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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】研磨方法および研磨装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 7/24 20060101AFI20220921BHJP
   B24B 37/12 20120101ALI20220921BHJP
   B24B 37/28 20120101ALI20220921BHJP
   G03F 1/50 20120101ALI20220921BHJP
   G03F 1/84 20120101ALI20220921BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
B24B7/24 Z
B24B37/12 C
B24B37/12 D
B24B37/28
G03F1/50
G03F1/84
C03C19/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018113636
(22)【出願日】2018-06-14
(65)【公開番号】P2019214111
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】506214390
【氏名又は名称】株式会社ファインサーフェス技術
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【弁理士】
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】堀口 秀
(72)【発明者】
【氏名】内田 亮
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-004821(JP,A)
【文献】特開2017-161807(JP,A)
【文献】特開2000-288922(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0099858(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 7/17 - 7/24
B24B 37/00 - 37/34
H01L 21/027
H01L 21/304
G03F 1/50
G03F 1/84
C03C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクブランクとする矩形ガラス基板を研磨する方法であって、
前記矩形ガラス基板の成膜面側となる加工面が凹型状となるように研磨する凹研磨工程と、
前記凹研磨工程後に、前記加工面が前記所定の凹型状であるか検査する検査工程と、
前記検査工程後に、前記加工面の周縁領域を主に研磨する周縁研磨工程と、
を有し、
前記検査工程において、前記加工面をルジャンドル解析した際の二次項係数が0以下または30nm以上の範囲で凸型状または鞍型状となっている前記矩形ガラス基板を除去し、凹型状となった前記矩形ガラス基板のみを選択して後工程である前記周縁研磨工程に送る
ことを特徴とする研磨方法。
【請求項2】
前記凹研磨工程が、
研削機能を有した平面によりおこなわれるラッピング工程と、
前記ラッピング工程後に施され、前記ラッピング工程のダメージを除去するポリッシュ工程と、
を有する
ことを特徴とする請求項1記載の研磨方法。
【請求項3】
前記凹研磨工程が、前記矩形ガラス基板を上下定盤に挟持されたキャリアによって保持する両面研磨とされ、
前記キャリアが、前記矩形ガラス基板端部周囲に位置する内キャリアと、前記内キャリアの周囲に位置して前記内キャリアを面内回転可能とする外キャリアとを用いるダブルキャリア方式とされる
ことを特徴とする請求項1または2記載の研磨方法。
【請求項4】
記周縁研磨工程において、前記矩形ガラス基板端部周囲に位置するキャリアの厚さが、前記矩形ガラス基板端部の厚さに対して0.5~1.5mm薄くなるよう設定される
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の研磨方法。
【請求項5】
前記検査工程において除去した前記矩形ガラス基板を、前記凹研磨工程まで戻す
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか記載の研磨方法。
【請求項6】
前記凹研磨工程および/または前記周縁研磨工程において、研磨布表面にナップ層を有する
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか記載の研磨方法。
【請求項7】
請求項3から6のいずれか記載の研磨方法に用いる研磨装置であって、
前記矩形ガラス基板を前記キャリアによって保持して上下定盤に挟持させ、前記上下定盤および前記キャリアを前記矩形ガラス基板の被加工面と垂直な軸まわりにそれぞれ回転させて前記矩形ガラス基板の両面を研磨加工する
ことを特徴とする研磨装置。
【請求項8】
前記矩形ガラス基板端部周囲に位置する前記キャリアの厚さが、前記矩形ガラス基板端部の厚さに対して薄くなるよう設定される
ことを特徴とする請求項7記載の研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨方法および研磨装置に関し、特に、透過型マスクブランク、反射型マスクブランク用ガラス基板研磨に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
マスクブランク用矩形基板(例えば152x152mm)の製造においては、特許文献1に記載されるように、円形シリコンウエハーで使用されているような遊星歯車機構を利用した研磨工程(以後両面研磨)がおこなわれている。
【0003】
特許文献1に示されるような両面研磨では、マスクブランク用矩形基板を、この矩形基板と略同一のサイズである落とし込み抜き領域を有するキャリアに保持しながら両面研磨することになる。矩形基板は自公転されながら研磨されるが、キャリアの落とし込み抜き領域の位置により、自公転時に研磨布との接触距離が変化し、矩形基板における面内での研磨量に違いが発現し、それにより、平坦度の面内ばらつきが発生する。
【0004】
このような両面研磨工程でマスクブランク用ガラス基板を研磨すると、マスク形成面を上面として、凸型(上凸)、凹型(下凸)、鞍型という、代表的な形状を持った平坦度を有するガラス基板が得られる。
【0005】
平坦度のさらなる要請に対し、歯車のない内キャリアが歯車のある外キャリアに入れ込まれたダブルキャリアを使った研磨方法が提案されている(特許文献2)。
このようなダブルキャリア方式では、内キャリアが自在に外キャリアのなかで動くので、基板面内で板厚の厚い領域に選択的に研磨圧がかかり、平坦度の改善、面内板厚ばらつきの補正が可能とされている。
【0006】
現在、透過型マスクブランクでは、6インチサイズ基板で100nm以下、反射型(EUV用)マスクブランクで50nm以下というような、高精度な平坦度の要請があり、さらに、これらよりも平坦度の高い(小さい数値の平坦度)基板の供給に対する要請も出されてきている。
【0007】
このような高平坦度の基板を実現するために、特許文献3に記載されるように、局所研磨をおこなうことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平11-010530号公報
【文献】特開2012-091315号公報
【文献】特開2014-149351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1,2に示されるような両面研磨において、鞍型形状を有するような平坦度の基板になった場合には、その後、研磨を続けても、平坦度の良い平面が得られず、研削工程まで戻して再研磨する必要があるという問題があった。
このため、この両面研磨における製造途中の基板形状(平坦度の状態)として、続けて研磨をおこなってもよいか否かの基準を設定したいという要求がある。
【0010】
また、製造途中に確認した際にはよい平坦度となっていた矩形基板を、続けて研磨した際に、周囲四辺において研磨量が大きくなってしまうという、面ダレ形状が発生する場合があり、これを防止したいという要求があった。
【0011】
さらに、特許文献3に記載された局所研磨のように、工程数が多く作業時間が長く高コストな方法を用いることなく高平坦度の矩形基板を実現することを可能にしたいという要求があった。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1.透過型マスクブランク、反射型マスクブランクに用いることが可能な高平坦度の矩形ガラス基板を、少工程数、短時間、低コストで製造可能とすること。
2.高平坦度の矩形ガラス基板を高収率で製造可能とすること。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者らは、矩形ガラス基板を研磨する際に、前半の研磨工程で形成された加工面の形状によって、最終的な加工面の平坦度が影響されることを見出した。具体的には、砂研磨、ラッピング、と進められた段階で、矩形ガラス基板の研磨面は、その傾向として、以下の三種類に分類できる。
1.凸型状(図7
2.凹型状(図8
3.鞍型状(図9
【0014】
これらは、いずれも、最終製品である矩形ガラス基板をマスクブランクスとする祭に、マスク層等を積層する成膜面となる加工面において、中心が周縁よりも突出した形状を凸状、その反対に加工面において、中心が周縁よりも凹んだ形状を凹型状、周縁における凹凸(面垂直方向における位置)が中心に対して、凹部と凸部とを有するものを意味する。
【0015】
このなかで鞍型状は、特に、矩形の対角位置となる角部がそれぞれ凹部と凸部となっていることが多く、この鞍型状からは、後工程である仕上げ研磨をどのようにしても、平坦度の改善は望めないということがわかった。
このような知見を元に、本願発明者らは、平坦度の高い矩形ガラス基板を製造可能な本発明を完成した。
【0016】
本発明の研磨方法は、マスクブランクとする矩形ガラス基板を研磨する方法であって、
前記矩形ガラス基板の成膜面側となる加工面が凹型状となるように研磨する凹研磨工程と、
前記凹研磨工程後に、前記加工面が前記所定の凹型状であるか検査する検査工程と、
前記検査工程後に、前記加工面の周縁領域を主に研磨する周縁研磨工程と、
を有し、
前記検査工程において、前記加工面をルジャンドル解析した際の二次項係数が0以下または30nm以上の範囲で凸型状または鞍型状となっている前記矩形ガラス基板を除去し、凹型状となった前記矩形ガラス基板のみを選択して後工程である前記周縁研磨工程に送る
ことにより上記課題を解決した。
本発明において、前記凹研磨工程が、
研削機能を有した平面によりおこなわれるラッピング工程と、
前記ラッピング工程後に施され、前記ラッピング工程のダメージを除去するポリッシュ工程と、
を有することがより好ましい。
本発明は、前記凹研磨工程が、前記矩形ガラス基板を上下定盤に挟持されたキャリアによって保持する両面研磨とされ、
前記キャリアが、前記矩形ガラス基板端部周囲に位置する内キャリアと、前記内キャリアの周囲に位置して前記内キャリアを面内回転可能とする外キャリアとを用いるダブルキャリア方式とされることが可能である。
また、本発明において、前記周縁研磨工程において、前記矩形ガラス基板端部周囲に位置するキャリアの厚さが、前記矩形ガラス基板端部の厚さに対して0.5~1.5mm薄くなるよう設定される手段を採用することもできる。
また、前記検査工程において除去した前記矩形ガラス基板を、前記凹研磨工程まで戻すことができる。
また、前記凹研磨工程および/または前記周縁研磨工程において、研磨布表面にナップ層を有することが好ましい。
本発明の研磨装置は、上記のいずれか記載の研磨方法に用いる研磨装置であって、
前記矩形ガラス基板を前記キャリアによって保持して上下定盤に挟持させ、前記上下定盤および前記キャリアを前記矩形ガラス基板の被加工面と垂直な軸まわりにそれぞれ回転させて前記矩形ガラス基板の両面を研磨加工することができる。
本発明においては、前記矩形ガラス基板端部周囲に位置する前記キャリアの厚さが、前記矩形ガラス基板端部の厚さに対して薄くなるよう設定されることができる。
【0017】
本発明の研磨方法は、マスクブランクとする矩形ガラス基板を研磨する方法であって、
前記矩形ガラス基板の成膜面側となる加工面が凹型状となるように研磨する凹研磨工程と、
前記凹研磨工程後に、前記加工面の周縁領域を主に研磨する周縁研磨工程と、
を有することにより、これらの凹研磨工程と周縁研磨工程とを組み合わせることで、最終的な矩形ガラス基板の成膜面における平坦度を向上することができることを見出した。
【0018】
本発明において、前記凹研磨工程後に凹型状とされた前記加工面が、ルジャンドル解析した際の二次項係数が所定の範囲となる形状に設定されていることがより好ましい。
上述したように、凹型状とされた矩形ガラス基板を仕上げの工程において処理した場合に、必要な平坦度を有する矩形ガラス基板を製造することが可能となるが、この凹型状の状態を規定するために、必要な条件、つまり、最終工程である仕上げの工程へと供するに足る矩形ガラス基板における加工面の状態は、ルジャンドル解析した際の二次項係数が所定の範囲となる状態であることを本願発明者らは見出した。
【0019】
具体的には、矩形ガラス基板における加工面において、xは横方向の座標、yは縦方向の座標、Wは高さ方向の座標を示し、横方向、縦方向および高さ方向は互いに垂直であるとした際に、解析に用いるルジャンドル多項式は、次のように示される。
【0020】
【数1】
【0021】
W(x,y)はm、nをどのような大きな自然数でもとることができるので、どのような複雑な面形状を表すことが可能である。解析すべき表面形状は、粗さ、微小うねり、平坦度という成分に大別できる。その中で、平坦度に着目すると、五次項までとれば、必要なほとんどの成分が抽出できると思われる。
ルジャンドル多項式で5次までの表面形状をグラフとして図5に示す。その中で、本発明における凹形状の規定にもっとも有効なのは、第二次項である。
【0022】
本発明においては、第二次項の係数、P[2](x)の値が0.00~0.03μm、P[2](y)の値が0.00~0.03μmの範囲にあるときには、他の次数の係数の値に比べ、仕上げ後の加工面における平坦度が高くなることを見出した。
【0023】
本発明は、前記凹研磨工程が、前記矩形ガラス基板を上下定盤に挟持されたキャリアによって保持する両面研磨とされ、
前記キャリアが、前記矩形ガラス基板端部周囲に位置する内キャリアと、前記内キャリアの周囲に位置して前記内キャリアを面内回転可能とする外キャリアとを用いるダブルキャリア方式とされることにより、凹研磨工程によって、透過型マスクブランク、反射型マスクブランクに用いることが可能な程度の平坦度を有する矩形ガラス基板を製造することができる凹型状の加工面を形成することが可能になる。
このダブルキャリア方式では、鞍型形状は発生し難いことを見出した。
【0024】
また、本発明において、前記凹研磨工程および/または前記周縁研磨工程において、前記矩形ガラス基板端部周囲に位置するキャリアの厚さが、前記矩形ガラス基板端部の厚さに対して薄くなるよう設定されることにより、凹研磨工程および/または周縁研磨工程において、基板周縁部における研磨量が所定料を越えてしまい、周縁部において面ダレを起こすことを防止できる。
【0025】
また、前記凹研磨工程後に、前記加工面が前記所定の凹型状であるか検査する検査工程を有することにより、後工程において所望の平坦度を実現できない加工面を有する基板を排除して、収率を向上することが可能となる。
【0026】
また、前記凹研磨工程および/または前記周縁研磨工程において、研磨布表面にナップ層を有することにより、各研磨工程において、所望の研磨状態となる加工面を有する矩形ガラス基板を有することが可能となる。
【0027】
本発明の研磨装置は、上記のいずれか記載の研磨方法に用いる研磨装置であって、
前記矩形ガラス基板を前記キャリアによって保持して上下定盤に挟持させ、前記上下定盤および前記キャリアを前記矩形ガラス基板の被加工面と垂直な軸まわりにそれぞれ回転させて前記矩形ガラス基板の両面を研磨加工することにより、あらかじめ所定の凹型状に研磨加工した矩形ガラス基板をさらに仕上げ研磨して、所定の平坦度を有し、透過型マスクブランク、反射型マスクブランクに用いることが可能な矩形ガラス基板を製造することができる。
【0028】
回転する上下両定盤の研磨面間にキャリアで保持された前記矩形ガラス基板を挟持し、前記矩形ガラス基板の両主表面を研磨する研磨装置であって、
前記キャリアは、
1枚の前記矩形ガラス基板を保持する基板保持部を備える内キャリアと、
前記内キャリアを回動自在に保持するキャリア保持部を複数有する外キャリアとからなり、
前記外キャリアを前記定盤の回転軸を中心に公転かつ自転させて前記矩形ガラス基板の両主表面を研磨する手段か、 前記キャリア保持部は真円状の開口である手段か、前記複数のキャリア保持部は、前記外キャリアの自転軸からの距離が等しい位置にそれぞれ設けられている手段か、前記外キャリアは外周に歯車が設けられており、
前記両面研磨装置は、
前記定盤の中心部に、当該定盤の回転軸と同心の回転軸で回転する太陽歯車が備えられ、
前記定盤の外周に、リング状で内側に歯車を有し、当該定盤の回転軸と同心の回転軸で
回転する内歯歯車が備えられ、
前記太陽歯車と前記内歯歯車が前記外キャリアの歯車と噛み合うことによって当該外キャリアを公転および自転させる手段か、前記上下両定盤の研磨面は、研磨布が設けられ、該研磨布表面に砥粒が含有されたナップ層を備える手段のいずれか、またはこれらを組み合わせて採用することができる。
【0029】
本発明においては、前記矩形ガラス基板端部周囲に位置する前記キャリアの厚さが、前記矩形ガラス基板端部の厚さに対して薄くなるよう設定されることにより、周縁部における面ダレの発生を防止して、好ましい平坦度を有する矩形ガラス基板を製造することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、凹型状の加工面を形成する凹研磨工程と仕上げ工程となる周縁研磨工程とを組み合わせることで、最終的な矩形ガラス基板の成膜面における平坦度を向上して、透過型マスクブランク、反射型マスクブランクに用いることが可能な矩形ガラス基板を収率よく低コストに製造することができるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係る研磨装置の第1実施形態を模式的に示す分解斜視図である。
図2】本発明に係る研磨方法および研磨装置の第1実施形態を示す模式断面図である。
図3】本発明に係る研磨方法および研磨装置の第1実施形態を示す模式断面図である。
図4】本発明に係る研磨方法の第1実施形態における工程を示すフローチャートである。
図5】本発明に係る研磨方法の第1実施形態における加工面形状のルジャンドル多項式での次数による状態を示す図である。
図6】本発明に係る研磨方法の第1実施形態における平坦度が0.05μmと0.5μmにおけるルジャンドル多項式での次数等の実測値を示す比較図である。
図7】本発明に係る研磨方法の第1実施形態における凹研磨工程後の加工面を示す模式図である。
図8】本発明に係る研磨方法の第1実施形態における凹研磨工程後の加工面を示す模式図である。
図9】本発明に係る研磨方法の第1実施形態における凹研磨工程後の加工面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る研磨方法および研磨装置の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態における研磨装置を模式的に示す分解斜視図であり、図2は、本実施形態における研磨方法および研磨装置を示す模式断面図であり、図3は、本実施形態における研磨方法および研磨装置を示す模式断面図であり、図において、符号10は、研磨装置である。
【0033】
本実施形態に係る研磨装置10は、透過型マスクブランク、反射型マスクブランクに用いることが可能な矩形ガラス基板20を両面研磨するものとされる。
【0034】
本実施形態に係る研磨装置10は、図1に示すように、上下一対の定盤3,4を備えている。これら定盤3,4は、それぞれの互いに対向する平面が研磨機能を有して構成されている。この研磨面には、後述するラッピング工程S01で用いられる剛性を有する定盤表面、あるいは、砥粒を含有する固定砥粒部を備える面、または、後述するポリッシュ工程S02またはスーパーポリッシュ工程S04で用いられる研磨布が設けられた柔軟な面、などを採用することができる。
【0035】
後述するラッピング工程S01で用いられる剛性を有する定盤3,4表面としては、例えば研削機能を有して構成されている。研削機能を有した平面(以下「研削面」という。)は、砥粒が固定された固定砥粒部を備えることによって実現すればよい。具体的には、例えば、研削面の形成材料として、球状黒鉛を含有する材料やダイヤモンド砥粒を含有する材料等を用いることによって、固定砥粒部としての機能(すなわち研削機能)を実現することが考えられる。ただし、必ずしも固定砥粒部による研削機能の実現に限定されることはなく、例えば、定盤3,4の平面に複数の溝を格子状に形成してこれを研削面とし、その溝にアルミナ砥粒等を含有する研削液を供給することによって、流動的に研削機能を実現することも考えられる。
【0036】
固定砥粒部としては、多数の砥粒を適当な結合剤(ボンド)でペレット状あるいはシート状に固定したものが好ましい。固定砥粒部に固定される砥粒(粒子)としては、ダイヤモンド、CBN(立方晶窒化ホウ素)、炭化ケイ素、アルミナなどがあげられる。特にダイヤモンドが好適である。ダイヤモンド粒子を含む固定砥粒部としては、ダイヤモンドペレットやダイヤモンドシートなどが適用できる。ダイヤモンドペレットは、ダイヤモンド砥粒(粒子)を、樹脂(レジンボンド)、金属(メタルボンド)、粘土質結合剤(ビトリファイドボンド)で固結したものであり、薄い円盤状の固結体である。このダイヤモンドペレットは、定盤3、4の平面に接着剤等で貼り付けられ、固定砥粒部を形成する。
【0037】
ダイヤモンドシートは、ダイヤモンド砥粒(粒子)を樹脂(レジンボンド)で固めてシート状にしたものである。ダイヤモンドペレットやダイヤモンドシートの場合、ダイヤモンド砥粒(粒子)の粒度は、#1000~#4000程度が好ましく、#3000程度(例えば、#2900~#3100)がより好ましい。特にレジンボンドで砥粒(粒子)を固定した固定砥粒部を適用する場合においては、遊離砥粒を含む研削液を定盤の表面に供給することが望ましい。遊離砥粒が供給されない状態で、ガラス基板の主表面を研削し続けた場合、固定砥粒部の研削面にレジンボンドが固着して砥粒(粒子)が露出しなくなる目つぶれの現象を引き起こすことがあるためである。遊離砥粒としては、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素などの砥粒があげられる。特に、アルミナが好ましい。
【0038】
後述するポリッシュ工程S02またはスーパーポリッシュ工程S04で用いられる研磨布としては、例えばウレタン系研磨パッド、不織布系研磨パッド、またはスウェード系研磨パッドなどが用いられる。
【0039】
また、本実施形態においては、図3に示すように、定盤3,4に設けられて、後述するポリッシュ工程S02またはスーパーポリッシュ工程S04で用いられる研磨布(パッド)の表面に、ナップ層(NAP層)と呼ばれる多孔質の樹脂層21,22を設けることもできる。この場合、図3に示すように、矩形ガラス基板20よりも内キャリア16が薄く設定されていることにより、可撓性のあるナップ層21,22が矩形ガラス基板20表面よりも薄い内キャリア16に接した状態で研磨がおこなわれるが、上述したように、内キャリア16と矩形ガラス基板20との厚さ寸法の関係を設定することで、矩形ガラス基板20周縁が必要以上に研磨されることがなく、面ダレを発生することがない。
【0040】
ナップ層(樹脂層)21,22は、研磨布上に形成されており、矩形ガラス基板20に当接する面に開口孔を有する。ナップ層(樹脂層)21,22を形成する樹脂としては、例えばポリウレタンやポリカーボネートなどが用いられる。
ナップ層(樹脂層)21,22を形成する樹脂の100%モジュラスが5MPa以上、14MPa以下であれば、ナップ層(樹脂層)21,22が硬いため、ナップ層(樹脂層)21,22の平坦な研磨面によって凸と凹の間隔が短い高次成分の平坦度が改善できる。ナップ層(樹脂層)21,22を形成する樹脂の100%モジュラスは、好ましくは10MPa以上12MPa以下である。
【0041】
後述するポリッシュ工程S02またはスーパーポリッシュ工程S04で用いられる研磨スラリーは、研磨粒子と分散媒とを含む。研磨粒子は、例えばコロイダルシリカ、酸化セリウム、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、ダイヤモンド、チタニア、またはゲルマニアなどで形成される。分散媒としては、水、または有機溶媒などが用いられる。研磨スラリーは、定盤3,4の研磨布と矩形ガラス基板20との間に供給される。
【0042】
これら定盤3,4の間には、これらの中心軸(以下「回転軸」ともいう。)と同心となる位置に回転可能に配された太陽歯車11と、太陽歯車11の外周側にて当該太陽歯車11と同心で回転可能に配された内歯歯車12とが設けられている。さらに、太陽歯車11の外周側で、かつ、内歯歯車12の内周側となる位置には、外キャリア13が設けられている。この外キャリア13は、その外周部に、太陽歯車11および内歯歯車12に噛合する歯車部14を有している。したがって、太陽歯車11および内歯歯車12の両方、または、いずれか一方を回転駆動すると、外キャリア13は、定盤3,4の回転軸を中心にして、公転かつ自転することになる。
【0043】
また、外キャリア13には、図1に示すように、真円状の開口であるキャリア保持部15が複数設けられている。これら複数のキャリア保持部15は、外キャリア13の自転軸からの距離が等しい位置に、それぞれが設けられている。なお、本実施形態では、2つのキャリア保持部15が存在している場合を示しているが、複数設けられていればその数については特に限定されるものではない。
【0044】
外キャリア13における各キャリア保持部15内には、それぞれに内キャリア16が保持されている。内キャリア16は、その外形がキャリア保持部15と同様に真円状に設けられている。また、内キャリア16は、回動自在に保持される程度にキャリア保持部15の内径よりも小さな外径を有している。キャリア保持部15と内キャリア16との間の隙間は、大きくなり過ぎると内キャリア16がキャリア保持部で揺動してしまう。揺動すると、オーバーハングしたときの矩形ガラス基板20の主表面形状に悪影響を与える恐れがあるので、キャリア保持部15の内径は、内キャリア16が揺動しない程度で、かつ回動自在に保持される程度となるように設定することが望ましい。
【0045】
また、各内キャリア16には、矩形状の開口である基板保持部17が一つ設けられている。この基板保持部17内には、研磨工程の処理対象となる矩形ガラス基板20が保持されることになる。矩形ガラス基板20が保持される基板保持部17の中心位置は、内キャリア16の回動中心と一致させることが考えられる。
【0046】
内キャリア16は、図2に示すように、矩形ガラス基板20よりもやや薄い円板状に形成されている。さらには、外キャリア13は、内キャリア16よりもやや薄い厚さで形成されている。したがって、上下一対の定盤3,4が矩形ガラス基板20を挟持すると、その矩形ガラス基板20は、両主表面が各定盤3,4によって保持されるとともに、周縁部が内キャリア16における基板保持部17の内縁部に保持された状態となる。そして、その状態において、外キャリア13および内キャリア16が、上下一対の定盤3,4の各研磨面に接触してしまうことはほとんどない。
なお、図2では、内キャリア16のみを示している。
【0047】
内キャリア16、つまり、矩形ガラス基板20の直近外側位置にあるキャリアを矩形ガラス基板20よりも薄く設定することで、後述するように、矩形ガラス基板20周縁部における面ダレの発生を防止することができる。
具体的には、内キャリア16を矩形ガラス基板20よりも0.5~1.5mmの範囲で薄く設定することが好ましい。
【0048】
また、内キャリア16輪郭と、矩形状の開口である基板保持部17輪郭との最近接距離、つまり、円形とされた内キャリア16の輪郭と、この内キャリア16と同心状に形成された矩形状の基板保持部17輪郭とが、最も接近している基板保持部17輪郭角部から内キャリア16の円形輪郭までの距離が、20mm以上、好ましくは、30mm以上、50mm以下となるように設定される。
【0049】
本実施形態において用いる両面研磨装置(研磨装置)10は、矩形ガラス基板20を保持するためのキャリアが、外キャリア13と内キャリア16とから構成されている。つまり、単体構成のシングルキャリアではなく、外キャリア13と内キャリア16とからなるダブルキャリア構造によって、矩形ガラス基板20を保持するようになっている。これら太陽歯車11、内歯歯車12、および、外キャリア13と内キャリア16のダブルキャリア構造によって、両面研磨装置における遊星歯車機構が構成されている。
【0050】
本実施形態の両面研磨装置10は、上下両定盤3,4の間に矩形ガラス基板20が挟持された状態で、これらの相対位置を移動させる。相対位置の移動は、太陽歯車11および内歯歯車12の両方、または、いずれか一方を回転駆動して、外キャリア13を公転かつ自転させることで行う。このとき、太陽歯車11、内歯歯車12等の回転駆動に合わせて、定盤3,4の両方、または、いずれか一方についても、回転駆動することが好ましい。このようにして定盤3,4に対する矩形ガラス基板20の相対位置を移動させることで、矩形ガラス基板20の両主表面に対して上下から同時に研磨を行う。
【0051】
なお、外キャリア13に対して内キャリア16が固定された状態のシングルキャリアとして、研磨をおこなうことも可能である。特に、後述する仕上げの工程においては、シングルキャリアとして研磨をおこなうことが好ましい。
【0052】
以下、本実施形態における研磨方法について説明する。
図4は、本実施形態における研磨方法における工程を示すフローチャートである。
【0053】
本実施形態における研磨方法は、図4に示すように、ラッピング工程S01と、ポリッシュ工程S02と、形状検査工程S03と、スーパーポリッシュ工程S04とを有するものとされる。
【0054】
本実施形態における研磨方法は、矩形ガラス基板20を製造するためのものとされ、矩形ガラス基板20は、マスクブランクの基材となるもので、例えば合成石英ガラスによって透光性を有する板状に形成されたものである。ただし、合成石英ガラスに限定されることはなく、例えば、石英ガラス、CaF、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、アルミノシリケートガラス、SiO-TiO等に代表される低熱膨張ガラスなどを用いて形成することも考えられる。また、β石英固溶体を析出した結晶化ガラスも適用可能である。
【0055】
特に、矩形ガラス基板20のガラスは、SiOを90質量%以上含む石英ガラスが好ましい。石英ガラスに占めるSiO含有量の上限値は、100質量%である。石英ガラスは、一般的なソーダライムガラスに比べて、線膨張係数が小さく、温度変化による寸法変化が小さい。
【0056】
さらに、石英ガラスは、SiOの他に、TiO含んでよい。石英ガラスは、SiOを90~95質量%、TiOを5~10質量%含んでよい。TiO含有量が5~10質量%であると、室温付近での線膨張係数が略ゼロであり、室温付近での寸法変化がほとんど生じない。石英ガラスは、SiOおよびTiO以外の微量成分を含んでもよいが、微量成分を含まないことが好ましい。
【0057】
矩形ガラス基板20は、マスクブランク用基板は、平面形状が矩形状、すなわち、四つの角が全て等しい四角形状である正方形状あるいは長方形状とされる輪郭形状を有するように形成されている。さらに、長方形や正方形の他、長方形や正方形の角を面取りした形を含む。なお、加工面とは、回路パターンとなるマスク層等を成膜する面とされ、多くは、下定盤3で加工される側である。
【0058】
ラッピング工程S01は、矩形ガラス基板20の成膜面側となる加工面が凹型状となるように研磨する凹研磨工程を構成しており、ラッピング処理(砂研磨処理)を含有するものとされる。
【0059】
ラッピング工程(砂研磨工程)S01におけるラッピング処理は、ダブルキャリアによる両面処理とされ、さらに、スライス加工時等の前工程におけるガラスダメージを除去するために一定以上の研磨量が必要となる。また、加工レートは高いほうが望ましく、仕上がりの表面粗さとの兼ね合いで設定される。また、平坦度も重要である。特に、その平坦度は、2.0μm以下、望ましくは1.0μm以下、0.5μm以下程度の処理をおこなうものとされる。
【0060】
なお、ラッピング工程S01におけるラッピング処理は、上述した研磨装置10において、定盤3,4を鋳鉄製として、比較的粗い砥粒(例えば粒径10μm以上程度)を使用し、矩形ガラス基板20に対して上下定盤3,4の圧力、および、下定盤3の回転数、上定盤4の回転数、内歯歯車12の回転数、太陽歯車11の回転数、キャリア13,16の公転数、キャリア13,16の自転数をそれぞれ適切に設定するという条件でおこなうことができる。
さらに、このラッピング処理は、1段階あるいは複数段階行われることができる。
【0061】
ポリッシュ工程S02は、ラッピング工程S01後に施され、矩形ガラス基板20の成膜面側となる加工面が凹型状となるように研磨する凹研磨工程を構成している。
【0062】
ポリッシュ工程S02は、ダブルキャリアによる両面研磨とされ、さらに、その形状(特に板厚)について所定寸法精度を得つつ、ラッピング工程のダメージを除去するために一定以上の研磨量が必要となる。また表裏の加工面が平坦面に加工され、特に、その平坦度は、1.0μm以下、望ましくは0.5μm以下、0.1μm以下程度の処理をおこなうものとされる。
【0063】
ポリッシュ工程S02は、上述した研磨装置10において、酸化セリウム砥粒を使用して、矩形ガラス基板20に対して上下定盤3,4の圧力、および、下定盤3の回転数、上定盤4の回転数、内歯歯車12の回転数、太陽歯車11の回転数、キャリア13,16の公転数、キャリア13,16の自転数をそれぞれ適切に設定するという条件でおこなうことができる。
【0064】
さらに、このポリッシュ工程S02は、1段階あるいは複数段階行われる場合、研磨剤の粒径を段階的に小さくしていくことができる。
例えば、2段階の処理とした場合、初めの粗研磨工程としては、平均粒径2~3μmの酸化セリウム砥粒を含む研磨液を用い、定盤にウレタンタイプの研磨パッドを貼り付けた研磨面で矩形ガラス基板20の両面を研磨するものとできる。さらに、2段目の精密研磨工程としては、平均粒径1μmの酸化セリウム砥粒を含む研磨液を用い、定盤にスウェードタイプの研磨パッドを貼り付けた研磨面で矩形ガラス基板20の両面を研磨するものとできる。
【0065】
ラッピング工程S01とポリッシュ工程S02とによって、矩形ガラス基板20の成膜面側となる加工面が凹型状に処理される。
【0066】
形状検査工程S03においては、前工程である凹研磨工程によって処理された加工面の形状を検査する。具体的には、平坦度測定器により、矩形ガラス基板20の加工面を測定し、そのデータをルジャンドル解析する。
【0067】
次に、加工面の形状を規定する手法について説明する。
【0068】
矩形ガラス基板20の加工面の面内方向において、直交する二方向として、x方向とy方向とを設定する。また、加工面に鉛直な方向をz方向とし、xy面内における加工面のz方向位置をW(x,y)とすると、加工面の形状W(x,y)は次式で表される。
【0069】
【数2】
【0070】
上記式中、xは横方向の座標、yは縦方向の座標、zは高さ方向の座標を示し、横方向、縦方向および高さ方向は互いに垂直である。また、上記式中、mおよびnはそれぞれ0以上の自然数であって、かつ、mとnの和が0以上30以下である。P[m](x)やP[n](y)は、一般的にルジャンドル多項式と呼ばれる。ルジャンドル多項式は直交多項式であるため、係数a(m,n)の値はm、nの上限値には依存しない。W(x,y)は、mとnの和が0以上の全てのa(m,n)P[m](x)P[n](y)を含むので、複雑な面形状を十分に表すことができる。以下、mとnとの和を次数k(k=m+n)と呼ぶ。
【0071】
図5は、次数kが1~5のときのP[m](x)P[n](y)が表す面形状を示す図である。図5では、代表的に、(m,n)の組合せが(0,0)、(1,0)、(2,0
)、(3,0)、(4,0)、(5,0)のときのP[m](x)P[n](y)が表す面形状を示す。
【0072】
図5に(m,n)=(0,0)で示すように、次数kが0(ゼロ)のときのP[m](x)P[n](y)によって表される面は、xy平面(z=0)に対して平行なオフセット面であり、平面であるので、加工面の平坦度に影響を与えない。
【0073】
図5に(m,n)=(1,0)で示すように、次数kが1のときのP[m](x)P[n](y)によって表される面は、xy平面に対して傾斜した平面であるので、加工面の平坦度に影響を与えない。
【0074】
図5に(m,n)=(2,0)で示すように、次数kが2のときのP[m](x)P[n](y)によって表される面は、下凸の曲面であるので、加工面の平坦度に影響を与える。また、この次数kが2のときの曲面状態が、後工程である周縁研磨工程での仕上げ研磨後における矩形ガラス基板20の加工面平坦度・平滑度に最も大きな影響を与える。
つまり、この次数kが2のときの曲面状態を制御することで、本実施形態における研磨方法で製造された矩形ガラス基板20の加工面を所定の状態に制御することができる。
【0075】
本実施形態における研磨方法においては、この次数kが2のときのP[m](x)P[n](y)の重み、つまり、次数kが2のときの係数a(m,n)の値を次のように、設定する。
0.00≦a(m,n)≦0.05
【0076】
図5に(m,n)=(3,0)で示すように、次数kが3のときのP[m](x)P[n](y)によって表される面は、1つの凸を有する傾斜曲面であるので、加工面の平坦度に影響を与えるが、次数kが2のときの曲面に比べてその寄与は少ない。
【0077】
図5に(m,n)=(4,0)で示すように、次数kが4のときのP[m](x)P[n](y)によって表される面は、2つの下凸を有する曲面であるので、加工面の平坦度に影響を与えるが、次数kが3のときの曲面に比べてさらにその寄与は少ない。
【0078】
図5に(m,n)=(5,0)で示すように、次数kが5のときのP[m](x)P[n](y)によって表される面は、2つの下凸を有する傾斜曲面であるので、加工面の平坦度に影響を与えるが、次数kが4のときの曲面に比べてさらにその寄与は少ない。
【0079】
また、次数kが6以上であるすべてのP[m](x)P[n](y)を足した成分を高次成分と呼ぶ。本実施形態において、高次成分からの寄与は、次数kが5のときの曲面に比べてさらにその寄与は少ないため無視しうるものである。
【0080】
図6は、周縁研磨工程後の加工面の平坦度が0.05μmと0.5μmとなった矩形ガラス基板20における、凹研磨工程後でのルジャンドル多項式における次数等の実測値を示す比較図である。
図6に示すように、P[2](x)およびP[2](y)の値が大きいと、周縁研磨工程後の矩形ガラス基板20加工面の平坦度が悪化する。
【0081】
したがって、本実施形態では、P[2](x)および/またはP[2](y)の値を30nm以下とし、この基準に当てはまらない凹研磨工程後の矩形ガラス基板20をラッピング工程S01の砂研磨まで戻すように選別し、再処理をおこなうものとする。
【0082】
ここで、P[2](x)およびP[2](y)の値が0以下、または大きいとは、具体的に、図8図9に示すように、凸型状または鞍型状となっているものを意味する。
【0083】
これにより、図8図9に示すように、凹研磨工程後に凸型状または鞍型状となっている矩形ガラス基板20を除去し、凹型状となった矩形ガラス基板20のみを選択して後工程に送ることができる。
【0084】
スーパーポリッシュ工程S04は、形状検査工程S03によって選別された矩形ガラス基板20に対して施され、凹型状となった矩形ガラス基板20の成膜面側となる加工面において、その周縁を除去して規定の平坦度となるように研磨する周縁研磨工程を構成している。
【0085】
スーパーポリッシュ工程S04は、シングルキャリアによる両面研磨とされ、さらに、その形状(特に板厚)について所定寸法精度を得つつ、表裏の加工面が平坦面に加工され、表面粗さについても精細化される。
スーパーポリッシュ工程S04は、上述した研磨装置10において、コロイダルシリカを使用し、矩形ガラス基板20に対して上下定盤3,4の圧力、および、下定盤3の回転数、上定盤4の回転数、内歯歯車12の回転数、太陽歯車11の回転数、キャリア13,16の公転数、キャリア13,16の自転数をそれぞれ適切に設定するという条件でおこなうことができる。
【0086】
一例として、スーパーポリッシュ工程S04は、平均粒径50~80nmのコロイダルシリカ砥粒を含む研磨液を用い、定盤にスウェードタイプの研磨パッドを貼り付けた研磨面で矩形ガラス基板20の両面を研磨するものとできる。
【0087】
スーパーポリッシュ工程S04においては、図3に示すように、外キャリア13に対して内キャリア16が固定された状態のシングルキャリアとして、研磨をおこなうことが好ましい。
【0088】
スーパーポリッシュ工程S04においては、図3に示すように、定盤3,4に、ナップ層を21,22を表面に設けた研磨布を用いる。この場合、図3に示すように、矩形ガラス基板20よりも内キャリア16を薄く設定する。
具体的には、内キャリア16を矩形ガラス基板20よりも0.5~1.5mmの範囲で薄く設定する。
【0089】
これにより、可撓性のあるナップ層21,22が矩形ガラス基板20表面よりも薄い内キャリア16に接した状態で研磨がおこなわれるが、キャリア(内キャリア)16と矩形ガラス基板20との厚さ寸法の関係を設定することで、矩形ガラス基板20周縁が必要以上に研磨されることがなく、面ダレを発生することがない。
【0090】
図6は、矩形ガラス基板とキャリアとの厚さの差と、異常形状(面ダレ)発生率との関係を示すものである。
図6に示すように、スーパーポリッシュ工程S04における矩形ガラス基板20とキャリア(内キャリア)16との厚さの差が、1.5mmを越えると、面ダレが発生することが解る。すなわち、この範囲にスーパーポリッシュ工程S04における矩形ガラス基板20とキャリア(内キャリア)16との厚さの差を設定することで、面ダレの発生を防止することが可能となる。
【0091】
本実施形態における研磨方法によれば、研磨装置10を用いて、ラッピング工程S01とポリッシュ工程S02とからなる凹研磨工程によって凹型状の加工面を有する矩形ガラス基板20を得るとともに、凹型状にできなかった矩形ガラス基板20を形状検査工程S03によって排除した後、スーパーポリッシュ工程S04においてキャリア(内キャリア)16との厚さの差を所定範囲として矩形ガラス基板20を周縁研磨工程で処理することにより、面ダレを発生させずに、所望の平坦度を有して、透過型マスクブランク、反射型マスクブランクの製造に用いることが可能な矩形ガラス基板20を収率よく得ることが可能となる。
【0092】
これにより、透過型マスクブランクとして6インチサイズ基板の内側142mm領域で100nm以下,反射型(EUV用)マスクブランクで50nm以下と言うような、高精度な平坦度を有する矩形ガラス基板20を収率よく得ることが可能となるとともに、さらに小さい数値の平坦度を有する矩形ガラス基板20を収率よく得ることが可能となる。
【0093】
また、本実施形態における研磨装置10を用いて、ラッピング工程S01の砂研磨処理からポリッシュ工程S02まで、研磨ロットを揃えて研磨を進めることにより、矩形ガラス基板20の表面形状改善のみならず、面内板厚ばらつきも抑えることができる。
これにより、EUV露光時のマスク保持が裏面全面吸着なので、面内板厚ばらつきが、そのまま、主表面の平坦度に影響する反射型マスクブランクにおいても充分な基板特性を有する矩形ガラス基板20を収率よく得ることが可能となる。
【0094】
特に、形状検査工程S03において、直交多項式の中でもルジャンドル多項式を用いて矩形ガラス基板20加工面形状の解析をおこなうとともに、図7に示す凹型状の基板のみを選別して後工程に送り、スーパーポリッシュ工程S04における処理をおこなうことで、高収率化および低コスト化を図ることができる。
【0095】
なお、本実施形態における各工程での構成を、適宜組み合わせる、あるいは省いておこなうことが可能である。
【0096】
本実施形態における研磨方法によって製造される矩形ガラス基板20は、マスク層等を成膜することで、マスクブランクを製造することができる。
【0097】
マスクブランクは、矩形ガラス基板20の加工面上に薄膜が形成されてなるものとされている。薄膜としては、所定の光学濃度を有する遮光膜、ハーフトーン型位相シフト膜、所定の透過率だけ露光光を透過する半透過膜などがある。また、これらの薄膜には、Cr(クロム)系材料、MSi(遷移金属シリサイド、M:遷移金属)系材料、Ta(タンタル)系材料等を母材とした単層膜または多層膜が用いられる。
【0098】
ここで、前記Cr(クロム)系材料としては、Crのほか、CrN、CrO、CrCN、CrC、CrOC、CrCN、CrOCNなどが挙げられる。遷移金属シリサイド系材料(M:遷移金属)としては、MSiのほか、MSiN、MSiO、MSiCN、MSiC、MSiOC、MSiCN、MSiOCNなどが挙げられる。
【0099】
この遷移金属(M)としては、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pb)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、プラチナ(Pt)、亜鉛(Zn)、金(Au)、銀(Ag)の何れか一つ又は二つ以上の合金等が挙げられる。
【0100】
また、タンタル系材料としては、Taのほか、TaN、TaO、TaON、TaBN、TaBO、TaBON、TaC、TaCN、TaCO、TaCONなどが挙げられる。なお、マスクブランクは、薄膜上にレジスト膜を塗布してなるものであってもよい。
【実施例
【0101】
以下、本発明にかかる実施例を説明する。
【0102】
次の条件で、152x152mmのマスクブランク用矩形ガラス基板を作成した。
まず、石英ガラスからなる6インチサイズ基板を用意し、
ガラス基板厚さ;7.0mm
内キャリア;塩化ビニル製、厚さ;4.0mm
外キャリア;塩化ビニル製、厚さ;4.0mm
として、両面研磨装置の上下定盤に研磨布を貼り付けた後、内キャリアにセットしたマスクブランクス用の矩形ガラス基板を外キャリアに2枚セットするダブルキャリア方式で、5キャリア分の矩形ガラス基板100枚を1ロットとして、同時に以下の研磨条件でラッピングした。なお、加工荷重、処理時間は適宜調整しておこなった。
研削液;酸化アルミニウム、平均粒径;10μm+水
研磨面:鋳鉄FCD450
上定盤回転数:1~50rpm
下定盤回転数:1~50rpm
【0103】
次に、このロットのガラス基板100枚を次の条件でポリッシュした。なお、加工荷重、処理時間は適宜調整しておこなった。
研磨液;酸化セリウム、平均粒径;2~3μm+水
研磨布:軟質ポリシャ(発泡ウレタンタイプ)
上定盤回転数:1~50rpm
下定盤回転数:1~50rpm
次に、このロットのガラス基板100枚を次の条件でポリッシュした。なお、加工荷重、処理時間は適宜調整しておこなった。
研磨液;酸化セリウム、平均粒径;1.0~1.5μm+水
研磨布:軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
上定盤回転数:1~50rpm
下定盤回転数:1~50rpm
【0104】
ポリッシュ後の基板加工面を、トロッペル社製平坦度測定装置により測定して、まず、図7に示す凹型状、図8に示す凸型状、図9に示す鞍型状に分類した。
その結果を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
同時に、加工面形状のデータをルジャンドル多項式により表現した。
この結果のうち、2例を図6に示す。
【0107】
また、1ロット100枚のうち、P[2](x)およびP[2](y)の値が30nm以下のものとし、P[2](x)およびP[2](y)の値が0以下、P[2](x)およびP[2](y)の値が30nm以上のものとを選別した。
その結果を表2に示す。
【0108】
【表2】
【0109】
次に、このロットのガラス基板100枚を次の条件で、かつ、シングルキャリア式としてスーパーポリッシュした。なお、加工荷重、処理時間は適宜調整しておこなった。
研磨液;コロイダルシリカ砥粒、平均粒径;50~80nm+水
研磨布:超軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
ナップ層:ポリウレタン
上定盤回転数:1~50rpm
下定盤回転数:1~50rpm
キャリアと基板との板厚;1.0mm
【0110】
研磨の終了した基板に対して、その加工面の形状、平坦度、を測定した。
その結果を表3に示す。
【0111】
【表3】
【0112】
さらに、キャリアの厚さを表4に示すように変化させ面ダレの発生を観察した。
その結果を表4に示す。
【0113】
【表4】
【0114】
また、比較のため、ポリッシュをシングルキャリアとした以外は同じ条件で研磨をおこなった。
その結果を表5示す。
【0115】
【表5】
【0116】
上記の結果から、以下のことがわかる。
1.シングルキャリアに比べてダブルキャリアでは、凹型状の収率が高い。
2.凹型状でありP[2](x)およびP[2](y)の値が0~50nmにした基板をスーパーポリッシュすると、平坦度50nm以下の取得率が向上する。
3.鞍型状になった基板からは、平坦度が50nm以下の範囲とならない。
4.P[2](x)およびP[2](y)の値が0nm以下、30nm以上であると、平坦度の値が大きくなる。
5.P[2](x)およびP[2](y)の値のみで、凹型状か否かの判定をおこなうことができる。
6.スーパーポリッシュで、基板とキャリアとの厚さの差が0.5~1.5mmであると、面ダレが発生しない。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の活用例として、フォトマスクブランクスArF用ガラス基板、KrF用ガラス基板、バイナリー用ガラス基板、EUV用ガラス基板、MOMG用ガラス基板を挙げることができる。
【符号の説明】
【0118】
10…研磨装置
3,4…定盤
11…太陽歯車
12…内歯歯車
13…外キャリア
14…歯車部
15…キャリア保持部
16…内キャリア
17…基板保持部
20…矩形ガラス基板
21,22…ナップ層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9