(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】ダイスプラグ位置設定装置及びダイスプラグ位置設定方法
(51)【国際特許分類】
B21C 1/28 20060101AFI20220921BHJP
B21C 3/16 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
B21C1/28 A
B21C3/16 A
(21)【出願番号】P 2021154823
(22)【出願日】2021-09-22
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】508204836
【氏名又は名称】株式会社藤岡工作所
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】特許業務法人安田岡本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 千義
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 良直
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-144553(JP,A)
【文献】中国実用新案第202290822(CN,U)
【文献】韓国登録特許第10-1302669(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイス(D)を配置したダイススタンド(3)と、プラグ(P)の先端と近接可能な先端検知用のセンサ(S)と、このセンサ(S)を先端に保持していてダイス(D)のダイス穴(H)内に挿入可能なセンサホルダ(4)と、このセンサホルダ(4)をダイス穴(H)内の検出位置(M2)とダイススタンド(3)の外方の待機位置(M1)との間で移動させ
る移動機構(5)と、プラグ(P)の先端をダイス穴(H)内に侵入させてセンサ(S)に近接してプラグ基準位置(K1)を設定しかつプラグ基準位置(K1)から移動した引抜適正位置(K2)を設定する制御部(6)とを有することを特徴とするダイスプラグ位置設定装置。
【請求項2】
前記移動機構(5)は、ダイススタンド(3)に設けた水平移動用の横アクチュエータ(11)と、この横アクチュエータ(11)に設けた上下移動用の縦アクチュエータ(12)と、この縦アクチュエータ(12)に設けられた装着台(13)とを有しており、この装着台(13)にセンサホルダ(4)が水平移動可能に支持されかつ付勢手段(14)を介してダイス(D)に向けて付勢されていることを特徴とする請求項1に記載のダイスプラグ位置設定装置。
【請求項3】
前記センサホルダ(4)は、先端部にセンサ(S)を埋設していてダイス穴(H)内に挿入可能なダイス穴挿入部(4a)と、ダイス(D)の表面(Dc)に当接してダイス穴挿入部(4a)の挿入長さを設定する当接部(4b)とが形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のダイスプラグ位置設定装置。
【請求項4】
前記
ダイススタンド(3)には複数個のダイス(D)が引抜方向を平行にして同一高さに設けられ、各ダイス(D)に対応するプラグ(P)
も複数個設けられ、縦アクチュエータ(12)に設けられた装着台(13)に複数個のセンサ(S)がダイス(D)に対応して設けられていることを特徴とする請求項2に記載のダイスプラグ位置設定装置。
【請求項5】
前記制御部(6)は、プラグ(P)をダイス(D)に対して進退させるサーボモータ(16)と、プラグ(P)の先端がダイス穴(H)内でセンサ(S)を作動させたときのプラグ基準位置(K1)を記憶する第1記憶手段(17)と、プラグ(P)をプラグ基準位置(K1)から移動した引抜適正位置(K2)を記憶する第2記憶手段(18)とを有することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のダイスプラグ位置設定装置。
【請求項6】
ダイススタンド(3)に設けたダイス(D)に対して、先端検知用のセンサ(S)を上方の待機位置(M1)から降下させてダイス(D)に対向させ、前記センサ(S)の先端を水平移動させてダイス穴(H)内に挿入させ、このセンサ(S)の先端に対向してプラグ(P)を移動し、プラグ(P)の先端をダイス穴(H)内に侵入させてセンサ(S)の先端に近接させてプラグ基準位置(K1)を検出しかつ記憶し、その後にプラグ(P)を引抜適正位置(K2)まで移動しかつその位置を記憶することを特徴とするダイスプラグ位置設定方法。
【請求項7】
先端検知用のセンサ(S)をプラグ(P)の当接により弾力的に後退可能に構成し、プラグ(P)の先端をダイス穴(H)内に侵入させてセンサ(S)を後退させた後にプラグ(P)を後退させてセンサ(S)の先端との近接開始点まで戻してプラグ基準位置(K1)を検出しかつ記憶し、その後にセンサ(S)を上方の待機位置(M1)まで戻すと共に、プラグ(P)をダイス(D)に対して引抜適正位置(K2)まで移動することを特徴とする請求項6に記載のダイスプラグ位置設定方法。
【請求項8】
前記ダイススタンド(3)に設けるダイス(D)及びそのダイス(D)に対応するプラ
グ(P)の対は取り替え可能に構成されており、
前記プラグ(P)のダイス(D)に対する引抜適正位置(K2)を各ダイス・プラグ対で検出しかつ記憶し、ダイス・プラグ対を取り替えた後で再使用するときに、以前の記憶に基づいてダイス(D)に対してプラグ(P)を引抜適正位置(K2)まで移動することを特徴とする請求項7に記載のダイスプラグ位置設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドローベンチにおいてダイスに対してプラグを適正位置に設定するダイスプラグ位置設定装置及びダイスプラグ位置設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されたドローベンチ(抽伸機)は、素材(素管)をダイスに通して前方に引抜くことによって引抜加工する引抜加工装置と、この引抜加工装置の後方に配置された素材支持装置とを有し、前記素材支持装置は、素材を支持する第1の支持体及び第2の支持体を有すると共に、これら第1の支持体及び第2の支持体を支持して左右移動自在な移動フレームを有し、前記第1の支持体及び第2の支持体は左右方向で並設され、且つ第1の支持体及び第2の支持体のうちの一方の支持体が、素材の引抜加工が行われる引抜位置にあるときに、第1の支持体及び第2の支持体のうちの他方の支持体が、素材の供給が行われる供給位置とされ、前記第1の支持体及び第2の支持体を引抜位置と供給位置とに位置変更させるべく、移動フレームを左右方向に往復移動させる駆動装置を設けている(請求項1)。
【0003】
そして前記ドローベンチにおいては、プラグを先端に取り付けた連結ロッドをプラグ位置設定装置によって前後方向移動可能にしておいて、ダイスに対するプラグの前後位置を微調整するように構成されている。
引抜加工に適用するダイス及びプラグをセットしたとき、ダイスのダイス穴内にプラグの先端を侵入し、デプスゲージを使ってダイスの表面からプラグ先端までの深さを計測し、その計測値に基づいてプラグ位置調整機構を作動して、プラグを基準となる位置に移動し、さらに引抜加工に適正となる位置へ移動している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来技術は、デプスゲージを使ってダイスの表面からプラグ先端までの深さを計測するので、プラグを基準位置及び引抜適正位置へ移動できるが、ダイスはドローベンチの複雑機構の内部に配置されているので、デプスゲージでの計測は煩雑作業となり、また、ダイス・プラグの対の組み替え毎に行わなければならなく、作業効率を低下させることになっている。
【0006】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決できるようにしたダイスプラグ位置設定装置及びダイスプラグ位置設定方法を提供することを目的とする。
本発明は、プラグ先端検知用のセンサをダイス穴内の検出位置とダイススタンドの外方の待機位置とに移動可能にし、かつプラグの基準位置及び引抜適正位置を検出することより、ダイスプラグの位置設定を簡単かつ容易にできるようにしたダイスプラグ位置設定装置及びダイスプラグ位置設定方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、プラグの基準位置及び引抜適正位置を検出しかつそれらを記憶することより、ダイスプラグの位置設定を再利用できるようにしたダイスプラグ位置設定装置及びダイスプラグ位置設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明装置における課題解決のための具体的手段は、ダイスDを配置したダイススタンド3と、プラグPの先端と近接可能な先端検知用のセンサSと、このセンサSを先端に保持していてダイスDのダイス穴H内に挿入可能なセンサホルダ4と、このセンサホルダ4をダイス穴H内の検出位置M2とダイススタンド3の外方の待機位置M1との間で移動させる移動機構5と、プラグPの先端をダイス穴H内に侵入させてセンサSに近接してプラグ基準位置K1を設定しかつプラグ基準位置K1から移動した引抜適正位置K2を設定する制御部6とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明方法における課題解決のための具体的手段は、ダイススタンド3に設けたダイスDに対して、先端検知用のセンサSを上方の待機位置M1から降下させてダイスDに対向させ、前記センサSの先端を水平移動させてダイス穴H内に挿入させ、このセンサSの先端に対向してプラグPを移動し、プラグPの先端をダイス穴H内に侵入させてセンサSの先端に近接させてプラグ基準位置K1を検出しかつ記憶し、その後にプラグPを引抜適正位置K2まで移動しかつその位置を記憶することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プラグの基準位置及び引抜適正位置を検出しかつ記憶することより、、ダイスに対するプラグの位置設定を簡単かつ容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図4】プラグの基準位置検出動作を示す説明図である。
【
図5】ダイスプラグ位置設定装置を備えたドローベンチの全体正面図である。
【
図6】ダイススタンド部分の一部断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1~8において、ドローベンチ(抽伸機)2のダイススタンド3に配置したダイスプラグ位置設定装置1を示している。
管抽伸用のドローベンチ2は、ダイススタンド3を中心にして、ダイススタンド3の引抜方向後方側(一次側)に、吊芯機構21と、吊芯押込み機構22と、吊芯調整機構23とを有し、引抜方向前方側(二次側)に、引っ張り機構25と、引っ張り機構25の上方の素管供給機構26と、引っ張り機構25の側方の製品取出部27とを有する。
【0013】
ダイススタンド3には複数台のダイスDが装着されている。ダイスDは、1台の場合もあるが、実施形態では5台設けられ、所定のピッチ間隔で水平方向に並設されている。各ダイスDは、
図1~4に示すように、ダイスケースDaのケース穴にダイス本体(チップ、金型とも称される。)Dbを埋設しており、ダイス本体Dbの内周面にはベアリング部Bが形成されている。
【0014】
前記ダイス本体Dbの穴及びダイスケースDaの穴によってダイスDのダイス穴Hが形成され、ダイス穴Hの出口側のダイスケースDaの表面は、ダイスDの表面Dcとなり、この表面Dcを基準にしてダイス穴Hに挿入されるプラグPの基準位置K1が設定されることになる。
図5において、吊芯機構21は、プラグPを先端に装着した吊芯(心金棒とも称される。)21aを吊り状態で支持していて、吊芯21aをダイスDに対向する挿入位置F1とその上方の素管受け取り位置F2とに位置変更可能にしている。
【0015】
実施形態では、5本の吊芯21aを水平に並列させた組を上下2段に配置し、上下2段の中央を中心に旋回して上下位置変更可能に構成しており、上段の吊芯21aは素管受け取り位置F2となり、下段の吊芯21aは挿入位置F1となる。
素管受け取り位置F2の上段吊芯21aは、ダイススタンド3の前方の素管供給機構26から供給される素管Nを嵌合して受け取り、下段に位置変更して挿入位置F1に配置されてから、エアーシリンダで構成された吊芯押込み機構22によってダイスD側へ移動し、素管Nをダイス穴Hへ挿入する。
【0016】
吊芯調整機構23はサーボモータ16を有し、吊芯21aの先端のプラグPがダイスDに対して基準位置、引抜適正位置になるように、吊芯21aの軸心方向の位置を微細に調整する。
引っ張り機構25は、引抜方向往復移動可能なキャリッジ29にチャック30を設けて構成されており、ダイス穴Hに挿入された素管Nの先端の掴み代をチャック30で挟持し
、キャリッジ29の移動で素管Nを引抜加工するための引っ張りを行う。
【0017】
ダイス穴Hを通って引抜加工された管製品は、チャック30の解除によってキャリッジ29から開放され、引っ張り機構25の側方の製品取出部27に排出される。一方、管製品開放後のキャリッジ29は戻り移動をすることになるが、引っ張り機構25の上方の素管供給機構26に搬入されている素管Nを、キャリッジ29によって吊芯機構21の吊芯21aへ押して供給する。
【0018】
前記ダイスDは素管Nの外周面を引抜加工し、プラグPは素管Nの内周面を引抜加工するものであり、ダイスDとプラグPの形状及び引抜加工時の位置関係は、目的の加工をするために決まっており、ダイスプラグの対(ダイス本体DbとプラグPとの対)は被加工物の種類に応じて取り替え可能であり、取り替えた後に同一の被加工物の加工の際に、同じ条件(位置関係)にて再使用される。
【0019】
ダイススタンド3に配置したダイスプラグ位置設定装置1は、ダイスプラグの対を使用開始するにあたり、ダイスDに対してプラグPの位置を最適に設定するためのものである。
図2において、ダイスDのダイス本体(チップ)Dbは円筒形状であり、内周面に素管Nの当接始めになるアプローチ部Aと、このアプローチ部Aに続いてベアリング径(引抜外径)を与えるベアリング部Bとを有し、ベアリング部Bはダイス本体Dbの幅より狭いが一定の実用幅を有している。
【0020】
プラグPは先端部にプラグ径(引抜内径)を与えるプラグ部Paが形成され、プラグ部Paの前面がプラグ先端となっており、プラグ部Paの後方は太径に形成され、その後端が吊芯21aの先端に螺合装着されている。
このプラグPはプラグ部Paの前方に小径突部が形成されることがあり、プラグ部Paの径でプラグ後端まで形成されることも、プラグ部Paの後方が細く形成されることもある。
【0021】
前記プラグ部Paは一定の実用幅を有しており、このプラグ部Paとダイス本体Dbのベアリング部Bとが引抜方向でオーバーラップすることにより、引抜加工の管肉厚を決定する環状間隙が形成されることになる。プラグ部Paとベアリング部Bとはそれぞれ一定の実用幅を有するので、オーバーラップするためのプラグPの位置設定は広い範囲でできる。
【0022】
目的引抜加工のために設計されたダイス本体DbとプラグPとは対となり、組み合わせを変更することなく、何回も使用されることになる。ダイスプラグ対の使用初期、引抜抵抗の大小、摩耗の状態等を考慮すると、加工に適正なプラグの位置の範囲は狭くなり、ダイスプラグ対の使用初期における位置関係をより良い状態に設定しておくことが好ましい。従来においては、デプスゲージを使ってダイスの表面Dcからプラグ先端までの深さを計測してから、プラグPの引抜位置を設定し、ダイスプラグ対の取り替え毎にそれを行っていた。
【0023】
ダイスプラグ位置設定装置1は、ダイススタンド3に装着された移動機構5と、この移動機構5の先端側に設けられていてセンサSを保持した5本のセンサホルダ4と、センサS、移動機構5及び吊芯調整機構23等を作動する制御部6とを有している。
制御部6はダイススタンド3またはドローベンチ2を構成するフレームから立設した操作スタンド33上に配置されている。
【0024】
前記移動機構5は、ダイススタンド3に設けた水平移動用の横アクチュエータ(1本の横向きエアーシリンダで構成)11と、この横アクチュエータ11のピストンロッド11aに固定の支持台11bに設けた上下移動用の縦アクチュエータ(2本の縦向きエアーシリンダで構成)12と、この縦アクチュエータ12のピストンロッド12aの下端に設けられた装着台13とを有している。
【0025】
5本のセンサホルダ4はそれぞれ、先端にプラグPの先端と近接してそれを検出可能な先端検知用のセンサSを保持しており、後部は装着台13に引抜方向と平行な水平方向に移動可能に貫通支持され、中途部に嵌装した付勢手段(ショック吸収用のコイルスプリング)14を介してダイスDに向けて付勢されている。
前記センサホルダ4は、先端部にセンサSを埋設していてダイス穴H内に挿入可能なダイス穴挿入部4aと、ダイスDの表面Dcに当接する当接部4bとが形成されている。
【0026】
センサSにはドローベンチ周辺の雰囲気に影響されない近接センサが使用されており、ダイス穴挿入部4aをダイス穴H内に挿入して当接部4bをダイスDの表面Dcに当接すると、ダイスDの表面DcからセンサSの先端までの基準距離L1が確定される。このときのセンサSの検出位置(又はセンサ先端の直近位置)がプラグの基準位置K1となる。
なお、近接センサの場合は、センサSの先端面から離れた直近位置でプラグPの先端を検出するので、その検出位置がプラグの基準位置K1になる。また、ダイス穴挿入部4aに当接部調整部材を嵌合して、当接部4bの当接面を前後に変更して、ダイスDの表面DcからセンサSの検出位置までの基準距離L1を変更可能にしてもよい。
【0027】
前記センサSはダイスDの前上方が待機位置M1であり、検出作用時には、縦アクチュエータ12を作動してダイスDの高さまで下降し、次に横アクチュエータ11を作動してセンサホルダ4のダイス穴挿入部4aをダイス穴H内に挿入することにより、センサSをダイスDに対して検出位置M2に配置することができる。
この後にプラグPがダイス穴H内に挿入されると、または、この前にプラグPがダイス穴H内に挿入されていると、プラグPの先端がセンサSに近接し、センサSを作動することになる。センサSの作動は制御部6において検出され、センサSの作動量をなくすようにサーボモータ16を作動してプラグPの位置を後退調整する。
【0028】
プラグPの位置を後退させてセンサSが検出しなくなるとき、即ちセンサSの作用開始点を検出すると、そのときのプラグPの位置がプラグ基準位置K1となり、制御部6の第1記憶手段17において検出されかつ記憶されることになる。
また、センサSとプラグPとがダイス穴H内に挿入されてもセンサSが作動しない場合、サーボモータ16を作動してプラグPの位置を前進調整し、プラグPの先端を前進させてセンサSの作用開始点を検出する。そのときのプラグPの位置がプラグ基準位置K1となり、制御部6において記憶する。
【0029】
前記プラグ基準位置K1はダイスDの表面DcからプラグPの先端までのデプスゲージ設定位置であり、これがプラグPの引っ張り加工に適正な引抜適正位置K2となる場合もあるが、センサSを待機位置M1に戻して、プラグ基準位置K1のプラグPをサーボモータ16で前後位置を調整して、ダイスDのダイス穴Hとの関係状態を見ながら、プラグPの先端を引抜適正位置K2に移動する。この引抜適正位置K2はダイスDの表面DcからプラグPの先端までの適正距離L2の地点として検出され、制御部6の第2記憶手段18において記憶されることになる。
【0030】
なお、吊芯調整機構23のサーボモータ16は制御部6からの信号によって作動して吊芯調整を行うので、制御部6の一部を構成する機構となっている。
前記プラグPのプラグ基準位置K1から引抜適正位置K2への移動は、ダイスDのベアリング部BとプラグPのプラグ部Paとをオーバーラップさせる位置設定であり、設計上の寸法からも適正距離L2を算定することは可能である。
【0031】
プラグPのプラグ基準位置K1及び引抜適正位置K2を設定することにより、そのダイスプラグの対に固有の位置関係が決定されかつ記憶されてデータ化される。以後、ダイスプラグの対が取り替えられ、再び使用されるときは、前記データを用いてそのダイスプラグの対に固有の位置関係が再現される。
前記ダイスプラグの対が実施形態の如く5対設けられている場合、5本のセンサホルダ4は同時に、縦アクチュエータ12で待機位置M1から下降し、横アクチュエータ11で水平移動し、ダイス穴H内に挿入される。センサホルダ4の当接部4bがダイスDの表面Dcに当接すると、ダイス穴挿入部4a内のセンサSの先端の位置が基準距離L1の地点に決定する。
【0032】
次に、先端にプラグPを装着した5本の吊芯21aを、素管Nを嵌合しない状態で、素管受け取り位置F2から挿入位置F1に移動してダイスDに対向させ、吊芯押込み機構22及び吊芯調整機構23によって、プラグPをダイスDのダイス穴Hに侵入させる。
5本のプラグPの先端をセンサSの先端に近接した後、プラグPは個別にセンサSとの
作用開始点を探りプラグ基準位置K1を検出し、制御部6において記憶する。
【0033】
5本のプラグPのプラグ基準位置K1が検出されると、移動機構5によってセンサSを待機位置M1に戻す一方、5本のプラグPをそれぞれ吊芯調整機構23によってプラグ基準位置K1から引抜適正位置K2への移動を行い、ダイスDの表面DcからプラグPの先端までの適正距離L2またはプラグ基準位置K1から引抜適正位置K2までの移動距離を検出し、5対のダイスプラグ対のそれぞれの位置関係を制御部6において記憶する。
【0034】
引抜適正位置K2を検出したのち、5本の吊芯21aは吊芯押込み機構22によって後退移動させ、挿入位置F1から素管受け取り位置F2へ移動し、ダイスプラグ位置設定を完了する。
なお、ダイスプラグ対とはダイス本体DbとプラグPとの組み合わせであり、これを交換するときは、ダイスケースDaからダイス本体Dbを取り外して交換し、ダイスケースDaをそのまま共用することがある。
【0035】
その場合、ダイスケースDaにダイス本体Dbを装着する前に、ダイスケースDaの穴内にセンサホルダ4のダイス穴挿入部4aを挿入し、かつ当接部4bをダイスケースDaの表面Dcに当接するとともに、プラグPを侵入させてプラグ基準位置K1を検出する。
プラグ基準位置K1を検出した後に、プラグPを後退させてからダイスケースDaにダイス本体Dbを装着する。プラグPの引抜適正位置K2の検出は、装着後のダイス本体Dbのダイス穴HにプラグPを侵入させて行う、または、ダイス本体Dbのベアリング部Bの設計上の位置をプラグ基準位置K1から計算して設定する。
【0036】
引抜適正位置K2の検出完了から素管Nの引抜加工工程が始まることになり、最初に素管供給機構26によって素管Nを素管受け取り位置F2にある5本の吊芯21aに素管Nを供給し、5本の吊芯21aを挿入位置F1まで移動してから吊芯押込み機構22によって前進移動させ、素管Nの先端をダイスDのダイス穴Hに挿入する。
素管Nの先端には掴み代が形成されていてダイス穴Hから突出するので、その掴み代部をキャリッジ29のチャック30で掴む。素管Nをチャック30で掴んだ後に、制御部6の記憶に基づいて、5本の吊芯21aを個別に移動して各プラグPの先端を引抜適正位置K2に設定する。これにより5対のダイスプラグ対の固有の設定が完了し、キャリッジ29を移動することにより、素管Nは目的の内径、外径及び肉厚が達成される引抜加工が行われる。
【0037】
前述した実施形態のダイスプラグ位置設定装置1においては、ダイスDを配置したダイススタンド3と、プラグPの先端と近接可能な先端検知用のセンサSと、このセンサSを先端に保持していてダイスDのダイス穴H内に挿入可能なセンサホルダ4と、このセンサホルダ4をダイス穴H内の検出位置とダイススタンド3の外方の待機位置M1との間で移動させる移動機構5と、プラグPの先端をダイス穴H内に侵入させてセンサSに近接してプラグ基準位置K1を設定しかつプラグ基準位置K1から移動した引抜適正位置K2を設定する制御部6とを有する。
【0038】
これによって、プラグPの基準位置K1及び引抜適正位置K2の検出及び設定が容易にかつ適正にできる。
また、前述した実施形態においては、前記移動機構5は、ダイススタンド3に設けた水平移動用の横アクチュエータ11と、この横アクチュエータ11に設けた上下移動用の縦アクチュエータ12と、この縦アクチュエータ12に設けられた装着台13とを有しており、この装着台13にセンサホルダ4が水平移動可能に支持されかつ付勢手段14を介してダイスDに向けて付勢されている。
【0039】
これによって、センサホルダ4を手で持つことなく、ドローベンチ2の外部からアクチュエータ11、12を使用して、センサSを待機位置M1からダイス穴H内の検出位置M2へ移動させることができる。
さらに、前述した実施形態においては、前記センサホルダ4は、先端部にセンサSを埋設していてダイス穴H内に挿入可能なダイス穴挿入部4aと、ダイスDの表面Dcに当接してダイス穴挿入部4aの挿入長さを設定する当接部4bとが形成されている。
【0040】
これによって、センサS及びセンサホルダ4を簡単に構成でき、プラグPの基準位置K1を適正に設定できる。
さらにまた、前述した実施形態においては、前記ダイスDはダイススタンド3に水平方向複数個設けられ
(従って、図6~8に示す如く、複数個のダイスDは引抜方向を平行にして同一高さに設けられている。)、各ダイスDに対応するプラグP
も複数個設けられ、縦アクチュエータ12に設けられた装着台13に複数個のセンサSがダイスDに対応して設けられている。
【0041】
これによって、ダイスD・プラグPの対が水平方向複数対配置されているドローベンチ2においても、ダイスプラグ対の位置関係設定を一度に効率良く行うことができる。
また、前述した実施形態においては、前記制御部6は、プラグPをダイスDに対して進退させるサーボモータ16と、プラグPの先端がダイス穴H内でセンサSを作動させたときのプラグ基準位置K1を検出しかつ記憶する第1記憶手段17と、プラグPをプラグ基準位置K1から移動して引抜適正位置K2を検出しかつ記憶する第2記憶手段18と、移動機構5を操作する操作部19とを有する。
【0042】
これによって、プラグ基準位置K1及び引抜適正位置K2をより正確に設定できるとともに、検出した位置を記憶しておくことにより、ダイスD及びプラグPの対を取り替えて再利用するときに、プラグPを引抜適正位置K2に迅速に配置できる。
前述した実施形態のダイスプラグ位置設定方法においては、ダイススタンド3に設けたダイスDに対して、先端検知用のセンサSを上方の待機位置M1から降下させてダイスDに対向させ、前記センサSの先端を水平移動させてダイス穴H内に挿入させ、このセンサSの先端に対向してプラグPを移動し、プラグPの先端をダイス穴H内に侵入させてセンサSの先端に近接させてプラグ基準位置K1を検出しかつ記憶し、その後にプラグPを引抜適正位置K2まで移動しかつその位置を記憶する。
【0043】
これによって、ダイス穴H内におけるプラグPの基準位置K1の設定及び引抜適正位置K2の設定が容易にかつ適正にできる。
また、前述した実施形態においては、先端検知用のセンサSをプラグPの当接により弾力的に後退可能に構成し、プラグPの先端をダイス穴H内に侵入させてセンサSを後退させた後にプラグPを後退させてセンサSの先端との近接開始点まで戻してプラグ基準位置K1を検出しかつ記憶し、その後にセンサSを上方の待機位置M1まで戻すと共に、プラグPをダイスDに対して引抜適正位置K2まで移動する。
【0044】
これによって、ダイス穴H内におけるプラグPの基準位置K1の設定及び引抜適正位置K2の設定が容易にかつ適正にできる。
さらに、前述した実施形態においては、前記ダイススタンド3に設けるダイスD及びそのダイスDに対応するプラグPの対は取り替え可能に構成されており、
前記プラグPのダイスDに対する引抜適正位置K2を各ダイス・プラグ対で検出しかつ記憶し、ダイス・プラグ対を取り替えた後で再使用するときに、以前の記憶に基づいてダイスDに対してプラグPを引抜適正位置K2まで移動する。
【0045】
これによって、ダイスD及びプラグPの対を取り替えて再利用するときに、プラグPを引抜適正位置K2に迅速に配置できる。
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、部材の形状、構成及び組み合わせ等を変更したりすることもできる。
例えば、1台のドローベンチ2はダイスD及びプラグPの対が1~4台であってもよく、センサSは接触型のセンサを用いてもよい。
【0046】
サーボモータ16はリニアモータ等の吊芯21aを微細かつ正確に移動できるアクチュエータを用いてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 ダイスプラグ位置設定装置
2 ドローベンチ
3 ダイススタンド
4 センサホルダ
4a ダイス穴挿入部
4b 当接部
5 移動機構
6 制御部
11 横アクチュエータ
12 縦アクチュエータ
13 装着台
14 付勢手段
16 サーボモータ
17 第1記憶手段
18 第2記憶手段
21 吊芯機構
21a 吊芯
22 吊芯押込み機構
23 吊芯調整機構
29 キャリッジ
30 チャック
B ベアリング部
D ダイス
Da ダイスケース
Db ダイス本体
Dc ダイス表面
F1 挿入位置
F2 素管受け取り位置
H ダイス穴
K1 プラグ基準位置
K2 引抜適正位置
M1 待機位置
M2 検出位置
N 素管
P プラグ
Pa プラグ部
S センサ
【要約】
【課題】 ダイスプラグの位置設定を簡単かつ容易にできるようにする。
【解決手段】 ダイスDを配置したダイススタンド3と、プラグPの先端と近接可能な先端検知用のセンサSと、このセンサSを先端に保持していてダイスDのダイス穴H内に挿入可能なセンサホルダ4と、このセンサホルダ4をダイス穴H内の検出位置M2とダイススタンド3の外方の待機位置M1との間で移動させるの移動機構5と、プラグPの先端をダイス穴H内に侵入させてセンサSに近接してプラグ基準位置K1を設定しかつプラグ基準位置K1から移動した引抜適正位置K2を設定する制御部6とを有する。
【選択図】
図1