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特許7144405セラミックス回路基板及びその製造方法とそれを用いたモジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】セラミックス回路基板及びその製造方法とそれを用いたモジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20220921BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20220921BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20220921BHJP
   H01L 25/18 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
H01L23/36 C
H01L23/12 J
H01L25/04 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019514515
(86)(22)【出願日】2018-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2018016540
(87)【国際公開番号】W WO2018199060
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2017086504
(32)【優先日】2017-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】原田 祐作
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 晃正
(72)【発明者】
【氏名】中村 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】森田 周平
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩二
【審査官】加藤 芳健
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-274964(JP,A)
【文献】特開平11-157952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H01L 23/12
H01L 25/07
H01L 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板と銅板が、Ag、Cu及び活性金属を含むろう材を介して接合してなるセラミックス回路基板において、接合ボイド率が1.0%以下であり、ろう材成分であるAgの拡散距離が5~20μmであり、活性金属がチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ及びそれらの水素化物からなる群から選択される1以上を含む、セラミックス回路基板。
【請求項2】
セラミックス基板が窒化ケイ素または窒化アルミニウムからなる請求項1に記載のセラミックス回路基板。
【請求項3】
ろう材にSnが含まれることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミックス回路基板。
【請求項4】
接合温度への昇温過程における400℃~700℃の温度域での加熱時間が5~30分であり、接合温度720~800℃で5~30分保持して接合することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項5】
窒素雰囲気下の連続加熱炉で接合することを特徴とする請求項4に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミックス回路基板を用いるパワーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス回路基板及びその製造方法とそれを用いたモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧、大電流動作を必要とする電鉄、車両、産業機械向けパワーモジュールには、セラミックス基板の表面に金属回路板、金属放熱板を接合したセラミックス回路基板が用いられる。近年では半導体素子の高出力化、高集積化に伴い、半導体素子からの発熱量は増加の一途をたどっており、この発熱を効率よく放散させるため、高熱伝導性を有する窒化ケイ素焼結体や窒化アルミニウム焼結体からなるセラミックス基板が使用されている。
【0003】
特に車載用パワーモジュールではより高い放熱性が求められており、セラミックス基板の薄板化、金属板の厚板化が検討されている。しかしこのような構造になると、セラミックス基板と金属板の熱膨張率差により生じる熱サイクル時の応力負荷がますます大きくなるため、セラミックス基板にクラックが発生して絶縁不良を起こしたり、金属板が剥離して伝熱不良を招き、電子機器としての動作信頼性が低下してしまう。
【0004】
熱サイクル時の熱応力は、セラミックス基板と金属板の熱膨張率差だけではなく、金属板自体が持つ機械的性質、主に引張強度や耐力にも影響を受けるため、金属板中に接合ろう材成分が拡散すると塑性変形しやすい性質が失われ、残留応力となってセラミックス基板に損傷を与えるようになる。金属板へのろう材成分の拡散を抑え、熱応力を極力軽減するためには低温、短時間で接合する必要があるが、従来から行われている真空中での接合では急速な昇温が難しく、接合炉内での温度分布が生じやすく、高信頼性のセラミックス回路基板を生産性良く製造することが困難であった。
【0005】
そこで特許文献1では、セラミックス基板の接合面及び銅板の接合面のうち少なくとも一方にAg及び窒化物形成元素を含有する層を形成した後に接合することで、ろう材層の厚みを制御することが検討されている。しかしこの方法によると連続的に形成されたろう材層の厚みは制御されるものの、接合温度が790℃以上と高いためにろう材成分であるAgの一部が連続的に形成されたろう材層よりもさらに銅板厚み方向へ拡散し、銅板の機械的性質を変化させてしまう。さらに、セラミックス基板と銅板の熱膨張差に起因する接合後の残留応力が大きくなることも相まって、例えば0.8mmといった厚い銅板を接合するセラミックス回路基板に求められる耐熱サイクル特性を満足することはできなかった。また、ここで制御しているろう材層の厚みは、不連続なろう材層領域を除いた複数領域から測定した平均値であるため、局所的にろう材層の厚い部分ではセラミックス基板にクラックが発生してしまうこともあった。
【0006】
特許文献2では、ジルコニウムを含むろう材を用い、窒素雰囲気下750~850℃で接合する検討がなされているが、接合性を確保するために多量に添加したジルコニウムの影響により、ろう材層が脆弱となり、耐熱サイクル特性が低下するといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-187411号公報
【文献】特開2003-188310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、耐熱サイクル特性に優れたセラミックス回路基板とその製造方法とそれを用いたモジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)セラミックス基板と銅板が、Ag、Cu及び活性金属を含むろう材を介して接合してなるセラミックス回路基板において、接合ボイド率が1.0%以下であり、ろう材成分であるAgの拡散距離が5~20μmであるセラミックス回路基板。
(2)セラミックス基板が窒化ケイ素または窒化アルミニウムからなる前記(1)に記載のセラミックス回路基板。
(3)ろう材にSnが含まれることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のセラミックス回路基板。
(4)接合温度への昇温過程における400℃~700℃の温度域での加熱時間が5~30分であり、接合温度720~800℃で5~30分保持して接合することを特徴とする前記(1)~(3)のいずれか一項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
(5)窒素雰囲気下の連続加熱炉で接合することを特徴とする前記(4)に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
(6)前記(1)~(3)のいずれか一項に記載のセラミックス回路基板を用いるパワーモジュール。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセラミックス回路基板は耐熱サイクル特性に優れているため、高性能なパワーモジュールを生産性良く提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】Agの拡散距離が12μmであるセラミックス回路基板の断面写真の一例(実施例1)
図2】Agの拡散距離が42μmであるセラミックス回路基板の断面写真の一例(比較例1)
【符号の説明】
【0012】
1 セラミックス基板
2 セラミックス基板表面
3 Ag
4 銅板
5 Agの拡散距離
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のセラミックス回路基板は、セラミックス基板の一方の面に銅回路板、他方の面に銅放熱板を、Ag、Cu及び活性金属を含むろう材を介して接合してなるセラミックス回路基板である。
【0014】
本発明のセラミックス回路基板は、接合ボイド率が1.0%以下であることを特徴とする。ここで接合ボイド率とは、セラミックス基板と銅板との接合状態を評価する指標であり、超音波探傷装置で観察したセラミックス回路基板の接合ボイドの面積を計測し、銅回路パターンの面積で除して求めることができる。接合ボイド率を1.0%以下とすることで、接合強度が低下し、熱サイクル時に銅板が剥離してしまうのを抑制することができる。また、部分放電特性の低下なども抑制することができるため、パワーモジュール用のセラミックス回路基板として使用することができる。
【0015】
本発明のセラミックス回路基板は、ろう材成分であるAgの拡散距離が5~20μmであることを特徴とする。ここでAgの拡散距離とは、セラミックス基板表面と、セラミックス基板表面から銅板表面方向(セラミックス基板表面に垂直方向)へAgが最も遠くへ拡散した部分までの距離であり、連続的なろう材層の厚みと一致するとは限らない。Agの拡散距離は、セラミックス回路基板の断面から走査型電子顕微鏡にて倍率500倍の視野(接合界面の水平方向に250μmの範囲)を重複しない範囲で無作為に3箇所選んで観察し、各視野で計測されるAgの拡散距離のうち最大のものとする。なお、走査型電子顕微鏡での観察は反射電子像で行う。反射電子像ではAgとCuの検出強度が異なり、Agが明るい色調で観察される。この色調のコントラストによりAgとCuを明確に識別することができる。本発明者は耐熱サイクル特性を向上させるために鋭意検討を行った結果、ろう材層の厚みではなく、銅板中へのAgの拡散を制御することにより、熱サイクル時に発生する熱応力を緩和させ、セラミックス基板へのクラックの発生や銅板の剥離を抑制することができることを見出した。Agの拡散距離を5μm以上とすることにより、セラミックス基板と銅板の接合が不十分となり、熱サイクル時に銅板が剥離してしまうのを抑制することができる。Agの拡散距離を20μm以下とし、銅板の機械的性質が変化して熱応力を受け易くなることを抑制することで、熱サイクル時にセラミックス基板にクラックが発生したり、銅板が剥離してしまうのを抑制することができる。品質のばらつきを減らすためにはAgの拡散距離が15μm以下であることがより好ましい。Agの拡散距離は接合温度や接合時間、ろう材の塗布量などによって調整することができる。
【0016】
本発明のセラミックス回路基板の接合には、Ag、Cu及び活性金属を含むろう材が使用される。AgとCuの組成比は、共晶組成を生成し易い組成比に設定することが好ましく、銅板からの銅成分の溶け込みを考慮し、AgとCuの合計100質量部において、Ag70~95質量部、Cu5~30質量部が好ましい。Agを70~95質量部とすることで、ろう材の溶融温度が上昇し、接合温度を高める必要がなくなり、接合時の熱膨張率差に起因する残留応力が増加して耐熱サイクル性が低下し易くなるのを抑制することができる。また、接合温度を高めると、Agの拡散距離を制御することが困難となる場合がある。
【0017】
本発明の一態様において、活性金属には、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブなどから少なくとも一種が選択される。活性金属の含有量は、AgとCuの合計100質量部に対して0.5~10質量部が好ましい。活性金属の含有量が0.5質量部未満であるとセラミックス基板とろう材の濡れ性が低下し、接合ボイドが発生し易くなる。活性金属の含有量が10質量部を超えると接合界面に脆弱な活性金属の窒化物層が過剰に形成され、耐熱サイクル性が低下することがある。活性金属にはその水素化物を使用することもできる。この場合、水素化物中の水素が接合雰囲気による活性金属の酸化を抑制し、セラミックス基板との反応性を高め、接合性を向上させることができる。以下、活性金属にチタンを用いた場合の条件を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
ろう材にはAg、Cuまたは活性金属以外の成分を添加することもできる。中でも、ろう材の溶融温度を下げるためにSnを添加することが好ましい。ろう材の溶融温度を下げることにより、Agの拡散距離を制御し易くなる。Snの含有量は、AgとCuの合計100質量部に対して0.1~15質量部が好ましい。Snの含有量が0.1質量部未満であるとその効果が小さく、15質量部を超えると接合時にろう材が流れ出すなどの不具合が生じてしまい、また、耐熱サイクル特性が低下することがある。
【0019】
ろう材には、上記組成からなる合金箔や、各組成の粉末、若しくは一部を合金化した粉末、すべてを合金化した粉末などを用いることができる。粉末を使用する場合、結合剤や可塑剤、分散剤、分散媒などと混合したペーストを作製し、セラミックス基板や銅板に塗布することができる。ろう材の塗布方法は特に限定されず、一定量を均一に塗布できるスクリーン印刷法、ロールコーター法などの公知の塗布方法を採用することができる。ろう材の塗布量は、分散媒除去後で5~10mg/cmが好ましい。ろう材の塗布量を5mg/cm以上とすることで接合ボイドが生じ易くなることを抑制し、10mg/cm以下とすることでAgの拡散距離が長くなり、耐熱サイクル特性が低下するのを抑制することができる。
【0020】
耐熱サイクル特性を高めるためにAgの拡散距離を従来よりも短い5~20μmにすると、接合不良発生のリスクが高くなり、厳密な接合温度、接合時間の制御が必要となる場合がある。本発明者は接合性と耐熱サイクル特性を両立するために鋭意検討を行った結果、接合において活性金属がセラミックス基板との反応以外で消費されるのを防ぎ、且つ、低温、短時間で接合することが有効であることを見出した。すなわち、接合温度への昇温過程における400℃~700℃の温度域での加熱時間が5~30分となるように急速昇温することで接合性が大幅に向上し、さらに接合温度720~800℃で5~30分保持して接合することで、従来では得られない耐熱サイクル特性を達成できる。
【0021】
接合温度への昇温過程における400~700℃の温度域では、接合炉内の雰囲気またはろう材に含まれる不可避的な不純物によって活性金属の酸化反応、窒化反応などが進行し、接合性を低下させることを見出した。この温度域での加熱時間を5~30分とすることにより、接合炉内の雰囲気によらず接合ボイド率を1.0%以下とすることができる。加熱時間を30分以内とすることで、活性金属がセラミックス基板と十分に反応せず、ろう材の濡れ性が低下して接合ボイドが発生するのを抑制することができる。接合性を高めるためには加熱時間が20分以下であることがより好ましい。加熱時間を5分以上とすることで、ろう材ペースト中の結合剤や可塑剤といった有機物が十分に熱分解されず、残留した炭素成分がセラミックス基板と銅板との接合性を低下させてしまうのを抑制することができる。400℃以上の温度域では、活性金属の反応速度が遅いことにより接合への影響が小さくなるのを抑制することができる。また、700℃以下の温度域では、一部のろう材が溶融し始めることにより雰囲気による活性金属の反応は起き難くなるのを抑制することができる。
【0022】
従来、真空雰囲気以外での接合では、昇温中に活性金属が酸化または窒化してしまい、接合不良を招いていたが、本発明のように温度制御をすることで、真空雰囲気以外でも接合を行うことが可能となる。本発明の一態様におけるセラミックス回路基板の製造方法は、窒素雰囲気下の連続加熱炉で接合することを特徴とする。ここで連続加熱炉とは、プッシャー、ベルト、ローラーなどにより、ろう材が塗布されたセラミックス基板や銅板、接合治具などを連続的に搬送し、熱処理できる加熱炉のことである。連続加熱炉は、炉内へのガス供給や炉外へのガス排気ができる構造であることが好ましい。炉内に供給するガスは窒素、アルゴン、水素などが好ましく、中でも生産性の点から窒素が好ましい。連続加熱炉内は酸素濃度50ppm以下の非酸化性雰囲気にすることが好ましい。酸素濃度を50ppm以下とすることで、ろう材が酸化され易くなるのを抑制することができる。ろう材が雰囲気に曝される隙間を減らすために、セラミックス基板と銅板を重ねた積層体を重しや治具などを用いて圧力1.0MPa以上で加圧して接合することが好ましい。加熱方法としては公知のものが適用でき、カーボンやモリブデンなどの抵抗加熱式、高周波加熱方式、マイクロ波加熱方式などを加熱源として用いることができる。
【0023】
非酸化性雰囲気で高温に保持された連続加熱炉にセラミックス基板と銅板を重ねた積層体を投入し、加熱設定温度や搬送速度を調整することにより、積層体の昇温速度を任意に制御することが出来る。そのため、従来の真空バッチ炉よりも厳密な接合温度、接合時間の制御が可能となる。接合温度720~800℃で5~30分保持して接合すると、従来よりも低温、短時間で接合できるため、セラミックス基板と銅板の熱膨張率差に起因する接合後の残留応力が低減し、さらにAgの拡散も抑制され、耐熱サイクル特性が格段に向上する。接合温度を720℃以上とし、保持時間を5分以上とすることで、ろう材の溶融不足により接合ボイドが生じてしまうのを抑制することができる。接合温度を800℃以下とし、保持時間を30分以内とすることで、Agの拡散距離が長くなり、熱サイクル時にセラミックス基板にクラックが発生したり、銅板が剥離してしまうのを抑制することができる。耐熱サイクル特性を高めるためには保持時間が20分以下であることがより好ましい。接合後のセラミックス回路基板は接合炉から搬出され冷却される。連続加熱炉内の加熱設定温度を変更することで冷却速度を調整することもできる。
【0024】
このように非酸化性雰囲気中で連続的に接合することにより、真空引き工程のカット、昇温時間や冷却時間の短縮が可能となり、従来の真空バッチ炉方式と比べて格段に生産性が向上する。また、得られるセラミックス回路基板間の熱履歴に差が生じ難いために品質のばらつきも小さくなり、安定した製造が可能となる。
【0025】
本発明のセラミックス回路基板に使用するセラミックス基板は、絶縁性、放熱性に優れた窒化ケイ素基板、窒化アルミニウム基板が好ましい。セラミックス基板の厚みは特に限定されないが、1.5mm以下とすることで熱抵抗が大きくなるのを抑制し、0.2mm以上とすることで耐久性がなくなるのを抑制するため、0.2~1.5mmが好ましい。
【0026】
本発明のセラミックス回路基板に使用する銅板とは、銅または銅を成分として含む合金のことである。種類や厚みは特に限定されないが、ろう材との反応性や耐熱サイクル特性への影響から、純度は99.5%以上であることが好ましい。
【0027】
本発明に係るセラミックス回路基板の回路パターン形成方法は特に限定されるものではなく、セラミックス基板に接合した銅板に所望の回路形状をエッチングレジストでマスキングした後、不要な部分をエッチングして除去する方法や、あらかじめ回路形状が打ち抜かれた銅板をセラミックス基板に接合する方法などによって行うことができる。エッチング方法についても特に限定されるものではなく、塩化第二鉄溶液や塩化第二銅溶液、硫酸、過酸化水素水などのエッチング液が使用できる。中でも塩化第二鉄溶液や塩化第二銅溶液の使用が好ましい。エッチングによって不要な金属部分を除去したセラミックス回路基板には、塗布したろう材、その合金層、窒化物層などが残っており、ハロゲン化アンモニウム水溶液、硫酸、硝酸等の無機酸、過酸化水素水を含む溶液を用いてそれらを除去するのが一般的である。また、回路パターン形成後にエッチングレジストの剥離を行うが、剥離方法は特に限定されずアルカリ水溶液に浸漬させる方法などが一般的である。
【0028】
本発明のセラミックス回路基板の銅板表面には、必要に応じて無電解NiめっきやAuフラッシュめっき、置換型Agめっきなどを施すことができる。めっきを施さずに研削、物理研磨、化学研磨等によって表面平滑化した後、防錆剤を塗布することもできる。
【0029】
本発明のセラミックス回路基板は、厳しい信頼性が要求される車載用パワーモジュールへ適用することができる。
【0030】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。しかし、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0031】
実施例1
厚み0.32mmの窒化ケイ素基板に、Ag粉末(福田金属箔粉工業社製「AgC-BO」)88質量部及びCu粉末(福田金属箔粉工業社製「SRC-Cu-20」)12質量部の合計100質量部に対して、TiH粉末(大阪チタニウムテクノロジーズ社製「TSH-350」)を2.5質量部、Sn粉末(三津和薬品化学社製「すず粉末(-325mesh)」)を4質量部混合したろう材ペーストを塗布量8mg/cmとなるようにロールコーターで塗布した。その後、窒化ケイ素基板の一方の面に回路形成用銅板を、他方の面に放熱板形成用銅板(いずれも厚み0.8mmの無酸素銅板)を重ね、窒素雰囲気下のローラー搬送式連続加熱炉(開口部寸法W500mm×H70mm、炉長3m)へ投入した。搬送速度は10cm/分とし、表1に示す接合条件となるようにヒーターの設定温度を調整して窒化ケイ素基板と銅板を接合した。接合した銅板にエッチングレジストを印刷し、塩化第二銅溶液でエッチングして回路パターンを形成した。さらにフッ化アンモニウム/過酸化水素溶液でろう材層、窒化物層を除去した。
【0032】
得られたセラミックス回路基板について、以下の物性を測定した。評価結果を表1に示す。
(1)接合ボイド率:超音波探傷装置(日立エンジニアリングFS300-3)で観察されるセラミックス回路基板の接合ボイドの面積を計測し、銅回路パターンの面積で除して算出した。
(2)Agの拡散距離:セラミックス回路基板を切断し、樹脂包埋及び断面研磨を行った後、走査型電子顕微鏡にて倍率500倍で無作為に任意の視野(接合界面の水平方向に250μmの範囲)3箇所の反射電子像を撮影し、セラミックス基板表面と、銅板中で最も銅板表面に近いAgの位置の間の最短距離を測定した。
(3)熱サイクル後のクラック率:セラミックス回路基板を、ホットプレート上350℃にて5分、25℃にて5分、ドライアイス中で-78℃にて5分、25℃にて5分保持を1サイクルとする熱サイクルを連続で10サイクル実施した。その後、銅板、ろう材層及び窒化物層をエッチングにて除去し、セラミックス基板の表面に発生した水平クラックをスキャナーにより600dpi×600dpiの解像度で取り込み、画像解析ソフトGIMP2(閾値140)にて二値化し算出した後、水平クラック面積を回路パターン面積で除して算出した。
【0033】
実施例2~7、比較例2~10
接合雰囲気、400℃~700℃の温度域での加熱時間、接合温度、保持時間を表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にしてセラミックス回路基板を得た。測定結果を表1に示す。
【0034】
実施例8
Sn粉末を添加しないことと、接合温度と保持時間を表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にしてセラミックス回路基板を得た。測定結果を表1に示す。
【0035】
実施例9
TiH粉末の添加量を1.0質量部に変えたことと、400℃~700℃の温度域での加熱時間を表1に示すように変えたこと以外は実施例1と同様にしてセラミックス回路基板を得た。測定結果を表1に示す。
【0036】
比較例1
従来の真空雰囲気のバッチ炉での接合条件にて接合したこと以外は実施例と同様にしてセラミックス回路基板を得た。測定結果を表1に示す。
【0037】
比較例11
TiH粉末を添加しないこと以外は実施例1と同様にしてセラミックス回路基板を得た。
測定結果を表1に示す。
【0038】
比較例5、6、11では接合ボイド率が高く、熱サイクル時に銅板が剥離してしまったため、クラック率を正当に評価することができなかった。
【0039】
【表1】
【0040】
表1の測定結果より、本発明のセラミックス回路基板は接合ボイドが1.0%以下と低く、接合性に優れ、また、熱サイクル後のクラック率が1.0%以下と低く、耐熱サイクル特性に優れており、高性能なパワーモジュールを生産性良く提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のセラミックス回路基板は車載用パワーモジュールに好適に利用することができる。
図1
図2