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特許7144205硬化肉盛の形成方法および、耐摩耗材、産業機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】硬化肉盛の形成方法および、耐摩耗材、産業機器
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20220921BHJP
【FI】
B23K9/04 F
B23K9/04 S
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018115032
(22)【出願日】2018-06-15
(65)【公開番号】P2019217516
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-07-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594086152
【氏名又は名称】株式会社丸和技研
(74)【代理人】
【識別番号】100179165
【弁理士】
【氏名又は名称】宇都宮 将之
(72)【発明者】
【氏名】嘉屋 文康
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-318369(JP,A)
【文献】特開昭62-101392(JP,A)
【文献】特開昭61-296979(JP,A)
【文献】特開2018-001172(JP,A)
【文献】特開平08-047774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化物及び/又は炭窒化物を含有する硬質粒子を母材上に散布する第1工程、
溶接トーチと前記母材との間にアークを発生させ母材表面を溶融させる第2工程、
前記硬質粒子を未溶融状態で含有する第2工程で溶融された母材を凝固することにより硬化肉盛層を得る第3工程からなり、
前記第1工程と前記第2工程と前記第3工程を繰り返し行うことにより、連続して硬化肉盛層を形成する硬化肉盛層形成方法。
【請求項2】
前記第1工程の直後に前記第2工程が行われることを特徴とする請求項1に記載の硬化肉盛層形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質粒子としてサーメット等を使用した硬化肉盛の形成方法、この方法により硬化肉盛を形成した耐摩耗材、および耐摩耗材を使用した産業機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の硬化肉盛を形成する方法としては、溶融池に上方から 炭化タングステン等の硬質粒子を散布することで、板状体の表面に、内部に硬質粒子が添加された硬化肉盛層を形成する方法が知られている(特許文献1および特許文献2)。これらの形成方法によれば、硬化肉盛層内部に硬質粒子が含まれるため、耐摩耗性に優れた硬化肉盛板を形成することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-47774号公報
【文献】特開2008-763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の様な硬化肉盛層の形成方法では、耐摩耗性を向上させるために硬化肉盛層の硬度を高めることができるものの、硬度が向上すれば亀裂が生じ易くなるという問題があり、亀裂を生じ難くするためには延性を向上させることで今度は硬度が低下して耐摩耗性の低下の恐れが生じてしまう。また、炭化チタン(TiC)等の硬質粒子の硬度は高いものであるが、母相金属に比べると比重が小さい。従って、従来の硬化肉盛層の形成方法(アーク溶接における後退法等)だと、溶融池内に上から硬質粒子を散布することになるため、比重の関係で溶融池内の硬質粒子が表面上に浮いてしまい、この硬質粒子が硬化肉盛層の表層にのみ分布してしまう。この様な方法で硬化肉盛層が形成された材料は、耐摩耗材としては好ましくないといった課題がある。
【0005】
そこで、本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の主たる課題は、硬質粒子を母相金属に直接散布した後、当該散布された硬質粒子を巻き込みつつ放電しながら溶接を行うことで、母相金属に対して比重が小さく、かつ、硬度が高い硬質粒子であっても、硬質粒子を硬化肉盛層内に均等に分布させることができる硬化肉盛層の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決する手段は、以下の(1)~(5)である。
(1)炭化物及び/又は炭窒化物を含有する硬質粒子を母材上に散布する第1工程、溶接トーチと前記母材との間にアークを発生させ母材表面を溶融させる第2工程、前記硬質粒子を未溶融状態で含有する第2工程で溶融された母材を凝固することにより硬化肉盛層を得る第3工程、からなる硬化肉盛層形成方法。
(2)前記第1工程の直後に前記第2工程が行われることを特徴とする(1)に記載の硬化肉盛層形成方法。
(3)前記第1工程と前記第2工程と前記第3工程を繰り返し行うことにより、連続して硬化肉盛層を形成する(1)又は(2)に記載の硬化肉盛層形成方法。
(4)(1)~(3)に記載のより硬化肉盛層形成方法により硬化肉盛層が形成された耐摩耗材。
(5)前記硬化肉盛層が形成された耐摩耗材を使用した産業機器。
【発明の効果】
【0007】
本発明にかかる硬化肉盛層形成方法によれば、母相金属に対して比重が小さく、かつ、硬度が高い硬質粒子であっても、硬質粒子を硬化肉盛層の上部に一定の厚みで均等に分布させることが可能となる。これにより、耐摩耗性の優れた硬化肉盛層が形成された部材である耐摩耗材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態の1つである硬化肉盛層形成装置を示す図である。
図2】本発明の実施形態で硬化肉盛を形成する際の溶接部の状態を示す図である。
図3】本発明の実施形態で実施する硬化肉盛層形成方法のフローチャートを示す図である。
図4】本発明の実施形態で実施する硬化肉盛層形成方法の各ステップでの状態を示す図である。
図5】実施例の硬化肉盛形成方法によって形成された硬化肉盛層の断面の写真である。
図6】比較例によって形成された硬化肉盛層の断面の写真である。
図7】硬質粒子の分布を示す概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。本実施形態に係る硬化肉盛層の形成方法で用いられる硬化肉盛層形成装置1を図1に示す。また、本実施形態の硬化肉盛する際の溶接状態を示す溶接部を図2に示す。
【0010】
本実施形態の溶接方法としては、硬質粒子2を未溶融状態で硬化肉盛層3に含有させた状態でアーク溶接によって母材4上に硬化肉盛層を形成するものである。
【0011】
本実施形態で使用する硬質粒子2としては、いわゆるサーメットの粒子を使用する。使用するサーメットとしては、金属の炭化物や窒化物などの硬質化合物の粉末を金属の結合材として混合して焼結した複合材料であり、0.1mm~3mm程度の粒径、好ましくは0.2mm~2mm程度のものを使用できる。さらに、0.5mm~1.5mmの粒径に粉砕したものを使用することが、より溶接がし易く、出来上がり表面がより綺麗に仕上がる点でより好まししい。
サーメット粒子としては、例えば、炭化チタン(TiC)と炭窒化チタン(TiCN)単体又はこれらの混合物等のチタン系のサーメットを使用する。また、サーメット粒子は、炭化チタンと炭窒化チタンの単体又はこれらの混合物をニッケル或いはコバルトで結合したものとすることができる。
【0012】
上記サーメットの粒径としては、例えば小径の0.2mm~0.7mm、中径 の0.7mm~1.2mm、大径の1.2mm~1.8mm程度のものが混合されているものが考えられ (全体としては前述の0.1mm~3mm程度の範囲内)、硬化肉盛を形成する母材の部材用途に応じて、粒径を使い分けたり、各粒径のものを混合して使用したりすることが好ましい。また、当該粒径の硬質粒子は、本実施形態の溶接においても溶融することなく未溶融状態で残るものである点でも好ましい。
【0013】
前記硬質粒子2は、硬化肉盛層3として十分な硬度を保つために、例えば、500~2000Hv、好ましくは1000~1800Hvの硬度を有する。また、硬質粒子2の添加量としては、硬化肉盛層3に対して、溶接性や硬質粒子の分布を考慮すると、5~55体積%、好ましくは20~50体積%である。さらに、硬質粒子2の比重としては、1~10g/cm3、好ましくは3~8g/cm3である。
【0014】
本実施形態で使用する母材4としては、例えばベルトコンベア装置のコンベアベルトの両サイドに設けられる耐摩耗板として用いられるようなものであり、その材質は例えば、SS400(一般構造用圧延鋼材)、S45Cなどの炭素鋼や、SCM440などの低合金鋼などである。また、母材4の形状としては平板的なものに限らず、硬化肉盛を施す母材としては、例えば、ベルトコンベア装置のスプロケットの軸受、ミキサーの内張り、掘削機用ヒビットの先端部等、各種の形状のものが考えられる。また、母材4としては、CrMo鋼、Cr鋼、ボロン鋼、Mn鋼などの金属からなるものも利用できる。
【0015】
本実施形態で使用する図1に示す硬化肉盛形成装置1は、溶接トーチ5と、硬質粒子供給ノズル6と、ウィービング装置8と、フィーダー9と、走行台車10とを備えている。図1(a)は硬化肉盛形成装置1と硬化肉盛形成を行う際の全体装置を上部から示した図、図1(b)は硬化肉盛形成装置1と硬化肉盛形成を行う際の全体装置を横から示した図、図1(c)は、硬化肉盛形成装置1と硬化肉盛形成を行う際の全体装置を正面から示した図である。図1の(a)~(c)に示すように、材料固定台21、フィーダー移動梁22、フィーダー支持台23は定盤24上に設置する。定盤24にフィーダー支持台23を設置し、当該支持台にフィーダー移動梁22が配置される状態となり、走行台車10に固定するフィーダー9を支えながら移動できるようにフィーダー移動梁22の上にフィーダー9を配置する。
硬化肉盛を形成する際には、材料固定台21に硬化肉盛層を形成させたい母材を固定し、走行台車10を当該材料固定台21の横を走行させながら本実施形態の方法により硬化肉盛層を形成させる。
【0016】
本実施形態の溶接トーチ5には、溶加材として溶接ワイヤ11が供給される。この溶接ワイヤ11は、軟鋼などの炭素鋼を主成分とするものである。溶接ワイヤー11は、図示しないコイルから繰り出されて溶接トーチ5へ供給され、溶接トーチ5から所定の長さL1だけ突出している。溶接トーチ5は、母材4の表面に対して角度θ(トーチ角)で傾斜しており、母材4の表面に沿って所定の速度で移動する(図2の溶接進行方向参照)。溶接トーチ5から溶接ワイヤ11が突出する箇所から母材4までの直線距離をL2とする。L2は、10~30mm、好ましくは15~25mmである。また、当該トーチ角θとしては、10°~25°、好ましくは15°~20°であることが本実施形態の溶接方法に適している。溶接進行速度としては、15cm/min~30cm/minであり、母材の板厚に応じて、電流値、電圧値及び溶接速度を設定する。なお、前記L1はL2とトーチ角θで決まる距離となる。
【0017】
本実施形態の硬質粒子供給ノズル6は、溶接トーチ5の進行方向側の近い場所で、母材4の上方に配置される。硬質粒子供給ノズル6は、溶接トーチ5の進行方向に沿って左右に所定幅でウィービングしながら溶接トーチ5と共に移動する(図2)。ウィービングの幅としては10~30mm、好ましくは15~25mmである。硬質粒子2は、硬質粒子供給ノズル6から落下することにより母材4の上に供給される。なお、硬質粒子供給ノズル6と母材4までの直線距離をL3とし、L3は15~40mm、好ましくは120~30mmである。
【0018】
次に、硬化肉盛層形成方法のフローチャートを図3に示し、本発明に係る硬化肉盛の形成方法について説明する。
【0019】
まず、第1工程STEP1では、硬質粒子2を硬質粒子供給ノズル6から落下させて母材4に供給する。この第1工程STEP1は第2工程STEP2のアーク溶接の直前に行われる。STEP1の状態を図4(a)に示す。
【0020】
第2工程STEP2では、アーク溶接を行う。この工程では、アークを発生させることによって溶接ワイヤ11が溶融して溶加材として供給され、母材4上に溶融池12を生成されることになる。このとき、STEP2はSTEP1で硬質粒子2が母材に落下されたとほぼ同時に、硬質粒子2を落下させた場所の手前にアークを発生させて母材4を溶融し、溶融池12を形成しながら、硬質粒子2を巻き込みつつ、硬化肉盛層を形成させる。STEP2の状態を図4(b)に示す。なお、STEP1の後にSTEP2が開始さてるまでの時間としては、シールドガスやアーク力で硬質粒子が飛ばされることが考えられるため、粒子落下の直後またはほぼ同時(同時若しくは時間にして約1~4秒後)になるのが好ましい。
【0021】
このとき溶融池12は、溶接ワイヤ11と母材4の表面を溶融することによって、硬質粒子2が混在した状態で溶融液状となる。このとき、硬質粒子2の比重は約5~7g/cm3程度であり、母材4の材質(SS400等の鋼材)の比重(7.85g/cm3)よりも小さいため溶融された母材4の溶融池12の上面に浮いてしまうことが考えられる。しかし、本実施形態の硬化肉盛形成方法で溶接することにより、比重の差があったとしても溶融池12中に未溶融状態のサーメット粒子2を硬化肉盛層の上部に浮いてしまったり、表面に現れてしまったりするような状態を防ぐことができ、硬化肉盛層内の上部に一定の厚みで均等に分布させることが可能となる。硬質粒子2の分布は硬化肉盛層の表面から0.5~3mm、好ましくは1~2mmで均等に分布することで、耐摩耗効果を向上させることが可能となる。
【0022】
また、上記硬質粒子2の粒径は0.1mm~3mm程度の大きさで分布しているため、溶融されることなく、未溶融の状態で溶融池12内に存在させることが可能となる。硬質粒子2が未溶融の状態であるため、軟鋼の溶接材料をしても、その表面または溶材内部に未溶融の硬質粒子が分布されることから、耐摩耗材としての特性を発揮することが可能となる。
【0023】
第3工程STEP3では、溶融池12が凝固することにより、母材4上に形成され硬質粒子2を未溶融状態で含有する硬化肉盛層3が得られる。ここでは、溶接トーチ5と硬質粒子供給ノズル6とが移動した軌跡上で、溶融池12が自然に凝固して硬化肉盛層3が形成される。
【0024】
溶接トーチ5と硬質粒子供給ノズル6とを移動させながら、上記の第1工程S1から第3工程S3が繰り返し行われることにより、母材4の所定領域を覆うように硬化肉盛層3が形成される。その後、当該溶接により形成された硬化肉盛が凝固することにより、硬質粒子2が硬化肉盛層の上部に一定の厚みで均等に分布された硬化肉盛層3を形成することが可能となる。その後、母材4の表面全域に硬質肉盛層を形成する。
【0025】
以下、本実施形態に係る硬化肉盛層形成方法の具体的実施例について説明する。なお、各実施例における条件を表1に示す。
【実施例1】
【0026】
<硬質粒子>
・炭化チタンと炭窒化チタンの混合物からなるチタン系サーメット粒子
・粒度(粒径):0.71mm~1.18mm
<母材>
・形状:厚さ(t)9mm、 縦×横 200mm×100mmの平板
・材質:SS400
<溶接ワイヤ>
・日鉄住金溶接工業製 軟鋼用ソリッドワイヤ YM-26(ワイヤ径:φ1.2mm)
・θ:20°
・L2:25mm
<硬質粒子供給ノズル6の移動条件>
・ウィービング波形:sin波
・ウィービング片振幅:10mm
・L3:30mm
<溶接方法>
・マグ溶接
・シールドガス:炭酸ガス(25L/min)
・溶接電流:312A
・溶接電圧:32.4V
・溶接速度:25cm/min
【0027】
上記実施例1によって硬化肉盛溶接を行った板状体の硬化肉盛層3の断面写真を図5(a)に示す。これにより、硬質粒子2は未溶融状態で硬化肉盛層3内部の上部に一定の厚みで均等に分布していることが分る。なお、断面写真は以下の条件で撮影を行った(他の実施例・比較例も同様)。
<断面写真撮影>
(1)実体顕微鏡とUSBカメラで画像を撮影し、(2)撮影データを元に画像解析ソフトで表面からの距離を測定。
実体顕微鏡:ニコン製SMZ-745T
USBカメラ:センテック製USB2.0モデル
画像解析ソフト:ディテクト製DIPP-Image
【実施例2】
【0028】
<硬質粒子>
・炭化チタンと炭窒化チタンの混合物からなるチタン系サーメット粒子
・粒度(粒径):1.18mm~1.70mm
<母材>
・形状:厚さ(t)9mm、 縦×横 200mm×100mmの平板
・材質:SS400
<溶接ワイヤ>
・日鉄住金溶接工業製 軟鋼用ソリッドワイヤ YM-26(ワイヤ径:φ1.2mm)
・θ:20°
・L2:25mm
<硬質粒子供給ノズル6の移動条件>
・ウィービング波形:sin波
・ウィービング片振幅:6mm
・L3:30mm
<溶接方法>
・マグ溶接
・シールドガス:炭酸ガス(25L/min)
・溶接電流:310A
・溶接電圧:32V
・溶接速度:25cm/min
【0029】
上記実施例2によって硬化肉盛溶接を行った板状体の硬化肉盛層3の断面写真を図5(a)に示す。これにより、硬質粒子2は未溶融状態で硬化肉盛層3内部の上部に一定の厚みで均等に分布していることが分る。
【実施例3】
【0030】
<硬質粒子>
・炭化チタンと炭窒化チタンの混合物からなるチタン系サーメット粒子
・粒度(粒径):0.71mm~1.18mm
<母材>
・形状:厚さ(t)6mm、 縦×横 :200mm×100mmの平板
・材質:SS400
<溶接ワイヤ>
・大同特殊鋼製 ソリッドワイヤ硬化肉盛 DS350(ワイヤ径:φ1.2mm)
・θ:20°
・L2:25mm
<硬質粒子供給ノズル6の移動条件>
・ウィービング波形:sin波(走行台車で動くこと、ウィービングでsin波形になると予想されます)
・ウィービング片振幅:8mm
・L3:30mm
<溶接方法>
・マグ溶接
・シールドガス:炭酸ガス(25L/min)
・溶接電流:290A
・溶接電圧:32.2V
・溶接速度:26cm/min
【0031】
上記実施例3によって硬化肉盛溶接を行った板状体の硬化肉盛層3の断面写真を図5(a)に示す。これにより、硬質粒子2は未溶融状態で硬化肉盛層3内部の上部に一定の厚みで均等に分布していることが分る。
なお、断面写真は以下の条件で撮影を行った(他の実施例・比較例も同様)。
【実施例4】
【0032】
<硬質粒子>
・炭化チタンと炭窒化チタンの混合物からなるチタン系サーメット粒子
・粒度(粒径):1.18mm~1.70mm
<母材>
・形状:厚さ(t)6mm、 縦×横 200mm×100mmの平板
・材質:SS400
<溶接ワイヤ>
・大同特殊鋼製 ソリッドワイヤ硬化肉盛 DS350(ワイヤ径:φ1.2mm)
・θ:20°
・L2:25mm
<硬質粒子供給ノズル6の移動条件>
・ウィービング波形:sin波
・ウィービング片振幅:8mm
・L3:30mm
<溶接方法>
・マグ溶接
・シールドガス:炭酸ガス(25L/min)
・溶接電流:302A
・溶接電圧:32V
・溶接速度:26cm/min
【0033】
上記実施例4によって硬化肉盛溶接を行った板状体の硬化肉盛層3の断面写真を図5(b)に示す。これにより、実施例1と同様に硬質粒子2は未溶融状態で硬化肉盛層3内部の上部に一定の厚みで均等に分布していることが分る。
【比較例】
【0034】
従来の方法であるアーク溶接により母材上に溶融池を形成し、溶融池の上方から該溶融池にサーメット粒子を散布する方法(後退法)により硬化肉盛層を形成した。後退法の溶接条件を以下に示す。
<硬質粒子>
・炭化チタンと炭窒化チタンの混合物からなるチタン系サーメット粒子
・粒度(粒径):0.71mm~1.18mm
<母材>
・形状:厚さ(t)9mm、 縦×横 200mm×100mmの平板
・材質:SS400
<溶接ワイヤ>
・日鉄住金溶接工業製 軟鋼用ソリッドワイヤ YM-26(ワイヤ径:φ1.2mm)
・θ:20°
・L2:25mm
<硬質粒子供給ノズル6の移動条件>
・ウィービング波形:sin波
・ウィービング片振幅:10mm
・L3:30mm
<溶接方法>
・マグ溶接
・シールドガス:炭酸ガス(25L/min)
・溶接電流:312A
・溶接電圧:32.4V
・溶接速度:25cm/min
【0035】
上記比較例によって硬化肉盛溶接を行った板状体の硬化肉盛層3の断面写真を図6に示す。これにより、硬質粒子2が硬化肉盛層3の表面に集まって浮いていることが分る。この状態だと、硬質粒子が崩れ落ちたりはがれたりしまうことにより、十分な耐摩耗性を発揮することが難しくなる。
【0036】
【表1】

【0037】
本実施形態である実施例1~4と比較例の方法で形成した硬化肉盛層において、硬質部粒子の分布を示す概念図を図7に示す。図7(a)は実施例、図7(b)は比較例である。実施例は硬質粒子が硬化肉盛層上部の内部側に一定の厚みで分散しているのに対して、比較例は硬化肉盛層上面に浮いた状態で硬質粒子が分布していることを示している。従って、前述の通り本実施形態の硬化肉盛層形成方法を用いることにより、この様な状態で硬質粒子を分布させることができ、耐摩耗性の高い物性を得られることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る硬化肉盛の形成方法は、サーメット粒子のような硬質で比重の小さい硬質粒子を使用して耐摩耗性の高い硬化肉盛層を形成する方法や、硬化肉盛層が形成された耐摩耗材を供給することができる。また、各種粉砕機内部の保護プレート、鉱石などの原料を一時貯蔵するホッパー内部の保護プレート、ケーシング回転掘削工法に用いられるケーシング外周の保護プレートなどに本発明の硬化肉盛層形成方法が適用できるため、耐摩耗性の優れる産業機器を提供することが可能となる。
【0039】
〔変形例〕
(1)本実施形態においては、硬質粒子2を事前に用意して用いたが、サーメット粒子等の硬質粒子が含まれる廃棄材料からリサイクルにより硬質粒子を分取して、適度な粒形に合わせたものを本発明に使用することもできる。
(2)本実施形態においては、マグ溶接により硬化肉盛層を形成したが、これに限定されるものではなく、TIG溶接やMIG溶接なども採用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 硬化肉盛形成装置
2 硬質粒子
3 硬化肉盛層
4 母材
5 溶接トーチ
6 硬質粒子供給ノズル
7 溶接ノズル
8 ウィービング装置
9 フィーダー
10 走行台車
11 溶接ワイヤ
12 溶融池
20 硬化肉盛形成装置の全体
21 材料固定台
22 フィーダー移動梁
23 フィーダー支持台
24 定盤

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7