(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16H 45/02 20060101AFI20220921BHJP
F16F 15/14 20060101ALI20220921BHJP
F16F 15/31 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
F16H45/02 Y
F16F15/14 Z
F16F15/31 D
F16F15/31 G
(21)【出願番号】P 2018051998
(22)【出願日】2018-03-20
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】安田 圭一
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/066644(WO,A1)
【文献】特表平9-506418(JP,A)
【文献】特開2011-202782(JP,A)
【文献】特開2018-13153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 45/02
F16F 15/14
F16F 15/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源からのトルクを駆動輪へと伝達する動力伝達装置であって、
前記駆動源からのトルクが入力され、回転可能に配置される回転部材と、
前記回転部材に取り付けられる本体部材、前記本体部材に対して所定の捩じり角度の範囲内において相対回転可能なイナーシャ部材、径方向に移動可能な遠心子、
及び前記本体部材と前記イナーシャ部材との間に回転位相差が生じたときに前記遠心子に生じた遠心力を前記回転位相差が小さくなるような円周方向の力に変換するカム機構、を有する動吸振器と、
前記遠心子による遠心力にアシスト力を付加するように構成されたアクチュエータと、
前記駆動源から前記駆動輪の間の動力伝達経路における共振周波数に関する共振周波数情報を取得する取得部と、
前記取得部によって取得された共振周波数情報に基づいて前記動吸振器をアクティブ制御するように前記アクチュエータを制御するアクティブ制御部と、
を備える、動力伝達装置。
【請求項2】
前記回転部材の回転変動に関する情報を検出する回転変動検出部をさらに備え、
前記取得部は、前記共振周波数情報として、前記回転変動検出部によって検出された前記回転部材の回転変動に関する情報を取得する、
請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記共振周波数情報として、変速段に関する情報を取得する、
請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記アクティブ制御部は、予め設定された、前記変速段と前記アクティブ制御のための処理とを対応付けた制御マップに基づき、前記動吸振器をアクティブ制御する、
請求項3に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記回転部材及び前記動吸振器を収容する筐体をさらに備える、
請求項1から4のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項6】
前記回転変動検出部は、前記筐体内に露出する、
請求項2に従属する請求項5に記載の動力伝達装置。
【請求項7】
前記アクティブ制御部は、前記回転変動に関する情報に基づき回転変動が閾値を超えたと判断すると、前記本体部材に対する前記イナーシャ部材の相対回転を禁止する、
請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項8】
前記アクチュエータは、前記本体部材に取り付けられる、
請求項1から7のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項9】
前記アクチュエータは、電動モータ、前記遠心子に取り付けられたラック、及び前記電動モータの出力軸に取り付けられ且つ前記ラックに噛み合うピニオン、を有する
請求項1から8のいずれかに記載の動力伝達装置。
【請求項10】
前記アクチュエータに給電するように構成された給電ユニットをさらに備え、
前記給電ユニットは、
前記アクチュエータと電気的に接続され、前記動吸振器に取り付けられる第1受電部と、
前記筐体の内周面に取り付けられ、前記第1受電部に非接触で電力を送電するように構成された第1送電部と、
前記筐体の外周面に取り付けられ、前記第1送電部と電気的に接続される第2受電部と、
径方向において前記第2受電部の外側に配置され、前記第2受電部に非接触で電力を送電するように構成された第2送電部と、
を有する、
請求項5に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動源と駆動輪との間には、ダンパ機構を有するクラッチ装置や、トルクコンバータなどの動力伝達装置が設置されている。この動力伝達装置は、駆動源からの振動によって共振することを防止するために、動吸振器を有している。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されたダイナミックダンパ装置は、適正に振動を低減するために、ダンパマスの慣性質量を可変に制御したり、弾性体に対する減衰力を可変に制御したりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように特許文献1のダイナミックダンパ装置では、駆動源の燃焼1次に起因する振動を適切に抑制するようにダイナミックダンパ装置を制御している。しかしながら、例えば変速段など、駆動系の走行状態によって駆動系の共振周波数は変動するため、上述したようなダイナミックダンパ装置であっても適切に共振を抑制できないおそれがある。そこで、本発明の課題は、より適切に共振を抑制することのできる動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある側面に係る動力伝達装置は、駆動源からのトルクを駆動輪へと伝達するように構成されている。この動力伝達装置は、回転部材と、動吸振器と、取得部と、アクティブ制御部と、を備えている。回転部材は、駆動源からのトルクが入力され、回転可能に配置される。動吸振器は、回転部材に取り付けられる。取得部は、駆動源から駆動輪の間の動力伝達経路における共振周波数に関する情報を取得する。アクティブ制御部は、取得部によって取得された共振周波数に関する情報に基づいて動吸振器をアクティブ制御する。
【0007】
この構成によれば、動力伝達経路における共振周波数に関する情報に基づいて動吸振器をアクティブ制御する。このため、例えば変速段など、駆動系の走行状態が切り替わることによって駆動系の共振周波数が変動しても、適切に共振を抑制することができる。
【0008】
好ましくは、動力伝達装置は、回転部材の回転変動に関する情報を検出する回転変動検出部をさらに備える。そして、取得部は、共振周波数情報として、回転変動検出部によって検出された回転部材の回転変動に関する情報を取得する。
【0009】
好ましくは、取得部は、共振周波数情報として、変速段に関する情報を取得する。
【0010】
好ましくは、制御部は、予め設定された、変速段とアクティブ制御のための処理とを対応付けた制御マップに基づき、動吸振器をアクティブ制御する。
【0011】
好ましくは、動力伝達装置は、回転部材及び動吸振器を収容する筐体をさらに備える。
【0012】
好ましくは、回転変動検出部は、筐体内に露出する。
【0013】
好ましくは、動吸振器は、本体部材と、本体部材に対して所定の捩じり角度の範囲内において相対回転可能なイナーシャ部材と、を有する。そして、アクティブ制御部は、回転変動に関する情報に基づき回転変動が閾値を超えたと判断すると、本体部材に対するイナーシャ部材の相対回転を禁止する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、より適切に共振を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る動力伝達装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
[全体構成]
図1は、本発明の一実施形態による動力伝達装置99の断面図である。動力伝達装置99はトルクコンバータ100を備える。以下の説明において、「軸方向」とは、トルクコンバータ100の回転軸Oが延びる方向を意味する。また、「周方向」とは、回転軸Oを中心とした円の周方向を意味し、「径方向」とは、回転軸Oを中心とした円の径方向を意味する。径方向の内側とは、径方向において回転軸Oに近付く側を意味し、径方向の外側とは径方向において回転軸Oから離れる側を意味する。なお、図示していないが、
図1の左側にはエンジンが配置されており、
図1の右側にはトランスミッションが配置されている。
【0017】
トルクコンバータ100は、駆動源であるエンジンからのトルクを駆動輪へと伝達するように構成されている。トルクコンバータ100は、回転軸Oを中心に回転可能である。トルクコンバータ100は、フロントカバー2、インペラ3、タービン4、ステータ5、ロックアップ装置10、及び動吸振器15を備えている。また、動力伝達装置99は、トルクコンバータ100、給電ユニット11、及び制御部13を備えている。
【0018】
[フロントカバー2]
フロントカバー2は、エンジンからのトルクが入力される。フロントカバー2は、円板部21及び第1筒状部22を有している。第1筒状部22は、円板部21の外周端部からインペラ3側へ軸方向に延びている。
【0019】
[インペラ3]
インペラ3は、インペラシェル31、複数のインペラブレード32、及びインペラハブ33を有する。インペラシェル31の外周端部は、フロントカバー2の第1筒状部22の先端部に固定されている。例えば、インペラシェル31は、溶接によって、フロントカバー2に固定されている。
【0020】
インペラブレード32はインペラシェル31の内側面に固定されている。インペラハブ33はインペラシェル31の内周部に溶接などによって固定されている。
【0021】
このインペラシェル31とフロントカバー2とによって、トルクコンバータ100の筐体20を構成している。筐体20内は流体が充填されている。詳細には、筐体20内は作動油が充填されている。筐体20は、エンジンからのトルクが伝達され、回転可能に配置されている。
【0022】
[タービン4]
タービン4は、インペラ3に対向して配置されている。タービン4は、タービンシェル41、複数のタービンブレード42、及びタービンハブ43を有している。なお、このタービン4が本発明の回転部材に相当する。
【0023】
タービンシェル41は、リベット101によってタービンハブ43に固定されている。タービンブレード42は、タービンシェル41の内側面に、ろう付けなどによって固定されている。タービンハブ43の内周面にはスプライン孔433が形成されている。このスプライン孔433に対してトランスミッションの入力軸がスプライン嵌合する。
【0024】
[ステータ5]
ステータ5は、タービン4からインペラ3へと戻る作動油を整流するように構成されている。ステータ5は、回転軸O周りに回転可能である。ステータ5は、ステータキャリア51と、複数のステータブレード52と、を有している。
【0025】
[ロックアップ装置10]
ロックアップ装置10は、ロックアップオン状態において、フロントカバー2からのトルクをタービンハブ43に機械的に伝達するように構成されている。ロックアップ装置10は、軸方向において、フロントカバー2とタービン4との間に配置されている。また、ロックアップ装置10は、筐体20内に配置されている。ロックアップ装置10は、クラッチ部6と、ダンパ機構7とを有している。
【0026】
クラッチ部6は、ピストン61と摩擦材62とを有している。ピストン61は円板状である。ピストン61は、中央部に貫通孔を有している。そして、タービンハブ43がピストン61の貫通孔内を延びている。タービンハブ43の外周面とピストン61の内周面との間はシールされている。
【0027】
ピストン61は、筐体20と相対回転可能に配置されている。また、ピストン61は、タービンハブ43と相対回転可能に配置されている。ピストン61は、軸方向に移動可能に配置されている。詳細には、ピストン61は、タービンハブ43上を軸方向に摺動可能である。
【0028】
ピストン61は、ピストン本体部611と、第2筒状部612とを有している。ピストン本体部611は、円板状であり、フロントカバー2の円板部21と対向している。第2筒状部612は、ピストン本体部611の外周端部から軸方向に延びている。詳細には、第2筒状部612は、ピストン本体部611の外周端部からフロントカバー2から離れる方向に延びている。第2筒状部612の外周面は、フロントカバー2の第1筒状部22の内周面と対向している。
【0029】
摩擦材62は、環状である。摩擦材62は、ピストン61に固定されている。詳細には、摩擦材62は、ピストン61の外周端部に固定されている。摩擦材62は、フロントカバー2の円板部21と対向するように配置されている。摩擦材62とフロントカバー2の円板部21とは、軸方向において対向している。
【0030】
クラッチ部6は、摩擦係合位置と解除位置との間で軸方向に移動可能である。クラッチ部6は、摩擦係合位置にあるとき、筐体20と摩擦係合する。詳細には、クラッチ部6が軸方向において、フロントカバー2側(
図1の左側)に移動することで、クラッチ部6の摩擦材62がフロントカバー2の円板部21に対して接触して摩擦係合する。この結果、クラッチ部6は、摩擦係合状態となり、フロントカバー2と一体的に回転する。この摩擦係合状態では、フロントカバー2に入力されたトルクは、ロックアップ装置10を介してタービンハブ43から出力される。このようにクラッチ部6が摩擦係合位置にあるとき、ロックアップ装置10はロックアップオン状態となる。
【0031】
クラッチ部6は、解除位置にあるとき、摩擦材62と筐体20との摩擦係合を解除する。詳細には、クラッチ部6が軸方向においてフロントカバー2から離れる側(
図1の右側)に移動することで、クラッチ部6の摩擦材62がフロントカバー2の円板部21から離間し、摩擦材62は円板部21と非接触となる。この結果、クラッチ部6は、摩擦材62と円板部21との摩擦係合が解除された解除状態となり、フロントカバー2と相対回転可能となる。なお、この解除状態では、フロントカバー2に入力されたトルクは、インペラ3及びタービン4を介してタービンハブ43から出力される。このようにクラッチ部6が解除位置にあるとき、ロックアップ装置10はロックアップオフ状態となる。
【0032】
また、クラッチ部6は、スリップ状態をとることができる。このスリップ状態では、クラッチ部6は、摩擦材62と円板部21とは互いに接触している一方、摩擦係合状態よりも弱い力で摩擦係合している。このため、摩擦材62と円板部21とはスリップしながら摩擦係合する。このスリップ状態では、フロントカバー2に入力されたトルクは、一部がインペラ3及びタービン4を介してタービンハブ43から出力され、その他がロックアップ装置10を介してタービンハブ43から出力される。
【0033】
ダンパ機構7は、軸方向においてピストン61とタービン4との間に配置されている。ダンパ機構7は、ドライブプレート71と、ドリブンプレート72と、複数のトーションスプリング73とを有している。
【0034】
ドライブプレート71は円板状に形成されており、外周端部がピストン61と係合している。このため、ドライブプレート71は、ピストン61と一体的に回転する。また、ドライブプレート71とピストン61とは、軸方向において相対移動する。ドライブプレート71は、周方向に間隔をあけて配置される複数の収容部711を有している。
【0035】
ドリブンプレート72は円板状に形成されている。ドリブンプレート72は、タービンハブ43に固定されている。詳細には、ドリブンプレート72の内周端部がタービンハブ43に溶接などによって固定されている。ドリブンプレート72は、周方向に間隔をあけて配置される複数の収容部721を有している。ドリブンプレート72の収容部721は、軸方向視において、ドライブプレート71の収容部711と重複するように配置されている。
【0036】
トーションスプリング73は、ドライブプレート71の収容部711及びドリブンプレート72の収容部721内に収容されている。トーションスプリング73は、ドライブプレート71とドリブンプレート72とを弾性的に連結している。このため、ドリブンプレート72は、所定の捩じり角度の範囲内において、ドライブプレート71と相対回転することができる。
【0037】
以上のような構成によって、クラッチ部6に入力されたトルクは、ドライブプレート71、トーションスプリング73、及びドリブンプレート72を介してタービンハブ43から出力される。
【0038】
[動吸振器]
動吸振器15は、軸方向において、ロックアップ装置10とタービン4との間に配置されている。動吸振器15は、タービン4に取り付けられている。詳細には、動吸振器15は、タービンハブ43に取り付けられている。
【0039】
図2に示すように、動吸振器15は、本体部材151と、一対のイナーシャ部材152と、複数の遠心子153と、カム機構154とを有している。
【0040】
本体部材151は、中央に貫通孔を有する円板状である。本体部材151は、タービン4に取り付けられている。詳細には、本体部材151の内周端部がタービンハブ43に取り付けられている。例えば、溶接などによって、本体部材151とタービンハブ43とが固定されている。
【0041】
図3に示すように、本体部材151は、外周端部において径方向外側に突出する複数の突出部155を有している。各突出部155は、周方向において間隔をあけて配置されている。
【0042】
図2に示すように、イナーシャ部材152は、リング状のプレートである。一対のイナーシャ部材152は、リベット102によって互いに連結され、本体部材151及び遠心子153を挟んでいる。イナーシャ部材152は、本体部材151とともに回転可能に配置されている。
【0043】
図3に示すように、イナーシャ部材152は、所定の捩じり角度の範囲内において本体部材151と相対回転することができる。なお、
図3に示す動吸振器15において、イナーシャ部材152は本体部材151に対して角度θだけ捩れている。
【0044】
遠心子153は、本体部材151の突出部155に沿って径方向に摺動可能である。詳細には、遠心子153は、一対のガイドローラ156を有している。このガイドローラ156で、突出部155を挟んでいる。ガイドローラ156が突出部155の側面上を転がることで、遠心子153は突出部155に沿って径方向に移動可能である。
【0045】
カム機構154は、カムフォロアとしてのローラ157と、カム158とを有している。ローラ157は、リベット102の胴部の外周に嵌めこまれている。すなわち、ローラ157はリベット102に支持されている。なお、ローラ157は、リベット102に対して回転可能に装着されているのが好ましいが、回転不能であってもよい。
【0046】
カム158は、遠心子153の外周面に形成されている。カム158は、ローラ157が当接する円弧状の面であり、径方向の内側に凹んでいる。本体部材151とイナーシャ部材152とが相対回転すると、ローラ157はこのカム158に沿って移動する。
【0047】
本体部材151とイナーシャ部材152との間に回転位相差が生じたときに、ローラ157とカム158との接触によって、遠心子153に生じた遠心力は、回転位相差が小さくなるような円周方向の力に変換される。具体的には、遠心子153に生じた遠心力によってカム158がローラ157を径方向外側に押圧することによって、ローラ157及びイナーシャ部材152を捩じれる前の位置に戻すように構成されている。
【0048】
[アクチュエータ]
図2に示すように、アクチュエータ16は、遠心子153による遠心力にアシスト力を付加するように構成されている。アクチュエータ16は、動吸振器15の本体部151に取り付けられる。例えば、アクチュエータ16は、電動モータ161、ピニオンギア162、及びラック163を有している。ピニオンギア162は電動モータ161の出力軸に取り付けられている。ラック163は遠心子153に取り付けられている。ピニオンギア162とラック163は互いに噛み合っている。電動モータ161を駆動し、ラック163を径方向外側に移動させることで、遠心子153の遠心力を増加させるアシスト力を付与する。一方、電動モータ161を逆駆動し、ラック163を径方向内側に移動させることで、遠心子153の遠心力を減少させるアシスト力を付与する。
【0049】
[給電ユニット]
給電ユニット11は、アクチュエータ16に給電するように構成されている。給電ユニット11は、第1受電部11a、第1送電部11b、第2受電部11c、及び第2送電部11dを有している。例えば、第1受電部11a及び第2受電部11cは、受電コイルによって構成され、第1送電部11b及び第2送電部11dは送電コイルによって構成される。
【0050】
第1受電部11aはアクチュエータ16と電気的に接続される。例えば、第1受電部11aは、電線などでアクチュエータ16と有線接続される。第1受電部11aは、動吸振器15の外周面に取り付けられる。詳細には、第1受電部11aは、本体部151の外周面に取り付けられている。
【0051】
第1送電部11bは、筐体20の内周面に取り付けられている。詳細には、第1送電部11bは、フロントカバー2の第1筒状部22の内周面に取り付けられている。第1送電部11bは、径方向において、第1受電部11aと間隔をあけて配置されている。第1送電部11bは、第1受電部11aに非接触で電力を送電するように構成されている。
【0052】
第2受電部11cは、筐体20の外周面に取り付けられている。詳細には、第2受電部11cは、フロントカバー2の第1筒状部22の外周面に取り付けられている。第2受電部11cは、第1送電部11bと電気的に接続されている。例えば、第2受電部11cは、電線などで第1送電部11bと有線接続される。
【0053】
第2送電部11dは、径方向において第2受電部11cの外側に配置されている。第2送電部11dは、径方向において第2受電部11cと間隔をあけて配置されている。第2送電部11dは、例えば、トルクコンバータ100を収容するハウジングの内壁面に取り付けられる。第2送電部11dは、第2受電部11cに非接触で電力を送電するように構成されている。
【0054】
各送電部11b、11dは、ワイヤレス給電によって各受電部11a、11cに電力を送電している。なお、各送電部11b、11dと各受電部11a、11cとの間のワイヤレス給電の方式は、磁界結合方式、電界結合方式、又は電磁界結合方式とすることができる。
【0055】
[制御部]
図4に示すように、制御部13は、取得部131と、アクティブ制御部132とを有している。なお、制御部13は、例えば、ECU(engine control unit)などによって構成することができる。
【0056】
取得部131は、駆動源から駆動輪の間の動力伝達経路における共振周波数に関する共振周波数情報を取得する。本実施形態では、取得部131は、共振周波数情報として、変速機の変速段を取得する。例えば、取得部131は、ECUが有する変速段情報から、現在設定されている変速段を取得する。
【0057】
アクティブ制御部132は、この取得された変速段に適切な設定となるよう、動吸振器15をアクティブ制御する。例えば、アクティブ制御部132は、予め設定された制御マップに基づき動吸振器15を制御してもよい。この制御マップは、変速段と、アクティブ制御のための処理とを対応付けたマップである。例えば、制御マップは、変速段と、その変速段に対応するアシスト力とを対応付けしている。アクティブ制御部132は、取得部131が取得した変速段に対応するアシスト力を、制御マップに基づき設定する。
【0058】
そして、アクティブ制御部132は、設定したアシスト力を遠心子153に付加するよう、アクチュエータ16を制御する。具体的には、アクティブ制御部132は、アクチュエータ16のモータ161の回転量を設定し、モータ161を回転させる。
【0059】
[制御部の動作]
次に、制御部13の動作について説明する。まず、
図5に示すように、制御部13は、ECUが保有する変速機の変速段情報から、現在の変速段を取得する(ステップS1)。
【0060】
次に、制御部13は、取得された変速段に対応する処理を設定する(ステップS2)。例えば、制御部13は、変速段に対応するアシスト力を設定する。
【0061】
次に、制御部13は、設定された処理に基づき、動吸振器15を制御する(ステップS3)。例えば、制御部13は、アクチュエータ16を制御して動吸振器15の遠心子153にアシスト力を付加することによって、動吸振器15を制御する。なお、この制御部13の動作は、ロックアップ装置10がロックアップオン状態のときだけでなく、ロックアップ装置10がロックアップオフ状態のときに行われてもよい。
【0062】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0063】
変形例1
上記実施形態では、制御部13は、ECUが有する変速段情報から変速段を取得しているが、これに限定されない。例えば、制御部13は、変速機の入力軸と出力軸とのそれぞれの単位時間あたりの回転数(以下、単に回転数という。)を取得し、この取得された各回転数に基づき変速段を判定してもよい。共振周波数情報は、駆動系のその時々の走行状態による共振周波数に応じた内容を採る情報であればよく、上記した回転変動の情報や、変速段の設定情報の他、例えば気筒休止の設定、油温、出力負荷、などの走行状態情報とすることもできる。
【0064】
変形例2
図6に示すように、動力伝達装置99は、回転センサ8をさらに備えていてもよい。回転センサ8は、例えば、筐体20に取り付けられている。詳細には、回転センサ8は、筐体20の外周壁部に取り付けられる。すなわち、回転センサ8は、フロントカバー2の第1筒状部22に取り付けられる。この回転センサ8は、第2受電部11cと電気的に接続されている。例えば、回転センサ8は、第2受電部11cと電線などで有線接続される。
【0065】
回転センサ8は、回転変動に関する情報を検出する。詳細には、回転センサ8は、タービン4の回転数を検出する。回転センサ8は、例えばロータリーエンコーダなどによって構成される。回転センサ8は、筐体20内に露出している。回転センサ8は、タービン4に取り付けられた被検出部9と対向するように配置されている。被検出部9は、周方向に間隔をあけて形成された複数の凹部を外周面に有している。被検出部9は、例えば歯車である。なお、この回転センサ8が、本発明の回転変動検出部に相当する。
【0066】
図7に示すように、制御部13は、上述した変速段に基づいて動吸振器15を制御するとともに、回転センサ8によって検出されたタービン4の回転数に基づいて動吸振器15をフィードバック制御してもよい。制御部13は、取得部131、アクティブ制御部132、及び補償部133を有している。制御部13は、まず、上記実施形態と同様に、変速段に基づいて動吸振器15をアクティブ制御する。
【0067】
そして、補償部133は、タービン4の回転数に基づき、タービン4の回転変動を算出する。そして、補償部133は、この算出された回転変動に基づき、この回転変動が小さくなるように動吸振器15を調整する値を設定する。例えば、補償部133は、回転変動が小さくなるように動吸振器15にさらに付加するアシスト力を設定する。
【0068】
そして、アクティブ制御部132は、変速段に基づいて設定したアシスト力に、補償部133によって設定されたアシスト力を付加して動吸振器15を制御する。
【0069】
なお、制御部13は、回転センサ8によって検出されたタービン4の回転数を無線通信により取得することができる。この無線通信のために、トルクコンバータ100に図示していない無線チップおよびアンテナを設けるとともに、制御部13に図示していないアンテナを設け、デジタル変調方式またはアナログ変調方式の無線通信を行うテレメトリーシステムを構築することができる。なお、この無線通信は、第1受電部11a、第1送電部11b、第2受電部11c、及び第2送電部11dを介した負荷変調通信方式とすることもできる。
【0070】
制御部13は、算出されたタービン4の回転変動が予め設定された第1閾値を超えたと判断すると、動吸振器15の本体部材151に対するイナーシャ部材152の相対回転を禁止するような処理を実行し、相対回転を停止または抑制させてもよい。
【0071】
例えば、
図8に示すように、制御部13は、アクチュエータ16を駆動し、遠心子153を径方向外側に移動させて、カム158でローラ157を径方向外側に押圧する。これにより、イナーシャ部材152は、本体部材151に対して相対回転することを抑制できる。また、制御部13は、算出された回転変動の値が予め設定された第2閾値未満の場合は、動吸振器15の制御を行わなくてもよい。
【0072】
変形例3
補償部133は、回転変動に関する情報として、ピストン61の回転数を取得してもよい。この場合、
図9に示すように、回転センサ8は、ピストン61の回転数を検出する。ピストン61の第2筒状部612は、ドライブプレート71の外周端部が噛み合うよう、周方向に間隔をあけて複数の溝部が形成されている。このため、回転センサ8は、この第2筒状部612の複数の溝部を利用して、ピストン61の回転数を検出することができる。
【0073】
変形例4
図10に示すように、補償部133は、回転変動に関する情報として、タービン4及びピストン61の回転数を取得してもよい。具体的には、動力伝達装置99は、第1回転センサ8aと第2回転センサ8bとの2つの回転センサを有している。第1回転センサ8aはタービン4の回転数を検出し、第2回転センサ8bはピストン61の回転数を検出する。そして、補償部133は、タービン4の回転数からタービン4の回転変動を算出するとともに、ピストン61の回転数からピストン61の回転変動を算出し、これら回転変動に基づいて動吸振器15を調整してもよい。
【0074】
変形例5
上記実施形態では、回転
変動に関する情報を検出する回転
変動検出部として回転センサ8を例示しているが、回転
変動検出部は他のセンサであってもよい。例えば、
図11に示すように、回転
変動検出部は、加速度センサ8cであってもよい。加速度センサ8cは、タービン4に取り付けられており、タービン4の角加速度を検出する。
【0075】
補償部133は、回転動に関する情報として、タービン4の角加速度を取得する。そして、補償部133は、このタービン4の角加速度に基づき、タービン4の回転変動を算出し、動吸振器15を調整してもよい。また、回転変動検出部は、その他にも、速度センサや変位センサなどであってもよい。
【0076】
変形例6
上記実施形態では、アクティブ制御部132は、動吸振器15の遠心子153にアシスト力を付加することで動吸振器15を制御しているが、制御部13による動吸振器15の制御方法はこれに限定されない。例えば、制御部13は、動吸振器15のイナーシャ部材152の径方向の位置や、イナーシャ部材152の慣性モーメントを変えることなど他の手段によって動吸振器15を制御してもよい。
【0077】
変形例7
筐体20の外周壁部は、主にフロントカバー2の第1筒状部22によって構成されているが、特にこれに限定されない。例えば、インペラシェル31がフロントカバー2のように、円板部と筒状部とを有していてもよい。そして、このインペラシェル31の筒状部によって筐体20の外周壁部を構成してもよいし、フロントカバー2の第1筒状部22とインペラシェル31の筒状部との双方によって筐体20の外周壁部を構成してもよい。
【0078】
変形例8
本発明は、上述したトルクコンバータだけでなく、クラッチ装置やデュアルマスホイールなど、動吸振器を取り付けることができる他の装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
8 :回転センサ
13 :制御部
15 :動吸振器
20 :筐体
99 :動力伝達装置
131 :取得部
132 :アクティブ制御部
151 :本体部材
151 :本体部
152 :イナーシャ部材
153 :遠心子
154 :カム機構