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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】掻痒性皮膚疾患の予防又は治療薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/197 20060101AFI20220921BHJP
   A61K 31/405 20060101ALI20220921BHJP
   A61K 31/5513 20060101ALI20220921BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220921BHJP
   A61K 31/196 20060101ALN20220921BHJP
   A61K 31/4152 20060101ALN20220921BHJP
   A61K 31/517 20060101ALN20220921BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20220921BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20220921BHJP
【FI】
A61K31/197
A61K31/405
A61K31/5513
A61P17/00
A61K31/196
A61K31/4152
A61K31/517
A61K45/00
A61P43/00 111
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018568647
(86)(22)【出願日】2018-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2018005629
(87)【国際公開番号】W WO2018151285
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2017028908
(32)【優先日】2017-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楠部 史也
(72)【発明者】
【氏名】冨永 光俊
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼森 建二
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-513995(JP,A)
【文献】特開平03-068597(JP,A)
【文献】特開平08-027190(JP,A)
【文献】特表2003-506313(JP,A)
【文献】国際公開第2011/049200(WO,A1)
【文献】日本研究皮膚科学会年次学術大会・総会プログラム,2016年,Vol.41,p.163 P01-26[O1-08]
【文献】Acta Dermato-Venereologica,2017年09月,Vol.97, No.8,p.1011 OP11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/00-31/80
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-365260、YM022、CI-988、Z-360又はプログルミドを有効成分とするアロネーシスを伴う掻痒性皮膚疾患予防又は治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アトピー性皮膚炎等の掻痒性皮膚疾患の予防又は治療薬に関する。
【背景技術】
【0002】
かゆみを伴う皮膚疾患には、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、乾癬、乾皮症等の原因が判明している限局性掻痒症以外に、肝硬変、腎不全、悪性リンパ腫等の内臓疾患による全身性の皮膚掻痒症がある。このうち、アトピー性皮膚炎等においては、強いかゆみを引き起こすため、掻いてしまうことで症状を悪化させてしまうことが問題となっている。かゆみのメカニズムは明確にされていない。
【0003】
最近の研究によって、後根神経節(DRG)-脊髄間でいくつかの神経伝達物質がかゆみの情報伝達に関与することが示された。すなわち、末梢DRGで放出された脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)やガストリン放出ペプチド(GRP)が、脊髄内のBNP受容体(Npra)やGRP受容体(GRPR)を介してかゆみの情報伝達をしていることが報告された(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Mishra SK, Hoon MA. The Cells and Circuitry for Itch Responses in Mice. Science. 2013, 340(6135): 968-971.
【文献】Sun YG, Chen ZF. A gastrin-releasing peptide receptor mediates the itch sensation in the spinal cord. Nature. 2007, 448(7154): 700-703.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、BNPやGRPだけではかゆみの神経伝達を解明したとは言えず、更なる新たな神経伝達物質の解明が望まれている。
従って、本発明の課題は、かゆみの新たな神経伝達物質を見出し、新たなかゆみの治療手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、アトピー性皮膚炎発症NC/Ngaマウス(AD/NC/Ngaマウス)を用いてかゆみの新たな神経伝達物質の探索を行ったところ、AD-NC/Ngaマウスにおいて、アトピー性皮膚炎未発症NC/Ngaマウスに比べて、後根神経節(DRG)でコレシストキニン遺伝子の発現が強く発現しており、コレシストキニンがかゆみの神経伝達物質である可能性を見出した。さらに、研究を続けたところ、コレシストキニン8Sの髄腔内投与によりマウスの掻破行動が増加し、コレシストキニン8Sは、アトピー性皮膚炎の特徴的な症状であるアロネーシスも誘発することを見出し、コレシストキニン8Sがかゆみの神経伝達物質であることを確認した。そしてさらに研究を続けたところ、コレシストキニン受容体のうち、コレシストキニン-2受容体(CCK-2R)拮抗剤が、コレシストキニン8Sによる掻痒性皮膚疾患の予防又は治療薬として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔5〕を提供するものである。
【0008】
〔1〕コレシストキニン-2受容体拮抗剤を有効成分とする掻痒性皮膚疾患予防又は治療薬。
〔2〕掻痒性皮膚疾患が、アロネーシスを伴う掻痒性皮膚疾患である〔1〕記載の予防又は治療薬。
〔3〕コレシストキニン-2受容体拮抗剤が、L-365260、YM022、CI-988、Z-360、プログルミド、CI-1015、PD135158、LY225910、YF476、LY-288513又はRP-69758である〔1〕又は〔2〕記載の予防又は治療薬。
〔4〕掻痒性皮膚疾患予防薬又は治療薬製造のための、コレシストキニン-2受容体拮抗剤製造のための使用。
〔5〕掻痒性皮膚疾患が、アロネーシスを伴う掻痒性皮膚疾患である〔4〕記載の使用。
〔6〕コレシストキニン-2受容体拮抗剤が、L-365260、YM022、CI-988、Z-360、プログルミド、CI-1015、PD135158、LY225910、YF476、LY-288513又はRP-69758である〔4〕又は〔5〕記載の使用。
〔7〕掻痒性皮膚疾患を予防又は治療するための、コレシストキニン-2受容体拮抗剤。
〔8〕掻痒性皮膚疾患が、アロネーシスを伴う掻痒性皮膚疾患である〔7〕記載のコレシストキニン-2受容体拮抗剤。
〔9〕コレシストキニン-2受容体拮抗剤が、L-365260、YM022、CI-988、Z-360、プログルミド、CI-1015、PD135158、LY225910、YF476、LY-288513又はRP-69758である〔7〕又は〔8〕記載のコレシストキニン-2受容体拮抗剤。
〔10〕コレシストキニン-2受容体拮抗剤の有効量を投与することを特徴とする掻痒性皮膚疾患の予防又は治療方法。
〔11〕掻痒性皮膚疾患が、アロネーシスを伴う掻痒性皮膚疾患である〔10〕記載の方法。
〔12〕コレシストキニン-2受容体拮抗剤が、L-365260、YM022、CI-988、Z-360、プログルミド、CI-1015、PD135158、LY225910、YF476、LY-288513又はRP-69758である〔10〕又は〔11〕記載の方法。
〔13〕被検体のコレシストキニン-2受容体に対する拮抗作用を測定することを特徴とする掻痒性皮膚疾患予防又は治療薬のスクリーニング方法。
〔14〕被検体のコレシストキニン-2受容体に対する拮抗作用の測定が、コレシストキニン又はその部分ペプチド類及び被検体を投与した非ヒト動物の掻破行動を測定するものである〔13〕記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、全く新しい機序による掻痒性皮膚疾患の予防又は治療薬が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】コレシストキニン8S投与後3時間の掻破行動の発作回数を示す。
図2】コレシストキニン8S投与後3時間までの掻破行動のタイムコースを示す。
図3】コレシストキニン8S投与後のアロネーシススコアのタイムコースを示す。
図4】コレシストキニン8S(0.5nmol)投与後のアロネーシススコアに対するCCK1Rアンタゴニスト及びCCK2Rアンタゴニストの作用を示す。
図5】コレシストキニン8S(1.0nmol)投与後のアロネーシススコアに対するCCK1Rアンタゴニスト及びCCK2Rアンタゴニストの作用を示す。
図6】CCK2受容体拮抗剤の自発運動量に及ぼす作用を示す。
図7】コレシストキニン誘発性アロネーシスに対するCCK2受容体拮抗剤経口投与の作用を示す。
図8】ドライスキンモデルマウスの皮膚における経表皮水分蒸散量(TEWL)及びSC hydrationの変動を示す。
図9】ドライスキンモデルマウスにおける自発的掻破行動を示す。
図10】ドライスキンモデルマウスのアロネーシスに対するCCK2受容体拮抗剤経口投与の作用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、コレシストキニン8S(CCK8S)がかゆみの神経伝達物質であるとともにアロネーシスを誘発する神経ペプチドであることを見出し、さらにCCK-2受容体(CCK-2R)拮抗剤が掻痒性皮膚疾患の予防又は治療薬として有用であることを見出したものである。
【0012】
本発明の掻痒性皮膚疾患の予防又は治療薬の有効成分は、コレシストキニン-2受容体拮抗剤(CCK-2Rアンタゴニスト)である。
【0013】
コレシストキニンは、ガストリンファミリーに属するペプチドであり、CCK-2受容体拮抗剤は、従来、胃運動亢進作用を有すること、及び痛覚消失作用又は痛覚消失増強作用を有することは知られているが、かゆみに対する作用は全く知られていない。CCK-2R拮抗剤としては、例えば次の既知化合物が挙げられる。
【0014】
【化1】
【0015】
【化2】
【0016】
【化3】
【0017】
【化4】
【0018】
(R)-(-)-3-[3-(1-tert-ブチルカルボニルメチル-2-オキソ-5-シクロヘキシル-1,3,4,5-テトラヒドロ-2H-1,5-ベンゾジアゼピン-3-イル)ウレイド]安息香酸またはその薬学的に許容される塩(Z-360)
【0019】
CCK-2受容体拮抗剤は、後記実施例に示すように、コレシストキニンの部分ペプチドであるコレシストキニン8Sにより生じるアロネーシスを抑制し、ヒトを含む哺乳動物における掻痒性皮膚疾患の予防又は治療薬として有用である。アロネーシスとは、本来かゆみをもたらさない刺激によりかゆみを生じることをいう。掻痒性皮膚疾患としては、掻痒を伴なうアトピー性皮膚炎、接触皮膚炎などのアレルギー性皮膚炎、乾癬、乾皮症、ドライスキン等が挙げられる。
また、これらのCCK-2受容体拮抗剤は、中枢作用を示さない投与量において、コレシストキニン8Sにより生じるアロネーシスを抑制することから、安全性も高い。
【0020】
本発明の医薬は、CCK-2受容体拮抗剤を有効成分として含有する各種の剤形の医薬組成物とすることができる。当該剤形としては、錠剤、顆粒剤、細粒剤、粉末剤、カプセル剤、液剤等の経口投与用製剤、静脈投与用製剤等の注射剤、経皮投与用製剤、経直腸投与用製剤等が挙げられるが、経口投与用製剤が特に好ましい。
【0021】
これらの医薬組成物の形態とするには、薬学的に許容される担体とともに製剤化することができる。そのような担体としては、例えば、乳糖、ブドウ糖、D-マンニトール、澱粉、結晶セルロース、炭酸カルシウム、カオリン、デンプン、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、エタノール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム塩、ステアリン酸マグネシウム、タルク、アセチルセルロース、白糖、酸化チタン、安息香酸、パラオキシ安息香酸エステル、デヒドロ酢酸ナトリウム、アラビアゴム、トラガント、メチルセルロース、卵黄、界面活性剤、白糖、単シロップ、クエン酸、蒸留水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、リン酸-水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、ブドウ糖、塩化ナトリウム、フェノール、チメロサール、パラオキシ安息香酸エステル、亜硫酸水素ナトリウム等があり、製剤の形に応じて、グリシル-L-アラニル-L-ヒスチジン又はその塩と混合して使用される。
【0022】
さらに、本発明の医薬組成物中における本発明の有効成分の含有量は、製剤の形によって大きく変動し、特に限定されるものではないが、通常は、組成物全量に対して0.01~100質量%、好ましくは1~100質量%である。
【0023】
本発明の医薬の投与量は、投与する患者の症状、年齢、投与方法によって異なるが、CCK-2受容体拮抗剤として、成人に対して1日あたり10~2000mgであるのが好ましい。またこの投与量は1日に1~4回に分けて投与することもできる。
【0024】
本発明の掻痒性皮膚疾患予防又は治療薬のスクリーニング方法は、被検体のCCK-2受容体に対する拮抗作用を測定することにより実施できる。CCK-2受容体拮抗作用は、CCK-2受容体を有する細胞又は組織を用いて、CCK又はその部分ペプチド類と被検体との拮抗作用を測定することにより検討することができる。また、掻痒作用を直接評価するには、コレシストキニン又はその部分ペプチド類及び被検体を投与した非ヒト動物の掻破行動を測定することによって行うこともできる。また、ドライスキンモデル動物の掻破行動を測定することによっても行うことができる。
【0025】
より具体的には、マウスやラット等の非ヒト動物にコレシストキニン又はその部分ペプチド類を投与して誘発されるアロネーシスを、被検体を投与した場合に抑制するか否かを検討すればよい。コレシストキニンの部分ペプチド類としては、コレシストキニン8、コレシストキニン8S(コレシストキニン8の硫酸付加物)等が挙げられる。コレシストキニンや被検体の投与は、髄腔内投与が好ましい。また、掻破行動の観察は、以前報告された方法に従い、マウスをケージに置き、観察室に実験者がいない状態で180分間ビデオに掻破行動を記録、各ビデオを再生することによって掻破行動の発作の数を計測することにより行うのが好ましい(Kuraishi Y, Nagasawa T, Hayashi K, Satoh M. Scratching behavior induced by pruritogenic but not algesiogenic agents in mice. 1995, 275(3):229-33)。計測の際に、後脚を上げ、掻破し、下す一連の行動を1回の掻破行動の発作として定義する。グルーミング(毛づくろい)、舐める、噛むなどの動きは掻破行動とはみなさい。アロネーシスの観察は、以前報告された方法に従い、無作為に選んだ5つの部位にvon Freyフィラメント(0.16g)を用いて10秒ごとに5回の機械刺激を与え、次の刺激をマウスに与える前に、各刺激について掻破行動の有無を観察することにより行うのが好ましい(Akiyama T, Carstens MI, Ikoma A, Cevikbas F, Steinhoff M, E. Carstens. Mouse model of touch-evoked itch (alloknesis). J Invest Dermatol.2012, 132(7): 1886-1891、Bourane S, Duan B, Koch SC, Dalet A, Britz O, Garcia-Campmany L, Kim E, Cheng L, Ghosh A, Ma Q, Goulding M. Gate control of mechanicalitch by a subpopulation of spinal cord interneurons. Science. 2015 Oct 30;350(6260):550-4)。1回の機械刺激によって掻破行動が認められたら場合、アロネーシススコアを1点とし、5回分の機械刺激による掻破行動の有無を合計した点数で評価する。抑制作用の評価は、コレシストキニン等のみを投与した場合に比べて、コレシストキニン等と被検体を投与した場合に掻破行動及びアロネーシススコアが低下しているか否かを評価すればよい。
【実施例
【0026】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0027】
実施例1
アトピー性皮膚炎未発症のNC/Ngaマウスとアトピー性皮膚炎発症のNC/Ngaマウスの後根神経節(DRG)を用いて、DNAマイクロアレイ解析を行った。すなわち、DRGからのRNA抽出は、RNeasy Micro Kit(Qiagen社)を用いて行い、抽出後、RNAの吸光度をNanoDrop 1000を用いて測定した。抽出したRNAの品質はAgilent 2100 BioAnalyzer series IIを使用して確認した。次に、Low Input Quick Amp Labeling kit(Agilent Technologies)を使用し、cDNA合成、cRNAのラベルと増幅を行った。RNeasy mini spin columns(Qiagen社)を使用しラベル化cRNAを精製し、Agilent 2100 BioAnalyzer series IIを使用してラベル化cRNAの品質を確認した。次に、Gene Expression Hybridization kit(Agilent Technologies)を用いてハイブリダイゼーションを行い、スライドガラスをGene Expression Wash Buffer(Agilent Technologies)で洗浄した。その後、Agilent Technologies Microarray Scannerを用いてスライドガラスをスキャンした。次に、Agilent Feature Extraction 12.0.3.1ソフトを用いて各スポットの数値化、ノーマライズを行い、FoldChangeの解析を行った。
アトピー性皮膚炎発症NC/NgaのDRGにおいて、アトピー性未発症NC/NgaのDRGに比べて2倍以上発現が上昇していた遺伝子(mRNA)を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
表1から、コレシストキニン遺伝子(mRNA)は、アトピー性皮膚炎発症NC/Ngaマウスにおいて有意に増加していた。
【0030】
実施例2
C57BL/6Jマウスの髄腔内にコレシストキニン8S(CCK8硫酸付加物)0.5nmolを注射し、掻破行動を観察した。掻破行動は、以前報告された方法に従い、下記のように観察・測定した(Kuraishi Y, Nagasawa T, Hayashi K, Satoh M. Scratching behavior induced by pruritogenic but not algesiogenic agents in mice. 1995, 275(3):229-33)。各マウスの吻側背部の毛を電気シェーバーで剃毛した。マウスを個々に4つの部屋(13×9×35cm)からなるアクリル製ケージに入れた。ケージの上部に三脚を用いてビデオカメラ(HC-W850M;Panasonic、Osaka、Japan)を配置し、掻破行動を録画した。マウスは撮影前に、少なくとも1時間、馴化させ、その後セボフルラン(Maruishi Pharmaceutical Co.,大阪、日本)麻酔下で、生理食塩水(溶媒)、0.5nmol CCK8Sを髄腔内投与した。髄腔内注射の直後に、マウスをケージに置き、観察室に実験者がいない状態で3時間ビデオカメラにて掻破行動を記録した。各ビデオを再生することによって掻破行動の発作の数を計測した。
3時間の掻破行動の発作回数を図1に、掻破行動のタイムコースを図2に示す。
図1及び図2より、CCK8Sの髄腔内投与により、マウスの掻破行動が有意に増加し、コレシストキニンが掻痒の神経伝達物質である可能性が示唆された。
【0031】
実施例3
アロネーシスアッセイは以前の報告された文献に基づき行った(Akiyama T, Carstens MI, Ikoma A, Cevikbas F, Steinhoff M, E. Carstens. Mouse model of touch-evoked itch (alloknesis). J Invest Dermatol. 2012, 132(7): 1886-1891、Bourane S, Duan B,Koch SC, Dalet A, Britz O, Garcia-Campmany L, Kim E, Cheng L, Ghosh A, Ma Q, Goulding M. Gate control of mechanical itch by a subpopulation of spinal cord interneurons. Science. 2015 Oct 30;350(6260):550-4.)。すなわち、Von Frey フィラメントを用いて軽微な機械的刺激をC57BL/6Jマウスの皮膚に与え、刺激直後に掻破行動が生じるか否かを解析するアローネシスアッセイを行った。アロネーシスアッセイを実施する3日前にマウスの吻側背部を剃毛した。各マウスの髄腔内に生理食塩水5μLを溶媒とした0.5または1.0nmolのCCK8Sを溶解した溶液を投与し、髄腔内投与5分、30分、60分、90分、120分、150分、180分後にアロネーシスアッセイを行った。無作為に選んだ5つの部位でvon Freyフィラメント(0.16g)を用いてマウスに10秒間隔で5回のVon Frey刺激を与え、そのうちマウスが刺激した場所を掻破した回数をスコア化し、評価した。0.5nmol又は1.0nmolCCK8Sはを髄腔内投与し、アロネーシスアッセイを行った結果を図3に示す。
図3より、CCK8Sの髄腔内投与により、投与後の時間経過及び投与量依存的にアロネーシスを誘発した。
【0032】
実施例4
実施例3のアロネーシスアッセイにおいて、CCK8Sとともに、CCK-1R拮抗剤であるSR27897(1nmol)又はCCK-2R拮抗剤であるL-365260(1nmol)を髄腔内投与し、マウスの掻破行動を測定した。
その結果、図4及び図5に示すように、CCK-1R拮抗剤ではCCK8S誘発性アロネーシスが抑制されなかったが、CCK-2R拮抗剤投与によりCCK8S誘発性アロネーシスが有意に抑制された。
【0033】
実施例5
CCK-2受容体拮抗剤として知られているL-365260、PD135158及びLY-288513を使用してアロネーシス抑制作用を検討した。
(1)投与量の決定
C57BL/6Jマウス(雄、6-8週齢)を1時間撮影ケージで馴化した。中枢移行性があることが知られているCCK-2受容体拮抗剤(L-365260、PD135158、LY-288513)を経口投与した。SCLABA-Realシステムを用いて、2.5時間、自発運動量を測定した。
【0034】
群構成は、以下の通りとした。
群構成(1)
1.溶媒(0.5% メチルセルロース) 投与群(N=9)
2.10mg/kg p.o. L-365260(ベンゾジアゼピン誘導体) 投与群(N=5)
3.10mg/kg p.o. PD135158(ペプチド誘導体) 投与群(N=6)
4.10mg/kg p.o. LY-288513(ピラゾリジン誘導体) 投与群(N=9)
群構成(2)
1.溶媒(0.5%メチルセルロース) 投与群(N=9)
2.20mg/kg p.o. L-365260(ベンゾジアゼピン誘導体) 投与群(N=4)
3.20mg/kg p.o. PD135158(ペプチド誘導体) 投与群(N=4)
4.20mg/kg p.o. LY-288513(ピラゾリジン誘導体) 投与群(N=8)
【0035】
その結果、図6に示すように、L-365260は10mg/kg投与で、PD135158は10mg/kg投与で、またLY-288513は20mg/kg投与で、自発運動量に影響しないことが判明した。
【0036】
(2)CCK2受容体拮抗剤のコレシストキニン8S誘発性アロネーシスに対する作用
C57BL/6Jマウス(雄、6-8週齢)を1時間アッセイ用のケージで馴化した。前記のCCK2受容体拮抗剤を経口投与した。
CCK2R受容体拮抗剤の経口投与30分後に、髄腔内にCCK8S(1nmoL/5μL)を投与した。CCK8S投与後5,30,60,90,120分で、von Freyフィラメント(0.16g)を用いてアロネーシスアッセイを行った。
【0037】
群構成を以下に示す。
1.Veh(p.o. 0.5% メチルセルロース)→ i.t. saline (N=9)
2.Veh(p.o. 0.5% メチルセルロース)→ i.t. CCK8S (1 nmoL) (N=9)
3.10mg/kg p.o. L-365260→i.t. CCK8S (1 nmoL) (N=9)
4.10mg/kg p.o. PD135158→i.t. CCK8S(1 nmoL) (N=8)
5.20mg/kg p.o. LY-288513→i.t. CCK8S(1 nmoL) (N=7)
【0038】
その結果、図7に示すように、L-365260、PD135158及びCY-288513は、いずれも自発運動量に影響を及ぼさない投与量でコレシストキニン8S誘発性アロネーシスを抑制した。
【0039】
実施例6
(方法)
C57BL6/Jマウス(10週齢、雄)の背部を剃毛し(少なくとも実験開始3日前)、AEW処置(7日間、朝・夕・2回)を行い、ドライスキンモデルマウスを作製した。
AEW処置は、アセトン(A)とジエチルエーテル(E)を1:1で混ぜたAE溶液をコットンに染み込ませ、剃毛部に15秒間塗布した。次に滅菌水をコットンに染み込ませ、30秒間塗布した(AEW群)。コントロール群には、滅菌水で45秒間塗布した(W群)。
最後のAEW処理から16~20時間後にスクラバを用いて2時間(内、1時間は馴化のため)、掻破行動を録画した。スクラバ解析後、下記の行動試験を開始した。
1時間ケージで馴化中に、AEWドライスキンモデルマウスにCCK2R拮抗薬(L-365260)をアロネーシスアッセイ開始30分前に経口投与した。
アロネーシスアッセイは、von Frey filament 0.16gを用いて行った。計6回、Von Frey filamentで刺激した。
アロネーシスアッセイ後、経表皮水分蒸散量(TEWL)及びSC hydrationの測定し、試験を終了した。
群構成
1.W処理マウス + 溶媒(0.5%メチルセルロース)(n=8)
2.AEW処理マウス + 溶媒(0.5%メチルセルロース)(n=8)
3.AEW処理マウス + 1mg/kg L-365260(n=8)
4.AEW処理マウス + 10mg/kg L-365260(n=8)
【0040】
(結果)
図8に、AEWドライスキンモデルマウスの皮膚におけるTEWL及びSC hydrationの変動を示す。W処理コントロールマウスと比較して、AEW処理マウスにおいて経表皮水分蒸散量(TEWL値)の増加と角層水分保持量(SC hydration)の低下が認められた。このことから、本実験で用いたAEWマウスにおけるドライスキンが誘発されたことを確認した。
図9に、AEWドライスキンモデルマウスにおける自発的掻破行動を示す。AEW反復処理により、ドライスキンに伴う自発的掻破行動が観察された。
図10に、AEWドライスキンモデルマウスのアロネーシスに対するCCK2受容体拮抗薬の作用を示す。図10から、1mg/kg及び10mg/kg L-365260の経口投与は、AEWドライスキンマウスのアロネーシスを有意に抑制した。
図1
図2
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図7
図8
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図10