(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】抽出物の回収方法および分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/06 20060101AFI20220921BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20220921BHJP
G01N 30/02 20060101ALI20220921BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
G01N30/06 Z
G01N1/00 101P
G01N30/02 N
G01N1/10 F
(21)【出願番号】P 2018077938
(22)【出願日】2018-04-13
【審査請求日】2020-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】508187665
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ・テクノサービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 由佳
(72)【発明者】
【氏名】石井 理紗
(72)【発明者】
【氏名】佛願 道男
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 惠太
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-007906(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152996(WO,A1)
【文献】特表2014-517323(JP,A)
【文献】特開2008-045906(JP,A)
【文献】特開2016-011835(JP,A)
【文献】特開2003-083946(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0247362(US,A1)
【文献】寺田英俊 ほか,オフライン超臨界流体抽出による前処理の効率化,島津アプリケーションニュース,日本,2016年02月01日,https://www.an.shimadzu.co.jp/hplc/support/lib/pdf/c190-0444.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
G01N 1/00 - 1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
背圧制御弁よりも上流側に配置され試料が収容された容器に、超臨界状態の二酸化炭素およびモディファイアを導入して、前記試料に含まれる
農薬成分を抽出するステップ;
抽出された前記
農薬成分を、二酸化炭素およびモディファイアとともに、トラップカラムに導入し、前記
農薬成分をトラップカラムで捕集するステップ;および
前記トラップカラムに溶出液を導入して前記
農薬成分を溶出させ、溶出した前記
農薬成分を回収するステップ、を有し、
前記トラップカラム内に、充填剤としてポリマービーズが装填されており、前記ポリマービーズに含まれる架橋ポリマーの架橋度が50%以上である、抽出成分の回収方法。
【請求項2】
前記試料から抽出された複数種の
農薬成分が前記トラップカラムに捕集される、請求項1に記載の回収方法。
【請求項3】
前記トラップカラムが前記背圧制御弁よりも上流側に配置されている、請求項1または2に記載の回収方法。
【請求項4】
前記ポリマービーズが架橋ポリマーを含み、テトラヒドロフランを吸収したときの膨潤度、およびメタノールを吸収したときの膨潤度が、いずれも1.4以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の回収方法。
【請求項5】
前記ポリマービーズが、アクリル系ポリマービーズである、請求項1~4のいずれか1項に記載の抽出成分の回収方法。
【請求項6】
前記ポリマービーズに含まれる架橋ポリマーの架橋度が90%以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の抽出成分の回収方法。
【請求項7】
背圧制御弁よりも上流側に配置され試料が収容された容器に、超臨界状態の二酸化炭素およびモディファイアを導入して、前記試料に含まれる
農薬成分を抽出するステップ;
抽出された前記
農薬成分を、二酸化炭素およびモディファイアとともに、トラップカラムに導入し、前記
農薬成分をトラップカラムで捕集するステップ;
前記トラップカラムに溶出液を導入して前記
農薬成分を溶出させるステップ;および
溶出した前記
農薬成分を、クロマトグラフィーおよび/または質量分析により分析するステップ、を有し、
前記トラップカラム内に、充填剤としてポリマービーズが装填されており、前記ポリマービーズに含まれる架橋ポリマーの架橋度が50%以上である、分析方法。
【請求項8】
前記トラップカラムが前記背圧制御弁よりも上流側に配置されている、請求項7に記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界流体抽出により試料から抽出された成分の回収方法、および抽出成分の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液等の生体試料、農産物、食品、土壌等に含まれる成分の検出および定量分析に、クロマトグラフィーや質量分析、あるいはこれらを組み合わせた分析方法(LC/MS、GC/MS等)が用いられている。生体試料、農産物、食品、土壌等は、多種多様な化学物質の混合物である。このような複雑な混合物中の微量成分の分析では、夾雑物由来のバックグラウンド等に起因して分析精度が低下する場合がある。そのため、分析の前処理として、分析対象となる目的成分の抽出処理が行われている。
【0003】
多種多様な分析試料から目的成分を高効率に抽出可能な方法として、超臨界流体抽出(SFE)が知られている。超臨界流体は、試料内への拡散力が強く、多くの物質に対して優れた溶解性を示す。超臨界流体としては二酸化炭素(臨界温度:31℃、臨界圧力:7.4MPa)が広く用いられている。超臨界流体にメタノール等の有機溶媒(モディファイア)を添加した混合流体を用いることにより、抽出効率が向上し、低極性物質から高極性物質までの幅広い物質を一斉に抽出することが可能となる。
【0004】
特許文献1では、SFEにより抽出した成分(分析対象成分)を、一旦トラップカラムで捕集した後、溶媒抽出により捕集物質を回収する方法が開示されている。トラップカラムには、超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)の分析カラムと同様、充填剤として、シリカゲルや、シリカ担体の表面を化学修飾したものが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
超臨界流体による抽出成分をトラップカラムで捕集した後に溶出液を回収し、分析を実施することにより、微量成分の分析も可能となる。また、トラップカラムを用いることにより、SFEによる抽出条件が異なる多数の成分を1フラクションで回収できるため、クロマトグラフィーや質量分析等による多成分の一斉分析が可能となる。SFEによる多成分の抽出では、成分ごとに抽出条件が異なるため、試料から網羅的に対象成分を抽出するためには、抽出時間を長くしたり、モディファイア濃度を高める必要がある。
【0007】
SFEのモディファイア濃度を高めると、カラム充填剤との相互作用の小さい成分が十分に保持されずに溶出する場合がある。単一の抽出成分を回収する場合は、回収対象成分との相互作用(保持力)が強い化学修飾基を有する充填剤を選択すれば、トラップカラムに捕集された目的成分の不所望の溶出を防止できる。
【0008】
一方、多成分の網羅的な抽出・回収(例えば、農産物中の残留農薬のSFEによる抽出)においては、低極性化合物から高極性化合物までの幅広い物質をトラップカラムで捕集し、かつ溶出時には多数の成分を一斉に溶出することが求められる。トラップカラムの充填剤としてシリカゲルや化学修飾シリカを用いた場合には、モディファイア濃度が高くなると、目的成分の一部がトラップカラムから溶出してしまい、幅広い極性を有する複数種の成分を一斉抽出するというSFEの利点が失われる。かかる課題に鑑み、本発明は、試料に含まれる成分をSFEにより抽出し、抽出物を回収および/または分析する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが検討の結果、トラップカラムの担体として所定の樹脂材料を用いることにより、幅広い物質に対する保持力を高め、多成分の一斉抽出および回収が可能となることを見出した。
【0010】
本発明は、超臨界流体抽出(SFE)により抽出された成分の回収方法および分析方法に関する。容器に試料が収容され、背圧制御弁よりも上流側に配置される。超臨界状態の二酸化炭素とモディファイアとの混合流体を容器に導入して、試料に含まれる成分を抽出する。抽出された成分は、二酸化炭素およびモディファイアとともに、トラップカラムに導入され、トラップカラムで捕集される。トラップカラム内には、充填剤として、アクリル系ポリマー等の樹脂材料からなるポリマービーズが装填されている。トラップカラムは、背圧制御弁よりも上流側に配置されていてもよい。
【0011】
SFEによる抽出成分をトラップカラムで捕集した後、トラップカラムに溶出液を導入して、抽出成分を溶出し、回収する。回収された溶液は、クロマトグラフィーや質量分析等により分析が行われる。トラップカラムからの溶出液は、オンラインでクロマトグラフや質量分析装置等に導入して分析を実施してもよい。
【発明の効果】
【0012】
SFEのトラップカラムの充填剤として、ポリマービーズを用いることにより、SFEのモディファイア濃度を高めた場合でも、抽出成分をトラップカラムで確実に捕集できる。そのため、試料中に含まれる極性の異なる多数の物質をSFEにより抽出して、クロマトグラフィーや質量分析等により一斉分析を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2B】動静的抽出および抽出成分のトラップカラムへの捕集の概要を示す構成図である。
【
図3】オンライン抽出-分析システムの一例を示す構成図である。
【
図4】実験例1~3の超臨界流体クロマトグラフィーのMRMクロマトグラムである。
【
図5-1】実験例2,3のレスメトリン、ベンチオカーブ、ブロモホスメチル、ビフェントリン、ビフェントリンおよびトルクロホスメチルのクロマトグラムである。
【
図5-2】実験例2,3のプロチオホス、フェノキサプロップエチル、ニトラリン、スルプロホス、カルボフェノチオン、ヘキシチアノゾクスおよびシラフルオフェンのクロマトグラムである。
【
図6】アシベンゾラル酸、アシフルオルフェン、ルフェヌロン、メソスルフロンメチル、ホラムスルフロンおよびアセタミプリドのオンラインSFE-SFC-MS分析のクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は超臨界流体抽出装置の構成例を示す概略構成図である。この超臨界流体抽出装置10は、試料から抽出した成分を一旦トラップカラム135で捕集した後、溶媒で溶出させるオフライン形式のものである。捕集ユニット130のカラムオーブン内にトラップカラム135が設けられており、背圧制御弁140よりも下流側に回収ユニット150を備える。超臨界流体抽出装置10は、背圧制御弁140よりも上流側に、ボンベ101、加圧ポンプ111、溶媒容器102、溶媒ポンプ112および抽出ユニット120を備える。
図1に示す形態では、背圧制御弁140よりも上流側に捕集ユニット130が配置されている。
【0015】
抽出ユニット120には、試料が収容された抽出容器125が収納されている。以下では、
図2A~Cを参照して、抽出容器125内に収容された農産物中に含まれる残留農薬を抽出し、回収する方法について説明する。
【0016】
(超臨界流体抽出)
試料としての農産物を収容した抽出容器125を抽出ユニット120内にセットし、不図示の温調手段により、抽出容器125の温度を所定の値に設定する。抽出容器の温度が設定値に達すると、ボンベ101から、加圧ポンプ111を介して二酸化炭素を抽出ユニット120内に導入する。加圧ポンプ111および背圧制御弁140により、抽出ユニット120の流路の圧力を、二酸化炭素の臨界圧力(7.4MPa)を超える圧力とし、かつ抽出容器の温度を二酸化炭素の臨界温度(31℃)を超える温度に設定する。超臨界状態の二酸化炭素は、抽出容器125内の試料(農産物)を溶かす。これにより、試料中の目的成分である残留農薬等が抽出される。
【0017】
SFEは、動的抽出のみ、または静的抽出と動的抽出の組み合わせにより行われる。静的抽出では、
図2Aに示すように、超臨界状態の二酸化炭素を抽出容器125内へ導入する。動的抽出では、
図2Bに示すように、通液状態の抽出容器125に超臨界状態の二酸化炭素を導入して抽出を行う。静的抽出および動的抽出においては、溶媒ポンプ112を作動させて、溶媒容器102にモディファイア(メタノール等の有機溶媒)を抽出ユニット120内に導入してもよい。
【0018】
農産物中の残留農薬を抽出する場合は、疎水性物質から親水性物質までの多種多様な成分が網羅的に抽出されるように、SFEの条件を調整する必要がある。具体的には、疎水性物質はモディファイアを用いなくとも超臨界状態の二酸化炭素のみで抽出される場合があるのに対して、高極性の親水性物質の抽出には、モディファイア濃度を高める必要がある。
【0019】
(抽出成分の捕集)
SFEにより試料から抽出された成分は、二酸化炭素およびモディファイアとともに、捕集ユニット130内のトラップカラム135に送られる。トラップカラム135内には、充填剤としてポリマービーズが装填されている。
【0020】
動的抽出(
図2B)を実施している間は、二酸化炭素およびモディファイアは、クロマトグラフィーの移動相としてトラップカラム内を流れている。背圧制御弁140よりも上流側に配置されたトラップカラム135には、二酸化炭素の臨界圧力(7.4MPa)を超える圧力がかかるため、トラップカラム135の充填剤には耐圧性が要求される。また、トラップカラムの充填剤は、モディファイア濃度を高めた場合でも、抽出成分を保持している必要がある。
【0021】
トラップカラムの充填剤としてシリカゲルや化学修飾シリカを用いた場合、充填剤の耐圧性および保持力が十分ではないため、トラップカラムに捕集されている抽出成分が溶出する場合がある。特に、極性が異なる複数種の成分をSFEにより抽出する場合は、抽出時間が長くなるため、先に抽出されてトラップカラムに捕集されていた成分が、高濃度のモディファイアの作用により充填剤から脱着しやすく、多成分を適切に保持することは困難である。
【0022】
本発明においては、トラップカラム135内の充填剤としてポリマービーズが用いられる。ポリマービーズを用いることにより、抽出成分の保持力が向上し、モディファイア濃度を高めた場合でも、トラップカラム内に抽出成分が捕集された状態を維持できる。
【0023】
背圧制御弁140よりも上流側にトラップカラム135が配置される場合、充填剤としてのポリマービーズには耐圧性が要求されるため、ポリマービーズは、架橋ポリマーを含有することが好ましい。また、二酸化炭素とモディファイアとの混合比を変化させた場合でも膨潤や収縮を生じないように、ポリマービーズには高い耐溶剤性が要求される。そのため、ポリマービーズとしては、溶媒に対する膨潤度の小さいものが好ましく用いられる。
【0024】
ポリマービーズは、テトラヒドロフランを吸収したときの膨潤度およびメタノールを吸収したときの膨潤度が、いずれも1.4以下であるものが好ましい。このような低膨潤度のポリマービーズを用いることにより、抽出成分の保持性に優れるとともに、ポリマービーズの耐久性が高いため、回収操作や分析を繰り返し実施した場合でも、良好な結果が得られやすい。
【0025】
ポリマービーズの膨潤度は、ポリマービーズを溶媒に分散させる前後の体積変化に基づいて決定される。ポリマービーズのテトラヒドロフランを吸収したときの膨潤度およびメタノールを吸収したときの膨潤度は、1.3以下がより好ましく、1.2以下がさらに好ましい。膨潤度は一般には1.0以上である。
【0026】
ポリマービーズの平均粒子径は、10μm以下、5μm以下または4μm以下であってよい。カラム圧の過度の上昇を抑制する観点から、ポリマービーズの平均粒子径は、例えば、1μm以上または2μm以上であってよい。ポリマービーズの粒子径(直径)の分散性を示す指標であるCV(Coefficient of Variation)値は、小さいことが好ましく、例えば、25%以下、20%以下、15%以下または10%以下であってよい。CV値の下限は特に制限されないが、一般には1%以上である。平均粒子径およびCV値の調整等を目的として、任意の篩等を用いてポリマービーズを分級してもよい。
【0027】
ポリマーの架橋度が高いほど、ポリマービーズの膨潤度が小さくなる傾向がある。ポリマービーズに含まれる架橋ポリマーの架橋度は、例えば、50%以上、80%以上または90%以上である。架橋ポリマーの架橋度は、重合に用いられるモノマー中の架橋性モノマーの配合割合であり、重合性モノマー全質量を基準とした架橋性モノマーの質量割合として定義される。
【0028】
架橋性モノマーは、2以上の重合性官能基を有する化合物であり、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン等のジビニル化合物;ジアリルフタレートおよびその異性体;トリアリルイソシアヌレートおよびその誘導体;多官能性(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。架橋性モノマーは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。多官能性(メタ)アクリル酸エステルとしては、ジ(メタ)アクリル酸エステル、3官能以上の(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0029】
ジ(メタ)アクリル酸エステルとしては、アルキレン基に2つの(メタ)アクリレートが結合したアルカンジオールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。アルキレン基の炭素数は、例えば、1~20または1~5であってもよい。アルキレン基は、直鎖状、分枝状および環状のいずれでもよい。アルキレン基は、水酸基等の置換基を有していてもよい。
【0030】
アルカンジオールジ(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,3-ブタンジオールジアクリラート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7-ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートおよびグリセロールジメタクリレートが挙げられる。
【0031】
ジ(メタ)アクリル酸エステルのその他の例は、エトキシ化ビスフェノールA系ジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールA系ジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタンジ(メタ)アクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート;および(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコール系ジ(メタ)アクリレートを含む。
【0032】
3官能以上の(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルエタントリ(メタ)アクリレート、1,1,1-トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリレート等が挙げられる。
【0033】
これらの架橋性モノマーのうち、架橋密度の高いポリマー(多官能モノマー由来構造の比率の高いポリマー)が得られやすく、ポリマービーズの膨潤度を小さくできることから、例えば、ジビニルベンゼンおよびジ(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選択される1種以上を用いてもよい。すなわち、架橋ポリマーは、ジビニルベンゼン由来の構造単位および/またはジ(メタ)アクリル酸エステル由来の構造単位を含んでいてもよい。特に、農薬等の幅広い極性を有する多成分を効率よく捕集可能であることから、トラップカラム135の充填剤には、モノマー成分としてジ(メタ)アクリル酸エステルを含むアクリル系ポリマービーズを用いることが好ましい。
【0034】
架橋性モノマーとともに単官能性モノマーを用いてもよい。単官能性モノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2-クロロエチル、アクリル酸フェニル、α-クロロアクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル等の単官能の(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-n-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、p-n-ドデシルスチレン、p-メトキシスチレン、p-フェニルスチレン、p-クロロスチレン、3,4-ジクロロスチレン等のスチレンおよびその誘導体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル;N-ビニルピロール、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルインドール、N-ビニルピロリドン等のN-ビニル化合物;フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、アクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸テトラフルオロプロピル等の含フッ素化モノマー;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエンが挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
ポリマービーズは、全体が架橋ポリマーからなるものでもよく、一部に架橋ポリマーを有していてもよい。膨潤度を低くする観点から、ポリマービーズの少なくとも外層に架橋ポリマーが含まれていることが好ましい。外層に架橋ポリマーを有するポリマービーズは、例えばシード重合法により得られる。一般に、ポリマービーズはシリカゲル等と比較して粒径の小さい粒子の形成が困難な場合があるが、シード重合法は粒径の小さい粒子を形成し易い。
【0036】
シード重合法は、重合性モノマーを含む乳化液中でシード粒子を膨潤させ、シード粒子に重合性モノマーを吸収させた後、重合性モノマーを重合する方法である。シード粒子としては、例えば、(メタ)アクリレート系粒子、スチレン系粒子等が挙げられる。
【0037】
(メタ)アクリレート系粒子は、(メタ)アクリル酸エステルの重合により得られる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、先に例示した直鎖状または分岐状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。スチレン系粒子は、例えば、スチレン、p-メチルスチレン、p-クロロスチレン、クロロメチルスチレン、α-メチルスチレン等のスチレン系モノマーの重合により得ることができる。シード粒子を得るためのモノマーとして、上記(メタ)アクリル酸エステルおよびスチレン系モノマーの他に、アリルアルコール、フタル酸アリル、アリルエーテル等を組み合わせてもよい。これらのモノマーは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
シード粒子は、上記モノマーを用いて、例えば、乳化重合法、ソープフリー乳化重合法、分散重合法等の公知の方法で合成することができる。シード粒子の平均粒子径は、得られるポリマービーズの設計粒子径に応じて調整すればよい。シード粒子の平均粒子径は、重合性モノマーの吸収時間を短縮する観点から、例えば、2.0μm以下または1.5μm以下であってよい。シード粒子の平均粒子径は、均一且つ真球に近いシード粒子を効率的に得られる観点から、例えば、0.1μm以上または0.5μm以上であってよい。これらの観点から、シード粒子の平均粒子径は、0.1~2.0μmであることが好ましく、0.5~2.0μmであることがより好ましく、0.5~1.5μmであることがさらに好ましい。
【0039】
シード粒子のCV値は、例えば、得られるポリマービーズの均一性を充分に確保する観点から、10%以下または7%以下であってよい。シード粒子のCV値は一般に1%以上である。ポリマービーズの平均粒子径は、シード粒子の平均粒子径に対して、例えば、2~10倍、または2.5~7倍となるように調整してもよい。ポリマービーズの平均粒子径を上記の範囲で調整することにより、ポリマービーズの粒子径が単分散性となり、粒子径のCV値を小さくできる。
【0040】
重合性モノマーおよび水性媒体を含む乳化液に、シード粒子を添加してシード粒子に重合性モノマーを吸収させた後、重合性モノマーを重合することによりポリマービーズが得られる。乳化液は、公知の方法により調製できる。例えば、重合性モノマーを水性媒体に添加して、ホモジナイザー、超音波処理機、ナノマイザー等の微細乳化機により水性媒体に分散させることにより、乳化液が得られる。水性媒体としては、水、または水と水溶性溶媒(例えば、低級アルコール)との混合媒体が挙げられる。水性媒体には、界面活性剤が含まれていてもよい。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系および両性イオン系のいずれを用いてもよい。
【0041】
乳化液は、必要に応じて、有機過酸化物、アゾ系化合物等の重合開始剤を含んでいてもよい。重合開始剤は、例えば、重合性モノマー100質量部に対して、0.1~7.0質量部の範囲で使用することができる。乳化液は、シード粒子の分散安定性を向上させるために、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の高分子分散安定剤を含んでいてもよい。高分子分散安定剤は、例えば、重合性モノマー100質量部に対して、1~10質量部の範囲で使用することができる。乳化液は、亜硝酸塩類、亜硫酸塩類、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、水溶性ビタミンB類、クエン酸、ポリフェノール類等の水溶性の重合禁止剤を含んでいてもよい。重合禁止剤を含むことにより、乳化液中でのモノマーの乳化重合を抑制できる。
【0042】
シード粒子は、乳化液に直接添加してもよく、シード粒子を水性分散体に分散させた状態で添加してもよい。例えば、シード粒子を添加した後の乳化液を、室温で1~24時間撹拌することにより、シード粒子に重合性モノマーを吸収させることができる。乳化液を30~50℃程度に加温することにより、重合性モノマーの吸収が促進する傾向がある。
【0043】
シード粒子に対する重合性モノマーの混合割合は、特に制限されないが、例えば、所望の平均粒子径を有するポリマービーズを効率的に作製する観点から、シード粒子100質量部に対して800質量部以上または1500質量部以上であってよい。一方、例えば、水性媒体中で重合性モノマーが独自に懸濁重合することを抑制し、目的とする平均粒子径を有するポリマービーズを効率的に作製する観点から、重合性モノマーの混合割合は、シード粒子100質量部に対して100000質量部以下または35000質量部以下であってよい。シード粒子は、重合性モノマーを吸収することにより膨潤するため、光学顕微鏡を用いてシード粒子の粒径の拡大を確認することにより、重合性モノマーのシード粒子への吸収が終了したか否かを判定できる。
【0044】
続いて、シード粒子に吸収させた重合性モノマーを重合させることにより、ポリマービーズが得られる。重合上限は特に限定されず、モノマーの種類等に応じて適宜選択すればよい。重合終了後、必要に応じて重合液から遠心分離またはろ過により、水性媒体を除去し、水および溶剤で洗浄した後、乾燥することにより、ポリマービーズが単離される。
【0045】
ポリマービーズは、多孔構造を有していてもよい。例えば、シード重合時に、水性媒体に対して不溶性または難溶性の有機溶媒を用い、相分離を促すことにより、多孔質ビーズが得られる。
【0046】
ポリマービーズをカラムに充填する際に用いる溶媒は、ポリマービーズが分散可能な溶媒であれば特に限定されず、例えば、水、メタノール、THF、アセトニトリル、クロロホルム、エチレングリコールおよび流動パラフィンが挙げられる。ポリマービーズをカラムに充填する際の充填圧は、例えば、6MPa以上または9MPa以上となるようにしてもよい。充填圧を高めることにより、SFCクロマトグラムにおけるピークのテーリングが抑制され、良好なピーク形状が得られやすい。ポリマービーズの変改やカラムの破損を抑制する観点から、充填圧は、例えば、60MPa以下または50MPa以下となるようにしてもよい。
【0047】
(溶出および回収)
抽出終了後に、ボンベ101からの二酸化炭素の導入および溶媒容器102からのモディファイアの導入を停止し、背圧制御弁140を開放して、装置10内の圧力を大気圧とする。その後、溶媒ポンプ112からの送液を切り替えて、溶媒容器108からトラップカラム135に溶出液を通液して、トラップカラムに捕集された抽出成分を溶出させる(
図2C)。
【0048】
溶媒容器108から溶出液を送液する前に、他の容器106から洗浄液をトラップカラム135に送液して、充填剤に保持されていない夾雑成分を洗浄除去してもよい。トラップカラムに捕集された抽出成分を溶出させるための溶出液はモディファイアと同一の有機溶媒でもよい。溶出は複数の移動相のグラジエントにより行ってもよい。試料中に含まれる複数成分の一斉分析を実施する場合は、溶出液として高濃度の有機溶媒を用い、トラップカラムに捕集された複数の成分を一斉に溶出させることが好ましい。
【0049】
試料からの抽出成分を含む溶出液は、回収ユニット150内の容器155内に回収される。容器内に回収された溶出液は、試料から抽出された農薬成分を含んでいる。この溶出液を分析用試料として、残留農薬の一斉分析を実施できる。
【0050】
分析方法は特に限定されないが、複数種の抽出成分の一斉分析には液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィー等のクロマトグラフィー、および質量分析が適している。また、クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせたLS/MS、GC/MS等により分析を実施してもよい。質量分析は多段階で実施してもよい。分析により検出された成分は、例えば、データベースと照合することにより同定が行われる。
【0051】
図2Cでは、1つの容器155に溶出液を回収しているが、フラクションコレクタにより複数の容器に溶出液を分取してもよい。後述の実施形態に示すように、トラップカラムの下流にクロマトグラフや質量分析装置を接続して、溶出液をオンラインで分析に供してもよい。
【0052】
本発明では、トラップカラムの充填剤として所定のポリマービーズを用いること以外は、従来のSFEと同様に実施可能である。超臨界流体抽出装置の構成は
図1に示すものに限定されない。
【0053】
図1では、抽出ユニット120内に1つの抽出容器125が収納されているが、抽出ユニットは複数の抽出容器を収納可能に構成されていてもよい。
図1および
図2A~Cでは、SFEのモディファイアの送液、およびトラップカラム135から捕集成分を溶出させるための溶出液の送液に、共通の溶媒ポンプ112を用いているが、モディファイアの送液と溶出液の送液に、別のポンプを用いてもよい。例えば、溶出液を送液するためのポンプは、背圧制御弁140よりも後方に設けられていてもよい。
【0054】
図1では、背圧制御弁140の上流側に、トラップカラム135を備える捕集ユニット130が配置された形態を示したが、トラップカラムは背圧制御弁よりも下流側に設けられていてもよい。背圧制御弁140の下流側は大気圧に近い圧力であるため、トラップカラムの充填材には高い耐圧性は要求されない。また、背圧制御弁140の下流側では、二酸化炭素は超臨界状態から気体状態となり、溶出力を喪失している。一方、モディファイアは常圧でも溶出力を有する。
【0055】
前述のように、トラップカラムの充填剤としてシリカゲルや化学修飾シリカを用いた場合は、充填剤の保持力が十分ではないため、モディファイア濃度が高くなるとトラップカラムに捕集されている抽出成分が溶出し、多成分を適切に捕集することは困難である。これに対して、トラップカラムの充填剤として保持力の高いポリマービーズを用いることにより、背圧制御弁の下流側にトラップカラムを配置した形態においても、モディファイアによる抽出成分の脱着が抑制され、トラップカラム内に抽出成分が捕集された状態を維持できる。
【0056】
上記のように、本発明の方法によれば、トラップカラムの充填剤として多種多様な化学物質に対する保持力に優れるポリマービーズが用いられるため、高濃度のモディファイアを用いてSFEを行った場合でも、試料からの抽出成分を網羅的にトラップカラムで捕集できる。また、溶出液として高濃度の有機溶媒を用いることにより、ポリマービーズ充填剤に保持された各成分を一斉に溶出できるとの利点を有する。そのため、本発明の方法は、農産物中の残留農薬の一斉分析等、試料から多成分を抽出して一斉分析を実施するための試料の前処理等に応用できる。
【0057】
SFEユニットの下流側に所定の充填剤を含むトラップカラムを設ける技術は、抽出成分の回収だけでなく、SFEによる抽出成分のインライン分析にも応用できる。SFEによる抽出成分のインライン分析としては、クロマトグラフィー分析や質量分析が挙げられる。また、クロマトグラフィーと質量分析とを組み合わせてもよい。SFEユニットの下流で行われるクロマトグラフィー分析は、超臨界クロマトグラフィー(SFC)でもよい。
【0058】
図3は、オンライン抽出-分析システムの一例を示す構成図である。
図3のシステムは、SFEユニット120の下流に設けられたカラムオーブン131内に、トラップカラム135およびSFC分析カラム137を備え、そのさらに下流に質量分析装置180が設けられている。SFC分析カラム137と質量分析装置180との間には検出器139が設けられており、SFC分析カラム137からの溶出成分を検出可能としている。
【0059】
この分析システムの構成は、トラップカラム135内の充填剤として上述のポリマービーズが装填されていること以外は、従来のオンラインSFE-SFC-MS分析システムと同様であり、SFEによる抽出成分をカラムオーブン内のトラップカラム135で捕捉した後、背圧制御弁142によりSFC分析カラム137が設けられた流路を、臨界圧力を超える圧力に保ちながら、SFC分析カラム137による抽出成分の分離を行う。
【0060】
トラップ能力と分離への影響の抑制を両立するために、SFC分析カラム137の内径はトラップカラム135の内径と同等から1/3倍程度が好ましい。SFCによる分離能向上のため、SFC分析カラム137の長さは、トラップカラム135の長さの5~50倍程度が好ましい。
【0061】
SFC分析カラム137により分離された試料は、溶媒ポンプ119により容器109から送液されるメイクアップ溶液とともに、背圧制御弁142の下流に設けられた質量分析装置に送られて、質量分析が行われる。
【0062】
この分析システムでは、SFEによる抽出成分をトラップカラム135内のポリマービーズ充填剤に保持した後、トラップカラム135内に捕捉された各成分を一斉に溶出して、SFC分析カラム137により溶出時間に基づく分離を実施できる。そのため、農産物中の残留農薬の多成分の一斉抽出-分析に応用できる。トラップカラム135内の充填剤として所定ポリマービーズを用いることにより、検出ピークのスプリット等が抑制され、ピーク形状が良好となるため、ピークの波形処理が容易となり、分析の定量性向上に寄与する。
【実施例】
【0063】
以下の実験例1~3では、超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)により、カラム充填剤の保持挙動の評価を実施した。
【0064】
[分析対象試料]
林純薬工業製、PL2005 Pesticide GC-MS Mix I, II, III, IV, V, VI, 7 / PL2005 Pesticide LC-MS Mix I, II, III, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10 / 53 Polar pesticides Mix for STQ methodを混合することにより、約250種の農薬をそれぞれ0.5μg/mL含む農薬混合標準溶液を調製した。
【0065】
[カラム]
実験例1では、オクタデシル基および極性官能基で化学修飾したシリカ充填剤が装填された市販のSFC分析カラム(Shim-pack UC-RP)を用いた。実験例2および実験例3では、それぞれ、下記の作製例1および作製例2で得られたポリマービーズを充填剤として装填したカラムを用いた。
【0066】
<シード粒子の合成例>
500mLのセパラブルフラスコに、メタクリル酸メチル70g、オクタンチオール2.1g、およびイオン交換水370gを入れ、窒素でバブリングするとともに撹拌羽根で攪拌しながら30℃で1時間保温した。その後、ペルオキソ二硫酸カリウム0.875gおよびイオン交換水30gを加え、70℃で6時間反応させ、シード粒子を形成した。反応液を冷却後、反応液中の塊状物および微粒子を除去して、シード粒子のスラリー(固形分濃度:3.5質量%)を得た。塊状物は、目開き75μmの篩を用いて取り除いた。微粒子は、塊状物を取り除いた後の反応液(篩を通過したスラリー)を遠心脱水機で処理し、デカンテーションで上澄み液を廃棄することにより取り除いた。
【0067】
粒度分布測定機(マイクロトラック・ベル株式会社製、商品名:MT-3300EX II)を用いて測定した粒度分布から算出したシード粒子の平均粒子径は750nmであり、CV値は6.4%であった。
【0068】
<作製例1:ジビニルベンゼン系ポリマービーズ>
2Lのセパラブルフラスコに、架橋性モノマーとしてジビニルベンゼン(純度94%)100g、ならびに有機溶媒としてトルエン36gおよびジエチルベンゼン36gを仕込んで得られた混合物に、重合開始剤として過酸化ベンゾイル7.0gを溶解させた。次いで、イオン交換水1240g、エタノール96gおよび界面活性剤としてラウリル硫酸トリエタノールアミンを40質量%含む水溶液32g、ならびに重合禁止剤としてアスコルビン酸0.12gをさらに加えた後、超音波ホーンで10分間超音波分散させて乳化液を得た。得られた乳化液を撹拌羽根で攪拌しながら、上記の合成例で得られたシード粒子スラリー77g、およびイオン交換水27gを加え、30℃で24時間保温した。次いで、分散安定剤としてポリビニルアルコールを6質量%含む水溶液120gを加え、窒素でバブリングしながら80℃で8時間重合させた後、冷却した。得られた粒子を、イオン交換水/メタノール混合液、およびアセトンで順次洗浄した後、目開き5μmの篩で湿式分級して凝集物を除去した。凝集物を除去後のスラリーから粒子をろ別し乾燥することにより、ポリマービーズを得た。
【0069】
<作製例2:アクリル系ポリマービーズ>
3Lのセパラブルフラスコに、架橋性モノマーとしてグリセロールジメタクリレート(純度93%)81g、ならびに有機溶媒として酢酸ブチル73gおよびイソアミルアルコール48gを仕込んで得られた混合物に、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.4gを溶解させた。次いで、イオン交換水1530g、および界面活性剤としてラウリル硫酸トリエタノールアミンを40質量%含む水溶液12gをさらに加えた後、超音波ホーンで10分間超音波分散させて乳化液を得た。得られた乳化液を撹拌羽根で攪拌しながら、上記の合成例で得られたシード粒子のスラリー14g、およびイオン交換水122gを加え、30℃で1時間保温した。次いで、分散安定剤としてポリビニルアルコールを6質量%含む水溶液121gを加え、窒素でバブリングしながら78℃で5時間重合させた後、冷却した。上記作製例1と同様にして、得られた粒子の洗浄、分級、ろ別および乾燥を行い、ポリマービーズを得た。
【0070】
<ポリマービーズの特性>
(ポリマーの架橋度)
重合性モノマー全質量を基準とした多官能モノマーの質量割合から算出した架橋度は、作製例1(ジビニルベンゼン)が94%、作製例2(グリセロールジメタクリレート)が93%であった。
【0071】
(粒子径)
粒度分布測定機(ベックマンコールター社製、商品名:マルチサイザー4e)を用いて、ポリマービーズの粒度分布を測定した。作製例1のジビニルベンゼン系ポリマービーズは、平均粒子径が3.1μm、粒子径のCV値が18%であった。作製例2のアクリル系ポリマービーズは、平均粒子径が3.5μm粒子径のCV値が7%であった。
【0072】
(膨潤度)
真空乾燥機で60℃、3時間以上乾燥させたポリマービーズ1gを、10mlメスシリンダに投入し、20回以上タッピングして静置した後、メスシリンダの目盛を読み取り、ポリマービーズの見かけ上の体積Vd(ml)とした。ポリマービーズと溶媒とを合わせた総量が10mlとなるように、溶媒(THFまたはメタノール)を添加し、室温(20℃)で24時間以上静置した後、メスシリンダの底部に堆積したポリマービーズの見かけ上の体積Vw(ml)を、メスシリンダの目盛から読み取り、次式により膨潤度Sを算出した。
S=Vw/Vd
【0073】
作製例1のジビニルベンゼン系ポリマービーズは、THFに対する膨潤度が1.32、メタノールに対する膨潤度が1.31であった。作製例2のアクリル系ポリマービーズは、THFに対する膨潤度が1.05、メタノールに対する膨潤度が1.37であった。
【0074】
[実験例1:シリカゲル充填剤の保持能力評価]
超臨界流体クロマトグラフシステム(島津製作所 Nexera UC)に、SFC分析カラムとして、シリカ充填剤を装填したカラム(Shim-pack UC-RP)を装着し、SFC-MS/MSにより、上記の分析対象試料の分析を実施した。SFCの溶出条件は下記の通りとした。
移動相 A:二酸化炭素(超臨界流体), B:メタノール(モディファイア)
グラジエントプログラム
0-12分 : %B=2-10 グラジェント
12-20分 : %B=10-80 グラジェント
20-25分 : %B=80
25-30分 : %B=2
【0075】
[実験例2および実験例3:ポリマービーズ充填剤の保持能力評価]
SFC分析カラムの充填剤を、上記のジビニルベンゼン系ポリマービーズ(実験例2)、およびアクリル系ポリマービーズ(実験例3)に変更し、SFCのグラジエントプログラムを下記の通り変更した。それ以外は実験例1と同様にして、上記の分析対象試料の分析を実施した。
グラジエントプログラム
0-20分 : %B=2-80 グラジェント
20-25分 : %B=80
25-30分 : %B=2
【0076】
実験例1~3のMRMクロマトグラムを
図4A~Cに、グラジエントチャートとともに示す。
シリカ充填剤カラムを用いた実験例1では、モディファイア濃度が10%以下(保持時間12分以内)にほとんどの成分が溶出しているのに対して、樹脂充填剤カラムを用いた実験例2および実験例3では、実験例1よりも短時間でモディファイア濃度を高めているにも関わらず、実験例1よりも保持時間が長く、農薬成分の保持力が高いことが分かる。特に、充填剤としてアクリル系ポリマービーズを用いた実験例3は、ジビニルベンゼン系ポリマービーズよりも保持時間が長く、農薬成分の保持力に優れていることが分かる。
【0077】
それぞれの農薬成分に着目すると、ジビニルベンゼン系ビーズを用いた実験例2では、農薬混合標準溶液に含まれる農薬の中で、レスメトリン、ベンチオカーブ、ブロモホスメチル、ビフェントリン、トルクロホスメチル、プロチオホス、フェノキサプロップエチル、ニトラリン、スルプロホス、カルボフェノチオン、ヘキシチアノゾクスおよびシラフルオフェンについて、明確なピークが検出されなかった(
図5-1および
図5-2の上段)。一方、アクリル系ポリマービーズを用いた実験例3では、これらの農薬についてもシャープなピークが検出され、多数の農薬成分がカラム充填剤に適切に保持されていることが確認された。
【0078】
以上より、ポリマービーズ充填剤は、シリカ充填剤に比べて高い保持力を有することが分かる。これらの結果から、超臨界流体抽出のトラップカラム充填剤として、シリカ充填剤に代えてポリマービーズを用いることにより、トラップカラムを背圧制御弁よりも上流側に設け、高モディファイア濃度で抽出を行った場合でも、抽出成分がトラップカラムに捕集された状態を維持できることが分かる。そのため、トラップカラムの充填剤としてポリマービーズを用いて超臨界流体抽出を実施することにより、抽出成分の回収率が向上し、農薬等の多成分の一斉分析も高精度で実施可能となる。
【0079】
[実験例4:オンラインSFE-SFC-MSシステムによるポリマービーズ充填剤の保持能力評価]
SFC分析カラムとしてシリカ充填剤を装填した4.6mmφ×250mmのカラム(Shim-pack UC-RP)を備えるオンラインSFE-SFC-MSシステムのSFEカラムの前に、上記実験例3と同様のアクリル系ポリマービーズを装填した4.6mmφ×10mmφのカラムをトラップカラムとして接続して、農薬混合標準溶液のSFE-SFC-MS/MS分析を実施した。トラップカラムを接続しない場合(上段)およびアクリル系ポリマービーズ充填トラップカラムを接続した場合(下段)の、アシベンゾラル酸、アシフルオルフェン、ルフェヌロン、メソスルフロンメチル、ホラムスルフロンおよびアセタミプリドのクロマトグラムを
図6に示す。トラップカラムを設けることにより、クロマトグラムのピークスプリットが解消し、対称性の高いピークが得られることが分かる。
【符号の説明】
【0080】
10 超臨界流体抽出装置
101 ボンベ
111 加圧ポンプ
102,106,108,109 溶媒容器
112,119 溶媒ポンプ
120 抽出ユニット
125 抽出容器
130 捕集ユニット
135 トラップカラム
137 SFC分析カラム
139 検出器
140,141,142 背圧制御弁
150 回収ユニット
155 回収容器
180 質量分析装置