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特許7144113血液製剤から第VIII因子を分離する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】血液製剤から第VIII因子を分離する方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/22 20060101AFI20220921BHJP
   C07K 14/755 20060101ALI20220921BHJP
   C07K 14/745 20060101ALI20220921BHJP
   A61K 35/16 20150101ALI20220921BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C07K1/22
C07K14/755
C07K14/745
A61K35/16 A
A61P7/02
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018542696
(86)(22)【出願日】2017-02-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 EP2017053045
(87)【国際公開番号】W WO2017137583
(87)【国際公開日】2017-08-17
【審査請求日】2020-01-29
(31)【優先権主張番号】16155199.9
(32)【優先日】2016-02-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500376704
【氏名又は名称】オクタファルマ・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ワインゲ、 ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ローゼン、 ペル
(72)【発明者】
【氏名】シーパース、 アレックス
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/107222(WO,A1)
【文献】特表2001-524953(JP,A)
【文献】国際公開第2014/083510(WO,A1)
【文献】特開2002-348300(JP,A)
【文献】国際公開第2014/147386(WO,A1)
【文献】特表2015-519313(JP,A)
【文献】特表2011-525523(JP,A)
【文献】特表2010-533150(JP,A)
【文献】特表2001-513762(JP,A)
【文献】コスモ・バイオ株式会社, 「GK血液凝固因子測定試薬 第VIII因子測定キット 第VIII因子欠乏ヒト血漿」添付文書, 2011.04
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォン・ヴィルブランド因子(vWF)のFVIII結合ドメインを少なくとも含むvWFタンパク質、及び第VIII因子(FVIII)の軽鎖を少なくとも含み、前記vWFタンパク質と複合体を形成し得るFVIIIタンパク質を含む第1の組成物からFVIIIタンパク質、vWFタンパク質、又はFVIIIタンパク質とvWFタンパク質との複合体を精製するための方法であって、
前記第1の組成物を、リガンド及びマトリックスを含むアフィニティ樹脂と接触させるステップ、ここで、前記リガンドがFVIIIの軽鎖に対して親和性を有し、前記リガンドは酵母細胞で産生された13kDのFab断片であり、前記マトリックスが高度架橋アガロースから構成されている、
得られた混合物から前記アフィニティ樹脂を分離して、改変された第1の組成物及び第2の組成物を得るステップ、ここで、前記第2の組成物が、前記アフィニティ樹脂、及び前記FVIIIタンパク質と前記vWFタンパク質との複合体を含有する
前記第2の組成物に少なくとも1回の洗浄ステップを適用するステップ、並びに
CaCl を含む溶出用緩衝液でvWFを含む第3の組成物を溶出し、続いてFVIIIタンパク質を前記アフィニティ樹脂から溶出するステップ、又はFVIIIタンパク質とvWFタンパク質との複合体若しくはFVIIIタンパク質を含む第4の組成物を前記アフィニティ樹脂から溶出するステップのいずれか
を含み、
前記アフィニティ樹脂の体積に対する前記第1の組成物の体積の比が20:1~100:1の範囲内である、
前記方法。
【請求項2】
前記FVIIIタンパク質が、ヒト血漿由来FVIII、ヒト血液中に天然に存在するFVIII誘導体、組換えヒト完全長FVIII、及び組換えヒトBドメイン欠失型FVIIIからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記vWFタンパク質が、ヒト血漿由来vWFマルチマー、ヒト血漿由来vWFモノマー、及び組換えヒト完全長vWFからなる群から選択される、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
分離が充填カラムを通して連続的に行われ、前記第1の組成物及び/又は前記改変された第1の組成物の流速15cm/時以下である、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の組成物の総体積に対する前記第1の組成物中の前記FVIIIタンパク質の濃度1IU/mL以下である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の組成物が、全血、血漿、及び血清からなる群から選択されるヒト血液製剤を含む、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒト血液製剤が血漿である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記血漿が、クリオ上清などの事前処理した血漿又は化学的にウイルスを不活性化した血漿である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記FVIIIタンパク質及び前記vWFタンパク質のいずれか一方または両方が、組換えにより発現されたタンパク質である、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
改変された血漿の生産方法であって、
血漿含む第1の組成物を準備するステップ
前記第1の組成物を、リガンド及びマトリックスを含むアフィニティ樹脂と接触させるステップ、ここで、前記リガンドがFVIIIの軽鎖に対して親和性を有し、前記リガンドが酵母細胞で産生された13kDのFab断片であり、前記マトリックスが高度架橋アガロースから構成されている、
得られた混合物から前記アフィニティ樹脂を分離して、改変された血漿及び第2の組成物を得るステップ、ここで、前記第2の組成物が、前記アフィニティ樹脂、及びFVIIIタンパク質とvWFタンパク質との複合体を含有する、及び
前記改変された血漿を含む改変された第1の組成物を収集するステップ
を含み、
前記アフィニティ樹脂の体積に対する前記第1の組成物の体積の比が5:1~100:1の範囲内である、
前記方法。
【請求項11】
前記血漿が、クリオ上清などの事前処理した血漿又は化学的にウイルスを不活性化した血漿である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
分離が充填カラムを通して連続的に行われ、前記第1の組成物及び/又は前記改変された第1の組成物の流速が30cm/時以下である、請求項10又は請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の組成物の総体積に対する前記第1の組成物中の前記FVIIIタンパク質の濃度が1IU/mL以下である、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記アフィニティ樹脂の体積に対する前記第1の組成物の体積の比が10:1~70:1の範囲内である、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
FVIIIを含まない外来性vWFタンパク質を前記血漿に添加することをさらに含む、請求項10~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
FVIIIの濃度1%未満である、請求項10~15のいずれか一項に記載の方法によって得られる改変されたクリオ上清
【請求項17】
vWFの濃度少なくとも90%である、請求項16に記載の改変されたクリオ上清
【請求項18】
凝固活性の低下を必要とする障害の治療において使用するための、請求項10~14のいずれか一項に記載の方法により得られる改変された血漿。
【請求項19】
前記障害が播種性血管内凝固症候群(DIC)又は敗血症である、請求項18に記載の改変された血漿。
【請求項20】
前記改変された血漿が改変されたクリオ上清である、請求項18に記載の改変された血漿。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第VIII因子タンパク質及びフォン・ヴィルブランド因子タンパク質を含む第1の組成物、特に血漿から第VIII因子を分離するための方法、及び前記方法の産物、すなわちFVIII及び/又はFVIII/vWF複合体の量が減少した血液製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
血友病は、身体の血液凝固又は凝血を制御する能力が損なわれる、遺伝性の遺伝性疾患である。最も一般的な血友病Aでは凝固因子VIII(FVIII)が欠乏しており、血友病Aはおよそ出生男児の5,000~10,000人に1人の割合で生じる。FVIIIタンパク質は血液凝固に必須な多機能性の補因子である。FVIIIの欠損は、血漿由来FVIII濃縮物又は組換え技術により産生されたFVIIIで治療され得る。FVIII濃縮物による治療によって、血友病患者に正常な生活がもたらされている。歴史的に、血友病Aはヒト血漿由来のFVIIIで治療されてきた。血漿中、通常の条件下では、FVIII分子はその補因子であるフォン・ヴィルブランド因子(vWF)と常に結合しており、この因子は様々な形態の変性からFVIII分子を安定化させる。
【0003】
フォン・ヴィルブランド因子を伴って、又は伴わずに、第VIII因子(rFVIII)を組換えにより産生する、血漿又は培養物から第VIII因子を精製するための方法が、多数報告されている。一般的に、少量のvWFを含む精製されたFVIII産物は、FVIII分子を安定化させるための、添加ヒトアルブミン、並びに/又は、カルシウムイオン及び塩濃度増加を含む他の安定化因子を含有する。
【0004】
血漿からFVIIIを精製するために使用される方法は、通常、クリオ沈殿、水酸化アルミニウム沈殿などの種々の沈殿法と、主にイオン交換クロマトグラフィーステップ、アフィニティクロマトグラフィーステップ、及びゲル濾過クロマトグラフィーステップであるクロマトグラフィーステップとを組み合わせたものであった。FVIII産物を改善するためにアフィニティクロマトグラフィーが利用され、これにより夾雑物が効果的に除去されて高純度のFVIIIが得られたが、vWFも減少する可能性があった(Farrugia et al.1993)。90年代に、最初の組換えFVIII(rFVIII)産物が市販され、これらは血漿中のFVIIIの主要な形態を模倣した完全長rFVIII分子と、1つの不活性部分(Bドメイン)が除去されたBドメイン欠失型rFVIII分子(Eriksson et al.,2001)に分類され、共に高い純度を有していた(全てvWFを含まない)。rFVIIIは、国際公開第2009/156430号及びMcCue et al.2009等に記載されるような、アフィニティクロマトグラフィーを含むいくつかの精製ステップによっても精製される。これらの文書には、13kDのリガンドが第VIII因子の軽鎖に結合する、非動物由来Fab断片をベースとするアフィニティ樹脂を用いた、(フォン・ヴィルブランド因子を含まない)組換えにより産生された第VIII因子の精製のための、アフィニティクロマトグラフィーステップの使用が開示されている(Winge et al,2015を参照)。
【0005】
生物活性のある第VIII因子は、様々なインビトロ分析法(FVIII:C)、例えば、FVIII発色アッセイ及び/又は1段階凝固アッセイ(Girma et al.,1998)を用いて測定可能である。この発色アッセイは、FIXaの補因子としての第VIII因子の生物活性を測定する2段階測光法である。この方法では、カルシウムイオン及びリン脂質の存在下で、FIXaによって、FXがFXaに活性化される。形成されたFXaは、発色基質(chromogneic substrate)を切断して、分光測定で定量可能な産物を生じる。1段階凝固アッセイは、リン脂質、接触活性化因子(contact activator)、及びカルシウムイオンの存在下で、第VIII因子を含有する試料が第VIII因子欠乏血漿の凝固時間を補正する能力に基づく。フィブリン凝塊が出現するまでの時間が1ステップで測定される。
【0006】
rFVIII試料又は精製FVIII試料の試験には、一般に、Helena Biosciences社製の内在「Factor VIII Deficient Plasma (Congenital)」などの、先天性FVIII欠乏血漿が使用される。しかし、これらの先天性血漿は、血友病A患者由来であることにより量が限定されているため、有効性が限定されている。また、FVIII欠乏血漿は、正常血漿からのFVIIIの除去、すなわち、FVIII/vWF複合体に特異的な抗体、すなわち、多くの場合、vWFのFVIIIへの結合によって妨害されないFVIIIに対する親和性リガンドを用いる、正常血漿からのFVIII/vWF複合体の除去によって、作製することもできる。一例として、Affinity Bioogicals(商標)社製のFactor VIII Deficient Plasmaがある。
【発明の概要】
【0007】
本発明は特に、FVIIIの軽鎖に特異的なリガンド、特にVIIISelect(商標、VIIISelectについて以下同様)の名称で販売されているFab断片をベースとするアフィニティ樹脂が、一定条件下でFVIIIとvWFとの複合体に効率的に結合するという、驚くべき知見に基づいている。本発明者らは、その結合のための特定の至適条件を特定することができた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、第1の態様によれば、本発明は、vWFのFVIII結合ドメインを少なくとも含むvWFタンパク質、及びFVIIIの軽鎖を少なくとも含み、前記vWFタンパク質と複合体を形成し得るFVIIIタンパク質を含む第1の組成物からFVIIIタンパク質を分離するための方法であって、
前記第1の組成物を、リガンド及びマトリックスを含むアフィニティ樹脂と接触させるステップであって、前記リガンドがFVIIIの軽鎖に対して親和性を有する前記ステップ、及び
前記混合物から前記アフィニティ樹脂を分離して、改変された第1の組成物及び第2の組成物を得るステップであって、前記第2の組成物が、前記アフィニティ樹脂、FVIII、及び前記FVIIIタンパク質と前記vWFタンパク質との複合体を含有する前記ステップ
を含む方法を提供する。
【0009】
重要なことは、FVIII以外にも前記リガンドに結合するものがあるということである。本発明者らは、vWFと複合体化したFVIIIと結合するための条件を特定することで、血液製剤、特に血漿からのFVIII/vWF複合体の分離を可能にした。したがって、第2の態様によれば、本発明は、改変された血液製剤を作製するための方法であって、
血液製剤、特に血漿、を含む第1の組成物を準備するステップ、
本発明の第1の態様のFVIIIの分離を行うステップ、及び
改変された血液製剤を収集するステップ
を含む方法を提供する。
【0010】
したがって、第3の態様において、本発明は、FVIIIの濃度が健常ヒトドナーの血漿の平均FVIII濃度の4%未満である、第2の態様の方法によって得られる改変された血漿を提供する。
【0011】
FVIII量が減少した改変された血漿、特にFVIII欠乏血漿は、播種性血管内凝固症候群(DIC)又は敗血症などの疾患又は障害の治療において有用であり得る。すなわち、第4の態様によれば、本発明は、治療において使用される改変された血漿を提供し、改変された血漿は本発明の第3の態様に定義される。
【0012】
しかし、第3の態様の改変された血液製剤の別の適用は、FVIII試料の分析的試験における適用である。これに関連して、第5の態様によれば、本発明は、試料中のFVIIIの濃度及び/又は活性を試験するための、改変された血液製剤の用途、特に本発明の第3の態様の改変された血漿の用途を提供する。
【0013】
第1の態様の分離方法は、血液製剤試料からの血液由来FVIIIの分離に有用なだけでなく、FVIII、vWF、又はそれらの複合体の精製にも適用することができる。
【0014】
したがって、第6の態様によれば、本発明は、FVIIIタンパク質、vWFタンパク質、又はFVIIIタンパク質とvWFタンパク質との複合体を精製又は濃縮するための方法であって、
vWFのFVIII結合ドメインを少なくとも含むvWFタンパク質、及びFVIIIの軽鎖を少なくとも含み、前記vWFタンパク質と複合体を形成し得るFVIIIタンパク質を含む第1の組成物を準備するステップ、
第1の態様の分離方法を行うステップ、
所望により、前記第2の組成物に少なくとも1回の洗浄ステップを適用するステップであって、前記第2の組成物が、前記アフィニティ樹脂、及び前記FVIIIタンパク質と前記vWFタンパク質との複合体を含有する前記ステップ、及び、
所望により、vWFを含む第3の組成物を溶出、特にCaClを含む溶出用緩衝液で溶出するステップ、並びに
FVIIIタンパク質とvWFタンパク質との複合体又はFVIIIタンパク質を含む第4の組成物を前記アフィニティ樹脂から溶出するステップ
を含む方法を提供する。
【0015】
最後に、第7の態様によれば、本発明は、第6の態様の方法によって得られる、FVIIIタンパク質とvWFタンパク質との複合体、又は精製されたFVIIIタンパク質、又は精製されたvWFタンパク質を含む組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】アフィニティ樹脂VIIISelectを用いて様々な時間インキュベートされた後の血漿中のFVIII濃度が測定される、バッチ吸着のグラフを示す。FVIII濃度がY軸に、時間がX軸に示される。血漿試料中のFVIII濃度は、血漿とVIIISelectの混合の前、4時間後、及び24時間後に測定された。グラフのレジェンドには、VIIISelect材料(グラム)及び血漿の体積(ml)の比が示されている。表示された温度(20~25℃)はインキュベーション温度を示している。
図2】VIIISelect及びOctaplas(商標)を出発材料として用いたバッチ吸着試験のグラフを示す。血液製剤中のFVIIIの濃度がY軸に、時間がX軸に示される。出発材料に対するカラム材料の種々の比が示されている。
図3】VIIISelect及び出発材料としてクリオ上清を用いたバッチ吸着試験のグラフを示す。血液製剤中のFVIIIの濃度がY軸に、時間がX軸に示される。出発材料に対するカラム材料の種々の比が示されている。
図4】直接的アミド分解活性の測定結果を示すグラフである。Y軸には加水分解速度ΔOD405nm/時が示され、X軸には種々の試験サンプルが示される。各試料の左側のバーはS-2366の加水分解速度を表し、右側のバーはS-2288の加水分解速度を表している。これらの試料は、実施例1及び実施例2に従って作製された血液製剤であり、Siemens社製の市販製品DP、Helena社製、及びAffinity社製の市販製品と比較される。
図5】実施例1及び実施例2に従って得られた選択された血液製剤中のrhFVIIIの安定性試験の結果を示す。各試料のカラムは、異なる時点、すなわち、インキュベーションの前、3時間後、5時間後、及び8時間後の試料中のFVIIIの濃度を表す。
図6】実施例1及び実施例2で得られた3種の選択された血液製剤、並びに比較対象の市販FVIII欠乏血漿のrhFVIIIの力価(potency assignment)の結果を示している。
図7】クリオ上清由来のFVIIIの連続的なカラム分離における、流速試験の結果を示すグラフである。グラフにおいて、Y軸はFVIII活性(%)を示し、X軸は流速(cm/時)を示している。
図8】種々の血漿の直接的アミド分解活性の測定結果を示している。この実験では、プロテアーゼ基質のS-2288及びS-2366が種々の血漿に添加され、すなわち、改変された血漿(プレパイロット1、プレパイロット2、及びプレパイロット3、全てVIIISelectクロマトグラフィーカラム上で精製)又は参照血漿、すなわち、Helena社製の先天性(congenital)市販品及びSiemens社製の市販品が測定された。棒グラフにおいて、左側のバーはS-2238の加水分解速度を表し、右側のバーはS-2366の加水分解速度を表している。
図9】本発明により作製されたFVIII欠乏血漿、すなわち、プレパイロット1、プレパイロット2、及びプレパイロット3、並びに比較用血漿(Siemens社製、Helena社製)中に1IU/mlに希釈されたrhFVIIIの安定性測定の結果を示す。
図10】3種の改変された血漿であるプレパイロット3、プレパイロット2、及びプレパイロット1、並びに比較対象のHelena社製先天性製品について、250IU/mlの濃度のrhFVIIIを用いたrhFVIIIの力価(potency assignment)の結果を示す。
図11】3種の改変された血漿であるプレパイロット3、プレパイロット2、及びプレパイロット1、並びに比較対象のHelena社製先天性製品について、2000IU/mlの濃度のrhFVIIIを用いたrhFVIIIの力価(potency assignment)の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、FVIIIの軽鎖に特異的なリガンドを用いて、vWFの存在下でFVIIIタンパク質を結合して、FVIIIタンパク質とvWFタンパク質との複合体を分離するための新規の方法を開発した。vWFは、FVIIIの軽鎖に結合することが知られているため(例えば、Wang et al. 2003、5頁、左カラム及びChiu et al.、2015を参照)、vWFと複合体の状態にある場合に、FVIIIへのFVIII軽鎖特異的リガンドの結合を妨げるはずであるため、これは驚くべきことである。すなわち、本発明はFVIII/vWF複合体精製についての追加の選択肢を提供する。さらに、血漿由来FVIII/vWF複合体の結合のための任意の条件を決定することで、本発明はFVIII欠乏血漿の作製に好適な方法を提供する。
【0018】
第1の態様によれば、本発明は、vWFのFVIII結合ドメインを少なくとも含むvWFタンパク質、及びFVIIIの軽鎖を少なくとも含み、前記vWFタンパク質と複合体を形成し得るFVIIIタンパク質を含む第1の組成物からFVIIIタンパク質を分離するための方法であって、
前記第1の組成物を、リガンド及びマトリックスを含むアフィニティ樹脂と接触させるステップであって、前記リガンドがFVIIIの軽鎖に対して親和性を有する前記ステップ、及び
前記混合物から前記アフィニティ樹脂を分離して、改変された第1の組成物及び第2の組成物を得るステップであって、前記第2の組成物が、前記アフィニティ樹脂、FVIII、及び前記FVIIIタンパク質と前記vWFタンパク質との複合体を含有する前記ステップ
を含む方法を提供する。
【0019】
本発明におけるFVIIIタンパク質は、ヒト又は動物の完全長第VIII因子及び任意のその断片、変異体、又はバリアントであってもよい。FVIIIタンパク質は血漿由来であっても組換え型であってもよい。さらに、FVIIIタンパク質はグリコシル化FVIIIであっても非グリコシル化FVIIIであってもよい。第VIII因子は、ヒトにおいて、6つのエクソン内の187,000塩基対からなるF8遺伝子にコードされている。転写されたmRNAは、9,029塩基対長を有し、2,351個のアミノ酸を有するタンパク質に翻訳され、そこから、翻訳後修飾によって19個のアミノ酸が除去される。FVIII分子は、ヒトにおいて、31のアミノ酸側鎖でグリコシル化されている(25のN-グリコシル化、6のO-グリコシル化)。
【0020】
翻訳後、このアミノ酸鎖は、約200kDaの重鎖及び約80kDaの軽鎖の形成をもたらす位置において、特定のプロテアーゼによって切断される。ドメイン組成は、通常、A1-A2-B-A3-C1-C2と特徴付けられる。軽鎖はドメインA3-C1-C2で構成される。重鎖は原則としてドメインA1-A2-Bから構成される。血漿中に見られる重鎖は90kDaから200kDaまで様々な分子量を有する不均一な組成である。この理由としては、重鎖のグリコシル化の不均一性、スプライスバリアントの存在、及びBドメイン欠失型重鎖Aなどのタンパク質分解産物の存在がある。完全長FVIIIのアミノ酸配列は、SwisProt(1986年7月21日)のP00451の20~2,351番目のアミノ酸によって特定される。FVIIIタンパク質は、特に、SwissProt(1986年7月21日)のP00451の20~2351番目のアミノ酸に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。P00451の20~2351番目のアミノ酸によって定められるアミノ酸配列に対する配列相同性は、少なくとも95%であることが好ましい。
【0021】
重鎖及び軽鎖が結合する正確な条件は詳細には分かっていないが、疎水性相互作用と共に複合体を形成し結び付ける、金属イオン架橋の関与を示唆する論文がある。カルシウム、銅、亜鉛、マンガンなどを含む、様々な金属イオンが相互作用に関与することが示唆されている(Wang et al. 2003)。近年開発されたBドメイン欠失型組換え第VIII因子産物は、3種の金属イオン(カルシウム、銅、及び亜鉛)を含有する分子であると報告された(Svensson et al.)。
【0022】
本発明の分離方法により、第1の組成物からFVIIIタンパク質が分離される。vWFタンパク質は試料中にも存在しており、vWFのFVIII結合ドメインを含むため、第1の組成物中に存在するFVIIIタンパク質の少なくとも一部はvWFタンパク質との複合体の形となる。
【0023】
第1の態様のある実施形態によれば、第1の組成物は血液製剤を含む。本発明の方法を用いて、血液製剤中のFVIIIの濃度を低下させるか、又は、血液製剤からFVIIIを除去することができる。
【0024】
本明細書で使用される場合、「血液製剤」とは、哺乳動物の全血、又は全血の一部、特に血漿、血清、若しくは血漿及び血清のさらなる一部を指す。
【0025】
本明細書で使用される場合、「改変された血液製剤」とは、沈殿ステップ、特に冷却沈殿ステップ、ウイルス不活性化、化学的処理若しくは加熱処理、及び/又は特定成分の除去などの、追加の処理ステップを経た血液製剤である。したがって、改変された血漿は血漿の処理によって得られる。改変された全血は、全血に対する追加の処理ステップによって得られる。
【0026】
「血漿」は、本明細書で使用される場合、哺乳類の血漿を指す。血漿はペールホワイト、時に黄色の、血液の液体成分であり、通常、全血中の血液細胞を懸濁状態で保持している。血漿は大部分が水であり、溶解したタンパク質、グルコース、凝固因子、電解質、ホルモン、及び二酸化炭素を含有している。血漿は血液から作製することができ、例えば、抗凝固剤を含有する新鮮血の遠心分離において血液細胞を遠心分離管の底に移行させることによって作製することができる。この処理の上清が血漿である。
【0027】
「全血の一部」とは、本明細書で使用される場合、全血の成分の一部を含む、全血由来の懸濁液の溶液を指す。
【0028】
「凝固因子」とは、本明細書で使用される場合、フィブリノーゲン、プロトロンビン、第VII因子、第IX因子、又は第VIII因子などの凝固カスケードの一部である、血液中に天然に存在するタンパク質を指す。
【0029】
「クリオ沈殿物」は、本明細書で使用される場合、血漿から作製される血液製剤である。クリオ沈殿物を得るためには、血漿、通常は凍結された血漿を、おおよそ0℃まで温めた後、遠心分離し、沈殿物を収集する。
【0030】
用語「クリオ上清(cryosupernatant)」とは、本明細書で使用される場合、クリオ沈殿物(cryoprecipitate)が取り除かれた血漿を指す。得られる血漿は、低下はしているがかなりの量のFVIII、vWF、FXIII、フィブロネクチン、及びフィブリノーゲンを含む。
【0031】
ある実施形態において、FVIIIタンパク質は、ヒト血漿由来FVIII、血液中に天然に存在するFVIII誘導体、特にヒト血液中に天然に存在するFVIII誘導体、組換えヒト完全長FVIII、及び組換えヒトBドメイン欠失型FVIIIから選択される。好ましい実施形態によれば、FVIIIタンパク質はヒト血漿由来FVIIIである。ヒト血漿由来FVIIIは、特に、全てのサブドメインであるA1、A2、B、A3、C1、及びC2を含む、完全長FVIIIである。このことは、第1の態様の分離方法が第1の組成物としての血液製剤に対して使用される場合に、特に重要となる。したがって、FVIIIタンパク質は、血液中に天然に存在する任意のFVIII誘導体であってもよく、特に、完全長FVIII及びヒトBドメイン欠失型FVIIIが挙げられる。あるいは、前記FVIIIタンパク質の分離方法は、組換えにより産生されたFVIIIタンパク質に対して用いることもできる。組換えにより産生されたFVIIIタンパク質は、ヒト完全長FVIIIのアミノ酸配列を有するFVIIIであってもよい。あるいは、組換えFVIIIタンパク質は、組換えヒトBドメイン欠失型FVIIIであってもよい。
【0032】
「FVIII軽鎖」とは、本明細書で使用される場合、第VIII因子の一部を指す。FVIII軽鎖は、特に、SwissProt(1986年7月21日)のP00451の1668~2351番目のアミノ酸に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%、又は100%の配列相同性を有するアミノ酸配列を有する。好ましくは、P00451の1668~2351番目のアミノ酸によって定められるアミノ酸配列に対する配列相同性は、少なくとも95%である。
【0033】
組換えFVIIIタンパク質としては、Oldenburg et al.,2014に記載のFVIIIアルブミン融合タンパク質及び/又はFVIII FC融合タンパク質などのFVIII融合タンパク質が挙げられる。
【0034】
本発明における組換えFVIIIタンパク質は、限定されないが、酵母発現系、バキュロウイルス/昆虫細胞発現系、CHO又はBHKなどの哺乳類発現系、及びHEK293F細胞などのヒト細胞株を含む、任意の公知の組換え発現系において産生可能である。ヒト細胞株内で発現された組換えFVIIIタンパク質は、ヒトのグリコシル化パターンを模しているため、好ましい。
【0035】
本発明におけるvWFタンパク質は、ヒト又は動物の完全長vWF、及び任意のその断片、変異体、又はバリアントであってもよい。vWFは、哺乳類の血漿中に存在する、多量体構造の接着性糖タンパク質であり、複数の生理機能を有している。一次止血において、vWFは、血小板表面上の特定の受容体とコラーゲンなどの細胞外マトリックス成分との間で、介在物質として働く。さらに、vWFは、凝血促進性の第VIII因子の担体及び安定化タンパク質として働く。VWFは内皮細胞及び巨核球で2813個のアミノ酸からなる前駆体分子として合成される。この前駆体ポリペプチドであるプレプロvWFは、22残基のシグナルペプチド、741残基のプロペプチド、及び成熟した血漿中のフォン・ヴィルブランド因子内に含まれる2050残基のポリペプチドからなる(Fischer et al.,1994)。完全長vWFは、UniprotエントリーP04275によって特定される。
【0036】
血漿中に分泌されると、vWFは分子サイズが異なる様々な化学種の形で循環する。これらのvWF分子は、2050個のアミノ酸残基である成熟サブユニットのオリゴマー及びマルチマーからなる。vWFは、通常、サイズがおよそ500~20,000kDaの範囲のサイズのマルチマーとして血漿中に存在し得る(Furlan et al.1996)。ある実施形態によれば、vWFタンパク質は血漿由来のvWFマルチマーである。ある実施形態によれば、vWFタンパク質は血漿由来のvWFモノマーである。vWFは、特に、アミノ酸配列、UniprotエントリーP04275の配列の少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%、又は100%のいずれかを有する。
【0037】
本発明における組換えvWFタンパク質は、限定されないが、酵母発現系、バキュロウイルス/昆虫細胞発現系、CHO又はBHKなどの哺乳類発現系を含む任意の公知の組換え発現系において、及びHEK293F細胞などのヒト細胞株において、産生可能である。ヒト細胞株において発現された組換えvWFタンパク質は、ヒトグリコシル化パターンを模しているため好ましい。
【0038】
本発明におけるリガンドは、FVIIIの軽鎖に対して親和性を有するものであれば、いかなる分子又は実体であってもよい。本明細書で使用される場合、「親和性」は、標的、ここではFVIIIの軽鎖、に特異的に結合する特性に関する。FVIIIへのリガンドの結合は、共有結合であっても非共有結合であってもよく、また、可逆的であっても非可逆的であってもよい。好ましくは、前記結合は非共有結合性であり、且つ可逆的である。ある実施形態によれば、前記リガンドはFVIIIの軽鎖に対し親和性を有するポリペプチドである。
【0039】
「ペプチド」は、本明細書で使用される場合、好ましくはペプチド結合によって連結されている、任意の種類の任意の数のアミノ酸、好ましくは自然に存在するアミノ酸から構成され得る。特に、ペプチドは、少なくとも3個のアミノ酸、好ましくは、少なくとも5個、少なくとも7個、少なくとも9個、少なくとも12個、又は少なくとも15個のアミノ酸を含む。さらに、ペプチドの長さに上限は無い。しかし、本発明におけるペプチドは、500のアミノ酸長を超過しないことが好ましく、300のアミノ酸長を超過しないことがより好ましく、250のアミノ酸長未満であることがさらにより好ましい。
【0040】
したがって、用語「ペプチド」には、通常2~10のアミノ酸長を有するペプチドを指す「オリゴペプチド」、及び、通常10より長いアミノ酸長を有するペプチドを指す「ポリペプチド」が包含される。
【0041】
用語「タンパク質」は、少なくとも60個、少なくとも80個、好ましくは少なくとも100個のアミノ酸を有するペプチドを指す。
【0042】
本発明における用語「融合タンパク質」は、元は別々のタンパク質/ペプチドをコードしていた2つ以上の遺伝子、cDNA、又は配列を連結することにより作製されたタンパク質に関する。前記遺伝子は、同一生物由来であっても異なる生物由来であってもよく、合成ポリヌクレオチドであってもよい。
【0043】
2つのアミノ酸配列間の関連性は、「配列同一性」というパラメーターによって説明される。本発明の目的のために、2つのアミノ酸配列間の配列同一性の程度が、好ましくはバージョン3.0.0以降のEMBOSSパッケージ(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite,Rice et al/.,2000,Trends Genet.16:276-277)のNeedleプログラムにより実行される、Needleman-Wunschアルゴリズム(Needleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48:443-453)を用いて決定される。使用される任意パラメーターは、ギャップ開始ペナルティ=10、ギャップ伸長ペナルティ=0.5、及びEBLOSUM62(BLOSUM62のEMBOSSバージョン)置換行列である。「最長の同一性」と標識されたNeedleの結果(thenobriefオプションを用いて得られる)は、同一性パーセントとして使用され、以下の通りに算出される。
(同一の残基×100)/(アラインメントの長さ-アラインメント内のギャップの総数)
【0044】
「を含む(including)」、「を含有する(containing)」、又は「を特徴とする(characterized by)」と同義である、移行語「を含む(comprising)」は、包括的又はオープンエンドであり、追加の、記載されていない要素又は方法ステップを除外しない。移行句「から成る(consisting of)」は、通常それに付随する不純物を除いて、クレームに明記されていない任意の要素、ステップ、又は成分を除外する。句「から成る(consisting of)」が、プリアンブルの直後ではなく、クレームのボディの節中に見られる場合、この句はその節に記載された要素のみを限定し;他の要素は全体としてクレームから除外されない。移行句「から本質的に成る(consisting essentially of)」は、請求の範囲に記載されている発明の、明記された材料又はステップ「及び基本的な新規の特徴に実質的に影響を与えないもの」にクレームの範囲を限定する。「から本質的に成る(consisting essentially of)」クレームは、「から成る(consisting of)」形式で記載される閉鎖クレームと、「を含む(comprising)」形式で作成される完全開放クレームの中間を占める。
【0045】
「アフィニティ樹脂」とは、本明細書で使用される場合、特定のタンパク質に対して親和性を有するクロマトグラフィー媒体である。アフィニティ樹脂は、マトリックス及びあるタンパク質に親和性を有するリガンドを少なくとも含む。
【0046】
「マトリックス」とは、本明細書で使用される場合、特異的なリガンドが共有結合により結合した、通常はビーズ形態の物質である。本発明におけるマトリックスは、以下のようなものでありはずである。
処理過程で使用される溶媒及び緩衝液に不溶性;
化学的及び機械的に安定;且つ、
リガンド又はリガンドが結合可能なスペーサーアームへの結合が容易。
さらに、本発明におけるマトリックスは、良好な流動性を示し、且つ、結合のための比較的大きな表面積を有するはずである。マトリックスはアガロース製、ガラス製、セルロース製、又はポリアクリルイミド製であることが好ましい。ある実施形態において、マトリックスは高度架橋アガロースである。
【0047】
実施例で示されるように、VIIISelectにより、vWFタンパク質及び/又はFVIII/vWF複合体の存在下での効率的なFVIII結合が可能になる。VIIISelectは高度架橋されたアガロース系マトリックスをベースとしている。このアガロース系マトリックスは、FVIIIの軽鎖に特異的に結合する13kDaのFab断片と結合する。この13kDaのFab断片は、親水性スペーサーを介してアガロース系マトリックスに連結されている。よって、本発明におけるリガンドは好ましくは組換えポリペプチドである。ある実施形態では、リガンドのサイズは2~50kDaの範囲内である。ポリペプチドリガンドの分子量は、好ましくは5~30kDaの範囲内であり、より好ましくは10~20kDaの範囲内である。30kDaを超えるサイズは、FVIII軽鎖上のvWFの存在により、立体障害を引き起こす可能性がある。5kDa未満の分子量は、標的分子への結合特異性が低くなるという欠点があり得る。
【0048】
好ましい実施形態では、ポリペプチドは抗体Fab断片である。Fabは抗体の抗原結合性断片である。抗体及び抗体断片はそれらの結合標的、すなわち抗原に対して、特に高い結合親和性を示す。したがって、Fab断片はFVIIIを分離するための好ましいリガンドである。ポリペプチド、特にFab断片は、非動物供給源において産生された組換えポリペプチドであることが好ましい。非動物供給源における産生には、患者にとって問題となり得るウイルス又は他の毒素の存在リスクを最小限にするという利点がある。好ましい実施形態では、リガンドは酵母細胞で産生された組換えポリペプチドである。
【0049】
ある実施形態において、リガンドはスペーサーを介して樹脂に結合している。本発明におけるスペーサーアームは、リガンドがFVIII軽鎖に結合する確率を向上させるように選択される。特に、このスペーサーは、マトリックスによるリガンドとFVIII軽鎖との間の結合の立体障害を低減させる長さを有するべきである。好ましい実施形態では、スペーサーは以下の構造によって表される。
【0050】
【化1】
【0051】
ある実施形態によれば、スペーサーは親水性化合物である。マトリックスは多孔質ビーズの形態であることが好ましい。好ましい実施形態では、樹脂に結合したリガンドはVIIISelectと定義される。VIIISelectは、GE Healthcare社から市販されているアフィニティ精製用樹脂である(データファイル28-9662-37AB、GE Healthcare社)。その容量は通常20000IU/mlゲルである。VIIISelectの長期間のpH安定性はpH3~10で得られるが、pH2~12では短期間の安定性が得られ、この短期間の安定性は、VIIISelectアフィニティ樹脂上での反復的な精製の実行を可能にするためのアフィニティ樹脂の再生に使用され得る。
【0052】
アフィニティ樹脂は、種々の緩衝液の適用により、第1の組成物を接触させる前に調製されることが好ましい。平衡のために、アフィニティ樹脂は、緩衝液再生用緩衝液、洗浄用緩衝液、溶出用緩衝液、及び/又は平衡用緩衝液のうちの1種又は複数種で処理されることが好ましい。
【0053】
アフィニティ樹脂は洗浄用緩衝液で処理された後に平衡用緩衝液で処理されてもよい。特に、未使用のアフィニティ樹脂をこのように処理してよい。使用済みのアフィニティ樹脂は、好ましくは、溶出用緩衝液、再生用緩衝液、及び平衡用緩衝液の順番で処理してもよい。
【0054】
再生用緩衝液は、好ましくはHAcを含み、より好ましくは0.1Mの濃度のHAcを含む。洗浄用緩衝液は、好ましくはNaClを含み、より好ましくは0.5~1Mの濃度のNaClを含む。洗浄用緩衝液中のCaCl濃度は最大でも50mMであることが好ましい。洗浄用緩衝液は、FVIII欠乏血漿を作製する際は、カルシウム、特にCaClを含有しないことがより好ましい。溶出用緩衝液は、50%エチレングリコール又は50%プロピレングリコール又は2M MgClを含むことが好ましい。pHは、好ましくは6.2~6.8の範囲内であり、より好ましくは6.4~6.6の範囲内である。溶出用緩衝液中のCaCl濃度は最大でも50mMとすることが好ましい。平衡用緩衝液はNaCl及びクエン酸ナトリウムを含むことが好ましい。平衡用緩衝液中のCaCl濃度は最大でも50mMであることが好ましい。平衡用緩衝液は、FVIII欠乏血漿を作製する際は、カルシウム、特にCaClを含有しないことがより好ましい。全ての緩衝液は、イミダゾール、ヒスチジン、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、Tris、HEPES、グリシン、NaCl、及びTween80をさらに含有し得る。平衡用緩衝液は、30g/kgのNaCl及び6.0g/kgのクエン酸ナトリウムを含み、pH6.4~6.6であることがより好ましい。アフィニティ樹脂はエタノール、好ましくは20%エタノール中で保存されることが好ましい。
【0055】
本発明における分離ステップは、カラムで連続的に行ってもよく、又はバッチ形式で行ってもよい。実施例で示される通り、バッチ式分離及びアフィニティクロマトグラフィーの両方により、試料からFVIIIが分離される。
【0056】
しかしながら、連続的カラムクロマトグラフィを用いた場合、より短い時間で同等又はさらに良好な分離結果が得られた。したがって、好ましい実施形態では、分離は連続的に、すなわちカラムクロマトグラフィの形式で実行される。
【0057】
ある実施形態では、樹脂に結合したリガンドがカラム内に設けられ、第1の組成物と接触させるための樹脂層(resin bed)が形成される。ある実施形態では、樹脂層高(bed height)は少なくとも2cmである。樹脂層高が2cm未満の場合、接触時間/流速が小さくなって処理時間が長くなり、その結果、時間単位当たりの樹脂に結合したリガンドの結合能が低くなり過ぎることがある。アフィニティ樹脂の樹脂層高は、好ましくは少なくとも5cm以上であり、又はより好ましくは少なくとも10cm、特に少なくとも20cmである。樹脂層高が高くなるほど、同一流速での接触時間が長くなり、時間単位当たりの結合能が高くなる。しかし、このビーズ高さ(bead height)では背圧も増加してしまう。したがって、ビーズ高さは背圧が最大でも0.3MPaを超えないように選択されることが好ましい。背圧が0.3MPaを超えるとカラム材の崩壊することがある。
【0058】
一般的にアフィニティクロマトグラフィーには、処理ステップの時間が最小限となることから、速い流速が好ましい。しかし、実施例で示されるように、流速は分離効率に大きな影響を与える。カラムクロマトグラフィにおいて、第1の組成物の流速と改変された第1の組成物の流速は同一である。第1の組成物は出発材料であり、特にFVIII及びvWFを含む血液製剤を含む。改変された第1の組成物は、第1の組成物をアフィニティ樹脂と接触させた後に得られるアフィニティクロマトグラフィーのフロースルーである。
【0059】
ある実施形態では、第1の組成物の流速は30cm/時以下である。カラム内の流速は、カラム内の移動相の流速(cm/時)と等しい、体積流量(L/時)によって決定される。その関係は下記式により定義される。
体積流速(L/h)=流速(cm/h)×カラム断面積(cm)÷1000
【0060】
30cm/時以下の流速により、第1の組成物からFVIIIが分離される。15cm/時以下の流速では、第3の組成物中のFVIII濃度が強く減少する。したがって、ある実施形態では、流速は15cm/時以下である。血漿からのFVIIIの完全な除去のためには、実施例で示されるように、10cm/時以下の流速が必要となる。このことから、ある実施形態では、流速は10cm/時以下である。さらなる実施形態では、流速は7.5cm/時以下である。
【0061】
ある実施形態では、第1の組成物中のFVIIIタンパク質の濃度は1IU/mL以下である。実施例で示されるように、FVIII、特にFVIII/vWF複合体の分離効率は、第1の組成物中、特に血液製剤中のFVIIIの濃度に依存し得る。実験から、この組成物中のFVIIIの濃度は1IU/mL以下であってもよいことが示されている。1IU/mLの濃度は、健常人の正常な血液中FVIII濃度である。ある実施形態では、FVIIIタンパク質及び第1の組成物の別の濃度は0.7IU/mL以下である。ある実施形態では、濃度は0.4IU/mL以下である。第1の組成物からのFVIIIの完全な除去のためには、第1の組成物中のFVIIIタンパク質の濃度は0.2IU/mL以下とすることが好ましい。完全な除去とは、0.01IU/mL未満の濃度と定義される。濃度が0.01IU/mL未満である血漿を「FVIII欠乏血漿」という。
【0062】
試料中のFVIIIタンパク質の濃度は、体積当たりのFVIII活性として与えられる。
【0063】
実施例で示されるように、アフィニティ樹脂の体積に対する第1の組成物の体積の比は、第1の組成物からのFVIIIタンパク質の分離効率に影響する。アフィニティ樹脂の体積は、樹脂の液体環境を、例えば樹脂を保持する濾過膜を通じた吸引によって取り除き、残りの樹脂体積を測定することにより決定される。一般的に、特にアガロース系マトリックスをベースとした樹脂においては、アフィニティ樹脂の密度は約1g/mlある。したがって、アフィニティ樹脂の体積はアフィニティ樹脂中のマトリックスの量に比例し、すなわちマトリックスに結合したリガンドに比例する。ある実施形態では、アフィニティ樹脂の体積に対するは第1の組成物の体積は、5:1~100:1の範囲内である。濃度が100:1であると、アフィニティ樹脂の最大充填量を超える可能性があり、それによって、第1の組成物からのFVIIIタンパク質の分離効率が低減する。濃度が5:1を下回ると、アフィニティ樹脂の量に対してごく少量の産物しか一度に生産できないために、分離手順が時間的且つコスト的に非効率なものとなる。
【0064】
アフィニティ樹脂の体積に対する第1の組成物の体積の比は、10:1~70:1の範囲内であることが好ましい。このことから、ある実施形態では、アフィニティ樹脂の体積に対する第1の組成物の体積の比は、10:1~50:1の範囲内である。実施例によれば、特に、第1の組成物において効率的なFVIIIの減少を達成するためには、50:1の所定の実験設定濃度を超えてはならないことが示されている。
【0065】
実験で得られた実験データから、選択された実験設定において、FVIII欠乏血漿の十分な収率を得るためには、アフィニティ樹脂の体積に対する第1の組成物の比は20:1~40:1の範囲内であるべきことが示されている。したがって、好ましい実施形態では、アフィニティ樹脂の体積に対する第1の組成物の体積の比は、20:1~40:1の範囲内である。
【0066】
本発明者らはさらに、接触時間が分離方法の効率に対するパラメーターであることを特定した。このことは、バッチ式分離方法と連続式分離方法の両方において見出された。連続式分離において、接触時間は、流速、及びサイズ、特にカラムの長さ、カラムの直径、すなわちアフィニティ樹脂ビーズの体積に依存する。第1の組成物中のFVIII/vWF複合体の有意な減少を達成するためには、第1の組成物と親和性作用物質との接触時間は、少なくとも5分間である。ある実施形態では、第1の組成物と親和性作用物質との接触時間は少なくとも10分間である。血漿からFVIII/vWF複合体を除去、すなわち、0.01IU/mL未満のFVIII濃度を得るためには、接触時間は少なくとも20分間であるべきである。好ましくは、接触時間は少なくとも30分間ある。
【0067】
例えば波板(wave board)を用いておよそ10~50波/分の回数で、又は他の類似の混合用デバイスを用いて、連続的に穏やかに混合しながらバッチ式で分離実行される場合、少なくとも4時間の接触時間により、第1の組成物中のFVIIIが有意に減少する。ある実施形態では、分離はバッチ式で実行され、第1の組成物とアフィニティ樹脂との接触時間は少なくとも12時間である。より好ましくは、接触時間は少なくとも24時間である。接触時間が24時間であると、FVIII活性を0.01IU/mL以下の濃度まで減少させることが可能であった。
【0068】
ある実施形態では、第1の組成物中のvWFタンパク質のモノマー/マルチマーの数は、FVIIIタンパク質のモノマーの数よりも多い。したがって、たとえFVIIIが第1の組成物から完全に除去されたとしても、FVIII除去後もvWFの主要部分が第1の組成物中に残ることになる。しかし、除去されたFVIIIはいまだいくらかのvWF分子と結合するはずであるが、FVIIIとvWFの初期濃度の差が大きい(通常、ヒト血液中ではFVIIIに対するvWFの比は約50:1)ために、第1の組成物中のvWFの減少はそれほど大きくはない。
【0069】
ある実施形態では、FVIIIタンパク質に対するvWFタンパク質の比は少なくとも1:5である。FVIIIタンパク質に対するvWFタンパク質の比は少なくとも10:1であることが好ましい。FVIIIタンパク質に対する第1の組成物中のvWFタンパク質の比は少なくとも20:1であることがより好ましい。ある実施形態では、FVIIIタンパク質に対するvWFタンパク質モノマーの比は少なくとも50:1である。vWFは通常、ヒト血液中ではマルチマーの形態で存在する。したがって、1つのFVIIIタンパク質が2つ以上のvWFに結合している場合がある。したがって、血液製剤からFVIIIを除去しつつ十分な量のvWFを維持するためには、FVIIIタンパク質に対するvWFタンパク質の比を高くする必要がある。
【0070】
実施例で示されるように、FVIIIに対するリガンドの結合効率、すなわち、アフィニティ精製後の改変された第1の組成物、すなわち改変された血漿中のFVIII活性の低下は、より高い温度で向上する。したがって、第1の組成物及びアフィニティ樹脂の接触ステップの間の温度は4℃超であることが好ましい。温度は15℃超であることがより好ましい。示されているように、第1の組成物からのFVIIIの分離において、20~25℃の範囲内の温度によって良好な結果が得られた。安定性を考慮して、温度は37℃を超えないことが好ましい。本方法のある実施形態では、接触ステップにおける温度は20℃超である。
【0071】
ある実施形態では、第1の組成物は血液製剤を含む。第1の組成物は血液製剤からなっていてもよい。血液製剤は全血又は血液製剤、血漿又は血清から選択できる。好ましい実施形態では、血液製剤はヒト血液製剤である。ある実施形態では、第1の組成物は緩衝液をさらに含む。緩衝物質は、HEPES、MES、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、並びにヒスチジン、リジン、及びアルギニンから選択され得る。緩衝液は特に6~8のpH範囲内の緩衝液である。ある実施形態では、緩衝液はHEPESである。HEPESは、例えば、第1の組成物中に、第1の組成物の総体積に対して、0.001g/mL~0.1g/mLの範囲内、好ましくは0.005g/mL~0.05g/mLの範囲内、より好ましくは約0.01g/mLの濃度で、pH6.5~7.5で、存在し得る。
【0072】
ある実施形態では、血液製剤は血漿、特にヒトの血漿である。血漿は事前処理した血漿又はウイルスを不活性化した血漿であってもよい。事前処理した血漿としては、クリオ沈殿物及びクリオ上清が挙げられる。クリオ上清及びクリオ沈殿物は、好ましくは、新鮮血漿を凍結し、それを約0℃の温度で解凍して沈殿を引き起こすことによって得られる。沈殿物がクリオ沈殿物であり、上清がクリオ上清と称される。血漿はクリオ上清であることが最も好ましい。
【0073】
ウイルス不活性化血漿は、特に、化学的にウイルスを不活性化した血漿である。ウイルス不活性化血漿の例としては、「Octaplas(商標)」の商品名で販売される血漿が挙げられる。
【0074】
本発明による分離方法は、ヒト血液中又はヒト血漿中のFVIIIの濃度を変化させるため、特に血漿からFVIIIを除去するためだけではなく、組換え複合体の精製ステップとして使用されてもよい。したがって、別の実施形態では、FVIIIタンパク質又はvWFタンパク質は組換えにより発現されたタンパク質である。好ましい実施形態では、FVIIIタンパク質及びvWFタンパク質は共に組換えにより発現されたタンパク質である。組換え発現の場合、vWFタンパク質は特に、ヒトvWFの特定のサブドメインであってもよい。vWFのサブドメインは、P04275-1の764~1035番目のアミノ酸によって定義されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、99%、又は100%の配列相同性を有するアミノ酸配列を有することが好ましい。配列相同性は少なくとも95%であることが好ましい。
【0075】
第1の態様による分離方法は、特に、改変された血液製剤、特にFVIII欠乏血液製剤を作製するために使用される。したがって、第2の態様において、本発明は、改変された血液製剤を作製するための方法であって、
血液製剤を含む第1の組成物を準備するステップ、
第1の態様の分離方法を実行するステップ、及び
改変された血液製剤を収集するステップ
を含む方法を提供する。
【0076】
これに関して、血液製剤は血漿であることが好ましいため、改変された血液製剤は改変された血漿であることが好ましい。改変された血液製剤は、FVIII欠乏血液製剤、特にFVIII欠乏血漿であることがより好ましい。
【0077】
改変された血漿、特にFVIII欠乏血漿を得るために、第2の態様による方法を、血漿の作製とそのまま組み合わせることができる。したがって、第2の態様のある実施形態は、本方法は、
全血試料を準備するステップ、
全血から血液細胞を遠心分離及び/又は濾過で除去して血漿を得るステップ、
血漿を凍結するステップ
所望により、凍結された血漿を貯蔵するステップ、
凍結された血漿を約0℃まで解凍してタンパク質沈殿を引き起こすステップ、
凍結された血漿からタンパク質沈殿物を遠心分離及び/又は濾過で除去して、クリオ沈殿血漿を得るステップ、及び、
所望により、本方法の次のステップの前に、クリオ上清を凍結、貯蔵、及び解凍するステップ
のうちの1つ又は複数を含む。
【0078】
別の実施形態では、第2の態様の方法は、
全血試料を準備するステップ、
全血から血液細胞を遠心分離及び/又は濾過で除去して血漿を得るステップ、
血漿を凍結するステップ、
所望により、凍結された血漿を貯蔵するステップ、
凍結された血漿を約0℃まで解凍してタンパク質沈殿を引き起こすステップ、
凍結された血漿からタンパク質沈殿物を遠心分離及び/又は濾過で除去して、クリオ上清を得るステップ、及び、
所望により、本方法の次のステップの前に、クリオ上清を凍結、貯蔵、及び解凍するステップ
の全てをさらに含む。
【0079】
ある実施形態では、前記方法は、
全血試料を準備するステップ、
全血から血液細胞を遠心分離及び/又は濾過で除去して血漿を得るステップ、
血漿を凍結するステップ、
所望により、凍結された血漿を貯蔵するステップ、
凍結された血漿を約10~25℃の範囲内の温度まで解凍するステップ、
化学的処理を実行して化学的に処理された血漿を得るステップ、
特に油注出及び疎水性相互作用クロマトグラフィーによってウイルス不活性化化学物質を除去して、ウイルス不活性化血漿を得るステップ、及び、
所望により、本方法の次のステップの前に、ウイルス不活性化血漿を凍結、貯蔵、及び解凍するステップ
のうちの1つ又は複数を含む。
【0080】
ある実施形態では、前記方法は、
全血試料を準備するステップ、
全血から血液細胞を遠心分離及び/又は濾過で除去して血漿を得るステップ、
血漿を凍結するステップ、
所望により、凍結された血漿を貯蔵するステップ、
凍結された血漿を約10~25℃の範囲内の温度まで解凍するステップ、
化学的処理を実行して化学的に処理された血漿を得るステップ、
特に油注出及び疎水性相互作用クロマトグラフィーによってウイルス不活性化化学物質を除去して、ウイルス不活性化血漿を得るステップ、
所望により、本方法の次のステップの前に、ウイルス不活性化血漿を凍結、貯蔵、及び解凍するステップ
の全てを含む。
【0081】
前記化学的処理は、好ましくは、1%TNBP及び1%Triton X-100を添加し、少なくとも30分間穏やかに撹拌することによって行われる。
【0082】
ある特定の用途において、外来性vWFタンパク質を血液製剤、特に血漿に添加することは有益であり得る。本発明における外来性vWFは、血液製剤から得られたものではないvWFである。外来性vWFは血漿由来vWF又は組換えvWFであり得る。vWFを血液製剤に添加するステップはスパイキング(spiking)と呼ばれる。vWFのスパイキングは、改変された血漿中のvWF濃度を自然値に回復させるために必要となる場合があり、このステップにおいて、FVIIIは0.01IU/mL未満の濃度にまで、そして血漿中のvWFが、共に有意に除去される。
【0083】
第2の態様による方法を用いて、FVIIIレベルが非常に低下した改変された血漿を作製することが可能である。ある実施形態では、第2の態様による方法で得られた改変された血漿は、健常ドナー血漿の平均FVIII濃度の4%未満のFVIII濃度を有する。健常ドナー血漿は通常、約1IU/mLのFVIIIの濃度を有する。いくつかの適用では、FVIII濃度がさらに低い血漿を準備することが望ましい場合がある。したがって、ある実施形態では、FVIII濃度は健常ドナー血漿の平均FVIII濃度の3%未満である。さらなる実施形態では、FVIII濃度は健常ドナー血漿の平均FVIII濃度の2%未満である。上記で定義された通り、改変された血漿は、健常ドナーの濃度の1%未満、すなわち約0.01IU/mL未満を含有する場合、FVIII欠乏と定義される。
【0084】
血液、特にヒト血液、さらにはその血液から得られた血漿も、FVIIIより多くの量のvWFを含有するため、vWFが完全に除去されることはない。例えば、改変された血漿は、血漿由来FVIII試料又は組換えFVIII試料の試験に使用されてもよい。このために、血漿はFVIIIに加えて全ての凝固因子を含有していなければならず、特に、改変された血液製剤には十分な濃度のvWFが含有される。vWFの濃度は健常ヒトドナー血漿の平均vWF濃度の少なくとも20%であることが好ましい。vWFの濃度は健常ヒトドナー血漿の平均vWF濃度の少なくとも30%であることがより好ましい。改変された血漿中のvWF濃度は、健常ヒトドナー血漿の平均vWF濃度の少なくとも40%であってもよい。好ましい実施形態では、vWFの濃度は、健常ヒトドナー血漿の平均vWF濃度の少なくとも50%である。健常ヒトドナーの濃度の50%の濃度であれば、vWF濃度はFVIII試験に十分であるはずである。
【0085】
しかし、様々な理由により、例えば、FVIII解析時の、FVIII産物にとっての安定環境(stability environment)の増大のために、及び/又は、より多量のvWFを必要とする種々の特定療法での改変された血漿の使用のために、改変された血漿中においてより高濃度のvWFが必要とされることがある。そのため、改変された血漿に、外来性vWF、組換えvWF、又は血漿由来vWFをスパイクすることによって、vWF濃度が健常ヒトドナー血漿の平均vWF濃度の、少なくとも75%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、特に少なくとも約100%までの、改変された血漿を得ることができる。血漿を、FVIIIを検出するための分析法で、及び特定療法のために使用するために、FVIII濃度は、特に、0.01IU/mL未満、すなわち、健常ヒトドナー血漿のFVIII濃度の1%未満であり、vWF濃度は健常ヒトドナー血漿のvWF濃度の少なくとも90%である。改変された血漿、特にFVIIIの量が減少した血漿を作製するための第2の態様による方法は、改変された血漿中のフィブリノーゲンの有意な減少をもたらさないことが好ましい。
【0086】
第3の態様による改変された血漿のある実施形態において、フィブリノーゲン濃度は、改変された血漿の体積に対して、少なくとも1g/mlであり、好ましくは少なくとも1.3g/ml、より好ましくは1.5g/mlである。改変された血漿のFX活性は、好ましくは少なくとも0.5IU/mL、より好ましくは0.9~1.1IU/mLの範囲内である。好ましくは、改変された血漿は低いアミド分解活性を有するべきである。アミド分解活性は、例えば、プロテアーゼ基質S-2288又はS-2366に基づくものであり得る。S-2288基質に基づくアミド分解活性は、実施例4に示されるように測定される。実施例4に示される測定法に基づくと、S-2288に対するアミド分解活性は、好ましくは1mOD/分以下、より好ましくは0.5mOD/分以下、特に好ましくは0.2mOD/分以下である。さらに、実施例4に示される測定法に基づくと、S-2366に対するアミド分解活性は、0.5mOD/分以下、好ましくは0.2mOD/分以下、より好ましくは0.1mOD/分以下である。
【0087】
前述の通り、第3の態様による改変された血漿にはいくつかの用途がある。特に、改変された血漿は治療に使用することができる。これより、第4の態様において、本発明は治療用の改変された血漿を提供する。改変された血漿の用途の例としては、凝固活性の低下を必要とする障害の治療が挙げられる。凝固活性の低下を必要とするのは、特に、播種性血管内凝固症候群(DIC)の場合の状況であり得る。DICは、全身の小血管内での血餅形成をもたらす、広範な凝固カスケード活性化を特徴とする病的過程である。これは組織血流障害に繋がり、最終的には複数の臓器障害を引き起こし得る。FVIII欠乏血漿の投与によりFVIIIが希釈され、アンチトロンビン、プロテインC、プロテインSなどのプロテアーゼ阻害剤が添加され、これらは抗炎症作用も有し得るため、凝固活性の低下と併せて、身体がより良好にDIC状態を制御可能となる。
【0088】
敗血症は多くの場合、DICの前段階である。すなわち、場合によっては、DICを発症するリスクをさらに模倣(mimic)するという予防的な理由で、敗血症の治療時に、FVIII濃度を希釈して、新たな量のプロテアーゼ阻害剤/抗炎症性物質を添加することが有益であり得る。
【0089】
あるいは、FVIIIの濃度が減少した改変された血漿は、分析方法において、試料中のFVIIIの濃度及び/又は活性を試験するために使用され得る。すなわち、第5の実施形態において、本発明は、試料中のFVIIIの濃度及び/又は活性を試験するための、第3の実施形態による改変された血漿の使用を提供する。完全長FVIII及びその機能的誘導体において、活性は、濃度の直接的尺度であり、通常、濃度を決定するために一使用される。FVIIIの活性及び濃度は以下のように関連している:1IU/mLは0.1μg/mLのBドメイン欠失型FVIII濃度に相当し、完全長FVIIIに対しては約2倍高い。
【0090】
本発明による方法は、試料中のFVIIIを除去又はその濃度を減少させることが可能であるだけではない。示されているように、軽鎖に対するFVIII親和性を用いる例は、FVIIIタンパク質及びvWFタンパク質の複合体にも結合する。
【0091】
すなわち、第6の態様において、本発明は、FVIIIタンパク質、vWFタンパク質、又はFVIIIタンパク質とvWFタンパク質との複合体を精製及び/又は濃縮する方法であって、
vWFのFVIII結合ドメインを少なくとも含むvWF、及びタンパク質FVIIIの軽鎖を少なくとも含み、前記vWFタンパク質と複合体を形成し得るFVIIIタンパク質を含む第1の組成物を準備するステップ、
第1の態様の分離方法を行うステップ、
所望により、前記第2の組成物に少なくとも1回の洗浄ステップを適用するステップであって、前記第2の組成物が、前記アフィニティ樹脂、及び前記FVIIIタンパク質と前記vWFタンパク質との複合体を含有する前記ステップ、及び、
所望により、vWFを含む第3組成物を溶出、特にCaClを含む溶出用緩衝液で溶出するステップ、並びに
FVIIIタンパク質とvWFタンパク質との複合体又はFVIIIタンパク質のみを含む第4の組成物を前記アフィニティ樹脂から溶出するステップ
を含む方法を提供する。
【0092】
したがって、第6の態様のある実施形態では、本発明は、FVIIIタンパク質とvWFタンパク質との複合体を精製及び/又は濃縮する方法であって、
vWFのFVIII結合ドメインを少なくとも含むvWFタンパク質、及びFVIIIの軽鎖を少なくとも含み、前記vWFタンパク質と複合体を形成し得るFVIIIタンパク質を含む第1の組成物を準備するステップ、
第1の態様の分離方法を行うステップ、
所望により、前記第2の組成物に少なくとも1回の洗浄ステップを適用するステップであって、前記第2の組成物が、前記アフィニティ樹脂、及び前記FVIIIタンパク質と前記vWFタンパク質との複合体を含有する前記ステップ、及び、
FVIIIタンパク質とvWFタンパク質との複合体を含む第4の組成物を前記アフィニティ樹脂から溶出するステップ
を含む。
【0093】
すなわち、第6の態様の実施形態では、本発明は、FVIIIタンパク質を精製及び/又は濃縮する方法であって、
vWFのFVIII結合ドメインを少なくとも含むvWFタンパク質、及びFVIIIの軽鎖を少なくとも含み、前記vWFタンパク質と複合体を形成し得るFVIIIタンパク質を含む第1の組成物を準備するステップ、
第1の態様の分離方法を行うステップ、
所望により、前記第2の組成物に少なくとも1回の洗浄ステップを適用するステップであって、前記第2の組成物が、前記アフィニティ樹脂、及び前記FVIIIタンパク質と前記vWFタンパク質との複合体を含有する前記ステップ、
vWFタンパク質を含む第4の組成物を前記アフィニティ樹脂から溶出するステップ、及び、
FVIIIタンパク質を含む第5の組成物を前記アフィニティ樹脂から溶出するステップ
を含む。
【0094】
ある実施形態では、第1の組成物を平衡用緩衝液と接触させる前に、アフィニティ樹脂が平衡化される。平衡用緩衝液は、イミダゾール、ヒスチジン、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、Tris、HEPES、グリシン、NaCl、及びTween80から選択されることが好ましい。好ましくは、平衡用緩衝液のpHは6.9~7.8の範囲内であり、好ましくは7.2~7.6の範囲内である。ある実施形態では、イミダゾールの濃度は約10mMであり、グリシンの濃度は約0.5~1%であり、NaClの濃度は約0.1Mであり、Tweenの濃度は約0.02%である。pHは約7.4であることが好ましい。平衡用緩衝液中のCaCl濃度は最大でも50mMとすることが好ましい。平衡用緩衝液はカルシウム、特にCaClを含有しないことがより好ましい。
【0095】
洗浄ステップは洗浄用緩衝液を用いて実行されることが好ましい。洗浄用緩衝液は、イミダゾール、ヒスチジン、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、Tris、HEPES、グリシン、NaCl、及びTween80から選択されることが好ましい。好ましくは、平衡用緩衝液のpHは6.0~7.5の範囲内であり、6.3~6.7の範囲内であることが好ましい。ある実施形態では、イミダゾールの濃度は約10~20mMであり、グリシンの濃度は約0.5~1%であり、NaClの濃度は約0.4~1.0Mであり、Tweenの濃度は約0.02%である。pHは約6.5であることが好ましい。洗浄用緩衝液中のCaCl濃度は最大でも50mMとすることが好ましい。洗浄用緩衝液はカルシウム、特にCaClを含有しないことがより好ましい。
【0096】
アフィニティ樹脂と結合した複合体からvWFタンパク質を溶離させるためには、FVIIIタンパク質とvWFタンパク質との結合を遮断する必要がある。この分離は、アフィニティ樹脂と結合した複合体を充填されたカラムを通して、アフィニティ樹脂と結合した複合体を、カルシウムイオンを含む溶液(例えば0~0.5M CaClの勾配)と接触させ、カラムの出口において280nmでの吸光度により検出されるvWFタンパク質ピークを収集することによって行われることが好ましい。あるいは、アフィニティ樹脂からのvWFタンパク質の溶出は、CaCl濃度の段階的な増加によって行うことができ、好ましくは0.15M CaCl、より好ましくは0.25M CaClでありおよそ0.5M CaCl以下である。vWF分離ステップのpHは6~8の範囲内であり、好ましくは7.4である。
【0097】
ある実施形態では、vWFはvWF溶出用緩衝液で溶出される。vWF溶出用緩衝液は、イミダゾール、ヒスチジン、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、Tris、HEPES、グリシン、NaCl、及びTween80から選択されることが好ましい。溶出用緩衝液において、好ましくは、イミダゾールの濃度は約10mMであり、グリシンの濃度は約0.5~1%であり、NaClの濃度は約0.4Mであり、CaClの濃度は約0.25Mであり、Tweenの濃度は約0.02%である。最初の簡易アプライの後にアフィニティ樹脂に結合していない画分をFVIII欠乏血漿などとして使用することを意図していない場合、通常vWF溶出用緩衝液に添加される0.25M CaClが、出発材料及び/又は平衡用緩衝液に添加されることで、FVIIIとvWFとの間の相互作用が阻害され、それによって、FVIIIのみをアフィニティ樹脂に結合させることができる。
【0098】
第2ステップでvWFを除去及び溶出させた後に、FVIIIタンパク質を溶出してもよい。第6の態様の別の実施形態では、アルコール、特にエチレングリコールを、好ましくは濃度50%、pH6~8で含む、第2の溶出用緩衝液中でアフィニティ樹脂を接触させることで、FVIIIを含む第5の組成物が溶出される。これに関して、前記アフィニティ樹脂はVIIISelectであることが好ましい。
【0099】
vWFのみを濃縮/精製する場合、前記方法は、最後のFVIIIの溶出無しで行われる。すなわち、第6の態様のある実施形態では、前記方法は、FVIIIタンパク質を精製及び/又は濃縮するための方法であって、
vWFのFVIII結合ドメインを少なくとも含むvWFタンパク質、及びFVIIIの軽鎖を少なくとも含み、前記vWFタンパク質と複合体を形成し得るFVIIIタンパク質を含む第1の組成物を準備するステップ、
第1の態様の分離方法を行うステップ、
所望により、前記第2の組成物に少なくとも1回の洗浄ステップを適用するステップであって、前記第2の組成物が、前記アフィニティ樹脂、及び前記FVIIIタンパク質と前記vWFタンパク質との複合体を含有する前記ステップ、及び、
vWFタンパク質を含む第4の組成物を前記アフィニティ樹脂から溶出するステップ
を含む。
【0100】
第6の態様による精製法及び/又は濃縮法の使用によれば、FVIIIタンパク質、vWFタンパク質、又はFVIIIタンパク質とvWFタンパク質との複合体を含む組成物が得られる。すなわち、第7の態様によれば、本発明は、FVIIIタンパク質とvWFタンパク質との複合体、又は精製されたFVIIIタンパク質、又は精製されたvWFタンパク質を含む組成物を提供する。すなわち、ある実施形態によれば、前記組成物は、FVIIIとWFタンパク質との複合体を含む。別の実施形態によれば、第6の態様の前記組成物は精製されたFVIIIタンパク質を含む。他の実施形態によれば、第6の態様の前記組成物は精製されたvWFタンパク質を含む。精製されたvWFは、FVIII欠乏血漿、特に本発明の方法によって得られるFVIII欠乏血漿への添加に使用することができる
【0101】
前記精製されたFVIIIタンパク質、又は精製されたvWFタンパク質、又はFVIIIタンパク質とvWFタンパク質との複合体は、治療に使用されてもよい。
【0102】
すなわち、第7の態様によれば、本発明は、治療に使用される第6の態様の組成物を提供する。特に、前記組成物は、凝固活性の増大を必要とする出血性障害の治療用に提供される。そのような出血性障害の例には、血友病A患者及び/又はvWF欠失患者の種々の症状がある。
【0103】
出血性障害の治療は、特に、前記組成物の皮下適用又は静脈内適用を含み得る。
【0104】
本発明は以下の実施例によってさらに明確となる。
【実施例
【0105】
実施例で使用された材料
【0106】
【表1】
【0107】
実施例1:VIIISelect樹脂を用いた種々の血液製剤からのFVIIIのバッチ式分離
1.1.概要
VIIISelectは、少なくとも25000IU FVIII/mLの期待結合能を有する市販のゲルである。VIIISelectは、組換えβドメイン欠失型第VIII因子の精製用に設計されたアフィニティ樹脂である。
【0108】
3種の異なる出発材料である、血漿、Octaplas(商標)SD、及びクリオ上清を試験した。
【0109】
血漿及びクリオ上清は、血漿25mL当たり0.25gのHEPESを添加し、pHを6.9~7.5にすることで緩衝化した。製造ステップで既に緩衝化されているため、Octaplas(商標)にはHepesを添加しなかった。Octaplas(商標)は、最終産物中で約2~7.5mmol/Lとなる血漿1kg当たり0.39gのリン酸二水素ナトリウム二水和物、及び血漿1kg当たり5gのグリシンを含有し、pHは6.9~7.4である。
【0110】
1.2.バッチ吸着試験
下記の緩衝液を用いてVIIISelect樹脂を準備した:
【0111】
【表2】
【0112】
未使用ゲルを緩衝液2で処理した後に、緩衝液4で処理した。使用済みゲルを、溶出用緩衝液、再生用緩衝液、洗浄用緩衝液、及び平衡用緩衝液(緩衝液3、1、2、及び4)で処理した後に使用した。ゲルは全て20%エタノール中に保存した。
【0113】
50mLの各緩衝液で3回、2~20gのアフィニティ樹脂を処理した。各々の処理では、緩衝液を樹脂に添加し、穏やかに撹拌しながらアフィニティ樹脂と共に1時間インキュベートした。室温での遠心分離を用いて、血液製剤からアフィニティ樹脂を分離した。以下の組み合わせについて調べ、種々の時点で試料を採取してFVIII結合を追跡した。
【0114】
【表3】
【0115】
3種の血液製剤は全て、試料採取時に遠心分離を用いてゲルから分離された。
【0116】
全ての試料由来の材料を分注凍結の前に目視検査したところ、全て光学的に透明のようであり、血塊形成の傾向もなかった。
【0117】
1.3.FVIII濃度の測定
FVIII活性の解析は、Coatest SP FVIIIキット又はCoatest SP FVIIIキット(Chromogenix社)を用い、低濃度のFVIIIをより良好に検出可能とするためにFVIII解析の低濃度域により多くの標準用希釈物を含めたこと以外は添付文書に従って、手動によるマイクロプレート上でのエンドポイント法を用いて行った。
【0118】
1.4.試料分析の結果
ゲル濃度、温度、及び時間の効果が調べられたいくつかの異なるバッチ吸着試験から、これら3つの変数のいずれかを増加させるとFVIIIの結合能が向上することが分かった。
【0119】
結果を図1図3に示す。血漿25mL当たり5gのVIIISelectを用いた場合、20~25℃、24時間のインキュベーション後、血漿の残留FVIII活性は1.4%となり、Octaplas(商標)の残留FVIII活性は3%となった。このOctaplas(商標)の残留FVIII活性は、ゲル濃度をOctaplas(商標)25mL当たり15gのVIIISelectに増加させても、全て除去することはできなかった。血漿に対し使用されたVIIISelectの最高濃度は5g/25mLであった。
【0120】
一方、クリオ上清25mLあたり1gのゲル濃度でVIIISelectゲルを用いた場合、クリオ上清中に存在する全てのFVIIIを結合させることが可能であった。結合速度は温度の上昇に伴って増加した。
【0121】
実施例2:VIIISelect樹脂を用いたカラムクロマトグラフィFVIII吸着試験
2.1.手順
実施例1と同様に、3種の異なる血液製剤を出発材料として用いた。各試験で、樹脂層高が5cmとなる、樹脂10mLの最終カラム体積まで、VIIISelect樹脂をXK16カラム(GE LifeScience社)に充填した。試料は、2種類のポンプであるP-50(0.5mL/分)及びP-1(0.01~0.05ml/分)(Pharmacia Biotech社)でカラムに添加した。安定な280nm吸光度が得られてからフロースルー物質を収集した。
【0122】
【表4】
【0123】
2.2.結果
表4は結果をまとめたものである。これらのデータから、Octaplas(商標)中のFVIIIのVIIISelectに対する結合が、使用された流量に強く依存したことは明らかである。したがって、流量を0.5mL/分から0.05mL/分に減少させた場合、残留FVIII活性が0.17IU/mLから0.03IU/mLに低下した。しかし、0.05mL/分(1.5cm/時)という流量は、試験的な大規模製造ステップで使用するには低過ぎるということには注意されたい。
【0124】
血漿をFVIII源として用い、流量0.5mL/分のみを試験したところ、結果はバッチ吸着試験に類似したものとなり、すなわち、Octaplas(商標)と比べていくらか低い残留FVIII活性が得られた(0.13IU/mL対0.17IU/mL)。
【0125】
一方、流量0.5mL/分を同様に用いた場合、クリオ上清のVIIISelectクロマトグラフィーからは、FVIII活性が完全に除去された。
【0126】
流量0.5mL/分を用いる、0.17U/mL FVIIIを含有するOctaplas(商標)の空隙プール(void pool)の再クロマトグラフィー。再クロマトグラフィーで、Octaplas(商標)の残留FVIII活性は0.08IU/mLであり、一方、初期FVIII活性が0.2IU/mLであったクリオ上清は、同一条件下でのクロマトグラフィー後にFVIII活性が検出されなかった。
【0127】
【表5】
【0128】
実施例3:実施例1及び実施例2から得られた血液製剤の詳細な分析
バッチ試験及びクロマトグラフィー試験から選択された製剤を、rhFVIII希釈剤としての適合性についてさらに試験した。
【0129】
3.1.FVIII濃度の測定
出発材料としての参照欠乏血漿及び選択された最終製剤に対して、より詳細なFVIII分析を行った。このアッセイは、低濃度域用(low range)及び高濃度域用(high range)の両方を用いて、添付文書に従って行った。SSC#4を標準として使用し、希釈剤(高濃度域)及び一定レベル(1/81)の先天性欠乏血漿を含む希釈剤(低濃度域)で希釈した。標準及び試料の両方に同量の血漿を含ませることでlike vs. like principleに従うために、且つ、試料中のFVIII活性の過大推定を避けるために、先天性欠乏血漿中に希釈した標準に対する低濃度域試料の力価を決定した。試料は2つの独立したアッセイ系列で真の二連実験として分析した。
【0130】
3.2.FVIII活性測定の結果
3種の市販のFVIII欠乏血漿を参照として使用した(Siemens、Helena、Affinity)。3種全ての参照血漿が、検出不可又は0.005IU/mL(0.5%)未満の残留FVIII活性を有していた。
【0131】
結果を表5にまとめる。
【0132】
バッチ吸着によりクリオ上清から調製された欠乏血漿は、検出不可又は0.005IU/mL未満の残留FVIII活性を有していた。VIIISelectと室温で24時間インキュベートされた血漿(5g/25mL血漿)、及びVIIISelectとインキュベートされたOctaplas(商標)(15g/25mL)は、0.012~0.014IU/mLの残留活性を有していた。クロマトグラフィーによるOctaplas(商標)からのFVIIIの除去は、0.3~1.5cm/時(0.01~0.05mL/分)という非常に遅い流速を使用した場合にのみ可能であり、その場合でも、VIIISelectを用いた際の残留活性は0.04近くあった。
【0133】
【表6】
【0134】
3.3. vWF濃度の測定
出発材料、参照欠乏血漿、並びにバッチ試験及びクロマトグラフィー試験から得られた選択された材料中のvWF濃度を、自動化されたラテックス増感イムノアッセイであるVon Willebrand Factor Antigen(Instrumentation Laboratories社)又は同法の手動版を用いて測定した。この方法を、カイネティク読取りを含む手動の方法に対して採用し、標準としてはSSC#4を使用した。標準は食塩水中に1:4~1:20に希釈し、試料は食塩水中に1:8に希釈した。各試料は、2つの独立したアッセイ系列の二連実験において、力価を決定した。
【0135】
【表7】
【0136】
3.4.vWF抗原測定の結果
表6はvWF濃度測定の結果を示している。
【0137】
【表8】
【0138】
クリオ上清及びクリオ上清から得られた欠乏血漿は低濃度のvWF抗原を含んでいた。これは、Affinity Biologicals社製の欠乏血漿も同様であった。
【0139】
バッチ吸着もカラムクロマトグラフィも、際立ったvWFの減少を引き起こさない。VIIISelectとインキュベートされた血漿(5g/25mL)は、参照欠乏血漿と比較して、より多量のvWF抗原を含んでいた(1.6IU/mLに対して1.2~1.4IU/mL)。
【0140】
3.5.フィブリノーゲン濃度の測定
フィブリノーゲン含有量を、Clauss法に基づくQ.F.A. Thrombinキット(Instrumentation Laboratories社)を用いて測定した。SSC#4を標準として使用した。最初の試験で、手動で実行する場合にはClauss法を使用できないことが判明した。Clauss法は凝固時間の記録に基づく方法であるが、標準的なClauss法を用いた凝固時間は15秒に満たず、吸光度測定を開始するまでに凝固が完了してしまった。
【0141】
Claussアッセイ
試料を1:10に希釈して体積を200μLにし、37℃で3~4分間インキュベートする。次に、100μLのトロンビン溶液(濃度100IU/mL)を加え、37℃でさらにインキュベートする。血塊形成までの時間を測定する。
【0142】
Claussアッセイの代わりに、血漿の完全凝固後の濁度又は光散乱の変化に基づく改変アッセイを使用した。
【0143】
試料を1:10に希釈して体積を250μLにする。405nmでの吸収を測定する。50uLのトロンビン溶液(濃度25IU/mL)を加える。吸光度がプラトーに達するまで405nmでの吸収を測定する。
【0144】
前記アッセイを室温で行い、各試料について、2つの独立したアッセイ系列の二連実験において、力価を決定した。
【0145】
この改変アッセイは、プロトロンビン時間法(Prothrombin time-derived method)と称される場合もあり、通常、Clauss法と非常に良好な相関性を示す(ECAT Assay Procedures 2012, Palareti G et al. Clin Chem 1991, Rossi E et al. Thromb Res 1988を参照)。
【0146】
3.6.フィブリノーゲン測定の結果
フィブリノーゲンに関する結果を表7に示す。
【0147】
およそ同じ濃度のフィブリノーゲンがバッチ吸着前後に存在したことから、VIIISelectを用いるバッチ吸着はフィブリノーゲンの減少を引き起こさないようだ。しかし、25mLのOctaplas(商標)当たり15gのVIIISelectとインキュベートしたOctaplas(商標)においては、70%超(2.8mg/mLから0.8mg/mLへの)減少した。これはおそらく、解凍された試料中に存在していた沈殿物/血塊によって説明される。
【0148】
得られた対照値、2.5mg/mL及び2.7mg/mLは、2.33~3.16mg/mLの割当範囲ないであった。
【0149】
【表9】
【0150】
3.7.第X因子濃度の測定
試料中FXがヘビ毒RVVによってFXaへと活性化されるRVV発色法を用いて、第X因子活性を測定した。SSC#4を標準として使用した。標準は1:20~1:200に希釈して解析し、試料は1:40に希釈して解析した。希釈は全てTris緩衝液で行った。
【0151】
以下のプロトコルに従って測定を行った。
【0152】
【表10】
【0153】
3.8.第X因子活性測定の結果
第X因子解析で得られた結果を表8にまとめる。
【0154】
表7は、FVIIIを欠乏させるステップがFX活性に対して大きな影響を与えなかったことを示している。参照欠乏血漿を含む全ての試料が0.5IU/mLを大きく超えるFX活性を有した。FX活性は、25mLのOctaplas(商標)当たり15gのVIIISelectとインキュベートしたOctaplas(商標)で低く、この結果はvWF解析及びフィブリノーゲン解析の結果と一致している。
【0155】
【表11】
【0156】
実施例4:直接的アミド分解活性の測定
4.1.測定
予備活性化の有無を定性的に確認するために、出発材料、参照欠乏血漿、並びにバッチ式試験及びクロマトグラフ試験から得られた選択された材料を2種類の異なる発色基質、S-2288(一般的なセリンプロテアーゼの基質)及びS-2366(トロンビン、活性化第XI因子及びAPC)と共にインキュベートすることによって、SSC#4と比較した。全ての試料をTris緩衝液(TB035、Rossix社)中に1:5に希釈及び1:10に希釈した。試料の加水分解速度をSSC#4血漿の加水分解速度と比較した。異なる試料間の解析比較を最適化するために、場合によっては基質濃度及びインキュベーション温度に軽微な変更を加えて、以下の手順を実行した。
【0157】
【表12】
【0158】
4.2.直接的アミド分解活性の結果
結果を表9及び図4にまとめる。
【0159】
2種類の発色基質であるS-2288(一般的なセリンプロテアーゼ基質)及びS-2366(トロンビン、活性化第XI因子及びAPCの高感度基質)とインキュベートすることによって、プロテアーゼの存在を定性的に試験した。全体として、表9の結果は、他の試料よりも明らかに高い加水分解速度を有していたSiemens社製欠乏血漿を除いて、活性化プロテアーゼの存在が非常に限定されていたことを示している。
【0160】
【表13】
【0161】
4.3.rhFVIIIの安定性の確認
参照欠乏血漿、並びに実施例1及び実施例2のバッチ式試験及びクロマトグラフ試験から得られた選択された材料中に添加された純粋rhFVIIIの安定性を確認することによる逆向きの(reversed)安定性試験で、予備活性化の程度を潜在的に調べた。この実験計画は、予備活性化の増大がrhFVIIIの活性化をもたらし、それに伴ってrhFVIIIの安定性が減少するという仮説に基づくものであった。rhFVIIIを、各FVIII欠乏血漿中に公称濃度(nominal concentration)1IU/mLまで希釈し、分注し、-70℃以下で凍結した。試料を3時間、5時間、及び8時間の時点で解凍し、アッセイ開始直前に解凍された試料と比較する、逆向きの安定性試験を行った。
【0162】
rhFVIII活性は、高濃度域、及び手動によるマイクロプレート法を用いるCoatest SP FVIIIキットで測定した。各試料は、独立して調製された二連実験にて分析した。標準は、Helena社製先天性欠乏血漿中に1IU/mLに希釈した。
【0163】
4.4.FVIII欠乏血漿中に希釈されたrhFVIIIの安定性試験の結果
結果を表10及び図5にまとめる。
【0164】
種々の欠乏血漿中に1IU/mLに希釈された場合、rhFVIIIの安定性に有意差はなかった。
【0165】
Helena社製先天性欠乏血漿中に希釈された標準に対して力価が決定された場合、他の調製物におけるt=0でのrhFVIIIの回復はほぼ同一であり、アッセイ活性が全ての欠乏血漿において同一であるという実施例4.6における知見を裏付けるものである。
【0166】
【表14】
【0167】
4.5.希釈媒体として種々の欠乏血漿を用いたrhFVIIIの力価決定
【0168】
rhFVIII濃縮溶液を7種の異なる欠乏血漿中に1IU/mLに希釈し、同じ欠乏血漿中に希釈された標準に対する力価を決定した。
【0169】
これらの種々の欠乏血漿を希釈剤として用いた場合、力価に有意差は認められなかった(表11、図6)。rhFVIII調製物の平均活性は4213IU/mLであり、これらの種々の欠乏血漿の全ての平均値の結果は、その平均値から+/-4%以内である、4058~4394IU/mLの範囲であった。
【0170】
標準の傾きは欠乏血漿に非依存的であった。これは、試料及び標準が同じ欠乏血漿中に希釈されたことにより、アッセイにおける活性がその両方で低下したためである。
【0171】
この実験設定では、標準及び試料が同じ欠乏血漿中に希釈されたために、rhFVIIIの力価は欠乏血漿中の残留FVIII活性の程度に依存しなかった。よって、残留FVIII活性からの潜在的な寄与は、試料及び標準の両方において同一である。全ての場合において、いかなる残留FVIII活性からの寄与も非常に小さいものであったため、検量線の傾きへの影響は有意ではなかった。
【0172】
【表15】
【0173】
実施例5:FVIII活性を含まないvWFの精製
vWF精製のための出発材料は、Wilate(登録商標)の名でOctapharma社から販売されている、ヒトのFVIIIとvWFとの複合体であるWilateとした。
【0174】
VIIISelectをXK16/20カラム(GE Healthcare社)に樹脂層高4.5cm(カラム体積9mLに相当)まで充填した。実験中の流速は0.25mL/分(7.5cm/時に相当)とした。カラムを以下の平衡用緩衝液で平衡化した。
【0175】
【表16】
【0176】
Wilate(登録商標)を、4mlの0.25M CaCl中で30分間再構成し、FVIIIとvWFとの間の相互作用を阻害した。再構成したWilate(登録商標)を前記VIIISelect XK16/20カラムに0.25ml/分の流速でアプライすることにより、FVIIIの大部分はアフィニティ樹脂に結合し、回収されたフロースルーにはvWFと、フィブリノーゲンなどのいくらかの他のタンパク質とが含有された。
【0177】
【表17】
【0178】
VIIISelectカラムから得られたフロースルーの1体積当たり、その溶液に3.34体積のフロースルー緩衝液及び3.13gのNaClを添加した。高濃度グリシンによりvWF分子が沈殿する。この溶液を室温で30分間撹拌した後、600rpmで10分間遠心して、vWF含有ペレットを得た。
このペレットを再構成用緩衝液中に素早く再構成した。
【0179】
【表18】
【0180】
再構成後、28~32℃で約10時間保温して、全ての残留FVIII活性を取り除いた。
【0181】
最後に、HiPrep脱塩カラム、並びに40mM Hepes及び0.15M NaClを含有する平衡用緩衝液(pH7)を用いて、EDTAを除去した。
【0182】
上記のプロトコルの結果、vWFの回収率は20~25%となり、残留FVIII活性は0.01IU FVIII/100IU vWF抗原未満となった。
【0183】
実施例6:様々な流速の試験
6.1.手順
限定的な試験を行って、残留FVIII活性に対する流速の影響を調べた。クリオ上清を、VIIISelectを充填したXK16カラム(樹脂層高4cm、カラム体積8mL)にアプライした。流速120~7.5cm/時(1mL/分=30cm/時)を試験した。これらの結果に基づき、流速7.5cm/時(0.25mL/分)をFVIII欠乏血漿の精製用に選んだ。
【0184】
6.2.結果
結果を図7に示す。残留FVIII活性は流速に対し直線の関係であった。1時間当たり10cm未満の流速により、FVIII活性が1%未満であるFVIII欠乏血漿の信頼のおける産生がもたらされる。
【0185】
直径1.6cmのXK16カラムに対する流速7.5cm/時(=0.25mL/分)の使用により、200mLの血漿をアプライした場合、13時間の処理時間となった。200mLの血漿はカラム体積の25倍に相当し、FVIIIの漏出の増加は処理中に見られなかった。全てのカラム精製を通じて圧力は安定であった。
【0186】
実施例7:FVIII欠乏血漿の作製
異なる2バッチのクリオ上清から異なる3バッチのFVIII欠乏血漿を作製した。20mM Hepesで緩衝化された1バッチ(プレパイロット3)以外は、クリオ上清を室温の水浴中で解凍し、0.25g Hepes/25mL 血漿の添加により緩衝化して、40mM Hepesとした。
【0187】
VIIISelectを充填したXK16カラム(GE LifeScience社)(樹脂層高4cm、カラム体積8mL)及びAKTA pure 150クロマトグラフィーシステム(GE LifeScience社)を用いて精製を行った。平衡用緩衝液として、26g/kg NaCl、6.0g/kg クエン酸ナトリウム(pH6.4~6.6)1を用いた。流速7.5cm/時(0.25mL/分)を使用し、200~250mLのクリオ上清を各バッチの各カラムにアプライしたところ、13~17時間の処理時間となった。
【0188】
プレパイロット3から得られたFVIII欠乏血漿に、実施例5に従って作製されたvWFを添加して、1IU/ml vWF抗原の公称濃度にした。この欠乏血漿を96×1mLラックに分注し、70℃以下で凍結した。
【0189】
実施例8:FVIII欠乏血漿の特徴付け
8.1.残留FVIII活性の測定
Coatest SP4 FVIIIキット(Chromogenix社)を用いて残留FVIII活性を測定した。前記アッセイは、低濃度域用を用い、Coatest SP4 FVIII添付文書に従って行った。SSC#4を標準として使用し、キットの緩衝液中に希釈した。実施例7で得た試料を1:81に希釈して解析した。
【0190】
8.2.vWF抗原濃度の測定
vWF濃度を、Willebrand Factor Antigen Kit(Instrumentation Laboratories社)を用いて測定した。アッセイは凝固装置ACL TOP 700を使用して、前記キット用の搭載アプリケーションを用いて行った。SSC#4を標準として使用した。
【0191】
8.3.フィブリノーゲン濃度の測定
フィブリノーゲン含有量を、Q.F.A. Thrombinキット(Instrumentation Laboratories社)を用いて測定した。アッセイは凝固装置ACL TOP 700を使用して、前記キット用の搭載アプリケーションを用いて行った。SSC#4を標準として用いた。
【0192】
8.4.第X因子濃度の測定
試料中FXがヘビ毒酵素RVV-XによってFXaへと活性化されるRVV発色法を用いて、第X因子活性を測定した。SSC#4を標準として使用した。標準は1:20~1:200に希釈して解析し、試料は1:40に希釈して解析した。希釈は全てTris緩衝液で行った。
【0193】
FX濃度測定のためのプロトコルを表12に要約する。
【0194】
【表19】
【0195】
8.5.吸光度測定
280nm及び600nmでの吸光度を、Eppendorf BioPhotometerを用いて測定した。
【0196】
8.6.結果
全試料の残留FVIII活性が1%未満であった。Rossixプレパイロット3に、約20~30%から約100%のvWFレベルにまで、vWFを添加した。このvWF濃度は、試験されたSiemens社製欠乏血漿と同等であり、Helena BioSciences社製の先天性FVIII欠乏血漿中のvWF抗原濃度と比較して約30%高かった。プレパイロット1及びプレパイロット2は20~30%のvWF濃度を有していた。
【0197】
プレパイロット血漿は参照血漿と比較してわずかに(約20%)低いフィブリノーゲン濃度を有している。最も考えられる原因は、出発材料がクリオ上清血漿であることと、クリオ沈殿工程中にフィブリノーゲン分子の一部が共沈殿したことである。第X因子活性は全ての試験された欠乏血漿において正常である。
【0198】
目視で認められ、また予測できることであるが、参照血漿は、Rossixプレパイロットと比較して、より濁っており、1.5~2倍高いOD600を有する。これは、これらのプレパイロットがクリオ沈殿反応後血漿に由来していること、及び、クリオ上清中の特定の物質を減少させる遠心分離工程によりクリオ沈殿物が除去されることと関連している。タンパク質濃度測定として使用できる280nmでの吸光度は、Rossixプレパイロットにおいて同様であるか、わずかに高いが、これは異なる血漿ロット間のバッチ間変動によるものである可能性がある。
【0199】
【表20】
【0200】
【表21】
【0201】
実施例9:予備活性化の試験
9.1.直接的アミド分解活性-実験プロトコル
欠乏血漿を2種の異なる発色基質である4mM S-2288(一般的なセリンプロテアーゼ基質)及び2mM S-2366(トロンビン、活性化第XI因子及びAPC)と共にインキュベートすることによって、予備活性化の有無を定性的に確認した。全ての試料をTris緩衝液(TB035、Rossix社)中に1:10に希釈した。
【0202】
【表22】
【0203】
9.2.直接的アミド分解活性-結果
結果を図8に示す。2種類の発色基質(一般的なセリンプロテアーゼ基質であるS-2288、及びトロンビン、活性化第XI因子及びAPCの高感度基質であるS-2366)とインキュベートすることによって、プロテアーゼの存在を定性的に調べた。全体として、結果は、他の試料よりも明らかに高い加水分解速度を有していたSiemens社製欠乏血漿以外は、活性化プロテアーゼの存在が非常に限定されていたことを示している。
【0204】
9.3.rhFVIIIの安定性の確認
予備活性化の程度を、欠乏血漿に添加された純粋Bドメイン欠失型rhFVIIIの安定性を確認することによる逆向きの安定性試験で、潜在的に調べた。
【0205】
この実験計画は、予備活性化の増大がrhFVIIIの活性化をもたらし、それに伴ってrhFVIIIの安定性が減少するという仮説に基づくものであった。Nuwiq(登録商標)(Octapharma AB社製、スウェーデン、2000IU/バイアル)を、各FVIII欠乏血漿で公称濃度1IU/mLまで希釈し、分注し、-70℃以下で凍結した。試料を3時間及び6時間の時点で解凍し、アッセイ開始直前に解凍された試料と比較する、逆向きの安定性試験を行った。
【0206】
rhFVIII活性は、高濃度域、及び手動によるマイクロプレート法を用いるCoatest SP FVIIIキットで測定した。各試料は、(独立して調製された)真の四連実験として解析し、t=0試料のプールから作製された標準に対する力価を決定した。
【0207】
9.4.FVIII欠乏血漿中に希釈されたrhFVIIIの安定性-結果
種々の欠乏血漿中に公称濃度1IU/mLに希釈された場合、Nuwiq(登録商標)2000IU/バイアルの安定性に有意差はなかった。20~25℃で6時間貯蔵した後の活性変化は-3~+2%の範囲内であった。
【0208】
【表23】
【0209】
9.5.種々の欠乏血漿中に1IU/mLに希釈後のrhFVIII(Nuwiq(登録商標)250IUバイアル及び2000IUバイアル)の力価の決定
力価決定の結果を、表15及び表16、並びに図13及び図14に示す。全てのアッセイ系列は、並列性、回帰性、及び線形性が認められた。種々の欠乏血漿の間で、2000IU/バイアルの変動又は力価に有意差はなかった。250IU/バイアルは、プレパイロット1及びプレパイロット2中に事前希釈された場合、より大きな変動、及び2~5%より低い力価を示した。これらはvWF抗原濃度が低い2つのプレパイロットである。このわずかに低い結果は、vWF抗原の存在が少ないほど、rhFVIII希釈物はより不安定となることが説明となり得る。
【0210】
約290IU/バイアル及び2550IU/バイアルの得られた力価は、250IU/バイアル及び2000IU/バイアルの公称活性と異なり、+16%及び+28%にそれぞれ相当する。
【0211】
標準及び試料の用量反応は、使用された全ての欠乏血漿において同様であった。
【0212】
【表24】
【0213】
【表25】
【0214】
参考文献
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17. Chiu et al., Mapping the Interaction between Factor VIII and von Willebrand Factor by Electron Microscopy and Mass Spectrometry, Blood, 2015; vol. 126(8), pp. 935-938
本開示に係る態様は以下の態様も含む。
<1>
フォン・ヴィルブランド因子(vWF)のFVIII結合ドメインを少なくとも含むvWFタンパク質、及び第VIII因子(FVIII)の軽鎖を少なくとも含み、前記vWFタンパク質と複合体を形成し得るFVIIIタンパク質を含む第1の組成物からFVIIIタンパク質を分離するための方法であって、
前記第1の組成物を、リガンド及びマトリックスを含むアフィニティ樹脂と接触させるステップであって、前記リガンドがFVIIIの軽鎖に対して親和性を有する前記ステップ、及び
前記混合物から前記アフィニティ樹脂を分離して、改変された第1の組成物及び第2の組成物を得るステップであって、前記第2の組成物が、前記アフィニティ樹脂、及び前記FVIIIタンパク質と前記vWFタンパク質との複合体を含有する前記ステップ
を含む方法。
<2>
前記FVIIIタンパク質が、ヒト血漿由来FVIII、ヒト血液中に天然に存在するFVIII誘導体、組換えヒト完全長FVIII、及び組換えヒトBドメイン欠失型FVIIIから選択される、<1>に記載の方法。
<3>
前記vWFタンパク質が、ヒト血漿由来vWFマルチマー、ヒト血漿由来vWFモノマー、及び組換えヒト完全長vWFから選択される、<1>又は<2>に記載の方法。
<4>
前記リガンドがポリペプチドであり、好ましくは組換えポリペプチド、より好ましくは非動物供給源で産生される組換えポリペプチド、特に酵母細胞で産生される組換えポリペプチドである、<1>~<3>のいずれか一項に記載の方法。
<5>
前記リガンドが抗体Fab断片、好ましくは13kDのFab断片である、<4>に記載の方法。
<6>
前記マトリックスが高度架橋アガロースから構成され、前記アフィニティ樹脂が好ましくはVIIISelectである、<5>に記載の方法。
<7>
分離が充填カラムを通して連続的に行われ、前記第1の組成物及び/又は前記改変された第1の組成物の流速が30cm/時以下、好ましくは15cm/時以下、より好ましくは10cm/時以下、特に7.5cm/時以下である、<1>~<6>のいずれか一項に記載の方法。
<8>
前記第1の組成物の総体積に対する前記第1の組成物中の前記FVIIIタンパク質の濃度が、1IU/mL以下、好ましくは0.7IU/mL以下、より好ましくは0.4IU/mL以下、最も好ましくは0.2IU/mL以下である、<7>に記載の方法。
<9>
前記樹脂の体積に対する前記第1の組成物の体積の比が、5:1~100:1の範囲内、好ましくは10:1~70:1の範囲内、より好ましくは10:1~50:1の範囲内、特に20:1~40:1の範囲内である、<6>~<7>のいずれか一項に記載の方法。
<10>
前記第1の組成物が、血液製剤、好ましくはヒト血液製剤を含み、前記血液製剤が全血、血漿、及び血清から選択される、<1>~<9>のいずれか一項に記載の方法。
<11>
前記血液製剤が血漿、特に、クリオ上清などの前処理血漿又はOctaplas(商標)などの化学的にウイルスを不活性化した血漿である、<10>に記載の方法。
<12>
前記FVIIIタンパク質及び/又は前記vWFタンパク質、特に前記FVIIIタンパク質及び前記vWFタンパク質が、組換えにより発現されたタンパク質である、<1>~<10>のいずれか一項に記載の方法。
<13>
改変された血液製剤の生産法であって、
血液製剤、特に血漿を含む、第1の組成物を準備するステップ、
<2>~<12>のいずれか一項に記載のFVIIIの分離を行うステップ、及び
改変された血液製剤、特に改変された血漿を含む、改変された第1の組成物を収集するステップ
を含む方法。
<14>
FVIIIを本質的に含まない外来性vWFタンパク質を前記血漿に添加することをさらに含む、<13>に記載の方法。
<15>
FVIIIの濃度が、健常ヒトドナーの血漿の平均FVIII濃度の4%未満、好ましくは3%未満、より好ましくは2%未満、特に1%未満である、<13>又は<14>に記載の方法によって得られる改変された血漿。
<16>
vWFの濃度が、健常ヒトドナーの血漿の平均vWF濃度の少なくとも75%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、特に少なくとも100%である、<13>又は<14>に記載の方法によって得られる改変された血漿。
<17>
治療用の、特に凝固活性の低下を必要とする障害、好ましくは播種性血管内凝固症候群(DIC)又は敗血症の治療用の、<15>又は<16>のいずれかに記載の改変された血漿。
<18>
試料中のFVIIIタンパク質の濃度及び/又は活性を試験するための、<15>又は<16>に記載の改変された血漿の用途。
<19>
FVIIIタンパク質、vWFタンパク質、又はFVIIIタンパク質とvWFタンパク質との複合体を精製及び/又は濃縮するための方法であって、
vWFのFVIII結合ドメインを少なくとも含むvWFタンパク質、及びFVIIIの軽鎖を少なくとも含み、前記vWFタンパク質と複合体を形成し得るFVIIIタンパク質を含む第1の組成物を準備するステップ、
<1>~<12>のいずれか一項に記載の分離方法を行うステップ、
所望により、前記第2の組成物に少なくとも1回の洗浄ステップを適用するステップ、及び
所望により、vWFを含む第3の組成物を溶出、特にCaCl を含む溶出用緩衝液で溶出するステップ、並びに
FVIIIタンパク質とvWFタンパク質との複合体又はFVIIIタンパク質を含む第4の組成物を前記アフィニティ樹脂から溶出するステップ
を含む方法。
<20>
<19>に記載の方法によって得られる、FVIIIタンパク質とvWFタンパク質との複合体、又は精製されたFVIIIタンパク質、又は精製されたvWFタンパク質を含む組成物。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11