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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】切削装置
(51)【国際特許分類】
   B23P 15/30 20060101AFI20220921BHJP
   B23K 26/36 20140101ALI20220921BHJP
   B23K 26/067 20060101ALI20220921BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20220921BHJP
   B23B 25/00 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
B23P15/30
B23K26/36
B23K26/067
B23K26/064 Z
B23B25/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022034958
(22)【出願日】2022-03-08
(62)【分割の表示】P 2021511008の分割
【原出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2022069523
(43)【公開日】2022-05-11
【審査請求日】2022-03-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】社本 英二
【審査官】荻野 豪治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-122378(JP,A)
【文献】特開2012-024784(JP,A)
【文献】特開2010-194554(JP,A)
【文献】特開2012-161873(JP,A)
【文献】特開平03-272810(JP,A)
【文献】SAITO, Hiroshi, et al.,Mirror Surface Machining of Steel by Elliptical Vibration Cutting with Diamond-Coated Tools Sharpened by Pulse Laser Grinding,International Journal of Automation Technology,2018年,vol.12, No.4,p.573-581,p.575-576 (2.3)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 15/28 - 15/52
B23B 25/00
B23B 27/00 - 27/24
B23K 26/064
B23K 26/067
B23K 26/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被削材に対して切削工具の刃先を相対移動させる運動機構と、
前記運動機構による相対移動を制御する制御部と、を備えた切削装置であって、
前記切削工具の前記刃先をレーザ加工するためのレーザ光を出射するレーザ光源と、
レーザ光の光路を形成する光学部材と、をさらに備え、
前記光学部材は、
レーザ光の第1光路を形成する第1光学部材と、
レーザ光の第2光路を形成する第2光学部材と、を有し、
前記制御部は、
前記刃先を前記第1光路に対して相対移動させて、前記刃先の逃げ面を前記第1光路を通るレーザ光で加工するよう前記運動機構を制御し、
前記刃先の逃げ面を加工するタイミングとは別のタイミングで、前記刃先を前記第2光路に対して相対移動させて、前記刃先のすくい面を前記第2光路を通るレーザ光で加工するよう前記運動機構を制御する、
ことを特徴とする切削装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記刃先のすくい面を加工した後、前記刃先の逃げ面を加工するよう前記運動機構を制御する、
ことを特徴とする請求項に記載の切削装置。
【請求項3】
被削材に対して切削工具の刃先を相対移動させる運動機構と、
前記運動機構による相対移動を制御する制御部と、を備えた切削装置であって、
前記切削工具の前記刃先をレーザ加工するためのレーザ光を出射するレーザ光源と、
レーザ光の光路を形成する光学部材と、をさらに備え、
前記光学部材は、
レーザ光の第1光路を形成する第1光学部材と、
レーザ光の第2光路を形成する第2光学部材と、を有し、
前記制御部は、前記切削工具の前記刃先を、前記第1光路および前記第2光路に対して相対移動させて、前記刃先をレーザ加工するよう前記運動機構を制御するものであって
前記制御部は、前記切削工具の刃部の先端側から根元側に向かうレーザ光を利用した刃先加工を先に実施し、その後に、前記刃部の根元側から先端側に向かうレーザ光を利用した刃先加工を実施するよう前記運動機構を制御する、
ことを特徴とする切削装置。
【請求項4】
前記制御部は、切削時の前記切削工具の姿勢のまま、前記刃先を光路に対して相対移動させて、前記刃先をレーザ加工するよう前記運動機構を制御する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の切削装置。
【請求項5】
前記第1光路および前記第2光路の相対的な角度は、加工後の逃げ面とすくい面の角度を形成するように設定されている、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の切削装置。
【請求項6】
前記第1光路におけるレーザ光の進行を遮る第1遮光板と、
前記第2光路におけるレーザ光の進行を遮る第2遮光板と、
を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の切削装置。
【請求項7】
前記制御部は、レーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を走査して、前記刃先の逃げ面およびすくい面を加工するよう前記運動機構を制御する、
ことを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の切削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ光により切削工具の刃部を加工する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を利用した加工法として、パルスレーザ光を集光し、集束箇所を含む筒状の照射領域を被加工部材の表面上で走査して面加工するパルスレーザ研削(Pulse Laser Grinding : PLG)が知られている。特許文献1は、パルスレーザ光において筒状に延び且つ加工可能なエネルギをもつ照射領域を加工対象物の表面側の部位に重ねて、加工可能な速度で走査することで、加工対象物の表面領域を除去する方法を開示する。非特許文献1は、パルスレーザ研削により工具母材の逃げ面を2方向に加工して、V字形状の切れ刃を形成する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-159318号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Hiroshi Saito, Hongjin Jung, Eiji Shamoto, Shinya Suganuma, and Fumihiro Itoigawa;「Mirror Surface Machining of Steel by Elliptical Vibration Cutting with Diamond-Coated Tools Sharpened by Pulse Laser Grinding」, International Journal of Automation Technology, Vol.12, No.4, pp.573-581(2018年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1(a)および図1(b)は、非特許文献1に記載された、パルスレーザ研削によりダイヤモンドコーティング工具の刃先を鋭利化する方法を説明するための図である。図1(a)は、すくい面側をパルスレーザ研削する様子を示し、図1(b)は、逃げ面側を2方向にパルスレーザ研削する様子を示す。非特許文献1では、工具刃先に対してレーザ光をわずかに切り込ませ、その状態で刃先稜線に沿った送り運動をレーザ光と工具の間に与えることで、刃先の鋭利化を行っている。
【0006】
図1(a)および(b)に示すように、一つのレーザ光を利用して工具刃先のすくい面と逃げ面を加工するには、レーザ光に対する工具の相対的な姿勢を大きく変える必要がある。非特許文献1では、XYZの3つの並進軸と、A軸、C軸の2つの回転軸をもつ5軸加工機を用いて、工具姿勢を刃物角(加工後のすくい面と逃げ面の間の角度)だけ回転させている。このように一つのレーザ光を利用する加工装置で工具刃先のすくい面と逃げ面を加工するには、工具姿勢を変化させるための回転制御軸が必要となる。
【0007】
本開示はこうした状況に鑑みてなされており、その目的とするところの1つは、制御軸数を減少させることのできる刃先加工技術を提供することにある。また本開示の目的の1つは、実用性に優れた切削装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示のある態様の刃先加工装置は、切削工具の刃部をレーザ加工する刃先加工装置であって、レーザ光の第1光路を形成する第1光学部材と、レーザ光の第2光路を形成する第2光学部材と、刃部の刃先を、第1光路および第2光路のに対して相対移動させる運動機構と、運動機構による相対移動を制御する制御部とを備える。制御部は、運動機構により刃先を第1光路に対して相対移動させて、刃先の逃げ面を第1光路を通るレーザ光で加工する。また制御部は、運動機構により刃先を第2光路に対して相対移動させて、刃先のすくい面を第2光路を通るレーザ光で加工する。
【0009】
本開示の別の態様は切削装置である。この装置は、被削材に対して切削工具の刃先を相対移動させる運動機構と、運動機構による被削材と切削工具の刃先の相対移動を制御する制御部を備える。さらに切削装置は、切削工具の刃先をレーザ加工するためのレーザ光を出射するレーザ光源と、レーザ光の光路を形成する光学部材とを備える。制御部は、運動機構により刃先を光路に対して相対移動させて、刃先をレーザ加工する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ダイヤモンドコーティング工具の刃先を鋭利化する方法を説明するための図である。
図2】パルスレーザ研削を説明するための図である。
図3】刃先加工装置を示す図である。
図4】刃部がレーザユニット内に進入した状態を示す図である。
図5】レーザユニットの内部構成を示す図である。
図6】レーザユニットを統合した切削装置を示す図である。
図7】統合部の上面図である。
図8】刃先が被削材を切削している状態を示す図である。
図9】刃先が被削材を切削している状態を示す図である。
図10】刃部がレーザユニット内に進入した状態を示す図である。
図11】刃部がレーザユニット内に進入した状態を示す図である。
図12】超音波楕円振動切削工具の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図2は、パルスレーザ研削を説明するための図である。パルスレーザ研削は、特許文献1および非特許文献1に開示されるように、レーザ光2の光軸方向に延び且つ加工可能なエネルギをもつ円筒状の照射領域を被加工部材20の表面に重ねて、その光軸と交差する方向へ走査することで、円筒状の照射領域が通過した被加工部材20の表面領域を除去する加工法である。パルスレーザ研削は、被加工部材20の表面に、光軸方向および走査方向に平行な面を成形する。
【0012】
<刃先加工装置の構造>
図3は、切削工具の刃部をレーザ加工する刃先加工装置10を示す。刃先加工装置10は、レーザ加工部11および制御部17を備える。制御部17は、NC(numerical control)プログラムにしたがってレーザ加工部11を制御するNC制御装置であってよい。刃先加工装置10において、レーザ加工部11および制御部17は別体として構成され、ケーブル等により接続されてよいが、一体として構成されてもよい。
【0013】
レーザ加工部11は、ベースとなるベッド部12を備え、ベッド部12上には、第1テーブル13および第2テーブル14が移動可能に支持される。第1テーブル13は、ベッド部12に形成されたレール部によりX軸方向に移動可能に支持され、第2テーブル14は、第1テーブル13に形成されたレール部によりZ軸方向に移動可能に支持される。第2テーブル14の上面には、被加工部材を取り付けるための工具支持部15が設けられ、実施形態では、工具支持部15に、レーザ加工の対象となる刃部22を備えた切削工具21が取り付けられる。刃部22は、その先端に、被削材の切削に関与する逃げ面およびすくい面をもつ刃先22aを有する。
【0014】
レーザユニット16は、刃部22の刃先22aに対して2本のレーザ光を照射して、刃先22aを鋭利加工する機能をもつ。実施形態のレーザユニット16は、レーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を刃先22aの逃げ面およびすくい面に同じタイミングまたは異なるタイミングで重ねて、その光軸と交差する方向へ走査し、筒状照射領域が通過した表面領域を除去するパルスレーザ研削機であるが、別の照射方式を利用するレーザ加工機であってもよい。
【0015】
第1テーブル13および第2テーブル14は、刃部22の刃先22aをレーザユニット16内のレーザ光路に対して相対移動させる運動機構を構成する。図示していないが、第1テーブル13および第2テーブル14は、それぞれモータなどのアクチュエータにより動かされる。なお実施形態では、第1テーブル13および第2テーブル14が、工具支持部15に取り付けられた切削工具21をX軸方向およびZ軸方向に移動させるが、切削工具21の移動は、レーザユニット16内のレーザ光路に対して相対的なものであればよい。つまり運動機構は、レーザユニット16内のレーザ光路を切削工具21に対して動かしてもよい。このように切削工具21とレーザ光路は、いずれが動かされるかは問題ではなく、移動方向において相対的な移動が実現されればよい。
【0016】
レーザ加工時、制御部17は、NCプログラムにしたがって、第1テーブル13および第2テーブル14の動きを管理して、運動機構による切削工具21とレーザ光路の間の相対移動を制御する。またレーザ加工時、制御部17は、レーザユニット16におけるレーザ光の照射を制御する。なお制御部17は、レーザユニット16内の光学部材の位置や姿勢を調整して、レーザ光路を可変とする機能を有してよい。
【0017】
図4は、切削工具21の刃部22がレーザユニット16内に進入した状態を示す。レーザ加工の開始前、制御部17は、第2テーブル14をZ軸正方向に動かして、切削工具21の少なくとも先端側を、レーザユニット16の開口からレーザユニット16内に差し込む。それから制御部17は、レーザユニット16内のレーザ光源を駆動して、刃先22aの逃げ面の加工に利用するレーザ光と、刃先22aのすくい面の加工に利用するレーザ光とを出射させる。実施形態の刃先加工装置10は、進行方向の異なる2つのレーザ光を利用して刃先22aの逃げ面およびすくい面を加工するため、逃げ面加工時とすくい面加工時とで切削工具21の姿勢を変更しなくてよく、工具姿勢を変化させるための回転制御軸を不要とする利点をもつ。
【0018】
図5は、レーザユニット16の内部構成を示す。レーザユニット16は、開口31を有する保護筐体30を備え、保護筐体30内に、レーザ光源32および2つのレーザ光路を形成する複数の光学部材が設けられる。保護筐体30は、レーザ光源32により出射されるレーザ光が外部に漏れることを防止し、レーザユニット16内に異物が侵入することを防止する。なお、それらの防止をより確実にするため、レーザ加工を実施しない時には、開口31を閉じる機構を有しても良い。
【0019】
レーザ光源32は、レーザ光を発生するレーザ発振器、レーザ光の出力を調整する減衰器、レーザ光の径を調整するビームエキスパンダなどを備えて、調整されたレーザ光を出射する。レーザ発振器は、たとえばNd:YAGパルスレーザ光を生成してよい。ビームスプリッタ33は、レーザ光源32から出射されたレーザ光を2つの光路に分岐させる。図5に示すように、レーザ光源32から出射されるレーザ光は、ビームスプリッタ33で2つに分割されて、それぞれ異なる光路を通って刃先22aに向かう。ビームスプリッタ33はハーフミラーであってよい。
【0020】
反射ミラー34およびレンズ35は、レーザ光の第1光路25を形成する光学部材であり、ビームスプリッタ33の透過光を刃先22aの逃げ面23に向かわせる。反射ミラー36、レンズ37および反射ミラー38は、レーザ光の第2光路26を形成する光学部材であり、ビームスプリッタ33の反射光を刃先22aのすくい面24に向かわせる。レンズ35およびレンズ37は、レーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域が刃先22aの位置にくるように、それぞれの入射光を集光する。レンズ35およびレンズ37は、複数のレンズから構成されるレンズシステムであってよい。X軸方向から見て、刃先22a周辺における第1光路25と第2光路26の角度は、加工後の刃物角(加工後のすくい面と逃げ面の間の角度)に設定されている。
【0021】
制御部17が、運動機構により切削工具21の刃先22aを第1光路25および/または第2光路26に対して相対移動させることで、刃先22aの加工が実施される。図5に示す例では、刃先22aの切れ刃稜線がX軸方向に延びており、刃先22aに第1光路25を通るレーザ光および/または第2光路26を通るレーザ光を当てた(照射した)状態で、刃先22aをX軸方向に送り運動させることで、刃先22aの先端の鋭利加工を実現する。
【0022】
具体的に制御部17は、刃先22aの逃げ面23に、逃げ面23に略平行な第1光路25を通るレーザ光を照射した状態で、刃先22aを第1光路25に対してX軸方向に相対移動させて、工具刃先の逃げ面23を第1光路25を通るレーザ光で加工する。また制御部17は、刃先22aのすくい面24に、すくい面24に略平行な第2光路26を通るレーザ光を照射した状態で、刃先22aを第2光路26に対してX軸方向に相対移動させて、工具刃先のすくい面24を第2光路26を通るレーザ光で加工する。このように実施形態のレーザユニット16によれば、切削工具21の姿勢を変更することなく、2つのレーザ光路を通るレーザ光で逃げ面23およびすくい面24を加工できる。
【0023】
制御部17は、運動機構により刃先22aを第1光路25および第2光路26に対して同時に相対移動させて、逃げ面23の加工とすくい面24の加工とを同時に実施してもよい。2つのレーザ光を利用して、逃げ面23およびすくい面24を同時に加工することで、鋭利加工時間を短縮できる利点がある。
【0024】
なお逃げ面23およびすくい面24は、異なるタイミングで加工されてもよい。刃先22aを備える切削工具21を利用した切削の仕上げ加工精度は、すくい面24の面粗さよりも逃げ面23の面粗さに依存することが知られている。そのため、すくい面24を先に加工し、その後、逃げ面23を加工することで、逃げ面23を最後に仕上げるようにしてもよい。
【0025】
この場合、最初に制御部17は、運動機構により刃先22aを第2光路26に対して相対移動させて、すくい面24を加工する。このとき第1光路25を通るレーザ光は利用しないため、制御部17は、遮光板(図示せず)で第1光路25におけるレーザ光の進行を遮ってよい。なお遮光板は、ビームスプリッタ33とレンズ35の間に設けられて、集光前のビーム光を遮ることが好ましい。このようにして、最初に工具刃先のすくい面24が加工される。
【0026】
すくい面24の加工終了後、制御部17は、運動機構により刃先22aを第1光路25に対して相対移動させて、逃げ面23を加工する。このとき第2光路26を通るレーザ光は利用しないため、制御部17は、遮光板(図示せず)で第2光路26におけるレーザ光の進行を遮ってよい。なお遮光板は、ビームスプリッタ33とレンズ37の間に設けられて、集光前のビーム光を遮ることが好ましい。このようにして、工具刃先の逃げ面23が加工され、刃先加工が終了する。
【0027】
なお図5に示すように、第1光路25および第2光路26を通るレーザ光は、それぞれ刃部22の根元側から先端側に向かう方向に進む。様々な条件でパルスレーザ研削を試行した結果として、レーザ光を刃部22の先端側から根元側に向けて照射するときよりも、レーザ光を刃部22の根元側から先端側に向けて照射するときの方が、高精度な平坦面を得られることが知られている。そこで第1光路25および第2光路26におけるレーザ光の進行方向は、それぞれ刃部22の根元側から先端側に向かう方向に設定されることが好ましい。
【0028】
なおレーザ光を刃部22の根元側から先端側に向かわせるためには、刃先22a以外の切削工具21の部位や治具部品等とレーザ光との干渉を回避しなければならない。空間的な制約から第1光路25および第2光路26の両方のレーザ光進行方向を、刃部22の根元側から先端側に向かう方向に設定することが困難であれば、一方のレーザ光の進行方向を逆にしてもよい。一方のレーザ光の進行方向を逆にした場合、制御部17は、刃部22の先端側から根元側に向かうレーザ光を利用した刃先加工を先に実施し、その後に、刃部22の根元側から先端側に向かうレーザ光を利用した刃先加工を実施する。これにより、先の刃先加工により形成された鈍い(若干鋭利でない)部分を、後の刃先加工により除去して、鋭利な刃先22aを形成できる。
【0029】
第1光路25および第2光路26は、ミラー角度を変更することで、刃先22aへのレーザ入射方向を変更できてもよい。図5に示す例では、反射ミラー34、38の配置角度を変更することで、刃先22aへのレーザ入射方向を調整できる。また上記の例では、1つのレーザ光源32から出射されるレーザ光をビームスプリッタ33で2つに分割しているが、第1光路25用のレーザ光源と、第2光路26用のレーザ光源とをそれぞれ設けてもよい。
【0030】
<レーザユニット16を組み込んだ切削装置>
刃先加工装置10は、2本のレーザ光を利用した刃先加工を実現するレーザユニット16を搭載することで、工具姿勢を変更するための回転制御軸を不要とし、シンプルな構造を実現する。以下、被削材を切削加工する切削装置に、レーザユニット16を組み込む構造を提案する。切削装置がレーザユニット16を備えることで、切削工具21の刃部22の刃先22aが摩耗したとき、切削工具21を切削装置から取り外すことなく、刃部22をレーザユニット16に送ってレーザ加工することで、刃先22aを研ぎ直すことができる。
【0031】
図6は、切削工具の刃部をレーザ加工するレーザユニット16を統合した切削装置100を示す。図6に示す切削装置100は、被削材104に切削工具21の刃先22aを切り込ませて、被削材104を旋削加工する加工装置である。切削装置100は、統合部111および制御部117を備え、制御部117は、NC(numerical control)プログラムにしたがって統合部111を制御するNC制御装置であってよい。切削装置100において、統合部111および制御部117は別体として構成され、ケーブル等により接続されてよいが、一体として構成されてもよい。
【0032】
図7は、統合部111の上面図を示す。統合部111は、ベースとなるベッド部112を備え、ベッド部112上には、第1テーブル113および第2テーブル114が移動可能に支持される。第1テーブル113は、ベッド部112に形成されたレール部によりX軸方向に移動可能に支持され、第2テーブル114は、第1テーブル113に形成されたレール部によりZ軸方向に移動可能に支持される。第2テーブル114の上面には、切削工具21を取り付けるための刃物台115が設けられる。切削工具21には刃部22が固定され、刃部22は、その先端に、被削材の切削に関与する逃げ面およびすくい面をもつ刃先22aを有する。
【0033】
ベッド部112上には、被削材104が取り付けられる主軸103と、主軸103を回転可能に支持する主軸台102とが設けられる。主軸台102の内部には、主軸103を回転させる回転機構105が設けられる。被削材104の切削時、制御部117は回転機構105を駆動して、主軸103を回転させる。
【0034】
第1テーブル113および第2テーブル114は、切削工具21の刃先22aを被削材104に対して相対移動させる運動機構を構成する。図示していないが、第1テーブル113および第2テーブル114は、それぞれモータなどのアクチュエータにより動かされる。なお実施形態では、第1テーブル113および第2テーブル114が、刃物台115に取り付けられた切削工具21をX軸方向およびZ軸方向に移動させるが、切削工具21の移動は、被削材104に対して相対的なものであればよい。つまり運動機構は、被削材104を切削工具21に対して動かしてもよい。このように切削工具21と被削材104は、いずれが動かされるかは問題ではなく、移動方向において相対的な移動が実現されればよい。
【0035】
図8および図9は、切削工具21の刃先22aが被削材104に切り込み、被削材104を切削している状態を示す。切削加工の開始時、制御部17は回転機構105を回転し、第2テーブル114をZ軸正方向に動かして、刃部22の刃先22aを被削材104に切り込ませる。制御部117は、切削加工用のNCプログラムにしたがって、第1テーブル113および第2テーブル114の動きを管理して、運動機構による切削工具21と被削材104の間の相対移動を制御し、被削材104を切削する。
【0036】
切削装置100において、切削工具21を用いた切削が繰り返し行われると、刃先22aは必ず摩耗する。摩耗した切削工具21を一度切削装置100から取り外して、専用の加工機で刃先22aを研ぎ直すと、位置校正のために、切削装置100に再度取り付けたときの取り付け誤差等を測定し補正する必要がある。
【0037】
そこで実施形態の統合部111は、ベッド部112上に、刃部22の刃先22aに対して2本のレーザ光を照射して、刃先22aを鋭利加工する機能をもつレーザユニット16を備える。レーザユニット16は、レーザ光の集束箇所を含む筒状照射領域を刃先22aの逃げ面および/またはすくい面に重ねて、その光軸と交差する方向へ走査し、筒状照射領域が通過した表面領域を除去するパルスレーザ研削機であってよいが、別の照射方式を利用するレーザ加工機であってもよい。制御部117は切削時間等を計測することで、刃先22aの摩耗度を推測し、摩耗度が所定の閾値を超えたタイミングで、刃先22aの研ぎ直し(鋭利加工)を行うことを決定してよい。
【0038】
図10および図11は、切削工具21の刃部22がレーザユニット16内に進入した状態を示す。切削加工終了時、第1テーブル113は、X軸方向において図7に示す位置にある。制御部117が、刃先22aの鋭利加工を行うことを決定すると、第1テーブル113をX軸負方向に動かして、刃部22を保護筐体30の開口31(図5参照)に対向させる。その後、制御部117は第2テーブル114をZ軸正方向に動かして、切削工具21の少なくとも先端側を、レーザユニット16の開口31からレーザユニット16内に差し込む。それから制御部117は、レーザユニット16内のレーザ光源32を駆動して、刃先22aの逃げ面の加工に利用するレーザ光と、刃先22aのすくい面の加工に利用するレーザ光とを出射させる。刃先22aの鋭利加工については、図5に関して説明したとおりである。
【0039】
切削装置100において、制御部117は、切削時の切削工具21の姿勢のまま、運動機構により切削工具21の先端側をレーザユニット16内に差し込み、切削工具21をレーザ光路に対して相対移動させて、刃先22aをレーザ加工する。実施形態の切削装置100によれば、レーザユニット16が刃先22aに対して2本のレーザ光を照射して、刃先22aを鋭利加工する機能をもち、鋭利加工時に切削工具21の姿勢を変更する必要がないため、切削加工で使用される並進制御軸を用いたレーザ加工を実現できる。
【0040】
たとえば球面/非球面形状の旋削加工では、刃先22aが円弧形状のRバイトが多く使用される。Rバイトの鋭利加工においては、図5を参照して、制御部117が運動機構のX軸およびZ軸を同期制御して、刃先22aを円弧切れ刃稜線に沿ってレーザ光路に対して相対移動させればよい。
【0041】
なお切削装置100がB軸の回転制御軸を有している場合は、刃先22aにレーザ光を照射した後、刃先22aの円弧の中心回りに、B軸制御で刃先22aをレーザ光路に対して相対回転させて、レーザ加工を行うことが望ましい。このように加工することで、レーザ光の強度分布が完全な軸対称でない場合であっても、レーザ光の周方向位置が同じ箇所で刃先22aの全域を加工することが可能となる。
【0042】
以上は、レーザユニット16を搭載した切削装置100が、旋削加工装置である場合について説明したが、他の種類の加工装置であってもよい。自由曲面加工装置はワークテーブルに取り付けられた被削材上に自由曲面を創製するが、レーザユニット16は被削材と同じワークテーブルに並んで設けられてよい。なおレーザユニット16を、ベッド部12に固定して、ワークテーブルから切り離すことも可能である。切削加工に用いる制御軸数と、工具刃先のレーザ加工に用いる制御軸数は、必ずしも一致させなくて良いからである。
【0043】
また切削装置100は、特開2008-221427号公報に記載するような、超音波楕円振動切削装置であってもよい。超音波楕円振動切削は、金型鋼などの高硬度金属に対して、超精密微細切削を可能にする加工法である。
【0044】
図12は、超音波楕円振動切削装置で利用する超音波楕円振動切削工具の構造を示す。切削装置100では、レーザユニット16において、切削時の工具姿勢を変えることなく、刃部22の根元側から先端側に向かうレーザ光で刃先22aを加工するため、レーザ光が刃先22a以外の切削工具21の部位や治具部品等と干渉しないようにしなければならない。
【0045】
従来の超音波楕円振動切削工具は、すくい面の延長線上に超音波振動子が配置されており、この超音波楕円振動切削工具をレーザユニット16に入れると、超音波振動子が刃部22の根元側から先端側に向かうレーザ光に干渉する。そこで切削装置100に搭載する超音波楕円振動切削工具では、刃先22aのすくい面と逃げ面の延長線に挟まれた領域に超音波振動子40を配置する。
【0046】
なお図12に示す超音波楕円振動切削工具を採用した超音波楕円振動切削装置では、超精密加工にとって重要な切込み方向の振動振幅を一定に保つ制御方法が新たに必要となる。なぜならば、楕円振動を生み出すために利用する2方向の超音波振動のいずれもが、切込み方向に一致しないためである。そこで制御部117は、一方の振動の共振周波数、または2つの方向の共振周波数の間(重み付き平均)の周波数を自動追尾するとともに、少なくとも切込み方向の振幅を算出して一定に保つ制御を行い、それによって切込み量の変化を抑えて高い加工精度を実現する。
【0047】
以上、本開示を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。実施形態では、刃先加工装置10におけるレーザユニット16において、2本のレーザ光が出射されるが、3本以上のレーザ光が出射されてもよい。一方で刃先加工装置10における統合部111において、切削に要求される仕上げ精度が高くない場合には、レーザユニット16は、1本のレーザ光のみを用いて、たとえば切削の加工仕上げ精度への影響が高い逃げ面のみを加工するものであってもよい。
【0048】
本開示の態様の概要は、次の通りである。本開示のある態様の刃先加工装置は、切削工具の刃部をレーザ加工する刃先加工装置であって、レーザ光の第1光路を形成する第1光学部材と、レーザ光の第2光路を形成する第2光学部材と、刃部の刃先を、第1光路および第2光路に対して相対移動させる運動機構と、運動機構による相対移動を制御する制御部とを備える。制御部は、運動機構により刃先を第1光路に対して相対移動させて、刃先の逃げ面を第1光路を通るレーザ光で加工する。また制御部は、運動機構により刃先を第2光路に対して相対移動させて、刃先のすくい面を第2光路を通るレーザ光で加工する。
【0049】
2つの異なる光路を通るレーザ光を利用して、刃先の逃げ面およびすくい面を加工することで、工具姿勢を変化させるための機構を不要とする利点がある。
【0050】
制御部は、運動機構により刃先を第1光路および第2光路に対して同時に相対移動させて、刃先の逃げ面およびすくい面を同時にレーザ加工してよい。これによりレーザ加工時間を短縮できる。第1光路および第2光路の少なくとも一方を通るレーザ光は、刃部の根元側から先端側に向かう方向に進むことが好ましい。特にパルスレーザ研削においては、レーザ光を刃部の根元側から先端側に向かう方向に照射することで、高精度な加工を実現することが可能となる。なお第1光路および第2光路の両方を通るレーザ光が、それぞれ刃部の根元側から先端側に向かう方向に進むことが好ましい。
【0051】
本開示の別の態様は切削装置である。この装置は、被削材に対して切削工具の刃先を相対移動させる運動機構と、運動機構による被削材と切削工具の刃先の相対移動を制御する制御部を備える。さらに切削装置は、切削工具の刃先をレーザ加工するためのレーザ光を出射するレーザ光源と、レーザ光の光路を形成する光学部材とを備える。制御部は、運動機構により刃先を光路に対して相対移動させて、刃先をレーザ加工する。
【0052】
切削装置に、刃部を鋭利化するレーザ加工機能を搭載することで、刃先の摩耗時に、切削工具を切削装置から取り外すことなく、刃先の鋭利加工を行うことが可能となる。レーザ加工機能は、2つの異なる光路を通るレーザ光を利用して、刃先の逃げ面およびすくい面を加工できることが好ましい。制御部は、切削時の切削工具の姿勢のまま、運動機構により刃先を光路に対して相対移動させて、刃先をレーザ加工することが好ましい。
【符号の説明】
【0053】
10・・・刃先加工装置、11・・・レーザ加工部、13・・・第1テーブル、14・・・第2テーブル、15・・・工具支持部、16・・・レーザユニット、17・・・制御部、21・・・切削工具、22・・・刃部、22a・・・刃先、23・・・逃げ面、24・・・すくい面、25・・・第1光路、26・・・第2光路、30・・・保護筐体、31・・・開口、32・・・レーザ光源、33・・・ビームスプリッタ、34・・・反射ミラー、35・・・レンズ、36・・・反射ミラー、37・・・レンズ、38・・・反射ミラー、100・・・切削装置、102・・・主軸台、103・・・主軸、104・・・被削材、105・・・回転機構、111・・・統合部、113・・・第1テーブル、114・・・第2テーブル、117・・・制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12