(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】シリンダブロック
(51)【国際特許分類】
F01M 13/00 20060101AFI20220921BHJP
F01M 13/04 20060101ALI20220921BHJP
F01P 5/10 20060101ALI20220921BHJP
F02F 1/10 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
F01M13/00 L
F01M13/04 Z
F01P5/10 A
F02F1/10 D
(21)【出願番号】P 2018225846
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】古浜 和樹
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-148157(JP,A)
【文献】仏国特許出願公開第02973071(FR,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 13/00
F02F 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸線の長手方向に広がる長手一側部に、ブローバイガスからオイルを分離するためのオイル分離室を設けているシリンダブロックであって、
クランク軸線及び気筒軸線と直交した方向から見て前記オイル分離室を囲う部位のうちの一部に、冷却水通路が、前記オイル分離室と隔壁にて隔てられた状態に形成されており、前記隔壁のうち少なくとも一部は、前記冷却水通路の入り口の開口方向に対して傾斜している
構成において、
前記冷却水通路の入り口はシリンダヘッドに向けて気筒軸線方向に開口している一方、
前記隔壁は、気筒軸線と直交した方向に長い姿勢の天井壁と、前記天井壁の一端に連続していて気筒軸線に対して傾斜した側壁とで構成されており、前記天井壁と前記側壁とは鈍角で交差している、
シリンダブロック。
【請求項2】
クランク軸線の長手方向に広がる長手一側部に、ブローバイガスからオイルを分離するためのオイル分離室を設けているシリンダブロックであって、
クランク軸線及び気筒軸線と直交した方向から見て前記オイル分離室を囲う部位のうちの一部に、冷却水通路が、前記オイル分離室と隔壁にて隔てられた状態に形成されており、前記隔壁のうち少なくとも一部は、前記冷却水通路の入り口の開口方向に対して傾斜している構成において、
前記冷却水通路の入り口はシリンダヘッドに向けて気筒軸線方向に開口して、前記冷却水通路の出口はクランク軸線方向に開口しており、前記出口は、クランク軸によって駆動されるウォータポンプの回転軸心と略同心に配置されている、
シリンダブロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用等の内燃機関に使用されるシリンダブロックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関においては、クランク室に吹き抜けたブローバイガスはPCV通路を介して吸気系に戻されており、PCV通路の中途部に、オイルミストを分離するオイル分離室(オイルセパレータ、気液分離室)を設けている。オイル分離室は、一般に、シリンダブロックに設ける場合と、ヘッドカバーに設ける場合とに大別される。
【0003】
オイル分離室をシリンダブロックに設ける場合は、シリンダブロックの長手一側部に、外向きに開口した状態に形成されており、これを蓋で塞ぐことによって中空構造に形成している。従って、厳密には、オイル分離室は、シリンダブロックに形成された本体部とこれに固定された蓋とで構成されており、本体部の内面と蓋の内面とのうち一方又は両方に、オイルミストを補集するリブが形成されている。
【0004】
そして、特許文献1には、ブローバイガスに含まれている水分の凍結防止等を目的として、オイル分離室に設けた蓋(補機ブラケット)に冷却水通路を形成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ブローバイガスと冷却水との間で熱交換することは、寒冷状態では、ブローバイガスを冷却水で加温して、ブローバイガスに含まれている水分の凍結防止の効果を発揮する一方、夏場での運転のような非寒冷状態での運転では、ブローバイガスに含まれている水分の凝縮を促進することにより、水分と油分との結合性を高めてオイルミストの補集効果を向上させる効果を発揮する。
【0007】
オイル分離室をシリンダブロックの上部に配置すると、シリンダブロックの上部は温度が高くなるため、ブローバイガスは昇温して水分が蒸気化する傾向が高くなるが、水分が蒸気化すると凝縮によるオイルミストとの結合性は低下するため、ブローバイガスを冷却水で冷却することは有益である。
【0008】
そして、特許文献1は、非寒冷状態において、ブローバイガスの冷却効果によってオイルミストの補集性を向上できると云えるが、冷却水通路は蓋(補機ブラケット)に設けているため、ブローバイガスに対するシリンダブロックからの伝熱を抑制する効果は乏しくて、オイルミスト補集効果の向上も限定的であると解される。
【0009】
また、特許文献1は配管構造が複雑であり、部品点数の増大によってコストが大幅に嵩むのみならず、重量増大や冷却水の流れの圧損による燃費の悪化も懸念される。
【0010】
本願発明は、このような現状を改善すべく成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、クランク軸線の長手方向に広がる長手一側部に、ブローバイガスからオイルを分離するためのオイル分離室を設けているシリンダブロックに係るものであり、このシリンダブロックは、
「クランク軸線及び気筒軸線と直交した方向から見て前記オイル分離室を囲う部位のうちの一部に、冷却水通路が、前記オイル分離室と隔壁にて隔てられた状態に形成されており、前記隔壁のうち少なくとも一部は、前記冷却水通路の入り口の開口方向に対して傾斜している」
という基本構成になっている。なお、「冷却水通路の入り口の開口方向」は、入り口の開口面と直交した方向(開口面の垂線方向)と定義できる。
【0012】
そして、請求項1の発明は、上記基本構成において、
「前記冷却水通路の入り口はシリンダヘッドに向けて気筒軸線方向に開口している一方、 前記隔壁は、気筒軸線と直交した方向に長い姿勢の天井壁と、前記天井壁の一端に連続していて気筒軸線に対して傾斜した側壁とで構成されており、前記天井壁と前記側壁とは鈍角で交差している」
という構成になっている。
【0013】
また、請求項2の発明は、上記基本構成において、
「前記冷却水通路の入り口はシリンダヘッドに向けて気筒軸線方向に開口して、前記冷却水通路の出口はクランク軸線方向に開口しており、前記出口は、クランク軸によって駆動されるウォータポンプの回転軸心と略同心に配置されている」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0014】
本願発明では、冷却水通路をシリンダブロックに内蔵しているため、配管は不要でコスト抑制に貢献できると共に、軽量化も促進できる。また、シリンダブロックからブローバイガスへの伝熱を抑制できることにより、ブローバイガスに含まれている水分の蒸発を抑制できるため、水分とオイルミストとの結合を促進して、オイルミストの補集性能を向上できる。
【0015】
また、隔壁は傾斜した部分を有するため、隔壁に対する冷却水の接触性を高めつつ、圧損も大幅に低減できる。従って、圧損による燃費の悪化を防止しつつ、ブローバイガスの冷却性能を高めてオイルミストの補集性を向上できる。また、寒冷状態での運転では、冷却水によってブローバイガスをしっかりと加温できるため、高い凍結防止効果を発揮する。
【0016】
請求項1のように、隔壁を、天井壁と傾斜した側壁とを有する形態に構成すると、隔壁の長さをできるだけ長くしつつ、隔壁を介してブローバイガスと熱交換できるため、ブローバイガスの冷却性(寒冷状態では加温性)を更に向上できる。
【0017】
また、冷却水通路は、シリンダブロックにおける燃焼室の外側に形成されるため、冷却水通路に充満した冷却水によって振動を吸収できる。従って、エンジンのノイズ抑制や騒音抑制にも貢献できる。
【0018】
請求項2の構成を採用すると、冷却水通路から排出された冷却水が、流れ方向を変えることなくウォータポンプのポンプ室にダイレクトに吸引されるため、圧損を更に低減して燃費の向上に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係るシリンダブロックを前部から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(1).基本構造
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、方向を特定するため前後の文言を使用するが、前後方向はクランク軸線方向であり、タイミングチェーンが配置されている側を前としている。念のため、
図1,2に方向を明示している。上下方向は気筒軸線方向である。
【0021】
図1,2に示すとおり、本実施形態のシリンダブロックは3気筒であり、3つのボア1がクランク軸線方向に並んで形成されている。個別のボア1を特定する必要がある場合は、前から順に、1番、2番、3番と番号を付して呼ぶこととする。ボア1の群は、ループ形状のウォータジャケット2で囲われている。
【0022】
シリンダブロックの上面のうち、吸気側の部位でかつウォータジャケット2よりも外側の部位には、シリンダヘッドを経由した冷却水が流入する前後長手の冷却水入り口3と、ウォータポンプ4(
図2参照)によって圧送された冷却水をウォータジャケット2に送り出す送水口5とが上向きに開口している。送水口5はウォータジャケット2の前部に位置して、冷却水入り口3は、側面視で1番と2番の2つのボア1に重なる位置に形成されている。
【0023】
図2に示すように、シリンダブロックの前面にはフロントカバー6が固定されており、フロントカバー6に、ウォータポンプ4のハウジングが一体に設けられている。従って、フロントカバー6に形成されたハウジングが、シリンダブロックに形成されたポンプ取付け座7(
図1参照)に密着している。
【0024】
ウォータポンプ4は、冷却水がポンプ室に軸心方向から流入して外周方向に搬出される遠心式ものであるが、
図1に示すように、シリンダブロックの前面に、ウォータポンプ4の回転軸心と同心の冷却水吸引口8と、その上に位置した冷却水吐出口9とが形成されており、冷却水吐出口9は送水口5と連通している。
【0025】
図2の平面図では、冷却水入り口3と送水口5とが一直線に並んでいるが、
図1のとおり、冷却水吸引通路8と冷却水吐出口9とは、冷却水吐出口9が上に位置するように上下に高さが相違しているため、平面視において冷却水入り口3と送水口5とが一直線に並ぶことは差し支えないし、スペースを有効利用できるメリットがある。
【0026】
送水口5からウォータジャケット2に流れ込んだ冷却水は、二手に分かれてウォータジャケット2を周方向に流れていき、ウォータジャケット2の後部において、シリンダヘッドに設けた連通穴10に上向きに流れ込んでいく。シリンダヘッドとシリンダブロックとの間にはガスケット(図示せず)が配置されているが、連通穴10はガスケットにも形成されている。
【0027】
(2).オイル分離室と冷却水通路
図1に示すように、シリンダブロックのうち吸気側の側面部(長手一側部)に、クランクケースに吹き抜けたブローバイガスからオイルミストを除去するオイル分離室11が形成されている。オイル分離室11は、側面視で、第2ボア1の全体と第1ボア1の後ろ半分程度とに重なるように形成されており、
図4,5のとおり、概ね前半分は、平面視において冷却水入り口3と重複している。
【0028】
図3~5に示すように、オイル分離室11の下部には、クランクケースと連通したPCV下部通路13の上端が開口している。また、
図2に示すように、オイル分離室11には蓋14がボルトで固定されており、オイル分離室11の奥底部や内周面、及び蓋14の内面には、オイルミストを補集するためのリブ15を形成している。
【0029】
図2に示すように、蓋14にはPCV上部通路16が接続されており、オイルミストが分離されたブローバイガスは、PCV上部通路16を経由して吸気系(例えば吸気マニホールド)に送られる。図示していないが、PCV通路のうちオイル分離室11よりも下流側の部位には、PCVバルブが配置されている。なお、PCVバルブは、オイル分離室11に設けてもよい。
【0030】
オイル分離室11は、大まかには、上に向けて上下間隔が狭まる側面視台形の形態を成しており、略水平姿勢の天井壁17と、これに連続した前側壁18及び後ろ側壁19とを有しており、前後の側壁18,19はボア軸心に対して傾斜している。従って、天井壁17と前側壁18とは、側面視で鈍角を成す姿勢で繋がっている。なお、
図4に符号3aで示すように、冷却水入り口3の開口方向は、当該冷却水入り口3の開口面と直交した方向であるが、本実施形態では、開口方向3aはボア軸心方向と一致している。
【0031】
そして、シリンダブロックの吸気側の肉厚部のうち、天井壁17及び前側壁18の外側には、冷却水を冷却水入り口3からウォータポンプ4に戻す冷却水戻し通路20が、天井壁17と前側壁18とによって隔てられた状態に形成されている。従って、冷却水戻し通路20の上端は冷却水入り口3になって、冷却水戻し通路20の下端は、ウォータポンプ4の冷却水吸引通路8に連通した冷却水出口21になっている。大まかには、冷却水戻し通路20は、オイル分離室11の手前側に形成されている。
【0032】
このような冷却水戻し通路20とオイル分離室11との関係により、
図4に矢印で示すように、シリンダヘッドの還流通路から流入した冷却水は、冷却水戻し通路20を下向きに流れてから、水平方向に向きを変えてウォータポンプ4に吸い込まれる。そして、冷却水入り口3に流下した冷却水の一部は、オイル分離室11の上面を構成する天井壁17に当たって方向変換し、前側壁18に沿って下方に流れていく。また、冷却水の一部は、直接、前側壁18に当たって下方に流れていく。
【0033】
冷却水の一部は天井壁17に当たるが、天井壁17の面積は冷却水入り口3の開口面積に対して僅かであり、かつ、天井壁17と前側壁18は鈍角を成して繋がっているため、天井壁17に衝突した冷却水は、前側壁18によってスムースに下向きに方向変換される。また、前側壁18と冷却水吸引通路8とも鈍角を成して交差しているため、冷却水戻し通路20から冷却水吸引通路8への方向変換もスムースに行われる。
【0034】
このように、冷却水は、スムースに方向変換して冷却水入り口3から冷却水吸引通路8に流れつつ、天井壁17と前側壁18とを介してブローバイガスを冷却する。従って、冷却水の流れ抵抗による圧損を殆ど生じることなく、オイルミストの補集性を向上できる。
【0035】
また、本実施形態では、冷却水出口21がウォータポンプ4の回転軸心上に位置しているため、冷却水出口21に流入した冷却水は、ウォータポンプ4のポンプ室に向けて一直線に流れる。これにより、圧損を更に防止して燃費の向上に貢献できる。
【0036】
図4に示すように、シリンダヘッドの還流通路はクランク軸線方向に長い姿勢になっており、冷却水は、矢印22のとおり、クランク軸線方向に流れてから下向きに方向変換して冷却水戻し通路20に流入する。そして、前側壁18は前傾しているため、冷却水はスムースに方向変換して冷却水戻し通路20を通過していく。この点も、傾斜した前側壁18の利点である。
【0037】
本願発明は、図示した形態の他にも様々に具体化できる。例えば、実施形態のように冷却水が上から冷却水通路に入り込む場合、天井壁17を備えていない態様も採用可能である。また、図示の例では、冷却水通路は、冷却水がシリンダヘッドからウォータポンプに戻る通路であったが、冷却水が逆向きに流れる場合にも適用できる。また、冷却水通路は、冷却水がクランク軸線方向に流れる態様になっていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本願発明は、内燃機関のシリンダブロックに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0039】
1 ボア
2 ウォータジャケット
3 冷却水戻し通路への冷却水入り口
4 ウォータポンプ
5 ウォータジャケットへの送水口
6 フロントカバー
7 ポンプ取付け座
8 ウォータポンプの冷却水吸引通路
9 ウォータポンプの冷却水吐出口
11 オイル分離室
13 PCV下部通路
14 蓋
15 リブ
16 PCV上部通路
17 天井壁
18 傾斜した前側壁
20 冷却水戻し通路
21 冷却水戻し通路の冷却水出口