(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】着脱自在な中敷き
(51)【国際特許分類】
A43B 17/00 20060101AFI20220921BHJP
【FI】
A43B17/00 A
(21)【出願番号】P 2022110111
(22)【出願日】2022-07-08
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2021140055
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003919
【氏名又は名称】株式会社ナイガイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 裕治
【審査官】木戸 優華
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-148422(JP,A)
【文献】実開平3-11804(JP,U)
【文献】特開2020-81693(JP,A)
【文献】特開2021-11659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴固定のインソール上に着脱自在に装着される中敷きであって、該着脱自在の中敷きは編地と該編地に融着された樹脂層から構成され、該樹脂層がシート状の熱可塑性エラストマーからなり、前記編地は同一コース上および同一ウェール上に表編み目と裏編み目が必ず存在するシングルニット組織の編地であり、1目または2目以上の連続する表編み目が凸部を形成し、1目または2目以上の連続する裏編み目が凹部を形成し、1コースにつき2.54cm当たり少なくとも2つの凸部が形成されていることを特徴とする着脱自在な中敷き。
【請求項2】
同一コース上および同一ウェール上において、連続する表編み目および裏編み目の数がそれぞれ8目以下であることを特徴とする請求項1に記載の着脱自在な中敷き。
【請求項3】
前記表編み目により形成される凸部が市松状に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の着脱自在な中敷き。
【請求項4】
前記表編み目により形成される凸部がヘリンボーン柄状に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の着脱自在な中敷き。
【請求項5】
前記熱可塑性エラストマーがメッシュ状シートであることを特徴とする請求項2に記載の着脱自在な中敷き。
【請求項6】
前記熱可塑性エラストマーがスチレン系熱可塑性エラストマーであることを特徴とする請求項1に記載の着脱自在な中敷き。
【請求項7】
前記編地の素材が吸水性を有する繊維を有していることを特徴とする請求項1に記載の着脱自在な中敷き。
【請求項8】
前記着脱自在な靴用中敷きの厚みが2mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の着脱自在な中敷き。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は靴に用いられる中敷きに関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常の靴(革靴、パンプス、運動靴、ブーツなど)においては、歩行時の衝撃を緩和するために、中底の上にクッション材などを配置し、その上に1枚の革や合成皮革からなるインソールが靴の内部に固定または固着した状態で配置される。例えば、特開2020-89518号公報(特許文献1)参照。
靴を長時間使用すると、着用者の足の汗などのために、インソールが次第に汚れてくる。この汚れはクリーナーで拭いても落ち難いものであるが、インソールが接着剤などにより靴に固定されていること、および靴を着用している状態では外から見えないので、インソールが汚れてもそのままにしていることがほとんどである。
【0003】
その不便を解消するため、洗濯可能な中敷きが提案されている。例えば、実用新案登録第3191216号公報(特許文献2)には、吸水性の高い吸水シートと、クッションシートと滑り止めシートを重ね合わせ、周縁をパイピングで結合した洗濯可能な靴用中敷きが提案されている。
また、実用新案登録第3069827号公報(特許文献3)には、上層、中層、底層の3つの層を備えた靴の中敷きにおいて、前記上層には内部にトルマリン鉱石の微粒子を封入した合成高分子繊維の不織布で形成され、前記中層は内部にトルマリン鉱石の微粒子と活性炭の微粒子と通電性素材とを封入した天然高分子繊維の不織布で形成され、前記底層はクッション材で形成された構成である靴の中敷きが提案されている。この靴の中敷きは、上層の厚さが1mm以下で、中層の厚さが1~2mmで、底層の厚さは3mm程度であり、これら3つの層を縫い合わせて一体としており、洗濯が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-89518号公報
【文献】実用新案登録第3191216号公報
【文献】実用新案登録第3069827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に開示されている中敷きは、クッションシートとしてウレタンシートを使用し、タオル地などの吸水性シートと滑り止めシートと共にパイピングなどで縫い合わせているので、分厚いものとなる。
特許文献3の中敷きも開示されているように、少なくとも5mm程度の厚みを有するものとなる。
特許文献2および特許文献3に開示されている中敷きは、靴に固定の既存のインソールに替えて、使用するものである。すなわち、特許文献2および特許文献3に開示されている中敷きは、厚さが厚いので、手持ちの靴に固定されているインソール上に装着すると、靴の内部が狭くなり、窮屈で、靴を履くことができなくなる。そのため、特許文献2および特許文献3に開示されている中敷きを使用する場合は、市販されている靴から靴固定のインソールを除去して、開示されている中敷きに敷き換えて使用することになる。
【0006】
本発明は、従来の洗濯可能な中敷きとは全く別の観点から、靴に固定のインソールを取り外すことなく、靴に固定のインソーの汚れを防止することを目的としている。
すなわち、本発明の目的は、靴に固定のインソール上に着脱自在に装着でき、靴の履き心地を向上させ、洗濯可能とすることにより清潔性を維持できる着脱自在の中敷きを提供することである。
更に、本発明は、歩行時に靴の中で足裏が移動しないように、長さ方向にも幅方向にも足裏が滑り難いような中敷きを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、靴固定のインソール上に着脱自在に装着される中敷きであって、該着脱自在の中敷きは編地と該編地に融着された樹脂層から構成され、該樹脂層がシート状の熱可塑性エラストマーからなり、前記編地は同一コース上および同一ウェール上に表編み目と裏編み目が必ず存在するシングルニット組織の編地であり、1目または2目以上の連続する表編み目が凸部を形成し、1目または2目以上の連続する裏編み目が凹部を形成し、1コースにつき2.54cm当たり少なくとも2つの凸部が形成されていることを特徴とする着脱自在な中敷きにより、前記目的を達成する。
【0008】
前記編地は、同一コース上および同一ウェール上において、連続する表編み目および裏編み目の数はそれぞれ8目以下であることが好ましい。
前記表編み目により形成される凸部が市松状またはヘリンボーン柄状に配置されていることが好ましい。
また、編地の素材が吸水性を有する繊維を有していることが好ましい。
【0009】
前記熱可塑性エラストマーがメッシュ状シートであることが好ましい。特に、前記熱可塑性エラストマーがスチレン系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の着脱自在な中敷きによれば、編地とそれに融着された熱可塑性エラストマーからなる樹脂層のみで構成されているので、薄手である。そのため、既存の靴固定のインソール上に本発明の中敷きを装着して、靴を着用しても、窮屈感が生じることがない。
また、本発明の中敷きは靴に対して着脱自在であるので、本発明の中敷きを取り外して、洗濯することにより、清潔を保つことができる。しかも編地と熱可塑性エラストマーは融着により一体化されているので、中敷きの周縁部を縫製しなくとも、編地がほつれたりすることがない。従って、ほつれの心配なく、繰り返し洗濯することができる。
本発明の着脱自在な中敷きにおいては、同一コース上および同一ウェール上に表編み目と裏編み目が必ず存在するシングルニット組織の編地であり、1目または2目以上の連続する表編み目が凸部を形成し、1目または2目以上の連続する裏編み目が凹部を形成し、1コースにつき2.54cm当たり少なくとも2つの凸部が形成されている編地を用いているので、編地の縦方向(すなわち、中敷きの長さ方向)にも、横方向(すなわち、中敷きの幅方向)にも滑り難い。
特に、同一コース上および同一ウェール上において、連続する表編み目および裏編み目の数はそれぞれ8目以下であり、表編み目により形成される凸部が市松状またはヘリンボーン柄状のように細かく凹凸部が配置されていると、編地が一方向に縮んだりすることがなく、編地の伸縮が抑制されるとともに、凹凸部によりクッション性もよくなり、着用者の足裏との接触も軽減し、べとつき感が生じ難い。
さらに、熱可塑性エラストマーは靴固定のインソールに対して摩擦力が強く、靴着用者の歩行時や靴の着脱時に、本発明の中敷きが足の動きに追従して移動することがない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】本発明の中敷きの
図1のA―A線に沿った断面図である。
【
図3】本発明の中敷きにおける編地の別の実施例を示す平面図である。
【
図4】本発明の中敷きにおけるシート状の熱可塑性エラストマーの一実施例を示す平面図である。
【
図5】本発明の中敷きにおける編地の編組織を表し、市松柄の一実施例である。
【
図6】本発明の中敷きにおける編地の編組織を表し、市松柄の別の実施例である。
【
図7】本発明の中敷きにおける編地の編組織を表し、市松柄の更に別の実施例である。
【
図8】本発明の中敷きにおける編地の編組織を表し、ヘリンボーン柄の一実施例である。
【
図9】本発明の中敷きにおける編地の編組織を表し、ヘリンボーン柄の別の実施例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に示した実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
本発明に係る中敷きは、平面的には
図1に示すように通常のインソールの形状であるが、靴固定の既存のインソールを取り外すことなく、既存のインソール上に着脱自在に装着することが可能である。
【0013】
図2に示すように、本発明の着脱自在な中敷きは、編地1とこの編地1に融着された樹脂層2から構成され、前記樹脂層2はシート状の熱可塑性エラストマーからなるものである。
【0014】
靴固定の既存のインソール上に本発明の中敷きを装着する場合、樹脂層2の面が既存のインソールに接し、編地1の面が着用者の足裏に接するように装着する。
【0015】
本発明の着脱自在な中敷きにおいて、編地1は同一コース上および同一ウェール上に表編み目と裏編み目が必ず存在するシングルニット組織の編地である。編地1において、1目または2目以上の連続する表編み目が凸部を形成し、1目または2目以上の連続する裏編み目が凹部を形成する。1コースにつき2.54cm当たり(すなわち、1インチ当たり)少なくとも2つの凸部が形成されている。
本発明の中敷きにおける編地1の編組織を詳細に説明する。同一コース上および同一ウェール上において、連続する表編み目および裏編み目の数がそれぞれ8目以下であることが好ましい。
滑り難さの観点から凸部が市松状またはヘリンボーン柄状に配置されていることが好ましい。
【0016】
本発明の中敷きにおける編地1の編組織の実施例を
図5~
図9に示した。
図5~
図7は市松状に表編み目と裏編み目が配置されたものを表し、白い升目は表編み目で、黒い升目は裏編み目を示す。
図5に示した編組織においては、コース方向に表編み目と裏編み目が1つずつ交互に配置され、ウェール方向にも表編み目と裏編み目が1つずつ交互に配置されて、表編み目からなる凸部が市松状に配置されている。
図6に示した編組織においては、コース方向に表編み目が2目連続し、裏編み目も2目連続し、連続した2目の表編み目と連続した2目の裏編み目が交互に配置されている。ウェール方向にも同様に連続した2目の表編み目と連続した2目の裏編み目が交互に配置されている。コース方向およびウェール方向に2目ずつ連続した4つの表編み目により凸部が形成され、市松状に配置されている。
図7に示した編組織においては、コース方向に表編み目が4目連続し、裏編み目も4目連続し、連続した4目の表編み目と連続した4目の裏編み目が交互に配置されている。ウェール方向にも同様に連続した4目の表編み目と連続した4目の裏編み目が交互に配置されている。コース方向およびウェール方向に4目ずつ連続して四角に配置された16個の表編み目により凸部が形成され、凸部が市松状に配置されている。
図8および
図9はヘリンボーン柄に表編み目と裏編み目が配置された編組織を示した。
図8に示したものは、ウェール方向に2目連続した表編み目がコース毎にずれてジグザグに配置されて、ヘリンボーン柄を描いている。
図9に示したものは、ウェール方向に3目連続した表編み目がコース毎にずれてジグザグに配置されて、ヘリンボーン柄を描いている。
【0017】
表編み目のみの編地はカールしやすいので、シート状の熱可塑性エラストマーと融着する際の取り扱いが難しいが、これに対して、本発明においては同一コース上および同一ウェール上に表編み目と裏編み目が必ず存在するシングルニット組織の編地であり、編地1は保形性が良く、カールしないので、シート状の熱可塑性エラストマーと融着する際の取り扱いが容易である。
また、本発明の中敷きにおける編地は表編み目と裏編み目により凸部と凹部が形成され、特に頭部が市松状またはヘリンボーン状に配置されているとクッション性も高い。
【0018】
本発明における編地は、両頭針を使用するリンクス・アンド・リンクス編機、リンクス・ジャガード編機(2口編みまたは3口編み)、リブ専用機以外のダブルシリンダ編機により編成することができる。
【0019】
編地の編成において、使用する糸を靴固定のインソールの色(ベージュや茶色が多い)と異なる色にしたり、あるいは、
図3に示すように模様15や柄を編地に施したりすることが好ましい。靴を脱いでいる状態では靴開口部(履き口)より本発明の中敷きの色や模様・柄が見えるので、靴全体としての美的効果の向上が図れる。日本の生活習慣として玄関で靴を脱ぐことから、靴開口部から本発明の中敷きが見え、靴が独自性有する。例えば、大勢の人が靴を脱ぐような状況(例えば法事など)になった場合でも、間違えて他人の靴を履いたり、自分の靴が他人に履かれたりすることがない。
また、着用者の足裏に接する編地1の素材としてはウーリーナイロンのような柔らかい素材が好ましい。
更に、編地が吸水性を有する繊維を有していることも好ましい。例えば、編み糸として天然繊維からなる糸、綿繊維を混紡した糸などを使用することが好ましい。編地1に吸水性の繊維が含まれていると、足裏の汗を吸い取ることができるので、本発明の中敷きは靴着用時のべたつき感を軽減することができる。
例えば、編糸として表糸に綿糸、裏糸にウーリーナイロン糸を使用して、プレーティング編みとしてもよい。糸使いは例えば30番手の綿糸(1~3本)、70~100デニールのウーリーナイロン(2本)などである。
また、編地1を樹脂層2に融着する前に、編地1に抗菌加工や防臭加工を施しておくことも好ましい。
【0020】
樹脂層2はシート状の熱可塑性エラストマーであるので、ゴム様の弾性があり、クッション性がある。また、熱可塑性エラストマーはゴムのように摩擦力も高いので、靴固定のインソール上に本発明の中敷きを装着した場合、靴固定のインソールに対して滑らずに固定される。
本発明の中敷きを装着した場合、靴を履いている状態では足裏は編地1に接しているが、樹脂層2は靴固定の既存のインソールに密着しており、歩行時にも滑り移動することが無い。また、靴を脱ぐ際にも、編地1が足裏に付着したままとならず、樹脂層2が靴固定の既存のインソールに密着しているので、本発明の着脱自在の中敷きが靴固定のインソールに対して、はがれて、靴から脱出したりしない。
【0021】
樹脂層2の熱可塑性エラストマーが、例えば
図4に示すように、メッシュ状シートであることが好ましい(なお、
図4ではメッシュを模式的に示した)。編地1に融着した場合、メッシュ状シートはメッシュ状でないシートよりも厚みが薄くなると共に、通気性があり、クッション性も高くなる。また、使用材料を少なくすることができるので、経済的である。
樹脂層2の熱可塑性エラストマーがスチレン系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。特に、スチレン系熱可塑性エラストマーは柔らかく、ゴムに近い性質を有しており、着用感を良好とし、靴固定のインソールとの摩擦力が高い。
【0022】
本発明の着脱自在な中敷きは、編地1とこれに融着した樹脂層2とからなるので、製作工程において、編地1と樹脂層2とを一体化するために従来のように縫着したり、周縁をパイピングしたりする必要がない。そして、編地1とこれに融着した樹脂層2の構成であるので、本発明の中敷きの厚みは2mm以下である。編地1の厚みや樹脂層2の厚みによっては、本発明の中敷きの厚みは1mmより薄く、または1mmに近い厚みとなる。例えば、樹脂層2であるエラストマーシートの厚みが編地1に圧着する前が0.23mmであると、圧着後は0.12から0.2mmとなり、編地1と融着して製造される中敷きは1mmより薄くなる。
【0023】
本発明の中敷きを靴固定のインソールに重ねて装着して使用した場合、窮屈になるという問題を生じることなく、着用感が良好となる。
更に、本発明の中敷きは編地1と樹脂層2とが一体化したシートを足型に合わせて裁断して制作するが、編地1に樹脂層2が全面的に融着しているので、裁断しても、編地1がほつれてくることがない。融着された樹脂層2により編地1の糸が固定されているので、洗濯をしても、編地1がほつれてこない。
また、本発明の中敷きは薄くて、柔軟性があるので、靴固定のインソールの凹凸の効果を損なうことがない。
【符号の説明】
【0024】
1 編地
2 樹脂層
【要約】
【課題】靴に固定のインソールを取り外すことなく、靴に固定のインソーの汚れを防止することを目的としている。
【解決手段】靴固定のインソール上に着脱自在に装着される中敷きであって、該着脱自在の中敷きは編地と該編地に融着された樹脂層から構成され、前記編地は同一コース上および同一ウェール上に表編み目と裏編み目が必ず存在するシングルニット組織の編地であり、1目または2目以上の連続する表編み目が凸部を形成し、1目または2目以上の連続する裏編み目が凹部を形成し、凸部が市松状またはヘリンボーン状に配置され、前記樹脂層がシート状の熱可塑性エラストマーからなる着脱自在な中敷き。
【選択図】
図2