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<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】液肥の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C05C 5/00 20060101AFI20220921BHJP
   C02F 3/02 20060101ALI20220921BHJP
   C02F 3/34 20060101ALI20220921BHJP
   C02F 1/78 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C05C5/00 ZAB
C02F3/02 A
C02F3/34 Z
C02F1/78
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018100361
(22)【出願日】2018-05-25
(65)【公開番号】P2019202920
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】502435889
【氏名又は名称】学校法人長崎総合科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】大場 和彦
(72)【発明者】
【氏名】薄田 篤生
(72)【発明者】
【氏名】下高 敏彰
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/034135(WO,A1)
【文献】特開2003-245662(JP,A)
【文献】特開2012-200691(JP,A)
【文献】特開2012-200692(JP,A)
【文献】特開2011-084449(JP,A)
【文献】特開2003-171196(JP,A)
【文献】特開平10-165985(JP,A)
【文献】特開2009-062531(JP,A)
【文献】特開昭51-129759(JP,A)
【文献】特開2002-143896(JP,A)
【文献】特開2004-358429(JP,A)
【文献】特許第6925032(JP,B2)
【文献】国際公開第2010/057499(WO,A1)
【文献】中国実用新案第206417986(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B1/00- 21/00
C05C1/00- 13/00
C05D1/00- 11/00
C05F1/00- 17/993
C05G1/00- 5/40
C02F3/00- 3/10
C02F3/28- 3/34
B01J20/00-20/28
B01J20/30-20/34
C02F11/00-11/20
B01D53/34-53/73
B01D53/74-53/85
B01D53/92
B01D53/96
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水汚泥残渣の脱水ろ液に対してオゾン処理を施すオゾン処理工程と、
前記オゾン処理された脱水ろ液を、乳酸菌及びバチルス菌を含む菌体を用いて処理する菌体処理工程と、
を有することを特徴とする液肥の製造方法。
【請求項2】
菌体処理工程前に、オゾン処理された脱水ろ液中のオゾンを除去するオゾン除去工程を有することを特徴とする請求項1記載の液肥の製造方法。
【請求項3】
さらに、菌体処理された脱水ろ液をバイオフィルター装置に投入してろ過するろ過工程を有し、
前記バイオフィルター装置が、好気性菌体が生息する菌体生息媒体を具備するバイオフィルターを備え、菌体生息媒体が、下水汚泥残渣ペレットの内部にバチルス菌を担持させると共に表層部に乳酸菌を担持させた菌担持下水汚泥残渣ペレットを発酵させて製造した発酵下水汚泥残渣ペレットを含む
ことを特徴とする請求項1又は2記載の液肥の製造方法。
【請求項4】
バイオフィルター装置の発酵下水汚泥残渣ペレットの原料となる下水汚泥残渣ペレットが、難分解性高分子を低分子化する処理が施された下水汚泥残渣をペレット加工したものであることを特徴とする請求項3記載の液肥の製造方法。
【請求項5】
下水汚泥残渣の脱水ろ液に対してオゾン処理を施すオゾン処理工程と、
前記オゾン処理された脱水ろ液を菌体を用いて処理する菌体処理工程と、
前記菌体処理された脱水ろ液をバイオフィルター装置に投入してろ過するろ過工程を有し、
前記バイオフィルター装置が、好気性菌体が生息する菌体生息媒体を具備するバイオフィルターを備え、菌体生息媒体が、下水汚泥残渣ペレットの内部にバチルス菌を担持させると共に表層部に乳酸菌を担持させた菌担持下水汚泥残渣ペレットを発酵させて製造した発酵下水汚泥残渣ペレットを含む
ことを特徴とする下水汚泥残渣脱水ろ液の処理方法。
【請求項6】
菌体処理工程で用いる菌体が、乳酸菌及びバチルス菌を含む複合菌体であることを特徴とする請求項5記載の下水汚泥残渣脱水ろ液の処理方法。
【請求項7】
バイオフィルター装置の発酵下水汚泥残渣ペレットの原料となる下水汚泥残渣ペレットが、難分解性高分子を低分子化する処理が施された下水汚泥残渣をペレット加工したものであることを特徴とする請求項5又は6記載の下水汚泥残渣脱水ろ液の処理方法。
【請求項8】
菌体処理工程が、オゾン処理された脱水ろ液に、ろ過工程後の菌体を含む処理液を添加する工程であることを特徴とする請求項5~7のいずれか記載の下水汚泥残渣脱水ろ液の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥残渣の脱水ろ液から液肥を製造する方法に関する。また、下水汚泥残渣の脱水ろ液を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、下水処理場等から発生する下水汚泥残渣のリサイクルが進められており、脱水処理を行った下水汚泥残渣は、肥料化・燃料化などバイオマス資源として利用されている。
一例として、国土交通省でもB-DASHプロジェクト(下水道革新的技術実証事業)を実施しており、これらの問題の解決に力を入れている。
【0003】
下水汚泥残渣のバイオマス資源の特徴としては、(1)人間の生活環境に伴い一定量は必ず発生すること、(2)成分・状態が一定していること、(3)燃料や肥料、セメント原料などに利用することが可能であること、などが分かっている。この特徴を生かし、2012年の国土交通省のB-DASHプロジェクトの一つである三菱長崎機工株式会社が開発した下水汚泥処理システムの実用化に向けた実用化研究が、長崎市東部下水処理場で実施された。このシステムは、水熱反応技術と高速メタン発酵技術を組み合わせた新しい汚泥減量化技術であり、このシステムはメタサウルスと呼ばれている(特許文献1及び2参照)。このシステムでは、排出された汚泥量が既存のシステムに比べて5分の1に減量することに成功し、廃棄処分する際、処分費の大幅削減が可能となった。しかしながら、脱水汚泥発生量を大幅に削減したものの、主として廃棄処分が行われている。
【0004】
そこで、下水処理場を含む地域のゼロエミッションの観点から低分子化処理された下水汚泥残渣の有効利用方法が検討された。このシステムで発生した低分子化処理された下水汚泥残渣は、植物の成長に必要な成分として窒素・リン・カリウムを含んでいることから、この下水汚泥残渣を肥料化もしくは土壌改良剤として利用しようという試みがなされ、現在、この下水汚泥残渣は「東長崎実証1号」として農林水産大臣登録肥料に登録されている。
【0005】
さらに、本発明者らは、上記「東長崎実証1号」を改良し、非常に肥効の高い機能性コンポストを提案している(特許文献3参照)。
【0006】
一方、下水処理場等で下水汚泥残渣を脱水処理する際に発生する脱水ろ液にも再生可能な資源が多く含まれており、農業への利活用が有効だと考えられるが、そのまま液肥又は農地用水として使用した場合、液中に含まれるアンモニアや雑菌等により植物体に悪影響を与える。さらには、土壌環境の汚染につながることが大きな問題であり、利活用に関して普及が進んでいない。
【0007】
現在、この下水処理場等から発生する脱水ろ液は、一定の処理がなされた後、放流水として海に流しているのが現状であるが、色度やCOD(化学的酸素要求量)の増加が問題となりつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-200691号公報
【文献】特開2012-200692号公報
【文献】PCT/JP2017/27662
【文献】特願2018-25098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、硝酸態窒素を多く含む肥効の高い液肥を製造する方法を提供することにある。また、本発明の他の課題は、下水汚泥残渣脱水ろ液を効果的に処理する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、下水処理場等で下水汚泥残渣の脱水処理時に発生する脱水ろ液の処理方法について鋭意研究した結果、オゾン処理及び菌体処理を組み合わせることにより、脱水ろ液から硝酸態窒素を多く含む肥効の高い液肥を製造できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
また、このオゾン処理及び菌体処理の後に、本発明者らの開発した発酵下水汚泥残渣ペレット(PCT/JP2017/27662号及び特願2018-25098号記載の発酵ペレット)を用いるバイオフィルター装置でろ過処理を施すことにより、さらに有効な液肥とすることができることを見いだした。また、同時に、通常の物理的フィルターでは回収困難な微細な有機物粒子を回収することができ、脱水ろ液中のCOD及び色度を顕著に低減することが可能であることを見いだした。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1]下水汚泥残渣の脱水ろ液に対してオゾン処理を施すオゾン処理工程と、前記オゾン処理された脱水ろ液を菌体を用いて処理する菌体処理工程と、を有することを特徴とする液肥の製造方法。
[2]菌体処理工程で用いる菌体が、乳酸菌及びバチルス菌を含む複合菌体であることを特徴とする[1]記載の液肥の製造方法。
[3]さらに、菌体処理された脱水ろ液をバイオフィルター装置に投入してろ過するろ過工程を有し、前記バイオフィルター装置が、好気性菌体が生息する菌体生息媒体を具備するバイオフィルターを備え、菌体生息媒体が、下水汚泥残渣ペレットの内部にバチルス菌を担持させると共に表層部に乳酸菌を担持させた菌担持下水汚泥残渣ペレットを発酵させて製造した発酵下水汚泥残渣ペレットを含むことを特徴とする[1]又は[2]記載の液肥の製造方法。
[4]バイオフィルター装置の発酵下水汚泥残渣ペレットの原料となる下水汚泥残渣ペレットが、難分解性高分子を低分子化する処理が施された下水汚泥残渣をペレット加工したものであることを特徴とする[3]記載の液肥の製造方法。
【0012】
[5]下水汚泥残渣の脱水ろ液に対してオゾン処理を施すオゾン処理工程と、前記オゾン処理された脱水ろ液を菌体を用いて処理する菌体処理工程と、前記菌体処理された脱水ろ液をバイオフィルター装置に投入してろ過するろ過工程を有し、前記バイオフィルター装置が、好気性菌体が生息する菌体生息媒体を具備するバイオフィルターを備え、菌体生息媒体が、下水汚泥残渣ペレットの内部にバチルス菌を担持させると共に表層部に乳酸菌を担持させた菌担持下水汚泥残渣ペレットを発酵させて製造した発酵下水汚泥残渣ペレットを含むことを特徴とする下水汚泥残渣脱水ろ液の処理方法。
[6]菌体処理工程で用いる菌体が、乳酸菌及びバチルス菌を含む複合菌体であることを特徴とする[5]記載の下水汚泥残渣脱水ろ液の処理方法。
[7]バイオフィルター装置の発酵下水汚泥残渣ペレットの原料となる下水汚泥残渣ペレットが、難分解性高分子を低分子化する処理が施された下水汚泥残渣をペレット加工したものであることを特徴とする[5]又は[6]記載の下水汚泥残渣脱水ろ液の処理方法。
[8]菌体処理工程が、オゾン処理された脱水ろ液に、ろ過工程後の菌体を含む処理液を添加する工程であることを特徴とする[5]~[7]のいずれか記載の下水汚泥残渣脱水ろ液の処理方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、硝酸態窒素を多く含む肥効の高い液肥を製造することができる。また、下水汚泥残渣脱水ろ液を効果的に処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るバイオフィルター装置の概略説明図である。
図2】本発明の一実施形態に係るバイオフィルター装置に用いる発酵下水汚泥残渣ペレットの製造方法のフロー図である。
図3】実施例1におけるオゾン処理を行ったオゾン処理液(新液肥)の硝酸態窒素濃度の結果を示すグラフである。
図4】実施例1におけるオゾン処理を行ったオゾン処理液(新液肥)の電気伝導度の結果を示すグラフである。
図5】実施例1におけるオゾン処理を行ったオゾン処理液(新液肥)のpHの結果を示すグラフである。
図6】実施例1におけるオゾン処理を行ったオゾン処理液(新液肥)の植物に与える影響を示す図であり、A,Bが、オゾン菌体処理液(新液肥)にトマトの苗を投入してから3日後の写真であり、C,Dが、脱水ろ液の原液に投入してから3日後の写真である。
図7】実施例1におけるオゾン処理を行ったオゾン処理液(新液肥)の植物に与える影響を示す図であり、(a)が、オゾン菌体処理液(新液肥)を染み込ませたガラス容器の紙上にほうれん草の種子を置いてから3日後の写真であり、(b)が、脱水ろ液の原液を染み込ませたガラス容器の紙上にほうれん草の種子を置いてから3日後の写真である。
図8】実施例2におけるオゾン処理を行ったオゾン処理液(新液肥)のアンモニア態窒素濃度の結果を示すグラフである。
図9】実施例4における、各層から排出された処理液における色度(390nm)のスペクトルの分析結果である。左のグラフがオゾン処理を行っていない処理液(通常処理)を示し、右のグラフがオゾン処理を行ったオゾン処理液(オゾン処理)を示す。
図10】実施例5のバイオフィルター装置を通したろ過液における色度(390nm)のスペクトルの分析結果である。左のグラフがオゾン処理を行っていない処理液(通常処理)を示し、右のグラフがオゾン処理を行ったオゾン処理液(オゾン処理)を示す。
図11】実施例5のバイオフィルター装置を通したろ過液における硝酸窒素濃度の結果を示すグラフである。左のグラフがオゾン処理を行っていない処理液(通常処理)を示し、右のグラフがオゾン処理を行ったオゾン処理液(オゾン処理)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の液肥の製造方法は、下水汚泥残渣の脱水ろ液に対してオゾン処理を施すオゾン処理工程と、オゾン処理された脱水ろ液を菌体を用いて処理する菌体処理工程とを有することを特徴とし、さらに菌体処理された脱水ろ液をバイオフィルター装置に投入してろ過するろ過工程を有することが好ましい。なお、各工程の前後には他の工程を有していてもよい。また、下水汚泥残渣の脱水ろ液としては、リグニンやセルロース等の難分解性高分子を低分子化する処理が施された下水汚泥残渣の脱水ろ液を用いることが特に好ましい。
【0016】
本発明の製造方法によれば、硝酸態窒素を多く含む肥効の高い液肥を製造することができる。なお、オゾン処理を施さずに菌体処理して製造したものも液肥として使用可能であるが、本発明の方法により製造される液肥は、これよりも硝酸態窒素を多く含むものである。
【0017】
本発明のオゾン処理工程におけるオゾン処理としては、脱水ろ液にオゾン水を添加する方法や、脱水ろ液にオゾン(気体)を導入する方法や、脱水ろ液中でオゾンを発生させる等を例示することができる。かかるオゾン処理では、脱水ろ液に含まれる発酵に有用な菌を生かした状態で、大腸菌やサルモネラ菌等の雑菌を殺菌することができ、これにより、後の菌体処理を短期間で行うことが可能となり、硝酸態窒素量を増加させることができる。
【0018】
オゾン処理は、脱水ろ液に対してオゾンを付与する処理であり、オゾン濃度としては、すぐに脱水ろ液中の有機物とオゾンが反応するため正確には把握できないが、数ppm程度である。本発明においてはオゾン濃度を適度に調整して、脱水ろ液に含まれる発酵に有用な菌の活性を維持した状態で、大腸菌やサルモネラ菌等の雑菌のみを抑制する。また、本発明のオゾン処理のオゾン濃度はこのような低濃度でよいので、オゾン処理コストも安価となる。
【0019】
オゾン処理の処理時間としては、そのオゾン濃度にもよるが、例えば、1~15分程度であることが好ましく、2~10分程度であることがより好ましい。また、菌体処理前には、曝気処理等により完全にオゾンを除去することが好ましい。
【0020】
オゾンは、市販のオゾン発生装置を用いて調製することができる。
【0021】
本発明の菌体処理工程における菌体処理は、植物の発育に影響がないように少なくとも脱水ろ液に含まれる腐敗菌及びアンモニアを低減する処理である。また、菌体処理工程後に、バイオフィルター装置を用いたろ過工程を有する場合には、かかるバイオフィルター装置の菌体生息媒体に生息する好気性菌体の生育への悪影響を防止する。かかる菌体処理工程において用いる菌体としては、脱水ろ液中の腐敗菌及びアンモニアを低減すること(無害化処理)ができる菌であれば特に制限されるものではなく、乳酸菌及びバチルス菌を含む複合菌体であることが好ましく、さらに酵母菌を含むことがより好ましい。乳酸菌及びバチルス菌としては、後述する発酵下水汚泥残渣ペレットの製造で用いる菌を用いることができる。また、酵母菌としては、サッカロミセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロミセス属(Shizosaccharomyces)、カンジダ属(Candida)等の酵母菌を用いることができる。
【0022】
また、バイオフィルター装置を用いたろ過工程を有する場合には、このバイオフィルター装置で処理したろ液(処理液)を菌体含有液として用いることができる。すなわち、バイオフィルター装置で脱水ろ液を処理した処理液には、無害化処理が可能な菌体が含まれていることから、無害化処理にこの処理液を用いてもよい。これにより、別途、菌体処理のための菌体を用いることなく、循環処理が可能となる。
【0023】
ろ過工程においては、バイオフィルター装置(以下、本発明のバイオフィルター装置ということがある)を用いる。かかるバイオフィルター装置は、好気性菌体が生息する菌体生息媒体を具備するバイオフィルターを備え、菌体生息媒体が、下水汚泥残渣ペレットの内部にバチルス菌を担持させると共に表層部に乳酸菌を担持させた菌担持下水汚泥残渣ペレットを発酵させて製造した発酵下水汚泥残渣ペレット(以下、本発明の発酵ペレットということがある)を含んでいる。本発明のバイオフィルター装置で処理することにより、硝酸態窒素量を増加させることができ、硝酸態窒素をより多く含む肥効の高い液肥を製造することができる。
【0024】
本発明のバイオフィルター装置におけるバイオフィルターとしては、例えば、所定の容積を有し、底面に開口部(孔)を有する容器に、菌体生息媒体が収容されたもの挙げることができる。本発明のバイオフィルター装置においては、このバイオフィルターを1つ備える構成であってもよいが、2段以上の多段の構成であることが好ましい。2段以上備えることにより、前段で粗いろ過を行い、後段で精密なろ過を行う等、処理対象にあわせて目詰まりの起こりにくい構成とすることができる。また、各段の間に空間又は空気導入部を設けることにより、各バイオフィルター(菌体生息媒体)内への空気の導入が促進され、好気性菌体の活性を向上させることができる。
【0025】
ここで、図1は、バイオフィルターを2段備えたバイオフィルター装置の概略説明図である。図1に示すように、本発明の一実施形態に係るバイオフィルター装置1は、バイオフィルター2を縦方向に2段に重ねて構成されている。バイオフィルター2は、底部に1~10mm、好ましくは1~6mm程度の小孔3を多数具備し、内部に菌体生息媒体4を収容してなる。
【0026】
本発明のバイオフィルター装置における好気性菌体が生息する菌体生息媒体としては、好気性菌体が生息できる環境の媒体であれば特に制限されるものではなく、有機資材や無機資材を用いて構成することができる。ここで、好気性菌体とは、枯草菌、糸状菌、硝化細菌等の自然の土壌に生息する好気性菌体や、本発明の発酵ペレットに生息する好気性菌体などをいう。なお、本発明のバイオフィルター装置に用いる発酵下水汚泥残渣ペレット(本発明の発酵ペレット)についての詳細は、後述する。
【0027】
菌体生育媒体の構成要素として、例えば、土壌は、有機資材、無機資材及び好気性菌体を含むことから、特に好ましく用いることができる。土壌を用いる場合、団粒土壌を用いることが好ましく、例えば、田畑等の団粒構造が形成された土壌や、造粒処理を行った土壌を用いることができる。本発明においては、本発明の発酵ペレットを肥料として施用した田畑の団粒土壌を用いることが特に好ましい。団粒土壌を用いることにより、バイオフィルターの孔隙率が高くなり、透水性、浸透性が向上し、処理効率が高くなる。なお、本発明の菌体生息媒体は、本発明の発酵ペレットを含んでおり、豊富な菌体やフルボ酸等を含んでいることから、菌体の代謝等により、継続的に団粒構造の形成が進行する。
【0028】
有機資材は、土壌を用いる場合は土壌に含まれているため必ずしも別途用いる必要はないが、適宜必要に応じて用いることができる。有機資材としては、植物性有機物を用いることが好ましい。植物性有機資材としては、具体的に、腐葉土、落ち葉、ワラ、モミ、雑草、おが屑、糠、なたね粕等を挙げることができる。有機資材は、好気性菌体の栄養源となると共に、菌体生息媒体の物理的な空間を形成する(孔隙率を上げる)機能を有する。
【0029】
無機資材は、有機資材同様、土壌を用いる場合は土壌に含まれているため必ずしも別途用いる必要はないが、適宜必要に応じて用いることができる。無機資材としては、例えば、活性炭、炭、セラミックス、ゼオライト、パーライト、けいそう土焼成粒、バーミキュライト、ベントナイト等を用いることができる。無機資材は、菌体生息媒体の形態保持の機能を有すると共に、資材の吸着能等の機能を用いてろ過性を高めることができる。
【0030】
バイオフィルターを2以上用いる場合、少なくとも団粒土壌、植物性有機資材、及び発酵下水汚泥残渣ペレットを含む菌体生息媒体を具備する第1のバイオフィルターと、少なくとも団粒土壌、及び発酵下水汚泥残渣ペレットを含む菌体生息媒体を具備する第2のバイオフィルターとを用いることが好ましい。第1のバイオフィルターの菌体生息媒体に含まれる植物性有機資材とは、土壌や発酵下水汚泥残渣ペレットに含まれる有機資材以外のものをいう。
【0031】
第1のバイオフィルターにおいては、植物性有機資材を含むことにより、物理的な空間を形成して孔隙率を上げることができ、第2のバイオフィルターに比して浸透性のよいフィルターとすることができる。一方、第2のバイオフィルターは、有機資材を含んでいても含んでいなくてもよいが、含む場合には、第1のバイオフィルターよりも少量とし、第1のバイオフィルターに比して密な構造(孔隙率の低い構造)とすることが好ましい。また、密な構造の第2のバイオフィルターは、第1のバイオフィルターに比して、厚さを薄くしてバイオフィルター内の酸素量を確保することが好ましい。このような孔隙率の異なるバイオフィルターを用いることにより、脱水ろ液を効率的に処理できると共に、フィルターの目詰まりを抑制することができる。
【0032】
第1のバイオフィルターにおいては、土壌と植物性有機資材との重量比が、1:0.5~5.0であることが好ましく、1:0.8~4.0であることがより好ましく、1:1.0~3.0であることがさらに好ましい。また、土壌と発酵下水汚泥残渣ペレットの重量比は、1:0.001~0.5であることが好ましく、1:0.005~0.3であることがより好ましく、1:0.01~0.1であることがさらに好ましい。
【0033】
第2のバイオフィルターにおいては、土壌と植物性有機資材との重量比が、1:0~3.0であることが好ましく、1:0.1~2.0であることがより好ましく、1:0.3~1.0であることがさらに好ましい。また、土壌と発酵下水汚泥残渣ペレットの重量比は、1:0.001~0.5であることが好ましく、1:0.005~0.3であることがより好ましく、1:0.01~0.1であることがさらに好ましい。
【0034】
なお、第1のバイオフィルター及び第2のバイオフィルターと異なる別の構成の第3、第4、それ以上の種類のバイオフィルターを備えていてもよい。また、各バイオフィルター間には、ろ過処理された処理液に対して、酸素を含む空気(外気)を接触させるための空気接触空間を設けることが好ましい。この空気接触空間は、外気を導入できる構成であればよく、自然の状態で外気を導入できる構成であってもよいし、エアポンプ等を用いて人工的に外気を導入する構成であってもよい。
【0035】
ろ過工程は、オゾン処理工程及び菌体処理工程を経た脱水ろ液を上記本発明のバイオフィルター装置に投入してろ過する工程であるが、所定量の脱水ろ液を投入後、吸着有機物を菌体が分解、硝化するための所定期間をあけて次の所定量の脱水ろ液を投入するバッチ処理であることが好ましい。すなわち、所定量の脱水ろ液をバイオフィルター装置に投入した後、脱水ろ液はろ過処理され排出されるが、この排出後も所定期間放置しておく。この間に、バイオフィルター(菌体生息媒体)に吸着された微細な有機物粒子を、菌体生息媒体に生息する好気性菌体が分解、硝化する。このように所定期間放置することにより、吸着された微細な有機物粒子が分解され、バイオフィルターの目詰まりを防止することができる。すなわち、次の脱水ろ液を投入するまでの所定期間は、菌体生息媒体に生息する好気性菌体が、所定量の脱水ろ液の投入によりバイオフィルターに吸着された微細な有機物粒子を分解、硝化し終える期間であることが好ましく、これによりフィルターの目詰まりを防止して繰り返し使用することが可能となる。特に、本発明の発酵ペレットは、菌体が豊富に繁殖しており、微細な有機物粒子の分解、硝化が短時間で進行する。
【0036】
本発明の下水汚泥残渣脱水ろ液の処理方法は、下水汚泥残渣の脱水ろ液に対してオゾン処理を施すオゾン処理工程と、オゾン処理された脱水ろ液を菌体を用いて処理する菌体処理工程と、菌体処理された脱水ろ液をバイオフィルター装置に投入してろ過するろ過工程を有するものであり、バイオフィルター装置が、好気性菌体が生息する菌体生息媒体を具備するバイオフィルターを備え、菌体生息媒体が、下水汚泥残渣ペレットの内部にバチルス菌を担持させると共に表層部に乳酸菌を担持させた菌担持下水汚泥残渣ペレットを発酵させて製造した発酵下水汚泥残渣ペレット(本発明の発酵ペレット)を含むことを特徴とする。
【0037】
各工程の前後には他の工程を有していてもよい。また、下水汚泥残渣の脱水ろ液としては、リグニンやセルロース等の難分解性高分子を低分子化する処理が施された下水汚泥残渣の脱水ろ液を用いることが特に好ましい。
【0038】
本発明の下水汚泥残渣脱水ろ液の処理方法は、微細な有機物粒子を回収して脱水ろ液中のCOD及び色度を顕著に低減することができ、また、フィルターの目詰まりを起こすことなく繰り返し使用することができる。具体的には、本発明のバイオフィルター装置における菌体生息媒体には、好気性菌体の代謝物質からなるフィラメント(有機のり)が大量に形成され、これにより、従来回収が困難であった極めて微細な有機物粒子の吸着がより容易となる。また、菌体生息媒体は、本発明の発酵ペレットを含んでおり、好気性菌体が豊富に存在することから、かかる好気性菌体が、ろ過処理により吸着した微細な有機物粒子等を効果的に分解し、バイオフィルターの目詰まりを抑制することができる。なお、本発明でいう微細な有機物粒子(難吸着性物質)とは、通常の濾紙等では回収できない、例えば、粒径が1nm~1μm程度の粒子をいう。
【0039】
なお、オゾン処理工程、菌体処理工程、及びろ過工程については、本発明の液肥の製造方法と同様であるので、説明を省略する。
【0040】
続いて、本発明の菌体生息媒体に含まれる発酵下水汚泥残渣ペレット(本発明の発酵ペレット)について詳細に説明する。この本発明の発酵ペレットは、本発明者らが開発したPCT/JP2017/27662号及び特願2018-25098号に記載の発酵ペレットである。
【0041】
本発明の発酵ペレットは、上記のように、下水汚泥残渣ペレットの内部にバチルス菌を担持させると共に表層部に乳酸菌を担持させた菌担持下水汚泥残渣ペレットを発酵させて製造したものであれば特に制限されるものではなく、菌担持下水汚泥残渣ペレットが、オゾン処理された下水汚泥残渣ペレットに菌を担持させたものであることが好ましい。
【0042】
原料となる下水汚泥残渣ペレット(バチルス菌及び乳酸菌を担持する前のもの)としては、下水汚泥残渣をペレット状にしたものであればよく、例えば、1辺又は直径が5~15mm、長さが20~40mm程度の直方体又は円柱体のペレットを挙げることができ、発酵現場までの運搬や発酵処理までの保管等を考慮すると、含水率が20%以下のものが好ましい。かかるペレットは、一般的な下水処理が施された下水汚泥残渣をペレット加工したものであってもよいが、リグニンやセルロースなどの難分解性高分子を低分子化する処理が施された下水汚泥残渣をペレット加工したものであることが好ましい。低分子化処理に際しては、食品残渣等の各種有機資源を加えてもよい。かかる低分子化処理としては、水熱処理、オゾン処理、生物活性炭処理、超音波処理(例えば、特開2003-144097号公報)等を例示することができ、各種処理を組み合わせてもよい。具体的な水熱処理による低分子化処理としては、例えば、特開2012-200691号公報や特開2012-200692号公報に記載の水熱反応を利用した方法を挙げることができる。
【0043】
本発明の発酵ペレットの製造における下水汚泥残渣ペレットのオゾン処理としては、下水汚泥残渣ペレットにオゾンを含む液体又は気体等を接触させる処理であれば特に制限はなく、下水汚泥残渣ペレットにオゾンを含む液体を散布する方法や、オゾンを含む液体に下水汚泥残渣ペレットを浸漬する方法や、下水汚泥残渣ペレットを収容した容器内にオゾンを含む気体を導入する方法等を例示することができる。かかるオゾン処理では、下水汚泥残渣ペレットに含まれる発酵に有用な菌を生かした状態で、大腸菌やサルモネラ菌等の雑菌を殺菌することができ、これにより、後のバチルス菌及び乳酸菌を用いた発酵処理を短期間で行うことが可能となる。
【0044】
オゾン処理に用いるオゾンを含む液体のオゾン濃度としては、0.5~5.0ppmであることが好ましく、0.8~4.0ppmであることがより好ましく、1.0~3.0ppmであることがさらに好ましい。オゾンを含む液体の濃度がこの範囲にあることにより、下水汚泥残渣ペレットに含まれる発酵に有用な菌の活性を維持した状態で、大腸菌やサルモネラ菌等の雑菌のみを強力に抑制することができる。また、このような低濃度のオゾンを含む液体を用いればよいので、オゾンを含む液体の製造コストも安価であり、発酵ペレット製造のトータルコストを低減することが可能となる。
【0045】
また、オゾン処理において用いる下水汚泥残渣ペレットに対するオゾンを含む液体の量としては、0.005~0.5L/kgであることが好ましく、0.007~0.3L/kgであることがより好ましく、0.008~0.1L/kgであることがさらに好ましく、0.01~0.05L/kgであることが特に好ましい。
【0046】
オゾンを含む液体は、オゾンガスを水等の液体にバブリングして溶解させる方法や水の電気分解法等の公知の方法により得ることができ、市販のオゾン発生装置を用いて調製することができる。
【0047】
菌担持下水汚泥残渣ペレットの調製は、下水汚泥残渣ペレットの内部にバチルス菌を担持させ、表層部に乳酸菌を担持させることができればその方法は特に制限されるものではなく、オゾン処理された下水汚泥残渣ペレットの内部にバチルス菌を担持させ、表層部に乳酸菌を担持させることが好ましい。具体的には、オゾン処理を実施又は不実施の下水汚泥残渣ペレットにバチルス菌を添加し、ペレット表層部を乾燥した後、乳酸菌を添加して調製することが好ましい。
より具体的には、後述する平面化工程(S1)と、オゾン処理工程と(S2)と、バチルス菌添加工程(S3)と、ペレット表層部乾燥工程(S4)と、乳酸菌添加工程(S5)とを有する調製方法を例示することができる。
【0048】
また、菌担持下水汚泥残渣ペレットの発酵方法としては、菌担持下水汚泥残渣ペレットの発酵を行うことができる方法であれば特に制限されるものではなく、発酵効率の点から、菌担持下水汚泥残渣ペレットを山積みにして発酵する方法が好ましい。かかる山積みにして発酵させる方法としては、菌担持下水汚泥残渣ペレットを山状に積み上げ発酵する方法であればよく、山積みの形態としては、円錐状、角錐状、載頭円錐状、載頭角錐状や、これらの形状が所定方向に延設された山脈状等を挙げることができる。具体的には、後述する山積工程(S6)及び発酵工程(S7)における方法を例示することができる。
【0049】
図2に示すように、本発明の発酵下水汚泥残渣ペレットの製造方法は、例えば、下水汚泥残渣ペレットを平面状に広げる平面化工程(S1)と、下水汚泥残渣ペレットにオゾンを含む液体を接触させるオゾン処理工程(S2)と、平面化工程(S1)及びオゾン処理工程(S2)を経た下水汚泥残渣ペレットに対してバチルス菌を添加するバチルス菌添加工程(S3)と、バチルス菌添加工程を経た下水汚泥残渣ペレットの表層部を乾燥するペレット表層部乾燥工程(S4)と、ペレット表層部乾燥工程(S4)を経た下水汚泥残渣ペレットに対して乳酸菌を添加する乳酸菌添加工程(S5)と、乳酸菌添加工程(S5)を経た下水汚泥残渣ペレットを山積みにする山積工程(S6)と、山積工程(S6)を経た下水汚泥残渣ペレットを発酵させる発酵工程(S7)とを有しており、これ以外の工程を有していてもよい。また、発酵工程(S7)は、好ましくは、切返工程(S71)及び発酵時水分調整工程(S72)を有する。なお、平面化工程(S1)及びオゾン処理工程(S2)の順序は問わない。
【0050】
平面化工程(S1)は、下水汚泥残渣ペレットを平面状に広げる工程であり、一様にペレットが広がった状態になっていればよく、一部ペレットが重なった状態であってもよい。この平面化工程により、添加するバチルス菌を全体に付着させることが可能となると共に、バチルス菌の代謝による急激な温度上昇を抑制することが可能となる。また、平面化工程の後にオゾン処理を行う場合には、下水汚泥残渣ペレット全体にオゾンを含む液体を接触させることができる。
【0051】
オゾン処理工程(S2)は、例えば、下水汚泥残渣ペレットに対してオゾンを含む液体を接触させる工程であり、平面状に広げられた下水汚泥残渣ペレットに対してオゾンを含む液体を散布する。オゾンを含む液体を散布する前に、平面状に広げられた下水汚泥残渣ペレットに予め加水し、水分量を調整しておくことが好ましい。これにより、オゾンを含む液体をペレット内部まで浸透させることができる。例えば、下水汚泥残渣ペレットの含水量が、好ましくは20~60質量%、より好ましくは25~50質量%、さらに好ましくは30~50質量%程度になるように調整する。この処理により、下水汚泥残渣ペレットに存在する発酵に有用な菌を生存させた状態で、大腸菌やサルモネラ菌等の雑菌を殺菌することができ、発酵工程(S7)の短縮化を図ることができる。
【0052】
なお、このオゾン処理工程は、その処理の一部又は全部を平面化工程の前に行ってもよい。すなわち、下水汚泥残渣ペレットを平面状に広げる前にオゾン処理し、かかるオゾン処理されたペレットを平面状に広げてもよい。
【0053】
バチルス菌添加工程(S3)は、平面化工程及びオゾン処理工程を経た下水汚泥残渣ペレットに対してバチルス菌を添加する工程であり、バチルス菌を所定量の水に溶解した状態で、ペレット全体に一様に添加することが好ましい。上記のように、下水汚泥残渣ペレットが平面状に広げられている場合には、バチルス菌を全体に付着させることが容易となる。
【0054】
なお、バチルス菌添加工程前までに、下水汚泥残渣ペレットの含水量を調整しておくことが好ましい。具体的には、バチルス菌添加後の下水汚泥残渣ペレットの含水量が、好ましくは25~70質量%、より好ましくは30~60質量%、さらに好ましくは40~60質量%となるように調整しておくことが好ましい。本工程により、ペレットを膨潤させ、菌体をペレット内部まで浸透させることができると共に、菌体の活性を高めることができる。
【0055】
本発明の方法において添加するバチルス菌としては、例えば、Bacillus subtilis、Bacillus tequilensis、Bacillus vallismortis、Bacillus mojavensis、Bacillus amyloliquefaciens、Bacillus subtilis subsp. subtilis、Bacillus subtilis subsp.spizizenii、Bacillus subtilis subsp. inaquosorum、Bacillus subtilis var. nattoを挙げることができ、これらの中でも、Bacillus subtilis var. natto(納豆菌)が好ましい。これらのバチルス菌は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。バチルス菌の入手方法としては、特に制限されるものではなく、市販品を用いることができる。また、例えば、納豆等のバチルス菌を含む食品そのものや、これから単離されたバチルス菌を用いてもよい。
【0056】
続く、ペレット表層部乾燥工程(S4)は、下水汚泥残渣ペレットの表層部を乾燥する工程であり、ペレットの表層部を乾燥させることにより、バチルス菌をペレット内部に担持させる工程である。このペレット表層部乾燥工程では、例えば、バチルス菌添加後12~48時間自然乾燥を行うが、必要に応じてペレット群を撹拌しながら乾燥してもよい。なお、平面状でそのまま乾燥させた場合、ペレット群の上層部と下層部で均一な乾燥状態とならないが、少なくともペレット群上層部は、ペレット単体の表層部の一部が乾燥した状態となるように乾燥する。
【0057】
乳酸菌添加工程(S5)は、表層部が乾燥された下水汚泥残渣ペレットに対して乳酸菌を添加する工程であり、平面状に広げられたペレットに上方から乳酸菌を添加し、ペレット表層部に乳酸菌を担持させる工程である。添加する乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ストレプトコッカス(Streptococcus)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、リューコノストック属 (Leuconostoc)の乳酸菌を挙げることができる。これらの乳酸菌は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。乳酸菌の入手方法としては、特に制限されるものではなく、市販品を用いることができる。また、例えば、ヨーグルト等の乳酸菌を含む食品そのものや、これから単離された乳酸菌を用いてもよい。
【0058】
なお、乳酸菌の添加は、少なくとも平面状に広げられた状態の下水汚泥残渣ペレットに対して行うが、次工程において山積み状態とした下水汚泥残渣ペレットに対しても再度行うことにより、より全体のペレットに乳酸菌を付与することが可能となる。
【0059】
原料である下水汚泥残渣ペレットに対してバチルス菌を添加し、ペレット表層部を乾燥させた後、乳酸菌を添加することにより、バチルス菌をペレット内部に担持させると共に、表層部に乳酸菌を担持させることができ、ペレットに2種類の菌の2層構造を形成することができる。2種類の温度活性領域の異なる菌体を用いることにより、相互的に各菌体が活性化するため、物理的な加熱装置を必要とせず、自然発酵のみで60℃~70℃の発酵温度を持続させることができる。
【0060】
山積工程(S6)は、下水汚泥残渣ペレットを山積みにする工程であり、例えば、乳酸菌の添加終了後、1時間以内に行うことが好ましく、30分以内に行うことがより好ましい。この工程は、例えば、平面状のペレット群を外側から包み込むように山を形成することが好ましく、できる限り高い山を形成することが望ましく、安息角度で山積みすることが特に好ましい。また、ペレット群を山脈状(所定方向に延設した状態)に山積みして発酵を行うことが、大量の菌担持下水汚泥残渣ペレットを効率的に発酵できることから好ましい。
【0061】
発酵工程(S7)は、山積状態の下水汚泥残渣ペレットを発酵させる工程であり、必要に応じて、切り返し(切返し工程:S71)及び水分調整(発酵時水分調整工程:S72)を行う。すなわち、ペレット群の発酵温度が低下した際に、切返しを行うと共に、水分量を調節することで、酸素の供給及び菌体分布の平均化を図り、均一な発酵と有用微生物の増殖を持続させることを可能とする。また、この切り返しにより、ペレットの表層部が粉状となってペレット本体から分離され、塊状のペレットと粉の混合体となる。本発明の発酵下水汚泥残渣ペレットの製造方法においては、オゾン処理された下水汚泥残渣ペレットを用いることから、下水汚泥残渣ペレットに含まれる雑菌が殺菌されると共に、発酵に有用な菌は生かされた状態であるため、短期間で発酵処理が進行する。また、必要な切り返しを少なくすることができ、例えば、1~2回の切り返し及び水分調整でも、本発明の発酵下水汚泥残渣ペレットを製造することができる。
【0062】
本発明においては、山積み状態で発酵を進めることから、山積み状のペレット群の中央部から頂点に向かって微生物により高温域が長時間形成されるため、内部におけるバチルス菌及び乳酸菌を含む有用微生物の活性が上がる。また、外側表層部と深層部に温度差の異なる領域が形成され、温度領域の異なる菌体の活性領域を形成することができる。例えば、表面から深さ5~10cmの層に、糸状菌類が増殖し、その内側で乳酸菌類及び酸化細菌類が増殖し、深層部でバチルス菌類が増殖する。表層付近の温度は、30~45℃程度の温度領域に保持され、深層部の温度は、60~70℃程度の温度領域に保持される。
【0063】
発酵過程においては、山積み状のペレット群では、次のような作用が生じていると考えられ、これにより、自然発酵のみで高速に有用な発酵下水汚泥残渣ペレットの生産が可能となると考えられる。
まず、下水汚泥残渣ペレットに担持したバチルス菌及び乳酸菌の活動を見た場合、乳酸菌は、その活性温度域がバチルス菌よりも低いため、ペレットの発酵の促進剤となり、バチルス菌の活動温度域まで温度を上昇させる。すなわち、まず、活性温度域15~42℃である乳酸菌が、ペレット単体表層部で水溶性成分である単糖類を分解し、その分解過程で発生した代謝熱でペレット単体の温度を上昇させる。さらに、乳酸菌は代謝により大量の乳酸や抗生物質を作り出すため、ペレット単体の表面周囲の環境を酸性にし、酸に耐性のない他の微生物を寄せつけなくなり、また抗生物質により雑菌などの微生物を排除する。ペレット単体表層部の乳酸菌が活性することによりペレット単体温度が徐々に上昇し、ペレット単体内部に存在している高温域で活性を行うバチルス菌(活性温度域20~65℃)が徐々に活動し始める。
【0064】
バチルス菌は、ペレット単体内部の有機物を分解して単糖類へ変換し、その単糖類は、再び表層部の乳酸菌の代謝により利用される。これらの多数の微生物が一斉にペレット単体の有機物を分解することによって発生した代謝熱が、狭い範囲で山積み状のペレット群深層部の温度を60~70℃まで上昇させる。山積み状のペレット群深層部の温度を60~70℃まで上昇させることにより、耐熱性の乏しい病原菌や雑菌などを死滅させることが可能となる。さらに、山積み状のペレット群深層部の温度が乳酸菌死滅温度に達した場合、乳酸菌は死滅するが、死滅した乳酸菌はバチルス菌の代謝に利用されるため、バチルス菌を安定して増殖させることが可能となり、さらに乳酸菌の乳酸などの代謝副産物をペレット単体に付加させることが可能となる。ただし、山積み状のペレット群の外側表層部では乳酸菌死滅温度に達しないため、深層部に比べて乳酸菌と酸化細菌を含む多数の微生物が存在している。このように、本発明の発酵過程において乳酸菌とバチルス菌を用いることにより、加熱装置を必要とせず自然発酵を効率よく行うことが可能となる。
【0065】
他方、山積み状のペレット群全体でみた場合、山積みした初期段階では、糸状菌類が多量に繁殖し、山積み状のペレット群の外側表層部に5~10cmの厚さで糸状菌類の高密度層が生成された後、全体に糸状菌類が繁殖を始めると同時に、内部温度の上昇とともにバチルス菌の増殖やその他の酸化細菌類の代謝の活性が上がり、深層部では60~70℃の高温域に、山積み状のペレット群の側面表層部では30~45℃の低温度域の温度差が生まれる。この温度差の違いにより、山積み状のペレット群の表層部では低温域で活動する糸状菌類の活動が活発となり、その内側では、乳酸菌、酸化細菌類及びバチルス菌の混合の活動域となり、深層部では高温域で活性を行うバチルス菌が活発に活動する。
【0066】
また、山積み状のペレット群の深層部では、有用微生物による好気性発酵が行われ、糖類、タンパク質、ヘミセルロースやセルロースが分解され、水と二酸化炭素、アンモニアに無機化されるが、一部は微生物の代謝産物として残存する。一部の生成された水蒸気などは、頂上部から放出されるが、山積み状のペレット群の表層部の糸状菌類の高密度層により、一部は側面部からは放出されず、頂上部から放出されなかった代謝産物を含む水蒸気は山積みにしたペレット内部で自然対流する。自然対流する過程において代謝産物が重合して難分解性化合物が生成され、ペレットに含まれるリグニンやタンニンなどの難分解性の残存物と代謝産物の重合物が反応し、腐植物質(フルボ酸やフミン酸)を生成する。また、山積み状のペレット群の頂上部から複合された代謝産物の水蒸気の一部が放出されることで、山積みの内部が減圧され、減圧されたことによって側面表層部の隙間から空気を取り込む作用が働き、山積み状のペレット群の内部の有用微生物の好気性発酵が促進され、さらに重合反応が起こる。
【0067】
本発明の発酵下水汚泥残渣ペレットの製造方法においては、山積みされたペレットの頂部及び下部を除く中央部を被覆材で覆って発酵させることが好ましい。被覆材としては、シート、載頭円錐状の型枠等を挙げることができ、紫外線を遮断する材料からなることが好ましい。
【0068】
被覆材で覆って発酵させることにより、山積み状のペレット群が保温され、内部の温度が上昇して発酵が促進され、山積み状のペレット群の発酵がより均一に進む。すなわち、この被覆材の保温効果により、発酵が進みにくい山積み状のペレット群の中央下部(深層部)の温度が上昇して発酵が促進され、これにより、発酵により生成したアンモニアを含む水蒸気等が山の頂部から放出されると共に、これに伴って山の底部側面から外気が導入される。さらに、外気の導入により酸化細菌類等の活動が活発となってさらに内部の発酵が促進するという好循環が生まれる。また、被覆材により、発酵により発生したアンモニアを含む水蒸気等の外部への拡散を防止して、製造される発酵下水汚泥残渣ペレットに含まれるアンモニアを含む水蒸気等の含有量を増加させ、活性した菌によりアンモニアを効率よく硝化させて、発酵下水汚泥残渣ペレット内部に硝酸態窒素の含有量を増加させることができるため、発酵下水汚泥残渣ペレットの肥効を高めることができる。また、被覆材により紫外線を防止して、発酵時に有用な菌(表面に生息する糸状菌等)が死滅することを防ぐことができる。
【0069】
また、発酵下水汚泥残渣ペレットの製造方法においては、山積み状のペレット群の下方中央から上方に向かって空気を導入してもよい。これにより、発酵の進みにくい山積み状のペレット群の中央下部(深層部)の発酵を促進させることができる。なお、山積み状のペレット群の下方中央からの空気導入量を多くし、その周囲の空気導入量を少なくして、山積み状のペレット群の下方全体から空気を導入してもよい。
【0070】
発酵下水汚泥残渣ペレットの製造方法においては、オゾン処理された下水汚泥残渣ペレットを用いた場合、発酵開始から7~14日で完熟堆肥と同等のコンポストとして利用できる。従来の堆肥やボカシ肥料の製造における発酵期間が60~65℃温域で1~2か月必要であることと比較すると、本発明の方法による発酵が高速に進むことがわかる。また、オゾン処理を行わない下水汚泥残渣ペレットを用いた従来の発酵期間が発酵開始から14~20日必要であり、これよりもさらに高速化されることがわかる。
【0071】
本発明の製造方法により製造された発酵下水汚泥残渣ペレットは、原料の下水汚泥残渣ペレットに比して、2~3倍以上のフルボ酸やフミン酸を含有する。フルボ酸やフミン酸は、自然界では微量にしか生産されない貴重な資源であり、自然界では1cmの堆積を形成するのに100年程度要するといわれる物質である。本発明の製造方法は、このような生成に時間を要するフルボ酸やフミン酸を極めて短期間で生成させることができるという特徴を有する。
【実施例
【0072】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0073】
[実施例1]
(オゾン処理液の硝酸態窒素量)
ポリ容器に、脱水ろ液(返流水)を5リットル投入し、500mg/Hrのオゾン発生装置にて3.5L/minの流量で5分間オゾン処理を行った後、水溶液に対して30分の曝気を行った。その後、好気性菌体の混合液(糠から培養した乳酸菌と、納豆から抽出したバチルス菌と、酵母菌と、糖とを混合した菌体混合液)を1リットル、容器に投入し、給気を行いながら6日間連続で発酵処理を行った。1日毎にサンプリングを行い、硝酸態窒素、電気伝導度及びpHを測定した。
なお、本実施例における脱水ろ液としては、長崎市東部下水処理場で低分子化処理(水熱処理)が施された下水汚泥残渣の脱水ろ液を使用した。
【0074】
また、比較対象として、脱水ろ液に対してオゾン処理を行わないこと以外は実施例1と同様に処理を行った処理液について、硝酸態窒素、電気伝導度及びpHを測定した。その結果を、図3~5に示す。
【0075】
オゾン処理を行ったオゾン処理液(新液肥)と、オゾン未処理の処理液(通常処理液)では、硝酸態窒素濃度に差が確認された(図3)。オゾン処理液の方が、オゾン未処理の通常処理液に比べて硝酸態窒素濃度が高くなることが判明した。この差は、前処理としてオゾン処理を行うことにより、難分解性の有機物を含む浮遊物質がオゾンの気泡により酸化されると共に、液中に含まれる雑菌類が殺菌されることで有効微生物の有機分解が促進され、好気性の有効微生物の活性が促進されたことによるものと推測される。
【0076】
電気伝導度及びpHの変化の関連性は、オゾン処理液(新液肥)と、オゾン未処理の通常処理液を比較したところ、ほぼ同じ傾向を示した(図4及び図5)。
【0077】
[実施例2]
(オゾン処理液の植物に対する影響)
1.生育試験
トマトの苗を用いたオゾン処理液(新液肥)の生育試験を実施した。
試験方法は、実施例1の発酵処理開始から3日目のオゾン処理液(新液肥)を充填した試験管を用意し、トマトの苗を試験管に固定し、生育を観察した。また、比較対象として、脱水ろ液の原液を用いて同様に生育を観察した。その結果を図6に示す。
【0078】
トマトの苗を各液に浸して試験開始から3日経過後、オゾン処理液(新液肥)は検体(トマト)の苗の直接的な成育影響は確認されなかった(図6A,B)。一方、脱水ろ液の原液は、成育に影響(しおれ)が確認された(図6C,D)。これは、オゾン菌体処理液(新液肥)中におけるアンモニア濃度が脱水ろ液の原液に比べて、少ないことが直接影響したと推測される。
【0079】
2.発芽試験
続いて、ほうれん草の種子を用いた発芽試験を実施した。試験方法は、ほうれん草の種子10個を、実施例1の発酵処理開始から3日目のオゾン処理液(新液肥)を染み込ませたガラス容器内の紙上において、常温にて観察を行った。また、比較対象として、脱水ろ液の原液を用いて同様に発芽を観察した。その結果を図7に示す。
【0080】
ほうれん草の種子を用いた常温における発芽試験において、発酵処理開始から3日目のオゾン処理液(新液肥)を用いた場合、3日経過後に発芽したことを確認した(図7(a))。一方、脱水ろ液の原液を用いた場合は、種子の発芽が確認されなかった(図7(b))。
これら結果から、オゾン処理を行ったオゾン処理液(新液肥)の安全性が確認された。
【0081】
[実施例3]
(オゾン処理液のアンモニア態窒素量)
ポリ容器に、脱水ろ液を20リットル投入し、500mg/Hrのオゾン発生装置にて3.5L/minの流量で30分間オゾン処理を行った後、水溶液に対して5分の曝気を行った。その後、好気性菌体の混合液(糠から培養した乳酸菌と、納豆から抽出したバチルス菌と、酵母菌と、糖とを混合した菌体混合液)を5リットル、容器に投入し、給気を行いながら6日間連続で発酵処理を行った。
【0082】
オゾン処理の直後、菌体処理直後及び1日毎にサンプリングを行い、硝酸態窒素及びアンモニア態窒素を測定した。その結果を、図8に示す。
【0083】
オゾン処理を実施した直後のアンモニア濃度は、原料とほぼ同程度で変化がなかったが、菌体処理後、1日経過すると700ppmから300ppmまで減少することを確認した(図8)。この理由としては、オゾン処理を行うことで、処理後に投入する菌体の活性及び増殖が高まり、アンモニアの分解が促進されたと推測される。
【0084】
さらに、オゾン処理を行った上記処理液について、一般細菌試験紙を用いた安全性試験を行った。試験方法は、一般細菌試験紙3枚を処理液に浸し、37℃で24時間培養した後、一般細菌の数の測定を行った。
この結果、一般細菌の存在が全く確認されず、オゾン処理の安全性が確認された。
【0085】
[実施例4]
〈試験〉
200φ高さ20cmの容器に菌体生息媒体Aを充填したバイオフィルターを上段1、2段目に、200φ高さ20cmの容器に菌体生息媒体Bを充填したバイオフィルターを下段3、4段の計4段積みにし、実施例4のバイオフィルター装置とした。なお、バイオフィルター装置の菌体生息媒体A及び菌体生息媒体Bについての詳細は後述する。
【0086】
このバイオフィルター装置に、実施例1と同様の処理を行ったオゾン処理液を100ml/minの速度で合計1リットルをバッチ式で合計4リットル投入した。その際、1段目及び2段目から排出されたろ過液をサンプリングした。各サンプリングしたろ過液について可視光吸光度計によるスペクトル分析を実施した。
また、比較対象として、実施例1と同様の処理を行ったオゾン未処理の通常処理液についても同様の試験を行った。なお、比較対象については、1~4段目から排出されたろ過液をサンプリングし、可視光吸光度計によるスペクトル分析を実施した。
これらについて、色度の測定波長帯である390nmの波長帯の比較を行った。
【0087】
その結果を図9に示す。図9は、各層から排出された処理液における色度(390nm)のスペクトルの分析結果である。左のグラフが通常処理液における色度を示し、右のグラフがオゾン処理液における色度を示す。
【0088】
オゾン処理した処理液は、通常処理液に比べて、バイオフィルターの吸着力が高く、2段目までのろ過液の色度が、通常の4段目のろ過液の色度より若干高い程度まで減少した。すなわち、オゾン処理することは、バイオフィルターの処理段数を低減させる効果をもたらし、吸着効果を高めることが明らかとなった。この結果は、オゾン処理することで、難吸着性物質が酸化され、微生物の分解及び吸収が容易になったことと、微生物代謝で生成される有機ノリで構成されたバイオフィルター内の菌体フィラメント構造での吸着効果を高めたことによるものと推測される。
【0089】
〈バイオフィルター装置〉
(菌体生息媒体A)
本発明の発酵ペレットを肥料として施用して作物を栽培した後の畑の土壌を網目1分(3.03mm)の篩で石や植物根を取り除いた土壌と、バーク堆肥やピートモス、パーライト、ココピートなどで構成されている市販の培養土(商品名:有機入り野菜畑の土)とを混合割合(重量)1:2で混合し、そこに本発明の発酵ペレットを混合したものを用いた。
【0090】
表1に、菌体生息媒体Aを構成する粒子の大きさ別の存在割合を示す。本測定は、菌体生息媒体A1kgの中からペレットを分離し、3mm及び2mmの篩にかけて粒子別に分離した。本測定を3回実施し、その平均値を求めた。
【0091】
【表1】
【0092】
表1より、2mm以下の粒子が最も多く43.7%であり、2~3mmの粒子は23%であり、ペレットは2%の割合で混合されていた。その他は、3mmを超える粒子の大きな有機物などである。
【0093】
(菌体生息媒体B)
本発明の発酵ペレットを肥料として施用し作物を栽培した後の畑の土壌を網目1分(3.03mm)の篩で石や植物根を取り除いた土壌:本発明の発酵ペレットの混合割合(重量)1:0.01で混合したものを用いた。
【0094】
なお、これら菌体生息媒体A及び菌体生息媒体Bは、物理的構造だけで構成されているわけではなく、発酵ペレットを投入することにより、ペレットに含まれる菌体とフルボ酸などの効果によって媒体内部の菌体が活性化され、媒体内部に定着している菌体の増殖および硝化による代謝物(有機のり)の放出で形成されたフィラメントにより形成された構造のものであり、物理的要素と生物的要素を併せもっている。なお、発酵ペレットを加えない畑の土をふるいにかけた団粒構造の物理的要素の媒体だけでは、微細有機物粒子(難吸着性物質)の吸着は十分でないことが確認された。
【0095】
(本発明の発酵ペレット)
上記バイオフィルターに用いた本発明の発酵ペレットは、以下のように製造した。
原料となる下水汚泥残渣ペレットとしては、低分子化処理された下水汚泥残渣からなる「東長崎実証1号」(農林水産大臣登録肥料)を、直径10mm、長さ25mm程度の形状にペレット化したものを用いた。
【0096】
まず、フレキシブルコンテナから原料となる下水汚泥残渣ペレット約1000kgを取り出し、平面状に広げ、1週間放置した。
【0097】
1週間放置後の平面状に広げた下水汚泥残渣ペレットの上方から水170Lを全体に投入し、加水を行った。その後、市販の納豆から単離したバチルス菌を水に溶解し、30Lに調整したものを、下水汚泥残渣ペレット全体に投入した。当初は、上層部しか湿っていなかったが、約3時間後には下部まで湿っていた。
【0098】
バチルス菌を添加した下水汚泥残渣ペレットを12時間乾燥させた後、乳酸菌(米糠から培養した乳酸菌)200mLを溶解した水10Lを、下水汚泥残渣ペレットの上方から投入し、山積みにした後、再度、乳酸菌200mLを溶解した水10Lを全体に散布し、さらに水10Lを散布した。
【0099】
1週間発酵させた後、1回目の切り返しを行い、山積み後に、水100Lを添加した。
【0100】
さらに5日間発酵させた後、2回目の切り返しを行い、山積み後に、水100Lを添加し、さらに、8日間発酵させて、本発明の発酵ペレットを完成させた。
【0101】
[実施例5]
〈試験〉
実施例4と同様の4段積みのバイオフィルター装置に、脱水ろ液に対して実施例1と同様の処理を行ったオゾン処理液を、100ml/minの速度で、バッチ方式にて合計2リットル投入した。その際に、4段目のバイオフィルターから排出されたろ過液をサンプリングした。このサンプリングしたろ過液について、可視光吸光度計によるスペクトル分析と硝酸態窒素濃度の測定を行い、処理液の色度を判定する波長帯である390nmの計測データと硝酸態窒素濃度の計測データの比較を行った。
また、1回目のろ過処理から2日経過後に、再び同様のフィルタリング試験を実施し、上記項目において再度分析を行った。
【0102】
なお、比較対象として、実施例1の比較対象と同様の処理を行ったオゾン未処理の通常処理液を用い、この通常処理液についても同様の試験を行った。
【0103】
その結果を図10及び図11に示す。図10は、ろ過1回目のサンプル及びろ過2回目のサンプルにおける、ろ過液の色度のスペクトル分析結果(波長帯390nm)を示す。図11は、ろ過1回目のサンプル及びろ過2回目のサンプルにおける、硝酸態窒素濃度の計測結果を示す。なお、硝酸態窒素濃度の測定においては、1回目及び2回目の処理において、硝酸態窒素濃度が同程度の処理液(オゾン処理液、通常処理液)を使用した。
【0104】
図10より、脱水ろ液のろ過後の色度は、1回目及び2回目のろ過において投入液に比べて減少傾向であることを確認した。また、オゾン処理液においては、通常処理液のろ過液に比べて、色度の測定値が1回目及び2回目において低い計測結果であった。この結果は、オゾン処理によって難吸着性物質の酸化が促進され、これによって脱水ろ液の色度が低減されたことに加えて、液中に残留した難吸着性物質をバイオフィルターによってさらに吸着させることで、通常処理の方法よりも色度が低減したと考察される。
【0105】
また、バイオフィルターにおける吸着の負荷は、オゾン処理液の方が通常処理液に比べて低いことが確認された。この結果から、オゾン処理が、バイオフィルターの負荷軽減効果に大きく貢献することが明らかとなった。オゾン処理により、難吸着性物質の酸化が促進され、微生物の分解及び吸収が容易になると共に、微生物代謝で生成される有機ノリで構成されたバイオフィルター内の菌体フィラメント構造での吸着効果が高められたことにより、負荷低減が実現したものと推測される。
【0106】
図11より、ろ過処理後の硝酸態窒素濃度は、両処理液ともに高い傾向となった。1回目のろ過においては、オゾン処理液の方が、通常処理液に比べて硝酸態窒素濃度が高かった。2日経過後の2回目のろ過においては、オゾン処理液のろ過液の硝酸態窒素濃度の方が、通常処理液のろ過液に比べて低かった。1回目のろ過液と2回目のろ過液での硝酸態窒素濃度の減少量は、オゾン処理液が500ppmであり、通常処理液が133ppmで、オゾン処理液の方が通常処理液に比べて大きかった。
【0107】
2回目のろ過において、オゾン処理液のろ過液の硝酸態窒素濃度が、通常処理液のろ過液よりも低くなり、また減少量が大きくなったのは、オゾン処理することで、難吸着性物質が酸化され、微生物の分解及び吸収が容易になると共に、微生物代謝で生成される有機ノリで構成されたバイオフィルター内の特殊構造での吸着効果が高められたことにより、硝酸体窒素の流亡が低くなったことによるものと考察される。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、下水汚泥残渣脱水ろ液を液肥として用いることができることから、産業上の有用性は高い。
【符号の説明】
【0109】
1 バイオフィルター装置
2 バイオフィルター
3 小孔
4 菌体生息媒体

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11