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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】フッ化ビニリデン重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 14/22 20060101AFI20220921BHJP
   C08F 2/18 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C08F14/22
C08F2/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018228963
(22)【出願日】2018-12-06
(65)【公開番号】P2019157110
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2018040162
(32)【優先日】2018-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】宮下 達明
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 民人
(72)【発明者】
【氏名】堺 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】山根 拓也
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特公平03-048924(JP,B2)
【文献】特開平03-185007(JP,A)
【文献】国際公開第2004/009647(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/047969(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/065396(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08F301/00
C08C 19/00- 19/44
C08F 2/00- 2/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ッ化ビニリデンを含むモノマーを、フッ化ビニリデンが超臨界状態となる条件で水中にて懸濁重合する工程を含む、フッ化ビニリデン重合体の製造方法であって、
水と、前記懸濁重合の重合初期温度における前記モノマーの密度が0.580g/cm以上かつ0.640g/cm 以下となる量の前記モノマーとを反応器に供給して前記超臨界状態となる条件で重合初期温度を維持して懸濁重合し、
前記モノマーはフッ化ビニリデンを80質量%以上含有するものであって、
前記モノマーを懸濁重合の途中で追加しないことを特徴とする、フッ化ビニリデン重合体の製造方法。
【請求項2】
前記モノマーは、フッ化ビニリデン以外の重合可能な他のモノマーをさらに含む、請求項1に記載のフッ化ビニリデン重合体の製造方法。
【請求項3】
前記他のモノマーは、含フッ素モノマー、不飽和二塩基酸誘導体、(メタ)アクリル酸アルキル化合物、カルボキシル基含有アクリレート化合物からなる群から選ばれる一以上の化合物であることを特徴とする、請求項2に記載のフッ化ビニリデン重合体の製造方法。
【請求項4】
前記水を、質量比で、前記モノマーの2.6倍以上前記反応器に供給することを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載のフッ化ビニリデン重合体の製造方法。
【請求項5】
前記重合初期温度は、35℃以上かつ55℃以下であることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載のフッ化ビニリデン重合体の製造方法。
【請求項6】
前記反応容器内が前記重合初期温度に加熱されたときの前記反応器内の圧力が8MPa以下であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のフッ化ビニリデン重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化ビニリデン重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデン重合体は、一般に、耐薬品性、耐候性、耐汚染性等に優れており、各種フィルム、成形材料、塗料およびバインダーなどの様々な用途で利用されている。
【0003】
フッ化ビニリデン重合体の製造方法としては、例えば、カルボキシル基を有するコモノマーを用いて30℃付近の重合温度でフッ化ビニリデン共重合体を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、フッ化ビニリデン重合体の製造方法には、50℃以上の温度で、重合当初はフッ化ビニリデンの臨界圧力未満の状態でフッ化ビニリデンを供給し、重合途中で、臨界圧力以上でフッ化ビニリデンを追加供給してフッ化ビニリデン単独重合体を製造する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。さらに、フッ化ビニリデン重合体の製造方法には、フッ化ビニリデンが超臨界状態となる温度および圧力(例えば、60℃、55~200バール)でフッ化ビニリデンを懸濁重合させてフッ化ビニリデン単独重合体を製造する方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-172452号公報(1994年6月21日公開)
【文献】国際公開WO2006/061988号公報(2006年6月15日公開)
【文献】特開昭59-174605号公報(1984年10月3日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法は、重合時間が長く、生産性の観点から改善の余地が残されている。
【0006】
また、特許文献2に記載の製造方法は、重合反応の処理中にモノマーの追加供給を行う必要がある。このため、製造作業および製造装置の簡素化の観点から改善の余地が残されている。
【0007】
さらに、特許文献3に記載の製造方法は、高い耐圧性を備える製造装置が必要である。このため、製造装置の簡素化の観点から改善の余地が残されている。
【0008】
本発明の一態様は、より短時間で、かつより簡便にフッ化ビニリデン重合体を製造する方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るフッ化ビニリデン重合体の製造方法は、フッ化ビニリデンを含むモノマーを、フッ化ビニリデンが超臨界状態となる条件で水中にて懸濁重合する工程を含み、水と、前記懸濁重合の重合初期温度における前記モノマーの密度が0.580g/cm以上かつ0.660g/cm以下となる量の前記モノマーとを反応器に供給して前記超臨界状態となる条件で懸濁重合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、より短時間で、かつより簡便にフッ化ビニリデン重合体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0012】
本実施の形態におけるフッ化ビニリデン重合体の製造方法は、フッ化ビニリデンを含むモノマー(以下、「フッ化ビニリデン含有モノマー」ともいう)を、フッ化ビニリデンが超臨界状態となる条件で水中にて懸濁重合することによりフッ化ビニリデン重合体を製造する。
【0013】
フッ化ビニリデン重合体は、フッ化ビニリデン含有モノマーを重合してなる重合体であって、フッ化ビニリデン(臨界温度Tc=30.1℃、臨界圧力Pcr=4.38MPa)の単独重合体、および、フッ化ビニリデン以外の重合可能な他のモノマーとフッ化ビニリデンとの共重合体、を包含する。フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデンに由来する構造単位と、フッ化ビニリデン以外の他のモノマーに由来する構造単位とを含む。
【0014】
他のモノマーの例には、含フッ素モノマー(例えば、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル)、エチレン、不飽和二塩基酸誘導体(例えば、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル)、酢酸ビニル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)ジメチルアクリルアミド、アリルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸アルキル化合物(例えば、(メタ)アクリル酸メチル)、カルボキシル基含有アクリレート化合物、(例えば、(メタ)アクリル酸、2-カルボキシエチルアクリレート、(メタ)アクリロイロキシプロピルコハク酸、(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸)、2-ヒドロキシエチルアクリレート、および、ヒドロキシプロピルアクリレートが含まれる。中でも、ヘキサフルオロプロピレン、マレイン酸モノメチル、(メタ)アクリル酸、2-カルボキシエチルアクリレート、(メタ)アクリロイロキシプロピルコハク酸、および、(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸からなる群から選ばれる一以上の化合物が好ましい。
【0015】
本実施形態におけるフッ化ビニリデン含有モノマー中のフッ化ビニリデンの量は、フッ化ビニリデンが主成分となる量であればよく、例えば50質量%以上であってよい。フッ化ビニリデン含有モノマー中のフッ化ビニリデンの含有量は、製造されるべきフッ化ビニリデン重合体に求められる性質に応じて適宜に決めることが可能である。当該含有量は、例えば、フッ化ビニリデン重合体におけるフッ化ビニリデン由来の構造による作用を十分に発現させる観点から、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上含有することがより好ましく、90質量%以上含有することが特に好ましい。上記含有量は、100質量%であってよいが、フッ化ビニリデン重合体が共重合体である場合には、共重合体としての性質を発揮するために、例えば、99.9質量%以下であることが好ましく、99質量%以下であることがより好ましい。
【0016】
本実施形態における製造方法は、フッ化ビニリデン含有モノマーの供給量以外は、フッ化ビニリデン含有モノマーを、フッ化ビニリデンが超臨界状態となる条件で水中にて懸濁重合することによりフッ化ビニリデン重合体を製造する公知の方法と同様に実施することが可能である。
【0017】
本実施形態における製造方法では、特定量のフッ化ビニリデン含有モノマーと水とを反応器に供給して、フッ化ビニリデンが超臨界状態となる条件で懸濁重合を行う。本実施形態におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの反応器への供給量は、懸濁重合の重合初期温度におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度が0.580g/cm以上かつ0.660g/cm以下となる量である。フッ化ビニリデン含有モノマーの供給量が上記の範囲であることにより、反応系内の圧力が過剰に高くなることを防止することができ、かつ短時間での重合が可能となる。また、フッ化ビニリデン含有モノマーの供給量が上記の範囲であることは、フッ化ビニリデン含有モノマーを追加供給することなしに高い生産性を達成する観点、および、得られるフッ化ビニリデン重合体の嵩密度を十分に高くする観点から好ましい。一方で、フッ化ビニリデン含有モノマーの供給量が上記範囲より少ないと、生成するフッ化ビニリデン重合体の粉体の嵩密度が小さくなり、フッ化ビニリデン重合体の生産性が低下することがある。また、フッ化ビニリデン含有モノマーの供給量が上記範囲より多いと、懸濁重合中の圧力が高くなり、高い耐圧性を備える特定の製造設備が必要となるため好ましくない。
【0018】
ここで、重合初期温度とは、懸濁重合の開始温度として設定した温度である。当該開始温度は、懸濁重合を一定の重合温度で進める場合には、当該重合温度である。懸濁重合の重合温度を多段階で変更する(例えば上げていく)場合では、上記開始温度は、当該重合温度のうちの一段目の温度(すなわち重合の初期の温度)である。このように、本実施形態において、懸濁重合の開始温度は、通常、重合初期温度に調整される。
【0019】
重合初期温度におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度は、以下の式により算出される。
Dv=Mv/(Vc-Vw)
【0020】
上記式中、Dvは、重合初期温度におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度(g/cm)であり、Mvは、フッ化ビニリデン含有モノマーの供給量(g)であり、Vcは、反応器の内容積(cm)であり、Vwは、重合初期温度における反応器内の水の体積(cm)である。Vcは、攪拌機などの懸濁重合時に使用する機器を装着した反応器内に水を充満させたときの水の体積として求めることができる。反応器の内容積は、常温で測定することが可能である。Vwは、水の供給量(g)を、重合初期温度における水の密度(g/cm)で除することによって求められる。
【0021】
フッ化ビニリデン含有モノマーの供給量は、多すぎると懸濁重合の反応系の圧力が高くなり、耐圧性のより高い反応器を要することがある。上記供給量が少なすぎると、得られるフッ化ビニリデン重合体の粉体の嵩密度が低くなり、当該粉体の後処理における取扱い性が悪くなり、生産性が低下することがある。生産性を高める観点から、上記供給量は、重合初期温度におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度が0.580g/cm以上となる量であることが好ましく、0.600g/cm以上となる量であることがより好ましい。また、懸濁重合時における反応系の圧力の過度の高騰を抑制する観点から、上記供給量は、重合初期温度におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度が0.660g/cm以下となる量であることが好ましく、0.640g/cm以下となる量であることがより好ましい。
【0022】
本実施形態の製造方法において、反応器への水の供給量は、またフッ化ビニリデン含有モノマーの懸濁重合が十分に実施可能な範囲のうち、前述したフッ化ビニリデン含有モノマー密度の範囲が実現可能な範囲において、適宜に決めることが可能である。このような観点から、反応器への水の供給量は、反応器へのフッ化ビニリデン含有モノマーの供給量に対して2.6倍以上であることが好ましく、3.0倍以上であることがより好ましい。また、上記水の供給量は、上記の観点から、反応器へのフッ化ビニリデン含有モノマーの供給量に対して4倍以下であることが好ましく、3.6倍以下であることがより好ましい。
【0023】
また、本実施形態の製造方法において、重合初期温度は、反応器内のフッ化ビニリデンを超臨界状態にするのに十分な温度の範囲において適宜に決めることが可能である。その範囲において、重合初期温度は、低すぎると懸濁重合の反応時間が長くなることによりフッ化ビニリデン重合体の生産性が低くなることがあり、高すぎると懸濁重合の反応系の圧力が高くなり、耐圧性のより高い反応器を要することがある。重合初期温度は、フッ化ビニリデン重合体の生産性を高める観点から、35℃以上であることが好ましく、38℃以上であることがより好ましい。また、重合初期温度は、反応系の圧力の高騰を抑制する観点から、55℃以下であることが好ましく、52℃以下であることがより好ましい。
【0024】
本実施形態の製造方法は、前述した水およびフッ化ビニリデン含有モノマー以外の他の成分をさらに用いてもよい。このような他の成分の例には、連鎖移動剤、重合開始剤および懸濁剤が含まれる。
【0025】
連鎖移動剤は、得られる重合体の分子量を調節する目的で用いられる。連鎖移動剤は、一種でもそれ以上でもよい。連鎖移動剤は、フッ化ビニリデン含有モノマーの分子量の調節へ使用可能である公知の化合物から適宜に選ぶことができる。連鎖移動剤の例には、酢酸エチル、酢酸プロピル、アセトンおよび炭酸ジエチルが含まれる。連鎖移動剤の量は、例えば、フッ化ビニリデン含有モノマー100質量部に対して、例えば、5質量部以下である。
【0026】
重合開始剤は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート、および、パーブチルパーオキシピバレートが含まれる。重合開始剤の量は、フッ化ビニリデン含有モノマー100質量部に対して、例えば、0.001~2質量部である。
【0027】
懸濁剤は、フッ化ビニリデン含有モノマーの水中における分散性を高める目的で用いられる。懸濁剤は、一種でもそれ以上でもよい。懸濁剤の例には、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、部分鹸化ポリ酢酸ビニル、および、アクリル酸系重合体が含まれる。懸濁剤の量は、フッ化ビニリデン含有モノマー100質量部に対して、例えば、0.01~2質量部である。
【0028】
本実施形態の製造方法は、反応器に水、フッ化ビニリデン含有モノマーおよび必要に応じて他の成分を供給し、反応器内の温度を重合初期温度まで加熱し、当該温度に維持することによって行うことが可能である。このときの反応器内の実際の温度は、通常、重合初期温度に対して±1℃の範囲内に保たれる。
【0029】
反応器は、本実施形態の懸濁重合の条件を実現可能な範囲において、公知の反応器から適宜に選ぶことが可能である。反応器の例には、オートクレーブが含まれる。
【0030】
本実施形態の製造方法において、反応器内の圧力は、反応器内の温度が重合初期温度まで上昇することにより、フッ化ビニリデンの臨界圧力(4.38MPa)を十分に超え、通常、この重合反応における最大値となる。よって、フッ化ビニリデン含有モノマー中のフッ化ビニリデンは、超臨界流体の状態で主に重合反応に供される。反応系内の圧力は、一般に、フッ化ビニリデン含有モノマーが重合に供されるに連れて減少する。
【0031】
上記反応系が重合初期温度に加熱されたときの反応器内の圧力は、高すぎると、耐圧性の高い容器を要することがあり、低すぎると、重合反応時間が長くなって生産性が低下することがある。上記反応系が重合初期温度に加熱されたときの反応器内の圧力は、反応時間の短縮の観点から、5MPa以上であることが好ましく、5.5MPa以上であることがより好ましい。また、上記圧力は、例えば反応器のコスト削減の観点から、8MPa以下であることが好ましく、7.5MPa以下であることがより好ましい。当該圧力は、フッ化ビニリデン含有モノマーの供給量、重合初期温度、モノマー密度などの種々の要因によって調整することが可能である。
【0032】
本実施形態の製造方法では、必要に応じて、反応系内を複数回加熱し、反応系内の温度を複数回昇温させてもよい。このような重合反応途中での加熱における反応系内の温度は、は、前述の重合初期温度を超える温度であってよく、例えば、50~60℃の範囲であってよく、さらには50~80℃の範囲であってもよい。上記の複数回の加熱は、モノマーの消費に伴う圧力の低下および反応速度の低下を抑制し、反応効率を高める観点から好ましい。
【0033】
懸濁重合の終点は、未反応モノマー量の減少と、重合時間の長時間化とのバランス(すなわち製品ポリマーの生産性)を考慮して、適宜選択される。たとえば、懸濁重合の終点は、反応生成物のサンプリングのほか、反応系内の昇温とそれに伴う圧力の変動とから判断することが可能である。
【0034】
本実施形態の製造方法において、フッ化ビニリデン重合体は、粉体として得られる。当該粉体は、懸濁重合の終了後、重合体スラリーを脱水、水洗、乾燥することにより得られる。
【0035】
本実施形態の製造方法によれば、反応効率を高めて重合時間を短縮することが可能である。具体的には、反応器に原料を供給した後で、重合初期温度に到達した時点から重合終了までの重合時間は、例えば約20時間以内であり、さらには、15時間以内とすることも可能である。
【0036】
フッ化ビニリデン重合体の粉体の嵩密度は、低すぎると、後処理での取扱いの困難さが増すことがある。また、懸濁重合の反応系の圧力が過度に高騰すると、上記嵩密度が高くなる傾向にある。よって、嵩密度が高すぎることは、反応系の圧力の過度の高騰を抑制する観点から好ましくないことがある。後処理の取扱い性の観点から、上記嵩密度は、例えば、0.30g/cm以上であることが好ましく、0.33g/cm以上であることがより好ましい。また、上記嵩密度は、反応系内の圧力の好適な範囲を実現する観点から、例えば、0.50g/cm以下である。嵩密度が上記の範囲内にあることは、好適な粒子形状の粉体を得る観点、および、当該粉体の意図せぬ破砕を抑制する観点から好ましい。
【0037】
従来の懸濁重合によって、フッ化ビニリデン共重合体を製造する場合、例えば、フッ化ビニリデンと極性官能基含有の非フッ素系モノマーとの共重合体を製造する場合は、特に、生成する重合体の粉体の嵩密度が低下し易く、後処理工程中に当該粉体の意図せぬ破砕が生じ易いという問題があった。しかしながら、本実施形態の製造方法によれば、フッ化ビニリデン共重合体の製造において、生成品である粉体の嵩密度が所望の範囲となるように容易に制御することが可能である。このため、このような問題の発生を防ぐことができる。
【0038】
なお、重合体の粉体の嵩密度は、帯電防止した粉体試料について、器具および計算方法に関してはJIS K 6721-3.3「かさ比重」の測定方法に基づいて算出される値である。
【0039】
また、本実施形態の製造方法により得られるフッ化ビニリデン重合体のインヘレント粘度(樹脂4gを1リットルのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解させた溶液の30℃における対数粘度)は、各種用途に好適な物性等の観点から、0.5dL/g以上、特に0.8~4.0dL/gの範囲とすることが好ましい。
【0040】
本実施形態の製造方法では、フッ化ビニリデン含有モノマーを懸濁重合の途中で追加する必要がない。したがって、懸濁重合に供されるモノマーの組成が安定する傾向にある。よって、均質なフッ化ビニリデン重合体を製造する観点から好適であり、特に、共重合体としてのフッ化ビニリデン重合体を均質に製造する観点から好適である。
【0041】
上記した製造方法によって得られるフッ化ビニリデン重合体は、従来の製造方法に比べて高い生産性で製造することが可能であり、各種成形体形成用原料樹脂として好ましく使用される。
【0042】
以下、実施例、比較例により、本発明を更に具体的に説明する。
【実施例
【0043】
実施例および比較例で得られたフッ化ビニリデン重合体粉末の嵩密度は、以下の方法で測定した。
【0044】
〔嵩密度〕
フッ化ビニリデン重合体粉末の嵩密度は、JIS K 6721-3.3「かさ比重」の測定方法に基づいて測定した。具体的には、粉体試料100gに対し、界面活性剤の5%エタノール溶液2mLを添加し、スパチュラで十分に撹拌後、10分間放置した。この帯電防止した粉体試料120mLを嵩比重測定装置のダンパーを差し込んだ漏斗に入れた後、速やかにダンパーを引き抜き、試料を受器に落とした。受器から盛り上がった試料は、ガラス棒ですり落とした後、試料の入った受器の質量を0.1gまで正確に量り、次の式によって嵩密度を算出した。
S=(C-A)/B
S:嵩密度(g/cm
A:受器の質量(g)
B:受器の内容積(cm
C:試料の入った受器の質量(g)
【0045】
(実施例1)
内容積1940cmのオートクレーブに、イオン交換水1,230g(フッ化ビニリデン含有モノマー供給量の2.86倍)、懸濁剤(メチルセルロース)0.22g、連鎖移動剤(酢酸エチル)13.0g、および重合開始剤(ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート)0.86gと共に、フッ化ビニリデン含有モノマーとしてフッ化ビニリデン(VDF)430gを仕込み、重合初期温度である40℃まで1.5時間で昇温後、40℃を13.5時間維持した。この間の最高到達圧力は6.0MPaであった。
【0046】
本実施例におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度は0.614g/cmであり、この値から算出されるフッ化ビニリデン含有モノマーの体積は700cmであった。なお、フッ化ビニリデン含有モノマーの密度は、40℃における水の密度を0.9922g/cmとして、下記式から算出した。
Dv=Mv/(Vc-Vw)
Dv:重合初期温度におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度(g/cm
Mv:フッ化ビニリデン含有モノマーの供給量(g)
Vc:反応器(オートクレーブ)の内容積(cm
Vw:重合初期温度における反応器内の水の体積(cm)(=水の供給質量(g)/水の密度(g/cm))
【0047】
40℃への昇温完了から13.5時間後に懸濁重合を終了した。重合終了時の圧力は1.0MPaであった。重合終了後、得られた重合体スラリーを脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥して、フッ化ビニリデンの単独重合体粉末を得た。フッ化ビニリデン含有モノマー供給量から算出した重合体の収率は94.0%であった。また、得られた重合体の粉末の嵩密度は、0.351g/cmであり、インヘレント粘度は、1.04dL/gであった。
【0048】
(実施例2)
内容積1940cmのオートクレーブに、イオン交換水1,280g(フッ化ビニリデン含有モノマー供給量の3.05倍)、懸濁剤(メチルセルロース)0.12g、連鎖移動剤(炭酸ジエチル)8.0g、および重合開始剤(ジイソプロピルパーオキシジカーボネート)0.80gと共に、フッ化ビニリデン含有モノマーとしてフッ化ビニリデン(VDF)420gを仕込み、40℃まで1.5時間で昇温後、40℃を14.5時間維持した。この間の最高到達圧力は6.5MPaであった。また、本実施例におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度は0.646g/cmであり、この値から算出されるフッ化ビニリデン含有モノマーの体積は650cmであった。なお、フッ化ビニリデン含有モノマーの密度は、実施例1と同様にして算出した。
【0049】
40℃への昇温完了から14.5時間後に懸濁重合を終了した。重合終了時の圧力は0.5MPaであった。重合終了後、重合体スラリーを脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥して、フッ化ビニリデンの単独重合体粉末を得た。フッ化ビニリデン含有モノマー供給量から算出した重合体の収率は96.0%であった。また、得られた重合体の粉末の嵩密度は、0.370g/cmであり、インヘレント粘度は、1.08dL/gであった。
【0050】
(実施例3)
内容積1940cmのオートクレーブに、イオン交換水1,260g(フッ化ビニリデン含有モノマーの供給量の3.20倍)、懸濁剤(メチルセルロース)0.59g、連鎖移動剤(酢酸エチル)1.0g、および重合開始剤(ジイソプロピルパーオキシジカーボネート)1.97gと共に、フッ化ビニリデン含有モノマーとして、フッ化ビニリデン(VDF)390gおよびマレイン酸モノメチル(MMM)3.9gを仕込み、40℃まで1.5時間で昇温後、40℃を13.8時間維持した。この間の最高到達圧力は6.1MPaであった。また、本実施例におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度は0.588g/cmであり、この値から算出されるフッ化ビニリデン含有モノマーの体積は670cmであった。なお、フッ化ビニリデン含有モノマーの密度は、実施例1と同様にして算出した。
【0051】
40℃への昇温完了から13.8時間後に懸濁重合を終了した。重合終了時の圧力は1.2MPaであった。重合終了後、重合体スラリーを脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥して、フッ化ビニリデンとマレイン酸モノメチルとの共重合体粉末を得た。フッ化ビニリデン含有モノマー供給量から算出した重合体の収率は94.0%であった。また、得られた重合体の粉末の嵩密度は、0.334g/cmであり、インヘレント粘度は、1.51dL/gであった。
【0052】
(実施例4)
内容積1940cmのオートクレーブに、イオン交換水1,320g(フッ化ビニリデン含有モノマーの供給量の3.32倍)、懸濁剤(メチルセルロース)0.60g、連鎖移動剤(酢酸エチル)4.8g、および重合開始剤(ジイソプロピルパーオキシジカーボネート)2.20gと共に、フッ化ビニリデン含有モノマーとして、フッ化ビニリデン(VDF)393gおよびマレイン酸モノメチル(MMM)4.0gを仕込み、40℃まで1.5時間で昇温後、40℃を15.1時間維持した。この間の最高到達圧力は6.9MPaであった。また、本実施例におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度は0.651g/cmであり、この値から算出されるフッ化ビニリデン含有モノマーの体積は610cmであった。なお、フッ化ビニリデン含有モノマーの密度は、実施例1と同様にして算出した。
【0053】
40℃への昇温完了から15.1時間後に懸濁重合を終了した。重合終了時の圧力は1.2MPaであった。重合終了後、重合体スラリーを脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥して、フッ化ビニリデンとマレイン酸モノメチルとの共重合体粉末を得た。フッ化ビニリデン含有モノマー供給量から算出した重合体の収率は95.2%であった。また、得られた重合体の粉末の嵩密度は、0.368g/cmであり、インヘレント粘度は、1.16dL/gであった。
【0054】
(実施例5)
内容積1940cmのオートクレーブに、イオン交換水1,280g(フッ化ビニリデン含有モノマーの供給量の3.21倍)、懸濁剤(メチルセルロース)0.60gおよび重合開始剤(ジイソプロピルパーオキシジカーボネート)1.24gと共に、フッ化ビニリデン含有モノマーとして、フッ化ビニリデン(VDF)365g、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)32gおよびマレイン酸モノメチル(MMM)2.0gを仕込み、45℃まで1.5時間で昇温後、45℃を14.3時間維持した。この間の最高到達圧力は6.7MPaであった。また、本実施例におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度は0.616g/cmであり、この値から算出されるフッ化ビニリデン含有モノマーの体積は647cmであった。なお、フッ化ビニリデン含有モノマーの密度は、実施例1と同様にして、45℃における水の密度を0.9902g/cmとして算出した。
【0055】
45℃への昇温完了から14.3時間後に懸濁重合を終了した。重合終了時の圧力は0.5MPaであった。重合終了後、重合体スラリーを脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥して、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとマレイン酸モノメチルとの共重合体粉末を得た。フッ化ビニリデン含有モノマー供給量から算出した重合体の収率は97.0%であった。また、得られた重合体の粉末の嵩密度は、0.373g/cmであり、インヘレント粘度は、2.51dL/gであった。
【0056】
(実施例6)
内容積1940cmのオートクレーブに、イオン交換水1,230g(フッ化ビニリデン含有モノマーの供給量の2.86倍)、懸濁剤(メチルセルロース)0.22gおよび重合開始剤(ジイソプロピルパーオキシジカーボネート)1.2gと共に、フッ化ビニリデン含有モノマーとして、フッ化ビニリデン(VDF)413g、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)17gを仕込み、40℃まで1.5時間で昇温後、40℃を8.3時間維持した。この間の最高到達圧力は5.9MPaであった。また、本実施例におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度は0.614g/cmであり、この値から算出されるフッ化ビニリデン含有モノマーの体積は700cmであった。なお、フッ化ビニリデン含有モノマーの密度は、実施例1と同様にして、40℃における水の密度を0.9922g/cmとして算出した。
【0057】
40℃への昇温完了から8.3時間後に懸濁重合を終了した。重合終了時の圧力は0.9MPaであった。重合終了後、重合体スラリーを脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥して、フッ化ビニリデンとクロロトリフルオロエチレンとの共重合体粉末を得た。フッ化ビニリデン含有モノマー供給量から算出した重合体の収率は89.0%であった。また、得られた重合体の粉末の嵩密度は、0.342g/cmであり、インヘレント粘度は、2.64dL/gであった。
【0058】
(実施例7)
内容積1940cmのオートクレーブに、イオン交換水1,280g(フッ化ビニリデン含有モノマーの供給量の3.18倍)、懸濁剤(メチルセルロース)0.20g、連鎖移動剤(酢酸エチル)2.0g、および重合開始剤(ジイソプロピルパーオキシジカーボネート)2.4gと共に、フッ化ビニリデン含有モノマーとして、フッ化ビニリデン(VDF)400g、アクリル酸メチル(MA)2gを仕込み、45℃まで1.5時間で昇温後、45℃を6.5時間維持した。この間の最高到達圧力は7.1MPaであった。また、本実施例におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度は0.621g/cmであり、この値から算出されるフッ化ビニリデン含有モノマーの体積は647cmであった。なお、フッ化ビニリデン含有モノマーの密度は、実施例1と同様にして、45℃における水の密度を0.9902g/cmとして算出した。
【0059】
45℃への昇温完了から6.5時間後に懸濁重合を終了した。重合終了時の圧力は1.5MPaであった。重合終了後、重合体スラリーを脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥して、フッ化ビニリデンとアクリル酸メチルとの共重合体粉末を得た。フッ化ビニリデン含有モノマー供給量から算出した重合体の収率は91%であった。また、得られた重合体の粉末の嵩密度は、0.383g/cmであり、インヘレント粘度は、1.46dL/gであった。
【0060】
(実施例8)
内容積1940cmのオートクレーブに、イオン交換水1,280g(フッ化ビニリデン含有モノマーの供給量の3.2倍)、懸濁剤(メチルセルロース)0.20g、連鎖移動剤(炭酸ジエチル)2.0g、および重合開始剤(ジイソプロピルパーオキシジカーボネート)1.0gと共に、フッ化ビニリデン含有モノマーとして、フッ化ビニリデン(VDF)328g、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)72gを仕込み、50℃まで1.5時間で昇温後、50℃を5.0時間維持した。この間の最高到達圧力は6.1MPaであった。また、本実施例におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度は0.621g/cmであり、この値から算出されるフッ化ビニリデン含有モノマーの体積は645cmであった。なお、フッ化ビニリデン含有モノマーの密度は、実施例1と同様にして、50℃における水の密度を0.9881g/cmとして算出した。
【0061】
50℃への昇温完了から5.0時間後に懸濁重合を終了した。重合終了時の圧力は1.5MPaであった。重合終了後、重合体スラリーを脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥して、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体粉末を得た。フッ化ビニリデン含有モノマー供給量から算出した重合体の収率は87%であった。また、得られた重合体の粉末の嵩密度は、0.331g/cmであり、インヘレント粘度は、1.30dL/gであった。
【0062】
(比較例1)
内容積1940cmのオートクレーブに、イオン交換水1,100g(フッ化ビニリデン含有モノマー供給量の2.56倍)、懸濁剤(メチルセルロース)0.22g、連鎖移動剤(酢酸エチル)10.5g、および重合開始剤(ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート)2.58gと共に、フッ化ビニリデン含有モノマーとしてフッ化ビニリデン(VDF)430gを仕込み、26℃まで1時間で昇温後、26℃を22.7時間維持した。この間の最高到達圧力は3.9MPaであった。
【0063】
なお、本比較例におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度は、実施例1と同様にして、26℃における水の密度を0.9968g/cmとして算出したところ、0.514g/cmであった。また、この値から算出されるフッ化ビニリデン含有モノマーの体積は836cmであった。さらに、上記の温度および圧力ではフッ化ビニリデンは超臨界状態にはなっておらず、文献値から求められるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度は、0.57g/cmである。
【0064】
26℃への昇温完了から22.7時間後に懸濁重合を終了した。重合終了時の圧力は1.4MPaであった。重合終了後、重合体スラリーを脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥して、フッ化ビニリデンの単独重合体粉末を得た。フッ化ビニリデン含有モノマー供給量から算出した重合体の収率は86.8%であった。また、得られた重合体の粉末の嵩密度は、0.429g/cmであり、インヘレント粘度は、1.02dL/gであった。
【0065】
(比較例2)
内容積1940cmのオートクレーブに、イオン交換水1,090g(フッ化ビニリデン含有モノマーの供給量の2.57倍)、懸濁剤(メチルセルロース)0.64g、連鎖移動剤(酢酸エチル)2.1g、および重合開始剤(ジイソプロピルパーオキシジカーボネート)4.25gと共に、フッ化ビニリデン含有モノマーとして、フッ化ビニリデン(VDF)420gおよびマレイン酸モノメチル(MMM)4.2gを仕込み、26℃まで1時間で昇温後、26℃を40.7時間維持した。この間の最高到達圧力は4.0MPaであった。
【0066】
また、本比較例におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度は、比較例1と同様にして算出したところ、0.501g/cmであった。また、この値から算出されるフッ化ビニリデン含有モノマーの体積は847cmであった。文献値から求められるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度は、比較例1のそれと同じである。
【0067】
26℃への昇温完了から40.7時間後に懸濁重合を終了した。重合終了時の圧力は1.5MPaであった。重合終了後、重合体スラリーを脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥して、フッ化ビニリデンとマレイン酸モノメチルとの共重合体粉末を得た。フッ化ビニリデン含有モノマー供給量から算出した重合体の収率は90.9%であった。また、得られた重合体の粉末の嵩密度は、0.447g/cmであり、インヘレント粘度は、1.19dL/gであった。
【0068】
(比較例3)
内容積1940cmのオートクレーブに、イオン交換水1,070g(フッ化ビニリデン含有モノマー供給量の2.55倍)、懸濁剤(メチルセルロース)0.22g、連鎖移動剤(酢酸エチル)5.9g、および重合開始剤(ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート)1.26gと共に、フッ化ビニリデン含有モノマーとしてフッ化ビニリデン(VDF)420gを仕込み、40℃まで1.5時間で昇温後、40℃を10.2時間維持した。この間の最高到達圧力は5.5MPaであった。また、本比較例におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度は0.487g/cmであり、この値から算出されるフッ化ビニリデン含有モノマーの体積は862cmであった。なお、フッ化ビニリデン含有モノマーの密度は、実施例1と同様にして算出した。
【0069】
40℃への昇温完了から10.2時間後に懸濁重合を終了した。重合終了時の圧力は1.5MPaであった。重合終了後、重合体スラリーを脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥して、フッ化ビニリデンの単独重合体粉末を得た。フッ化ビニリデン含有モノマー供給量から算出した重合体の収率は86.9%であった。また、得られた重合体の粉末の嵩密度は、0.280g/cmであり、インヘレント粘度は、1.06dL/gであった。
【0070】
(比較例4)
内容積1940cmのオートクレーブに、イオン交換水1,110g(フッ化ビニリデン含有モノマーの供給量の2.56倍)、懸濁剤(メチルセルロース)0.64g、連鎖移動剤(酢酸エチル)1.3g、および重合開始剤(ジイソプロピルパーオキシジカーボネート)1.95gと共に、フッ化ビニリデン含有モノマーとして、フッ化ビニリデン(VDF)430gおよびマレイン酸モノメチル(MMM)4.3gを仕込み、50℃まで1.5時間で昇温後、50℃を6.3時間維持した。この間の最高到達圧力は7.2MPaであった。また、本比較例におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度は0.532g/cmであり、この値から算出されるフッ化ビニリデン含有モノマーの体積は817cmであった。なお、フッ化ビニリデン含有モノマーの密度は、実施例1と同様にして、50℃における水の密度を0.98805g/cmとして算出した。
【0071】
50℃への昇温完了から7.8時間後に懸濁重合を終了した。重合終了時の圧力は1.5MPaであった。重合終了後、重合体スラリーを脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥して、フッ化ビニリデンとマレイン酸モノメチルとの共重合体粉末を得た。フッ化ビニリデン含有モノマー供給量から算出した重合体の収率は91.5%であった。また、得られた重合体の粉末の嵩密度は、0.297g/cmであり、インヘレント粘度は、1.25dL/gであった。
【0072】
(比較例5)
内容積1940cmのオートクレーブに、イオン交換水1,350g(フッ化ビニリデン含有モノマーの供給量の3.38倍)、懸濁剤(メチルセルロース)0.60g、連鎖移動剤(酢酸エチル)4.8g、および重合開始剤(ジイソプロピルパーオキシジカーボネート)2.20gと共に、フッ化ビニリデン含有モノマーとして、フッ化ビニリデン(VDF)395gおよびマレイン酸モノメチル(MMM)4.0gを仕込み、40℃まで1.5時間で昇温後、40℃を14.2時間維持した。この間の最高到達圧力は7.7MPaであった。また、本比較例におけるフッ化ビニリデン含有モノマーの密度は0.689g/cmであり、この値から算出されるフッ化ビニリデン含有モノマーの体積は579cmであった。なお、フッ化ビニリデン含有モノマーの密度は、実施例1と同様にして算出した。
【0073】
40℃への昇温完了から14.2時間後に懸濁重合を終了した。重合終了時の圧力は1.2MPaであった。重合終了後、重合体スラリーを脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥して、フッ化ビニリデンとマレイン酸モノメチルとの共重合体粉末を得た。フッ化ビニリデン含有モノマー供給量から算出した重合体の収率は94.5%であった。また、得られた重合体の粉末の嵩密度は、0.390g/cmであり、インヘレント粘度は、1.19dL/gであった。
【0074】
なお、いずれの実施例および比較例においても、最高到達温度は、重合初期温度と同じであり、最高到達圧力は、重合初期温度に到達したときの反応系内の圧力であった。
【0075】
上記実施例における重合条件、得られたフッ化ビニリデン重合体の収率および嵩密度を、表1および表2に示す。また、上記比較例における重合条件、得られたフッ化ビニリデン重合体の収率および嵩密度を、表3に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
上記表1および表2に示す結果から明らかなように、最高到達温度に到達した時点のフッ化ビニリデン含有モノマーの密度が所定の範囲内である実施例1~8によれば、良好な収率で、好適な嵩密度を有する重合体が得られた。
【0080】
これに対し、表3に示されるように、加熱工程の最高到達温度が26℃である比較例1および比較例2は、フッ化ビニリデンが超臨界状態に至らず、重合時間を延長したにもかかわらず、上記の実施例に比べて、収率が劣り、また得られる重合体の嵩密度が大きかった。
【0081】
また、最高到達温度に到達した時点のフッ化ビニリデン含有モノマーの密度が所定の範囲より小さい比較例3および比較例4は、上記の実施例に比べて、得られる重合体の嵩密度が小さかった。また、最高到達温度に到達した時点のフッ化ビニリデン含有モノマーの密度が所定の範囲より大きい比較例5は、加熱工程において、上記の実施例に比べて、反応器内の圧力が過剰に上昇し、また、得られる重合体の嵩密度が大きかった。