(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】燃料電池触媒担体用の黒鉛化炭素多孔体、燃料電池触媒、及び燃料電池触媒層の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/88 20060101AFI20220921BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20220921BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20220921BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20220921BHJP
B01J 23/42 20060101ALI20220921BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
H01M4/88 C
H01M4/88 K
H01M4/86 B
H01M4/86 M
H01M4/96 B
H01M4/96 M
H01M4/92
B01J23/42 M
B01J37/08
(21)【出願番号】P 2019149125
(22)【出願日】2019-08-15
【審査請求日】2021-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】井元 瑠伊
(72)【発明者】
【氏名】野村 久美子
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松村 祐宏
(72)【発明者】
【氏名】北山 悟大
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸山 徳彦
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-163023(JP,A)
【文献】特開2017-117699(JP,A)
【文献】特開2006-016271(JP,A)
【文献】特開2018-030767(JP,A)
【文献】特開2016-160170(JP,A)
【文献】特開2017-199656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 4/96
B01J 23/42
B01J 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩を不活性雰囲気中において550℃~700℃で熱処理して、炭素とアルカリ土類金属炭酸塩の複合体を得ること、
前記複合体を洗浄して、前記複合体から前記アルカリ土類金属炭酸塩を除去して未黒鉛化炭素多孔体を得ること、及び
前記未黒鉛化炭素多孔体を、不活性雰囲気中において1500℃~2300℃で熱処理して、黒鉛化炭素多孔体を得ること、
を有する、燃料電池用触媒担体用の黒鉛化炭素多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記ベンゼンジカルボン酸が、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、又はこれらの組み合わせである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩が、ベンゼンジカルボン酸のカルシウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、又はこれらの組み合わせである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記黒鉛化炭素多孔体の結晶子径が、3.5nm~9.0nmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記黒鉛化炭素多孔体のメソ細孔径が、2.0nm~10.0nmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記黒鉛化炭素多孔体の電子伝導度が、18S/cm以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記黒鉛化炭素多孔体を粉砕することを更に含んでおり、粉砕後の前記黒鉛化炭素多孔体の平均一次粒子径が、0.1μm~1.5μmである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記未黒鉛化炭素多孔体を熱処理する前に粉砕することを更に含んでおり、粉砕後の前記未黒鉛化炭素多孔体の平均一次粒子径が、0.1μm~1.5μmである、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法によって得られた前記黒鉛化炭素多孔体の細孔内に、貴金属粒子を担持させることを含む、燃料電池用触媒の製造方法。
【請求項10】
前記黒鉛化炭素多孔体に担持されている貴金属粒子のうち30%以上が、前記細孔内に担持されている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記貴金属粒子の平均一次粒子径が、1.0nm~10.0nmである、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記貴金属粒子が、Pt、若しくはPt合金、又はこれらの組み合わせである、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項9~12のいずれか一項に記載の方法によって得られた燃料電池用触媒、アイオノマー、及び分散媒の混合液を得ること、並びに
基材の表面を前記混合液で被覆して乾燥させること、
を有する、燃料電池用触媒層の製造方法。
【請求項14】
前記の混合液において、前記黒鉛化炭素多孔体の質量に対する前記アイオノマーの質量の比率が0.50~1.50である、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池触媒担体用の黒鉛化炭素多孔体、燃料電池触媒、及び燃料電池触媒層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒金属を炭素担体に担持させた燃料電池用触媒が知られている。燃料電池用触媒に用いられる炭素担体としては、ケッチェンブラック等を挙げることができるが、燃料電池用触媒の性能を向上させるために、他の様々な炭素材料の燃料電池用触媒への適用も検討されている。
【0003】
現在、様々な用途に適用するために、多様な炭素材料が検討されており、同時に、それらの製造方法も検討されている。
【0004】
特許文献1は、銀アセチリドを用いて爆発法によって製造した多孔質炭素材料を開示している。同文献が開示している多孔質炭素材料は、多孔質炭素ナノ樹状体(Mesoporous Carbon Nano Dendrite : MCND)とも言及される。
【0005】
特許文献2~4は、ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩を加熱して炭素とアルカリ土類金属炭酸塩との複合体を形成し、この複合体を洗浄して炭酸塩を除去して得た炭素多孔体を開示している。
【0006】
特許文献5は、粒子径を調整した市販の多孔質炭素材料を燃料電池用触媒に使用することを開示している。
【0007】
特許文献6~8は、多孔鋳型の細孔内に炭素源を導入して炭化させた後に、多孔鋳型を溶解させて除去することにより、多孔質炭素材料を製造する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2009/075264号
【文献】特開2016-160170号公報
【文献】特開2016-160251号公報
【文献】特開2015-78110号公報
【文献】特開2018-181838号公報
【文献】特開2006-321712号公報
【文献】特開2007-137754号公報
【文献】特表2015-513449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
燃料電池用触媒には、例えば、触媒粒子とアイオノマーとの接触面積が小さいこと、耐酸化性が高いこと、及び高い電気伝導性を有すること、及び効率よく生産できること等が求められている。
【0010】
本開示者らは、このような燃料電池用触媒に用いる担体として、金属触媒を内部に担持させ、かつアイオノマーが内部に入りにくい所定の細孔径のメソ細孔を有し、かつ耐酸化性及び電気伝導性が高い炭素多孔体が適していることを知見した。
【0011】
この点に関して、特許文献2~4が開示している炭素多孔体は、安価な材料であるテレフタル酸及び炭酸カルシウムを用いるため、効率よく製造することができるが、電子伝導性が低いため、燃料電池用触媒担体として用いた場合に、抵抗過電圧が大きくなりがちである。また、その他の特許文献が開示している炭素材料についても、いずれも量産に向いていない、又は電子伝導性が低い等の課題を有している。
【0012】
本開示は、メソ細孔を有し、かつ耐酸化性及び電気伝導性が高い、燃料電池触媒担体用の炭素多孔体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
《態様1》
ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩を不活性雰囲気中において550℃~700℃で熱処理して、炭素とアルカリ土類金属炭酸塩の複合体を得ること、
前記複合体を洗浄して、前記複合体から前記アルカリ土類金属炭酸塩を除去して未黒鉛化炭素多孔体を得ること、及び
前記未黒鉛化炭素多孔体を、不活性雰囲気中において1500℃~2300℃で熱処理して、黒鉛化炭素多孔体を得ること、
を有する、燃料電池用触媒担体用の黒鉛化炭素多孔体の製造方法。
《態様2》
前記ベンゼンジカルボン酸が、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、又はこれらの組み合わせである、態様1に記載の方法。
《態様3》
前記ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩が、ベンゼンジカルボン酸のカルシウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、又はこれらの組み合わせである、態様1又は2に記載の方法。
《態様4》
前記黒鉛化炭素多孔体の結晶子径が、3.5nm~9.0nmである、態様1~3のいずれか一つに記載の方法。
《態様5》
前記黒鉛化炭素多孔体のメソ細孔径が、2.0nm~10.0nmである、態様1~4のいずれか一つに記載の方法。
《態様6》
前記黒鉛化炭素多孔体の電子伝導度が、18S/cm以上である、態様1~5のいずれか一つに記載の方法。
《態様7》
前記黒鉛化炭素多孔体を粉砕することを更に含んでおり、粉砕後の前記黒鉛化炭素多孔体の平均一次粒子径が、0.1μm~1.5μmである、態様1~6のいずれか一つに記載の方法。
《態様8》
前記未黒鉛化炭素多孔体を熱処理する前に粉砕することを更に含んでおり、粉砕後の前記未黒鉛化炭素多孔体の平均一次粒子径が、0.1μm~1.5μmである、態様1~7のいずれか一つに記載の方法。
《態様9》
態様1~8のいずれか一つに記載の方法によって得られた前記黒鉛化炭素多孔体の細孔内に、貴金属粒子を担持させることを含む、燃料電池用触媒の製造方法。
《態様10》
前記黒鉛化炭素多孔体に担持されている貴金属粒子のうち30%以上が、前記細孔内に担持されている、態様9に記載の方法。
《態様11》
前記貴金属粒子の平均一次粒子径が、1.0nm~10.0nmである、態様9又は10に記載の方法。
《態様12》
前記貴金属粒子が、Pt、若しくはPt合金、又はこれらの組み合わせである、態様9~11のいずれか一つに記載の方法。
《態様13》
態様9~12のいずれか一つに記載の方法によって得られた燃料電池用触媒、アイオノマー、及び分散媒の混合液を得ること、並びに
基材の表面を前記混合液で被覆して乾燥させること、
を有する、燃料電池用触媒層の製造方法。
《態様14》
前記の混合液において、前記黒鉛化炭素多孔体の質量に対する前記アイオノマーの質量の比率が0.50~1.50である、態様13に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、メソ細孔を有し、かつ耐酸化性及び電気伝導性が高い、燃料電池触媒担体用の黒鉛化炭素多孔体を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施例1~4、並びに比較例1及び2の燃料電池用触媒層を用いた燃料電池の電流電圧(IV)カーブを示すグラフである。
【
図2】
図2は、
図1における電流密度が0.2A/cm
2での実施例1~4、並びに比較例1及び2の燃料電池用触媒層を用いた燃料電池の電圧を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例4の燃料電池用触媒担体の透過電子顕微鏡(TEM)像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0017】
《燃料電池用触媒担体用の黒鉛化炭素多孔体の製造方法》
本開示において、燃料電池用触媒担体用の黒鉛化炭素多孔体の製造方法は、以下の工程(A)~(C)を有している:
(A)ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩を不活性雰囲気中において550℃~700℃で熱処理して、炭素とアルカリ土類金属炭酸塩の複合体を得ること、
(B)複合体を洗浄して、複合体からアルカリ土類金属炭酸塩を除去して未黒鉛化炭素多孔体を得ること、及び
(C)未黒鉛化炭素多孔体を、不活性雰囲気中で1500℃~2300℃で熱処理して、黒鉛化炭素多孔体を得ること。
【0018】
上記製造方法によれば、工程A及びBにおいて、ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩を用いて未黒鉛化炭素多孔体を製造することで、ミクロ細孔が少なく、かつ所定の大きさのメソ細孔が多い未黒鉛化炭素多孔体が得られ、そして、工程Cにおいて、この未黒鉛化炭素多孔体を熱処理して黒鉛化することにより、結晶性の高い黒鉛化炭素多孔体が得られる。
【0019】
上記製造方法により得られる黒鉛化炭素多孔体は、物理拡散性の低いミクロ細孔が少なく、かつ所定の大きさ、例えば細孔径が2nm~10nmのメソ細孔が多いため、燃料電池用触媒担体として用いた場合に、粒子径がメソ孔よりも有意に小さい、例えばナノスケールの触媒金属をメソ細孔内に担持させると共に、粒子径がメソ孔よりも有意に大きい、例えば凝集体の粒子径が数十nmのアイオノマーをメソ細孔内に入り込みにくくすることができる。これにより、触媒金属に反応ガス、具体的にはカソードガス又はアノードガスを接触しやすくすると共に、触媒金属とアイオノマーとの接触面積を低減することができ、例えばアイオノマーのスルホン酸基による触媒金属の被毒を低減することができる。
【0020】
また、この黒鉛化炭素多孔体は、黒鉛化されていることによって結晶性が高いため、耐酸化性及び電子伝導性が高い。
【0021】
更に、この黒鉛化炭素多孔体は、例えばテレフタル酸等の市場価格が低い原料を、熱処理及び洗浄等を行うことで製造することができ、高い製造効率を有している。
【0022】
〈工程A〉
工程Aは、ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩を不活性雰囲気中において550℃~700℃で熱処理して、炭素とアルカリ土類金属炭酸塩の複合体を得る工程である。
【0023】
(ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩)
ベンゼンジカルボン酸は、ベンゼン環に2つのカルボン酸基を有する芳香族炭化水素であってよく、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、又はこれらの組み合わせであってよい。
【0024】
また、ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩は、ベンゼンジカルボン酸のカルシウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩、又はこれらの組み合わせであってよい。
【0025】
工程Aに用いるベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩は、ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩をもたらす任意の方法、例えばベンゼンジカルボン酸とアルカリ土類金属の水酸化物とを水中で混合することにより合成してもよい。
【0026】
この場合、ベンゼンジカルボン酸とアルカリ土類金属の水酸化物とは、中和反応式に基づく化学量論量に従うモル比で用いてよく、又は一方が他方に対して過剰になるように用いてもよい。例えば、モル比は、1.5:1~1:1.5の範囲に設定することができる。ベンゼンカルボン酸とアルカリ土類金属の水酸化物とを水中で混合する際には、50~100℃に加熱してもよい。
【0027】
また、ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩は、市販のものを用いてもよい。
【0028】
(熱処理)
熱処理は、ベンゼンジカルボン酸のアルカリ土類金属塩を不活性雰囲気中において550℃~700℃の条件にて行う。
【0029】
不活性雰囲気は、例えば窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気等を挙げることができる。
【0030】
熱処理温度は、低すぎる場合には、細孔の形成が十分ではなく、高すぎる場合には、未黒鉛化炭素多孔体の収率が低下するため、550℃~700℃の範囲内で行われる。
【0031】
熱処理温度は、550℃以上、600℃以上、又は650℃以上であってよく、700℃以下、650℃以下、又は600℃以下であってよい。
【0032】
熱処理時間は、1時間~50時間であってよい。熱処理時間は、1時間以上、2時間以上、5時間以上、又は10時間以上であってよく、50時間以下、20時間以下、10時間以下、又は5時間以下であってよい。
【0033】
(炭素とアルカリ土類金属炭酸塩の複合体)
工程Aにおいて得られる炭素とアルカリ土類金属炭酸塩との複合体は、層状炭化物の層間にアルカリ土類金属炭酸塩が入り込んだ構造をとっていると推察される。
【0034】
〈工程B〉
工程Bは、工程Aによって得られた炭素とアルカリ土類金属炭酸塩の複合体を洗浄して、この複合体からアルカリ土類金属炭酸塩を除去して未黒鉛化炭素多孔体を得る工程である。
【0035】
この複合体の洗浄は、アルカリ土類金属炭酸塩を溶解することができる洗浄液を用いて行うことができる。例えば、アルカリ土類金属炭酸塩が炭酸カルシウムである場合には、洗浄液として水又は酸性水溶液を用いてよい。酸性水溶液としては、例えば、塩酸、硝酸、酢酸及びシュウ酸等の水溶液が挙げられる。
【0036】
こうした洗浄を行うことにより、複合体中のアルカリ土類金属炭酸塩が存在していた箇所が空洞になった未黒鉛化炭素多孔が得られると推察される。
【0037】
〈工程C〉
工程Cは、工程Bによって得られた未黒鉛化炭素多孔体を、不活性雰囲気中において1500℃~2300℃で熱処理して、黒鉛化炭素多孔体を得る工程である。
【0038】
不活性雰囲気は、例えば窒素雰囲気又はアルゴン雰囲気等を挙げることができる。
【0039】
熱処理温度は、1500℃~2300℃である。熱処理温度が低すぎる場合には、未黒鉛化炭素多孔体の黒鉛化が十分に行われず、耐酸化性及び電子伝導性が十分に高くならない。他方、熱処理温度が高すぎる場合には、製造効率が低下する。
【0040】
熱処理温度は、1500℃以上、1800℃以上、2000℃以上、又は2100℃以上であってよく、2300℃以下、2200℃以下、又は2100℃以下であってよい。
【0041】
熱処理時間は、1時間~50時間であってよい。熱処理時間は、1時間以上、2時間以上、又は5時間以上であってよく、50時間以下、20時間以下、又は10時間以下であってよい。
【0042】
工程Cにおける熱処理により得られた黒鉛化炭素多孔体は、炭素多孔体が黒鉛化された構造を有しているため高い結晶化度を有しており、それによって高い耐酸化性及び電子伝導性を有している。
【0043】
〈工程D〉
上記の燃料電池用触媒担体用の黒鉛化炭素多孔体の製造方法は、更に工程Cの後に工程Dとして、黒鉛化炭素多孔体を粉砕することを更に含んでいることができる。
【0044】
黒鉛化炭素多孔体を粉砕する方法は、黒鉛化炭素多孔体を微細化することができる任意の方法によって行うことができる。例えば、粉砕は、黒鉛化炭素多孔体に機械的なエネルギーを加えて微細化する方法により行うことができ、この方法は、湿式粉砕又は乾式粉砕であってよい。製造効率の観点及び粒子の微細化の観点から、湿式粉砕が好ましい。湿式粉砕としては、例えばビーズミルを用いた湿式粉砕を挙げることができる。
【0045】
なお、工程Dは、工程Cの後に行うことに替えて、工程Bと工程Cとの間に、工程Bにより調製された未黒鉛化炭素多孔体を粉砕してもよい。この場合における未黒鉛化炭素多孔体を粉砕する方法は、上記の黒鉛化炭素多孔体を粉砕する方法と同様である。
【0046】
工程Dによって粉砕された後の黒鉛化炭素多孔体又は未黒鉛化炭素多孔体の平均一次粒子径は、0.1μm~1.5μmであってよい。なお、この平均一次粒子径は、以下の黒鉛化炭素多孔体の平均一次粒子径に関して記載した求め方と同様の方法により求めることができる。
【0047】
〈黒鉛化炭素多孔体〉
黒鉛化炭素多孔体のメソ細孔径は、2.0nm~10.0nmであってよい。メソ細孔径が小さすぎる場合には、この黒鉛化炭素多孔体を燃料電池用触媒担体として用いた際に、細孔内に担持されている触媒金属に反応ガス、例えばアノードガス及びカソードガスが接しにくくなる。他方、メソ細孔径が大きすぎる場合、燃料電池用触媒層に使用した際に、アイオノマーと触媒金属との接触が増加してしまう。
【0048】
黒鉛化炭素多孔体のメソ細孔径は、2.0nm以上、3.0nm以上、5.0nm以上、6.0nm以上、又は6.5nm以上であってよく、10.0nm以下、9.0nm以下、8.0nm以下、7.0nm以下、又は6.5nm以下であってよい。
【0049】
黒鉛化炭素多孔体のメソ細孔径は、表面積・細孔径分析装置(Quadrasorb、カンタクローム社製)を用いて測定することができる。具体的には、試料を事前に110℃、1時間で乾燥させ、前処理として200℃、2時間で真空処理を行い、77K(-196.15℃)で測定し、BJH細孔分布(細孔径vsdV/dlogD)のピークトップから細孔径を求めることができる。
【0050】
黒鉛化炭素多孔体の結晶子径は、3.5nm~9.0nmであってよい。黒鉛化炭素多孔体の結晶子径が小さいと、耐酸化性及び電子伝導性が十分に大きくないためである。
【0051】
黒鉛化炭素多孔体の結晶子径は、3.5nm以上、4.5nm以上、5.5nm以上、又は6.0nm以上であってよく、9.0nm以下、8.0nm以下、7.0nm以下、又は6.5nm以下であってよい。
【0052】
なお、黒鉛化炭素多孔体の結晶子径は、例えばX線回折装置(RINT2500、リガク社製)を用いて、2θ=8~95°、ステップ0.04°、40kV、及び40mAの条件で測定し、37~45°付近のピークの半値幅からシェラー式を用いて算出してもよい。
【0053】
黒鉛化炭素多孔体の電子伝導度は、18S/cm以上であってよい。黒鉛化炭素多孔体の電子伝導度が十分に大きい値であることにより、燃料電池用触媒担体として用いた際に、燃料電池の抵抗過電圧を低下させることができる。
【0054】
黒鉛化炭素多孔体の電子伝導度は、18S/cm以上、19S/cm以上、又は20S/cm以上であってよい。
【0055】
なお、黒鉛化炭素多孔体の電子伝導度は、例えば粉体抵抗測定システム(MCP-PD51、株式会社三菱ケミカル製)によって、荷重12kNにおける抵抗値を測定し、その逆数として求めることができる。
【0056】
本開示の製造方法によって製造される黒鉛化炭素多孔体の平均一次粒子径は、0.1μm~1.5μmであってよい。黒鉛化炭素多孔体の平均一次粒子径がこのように十分に小さい場合には、燃料電池用触媒に用いた際に、反応ガスと金属触媒とが接触しやすくなり、濃度過電圧を低減させることができる。
【0057】
黒鉛化炭素多孔体の平均一次粒子径は、0.1μm以上、0.3μm以上、0.5μm以上、又は0.8μm以上であってよく、1.5μm以下、1.3μm以下、1.2μm以下、又は1.0μm以下であってよい。
【0058】
なお、黒鉛化炭素多孔体の平均一次粒子径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA-960、株式会社堀場製作所製)によって、メジアン径(D50)として測定することができる。
【0059】
《燃料電池用触媒の製造方法》
本開示において、燃料電池用触媒の製造方法は、上記の燃料電池用触媒担体用の黒鉛化炭素多孔体の製造方法によって得られた黒鉛化炭素多孔体の細孔内に、貴金属粒子を担持させることを含んでいる。
【0060】
〈貴金属粒子〉
貴金属粒子は、カソードガス及び/又はアノードガスの酸化還元反応を触媒することができる任意の貴金属の粒子を用いることができる。このような貴金属としては、例えばAu、Pt、Pd、若しくはRh、又はこれらの組み合わせであってよい。また、貴金属粒子は、これらの貴金属の合金、例えばNi若しくはCoとの合金、又はこれらの組み合わせであってよい。より具体的には、貴金属は、Pt、若しくはPt合金、又はこれらの組み合わせであってよい。
【0061】
黒鉛化炭素多孔体に担持されている貴金属粒子の平均一次粒子径は、1.0nm~10.0nmであってよい。貴金属粒子の平均一次粒子径は、1.0nm以上、2.0nm以上、3.0nm以上、又は5.0nm以上であってよく、10.0nm以下、9.0nm以下、7.0nm以下、又は6.0nm以下であってよい。
【0062】
なお、黒鉛化炭素多孔体に担持されている貴金属粒子の平均一次粒子径は、COパルス吸着法を用いて算出することができる。
【0063】
黒鉛化炭素多孔体に担持されている貴金属粒子のうち30%以上が、黒鉛化炭素多孔体の細孔内に担持されているのが好ましい。貴金属粒子が黒鉛化炭素多孔体の細孔内、特にメソ細孔内に担持されていることにより、燃料電池用触媒層を形成した際に、貴金属粒子とアイオノマーとの接触面積を低減することができ、これにより、例えばアイオノマーのスルホン酸基による触媒金属の被毒を低減することができる。
【0064】
黒鉛化炭素多孔体に担持されている貴金属粒子のうち黒鉛化炭素多孔体の細孔内に担持されているものの割合は、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、又は70%以上であってよく、100%以下、90%以下、80%以下、又は70%以下であってよい。
【0065】
なお、この割合は、透過電子顕微鏡(TEM、HD-2700、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)像から、黒鉛化炭素多孔体の外部及び内部に担持されている触媒金属粒子の数を測定し、内部に担持されている触媒金属粒子の数の割合として計算することができる。なお、TEM像は、加速電圧200kV、径射角360°、傾斜ステップ角2°の条件で行うことができる。
【0066】
〈担持〉
貴金属粒子を燃料電池用触媒担体としての黒鉛化炭素多孔体に担持させる方法は特に限定されず、例えば貴金属粒子が白金粒子である場合には、白金酸塩溶液を黒鉛化炭素多孔体と接触させること、還元剤によって白金酸塩を還元することを含んでもよい。白金酸塩溶液としては、例えばジニトロジアンミン白金硝酸溶液を挙げることができる。
【0067】
白金酸塩溶液を黒鉛化炭素多孔体と接触させる工程では、黒鉛化炭素多孔体を水系溶媒に分散させて、白金酸塩溶液と混合することができ、この場合、水系溶媒を酸性にすることによって白金酸塩溶液の混合の際に発生しうる沈殿の発生を抑制してもよい。
【0068】
還元剤としては、特に限定されないが、アルコール、例えばエタノールを使用することができる。還元工程においては、還元剤を添加した後に、加熱処理を行うことができる。加熱処理の条件は、還元剤の種類によって異なるが、例えばエタノールを還元剤として使用する場合には、60℃~90℃の温度で、1時間~3時間程度加熱することができる。
【0069】
還元工程の後に、白金粒子及び黒鉛化炭素多孔体を分散液から分離して、例えばろ過によって分離して、白金粒子及びそれを担持した黒鉛化炭素多孔体を得てもよい。白金粒子及びそれを担持した黒鉛化炭素多孔体を分離した後、洗浄及び/又は乾燥を行ってもよい。
【0070】
触媒金属粒子として、白金合金を使用する場合には、白金粒子及びそれを担持した黒鉛化炭素多孔体をさらに水系溶媒に分散させて、白金合金を形成する金属の酸塩溶液と接触させることを含んでもよい。例えば、白金合金を形成する金属がコバルトである場合、その酸塩溶液としては、硝酸コバルト溶液を用いることができる。この場合、還元剤によってその金属の酸塩を還元し、白金合金を形成する金属と白金とを一定程度合金化することができる。還元工程のあとに、白金合金粒子及び黒鉛化炭素多孔体を分散液から分離して、例えばろ過によって分離して、白金合金粒子及びそれを担持した黒鉛化炭素多孔体を得てもよい。白金合金粒子及びそれを担持した黒鉛化炭素多孔体を分離した後、洗浄及び/又は乾燥を行ってもよい。
【0071】
このようにして触媒金属粒子を黒鉛化炭素多孔体に担持させたあと、触媒金属粒子及びそれを担持した黒鉛化炭素多孔体を、830℃以上の温度で0.2時間以上2時間以内で熱処理を行ってもよい。この熱処理は、比較的短時間でかつ高温で行うことができる。
【0072】
この熱処理における温度は、850℃以上、880℃以上、900℃以上、又は930℃以上の温度であってもよく、その最高温度は、1100℃以下、1050℃以下、1000℃以下、980℃以下、950℃以下、930℃以下、900℃以下、又は880℃以下であってもよい。
【0073】
熱処理時の雰囲気は、不活性雰囲気下又は還元雰囲気下において行われることが好ましい。
【0074】
《燃料電池用触媒層の製造方法》
本開示において、燃料電池用触媒層の製造方法は、以下の工程(E)及び(F)を有している:
(E)上記の燃料電池用触媒の製造方法によって得られた燃料電池用触媒、アイオノマー、及び分散媒の混合液を得ること、及び
(F)基材の表面を混合液で被覆して乾燥させること。
【0075】
〈工程E〉
工程Eは、上記の燃料電池用触媒の製造方法によって得られた燃料電池用触媒及びアイオノマー、及び分散媒の混合液を得る工程である。
【0076】
(混合液)
混合液は、燃料電池用触媒、アイオノマー、及び分散媒を含んでいる。
【0077】
混合液において、燃料電池用触媒中の黒鉛化炭素多孔体の質量に対するアイオノマーの質量の比率は、0.50~1.50であってよい。燃料電池用触媒中の黒鉛化炭素多孔体の質量に対するアイオノマーの質量の比率は、0.50以上、0.70以上、0.80以上、0.90以上、1.00以上、又は1.10以上であってよく、1.50以下、1.40以下、1.30以下、又は1.20以下であってよい。
【0078】
(アイオノマー)
アイオノマーは、陽イオン交換樹脂とも称され、アイオノマー分子から形成されるクラスターとして存在する。アイオノマーとしては、当該技術分野で公知のアイオノマーを使用することができ、例えば、以下に限定されないが、パーフルオロスルホン酸樹脂材料などのフッ素樹脂系電解質や、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンなどのスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質などを使用することができる。
【0079】
(分散媒)
分散媒としては、燃料電池用触媒及びアイオノマーを分散させることができる任意の分散媒を用いることができるが、例えば水、アルコール、及びこれらの組み合わせであってよい。アルコールは、例えばエタノールであってよい。
【0080】
〈工程F〉
工程Fは、基材の表面を混合液で被覆して乾燥させる工程である。
【0081】
(基材)
基材は、燃料電池用触媒層の基材として用いることができる任意の基材であってよく、例えば剥離可能な基材、より具体的にはテフロン(登録商標)シート等、又は固体高分子電解質膜であってもよい。
【0082】
基材がテフロン(登録商標)シート等の剥離可能な基材の場合には、混合液の乾燥を乾燥させることによって調製される燃料電池用触媒層から基材を剥離させてもよい。
【0083】
(被覆)
基材の表面を混合液で被覆する方法は、基材の表面に混合液を接触させることができる任意の方法、例えば基材の表面に混合液を付着させる、塗布する、又は散布する等の方法によって行うことができるが、これらに限定されない。
【0084】
(乾燥)
基材の表面を被覆している混合液の乾燥は、混合液中の分散媒を気化させて除去することができる任意の乾燥方法、例えば送風乾燥機を使用して、通常60℃~90℃、好ましくは75℃~85℃で、通常1分間~10分間、好ましくは4分間~6分間乾燥する方法を挙げることができる。
【実施例】
【0085】
《実施例1~4、並びに比較例1及び2》
〈実施例1〉
(燃料電池用触媒担体としての黒鉛化炭素多孔体の調製)
反応容器に純水2L、水酸化カルシウム1mol、テレフタル酸1molを入れ、80℃で3時間混合してテレフタル酸カルシウム塩を調製した。調製したテレフタル酸カルシウム塩を、24時間静置した。その後、テレフタル酸カルシウム塩を濾過し、115℃で24時間乾燥し、粗粉砕した後に、窒素雰囲気下、550℃で2時間の熱処理を行い、炭化させた。炭化させたテレフタル酸カルシウム塩を酸洗浄して炭酸カルシウムを除去することにより、未黒鉛化炭素多孔体を調製した。
【0086】
調製した未黒鉛化炭素多孔体を、窒素雰囲気、2100℃で5時間加熱して黒鉛化処理することにより、黒鉛化炭素多孔体を調製した。
【0087】
調製した黒鉛化炭素多孔体を、ビーズミルを用いた湿式粉砕によって微粒子化した。
【0088】
〈燃料電池用触媒の調製〉
塩化白金酸を用いた含侵法によって、燃料電池用触媒担体としての黒鉛化炭素多孔体に触媒金属としてのPt粒子を担持させることにより、燃料電池用触媒を得た。Pt粒子の担持密度は、燃料電池用触媒に対して40質量%であった。
【0089】
なお、燃料電池用触媒担体としての黒鉛化炭素多孔体に担持されていたPt粒子の平均一次粒子径は2.2nmであった。このPt粒子の平均一次粒子径は、COパルス吸着法を用いて算出した。
【0090】
〈燃料電池用触媒層及び燃料電池の調製〉
得られた燃料電池用触媒とフッ素系アイオノマーを、分散媒としての水/エタノール中で混合して混合液としての触媒インクを得、これを基板上に塗布し、乾燥させることにより、燃料電池用触媒層を調製した。なお、炭素担体としての黒鉛化炭素多孔体の質量に対するフッ素系アイオノマーの質量の比率は、0.95であった。
【0091】
この燃料電池用触媒層をカソード触媒層として、燃料電池を調製した。
【0092】
〈実施例2〉
燃料電池用触媒層における炭素担体としての黒鉛化炭素多孔体の質量に対するフッ素系アイオノマーの質量の比率を1.15としたことを除いて、実施例1と同様にして、黒鉛化炭素多孔体、燃料電池用触媒、燃料電池用触媒層、及び燃料電池を調製した。
【0093】
〈実施例3〉
黒鉛化炭素多孔体をより微粒子化するようにして粉砕したことを除いて、実施例2と同様にして、黒鉛化炭素多孔体、燃料電池用触媒、燃料電池用触媒層、及び燃料電池を調製した。
【0094】
〈実施例4〉
ビーズミルを用いた湿式粉砕を黒鉛化処理前に行ったことを除いて、実施例2と同様にして、黒鉛化炭素多孔体、燃料電池用触媒、燃料電池用触媒層、及び燃料電池を調製した。
【0095】
〈比較例1〉
黒鉛化処理を行わなかったことを除いて、実施例2と同様にして燃料電池用触媒担体を調製した。また、燃料電池用触媒層における炭素担体としての未黒鉛化炭素多孔体の質量に対するフッ素系アイオノマーの質量の比率を0.65とした。その余の製造条件は実施例2と同様であった。
【0096】
〈比較例2〉
黒鉛化炭素多孔体の代わりに、メソ細孔を有していないアセチレンブラックを燃料電池用触媒として用いたこと、及び燃料電池用触媒層における炭素担体としての未黒鉛化炭素多孔体の質量に対するフッ素系アイオノマーの質量の比率を0.65としたことを除いて、実施例2と同様にして、燃料電池用触媒、燃料電池用触媒層、及び燃料電池を調製した。
【0097】
ここで、比較例2の燃料電池用触媒において、Pt粒子は、炭素担体としてのアセチレンブラックの表面に担持されていた。
【0098】
なお、燃料電池用触媒層における炭素担体としてのアセチレンブラックに対するフッ素系アイオノマーの質量の比率が実施例1及び2とは異なっているが、これは、燃料電池を機能させるために適切なフッ素系アイオノマーの量が燃料電池用触媒の材料等に応じて、異なるためであり、比較例1及び2における炭素担体の質量に対するフッ素系アイオノマーの質量の比率は、同例における構成の燃料電池の起電力が最も高かったものを使用している。
【0099】
《試験1:燃料電池用触媒担体の評価》
〈平均一次粒子径の測定〉
実施例1~3について、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA-960、株式会社堀場製作所製)によって、燃料電池用触媒担体としての微粒子化した黒鉛化炭素多孔体のメジアン径(D50)を平均一次粒子径(nm)として測定した。
【0100】
実施例4について、黒鉛化処理前の未黒鉛化炭素多孔体の平均一次粒子径を、実施例1~3と同様の方法で平均一次粒子径を測定した。
【0101】
比較例1について、燃料電池用触媒担体としての未黒鉛化炭素多孔体の平均一次粒子径を、実施例1~3と同様の方法で測定した。
【0102】
比較例2については、燃料電池用触媒担体としてのアセチレンブラックの平均一次粒子径を測定しなかった。
【0103】
〈細孔径の測定〉
実施例1~4及び比較例1の燃料電池用触媒担体について、表面積・細孔径分析装置(Quadrasorb、カンタクローム社製)を用いて、細孔径を測定した。具体的には、試料を事前に110℃、1時間で乾燥させ、前処理として200℃、2時間で真空処理を行い、77K(-196.15℃)で測定した。解析方法は、BJH細孔分布(細孔径vsdV/dlogD)のピークトップから細孔径(nm)を求めた。
【0104】
〈結晶化度の測定〉
実施例1及び2、並びに比較例1及び2の燃料電池用触媒担体の結晶化度(nm)を、X線回折装置(RINT2500、リガク社製)により、2θ=8~95°、ステップ0.04°、40kV、及び40mAの条件で測定し、37~45°付近のピークの半値幅からシェラー式を用いて算出した。
【0105】
〈電子伝導性の測定〉
実施例1及び2、並びに比較例1及び2の燃料電池用触媒担体それぞれ1.0gを事前に110°、12時間で乾燥させ、これを粉体抵抗測定システム(MCP-PD51、株式会社三菱ケミカル製)によって、荷重12kNにおける抵抗値を測定し、その逆数を電子伝導度(S/cm)とした。
【0106】
《試験2:燃料電池用触媒の評価》
燃料電池の温度を60℃、バブラー温度55℃(相対湿度80%RH)の条件で、燃料電池を加湿しつつ、アノード極側に水素を、カソード極側に空気を供給しつつ、電流電圧(IV)カーブを取得した。
【0107】
《試験3:燃料電池用触媒におけるPt粒子の分布の評価》
実施例4において調製した燃料電池用触媒の透過電子顕微鏡(TEM、HD-2700、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)像から、燃料電池用触媒担体としての黒鉛化炭素多孔体の外部及び内部に担持されているPt粒子の数を測定し、内部に担持されているPt粒子の数の割合を計算した。なお、TEM像は、加速電圧200kV、径射角360°、傾斜ステップ角2°の条件で得た。
【0108】
《結果》
試験1~3の結果は、以下のとおりである。なお、試験1及び2の結果を、以下の表1にまとめた。
【0109】
【0110】
表1に示すように、燃料電池用触媒担体に関する上記試験1において、実施例1~4では、平均一次粒子径0.5μm~1.1μmであり、いずれも小さかった。燃料電池用触媒担体がこのような大きさであると、触媒金属に反応ガスが接触しやすくなるため、燃料電池に使用した際に、濃度過電圧を低減させることができる。
【0111】
また、実施例1~3では、燃料電池用触媒担体のメソ細孔径はいずれも6.5nmであり、実施例4では6.0nmであり、平均一次粒子径が2.2nmである触媒金属としてのPt粒子がメソ細孔内に担持され、かつアイオノマーがメソ細孔内に入りにくい大きさを有していた。
【0112】
更に、結晶化度を測定した実施例1及び2では、いずれも結晶化度が6.5であり、燃料電池用触媒担体の結晶性が高く、電子伝導度も20S/cmであり、非常に大きい値を示した。なお、実施例3及び4では、結晶化度及び電子伝導度を測定しなかったが、実施例1及び2と同様の値となると考えられる。
【0113】
これに対して、比較例1では、結晶化度が3.2であり、燃料電池用触媒担体の結晶性が低く、電子伝導度は0.01S/cm未満であり、燃料電池用触媒担体に要求される電子伝導性を有していなかった。
【0114】
また、比較例2では、燃料電池用触媒担体がメソ細孔を有していないため、触媒金属としてのPt粒子は燃料電池用触媒担体の表面に担持されていると考えられ、アイオノマーとPt粒子との接触を十分に抑制することができないと考えられる。
【0115】
次いで、燃料電池用触媒層に関する上記試験2において、
図1及び
図2、並びに表1に示すように、実施例1~4では、いずれも電流密度に対する電圧が高く、比較例1及び2では、電流密度に対する電圧が低かった。特に、これらの例について、0.2A/cm
2の電流密度における電圧を比較したところ、実施例1~4では0.81~0.83Vであり、比較例1(0.71V)及び比較例2(0.80V)よりも高い電圧を有していた。
【0116】
次いで、燃料電池用触媒におけるPt粒子の分布の評価に関する試験3では、実施例4の燃料電池用触媒担体の透過電子顕微鏡(TEM)像を示す図である
図3に示すように、実施例4における燃料電池用触媒担体に担持されているPt粒子は、大部分が燃料電池用触媒担体の内部、すなわちメソ細孔内に担持されていた。そして、燃料電池用触媒担体の外部及び内部に担持されているPt粒子の数を測定し、内部に担持されているPt粒子の数の割合を計算したところ、70%であった。