IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイハツ工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-内燃機関用ピストンの製造方法 図1
  • 特許-内燃機関用ピストンの製造方法 図2
  • 特許-内燃機関用ピストンの製造方法 図3
  • 特許-内燃機関用ピストンの製造方法 図4
  • 特許-内燃機関用ピストンの製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】内燃機関用ピストンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21K 1/18 20060101AFI20220921BHJP
   F02F 3/00 20060101ALI20220921BHJP
   F16J 1/14 20060101ALI20220921BHJP
   B21J 5/10 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
B21K1/18 Z
F02F3/00 G
F16J1/14
B21J5/10 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018225848
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2020082186
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】前田 正弘
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-172643(JP,A)
【文献】特開2005-000960(JP,A)
【文献】特開2014-190466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21K 1/18
F02F 3/00
F16J 1/14
B21J 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンロッドの小端部が入り込む空洞部が裏面方向に開口していると共に、前記コンロッドの小端部とピストンを連結するピストンピンが嵌まる一対のピン穴が、前記空洞部を挟んで対向するように配置された一対のピンボス部を貫通するように形成されているピストンの製造方法であって、
前記空洞部が形成されている中間品の前記一対のピンボス部のそれぞれに対して、少なくとも前記空洞部の側から前記ピン穴の軸心方向にそれぞれインナーマンドレルを圧入して前記ピン穴を加工する工程を備えており、
前記空洞部の側から前記一対のピンボス部に対して各インナーマンドレルを圧入することが、前記ピストンの軸心及びピン穴の軸心と直交した方向から見て前記ピストンの頂面に向けて間隔が狭まったクサビ部を有するプッシャーを使用して前記各インナーマンドレルを横移動させることによって行われている、
内燃機関用ピストンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に使用されるピストン(鍛造ピストン)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用等の内燃機関のピストンは、アルミ合金のような軽合金を材料にした鋳造品が多用されているが、軽合金はスチールに比べると強度に劣るという欠点がある。このため、過酷な使用状態が続くと亀裂が発生することがあるが、この亀裂は、一般に、ピン穴の内周部のうち、空洞部に寄った部位(ピンボス部の付け根部でかつピストンの頂面側に位置した部位)で発生している。
【0003】
すなわち、図4(B)に矢印Fで示すように、爆発工程(膨張工程)において、ピストンピンPがピストン19によってクランク軸に向けて強く押圧されるが、ピストン19の頂面には圧力が均等に掛かるのに対して、空洞部2が存在することにより、ピストン19は中央部が下向きに凹むように僅かながら曲がる傾向を呈しており、このため、ピンボス部3のうち空洞部2に寄った側でかつピストン19の頂面側に位置した奥上部3aがピストンピンPに強く当たって、この奥上部3aに大きな圧縮力が作用するのであり、この大きな圧縮力により、奥上部3aがピストンピンPの接線方向に広がる傾向を呈して、奥上部3aに、ピン穴4及びピストンピンPの接線方向に引き裂くような引っ張り応力が発生するのであり、その結果、奥上部3aを起点にして亀裂が発生しやすい。
【0004】
そこで、ピストンを軽合金製としつつ割れに対する強度を高めることが検討されており、その例として特許文献1には、ピストンを鍛造によって製造することが開示されている。この特許文献1では、ピン穴と同心の逃がし穴が形成された中間品を鍛造によって製造してから、逃がし穴に向けて外側からマンドレルを圧入することによって、ピン穴を鍛造加工している。鍛造品は表面が硬化しているため、単なる鋳造品に比べて強度を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-307937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、既述のとおり、ピンボス部の亀裂は、燃焼圧によりピンボス部の奥上部に強い圧縮力が作用することに起因して、奥上部に、ピン穴の接線方向に引き裂こうとする引張応力が発生するため、亀裂が発生しやすくなっている。
【0007】
従って、鍛造品においてピンボス部での亀裂の発生を的確に阻止するには、ピン穴の奥部においてピストンの上下方向に流れる鍛流線(ファイバーフロー)が、ピン穴の接線方向(外周方向)に向かうように塑性加工することにより、鍛流線の切断に対する抵抗を増大させて、ピン穴の接線方向に作用する引張応力に対する強度を向上させたらよいと云えるが、特許文献1のように外側のみからマンドレルを進入させる方法では、ピン穴の奥部では鍛流線がピン穴の軸心と直交した方向(放射方向)に向いたまません断破壊し、鍛流線が抵抗として寄与しない傾向があるため、ピン穴の奥部のピンボス部の亀裂対策として十分とは言い難い。
【0008】
本願発明は、このような現状を改善することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、
「コンロッドの小端部が入り込む空洞部が裏面方向に開口していると共に、前記コンロッドの小端部とピストンを連結するピストンピンが嵌まる一対のピン穴が、前記空洞部を挟んで対向するように配置された一対のピンボス部を貫通するように形成されている」
という構成であるピストンの製造方法であり、この製造方法は、
「前記空洞部が形成されている中間品の前記一対のピンボス部のそれぞれに対して、少なくとも前記空洞部の側から前記ピン穴の軸心方向にそれぞれインナーマンドレルを圧入して前記ピン穴を加工する工程を備えており、
前記空洞部の側から前記一対のピンボス部に対して各インナーマンドレルを圧入することが、前記ピストンの軸心及びピン穴の軸心と直交した方向から見て前記ピストンの頂面に向けて間隔が狭まったクサビ部を有するプッシャーを使用して前記各インナーマンドレルを横移動させることによって行われている」
という点に特徴を有している。
【発明の効果】
【0010】
さて、鍛流線は塑性変形の方向に向かうように形成されるので、材料の変形が大きいほど鍛流線として顕著に現れる。そして、本願発明では、ピン穴は、少なくともピンボス奥の空洞部からマンドレルを圧入して形成するものであるため、ピン穴の奥部から、ピン穴の軸線方向に延びる鍛流線が生成される。従って、ピンボス部の奥上部は、燃焼圧力に起因した圧縮作用に対して非常に高い抵抗を発揮し、その結果、亀裂の発生を効果的に防止できる。
【0011】
つまり、鍛流線がピン穴の軸線方向に延びていると、ピン穴の内周部において金属粒子の結合力が強化される効果が発揮されて、鍛流線がピン穴の接線方向に延びているのと同じような状態が生成されるため、ピン穴の接線方向の引っ張りに対する抵抗が増大するのである。
【0012】
また、ピンボス部に亀裂を生じさせるには平行に延びる鍛流線を引き剥がす必要があるが、軸線方向に延びる鍛流線を引き剥がすには非常に大きな外力を要するため、燃焼圧によってピンボス部の奥上部に接線方向の引っ張り力が作用しても、これに対して強い抵抗が生じる。この面でも、亀裂の発生を効果的に防止できる。
【0013】
さて、マグネシウム合金は軽量でかつ耐熱性に優れていてピストンの材料として有望視されているものの、材料強度が低い問題があって実用化が遅れているが、鍛造構造に本願発明を適用することにより、マグネシウム合金製のピストンであっても高い強度を確保することが可能になる。従って、本願発明の技術的価値は非常に高いと云える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態において、加工前のセット状態を示す縦断面図である。
図2】(A)は図1のIIA-IIA 視断面図、(B)は図1のIIB-IIB 視断面図、(C)は図1のIIC-IIC 視断面図である。
図3】穿孔加工を終えた状態での縦断面図である。
図4】(A)は穿孔加工を終えた状態でのピストンの縦断面図、(B)はピン穴を仕上げ加工した状態での縦断面図である。
図5参考例の加工前のセット状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1).第1実施形態の基本構造
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本願実施形態は図1~4に示している。本実施形態では、出発材料として中間品1が使用される。中間品には、コンロッド(図示せず)の先端部が遊嵌する空洞部2と、ピストンピン(図示ぜす)を保持するピンボス部3と、スカート部とピン穴4のパイロット穴なる逃がし穴5とが形成されている。
【0016】
中間品1は、円柱状の素材を材料にして鍛造で製造することも可能であるし、図で表示した状態に近い形状の素材を鋳造やダイキャストで製造し、そこから中間品1の形状を鍛造成型することも可能である。中間品1の外周にはピストンリング用環状溝6とオイルリング用環状溝7とを表示しているが、これらは、ピン穴4の加工後に形成してもよい。
【0017】
本実施形態では、ピン穴4の加工手段として、ピンボス部3に外側から圧入されるアウターマンドレル8の対と、ピンボス部3に空洞部2の側から圧入されるインナーマンドレル9の対と、インナーマンドレル9を外側に向けて横移動させるためのプッシャー10と、インナーマンドレル9及びプッシャー10が組み込まれた保持型11とを備えている。従って、保持型11には、インナーマンドレル9が逃がし穴5の軸心方向に進退動可能に嵌まった横穴12が空いており、プッシャー10は、保持型11の内部に摺動自在に嵌まっている。アウターマンドレル8及びインナーマンドレル9の先端は、少し面取りされている。
【0018】
保持型11の先端部11aは空洞部2の底面に当接するようになっており、先端部には、プッシャー10の移動を許容するために凹所13が形成されている。プッシャー10のうちインナーマンドレル9と接する部分は、当該プッシャー10の前進動によってインナーマンドレル9を逃がし穴5の方向に横移動させるために、逃がし穴5及びピストン軸線と直交した方向から見て、先端に向けて(ピストン1の頂面に向けて)幅が狭くなったクサビ部(カム部)10aになっている。図2(C)のとおり、クサビ部10aの横断面形状は角形になっている。
【0019】
他方、一対のインナーマンドレル9の対向した後端面9aは、プッシャー10の傾斜面と平行な傾斜面になっており、図2(C)のとおり、後端面9aに、プッシャー10がスライド自在に嵌合するガイド溝14を形成している。
【0020】
アウターマンドレル8は、図示しない押圧手段により、逃がし穴5の軸心と同心の方向に往復移動する。また、アウターマンドレル8には、鍛造に際して中間品1から肉を逃がすための中空穴15を形成している。
【0021】
(2).加工工程
図1は加工前のセット状態を示しており、中間品1は、円形の部分が嵌まる凹所を有する第1金型16と、ピンボス部3が嵌まる部分を有する第2金型17とで移動不能に保持されている。保持型11は第2金型17に装着されているが、保持型11を第2金型17に一体に設けることも可能である。アウターマンドレル8も、第2金型17に設けるのが好ましい。なお、図では、第1金型16を上にして中間品1は空洞部2を下向きに開口した姿勢に表示しているが、実際には、第1金型16を下にして第2金型17を上にした状態で加工するのが好ましい。
【0022】
ピン穴4の鍛造加工は、アウターマンドレル8を図示しない押圧手段によって軸心方向に前進させると共に、プッシャー10を上昇させてインナーマンドレル9を前進させることによって行われる。すなわち、アウターマンドレル8とインナーマンドレル9とを前進させて、逃がし穴5が形成されている部分の肉を押し出すことにより、ピン穴4が形成される。この場合、押し出された肉は、アウターマンドレル8に形成されている中空穴15から排除される。
【0023】
アウターマンドレル8とインナーマンドレル9との先端は面取りされているため、両者を互いに当接する状態まで前進させると、図4(A)に示すように、内向き環状突起18が残ったピン穴4が形成される。そこで、ドリル等によって仕上げ加工(切削加工)することによってピン穴4が形成され、これによってピストン19が製造される。
【0024】
ピン穴4の鍛造加工において、ピンボス部3には、図3に示すように、マンドレル8,9の圧入による加圧作用によって、鍛流線20,21はピン穴4の軸線に平行な方向に引き込まれる。そして、ピンボス部3の肉は、インナーマンドレル9の押し出しによって逃がし穴5の軸線方向に逃げるため、インナーマンドレル9の圧入による鍛流線21は、インナーマンドレル9の前進方向に向かって折り曲げられ、最終的に鍛流線21がピストンの上下方向に向かいピン穴部で切断される部位22は、インナーマンドレル9とアウターマンドレル8の突合せ部付近に移動する。
【0025】
そして、既に述べたように、ピストン19が空洞部2を有していることに起因して、爆発工程においてピストン19が押し曲げられることにより、ピンボス部3の奥上部3aに強い圧縮力が作用しても、インナーマンドレル9によって形成された鍛流線21が、ピン穴4の軸線方向に延びる部分を有していることにより、燃焼圧力によってピンボス部3の奥上部3aに強い圧縮力が作用しても、これにしっかりと抵抗して高い強度を確保することができる。
【0026】
(3).参考例・その他
図5では、参考例を示している。この参考例では、アウターマンドレル8は使用せずにインナーマンドレル9のみを使用している。インナーマンドレル9は円筒状に形成されていて、保持型11の横穴12にスライド自在に嵌まっている。そして、インナーマンドレル9の内周には雌ねじが形成されており、逃がし穴5に外側から挿入したロッド23をインナーマンドレル9にねじ込んでから、ロッド23を外側に向けて引っ張ることより、ピン穴4を加工する。
【0027】
この場合、肉を逃がすため、ロッド23と逃がし穴5との間に若干のクリアランスを設けており、また、ロッド23が装着されている第2金型17にも、肉逃がしのための空所24を形成している。なお、一対のロッド23に挿通されたガイド棒を設けることにより、一対のインナーマンドレル9を同心に保持することも可能である。
【0028】
この参考例では、ピン穴4の内周部に生成される鍛流線21は、ピン穴4の略全長に亙って、ピン穴4の軸心方向に延びる部分を有するため、強度は更に強くなると云える。なお、この参考例においても、アウターマンドレル8を併用することは可能である。
【0029】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、インナーマンドレルの押圧手段として複動式の油圧シリンダを使用して、これを保持型の内部に配置することも可能である。また、インナーマンドレルにも、肉を逃がすための中空穴を形成することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本願発明は、内燃機関用ピストンの製造技術に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 中間品
2 空洞部
3 ピンボス部
3a ピンボス部の奥上部
4 ピン穴
5 逃がし穴
8 アウターマンドレル
9 インナーマンドレル
10 プッシャー
10a クサビ部
11 保持型
12 横穴
14 ガイド溝
19 ピン穴加工後のピストン
20,21 鍛流線
図1
図2
図3
図4
図5