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特許7144339建物の基礎構造及び建物の基礎構造の構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】建物の基礎構造及び建物の基礎構造の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/01 20060101AFI20220921BHJP
   E04B 1/76 20060101ALI20220921BHJP
   E04B 1/684 20060101ALI20220921BHJP
   E04B 1/62 20060101ALI20220921BHJP
   E04G 11/06 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
E02D27/01 Z
E04B1/76 400Z
E04B1/684 B
E04B1/62 Z
E04G11/06 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019023532
(22)【出願日】2019-02-13
(65)【公開番号】P2020133122
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳永 翔
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-35530(JP,A)
【文献】特開平9-71946(JP,A)
【文献】特開2018-44405(JP,A)
【文献】特開2001-132114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/01
E04B 1/76
E04B 1/684
E04B 1/62
E04G 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
現場打ちコンクリートで構築される建物の基礎構造であって、
スラブ状に形成された底板部と、
前記底板部の上面の周縁に沿って間隔を置いて配置された複数の束部と、
前記束部間の開口を埋めるように配置される板状の断熱材と、
前記断熱材の外側面側に現場打ちコンクリートによって形成される保護コンクリート部と、
前記束部の前記開口側の端面と前記断熱材及び前記保護コンクリートとの間に介在される前記保護コンクリート部よりも変形追従性の高い目地板とを備え、
前記目地板は、前記束部及び前記保護コンクリート部に対してそれぞれ嵌合構造又は付着によって接合されるとともに、前記束部と前記保護コンクリート部とが離隔する方向の変形を誘発させるためのスリットが形成されていることを特徴とする建物の基礎構造。
【請求項2】
前記目地板の外側面には、鉛直方向に延伸された溝部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の建物の基礎構造。
【請求項3】
前記スリットは、前記溝部に沿って鉛直方向に延伸されていることを特徴とする請求項2に記載の建物の基礎構造。
【請求項4】
前記保護コンクリート部の上端部には、ひび割れ抑制材が配置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の建物の基礎構造。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の建物の基礎構造の構築方法であって、
前記束部及び前記保護コンクリート部の外側面側並びに前記束部及び前記断熱材の内側面側となる位置にそれぞれ型枠を設ける工程と、
前記型枠間の前記束部を設ける内空と前記保護コンクリート部を設ける内空とを区画するように配置された前記目地板の前記溝部に対して、前記外側面側の型枠に固定された目地棒材を嵌め込む工程と、
前記束部を設ける内空及び前記保護コンクリート部を設ける内空にそれぞれコンクリートを打設する工程と、
前記型枠及び前記目地棒材を撤去する工程とを備えたことを特徴とする建物の基礎構造の構築方法。
【請求項6】
前記目地棒材は、前記型枠側から前記溝部に向けて先細る平面視略台形に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の建物の基礎構造の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、べた基礎などの現場打ちコンクリートで構築される建物の基礎構造及びその構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、鉄筋コンクリートによってスラブ状に構築された基礎スラブの周縁に、間隔を置いてプレキャストコンクリート製のブロックを配置することで形成された建物の基礎構造が開示されている。この基礎構造においては、基礎スラブ周縁に配置されたブロック間に断熱材が配置される。
【0003】
一方、特許文献3には、布基礎の側面に取り付けられた断熱材の外側面側を、モルタルやコンクリートで被覆したり、防蟻シートによって覆ったりした建築物の断熱基礎構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-35530号公報
【文献】特開2018-35531号公報
【文献】特開平11-350502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、断熱材を覆う保護層を現場打ちコンクリートで形成して束部間を繋いだ場合、束部の変形に追従できずに、保護層にひび割れが生じるおそれがある。また、異なる部材を繋いで継目が発生する場合には、基礎の外側面側から内側面側に連続する水みちができないようにしなければならない。
【0006】
そこで、本発明は、断熱材を覆うコンクリートのひび割れの発生を抑えることができるうえに、防水性及び気密性に優れた建物の基礎構造及びその構築方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の建物の基礎構造は、現場打ちコンクリートで構築される建物の基礎構造であって、スラブ状に形成された底板部と、前記底板部の上面の周縁に沿って間隔を置いて配置された複数の束部と、前記束部間の開口を埋めるように配置される板状の断熱材と、前記断熱材の外側面側に現場打ちコンクリートによって形成される保護コンクリート部と、前記束部の前記開口側の端面と前記断熱材及び前記保護コンクリートとの間に介在される前記保護コンクリート部よりも変形追従性の高い目地板とを備え、前記目地板は、前記束部及び前記保護コンクリート部に対してそれぞれ嵌合構造又は付着によって接合されるとともに、前記束部と前記保護コンクリート部とが離隔する方向の変形を誘発させるためのスリットが形成されていることを特徴とする。
【0008】
ここで、前記目地板の外側面には、鉛直方向に延伸された溝部が形成されている構成とすることができる。また、前記スリットは、前記溝部に沿って鉛直方向に延伸されている構成とすることができる。さらに、前記保護コンクリート部の上端部には、ひび割れ抑制材が配置されていることが好ましい。
【0009】
また、建物の基礎構造の構築方法の発明は、上記いずれかに記載の建物の基礎構造の構築方法であって、前記束部及び前記保護コンクリート部の外側面側並びに前記束部及び前記断熱材の内側面側となる位置にそれぞれ型枠を設ける工程と、前記型枠間の前記束部を設ける内空と前記保護コンクリート部を設ける内空とを区画するように配置された前記目地板の前記溝部に対して、前記外側面側の型枠に固定された目地棒材を嵌め込む工程と、前記束部を設ける内空及び前記保護コンクリート部を設ける内空にそれぞれコンクリートを打設する工程と、前記型枠及び前記目地棒材を撤去する工程とを備えたことを特徴とする。ここで、前記目地棒材は、前記型枠側から前記溝部に向けて先細る平面視略台形に形成されている構成とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
このように構成された本発明の建物の基礎構造は、スラブ状に形成された底板部の上面の周縁に沿って間隔を置いて配置された複数の束部間に、開口を埋めるように板状の断熱材が配置される。
【0011】
そして、断熱材の外側面側に現場打ちコンクリートによって形成される保護コンクリート部と束部の開口側の端面との間には、保護コンクリート部よりも変形追従性の高い目地板が介在される。
【0012】
さらに、その目地板は、束部及び保護コンクリート部に対して嵌合構造又は付着によって接合されるとともに、束部と保護コンクリート部とが離隔する方向の変形を誘発させるためのスリットが形成されている。
【0013】
このように、断熱材の外側面側を現場打ちコンクリートのような不燃性材料で覆うことで、防火性や耐久性などを高めることができる。さらに、変形追従性の高い目地板を保護コンクリート部と束部との間に介在させることで、ひび割れの発生を抑えることができる。
【0014】
そして目地板は、嵌合構造又は付着によって両側の束部と保護コンクリート部とにそれぞれ接合されているので、基礎の外側面側から内側面側に連続する水みちが形成されず、防水性及び気密性に優れている。
【0015】
さらに、束部と保護コンクリート部とが離隔する方向の変形を誘発させるためのスリットが目地板に形成されているので、地震の揺れなどによって大きな水平力が作用しても、スリットが開いて変形に追従することで、目地板と束部及び保護コンクリート部との接合(付着)を切にくくすることができる。
【0016】
また目地板には、コンクリートの打設時の姿勢を維持させるために、目地棒材などを挿し込むための溝部を設けておくことができる。さらにスリットを、その溝部に沿って設けることで、目地板の変形を生じやすくしたり、変形量を大きくしたりすることができる。
【0017】
また、保護コンクリート部の上端部にひび割れ抑制材が配置されていれば、保護コンクリート部が鉄筋の配筋されていない無筋構造であっても、美観の低下に繋がる表面ひび割れの発生を抑えることができる。
【0018】
一方、建物の基礎構造の構築方法の発明では、型枠に固定された目地棒材を、目地板の溝部に嵌合させた状態で、目地板の両側にコンクリートを打設する。このため、目地板に施工中のコンクリートの側圧が作用しても、目地板が傾いたり移動したりすることを防ぐことができる。
【0019】
また、この目地棒材が、型枠側から目地板の溝部に向けて先細る平面視略台形に形成されていれば、撤去する際に、束部や保護コンクリート部を破損させることなく、簡単に引き抜くことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施の形態の建物の基礎構造の構成を拡大して説明する斜視図である。
図2】建物の基礎構造の全体構成を説明する斜視図である。
図3図1のA-A矢視方向で見た平面図である。
図4図1のB-B矢視方向で見た断面図である。
図5】本実施の形態の建物の基礎構造の構築方法で使用する型枠の配置を説明する斜視図である。
図6】型枠設置時の目地板の溝部及び目地棒材周辺を拡大して示した説明図である。
図7】束部と保護コンクリート部とが離隔する方向の力が作用したときの状態の変化を段階的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態の建物の基礎構造10の構成を拡大して説明する斜視図であり、図2は、基礎構造10の全体構成を示している。
【0022】
本実施の形態の基礎構造10は、場所打ちコンクリートで構築される建物のべた基礎である。すなわち基礎構造10は、図2に示すように、建物の基礎施工領域となる例えば平面視長方形領域に、鉄筋コンクリートによってスラブ状に構築された底板部としての基礎スラブ1と、その基礎スラブ1の周縁に間隔を置いて配置された複数の束部(2A,2B,2C)と、束部間の開口を埋めるように配置される板状の断熱材3と、断熱材3の外側面3a側に配置される保護コンクリート部5と、束部(2A,2B,2C)の開口側の端面と断熱材3及び保護コンクリート部5との間に介在される目地板7とによって、主に構成される。
【0023】
基礎スラブ1は、図示は省略するが、水平方向に向けて格子状に配筋された複数の鉄筋によって構成される配筋部と、現地で打設されるコンクリート(現場打ちコンクリート)とによって主に構成される。
【0024】
基礎スラブ1の下方には、図1に示すように、栗石や捨てコンクリートなどによって捨石層13が形成される。また、板状の基礎スラブ1の下部は、後工程において地面Gの下に埋め戻され(図4参照)、上部は地面Gから突出される。すなわち基礎スラブ1の側面12の上部及び上面11は、地面Gから突出されて露出された状態になる。
【0025】
そして、図2に示すように、基礎スラブ1の周縁に沿って、複数の束部(2A-2C)が間隔を置いて配置される。ここで、基礎スラブ1の隅角部に配置される束部をコーナー束部2Aとし、コーナー束部2A,2A間に配置される束部を中間束部2B又はT型束部2Cとする。
【0026】
束部(2A-2C)は、基礎スラブ1と一体になるように鉄筋コンクリートで構築される。基礎スラブ1と束部(2A-2C)を一度のコンクリート打設で構築することもできるし、別々にコンクリートを二度打ちして構築することもできる。ここで、コーナー束部2Aは平面視略L字形に成形され、中間束部2Bは平面視略長方形に成形され、T型束部2Cは平面視略T字形に成形される。
【0027】
さらに、基礎スラブ1の内部にも、必要に応じてI型束部24や中央束部25が鉄筋コンクリートによって設けられる。対峙するT型束部2C,2C同士の交点には、平面視略長方形の中央束部25が配置され、中間束部2Bと中央束部25との間には、平面視略I字形のI型束部24が配置される。
【0028】
ここで、図1及び図2を参照しながら、コーナー束部2Aを例にして束部の構成についてさらに説明する。コーナー束部2Aには、基礎スラブ1の上面11から壁状に立ち上げられる外側面21aが形成される。この外側面21aは、基礎スラブ1の側面12とほぼ連続する鉛直面を形成する。
【0029】
コーナー束部2Aの上面には、アンカーボルト23を介して建物本体U(図4参照)を連結させるための補強プレート22が配置される。また、束部間の開口を埋めるように板状の断熱材3が配置される。すなわち、コーナー束部2Aと中間束部2Bとの間、中間束部2B,2B間、中間束部2BとT型束部2Cとの間の長方形の開口を塞ぐように長方形板状の断熱材3が配置される。
【0030】
このような断熱材3は、1枚の断熱板によって形成することもできるし、複数枚の断熱板を重ねて形成することもできる。この断熱板には、押出法ポリスチレンフォームなどの発泡プラスチック系断熱材が使用できる。
【0031】
この断熱材3の外側面3a側に設けられる保護コンクリート部5は、現場打ちコンクリートによって形成される。すなわち、保護コンクリート部5の内側面5bは、断熱材3の外側面3aを型枠として形成される。
【0032】
また、図4に示すように、保護コンクリート部5の上端部には、ひび割れ抑制材としてのひび割れ抑制メッシュ52が配置される。非構造部である保護コンクリート部5が、鉄筋の配筋されていない無筋構造であっても、ひび割れ抑制メッシュ52や異形鉄筋などのひび割れ抑制材を配置することで、美観の低下に繋がる表面ひび割れの発生を抑えることができる。
【0033】
一方、図3に示すように、保護コンクリート部5の両側の側縁部と束部(2A-2C)との間には、目地70が設けられる。要するに、基礎スラブ1の周縁の延伸方向において、保護コンクリート部5と束部(2A-2C)とは離隔していて、連続していない。
【0034】
そして、この目地70には、束部(2A-2C)の開口側の端面を覆うように目地板7が配置される。すなわち、保護コンクリート部5及び断熱材3の両側の側縁部と束部(2A-2C)との間に、目地板7が介在される。
【0035】
この目地板7は、束部(2A-2C)の端面の上縁から下縁まで配置できるように、正面視略長方形の帯板状に形成される。要するに、一体の目地板7が、束部(2A-2C)の外側面21a側から内側面21b側まで広がって、保護コンクリート部5と断熱材3とに跨るように配置される。
【0036】
この目地板7は、変形追従性の高い材料によって成形される。例えば、押出法ポリスチレンフォームなどの発泡プラスチック系断熱材が使用できる。例えば、ポリカーボネート樹脂を高倍率に発泡させることで硬質にして、防蟻性能などを高めた材料にもできる。ポリカーボネート樹脂材は、ポリスチレンフォームに比べて高い耐熱性能及び靭性を備えるとともに、セメント系材料との接着性能が高い。そして、発泡プラスチック系断熱材のようにコンクリートよりも変形追従性が高い材料によって目地板7を形成することで、束部(2A-2C)の変形が、直接、保護コンクリート部5に伝達されるのを防ぐことができる。
【0037】
目地板7は、それに対向される束部(2A-2C)及び保護コンクリート部5と、嵌合構造によって接合される。この嵌合構造は、目地板7に設けられる断面視略台形のアリ溝となる凹部72と、束部(2A-2C)及び保護コンクリート部5側に設けられる断面視略長方形の凸部26,51とによって形成される。すなわち、目地板7の凹部72に嵌り込んだ凸部26,51との嵌合により、目地板7の幅方向(板面と略平行な水平方向)の力に対して対抗させることができる。
【0038】
1枚の目地板7には、保護コンクリート部5に対向させる位置と束部(2A-2C)に対向させる位置との少なくとも2箇所に凹部72,72を設ける。すなわち、外側面21a側で目地板7と保護コンクリート部5とを嵌合構造により強固に接合させ、内側面21b側で目地板7と束部(2A-2C)とを嵌合構造により強固に接合させることで、大きな力が作用した場合でも、目地70に斜めに架け渡されるように目地板7が残って、隙間を塞ぎ続けることができる。
【0039】
この目地板7による断面視略長方形の溝の凹凸嵌合の形状については、これに限定されるものではない。例えば、断面視略長方形の溝、V字形の溝、断面視略U字形の溝などのトリマーなどで容易に加工できる形状であれば、いずれの形状の溝部にすることもできる。
【0040】
本実施の形態では、目地板7の外側面7a側に、鉛直方向に延伸された溝部71が形成される。詳細については、図7を参照しながら説明する。この溝部71は、目地板7の厚さ方向の略中央に、断面視略長方形又は断面視略台形に形成される。
【0041】
この溝部71には、型枠W1に固定される目地棒材74の先端が嵌め込まれる。この目地棒材74は、型枠W1側から溝部71に向けて先細る平面視略台形に形成されている。また、目地棒材74は、基礎スラブ1の下端の位置まで鉛直方向に延伸される。目地棒材74を溝部71に嵌め込むことで、目地板7の外側面7a側の位置を拘束することができる。
【0042】
また、溝部71の溝底から目地板7の内部に向けて、スリット73が設けられる。スリット73は、溝部71の幅方向(目地板7の厚さ方向)の略中央に、溝部71に沿った全長に鉛直方向に延伸される。
【0043】
このスリット73は、束部(2A-2C)と保護コンクリート部5とが離隔する方向の変形を誘発させるために設けられる。すなわち、地震や長期荷重による地反力によって、束部(2A-2C)と保護コンクリート部5とが離隔する方向の大きな力が作用した場合に、コンクリートによる付着(接合)が切れる前に、スリット73が開くことで目地板7を大きく変形させて接合状態を維持させる。このように接合状態が維持されていれば、基礎の外側面側から内側面側に連続する水みちが発生するのを防ぐことができる。
【0044】
さらに、束部(2A-2C)の内側面21b側及び断熱材3の内側面3b側に沿って、図1及び図4に示すように、基礎断熱材4が配置される。この基礎断熱材4には、例えば押出法ポリスチレンフォームなどの発泡プラスチック系断熱材が使用できる。
【0045】
また、面一に形成された基礎構造10の外側面には、図1に示すように、外装として連続した被覆層6を設けることができる。例えば、高弾性樹脂モルタルなどを塗布した下地層の表面に、塗装を仕上層として塗布することで被覆層6を形成することができる。
【0046】
この被覆層6は、図4に示すように、建物本体Uの外壁U1の外側面とほぼ面一となる。また、保護コンクリート部5の上縁は、建物本体Uの下縁から張り出された水切材U2によって覆われる。
【0047】
次に、本実施の形態の建物の基礎構造10の構築方法について説明する。
まず、基礎施工領域となる地面を掘削し、栗石(砕石)が敷き均された後に、捨てコンクリートを打設することで捨石層13を設ける。そして、捨石層13の上に基礎スラブ1用の鉄筋を配筋する。
【0048】
また、基礎スラブ1用の鉄筋の上には、図5に示すように、立上り部となる束部(2A-2C)並びに保護コンクリート部5及び断熱材3の外側面21a,5a及び内側面21b,3bを成形するための型枠W1,W2を組み立てる。
【0049】
建物の基礎構造10の外縁に沿って配置される型枠W1は、基礎スラブ1の側面12も成形することになるため、基礎スラブ1の内部側に配置される型枠W2よりも高さのある合板などで形成される。
【0050】
一方、型枠W1と略平行となるように基礎スラブ1の内部側に配置される型枠W2は、上端は型枠W1の上端と同じ高さに揃えられるが、下端は基礎スラブ1の上面11の位置となり、捨石層13に対しては浮いたような状態で支持される。
【0051】
そして、この型枠W1,W2間の空間は、目地板7によって、束部用の内空S1,S2と保護コンクリート部用の内空S3とに区画される。この目地板7は、内部側の型枠W2と同じ高さで、内空の延伸方向を横断するように配置される。
【0052】
また、目地板7,7間には、内部側の型枠W2の側面に沿って断熱材3が配置される。すなわち、目地板7の内側面7bと断熱材3の内側面3bとは、面一に並ぶことになる。一方、目地板7の外側面7a側の溝部71には、目地棒材74の先細る先端側の側縁が嵌め込まれる。この目地棒材74は、釘741などによって合板製の型枠W1に固定される。なお、型枠が鋼板製の場合は、目地棒材の背面に磁石を埋め込んでおくことで、固定させることができる。
【0053】
そして、型枠W1,W2と目地板7とによって区画されたそれぞれの内空S1-S3に、現場打ちのコンクリートを打設する。ここで、コンクリートは、1度に打設することができるが、基礎スラブ1用とそれ以外の2度に分けて打設することもできる。
【0054】
基礎スラブ1や束部(2A-2C)や保護コンクリート部5にコンクリートが打設されると、目地板7の凹部72に流れ込んだコンクリートが硬化して凸部26,51となる。また、目地板7には、施工中の流動化状態のコンクリートの側圧が、束部(2A-2C)側からと保護コンクリート部5側とから作用することになるが、目地板7の外側面7a側の溝部71と目地棒材74との嵌め込みによって位置が拘束されているので、目地板7が傾いたり移動したりすることはない。
【0055】
コンクリートの養生後に、型枠W1,W2を撤去する。また、目地板7の溝部71に嵌め込まれた目地棒材74を抜き取る。この際、目地棒材74が、型枠W1側から目地板7の溝部71に向けて先細る平面視略台形に形成されているので、隣接する束部(2A-2C)や保護コンクリート部5を破損させることなく、簡単に引き抜くことができる。
【0056】
続いて、束部(2A-2C)や保護コンクリート部5や基礎スラブ1などの表面に付着しているコンクリートノロなどの汚れや異物を除去する。
【0057】
そして、束部(2A-2C)の内側面21b及び断熱材3の内側面3bには、接着剤が塗布された基礎断熱材4を貼り付ける。さらに、断熱材3、保護コンクリート部5及び束部(2A-2C)の上面は、必要に応じて防水シートで覆うことができる。
【0058】
そして、図1に示すように、束部(2A-2C)の外側面21aと基礎スラブ1の側面12と保護コンクリート部5の外側面5aとに、連続して高弾性樹脂モルタルを塗布して下地層を設け、その上から仕上層となる塗装をして被覆層6を完成させる。なお、被覆層6は、一度塗りで完成させることもできる。
【0059】
次に、本実施の形態の建物の基礎構造10及びその構築方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の建物の基礎構造10は、スラブ状に形成された基礎スラブ1の上面11の周縁に沿って間隔を置いて配置された複数の束部(2A-2C)間に、開口を埋めるように板状の断熱材3が配置される。
【0060】
そして、断熱材3の外側面3a側に現場打ちコンクリートによって形成される保護コンクリート部5と束部(2A-2C)との間には、保護コンクリート部5よりも変形追従性の高い目地板7が介在される。
【0061】
さらに、その目地板7は、束部(2A-2C)及び保護コンクリート部5に対して嵌合構造(凹部72と凸部51、凹部72と凸部26)によって接合されるとともに、束部(2A-2C)と保護コンクリート部5とが離隔する方向の変形を誘発させるためのスリット73が形成されている。
【0062】
このように、断熱材3の外側面3a側を現場打ちコンクリートのような不燃性材料の保護コンクリート部5で覆うことで、防火性を高めることができる。また、嵌合構造による接合と現場打ちコンクリートの付着力とにより、高い密着性を確保することができる。そして、現場打ちコンクリートは、安価で入手しやすい材料であるため、施工性に優れている。
【0063】
さらに、変形追従性の高い目地板7を保護コンクリート部5と束部(2A-2C)との間に介在させることで、ひび割れの発生を抑えることができる。要するに、引張力が比較的小さい現場打ちコンクリートによる保護コンクリート部5に、目地板7を介して束部(2A-2C)の変形などによる力を作用させることで、ひび割れを起こすような応力が生じることを抑えることができる。
【0064】
そして目地板7は、嵌合構造によって両側の束部(2A-2C)と保護コンクリート部5とにそれぞれ接合されているので、基礎の外側面側から内側面側に連続する水みちが形成されず、防水性及び気密性に優れている。
【0065】
さらに、束部(2A-2C)と保護コンクリート部5とが離隔する方向の変形を誘発させるためのスリット73が目地板7に形成されているので、地震の揺れなどによって大きな水平力が作用しても、スリット73が開いて変形に追従することで、目地板7と束部(2A-2C)及び保護コンクリート部5との接合(付着)を切にくくすることができる。
【0066】
この作用について、図7を参照しながら詳細に説明する。図7の左端の状態は、基礎構造10の構築直後などの目地70が開く方向の力が作用していない状態を示している。この状態では、目地板7の両面は、束部(2A-2C)と保護コンクリート部5とにしっかりと密着している。
【0067】
コンクリートの打設後、時間が経過すると、束部(2A-2C)及び保護コンクリート部5のコンクリートが乾いて乾燥収縮が起きる。また、気温の変化により、熱膨張や熱収縮が起きる。この程度の力による目地70の開きであれば、発泡ポリカーボネート樹脂材などの変形追従性が高い目地板7であれば、それ自体の変形により対応できるため、束部(2A-2C)や保護コンクリート部5との接合が切れることはない。
【0068】
これらに対して、地震や長期荷重となる地反力の作用により、目地70の開きが大きくなる場合がある。その場合には、まず図7の中央に示したように、目地板7に変形誘発用に設けられたスリット73が開いて、変位に対応することになる。このスリット73は、束部(2A-2C)と保護コンクリート部5との境界に設けられた溝部71の溝底に面して設けられているので、束部(2A-2C)と保護コンクリート部5との相対的な変位の増加に対しては、より開きやすい状態になっている。
【0069】
そして、これよりも大きな大地震の揺れや外部衝撃などによって大きな水平力が作用した場合には、図7の右端に示したように、目地板7の平面と束部(2A-2C)との付着箇所が剥離して、剥離面7cが形成されることになる。
【0070】
しかしながらこの剥離面7cの発生によって、嵌合構造(凹部72と凸部51)に作用する力が低下して、密着が確実に維持されるようになる。すなわち、仮想線(2点鎖線)で示したように雁行形の防水ラインRが確保されることになるので、防水性及び気密性は維持されることになる。特に、伸縮度が低く、かつ伸縮による反発力が高い材料によって目地板7を形成する場合は、凹凸嵌合が剥がれる前に剥離面7cが生じるような構成にしておく必要がある。
【0071】
また目地板7には、コンクリートの打設時の姿勢を維持させるために、型枠W1に固定された目地棒材74を挿し込むための溝部71が設けられているので、目地板7に施工中のコンクリートの側圧が作用しても抵抗させることができ、目地板7が傾いたり移動したりすることを防ぐことができる。
【0072】
また、目地棒材74が、型枠W1側から目地板7の溝部71に向けて先細る平面視略台形に形成されていれば、目地70の幅を細くして溝底のスリット73が目立ちにくい構造にした場合でも、簡単に引き抜くことができる。
【0073】
さらに、束部(2A-2C)の外側面21aと保護コンクリート部5の外側面5aとが面一に形成されていれば、これらに跨る外装材などが設けやすくなるので、外装の意匠性を高めることが自由にできる。
【0074】
また、基礎スラブ1の側面12側に突出部が発生しないので、外装パネルなどを使用する必要がなく、高い意匠性を保ちつつコスト削減を図ることを、制約の少ない中で自由に行うことができる。
【0075】
そして、基礎スラブ1の側面12並びに束部(2A-2C)の外側面21a及び保護コンクリート部5の外側面5aに連続した被覆層6が設けられるのであれば、連続性と一体感のある外装の意匠を創出することが容易にできる。また、束部(2A-2C)及び断熱材3の内側面21b,3b側に基礎断熱材4を配置することで、より断熱性能の高い基礎構造とすることができる。
【0076】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
例えば、前記実施の形態では、目地70を基礎スラブ1の下端まで延ばす場合について説明したが、これに限定されるものではなく、束部(2A-2C)と保護コンクリート部5との間の範囲にだけ目地を設けることもできる。
【0077】
また、前記実施の形態では、アリ溝などの凹凸嵌合によって目地板7と束部(2A-2C)及び保護コンクリート部5とを接合させる場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、目地板の伸縮度が高く、かつ伸縮による反発力も低い場合は、凹凸嵌合を設けなくてもコンクリート自身の付着による目地板との接合だけであってもよい。
【0078】
さらに、前記実施の形態では、束部(2A-2C)と保護コンクリート部5とに対してそれぞれ一対の凹凸嵌合を設ける場合について説明したが、これに限定されるものではなく、凹凸嵌合を設ける数については、目地板のそれぞれの面において任意に設定することができる。
【符号の説明】
【0079】
10 :建物の基礎構造
1 :基礎スラブ(底板部)
11 :上面
2A :コーナー束部(束部)
2B :中間束部(束部)
2C :T型束部(束部)
21a :外側面
21b :内側面
26 :凸部(嵌合構造)
3 :断熱材
3a :外側面
3b :内側面
5 :保護コンクリート部
5a :外側面
51 :凸部(嵌合構造)
52 :ひび割れ抑制メッシュ(ひび割れ抑制材)
7 :目地板
7a :外側面
71 :溝部
72 :凹部(嵌合構造)
73 :スリット
74 :目地棒材
U :建物本体(建物)
W1,W2 :型枠
S1-S3 :内空
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7