(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】がんの診断用バイオマーカー
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6886 20180101AFI20220921BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20220921BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z ZNA
C12Q1/6851 Z
G01N33/50 P
(21)【出願番号】P 2018139564
(22)【出願日】2018-07-25
【審査請求日】2021-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】末廣 寛
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】星田 朋美
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-529619(JP,A)
【文献】特開2009-247260(JP,A)
【文献】特開2014-139139(JP,A)
【文献】Oncology Reports,2007年,Vol. 18, No. 5,pp. 1225-1230
【文献】長浜由美, 他,ヒト食道,胃および大腸癌細胞株におけるRUNX3 mRNAスプライシングバリアントの発現.,日本癌学会学術総会記事,2005年,Vol. 64th,p. 458
【文献】Lung Cancer,2009年,Vol. 64, No. 1,pp. 92-97
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(a)~(c)を含むことを特徴とする胃癌又は膵臓癌の判定を補助する方法。
(a)被験者から採取された血清試料又は血漿試料中の1若しくは2種以上のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片におけるシトシンのメチル化レベルを測定する工程であって、
前記RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片が、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片を含み、
前記シトシンが、配列番号1に示されるヌクレオチド配列の54番目のシトシンである、前記工程;
(b)工程(a)で測定したメチル化レベルを、胃癌又は膵臓癌に罹患していない対照者における前記メチル化レベルと比較する工程;
(c)工程(a)で測定したメチル化レベルが、対照者におけるメチル化レベルよりも高いとき、前記被験者は、胃癌又は膵臓癌に罹患している可能性が高いと評価する工程;
【請求項2】
以下の工程(A)~(C)を含むことを特徴とする胃癌の判定を補助する方法。
(A)被験者から採取された血清試料又は血漿試料中のTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の濃度を測定する工程;
(B)工程(A)で測定した二本鎖DNA断片の濃度を、胃癌に罹患していない対照者における前記DNA断片の濃度と比較する工程;
(C)工程(A)で測定した二本鎖DNA断片の濃度が、対照者における二本鎖DNA断片の濃度よりも高いとき、前記被験者は、胃癌に罹患している可能性が高いと評価する工程;
【請求項3】
工程(A)において、血清試料又は血漿試料中の1若しくは2種以上のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片におけるシトシンのメチル化レベルをさらに測定し、
工程(B)において、工程(A)で測定したメチル化レベルを、胃癌に罹患していない対照者における前記メチル化レベルとさらに比較し、
工程(C)において、工程(A)で測定したメチル化レベルが、対照者におけるメチル化レベルよりも高いとき、前記被験者は、胃癌に罹患している可能性が高いとさらに評価する、
請求項2に記載の方法であって、
前記RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片が、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片を含み、前記シトシンが、配列番号1に示されるヌクレオチド配列の54番目のシトシンであることを特徴とする、前記方法。
【請求項4】
RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片が、配列番号2に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片、及び配列番号3に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片をさらに含み、
工程(a)及び(A)において、配列番号2に示されるヌクレオチド配列の54番目のシトシン、及び配列番号3に示されるヌクレオチド配列の54番目のシトシンのメチル化レベルをさらに測定する
ことを特徴とする請求項1又は3に記載の方法。
【請求項5】
胃癌が、ステージIの胃癌であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
TERT遺伝子由来二本鎖DNAが、配列番号4に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片であることを特徴とする請求項2
又は3に記載の方法。
【請求項7】
血清試料又は血漿試料中の1若しくは2種以上のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片におけるシトシンのメチル化レベルを測定するためのフォワードプライマー及びリバースプライマー、並びに/又はプローブ、若しくはそれらの標識物を含む、胃癌又は膵臓癌の判定用キットであって、
前記RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片が、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片を含み、
前記シトシンが、配列番号1に示されるヌクレオチド配列の54番目のシトシンであることを特徴とする
前記キット。
【請求項8】
血清試料又は血漿試料中のTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の濃度を測定するためのフォワードプライマー及びリバースプライマー、並びに/又はプローブ、若しくはそれらの標識物を含む、胃癌の判定用キット。
【請求項9】
血清試料又は血漿試料中の1若しくは2種以上のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片におけるシトシンのメチル化レベルを測定するためのフォワードプライマー及びリバースプライマー、並びに/又はプローブ、若しくはそれらの標識物をさらに含む、請求項8に記載のキットであって、前記RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片が、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片を含み、
前記シトシンが、配列番号1に示されるヌクレオチド配列の54番目のシトシンであることを特徴とする
前記キット。
【請求項10】
RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片が、配列番号2に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片、及び配列番号3に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片をさらに含み、
フォワードプライマー及びリバースプライマー、並びに/又はプローブ、若しくはそれらの標識物が、配列番号2に示されるヌクレオチド配列の54番目のシトシン、及び配列番号3に示されるヌクレオチド配列の54番目のシトシンのメチル化レベルをさらに測定するためのものであることを特徴とする請求項7又は9に記載のキット。
【請求項11】
胃癌が、ステージIの胃癌であることを特徴とする請求項7~10のいずれかに記載のキット。
【請求項12】
TERT遺伝子由来の二本鎖DNAが、配列番号4に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片であることを特徴とする請求項8
又は9に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん発症の有無を判定する方法や、がん発症の有無を判定するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
厚生労働省が毎年行っている「人口動態統計」によれば、がんは、日本人の死因の1位を占めており、2位が心疾患、3位が肺炎である。平成25年度統計結果では、がんによる死亡者数は年間36万人を超え、ほぼ3人に1人ががんで死亡していることになる。近年のがん死亡率を臓器別で見ると、男女で多少差はあるものの、大腸癌(結腸癌及び直腸癌)、肺癌、肝臓癌、胃癌の順で高い傾向にある。
【0003】
がん治療において、早期発見が極めて重要であり、これまでに多くのがん検査手法が開発されてきた。例えば、便潜血検査は、大腸癌で広く用いられているが、検出感度が低く、早期発見が難しいという問題があった。また、内視鏡検査は、大腸癌や胃癌で広く用いられているが、内視鏡検査に対する被検者の抵抗感が高いという問題があった。
【0004】
近年、がんと、血清試料又は血漿試料中の二本鎖DNA断片との関連性に着目した、がんの判定方法が報告されている。例えば、血清試料中の、反復配列(LINE1)を含む二本鎖DNA断片のサイズパターンを指標にして、がんを判定する方法が報告されている(特許文献1)。また、血清試料中のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片におけるメチル化レベルを指標として、胃癌を判定する方法が報告されている(非特許文献1)。しかしながら、かかる文献においては、胃癌患者の症例数が4例と少なく、信ぴょう性が低い可能性があり、また、早期がんを診断できるかどうかは不明である。また、非特許文献2には、ステージIの初期胃癌患者から採取された血清試料中のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片は、メチル化されていることが報告されている。しかしながら、メチル化されている患者の割合は約19%(4/21)と低く、検出感度に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Tan, S.H. et al, Oncol Rep. 2007, 18(5):1225-1230Oncol Rep.
【文献】Lu, X.X. et al, Cancer. 2012, 118(22):5507-5517Oncol Rep.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、早期がんの有無についても精度よく判定できる、がんの診断用バイオマーカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、がん患者由来の血清試料中に含まれるRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片のシトシン・グアニン(CG)部位におけるシトシンのメチル化レベルを測定した。ところが、当該RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片には、DNA多型が存在するものが多いため、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片全体に共通するCG部位の特定から行う必要があった。また、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片全体に共通するCG部位を特定できたとしても、がんとは無関係のメチル化シトシンが多数見つかり、がん特異的なメチル化シトシンの同定は困難を極めた。請求項1等に定義する3種類のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片についても、DNA多型が多数存在し、同定は困難と思われたが、試行錯誤の末、請求項1等に定義する特定のシトシンのメチル化が、ステージIの初期胃癌の発症と関連していることを見出した。さらに、がん患者由来の血清試料中に含まれるヒトテロメラーゼ逆転写酵素遺伝子(hTERT遺伝子、以下、単に「TERT遺伝子」という)由来二本鎖DNA断片の割合を測定したところ、上記メチル化レベルと、当該割合との組合せを指標とすることにより、それぞれを単独で指標とした場合と比べ、ステージIの初期胃癌の有無をより精度よく判定できることを確認した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕以下の工程(a)~(c)を含むことを特徴とするがんの判定方法。
(a)被験者から採取された血清試料又は血漿試料中の1若しくは2種以上のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片におけるシトシンのメチル化レベルを測定する工程であって、
前記RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片が、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片を含み、
前記シトシンが、配列番号1に示されるヌクレオチド配列の54番目のシトシンである、前記工程;
(b)工程(a)で測定したメチル化レベルを、がんに罹患していない対照者における前記メチル化レベルと比較する工程;
(c)工程(a)で測定したメチル化レベルが、対照者におけるメチル化レベルよりも高いとき、前記被験者は、がんに罹患している可能性が高いと評価する工程;
〔2〕以下の工程(A)~(C)を含むことを特徴とするがんの判定方法。
(A)被験者から採取された血清試料又は血漿試料中の1若しくは2種以上のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片におけるシトシンのメチル化レベルと、TERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合とを測定する工程であって、
前記RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片が、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片を含み、
前記シトシンが、配列番号1に示されるヌクレオチド配列の54番目のシトシンである、前記工程;
(B)工程(A)で測定したメチル化レベル及び二本鎖DNA断片の割合を、それぞれ、がんに罹患していない対照者における前記メチル化レベル及び前記DNA断片の割合と比較する工程;
(C)工程(A)で測定したメチル化レベル及び二本鎖DNA断片の割合の少なくともいずれか一方が、それぞれ、対照者におけるメチル化レベル及び二本鎖DNA断片の割合よりも高いとき、前記被験者は、がんに罹患している可能性が高いと評価する工程;
〔3〕RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片が、配列番号2に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片、及び配列番号3に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片をさらに含み、
工程(a)及び(A)において、配列番号2に示されるヌクレオチド配列の54番目のシトシン、及び配列番号3に示されるヌクレオチド配列の54番目のシトシンのメチル化レベルをさらに測定する
ことを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕がんが、胃癌又は膵臓癌であることを特徴とする上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕胃癌が、ステージIの胃癌であることを特徴とする上記〔4〕に記載の方法。
〔6〕TERT遺伝子由来二本鎖DNAが、配列番号4に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片であることを特徴とする上記〔2〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕血清試料又は血漿試料中の1若しくは2種以上のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片におけるシトシンのメチル化レベルを測定するためのフォワードプライマー及びリバースプライマー、並びに/又はプローブ、若しくはそれらの標識物を含む、がんの判定用キットであって、
前記RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片が、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片を含み、
前記シトシンが、配列番号1に示されるヌクレオチド配列の54番目のシトシンであることを特徴とする
前記キット。
〔8〕血清試料又は血漿試料中の1若しくは2種以上のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片におけるシトシンのメチル化レベルを測定するためのフォワードプライマー及びリバースプライマー、並びに/又はプローブ、若しくはそれらの標識物と、
血清試料又は血漿試料中のTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合を測定するためのフォワードプライマー及びリバースプライマー、並びに/又はプローブ、若しくはそれらの標識物と
を含む、がんの判定用キットであって、
前記RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片が、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片を含み、
前記シトシンが、配列番号1に示されるヌクレオチド配列の54番目のシトシンであることを特徴とする
前記キット。
〔9〕RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片が、配列番号2に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片、及び配列番号3に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片をさらに含み、
フォワードプライマー及びリバースプライマー、並びに/又はプローブ、若しくはそれらの標識物が、配列番号2に示されるヌクレオチド配列の54番目のシトシン、及び配列番号3に示されるヌクレオチド配列の54番目のシトシンのメチル化レベルをさらに測定するためのものである
ことを特徴とする上記〔7〕又は〔8〕に記載のキット。
〔10〕がんが、胃癌又は膵臓癌であることを特徴とする上記〔7〕~〔9〕に記載のキット。
〔11〕胃癌が、ステージIの胃癌であることを特徴とする上記〔10〕に記載のキット。
〔12〕TERT遺伝子由来の二本鎖DNAが、配列番号4に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片であることを特徴とする上記〔8〕~〔11〕のいずれかに記載のキット。
【0010】
また本発明の実施の他の形態として、
被験者から採取された血清試料又は血漿試料中の1若しくは2種以上のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片におけるシトシンのメチル化レベルを測定する工程であって、
前記RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片が、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片(以下、「RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1」ということがある)を含み、かつ、任意で、配列番号2に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片(以下、「RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片2」ということがある)、及び配列番号3に示されるヌクレオチド配列を含む二本鎖DNA断片(以下、「RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片3」ということがある)をさらに含み(以下、これらを総称して、「RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3」ということがある)、
前記シトシンが、配列番号1に示されるヌクレオチド配列の54番目のシトシン(以下、「本件シトシン1」ということがある)、配列番号2に示されるヌクレオチド配列の54番目のシトシン(以下、「本件シトシン2」ということがある)、及び配列番号3に示されるヌクレオチド配列の54番目のシトシン(以下、「本件シトシン3」ということがある)である(以下、これらシトシンを総称して「本件シトシン1~3」ということがある)、前記工程を含む、がんの判定方法;や、
被験者から採取された血清試料又は血漿試料中の1若しくは2種以上のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1における本件シトシン1のメチル化レベルと、TERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合とを測定する工程(A)であって、任意で、前記血清試料又は血漿試料中のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片2~3における本件シトシン2~3のメチル化レベルをさらに測定する、前記工程(A)を含む、がんの判定方法;や、
上記工程(a)~(c)を含む、がんを判定(診断)するためのデータを収集する方法;や、
上記工程(A)~(C)を含む、がんを判定(診断)するためのデータを収集する方法;や、
上記工程(a)~(c)を含み、さらに、工程(c)において、がんに罹患している可能性が高いと評価(診断)された被験者に対して、がんを治療する処置(例えば、放射線治療、抗がん剤治療等)を施す工程(p)を任意で含む、がんの診断方法;や、
上記工程(A)~(C)を含み、さらに、工程(C)において、がんに罹患している可能性が高いと評価(診断)された被験者に対して、がんを治療する処置(例えば、放射線治療、抗がん剤治療等)を施す工程(p)を任意で含む、がんの診断方法;や、
がんの判定(診断)方法における使用のための、
血清試料又は血漿試料中の1若しくは2種以上のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1における本件シトシン1のメチル化レベルを測定するためのフォワードプライマー及びリバースプライマー、並びに/又はプローブ、若しくはそれらの標識物であって、任意で、前記血清試料又は血漿試料中のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片2~3における本件シトシン2~3のメチル化レベルをさらに測定するための、前記フォワードプライマー及びリバースプライマー、並びに/又はプローブ、若しくはそれらの標識物;や、
がんの判定(診断)方法における使用のための、
血清試料又は血漿試料中の1若しくは2種以上のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1における本件シトシン1のメチル化レベルを測定するためのフォワードプライマー及びリバースプライマー、並びに/又はプローブ、若しくはそれらの標識物と、血清試料又は血漿試料中のTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合を測定するためのフォワードプライマー及びリバースプライマー、並びに/又はプローブ、若しくはそれらの標識物との組合せであって、前記フォワードプライマー及びリバースプライマー、並びに/又はプローブ、若しくはそれらの標識物が、任意で、前記血清試料又は血漿試料中のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片2~3における本件シトシン2~3のメチル化レベルをさらに測定するためのものである、前記組合せ;や、
RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1における本件シトシン1のメチル化を含む、がんの判定用バイオマーカーであって、任意で、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片2~3における本件シトシン2~3のメチル化をさらに含み、がんに罹患している者から採取された血清試料又は血漿試料中の本件シトシン1~3のメチル化レベルが、がんに罹患していない対照者における本件シトシン1~3のメチル化レベルと比べ、高い、前記バイオマーカー;や、
がんの判定(診断)方法におけるバイオマーカーとして使用するためのRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1における本件シトシン1のメチル化であって、任意で、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片2~3における本件シトシン2~3のメチル化を組み合わせて使用し、がんに罹患している者から採取された血清試料又は血漿試料中の本件シトシン1~3のメチル化レベルが、がんに罹患していない対照者における本件シトシン1~3のメチル化レベルと比べ、高い、前記本件シトシン1のメチル化;や、
がんの判定(診断)方法におけるバイオマーカーとして使用するためのRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1における本件シトシン1のメチル化と、TERT遺伝子由来二本鎖DNA断片との組合せであって、任意で、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片2~3における本件シトシン2~3のメチル化を組み合わせて使用し、がんに罹患している者から採取された血清試料又は血漿試料中の本件シトシン1~3のメチル化レベル及びTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合の少なくともいずれか一方が、それぞれ、がんに罹患していない対照者における本件シトシン1~3のメチル化レベル及びTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合と比べ、高い、前記組合せ;
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、がん、特にステージIの初期胃癌の発症の有無についても精度よく判定することができるため、がん発症後初期段階で適切な治療を受けることができ、がんの早期発見及び早期治療に資する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1Aは、胃癌群及び健常群の血清試料中に含まれるRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3における、メチル化された本件シトシン1~3の割合を測定した結果を示す図である。縦軸は、血清40μLあたりの、メチル化された本件シトシン1~3の数を示す。図中の白丸(○)は、各被験者を示す。図中の「**」は統計学的に有意差(p=0.0019)があることを示す。
図1Bは、
図1Aで得られた結果を基に作成したROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を示す図である。
【
図2】
図2Aは、胃癌群及び健常群の血清試料中に含まれるTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合を測定した結果を示す図である。縦軸は、血清40μLあたりの、TERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の数を示す。図中の白丸(○)は、各被験者を示す。図中の「**」は統計学的に有意差(p=0.0056)があることを示す。
図2Bは、
図2Aで得られた結果を基に作成したROC曲線を示す図である。
【
図3】
図3Aは、膵臓癌群及び健常群の血清試料中に含まれるRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3における、メチル化された本件シトシン1~3の割合を測定した結果を示す図である。縦軸は、血清40μLあたりの、メチル化された本件シトシン1~3の数を示す。図中の白丸(○)は、各被験者を示す。
図3Bは、
図3Aで得られた結果を基に作成したROC曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のがんの判定方法としては、
被験者から採取された血清試料又は血漿試料中のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1における本件シトシン1のメチル化レベルと、任意で、前記血清試料又は血漿試料中のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片2~3における本件シトシン2~3のメチル化レベル(以下、これらを総称して「被験者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」ということがある)とを測定し、必要に応じて定量する工程(a);「被験者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」を、がんに罹患していない対照者における前記メチル化レベル(以下、「対照者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」ということがある)と比較する工程(b);及び「被験者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」が、「対照者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」よりも高いとき、前記被験者は、がんに罹患している可能性が高いと評価する工程(c);の工程(a)~(c)を含む方法(以下、「本件判定方法1」ということがある);や、
「被験者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」と、被験者から採取された血清試料又は血漿試料中のTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合(以下、「被験者におけるTERT断片の割合」ということがある)とを測定し、必要に応じて定量する工程(A);「被験者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」及び「被験者におけるTERT断片の割合」を、それぞれ、「対照者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」及びがんに罹患していない対照者における前記TERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合(以下、「対照者におけるTERT断片の割合」ということがある)と比較する工程(B);並びに「被験者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」及び「被験者におけるTERT断片の割合」のいずれか一方又は両方が、それぞれ、「対照者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」及び「対照者におけるTERT断片の割合」よりも高いとき、前記被験者は、がんに罹患している可能性が高いと評価する工程(C);の工程(A)~(C)を含む方法(以下、「本件判定方法2」ということがある);
であれば特に制限されない(本件判定方法1と本件判定方法2を総称して、以下「本件判定方法」ということがある)。本件判定方法は、医師によるがんの有無の診断を補助する方法であって、医師による診断行為を含まない。
【0014】
また、本発明のがんの判定用キットとしては、
「被験者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」を測定するためのフォワードプライマー及びリバースプライマー(以下、「プライマーセット」ということがある)、並びに/又はプローブ、若しくはそれらの標識物を含む、がんの判定(診断)に用いるためのキット(以下、「本件キット1」ということがある);や、
「被験者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」を測定するためのプライマーセット、及び/又はプローブ、若しくはそれらの標識物と、
「被験者におけるTERT断片の割合」を測定するためのプライマーセット、及び/又はプローブ、若しくはそれらの標識物とを含む、がんの判定(診断)に用いるためのキット(以下、「本件キット2」ということがある);
であれば特に制限されない(本件キット1と本件キット2を総称して、以下「本件キット」ということがある)。本件キットは、がんを判定するためのキットに関する用途発明であり、これらキットには、一般にこの種の判定キットに用いられる成分、例えば担体、pH緩衝剤、安定剤の他、取扱説明書、がんを判定するための説明書等の添付文書が通常含まれる。
【0015】
大部分の被験者においては、後述する本実施例で示されているとおり、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3のうち、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1のみが血液試料中に含まれている。このため、本発明において、測定対象のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片におけるシトシンとしては、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1における本件シトシン1のみでもよいが、判定精度をより高めるために、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片2における本件シトシン2、及びRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片3における本件シトシン3をさらに含むことが好ましい。
【0016】
RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3における本件シトシン1~3のメチル化レベルや、TERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合を指標として、被験者が、がんに罹患しているか否かを判定できることから、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3における本件シトシン1~3のメチル化や、TERT遺伝子由来二本鎖DNA断片は、がんの判定用バイオマーカーとなり得る。
【0017】
本発明において、がんとしては、例えば、大腸癌(結腸癌又は直腸癌);胃癌;肝臓癌;脳腫瘍;肺癌(腺癌、扁平上皮癌、腺扁平上皮癌、未分化癌、大細胞癌、小細胞癌);食道癌;十二指腸癌;小腸癌;皮膚癌;乳癌;前立腺癌;膀胱癌;膣癌;子宮頸部癌;子宮体癌;腎臓癌;膵臓癌;脾臓癌;気管癌;気管支癌;頭頚部癌;胆嚢癌;胆管癌;精巣癌;卵巣癌;骨組織、軟骨組織、脂肪組織、筋組織、神経組織、血管組織、又は造血組織における癌(具体的には、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性血管内皮腫、悪性シュワン腫、骨肉腫、軟部組織肉腫などの肉腫;肝芽腫、髄芽腫、腎芽腫、神経芽腫、膵芽腫、胸膜肺芽腫、網膜芽腫などの芽腫;胚細胞腫瘍;リンパ腫;白血病);等を挙げることができ、これらの中でも、本実施例でその効果が実証されているため、胃癌や膵臓癌が好ましく、ステージIの胃癌がより好ましい。
【0018】
上記血清試料又は血漿試料は、換言すると、血液細胞(例えば、赤血球、白血球、血小板)を除去した血液試料ということができる。
【0019】
上記被験者としては、ヒトである限り特に制限されず、例えば、がんに罹患しているか否か不明な被験者を挙げることができる。かかる被験者には、過去にがんに罹患したことがあり、その後がんは完治したものの、被検時にがんに罹患しているか否か不明な被験者も含まれる。
【0020】
本発明において、「シトシンのメチル化」とは、シトシン塩基5位の炭素がメチル化された状態を意味する。
【0021】
本発明において、測定対象のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3及びTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片は、細胞外に存在する断片化した二本鎖DNAであり、細胞内(細胞核)のゲノムDNA上に存在するRUNX3遺伝子及びTERT遺伝子とは異なる。RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3及びTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の長さは、ゲノムDNAがヌクレオソーム単位で断片化することを考慮すると、例えば、約140~170塩基長の範囲内、及び/又はその倍数の塩基長、例えば、2倍の場合、280~340塩基長であり、3倍の場合、420~510塩基長である。
【0022】
上記TERT遺伝子由来二本鎖DNA断片としては、血液中に含まれる、断片化したTERT遺伝子由来二本鎖DNAであればよく、具体的には、配列番号4に示されるヌクレオチド配列を含むTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片を挙げることができる。血液中に含まれるTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片のヌクレオチド配列については、血清試料又は血漿試料から定法に従ってDNAを単離・精製し、次世代シーケンサー(例えば、イルミナ[Illumina]社製のMiniSeq、MiSeq、NextSeq、HiSeq及びHiSeq Xシリーズ;ロシュ社製のRoche 454 GS FLXシーケンサー)を用いて決定することができる。
【0023】
本明細書において、「RUNX3断片のメチル化レベル」としては、メチル化された本件シトシン1~3のメチル化の程度を示す値であればよく、例えば、RUNX3断片1つあたりの、メチル化された本件シトシン1~3の数(割合)や、血清試料又は血漿試料の体積あたりの、メチル化された本件シトシン1~3の数(濃度)を挙げることができる。また、本明細書において、「TERT断片の割合」は、具体的には、血清試料又は血漿試料の体積あたりのTERT断片の数(濃度)である。これら「RUNX3断片のメチル化レベル」及び「TERT断片の割合」は、絶対値であっても、相対値であってもよい。
【0024】
上記工程(a)及び(A)において、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3におけるシトシンのメチル化レベルを測定する方法としては、本件シトシン1~3のメチル化レベルを検出・定量し得る方法である限り特に制限されず、ハイブリダイゼーション法(例えば、MBD2[methyl-CpG-binding domain protein 2]や抗MBD2抗体等を用いたクロマチン免疫沈降法[ChIP]などによりメチル化DNAを濃縮し、DNAマイクロアレイ解析する方法);メチル化感受性制限酵素を用いて解析する方法;亜硫酸水素塩(バイサルファイト)処理を利用したバイサルファイト法;を例示することができる。
【0025】
上記メチル化感受性制限酵素を用いて解析する方法は、制限酵素の認識配列中のシトシンがメチル化されることで、DNAを切断できなくなる現象を利用したものである。ここで使用するメチル化感受性制限酵素は、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3中の本件シトシン1~3を含む前後のヌクレオチド配列が、「CCpGG」(ここで、「C」はシトシンを示し、「Cp」は、メチル化され得る本件シトシン1~3を示し、「G」はグアニンを示す。)であることを考慮すると、通常、かかる配列を標的とするHpaIIである。なお、HpaIIの比較対照として、「CCGG」を標的とするメチル化非感受性制限酵素MspIを用いてもよい。HpaIIによる反応(処理)時間は、適宜選択することができ、例えば1~48時間の範囲内であり、好ましくは5~24時間、より好ましくは12~20時間である。また、HpaIIによる反応(処理)温度は、適宜選択することができ、例えば30~39℃の範囲内であり、好ましくは35~38℃の範囲内である。メチル化感受性制限酵素による処理後、本件シトシン1~3部位の切断効率、すなわち、本件シトシン1~3のメチル化レベルは、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法;サザンハイブリダイゼーション;リアルタイムPCR(polymerase chain reaction)、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)等のPCR;などの方法で解析することができる。
【0026】
上記ddPCR法は、サンプル中のターゲットDNA量を絶対定量する方法である。この方法では、サンプル中のターゲットDNAを約2万個の小液滴(ドロップレット)に分画し、サーマルサイクラーを用いてPCRを行う。ターゲットDNAが入っている小液滴は光り、入っていない小液滴は変化しない。光っている小液滴と光っていない小液滴の数をカウントすることでサンプル中の測定対象遺伝子の濃度を絶対的な数値として出すことができるという原理である。データは、小液滴(ドロップレット)のターゲットDNAのアリ/ナシで判断することから、それがデジタル信号の1/0と同じなので「デジタルPCR」という。後述する本実施例において、メチル化された本件シトシン1~3の数、及びTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の数は、ドロップレットリーダーによって、上記2万個の小液滴(ドロップレット)を一つずつ蛍光量測定し、蛍光を発するドロップレットの数をカウントすることにより定量することができ、測定前の血清体積を基に、血清中に含まれるメチル化された本件シトシン1~3の割合(濃度)や、血清中に含まれるTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合(濃度)を算出することができる。
【0027】
上記リアルタイムPCR法としては、例えば、インターカレーター法、5’-ヌクレアーゼ法、サイクリングプローブ法を挙げることができる。
【0028】
本件判定方法において、本件シトシン1~3のメチル化を測定する場合、本件シトシン1~3のメチル化のそれぞれを個別に測定するプライマーセット、プローブ、又はそれらの標識物を用いてもよいが、本件シトシン1~3のメチル化すべてを共通して測定できるプライマーセット、プローブ、又はそれらの標識物を用いて測定することが好ましく、配列番号5に示されるヌクレオチド配列からなるフォワードプライマー、又は配列番号5に示されるヌクレオチド配列において、1若しくは数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、又は付加されたヌクレオチド配列からなるフォワードプライマー;配列番号6に示されるヌクレオチド配列からなるリバースプライマー、又は配列番号6に示されるヌクレオチド配列において、1若しくは数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、又は付加されたヌクレオチド配列からなるリバースプライマー;配列番号7に示されるヌクレオチド配列からなるプローブ、又は配列番号7に示されるヌクレオチド配列において、1若しくは数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、又は付加されたヌクレオチド配列からなるプローブ;及びこれらの標識物を好適に例示することができる。
【0029】
本発明において、比較する両者(被験者及び対照者間におけるRUNX3断片のメチル化レベル;被験者及び対照者間におけるTERT断片の割合;がん患者及び対照者間におけるRUNX3断片のメチル化レベル;又は、がん患者及び対照者間におけるTERT断片の割合)は、互いに対応するものである。対照者におけるRUNX3断片のメチル化レベルやTERT断片の割合は、本件判定方法を実施する際、対照者から採取された血清試料又は血漿試料を基に、その都度測定した値であってもよいが、予め測定した値であってもよい。また、比較する両者は、実質的に同じ方法により調製された血清試料又は血漿試料や、実質的に同じ測定方法により得られたものが好ましい。
【0030】
上記工程(c)及び工程(C)において、「被験者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」が、「対照者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」よりも高いか否かを評価(判定)するために、任意の閾値(カットオフ値)を適宜設定することができ、かかる閾値としては、例えば、「対照者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」の平均値、前記平均値±標準偏差(SD)、前記平均値±2SD、前記平均値±3SD、「対照者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」の中央値、前記中央値±SD、前記中央値±2SD、前記中央値±3SD等を挙げることができる。また、閾値は、感度(がんに罹患している被験者を、正しく陽性と判定できる割合)及び特異度(がんに罹患していない対照者を、正しく陰性と判定できる割合)が高くなるように、「被験者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」のデータと、「対照者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」のデータを基に、統計解析ソフトウェアを用いたROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を用いて算出することもできる。
【0031】
上記工程(C)において、「被験者におけるTERT断片の割合」が、「対照者におけるTERT断片の割合」よりも高いか否かを評価(判定)するために、任意の閾値(カットオフ値)を適宜設定することができ、かかる閾値としては、例えば、「対照者におけるTERT断片の割合」の平均値、前記平均値±標準偏差(SD)、前記平均値±2SD、前記平均値±3SD、「対照者におけるTERT断片の割合」の中央値、前記中央値±SD、前記中央値±2SD、前記中央値±3SD等を挙げることができる。また、閾値は、感度(がんに罹患している被験者を、正しく陽性と判定できる割合)及び特異度(がんに罹患していない対照者を、正しく陰性と判定できる割合)が高くなるように、「被験者におけるTERT断片の割合」のデータと、「対照者におけるTERT断片の割合」のデータを基に、統計解析ソフトウェアを用いたROC曲線を用いて算出することもできる。
【0032】
上記工程(c)において、「被験者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」が、「対照者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」よりも高いとき、被験者は、がんに罹患している可能性が高いと評価(判定)し、「被験者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」が、「対照者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」よりも高くない(低い)とき、被験者は、がんに罹患している可能性が低いと評価(判定)する。
【0033】
上記工程(C)において、「被験者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」が、「対照者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」よりも高いか、又は、「被験者におけるTERT断片の割合」が、「対照者におけるTERT断片の割合」よりも高いか、あるいはその両方であるとき、被験者は、がんに罹患している可能性が高いと評価(判定)し、「被験者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」が、「対照者におけるRUNX3断片のメチル化レベル」よりも高くなく(低く)、かつ、「被験者におけるTERT断片の割合」が、「対照者におけるTERT断片の割合」よりも高くない(低い)とき、被験者は、がんに罹患している可能性が低いと評価(判定)する。
【0034】
本件キットにおいて、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3におけるシトシンのメチル化レベルを測定するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーとしては、鋳型DNAであるRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3のうち、少なくとも本件シトシン1~3を含む一部又は全部を、特異的に増幅するものであればよく、具体的には、配列番号1に示されるヌクレオチド配列、配列番号2に示されるヌクレオチド配列、及び配列番号3に示されるヌクレオチド配列において、1番目のヌクレオチドを上流とし、末尾のヌクレオチドを下流とした場合、配列番号1に示されるヌクレオチド配列、配列番号2に示されるヌクレオチド配列、及び配列番号3に示されるヌクレオチド配列の上流側で、その一部又は全部がアニール(ハイブリダイズ)するフォワードプライマーや、配列番号1に示されるヌクレオチド配列、配列番号2に示されるヌクレオチド配列、及び配列番号3に示されるヌクレオチド配列の下流側で、その一部又は全部がアニールするリバースプライマーを挙げることができる。これらフォワードプライマー及びリバースプライマーとしては、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片2、及びRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片3の3断片を特異的に増幅するものが好ましく、具体的には、配列番号5に示されるヌクレオチド配列からなるフォワードプライマー、又は配列番号5に示されるヌクレオチド配列において、1若しくは数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、又は付加されたヌクレオチド配列からなるフォワードプライマーや、配列番号6に示されるヌクレオチド配列からなるリバースプライマー、又は配列番号6に示されるヌクレオチド配列において、1若しくは数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、又は付加されたヌクレオチド配列からなるリバースプライマーを挙げることができる。
【0035】
本件キットにおいて、TERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合を測定するためのフォワードプライマー及びリバースプライマーとしては、鋳型DNAであるTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の一部又は全部を、特異的に増幅するものであればよく、具体的には、配列番号4に示されるヌクレオチド配列において、1番目のヌクレオチドを上流とし、末尾のヌクレオチドを下流とした場合、配列番号4に示されるヌクレオチド配列の上流側で、その一部又は全部がアニール(ハイブリダイズ)するフォワードプライマーや、配列番号4に示されるヌクレオチド配列の下流側で、その一部又は全部がアニールするリバースプライマーを挙げることができる。これらフォワードプライマー及びリバースプライマーとしては、より具体的には、配列番号8に示されるヌクレオチド配列からなるフォワードプライマー、又は配列番号8に示されるヌクレオチド配列において、1若しくは数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、又は付加されたヌクレオチド配列からなるフォワードプライマーや、配列番号9に示されるヌクレオチド配列からなるリバースプライマー、又は配列番号9に示されるヌクレオチド配列において、1若しくは数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、又は付加されたヌクレオチド配列からなるリバースプライマーを挙げることができる。
【0036】
本件キットにおいて、フォワードプライマー及びリバースプライマーの長さは、例えば、10~40塩基長であり、好ましくは12~35塩基長であり、より好ましくは14~30塩基長であり、さらに好ましくは15~25塩基長である。
【0037】
本件キットにおいて、フォワードプライマー及びリバースプライマーは、PCRで用いるポリメラーゼがプライマーの3’末端で複合体を形成し、DNA鎖を伸長することを考慮すると、かかるプライマーの3’末端のヌクレオチドは、鋳型DNAであるRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3やTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片とアニールするように設計することが好ましく、さらに、プライマーの3’末端でのポリメラーゼ/プライマー複合体の安定性を高めるために、G又はCとなるように設計することがより好ましい。
【0038】
本件キットにおいて、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3におけるシトシンのメチル化レベルを測定するためのプローブとしては、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3に直接アニール(ハイブリダイズ)し、本件シトシン1~3のメチル化レベルを測定する場合(例えば、ハイブリダイゼーション法)、鋳型DNAであるRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3のうち、少なくとも本件シトシンを含む一部又は全部に、特異的にアニール(ハイブリダイズ)するものであればよく、また、メチル化の指標となる、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3から得られた二次産物(例えば、PCR産物)にアニール(ハイブリダイズ)し、本件シトシン1~3のメチル化レベルを測定する場合(例えば、メチル化感受性制限酵素を用いて解析する方法、バイサルファイト処理を利用したバイサルファイト法)、前記二次産物の一部又は全部に、特異的にアニール(ハイブリダイズ)するものであればよく、具体的には、配列番号1に示されるヌクレオチド配列の一部又は全部にアニール(ハイブリダイズ)するプローブや、配列番号2に示されるヌクレオチド配列の一部又は全部にアニール(ハイブリダイズ)するプローブや、配列番号3に示されるヌクレオチド配列の一部又は全部にアニール(ハイブリダイズ)するプローブを挙げることができる。かかるプローブとしては、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片2、及びRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片3の3断片に、特異的にアニールするものが好ましく、具体的には、配列番号7に示されるヌクレオチド配列からなるプローブ、又は配列番号7に示されるヌクレオチド配列において、1若しくは数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、又は付加されたヌクレオチド配列からなるプローブを挙げることができる。
【0039】
本件キットにおいて、TERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合を測定するためのプローブとしては、鋳型DNAであるTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の一部又は全部に、特異的にアニール(ハイブリダイズ)するものであればよく、具体的には、配列番号4に示されるヌクレオチド配列の一部又は全部にアニール(ハイブリダイズ)するプローブを挙げることができる。かかるプローブとしては、より具体的には、配列番号10に示されるヌクレオチド配列からなるプローブ、又は配列番号10に示されるヌクレオチド配列において、1若しくは数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、又は付加されたヌクレオチド配列からなるプローブを挙げることができる。
【0040】
本発明において、「1若しくは数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、又は付加されたヌクレオチド配列」とは、例えば1~5個の範囲内、好ましくは1~3個の範囲内、より好ましくは1~2個の範囲内の数のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、又は付加されたヌクレオチド配列を意味する。
【0041】
本件キットにおいて、フォワードプライマーの標識物、リバースプライマーの標識物、及びプローブの標識物における標識物質としては、ペルオキシダーゼ(例えば、horseradish peroxidase)、アルカリフォスファターゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコ-ス-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ、アルコール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、ペニシリナーゼ、カタラーゼ、アポグルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、ルシフェラーゼ若しくはアセチルコリンエステラーゼ等の酵素;フルオレスセインイソチオシアネート、フィコビリタンパク、希土類金属キレート、ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescence Protein;GFP)、シアン蛍光タンパク質(Cyan Fluorescence Protein;CFP)、青色蛍光タンパク質(Blue Fluorescence Protein;BFP)、黄色蛍光タンパク質(Yellow Fluorescence Protein;YFP)、赤色蛍光タンパク質(Red Fluorescence Protein;RFP)、ルシフェラーゼ(luciferase)等の蛍光タンパク質;3H 、14C、125I若しくは131I等の放射性同位体;ビオチン、アビジン、又は化学発光物質;レポーター蛍光物質とクエンチャー蛍光物質又は構造との組合せ(例えば、5-FAM[5-Carboxyfluorescein]と5-TAMRA[5-Carboxytetramethylrhodamine]との組合せ、VICとMGB[Minor Groove Binder]との組合せ)を挙げることができる。
【0042】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
1.胃癌患者由来血清試料を用いた本件判定方法
1-1 材料と方法
[血清試料]
胃癌群における胃癌患者23名(男性18名、女性5名;平均年齢72歳[44~91歳])と、健常群における健常者18名(男性10名、女性8名;平均年齢52歳[41~60歳])の計41名の被験者から、定法に従って血清試料を調製した。血清試料は、2016年11月25日~2017年12月20日の間、上部消化管内視鏡検査の前に、山口大学医学部附属病院、セントヒル病院、又は阿知須共立病院で予め採取し、DNAの抽出を行うまで-80℃で保存した。癌細胞が血液中にコンタミネーションすることを避けるために、生検が行われた場合、生検の3週間後以降に血液の採取を行った。対照である健常者は、いかなる癌の病歴もなく、上部消化管内視鏡検査により、胃腺腫及び癌を有さないと判定された者である。胃癌患者は、胃癌以外のがんの病歴がない、内視鏡的切除でステージIの初期胃癌と診断された患者である。胃癌患者23名のうち、高分化度(Well)の胃癌患者は22名であり、中分化度(Moderate)胃癌患者は1名であった。また、胃癌患者の平均腫瘍サイズは13mm(7~44mm)であった。なお、胃癌のステージは、国際対がん連合(UICC)にしたがって分類した(文献「Sobin LH, Gospodarowicz MK, Wittekind C, editors. TNM Classification of Malignant Tumours, 7th ed. Oxford: Wiley-Blackwell; 2009.」参照)。また、上記被験者は全員日本人であった。本研究の目的、上部消化管内視鏡検査の複雑性及びリスクを対面の面談で口頭及び同意書で明確にした。上記健常者は、自発的に参加し、上部消化管内視鏡検査のリスクを理解した者に限定され、インフォームドコンセントの書類に署名した。研究プロトコールは、山口大学大学院医学研究科、セントヒル病院、及び阿知須共立病院の施設内倫理委員会で承認され、インフォームドコンセントを上記被験者から入手した。
【0044】
[被験者由来血清試料中のDNAの調製]
-80℃で保存した上記被験者由来血清試料を解凍し、各血清試料0.4mLから、MagNA Pure Compact Nucleic Acid Isolation Kit I(Roche社製)を用い、製品添付のプロトコールに従って、50μLの溶出緩衝液中にDNAを抽出した。抽出したDNAの濃度は、Qubit2.0フルオロメーター(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて定量した。なお、非メチル化DNAのコントロールとして末梢血白血球由来のDNAを使用し、また、高メチル化DNAのコントロールとしてEpiScope メチル化HCT116gDNA(Takara Bio社製)を使用した。
【0045】
[CORD(Combined Restriction Digital PCR)アッセイ]
被験者由来血清試料中の二本鎖DNA断片のメチル化を検出するために、2ステップからなるCORDアッセイ(文献「Suehiro Y, Zhang Y, Hashimoto S, Takami T, Higaki S, Shindo Y, et al. Highly sensitive faecal DNA testing of TWIST1 methylation in combination with faecal immunochemical test for haemoglobin is a promising marker for detection of colorectal neoplasia. Ann Clin Biochem. 2017:4563217691064.」参照)を行った。具体的には、まず第1ステップにおいて、抽出したDNAを含む溶出緩衝液10μL(80μLの血清に相当)に、1μLのGeneAmp 10 x PCR Buffer II、及び1μLの25mmol/Lの塩化マグネシウム、並びに、2種類のメチル化感受性制限酵素(10ユニットのHhaI[認識部位:GCGC]、及び10ユニットのHpaII[認識部位:CCGG])、及び20ユニットのエキソヌクレアーゼI(ExoI)(全て、Thermo Fisher Scientific 社製)を添加し、37℃で16時間、DNA分解処理を行った。なお、ここでExoIは、血清試料中に含まれる1本鎖DNAを分解するために用いた。次に、第2のステップにおいては、さらに別の種類のメチル化感受性制限酵素(10ユニットのBstUI[認識部位:CGCG][New England Biolabs 社製])を添加し、60℃で16時間、追加のDNA分解処理を行った。制限酵素処理後、サンプルを98℃で10分間加熱処理した。
【0046】
RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片2、及びRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片3や、TERT遺伝子由来二本鎖DNA断片(表1参照)を、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)法(文献「High-throughput droplet digital PCR system for absolute quantitation of DNA copy number. Anal Chem. 2011;83(22):8604-10.」)により増幅・定量した。具体的には、制限酵素処理後のDNAサンプル8μL(40μLの血清に相当)と、1×ddPCR Supermix for Probes(BioRad社製)、並びにプライマーセット(フォワードプライマー及びリバースプライマー)0.25μmol/L及び0.125μmol/Lのプローブ(表2参照)を用い、Automated Droplet Generator(BioRad社製)によりドロップレットを生成し、QX100 droplet Digital PCRシステム(BioRad社製)を用いてPCRを行い、データ解析は、QuantaSoft software(BioRad社製)を用いて行った。
【0047】
【0048】
【0049】
[統計処理]
胃癌群と健常群の間の統計学的有意差は、Mann-Whitney U test、chi-square test、Fisher’s test及び線形回帰分析を使用して算出した。なお、P値が0.05未満のとき、統計的に有意差があると評価した。統計分析は、GraphPad InStat Ver. 3及びGraphPad Prism Ver. 6 statistical software(GraphPad Software社製)を用いて行った。
【0050】
1-2 結果
[血清試料中の本件シトシン1~3のメチル化レベル]
RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1及びRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片2には、それぞれメチル化感受性制限酵素であるHpaIIの認識部位(CCGG)が1カ所あるため、かかる部位のシトシン(表1中の四角で囲った本件シトシン1~3)がメチル化されると、HpaIIによる切断が阻害されるため、両断片はddPCR法により増幅・検出される。一方、本件シトシン1~3がメチル化されないと、両断片はHpaIIにより切断されるため、両断片はddPCR法により増幅・検出されない。
【0051】
まず、1000ゲノムプロジェクト(世界の26の集団からの2500人以上のゲノムデータであり、全てが、全ゲノム塩基配列解読、高深度エキソーム塩基配列解読、高密度マイクロアレイによる遺伝子型判定法を使って解析されている。この情報はインターネットで公開されている)におけるRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1及びRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片2の存在比を調査したところ、それぞれ99.42%~100%及び0~0.58%であった(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/variation/tools/1000genomes/?gts=rs532454563)。
次に、両断片及びRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片3における本件シトシン1~3のメチル化レベルを解析した。その結果、
図1Aに示すとおり、胃癌群における、メチル化された本件シトシン1~3の割合(血清40μあたりの、メチル化された本件シトシン1~3の数)の中央値は、6.0(0~26)であり、健常群の中央値(1.8[0~9.8])と比べ、有意に増加した。この結果は、胃癌患者の血清試料中に存在するRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3における本件シトシン1~3のメチル化レベルは、健常者と比べ、高いことを示している。
【0052】
また、
図1Aの結果を基に、ROC曲線(AUC)を作成したところ、AUC値は、0.7488と高い値を示した。また、胃癌群と健常群とを区別するためのカットオフ値として、5.9を設定したところ、胃癌に罹患する者の感度(胃癌群における検査陽性者の割合)及び特異度(健常群における検査陰性者の割合)は、それぞれ52.2%(12/23)及び94.4%(17/18)であった。
【0053】
この結果は、血液細胞を除いた血液試料(血清試料又は血漿試料)中のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3における本件シトシン1~3のメチル化レベルを測定し、適切なカットオフ値を設定すると、本件シトシン1~3のメチル化レベルを指標として、胃癌(特に早期胃癌)を判定できることを示している。
【0054】
[血清試料中のTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合]
TERT遺伝子由来二本鎖DNA断片には、上記3種類のメチル化感受性制限酵素(HhaI、HpaII、及びBstUI)のいずれの認識部位も存在しないため、TERT遺伝子由来二本鎖DNA断片は、血清試料中のその割合に依存して、ddPCR法により増幅・検出される。
【0055】
血清試料中のTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合を解析したところ、
図2Aに示すとおり、胃癌群における、TERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合(血清40μあたりの、TERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の数)の中央値は、922(348~2520)であり、健常群の中央値(282[122~1260])と比べ、有意に増加した。この結果は、胃癌患者の血清試料中に存在するTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合は、健常者と比べ、高いことを示している。
【0056】
また、
図2Aの結果を基に、ROC曲線(AUC)を作成したところ、AUC値は、0.8490と高い値を示した。また、胃癌群と健常群とを区別するためのカットオフ値として、1271を設定したところ、胃癌に罹患する者の感度(胃癌群における検査陽性者の割合)及び特異度(健常群における検査陰性者の割合)は、それぞれ34.8%(8/23)及び100%(18/18)であった。
【0057】
この結果は、血液細胞を除いた血液試料(血清試料又は血漿試料)中のTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合を測定し、適切なカットオフ値を設定すると、TERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合を指標として、胃癌(特に早期胃癌)を判定できることを示している。
【0058】
[血清試料中の本件シトシン1~3のメチル化レベルと、TERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合の組合せ]
次に、血清試料中の本件シトシン1~3のメチル化レベルと、TERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合とを組み合わせた場合に、胃癌群と健常群とを精度よく判定できるかどうかを検証した。それぞれのカットオフ値は、前述と同じものを使用し、胃癌群において、少なくとも、本件シトシン1~3のメチル化及びTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合のいずれかが陽性の被験者を検査陽性者とし、健常群において、本件シトシン1~3のメチル化及びTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合の両方が陰性の被験者を検査陰性者として評価したところ、胃癌に罹患する者の感度及び特異度は、それぞれ60.1%(14/23)及び94.4%(17/18)であった。
【0059】
この結果は、血液細胞を除いた血液試料(血清試料又は血漿試料)中のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3における本件シトシン1~3のメチル化レベルと、TERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合とを測定し、それぞれ適切なカットオフ値を設定すると、本件シトシン1~3のメチル化レベル及びTERT遺伝子由来二本鎖DNA断片の割合を指標として、それぞれ単独を指標とした場合と比べて、胃癌(特に早期胃癌)をより精度よく判定できることを示している。
【実施例2】
【0060】
2.膵臓癌患者由来血清試料を用いた本件判定方法
2-1 材料と方法
[血清試料]
膵臓癌群における膵臓癌患者26名(男性11名、女性15名;平均年齢70歳[46~85歳])と、健常群における健常者30名(男性15名、女性15名;平均年齢49歳[39~60歳])の計56名の被験者から、定法に従って血清試料を調製した。血清試料は、2016年11月25日~2017年12月20日の間、上部消化管内視鏡検査や手術などの侵襲的検査の前に、山口大学医学部附属病院、セントヒル病院、又は阿知須共立病院で予め採取し、DNAの抽出を行うまで-80℃で保存した。癌細胞が血液中にコンタミネーションすることを避けるために、生検が行われた症例は除外した。対照である健常者は、いかなる癌の病歴もなく、上部消化管内視鏡検査により、胃腺腫及び癌を有さないと判定された者である。膵臓癌患者は、膵臓癌以外のがんの病歴がない、画像診断や手術所見などでステージ1~4の膵臓癌と診断された患者である。膵臓癌患者26名のうち、高分化度(Well)の膵臓癌患者は2名であり、中分化度(Moderate)膵臓癌患者は15名であり、低分化(Poor)膵臓癌患者は1名であり、その他の組織型あるいは組織型不明の膵臓癌患者は8名であった。なお、膵臓癌のステージは、国際対がん連合(UICC)にしたがって分類した(文献「Sobin LH, Gospodarowicz MK, Wittekind C, editors. TNM Classification of Malignant Tumours, 7th ed. Oxford: Wiley-Blackwell; 2009.」参照)。また、上記被験者は全員日本人であった。本研究の目的、上部消化管内視鏡検査の複雑性及びリスクを対面の面談で口頭及び同意書で明確にした。上記健常者は、自発的に参加し、上部消化管内視鏡検査のリスクを理解した者に限定され、インフォームドコンセントの書類に署名した。研究プロトコールは、山口大学大学院医学研究科、セントヒル病院、及び阿知須共立病院の施設内倫理委員会で承認され、インフォームドコンセントを上記被験者から入手した。
【0061】
被験者由来血清試料中のDNAは、上記実施例1の[被験者由来血清試料中のDNAの調製]の項目に記載の方法に従って調製し、RUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1及びRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片2における本件シトシン2のメチル化レベルは、上記実施例1の[CORD(Combined Restriction Digital PCR)アッセイ]の項目に記載の方法に従って解析した。
【0062】
2-2 結果
図3Aに示すとおり、膵臓癌群における、メチル化された本件シトシン1~3の割合(血清40μあたりの、メチル化された本件シトシン1~3の数)の中央値は、4.0(0.0~26.0)であり、健常群の中央値(2.1[0.0~9.8])と比べ、増加した。この結果は、膵臓癌患者の血清試料中に存在するRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3における本件シトシン1~3のメチル化レベルは、健常者と比べ、高いことを示している。
【0063】
また、
図3Aの結果を基に、ROC曲線(AUC)を作成したところ、AUC値は、0.6410と高い値を示した。また、膵臓癌群と健常群とを区別するためのカットオフ値として、5.9を設定したところ、膵臓癌に罹患する者の感度(膵臓癌群における検査陽性者の割合)及び特異度(健常群における検査陰性者の割合)は、それぞれ34.6%(9/26)及び93.3%(28/30)であった。
【0064】
この結果は、血液細胞を除いた血液試料(血清試料又は血漿試料)中のRUNX3遺伝子由来二本鎖DNA断片1~3における本件シトシン1~3のメチル化レベルを測定し、適切なカットオフ値を設定すると、本件シトシン1~3のメチル化レベルを指標として、膵臓癌を判定できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、がんの早期発見及び早期治療に資するものである。
【配列表】