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特許7144230医用情報処理装置、医用画像診断装置及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】医用情報処理装置、医用画像診断装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20220921BHJP
【FI】
A61B6/03 370Z
A61B6/03 360M
A61B6/03 360G
A61B6/03 370B
A61B6/03 ZDM
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2018142159
(22)【出願日】2018-07-30
(65)【公開番号】P2019042497
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2021-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2017167657
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】西岡 昂彦
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-512201(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0177192(US,A1)
【文献】特開2015-226711(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0302604(US,A1)
【文献】特開平06-063026(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0122048(US,A1)
【文献】特表2000-509618(JP,A)
【文献】特開2012-183200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 - 5/01 、 5/05 - 5/055、
5/24 - 6/14 、
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞変形と電気信号伝搬との関連を示すモデルを記憶する記憶部と、
心筋の3次元構造を時系列で撮像することにより得られた4次元画像データを取得し、取得した4次元画像データの複数位置における前記心筋の動き情報を抽出する取得部と、
前記モデルを前記複数位置における前記動き情報に適用することにより、前記複数位置における電気信号伝搬を算出する算出部と、
を備える、医用情報処理装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記心筋の各位置における細胞が周辺細胞から受ける力を更に算出し、当該力の影響を除外するように前記動き情報を補正して、前記モデルを前記複数位置における補正後の前記動き情報に適用することにより、前記複数位置における電気信号伝搬を算出する、請求項1に記載の医用情報処理装置。
【請求項3】
前記算出部は、前記心筋の形状、及び、前記心筋にかかる力に基づいて、前記心筋の各位置における細胞が周辺細胞から受ける力を算出する、請求項2に記載の医用情報処理装置。
【請求項4】
前記算出部は、前記動き情報から、前記心筋の各位置における細胞が発生させる力の方向の成分に対応する部分動き情報を抽出し、前記モデルを前記複数位置における前記部分動き情報に適用することにより、前記複数位置における電気信号伝搬を算出する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の医用情報処理装置。
【請求項5】
前記算出部は、前記心筋の各位置における細胞の繊維方向に基づいて、前記部分動き情報を抽出する、請求項4に記載の医用情報処理装置。
【請求項6】
前記算出部は、前記動き情報から前記心筋の曲面に垂直な成分を除外することにより、前記部分動き情報を抽出する、請求項4に記載の医用情報処理装置。
【請求項7】
前記取得部は、更に、被検体の心電図を取得し、
前記算出部は、前記複数位置における電気信号伝搬を、前記心電図が示す電気信号の伝搬に対応するように算出する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の医用情報処理装置。
【請求項8】
前記算出部は、算出した前記複数位置における電気信号伝搬について、前記心筋における電気信号伝搬の速度及び連続性の少なくとも一方に関する制約条件を満たすか否かを判定し、当該制約条件を満たさない場合には前記複数位置における電気信号伝搬を再算出する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の医用情報処理装置。
【請求項9】
前記算出部は、算出した前記複数位置における電気信号伝搬のうち、前記心筋における電気信号伝搬の速度及び連続性の少なくとも一方に関する制約条件を満たさない部分を除外する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の医用情報処理装置。
【請求項10】
前記算出部は、被検体に応じた前記モデルを使用して、前記複数位置における電気信号伝搬を算出する、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の医用情報処理装置。
【請求項11】
前記算出部は、被検体のイオン濃度に応じた前記モデルを使用して、前記複数位置における電気信号伝搬を算出する、請求項10に記載の医用情報処理装置。
【請求項12】
前記算出部は、被検体の血圧に応じた前記モデルを使用して、前記複数位置における電気信号伝搬を算出する、請求項10又は11に記載の医用情報処理装置。
【請求項13】
前記算出部は、前記心筋の病変分布に応じた前記モデルを使用して、前記複数位置における電気信号伝搬を算出する、請求項10乃至12のいずれか一項に記載の医用情報処理装置。
【請求項14】
前記取得部は、更に、前記心筋に対して病変分布を設定する操作を受け付け、
前記算出部は、前記病変分布に応じた前記モデルを使用して、前記複数位置における電気信号伝搬を算出する、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の医用情報処理装置。
【請求項15】
前記取得部は、複数の心拍について前記動き情報を抽出し、
前記算出部は、心拍ごとに、前記複数位置における電気信号伝搬を算出する、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の医用情報処理装置。
【請求項16】
前記算出部が算出した前記複数位置における電気信号伝搬を表示する表示制御部を更に備える、請求項1乃至15のいずれか一項に記載の医用情報処理装置。
【請求項17】
前記取得部は、複数の被検体から前記動き情報を抽出し、
前記算出部は、被検体ごとに、前記複数位置における電気信号伝搬を算出し、
前記表示制御部は、被検体ごとに算出された前記複数位置における電気信号伝搬を比較可能に表示する、請求項16に記載の医用情報処理装置。
【請求項18】
表示制御部を更に備え、
前記算出部は、算出した前記複数位置における電気信号伝搬に基づいて前記心筋の動き情報を算出し、
前記表示制御部は、前記算出部が算出した動き情報と、前記4次元画像データとを比較可能に表示する、請求項1乃至17のいずれか一項に記載の医用情報処理装置。
【請求項19】
対象部位の4次元画像データの複数位置における前記対象部位の動き情報を取得する取得部と、
細胞変形と電気信号伝搬との関連を示すモデルを、前記複数位置における前記動き情報に適用することにより、前記複数位置における電気信号伝搬を算出する算出部と、
を備える、医用情報処理装置。
【請求項20】
細胞変形と電気信号伝搬との関連を示すモデルを記憶する記憶部と、
心筋の3次元構造を時系列で撮像することにより4次元画像データを収集する収集部と、
前記4次元画像データの複数位置における前記心筋の動き情報を抽出する取得部と、
前記モデルを前記複数位置における前記動き情報に適用することにより、前記複数位置における電気信号伝搬を算出する算出部と、
を備える、医用画像診断装置。
【請求項21】
心筋の3次元構造を時系列で撮像することにより得られた4次元画像データを取得し、取得した4次元画像データの複数位置における前記心筋の動き情報を抽出し、
細胞変形と電気信号伝搬との関連を示すモデルを前記複数位置における前記動き情報に適用することにより、前記複数位置における電気信号伝搬を算出する、
各処理をコンピュータに実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、医用情報処理装置、医用画像診断装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓は、伝搬する電気信号に応じて収縮(興奮)することによって、心腔内の血液を全身に送り出す臓器である。そのため、電気信号の伝搬における異常は、頻脈等の不整脈の原因となる。そして、不整脈の治療をする場合、医師は、電気信号の伝搬に異常があるか否か、異常の原因が心臓のどの部分にあるのか、といった情報に基づいて、治療計画を立てたり手術を行なったりする。
【0003】
ここで、従来、電気信号の伝搬の評価方法としては、心腔内に電極カテーテルを挿入し、心腔内の電位変化を記録する方法が知られている。更に、心腔内をペーシング刺激し、頻脈を誘発することで、不整脈の診断や、カテーテルアブレーションにおける対象部位の設定等が可能である。しかしながら、かかる評価方法は、心腔内に電極カテーテルを挿入したりペーシング刺激によって頻脈を誘発したりする点で、患者負担が大きかった。
【0004】
電気信号の伝搬の評価方法のうち、患者負担の小さいものとしては、例えば、心電図が挙げられる。しかしながら、心電図では、電気信号の伝搬に異常があるか否かを判断することはできるとしても、異常部位の特定には至らなかった。即ち、心電図では、不整脈を診断したりカテーテルアブレーションの対象部位を設定したりする上で、十分とはいえない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-512201号公報
【文献】特開2011-212043号公報
【文献】特開平08-289877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、患者負担を低減しつつ、電気信号の伝搬を算出することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の医用情報処理装置は、記憶部と、取得部と、算出部とを備える。記憶部は、細胞変形と電気信号伝搬との関連を示すモデルを記憶する。取得部は、心筋の3次元構造を時系列で撮像することにより得られた4次元画像データを取得し、取得した4次元画像データの複数位置における前記心筋の動き情報を抽出する。算出部は、前記モデルを前記複数位置における前記動き情報に適用することにより、前記複数位置における電気信号伝搬を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1の実施形態に係る医用情報処理システムの構成の一例を示すブロック図である。
図2図2は、第1の実施形態に係るX線CT装置の構成の一例を示すブロック図である。
図3図3は、第1の実施形態に係る4次元画像データの一例を示す図である。
図4図4は、第1の実施形態に係る電気信号の伝搬と筋細胞との動態シミュレーションの一例を示す図である。
図5図5は、第1の実施形態に係る医用情報処理装置の処理の一連の流れを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、医用情報処理装置、医用画像診断装置及びプログラムの実施形態について詳細に説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態について説明する。第1の実施形態では、医用情報処理装置及び医用画像診断装置を含んだ医用情報処理システムを一例として説明する。また、第1の実施形態では、被検体P1の心筋について、電気信号の伝搬を算出する場合を一例として説明する。
【0011】
図1に示すように、第1の実施形態に係る医用情報処理システム1は、医用画像診断装置10と、画像保管装置20と、医用情報処理装置30とを備える。なお、図1は、第1の実施形態に係る医用情報処理システム1の構成の一例を示すブロック図である。図1に示すように、医用画像診断装置10、画像保管装置20及び医用情報処理装置30は、ネットワークを介して相互に接続される。
【0012】
医用画像診断装置10は、被検体P1から医用画像データを収集する装置である。例えば、医用画像診断装置10は、被検体P1の心筋について、4次元画像データ(時系列の3次元画像データ)を収集する。即ち、医用画像診断装置10は、被検体P1の心筋の3次元構造を時系列で撮像することにより、4次元画像データを収集する。例えば、医用画像診断装置10は、X線CT(Computed Tomography)装置やMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、超音波診断装置等である。
【0013】
画像保管装置20は、医用画像診断装置10によって収集された医用画像データを保管する装置である。例えば、画像保管装置20は、サーバ装置等のコンピュータ機器によって実現される。本実施形態では、画像保管装置20は、ネットワークを介して医用画像診断装置10から4次元画像データを取得し、取得した4次元画像データを、装置内又は装置外に設けられたメモリに記憶させる。
【0014】
医用情報処理装置30は、ネットワークを介して4次元画像データを取得し、取得した4次元画像データを用いた種々の処理を実行する。例えば、医用情報処理装置30は、ワークステーション等のコンピュータ機器によって実現される。本実施形態では、医用情報処理装置30は、ネットワークを介して、医用画像診断装置10又は画像保管装置20から4次元画像データを取得する。また、医用情報処理装置30は、取得した4次元画像データに基づいて被検体P1の心筋の動き情報を算出し、動き情報に対応した心筋の電気信号の伝搬(興奮伝搬)を算出する。
【0015】
図1に示すように、医用情報処理装置30は、入力インターフェース31と、ディスプレイ32と、メモリ33と、処理回路34とを有する。
【0016】
入力インターフェース31は、操作者からの各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理回路34に出力する。例えば、入力インターフェース31は、マウスやキーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、タッチパネル等により実現される。
【0017】
ディスプレイ32は、操作者によって参照されるモニタであり、処理回路34による制御の下、医用画像を動画像又は静止画像として表示したり、処理回路34が算出した電気信号の伝搬を表示したり、入力インターフェース31を介して操作者から各種指示や各種設定等を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)を表示したりする。例えば、ディスプレイ32は、液晶ディスプレイやCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイである。
【0018】
メモリ33は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等により実現される。例えば、メモリ33は、医用画像診断装置10又は画像保管装置20から取得した4次元画像データを記憶する。また、メモリ33は、細胞変形と電気信号伝搬との関連を示すモデルを記憶する。なお、メモリ33が記憶するモデルについては後述する。また、例えば、メモリ33は、医用情報処理装置30に含まれる回路がその機能を実現するためのプログラムを記憶する。
【0019】
処理回路34は、取得機能34a、算出機能34b及び表示制御機能34cを実行することで、医用情報処理装置30全体の動作を制御する。例えば、処理回路34は、取得機能34aに対応するプログラムをメモリ33から読み出して実行することにより、医用画像診断装置10又は画像保管装置20から4次元画像データを取得する。即ち、取得機能34aは、心筋の3次元構造を時系列で撮像することにより得られた4次元画像データを取得する。また、取得機能34aは、取得した4次元画像データから被検体P1の心筋の動き情報を算出する。具体的には、取得機能34aは、4次元画像データの複数位置における心筋の動き情報を抽出する。また、例えば、処理回路34は、算出機能34bに対応するプログラムをメモリ33から読み出して実行することにより、動き情報に対応した被検体P1の心筋の電気信号伝搬を算出する。具体的には、算出機能34bは、細胞変形と電気信号伝搬との関連を示すモデルを、4次元画像データの複数位置における動き情報に適用することにより、4次元画像データの複数位置における電気信号伝搬を算出する。また、例えば、処理回路34は、表示制御機能34cに対応するプログラムをメモリ33から読み出して実行することにより、被検体P1の心筋の電気信号伝搬をディスプレイ32において表示する。即ち、表示制御機能34cは、4次元画像データの複数位置における電気信号伝搬を表示する。なお、電気信号伝搬の算出及び表示については後述する。
【0020】
図1に示す医用情報処理装置30においては、各処理機能がコンピュータによって実行可能なプログラムの形態でメモリ33へ記憶されている。処理回路34は、メモリ33からプログラムを読み出して実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、各プログラムを読み出した状態の処理回路34は、読み出したプログラムに対応する機能を有することとなる。なお、図1においては単一の処理回路34にて、取得機能34a、算出機能34b及び表示制御機能34cが実現するものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路34を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。
【0021】
次に、4次元画像データの収集を行なう医用画像診断装置10について、図2を用いて具体的に説明する。図2においては、医用画像診断装置10の一例として、X線CT装置100について説明する。図2は、第1の実施形態に係るX線CT装置100の構成の一例を示すブロック図である。
【0022】
X線CT装置100は、図2に示すように、架台装置110と、寝台装置130と、コンソール装置140とを有する。また、X線CT装置100は、図示しない心電計が接続される。心電計は、被検体P1に付された電極を介して被検体P1のECG(electro cardiogram)信号を検出して心電図を生成し、生成した心電図をX線CT装置100に送信する。なお、図2においては、非チルト状態での回転フレーム113の回転軸又は寝台装置130の天板133の長手方向をZ軸方向とする。また、Z軸方向に直交し、床面に対し水平である軸方向をX軸方向とする。また、Z軸方向に直交し、床面に対し垂直である軸方向をY軸方向とする。
【0023】
架台装置110は、X線管111と、X線検出器112と、回転フレーム113と、X線高電圧装置114と、制御装置115と、ウェッジ116と、コリメータ117と、データ収集回路118とを有する。
【0024】
X線管111は、熱電子を発生する陰極(フィラメント)と、熱電子の衝突を受けてX線を発生する陽極(ターゲット)とを有する真空管である。X線管111は、X線高電圧装置114から供給される高電圧を用いて、陰極から陽極に向けて熱電子を照射することにより、X線を発生する。
【0025】
X線検出器112は、X線管111から照射されて被検体P1を通過したX線を検出し、検出したX線量に対応した信号をデータ収集回路118へと出力する。X線検出器112は、例えば、X線管111の焦点を中心とした1つの円弧に沿ってチャネル方向に複数のX線検出素子が配列された複数のX線検出素子列を有する。X線検出器112は、例えば、チャネル方向に複数のX線検出素子が配列されたX線検出素子列がスライス方向(列方向、row方向)に複数配列された構造を有する。また、X線検出器112は、例えば、グリッドと、シンチレータアレイと、光センサアレイとを有する間接変換型の検出器である。シンチレータアレイは、複数のシンチレータを有する。シンチレータは入射X線量に応じた光子量の光を出力するシンチレータ結晶を有する。グリッドは、シンチレータアレイのX線入射側の面に配置され、散乱X線を吸収するX線遮蔽板を有する。光センサアレイは、シンチレータからの光量に応じた電気信号に変換する機能を有し、例えば、光電子増倍管(フォトマルチプライヤー:PMT)等の光センサを有する。なお、X線検出器112は、入射したX線を電気信号に変換する半導体素子を有する直接変換型の検出器であっても構わない。
【0026】
回転フレーム113は、X線管111とX線検出器112とを対向支持し、制御装置115によってX線管111とX線検出器112とを回転させる円環状のフレームである。例えば、回転フレーム113は、アルミニウムを材料とした鋳物である。なお、回転フレーム113は、X線管111及びX線検出器112に加えて、X線高電圧装置114やデータ収集回路118を更に支持することもできる。更に、回転フレーム113は、図2において図示しない種々の構成を更に支持することもできる。以下では、架台装置110において、回転フレーム113と共に回転移動する部分及び回転フレーム113を回転部とも記載する。
【0027】
なお、データ収集回路118が生成した検出データは、回転フレーム113に設けられた発光ダイオード(Light Emitting Diode: LED)を有する送信機から、光通信によって、架台装置110の非回転部分に設けられた、フォトダイオードを有する受信機に送信され、コンソール装置140へと転送される。ここで、非回転部分とは、例えば、回転フレーム113を回転可能に支持する固定フレーム等である。なお、回転フレーム113から架台装置110の非回転部分への検出データの送信方法は、光通信に限らず、非接触型のデータ伝送であれば如何なる方式を採用しても構わない。
【0028】
X線高電圧装置114は、変圧器(トランス)及び整流器等の電気回路を有し、X線管111に印加する高電圧を発生する高電圧発生装置と、X線管111が照射するX線に応じた出力電圧の制御を行うX線制御装置とを有する。高電圧発生装置は、変圧器方式であってもよいし、インバータ方式であってもよい。なお、X線高電圧装置114は、回転フレーム113に設けられてもよいし、図示しない固定フレームに設けられても構わない。
【0029】
制御装置115は、モータ及びアクチュエータ等の駆動機構と、この機構を制御する回路とを含む。制御装置115は、入力インターフェース143や架台装置110に設けられた入力インターフェース等からの入力信号を受けて、架台装置110及び寝台装置130の動作制御を行う。例えば、制御装置115は、回転フレーム113の回転や架台装置110のチルト、寝台装置130及び天板133の動作等について制御を行う。一例を挙げると、制御装置115は、架台装置110をチルトさせる制御として、入力された傾斜角度(チルト角度)情報により、X軸方向に平行な軸を中心に回転フレーム113を回転させる。なお、制御装置115は架台装置110に設けられてもよいし、コンソール装置140に設けられてもよい。
【0030】
ウェッジ116は、X線管111から照射されたX線量を調節するためのフィルタである。具体的には、ウェッジ116は、X線管111から被検体P1へ照射されるX線が、予め定められた分布になるように、X線管111から照射されたX線を透過して減衰するフィルタである。例えば、ウェッジ116は、ウェッジフィルタ(wedge filter)やボウタイフィルタ(bow-tie filter)であり、所定のターゲット角度や所定の厚みとなるようにアルミニウム等を加工して構成される。
【0031】
コリメータ117は、ウェッジ116を透過したX線の照射範囲を絞り込むための鉛板等であり、複数の鉛板等の組み合わせによってスリットを形成する。コリメータ117は、図示しないコリメータ調整回路によって、開口度及び位置が調整される。これにより、X線管111が発生させたX線の照射範囲が調整される。
【0032】
データ収集回路118は、DAS(Data Acquisition System)である。データ収集回路118は、X線検出器112の各X線検出素子から出力される電気信号に対して増幅処理を行う増幅器と、電気信号をデジタル信号に変換するA/D変換器とを有し、検出データを生成する。データ収集回路118は、例えば、プロセッサにより実現される。
【0033】
寝台装置130は、スキャン対象の被検体P1を載置、移動させる装置であり、基台131と、寝台駆動装置132と、天板133と、支持フレーム134とを有する。基台131は、支持フレーム134を鉛直方向に移動可能に支持する筐体である。寝台駆動装置132は、被検体P1が載置された天板133を、天板133の長軸方向に移動する駆動機構であり、モータ及びアクチュエータ等を含む。支持フレーム134の上面に設けられた天板133は、被検体P1が載置される板である。なお、寝台駆動装置132は、天板133に加え、支持フレーム134を天板133の長軸方向に移動してもよい。
【0034】
コンソール装置140は、メモリ141と、ディスプレイ142と、入力インターフェース143と、処理回路144とを有する。
【0035】
メモリ141は、例えば、RAM、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等により実現される。例えば、メモリ141は、投影データや再構成画像データ、心電計から送信された心電図等を記憶する。また、例えば、メモリ141は、X線CT装置100に含まれる回路がその機能を実現するためのプログラムを記憶する。
【0036】
ディスプレイ142は、各種の情報を表示する。例えば、ディスプレイ142は、処理回路144によって生成された4次元画像データを動画像又は静止画像として表示したり、操作者からの各種操作を受け付けるためのGUI等を表示したりする。例えば、ディスプレイ142は、液晶ディスプレイやCRTディスプレイである。
【0037】
入力インターフェース143は、操作者からの各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理回路144に出力する。例えば、入力インターフェース143は、投影データを収集する際の収集条件や、CT画像データを再構成する際の再構成条件、CT画像データから4次元画像データを生成する際の画像処理条件等を操作者から受け付ける。例えば、入力インターフェース143は、マウスやキーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、タッチパネル等により実現される。
【0038】
処理回路144は、X線CT装置100全体の動作を制御する。例えば、処理回路144は、収集機能144a、表示制御機能144b及び制御機能144cを有する。処理回路144は、例えば、プロセッサにより実現される。
【0039】
例えば、処理回路144は、メモリ141から収集機能144aに相当するプログラムを読み出して実行することにより、X線CT装置100を制御してスキャンを実行する。ここで、収集機能144aは、例えば、コンベンショナルスキャンやヘリカルスキャン、ステップアンドシュート方式といった種々の方式でのスキャンを実行することができる。
【0040】
具体的には、収集機能144aは、寝台駆動装置132を制御することにより、被検体P1を架台装置110の撮影口内へ移動させる。また、収集機能144aは、X線高電圧装置114を制御することにより、X線管111へ高電圧を供給させる。また、収集機能144aは、コリメータ117の開口度及び位置を調整する。また、収集機能144aは、制御装置115を制御することにより、回転フレーム113を含む回転部を回転させる。また、収集機能144aは、データ収集回路118に投影データを収集させる。
【0041】
また、例えば、収集機能144aは、データ収集回路118から出力された検出データに対して対数変換処理やオフセット補正処理、チャネル間の感度補正処理、ビームハードニング補正等の前処理を施したデータを生成する。なお、前処理を施す前のデータ(検出データ)および前処理後のデータを総称して投影データと称する場合もある。また、例えば、収集機能144aは、CT画像データを生成する。具体的には、収集機能144aは、前処理後の投影データに対して、フィルタ補正逆投影法や逐次近似再構成法等を用いた再構成処理を行ってCT画像データを生成する。また、収集機能144aは、入力インターフェース143を介して操作者から受け付けた入力操作等に基づいて、CT画像データを3次元画像データに変換する。
【0042】
ここで、収集機能144aは、上述した3次元画像データの収集を時系列的に行うことにより、4次元画像データを収集する。例えば、収集機能144aは、被検体P1の心臓の収縮期における複数の心位相についてそれぞれ3次元画像データを収集することで、被検体P1の心臓の収縮を3次元的に表した4次元画像データを収集する。一例を挙げると、収集機能144aは、心電計から受信した心電図に基づいてX線の照射を制御し、収縮期における複数の心位相のそれぞれに同期した3次元画像データを収集することで、4次元画像データを収集する。そして、収集機能144aは、4次元画像データを、メモリ141に記憶させたり、画像保管装置20や医用情報処理装置30に送信したりする。
【0043】
また、例えば、処理回路144は、メモリ141から表示制御機能144bに相当するプログラムを読み出して実行することにより、ディスプレイ142において4次元画像データを表示する。また、例えば、処理回路144は、メモリ141から制御機能144cに相当するプログラムを読み出して実行することにより、入力インターフェース143を介して操作者から受け付けた入力操作に基づいて、処理回路144の各種機能を制御する。
【0044】
図2に示すX線CT装置100においては、各処理機能がコンピュータによって実行可能なプログラムの形態でメモリ141へ記憶されている。処理回路144は、メモリ141からプログラムを読み出して実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、各プログラムを読み出した状態の処理回路144は、読み出したプログラムに対応する機能を有することとなる。なお、図2においては、収集機能144a、表示制御機能144b及び制御機能144cの各処理機能が単一の処理回路144によって実現される場合を示したが、実施形態はこれに限られるものではない。例えば、処理回路144は、複数の独立したプロセッサを組み合わせて構成され、各プロセッサが各プログラムを実行することにより各処理機能を実現するものとしても構わない。また、処理回路144が有する各処理機能は、単一又は複数の処理回路に適宜に分散又は統合されて実現されてもよい。
【0045】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、あるいは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサはメモリ33又はメモリ141に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、メモリ33又はメモリ141にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。
【0046】
以上、医用情報処理システム1の構成の一例について説明した。かかる構成の下、医用情報処理システム1における医用情報処理装置30は、被検体P1の負担を低減しつつ、被検体P1の心筋における電気信号の伝搬を算出する。具体的には、医用情報処理装置30は、以下詳細に説明する処理回路34による処理によって、被検体P1の心筋の4次元画像データに基づく動き情報を取得し、動き情報に対応した心筋の電気信号の伝搬を算出することで、被検体P1の心筋における電気信号の伝搬を非侵襲的に算出する。以下、第1の実施形態に係る医用情報処理装置30が行う処理について詳細に説明する。
【0047】
まず、取得機能34aは、X線CT装置100又は画像保管装置20から、被検体P1の心筋の4次元画像データを取得してメモリ33に格納する。例えば、取得機能34aは、被検体P1の心筋の4次元画像データとして、図3に示す4次元画像データI1を取得して、メモリ33に格納する。なお、図3は、第1の実施形態に係る4次元画像データI1の一例を示す図である。ここで、4次元画像データI1は、被検体P1の心筋について時系列的に収集された3次元画像データの集合であり、図3は、4次元画像データI1に含まれる3次元画像データの一つを示すものである。
【0048】
次に、取得機能34aは、メモリ33から4次元画像データI1を読み込んで、4次元画像データI1の複数位置における心筋の動き情報B1を抽出する。ここで、動き情報B1とは、例えば、心筋の各位置を示す座標と、心筋の各位置における移動量及び移動方向とを対応付けた数値データである。また、動き情報B1とは、例えば、心筋の各位置における移動量及び移動方向をマッピングした画像データである。
【0049】
例えば、取得機能34aは、まず、4次元画像データI1に含まれる複数の3次元画像データの各々から、心筋に対応する領域(心筋領域)を抽出する。一例を挙げると、取得機能34aは、3次元画像データの各々に対して、CT値が空間的に連続する領域を抽出する領域拡張(region growing)法や形状テンプレートを用いたパターンマッチング法などを用いてセグメンテーション処理を行うことにより、心筋領域を抽出する。
【0050】
次に、取得機能34aは、3次元画像データの各々から抽出した心筋領域を相互に位置合わせし、解剖学的な位置の対応を算出する。これにより、取得機能34aは、各3次元画像データが収集される間に解剖学的な位置が移動した方向及び移動量を、動き情報B1として抽出することができる。
【0051】
次に、算出機能34bは、モデルM11を使用し、電気信号の伝搬と筋細胞との動態シミュレーションを実行して、動き情報B1に対応した被検体P1の心筋の電気信号の伝搬A1を算出する。ここで、算出機能34bによる電気信号の伝搬A1の算出について、図4を用いて具体的に説明する。図4は、第1の実施形態に係る電気信号の伝搬と筋細胞との動態シミュレーションの一例を示す図である。
【0052】
例えば、算出機能34bは、まず、メモリ33からモデルM11を読み出す。ここで、モデルM11は、細胞変形と電気信号伝搬との関連を示すモデルである。例えば、モデルM11は、図4に示すように、細胞の動き(細胞が生む力や細胞の長さ等の時間変化)と、電気信号(Na+やCa2+といったイオンの濃度等)との電気生理学的な関連を示した筋細胞モデルである。なお、メモリ33は、細胞の種類(例えば、固有心筋、特殊心筋等)に応じたモデルM11を記憶する場合であってもよい。この場合、算出機能34bは、対象部位に含まれる細胞の種類に応じて、1又は複数のモデルM11をメモリ33から読み出す。
【0053】
次に、算出機能34bは、図4に示すように、4次元画像データI1に基づく動き情報B1を、モデルM11に入力して、心筋の電気信号の伝搬A1を算出する。即ち、算出機能34bは、モデルM11を、4次元画像データI1の複数位置における動き情報B1に適用することにより、4次元画像データI1の複数位置における電気信号の伝搬A1を算出する。具体的には、まず、算出機能34bは、図4に示すように、4次元画像データI1に基づいて心筋モデルM21を生成する。例えば、算出機能34bは、4次元画像データI1から抽出した心筋領域に基づいて、被検体P1の心筋の形状を示す形状データを生成し、生成した形状データを筋細胞の大きさ及び形状に応じて分割することで、心筋モデルM21を生成する。即ち、算出機能34bは、心筋モデルM21を、筋細胞の集合として生成する。
【0054】
次に、算出機能34bは、心筋モデルM21における個々の筋細胞において、その筋細胞の位置に対応した動き情報B1を、力や細胞の長さ等の時間変化としてモデルM11に入力する。これにより、算出機能34bは、心筋モデルM21における個々の筋細胞において、入力した力や細胞の長さ等の時間変化に応じた、イオン濃度の時間変化を算出する。更に、算出機能34bは、心筋モデルM21における個々の筋細胞において、イオン濃度の時間変化に応じた電気信号の時間変化を算出することで、心筋の電気信号の伝搬A1を算出する。
【0055】
ここで、算出機能34bは、筋細胞間での電気信号の連続性を考慮して、電気信号の伝搬A1を算出するものであってもよい。即ち、電気信号は、筋細胞を伝搬する間に途絶等することはあるとしても、ある程度の連続性を持って流れるものであるから、算出機能34bは、筋細胞間での電気信号の連続性を実現するように、心筋モデルM21における個々の筋細胞における電気信号を調整しながら、心筋の電気信号の伝搬A1を算出してもよい。
【0056】
なお、算出機能34bが電気信号の伝搬A1を算出する範囲は、心筋の一部でもよいし、心筋の全部でもよい。例えば、算出機能34bは、被検体P1の症例に応じた範囲において、電気信号の伝搬A1を算出する。一例を挙げると、被検体P1の心筋が興奮伝搬障害を有している場合、算出機能34bは、電気信号の伝搬A1として、心筋内部の各位置、及び、心筋の表面(心腔側の面及び外側の面)の各位置について、電気信号の時間変化をそれぞれ算出する。これにより、算出機能34bは、心筋内部において電気信号の伝搬が阻害されている場合でも、異常個所を算出することができる。一方で、心筋内部の電気信号について観察を要しない症例である場合、算出機能34bは、電気信号の伝搬A1として、心筋の心腔側の面における電気信号の時間変化のみを算出してもよい。
【0057】
上述したように、算出機能34bは、電気信号の伝搬と筋細胞との動態シミュレーションを実行して、電気信号の伝搬A1を算出する。ここで、算出機能34bは、心筋の各位置における細胞が周辺細胞から受ける力を考慮して、電気信号の伝搬A1を算出してもよい。これは、電気信号を適切に算出するためには、各細胞が電気信号に起因して自ら行う動きをモデルM11に入力する必要があるのに対して、4次元画像データI1に基づく動き情報B1は、各細胞が電気信号に起因して自ら行う動きと、周辺細胞に引っ張られたことによる動きとの双方を含んでいるためである。
【0058】
例えば、算出機能34bは、4次元画像データI1に基づく心筋モデルM21を用いて、心筋の各位置における細胞が周辺細胞から受ける力を算出する。一例を挙げると、算出機能34bは、心筋モデルM21において、心筋の各位置における細胞にラプラスモデル(以下の式(1))を適用して、心筋の各位置における細胞が周辺細胞から受ける力を算出する。
【0059】
【数1】
【0060】
式(1)において、「ΔP」は心筋内外の圧力差であり、「T」は心筋の各位置における細胞が周辺細胞から受ける力(張力)であり、「R」は曲率半径である。例えば、算出機能34bは、心筋モデルM21に基づいて、心筋の形状が示す曲率半径Rを、心筋の位置ごとに取得する。また、算出機能34bは、心筋にかかる力に基づいて、圧力差ΔPを取得する。例えば、算出機能34bは、被検体P1の血圧に基づく解析を行なうことにより、圧力差ΔPを取得する。一例を挙げると、算出機能34bは、まず、心筋の各位置が、心臓におけるいずれの部屋(左心房、左心室、右心房及び右心室)に位置しているかを判定する。次に、算出機能34bは、判定した部屋における圧力の基準値(例えば、予め複数人について計測した圧力の平均値等)をメモリ33から取得する。次に、算出機能34bは、取得した基準値を被検体P1の血圧に応じて補正することで、圧力差ΔPを取得する。更に、算出機能34bは、曲率半径R及び圧力差ΔPを式(1)に代入することにより、張力Tを算出する。
【0061】
次に、算出機能34bは、算出した張力Tの影響を除外するように、4次元画像データI1に基づく動き情報B1を補正する。言い換えると、算出機能34bは、4次元画像データI1に基づく動き情報B1から、周辺細胞に引っ張られたことによる動きを差分し、各細胞が電気信号に起因して自ら行う動きを算出する。そして、算出機能34bは、モデルM11を使用し、電気信号の伝搬と筋細胞との動態シミュレーションを実行して、補正後の動き情報B1(各細胞が電気信号に起因して自ら行う動き)に対応した心筋の電気信号の伝搬A1を算出する。
【0062】
なお、これまで、心筋の各位置における細胞が周辺細胞から受ける力を、ラプラスモデルを用いて算出する場合について説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、算出機能34bは、有限要素法(FEM:Finite Element Method)や境界要素法等の数値解析法を用いた構造解析を行なうことにより、心筋の各位置における細胞が周辺細胞から受ける力を算出してもよい。
【0063】
また、算出機能34bは、動き情報B1から、心筋の各細胞が電気信号に起因して自ら行なう動きの成分を抽出して、電気信号伝搬を算出してもよい。これは、4次元画像データI1に基づく動き情報B1は、各細胞が自ら行う動きの他、心臓全体が被検体P1に対して揺れ動くことによる動き成分や、血液の流出入による心臓の膨張及び収縮に伴う動き成分を含むためである。
【0064】
具体的には、算出機能34bは、まず、動き情報B1から、心筋の各細胞が自ら行なう動きの成分を抽出する。換言すると、算出機能34bは、動き情報B1から、心筋の各位置における細胞が発生させる力の方向の成分に対応する動き情報(以下、動き情報B1’とする)を抽出する。動き情報B1’は、部分動き情報の一例である。
【0065】
一例を挙げると、算出機能34bは、まず、心筋の各位置における細胞の繊維方向を取得する。ここで、算出機能34bは、心筋の各位置における細胞の繊維方向を、知見に基づいて取得することができる。例えば、算出機能34bは、電気信号伝搬の算出処理に先立って、心筋の各位置における細胞の繊維方向を示す3次元モデルMfを取得し、メモリ33に格納する。一例を挙げると、算出機能34bは、標準的な心臓の形状を持つ3次元モデルに対して、標準的な心臓上の繊維方向をマッピングすることによって3次元モデルMfを生成し、メモリ33に格納する。なお、算出機能34bは、医用情報処理装置30以外の他の装置において生成された3次元モデルMfを取得して、メモリ33に格納してもよい。次に、算出機能34bは、被検体P1の心臓の形状に応じて3次元モデルMfを変形させる。例えば、算出機能34bは、4次元画像データI1に基づく心筋モデルM21と形状が一致するように、3次元モデルMfを変形させる。そして、算出機能34bは、変形後の3次元モデルMfが示す繊維方向を被検体P1の心臓に割り当てることで、心筋の各位置における細胞の繊維方向を取得する。例えば、算出機能34bは、変形後の3次元モデルMfが示す繊維方向を心筋モデルM21の各位置に割り当てることで、心筋モデルM21の各位置における細胞の繊維方向を取得する。ここで、心筋の細胞は、その繊維の方向に沿って力を発生させる性質がある。従って、算出機能34bは、細胞の繊維方向に基づいて、動き情報B1から、心筋の各位置における細胞が発生させる力の方向の成分に対応する動き情報B1’を抽出することができる。例えば、算出機能34bは、動き情報B1を、細胞の繊維方向の成分と他の方向の成分とに分解し、細胞の繊維方向の成分を動き情報B1’として抽出する。
【0066】
別の例を挙げると、算出機能34bは、動き情報B1から、心筋の曲面に垂直な成分を除外することにより、動き情報B1’を抽出する。例えば、算出機能34bは、まず、4次元画像データI1に基づく心筋モデルM21から、心筋の形状を示す曲面を抽出する。次に、算出機能34bは、抽出した曲面の各位置において法線方向を算出する。ここで、心筋の細胞は、通常、心筋の曲面に垂直な方向の力を発生することはない。即ち、心室又は心房の内部から心臓壁に対して垂直に発生する力は、通常、血液の流出入による心臓の膨張及び収縮によるものであって、心筋の細胞が発生させたものではない。従って、算出機能34bは、動き情報B1から心筋の曲面に垂直な成分を除外することにより、心筋の各位置における細胞が発生させる力の方向の成分に対応する動き情報B1’を抽出することができる。例えば、算出機能34bは、動き情報B1を、心筋の曲面に垂直な成分と他の方向の成分とに分解し、他の方向の成分を動き情報B1’として抽出する。
【0067】
そして、算出機能34bは、モデルM11を使用し、電気信号の伝搬と筋細胞との動態シミュレーションを実行して、動き情報B1’に対応した心筋の電気信号の伝搬A1を算出する。即ち、算出機能34bは、モデルM11を、4次元画像データI1の複数位置における動き情報B1’に適用することにより、4次元画像データI1の複数位置における電気信号の伝搬A1を算出する。ここで、動き情報B1’を用いることにより、算出機能34bは、電気信号の伝搬A1の精度を向上させることができる。即ち、算出機能34bは、心筋の細胞が自ら行なう動きの成分を抽出して動態シミュレーションを実行することにより、動態シミュレーションの精度を向上させることができる。なお、動き情報B1’は、心筋の各位置における細胞が周辺細胞から受ける力の影響を除外するように補正したものであってもよい。
【0068】
算出機能34bが電気信号の伝搬A1を算出した後、表示制御機能34cは、ディスプレイ32において電気信号の伝搬A1を表示する。例えば、表示制御機能34cは、ディスプレイ32において、4次元画像データI1を動画像又は静止画像として表示するとともに、電気信号の伝搬A1を表示する。なお、表示制御機能34cは、4次元画像データI1に含まれる心筋の全体を表示してもよいし、電気信号の伝搬A1に異常のある領域のみを表示してもよい。
【0069】
一例を挙げると、まず、表示制御機能34cは、心筋の電気信号の伝搬A1に基づいて、心筋の各位置に電気信号が到達した時刻(興奮開始時刻)や、電気信号が最大となった最大興奮時刻、興奮の時間幅等を取得する。そして、表示制御機能34cは、ディスプレイ32において、取得した興奮開始時刻、最大興奮時刻、時間幅等に応じたカラーを付した4次元画像データI1を表示する。
【0070】
別の一例を挙げると、まず、表示制御機能34cは、心筋の電気信号の伝搬A1に基づいて、心筋の各位置における電圧の大きさ(最大値や平均値等)を取得する。そして、表示制御機能34cは、ディスプレイ32において、取得した電圧の大きさに応じたカラーを付して、4次元画像データI1を表示する。
【0071】
別の一例を挙げると、まず、表示制御機能34cは、心筋の電気信号の伝搬A1に基づいて、心筋の各位置における電圧の時間変化を取得する。そして、表示制御機能34cは、ディスプレイ32において、電圧の変化量をカラーで表現しながら、4次元画像データI1を動画像として表示する。また、例えば、表示制御機能34cは、ディスプレイ32において、電圧の時間変化を表したグラフを表示する。
【0072】
別の一例を挙げると、まず、表示制御機能34cは、心筋の電気信号の伝搬A1に基づいて、心筋の各位置における電気信号の伝搬方向を取得する。そして、表示制御機能34cは、ディスプレイ32において、被検体P1の心筋の各位置における電気信号の伝搬方向を表す矢印(ベクトル)を付した4次元画像データI1を表示する。
【0073】
また、表示制御機能34cは、種々の情報と併せて、電気信号の伝搬A1を表示することとしてもよい。例えば、取得機能34aは、被検体P1の心臓について収集された時系列の3次元超音波画像データを更に取得する。次に、算出機能34bは、時系列の3次元超音波画像データから、心筋の各位置における変位(Displacement)を算出する。次に、算出機能34bは、心筋の各位置について、変位を微分することにより速度を算出する。更に、算出機能34bは、心筋の各位置における速度の時間変化から、心筋の局所的な歪み(Strain)の時間変化曲線であるStrainカーブを算出する。
【0074】
そして、表示制御機能34cは、電気信号の伝搬A1と併せて、Strainカーブに基づく3次元超音波画像データを表示する。例えば、表示制御機能34cは、電気信号の伝搬A1に基づく興奮開始時刻に応じてカラーを付した4次元画像データI1と、Strainが最大となる時刻に応じたカラーを付した3次元超音波画像データとを、ディスプレイ32において表示する。これにより、表示制御機能34cは、被検体P1の心臓の動きについて、より多くの情報を操作者に提供することができる。
【0075】
なお、3次元超音波画像データに基づくStrainカーブは、周辺細胞の動きに引きずられる影響があること、及び、変位を微分して求める事情から、ノイズが多い。これに対して、算出機能34bは、4次元画像データI1に基づく動き情報B1を電気信号に分解することにより、局所の細胞が動いた真の時刻を精度よく推定することができる。そして、表示制御機能34cは、電気信号の伝搬A1を表示することで、心筋の各細胞が動いた時刻を高精度で操作者に提示することができる。
【0076】
また、算出機能34bは、電気信号の伝搬A1を算出した後、電気信号の伝搬A1に基づいて、心筋の動き情報を算出してもよい。以下、電気信号の伝搬A1に基づいて算出される心筋の動き情報を、動き情報B2とする。
【0077】
例えば、算出機能34bは、動き情報B1に対応した電気信号の伝搬A1を算出する処理の逆の処理により、電気信号の伝搬A1に対応した動き情報B2を算出する。即ち、算出機能34bは、モデルM11を動き情報B1に適用することによって電気信号の伝搬A1を算出した後、モデルM11を電気信号の伝搬A1に適用することによって動き情報B2を算出する。
【0078】
算出機能34bが動き情報B2を算出した後、表示制御機能34cは、ディスプレイ32において、動き情報B2と4次元画像データI1とを比較可能に表示する。例えば、表示制御機能34cは、4次元画像データI1に含まれる1つの3次元画像データを動き情報B2に基づいて順次変形させることで、動き情報B2に基づく4次元画像データI2を生成する。そして、表示制御機能34cは、4次元画像データI1と4次元画像データI2とを並べて表示する。
【0079】
動き情報B2と4次元画像データI1とを比較可能に表示することにより、表示制御機能34cは、算出された電気信号の伝搬A1の評価を可能とする。即ち、電気信号の伝搬A1に基づく動き情報B2と、4次元画像データI1とが整合している場合、操作者は、電気信号の伝搬A1の精度を信頼できると判断することができる。
【0080】
また、4次元画像データI1は、心筋の各細胞が電気信号に起因して自ら行なう動き以外の他の成分(心臓全体が揺れ動くことによる動き成分や、心臓の膨張及び収縮に伴う動き成分)を含んでいる。これに対して、電気信号の伝搬A1に基づく動き情報B2は、心筋の各細胞が自ら行なう動きを示すものである。従って、表示制御機能34cは、動き情報B2と4次元画像データI1とを比較可能に表示することにより、被検体P1の心筋の動きについて、他の成分の有無による違いを操作者に提示することができる。
【0081】
次に、医用情報処理装置30による処理の手順の一例を、図5を用いて説明する。図5は、第1の実施形態に係る医用情報処理装置30の処理の一連の流れを説明するためのフローチャートである。ステップS101、ステップS102及びステップS106は、取得機能34aに対応するステップである。ステップS103及びステップS104は、算出機能34bに対応するステップである。ステップS105は、表示制御機能34cに対応するステップである。
【0082】
まず、処理回路34は、X線CT装置100又は画像保管装置20から、被検体P1の心筋の4次元画像データI1を取得してメモリ33に格納する(ステップS101)。次に、処理回路34は、メモリ33から4次元画像データI1を読み出して、4次元画像データI1から被検体P1の心筋の動き情報B1を取得する(ステップS102)。次に、処理回路34は、モデルM11を使用し、電気信号の伝搬と筋細胞との動態シミュレーションを実行して(ステップS103)、動き情報B1に対応した電気信号の伝搬A1を算出する(ステップS104)。そして、処理回路34は、算出した電気信号の伝搬A1を、ディスプレイ32において表示する(ステップS105)。
【0083】
ここで、処理回路34は、更に動き情報B1を取得したか否かを判定する(ステップS106)。動き情報B1を取得した場合(ステップS106肯定)、処理回路34は、再度ステップS103に移行する。一方で、動き情報B1を取得しなかった場合(ステップS106否定)、処理回路34は、処理を終了する。
【0084】
上述したように、第1の実施形態によれば、取得機能34aは、4次元画像データI1に基づく被検体P1の心筋の動き情報B1を取得する。算出機能34bは、細胞の動きと電気信号との関連を示すモデルM11を使用し、動き情報B1に対応した心筋の電気信号の伝搬A1を算出する。従って、第1の実施形態に係る医用情報処理装置30は、心筋における電気信号の伝搬を非侵襲的に算出することができる。例えば、医用情報処理装置30は、被検体P1の心臓に直接刺激を与えて頻脈を誘発するといった患者負担を要することなく、電気信号の伝搬を算出することができる。
【0085】
また、上述したように、第1の実施形態によれば、算出機能34bは、細胞が周辺細胞から受ける張力Tを更に算出し、張力Tの影響を除外するように動き情報B1を補正して、補正後の動き情報B1に対応した電気信号の伝搬A1を算出する。従って、第1の実施形態に係る医用情報処理装置30は、心筋状態を考慮して、電気信号の伝搬をより適切に算出することができる。即ち、心筋の変形のみに着目して電気信号の伝搬を評価する場合と比較し、医用情報処理装置30は、電気信号の伝搬を精度よく算出することができる。
【0086】
なお、これまで、1つの心拍について動き情報B1を取得する場合について説明したが、取得機能34aは、複数の心拍について動き情報B1を取得する場合であってもよい。例えば、まず、X線CT装置100における収集機能144aは、心電計から受信した心電図に基づいてX線の照射を制御し、複数の心位相のそれぞれに同期した投影データを収集する。次に、収集機能144aは、投影データを、正常な心拍(不整脈)について収集された投影データと、異常な心拍(整脈)について収集された投影データとに分類する。ここで、収集機能144aは、各投影データが正常な心拍について収集されたものか異常な心拍について収集されたものかを、心電図に基づいて分類してもよいし、投影データ自体に基づいて分類してもよい。
【0087】
次に、収集機能144aは、正常な心拍について収集された投影データから、複数の心位相のそれぞれについて3次元画像データを生成することで、4次元画像データI11を収集する。また、収集機能144aは、異常な心拍について収集された投影データから、複数の心位相のそれぞれについて3次元画像データを生成することで、4次元画像データI12を収集する。そして、収集機能144aは、正常な心拍について収集された4次元画像データI11と、異常な心拍について収集された4次元画像データI12とを、メモリ141に記憶させたり、画像保管装置20や医用情報処理装置30に送信したりする。なお、4次元画像データI11及び4次元画像データI12は、4次元画像データI1の一例である。
【0088】
次に、取得機能34aは、正常な心拍について収集された4次元画像データI11から動き情報B11を取得し、異常な心拍について収集された4次元画像データI12から動き情報B12を取得する。即ち、取得機能34aは、複数の心拍についてそれぞれ動き情報を取得する。次に、算出機能34bは、モデルM11を使用し、動き情報B11に対応した電気信号の伝搬A11と、動き情報B12に対応した電気信号の伝搬A12とをそれぞれ算出する。即ち、算出機能34bは、心拍ごとに、電気信号の伝搬を算出する。なお、動き情報B11及び動き情報B12は動き情報B1の一例であり、電気信号の伝搬A11及び電気信号の伝搬A12は電気信号の伝搬A1の一例である。
【0089】
そして、表示制御機能34cは、電気信号の伝搬A11と電気信号の伝搬A12とを、ディスプレイ32において比較可能に表示する。例えば、表示制御機能34cは、電気信号の伝搬A11と電気信号の伝搬A12とを、ディスプレイ32において、並べて表示したり、切り替えて表示したりする。これにより、医用情報処理装置30は、心拍間の差異と電気信号の伝搬との関係を表示し、診断を支援することができる。例えば、医用情報処理装置30は、異常な心拍における電気信号の伝搬A12において、正常な心拍における電気信号の伝搬A11と異なる部分を、心拍の異常の原因として提示することができる。
【0090】
また、これまで、1の被検体P1から動き情報B1を取得する場合について説明したが、取得機能34aは、複数の被検体P1から動き情報B1を取得する場合であってもよい。例えば、まず、X線CT装置100における収集機能144aは、心臓に疾患を有しない被検体P11の心筋の4次元画像データI13と、心臓に疾患を有する被検体P12の心筋の4次元画像データI14とを収集する。次に、収集機能144aは、4次元画像データI13と4次元画像データI14とを、メモリ141に記憶させたり、画像保管装置20や医用情報処理装置30に送信したりする。なお、被検体P11及び被検体P12は被検体P1の一例であり、4次元画像データI13及び4次元画像データI14は4次元画像データI1の一例である。
【0091】
次に、取得機能34aは、4次元画像データI13から動き情報B13を取得し、4次元画像データI14から動き情報B14を取得する。即ち、取得機能34aは、複数の被検体P1から動き情報を取得する。次に、算出機能34bは、モデルM11を使用し、動き情報B13に対応した電気信号の伝搬A13と、動き情報B14に対応した電気信号の伝搬A14とをそれぞれ算出する。即ち、算出機能34bは、被検体ごとに、電気信号の伝搬を算出する。なお、動き情報B13及び動き情報B14は動き情報B1の一例であり、電気信号の伝搬A13及び電気信号の伝搬A14は電気信号の伝搬A1の一例である。
【0092】
そして、表示制御機能34cは、被検体ごとに算出された電気信号の伝搬A13と電気信号の伝搬A14とを、ディスプレイ32において、比較可能に表示する。例えば、表示制御機能34cは、電気信号の伝搬A13と電気信号の伝搬A14とを、ディスプレイ32において、並べて表示したり、切り替えて表示したりする。これにより、医用情報処理装置30は、被検体間の差異と電気信号の伝搬との関係を表示し、診断を支援することができる。例えば、医用情報処理装置30は、心臓に疾患を有する被検体P12の電気信号の伝搬A14において、心臓に疾患を有しない被検体P11の電気信号の伝搬A13と異なる部分を、心拍の異常の原因として提示することができる。
【0093】
また、これまで、心臓の収縮期について4次元画像データI1を収集する場合について説明したが、収集機能144aは、拡張期を含めた1心拍分の4次元画像データI1を収集する場合であってもよい。例えば、被検体P1が心臓に有する疾患等に起因して、収縮期以外にも電気信号の伝搬が生じ得る場合、収集機能144aは、1心拍分の4次元画像データI1を収集する。そして、取得機能34aは、1心拍分の4次元画像データI1に基づく動き情報B1を取得し、算出機能34bは、1心拍分の動き情報B1に対応した電気信号の伝搬A1を算出する。
【0094】
(第2の実施形態)
上述した第1の実施形態では、メモリ33に記憶されたモデルM11をそのまま使用し、心筋の電気信号の伝搬A1を算出する場合について説明した。これに対し、第2の実施形態では、被検体P1に応じたモデルM12を使用して、心筋の電気信号の伝搬A1を算出する場合について説明する。
【0095】
第2の実施形態に係る医用情報処理装置30は、図1に示した第1の実施形態に係る医用情報処理装置30と同様の構成を有し、算出機能34bによる処理の一部が相違する。そこで、第1の実施形態において説明した構成と同様の構成を有する点については、図1と同一の符号を付し、説明を省略する。
【0096】
例えば、算出機能34bは、まず、被検体P1について、イオン濃度、血圧及び病変分布の少なくとも一つを取得する。一例を挙げると、まず、操作者は、電解質測定機器を用いて、被検体P1の血液のイオン濃度を測定する。かかる電解質測定機器は、例えば、被検体P1から採取された血液を検査してイオン濃度を測定するものであってもよいし、被検体P1の指先に照射した光に基づいてイオン濃度を測定するものであってもよい。そして、算出機能34bは、入力インターフェース31を介して、操作者からイオン濃度の入力操作を受け付けることにより、被検体P1のイオン濃度を取得する。
【0097】
また、一例を挙げると、操作者は、血圧測定機器を用いて、被検体P1の血圧を測定する。そして、算出機能34bは、入力インターフェース31を介して、操作者から血圧の入力操作を受け付けることにより、被検体P1の血圧を取得する。また、一例を挙げると、算出機能34bは、4次元画像データI1について、病変部位を検出するコンピュータ支援診断(Computer Aided Diagnosis:CAD)処理を実行することにより、被検体P1の心筋における病変分布を取得する。
【0098】
次に、算出機能34bは、メモリ33からモデルM11を読み出して、被検体P1のイオン濃度、血圧及び病変分布の少なくとも一つに応じてモデルM11を変形することにより、被検体P1に応じたモデルM12を生成する。例えば、心筋梗塞が生じている被検体P1の心臓において、心筋梗塞部(壊死している細胞の分布)が明らかとなっている場合、算出機能34bは、心筋梗塞部については心筋梗塞の筋細胞モデルを割り当て、心筋梗塞部以外についてはモデルM11と同様の筋細胞モデルを割り当てたモデルM12を生成する。そして、算出機能34bは、被検体P1に応じたモデルM12を使用して、心筋の電気信号の伝搬A1を算出する。
【0099】
これまで、被検体P1から取得される条件(イオン濃度の測定値、血圧の測定値、CAD処理による病変分布等)に応じて、モデルM12を生成する場合について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではなく、算出機能34bは、仮の条件に応じてモデルM12を生成する場合であってもよい。
【0100】
例えば、まず、取得機能34aは、入力インターフェース31を介して、操作者から、被検体P1の心筋に対して病変分布を設定する操作を受け付ける。ここで、操作者は、例えば、被検体P1の病変が進行した場合や、手術により病変を除去した場合等を仮定して、病変分布を設定する。次に、算出機能34bは、設定された病変分布に応じたモデルM12を使用して、心筋の電気信号の伝搬A1を算出する。そして、表示制御機能34cは、算出された電気信号の伝搬A1を、ディスプレイ32において表示する。例えば、表示制御機能34cは、CAD処理による病変分布に応じたモデルM12を使用して算出された電気信号の伝搬A1と、操作者により設定された病変分布に応じたモデルM12を使用して算出された電気信号の伝搬A1とを、ディスプレイ32において、比較可能に表示する。
【0101】
上述したように、第2の実施形態によれば、算出機能34bは、被検体P1に応じたモデルM12を使用して、心筋の電気信号の伝搬A1を算出する。従って、第2の実施形態に係る医用情報処理装置30は、被検体P1の個別の情報を用いて、心筋における電気信号の伝搬をより適切に算出することができる。
【0102】
また、上述したように、第2の実施形態によれば、算出機能34bは、設定された病変分布に応じたモデルM12を使用して、心筋の電気信号の伝搬A1を算出する。従って、第2の実施形態に係る医用情報処理装置30は、現在の被検体P1における電気信号の伝搬のみならず、カテーテルアブレーションを実行した後の電気信号の伝搬や、カテーテルアブレーションを実行せずに病変が進行した場合の電気信号の伝搬等をも算出し、診断を支援することができる。
【0103】
(第3の実施形態)
さて、これまで第1~第2の実施形態について説明したが、上述した実施形態以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。
【0104】
例えば、算出機能34bは、更に、心電図を用いて、電気信号の伝搬A1を算出してもよい。一例を挙げると、算出機能34bは、被検体P1の心筋の電気信号の伝搬A1を、被検体P1の心電図が示す電気信号の伝搬A2に対応するように算出する。
【0105】
具体的には、まず、取得機能34aは、被検体P1の心電図を取得する。ここで、取得機能34aは、4次元画像データI1を収集するスキャンの際中に測定された心電図を取得する場合であってもよいし、スキャンの前又は後に測定された心電図を取得する場合であってもよい。
【0106】
次に、算出機能34bは、心電図に基づいて、被検体P1の心筋における電気信号の伝搬A2を算出する。例えば、算出機能34bは、心電図の波形から、P波及びQRS波のそれぞれに相当する時間区間を識別する。ここで、算出機能34bは、洞結節において電気信号が発生した時間として、P波の開始時間を取得する。また、算出機能34bは、右心房を電気信号が伝搬した時間として、P波に相当する時間区間の開始後2/3を取得する。また、算出機能34bは、左心房を電気信号が伝搬した時間として、P波に相当する時間区間の終了前2/3を取得する。また、算出機能34bは、ヒス束、左脚/右脚を電気信号が伝搬した時間として、QRS波に相当する時間区間を取得する。
【0107】
また、算出機能34bは、モデルM11又はモデルM12を使用して動き情報B1に対応した心筋の電気信号の伝搬A1を算出する。また、算出機能34bは、算出した電気信号の伝搬A1と、心電図が示す電気信号の伝搬A2とを比較する。ここで、電気信号の伝搬A1と電気信号の伝搬A2との差異が小さい場合、算出機能34bは処理を終了する。
【0108】
一方で、電気信号の伝搬A1と電気信号の伝搬A2との差異が閾値より大きい場合、算出機能34bは、電気信号の伝搬A1を補正する。例えば、洞結節にて電気信号が発生してから右心房における電気信号の伝搬が開始するまでの時間について、電気信号の伝搬A2が示す値に対して電気信号の伝搬A1が示す値が著しく大きい場合、算出機能34bは、洞結節にて電気信号が発生してから右心房における電気信号の伝搬が開始するまでの時間を短縮するように、電気信号の伝搬A1を補正する。
【0109】
次に、算出機能34bは、モデルM11又はモデルM12を使用し、補正後の電気信号の伝搬A1に対応した心筋の動き情報B3を算出する。即ち、算出機能34bは、動き情報B1に対応した電気信号の伝搬A1を算出する処理の逆の処理により、電気信号の伝搬A1に対応した動き情報B3を算出する。次に、算出機能34bは、動き情報B1と動き情報B3とを比較する。
【0110】
ここで、動き情報B1と動き情報B3との差異が小さい場合、算出機能34bは処理を終了する。一方で、動き情報B1と動き情報B3との差異が閾値より大きい場合、算出機能34bは、動き情報B1を補正する。次に、算出機能34bは、補正後の動き情報B1に対応した心筋の電気信号の伝搬A1を算出する。更に、算出機能34bは、上述した電気信号の伝搬A1と電気信号の伝搬A2との比較、及び、動き情報B1と動き情報B3との比較を、所定の回数或いは差異が閾値を下回るまで、繰り返し実行する。これにより、算出機能34bは、動き情報B1に対応した電気信号の伝搬A1の精度を、心電図に基づいて向上させることができる。
【0111】
また、算出機能34bは、電気信号の伝搬A1を算出した後、電気信号の伝搬A1が制約条件を満たすか否かを判定してもよい。即ち、算出機能34bは、算出した電気信号の伝搬A1が、実際に起こり得るものであるか否かを判定してもよい。
【0112】
例えば、被検体P1の心筋を電気信号が伝搬する速度には限界があり、この限界を超えた速度で電気信号が伝搬することはない。また、例えば、電気信号の伝搬はつながっているものであり、不連続に電気信号が伝搬することはない。そこで、算出機能34bは、4次元画像データI1の複数位置における電気信号の伝搬A1について、心筋における電気信号伝搬の速度及び連続性の少なくとも一方に関する制約条件を満たすか否かを判定する。
【0113】
ここで、電気信号の伝搬A1が制約条件を満たさない場合、算出機能34bは、例えば、4次元画像データI1の複数位置における電気信号の伝搬A1を再算出する。なお、算出機能34bは、算出条件を変更して、電気信号の伝搬A1を再算出することとしてもよい。例えば、算出機能34bは、使用するモデルや動き情報を変更して、電気信号の伝搬A1を再算出する。一例を挙げると、モデルM11を用いて電気信号の伝搬A1を算出していた場合において、算出機能34bはモデルM12を用いて電気信号の伝搬A1を再算出する。別の例を挙げると、動き情報B1を用いて電気信号の伝搬A1を算出していた場合において、算出機能34bは動き情報B1’を用いて電気信号の伝搬A1を再算出する。
【0114】
或いは、算出機能34bは、電気信号の伝搬A1のうち、制約条件を満たさない部分を除外することとしてもよい。即ち、算出機能34bは、算出した電気信号の伝搬A1のうち、制約条件を満たさない部分を取り除いて、最終結果としてもよい。この場合、表示制御機能34cは、電気信号の伝搬A1のうち、制約条件を満たさない部分を除く他の部分を表示する。或いは、表示制御機能34cは、電気信号の伝搬A1に制約条件を満たさない部分が含まれることが認識できる態様で、電気信号の伝搬A1を表示する。例えば、表示制御機能34cは、電気信号の伝搬A1のうち制約条件を満たさない部分を黒色として、電気信号の伝搬A1を表示する。
【0115】
また、上述した実施形態では、医用情報処理装置30の処理回路34が、取得機能34a及び算出機能34bを有する場合について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、X線CT装置100の処理回路144が、取得機能34a及び算出機能34bに相当する機能(以下、取得機能144d及び算出機能144eと記載する)を有する場合であってもよい。
【0116】
この場合、まず、収集機能144aが、被検体P1の心筋の4次元画像データI1を収集する。次に、取得機能144dは、4次元画像データI1から、被検体P1の心筋の動き情報B1を取得する。次に、算出機能144eは、モデルM11又はモデルM12を使用し、動き情報B1に対応した心筋の電気信号の伝搬A1を算出する。そして、表示制御機能144bは、算出された電気信号の伝搬A1を、ディスプレイ142において表示する。
【0117】
また、上述した実施形態では、医用情報処理装置30における取得機能34aが、4次元画像データI1から動き情報を算出する場合について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、X線CT装置100における取得機能144dが4次元画像データI1から被検体P1の心筋の動き情報B1を算出し、取得機能34aは、X線CT装置100から動き情報B1を取得する場合であってもよい。
【0118】
また、上述した実施形態では、被検体P1の心筋について、電気信号の伝搬A1を算出する場合について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、取得機能34aは、心筋以外の筋肉を対象部位として、対象部位の4次元画像データに基づく動き情報を取得することができる。更に、算出機能34bは、モデルM11を使用し、動き情報に対応した対象部位の電気信号の伝搬を算出することができる。
【0119】
また、上述した実施形態では、モデルM11又はモデルM12を使用して、電気信号の伝搬A1を算出する場合について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、算出機能34bは、動き情報B1と電気信号の伝搬A1との対応関係を定めたデータベースをメモリ33から読み出し、取得機能34aが取得した動き情報B1をデータベースと比較することにより、電気信号の伝搬A1を算出する場合であってもよい。
【0120】
上述した実施形態に係る各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。即ち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。更に、各装置にて行われる各処理機能は、その全部又は任意の一部が、CPU及び当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現されうる。
【0121】
また、上述した実施形態で説明した医用情報処理方法は、予め用意されたプログラムをパーソナルコンピュータやワークステーション等のコンピュータで実行することによって実現することができる。このプログラムは、インターネット等のネットワークを介して配布することができる。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO、DVD等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
【0122】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、患者負担を低減しつつ、電気信号の伝搬を算出することができる。
【0123】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0124】
1 医用情報処理システム
30 医用情報処理装置
34 処理回路
34a 取得機能
34b 算出機能
34c 表示制御機能
図1
図2
図3
図4
図5