(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】眼底撮影システム、疾患発症リスク予測方法、および眼底撮影方法
(51)【国際特許分類】
A61B 3/14 20060101AFI20220921BHJP
A61B 3/00 20060101ALI20220921BHJP
A61B 3/12 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
A61B3/14 ZDM
A61B3/00
A61B3/12 300
(21)【出願番号】P 2019530988
(86)(22)【出願日】2018-07-11
(86)【国際出願番号】 JP2018026172
(87)【国際公開番号】W WO2019017255
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2017141677
(32)【優先日】2017-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】浅山 敬
(72)【発明者】
【氏名】小川 充洋
(72)【発明者】
【氏名】松田 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】スタッセン ヤン
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-113382(JP,A)
【文献】特開2000-041947(JP,A)
【文献】特開2009-125410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 - 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の眼底部を撮影する眼底撮影カメラ本体部と、
眼底部の撮影時に被験者の額部に当接する額当て部と、
眼底部の撮影時に被験者の顎部に当接する顎受け部と、
前記額当て部に設けられた第1脈波検出部と、
被験者の額部以外の箇所の脈波を検出する第2脈波検出部と、
前記眼底撮影カメラ本体部を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記第1脈波検出部によって検出された被験者の額部の脈波の位相と、前記第2脈波検出部によって検出された被験者の額部以外の箇所の脈波の位相とに基づいて、被験者の眼底部の脈波の位相を算出する位相算出部と、
前記位相算出部によって算出された被験者の眼底部の脈波の位相に基づいて、被験者の眼底部の撮影タイミングを制御する撮影タイミング制御部とを備える、
眼底撮影システム。
【請求項2】
前記第1脈波検出部は、額用脈波センサであり、
前記第2脈波検出部は、前記顎受け部に設けられ、被験者の顎部の脈波を検出する顎用脈波センサである、
請求項1に記載の眼底撮影システム。
【請求項3】
前記第1脈波検出部は、額用脈波センサであり、
前記第2脈波検出部は、被験者の血圧を測定する血圧測定部である、
請求項1に記載の眼底撮影システム。
【請求項4】
請求項1に記載の眼底撮影システムを用いた疾患発症リスク予測方法であって、
前記眼底撮影システムが、被験者の眼底部の脈波の1周期中の所定タイミングで被験者の眼底部を撮影する撮影工程と、
疾患発症リスク予測システムの取得部が、前記所定タイミングと同一のタイミングで過去に撮影されたその被験者の眼底部を取得する取得工程と、
前記疾患発症リスク予測システムの予測部が、前記取得工程において取得されたその被験者の過去の眼底部に対する、前記撮影工程において撮影されたその被験者の眼底部の変化に基づいて、その被験者が疾患を将来発症するリスクを予測する予測工程とを含む、
疾患発症リスク予測方法。
【請求項5】
請求項1に記載の眼底撮影システムを用いた疾患発症リスク予測方法であって、
前記眼底撮影システムが、被験者の眼底部の脈波の1周期中の所定タイミングで被験者の眼底部を撮影する撮影工程と、
疾患発症リスク予測システムの取得部が、患者が疾患を発症する前に前記所定タイミングと同一のタイミングで撮影されたその患者の眼底部を取得する取得工程と、
前記疾患発症リスク予測システムの予測部が、前記撮影工程において撮影されたその被験者の眼底部と、前記取得工程において取得されたその患者の眼底部とに基づいて、その被験者が疾患を将来発症するリスクを予測する予測工程とを含む、
疾患発症リスク予測方法。
【請求項6】
請求項1に記載の眼底撮影システムを用いた疾患発症リスク予測方法であって、
前記眼底撮影システムが、被験者の眼底部の脈波の1周期中の所定タイミングで被験者の眼底部を撮影する撮影工程と、
疾患発症リスク予測システムの取得部が、前記所定タイミングと同一のタイミングで過去に撮影されたその被験者の眼底部を取得する第1取得工程と、
前記取得部が、患者が疾患を発症する前の第1時点に前記所定タイミングと同一のタイミングで撮影されたその患者の眼底部を取得する第2取得工程と、
前記取得部が、その患者が疾患を発症する前の、前記第1時点よりも後の第2時点に前記所定タイミングと同一のタイミングで撮影されたその患者の眼底部を取得する第3取得工程と、
前記疾患発症リスク予測システムの予測部が、前記第1取得工程において取得されたその被験者の眼底部に対する、前記撮影工程において撮影されたその被験者の眼底部の変化と、前記第3取得工程において取得されたその患者の眼底部に対する、前記第2取得工程において取得されたその患者の眼底部の変化とに基づいて、その被験者が疾患を将来発症するリスクを予測する予測工程とを含む、
疾患発症リスク予測方法。
【請求項7】
額当て部を被験者の額部に当接させ、かつ、顎受け部を被験者の顎部に当接させる当接工程と、
前記額当て部に設けられた第1脈波検出部によって被験者の額部の脈波を検出し、第2脈波検出部によって被験者の額部以外の箇所の脈波を検出する検出工程と、
被験者の額部の脈波の位相と、被験者の額部以外の箇所の脈波の位相とに基づいて、被験者の眼底部の脈波の位相を算出する算出工程と、
前記算出工程において算出された被験者の眼底部の脈波の位相に基づいて、被験者の眼底部の撮影タイミングを制御する制御工程とを含む、
眼底撮影方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼底撮影システム、疾患発症リスク予測方法、および眼底撮影方法に関する。
本願は、2017年7月21日に、日本に出願された特願2017-141677号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、脈波センサを備える眼底撮影システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された眼底撮影システムでは、眼底撮影装置によって撮影される眼と同じ側の耳朶の脈波が、脈波センサによって検出される。また、耳朶の脈波に基づいて、眼底撮影タイミングが決定される。
また、脈波検出器を備える眼底カメラが知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載された眼底カメラでは、指先の脈波(指尖容積脈波)が脈波検出器によって検出される。また、キセノンランプが、指先の脈波のピークに同期して予め設定された回数だけ発光させられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-125410号公報
【文献】特開2013-000369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、眼底部の脈波の位相と、耳朶の脈波の位相との間には、ずれ量が存在する。また、眼底部の脈波の位相と耳朶の脈波の位相とのずれ量は、被験者に応じて異なる。そのため、耳朶の脈波の位相のみに基づいて眼底部の脈波の位相が算出(推定)される場合には、眼底部の脈波の位相の算出精度(推定精度)を十分に向上させることができない。従って、特許文献1に記載された眼底撮影システムのように、眼底部の撮影タイミングを決定するための脈波として、耳朶の脈波のみが用いられる場合には、眼底部の撮影タイミングを適切に制御することができない。つまり、耳朶の脈波の位相に基づいて制御された眼底部の撮影タイミングが、所望の撮影タイミングからずれてしまうおそれがある。
同様に、眼底部の脈波の位相と、指先の脈波の位相との間には、ずれ量が存在する。眼底部の脈波の位相と指先の脈波の位相とのずれ量は、被験者に応じて異なる。そのため、指先の脈波の位相のみに基づいて眼底部の脈波の位相が算出される場合には、眼底部の脈波の位相の算出精度を十分に向上させることができない。従って、特許文献2に記載された眼底カメラのように、脈波センサとして、指先用の脈波検出器のみが用いられる場合には、眼底部の撮影タイミングを適切に制御することができない。つまり、指先の脈波の位相に基づいて眼底部の撮影タイミングが制御される場合に、その撮影タイミングが、所望の撮影タイミングからずれてしまうおそれがある。
【0005】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、眼底部の撮影タイミングを適切に制御することができる眼底撮影システム、疾患発症リスク予測方法、および眼底撮影方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、被験者の眼底部を撮影する眼底撮影カメラ本体部と、眼底部の撮影時に被験者の額部に当接する額当て部と、眼底部の撮影時に被験者の顎部に当接する顎受け部と、前記額当て部に設けられた第1脈波検出部と、被験者の額部以外の箇所の脈波を検出する第2脈波検出部と、前記眼底撮影カメラ本体部を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記第1脈波検出部によって検出された被験者の額部の脈波の位相と、前記第2脈波検出部によって検出された被験者の額部以外の箇所の脈波の位相とに基づいて、被験者の眼底部の脈波の位相を算出する位相算出部と、前記位相算出部によって算出された被験者の眼底部の脈波の位相に基づいて、被験者の眼底部の撮影タイミングを制御する撮影タイミング制御部とを備える、眼底撮影システムである。
【0007】
本発明の一実施形態の眼底撮影システムでは、前記第1脈波検出部は、額用脈波センサであり、前記第2脈波検出部は、前記顎受け部に設けられ、被験者の顎部の脈波を検出する顎用脈波センサであってもよい。
【0008】
本発明の一実施形態の眼底撮影システムでは、前記第1脈波検出部は、額用脈波センサであり、前記第2脈波検出部は、被験者の血圧を測定する血圧測定部であってもよい。
【0009】
本発明の一実施形態は、上記のいずれかの眼底撮影システムを用いた疾患発症リスク予測方法であって、被験者の眼底部の脈波の1周期中の所定タイミングで被験者の眼底部を撮影する撮影工程と、前記所定タイミングと同一のタイミングで過去に撮影されたその被験者の眼底部を取得する取得工程と、前記取得工程において取得されたその被験者の過去の眼底部に対する、前記撮影工程において撮影されたその被験者の眼底部の変化に基づいて、その被験者が疾患を将来発症するリスクを予測する予測工程とを含む、疾患発症リスク予測方法である。
【0010】
本発明の一実施形態は、上記のいずれかの眼底撮影システムを用いた疾患発症リスク予測方法であって、被験者の眼底部の脈波の1周期中の所定タイミングで被験者の眼底部を撮影する撮影工程と、患者が疾患を発症する前に前記所定タイミングと同一のタイミングで撮影されたその患者の眼底部を取得する取得工程と、前記撮影工程において撮影されたその被験者の眼底部と、前記取得工程において取得されたその患者の眼底部とに基づいて、その被験者が疾患を将来発症するリスクを予測する予測工程とを含む、疾患発症リスク予測方法である。
【0011】
本発明の一実施形態は、上記のいずれかの眼底撮影システムを用いた疾患発症リスク予測方法であって、被験者の眼底部の脈波の1周期中の所定タイミングで被験者の眼底部を撮影する撮影工程と、前記所定タイミングと同一のタイミングで過去に撮影されたその被験者の眼底部を取得する第1取得工程と、患者が疾患を発症する前の第1時点に前記所定タイミングと同一のタイミングで撮影されたその患者の眼底部を取得する第2取得工程と、その患者が疾患を発症する前の、前記第1時点よりも後の第2時点に前記所定タイミングと同一のタイミングで撮影されたその患者の眼底部を取得する第3取得工程と、前記第1取得工程において取得されたその被験者の眼底部に対する、前記撮影工程において撮影されたその被験者の眼底部の変化と、前記第3取得工程において取得されたその患者の眼底部に対する、前記第2取得工程において取得されたその患者の眼底部の変化とに基づいて、その被験者が疾患を将来発症するリスクを予測する予測工程とを含む、疾患発症リスク予測方法である。
【0012】
本発明の一実施形態は、額当て部を被験者の額部に当接させ、かつ、顎受け部を被験者の顎部に当接させる当接工程と、前記額当て部に設けられた第1脈波検出部によって被験者の額部の脈波を検出し、第2脈波検出部によって被験者の額部以外の箇所の脈波を検出する検出工程と、被験者の額部の脈波の位相と、被験者の額部以外の箇所の脈波の位相とに基づいて、被験者の眼底部の脈波の位相を算出する算出工程と、前記算出工程において算出された被験者の眼底部の脈波の位相に基づいて、被験者の眼底部の撮影タイミングを制御する制御工程とを含む、眼底撮影方法である。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、眼底部の撮影タイミングを適切に制御することができる眼底撮影システム、疾患発症リスク予測方法、および眼底撮影方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態の眼底撮影システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】被験者の眼底部の撮影時における被験者と眼底撮影カメラ本体部との関係、被験者の額部と額当て部との関係、および、被験者の顎部と顎受け部との関係を示した図である。
【
図3】
図2に示す額当て部および顎受け部を
図2の右側から見た図である。
【
図4A】拡散部が設けられる前の状態における額用脈波センサの正面図である。
【
図4C】拡散部が設けられた後の状態における額用脈波センサの正面図である。
【
図5】第1実施形態の眼底撮影システムによる眼底撮影方法において実行される処理を説明するフローチャートである。
【
図6】第2実施形態の眼底撮影システムの構成の一例を示す図である。
【
図7】第2実施形態の眼底撮影システムによる眼底撮影方法において実行される処理を説明するフローチャートである。
【
図8】第1または第2実施形態の眼底撮影システムが適用された第1適用例の疾患発症リスク予測システムなどの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の眼底撮影システム、疾患発症リスク予測方法、および眼底撮影方法の実施形態について説明する。
【0016】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の眼底撮影システム1の構成の一例を示す図である。
図1に示す例では、眼底撮影システム1が、眼底撮影カメラ本体部11と、額当て部12と、顎受け部13と、制御部15とを備えている。眼底撮影カメラ本体部11は、被験者の眼底部を撮影する。眼底撮影カメラ本体部11は、制御部15に接続されている。眼底撮影カメラ本体部11には、眼底撮影カメラ本体部11を制御する信号が制御部15から入力される。
【0017】
図2は、被験者Aの眼底部の撮影時における被験者Aと眼底撮影カメラ本体部11との関係、被験者Aの額部A1と額当て部12との関係、および、被験者Aの顎部A2と顎受け部13との関係を示した図である。
被験者Aの眼底部の撮影時には、被験者Aの額部A1が額当て部12に当接させられ、被験者Aの顎部A2が顎受け部13に当接させられた状態で、眼底撮影カメラ本体部11が、被験者Aの眼底部を撮影する。
【0018】
図1に示す例では、額用脈波センサ12Aが、額当て部12に設けられている。額用脈波センサ12Aは、被験者Aの額部A1の脈波を検出する。額用脈波センサ12Aは、制御部15に接続されており、被験者Aの額部A1の脈波の信号を制御部15に出力する。
顎用脈波センサ13Aは、顎受け部13に設けられている。顎用脈波センサ13Aは、被験者Aの顎部A2の脈波を検出する。顎用脈波センサ13Aは、制御部15に接続されており、被験者Aの顎部A2の脈波の信号を制御部15に出力する。
【0019】
図3は、
図2に示す額当て部12および顎受け部13を
図2の右側から見た図である。
図3に示す例では、額当て部12が額用脈波センサ12Aを内蔵し、顎受け部13が顎用脈波センサ13Aを内蔵している。詳細には、額用脈波センサ12Aが額当て部12に埋設され、顎用脈波センサ13Aが顎受け部13に埋設されている。顎用脈波センサ13Aは、例えば、額用脈波センサ12Aと同一の型式のものが用いられる。
被験者Aの眼底部の撮影時に、被験者Aの額部A1が額当て部12に当接すると、額用脈波センサ12Aは、被験者Aの額部A1に密着する。また、被験者Aの眼底部の撮影時に、被験者Aの顎部A2が顎受け部13に当接すると、顎用脈波センサ13Aは、被験者Aの顎部A2に密着する。
【0020】
図4A~
図4Dは、
図3に示す額用脈波センサ12Aの構成の一例を示す図である。詳細には、
図4Aは拡散部12A5が設けられる前の状態における額用脈波センサ12Aの正面図である。
図4Bは
図4AのV1-V1線に沿った概略断面図である。
図4Cは拡散部12A5が設けられた後の状態における額用脈波センサ12Aの正面図である。
図4Dは
図4CのV2-V2線に沿った概略断面図である。
図4A~
図4Dに示す例では、額用脈波センサ12Aが反射型である。額用脈波センサ12Aは、例えば、発光素子12A1、12A2と、受光素子12A3と、脈波センサ本体部12A4と、拡散部12A5とを有する。発光素子12A1、12A2は、被験者Aに光を照射する。受光素子12A3は、発光素子12A1、12A2から照射され、被験者Aによって反射された光を受光する。また、受光素子12A3は、受光した光に基づく信号である脈波の信号を出力する。拡散部12A5は、発光素子12A1、12A2と被験者Aとの間に配置される。
【0021】
図4A~
図4Dに示す例では、
図4Aおよび
図4Bに示すように、発光素子12A1は、受光素子12A3を隔てて発光素子12A2の反対側に配置されている。発光素子12A1の中心と受光素子12A3の中心との間隔、および、受光素子12A3の中心と発光素子12A2の中心との間隔は、例えば2.54mmである。
図4A~
図4Dに示す例では、発光素子12A1、12A2として、同一の型式の部品が用いられる。発光素子12A1、12A2は緑色LED(Light Emitting Diode)である。発光素子12A1、12A2から照射される光のピーク波長は、例えば520~570[nm]である。受光素子12A3は、例えばフォトダイオードまたはフォトトランジスタである。
【0022】
図4A~
図4Dに示す例では、
図4Cおよび
図4Dに示すように、発光素子12A1、12A2が、拡散部12A5によって覆われている。そのため、発光素子12A1、12A2からの光は、拡散部12A5によって拡散させられた後に、被験者Aに照射される。一方、受光素子12A3は、拡散部12A5によって覆われていない。そのため、被験者Aからの光は、拡散部12A5によって拡散させられることなく、受光素子12A3によって受光される。
図4A~
図4Dに示す例では、発光素子12A1、12A2として、発光機能のみを有する素子が用いられ、受光素子12A3として、受光機能のみを有する素子が用いられる。他の例では、代わりに、発光素子12A1、12A2および受光素子12A3として、発光機能および受光機能の両方を選択的に有する素子(例えばLED)を用いてもよい。この例では、それらの素子を発光素子として用いるか、あるいは、受光素子として用いるかが、適宜選択される。また、この例では、額用脈波センサ12Aの使用中に、それらの素子の機能を、発光機能から受光機能に切り替えたり、受光機能から発光機能に切り替えたりしてもよい。
図4A~
図4Dに示す例では、額用脈波センサ12Aが、2個の発光素子12A1、12A2と、1個の受光素子12A3とを有するが、他の例では、額用脈波センサ12Aが、1個の発光素子と、1個の受光素子とを有してもよい。また、更に他の例では、額用脈波センサ12Aが、2個以外の任意の数の発光素子を有したり、1個以外の任意の数の受光素子を有したりしてもよい。
【0023】
図1に示す例では、制御部15が、眼底撮影カメラ本体部11を制御する。制御部15は、例えば、位相差算出部15Aと、位相算出部15Bと、撮影タイミング制御部15Fとを備えている。
【0024】
位相差算出部15Aは、額用脈波センサ12Aによって検出された被験者Aの額部A1の脈波の位相と、被験者Aの眼底部の脈波の位相との差である位相差(=(Lh-f-Lh-e)/v=(Tf-Te))を算出する。位相算出部15Bは、位相差算出部15Aによって算出された位相差と、額用脈波センサ12Aによって検出された被験者Aの額部A1の脈波の位相とに基づいて、被験者Aの眼底部の脈波の位相を算出する。
【0025】
被験者Aの心臓から眼底部までの血管の実効距離をLh-eとし、脈波伝搬速度をvとすると、心臓の駆出(拍出)から眼底部の血管までの所要時間(つまり、心臓から眼底部までの脈波の到達所要時間)は、Lh-e/vによって表される。
脈波伝搬速度vは、血圧や血管硬化度の影響を受けるため、未知数である。ただし、同一被験者同一時刻においては、脈波伝搬速度vを一定と見做すことができる。
実効距離Lh-eは、被験者Aの身長、体重、性別、健康状態などから推定してもよい。
【0026】
被験者Aの心臓から額部A1までの血管の実効距離をLh-fとし、被験者Aの心臓から顎部A2までの血管の実効距離をLh-cとすると、実効距離Lh-fは下記の式1によって表され、実効距離Lh-cは下記の式2によって表される。式1および式2において、αおよびβは比例定数である。
【0027】
Lh-f=Lh-e×α・・・(式1)
Lh-c=Lh-e×α×β・・・(式2)
【0028】
被験者Aの額部A1の脈波の位相と被験者Aの顎部A2の脈波の位相との差である位相差tdiffは、下記の式3Aによって表される。
tdiff=(Lh-f-Lh-c)/v
=(Lh-e×α-Lh-e×α×β)/v
=(Lh-e×α)(1-β)/v
=Lh-e×α×(1-β)/v・・・(式3A)
【0029】
式3Aを変形すると、下記の式3になる。
Lh-e/v=tdiff/α/(1-β)・・・(式3)
【0030】
式3の右辺のうち、位相差tdiffは、額用脈波センサ12Aの検出結果と顎用脈波センサ13Aの検出結果とから得られる。また、比例定数αおよび比例定数βは、複数の被験者のデータから得られる定数である。従って、式3の左辺、つまり、被験者Aの心臓から眼底部までの脈波の到達所要時間(Lh-e/v)は、位相差tdiffと、比例定数αと、比例定数βと、式3とから得られる。
ただし、比例定数αおよび比例定数βは、被験者Aの身長、体重、性別、健康状態などで補正可能としてもよい。
【0031】
被験者Aの額部A1の脈波の特徴点を観測した時刻をTfとすると、被験者Aの眼底部において脈波の特徴点が現れると推定できる時刻Teは、上記の式1の関係を用いることによって、下記の式4によって表される。
Te=Tf+(Lh-e-Lh-f)/v
=Tf+(Lh-e-Lh-e×α)/v
=Tf+(1-α)×Lh-e/v・・・(式4)
【0032】
撮影タイミング制御部15Fは、位相算出部15Bによって算出された被験者Aの眼底部の脈波の位相に基づいて、被験者Aの眼底部の撮影タイミングを制御する。
【0033】
α<1のとき、被験者Aの額部A1の脈波が、被験者Aの眼底部の脈波に先行する。そのため、撮影タイミング制御部15Fは、同一拍でトリガ可能である。つまり、撮影タイミング制御部15Fは、特徴点が観測された被験者Aの額部A1の脈波と同一拍の被験者Aの眼底部の脈波の特徴点に基づいて、被験者Aの眼底部の撮影タイミングを制御することができる。
【0034】
一方、α>1のとき、被験者Aの眼底部の脈波が、被験者Aの額部A1の脈波に先行する。そのため、撮影タイミング制御部15Fは、脈波解析から、次拍でのトリガタイミングを推定してトリガをかける。つまり、撮影タイミング制御部15Fは、特徴点が観測された被験者Aの額部A1の脈波の次拍の被験者Aの眼底部の脈波の特徴点に基づいて、被験者Aの眼底部の撮影タイミングを制御する。脈拍が変動した場合は、トリガタイミングがずれることが予想できるので、制御部15は、撮影失敗の可能性が高いことを告知してもよい。その場合、撮影タイミング制御部15Fは、撮影タイミングの制御をもう一度行う。つまり、位相差算出部15Aが、位相差の算出を再度実行し、位相算出部15Bが、被験者Aの眼底部の脈波の位相の算出を再度実行し、その位相に基づいて、撮影タイミング制御部15Fが、被験者Aの眼底部の撮影タイミングを再度制御する。
【0035】
図5は、第1実施形態の眼底撮影システム1による眼底撮影方法において実行される処理を説明するフローチャートである。
図5に示す例では、ステップS1において、制御部15は、額当て部12を被験者Aの額部A1に当接させ、顎受け部13を被験者Aの顎部A2に当接させる事前準備が完了したか否かを判定する。事前準備が完了している場合には、ステップS2に進む。一方、事前準備が完了していない場合には、
図5に示すルーチンを終了する。
ステップS2では、額用脈波センサ12Aが被験者Aの額部A1の脈波を検出し、顎用脈波センサ13Aが被験者Aの顎部A2の脈波を検出する。
次いで、ステップS3では、位相差算出部15Aが、位相差tdiffを用いることにより、額用脈波センサ12Aによって検出された被験者Aの額部A1の脈波の位相と、被験者Aの眼底部の脈波の位相との位相差(Tf-Te)を算出する。
次いで、ステップS4では、位相算出部15Bが、被験者Aの眼底部の脈波の位相を算出する。
【0036】
次いで、ステップS5では、撮影タイミング制御部15Fが、ステップS4において算出された被験者Aの眼底部の脈波の位相に基づいて、被験者Aの眼底部の撮影タイミングを制御する。
次いで、ステップS6では、眼底撮影カメラ本体部11が、ステップS5において撮影タイミング制御部15Fによって制御された撮影タイミングで、被験者Aの眼底部を撮影する。
【0037】
上述したように、
図5に示す例では、被験者Aの額部A1の脈波と、被験者Aの顎部A2の脈波とに基づいて、被験者Aの眼底部の脈波の位相が算出される。そのため、被験者Aの1箇所のみの脈波に基づいて被験者Aの眼底部の脈波の位相が算出される場合よりも、被験者Aの眼底部の脈波の位相の算出精度を向上させることができる。その結果、被験者Aの1箇所のみの脈波に基づいて被験者Aの眼底部の脈波の位相が算出される場合よりも適切に被験者Aの眼底部の撮影タイミングを制御することができる。
また、
図5に示す例では、被験者Aの額部A1以外の箇所の脈波を検出するために、顎受け部13に設けられた顎用脈波センサ13Aが用いられる。そのため、上述した事前準備を煩雑にすることなく、被験者Aの額部A1以外の箇所の脈波を得ることができる。
【0038】
[第2実施形態]
第2実施形態の眼底撮影システム1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の眼底撮影システム1と同様に構成されている。従って、第2実施形態の眼底撮影システム1は、後述する点を除き、上述した第1実施形態の眼底撮影システム1と同様の効果を奏することができる。
【0039】
図6は、第2実施形態の眼底撮影システム1の構成の一例を示す図である。
上述したように、
図1に示す例では、顎用脈波センサ13Aが顎受け部13に設けられているが、
図6に示す例では、顎用脈波センサが顎受け部13に設けられていない。
代わりに、
図6に示す例では、眼底撮影システム1が、血圧測定部14を備えている。血圧測定部14は、例えば被験者Aの指部の血圧を測定し、被験者Aの指部の連続血圧波形(脈波)を検出する。血圧測定部14は、制御部15に接続されており、被験者Aの指部の脈波の信号を制御部15に出力する。
【0040】
上述したように、
図1に示す例では、制御部15が、位相差算出部15Aと、位相算出部15Bと、撮影タイミング制御部15Fとを備えている。一方、
図6に示す例では、制御部15が、位相差算出部15Cと、位相算出部15Dと、撮影タイミング制御部15Fとを備えている。
【0041】
位相差算出部15Cは、額用脈波センサ12Aによって検出された被験者Aの額部A1の脈波の位相と、被験者Aの眼底部の脈波の位相との差である位相差(=(Lh-f-Lh-e)/v=(Tf-Te))を算出する。位相算出部15Dは、位相差算出部15Cによって算出された位相差と、額用脈波センサ12Aによって検出された被験者Aの額部A1の脈波の位相とに基づいて、被験者Aの眼底部の脈波の位相を算出する。
【0042】
被験者Aの心臓から指部(血圧測定部14による被測定部位)までの血管の実効距離をLh-fnとすると、実効距離Lh-fnは下記の式5よって表される。式5において、γは比例定数である。
【0043】
Lh-fn=Lh-e×α×γ・・・(式5)
【0044】
被験者Aの額部A1の脈波の位相と被験者Aの指部の脈波の位相との差である位相差tdiff2は、下記の式6Aによって表される。
Tdiff2=(Lh-f-Lh-fn)/v
=(Lh-e×α-Lh-e×α×γ)/v
=(Lh-e×α)(1-γ)/v
=Lh-e×α×(1-γ)/v・・・(式6A)
【0045】
式6Aを変形すると、下記の式6になる。
Lh-e/v=tdiff2/α/(1-γ)・・・(式6)
【0046】
式6の右辺のうち、位相差tdiff2は、額用脈波センサ12Aの検出結果と血圧測定部14の検出結果とから得られる。また、比例定数γは、複数の被験者のデータから得られる定数である。従って、式6の左辺、つまり、被験者Aの心臓から眼底部までの脈波の到達所要時間(Lh-e/v)は、位相差tdiff2と、比例定数αと、比例定数γと、式6とから得られる。
ただし、比例定数γは、被験者Aの身長、体重、性別、健康状態などで補正可能としてもよい。
【0047】
上述したように、被験者Aの額部A1の脈波の特徴点を観測した時刻Tfと、被験者Aの眼底部において脈波の特徴点が現れると推定できる時刻Teとの関係は、上述した式4によって表される。
【0048】
撮影タイミング制御部15Fは、位相算出部15Dによって算出された被験者Aの眼底部の脈波の位相に基づいて、被験者Aの眼底部の撮影タイミングを制御する。
【0049】
図7は、第2実施形態の眼底撮影システム1による眼底撮影方法において実行される処理を説明するフローチャートである。
図7に示す例では、ステップS1において、
図5のステップS1と同様の処理が実行される。事前準備が完了している場合には、ステップS12に進む。一方、事前準備が完了していない場合には、
図7に示すルーチンを終了する。
ステップS12では、額用脈波センサ12Aが被験者Aの額部A1の脈波を検出し、血圧測定部14が被験者Aの指部の血圧を測定する(つまり、血圧測定部14が被験者Aの指部の脈波を検出する)。
次いで、ステップS13では、位相差算出部15Cが、位相差tdiff2を用いることにより、額用脈波センサ12Aによって検出された被験者Aの額部A1の脈波の位相と、被験者Aの眼底部の脈波の位相との位相差(Tf-Te)を算出する。
次いで、ステップS14では、位相算出部15Dが、被験者Aの眼底部の脈波の位相を算出する。
【0050】
次いで、ステップS15では、撮影タイミング制御部15Fが、ステップS14において算出された被験者Aの眼底部の脈波の位相に基づいて、被験者Aの眼底部の撮影タイミングを制御する。
次いで、ステップS16では、眼底撮影カメラ本体部11が、ステップS15において撮影タイミング制御部15Fによって制御された撮影タイミングで、被験者Aの眼底部を撮影する。
【0051】
上述したように、
図7に示す例では、被験者Aの額部A1の脈波と、被験者Aの指部の脈波とに基づいて、被験者Aの眼底部の脈波の位相が算出される。そのため、被験者Aの1箇所のみの脈波に基づいて被験者Aの眼底部の脈波の位相が算出される場合よりも、被験者Aの眼底部の脈波の位相の算出精度を向上させることができる。その結果、被験者Aの1箇所のみの脈波に基づいて被験者Aの眼底部の脈波の位相が算出される場合よりも適切に被験者Aの眼底部の撮影タイミングを制御することができる。
また、
図7に示す例では、被験者Aの額部A1以外の箇所の脈波を検出するために、例えば汎用の血圧測定部14が用いられる。そのため、眼底撮影システム1を複雑にすることなく、被験者Aの額部A1以外の箇所の脈波を得ることができる。
【0052】
[第1適用例]
図8は、第1または第2実施形態の眼底撮影システム1が適用された第1適用例の疾患発症リスク予測システム100などの構成の一例を示す図である。
図8に示す例では、疾患発症リスク予測システム100が、例えば第1または第2実施形態の眼底撮影システム1と、処理部2と、記憶部3と、取得部4と、通信部5とを備えている。処理部2は、例えば被験者Aが疾患を将来発症するリスクの予測などを行う。記憶部3は、例えば眼底撮影システム1によって撮影された被験者Aの眼底部のデータなどを記憶する。取得部4は、例えば処理部2の要求などに応じて、記憶部3、データサーバ200などに記憶されているデータを取得する。通信部5は、例えばデータサーバ200にアクセスするためにネットワークNWとの通信を行う。
【0053】
図8に示す例では、第1時点に、眼底撮影システム1が、被験者Aの眼底部の脈波の1周期中の所定タイミングで被験者Aの眼底部を撮影する。この「所定タイミング」とは、上述した撮影タイミング制御部15Fによって制御された被験者Aの眼底部の撮影タイミングである。第1時点に眼底撮影システム1が撮影した被験者Aの眼底部のデータは、記憶部3に記憶される。
【0054】
図8に示す例では、第1時点から所定期間が経過した後の第2時点に、眼底撮影システム1が、上述した所定タイミングと同一のタイミングで被験者Aの眼底部を撮影する。第2時点に眼底撮影システム1が撮影した被験者Aの眼底部のデータも、記憶部3に記憶される。
被験者Aが疾患を将来発症するリスクを処理部2が予測する場合、取得部4は、処理部2の要求に応じて、記憶部3に記憶されている第1時点の被験者Aの眼底部のデータと、第2時点の被験者Aの眼底部のデータとを取得する。
処理部2は、第1時点の被験者Aの眼底部に対する第2時点の被験者Aの眼底部の変化に基づいて、被験者Aが疾患を将来発症するリスクを予測する。
【0055】
図8に示す例では、第1または第2実施形態の眼底撮影システム1が用いられる。第1実施形態の眼底撮影システム1では、
図5のステップS4において被験者Aの眼底部の脈波の位相が高精度に算出され、ステップS5において被験者Aの眼底部の撮影タイミングが適切に制御される。第2実施形態の眼底撮影システム1では、
図7のステップS14において被験者Aの眼底部の脈波の位相が高精度に算出され、ステップS15において被験者Aの眼底部の撮影タイミングが適切に制御される。また、第1時点の被験者Aの眼底部の撮影タイミングと、第2時点の被験者Aの眼底部の撮影タイミングとが、被験者Aの眼底部の脈波の1周期中の所定タイミングに一致させられる。そのため、第1時点の被験者Aの眼底部の撮影条件と、第2時点の被験者Aの眼底部の撮影条件とを一致させることができる。
また、
図8に示す例では、第1時点の被験者Aの眼底部に対する第2時点の被験者Aの眼底部の変化(つまり、被験者Aの眼底部の経年変化)に基づいて、被験者Aが疾患を将来(つまり、第2時点以降に)発症するリスクが予測される。そのため、被験者Aの眼底部の経年変化に基づくことなく、被験者Aが疾患を将来発症するリスクが予測される場合よりも、予測精度を向上させることができる。
【0056】
[第2適用例]
第2適用例の疾患発症リスク予測システム100は、
図8に示す第1適用例の疾患発症リスク予測システム100と同様に構成されている。つまり、第2適用例の疾患発症リスク予測システム100は、
図8に示す第1適用例の疾患発症リスク予測システム100と同様に、被験者Aが疾患を将来発症するリスクの予測を行う。
【0057】
第2適用例では、その疾患を発症した患者がその疾患を発症する前の第3時点に、上述した所定タイミングと同一のタイミングで撮影されたその患者の眼底部のデータが、データサーバ200に記憶されている。
また、第2適用例では、第3時点よりも後の第4時点に、眼底撮影システム1が、上述した所定タイミングと同一のタイミングで被験者Aの眼底部を撮影する。第4時点に眼底撮影システム1が撮影した被験者Aの眼底部のデータは、記憶部3に記憶される。
【0058】
第2適用例では、被験者Aがその疾患を将来発症するリスクを処理部2が予測する場合、取得部4は、処理部2の要求に応じて、データサーバ200に記憶されている第3時点(つまり、発症前)の患者の眼底部のデータと、記憶部3に記憶されている第4時点の被験者Aの眼底部のデータとを取得する。
処理部2は、第3時点に撮影された患者の発症前の眼底部と、第4時点の被験者Aの眼底部とに基づいて、被験者Aが疾患を将来発症するリスクを予測する。
【0059】
第2適用例では、第1または第2実施形態の眼底撮影システム1が用いられる。上述したように、第1または第2実施形態の眼底撮影システム1では、被験者Aの眼底部の脈波の位相が高精度に算出され、被験者Aの眼底部の撮影タイミングが適切に制御される。また、第4時点の被験者Aの眼底部の撮影タイミングが、第3時点の発症前の患者の眼底部の撮影タイミングに一致させられる。そのため、第4時点の被験者Aの眼底部の撮影条件と、第3時点の発症前の患者の眼底部の撮影条件とを一致させることができる。
また、第2適用例では、第4時点の被験者Aの眼底部と、第3時点の発症前の患者の眼底部とに基づいて(詳細には、第4時点の被験者Aの眼底部と第3時点の発症前の患者の眼底部との一致点および相違点に基づいて)、被験者Aが疾患を将来(つまり、第4時点以降に)発症するリスクが予測される。そのため、被験者Aの眼底部と疾患を発症する前の患者の眼底部とが比較されることなく、被験者Aが疾患を将来発症するリスクが予測される場合よりも、予測精度を向上させることができる。
【0060】
[第3適用例]
第3適用例の疾患発症リスク予測システム100は、
図8に示す第1適用例の疾患発症リスク予測システム100と同様に構成されている。つまり、第3適用例の疾患発症リスク予測システム100は、
図8に示す第1適用例の疾患発症リスク予測システム100と同様に、被験者Aが疾患を将来発症するリスクの予測を行う。
【0061】
第3適用例では、その疾患を発症した患者がその疾患を発症する前の第5時点に、上述した所定タイミングと同一のタイミングで撮影されたその患者の眼底部のデータが、データサーバ200に記憶されている。
また、その疾患を発症した患者がその疾患を発症する前であって、第5時点よりも後の第6時点に、上述した所定タイミングと同一のタイミングで撮影されたその患者の眼底部のデータが、データサーバ200に記憶されている。
【0062】
第3適用例では、第7時点に、眼底撮影システム1が、上述した所定タイミングと同一のタイミングで、被験者Aの眼底部を撮影する。第7時点に眼底撮影システム1が撮影した被験者Aの眼底部のデータは、記憶部3に記憶される。
また、第7時点から所定期間が経過した後の第8時点に、眼底撮影システム1が、上述した所定タイミングと同一のタイミングで、被験者Aの眼底部を撮影する。第8時点に眼底撮影システム1が撮影した被験者Aの眼底部のデータも、記憶部3に記憶される。
【0063】
第3適用例では、被験者Aがその疾患を将来発症するリスクを処理部2が予測する場合、取得部4は、処理部2の要求に応じて、データサーバ200に記憶されている第5時点(つまり、発症前)の患者の眼底部のデータと、第6時点(つまり、発症前)の患者の眼底部のデータとを取得する。また、取得部4は、記憶部3に記憶されている第7時点の被験者Aの眼底部のデータと、第8時点の被験者Aの眼底部のデータとを取得する。
処理部2は、第5時点に撮影された患者の発症前の眼底部に対する、第6時点に撮影された患者の発症前の眼底部の変化と、第7時点の被験者Aの眼底部に対する第8時点の被験者Aの眼底部の変化とに基づいて、被験者Aが疾患を将来発症するリスクを予測する。
【0064】
第3適用例では、第1または第2実施形態の眼底撮影システム1が用いられる。上述したように、第1または第2実施形態の眼底撮影システム1では、被験者Aの眼底部の脈波の位相が高精度に算出され、被験者Aの眼底部の撮影タイミングが適切に制御される。また、第8時点の被験者Aの眼底部の撮影タイミングが、第7時点の被験者Aの眼底部の撮影タイミングに一致させられる。そのため、第7時点の被験者Aの眼底部の撮影条件と、第8時点の被験者Aの眼底部の撮影条件とを一致させることができる。
また、第3適用例では、第8時点の被験者Aの眼底部の撮影タイミングが、第5時点および第6時点の発症前の患者の眼底部の撮影タイミングに一致させられる。そのため、第8時点の被験者Aの眼底部の撮影条件と、第5時点および第6時点の発症前の患者の眼底部の撮影条件とを一致させることができる。
また、第3適用例では、第7時点の被験者Aの眼底部に対する第8時点の被験者Aの眼底部の変化(つまり、被験者Aの眼底部の経年変化)と、第5時点の発症前の患者の眼底部に対する第6時点の発症前の患者の眼底部の変化(つまり、発症前の患者の眼底部の経年変化)とに基づいて(詳細には、被験者Aの眼底部の経年変化と発症前の患者の眼底部の経年変化との一致点および相違点に基づいて)、被験者Aが疾患を将来(つまり、第8時点以降に)発症するリスクが予測される。そのため、被験者Aの眼底部の経年変化と発症前の患者の眼底部の経年変化とが比較されることなく、被験者Aが疾患を将来発症するリスクが予測される場合よりも、予測精度を向上させることができる。
【0065】
上述したように、本発明は生体情報を得る際の測定誤差を抑えるために、生体が発する信号それ自身を撮影タイミング制御に用いることで、情報収集時の生体活動の条件を容易に被験者内、被験者間で一定に整えるものである。本発明を組み込んだシステムを用いることで生体情報の測定精度が向上し、被験者の将来の脳心血管疾患発症など、疾患予測能を簡便に向上させることができる。
狭義には、眼底撮影の測定条件を定めることで、画像精度の向上を実現することができる。従来、瞳孔を散大させる薬剤の点眼を行わない状態での眼底写真(無散瞳眼底写真)を撮影する際には、暗室でフラッシュライトを用いて撮影しなければならないことから、その撮影タイミングを揃えることが難しく、血管の拍動によって動静脈径が定まらず、測定精度が低くなる原理的難点を抱えている。本発明の眼底撮影システムでは、撮影前段階から被験者の眼底部の脈波の変動をリアルタイムで捉えることができる。脈波信号は1拍ごとに上下する波形を描くため、本発明の眼底撮影システムでは、被験者の眼底部の脈波の波形の中で事前に定められたポイントに、あるいはそのポイントから一定の遅延時間経過後に、撮影タイミングを制御する。
【0066】
このように、本発明の眼底撮影システムによる眼底写真撮影は、被験者にとって、通常の実地臨床における眼底写真撮影と何ら変わらない。また、撮影実施者にとっても、新たな装置を被験者に取り付けるなどの負担がかかることがなく、技術的に容易である。本発明の眼底撮影システムを用いることによって、眼底撮影の撮影タイミングが揃えられるため、拍動と共に増減する眼底動静脈径や内皮厚の測定条件を一定に整えることができる。その結果、被験者における動静脈の加齢、病気に伴う変化を高精度に取得することができる。また、同一被験者においては、投薬等の介入による測定値の微細な変化を鋭敏に捉えることができる。さらに、被験者の長期間の追跡によって、眼底撮影から得られる各種血管情報と予後との関連性を明らかにすることができ、予後予測に役立つ血管情報や撮影条件を確立することができ、次世代への検診、診療への導入が期待される。
【0067】
心電図は、心筋の収縮と、体循環の起始部である上行大動脈への血管の拍出のタイミングを示す。しかし、眼底を含む眼部付近への血液脈波の到達時間(脈波伝搬時間)は個人差が大きいため、心電図と同期させるだけでは、眼底部の血管の脈動の状態を高精度に推定することはできない。特に、脈波伝搬時間は、血圧と正の相関が高いことが知られている。血圧は心拍ごとに呼吸などの影響を受け、脈波伝搬時間は血圧以外の多因子の影響を受けて変動する。従って、同一被験者においても、心電図情報のみから眼底部の撮影タイミングを高精度に制御することは困難である。
【0068】
従来においては、網膜動脈の梗塞巣の発見など、疾患の検出にかかわる試みが行われてきた。一方、本発明では、例えば眼底カメラで可視化される眼底動脈の内膜中膜肥厚を計測したり、老廃化合物の血管内沈着やそれに伴う微小プラークの形成や血液の乱流、あるいは、細動脈の血管フロー計測の条件を整えたりすることによって、被験者が将来、脳卒中などの循環器疾患を発症するかどうかを高精度に予測することができる。すなわち、本発明では、血圧、血糖値などの古典的な疾患予測因子に匹敵する、あるいは凌駕するような新しい動脈硬化、循環器疾患リスクマーカーを同定することができる。
【0069】
以上、本発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。上述した各実施形態に記載の構成を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1…眼底撮影システム、11…眼底撮影カメラ本体部、12…額当て部、12A…額用脈波センサ、12A1…発光素子、12A2…発光素子、12A3…受光素子、12A4…脈波センサ本体部、12A5…拡散部、13…顎受け部、13A…顎用脈波センサ、14…血圧測定部、15…制御部、15A…位相差算出部、15B…位相算出部、15C…位相差算出部、15D…位相算出部、15F…撮影タイミング制御部、A…被験者、A1…額部、A2…顎部、100…疾患発症リスク予測システム、2…処理部、3…記憶部、4…取得部、5…通信部、200…データサーバ、NW…ネットワーク