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特許7144374トランジションピースの製造方法およびトランジションピース
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】トランジションピースの製造方法およびトランジションピース
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/20 20210101AFI20220921BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20220921BHJP
   B23K 26/342 20140101ALI20220921BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20220921BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20220921BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220921BHJP
【FI】
B22F10/20
B22F3/16
B23K26/342
B33Y50/02
B33Y80/00
B33Y70/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019139095
(22)【出願日】2019-07-29
(65)【公開番号】P2021021119
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2021-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 裕加里
(72)【発明者】
【氏名】平野 聖
(72)【発明者】
【氏名】清時 芳久
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-341508(JP,A)
【文献】特開2015-183288(JP,A)
【文献】特開昭61-095802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F1/00-B22F12/90
B23K26/34
B33Y50/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の溶接対象材と同じ組成を有する一方の端部と、他方の溶接対象材と同じ組成を有する他方の端部と、前記一方の端部と前記他方の端部との間に形成され、かつ中央に近づくにつれて前記一方の端部の組成と前記他方の端部の組成とが等しくなっている中間層と、を有するトランジションピースを製造する方法であり
記中間層を積層造形法で形成するものであり、
前記一方の端部として前記一方の溶接対象材と同じ組成を有する第1のピース材を用い、前記他方の端部として前記他方の溶接対象材と同じ組成を有する第2のピース材を用い、前記第1のピース材の上に積層造形法で前記中間層を形成し、形成した前記中間層の上に前記第2のピース材を接合することを特徴とするトランジションピースの製造方法。
【請求項2】
一方の溶接対象材と同じ組成を有する一方の端部と、他方の溶接対象材と同じ組成を有する他方の端部と、前記一方の端部と前記他方の端部との間に形成され、かつ中央に近づくにつれて前記一方の端部の組成と前記他方の端部の組成とが等しくなっている中間層と、を有するトランジションピースを製造する方法であり、
前記他方の端部および前記中間層を積層造形法で形成し、
前記一方の端部として前記一方の溶接対象材と同じ組成を有する第1のピース材を用い、前記第1のピース材の上に積層造形法で前記中間層および前記他方の端部の順に形成することを特徴とするトランジションピースの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記中間層が、前記一方の端部から前記他方の端部に向けて連続的に組成を変化させているか、または、前記一方の端部から前記他方の端部に向けて段階的に組成を変化させかつ組成の異なる層を少なくとも4層以上設けていることを特徴とするトランジションピースの製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、
前記一方の端部がステンレス鋼と同じ組成を有し、前記他方の端部が炭素鋼合金鋼またはNi基合金と同じ組成を有することを特徴とするトランジションピースの製造方法。
【請求項5】
請求項において、
前記合金鋼と同じ組成が、JISに規定された高温高圧用鋳鋼品の組成、配管用合金鋼鋼管の組成、機械構造用合金鋼鋼材の組成、高温圧力容器用合金鋼鍛鋼品の組成、Fe基合金の組成、またはこれらの中のいずれか1種にMo、W、Nb、V、Cr、Taのうちの少なくとも1種を添加した合金の組成であることを特徴とするトランジションピースの製造方法。
【請求項6】
請求項1または請求項2において、
前記トランジションピースが中空材であり、口径が700mm以下、外径が711.2mm以下および管の肉厚が64.2mm以下のうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とするトランジションピースの製造方法。
【請求項7】
請求項において、
前記中間層と前記第2のピース材との接合をレーザ出力1000W~2000W、粉末供給量0.05g/min~0.5g/minの条件で行うことを特徴とするトランジションピースの製造方法。
【請求項8】
請求項1または請求項2において、
製造した前記トランジションピースの前記一方の端部および前記他方の端部のうちの少なくとも一方について、口径、厚さおよび開先形状のうちの少なくとも一つを調整することを特徴とするトランジションピースの製造方法。
【請求項9】
一方の溶接対象材と同じ組成を有する一方の端部と、他方の溶接対象材と同じ組成を有する他方の端部と、前記一方の端部と前記他方の端部との間に形成され、かつ中央に近づくにつれて前記一方の端部の組成と前記他方の端部の組成とが等しくなっている中間層と、を有し、
前記中間層が、前記一方の端部から前記他方の端部に向けて連続的に組成を変化させているか、または、前記一方の端部から前記他方の端部に向けて段階的に組成を変化させかつ組成の異なる層を少なくとも4層以上設けており、
前記一方の端部が、前記一方の溶接対象材と同じ組成を有する第1のピース材であり、
前記他方の端部が、前記他方の溶接対象材と同じ組成を有する第2のピース材である
ことを特徴とするトランジションピース。
【請求項10】
一方の溶接対象材と同じ組成を有する一方の端部と、他方の溶接対象材と同じ組成を有する他方の端部と、前記一方の端部と前記他方の端部との間に形成され、かつ中央に近づくにつれて前記一方の端部の組成と前記他方の端部の組成とが等しくなっている中間層と、を有し、
前記中間層が、前記一方の端部から前記他方の端部に向けて連続的に組成を変化させているか、または、前記一方の端部から前記他方の端部に向けて段階的に組成を変化させかつ組成の異なる層を少なくとも4層以上設けており、
前記一方の端部として前記一方の溶接対象材と同じ組成を有する第1のピース材である
ことを特徴とするトランジションピース。
【請求項11】
請求項9または請求項10において、
前記一方の端部がステンレス鋼と同じ組成を有し、前記他方の端部が炭素鋼合金鋼またはNi基合金と同じ組成を有することを特徴とするトランジションピース。
【請求項12】
請求項1において、
前記合金鋼と同じ組成が、JISに規定された高温高圧用鋳鋼品の組成、配管用合金鋼鋼管の組成、機械構造用合金鋼鋼材の組成、高温圧力容器用合金鋼鍛鋼品の組成、Fe基合金の組成、またはこれらの中のいずれか1種にMo、W、Nb、V、Cr、Taのうちの少なくとも1種を添加した合金の組成であることを特徴とするトランジションピース。
【請求項13】
請求項9または請求項10において、
前記トランジションピースが中空材であり、口径が700mm以下、外径が711.2mm以下および壁部の肉厚が64.2mm以下のうちの少なくとも1つを満たすことを特徴とするトランジションピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランジションピースの製造方法およびトランジションピースに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電プラントや火力発電プラントなどにおいて、例えば、炭素鋼と合金鋼という異種の金属からなる配管同士を溶接して繋げることがある。この溶接は、異種金属溶接と呼ばれており、プラント設備において重要な技術となっている。
【0003】
しかし、異種金属溶接を行うと、冷却されて溶融状態から固体状態となる際に炭化物やホウ化物などの種々の化合物を含む化合物相が形成される。化合物相は接触する流体などによって選択的に腐食・侵食されるため、頻繁な点検補修作業が必要になる。また、異種金属溶接においては、溶接金属が母材の溶け込みにより希釈されるため、合金元素が変化する。この変化に伴って炭素鋼や合金鋼の成分が希釈され、オーステナイト系溶接金属の割れや炭素鋼側溶接境界部における成分遷移層などが発生することが判っている(なお、発生した成分遷移層も割れの原因となる)。異種金属溶接を行うにあたってこれらの問題に対応するためには希釈を小さくかつ均一にすることが有効であり、低電流・低速度で溶接施工することが要求されている。
【0004】
また、異種金属溶接によるこれらの問題、特に、例えば、前述した腐食に対処する技術が特許文献1に提案されている。特許文献1は、原子力発電プラントや火力発電プラントなどに使用される弁座(摺動または接触部の部品)を備えた弁に関するものであり、以下の内容が記載されている。
【0005】
特許文献1には、具体的には、弁体および弁箱を備え、両者が摺動する面にそれぞれ弁座を有する弁において、それぞれの前記弁座がCo基、Ni基、Fe基から選ばれた少なくとも1種であり、弁座の表層が、等軸晶からなる基地部と粒径100μm以下の粒状または塊状の共晶化合物が分散した合金で形成されていることを特徴とする弁が記載されている。そして、特許文献1には、前記弁は、弁体と弁箱とに接合された弁座が表面硬化肉盛材により形成され、前記弁座表面に摩擦攪拌プロセスを行い、表面肉盛材を溶融もしくは半溶融させた後に冷却して形成させたものである旨記載されている。
【0006】
特許文献1に記載の弁は、表面肉盛材に対して摩擦攪拌プロセスを施すことによって弁座表層の金属組織が等軸晶となり、同時に基地間隙に晶出する共晶炭化物などの化合物相も粒状または塊状に分散する。そのため、特許文献1に記載の弁は、共晶炭化物などの化合物相の選択的かつ連続的な腐食損傷およびエロージョン損傷の連続進行を抑制し、同時に弁類の摺動部における摩擦抵抗の増加や弁座面などの荒れによる耐漏洩性能の低下も抑制することができるとともに耐衝撃性・保守性能に優れたものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-214682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
原子力発電プラントや火力発電プラントなどにおける異種金属溶接に特許文献1に記載されている技術を適用しようとした場合、表面肉盛材に対して摩擦攪拌プロセスを施してから異種金属溶接を行うことが必要となるため、異種金属溶接を容易に行うことができないという問題がある。異種金属溶接を容易に行うことを考えた場合、異種の金属からなる一方の溶接対象材と他方の溶接対象材との間に、一方の溶接対象材と同等の組成を有する一方の端部と、他方の溶接対象材と同等の組成を有する他方の端部と、一方の端部および他方の端部の間において組成が段階的に変化した複数層からなる中間層と、を有するトランジションピースを配置して溶接することが考えられる。なお、トランジションピースはバタリングピースともいう。
【0009】
しかしながら、そのようなトランジションピースを用いる場合、組成の異なる層を一層形成するごとにひびの有無などを確認するための浸透探傷検査(PT検査)が必要であり、トランジションピースを得ることは困難な状況にある。
【0010】
さらに、異種金属溶接では溶接の際に溶接棒を使用するので、トランジションピースの口径・厚さ・長さや形状などに制限がある。そのため、例えば、一方の溶接対象材と他方の溶接対象材との間が狭隘な場合など、異種金属溶接が行われる溶接対象材の設置環境によっては、トランジションピースを使用できるように溶接対象材側を切削するなどする必要があった。
【0011】
本発明は前記状況に鑑みてなされたものであり、長さや形状などの調節の自由度が高く、異種金属溶接を容易に行うことができ、さらに製造が容易なトランジションピースの製造方法およびトランジションピースを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前記課題を解決するため鋭意研究開発した結果、レーザ積層造形法の特性を活かし、中間層の形成時に入熱量および組成を変化させることにより、溶け込み量および溶接後における金属組成の制御が安定するだけなく、口径・厚さ・開先形状がピースの出入口にて異なるトランジションピースを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
前記課題を解決した本発明に係るトランジションピースの製造方法は、一方の溶接対象材と同じ組成を有する一方の端部と、他方の溶接対象材と同じ組成を有する他方の端部と、前記一方の端部と前記他方の端部との間に形成され、かつ中央に近づくにつれて前記一方の端部の組成と前記他方の端部の組成とが等しくなっている中間層と、を有するトランジションピースを製造する方法であり、前記中間層を積層造形法で形成するものであり、前記一方の端部として前記一方の溶接対象材と同じ組成を有する第1のピース材を用い、前記他方の端部として前記他方の溶接対象材と同じ組成を有する第2のピース材を用い、前記第1のピース材の上に積層造形法で前記中間層を形成し、形成した前記中間層の上に前記第2のピース材を接合する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、長さや形状などの調節の自由度が高く、異種金属溶接を容易に行うことができ、さらに製造が容易なトランジションピースの製造方法およびトランジションピースを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本製造方法の製造対象となるトランジションピースの一構成例を説明する概略図である。
図2A】積層造形法としてレーザ粉体肉盛法(Laser Metal Deposition;LMD)を適用して中空材のトランジションピースを製造する様子を説明する概略図である。
図2B】積層造形法としてLMDを適用して中実材のトランジションピースを製造する様子を説明する概略図である。
図3A】LMDでトランジションピースを製造する際の一実施形態を説明するフローチャートである。
図3B】LMDでトランジションピースを製造する際の他の実施形態を説明するフローチャートである。
図3C】LMDでトランジションピースを製造する際の他の実施形態を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において参照する図面は、実施形態を概略的に示したものであるため、各部材のスケールや間隔、位置関係などが誇張、変形、または、部材の一部の図示が省略されている場合がある。また、模式図において、各部材のスケールや間隔が一致しない場合もある。なお、以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明はこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
本明細書に記載される「~」は、その前後に記載される数値を下限値および上限値として有する意味で使用する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された下限値または上限値は、他の段階的に記載されている下限値または上限値に置き換えてもよい。
【0017】
[トランジションピースの製造方法]
はじめに、本実施形態に係るトランジションピースの製造方法(以下、「本製造方法」ということがある)について説明する。なお、本実施形態で製造するトランジションピースは、異種金属溶接を行う際に、一方の溶接対象材と他方の溶接対象材との間に配置される。そして、本トランジションピースは、トランジションピース中の一方の端部と一方の溶接対象材とを溶接し、トランジションピース中の他方の端部と他方の溶接対象材とを溶接し、これらを一体とするために用いられる。
【0018】
ここで、本製造方法の製造対象となるトランジションピースの構成について簡単に説明する。図1は、本製造方法の製造対象となるトランジションピース1の一構成例を説明する概略図である。
図1に示すように、トランジションピース1は、一方の溶接対象材と同じ組成を有する一方の端部2(本明細書においてはこれを「母材」ということがある)を有する。また、トランジションピース1は、他方の溶接対象材と同じ組成を有する他方の端部3(本明細書においてはこれを「相手材」ということがある)を有する。さらに、トランジションピース1は、一方の端部2と他方の端部3との間に形成され、かつ中央に近づくにつれて一方の端部2の組成と他方の端部3の組成とが等しくなっている中間層4を有する。そして、本製造方法は、一方の端部2、他方の端部3および中間層4のうち少なくとも中間層4を積層造形法で形成する。
【0019】
前記したようにすると、一方の端部2および他方の端部3が、それぞれの溶接対象材と組成が同じであるので、これらの溶接に起因する割れを生じ難くすることができる。また、前記した中間層4が形成されているので、異種金属溶接を行っても炭化物やホウ化物などの種々の化合物を含む化合物相が形成され難い。そのため、腐食や割れなどが生じ難い。
【0020】
ここで、積層造形法とは、3Dプリンタを用いて任意の形状の造形物を作る方法をいう。金属の粉末を用いた積層造形法には、粉末の供給方法としてパウダーベッド(PB)法とパウダーデポジション(PD)法とがあり、本実施形態ではこれらのいずれも用いることができる。また、金属の粉末を用いた積層造形法には、溶融光源としてレーザ光を用いるものと電子ビームを用いるものとがあり、本実施形態ではこれらのいずれも用いることができる。例えば、PB法では、材料供給用ローラで金属の粉末を広げ、レーザ光や電子ビームを照射して溶融、焼結する。その後、台が下がり、金属の粉末の組成を任意に変更しつつ再び同じ工程を繰り返すことで、金属の粉末の中に埋まるようにして成形体(トランジションピース1)を製造する。また、例えば、PD法では、金属の粉末をノズルから供給しつつ(この際、金属の粉末の組成を任意に変更する)、そこにレーザ光を照射して金属の粉末を溶融、焼結させて成形体(トランジションピース1)を製造する。なお、3Dプリンタは金属の粉末を用いて積層造形を行うことのできるものであればどのようなものも用いることができる。本実施形態で用いることのできる積層造形法は、好適には、PB法の一例として選択的レーザ溶融法(Selective Laser Melting;SLM)が挙げられ、PD法の一例としてレーザ粉体肉盛法(Laser Metal Deposition;LMD)が挙げられるが、これらに限定されない。いずれの積層造形法であっても、前記したようにして、少なくとも中間層4を形成できる(所望により一方の端部2および他方の端部3も形成できる)。
【0021】
ここで、積層造形法としてLMDを適用した場合を例に挙げてトランジションピース1を製造する一実施形態について説明する。参照する図面において、図2Aは、積層造形法としてLMDを適用して中空材のトランジションピース1aを製造する様子を説明する概略図である。図2Bは、積層造形法としてLMDを適用して中実材のトランジションピース1bを製造する様子を説明する概略図である。図2Aおよび図2Bはともに、母材として第1のピース材2aを用い、この第1のピース材2aの上に少なくとも中間層4を形成する様子を図示している。そして、図3Aは、LMDでトランジションピース1を製造する際の一実施形態を説明するフローチャートである。図3Bは、LMDでトランジションピース1を製造する際の他の実施形態を説明するフローチャートである。図3Cは、LMDでトランジションピース1を製造する際の他の実施形態を説明するフローチャートである。なお、本明細書において中空材とは、一方の端部2と他方の端部3とが連通する空洞部を有する管状の部材をいい、中実材とは、内部に空洞部を有しない部材をいう。
【0022】
図2Aおよび図2Bに示すように、母材(第1のピース材2a)の上に金属の粉末をノズル5から供給しつつ(この際、金属の粉末の組成を任意に変更する)、そこにレーザ光6を照射して金属の粉末を溶融、焼結させる。このようにして少なくとも中間層4を形成し、成形体(トランジションピース1、1a、1b)を製造する。中間層4は、ノズル5から金属の粉末が排出され、かつ、レーザ光6が照射される母材上のスポットのみに形成される。従って、レーザ光6のスポットよりも広い領域に中間層4を形成する場合は、その全領域をカバーするようにノズル5およびレーザ光6のスポットを移動させながら、ノズル5から排出される粉末をレーザ光6で溶融し、堆積させる。形成される中間層4の厚みは、ノズル5から排出される金属の粉末の量やノズル5の移動速度などを制御することにより調節することができる。なお、溶融し、凝固する際における金属の粉末の温度は、レーザ光6の強度などを制御することにより調節することができる。
【0023】
図2Aおよび図2Bに示すトランジションピース1a、1bの製造は、例えば、一方の端部2として、一方の溶接対象材と同じ組成を有する第1のピース材2aを用い、他方の端部3として、他方の溶接対象材と同じ組成を有する第2のピース材(図示せず)を用いる。そして、第1のピース材2aの上に積層造形法で中間層4を形成し、形成した中間層4の上に第2のピース材を接合する。なお、第1のピース材2aおよび第2のピース材はそれぞれ任意の形状で予め作製しておくことが好ましい。
【0024】
この態様は、例えば、図3Aに示すように、土台となる母材(一方の端部2、第1のピース材2a)の上に前記母材と同じ組成を有する金属の粉末(母材粉末)を積層し、同時にレーザ光6を照射してこれを溶融させた後、凝固させて層を形成する(ステップS11)。
次いで、ステップS11で形成した層の上に金属の粉末を積層し、同時にレーザ光6を照射してこれを溶融させた後、凝固させて層(中間層4)を形成する(ステップS12)。なお、この金属の粉末を積層させる際に、金属の粉末の組成を任意に変更することができ、本実施形態においては、連続的(直線的に)または段階的に他方の端部3の組成となるように変化させる。
そして、要求分の層が形成できているか判定し、層が形成できていない場合(ステップS13で“NO”)はステップS12に戻って層の形成を継続する。一方、層が形成できている場合(ステップS13で“YES”)はステップS14に進む。要求分の層が形成できているか否かの判定は、例えば、形成した層の組成が予め設定した設定値に達しているか否かを混合比率などから導き出して確認することが挙げられる。
そして、ステップS14では、ステップS12で形成した層の上に相手材(他方の端部2(第2のピース材))を接合させる。なお、ステップS14の接合は溶接で行うことが好ましい。
【0025】
その他の態様として、本製造方法は、例えば、一方の端部2、中間層4および他方の端部3の順に全て積層造形法で形成することができる。
【0026】
この態様の場合、例えば、図3Bに示すように、土台の上に母材粉末を積層し、同時にレーザ光6を照射してこれを溶融させた後、凝固させて層を形成する(ステップS21)。ステップS21は、母材粉末のみで積層を行い、前記した一方の端部2を形成する。
次いで、要求分の層が形成できているか判定し、層が形成できていない場合(ステップS22で“NO”)はステップS21に戻って層の形成を継続する。一方、層が形成できている場合(ステップS22で“YES”)はステップS23に進む。要求分の層が形成できているか否かの判定は、例えば、形成した層の寸法や形成に要した時間などが予め設定した設定値に達しているか否かを確認することが挙げられる。
【0027】
そして、ステップS23では、ステップS21で形成した層(母材の層)の上に金属の粉末を積層し、同時にレーザ光6を照射してこれを溶融させた後、凝固させて層(中間層4)を形成する。なお、土台となる母材の層の上に金属の粉末を積層させる際に、金属の粉末の組成を任意に変更することができ、本実施形態においては、連続的(直線的に)または段階的に他方の端部3の組成となるように変化させる。
そして、要求分の層が形成できているか判定し、層が形成できていない場合(ステップS24で“NO”)はステップS23に戻って層の形成を継続する。一方、層が形成できている場合(ステップS24で“YES”)はステップS25に進む。要求分の層が形成できているか否かの判定は、例えば、形成した層の組成が予め設定した設定値に達しているか否かを混合比率などから導き出して確認することが挙げられる。
【0028】
そして、ステップS25では、ステップS23で形成した層の上に相手材(他方の端部2)を形成するための粉末(相手材粉末)を積層し、同時にレーザ光6を照射してこれを溶融させた後、凝固させて層(相手材の層、他方の端部2)を形成する。ステップS25は、相手材粉末のみで積層を行い、前記した他方の端部3を形成する。
次いで、要求分の層が形成できているか判定し、層が形成できていない場合(ステップS26で“NO”)はステップS25に戻って層の形成を継続する。一方、層が形成できている場合(ステップS26で“YES”)は製造を終了する。要求分の層が形成できているか否かの判定は、例えば、形成した層の寸法や形成に要した時間などが予め設定した設定値に達しているか否かを確認することが挙げられる。
【0029】
また、さらにその他の態様として、本製造方法は、例えば、一方の端部2として、一方の溶接対象材と同じ組成を有する第1のピース材2aを用い、第1のピース材2aの上に積層造形法で中間層4および他方の端部3の順に形成することができる。
【0030】
この態様の場合、例えば、図3Cに示すように、土台となる母材(一方の端部2、第1のピース材2a)の上に母材粉末を積層し、同時にレーザ光6を照射してこれを溶融させた後、凝固させて層を形成する(ステップS31)。
【0031】
次いで、ステップS31で形成した層の上に金属の粉末を積層し、同時にレーザ光6を照射してこれを溶融させた後、凝固させて層(中間層4)を形成する(ステップS32)。なお、この金属の粉末を積層させる際に、金属の粉末の組成を任意に変更することができ、本実施形態においては、連続的(直線的に)または段階的に他方の端部3の組成となるように変化させる。
そして、要求分の層が形成できているか判定し、層が形成できていない場合(ステップS33で“NO”)はステップS32に戻って層の形成を継続する。一方、層が形成できている場合(ステップS33で“YES”)はステップS34に進む。要求分の層が形成できているか否かの判定は、例えば、形成した層の組成が予め設定した設定値に達しているか否かを混合比率などから導き出して確認することが挙げられる。
【0032】
そして、ステップS34では、ステップS32で形成した層の上に相手材(他方の端部2)を形成するための粉末(相手材粉末)を積層し、同時にレーザ光6を照射してこれを溶融させた後、凝固させて層(相手材の層(他方の端部2))を形成する。ステップS34は、相手材粉末のみで積層を行い、前記した他方の端部2を形成する。
次いで、要求分の層が形成できているか判定し、層が形成できていない場合(ステップS35で“NO”)はステップS34に戻って層の形成を継続する。一方、層が形成できている場合(ステップS35で“YES”)は製造を終了する。要求分の層が形成できているか否かの判定は、例えば、形成した層の寸法や形成に要した時間などが予め設定した設定値に達しているか否かを確認することが挙げられる。
【0033】
なお、図3Cに示す態様は、第1のピース材2aに替えて第2のピース材を用い、第2のピース材の上に積層造形法で中間層4および一方の端部2の順に形成することができる。
【0034】
ここで、本実施形態においては、前記した中間層4は、一方の端部2から他方の端部3に向けて連続的(直線的に)に組成を変化させているか、または、一方の端部2から他方の端部3に向けて段階的に組成を変化させかつ組成の異なる層を少なくとも4層以上設けていることが好ましい。このようにすると、異種金属溶接によって、炭素鋼/ステンレス鋼または合金鋼/ステンレス鋼から、ステンレス鋼/ステンレス鋼へと冶金的変化が生じる際に、層数が多いほど(より好ましくは組成が連続的に変化していると)そのような冶金的変化が緩やかになるので、使用条件が厳しい箇所に適用できる。例えば、組成の異なる層を4層積層して中間層4を形成する場合、一方の端部2(母材100%)側から順に、第1層目の組成が母材80%:相手材20%、第2層目の組成が母材60%:相手材40%、第3層目の組成が母材40%:相手材60%、第4層目の組成が母材20%:相手材80%とすることができる。なお、低グレード品や使用要求によっては、中間層4は一層のみとすることもできる。
【0035】
本実施形態においては、例えば、トランジションピース1における一方の端部2がステンレス鋼と同じ組成を有し、他方の端部3が炭素鋼または合金鋼と同じ組成を有することが好ましい。このようにすると、原子力発電プラントや火力発電プラントなどにおいて最も多用される異種金属溶接に適切に対応できる。
【0036】
そして、本実施形態においては、前記した合金鋼と同じ組成が、JISに規定された高温高圧用鋳鋼品の組成、配管用合金鋼鋼管の組成、機械構造用合金鋼鋼材の組成、高温圧力容器用合金鋼鍛鋼品の組成、Ni基・Fe基合金の組成、またはこれらの中のいずれか1種にMo、W、Nb、V、Cr、Taのうちの少なくとも1種を添加した合金の組成であることが好ましい。このようにすると、原子力発電プラントや火力発電プラントなどにおいて最も多用される異種金属溶接により適切に対応できる。
【0037】
本実施形態においては、トランジションピース1が中空材である場合は、口径が700mm(700A)以下、外径が711.2mm以下および管の肉厚が64.2mm(Sch160)以下のうちの少なくとも1つを満たすことが好ましい。このようにすると、原子力発電プラントや火力発電プラントなどにおいて最も多用される異種金属溶接にさらに適切に対応できる。
【0038】
本実施形態においては、中間層4と第2のピース材(他方の端部)との接合をレーザ出力1000W~2000W、粉末供給量0.05g/min~0.5g/minの条件で形成することが好ましい。中間層4と第2のピース材とを接合するときのレーザ光6の強度や金属の粉末の供給量は、金属の粉末の組成に大きく依存しており、溶接時の高温割れや低温割れを防ぐためには、接合時に形成される溶接金属がオーステナイトに少量のフェライトを含む組成(金属組織)となることが好ましい。本実施形態のように、中間層と第2のピース材との接合を前記条件で行うと、これらの接合時に形成される溶接金属がオーステナイトに少量のフェライトを含む組成となり易い。
【0039】
積層造形法は一般的に成形体の形状の自由度が高く、複雑な形状を形成することができる。また、前述したように、第1のピース材2aおよび第2のピース材を予め任意の形状で形成しておく場合は、中間層4のみを積層造形法で形成すればよい。そのため、積層造形法を適用し製造したトランジションピース1はそのまま異種金属溶接に用いることが可能である。しかし、このようにして製造したトランジションピース1の一方の端部2および他方の端部3のうちの少なくとも一方について、必要に応じて口径、厚さおよび開先形状のうちの少なくとも一つを調整することができる。このようにすると、異種金属溶接をさらにより適切に行うことができる。
【0040】
以上に説明したように、本実施形態ではトランジションピース1を製造するにあたって、少なくとも中間層4を積層造形法で形成するので、長さや形状などを高い自由度をもって任意に調節できるだけでなく、製造も容易となる。また、母材粉末と相手材粉末との混合比を自由に調節できるので、中間層4を段階的に設ける場合はその積層数や一層あたりの寸法も自由に調節できる。さらに、積層造形法の特性を生かし、中間層4を細かく段階的な組成で形成することができる。そのため、組成変化がより緩やかになるうえ、組成の選択性を広げることができる。結果的に、本製造方法で製造されたトランジションピース1を用いることにより、異種金属溶接を作業員の力量によらずに行うことができるようになり、また、作業の簡略化および負担を低減することもできる。
【0041】
[トランジションピース1]
次に、本実施形態に係るトランジションピース1について具体的に説明する。トランジションピース1は、前述した本製造方法によって好適に製造できる。トランジションピース1について既に詳述している構成要素については説明を省略することがある。
【0042】
図1を参照して前述したように、トランジションピース1は、一方の溶接対象材と同じ組成を有する一方の端部2と、他方の溶接対象材と同じ組成を有する他方の端部2と、を有している。そして、トランジションピース1は、前記した一方の端部2と前記した他方の端部3との間に形成された中間層4を有している。この中間層4は、中央に近づくにつれて前記した一方の端部2の組成と前記した他方の端部3の組成とが等しくなるように形成されている。そして、この中間層4は、前記した一方の端部2から前記した他方の端部3に向けて連続的に組成を変化させているか、または、前記した一方の端部2から前記した他方の端部3に向けて段階的に組成を変化させかつ組成の異なる層を少なくとも4層以上設けている。
【0043】
本実施形態に係るトランジションピース1は、一方の端部2がステンレス鋼と同じ組成を有し、他方の端部3が炭素鋼または合金鋼と同じ組成を有することが好ましい。また、本実施形態に係るトランジションピース1は、前記した合金鋼と同じ組成が、JISに規定された高温高圧用鋳鋼品の組成、配管用合金鋼鋼管の組成、機械構造用合金鋼鋼材の組成、高温圧力容器用合金鋼鍛鋼品の組成、Ni基・Fe基合金の組成、またはこれらの中のいずれか1種にMo、W、Nb、V、Cr、Taのうちの少なくとも1種を添加した合金の組成であることが好ましい。さらに、本実施形態に係るトランジションピース1は中空材であり、口径が700mm(700A)以下、外径が711.2mm以下および壁部の肉厚が64.2mm(Sch160)以下のうちの少なくとも1つを満たすことが好ましい。
【0044】
以上、本発明に係るトランジションピースの製造方法およびトランジションピースについて実施形態により詳細に説明したが、本発明の主旨はこれに限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1、1a、1b トランジションピース
2 一方の端部
3 他方の端部
4 中間層
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C