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特許7144103再剥離性水性粘着剤組成物及び再剥離性水性粘着剤組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】再剥離性水性粘着剤組成物及び再剥離性水性粘着剤組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/14 20060101AFI20220921BHJP
   C09J 103/00 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C09J133/14
C09J103/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022081382
(22)【出願日】2022-05-18
【審査請求日】2022-05-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105877
【氏名又は名称】サイデン化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】井田 優介
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-021524(JP,A)
【文献】特開2022-059376(JP,A)
【文献】特開2005-231100(JP,A)
【文献】特開2009-019116(JP,A)
【文献】特開2010-047713(JP,A)
【文献】特開2006-096854(JP,A)
【文献】特開平10-158616(JP,A)
【文献】特開2006-143825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体と、前記水性媒体に分散したポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子と、前記水性媒体に糊化又は溶解した糖類とを含有し、
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子100質量部に対して、前記糖類の含有量は1~100質量部であり、
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の平均粒子径は5~100μmであり、
前記糖類は、澱粉、単糖、十糖以下の少糖、デキストリン、及び糖アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位、及び前記(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な不飽和カルボン酸系単量体に由来する構造単位を含み、
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を形成する単量体成分の全質量を基準として、前記(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の総含有割合は70~99.5質量%であり、前記不飽和カルボン酸系単量体に由来する構造単位の含有割合は0.5~30質量%である、再剥離性水性粘着剤組成物。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル酸エステルは、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、及びラウリルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記不飽和カルボン酸系単量体は、(メタ)アクリル酸である請求項1に記載の再剥離性水性粘着剤組成物。
【請求項3】
前記糖類は、澱粉を含む請求項1に記載の再剥離性水性粘着剤組成物。
【請求項4】
前記糖類は、エステル化澱粉及びエーテル化澱粉からなる群より選択される少なくとも1種の加工澱粉を含む請求項1に記載の再剥離性水性粘着剤組成物。
【請求項5】
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は懸濁重合物である請求項1に記載の再剥離性水性粘着剤組成物。
【請求項6】
水性媒体、及び前記水性媒体に分散した平均粒子径5~100μmのポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を含有する水性樹脂分散液と、
水、及び前記水に糊化又は溶解した糖類を含有する糖類含有水性液とを、
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子100質量部に対して、前記糖類が1~100質量部となる割合で混合することを含み、
前記糖類は、澱粉、単糖、十糖以下の少糖、デキストリン、及び糖アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位、及び前記(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な不飽和カルボン酸系単量体に由来する構造単位を含み、
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を形成する単量体成分の全質量を基準として、前記(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の総含有割合は70~99.5質量%であり、前記不飽和カルボン酸系単量体に由来する構造単位の含有割合は0.5~30質量%である、再剥離性水性粘着剤組成物の製造方法。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル酸エステルは、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、及びラウリルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
前記不飽和カルボン酸系単量体は、(メタ)アクリル酸である請求項6に記載の再剥離性水性粘着剤組成物の製造方法。
【請求項8】
前記水性樹脂分散液を製造することをさらに含み、
前記水性樹脂分散液を製造することは、前記(メタ)アクリル酸エステル及び前記不飽和カルボン酸系単量体を含む前記単量体成分、並びに油溶性重合開始剤を含有する単量体混合物を、前記水性媒体及び界面活性剤を含有する水相混合物に添加して懸濁重合することを含む、請求項6に記載の再剥離性水性粘着剤組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再剥離性水性粘着剤組成物及び再剥離性水性粘着剤組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着剤は、例えば、粘着ラベル、粘着テープ、及び粘着シート等の種々の用途において、様々な分野で利用されている。また、粘着剤を設ける対象である被着体の材質も、プラスチック、金属、紙、及び布等があり、広範囲に及んでいる。粘着剤の用途の中には、被着体に貼り付けられた後、一定期間経過後に、被着体から剥がされる態様で使用されるものがある。このような態様では、被着体から粘着ラベル、粘着テープ、及び粘着シート等を剥がし易いように、再剥離性に優れた粘着剤(再剥離型粘着剤)の使用が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。「再剥離性」とは、上述の粘着ラベル等の粘着製品を被着体から剥離する際に、その粘着製品における粘着剤を支持する基材(支持体とも称される。)を破壊することなく、かつ、粘着剤を被着体の表面に残さないで剥がすことができる性質をいう。
【0003】
粘着剤層の形成に用いられる粘着剤としては、地球環境の保護や作業環境の安全面等を考慮して、水性粘着剤が普及してきており、上記に挙げた特許文献1及び2でも、アクリル系樹脂の水性エマルションを含む水性粘着剤組成物が提案されている。さらに近年では、地球温暖化等の環境問題が重要視され、温室効果ガス(特にはCOガス)の排出抑制に関する規制等が強化されてきている。このような状況下において、粘着剤に用いられる材料についても、例えば、焼却処分時等に温室効果ガスを排出する石油系材料の使用量を低減することが要望されており、バイオマスに注目が集められている。バイオマスとは、再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたものをいう。
【0004】
例えば、特許文献3には、澱粉及びデキストリンのうち少なくとも一方と単量体と糖とを混合し、乳化させる単量体乳化液を得る工程と、前記単量体乳化液を反応させ、重合体組成物を含有する重合体分散液を得る工程とを有する重合体組成物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-105420号公報
【文献】特開2004-217838号公報
【文献】特開2010-047713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水性のアクリル系樹脂粒子を含有する水性粘着剤組成物について、再剥離性に優れた粘着剤を形成可能であるとともに、バイオマス度の向上に寄与しやすいことでより環境に優しい再剥離性水性粘着剤組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、水性媒体と、前記水性媒体に分散したポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子と、前記水性媒体に糊化又は溶解した糖類とを含有し、前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子100質量部に対して、前記糖類の含有量は1~100質量部であり、前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の平均粒子径は5~100μmである再剥離性水性粘着剤組成物が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、再剥離性に優れた粘着剤を形成可能であるとともに、バイオマス度の向上に寄与しやすいことでより環境に優しい再剥離性水性粘着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0010】
本発明の一実施形態の再剥離性水性粘着剤組成物(以下、単に「粘着剤組成物」と記載することがある。)は、水性媒体と、水性媒体に分散したポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子と、水性媒体に糊化又は溶解した糖類とを含有する。この粘着剤組成物において、糖類の含有量は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子100質量部に対して、1~100質量部である。また、この粘着剤組成物において、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の平均粒子径は5~100μmである。
【0011】
粘着剤組成物の各成分については後で詳述するが、粘着剤組成物は、水性媒体と、水性媒体に分散したポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子と、水性媒体に糊化又は溶解した糖類とを含有する。そのため、この粘着剤組成物は、地球環境の保護や作業環境の安全面等を考慮した環境配慮型の水系組成物として調製し得る。また、この粘着剤組成物に含有される糖類は、主に植物を原料とする物質であることから、バイオマスである。そして、粘着剤組成物は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子100質量部に対して、糖類を1~100質量部含有するため、バイオマス度の向上に寄与しやすく、より環境に優しい粘着剤組成物を提供することができる。
【0012】
粘着剤組成物は、上記の通り、平均粒子径が5~100μmであるポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子と、糊化又は溶解した糖類とを特定の割合で含有する。そのため、基材(支持体)に粘着剤組成物を塗布して粘着剤を形成する場合、糊化又は溶解した糖類は上記樹脂粒子を基材に留めるためのバインダーとして機能し、上記樹脂粒子はバインダーから表面が露出し、被着体に対して再剥離性に適した粘着力を発揮し得る。したがって、この粘着剤組成物は、再剥離性に優れた粘着剤を形成することができる。
【0013】
本明細書において、「ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子」とは、重合性単量体である(メタ)アクリル酸エステルが重合した重合体や共重合体、(メタ)アクリル酸エステルを主成分として含む重合性単量体の成分(単量体成分)が重合した共重合体をいう。本明細書において、(メタ)アクリル酸エステルを主成分として含む単量体成分とは、当該単量体成分中、(メタ)アクリル酸エステルに該当する重合性単量体の総含有量が、(メタ)アクリル酸エステル以外のいずれの重合性単量体の含有量よりも同量以上である(同量又はそれよりも多い)ことを意味する。また、本明細書においては、単独重合及び共重合を区別することなく単に「重合」と記載することがある。
【0014】
また、本明細書において、「(メタ)アクリル」との文言には、「アクリル」及び「メタクリル」の両方の文言が含まれることを意味する。また、同様に、「(メタ)アクリレート」との文言には、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方の文言が含まれることを意味する。
【0015】
粘着剤組成物は、水性媒体を含有する。水性媒体は、粘着剤組成物において、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を分散質とする分散媒(水性分散媒)である。水性媒体は、少なくとも水を含む液体(液状媒体)である。水性媒体中の水の割合は、水性媒体の質量に対して50質量%以上であることが好ましい。水性媒体としては、水のみを使用してもよいし、水と水溶性有機溶剤との混合物を使用してもよい。水溶性有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチルカルビトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びN-メチルピロリドン等を挙げることができるが、これらに限定されない。また、水溶性有機溶剤の1種又は2種以上を使用してもよい。
【0016】
粘着剤組成物中の水の含有量は、粘着剤組成物の全質量を基準として、20~90質量%であることが好ましく、25~85質量%であることがより好ましく、30~80質量%であることがさらに好ましい。
【0017】
粘着剤組成物は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子(以下、単に「樹脂粒子」と記載することがある。)を含有する。この樹脂粒子は、粘着剤組成物において、上記の水性媒体を分散媒とする分散質である。
【0018】
樹脂粒子における樹脂を形成する単量体成分は、前述の通り、(メタ)アクリル酸エステルを主成分とする。樹脂を形成する単量体成分には、(メタ)アクリル酸エステルのほか、それと共重合可能な重合性不飽和結合を有する重合性単量体の1種又は2種以上が含まれてもよい。したがって、樹脂粒子は、主成分である(メタ)アクリル酸エステルの1種又は2種以上に由来する構造単位のほか、それと共重合可能な他の重合性単量体の1種又は2種以上に由来する構造単位が含まれていてもよい。
【0019】
本明細書において、「構造単位」とは、樹脂(重合体)を形成する重合性単量体の単位を意味する。「(重合性単量体に)由来する構造単位」とは、例えば、重合性単量体における重合性二重結合(C=C)が開裂して単結合(-C-C-)となった構造単位等が挙げられる。また、本明細書において、重合性単量体とは、分子中に重合性二重結合(例えば炭素-炭素二重結合)及び重合性三重結合(例えば炭素-炭素三重結合)等の重合性不飽和結合を有するラジカル重合可能な単量体を意味する。重合性不飽和結合としては、例えば、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、3-ブテニル基、及びエチニル基等を挙げることができるが、ラジカル重合しうる基であれば、これらに限定されない。
【0020】
樹脂粒子に用いられる(メタ)アクリル酸エステルは特に限定されない。従来から粘着剤組成物に用いられている(メタ)アクリル酸エステルをいずれも用いることが可能である。種々の(メタ)アクリル酸エステルのなかから、粘着剤組成物が用いられる用途や粘着剤組成物に求められる性能等に応じて、(メタ)アクリル酸エステルの1種又は2種以上を用いて、粘着剤組成物の樹脂成分を設計することが可能である。後記実施例では、その代表的な(メタ)アクリル酸エステルを用いた一例を示している。以下の各重合性単量体の説明においては、特に断りのない限り、当該説明中の重合性単量体は、いずれも1種又は2種以上を用いることができるものである。
【0021】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アラルキルエステル、及び(メタ)アクリル酸アリールエステル、並びにそれら以外の他の(メタ)アクリル酸エステル等を挙げることができる。(メタ)アクリル酸エステルのなかでも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0022】
また、(メタ)アクリル酸エステルの原料である(メタ)アクリル酸やアルコールがバイオマスであるものを用いてもよい。例えば、バイオマスの(メタ)アクリル酸としては、バイオディーゼル燃料を製造する際に副生するグリセリン(副生グリセリン)から、製造されるアクロレインを中間体とする(メタ)アクリル酸等が挙げられる。また例えば、バイオマスアルコールとしては、バイオエタノール、バイオオクタノール、及びバイオドデカノール等を挙げることができる。これらから構成される(メタ)アクリル酸エステルを用いることで、粘着剤組成物のバイオマス度を、よりさらに向上することができる。バイオマスである(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、n-オクチル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート(別名:ラウリル(メタ)アクリレート)、オクタデシル(メタ)アクリレート(別名:ステアリル(メタ)アクリレート)、イソボルニル(メタ)アクリレート、及びテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0023】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ウンデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、n-テトラデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、及びベヘニル(メタ)アクリレート等の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;並びにシクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンテニル(メタ)アクリレート等の脂環式の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等を挙げることができる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルのなかでも、炭素原子数が1~20(より好ましくは4~16、さらに好ましくは4~12)の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。なかでも、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、及びn-ドデシル(メタ)アクリレート(別名:ラウリル(メタ)アクリレート)が好ましく、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、及びラウリルアクリレートがより好ましく、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、及びラウリルアクリレートがさらに好ましい。
【0024】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、及び(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0025】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、例えば、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、及び2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0026】
(メタ)アクリル酸アラルキルエステルとしては、例えば、ベンジル(メタ)アクリレート、2-フェニルエチル(メタ)アクリレート、メチルベンジル(メタ)アクリレート、及びナフチルメチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0027】
(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、トリル(メタ)アクリレート、及びナフチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0028】
他の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリルレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びメトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;2-クロロエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2-(パーフルオロブチル)エチル(メタ)アクリレート、及びパーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート等のハロゲン原子を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;2-(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、及び3-(ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;カルボキシエチル(メタ)アクリレート、及びカルボキシペンチル(メタ)アクリレート等のカルボキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;グリシジル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、及び3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル及びその誘導体;2-スルホエチル(メタ)アクリレート、及び3-スルホプロピル(メタ)アクリレート等のスルホン酸基を有する(メタ)アクリレート;2-(ホスホノオキシ)エチル(メタ)アクリレート等のリン酸基を有する(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸2-イソシアナトエチル等のイソシアネート基を有する(メタ)アクリレート;テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等の複素環を有する(メタ)アクリレート;メトキシポリエチエレングリコール(メタ)アクリレート、及びフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルキル基又はアリール基末端ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0029】
樹脂粒子を形成する単量体成分中の(メタ)アクリル酸エステルの総含有量(当該樹脂粒子中の(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の総含有割合)は、当該樹脂粒子を形成する単量体成分の全質量を基準として、50~100質量%であることが好ましく、60~99.5質量%であることがより好ましく、70~99質量%であることがさらに好ましい。なかでも、樹脂粒子は、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、及びラウリルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性単量体に由来する構造単位を含むことが好ましい。
【0030】
樹脂粒子を形成する単量体成分は、前述の通り、(メタ)アクリル酸エステル以外の他の重合性単量体を含んでいてもよい。他の重合性単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、スチレン系単量体、及び不飽和カルボン酸系単量体等を挙げることができる。本明細書において、不飽和カルボン酸系単量体には、不飽和カルボン酸、並びにその無水物及びモノエステルが含まれる。
【0031】
樹脂粒子を形成する単量体成分中の他の重合性単量体の総含有量(当該樹脂粒子中の他の重合性単量体に由来する構造単位の総含有割合)は、当該樹脂粒子を形成する単量体成分の全質量を基準として、0~50質量%であることが好ましく、0.5~40質量%であることがより好ましく、1~30質量%であることがさらに好ましい。
【0032】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-,m-,p-メチルスチレン、o-,m-,p-エチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、o-,m-,p-ヒドロキシスチレン、o-,m-,p-メトキシスチレン、o-,m-,p-エトキシスチレン、o-,m-,p-クロロスチレン、o-,m-,p-ブロモスチレン、o-,m-,p-フルオロスチレン、及びo-,m-,p-クロロメチルスチレン等を挙げることができる。スチレン系単量体のなかでも、スチレンが好ましい。
【0033】
樹脂粒子を形成する単量体成分中のスチレン系単量体の含有量(当該樹脂粒子中のスチレン系単量体に由来する構造単位の含有割合)は、当該樹脂粒子を形成する単量体成分の全質量を基準として、0~40質量%であることが好ましく、0~30質量%であることがより好ましく、0~20質量%であることがさらに好ましい。
【0034】
不飽和カルボン酸系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、及びシトラコン酸等の不飽和カルボン酸;無水マレイン酸、及び無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸の無水物;マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、及びイタコン酸モノブチルエステル等の不飽和カルボン酸のモノエステルを挙げることができる。不飽和カルボン酸系単量体のなかでも、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0035】
樹脂粒子を形成する単量体成分中の不飽和カルボン酸系単量体の含有量(当該樹脂粒子中の不飽和カルボン酸系単量体に由来する構造単位の含有割合)は、当該樹脂粒子を形成する単量体成分の全質量を基準として、0~30質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることがより好ましく、1~10質量%であることがさらに好ましい。
【0036】
ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の平均粒子径は5~100μmである。この樹脂粒子は、平均粒子径が比較的大きく、ナノサイズよりも大きいため、樹脂粒子とともに含有される糊化又は溶解した糖類がバインダーとしての機能を担う成分となり、樹脂粒子が再剥離性に適した粘着力を発揮し得る成分となる。樹脂粒子の平均粒子径が5μm以上であることにより、再剥離性粘着剤として使用可能な適度な粘着力を有しつつ、再剥離性に優れた粘着剤を形成しやすくなる。この観点から、樹脂粒子の平均粒子径は、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。一方、樹脂粒子の平均粒子径が100μm以下であることにより、再剥離性粘着剤として使用可能な適度な粘着力を有する粘着剤を形成しやすくなる。この観点から、樹脂粒子の平均粒子径は、80μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。
【0037】
上記特定の平均粒子径範囲の樹脂粒子が得られやすい観点から、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は懸濁重合物であることが好ましい。なお、樹脂粒子の製造方法の例は、後述する粘着剤組成物の製造方法の説明において詳述する。
【0038】
本明細書において、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の平均粒子径は、細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置を用いて測定される体積基準の粒度分布における累積50%となる粒子径(D50;メディアン径)を意味する。樹脂粒子を含有する水性樹脂分散液をイオン交換水で希釈した試料について、上記精密粒度分布測定装置を用いて25℃にて測定したときの値をとる。上記精密粒度分布測定装置には、例えば、Beckman Coulter社製の商品名「Multisizer 3」を用いることができる。
【0039】
粘着剤組成物中の樹脂粒子の含有量は、粘着剤組成物の固形分(不揮発分)の質量を基準として、40~99質量%が好ましい。この樹脂粒子の含有量は、粘着特性を高める観点から、45質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。一方、樹脂粒子の含有量は、糖類の含有量を確保して糖類によるバインダーとしての機能を有しやすく、再剥離性粘着剤を形成しやすくなる観点から、85質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0040】
本明細書において、樹脂粒子の含有量及び質量は、当該樹脂粒子の形成に使用された単量体成分の量に基づいて求めることができる。また、粘着剤組成物の固形分(不揮発分)の全質量は、粘着剤組成物の全質量から粘着剤組成物中の水性媒体の質量を差し引いて求められる値をとることができる。
【0041】
粘着剤組成物は、糖類を含有する。糖類は、粘着剤組成物において、糖類の種類に応じて、水性媒体に糊化又は溶解した状態で存在する。糖類が水性媒体に糊化又は溶解していることにより、平均粒子径が5~100μmのポリ(メタ)アクリル系樹脂粒子を基材に留めるためのバインダーとして機能することができ、均一膜の粘着剤層を形成することができる。そのため、基材に粘着剤組成物を塗布し、乾燥させて粘着剤(粘着剤層)を形成すると、形成された粘着剤において、糖類は、粒径が比較的大きい樹脂粒子を表面に露出させた状態で基材に固着させたフィルム状に形成し得る。
【0042】
粘着剤組成物中の糖類の含有量は、前述のポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子100質量部に対して、1~100質量部である。この範囲で糖類を含有することにより、再剥離性に優れた粘着剤を形成することが可能であるとともに、バイオマス度の向上に寄与しやすい粘着剤組成物を得ることができる。バイオマス度の向上にさらに寄与しやすい観点から、糖類の上記含有量は、10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることがさらに好ましい。一方、粘着剤として利用しやすい観点から、糖類の上記含有量は、80質量部以下であることが好ましく、70質量部以下であることがより好ましく、60質量部以下であることがさらに好ましい。
【0043】
糖類としては、常温(5~35℃)で固体のものを用いることができ、水等の水性媒体に糊化しやすいものと、水等の水性媒体に溶解しやすいものとに大別することができる。水性媒体に糊化しやすい糖類としては、澱粉を挙げることができる。水性媒体に溶解しやすい糖類としては、澱粉以外の糖を挙げることができる。澱粉は、水性媒体に糊化している状態で存在することができ、澱粉以外の糖は水性媒体に溶解した状態で存在することができる。したがって、糖類は、澱粉、及び澱粉以外の糖からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これらのなかでも、上述のバインダーとしての機能を発揮しやすい観点から、糖類は澱粉を含むことがより好ましい。
【0044】
澱粉とは、分子式(C10の炭水化物(多糖類)であり、多数のα-グルコース分子がグリコシド結合によって重合した天然高分子をいう。高等植物の細胞において認められる澱粉の結晶(澱粉粒)、それを取り出して集めたものも澱粉に含まれる。澱粉を水中に懸濁し加熱すると、澱粉粒は吸水して次第に膨張する。加熱を続けると最終的には澱粉粒が崩壊し、ゲル状に変化する(糊化)。この糊化が始まる温度を糊化開始温度という。
【0045】
澱粉としては、例えば、トウモロコシ澱粉(コーンスターチ)、ワキシーコーンスターチ(もちトウモロコシ)、ハイアミロースコーンスターチ(ハイアミローストウモロコシ)、小麦澱粉、米澱粉、豆類(ソラマメ、緑豆、小豆等)から製造される澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、及びタピオカ澱粉、並びにそれらの加工澱粉、及び食物繊維等を挙げることができる。それらの1種又は2種以上の澱粉を用いることができる。
【0046】
澱粉のなかでも、加工澱粉が好ましい。加工澱粉は、上記の原料澱粉(天然澱粉)に物理的、化学的、又は酵素的処理を加えることによって、原料澱粉の特性を改良した澱粉の総称である。加工澱粉には、原料澱粉の無水グルコース残基に官能基を導入した誘導体や、酸処理等により低粘度化した澱粉等がある。
【0047】
加工澱粉としては、例えば、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、架橋澱粉、及びグラフト共重合化澱粉等を挙げることができる。エステル化澱粉は、澱粉に有機酸、無機酸、又はそれらの塩類等を反応させ、官能基を結合させた澱粉誘導体である。使用する酸の種類により、酢酸澱粉、及びリン酸澱粉等に分けられる。エーテル化澱粉としては、親水基を導入して水溶液中での安定性を図ったもの、疎水基を導入して澱粉皮膜を耐水化させたもの、親油基となるもの、そしてイオンを導入してイオン性を高めたものなどがある。官能基の種類により、カルボキシメチル澱粉、ヒドロキシアルキル澱粉、及びカチオン澱粉等に分けられる。架橋澱粉は、澱粉の2箇所以上の水酸基間に多官能基を結合させた澱粉誘導体である。架橋澱粉としては、エピクロルヒドリン架橋澱粉、及びリン酸架橋澱粉等がある。グラフト共重合化澱粉は、澱粉に他の有機高分子物質、例えばポリアクリルアマイド、ポリアクリル酸、ポリ酢酸ビニル、又はポリアクリロニトリル等を化学的に結合したものである。なかでも、エステル化澱粉及びエーテル化澱粉からなる群より選択される少なくとも1種の加工澱粉がより好ましい。
【0048】
澱粉以外の糖としては、単糖、十糖以下の少糖、十糖超の多糖(澱粉を除く)、及び糖アルコールを挙げることができる。それらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0049】
「単糖」とは、それ以上加水分解されない糖類を意味する。単糖としては、組成式が一般式;C2n(nは5~9の整数を表す。)で表される有機化合物を用いることができる。単糖としては、上記一般式中のnが5である五炭糖(ペントース)、nが6である六炭糖(ヘキソース)、nが7である七炭糖(ヘプトース)、nが8である八炭糖(オクトース)、nが9である九炭糖(ノノース)のいずれも用いることが可能である。粘着剤組成物に含有させる単糖としては、粘着剤組成物のバイオマス度の向上に寄与しやすいことから、天然にも存在する単糖が好ましく、この観点から、ペントース及びヘキソースが好ましい。それらのなかでも、入手の容易さや粘着剤組成物の製造コストを抑える観点等から、ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、マンノース、ガラクトース、及びキシロース等が好ましく、ブドウ糖、及び果糖がより好ましい。本明細書において、単糖の各具体例には、各具体例におけるすべての立体異性体が含まれる。
【0050】
「十糖以下の少糖」(本明細書において、単に「少糖」と記載することがある。)とは、単糖がグリコシド結合によって2~10個結合したオリゴマー(二糖以上十糖以下の糖)を意味する。少糖としては、2~10個の単糖構成単位からグリコシド結合を介して構成されている有機化合物を用いることができる。少糖としては、粘着剤組成物のバイオマス度の向上に寄与しやすいことから、天然にも存在する少糖が好ましく、この観点から、二糖及び三糖がより好ましく、二糖がさらに好ましい。二糖及び三糖のなかでも、ショ糖(スクロース)、トレハロース、乳糖(ラクトース)、麦芽糖(マルトース)、及びラフィノースがより好ましい。本明細書において、少糖の各具体例には、各具体例におけるすべての立体異性体が含まれる。
【0051】
前述の澱粉以外の「十糖超の多糖」(本明細書において、単に「多糖」と記載することがある。)とは、単糖がグリコシド結合によって10個超結合した物質である。多糖としては、デキストリンが挙げられる。デキストリンとは、例えば、数個のα-グルコースがグリコシド結合によって重合した物質の総称をいう。澱粉の加水分解により得られる。デキストリンと単糖類との違いは、澱粉の加水分解の度合いを示す指標DE(Dextrose Equivalent)で示すこともできる。加水分解されていない澱粉はDE0、完全に加水分解された単糖類(グルコース等)はDE100となり、市販のデキストリンはDE4以上20以下である。糖鎖が分岐している分岐デキストリン、糖鎖が環状化しているシクロデキストリン及びクラスターデキストリン等もデキストリンに含まれる。
【0052】
本明細書において、糖アルコールは、プロピレンから化学合成によって製造されるようなものでなく、アルドースやケトースのカルボニル基が還元されて生成する糖の一種である。そのような糖アルコールとしては、例えば、グリセロール、エリトリトール、ペンタエリトリトール、キシリトール、マンニトール、マルチトール、ソルビトール、及びラクチトール等を挙げることができる。糖アルコールのなかでも、グリセロールが好ましい。
【0053】
粘着剤組成物中の糖類の含有量は、粘着剤組成物の固形分(不揮発分)の質量を基準として、1~50質量%が好ましい。糖類の上記含有量は、バイオマス度を高める観点から、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、15質量%以上であることがよりさらに好ましい。
【0054】
粘着剤組成物は、上述した成分のほか、任意成分として種々の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、粘着付与剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、分散剤、界面活性剤、pH調整剤、顔料、染料、粘度調整剤、消泡剤、レベリング剤、濡れ剤、防腐剤、及び防黴剤等を挙げることができる。ただし、前述の通り、粘着剤組成物は、再剥離性に適した粘着力を発揮し得る樹脂粒子と、それを基材に留めるためのバインダーとして機能する糊化又は溶解した糖類とを含有するため、任意成分を用いなくても再剥離性に優れた粘着剤を形成可能である。したがって、例えば、上述の種々の添加剤として用い得るような、シリカ、脂肪酸粒子、及び脂肪酸金属塩粒子等を粘着剤組成物に含有させなくてもよい。
【0055】
粘着剤組成物のpHは、6.0~10.0であることが好ましく、6.5~9.5であることがより好ましく、7.0~9.0であることがさらに好ましい。粘着剤組成物のpHは、JIS K6833-1:2008の規定に準拠して測定される値をとることができ、25℃での値である。
【0056】
粘着剤組成物の固形分(不揮発分)は、10~75質量%であることが好ましく、15~70質量%であることがより好ましく、20~65質量%であることがさらに好ましい。本明細書において、粘着剤組成物の不揮発分(固形分)は、JIS K6833-1:2008の規定に準拠して測定される値をとることができる。
【0057】
粘着剤組成物の25℃での粘度は、塗工適性が良好である観点から、1000mPa・s以下であることが好ましい。高速での塗工に適する観点から、粘着剤組成物の25℃での粘度は、10~1000mPa・sであることが好ましい。本明細書において、粘着剤組成物の25℃での粘度は、JIS K6833-1:2008の規定に準拠し、回転粘度計を用いて、回転速度30rpmにて測定される値をとることができる。
【0058】
粘着剤組成物で形成される粘着剤(粘着剤層)の粘着力については、JIS Z0237:2009の規定に準じて、23℃、50%RHの環境下で測定される、180°引きはがし粘着力が、以下のような値をとることが好ましい。すなわち、ステンレス鋼(SUS)板に対する180°引きはがし粘着力は、再剥離性の粘着剤製品に適する観点から、0.5~2.5N/50mm以上であることが好ましい。
【0059】
粘着剤組成物の製造方法は特に限定されないが、粘着剤組成物には、水性媒体に糊化又は溶解した状態で糖類を含有させるため、次の製造方法を採ることが好ましい。すなわち、本発明の一実施形態の再剥離性水性粘着剤組成物の製造方法は、水性媒体、及び水性媒体に分散した平均粒子径5~100μmのポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を含有する水性樹脂分散液と、水、及び水に糊化又は溶解した糖類を含有する糖類含有水性液とを混合することを含む。この際、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子100質量部に対して、糖類が1~100質量部となる割合で、上記の水性樹脂分散液と糖類含有水性液とを混合する。
【0060】
本実施形態の粘着剤組成物の製造方法は、上記の水性樹脂分散液を製造すること;及び上記の糖類含有水性液を製造すること;を含んでもよい。水性樹脂分散液の製造方法は、後で詳述するが、水性媒体において、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分を重合させることで、水性媒体と、水性媒体に分散したポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子とを含有する水性樹脂分散液を製造することができる。糖類含有水性液は、水と、常温で粉末状の糖類とを混合して、粉末状の糖類を水に糊化又は溶解させることによって、得ることができる。糖類含有水性液を調製する際の水温条件としては、例えば、20~90℃であることが好ましく、30~80℃であることがより好ましい。
【0061】
また別の一態様として、上記の水性樹脂分散液と、粉末状の糖類とを混合し、粉末状の糖類を、水性樹脂分散液における水性媒体に糊化又は溶解させることにより、粘着剤組成物を製造することも可能である。この場合の水性樹脂分散液における水温条件も、上記の糖類含有水性液を調製する場合に採用し得る水温条件と同様とすることができる。
【0062】
さらに別の一態様として、水性樹脂分散液を製造するに当たり、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を形成する単量体成分の重合前又は重合中に、糖類含有水性液を添加してもよいし、粉末状の糖類を添加してもよい。なお、上述したいずれの製造方法においても、水性樹脂分散液や糖類含有水性液に、上述の種々の添加剤等の任意成分をさらに添加してもよい。
【0063】
水性樹脂分散液を製造するに当たり、樹脂粒子の合成方法としては、当業者が採用し得る乳化重合や懸濁重合といった重合方法が用いられ、それぞれの重合方法で使用し得る添加剤等も使用してよい。本実施形態の粘着剤組成物の製造方法では、平均粒子径が5~100μmと比較的大きい粒子径をもつ樹脂粒子が得られやすい観点から、懸濁重合により、樹脂粒子を合成することが好ましい。懸濁重合では、ラジカルの場が油相であるため、重合開始剤には油溶性重合開始剤が用いられる。
【0064】
上記製造方法では、具体的には、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体成分、及び油溶性重合開始剤を含有する単量体混合物(油相混合物)を、水性媒体及び界面活性剤を含有する水相混合物に添加して懸濁重合することがより好ましい。水相混合物への単量体混合物の添加方法は特に限定されず、例えば、一括添加法、連続添加法、及び多段添加法等の方法を採ることができ、これらの添加方法を適宜組み合わせてもよい。
【0065】
樹脂粒子を得る際の重合温度及び重合時間等の重合条件は、使用する単量体、及び重合開始剤等の種類並びにそれらの使用量等に応じて、適宜決めることができる。例えば、重合温度は、20~100℃程度の範囲が好ましく、より好ましくは40~90℃程度の範囲であり、また、重合時間は、1~15時間程度の範囲が好ましい。
【0066】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤が好ましく、アニオン性界面活性剤がより好ましい。界面活性剤の使用量は、上記の単量体成分の総量100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、0.2~8質量部であることがより好ましい。
【0067】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ステアリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム;アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム;等を挙げることができる。また、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム、及びポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム等の反応性アニオン性界面活性剤等を挙げることもできる。ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、及びポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のポリオキシアルキレン誘導体;並びにポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、及びポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル等の反応性ノニオン性界面活性剤等を挙げることができる。
【0068】
重合開始剤としては、乳化重合法を採る場合、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩等の水溶性重合開始剤を用いることができるが、上述の通り、油溶性重合開始剤を用いることが好ましい。油溶性重合開始剤には、油溶性であり、かつ、油相中でラジカルを発生させる重合開始剤を使用することができる。油溶性重合開始剤としては、例えば、油溶性有機過酸化物や油溶性アゾ化合物等を用いることができる。
【0069】
油溶性有機過酸化物としては、例えば、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート、ビス-3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ビス(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、オクタノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、及びジ-t-ブチルパーオキサイド等を挙げることができる。
【0070】
油溶性アゾ化合物としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、1,1’-アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、及び2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)等を挙げることができる。
【0071】
上記の油溶性重合開始剤の1種又は2種以上を用いることができる。重合開始剤の使用量は、上記の単量体成分の総量100質量部に対して、0.05~1質量部程度とすることが好ましい。
【0072】
樹脂粒子を合成する際には、その樹脂粒子の分子量を調整するために、連鎖移動剤を使用してもよい。連鎖移動剤としては、例えば、ヘキシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、オクチルメルカプタン、及びn-,又はt-ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類等を用いることができる。
【0073】
水性樹脂分散液を製造する際には、上記の単量体成分を重合させて樹脂粒子を得た後、中和剤を添加することが好ましい。中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属化合物;水酸化カルシウム及び炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属化合物;アンモニア;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、及びジエチレントリアミン等の有機アミン類等を挙げることができる。1種又は2種以上の中和剤を用いてもよい。
【0074】
以上詳述した再剥離性水性粘着剤組成物は、水性媒体に分散したポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子と、水性媒体に糊化又は溶解した糖類とを含有するため、地球環境の保護や作業環境の安全面等を考慮した環境配慮型の水系組成物として調製し得る。また、この粘着剤組成物は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子100質量部に対して、糖類を1~100質量部含有するため、バイオマス度の向上に寄与しやすく、より環境に優しい粘着剤を形成することができる。
【0075】
さらに、この再剥離性水性粘着剤組成物は、平均粒子径が5~100μmであるポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子と、糊化又は溶解した糖類とを特定の割合で含有する。そのため、粘着ラベル、粘着テープ、及び粘着シート等の粘着製品における粘着剤を支持する基材(支持体)に粘着剤組成物を塗布して粘着剤を形成する場合、形成される粘着剤において、粘着剤組成物中に糊化又は溶解していた糖類は上記樹脂粒子を基材に留めるためのバインダーとして機能し、基材側に均一膜を形成し得る。一方、上記樹脂粒子は、ナノサイズよりも大きい5~100μmの平均粒子径を有するため、基材側とは反対側(被着体側)の表面がバインダーから露出し、被着体に対して再剥離性に適した粘着力を発揮し得る。したがって、この再剥離性水性粘着剤組成物は、再剥離性に優れた粘着剤を形成することができる。
【0076】
粘着剤組成物の用途は特に制限されない。例えば、粘着テープ、粘着シート、粘着ラベル、ステッカー、及び液状粘着剤において、粘着剤組成物を用いることができる。また、粘着剤組成物は、各種物品の包装、接合、固定、保護、装飾、及び搬送等の種々の用途において、様々な分野で利用され得る。さらに、粘着剤組成物を設ける対象物(被着体)の材質も特に制限されず、例えば、プラスチック、金属、ガラス、木材、セラミックス、紙、及び布等を挙げることができ、広範囲に適用され得る。
【0077】
特に粘着剤組成物は、再剥離性の機能を有することから、被着体に貼り付けられた後、一定時間経過後に、被着体から剥がされる態様で使用される用途に利用されることが好ましい。そのような態様としては、例えば、付箋;各種容器に貼り付けられる粘着ラベル;電気機器における部品を固定するために使用される粘着テープ;塗装及びシーリング材の形成等のために被着体に貼り付けられるマスキングテープ等の粘着テープ;ディスプレイ等の製品の製造段階で被着体に貼り付けられる表面保護フィルム等の粘着シート;等を挙げることができる。それらのなかでも、付箋がより好ましい。
【0078】
なお、本実施形態では、以下の構成を採り得る。
[1]水性媒体と、前記水性媒体に分散したポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子と、前記水性媒体に糊化又は溶解した糖類とを含有し、
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子100質量部に対して、前記糖類の含有量は1~100質量部であり、
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の平均粒子径は5~100μmである再剥離性水性粘着剤組成物。
[2]前記糖類は、澱粉、及び前記澱粉以外の糖からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む上記[1]に記載の再剥離性水性粘着剤組成物。
[3]前記糖類は、澱粉を含む上記[1]又は[2]に記載の再剥離性水性粘着剤組成物。
[4]前記糖類は、エステル化澱粉及びエーテル化澱粉からなる群より選択される少なくとも1種の加工澱粉を含む上記[1]~[3]のいずれかに記載の再剥離性水性粘着剤組成物。
[5]前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子は懸濁重合物である上記[1]~[4]のいずれかに記載の再剥離性水性粘着剤組成物。
[6]水性媒体、及び前記水性媒体に分散した平均粒子径5~100μmのポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を含有する水性樹脂分散液と、
水、及び前記水に糊化又は溶解した糖類を含有する糖類含有水性液とを、
前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子100質量部に対して、前記糖類が1~100質量部となる割合で混合することを含む再剥離性水性粘着剤組成物の製造方法。
【実施例
【0079】
以下、実施例及び比較例を挙げて、前述の一実施形態のさらなる具体例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0080】
<性状の測定方法>
(pH)
実施例及び比較例において、後述する水性樹脂分散液及び水性粘着剤組成物のpHについては、JIS K6833-1:2008の規定に準じて、25℃の環境下で測定した。
【0081】
(不揮発分)
実施例及び比較例において、後述する水性樹脂分散液及び水性粘着剤組成物の固形分濃度(不揮発分濃度)については、JIS K6833-1:2008及びJIS K6828-1:2003の規定に準じて、測定した。具体的には、測定対象である試料(水性樹脂分散液又は水性粘着剤組成物)を140℃で30分間乾燥させた後、残渣を秤量し、下記式により、固形分濃度を算出した。
固形分濃度(質量%)=(残渣の質量/乾燥前の試料の質量)×100
【0082】
(粘度)
実施例及び比較例において、後述する水性樹脂分散液及び水性粘着剤組成物の粘度については、JIS K6833-1:2008の規定に準じて、BM型粘度計(東京計器株式会社製)及びNo.2ローターを用いて、回転速度30rpm、温度25℃の条件で測定した。
【0083】
(平均粒子径)
実施例及び比較例において、後述する水性樹脂分散液中のポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の平均粒子径については、測定対象である水性樹脂分散液をイオン交換水で希釈した試料を用いて25℃にて測定した。試料の平均粒子径の測定には、280μmのアパーチャーチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置(商品名「Multisizer 3」、Beckman Coulter社製)を用い、体積基準の粒度分布を測定し、累積50%となる粒子径(D50)の値を採った。
【0084】
<水性樹脂分散液の調製>
(水性樹脂分散液A)
温度計、撹拌機、原料導入管、窒素導入管及び還流冷却器を備えた反応槽に、イオン交換水100質量部、分散剤(顆粒状のポリビニルアルコール;商品名「JP-24」、日本酢ビ・ポバール株式会社製)の10質量%水溶液80質量部、及びアニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム;商品名「ラテムルE-118B」、花王株式会社製)4質量部を仕込み、充分に撹拌して溶解させ、水相混合液を準備した。
【0085】
次に別の容器に2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)99質量部及びアクリル酸(AAc)1質量部からなる単量体成分100質量部、並びに油溶性重合開始剤(ビス(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート;商品名「パーロイルTCP」、日本油脂株式会社製)0.1質量部を入れて撹拌混合し、単量体混合液(油相混合液)を調製した。この単量体混合液を、先に準備された反応槽中の水相混合液に添加して、撹拌速度200rpm前後で1時間撹拌した後、窒素置換を行い、昇温を開始した。70℃付近で重合反応が始まり、急激に90℃前後まで発熱した。これを冷却し85℃に保持して3時間反応を行い、懸濁重合法により、水性媒体中にポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を合成した。その後、アンモニア水、水、及びアルカリ増粘剤(粘着特性への影響のないもの)を用いて、pH、固形分、及び粘度を調整した。このようにして、pH8.0、固形分濃度30質量%、及び粘度800mPa・sである水性樹脂分散液Aを得た。水性樹脂分散液A中のポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の平均粒子径は30μmであった。
【0086】
(水性樹脂分散液B)
水性樹脂分散液Aの調製において使用した単量体成分を、2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)49.5質量部、ブチルアクリレート(BA)49.5質量部、及びアクリル酸(AAc)1質量部からなる単量体成分100質量部に変更した。それ以外は、水性樹脂分散液Aの調製方法と同様にして、pH8.0、固形分濃度30質量%、及び粘度800mPa・sである水性樹脂分散液Bを調製した。水性樹脂分散液B中のポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の平均粒子径は30μmであった。
【0087】
(水性樹脂分散液C)
水性樹脂分散液Aの調製において使用した単量体成分を、ラウリルアクリレート(LA)99質量部、及びアクリル酸(AAc)1質量部からなる単量体成分100質量部に変更した。それ以外は、水性樹脂分散液Aの調製方法と同様にして、pH8.0、固形分濃度30質量%、及び粘度800mPa・sである水性樹脂分散液Cを調製した。水性樹脂分散液C中のポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の平均粒子径は30μmであった。
【0088】
(水性樹脂分散液D)
温度計、撹拌機、原料導入管、窒素導入管及び還流冷却器を備えた反応槽に、イオン交換水100質量部、分散剤(顆粒状のポリビニルアルコール;商品名「JP-24」、日本酢ビ・ポバール株式会社製)の10質量%水溶液160質量部、及びアニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム;商品名「ラテムルE-118B」、花王株式会社製)4質量部を仕込み、充分に撹拌して溶解させ、水相混合液を準備した。
【0089】
次に別の容器に2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)49.5質量部、ブチルアクリレート(BA)49.5質量部、及びアクリル酸(AA)1質量部からなる単量体成分100質量部、並びに油溶性重合開始剤(ビス(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート;商品名「パーロイルTCP」、日本油脂株式会社製)0.1質量部を入れて撹拌混合し、単量体混合液(油相混合液)を調製した。この単量体混合液を、先に準備された反応槽中の水相混合液に添加して、撹拌速度200rpm前後で2時間撹拌した後、窒素置換を行い、昇温を開始した。70℃付近で重合反応が始まり、急激に90℃前後まで発熱した。これを冷却し85℃に保持して3時間反応を行い、懸濁重合法により、水性媒体中にポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を合成した。その後、アンモニア水、水、及びアルカリ増粘剤(粘着特性への影響のないもの)を用いて、pH、固形分、及び粘度を調整した。このようにして、pH8.0、固形分濃度30質量%、及び粘度800mPa・sである水性樹脂分散液Dを得た。水性樹脂分散液D中のポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の平均粒子径は5μmであった。
【0090】
(水性樹脂分散液E)
水性樹脂分散液Dの調製方法において、分散剤(ポリビニルアルコール)の10質量%水溶液の使用量を60質量部に変更し、また、単量体混合液を水相混合液に添加した際の撹拌速度200rpm前後での撹拌時間を1時間に変更した。それら以外は、水性樹脂分散液Dの調製方法と同様にして、pH8.0、固形分濃度30質量%、及び粘度800mPa・sである水性樹脂分散液Eを調製した。水性樹脂分散液E中のポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の平均粒子径は100μmであった。
【0091】
(水性樹脂分散液F)
2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)49.5質量部、ブチルアクリレート(BA)49.5質量部、及びアクリル酸(AAc)1部からなる単量体成分100質量部を用いた。この単量体成分100質量部に、アニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム;商品名「ラテムルE-118B」、花王株式会社製)4質量部と、イオン交換水45質量部とを加えて混合し、乳化した単量体乳化物(プレエマルション)を準備した。
【0092】
温度計、撹拌機、滴下装置、還流冷却管及び窒素導入管を備えた反応装置の反応槽に、イオン交換水16質量部を入れ、窒素を封入して内温を80℃まで昇温させた。そして、その温度に保ちながら、先に準備した単量体乳化物(プレエマルション)と、水溶性重合開始剤としての5質量%濃度の過硫酸カリウム水溶液3質量部とを並行して反応槽内に連続的に3時間かけて滴下し、乳化重合を行った。その後、反応槽内を80℃で2時間熟成して、乳化重合を終了させ、室温(23℃)まで冷却した。冷却後、アンモニア水を添加して中和し、イオン交換水を加えて濃度を調整した。このようにして、pH8.0、固形分濃度58質量%、粘度200mPa・sである水性樹脂分散液(水性エマルション)Fを得た。水性樹脂分散液F中のポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の平均粒子径は0.3μmであった。
【0093】
(水性樹脂分散液G)
温度計、撹拌機、原料導入管、窒素導入管及び還流冷却器を備えた反応槽に、イオン交換水135質量部、分散剤(顆粒状のポリビニルアルコール;商品名「JP-24」、日本酢ビ・ポバール株式会社製)の10質量%水溶液40質量部、アニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム;商品名「ラテムルE-118B」、花王株式会社製)4質量部を仕込み、充分に撹拌して溶解させ、水相混合液を準備した。
【0094】
次に別の容器に2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)99質量部及びアクリル酸(AAc)1質量部からなる単量体成分100質量部、並びに油溶性重合開始剤(ビス(4-tert-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート;商品名「パーロイルTCP」、日本油脂株式会社製)0.1質量部を入れて撹拌混合し、単量体混合液(油相混合液)を調製した。この単量体混合液を、先に準備された反応槽中の水相混合液に添加して、撹拌速度100rpm前後で1時間撹拌した後、窒素置換を行い、昇温を開始した。70℃付近で重合反応が始まり、急激に90℃前後まで発熱した。これを冷却し85℃に保持して3時間反応を行い、懸濁重合法により、水性媒体中にポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子を合成した。その後、アンモニア水、水、及びアルカリ増粘剤を用いて、pH、固形分、及び粘度を調整した。このようにして、pH8.0、固形分濃度35質量%、及び粘度800mPa・sである水性樹脂分散液Gを得た。水性樹脂分散液G中のポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の平均粒子径は150μmであった。
【0095】
<水性粘着剤組成物の調製>
上記の水性樹脂分散液A~Gのいずれかと、その水性樹脂分散液に含まれるポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子100質量部に対して表1~3に示す量の配合物(単位:固形分換算の質量部)とを混合し、各例の水性粘着剤組成物を調製した。なお、各水性粘着剤組成物についても、水性樹脂分散液Aの調製方法で述べた方法と同様の方法で、pH8.0、固形分濃度35質量%、及び粘度800mPa・sに調整した。表1~3の「樹脂粒子の含有量(質量%)」及び「糖類の含有量(質量%)」欄には、それぞれ、各例の水性粘着剤組成物の固形分(ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子、糖類、ポリビニルアルコール、及びアルカリ増粘剤の総量)を基準とした、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子及び糖類の各含有量(質量%)を示した。それらの含有量(質量%)は、水性粘着剤組成物の固形分をなす各成分の使用量に基づいて算出した。
【0096】
表1~3に示す配合物は以下の通りである。エステル化澱粉及びエーテル化澱粉はいずれも、80℃の条件下で水と混合して糊化させた30質量%濃度の水性液として使用し、その水性液と水性樹脂分散液とを混合した。また、果糖、ショ糖、グリセロール、及びデキストリンは、いずれも、40℃の条件下で水と混合して溶解させた30質量%濃度の水溶液として使用し、その水溶液と水性樹脂分散液とを混合した。表1~3には、配合物として、使用した材料中の固形分を示し、その固形分換算の配合量を示した。
・エステル化澱粉(商品名「ZP-8」、日澱化學株式会社製)
・エーテル化澱粉(商品名「PENON PKW」、日澱化學株式会社製)
・ショ糖(東京化成工業株式会社製)
・DE2~5のデキストリン(商品名「サンデック#30」、三和澱粉工業株式会社製)
・DE18~21のデキストリン(商品名「サンデック#180」、三和澱粉工業株式会社製)
【0097】
<水性粘着剤組成物の評価>
(評価用試料の作製)
実施例及び比較例で調製した各水性粘着剤組成物を、乾燥後の粘着剤の質量が15g/mになるように上質紙上に塗布し、120℃で60秒間乾燥させ、23℃、50%RHの雰囲気で24時間放置して、評価用試料としての粘着ラベルを作製した。
【0098】
(粘着力の測定)
評価用試料(粘着ラベル)を用い、JIS Z-0237:2009の規定に準じて、180°引き剥がし粘着力を測定した。具体的には、まず、評価用試料(粘着ラベル)を幅50mmに切断し、ステンレス鋼(SUS)板に貼り付け、2kgのローラーで1往復圧着した。圧着30分後に、引き剥がし速度300mm/分にて、評価用試料(粘着ラベル)をSUS板に対して180℃に引き剥がし、粘着力(N/50mm)を測定した。粘着力の測定値が0.5~2.5N/50mmであったものを粘着力が良好と評価(表1~3中「○」と表記)し、それ以外を粘着力が不良と評価(表1~3中「×」と表記)した。
【0099】
(再剥離性の評価)
評価用試料(粘着ラベル)を幅50mm、長さ75mmに切断して試験片を得た。この試験片をSUS板に貼り付け、2kgの圧着ロールで1往復させ圧着させ、23℃、50%RH中に72時間放置した。その後、試験片を被着体(SUS板)から剥がした際に、被着体(SUS板)の表面における粘着剤残りによる汚染状況を目視にて確認した。被着体(SUS板)の表面において、粘着剤残りによる汚染がないものを再剥離性が良好と評価(表1~3中「○」と表記)し、粘着剤残りによる汚染があったものを再剥離性が不良と評価(表1~3中「×」と表記)した。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
以上の実施例及び比較例の結果から、前述の本発明の一実施形態の粘着剤組成物によれば、再剥離性に優れた粘着剤を形成可能であるとともに、バイオマス度の向上に寄与しやすいことでより環境に優しい再剥離性水性粘着剤組成物を提供できることが確認された。
【要約】
【課題】再剥離性に優れた粘着剤を形成可能であるとともに、バイオマス度の向上に寄与しやすいことでより環境に優しい再剥離性水性粘着剤組成物を提供する。
【解決手段】水性媒体と、前記水性媒体に分散したポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子と、前記水性媒体に糊化又は溶解した糖類とを含有し、前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子100質量部に対して、前記糖類の含有量は1~100質量部であり、前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子の平均粒子径は5~100μmである再剥離性水性粘着剤組成物を提供する。
【選択図】なし