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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】ガソリン中の硫黄成分の濃度を推定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/41 20060101AFI20220921BHJP
   F01N 3/00 20060101ALI20220921BHJP
   F01N 3/18 20060101ALI20220921BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20220921BHJP
   F01N 11/00 20060101ALI20220921BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
G01N21/41 Z
F01N3/00 G ZAB
F01N3/18 C
F01N3/20 B
F01N11/00
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019210427
(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2021081356
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(72)【発明者】
【氏名】本田 暁拡
(72)【発明者】
【氏名】深野 秀樹
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-348091(JP,A)
【文献】実開昭62-009169(JP,U)
【文献】特許第6413047(JP,B1)
【文献】特開2015-232522(JP,A)
【文献】特開2012-251963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄成分及び芳香族成分を含有するガソリン中の前記硫黄成分の濃度を推定する方法であって、
(A1)前記ガソリンの一部を気化させて除去することにより、前記ガソリン中の前記硫黄成分の濃度に対する前記芳香族成分の濃度の比率を低下させること、
(A2)前記ガソリンの屈折率に関する値を測定すること、及び
(A3)前記屈折率に関する値に基づいて、前記ガソリン中の前記硫黄成分の濃度を推定すること、を含んでおり、
前記工程(A2)において、
前記ガソリン中を通っている、マルチモードファイバからなるセンサ部、
前記センサ部の入光側端部及び出光側端部にそれぞれ光学的に接続されている、シングルモードファイバからなる入光側ファイバ及び出光側ファイバを有しており、
前記センサ部、並びに前記入光側ファイバ及び前記出光側ファイバのコアは、材料が同一であり、かつ
前記センサ部の径が、前記入光側ファイバ及び前記出光側ファイバの前記コアの径よりも大きい、
光ファイバ装置を用いて、
前記入光側ファイバ側から前記センサ部内にレーザーを照射し、照射された前記レーザーの波長を、前記出光側ファイバ側で計測し、かつ計測された前記波長に基づいて、前記屈折率に関する値を測定すること、及び
前記工程(A1)において、前記入光側ファイバ側から前記センサ部内にレーザーを照射することによって、前記ガソリンを加熱して、前記ガソリンの一部を気化させること、
を更に含む、
方法。
【請求項2】
前記硫黄成分が、ジメチルチオフェン、ジベンゾチオフェン、ベンゾチオフェン、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記芳香族成分が、トルエンを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ガソリンを燃焼させる内燃機関から出る排ガスを浄化する排ガス浄化触媒の回復方法であって、
(A)前記ガソリン中の前記硫黄成分の濃度を、請求項1~のいずれか一項に記載の方法により推定すること、
(B)前記硫黄成分の濃度に基づいて、前記内燃機関から出る排ガス中の硫黄酸化物の推定積算量を推定すること、及び
(C)排出された前記硫黄酸化物の推定積算量が閾値以上であるときに、前記排ガス浄化触媒を前記硫黄酸化物による被毒から回復させる処理を行うこと
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガソリン中の硫黄成分の濃度を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な液体や気体の成分を測定する方法が知られている。このような方法としては、例えば、クロマトグラフ法、赤外分光法等が知られている。また、他の方法として、光ファイバセンサを利用して、液体や気体の屈折率を測定して、被測定対象物を推定する方法等も知られている。
【0003】
特許文献1は、ガソリン等の様々な気体をセンシングする方法として、光ファイバをガスセンサーとして利用した、光ファイバ装置を用いる方法を開示している。
【0004】
特許文献1に記載の光ファイバ装置は、導波体からなる光ファイバ形状のセンサ部と、センサ部の一端および他端と光学的に各々接続され、該センサ部の一端側および他端側に配された、コアとクラッドから構成される光ファイバAおよび光ファイバBと、を含む光ファイバ装置であって、センサ部を構成する導波体が、光ファイバAおよび光ファイバBのコアと同材質からなり、センサ部の径方向の寸法が、光ファイバAのコアの寸法および光ファイバBのコアの寸法よりも大きく、センサ部は、少なくとも外側面が、その全域に亘って吸着材により被覆されている、ことを特徴とする。同文献によると、上記光ファイバセンサの外周側に配置されている、被検出物質を吸着する吸着材と光ファイバとの境界における全反射時のグースヘンシェンシフトのシフト量に基づいて、被検出物質の成分を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-20946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車等のための内燃機関、例えば、ガソリンエンジンにおいてガソリンのような燃料を燃焼させることにより生じる排ガス中には、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、及び窒素酸化物(NO)等の成分が含まれている。このため、通常は、内燃機関を有する車両には、これらの成分を浄化するための排ガス浄化用触媒装置が設けられており、この排ガス浄化用触媒装置内に取り付けられた排ガス浄化触媒によって、これらの成分が実質的に分解されている。
【0007】
ガソリンは、ベンゾチオフェン等の硫黄成分を含有しているため、ガソリンを燃焼させることにより生じる排ガスは、上記の成分の他に、SO等の硫黄酸化物を含有している。この硫黄酸化物は、排ガス浄化触媒に付着すること、又は吸蔵されること等により、排ガス浄化触媒の排ガス浄化性能を低下させる、すなわち触媒被毒を生じさせる場合がある。
【0008】
本開示者らは、ガソリン中の硫黄成分の濃度に基づいて、内燃機関から排出された硫黄酸化物の積算量を推定し、その推定量が一定値を超えたときに、硫黄酸化物を排ガス浄化触媒から除去するための回復操作を行うことを検討した。
【0009】
そこで、本開示者らは、ガソリン中の硫黄成分の濃度を推定する方法として、例えば上記特許文献1が開示する光ファイバ装置等を用いて、ガソリンの屈折率を測定することによって、ガソリン中の硫黄成分の濃度を推定することを検討した。
【0010】
しかしながら、本開示者らは、ガソリンの屈折率は、ガソリン中の硫黄成分の濃度のみでなく、芳香族成分の濃度によっても大きく影響を受けること、並びにガソリン中の硫黄成分及び芳香族成分の濃度は、ガソリンの入手時期等によって大きく異なりうること等から、単にガソリンの屈折率を測定するのみでは、ガソリン中の硫黄成分の濃度を高い精度で推定することが困難であることを見出した。
【0011】
したがって、本開示の課題は、ガソリン中の硫黄成分の濃度を高い精度で推定することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示者は、以下の手段により上記課題を達成することができることを見出した:
《態様1》
硫黄成分及び芳香族成分を含有するガソリン中の前記硫黄成分の濃度を推定する方法であって、
(A1)前記ガソリンの一部を気化させて除去することにより、前記ガソリン中の前記硫黄成分の濃度に対する前記芳香族成分の濃度の比率を低下させること、
(A2)前記ガソリンの屈折率に関する値を測定すること、及び
(A3)前記屈折率に関する値に基づいて、前記ガソリン中の前記硫黄成分の濃度を推定すること、
を含む方法。
《態様2》
前記工程(A2)において、
前記ガソリンを通っている、マルチモードファイバからなるセンサ部、
前記センサ部の入光側端部及び出光側端部にそれぞれ光学的に接続されている、シングルモードファイバからなる入光側ファイバ及び出光側ファイバを有しており、
前記センサ部、並びに前記入光側ファイバ及び前記出光側ファイバのコアは、材料が同一であり、かつ
前記センサ部の径が、前記入光側ファイバ及び前記出光側ファイバの前記コアの径よりも大きい、
光ファイバ装置を用いて、
前記入光側ファイバ側から前記センサ部内にレーザーを照射し、照射された前記レーザーの波長を、前記出光側ファイバ側で計測し、かつ計測された前記波長に基づいて、前記屈折率に関する値を測定する、
態様1に記載の方法。
《態様3》
前記工程(A1)において、前記ガソリンを加熱して、前記ガソリンの一部を気化させる、態様1又は2に記載の方法。
《態様4》
前記工程(A1)において、前記入光側ファイバ側から前記センサ部内にレーザーを照射することによって、前記ガソリンを加熱して、前記ガソリン又は軽油の一部を気化させる、態様2に記載の方法。
《態様5》
前記硫黄成分が、ジメチルチオフェン、ジベンゾチオフェン、ベンゾチオフェン、又はこれらの組み合わせを含む、態様1~4のいずれか1つに記載の方法。
《態様6》
前記芳香族成分が、トルエンを含む、態様1~5のいずれか1つに記載の方法。
《態様7》
ガソリンを燃焼させる内燃機関から出る排ガスを浄化する排ガス浄化触媒の回復方法であって、
(A)前記ガソリン中の前記硫黄成分の濃度を、態様1~5のいずれか1つに記載の方法により推定すること、
(B)前記硫黄成分の濃度に基づいて、前記内燃機関から出る排ガス中の硫黄酸化物の推定積算量を推定すること、及び
(C)排出された前記硫黄酸化物の推定積算量が閾値以上であるときに、前記排ガス浄化触媒を前記硫黄酸化物による被毒から回復させる処理を行うこと
を含む方法。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、ガソリン中の硫黄成分の濃度を高い精度で推定することができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、ガソリンの気化率(体積%)と、ガソリン中の主成分、硫黄成分、及び芳香族成分の濃度(体積%)との関係を説明しているグラフである。
図2図2は、本開示の方法に用いることができる光ファイバ装置の一例を示す模式図である。
図3図3は、比較例1における、各ガソリン試料の光ファイバ装置による測定結果を示すグラフである。
図4図4は、実施例1における、各ガソリン試料の光ファイバ装置による測定結果を示すグラフである。
図5図5は、実施例2における、各ガソリン試料の光ファイバ装置による測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施の形態について詳述する。なお、本開示は、以下の実施の形態に限定されるのではなく、開示の本旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0016】
《硫黄成分の濃度の推定方法》
本開示の推定方法は、硫黄成分及び芳香族成分を含有するガソリン中の硫黄成分の濃度を推定する方法である。本開示の推定方法は、以下の(A1)~(A3)の工程を有する:
(A1)ガソリンの一部を気化させて除去することにより、ガソリン中の硫黄成分の濃度に対する芳香族成分の濃度の比率を低下させること、
(A2)ガソリンの屈折率に関する値を測定すること、及び
(A3)屈折率に関する値に基づいて、ガソリン中の硫黄成分の濃度を推定すること。
【0017】
原理によって限定されるものではないが、本開示の方法によって、ガソリン中の硫黄成分の濃度を高い精度で推定することができる原理は、以下のとおりである。
【0018】
ガソリンの屈折率は、ガソリン中の硫黄成分の濃度のみでなく、ガソリン中の芳香族成分の濃度によっても大きく影響を受けると考えられる。
【0019】
ここで、ガソリン中の主な芳香族成分であるトルエンの飽和蒸気圧は、20℃において2.93kPaであるのに対して、ガソリン中の主な硫黄成分であるベンゾチオフェンの飽和蒸気圧は、20℃において1.33Paであり、非常に低い。したがって、ガソリンを気化させた場合、ガソリンの硫黄成分よりも芳香族成分の方が気化しやすいといえる。また、ガソリンの主成分であるアルカン成分、例えばオクタンの飽和蒸気圧は20℃において1.33kPaであることから、特に、ガソリンに対して本開示の方法を行う場合には、ガソリンの硫黄成分よりも芳香族成分及びアルカン成分の方が気化しやすいといえる。
【0020】
ガソリンを例に具体的に説明する。図1に示すように、ガソリンを気化させると、芳香族成分が気化して、ガソリン中の芳香族成分の含有量が低下する。他方、硫黄成分は、他の成分よりも飽和蒸気圧が非常に小さいので、ほとんど気化せず、ガソリン中の硫黄成分の含有量はほとんど変化しない。
【0021】
したがって、ガソリンを気化させると、ガソリン中の芳香族成分の濃度が低下し、芳香族成分によるガソリンの屈折率への寄与が小さくなる一方で、ガソリン中の硫黄成分の濃度が増加し、硫黄成分によるガソリンの屈折率への寄与が大きくなる。
【0022】
そのため、ガソリンの一部を気化させることにより、ガソリン中の硫黄成分の濃度に対する芳香族成分の濃度の比率を低下させてから、ガソリンの屈折率に関する値を測定することにより、ガソリン中の硫黄成分の濃度の推定精度を向上させることができる。
【0023】
〈ガソリン〉
本開示の推定方法は、硫黄成分及び芳香族成分を含有するガソリンに対して行われる。
【0024】
ここで、ガソリン中の硫黄成分は、硫黄原子を有している化合物であり、例えば、ジメチルチオフェン、ジベンゾチオフェン、ベンゾチオフェン、又はこれらの組み合わせを含んでいることができるが、これらに限定されない。
【0025】
また、ガソリン中の芳香族成分は、例えばトルエンを含んでいることができるが、他の芳香族を含んでいてよい。
【0026】
なお、本開示の推定方法が行われるガソリンは、液体である。硫黄成分の飽和蒸気圧が高いため、ガソリンの蒸気に含まれる硫黄成分の濃度は、液体のガソリンに含まれる硫黄成分の濃度と大きく異なる場合があると考えられる。そのため、ガソリンの蒸気の屈折率に関する値を測定しても、ガソリン中の硫黄成分の濃度の推定の精度が低くなる場合がある。本開示の推定方法は、液体のガソリンに対して行われるため、このような問題が生じにくい。
【0027】
〈工程A1〉
工程A1は、ガソリンの一部を気化させて除去することにより、ガソリン中の硫黄成分の濃度に対する芳香族成分の濃度の比率を低下させることである。
【0028】
工程A1において、ガソリンは、1.0体積%以上25.0体積%以下気化させてもよい。ガソリンは、1.0体積%以上、2.0体積%以上、5.0体積%以上、又は8.0体積%以上気化させてよく、25.0体積%以下、20.0体積%以下、15.0体積%以下、又は10.0体積%以下気化させてもよい。ガソリンの気化の量が多いほど、液体のガソリン中の芳香族成分をより気化させることができるため、硫黄成分の濃度の推定の精度を向上させることができる。他方、ガソリンの気化の量が多すぎる場合には、ガソリンの硫黄成分の濃度の推定のために大量のガソリンを消費してしまい、エネルギーロスが大きい。
【0029】
ガソリンの一部を気化させる方法は、ガソリンを気化させることができる任意の方法であってよいが、例えばガソリンを常温で放置することによって気化させてもよく、又は加熱することによって気化させてもよい。
【0030】
〈工程A2〉
工程A2は、ガソリンの屈折率に関する値を測定することである。
【0031】
ここで、屈折率に関する値とは、屈折率の値そのものであってよいが、他に、屈折率を算出するための基礎となる値であってよい。例えば、以下における推定方法の具体的な形態に記載の装置を用いて行う場合には、波長のシフトを測定してもよい。
【0032】
工程A2は、液体のガソリンの屈折率に関する値を測定することができる任意の方法を用いることができる。屈折率に関する値として、屈折率自体を測定する方法の例としては、最小偏角法、アッベ式若しくはプルフリッヒ式の臨界角法、又はVブロック法等を挙げることができるが、これらに限定されない。また、工程A2は、以下における推定方法の具体的な形態に記載の装置を用いて行うことができる。
【0033】
液体のガソリンの屈折率に関する値の測定は、液体のガソリンの気化が少ない温度で行われることが好ましいが、常温又は常温以上の温度で行ってもよい。液体のガソリンの屈折率に関する値を測定する際の液体のガソリンの温度は、0℃以上、50℃以下であってよい。液体のガソリンの屈折率に関する値を測定する際の液体のガソリンの温度は、0℃以上、10℃以上、又は20℃以上であってよく、50℃以下、40℃以下、又は30℃以下であってよい。
【0034】
〈工程A3〉
工程A3は、屈折率に関する値に基づいて、ガソリン中の硫黄成分の濃度を推定することである。
【0035】
ガソリン中の硫黄成分の濃度の推定は、体積%、質量%、又はmol%等の単位で具体的な数値として推定してよく、又はこれらの単位による閾値との大小関係として推定してもよい。
【0036】
ガソリン中の硫黄成分の濃度は、例えば、以下の参考例の式(3)において求めた、屈折率と硫黄成分の濃度との関係を示す数式において、芳香族成分の濃度を定数、例えば芳香族成分がほとんど気化していると考えて、ガソリン中の芳香族成分の濃度を0体積%として、測定された屈折率を代入することにより、算出することができる。
【0037】
また、ガソリン中の硫黄成分の濃度は、例えば、屈折率に関する値にある閾値を定め、閾値以上、又は閾値以下であるか否かにより、所定の濃度以上又は所定の濃度以下であることを推定してもよい。この場合、閾値は、例えば所定の硫黄成分の濃度におけるガソリンの屈折率に関する値の理論値又は測定値等でもよい。測定値は、例えば硫黄成分の濃度が既知であるガソリンに対して上記工程A1及び工程A2を行うことにより求めてもよい。
【0038】
《本開示の推定方法の具体的な形態》
本開示の推定方法において、工程A1及びA2は、例えば、以下の装置を用いて、それぞれ以下の工程A1’及び工程A2’により行ってもよい。
【0039】
〈測定装置〉
本開示の推定方法に用いることができる測定装置の一例は、ガソリン又中を通っている、マルチモードファイバからなるセンサ部、センサ部の入光側端部及び出光側端部にそれぞれ光学的に接続されている、シングルモードファイバからなる入光側ファイバ及び出光側ファイバを有しており、センサ部、並びに入光側ファイバ及び出光側ファイバのコアは、材料が同一であり、かつセンサ部の径が、入光側ファイバ及び出光側ファイバのコアの径よりも大きい、光ファイバ装置である。
【0040】
この光ファイバ装置は、例えば特許文献1に記載の光ファイバ装置であってよい。
【0041】
(センサ部)
センサ部は、マルチモードファイバから構成されている。ここで、マルチモードファイバとは、光ファイバ内を進む光が、複数のモードに分かれて進むことができる光ファイバである。センサ部において、マルチモードファイバはクラッドを有しない。
【0042】
センサ部の材料は、光ファイバのコアの材料として用いられる任意の材料であってよいが、入光側ファイバ及び出光側ファイバのコアと同じ材質の材料から構成されている。これにより、入光側ファイバとセンサ部との間、及びセンサ部と出光側ファイバとの間で屈折率差がないため、光ファイバ装置内を通る光は、入光側ファイバとセンサ部との界面及びセンサ部と出光側ファイバとの界面においてリークすることなく、コア内に閉じ込められる。
【0043】
また、センサ部の径は、入光側ファイバ及び出光側ファイバのコアの径よりも大きい。これにより、入光側ファイバからセンサ部に入射した光には強い回折が生じ、かつセンサ部に生じた回折光が、出光側ファイバのコアで干渉により集光され、センサ部から出光側ファイバへ高効率で光伝搬される。
【0044】
更に、センサ部は、ガソリン中を通っており、言い換えれば、センサ部は、液体のガソリンと直接接している。センサ部内を通る回折光には、センサ部において全反射する際に、グースヘンシェンシフトと呼ばれる光の位相の変化が生じるため、センサ部の中央部を進む光に対し,全反射を繰り返した分だけ,位相が変化して,出力側ファイバ部に到達する。ここで、グースヘンシェンシフトによる光の位相の変化は、センサ部の屈折率とセンサ部の周囲に存在するガソリンの屈折率に依存するため、出光側ファイバのコアにおいて位相が丁度揃う波長の光の波長を、屈折率に関する値として測定することにより、ガソリンの屈折率を算出することができる。
【0045】
(入光側ファイバ及び出光側ファイバ)
入光側ファイバは、シングルモードファイバから構成されており、センサ部の入光側端部に光学的に接続されている。また、出光側ファイバは、シングルモードファイバから構成されており、センサ部の出光側端部に光学的に接続されている。
【0046】
ここで、シングルモードファイバとは、光ファイバ内を進む光が、単一のモードで進むことができる光ファイバである。
【0047】
図2は、本開示の方法に用いることができる光ファイバ装置の一例を示す模式図である。図2に示す光ファイバ装置は、マルチモードファイバからなるセンサ部10、センサ部10の入光側端部及び出光側端部にそれぞれ光学的に接続されている、シングルモードファイバからなる入光側ファイバ20及び出光側ファイバ30を有している。ここで、入光側ファイバ20は、コア23及びクラッド25を有している。また、出光側ファイバ30は、コア33及びクラッド35を有している。センサ部10の外側には、液体のガソリン40が存在する。また、センサ部10の径は、入光側ファイバ20及び出光側ファイバ30のコアの径よりも大きい。
【0048】
図2に示す光ファイバ装置では、入光側ファイバ20からセンサ部10に入射した光は、複数の方向に回折し、センサ部10の側面で全反射する。この全反射の際におけるグースヘンシェンシフトによる位相のずれは、センサ部10の屈折率と、センサ部の外側のガソリンの屈折率に依存する。そのため、図2に示す光ファイバ装置を用いることにより、出光側ファイバ30のコア33において位相が丁度揃う波長の光の波長を、屈折率に関する値として測定することにより、液体のガソリン40の屈折率を算出することができる。
【0049】
〈工程A1’〉
工程A1’は、ガソリンの一部を気化させて除去することにより、ガソリン中の硫黄成分の濃度に対する芳香族成分の濃度の比率を低下させることである。この工程A1’は、上記の工程A1と同じであってよい。
【0050】
〈工程A2’〉
工程A2’は、入光側ファイバ側からセンサ部内にレーザーを照射し、照射されたレーザーの波長を、出光側ファイバ側で計測し、かつ計測された波長に基づいて、屈折率に関する値を測定することである。
【0051】
工程A2’における屈折率に関する値の測定は、測定対象が、上記工程A1’が行われた液体のガソリンであることを除いて、特許文献1に記載の光ファイバ装置による測定方法を参照して行うことができる。
【0052】
工程A2’における屈折率に関する値の測定の際に、入光側ファイバ側からセンサ部内に照射されるレーザーは、ガソリン中の硫黄成分の濃度を推定することができる任意の波長を有するレーザーを用いることができる。より具体的には、1500nm~1700nmの範囲の波長を有するレーザーを用いてもよい。
【0053】
《排ガス浄化触媒の回復方法》
本開示の排ガス浄化触媒の回復方法は、ガソリンを燃焼させる内燃機関から出る排ガスを浄化する排ガス浄化触媒の回復方法であり、以下の(A)~(C)の工程を有する:
(A)ガソリン中の硫黄成分の濃度を、本開示のガソリン中の硫黄成分の濃度を推定すること、
(B)硫黄成分の濃度に基づいて、内燃機関から出る排ガス中の硫黄酸化物の推定積算量を推定すること、及び
(C)排出された硫黄酸化物の推定積算量が閾値以上であるときに、排ガス浄化触媒を硫黄酸化物による被毒から回復させる処理を行うこと。
【0054】
(排ガス浄化触媒)
本開示の排ガス浄化触媒の回復方法を行うことができる排ガス浄化触媒は、排ガス中の硫黄酸化物、例えばSOによる触媒被毒が生じ得る任意の排ガス浄化触媒に対して行うことができる。このような排ガス浄化触媒は、例えば、いわゆるNO吸蔵触媒や三元触媒等であってよいが、これらに限定されない。
【0055】
(工程A)
工程Aは、本開示のガソリン中の硫黄成分の濃度を推定する方法によって行うことができる。
【0056】
(工程B)
工程Bは、硫黄成分の濃度に基づいて、内燃機関から出る排ガス中の硫黄酸化物の推定積算量を推定することである。内燃機関から出る排ガス中の硫黄酸化物の推定積算量は、例えば、上記の工程Aによって推定したガソリン又中の硫黄成分の濃度と、内燃機関によって燃焼したガソリンの量との関係から推定することができる。より具体的には、例えば、ガソリン中の硫黄成分の濃度と内燃機関によって燃焼したガソリンの積を、硫黄酸化物の推定積算量としてもよい。なお、上記の工程Aにおいて、ガソリン中の硫黄成分の濃度の推定に閾値を用いて、ガソリン中の硫黄成分の濃度が閾値以上又は以下であるかを推定している場合には、ガソリン中の硫黄成分の濃度の閾値に対応する推定積算量以上又は以下であると推定してもよい。
【0057】
(工程C)
工程Cは、排出された硫黄酸化物の推定積算量が閾値以上であるときに、排ガス浄化触媒を硫黄酸化物による被毒から回復させる処理を行うことである。
【0058】
ここで、内燃機関から排出されるSOの量と排ガス浄化触媒のSOによる触媒被毒との関係は、使用する排ガス浄化触媒の種類、構成、使用態様等に応じて異なると考えられる。したがって、例えば、予め硫黄酸化物の推定積算量に対する排ガス浄化触媒の排ガス浄化効率の低下を測定しておき、当業者が適宜定めた排ガス浄化効率以下になったときの硫黄酸化物の推定積算量を、閾値として定めることができる。
【0059】
ここで、排ガス浄化触媒の硫黄酸化物による被毒とは、排ガス浄化触媒に硫黄酸化物が付着し、又は吸蔵されることにより、排ガス浄化触媒の排ガス浄化率が低下することである。
【0060】
工程Cにおける、排ガス浄化触媒を硫黄酸化物による被毒から回復させる処理は、排ガス浄化触媒に付着し、又は吸蔵された硫黄酸化物を、排ガス浄化触媒から除去することができる任意の処理方法によって行うことができる。この処理方法としては、例えば、排ガス浄化触媒を高温に加熱すると共に、排気浄化触媒に流入する排ガスの空燃比をリッチ空燃比にすることによって行うことができる。
【実施例
【0061】
《実施例1及び2、並びに比較例1》
ガソリン中の硫黄濃度の推定のため、ベンゾチオフェンの濃度が1ppm、10ppm、100ppm、1000ppm、及び10000ppmであるガソリン試料を用意した。用意したガソリン試料それぞれについて、ガソリン試料の揮発率を、以下の表1のように変化させて、それぞれの揮発率における光ファイバ装置の出力の変化を測定した。
【0062】
【表1】
【0063】
測定に用いた光ファイバ装置は、本開示の推定方法の具体的な形態において記載した光ファイバ装置と同様の構成を有していた。したがって、この光ファイバ装置は、ガソリン試料中を通っている、マルチモードファイバからなるセンサ部、センサ部の入光側端部及び出光側端部にそれぞれ光学的に接続されている、シングルモードファイバからなる入光側ファイバ及び出光側ファイバを有していた。また、この光ファイバ装置は、センサ部、並びに入光側ファイバ及び出光側ファイバのコアの材料が同一であり、かつセンサ部の径が、入光側ファイバ及び出光側ファイバのコアの径よりも大きかった。
【0064】
光ファイバ装置には、ASE光源から1520nmから1620nmの波長の光を供給し、光ファイバ装置の出力は、光スペクトラムアナライザによって測定した。
【0065】
なお、光ファイバ装置は、温度調節プレート上に配置し、測定中はガソリン試料の温度を25℃に維持した。
【0066】
測定結果を、図3~5に示す。図3~5は、それぞれ比較例1、実施例1、及び実施例2における、各ガソリン試料の光ファイバ装置による測定結果を示している。図3~5において、横軸はガソリン試料中のベンゾチオフェンの濃度を示しており、縦軸は波長シフトを示している。ここで、波長シフトは、ベンゾチオフェンの濃度が1ppmであるガソリン試料の測定結果を基準としている。
【0067】
比較例1のように、ガソリン試料の揮発率が0質量%、すなわちガソリン試料を全く気化させなかった場合、図3に示すように、ベンゾチオフェンの濃度が10ppm、100ppm、1000ppm、及び10000ppmであるときの波長シフトの大きさは、いずれも約0.8nm前後であり、ほとんど差が見られなかった。
【0068】
これに対して、実施例1のように、ガソリン試料の揮発率が10質量%の場合、図4に示すように、ベンゾチオフェンの濃度が10ppm、100ppm、1000ppm、及び10000ppmであるときの波長シフトは、順に、約0.8nm、約1.2nm、約1.6nm、及び約2.4nmであり、ベンゾチオフェンの濃度による波長シフトの変化が大きかった。
【0069】
また、実施例2のように、ガソリン試料の揮発率が20質量%の場合においても、図5に示すように、実施例1と同様に、ベンゾチオフェンの濃度による波長シフトの変化が大きかった。
【0070】
この結果は、ガソリン試料を揮発させた際に、ガソリン試料の屈折率への寄与が大きい芳香族成分が気化したことにより、芳香族成分のガソリン試料中の濃度が減少して、ガソリン試料の屈折率に対するベンゾチオフェンの濃度による寄与が大きくなったことによると考えられる。
【0071】
《参考例1~8》
以下の表2の組成比になるようにして、参考例1~8の試料を調製し、それぞれの試料の屈折率を測定した。
【0072】
【表2】
【0073】
各参考例の試料の各成分の比率と屈折率の測定結果から、以下の手順にて重回帰式を導出した。なお、式(1)において、xはベンゾチオフェンの、xはトルエンの、及びxはヘキセンの、それぞれの試料中の量(cc)を示している。
【0074】
n=A×x+B×x+C×x+D (1)
【0075】
更に、屈折率予測値nと実際の測定値Nとの差を残差eと定義すると、残差平方和Seは、以下の(2)のようになる。
【0076】
【数1】
【0077】
ここで、Seが0になるように、各係数A、B、C、及びDを決定して、以下の式(3)に示す、ガソリンの屈折率と芳香族成分の濃度(体積%)及び硫黄成分の濃度(体積%)との関係を求めた。なお、式(3)において、aは芳香族成分の濃度(体積%)であり、かつbは硫黄成分の濃度(体積%)である。
【0078】
N=0.001×a+0.001×b+1.371 (3)
【0079】
式(3)に示すように、ガソリンの屈折率は、芳香族成分及び硫黄成分の両方の寄与が大きいといえる。
【符号の説明】
【0080】
10 センサ部
20 入光側ファイバ
23 コア
25 クラッド
30 出光側ファイバ
33 コア
35 クラッド
40 液体のガソリン
図1
図2
図3
図4
図5