体や重縮合ポリマーの粒子を用いた、いわゆる三相乳化法を適用した組成物である。
【0016】
油性抗菌成分を含む油相の周囲には、閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の少なくとも一方が複数存在し、さらにその外側には、水相が存在する。すなわち、油性抗菌成分を含む油相と水相との界面には、閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の少なくとも一方が複数存在すると共に、水相が連続相である。このように、口腔用組成物は、油性抗菌成分を含む油相が水相中に分散されるO/W型エマルションである。
【0017】
口腔用組成物は、閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の少なくとも一方が粒子状の油相(以下、油滴ともいう)の周囲に多数存在する、乳化粒子(三相乳化粒子)を多数含有する。油性抗菌成分を含む乳化粒子の周囲には水相が存在し、多数の乳化粒子は水相中に分散される。
【0018】
自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体は、水性成分中で自発的に閉鎖小胞体を形成する性質を有する。閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子は、いわゆる三相乳化能を有する粒子として知られている。閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の表面は親水性であるため、閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子は、互いに斥力が発生する。
【0019】
油性抗菌成分を含む油相の表面に閉鎖小胞体や重縮合ポリマーの粒子が多数存在、すなわち油性抗菌成分を含む油相の表面が多数の閉鎖小胞体や重縮合ポリマーの粒子で覆われることで、油性抗菌成分を含む油相同士には斥力が発生する。油相間に発生する斥力は、油相間に発生する引力よりも大きい。そのため、水相中での油性抗菌成分を含む油相同士の凝集、換言すると乳化粒子同士の凝集が抑制され、油性抗菌成分を含む油相の分散性が維持および向上する。
【0020】
このような三相乳化法は、閉鎖小胞体や重縮合ポリマーの粒子が、油相と水相との界面に存在して、ファンデルワールス力により油相に付着することで、乳化を可能とするものである。三相乳化機構は、親水性部分および疎水性部分をそれぞれ水相および油相に向け、油水界面張力を下げることで乳化状態を維持する、界面活性剤による乳化機構とは全く異なる(例えば特許3855203号公報参照)。実施形態の口腔用組成物では、上記のように、閉鎖小胞体や重縮合ポリマーの粒子が油性抗菌成分を含む油相を乳化している。
【0021】
口腔用組成物では、油相と水相との界面に、複数の閉鎖小胞体のみが存在してもよいし、複数の重縮合ポリマーの粒子のみが存在してもよいし、複数の閉鎖小胞体および複数の重縮合ポリマーの粒子が混在してもよい。
【0022】
このような口腔用組成物に含まれる油性抗菌成分は油性である。油性抗菌成分のみからなる口腔用組成物、すなわち油性抗菌成分のみを口腔に使用すると、油性抗菌成分は、唾液中で容易には分散せず、場合によっては唾液と分離する。そのため、油性抗菌成分の抗菌特性は、口腔内全体には十分に発揮されない。さらには、油性抗菌成分のみからなる口腔用組成物の嗜好性は悪い。一方で、実施形態の口腔用組成物では、油性抗菌成分が乳化粒子の状態で水相に分散されている。口腔用組成物を口腔に使用しても、水相に分散されている油性抗菌成分は唾液中でも良好な分散性を維持できる。特に、唾液に対する口腔用組成物の含嗽時の分散性が優れている。そのため、口腔用組成物は、口腔内全体で安定して優れた抗菌特性を有することができる。
【0023】
さらに、口腔用組成物は、界面活性剤による乳化機構と全く異なる三相乳化技術を適用している。口腔用組成物では、従来の界面活性剤を用いた組成物に比べて、界面活性剤の量を大幅に減少でき、場合によっては界面活性剤を含まない。すなわち、界面活性剤由来の嗜好性の低下を抑制できる。そのため、口腔用組成物は、良好な嗜好性を有することができる。
【0024】
さらに、口腔用組成物は、三相乳化で形成した乳化粒子を含む。三相乳化で形成した乳化粒子は、従来の界面活性剤を用いた組成物に比べて、歯の表面や粘膜の表面など、物質の表面に対する吸着力が強い。油性抗菌成分を含む乳化粒子に外力が働いても、乳化粒子は口腔内の表面から脱着されにくく、口腔用組成物は口腔内の滞留性に優れている。そのため、口腔用組成物は、口腔内で長期間に亘って安定した抗菌特性を有する。また、実施形態の口腔用組成物は、水性抗菌成分とも共存できるため、口腔内の洗浄に優れている。
【0025】
また、上記のように、口腔用組成物は口腔内の分散性および滞留性に優れていることから、口腔内では細菌が繁殖しにくい。このように、口腔用組成物は、長期に亘って口腔内における細菌の繁殖を抑制できる。
【0026】
また、エタノールなどのアルコールを用いなくても、油性抗菌成分は水相に安定して分散する。そのため、従来のアルコールを含む口腔用組成物に比べて、アルコールの量を大幅に減少でき、場合によってはアルコールを含まない。そのため、実施形態の口腔用組成物は、アルコール耐性の低い人でも良好に使用できることに加えて、アルコールに起因する味覚への悪影響や口腔用組成物の滞留性の低下などを抑制できる。
【0027】
口腔用組成物における油相は、油性抗菌成分を含む。油相は、油性抗菌成分のみからなってもよいし、油性抗菌成分に加えて他の油性成分を含んでもよい。
【0028】
油性抗菌成分は、口腔内に存在する好気性、嫌気性問わず、真菌や細菌に対して抗菌特性を有する。好ましくは、油性抗菌成分は、カンジダ菌および大腸菌に対して抗菌特性を有する。油性抗菌成分は、優れた抗菌特性を有する観点から、炭素数6以上16以下のアルキル脂肪酸、低級脂肪酸モノグリセリド、分子量600以下のモノテルペン炭化水素類、セスキテルペン炭化水素類、ジテルペン炭化水素類、モノテルペンアルコール類、セスキテルペンアルコール類、ジテルペンアルコール類、フェノール類、ケトン類、テルペンアルデヒド類、脂肪族アルデヒド類、芳香族アルデヒド類、フェノールエーテル類、ラクトン類、エステル類、エーテル類、オキサイド類、カルボン酸類および有機酸類からなる群より選択される1種以上の抗菌成分であることが好ましい。炭素数6以上16以下のアルキル脂肪酸としては、カプリル酸およびカプリン酸であることが好ましい。低級脂肪酸モノグリセリドとしては、カプリル酸グリセリドおよびカプリン酸グリセリドであることが好ましい。分子量600以下のモノテルペン炭化水素類としては、リモネンおよびテルピネンであることが好ましい。セスキテルペン炭化水素類としては、ファルネセンであることが好ましい。ジテルペン炭化水素類としては、ゲラニルゲラニオールであることが好ましい。モノテルペンアルコール類としては、メントールおよびネロールであることが好ましい。セスキテルペンアルコール類としては、ネロリドールおよびパチュリアルコールであることが好ましい。ジテルペンアルコール類としては、シンナミックアルコールであることが好ましい。フェノール類としては、チモールであることが好ましい。ケトン類としては、アセトフェノン及びカンファーであることが好ましい。テルペンアルデヒド類としては、シトロネラールおよびゲラニアールであることが好ましい。脂肪族アルデヒド類としては、n-オクタールおよびn-デカナールであることが好ましい。芳香族アルデヒド類としては、シンナムアルデヒドであることが好ましい。フェノールエーテル類としては、アネトールおよびメチルオイゲノールであることが好ましい。ラクトン類としては、アラントラクトンであることが好ましい。エステル類としては、安息香酸メチル、安息香酸エチルおよびサリチル酸メチルであることが好ましい。エーテル類としては、グリセリンモノ2-エチルヘキシルエーテルであることが好ましい。オキサイド類としては、シネオールであることが好ましい。カルボン酸類および有機酸類としては、桂皮酸および安息香酸であることが好ましい。
【0029】
油相が油性抗菌成分に加えて他の油性成分を含む場合、他の油性成分は、特に限定されるものではなく、固形油、液状油のいずれも好適である。固形油は常温(25℃)で固体状の油、液状油は常温で液体状の油である。
【0030】
他の油性成分は、固形油のみでもよいし、液状油のみでもよいし、固形油および液状油の混合油でもよい。固形油が多くなると、口腔用組成物の流動性が低くなり、液状油が多くなると、口腔用組成物の流動性が高くなる。口腔用組成物の用途などに応じて、固形油および液状油の含有割合は適宜選択される。
【0031】
固形油としては、常温で固体状の油であれば特に限定されないが、例えば、固形油脂(水添パーム油、パーム油、硬化ヤシ油、カカオバター、ピーナッツバター、ラード、乳脂等)、固形パラフィン、ワックス、高級アルコール(ベヘニルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール、バチルアルコール等)、ロウ(カルナウバロウ、ミツロウ等)等が挙げられる。
【0032】
液状油としては、常温で液体状の油であれば特に限定されないが、例えば、植物油(オリーブ油、アボガド油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、月見草油、ナタネ油、卵黄油、ゴマ油、ヒマシ油、サフラワー油、綿実油、大豆油、茶実油、コメヌカ油、小麦胚芽油、胚芽油、落花生油、ヒマワリ油、アーモンド油、タートル油、トウモロコシ油、ミンク油、パーシック油、サザンカ油、アマニ油、エノ油、カヤ油等)、動物油(牛脂、豚脂、乳脂等)、中鎖脂肪酸トリグリセリド、炭化水素油(スクワレン、スクワラン、流動パラフィン等)、エステル油(エチルヘキサン酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸エチルヘキシル、パルミチン酸オクチル、イソパルミチン酸オクチル、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソトリデシル、ラウリル酸メチルヘプチル、ラウリン酸ヘキシル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、トリエチルヘキサノイン、ジカプリン酸ネオペンチルリコール、オクタン酸セチル、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソプロピル、オレイン酸イソデシル、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、テトラ2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリット、コハク酸2-エチルヘキシル、セバシン酸ジエチル等)、ロウ(ホホバ油)、高級アルコール(オクチルドデカノール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール)シリコーン油(シクロペンタシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、メチルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン等)、フッ素油、等が挙げられる。
【0033】
上記のうち、他の油性成分は、口腔用であること、油性抗菌成分に対する溶解性、流動性、嗜好性などの観点から、中鎖脂肪酸トリグリセリドであることが好ましい。
【0034】
口腔用組成物に含まれる油相や油性抗菌成分の含有割合は、口腔用組成物の用途などに応じて適宜選択される。
【0035】
例えば、口腔用組成物に含まれる油相の含有割合は、5.00×10-3質量%以上80.00質量%以下である。上記油相の含有割合が上記範囲内であると、口腔内の分散性が良好である。
【0036】
口腔用組成物に含まれる油性抗菌成分の含有割合は、5.00×10-3質量%以上であることが好ましく、1.00×10-2質量%以上であることがより好ましく、5.00×10-2質量%以上であることがさらに好ましい。上記油性抗菌成分の含有割合が5.00×10-3質量%以上であると、抗菌特性が良好である。また、口腔用組成物に含まれる油性抗菌成分の含有割合は、10.00質量%以下であることが好ましく、5.00質量%以下であることがより好ましく、1.00質量%以下であることがさらに好ましい。上記油性抗菌成分の含有割合が10.00質量%以下であると、嗜好性の低下を抑制できる。
【0037】
油性抗菌成分を含む油相の平均粒径は、口腔用組成物の用途などに応じて適宜選択される。口腔用組成物は、三相乳化によるものであるため、界面活性剤を利用した従来の乳化組成物と比較して、油性抗菌成分を含む油相の平均粒径を広い範囲内で選択することができる。例えば、油性抗菌成分を含む油相の平均粒径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1.0μm以上、さらに好ましくは10.0μm以上である。また、油性抗菌成分を含む油相の平均粒径は、好ましくは100.0μm以下、より好ましくは50.0μm以下、さらに好ましくは30.0μm以下である。油性抗菌成分を含む油相の平均粒径が0.1μm以上であると、カンジダ菌などの細菌に対して、油性抗菌成分が効率的に作用するため、口腔用組成物の抗菌特性が良好である。また、油性抗菌成分を含む油相の平均粒径が100.0μm以下であると、油相の分散性が良好であるため、口腔用組成物の抗菌特性が良好である。油相の平均粒径は、粒度分布測定装置FPAR(大塚電子(株)社製)を用いて動的光散乱法により測定し、Contin解析により求められる値である。
【0038】
油相は、油性抗菌成分および他の油性成分に加えて、茶葉、ポリフェノール、ペプチド物質、スクラブ剤、粉体、香料などの成分を含んでもよい。
【0039】
口腔用組成物における水相は、水性成分であり、油相とは混ざり合わない。水相は、連続相であり、複数の乳化粒子を分散させる。水相は、精製水のような水、水にグリセリンやブチレングリコール、ソルビトールのような多価アルコール類が含まれたものなどであることが好ましい。
【0040】
口腔用組成物中の水相の全量は、口腔用組成物の用途などに応じて適宜選択される。例えば、水相の全量は、口腔用組成物の全量に対して、好ましくは20.000質量%以上であり、30.000質量%以上、40.000質量%以上、50.000質量%以上と増加するにつれてより好ましい。また、水相の全量は、口腔用組成物の全量に対して、好ましくは99.995質量%以下であり、90.000質量%以下、80.000質量%以下、70.000質量%以下と減少するにつれてより好ましい。水相の全量が40.000質量%以上であると、油性抗菌成分を含む油相の口腔での分散性が良好であるため、口腔用組成物の抗菌特性が良好である。また、水相の全量が99.995質量%以下であると、口腔内に存在する細菌を抗菌可能な程度の量の油性抗菌成分が口腔用組成物に含まれるため、口腔用組成物の抗菌特性が良好である。
【0041】
水相は、茶葉、ポリフェノール、ペプチド物質、スクラブ剤、粉体、香料、人工甘味料などの成分を含んでもよい。
【0042】
口腔用組成物における閉鎖小胞体について、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質(以下、単に両親媒性物質ともいう)としては、下記式(1)で表されるポリオキシエチレン硬化ひまし油の誘導体であることが好適である。
【0043】
【化1】
【0044】
式(1)中、エチレンオキシドの平均付加モル数であるE(E=L+M+N+X+Y+Z)は、好ましくは3以上100以下である。
【0045】
両親媒性物質の好適例としては、上記の他に、リン脂質やリン脂質誘導体など、特に疎水基と親水基とがエステル結合したものが挙げられる。
【0046】
リン脂質としては、下記式(2)で表される構成のうち、炭素鎖長12のDLPC(1,2-Dilauroyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-choline)、炭素鎖長14のDMPC(1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-choline)、炭素鎖長16のDPPC(1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-choline)が好適である。また、グリセリンやスフィンゴシンを中心骨格として脂肪酸が結合し、構造中にリン酸部位とコリン部位を持つ脂質が好適である。
【0047】
【化2】
【0048】
また、下記式(3)で表される構成のうち、炭素鎖長12のDLPG(1,2-Dilauroyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-glycerol)のNa塩またはNH塩、炭素鎖長14のDMPG(1,2-Dimyristoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-glycerol)のNa塩またはNH塩、炭素鎖長16のDPPG(1,2-Dipalmitoyl-sn-glycero-3-phospho-rac-1-glycerol)のNa塩またはNH塩が好適である。
【0049】
【化3】
【0050】
さらに、リン脂質の好適例としては、卵黄レシチンまたは大豆レシチンなどのレシチンが挙げられる。
【0051】
また、両親媒性物質の好適例としては、脂肪酸エステルが挙げられる。脂肪酸エステルとしては、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが好適である。
【0052】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、脂肪酸が飽和不飽和を問わず、直鎖脂肪酸または分岐脂肪酸であり、その脂肪酸とポリグリセリンとのエステルであることが好ましく、その中でも、モノミリスチン酸ポリグリセリル、ジミリスチン酸ポリグリセリル、トリミリスチン酸ポリグリセリル、モノパルミチン酸ポリグリセリル、ジパルミチン酸ポリグリセリル、トリパルミチン酸ポリグリセリル、モノステアリン酸ポリグリセリル、ジステアリン酸ポリグリセリル、トリステアリン酸ポリグリセリル、モノイソステアリン酸ポリグリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル、トリイソステアリン酸ポリグリセリル、モノオレイン酸ポリグリセリル、ジモノオレイン酸ポリグリセリル、トリモノオレイン酸ポリグリセリルがより好ましく、ミリスチン酸デカグリセリルがさらに好ましい。
【0053】
ショ糖脂肪酸エステルとしては、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステルが好ましい。
【0054】
口腔用組成物における重縮合ポリマーの粒子について、水酸基を有する重縮合ポリマー(以下、単に重縮合ポリマーともいう)は、天然高分子、合成高分子、または半合成高分子のいずれでもよく、口腔用組成物の用途に応じて適宜選択される。その中でも、重縮合ポリマーは、安全性に優れ、一般的に安価である点で、天然高分子であることが好ましく、乳化機能に優れる点で、糖ポリマーであることがより好ましい。
【0055】
重縮合ポリマーの粒子とは、重縮合ポリマーの単粒子、および重縮合ポリマーの単粒子同士が連なったものを包含する一方で、単粒子化される前の重縮合ポリマーの凝集体(網目構造を有する)は包含しない。
【0056】
糖ポリマーは、セルロース、デンプンなどのグルコシド構造を有するポリマーである。例えば、リボース、キシロース、ラムノース、フコース、グルコース、マンノース、グルクロン酸、グルコン酸などの単糖類の中からいくつかの糖を構成要素として微生物が産生するもの、キサンタンガム、アラビアゴム、グアーガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、フコイダン、クインシードガム、トラントガム、ローカストビーンガム、ガラクトマンナン、カードラン、ジェランガム、フコゲル、カゼイン、ゼラチン、デンプン、コラーゲン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸誘導体、シロキクラゲ多糖体などの天然高分子、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、セルロース結晶体、デンプン・アクリル酸ナトリウムグラフト重合体、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの半合成高分子、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸塩、ポリエチレンオキシドなどの合成高分子が好ましい。
【0057】
口腔用組成物に含まれる閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の全量は、油相の全量に対して、好ましくは0.001質量%以上であることが好ましく、0.002質量%以上であることがより好ましく、0.005質量%以上であることがさらに好ましく、0.01質量%以上であることが特に好ましい。また、閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の全量は、油相の全量に対して、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下であってよい。閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の全量が上記数値範囲内であると、閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子は優れた乳化特性を有するため、口腔用組成物の抗菌特性ならびに口腔内の分散性および滞留性はさらに向上する。上記の量は、固形分含量である。
【0058】
閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の平均粒子径は、乳化粒子を形成する前では8nm以上800nm以下であるが、口腔用組成物では8nm以上500nm以下である。口腔用組成物は、閉鎖小胞体のみを含んでもよいし、重縮合ポリマーの粒子のみを含んでもよいし、閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子を含んでもよい。口腔用組成物が閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子を含む場合、例えば、別々に乳化したエマルションを混合して口腔用組成物を製造してもよい。閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の平均粒子径は、粒度分布測定装置FPAR(大塚電子(株)社製)を用いて動的光散乱法により測定し、Contin解析により求められる値である。上記数値範囲内の平均粒子径を有する閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の調製方法は、特許第3855203号などに開示されている通り、三相乳化能を有する粒子の調製方法として従来公知であるため、ここでは便宜上省略する。
【0059】
なお、油性成分の乳化に用いる後述の混合溶液に対して光散乱測定を行い、混合溶液中に存在する閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の平均粒子径が、例えば、8nm以上400nm以下であると、閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子は三相乳化可能であると判断できる。さらに、口腔用組成物に含まれるエマルションに対して原子間力顕微鏡(AFM)観察を行い、閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子の少なくとも一方が油相の表面に付着していることを確認することで、乳化粒子を確認することができる。
【0060】
また、口腔用組成物は、上記成分に加えて、増粘剤、防腐剤、清掃剤(研磨剤)、粘結剤などの添加成分を含んでもよい。添加成分の効果を発揮させる観点から、口腔用組成物に含まれる添加成分の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上である。また、口腔用組成物の良好な抗菌特性、嗜好性、分散性および滞留性を低下させない観点から、口腔用組成物に含まれる添加成分の含有量は、好ましくは20.00質量%以下、より好ましくは10.00質量%以下である。
【0061】
口腔用組成物の形態は、液体状やペースト状など、口腔用組成物の用途などに応じて適宜選択される。油相、水相、閉鎖小胞体、および重縮合ポリマーの粒子の組成比に応じて、口腔用組成物の形態を調整できる。
【0062】
このような口腔用組成物は、安定して優れた抗菌特性ならびに良好な嗜好性、口腔内の分散性および滞留性が求められている液体状、ジェル状、ペースト状の歯磨剤や洗口液、拭きとり用シート、音波歯ブラシ用や電動歯ブラシ用のペースト剤などに好適である。
【0063】
次に、上記の口腔用組成物の製造方法について説明する。
【0064】
口腔用組成物の製造方法は、混合工程と乳化工程とを有する。
【0065】
混合工程では、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体および水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子の少なくとも一方と水性成分とを混合して、混合溶液を得る。混合溶液では、複数の閉鎖小胞体および複数の重縮合ポリマーの粒子の少なくとも一方が水性成分中に分散している。
【0066】
例えば、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体の場合、混合工程において、水などの水性成分を撹拌機などで撹拌しながら、所定量の両親媒性物質を水性成分に添加することによって、複数の閉鎖小胞体が形成され、複数の閉鎖小胞体と水性成分とが混合される。また、水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子の場合、混合工程において、水性成分を撹拌機などで撹拌しながら、複数の重縮合ポリマーの粒子を水性成分に添加することによって、複数の重縮合ポリマーと水性成分とが混合される。
【0067】
閉鎖小胞体および重縮合ポリマーの粒子を用いる場合、閉鎖小胞体が分散している溶液と重縮合ポリマーの粒子が分散している溶液とを混合して混合溶液を製造してもよいし、両親媒性物質および重縮合ポリマーの粒子を水性成分に添加して混合溶液を製造してもよい。
【0068】
混合工程の後に行われる乳化工程では、混合工程で得た混合溶液と融点以上の油性成分とを混合することで、口腔用組成物を得る。油性成分は、油性抗菌成分を含む。口腔用組成物は、油性抗菌成分を含む油滴の表面が複数の閉鎖小胞体および複数の重縮合ポリマーの粒子の少なくとも一方で覆われている、乳化粒子を多数含む。油性抗菌成分を含む乳化粒子は、水相に分散している。
【0069】
例えば、混合溶液を撹拌機などで撹拌しながら、混合溶液に融点以上の油性成分を添加することによって、乳化粒子が形成され、分散している乳化粒子を含有する口腔用組成物が得られる。混合溶液に添加する油性成分の温度が融点未満であると、油剤の剪断が困難なため乳化粒子の形成が十分にできない場合がある。そのため、混合溶液に添加する油性成分の温度が融点未満である場合、油性成分を融点以上に加熱して、融点以上の油性成分を混合溶液に添加すると良い。
【0070】
以上説明した実施形態によれば、三相乳化技術で油性抗菌成分を乳化することで、口腔用組成物は、安定して優れた抗菌特性を有し、口腔内の分散性および滞留性に優れ、良好な嗜好性を有することができる。
【実施例
【0071】
次に、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0072】
(実施例1-1~1-2および比較例1-1~1-4)
油相として、油性抗菌成分のシンナムアルデヒド(長岡香料株式会社製)および他の油性成分の中鎖脂肪酸トリグリセリド(花王株式会社製、ココナードMT)、水相として水、水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子としてステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース(大同化成工業株式会社製、サンジュロース90L)の粒子を用いて、表1に示す組成比(質量%)の口腔用組成物を製造した。具体的には、水を撹拌しながら、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロースの粒子を水に添加することによって、複数のステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロースの粒子が水中に分散している混合溶液を得た。続いて、混合溶液を撹拌しながら、融点以上のシンナムアルデヒドを混合溶液に添加することによって、実施例1-1の口腔用組成物を得た。また、混合溶液を撹拌しながら、融点以上のシンナムアルデヒドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドを混合溶液に添加することによって、実施例1-2の口腔用組成物を得た。
【0073】
また、表1に示す組成比で、シンナムアルデヒドおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドを混合することによって、比較例1-1の口腔用組成物を得た。
【0074】
また、表1に示す組成比で、水を撹拌しながら、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロースを水に添加することによって、比較例1-2の口腔用組成物を得た。
【0075】
また、表1に示す組成比で、水を撹拌しながら、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロースを水に添加し、さらに中鎖脂肪酸トリグリセリドを添加することによって、比較例1-3の口腔用組成物を得た。
【0076】
また、比較例1-4の口腔用組成物は、中鎖脂肪酸トリグリセリドとした。
【0077】
実施例1-1~1-2および比較例1-1~1-4で得られた口腔用組成物について、酵母形のカンジダ菌(C .albicans NBRC1594株)に対する抗菌作用を以下のようにして評価した。
【0078】
試験培地(YPD培地(g/1000ml)、Polypepton 20g、Yeast extract 10g、Glucose 20g)に対して、口腔用組成物の終濃度が100μg/mlになるように調整した。カンジダ菌を1.0×10cfu/mlになるように、口腔用組成物を添加したYPD培地に添加した。その後、36℃(口腔内の疑似的温度)、18時間、培養を行った。
【0079】
吸光光度計(波長620nm)を用いて懸濁液の濁度を測定した。口腔用組成物を添加せずにカンジダ菌をYPD培地で培養した培養液の濁度を100としたときの、各実施例および各比較例の濁度の相対値を求めた。相対値の結果を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示すように、油性抗菌成分を三相乳化した実施例1-1~1-2では、良好な抗菌特性を有するため、カンジダ菌の増殖を抑制できた。また、油性抗菌成分が三相乳化されているので、油性抗菌成分の口腔内分散性は優れていた。また、実施例1-1~1-2の口腔用組成物は、界面活性剤を含まないため、嗜好性に優れていた。一方で、油性抗菌成分が三相乳化されていない比較例1-1では、油性抗菌成分が含まれているものの、油性物質に溶解されていることから、分散性が悪いため、カンジダ菌の増殖の抑制に対してほとんど影響を及ぼさなかった。また、比較例1-2では、油性抗菌成分が含まれていないため、カンジダ菌の増殖の抑制に対してほとんど影響を及ぼさなかった。また、比較例1-3では、油性物質が三相乳化されて分散性はあるものの、油性抗菌成分が含まれていないため、カンジダ菌の増殖の抑制に対してほとんど影響を及ぼさなかった。比較例1-4では、油性成分のみであり、三相乳化されていないので分散性が悪く、油性抗菌成分も含まれていないため、カンジダ菌の増殖の抑制に対してほとんど影響を及ぼさなかった。
【0082】
(実施例2-1~2-2および比較例2-1~2-2)
油相として、抗菌性を有するカプリン酸(花王株式会社製、ルナック10-98)および他の油性成分の中鎖脂肪酸トリグリセリド(花王株式会社製、ココナードMT)、水相として水、水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子としてステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース(大同化成工業株式会社製、サンジュロース90L)の粒子を用いて、表2に示す組成比(質量%)の口腔用組成物を製造した。具体的には、水を撹拌しながら、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロースの粒子を水に添加することによって、複数のステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロースの粒子が水中に分散している混合溶液を得た。続いて、混合溶液を撹拌しながら、融点以上のカプリン酸を混合溶液に添加することによって、実施例2-1の口腔用組成物を得た。また、混合溶液を撹拌しながら、融点以上のカプリン酸および中鎖脂肪酸トリグリセリドを混合溶液に添加することによって、実施例2-2の口腔用組成物を得た。
【0083】
また、表2に示す組成比で、カプリン酸、中鎖脂肪酸トリグリセリド、および水を混合することによって、比較例2-1の口腔用組成物を得た。
【0084】
また、比較例2-2の口腔用組成物は、カプリン酸とした。
【0085】
実施例2-1~2-2および比較例2-1~2-2で得られた口腔用組成物について、カンジダ菌(C .albicans NBRC1594株)に対する抗菌作用を以下のようにして評価した。
【0086】
試験培地(YPD培地(g/1000ml)、Polypepton 20g、Yeast extract 10g、Glucose 20g)に対して、口腔用組成物の終濃度が100μg/mlになるように調整した。カンジダ菌を1.0×10cfu/mlになるように、口腔用組成物を添加したYPD培地に添加した。その後、36℃、18時間、24時間、72時間、培養を行った。
【0087】
吸光光度計(波長620nm)を用いて懸濁液の濁度を測定した。口腔用組成物を添加せずにカンジダ菌をYPD培地で培養した培養液の濁度を100としたときの、各実施例および各比較例の濁度の相対値を求めた。相対値の結果を表2に示す。
【0088】
【表2】
【0089】
表2に示すように、実施例1-1~1-2と同様に、油性抗菌成分を三相乳化した実施例2-1~2-2でも、良好な抗菌特性を有するため、カンジダ菌の増殖を抑制できた。また、油性抗菌成分がカプリン酸でも、良好な抗菌特性を示した。また、油性抗菌成分が三相乳化されているので、油性抗菌成分の口腔内分散性及び滞留性は優れていた。また、実施例2-1~2-2の口腔用組成物は、界面活性剤を含まないため、嗜好性に優れていた。一方で、油性抗菌成分が三相乳化されていない比較例2-1~2-2では、油性抗菌成分の口腔内分散性及び滞留性は劣っていた。また、比較例2-1では、カンジダ菌の増殖の抑制に対してほとんど影響を及ぼさなかった。また、比較例2-2の口腔用組成物は、油性抗菌成分のみからなるため、嗜好性は劣っていた。
【0090】
(実施例3-1~3-2および比較例3-1)
油相として、抗菌性を有するカプリン酸(花王株式会社製、ルナック10-98)および他の油性成分の中鎖脂肪酸トリグリセリド(花王株式会社製、ココナードMT)、水相として水、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体としてモノミリスチン酸デカグリセリル(太陽化学株式会社製、サンソフトQ-14S-C)の閉鎖小胞体を用いて、表3に示す組成比(質量%)の口腔用組成物を製造した。具体的には、水を撹拌しながら、モノミリスチン酸デカグリセリルを水に添加することによって、複数のモノミリスチン酸デカグリセリルの閉鎖小胞体が水中に分散している混合溶液を得た。続いて、混合溶液を撹拌しながら、融点以上のカプリン酸を混合溶液に添加することによって、実施例3-1の口腔用組成物を得た。また、混合溶液を撹拌しながら、融点以上のカプリン酸および中鎖脂肪酸トリグリセリドを混合溶液に添加することによって、実施例3-2の口腔用組成物を得た。
【0091】
また、表3に示す組成比で、水を撹拌しながら、モノミリスチン酸デカグリセリルを水に添加することによって、比較例3-1の口腔用組成物を得た。
【0092】
実施例3-1~3-2および比較例3-1で得られた口腔用組成物について、カンジダ菌(C .albicans NBRC1594株)に対する抗菌作用を実施例1-1と同様の方法で評価した。相対値の結果を表3に示す。
【0093】
【表3】
【0094】
表3に示すように、上記実施例と同様に、油性抗菌成分を三相乳化した実施例3-1~3-2でも、良好な抗菌特性を有するため、カンジダ菌の増殖を抑制できた。また、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体で安定化された口腔用組成物でも、良好な抗菌特性を示した。また、油性抗菌成分が三相乳化されているので、油性抗菌成分の口腔内分散性は優れていた。また、上記実施例と同様に、実施例3-1~3-2の口腔用組成物は、嗜好性に優れていた。一方で、油性抗菌成分が含まれていない比較例3-1では、カンジダ菌の増殖の抑制に対してほとんど影響を及ぼさなかった。
【0095】
(実施例4-1~4-2および比較例4-1~4-2)
油相として、油性抗菌成分のチモール(大阪化成株式会社製、日本薬局方品チモール)および他の油性成分の中鎖脂肪酸トリグリセリド(花王株式会社製、ココナードMT)、水相として水、水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子としてステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース(大同化成工業株式会社製、サンジュロース90L)の粒子を用いて、表4に示す組成比(質量%)の口腔用組成物を製造した。具体的には、水を撹拌しながら、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロースの粒子を水に添加することによって、複数のステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロースの粒子が水中に分散している混合溶液を得た。続いて、混合溶液を撹拌しながら、融点以上のチモールを混合溶液に添加することによって、実施例4-1の口腔用組成物を得た。また、混合溶液を撹拌しながら、融点以上のチモールおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドを混合溶液に添加することによって、実施例4-2の口腔用組成物を得た。
【0096】
また、表4に示す組成比で、チモール、中鎖脂肪酸トリグリセリド、および水を混合することによって、比較例4-1の口腔用組成物を得た。
【0097】
また、比較例4-2の口腔用組成物は、チモールとした。
【0098】
実施例4-1~4-2および比較例4-1~4-2で得られた口腔用組成物について、カンジダ菌(C .albicans NBRC1594株)に対する抗菌作用を実施例1-1と同様の方法で評価した。相対値の結果を表4に示す。
【0099】
【表4】
【0100】
表4に示すように、上記実施例と同様に、油性抗菌成分を三相乳化した実施例4-1~4-2でも、良好な抗菌特性を有するため、カンジダ菌の増殖を抑制できた。また、油性抗菌成分がチモールでも、良好な抗菌特性を示した。また、油性抗菌成分が三相乳化されているので、油性抗菌成分の口腔内分散性は優れていた。また、上記実施例と同様に、実施例4-1~4-2の口腔用組成物は、嗜好性に優れていた。一方で、油性抗菌成分が三相乳化されていない比較例4-1では、三相乳化していないことから分散が悪いため、カンジダ菌の増殖の抑制に対してほとんど影響を及ぼさなかった。また、比較例4-2では、本来抗菌性があるチモールにも関わらず、水に不溶性であるので、カンジダ菌の増殖の抑制に対してほとんど影響を及ぼさなかった。また、比較例4-2の口腔用組成物は、油性抗菌成分のみからなるため、嗜好性は劣っていた。
【0101】
(実施例5-1および比較例5-1)
油相として、油性抗菌成分のチモール(大阪化成株式会社製、日本薬局方品チモール)および他の油性成分の中鎖脂肪酸トリグリセリド(花王株式会社製、ココナードMT)、水相として水、重縮合ポリマーの粒子としてステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース(大同化成工業株式会社製、サンジュロース90L)の粒子を用いて、表5に示す組成比(質量%)の口腔用組成物を製造した。具体的には、水を撹拌しながら、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロースの粒子を水に添加することによって、複数のステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロースの粒子が水中に分散している混合溶液を得た。続いて、混合溶液を撹拌しながら、融点以上のチモールおよび中鎖脂肪酸トリグリセリドを混合溶液に添加することによって、実施例5-1の口腔用組成物を得た。
【0102】
また、比較例5-1の口腔用組成物は、チモールとした。
【0103】
実施例5-1および比較例5-1で得られた口腔用組成物について、大腸菌(E .coli NBRC3972株)に対する抗菌作用を以下のようにして評価した。
【0104】
試験培地(NBRC802培地(g/100ml)、Polypepton 1.0g、Yeast extract 0.2g、MgSO・7HO 0.2g)に対して、口腔用組成物の終濃度が100μg/mlになるように調整した。大腸菌を1.0×10cfu/mlになるように、口腔用組成物を添加したNBRC802培地に添加した。その後、36℃、24時間、培養を行った。
【0105】
吸光光度計(波長620nm)を用いて懸濁液の濁度を測定した。口腔用組成物を添加せずに大腸菌をNBRC802培地で培養した培養液の濁度を100としたときの、各実施例および各比較例の濁度の相対値を求めた。相対値の結果を表5に示す。
【0106】
【表5】
【0107】
表5に示すように、油性抗菌成分を三相乳化した実施例5-1では、良好な抗菌特性を有するため、上記カンジダ菌に加えて、大腸菌についても、増殖を抑制できた。また、油性抗菌成分が三相乳化されているので、油性抗菌成分の口腔内分散性は優れていた。また、上記実施例と同様に、実施例5-1の口腔用組成物は、嗜好性に優れていた。一方で、比較例5-1の口腔用組成物は、抗菌性を有するチモールであるが、油性抗菌成分が三相乳化されていないことから、水に不溶であるため、大腸菌の増殖の抑制に対してほとんど影響を及ぼさなかった。また、比較例5-1の口腔用組成物は、油性抗菌成分のみからなるため、嗜好性は劣っていた。
【0108】
(実施例6-1~6-6)
油相として、抗菌性を有するカプリル酸(花王株式会社製、ルナック8-98)またはカプリン酸(花王株式会社製、ルナック10-98)、水相として水、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体としてモノミリスチン酸ペンタグリセリル(太陽化学株式会社製、サンソフトA-141E-C)またはモノミリスチン酸デカグリセリル(太陽化学株式会社製、サンソフトQ-14S-C、)の閉鎖小胞体を用いて、表6に示す組成比(質量%)の口腔用組成物を製造した。具体的には、水を撹拌しながら、モノミリスチン酸ペンタグリセリルまたはモノミリスチン酸デカグリセリルを水に添加することによって、複数のモノミリスチン酸ペンタグリセリルの閉鎖小胞体または複数のモノミリスチン酸デカグリセリルの閉鎖小胞体が水中に分散している混合溶液を得た。続いて、混合溶液を撹拌しながら、融点以上のカプリル酸またはカプリン酸を混合溶液に添加することによって、実施例6-1~6-6の口腔用組成物を得た。実施例6-1~6-6で得られた口腔用組成物について、カンジダ菌(C .albicans NBRC1594株)に対する抗菌作用を以下のようにして評価した。
【0109】
それぞれの口腔製剤にカンジダ菌(C .albicans NBRC1594株)を1.0×10cfu/mlになるように調整し、30℃48時間静置培養した。その後、それぞれをPDA培地に平板塗抹法にて塗布、30℃48時間静置培養し、培地上の菌数を計測することで、それぞれのカンジダ菌の生育を確認した。PDA培地にコロニーを認めないものを殺菌、菌数が増えていないものを静菌と定義した。
【0110】
【表6】
【0111】
表6に示すように、表1から表5で行ったいずれの量よりもかなり少ない油性抗菌成分量でも増殖を抑制または死滅させることができた。また、油性抗菌成分が三相乳化されているので、油性抗菌成分の口腔内分散性は優れていた。また、いずれも抗菌成分量が少ないため、嗜好性に優れていた。
【0112】
(実施例7-1および比較例7-1~7-2)
油相として、抗菌性を有するカプリン酸(花王株式会社製、ルナック10-98)および他の油性成分の中鎖脂肪酸トリグリセリド(花王株式会社製、ココナードMT)、水相として水、重縮合ポリマーの粒子としてステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロース(大同化成工業株式会社製、サンジュロース90L)の粒子を用いて、表7に示す組成比(質量%)の口腔用組成物を製造した。具体的には、水を撹拌しながら、ステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロースの粒子を水に添加することによって、複数のステアロキシヒドロキシプロピルメチルセルロースの粒子が水中に分散している混合溶液を得た。続いて、混合溶液を撹拌しながら、融点以上のカプリン酸および中鎖脂肪酸トリグリセリドを混合溶液に添加することによって、実施例7-1の口腔用組成物を得た。
【0113】
また、比較例7-1の口腔用組成物は、水とした。
【0114】
また、表7に示す組成比で、カプリン酸を分散可能なエタノールを用い、エタノールを撹拌しながら、カプリン酸をエタノールに添加することによって、比較例7-2の口腔用組成物を得た。
【0115】
実施例7-1および比較例7-1~7-2で得られた口腔用組成物について、菌糸形のカンジダ菌に対する抗菌作用を以下のようにして評価した。
【0116】
貧栄養培地、FCS(ウシ胎児血清) 2.5%、RPMI 1640培地(1/3希釈) 32.5%、滅菌精製水 65.0%で試験培地を調製した。次に、カンジダ菌(C .albicans NBRC1594株)を終濃度が1.0×10cfu/mlになるように、貧栄養培地に加え、振盪培養を36℃、8時間行い、菌糸形のカンジダ菌を得た。次に、滅菌したアパタイトプレート(コスモ・バイオ株式会社製、アパタイトペレット APP-100)の表面の片面に対して、試験培地に対して終濃度が1mg/mlになるように調整した口腔用組成物150μlを滴下し、5分間放置した。もう一方のアパタイトプレートの表面についても同様の処理を行った。その後、精製水で表面を軽く洗浄した。続いて、菌糸形のカンジダ菌を得た培地に口腔用組成物を処理したアパタイトプレートを設置し、振盪培養を36℃、15時間行った。その後、70%エタノールに1分間浸漬し、精製水で洗浄した。続いて、0.01%のクリスタルバイオレットを用いてアパタイトプレートの表面のカンジダ菌を染色した。次に、アパタイトプレートを精製水で洗浄した。図1は、実施例7-1で染色したアパタイトプレートをデジタルカメラで撮影した写真である。図2は、比較例7-1で染色したアパタイトプレートをデジタルカメラで撮影した写真である。図3は、比較例7-2で染色したアパタイトプレートをデジタルカメラで撮影した写真である。アパタイトプレートの表面に存在するカンジダ菌の量が多いほど、アパタイトプレートの色が濃い。
【0117】
【表7】
【0118】
図1~3および表7に示すように、油性抗菌成分を三相乳化した実施例7-1では、良好な抗菌特性を有するため、アパタイトプレートの色が非常に薄く、菌糸形のカンジダ菌の増殖を抑制できた。特に、三相乳化で形成した乳化粒子は、アパタイトプレートに対して、吸着力が強く脱着しにくいため、油性抗菌成分を含む乳化粒子は、アパタイトプレートを洗浄してもアパタイトプレートの表面に残留し、アパタイトプレートの表面における菌糸形のカンジダ菌の増殖を抑制できた。一方で、油性抗菌成分が含まれていない比較例7-1または三相乳化されていない比較例7-2では、アパタイトプレートの色が濃く、カンジダ菌の増殖の抑制に対して影響を及ぼさなかった。特に、比較例7-2では、油性抗菌成分がエタノール中に良好に分散していた。しかしながら、油性抗菌成分がエタノールに分子溶解しているため、油性抗菌成分は、アパタイトプレートの洗浄によって、エタノールと共に排除され、アパタイトプレート上に残留出来なかったために、アパタイトプレートの色の濃さは比較例7-1と同程度であった。
【要約】
【課題】安定して優れた抗菌特性を有すると共に良好な嗜好性ならびに口腔内の分散性および滞留性を有する口腔用組成物を提供する。
【解決手段】口腔用組成物は、油性抗菌成分を含む油相と、水相と、自発的に閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質により形成された閉鎖小胞体および水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子の少なくとも一方とを含み、O/W型エマルションである。
【選択図】なし
図1
図2
図3