(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】造形物の製造方法、造形物の製造手順生成方法、造形物の製造システム、造形物の製造手順生成装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B29C 64/393 20170101AFI20220921BHJP
B22F 10/18 20210101ALI20220921BHJP
B22F 10/31 20210101ALI20220921BHJP
B22F 10/85 20210101ALI20220921BHJP
B22F 12/53 20210101ALI20220921BHJP
B22F 12/55 20210101ALI20220921BHJP
B22F 12/90 20210101ALI20220921BHJP
B23K 9/04 20060101ALI20220921BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20220921BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220921BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20220921BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20220921BHJP
【FI】
B29C64/393
B22F10/18
B22F10/31
B22F10/85
B22F12/53
B22F12/55
B22F12/90
B23K9/04 G
B23K9/04 K
B29C64/118
B33Y10/00
B33Y30/00
B33Y50/02
(21)【出願番号】P 2019100301
(22)【出願日】2019-05-29
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100166981
【氏名又は名称】砂田 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
(72)【発明者】
【氏名】山田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-162500(JP,A)
【文献】特開2018-015779(JP,A)
【文献】特開2019-084553(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B22F 1/00-12/90
B23K 9/00- 9/32
B23K 10/00-10/02
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた、第1の積層体及び第2の積層体を含む造形物の製造方法であって、
前記第1の積層体を構成するビードを形成した後、当該第1の積層体を構成する次のビードを形成する箇所の温度が予め定められた設定温度以上であった場合に、当該次のビードの形成に代えて、前記第2の積層体を構成するビードの形成を行うことを特徴とする、造形物の製造方法。
【請求項2】
アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた、第1の積層体及び第2の積層体を含む造形物の製造手順生成方法であって、
前記第1の積層体を構成するビードを形成した後、当該第1の積層体を構成する次のビードが形成される箇所の温度が予め定められた設定温度以上であった場合に、当該次のビードの形成に代えて、前記第2の積層体を構成するビードの形成を行う、前記造形物の製造手順を、生成する工程を含むことを特徴とする、造形物の製造手順生成方法。
【請求項3】
前記造形物の製造手順を生成する工程では、前記次のビードが形成される箇所の温度をシミュレーションにより予測することを特徴とする、請求項2に記載の造形物の製造手順生成方法。
【請求項4】
前記造形物の三次元形状データを複数の層に分割する工程と、
前記複数の層の各層に、分離体に対応する分離領域と、当該分離体により分離された前記第1の積層体に対応する第1の積層領域及び前記第2の積層体に対応する第2の積層領域を含む複数の積層領域とを設定する工程と
を更に含み、
前記造形物の製造手順を生成する工程では、前記第1の積層領域及び前記第2の積層領域におけるビードの軌道を、前記造形物の製造手順として生成することを特徴とする、請求項2に記載の造形物の製造手順生成方法。
【請求項5】
アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた、第1の積層体及び第2の積層体を含む造形物の製造システムであって、
前記第1の積層体又は前記第2の積層体を構成するビードを形成するビード形成装置と、
前記第1の積層体を構成するビードを形成した後、当該第1の積層体を構成する次のビードを形成する箇所の温度が予め定められた設定温度以上であった場合に、当該次のビードの形成に代えて、前記第2の積層体を構成するビードの形成を行うように、前記ビード形成装置を制御する制御装置と
を備えたことを特徴とする、造形物の製造システム。
【請求項6】
アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた、第1の積層体及び第2の積層体を含む造形物の製造手順生成装置であって、
前記造形物の第1の製造手順を取得する取得手段と、
前記第1の製造手順を、前記第1の積層体を構成するビードを形成した後、当該第1の積層体を構成する次のビードが形成される箇所の温度が予め定められた設定温度以上であった場合に、当該次のビードの形成に代えて、前記第2の積層体を構成するビードの形成を行う、前記造形物の第2の製造手順に、変更する変更手段と
を備えたことを特徴とする、造形物の製造手順生成装置。
【請求項7】
前記変更手段は、前記次のビードが形成される箇所の温度をシミュレーションにより予測することを特徴とする、請求項6に記載の造形物の製造手順生成装置。
【請求項8】
前記造形物の三次元形状データを複数の層に分割する分割手段と、
前記複数の層の各層に、分離体に対応する分離領域と、当該分離体により分離された前記第1の積層体に対応する第1の積層領域及び前記第2の積層体に対応する第2の積層領域を含む複数の積層領域とを設定する設定手段と
を更に備え、
前記取得手段は、前記第1の積層領域及び前記第2の積層領域におけるビードの軌道を、前記造形物の第1の製造手順として取得することを特徴とする、請求項6に記載の造形物の製造手順生成装置。
【請求項9】
アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた、第1の積層体及び第2の積層体を含む造形物の製造手順生成装置として、コンピュータを機能させるためのプログラムであって、
前記コンピュータを、
前記造形物の第1の製造手順を取得する取得手段と、
前記第1の製造手順を、前記第1の積層体を構成するビードを形成した後、当該第1の積層体を構成する次のビードが形成される箇所の温度が予め定められた設定温度以上であった場合に、当該次のビードの形成に代えて、前記第2の積層体を構成するビードの形成を行う、前記造形物の第2の製造手順に、変更する変更手段と
して機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた、第1の積層体及び第2の積層体を含む、造形物の製造方法、造形物の製造手順生成方法、造形物の製造システム、造形物の製造手順生成装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
前層の溶融ビードを造形し、温度センサによりその溶融ビードの温度を監視し、次層の溶融ビードの造形は、前層の溶融ビードの温度が、許容されるパス間温度以下となった時に開始する、積層造形物の製造方法及び製造システムは、知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた積層体を含む造形物を製造する際に、積層体を構成するビードを形成した後、次のビードを形成する箇所の温度が予め定められた設定温度以上となっている場合がある。そのような場合、次のビードをその箇所にそのまま形成することによるビード形状が崩れる等の問題の発生を抑えるために、その箇所の温度が設定温度以下になるのを待ってビードを形成する構成を採用したのでは、造形物の製造に要する時間が長くなってしまう。
【0005】
本発明の目的は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた積層体を含む造形物を製造する際に、造形物の製造に要する時間を長くすることなく、ビード形状が崩れる等の問題の発生を抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもと、本発明は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた、第1の積層体及び第2の積層体を含む造形物の製造方法であって、第1の積層体を構成するビードを形成した後、第1の積層体を構成する次のビードを形成する箇所の温度が予め定められた設定温度以上であった場合に、次のビードの形成に代えて、第2の積層体を構成するビードの形成を行う、造形物の製造方法を提供する。
【0007】
また、本発明は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた、第1の積層体及び第2の積層体を含む造形物の製造手順生成方法であって、第1の積層体を構成するビードを形成した後、第1の積層体を構成する次のビードが形成される箇所の温度が予め定められた設定温度以上であった場合に、次のビードの形成に代えて、第2の積層体を構成するビードの形成を行う、造形物の製造手順を、生成する工程を含む、造形物の製造手順生成方法も提供する。
【0008】
ここで、造形物の製造手順を生成する工程では、次のビードが形成される箇所の温度をシミュレーションにより予測してよい。
【0009】
また、造形物の製造方法は、造形物の三次元形状データを複数の層に分割する工程と、複数の層の各層に、分離体に対応する分離領域と、分離体により分離された第1の積層体に対応する第1の積層領域及び第2の積層体に対応する第2の積層領域を含む複数の積層領域とを設定する工程とを更に含み、造形物の製造手順を生成する工程では、第1の積層領域及び第2の積層領域におけるビードの軌道を、造形物の製造手順として生成してよい。
【0010】
更に、本発明は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた、第1の積層体及び第2の積層体を含む造形物の製造システムであって、第1の積層体又は第2の積層体を構成するビードを形成するビード形成装置と、第1の積層体を構成するビードを形成した後、第1の積層体を構成する次のビードを形成する箇所の温度が予め定められた設定温度以上であった場合に、次のビードの形成に代えて、第2の積層体を構成するビードの形成を行うように、ビード形成装置を制御する制御装置とを備えた、造形物の製造システムも提供する。
【0011】
更にまた、本発明は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた、第1の積層体及び第2の積層体を含む造形物の製造手順生成装置であって、造形物の第1の製造手順を取得する取得手段と、第1の製造手順を、第1の積層体を構成するビードを形成した後、第1の積層体を構成する次のビードが形成される箇所の温度が予め定められた設定温度以上であった場合に、次のビードの形成に代えて、第2の積層体を構成するビードの形成を行う、造形物の第2の製造手順に、変更する変更手段とを備えた、造形物の製造手順生成装置も提供する。
【0012】
ここで、変更手段は、次のビードが形成される箇所の温度をシミュレーションにより予測してよい。
【0013】
また、造形物の製造手順生成装置は、造形物の三次元形状データを複数の層に分割する分割手段と、複数の層の各層に、分離体に対応する分離領域と、分離体により分離された第1の積層体に対応する第1の積層領域及び第2の積層体に対応する第2の積層領域を含む複数の積層領域とを設定する設定手段とを更に備え、取得手段は、第1の積層領域及び第2の積層領域におけるビードの軌道を、造形物の第1の製造手順として取得してよい。
【0014】
加えて、本発明は、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた、第1の積層体及び第2の積層体を含む造形物の製造手順生成装置として、コンピュータを機能させるためのプログラムであって、コンピュータを、造形物の第1の製造手順を取得する取得手段と、第1の製造手順を、第1の積層体を構成するビードを形成した後、第1の積層体を構成する次のビードが形成される箇所の温度が予め定められた設定温度以上であった場合に、次のビードの形成に代えて、第2の積層体を構成するビードの形成を行う、造形物の第2の製造手順に、変更する変更手段として機能させるためのプログラムも提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた積層体を含む造形物を製造する際に、造形物の製造に要する時間を長くすることなく、ビード形状が崩れる等の問題の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態における金属積層造形システムの概略構成例を示した図である。
【
図2】本発明の実施の形態における積層計画装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態で製造される積層造形物の一例を示した図である。
【
図4】(a),(b)は、スライス分割で得られた複数の層のうちの1つの層を上方から見た上面図である。
【
図5】本発明の第1の実施の形態における積層計画装置の機能構成例を示した図である。
【
図6】本発明の第1の実施の形態における制御盤の機能構成例を示した図である。
【
図7】本発明の第1の実施の形態における積層計画装置の動作例を示したフローチャートである。
【
図8-1】本発明の第1の実施の形態における制御盤の動作例を示したフローチャートである。
【
図8-2】本発明の第1の実施の形態における制御盤の動作例を示したフローチャートである。
【
図9】本発明の第2の実施の形態における積層計画装置の機能構成例を示した図である。
【
図10】本発明の第2の実施の形態における制御盤の機能構成例を示した図である。
【
図11】本発明の第2の実施の形態における積層計画装置の動作例を示したフローチャートである。
【
図12-1】本発明の第2の実施の形態における積層計画装置の軌道データ変更処理の例を示したフローチャートである。
【
図12-2】本発明の第2の実施の形態における積層計画装置の軌道データ変更処理の例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
[金属積層造形システムの構成]
図1は、本実施の形態における金属積層造形システム1の概略構成例を示した図である。
【0019】
図示するように、金属積層造形システム1は、溶接ロボット(マニピュレータ)10と、CAD装置20と、積層計画装置30と、制御盤50とを備える。また、積層計画装置30は、溶接ロボット10を制御する制御プログラムを、例えばメモリカード等のリムーバブルな記録媒体70に書き込み、制御盤50は、記録媒体70に書き込まれた制御プログラムを読み出すことができるようになっている。
【0020】
溶接ロボット10は、複数の関節を有する腕(アーム)11を備え、制御盤50の制御により各種の作業を行う。また、溶接ロボット10は、腕11の先端に手首部12を介して、積層造形物100を造形するための溶接トーチ13を有している。そして、金属積層造形システム1の場合、溶接ロボット10は、軟鋼製の溶加材(ワイヤ)14を溶融しながら、溶接トーチ13を移動させて、積層造形物100を製造する。具体的には、溶接トーチ13は、溶加材14を供給しつつ、シールドガスを流しながらアークを発生させて溶加材14を溶融及び固化し、母材90上にビード101を積層して積層造形物100を製造する。尚、ここでは、溶加材14を溶融する熱源としてアークを用いるが、レーザやプラズマを用いてもよい。また、溶接ロボット10は、この他に、溶加材14を送給する送給装置等も含むが、これについては説明を省略する。本実施の形態では、ビードを形成するビード形成装置の一例として、溶接ロボット10を設けている。
【0021】
CAD装置20は、コンピュータを用いて造形物の設計を行うための装置であり、立体的な造形物の形状を三次元座標で表す三次元CADデータ(以下、単に「CADデータ」という)を保持している。
【0022】
積層計画装置30は、CAD装置20が保持するCADデータに基づいて溶接トーチ13の軌道を決定すると共に、溶接ロボット10が溶接する際の溶接条件を決定する。そして、この決定した軌道に沿って決定した溶接条件で溶接を行うように溶接ロボット10を制御するための制御プログラムを生成し、この制御プログラムを記録媒体70に出力する。本実施の形態では、造形物の製造手順生成装置の一例として、積層計画装置30を設けている。
【0023】
制御盤50は、記録媒体70から制御プログラムを読み込んで保持する。そして、この制御プログラムを動作させることにより、積層計画装置30で計画された軌道に沿って、積層計画装置30で計画された溶接条件で溶接を行うよう、溶接ロボット10を制御する。本実施の形態では、制御装置の一例として、制御盤50を設けている。
【0024】
尚、
図1において溶接ロボット10と制御盤50とからなるシステムは、造形物の製造システムの一例である。
【0025】
[積層計画装置のハードウェア構成]
図2は、積層計画装置30のハードウェア構成例を示す図である。
【0026】
図示するように、積層計画装置30は、例えば汎用のPC(Personal Computer)等により実現され、演算手段であるCPU31と、記憶手段であるメインメモリ32及び磁気ディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)33とを備える。ここで、CPU31は、OS(Operating System)やアプリケーションソフトウェア等の各種プログラムを実行し、積層計画装置30の各機能を実現する。また、メインメモリ32は、各種プログラムやその実行に用いるデータ等を記憶する記憶領域であり、HDD33は、各種プログラムに対する入力データや各種プログラムからの出力データ等を記憶する記憶領域である。
【0027】
また、積層計画装置30は、外部との通信を行うための通信I/F34と、ビデオメモリやディスプレイ等からなる表示機構35と、キーボードやマウス等の入力デバイス36と、記録媒体70に対してデータの読み書きを行うためのドライバ37とを備える。尚、
図2は、積層計画装置30をコンピュータシステムにて実現した場合のハードウェア構成を例示するに過ぎず、積層計画装置30は図示の構成に限定されない。
【0028】
また、
図2に示したハードウェア構成は、制御盤50のハードウェア構成としても捉えられる。但し、制御盤50について述べるときは、
図2のCPU31、メインメモリ32、磁気ディスク装置33、通信I/F34、表示機構35、入力デバイス36、ドライバ37をそれぞれ、CPU51、メインメモリ52、磁気ディスク装置53、通信I/F54、表示機構55、入力デバイス56、ドライバ57と表記するものとする。
【0029】
[本実施の形態の概要]
このような構成を備えた金属積層造形システム1において、パス間温度(ビードを形成する箇所の温度)が高すぎると、ビード形状が崩れる所謂垂れ落ち等の問題が発生する虞がある。しかしながら、このような問題の発生を回避するために、パス間温度が設定温度以下になるのを待っていたのでは、積層造形物100の製造時間が長くなる。そこで、本実施の形態では、ある積層体を構成するビードを形成した後、その積層体を構成する次のビードを形成する際のパス間温度が予め定められた設定温度以上であった場合に、そのビードの形成に代えて、別の積層体を構成するビードの形成を行う。
【0030】
図3は、本実施の形態で製造される積層造形物100の一例を示した図である。ここでは、積層造形物100として、直方体の造形物を例にとっている。図示するように、積層造形物100は、母材90上に製造され、分離体110と、積層体120とを有する。この例では、積層体120は2つとし、分離体110は、第1の積層体の一例である積層体121と、第2の積層体の一例である積層体122とを分離している。まず、このような積層造形物100の形状を表すCADデータは、
図3に破線で示すように、複数の層にスライス分割される。
【0031】
図4(a),(b)は、スライス分割で得られた複数の層のうちの1つの層を上方から見た上面図である。
【0032】
(a)では、まず、この層に、分離体110に対応する分離領域130と、積層体121に対応する第1の積層領域の一例である積層領域141と、積層体122に対応する第2の積層領域の一例である積層領域142とが設定される。この分離領域130及び積層領域141,142の設定方法としては、幾つかの方法が考えられる。例えば、分離体110の断面形状を予め定めておき、それを中央に配置して拡大や縮小を行うことで分離領域130を介して分離された積層領域141,142を設定する方法を用いるとよい。
【0033】
ここでは、各積層領域140がインデックスiで区別される。積層領域141のインデックスiは1、積層領域142のインデックスiは2とする。また、各積層領域140内の溶接パスはインデックスjで区別される。各積層領域140において分離領域130に最も近い溶接パスのインデックスjは1、次に近い溶接パスのインデックスjは2、最も遠い溶接パスのインデックスjは3とする。そして、インデックスiの積層領域140内のインデックスjの溶接パスをP(i,j)と表記することにする。
【0034】
(a)では、積層領域141,142に、初期の溶接パスの溶接順序(以下、「初期パス順序」という)が設定される。初期パス順序は、換言すれば、初期設定された積層軌道である。(a)では、各溶接パスの下に丸囲み数字で示すように、初期パス順序として、P(1,1),P(1,2),P(1,3),P(2,1),P(2,2),P(2,3)の順序が設定されている。
【0035】
(b)では、初期パス順序に従ってビードが形成された場合に、ビードを形成する箇所に設定温度以上の箇所があれば、初期パス順序を変更したパス順序(以下、「変更パス順序」という)が新たに設定される。(b)では、各溶接パスの下に丸囲み数字で示すように、変更パス順序として、P(1,1),P(1,2),P(2,1),P(1,3),P(2,2),P(2,3)の順序が設定されている。
【0036】
ところで、このようなパス順序の変更は、溶接ロボット10で溶接を行いながら行う場合と、溶接ロボット10での溶接に先立って計画段階で行う場合とがある。以下では、前者の場合を第1の実施の形態として、後者の場合を第2の実施の形態として、その機能構成及び動作について詳細に説明する。
【0037】
尚、上記では、積層造形物100として、分離体110が積層体121と積層体122とを分離したものを例にとったが、これには限らない。一般化し、積層造形物100を、分離体110がN個の積層体120を分離したものとしてもよい。積層造形物100は、例えば、円柱状の軸体と、この軸体の外周に径方向外側へ突出する6枚の螺旋状のブレードとを備えた6枚羽ロータ等であってよい。これは、N=6の場合の例であり、軸体が分離体110に相当し、ブレードが積層体120に相当する。従って、以下でも、一般化し、分離体110がN個の積層体120を分離するものとして説明する。
【0038】
[第1の実施の形態]
(積層計画装置の機能構成)
図5は、第1の実施の形態における積層計画装置30の機能構成例を示した図である。図示するように、第1の実施の形態における積層計画装置30は、CADデータ取得部41と、CADデータ分割部42と、領域設定部43と、軌道データ生成部44と、溶接条件生成部45と、制御プログラム生成部47と、制御プログラム出力部48とを備える。
【0039】
CADデータ取得部41は、CAD装置20からCADデータを取得する。本実施の形態では、造形物の三次元形状データの一例として、CADデータを用いている。
【0040】
CADデータ分割部42は、CADデータ取得部41により取得されたCADデータを複数の層に分割する。本実施の形態では、三次元形状データを複数の層に分割する分割手段の一例として、CADデータ分割部42を設けている。
【0041】
領域設定部43は、CADデータ分割部42がCADデータを分割することで得られた複数の層の各層に、分離領域130と、N個の積層領域140とを設定する。本実施の形態では、複数の層の各層に分離領域と積層領域とを設定する設定手段の一例として、領域設定部43を設けている。
【0042】
軌道データ生成部44は、領域設定部43が設定したN個の積層領域140の各領域について、初期設定された積層軌道を示す軌道データを生成する。この軌道データは、
図4(a)を参照して説明した初期の溶接パスの溶接順序(初期パス順序)を示すものである。本実施の形態では、造形物の第1の製造手順の一例として、初期パス順序を用いている。また、第1の製造手順を取得する取得手段、及び、積層領域におけるビードの軌道を取得する取得手段の一例として、軌道データ生成部44を設けている。
【0043】
溶接条件生成部45は、軌道データ生成部44が生成した軌道データが示す積層軌道に沿ってビードを形成する際の条件である溶接条件を生成する。溶接条件は、例えば、電流、電圧、速度等である。
【0044】
制御プログラム生成部47は、軌道データ生成部44が生成した軌道データが示す積層軌道に沿って、溶接条件生成部45が生成した溶接条件で積層造形を行うよう、溶接ロボット10を制御するための制御プログラムを生成する。
【0045】
制御プログラム出力部48は、制御プログラム生成部47が生成した制御プログラムを記録媒体70に出力する。
【0046】
(制御盤の機能構成)
図6は、第1の実施の形態における制御盤50の機能構成例を示した図である。図示するように、第1の実施の形態における制御盤50は、制御プログラム取得部61と、制御プログラム記憶部62と、温度データ受信部63と、制御プログラム実行部64とを備える。
【0047】
制御プログラム取得部61は、記録媒体70に記録された制御プログラムを取得する。
【0048】
制御プログラム記憶部62は、制御プログラム取得部61が取得した制御プログラムを記憶する。
【0049】
温度データ受信部63は、積層造形物100上のビードの表面温度を計測する温度センサからこの表面温度を示す温度データを受信する。温度センサは、
図1には示していないが、例えば、溶接トーチ13の横に設け、溶接トーチ13の移動に合わせてビードの表面温度を計測可能にするとよい。また、温度センサの種類は特に限定しないが、赤外線サーモグラフィー、放射温度計等の非接触方式のものが好ましい。
【0050】
制御プログラム実行部64は、制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出して実行する。その際、制御プログラム実行部64は、温度データ受信部63が受信した温度データに基づいてパス間温度が設定温度以上であると判定すれば、初期設定された積層軌道を示す軌道データを変更する。この変更後の軌道データは、
図4(b)を参照して説明した、初期パス順序を変更したパス順序(変更パス順序)を示すものである。そして、制御プログラム実行部64は、この変更後の軌道データに基づいて溶接を行うよう溶接ロボット10を制御する。
【0051】
(積層計画装置の動作)
図7は、第1の実施の形態における積層計画装置30の動作例を示したフローチャートである。
【0052】
積層計画装置30では、まず、CADデータ取得部41が、CAD装置20からCADデータを取得する(ステップ301)。
【0053】
次に、CADデータ分割部42が、ステップ301で取得されたCADデータを複数の層に分割する(ステップ302)。具体的には、
図3に破線で示したように、CADデータを複数の層にスライス分割する。
【0054】
次に、領域設定部43が、ステップ302で得られた複数の層の各層に分離領域130とN個の積層領域140とを設定する(ステップ303)。
【0055】
次いで、軌道データ生成部44が、ステップ303で設定されたN個の積層領域140の各積層領域について、初期設定された積層軌道を示す軌道データを生成する(ステップ304)。
【0056】
また、溶接条件生成部45が、ステップ304で生成された軌道データが示す軌道に沿ってビードを形成する際の条件である溶接条件を生成する(ステップ305)。
【0057】
次いで、制御プログラム生成部47が、ステップ304で生成された軌道データ及びステップ305で生成された溶接条件に基づいて溶接するための制御プログラムを生成する(ステップ306)。具体的には、ステップ304で生成された軌道データが示す積層軌道に沿ってステップ305で生成された溶接条件でビードを形成するための制御プログラムを生成する。
【0058】
最後に、制御プログラム出力部48が、ステップ306で生成された制御プログラムを記録媒体70に出力する(ステップ307)。
【0059】
(制御盤の動作)
制御盤50では、まず、制御プログラム取得部61が、記録媒体70から制御プログラムを取得して制御プログラム記憶部62に記憶する。この状態で、溶接ロボット10を用いて実際に積層造形物100の製造を行う際には、温度データ受信部63が温度センサから積層造形物100のビードの表面温度を示す温度データを受信しながら、制御プログラム実行部64が制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出してこれを実行する。
【0060】
図8-1及び
図8-2は、この制御プログラム実行部64の動作例を示したフローチャートである。尚、このフローチャートでも、上述したように、積層領域140のインデックスをiとし、各積層領域140内の溶接パスのインデックスをjとし、積層領域140の個数はNとする。また、各積層領域140内の溶接パスの個数は全て同じとしMとする。更に、上述したように、インデックスiの積層領域140内のインデックスjの溶接パスをP(i,j)とする。また、溶接パスP(i,j)が溶接済みであるかどうかを示す溶接済フラグをF(i,j)とし、溶接済みであることをONで表し、溶接済みでないことをOFFで表す。更に、溶接パスP(i,j)のパス間温度(溶接を開始する箇所の温度)をT(i,j)とする。
【0061】
制御プログラム実行部64は、まず、積層領域140のインデックスiを1に設定する(ステップ501)。つまり、1つ目の積層領域140に着目する。
【0062】
次に、制御プログラム実行部64は、溶接パスのインデックスjを1に設定する(ステップ502)。つまり、1つ目の積層領域140内の1つ目の溶接パスに着目する。
【0063】
次いで、制御プログラム実行部64は、溶接済フラグF(i,j)がONであるかどうかを判定する(ステップ503)。
【0064】
溶接済フラグF(i,j)がONでないと判定すれば、つまり、溶接パスP(i,j)が溶接済みでないと判定すれば、制御プログラム実行部64は、溶接パスP(i,j)のパス間温度T(i,j)を温度データ受信部63から取得する(ステップ504)。そして、パス間温度T(i,j)が予め定められた設定温度Tsよりも高いかどうかを判定する(ステップ505)。
【0065】
その結果、パス間温度T(i,j)が設定温度Tsよりも低いと判定したとする。この場合は、溶接パスP(i,j)の溶接を行ってもビード形状が崩れる等の問題は発生しないので、溶接パスP(i,j)を溶接するよう溶接ロボット10を制御する(ステップ506)。そして、溶接済フラグF(i,j)をONに設定し(ステップ507)、処理をステップ508へ進める。
【0066】
一方、ステップ503で溶接済フラグF(i,j)がONであると判定すれば、つまり、溶接パスP(i,j)が溶接済みであると判定すれば、制御プログラム実行部64は、ステップ504~507を行うことなく、処理をステップ508へ進める。後述する
図8-2の処理が既に実行されて、インデックスiの積層領域140内に溶接済の溶接パスが存在する可能性があるため、このような判定を行っている。
【0067】
次いで、制御プログラム実行部64は、溶接パスのインデックスjに1を加算する(ステップ508)。つまり、同じ積層領域140内の次の溶接パスに着目する。
【0068】
これにより、制御プログラム実行部64は、溶接パスのインデックスjが溶接パスの個数Mを超えたかどうかを判定する(ステップ509)。
【0069】
溶接パスのインデックスjが溶接パスの個数Mを超えていないと判定すれば、制御プログラム実行部64は、処理をステップ503に戻して、以降の処理を繰り返す。一方、溶接パスのインデックスjが溶接パスの個数Mを超えたと判定すれば、制御プログラム実行部64は、積層領域140のインデックスiに1を加算する(ステップ510)。つまり、次の積層領域140に着目する。
【0070】
これにより、制御プログラム実行部64は、積層領域140のインデックスiが積層領域140の個数Nを超えたかどうかを判定する(ステップ511)。
【0071】
積層領域140のインデックスiが積層領域140の個数Nを超えていないと判定すれば、制御プログラム実行部64は、処理をステップ502に戻して、以降の処理を繰り返す。一方、積層領域140のインデックスiが積層領域140の個数Nを超えたと判定すれば、制御プログラム実行部64は、処理を終了する。
【0072】
このように、溶接パスP(i,j)のパス間温度T(i,j)が設定温度Tsよりも低いと判定した場合、制御プログラム実行部64は、
図8-1の処理を繰り返すことにより、積層造形物100を製造する。ところが、溶接パスP(i,j)のパス間温度T(i,j)が設定温度Tsよりも高いと判定した場合には、そのまま溶接パスP(i,j)を溶接するとビード形状が崩れる等の問題が発生する虞がある。また、このような問題が発生しないよう溶接パスP(i,j)のパス間温度T(i,j)が設定温度Ts以下になるのを待つと、積層造形物100の製造に時間がかかる。そこで、制御プログラム実行部64は、パス間温度が設定温度Tsよりも低い溶接パスを探索し、現在着目している溶接パスP(i,j)に代えて、この探索された溶接パスの溶接を先に行うよう溶接ロボット10を制御する。
【0073】
即ち、この場合、
図8-2に示すように、制御プログラム実行部64は、まず、探索した溶接パスを溶接した後に元の溶接パスP(i,j)に戻ることができるように、このときのインデックスi,jをメモリに書き込む(ステップ521)。
【0074】
次に、制御プログラム実行部64は、積層領域140のインデックスiに1を加算する(ステップ522)。つまり、次の積層領域140に着目する。
【0075】
これにより、制御プログラム実行部64は、積層領域140のインデックスiが積層領域140の個数Nを超えたかどうかを判定する(ステップ523)。
【0076】
積層領域140のインデックスiが積層領域140の個数Nを超えていないと判定すれば、制御プログラム実行部64は、溶接パスのインデックスjを1に設定する(ステップ524)。
【0077】
次いで、制御プログラム実行部64は、溶接済フラグF(i,j)がONであるかどうかを判定する(ステップ525)。
図8-2の処理が既に実行されて、インデックスiの積層領域140内に溶接済の溶接パスが存在する可能性があるため、このような判定を行っている。
【0078】
溶接済フラグF(i,j)がONであると判定すれば、つまり、溶接パスP(i,j)が溶接済みであると判定すれば、制御プログラム実行部64は、溶接パスのインデックスjに1を加算する(ステップ526)。つまり、同じ積層領域140内の次の溶接パスに着目する。
【0079】
これにより、制御プログラム実行部64は、溶接パスのインデックスjが溶接パスの個数Mを超えたかどうかを判定する(ステップ527)。
【0080】
溶接パスのインデックスjが溶接パス数の個数Mを超えていないと判定すれば、制御プログラム実行部64は、処理をステップ525に戻す。
【0081】
ステップ525で溶接済フラグF(i,j)がONでないと判定すれば、つまり、溶接パスP(i,j)が溶接済みでないと判定すれば、制御プログラム実行部64は、溶接パスP(i,j)のパス間温度T(i,j)を温度データ受信部63から取得する(ステップ528)。そして、パス間温度T(i,j)が予め定められた設定温度Tsよりも高いかどうかを判定する(ステップ529)。
【0082】
その結果、パス間温度T(i,j)が設定温度Tsよりも高いと判定したとする。この場合は、溶接パスP(i,j)の溶接を行うとビードの形状が崩れる等の問題が発生する虞があるので、制御プログラム実行部64は、次の積層領域140からパス間温度が設定温度Tsよりも低い溶接パスを探索するために、処理をステップ522に戻す。また、ステップ527で溶接パスのインデックスjが溶接パスの個数Mを超えたと判定した場合も、制御プログラム実行部64は、次の積層領域140からパス間温度が設定温度Tsよりも低い溶接パスを探索するために、処理をステップ522に戻す。
【0083】
一方、ステップ529でパス間温度T(i,j)が設定温度Tsよりも低いと判定したとする。この場合は、溶接パスP(i,j)の溶接を行ってもビード形状が崩れる等の問題は発生しないので、制御プログラム実行部64は、溶接パスP(i,j)を溶接するよう溶接ロボット10を制御する(ステップ530)。そして、溶接済フラグF(i,j)をONに設定する(ステップ531)。
【0084】
その後、制御プログラム実行部64は、ステップ521でメモリに書き込んだインデックスi,jを読み出し(ステップ532)、処理を
図8-1のステップ504に戻す。
【0085】
また、ステップ523で積層領域140のインデックスiが積層領域140の個数Nを超えたと判定した場合も、制御プログラム実行部64は、ステップ521でメモリに書き込んだインデックスi,jを読み出し(ステップ532)、処理を
図8-1のステップ504に戻す。
【0086】
[第2の実施の形態]
(積層計画装置の機能構成)
図9は、第2の実施の形態における積層計画装置30の機能構成例を示した図である。図示するように、第2の実施の形態における積層計画装置30は、CADデータ取得部41と、CADデータ分割部42と、領域設定部43と、軌道データ生成部44と、溶接条件生成部45と、軌道データ変更部46と、制御プログラム生成部47と、制御プログラム出力部48とを備える。
【0087】
CADデータ取得部41、CADデータ分割部42、領域設定部43、軌道データ生成部44及び溶接条件生成部45については、第1の実施の形態で説明したものと同様なので、ここでの説明は省略する。
【0088】
軌道データ変更部46は、パス間温度のシミュレーションによりパス間温度が設定温度以上になることが予測される場合に、軌道データ生成部44が生成した初期設定された積層軌道を示す軌道データを変更する。この変更後の軌道データは、
図4(b)を参照して説明した、初期パス順序を変更したパス順序(変更パス順序)を示すものである。ここで、パス間温度のシミュレーションとしては、2つの手法が考えられる。
【0089】
1つ目は、実験に基づく計算による手法である。この手法では、まず、板厚、パス数、電流、電圧、速度、アークタイム等の溶接条件に対して、所定のパス間温度になるまでの待ち時間の情報を実験によって取得し、保持しておく。そして、溶接条件生成部45が生成した溶接条件に対して保持しておいた所定のパス間温度になるまでの待ち時間の情報を参照して、1つ前の溶接パスの溶接からの経過時間におけるパス間温度を算出する。
【0090】
2つ目は、伝熱計算による手法である。この手法では、伝熱計算を、三次元熱伝導方程式を用いて行うとよい。一例として、以下の基本式にて時刻tにおける温度Tを予測する。
【0091】
【0092】
ここで、Hはエンタルピを表し、Cは節点体積の逆数を表し、Kは熱伝導マトリックスを表し、Fは熱流束を表し、Qは体積発熱を表す。
【0093】
本実施の形態では、造形物の第2の製造手順の一例として、変更パス順序を用いており、第1の製造手順を第2の製造手順に変更する変更手段の一例として、軌道データ変更部46を設けている。
【0094】
制御プログラム生成部47は、軌道データ変更部46による変更後の軌道データが示す積層軌道に沿って、溶接条件生成部45が生成した溶接条件で積層造形を行うよう、溶接ロボット10を制御するための制御プログラムを生成する。
【0095】
制御プログラム出力部48は、制御プログラム生成部47が生成した制御プログラムを記録媒体70に出力する。
【0096】
(制御盤の機能構成)
図10は、第2の実施の形態における制御盤50の機能構成例を示した図である。図示するように、第2の実施の形態における制御盤50は、制御プログラム取得部61と、制御プログラム記憶部62と、制御プログラム実行部64とを備える。
【0097】
制御プログラム取得部61及び制御プログラム記憶部62については、第1の実施の形態で説明したものと同様なので、ここでの説明は省略する。
【0098】
制御プログラム実行部64は、制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出して実行する。その際、制御プログラム実行部64は、軌道データ変更部46による変更後の軌道データに基づいて溶接を行うよう溶接ロボット10を制御する。
【0099】
(積層計画装置の動作)
図11は、第2の実施の形態における積層計画装置30の動作例を示したフローチャートである。
【0100】
積層計画装置30では、まず、CADデータ取得部41が、CAD装置20からCADデータを取得する(ステップ351)。
【0101】
次に、CADデータ分割部42が、ステップ351で取得されたCADデータを複数の層に分割する(ステップ352)。具体的には、
図3に破線で示したように、CADデータを複数の層にスライス分割する。
【0102】
次に、領域設定部43が、ステップ352で得られた複数の層の各層に分離領域130とN個の積層領域140とを設定する(ステップ353)。
【0103】
次いで、軌道データ生成部44が、ステップ353で設定されたN個の積層領域140の各積層領域について、初期設定された積層軌道を示す軌道データを生成する(ステップ354)。
【0104】
また、溶接条件生成部45が、ステップ354で生成された軌道データが示す軌道に沿ってビードを形成する際の条件である溶接条件を生成する(ステップ355)。
【0105】
次いで、軌道データ変更部46が、ステップ354で生成された軌道データをステップ355で生成された溶接条件を用いたパス間温度のシミュレーションにより変更する軌道データ変更処理を行う(ステップ356)。この軌道データ変更部46については後述する。
【0106】
次いで、制御プログラム生成部47が、ステップ356の軌道データ変更処理による変更後の軌道データ及びステップ355で生成された溶接条件に基づいて溶接するための制御プログラムを生成する(ステップ357)。具体的には、ステップ356の軌道データ変更処理による変更後の軌道データが示す積層軌道に沿ってステップ355で生成された溶接条件でビードを形成するための制御プログラムを生成する。
【0107】
最後に、制御プログラム出力部48が、ステップ357で生成された制御プログラムを記録媒体70に出力する(ステップ358)。
【0108】
図12-1及び
図12-2は、ステップ356の軌道データ変更処理の例を示したフローチャートである。尚、このフローチャートでも、上述したように、積層領域140のインデックスをiとし、各積層領域140内の溶接パスのインデックスをjとし、積層領域140の個数はNとする。また、各積層領域140内の溶接パスの個数は全て同じとしMとする。更に、上述したように、インデックスiの積層領域140内のインデックスjの溶接パスをP(i,j)とする。また、溶接パスP(i,j)が軌道データに追加済みであるかどうかを示す追加済フラグをG(i,j)とし、軌道データに追加済みであることをONで表し、軌道データに追加済みでないことをOFFで表す。更に、溶接パスP(i,j)のパス間温度(溶接を開始する箇所の温度)をT(i,j)とする。
【0109】
軌道データ変更部46は、まず、積層領域140のインデックスiを1に設定する(ステップ361)。つまり、1つ目の積層領域140に着目する。
【0110】
次に、軌道データ変更部46は、溶接パスのインデックスjを1に設定する(ステップ362)。つまり、1つ目の積層領域140内の1つ目の溶接パスに着目する。
【0111】
次いで、軌道データ変更部46は、追加済フラグG(i,j)がONであるかどうかを判定する(ステップ363)。
【0112】
追加済フラグG(i,j)がONでないと判定すれば、つまり、溶接パスP(i,j)が軌道データに追加済みでないと判定すれば、軌道データ変更部46は、溶接パスP(i,j)のパス間温度T(i,j)を溶接条件に基づくシミュレーションにより算出する(ステップ364)。そして、パス間温度T(i,j)が予め定められた設定温度Tsよりも高いかどうかを判定する(ステップ365)。
【0113】
その結果、パス間温度T(i,j)が設定温度Tsよりも低いと判定したとする。この場合は、溶接パスP(i,j)の溶接を行ってもビード形状が崩れる等の問題は発生しないので、溶接パスP(i,j)を軌道データに次に溶接すべきパスとして追加する(ステップ366)。そして、追加済フラグG(i,j)をONに設定し(ステップ367)、処理をステップ368へ進める。
【0114】
一方、ステップ363で追加済フラグG(i,j)がONであると判定すれば、つまり、溶接パスP(i,j)が軌道データに追加済みであると判定すれば、軌道データ変更部46は、ステップ364~367を行うことなく、処理をステップ368へ進める。後述する
図12-2の処理が既に実行されて、インデックスiの積層領域140内に軌道データに追加済の溶接パスが存在する可能性があるため、このような判定を行っている。
【0115】
次いで、軌道データ変更部46は、溶接パスのインデックスjに1を加算する(ステップ368)。つまり、同じ積層領域140内の次の溶接パスに着目する。
【0116】
これにより、軌道データ変更部46は、溶接パスのインデックスjが溶接パスの個数Mを超えたかどうかを判定する(ステップ369)。
【0117】
溶接パスのインデックスjが溶接パスの個数Mを超えていないと判定すれば、軌道データ変更部46は、処理をステップ363に戻して、以降の処理を繰り返す。一方、溶接パスのインデックスjが溶接パスの個数Mを超えたと判定すれば、軌道データ変更部46は、積層領域140のインデックスiに1を加算する(ステップ370)。つまり、次の積層領域140に着目する。
【0118】
これにより、軌道データ変更部46は、積層領域140のインデックスiが積層領域140の個数Nを超えたかどうかを判定する(ステップ371)。
【0119】
積層領域140のインデックスiが積層領域140の個数Nを超えていないと判定すれば、軌道データ変更部46は、処理をステップ362に戻して、以降の処理を繰り返す。一方、積層領域140のインデックスiが積層領域140の個数Nを超えたと判定すれば、軌道データ変更部46は、処理を終了する。
【0120】
このように、溶接パスP(i,j)のパス間温度T(i,j)が設定温度Tsよりも低いと判定した場合、軌道データ変更部46は、
図12-1の処理を繰り返すことにより、積層造形物100を製造する。ところが、溶接パスP(i,j)のパス間温度T(i,j)が設定温度Tsよりも高いと判定した場合には、そのまま溶接パスP(i,j)を溶接するとビード形状が崩れる等の問題が発生する虞がある。また、このような問題が発生しないよう溶接パスP(i,j)のパス間温度T(i,j)が設定温度Ts以下になるのを待つと、積層造形物100の製造に時間がかかる。そこで、軌道データ変更部46は、パス間温度が設定温度Tsよりも低い溶接パスを探索し、現在着目している溶接パスP(i,j)に代えて、この探索された溶接パスの溶接を先に行うよう軌道データを変更する。
【0121】
即ち、この場合、
図12-2に示すように、軌道データ変更部46は、まず、探索した溶接パスを溶接した後に元の溶接パスP(i,j)に戻ることができるように、このときのインデックスi,jをメモリに書き込む(ステップ381)。
【0122】
次に、軌道データ変更部46は、積層領域140のインデックスiに1を加算する(ステップ382)。つまり、次の積層領域140に着目する。
【0123】
これにより、軌道データ変更部46は、積層領域140のインデックスiが積層領域140の個数Nを超えたかどうかを判定する(ステップ383)。
【0124】
積層領域140のインデックスiが積層領域140の個数Nを超えていないと判定すれば、軌道データ変更部46は、溶接パスのインデックスjを1に設定する(ステップ384)。
【0125】
次いで、軌道データ変更部46は、追加済フラグG(i,j)がONであるかどうかを判定する(ステップ385)。
図12-2の処理が既に実行されて、インデックスiの積層領域140内に軌道データに追加済の溶接パスが存在する可能性があるため、このような判定を行っている。
【0126】
追加済フラグG(i,j)がONであると判定すれば、つまり、溶接パスP(i,j)が軌道データに追加済みであると判定すれば、軌道データ変更部46は、溶接パスのインデックスjに1を加算する(ステップ386)。つまり、同じ積層領域140内の次の溶接パスに着目する。
【0127】
これにより、軌道データ変更部46は、溶接パスのインデックスjが溶接パスの個数Mを超えたかどうかを判定する(ステップ387)。
【0128】
溶接パスのインデックスjが溶接パス数の個数Mを超えていないと判定すれば、軌道データ変更部46は、処理をステップ385に戻す。
【0129】
ステップ385で追加済フラグG(i,j)がONでないと判定すれば、つまり、溶接パスP(i,j)が軌道データに追加済みでないと判定すれば、軌道データ変更部46は、溶接パスP(i,j)のパス間温度T(i,j)を溶接条件に基づくシミュレーションにより算出する(ステップ388)。そして、パス間温度T(i,j)が予め定められた設定温度Tsよりも高いかどうかを判定する(ステップ389)。
【0130】
その結果、パス間温度T(i,j)が設定温度Tsよりも高いと判定したとする。この場合は、溶接パスP(i,j)の溶接を行うとビードの形状が崩れる等の問題が発生する虞があるので、軌道データ変更部46は、次の積層領域140からパス間温度が設定温度Tsよりも低い溶接パスを探索するために、処理をステップ382に戻す。また、ステップ387で溶接パスのインデックスjが溶接パスの個数Mを超えたと判定した場合も、軌道データ変更部46は、次の積層領域140からパス間温度が設定温度Tsよりも低い溶接パスを探索するために、処理をステップ382に戻す。
【0131】
一方、ステップ389でパス間温度T(i,j)が設定温度Tsよりも低いと判定したとする。この場合は、溶接パスP(i,j)の溶接を行ってもビード形状が崩れる等の問題は発生しないので、軌道データ変更部46は、溶接パスP(i,j)を軌道データに次に溶接すべきパスとして追加する(ステップ390)。そして、追加済フラグG(i,j)をONに設定する(ステップ391)。
【0132】
その後、軌道データ変更部46は、ステップ381でメモリに書き込んだインデックスi,jを読み出し(ステップ392)、処理を
図12-1のステップ364に戻す。
【0133】
また、ステップ383で積層領域140のインデックスiが積層領域140の個数Nを超えたと判定した場合も、軌道データ変更部46は、ステップ381でメモリに書き込んだインデックスi,jを読み出し(ステップ392)、処理を
図12-1のステップ364に戻す。
【0134】
(制御盤の動作)
制御盤50では、まず、制御プログラム取得部61が、記録媒体70から制御プログラムを取得して制御プログラム記憶部62に記憶する。この状態で、溶接ロボット10を用いて実際に積層造形物100の製造を行う際には、制御プログラム実行部64が制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出してこれを実行する。
【0135】
[本実施の形態の効果]
以上述べたように、本実施の形態では、アークを用いて溶加材を溶融及び固化してなるビードを母材上に複数重ねた積層体を含む造形物を製造する際に、ある積層体を構成するビードを形成した後、その積層体を構成する次のビードを形成する箇所の温度が予め定められた設定温度以上であった場合に、そのビードの形成に代えて、別の積層体を構成するビードの形成を行うようにした。これにより、造形物の製造に要する時間を長くすることなく、ビード形状が崩れる等の問題の発生を抑えることができるようになった。
【符号の説明】
【0136】
1…金属積層造形システム、10…溶接ロボット、20…CAD装置、30…積層計画装置、41…CADデータ取得部、42…CADデータ分割部、43…領域設定部、44…軌道データ生成部、45…溶接条件生成部、46…軌道データ変更部、47…制御プログラム生成部、48…制御プログラム出力部、50…制御盤、61…制御プログラム取得部、62…制御プログラム記憶部、63…温度データ受信部、64…制御プログラム実行部、70…記録媒体