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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】卵子、受精卵又は胚の質改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/54 20150101AFI20220921BHJP
   A61P 15/08 20060101ALI20220921BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20220921BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220921BHJP
   C12N 1/38 20060101ALI20220921BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20220921BHJP
   C12N 5/073 20100101ALI20220921BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
A61K35/54
A61P15/08
A61K47/42
A61K47/18
C12N1/38
C12N1/00 G
C12N5/073
G01N33/68
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018540349
(86)(22)【出願日】2017-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2017034703
(87)【国際公開番号】W WO2018056461
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2016187532
(32)【優先日】2016-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510128029
【氏名又は名称】MPO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】川越 雄太
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-537636(JP,A)
【文献】Angiogenesis,Vol.8,2005年,pp.63-71
【文献】Front. Immunol.,2020年06月09日,Vol.11:1259,pp.1-9,doi: 10.3389/fimmu.2020.01259
【文献】血栓止血誌,2019年,Vol.30(4),pp.610-618
【文献】DOMINGUEZ, Francisco et. al.,Embryologic outcome and secretome profile of implanted blastocysts obtained after coculture in human,Fertility and Sterility,2010年,Vol.93, No.3,pp.774-782, 782.e1,ISSN:015-0282, 特に「アブストラクト」、表1、2、図2、第775頁右欄第22行~第776頁左欄第12
【文献】American Journal of Epidemiology,Vol. 166 (3),2007年,pp.323-331
【文献】Acta Obstetricia et Gynecologica,2006年,Vol.85,pp.336-342
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61K 45/00
C12N 1/00
C12N 5/00
G01N 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗CXCL5抗体若しくは抗原に特異的に結合し得る該抗体の断片、抗CXCR2抗体若しくは抗原に特異的に結合し得る該抗体の断片、又はSB225002であるCXCR2アンタゴニストを含む
、卵子、受精卵及び/又は胚の培養液に添加して用いるための、卵子、受精卵及び/又は胚の質改善剤。
【請求項2】
抗体の断片が、Fab、F(ab’)2、Fab’、Fv、scFv、dsFv、又はCDRである、請求項1に
記載の改善剤。
【請求項3】
卵子、受精卵及び/又は胚の質が、加齢により低下したものである、請求項1又は2に記載の改善剤。
【請求項4】
請求項1~の何れか一項に記載の改善剤を含有する、卵子、受精卵及び/又は胚の質の改善に用いるための、卵子、受精卵及び/又は胚の培養液。
【請求項5】
対象より分離した血清中のCXCL5濃度を指標として、卵子、受精卵及び/又は胚の老化
の有無を判断する、卵子、受精卵及び/又は胚の老化による妊娠する能力の低下の予測方法であって、
対象より分離した血清中のCXCL5濃度がカットオフ値よりも高い場合、卵子、受精卵又
は胚が老化していると判断し、対象より分離した血清中のCXCL5濃度がカットオフ値と同
じ若しくは低い場合、卵子、受精卵又は胚が老化していないと判断する工程を含む、前記予測方法。
【請求項6】
対象より分離した卵巣組織中のCXCL5濃度を指標として、卵子、受精卵及び/又は胚の
老化の有無を判断する、卵子、受精卵及び/又は胚の老化による妊娠する能力の低下の予測方法であって、
対象より分離した卵巣組織中のCXCL5濃度がカットオフ値よりも高い場合、卵子、受精
卵又は胚が老化していると判断し、対象より分離した卵巣組織中のCXCL5濃度がカットオ
フ値と同じ若しくは低い場合、卵子、受精卵又は胚が老化していないと判断する工程を含
む、前記予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CXCL5からのシグナル伝達を阻害する物質からなる、卵子、受精卵及び/又は胚の質改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ヒトのからだを構成する細胞は成長とともに分裂・増殖を繰り返すが、その過程で加齢に伴う様々なストレスに暴露されダメージを蓄積する。それは活性酸素の蓄積による酸化ダメージや、紫外線によるDNAダメージなどが原因として考えられ、その結果ミトコンドリアの機能低下や細胞内代謝の機能不全などを引き起こし癌化・細胞死に至る。このように、加齢と共に細胞の質が低下するのは、ヒトをはじめとして寿命を持つ全生物に共通する現象である。現在のところ、加齢に伴う細胞の質の低下は不可避なものであり、それらを遅延・停止・改善させるための研究が広く行われている。
【0003】
生殖医療の分野においては、着床前期胚の加齢による質の低下が注目を浴びている。着床前期胚の質の低下は、着床不全による妊娠率の低下や流産率の増加につながる。実際に年齢別の不妊症発症率をみると、20代の前半では6%の不妊症が30代から急激に増えだし、40代では64%にも達する。また、本邦における体外受精のうち、55%が38歳以上の加齢症例である。若年患者の体外受精による妊娠率は平均26%であるが、加齢症例では低下し38歳以上ではわずか6.3%である。
【0004】
CXCL5はケモカインの一種であり、好中球の走化性/活性化に寄与し、炎症反応に関与することが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2005-527189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで加齢による着床前期胚の質の低下を改善する試みがなされてきたが、有効性の高い方法は開発されていない。その結果、自らの胚での妊娠をあきらめ、若年女性から卵子提供を受け、体外受精・胚移植により妊娠することが行われている。
【0007】
この卵子提供による妊娠では、他者の卵子と夫の精子を受精させ、着床前期胚を子宮に移植して妊娠させるため倫理的な問題点が指摘されている。また、完全に非自己となる児を妊娠するため、母体に免疫異常が生じ妊娠合併症が増加するとの見解もある。さらに、卵子提供者も卵巣刺激のための頻回の注射や採卵といった侵襲度の高い行為を受ける必要があり、安全性の問題が指摘されている。
【0008】
一方、酸化ストレスや炎症ダメージを軽減する可能性のあるサプリメントの摂取による着床前期胚の質の改善が試みられてきたが、科学的に証明された高い効果のあるサプリメントは見出されていない。すなわち、加齢等による着床前期胚の質を改善する手段が求められている。
【0009】
これらの要望に応えるべく、本発明は、加齢等による着床前期胚の質の低下を改善する手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、ケモカインの一種であるCXCL5が胚の老化を誘導することを知見し、CXCL5からのシグナル伝達を阻害することで、加齢等による着床前期胚の質の低下を改善できることを知見した。同知見に基づき、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下に関する。
【0011】
[1] CXCL5からのシグナル伝達を阻害する物質からなる、卵子、受精卵及び/又は胚の質改善剤。
[2] CXCL5からのシグナル伝達を阻害する物質が、CXCL5とCXCR2との相互作用を阻害する物質である、[1]に記載の改善剤。
[3] CXCL5とCXCR2との相互作用を阻害する物質が、抗CXCL5抗体若しくはその断片、抗CXCR2抗体若しくはその断片、又はCXCR2アンタゴニストである、[2]に記載の改善剤。
[4] 卵子、受精卵及び/又は胚の質が、加齢により低下したものである、[1]~[3]の何れかに記載の改善剤。
【0012】
[5] [1]~[4]の何れかに記載の改善剤を含有する、卵子、受精卵及び/又は胚の培養液。
[6] 対象より分離した血清中のCXCL5濃度を指標として、卵子、受精卵及び/又は胚の老化の有無を判断する、卵子、受精卵及び/又は胚の老化の予測方法。
[7] 対象より分離した卵巣組織中のCXCL5濃度を指標として、卵子、受精卵及び/又は胚の老化の有無を判断する、卵子、受精卵及び/又は胚の老化の予測方法。
【0013】
[8] CXCL5からのシグナル伝達を阻害する物質に、卵子、受精卵又は胚を接触させる工程を含む、卵子、受精卵又は胚の質改善方法。
[9] CXCL5からのシグナル伝達を阻害する物質を含有する培養液中で、卵子、受精卵又は胚を培養する工程を含む、卵子、受精卵又は胚の培養方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、CXCL5からのCXCR2を介したシグナル伝達を阻害することにより、加齢等により低下した卵子、受精卵又は胚の質を改善し、体外受精胚移植等において妊娠率・出生率を高めることができる。また、血液又は卵巣組織中のCXCL5濃度をバイオマーカーとして用いることで、卵子、受精卵又は胚の老化を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、若年不妊症患者及び高齢不妊症患者の胚盤胞の遺伝子発現比較により発現変動のあった遺伝子の生物学的機能解析の結果を示す図である。
図2図2は、CXCL5中和抗体、CXCR2アンタゴニスト及びそれらの併用により得られた胚の胚盤胞到達率の結果を示す図である。
図3図3は、CXCL5中和抗体及びCXCR2アンタゴニストの併用により得られた胚の胚移植の結果を示す図である。Aは、各群のマウスの着床率を示す。Bは、各群のマウスの産仔獲得率を示す。
図4図4は、CXCL5中和抗体及びCXCR2アンタゴニストをそれぞれ単独で添加し得られた胚の胚移植の結果を示す図である。AはCXCL5中和抗体添加群の着床率を示す図である。BはCXCL5中和抗体添加群の産仔獲得率を示す図である。CはCXCR2アンタゴニスト添加群の着床率を示す図である。DはCXCR2アンタゴニスト添加群の産仔獲得率を示す図である。
図5図5は、若年マウスにCXCL5を添加し得られた胚の胚盤胞到達率の結果を示す図である。
図6図6は、若年マウスにCXCL5を添加し得られた胚の胚移植の結果を示す図である。Aは、各群のマウスの着床率を示す。Bは、各群のマウスの産仔獲得率を示す。
図7図7は、若年マウスにCXCL5を添加し得られた胚における老化マーカーの発現量の結果を示す図である。Aは、p21の発現量を示す。Bは、p53の発現量を示す。Cは、PAI-1の発現量を示す。Dは、IL-6の発現量を示す。
図8図8は、加齢マウス及び若年マウスの血清中及び卵巣中のCXCL5濃度の測定結果を示す図である。Aは、血清中の濃度を示す。Bは、卵巣中の濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(質改善剤)
本発明の一形態は、CXCL5からのシグナル伝達を阻害する物質からなる、卵子、受精卵及び/又は胚の質改善剤(以下、単に「質改善剤」と称することがある)に関する。すなわち、本発明は、CXCL5からのシグナル伝達を阻害する物質を、卵子、受精卵及び/又は胚の質改善の用途に用いることを特徴とする。なお、「卵子、受精卵及び胚の質改善」とは「卵子、受精卵及び胚の妊娠する能力の改善」と言い換えることができる。
【0017】
後記実施例に示すとおり、本発明者らは、加齢等により卵巣内のCXCL5濃度が増加することを明らかにした。また、CXCL5が卵子や受精卵、及び胚等の老化を誘導することで、得られる胚の質が低下することを知見した。さらに、CXCL5により低下した卵子、受精卵又は胚の質を、CXCL5からの、ケモカイン受容体であるCXCR2を介したシグナル伝達を阻害することで改善できることを知見した。同知見に基づき、本発明を完成した。
【0018】
すなわち、本発明の卵子、受精卵及び/又は胚の質改善剤は、CXCL5からのシグナル伝達を阻害する物質であり、卵子、受精卵又は胚の質改善作用を奏するものであれば特に限定されない。例えば、CXCL5とCXCR2との相互作用を阻害する物質等が挙げられる。
【0019】
CXCL5とCXCR2との相互作用を阻害する物質としては、抗CXCL5抗体若しくはその断片、抗CXCR2抗体若しくはその断片、又はCXCR2アンタゴニスト等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
上記抗CXCL5抗体、抗CXCR2抗体又はその断片としては、例えば、CXCL5又はCXCR2と結合することにより、CXCL5とCXCR2との相互作用を阻害する抗体(中和抗体)又はその断片が挙げられる。
【0021】
抗CXCL5抗体、抗CXCR2抗体としては、公知のものを使用することができる。特に限定されないが、抗CXCL5抗体として、例えば、Anti-CXCL5 antibody(abcam、R and D systems、LifeSpan Biosciences、ThermoFisher SCIENTIFIC)等が挙げられる。特に限定されないが、抗CXCR2抗体として、例えば、Anti-CXCR2 antibody(abcam)、Human CXCR2/IL-8RB Mab(R and D systems)、Mouse Monoclonal CXCR2/IL-8 RB Antibody(Novuss Biologicals)、CXCR2/IL8RB antibody(ThermoFisher SCIENTIFIC)等が挙げられる。
【0022】
抗CXCL5抗体は、CXCL5又はそのフラグメントを抗原として、常法により作製することも可能であり、そのような抗体を本発明に用いることも可能である。
抗CXCR2抗体は、CXCR2又はそのフラグメントを抗原として、常法により作製することも可能であり、そのような抗体を本発明に用いることも可能である。
【0023】
上記抗体は、ポリクローナル抗体でもモノクローナル抗体でもよい。また、完全な抗体分子でもよく、抗原に特異的に結合し得る抗体断片、例えば、Fab(fragment of antigen binding)、F(ab’)2、Fab’、Fv、scFv(single chain Fv)、dsFv(disulfide stabilized Fv)、CDR(complementarity determining region)等であってもよい。抗体はヒト型キメラ抗体又はヒト化抗体を用いることもできる。
【0024】
上記CXCR2アンタゴニストとしては、例えば、CXCL5と競合してCXCR2と結合することにより、CXCL5とCXCR2との相互作用を阻害するが、それ自身はCXCR2を活性化する能力を有さない物質が挙げられる。
【0025】
CXCR2アンタゴニストとしては、公知のものを使用することができる。特に限定されないが、例えば、SB225002(TOCRIS)等が挙げられる。
【0026】
CXCL5とCXCR2との相互作用を阻害する抗体及びアンタゴニストは、CXCL5とCXCR2との結合を、抗体及びアンタゴニスト非存在下での結合と比較して、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、1%以下に阻害するものであることが好ましい。本発明に用いる抗体及びアンタゴニストは、CXCL5とCXCR2を用いて、それらの結合を阻害するか否かを指標とし、公知の方法によって選択することができる。CXCL5とCXCR2との結合を阻害することにより、CXCL5からのCXCR2を介したシグナル伝達が阻害され、加齢等により低下した卵子、受精卵又は胚の質を改善することができる。本発明に用いる抗体及びアンタゴニストは、CXCL5とCXCR2を用いて、CXCL5からのCXCR2を介したシグナル伝達を阻害するか否かを指標とし、公知の方法によって選択することもできる。
【0027】
本発明の卵子、受精卵及び/又は胚の質改善剤を、卵子、受精卵又は胚に接触させることにより、CXCL5からのCXCR2を介したシグナル伝達を阻害し、CXCL5により低下した卵子、受精卵又は胚の質を改善する。本発明の卵子、受精卵及び/又は胚の質改善剤の、卵子、受精卵又は胚への接触方法としては、本発明の質改善剤を培養液に添加し、同培養液中で卵子、受精卵又は胚を培養する方法が挙げられる。なお、本発明における胚の質改善には、本発明の質改善剤を卵子及び/又は受精卵に接触させて卵子及び/又は受精卵の質を改善することにより、胚の質が改善されること、並びに本発明の質改善剤を胚に接触させて胚の質を改善することが含まれる。同様に、本発明における受精卵の質改善には、本発明の質改善剤を卵子に接触させて卵子の質を改善することにより、受精卵の質が改善されること、並びに本発明の質改善剤を受精卵に接触させて受精卵の質を改善することが含まれる。
【0028】
本発明の卵子、受精卵又は胚の質改善作用は、通常用いられる体外培養系等において、本発明の質改善剤添加群において、質改善剤非添加群に対し、妊娠・出産に関わる評価項目、例えば胚盤胞到達率、着床率、産仔(子)獲得率、流産率等のいずれか又はそれらの内複数の項目が改善することにより、確認することができる。
【0029】
本発明の卵子、受精卵又は胚の質改善剤の適用対象は、加齢等により卵子、受精卵又は胚の質が低下した対象であって、改善が求められる対象であれば特に限定されない。例えば、加齢に伴うCXCL5の分泌・分泌増加により卵子、受精卵又は胚の質が低下した対象、またこのような卵子、受精卵又は胚の質の低下により妊娠率・出生率等が低下した対象等が挙げられる。対象は哺乳類であり、哺乳類としては、特に限定されないが、ヒト、非ヒト動物、例えば、ブタ類、ウシ類、ビド類、ウマ類、スイギュウ類等のような肉及び酪農生産のために商業的な価値を有する動物等を含む。
【0030】
(培養液)
本発明の一形態は、CXCL5からのシグナル伝達を阻害する物質からなる、卵子、受精卵及び/又は胚の質改善剤を含有する、卵子、受精卵及び/又は胚の培養液(以下、単に「培養液」と称することがある)に関する。本発明の卵子、受精卵及び/又は胚の培養液は、本発明の卵子、受精卵及び/又は胚の質改善剤を含有することを特徴とし、卵子、受精卵又は胚の培養中に、加齢等に伴うCXCL5の分泌・分泌増加により低下した卵子、受精卵又は胚の質を改善するために用いることができる。
【0031】
本発明の培養液は、有効成分として本発明の卵子、受精卵及び/又は胚の質改善剤を含有すれば、その他の成分は特に限定されない。例えば、公知の卵子、受精卵又は胚の培養液に、本発明の卵子、受精卵及び/又は胚の質改善剤を添加して、本発明の培養液を製造することができる。
【0032】
体外受精等に用いる卵子、受精卵又は胚の培養液は、発生段階等に応じて、異なる組成の培養液を用いることができる。従来、卵子、受精卵又は胚の培養に用いられている培養液であれば特に制限されず、本発明の卵子、受精卵及び/又は胚の質改善剤を添加して、本発明の培養液を製造することができる。なお、受精卵を培養するために用いられる培養液、並びに桑実期から胚盤胞期までの胚を培養するために用いられる培養液に本発明の質改善剤を添加した形態が好ましい。
【0033】
より詳細には、体外受精等に用いる卵子、受精卵又は胚の培養液としては、精子と卵子の受精及び受精後(前核期)から16細胞期までの胚を培養するために用いられる第1の培養液、桑実期から胚盤胞期までの胚を培養するために用いられる第2の培養液等が用いられる。第1の培養液と第2の培養液は、同一の培養液を用いてもよい。精子の採取、卵子の採取には、第1の培養液を用いることができる。これらの培養液は市販されており、市販の培養液を本発明の培養液の製造に用いることもできる。特に制限されないが、第1の培養液としては、実験動物用の培養液の他、Sydney IVF Fertilization medium(Cook medical)、Sydney IVF Cleavage medium(Cook medical)、Sequential Fert(ORIGIO)、Sequential Cleav(ORIGIO)、Universal IVF medium(ORIGIO)、G-IVFTM(Vitrolife)、G-1TM v5(Vitrolife)等を、第2の培養液としては、実験動物用の培養液の他、Sydney IVF Blastosist medium(Cook medical)、Seaquential Blast(ORIGIO)、Blastassist medium(ORIGIO)、G-2TM v5(Vitrolife)等を用いることができる。
【0034】
また、無機塩、糖類、アミノ酸類、細胞保護物質、抗生物質、生理活性物質等を超純粋又は蒸留水等に溶解し、調製した培養液を用いて本発明の培養液を製造することもできる。
【0035】
培養液における本発明の卵子、受精卵及び/又は胚の質改善剤の含有量は、培養液中の濃度として、抗体又はその断片であれば通常0.01~100μg/ml、好ましくは0.1~10μg/mlであり得る。アンタゴニストであれば通常1~100nM、好ましくは10~30nMであり得る。抗体又はその断片とアンタゴニストを併用する場合は、通常28.6:1~2857.1:1、好ましくは28.6:1~1000:1(質量比)であり得る。
【0036】
卵子、受精卵又は胚の培養は、本発明の培養液を用いる以外は、公知の培養方法に従い行うことができる。培養の条件について以下に例示するが、同条件に限定されず、適用対象、必要とされる効果等に応じて、適宜変更できる。
培養温度は、通常37℃以上で行うことができる。培養気相は、通常5% CO2、95% O2の気相とすることができる。
培養時間は、体外受精のための卵子の前培養であれば通常1時間~2時間、受精卵であれば通常5~72時間、桑実期以降の胚であれば通常72~144時間とすることができる。
本発明の質改善剤を、卵子の前培養期間、受精卵の培養期間、及び桑実期以降の胚の培養期間の少なくともいずれかの期間に、卵子、受精卵又は胚と接触させることができる。
複数の培養期間に渡り、本発明の質改善剤を卵子、受精卵又は胚と接触させてもよい。本発明の質改善剤を卵子、受精卵又は胚と接触させる時間は、各期間中の全て又は期間中の一部の期間であってよい。
【0037】
本発明の卵子、受精卵及び/又は胚の培養液は、加齢等より低下した卵子、受精卵又は胚の質の改善、及び、質が低下した卵子、受精卵又は胚による体外受精・顕微授精成功率の低下の改善等を必要とする哺乳類の卵子、受精卵及び胚を対象とし、特に限定されない。哺乳類としては、特に限定されないが、ヒト、非ヒト動物、例えば、ブタ類、ウシ類、ビド類、ウマ類、スイギュウ類等を含む。
【0038】
(老化の予測方法)
本発明の一形態は、対象より分離した血清中のCXCL5濃度を指標として、卵子、受精卵及び/又は胚の老化の有無を判断する、卵子、受精卵及び/又は胚の老化の予測方法に関する。さらなる本発明の一形態は、対象より分離した卵巣組織中のCXCL5濃度を指標として、卵子、受精卵及び/又は胚の老化の有無を判断する、卵子、受精卵及び/又は胚の老化の予測方法(以下、これらを単に「老化の予測方法」と称することがある)に関する。
【0039】
後記実施例に示すとおり、卵巣内のCXCL5濃度と血清中のCXCL5濃度の程度が相関することが明らかとなった。したがって、卵巣内のCXCL5濃度を指標とする他に、血清中のCXCL5濃度を指標とすることにより、卵巣内のCXCL5濃度及びCXCL5による卵子、受精卵又は胚が老化の誘導を受けているか否かを予測することができる。
【0040】
本発明において、検体として使用される血液としては、血清が挙げられ、血清は対象から採取した血液を常法に従って処理することで、適宜、得ることができる。
本発明において、検体として使用される卵巣組織としては、卵巣組織自体、卵巣組織調製物、卵巣組織由来成分(卵巣細胞、卵胞液、顆粒膜細胞等)等が挙げられ、これらは対象から採取した卵巣組織を常法に従って処理することで、適宜、得ることができる。
【0041】
卵巣組織中のCXCL5濃度としては、CXCL5タンパク質濃度に限られず、CXCL5発現に関連する物質の濃度等であってもよい。ここで発現とは、CXCL5の遺伝子の転写、又は、該遺伝子の転写産物からの翻訳を意味する。
血清又は卵巣組織中のCXCL5濃度を測定する方法としては、特に限定されないが、例えば、免疫化学的方法、HPLC法等の各種クロマトグラフィー法などが挙げられる。関連する物質が核酸である場合には、CXCL5濃度を測定する方法としては、RT-PCR法等のPCR法などが挙げられる。簡便性等の点から、CXCL5を認識する抗体を使用する免疫化学的方法により測定するのが好ましい。
【0042】
血清又は卵巣組織中のCXCL5濃度の測定に使用される免疫化学的方法としては、特に制限はなく、公知の方法、例えば、酵素免疫測定法(EIA法)、ラテックス凝集法、免疫クロマト法、放射免疫測定法(RIA法)、蛍光免疫測定法(FIA法)、ルミネッセンス免疫測定法、スピン免疫測定法、抗原抗体複合体形成に伴う濁度を測定する比濁法、抗体固相膜電極を利用し抗原との結合による電位変化を検出する酵素センサー電極法、免疫電気泳動法、ウエスタンブロット法等が挙げられる。簡便性等の点から、EIA法、ラテックス凝集法又は免疫クロマト法により測定するのが好ましい。
【0043】
EIA法には、酵素標識抗原と検体中の抗原とを競合させる競合法と、競合させない非競合法があり、このうち、2種類の抗体を用いた、非競合法であるサンドイッチ酵素結合免疫固相測定法(サンドイッチELISA法)が操作の簡便性等の点で好ましい。
【0044】
血清又は卵巣組織中のCXCL5濃度を指標とする際、例えば、対象と同種の対照(例えば、健常対象、若年対象等)の血清又は卵巣組織中のCXCL5濃度を若しくは同濃度を基準としてカットオフ値として設定する。カットオフ値は、対照の血清又は卵巣組織中のCXCL5濃度や同濃度を基準とした値として、検体、必要とされる効果等に応じて、常法に基づき適宜設定できる。
同カットオフ値又は既に設定されたカットオフ値よりも、対象より分離した血清又は卵巣組織中のCXCL5濃度が高い場合、卵子、受精卵又は胚が老化していると判断し、対象より分離した血清又は卵巣組織中のCXCL5濃度がカットオフ値と同じ若しくは低い場合、卵子、受精卵又は胚が老化していないと判断し、老化を予測することができる。また、対象より分離した血清又は卵巣組織中のCXCL5濃度をカットオフ値と比較することにより、老化の程度を予測することができる。
【0045】
本発明の老化の予測方法の適用対象は、哺乳類であり、特に限定されない。哺乳類としては、特に限定されないが、ヒト、非ヒト動物、例えば、ブタ類、ウシ類、オビド類、ウマ類、スイギュウ類等を含む。
【0046】
(質改善方法及び培養方法)
さらに、本発明は、CXCL5からのシグナル伝達を阻害する物質に、卵子、受精卵又は胚を接触させる工程を含む、卵子、受精卵又は胚の質改善方法を含む。また、本発明は、CXCL5からのシグナル伝達を阻害する物質に、卵子、受精卵又は胚を接触させる工程を含む、卵子、受精卵又は胚の質を改善し、妊娠率・出産率を高める方法を含む。接触方法等については、前述の項の内容を参照できる。
【0047】
さらに、本発明は、CXCL5からのシグナル伝達を阻害する物質を含有する培養液中で、卵子、受精卵又は胚を培養する工程を含む、卵子、受精卵又は胚の培養方法を含む。培養の条件等については、前述の項の内容を参照できる。
【実施例
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
<実施例1>
着床前期胚を若年不妊症患者のものと39歳以上の高齢不妊症患者のもので遺伝子発現プロファイルを比較し、発現に差が認められる遺伝子を網羅的に解析した。その中で、分泌因子かつ高齢患者で高発現となるものを探索し、加齢による胚の質の低下に関与する候補因子とした。具体的には以下のように実験を行った。
【0050】
若年患者と高齢患者の胚盤胞の遺伝子発現をDNAマイクロアレイにより網羅的に比較したところ、発現量に5倍以上の差がある発現変動遺伝子は3789個であった。これらの遺伝子の生物学的機能解析を行った結果、代謝や細胞周期などに関する遺伝子が加齢により影響を受けていた(図1)。
【0051】
発現変動遺伝子の中から、分泌因子かつ高齢患者で高発現のものを抽出し、加齢患者の胚盤胞において若齢患者と比較して202.8倍高い発現量を示すCXCL5を最終候補因子とした。
【0052】
<実施例2>
実施例1で得られた候補因子CXCL5について、加齢マウス胚の体外培養系において、その中和抗体や特異的受容体のアンタゴニスト添加により、加齢によって低下した胚の質が改善されるかどうかについて調べた。42週齢の加齢マウスより、排卵した成熟卵子を回収して体外受精を行い、得られた受精卵(zygote)に対し、候補因子の中和抗体や特異的受容体のアンタゴニストを添加した培養液を用いて体外培養を行い、胚発育能を検証するため胚盤胞到達率を求めた。また、得られた胚盤胞を偽妊娠マウスに胚移植し、着床率、産仔獲得率を調べ、胚の質をさらに評価した。具体的には以下のように実験を行った。
【0053】
(実験動物)
ICR雌マウス(日本クレア, Tokyo, Japan)を実験動物として用いた。マウスは室温22℃、湿度55%、12時間ごとの明暗環境下で飼育された。マウス飼料はMFコントロール飼料(オリエンタル酵母, Tokyo, Japan)マウス一匹あたり一日6 gを与えた。水分は随時自由に摂取できる状態とした。若年マウスとして3週齢のマウスを、加齢マウスとして42週齢のマウスを用いた。各群は5匹とした。
全てのマウスの取り扱いや飼育に関しては聖マリアンナ医科大学の実験動物施設の基準に準じた。
【0054】
(体外受精及び胚培養)
3週齢及び42週齢を過ぎたマウスは膣スメアにより性周期を確認した。発情前期のタイミングでゴナトロピン(ASKA Pharmaceutical. Co., Tokyo, Japan) 10 IUを腹腔内投与した。投与後15時間で卵子卵丘細胞複合体(COCs:Cumulus Oocyte Complexes)を卵管内から回収し、100μl TYH medium(LSI Medience corporation, Tokyo, Japan)内で30分間前培養した。その間にICR雄マウス(10-12週齢)にソムノペンチル麻酔薬(共立製薬, Tokyo, Japan)で全身麻酔を施し、精巣上体尾部を摘出した。精巣上体尾部の一部を切開し内部の精子を押し出すように回収した。回収した精子塊を400μl TYH mediumが入った1.5 mLマイクロチューブに沈めてCO2 incubator 内で10分間swim upした(37℃、5% CO2、95% in air)。Swim up後の精子をCOCsが入った100μl TYH mediumに最終濃度2-3×105/mlとなるように加え、CO2 incubator (37℃、5% CO2、95% in air)内で5-6時間培養した。培養後の卵子は30μl KSOM Medium(Merck Millipore, Darmstadt, Germany)内で精子の除去を行い、その際に2細胞期胚数を算出した。その後、若年マウス対照、加齢マウス対照については、別の30μl KSOM Mediumに移し、CO2 incubator 内で4日間培養した。薬剤処理群については、それぞれ最終濃度0.1μg/ml、1μg/ml、10μg/mlのCXCL5中和抗体(ab135203, abcam)を添加した30μl KSOM Medium、最終濃度10nM、30nMのCXCR2アンタゴニスト(2725, TOCRIS)を添加した30ml KSOM Medium、並びに、CXCL5中和抗体及びC
XCR2アンタゴニストを添加した30μl KSOM Mediumに移し、CO2 incubator 内で4日間培養した。胚盤胞到達率は、胚盤胞数/二細胞期胚数で算出した。
【0055】
加齢マウスの受精卵にCXCL5の中和抗体及び特異的受容体のアンタゴニストを異なった濃度で添加したところ、胚盤胞到達率は対照群と薬剤処理群の間に有意な差を認めなかった(図2)。
【0056】
(胚移植及び帝王切開)
4日間の培養後、胚盤胞期胚に到達した胚を胚移植した。Recipientマウスは6-10週齢のICR雌マウスで、採卵日の前日に精管結紮されたICR雄マウスと交配させ、翌日膣栓が確認できた個体を使用した。ソムノペンチル麻酔薬で全身麻酔を施し、後背部切開により子宮を露出させた。子宮をピンセットで固定し30G の注射針(Dentronics, Tokyo, Japan)で卵管接合部に穴を開け、胚盤胞を吸引したガラスキャピラリーを挿入し子宮内部に胚を移植した。移植後、子宮を慎重に体内に戻し、後腹膜及び皮膚を縫合した。移植に際しては、各群のマウスから得られた胚盤胞を個体毎にそれぞれRecipientマウスに移植した。採卵の翌日を1日目として、19日目で帝王切開を実施した。Recipientマウスを安楽死させ開腹、子宮を摘出して胎仔を取り出した。着床率は着床痕数/胚移植数、産仔獲得率は産仔数/着床痕数で算出した。
【0057】
対照群と薬剤処理群の胚盤胞を偽妊娠マウスに移植したところ、着床率が中和抗体+アンタゴニスト添加群で顕著に改善した(One-way ANNOVA followed by Tukey-Kramer test, *P<0.05 vs. control, 図3)。中和抗体(10 μg/ml)+アンタゴニスト(10 nM)添加群で、加齢対照との間に有意差が認められた。産仔獲得率は中和抗体(10 μg/ml)+アンタゴニスト(10 nM)添加群で有意に上昇した(図3)。
中和抗体(10μg/ml)のみの添加群、アンタゴニスト(10nM)のみの添加群でも薬剤処理群で着床率、産仔獲得率ともに高い傾向を示した(図4)。
【0058】
<実施例3>
また、若年マウス胚の体外培養系において、その候補因子の添加により、胚盤胞到達率、着床率、産仔獲得率に変化があるかどうかについて、実施例2と同様の方法を用いて検討した。また、老化マーカーである、p16, p21, p53, PAI-1, IL-6の胚における発現を測定し、細胞老化が誘導されるかどうかについて調べた。具体的には以下のように実験を行った。
【0059】
実施例2に記載の方法に基づき、若年マウスについて、体外受精及び胚培養を行った。ただし、対照群については30μl KSOM Medium、薬剤処理群については最終濃度1,000nMの熱変性(95℃、5分間)CXCL5(ab9803, abcam)、それぞれ最終濃度100nM、300nM、1,000nMのCXCL5を添加した30μl KSOM Mediumに移し、CO2 incubator 内で4日間培養した。その後、胚盤胞到達率を算出した。
若年マウスの受精卵にCXCL5及び熱変性CXCL5を添加し培養したところ、胚盤胞到達率は、非添加対照群との間に有意な差は認められなかった(図5)。
【0060】
実施例2に記載の方法に基づき、対照群と薬剤処理群の胚盤胞を偽妊娠マウスに移植した。その後、着床率及び産仔獲得率を算出した。
【0061】
CXCL5及び熱変性CXCL5を添加し得られた胚盤胞を偽妊娠マウスに移植したところ、CXCL5添加群で着床率が低下した(One-way ANNOVA followed by Tukey-Kramer test, *P<0.05 vs. control, 図6)。CXCL5 1,000nM添加群で、非添加対照群との間に有意差が認められた。産仔獲得率は対照群との間に有意な差を認めなかった(One-way ANNOVA followed by Tukey-Kramer test, *P<0.05 vs control, 図6)。また、熱変性CXCL5添加群は、着床率、産仔獲得率共に対照群との間に有意な差を認めなかった。
【0062】
CXCL5を添加した胚(n=30)における老化マーカー(p16、p21、p53、PAI-1、IL-6)の発現量をRealtime RT-PCRを用いて測定した。p16は発現量に差を認めなかったが、p21、p53、PAI-1、IL-6では有意な発現増加を認めた(T-test, *P<0.05 vs control, 図7)。
【0063】
<実施例4>
若年マウス及び加齢マウスにおける候補因子の血清中及び卵巣組織における濃度を測定し、候補因子が胚の老化を予測可能なバイオマーカーとしての有用か否かを評価した。具体的には以下のように実験を行った。
【0064】
実施例2における体外受精前に、若年マウス及び加齢マウスについて、それぞれ血清及び卵巣組織を採取した。血清中及び卵巣中におけるCXCL5の濃度をELISAをもちいて測定した。加齢マウスの血清中及び卵巣中におけるCXCL5の濃度は、若年マウスと比較して有意に高い値を示した(T-test, *P<0.05 vs control, 図8)。また、血清中CXCL5の濃度の傾向は、卵巣中CXCL5の濃度の傾向と相関しており、血清中CXCL5の濃度から、卵巣中CXCL5の濃度が予測できることが分かった。
【0065】
加齢した胚におけるCXCL5-CXCR2シグナルの抑制は、加齢により低下した卵子、受精卵、胚の質を改善し、体外受精胚移植等において妊娠率・出生率を高める作用を有することが明らかとなった。また、CXCL5は胚の老化を誘導し、その血清中濃度は卵子、受精卵、胚の老化マーカーとして有用であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、医薬品、医療機器、研究用試薬等に適用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8