(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】回転電機の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20220921BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
H02P27/08
B60L9/18 J
(21)【出願番号】P 2018106189
(22)【出願日】2018-06-01
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】柏▲崎▼ 貴司
(72)【発明者】
【氏名】馬場 浩輔
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-217469(JP,A)
【文献】特開2005-160183(JP,A)
【文献】特開2017-204918(JP,A)
【文献】特開2014-117118(JP,A)
【文献】特開2017-093134(JP,A)
【文献】特開2015-061349(JP,A)
【文献】米国特許第06541933(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
B60L 9/18
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された回転電機システム(100)において回転電機(15)の駆動を制御する回転電機の制御装置(20)であって、
前記回転電機システムは、
回転電機と、
直流電源(11)と、
複数のスイッチング素子(S1~S6)を含み、前記直流電源の直流電力を交流電力に変換して前記回転電機へ供給するインバータ(13)と、
前記回転電機の目標トルクを指令するトルク指令部(40)と、を備え、
前記回転電機の制御装置は、
前記トルク指令部により指令された前記目標トルクから、前記回転電機へ供給する交流電圧の電圧指令値を算出する電圧算出部(23,25)と、
前記電圧算出部により算出された前記電圧指令値が前記回転電機に供給されるように、前記インバータに含まれる各スイッチング素子のスイッチングを制御するスイッチング制御部(27)と、
前記インバータの制御において、前記直流電源の電圧利用率が予め設定されている利用率閾値よりも小さい場合に、前記電圧指令値の電気角半周期において各スイッチング素子をオン状態にすることが可能なオン期間を、前記電圧指令値の電気角半周期から前記スイッチング素子のデッドタイムを差し引いた期間よりも短い期間に制限する制限部(27)と、
前記回転電機の回転速度を検出する速度検出部と、を備え、
前記スイッチング制御部は、前記制限部により前記オン期間が制限された場合に、制限された前記オン期間の中で各スイッチング素子のスイッチングを制御して、矩形波制御又は過変調制御を行
い、
前記制限部は、前記速度検出部により検出された前記回転速度から求まる前記車両の車軸の慣性力が、予め設定されている慣性力閾値よりも大きい場合に、前記オン期間を制限する、
回転電機の制御装置。
【請求項2】
前記電圧利用率は、
【数1】
であり、mは電圧利用率、Vdcは前記インバータに供給される直流電圧値、Vdは前記電圧指令値のd軸成分、Vqは前記電圧指令値のq軸成分である、
請求項1に記載の回転電機の制御装置。
【請求項3】
前記利用率閾値は0.78である、
請求項1又は2に記載の回転電機の制御装置。
【請求項4】
前記制限部は、前記トルク指令部により指令された前記目標トルクにおける電流実効値が、予め設定された電流閾値よりも小さい場合に、前記オン期間θcを制限する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の回転電機の制御装置。
【請求項5】
前記制限部は、前記トルク指令部により指令された前記目標トルクが、予め設定されたトルク閾値よりも大きい場合に、前記オン期間を制限する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の回転電機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機の駆動を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車の航続距離の延長のために、各コンポーネントでの低損失化が望まれている。各コンポーネントでの低損失化の技術の一つとして、回転電機システムでの低損失化の技術が提案されている。特許文献1に記載の電動駆動装置の制御装置は、強め界磁制御によって回転電機に供給する電圧を大きくして電圧利用率を上げることで、矩形波制御領域を拡大している。矩形波制御領域を拡大することによって、インバータのスイッチング回数が減って、スイッチング損が低下する。また、キャリア高調波成分の電流リプルが小さくなるため、MG鉄損も低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記制御装置による回転電機の制御では、低トルク域において、強め界磁制御に伴うMG損とインバータの導通損の上昇分が、スイッチング回数の低下に伴う損失の低下分よりも大きくなる。したがって、上記制御装置による回転電機の制御は、低トルク域に適用することができない。しかしながら、車両が通常使用するトルク域及びWLTPモード走行時の動作点は低トルク域であるため、低トルク域における回転電機システム全体の効率向上が望まれる。
【0005】
本開示は、低トルク域においても、回転電機システム全体の効率を向上させることが可能な回転電機の制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの局面は、車両に搭載された回転電機システム(100)において回転電機(15)の駆動を制御する回転電機の制御装置(20)であって、回転電機システムは、回転電機と、直流電源(11)と、インバータ(13)と、トルク指令部(40)と、を備える。インバータは、複数のスイッチング素子(S1~S6)を含み、直流電源の直流電力を交流電力に変換して回転電機へ供給する。トルク指令部は、回転電機の目標トルクを指令する。回転電機の制御装置は、電圧算出部(23,25)と、スイッチング制御部(27)と、制限部(27)と、を備える。電圧算出部は、トルク指令部により指令された目標トルクから、回転電機へ供給する交流電圧の電圧指令値を算出する。スイッチング制御部は、電圧算出部により算出された電圧指令値が回転電機に供給されるように、インバータに含まれる各スイッチング素子のスイッチングを制御する。制限部は、インバータの制御において、直流電圧の電圧利用率が予め設定されている利用率閾値よりも小さい場合に、電圧指令値の電気角半周期において各スイッチング素子をオン状態にすることが可能なオン期間を、電圧指令値の電気角半周期からスイッチング素子のデッドタイムを差し引いた期間よりも短い期間に制限する。スイッチング制御部は、制限部によりオン期間が制限された場合に、制限されたオン期間の中で各スイッチング素子のスイッチングを制御して、矩形波制御又は過変調制御を行う。
【0007】
本開示の1つの局面によれば、電圧利用率が利用率閾値よりも小さい場合、すなわち、スイッチング回数が比較的多い場合に、オン期間が制限され、インバータの制御が矩形波制御又は過変調制御へ移行される。これにより、スイッチング回数が低減され、スイッチング損を低減することができる。また、インバータに入力する直流電圧を変えることなくオン期間を制限することで、インバータの制御を矩形波制御又は過変調制御へ移行させるため、低トルク域でもスイッチング損の低下分が、その他の損失の上昇分を上回る。よって、低トルク域においても、回転電機システム全体の効率を向上させることができる。
【0008】
なお、この欄及び特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】MGシステムの制御装置の機能を示すブロック図である。
【
図3】PWM制御におけるスイッチング波形を示す図である。
【
図4】
図3に示すスイッチング波形のオンの期間を制限して、インバータの制御を過変調制御へ移行させた場合におけるスイッチング波形を示す図である。
【
図5】
図3に示すスイッチング波形のオン期間を制限して、インバータの制御を矩形波制御へ移行させた場合におけるスイッチング波形を示す図である。
【
図6】スイッチング素子に対する制御信号の生成処理の手順を示すフローチャートである。
【
図7】回転速度とトルクとにより規定される各制御の動作領域を示す図である。
【
図8】オン期間を制限する場合においてスイッチング波形を生成する手法を示す図である。
【
図10】オン期間を制限しない比較例とオン期間を制限する本実施形態との損失の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、発明を実施するための形態を説明する。
<1.構成>
まず、本実施形態に係るMGシステム100の構成について、
図1を参照して説明する。
【0011】
MGシステム100は、電気自動車又はハイブリッド自動車に搭載されている。MGシステム100は、MG15と、直流電源11と、平滑コンデンサ12と、インバータ13と、電流センサ14と、回転センサ16と、トルク指令部40と、制御装置20と、を備える。
【0012】
MG15は、3相の交流モータジェネレータであり、走行駆動源である。MG15は、車両の駆動輪を駆動するためのトルクを発生するモータの機能と、車両の運動エネルギにより駆動されて発電する発電機の機能とを備える。
【0013】
直流電源11は、インバータ13を介して、MG15と接続されている。直流電源11は、インバータ13を介して、MG15と電力の授受を行う。直流電源11は、例えば、リチウムイオンなどの二次電池や、キャパシタなどの充放電可能な蓄電装置である。
【0014】
インバータ13は、直流電源11とMG15との間に接続された3相の電力変換装置である。インバータ13は、直流電源11の直流電力を交流電力に変換して、交流電力をMG15に供給する。また、インバータ13は、MG15が発電した交流電力を直流電力に変換して、直流電力を直流電源11へ供給する。
【0015】
インバータ13は、スイッチング素子S1~S6と、ダイオードD1~D6と、を備える。本実施形態では、スイッチング素子S1~S6として、Insulated Gate Bipolar Transistor(IGBT)を採用しているが、Metal Oxide Semiconductor(MOS)トランジスタや、バイポーラトランジスタなどを採用してもよい。ダイオードD1~D6は、それぞれ、フリーホイールダイオードとして機能し、スイッチング素子S1~S6に並列接続されている。
【0016】
スイッチング素子S1とスイッチング素子S2、スイッチング素子S3とスイッチング素子S4、スイッチング素子S5とスイッチング素子S6が、それぞれ直列に接続されている。スイッチング素子S1とスイッチング素子S2との直列体は、直流電源11の正極端子と負極端子との間に接続されており、この2つのスイッチング素子の接続点はMG15のU相の巻線に接続されている。また、スイッチング素子S3とスイッチング素子S4との直列体は、直流電源11の正極端子と負極端子との間に接続されており、この2つのスイッチング素子の接続点はMG15のV相の巻線に接続されている。また、スイッチング素子S5とスイッチング素子S6との直列体は、直流電源11の正極端子と負極端子との間に接続されており、この2つのスイッチング素子の接続点はMG15のW相の巻線に接続されている。各相の上アームのスイッチング素子と下アームのスイッチング素子は相補的に動作する。
【0017】
平滑コンデンサ12は、直流電源11の正極端子と負極端子との間に、インバータ13と並列に接続されている。平滑コンデンサ12は、インバータ13と直流電源11との間で授受される電力を平滑化する。
【0018】
電流センサ14は、MG15の3相の巻線に流れる実電流の電流値を検出し、検出した実電流値Iur,Ivr,Iwrを制御装置20へ出力する。なお、電流センサ14は、MG15の2相の巻線に流れる電流値を検出するだけでもよい。この場合、キルヒホッフの法則を用いて残りの1相の電流値が算出される。
【0019】
回転センサ16は、MG16のロータの近傍に設けられており、ロータの回転角θを検出し、検出した回転角θを制御装置20へ出力する。回転角θは電気角である。回転角θから、MG15の回転速度Nが算出される。回転センサ16としては、レゾルバ、エンコーダなどのセンサを採用できる。
【0020】
トルク指令部40は、MG15の目標トルクTrを算出し、制御装置20へ目標トルクTrを指令する。トルク指令部40は、図示しないアクセルセンサからのアクセル信号、ブレーキスイッチからのブレーキ信号、シフトスイッチからのシフト信号などを取得して、運転状態に応じた目標トルクTrを算出する。
【0021】
制御装置20は、CPUと、ROM、RAM、フラッシュメモリ等の半導体メモリと、を有するマイクロコンピュータを中核に構成されている。制御装置20の各種機能は、CPUが非遷移的実体的記録媒体(例えば、上述の半導体メモリ)に格納されたプログラムをロードして実行することにより実現される。制御装置は、1つのマイクロコンピュータを備えていてもよいし、複数のマイクロコンピュータを備えていてもよい。
【0022】
制御装置20は、MG15の出力トルクが、トルク指令部40から指令された目標トルクTrとなるように、MG15の駆動を制御する。すなわち、制御装置20は、目標トルクTrに基づいて、スイッチング素子S1~S6のスイッチングを制御する。
【0023】
詳しくは、
図2に示すように、制御装置20は、電流指令値算出部21と、3相2相変換部22と、電圧指令値算出部23と、電圧利用率算出部24と、2相3相変換部25と、回転速度算出部26と、制御信号生成部27と、を備える。制御装置20がこれらの機能を実現する手法は、ソフトウェアに限るものではなく、その一部又は全部の機能を、論理回路やアナログ回路等を組み合わせたハードウェアを用いて実現してもよい。
【0024】
電流指令値算出部21は、目標トルクTrに基づいて、d軸電流指令値Id及びq軸電流指令値Iqを算出する。詳しくは、電流指令値算出部21は、最小電流最大トルク制御を実現するように、マップ等を用いて、回転座標系におけるd軸電流指令値Id及びq軸電流指令値Iqを算出する。そして、電流指令値算出部21は、算出したd軸電流指令値Id及びq軸電流指令値Iqを電圧指令値算出部23へ出力する。
【0025】
3相2相変換部22は、ロータの回転位置θを用いて、電流センサ14により検出された固定座標系における3相の実電流値Iur,Ivr,Iwrを、回転座標系における2相のd軸実電流値Idr及びq軸実電流値Iqrに変換する。そして、3相2相変換部22は、d軸実電流値Idr及びq軸実電流値Iqrを電圧指令値算出部23へ出力する。
【0026】
電圧指令値算出部23は、d軸電流指令値Idとd軸実電流値Idrとの差分が0に収束するように、d軸電圧指令値Vdを算出する。また、電圧指令値算出部23は、q軸電流指令値Iqとq軸実電流値Iqrとの差分が0に収束するように、q軸電圧指令値Vqを算出する。そして、電圧指令値算出部23は、算出したd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを、電圧利用率算出部24及び2相3相変換部25へ出力する。
【0027】
電圧利用率算出部24は、次の式(1)から電圧利用率mを算出する。Vdcは、インバータ13に供給される直流電圧値である。本実施形態では、Vdcは、直流電源11の電圧値である。そして、電圧利用率算出部24は、算出した電圧利用率mを制御信号生成部27へ出力する。
【0028】
【0029】
2相3相変換部25は、d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを、回転位置θを用いて、3相の電圧指令値VU,VV,VWに変換する。そして、2相3相変換部25は、3相の電圧指令値VU,VV,VWを制御信号生成部27へ出力する。
【0030】
回転速度算出部26は、回転センサ16により検出された回転位置θを微分して、MG15の回転速度Nを算出する。そして、回転速度算出部26は、算出した回転速度Nを制御信号生成部27へ出力する。
【0031】
制御信号生成部27は、電圧指令値VU,VV,VWと、搬送波との比較に基づいて、インバータ13のスイッチング素子S1~S6のスイッチングを制御する制御信号g1~g6を生成する。制御信号g1~g6は、スイッチング素子S1~S6のゲートに入力されるゲート信号である。スイッチング素子S1~s6は、制御信号g1~g6に従ってオン又はオフになる。
【0032】
詳しくは、本実施形態では、制御信号生成部27は、
図7に示すように、インバータ13の制御として、Pulse Width Modulation(以下、PWM)制御、第1の過変調制御、第1の矩形波制御、第2の過変調制御及び第2の矩形波制御のいずれかを実行するための制御信号g1~g6を生成する。
【0033】
PWM制御は、変調波の振幅値が直流電圧値Vd未満に制限される制御であり、低回転速度域における制御である。制御信号生成部27は、PWM制御において、
図3に示すように、正弦波状の電圧指令値VU,VV,VWである変調波と、搬送波との比較に基づいて、一定期間で正弦波となるスイッチング波形を、制御信号g1~g6として生成する。搬送波の振幅値は直流電圧値Vdと一致する。このスイッチング波形は、上アームのスイッチング素子S1,S3,S5がオン状態となるハイレベル期間と、下アームのスイッチング素子S2,S4,S6がオン状態となるローレベル期間とを含むパルスの集合によって構成されている。PWM制御では、電圧利用率mを0.613未満の範囲で変化させることができる。電圧利用率mは、変調波の振幅値が直流電圧値Vdと一致する場合に、0.613になる。
【0034】
第1の過変調制御は、変調波の振幅値が直流電圧値Vd以上となる制御であり、中回転速度域における制御である。制御信号生成部27は、第1の過変調制御では、変調波の振幅値が直流電圧値Vd以上となる部分において、連続的にハイレベル又はローレベルとなるスイッチング波形を、制御信号g1~g6として生成する。このスイッチング波形は、変調波の振幅値が直流電圧値Vd未満となる部分において、PWM制御におけるスイッチング波形と同様のパルスによって構成されている。第1の過変調制御では、変調率mを0.613以上0.78未満の範囲で変化させることができる。
【0035】
第1の矩形波制御は、変調波の振幅値が、過変調制御における上限の電圧利用率m(すなわち、m=0.78)に相当する値となる制御であり、高回転速度域における制御である。制御信号生成部27は、第1の矩形波制御では、変調波の1周期においてハイレベル期間とローレベル期間とが1回ずつ交互に表れるとともに、ハイレベル期間とローレベル期間との比が1:1となる矩形波のスイッチング波形、制御信号g1~g6として生成する。第1の矩形波制御では、変調率mは0.78で固定される。
【0036】
第2の過変調制御及び第2の矩形波制御は、電圧利用率mが利用率閾値0.78未満の場合で、且つ、所定の条件が満たされた場合に、実行される制御である。すなわち、第2の過変調制御及び第2の矩形波制御は、インバータ13の動作領域がPWM制御及び第1の過変調制御の領域であるときに、所定の条件が満たされた場合に実行される制御である。制御信号生成部27は、第2の過変調制御及び第2の矩形波制御では、変調波の電気角半周期におけるオン期間θcを制限して、制御信号g1~g6を生成する。オン期間θcは、スイッチング素子をオン状態することが可能な期間である。制御信号生成部27は、オン期間θcを、電気角半周期からスイッチング素子S1~S6のデッドタイムを差し引いた期間よりも短い期間(例えば、120°や90°)に制限する。電気角半周期のうちオン期間θc以外の期間では、スイッチング素子S1~S6をオフ状態に維持する。
【0037】
図3は、オン期間θcを制限していない場合におけるスイッチング波形を示す。
図4は、オン期間θcをθ1に制限した場合におけるスイッチング波形を示す。
図5は、オン期間θcをθ2(θ1>θ2)に制限した場合におけるスイッチング波形を示す。
【0038】
図4に示す場合、制御信号生成部27は、各スイッチング素子について、オン期間θ1内のMG15の交流電圧が、電圧指令値算出部23により算出されたd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqとなるように、オン期間θ1内のハイレベル期間を決定して、制御信号g1~g6を生成する。
【0039】
同様に、
図5に示す場合、制御信号生成部27は、各スイッチング素子について、各スイッチング素子について、オン期間θ2内のMG15の交流電圧が、電圧指令値算出部23により算出されたd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqとなるように、オン期間θ2内のハイレベル期間を決定して、制御信号g1~g6を生成する。制御信号g1~g6を生成する。
【0040】
したがって、オン期間θcを狭くするほど、オン期間θcにおけるローレベル期間が少なくなる。その結果、
図4に示すように、ハイレベル期間が連続して、スイッチング波形がPWM波形から過変調波形へ変化する。このようにして生成されたスイッチング波形が制御信号g1~g6としてインバータ13へ出力されることにより、第1の過変調制御と同様に、インバータ13の第2の過変調制御が実行される。
【0041】
さらに、オン期間θcを狭くすると、
図5に示すように、スイッチング波形が過変調波形から矩形波形へ変化する。このようにして生成されたスイッチング波形が制御信号g1~g6としてインバータ13へ出力されることにより、第1の矩形波制御と同様に、インバータ13の第2の矩形波制御が実行される。
【0042】
すなわち、制御信号生成部27は、インバータ13の動作領域がPWM制御又は第1の過変調制御の領域である場合において、所定の条件が満たされたときに、PWM制御又は第1の過変調制御よりもスイッチング回数を低減した第2の過変調制御又は第2の矩形波制御を実行するための制御信号g1~g6を生成する。所定の条件は、目標トルクTr及び回転速度Nに関する条件である。所定の条件の詳細については後述する。
【0043】
本実施形態では、MGシステム100が回転電機システムに相当し、MG15が回転電機に相当する。また、電圧指令値算出部23及び2相3相変換部25が電圧算出部に相当し、制御信号生成部27がスイッチング制御部及び制限部に相当する。また、回転速度検出部26が速度検出部に相当する。
【0044】
<2.制御信号の生成処理>
次に、制御装置20が実行する制御信号g1~g6の生成処理について、
図6のフローチャートを参照して説明する。制御装置20は、所定間隔で、本処理手順を繰り返し実行する。
【0045】
まず、S10では、制御装置20は、トルク指令部40によって算出された目標トルクTrを取得する。
続いて、S20では、制御装置20は、回転センサ16によって検出された回転位置θを取得し、回転位置θから回転速度Nを算出する。
【0046】
続いて、S30では、制御装置20は、d軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを算出し、式(1)を用いて、電圧利用率mを算出する。
続いて、S40では、制御装置20は、S30において算出した電圧利用率mが利用率閾値0.78未満か否か判定する。すなわち、制御装置20は、オン期間θcを制限してスイッチング回数を低減する必要があるか否か判定する。
【0047】
制御装置20は、電圧利用率mが0.78以上の場合、すなわち、インバータ13の動作領域が矩形波制御の領域である場合には、S80の処理へ進む。そして、S80において、制御装置20は、電圧指令値VU,VV,VWを算出し、電圧指令値VU,VV,VWと搬送波との比較に基づいて、第1の矩形波制御を実行するための制御信号g1~g6を生成する。
【0048】
一方、制御装置20は、電圧利用率mが0.78未満の場合には、S50の処理へ進む。S50では、制御装置20は、所定の条件が満たされているか否か判定する。ここで制御装置20が判定する所定の条件は、次の条件(i),(ii)である。(i)目標トルクTrにおける電流実効値が電流閾値よりも小さい。(ii)目標トルクTrが予め設定された最小閾値Tminよりも大きい。
【0049】
条件(i)において、制御装置20は、電流閾値として、MG15やインバータ13などのMGシステム100に含まれる複数の機器の最大定格のうち最も小さい最大定格の電流値を設定する。目標トルクTrにおける電流実効値は、d軸電流指令値Id及びq軸電流指令値Iqから算出される。
【0050】
オン期間θcを制限すると、電気角半周期に流れていた電流量を、電気角半周期よりも短いオン期間θcに流すことになるため、電流実効値が上昇する。電流実効値が上昇すると、MGシステム100に含まれる機器の最大定格を超える可能性がある。よって、制御装置20は、目標トルクTrにおける電流実効値が電流閾値以上の場合には、オン期間θcを制限しないようにする。具体的には、制御装置20は、目標トルクTrと最大閾値Tmaxとの比較によって、条件(i)が満たされているか否かを判定する。最大閾値Tmaxは、電流閾値によって決まる値である。
【0051】
また、条件(ii)において、最小閾値Tminは、トルクリップルによって決まる値である。スイッチング波形を過変調波形又は矩形波形にすることによって、スイッチング波形をPWM波形にする場合よりも、スイッチング損失は低減するが、トルクリップルが大きくなる。そのため、例えば力行時における目標トルクTrが比較的小さい場合には、オン期間θcを制限することによって大きなトルクリップルが加わると、最小トルクが負のトルクになる可能性がある。最小トルクが負のトルクになると、ギアの歯打ちが生じて、異音が発生したりギアが劣化したりする。
【0052】
よって、制御装置20は、過変調制御時又は矩形波制御時における比較的大きなトルクリップルが付加されても、最小トルクが負とならない目標トルクTrの最小値を、最小閾値Tminに設定する。そして、制御装置20は、目標トルクTrが最小閾値Tmin以下の場合には、オン期間θcを制限しない。
【0053】
したがって、S50において、制御装置20は、目標トルクTrが最小閾値Tminよりも大きく、且つ、目標トルクTrが最大閾値Tmaxよりも小さいか否か判定する。
制御装置20は、目標トルクTrが最小閾値Tmin以下、又は、目標トルクTrが最大閾値Tmax以上の場合には、S80の処理へ進む。そして、S80において、制御装置20は、電圧指令値VU,VV,VWを算出する。さらに、
図7に示すように、この動作領域では、制御装置20は、電圧指令値VU,VV,VWと搬送波との比較に基づいて、PWM制御又は第1の過変調制御を実行するための制御信号g1~g6を生成する。
【0054】
一方、制御装置20は、目標トルクTrが最小閾値Tminよりも大きく、且つ、目標トルクTrが最大閾値Tmaxよりも小さい場合には、S60の処理へ進む。S60では、制御装置20は、所定の条件のうちの残りの1つが満たされているか否か判定する。ここで制御装置20が判定する所定の条件は、次の条件(iii)である。(iii)回転速度Nから求まる車両の車軸の慣性力が、予め設定されている慣性力閾値よりも大きい。
【0055】
車軸の慣性力が比較的小さい場合に、トルクリップルが比較的大きくなると、ドラビリティ及びノイズビブライゼーション(以下、NV)が悪化する。そのため、車軸の慣性力が比較的小さい場合に、オン期間θcを制限したことによって大きなトルクリップルが生じると、ドラビリティ及びNVが許容値を超える可能性がある。ドラビリティ及びNVの許容値は、車両のスペックによって決まる。
【0056】
よって、制御装置20は、過変調制御時又は矩形波制御時における比較的大きなトルクリップルが生じても、ドラビリティ及びNVが許容値を超えない車軸の慣性力を慣性力閾値に設定する。
【0057】
具体的には、制御装置20は、回転速度Nと速度閾値Nminとの比較によって、条件(iii)が満たされているか否かを判定する。速度閾値Nminは、慣性力閾値によって決まる値である。
【0058】
制御装置20は、回転速度Nが速度閾値Nmin以下の場合には、S80の処理へ進む。そして、S80において、制御装置20は、電圧指令値VU,VV,VWを算出する。さらに、
図7に示すように、この動作領域では、制御装置20は、電圧指令値VU,VV,VWと搬送波との比較に基づいて、PWM制御を実行するための制御信号g1~g6を生成する。
【0059】
一方、制御装置20は、回転速度Nが速度閾値Nminよりも大きい場合には、S70の処理へ進む。S70では、制御装置20は、オン期間θcを制限する。具体的には、予め用意されているマップを用いて、制限されたオン期間θcを設定する。マップは、目標トルクTrと回転速度Nとオン期間θcとの対応関係を示す。例えば、
図7に示すように、マップは、m<0.78且つ条件(i)~(iii)が満たされる動作領域を3つの領域に分けて、各領域にオン期間θcθ1又はθ2を対応付けている。θ1は例えば電気角120°、θ2は例えば電気角90°である。
【0060】
続いて、S80では、制御装置20は、電圧指令値VU,VV,VWを算出し、第2の過変調制御又は第2の矩形波制御を実行するための制御信号g1~g6を生成する。具体的には、
図8に示すように、制御装置20は、変調波と搬送波との比較と、変調波とオン期間設定波との比較との論理和を算出して、制御信号g1~g6を生成する。
図9に示すように、オン期間設定波は、一定の電圧値の波形である。変調波が正の範囲では、オン期間設定波の値を大きくするほど、オン期間θcを狭くすることができる。また、変調波が負の範囲では、オン期間設定波の値を小さくするほど、オン期間θcを狭くすることができる。以上で本処理を終了する。
【0061】
<3.実験結果>
図10に、Worldwide-harmonized Light vehicles Test Cycle(WLTC)モードの動作点(回転速度6000rpm、トルク20N・m)における、本実施形態に係るMGシステム100及び比較例に係るMGシステムの損失の内訳を示す。本実施形態では、電圧利用率m<0.78且つ所定の条件(i)~(iii)が満たされている場合に、オン期間θcを制限する。一方、比較例では、電圧利用率m<0.78且つ所定の条件(i)~(iii)が満たされている場合に、オン期間θcを制限しない。
図10では、比較例の損失を1として示している。
【0062】
図10に示すように、本実施形態のMG鉄損、MG銅損、及び導通損は、オン期間θcを制限したことに伴い電流実効値が上昇したことによって、比較例のMG鉄損、MG銅損、及び導通損よりも大きくなっている。一方、本実施形態のスイッチング損は、オン期間θcを制限したことに伴いスイッチング回数が減ったことによって、比較例のスイッチング損よりも小さくなっている。本実施形態のスイッチング損の縮小分は、本実施形態のMG鉄損、MG銅損、及び導通損の増大分の合計よりも十分に大きいため、本実施形態の損失は、全体として比較例の損失よりも14%低減している。すなわち、本実施形態に係るMGシステム100は、WLTCモードの動作点がある低トルク域においても、全体の効率向上を実現できる。
【0063】
<4.効果>
以上説明した第1の実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)電圧利用率mが利用率閾値よりも小さい場合、すなわち、スイッチング回数が比較的多い場合に、オン期間が制限される。これにより、スイッチング回数が低減され、スイッチング損を低減することができる。また、インバータ13に入力する直流電圧を変えることなくオン期間を制限することで、インバータ13の制御を、PWM制御又は第1の過変調制御から、第2の過変調制御又は第2の矩形波制御へ移行させるため、低トルク域でもスイッチング損の低下分が、その他の損失の上昇分を上回る。よって、低トルク域においても、MGシステム100の全体の効率を向上させることができる。
【0064】
(2)オン期間θcを制限しない場合に、インバータ13の制御がPWM制御又は第1の過変調制御となる電圧利用率mのときに、オン期間θcを制限して、インバータ13の制御を第2の過変調制御又は第2の矩形波制御へ移行させることができる。ひいては、スイッチング回数を低減することができる。
【0065】
(3)目標トルクTrにおける電流実効値が電流閾値よりも小さいことを条件としてオン期間θcが制限される。そのため、オン期間θcを制限することによって電流実効値が上昇しても、電流実効値をMG15やインバータ13などの機器の最大定格以下に制限することができる。ひいては、MG100システムに含まれる機器の破損を防ぐことができる。
【0066】
(4)目標トルクTrが最小閾値Tminよりも大きいことを条件として、オン期間θcが制限される。よって、オン期間θcを制限することによってトルクリップルが大きくなっても、最小トルクが負になることを防ぐことができる。ひいては、異音の発生やギアの劣化を防ぐことができる。
【0067】
(5)車軸の慣性力が慣性力閾値よりも大きいことを条件として、オン期間θcが制限される。よって、オン期間θcを制限することによってトルクリップルが大きくなっても、ドラビリティ及びNVの悪化を防ぐことができる。
【0068】
(他の実施形態)
以上、本開示を実施するための形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0069】
(a)上記実施形態では、MG15は、3相の交流モータジェネレータであったが、3相以外の単相、2相、又は4相以上の多相の交流モータジェネレータでもよい。また、MG15が、電動機としての機能と発電機としての機能を備えていたが、発電機としての機能は備えていなくてもよい。
【0070】
(b)上記実施形態では、利用率閾値を0.78に設定したが、利用率閾値は0.78に限定されるものではない。例えば、利用率閾値をPMW制御の電圧利用率mの上限値0.613に設定して、インバータ13の動作領域が第1の過変調制御の領域である場合には、オン期間θcを制限しないようにしてもよい。利用率閾値は、0.613以上で0.78以下の値に設定すればよい。
【0071】
(c)上記実施形態では、電圧利用率mが利用率閾値未満、且つ、所定の条件(i)~(iii)がすべて満たされた場合に、オン期間θcを制限したが、本開示はこれに限定されるものではない。本開示は、所定の条件(i)~(iii)がすべて満たされていることが望ましいが、電圧利用率mが利用閾値未満、且つ、所定の条件(i)~(iii)のうちの少なくも1つが満たされている場合に、オン期間θcを制限してもよい。また、本開示は、電圧利用率mが利用閾値未満の場合には、所定の条件(i)~(iii)が満たされているか否かにかかわらず、オン期間θを制限してもよい。
【0072】
(d)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0073】
(e)上述した回転電機の駆動制御装置の他、当該回転電機の駆動制御装置を構成要素とするシステム、当該回転電機の駆動制御装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、回転電機の駆動制御方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0074】
11…直流電源、13…インバータ、20…制御装置、23…電圧指令値算出部、25…2相3相変換部、27…制御信号生成部、40…トルク指令部、100…MGシステム、S1~S6…スイッチング素子。