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特許7144415フッ素ゴム組成物およびフッ素ゴム成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】フッ素ゴム組成物およびフッ素ゴム成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/16 20060101AFI20220921BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20220921BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C08L27/16
C08K3/30
C08K3/34
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019529945
(86)(22)【出願日】2018-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2018039768
(87)【国際公開番号】W WO2019087941
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2017213153
(32)【優先日】2017-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 圭太
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/038555(WO,A1)
【文献】特開2004-162022(JP,A)
【文献】特表2016-531992(JP,A)
【文献】特開平11-129398(JP,A)
【文献】国際公開第2015/072491(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/00-27/24
C08K 3/30
C08K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンからなるパーオキサイド架橋性三元系フッ素ゴム、
非補強性の充填剤
パーオキサイド系架橋剤、および
カーボンブラック
を含有するフッ素ゴム組成物であって、
前記三元系フッ素ゴムは、ムーニー粘度ML1+10(121℃)が10~35であり、
前記非補強性の充填剤は、硫酸バリウム、または硫酸バリウムおよびタルクであり、
前記三元系フッ素ゴムのムーニー粘度ML1+10(121℃)が20未満のとき、前記三元系フッ素ゴム100質量部に対して前記非補強性の充填剤を50~100質量部含有し、
前記三元系フッ素ゴムのムーニー粘度ML1+10(121℃)が20以上のとき、前記三元系フッ素ゴム100質量部に対して前記非補強性の充填剤を25~100質量部含有することを特徴とするフッ素ゴム組成物。
【請求項2】
前記非補強性の充填剤が硫酸バリウムおよびタルクであり、タルクをフッ素ゴム100質量部に対して20質量部以上含有することを特徴とする請求項1に記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項3】
アキュムレータのブラダ用またはダイヤフラム用である請求項1または請求項2に記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のフッ素ゴム組成物の架橋物からなるフッ素ゴム成形品。
【請求項5】
アキュムレータのブラダまたはダイヤフラムである請求項4に記載のフッ素ゴム成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素ゴム組成物および当該フッ素ゴム組成物を架橋してなるフッ素ゴム成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
アキュムレータとは、油圧系や空圧系の流体機器に使われる装置の一つであり、流体の圧力を利用して高圧流体をエネルギー源として蓄えておく装置である。代表的なアキュムレータとしてブラダ形アキュムレータがある。
【0003】
ブラダ形アキュムレータの内部にはゴム膜(ブラダ)等に封入した蓄圧気体(例、窒素)が充填されており、ポンプから吐出された余剰流体(作動油や空気や窒素などの気体)を弁などで封じ込めて蓄積しておく。その後、弁解放などによって出口を開放してやるとアキュムレータの中に入っていた流体が、蓄圧気体の膨張する力によって瞬間的に押し出されて放出される。このように余剰流体を蓄えておき、必要な時に放出することで、緊急動作時等のエネルギー源とすることができる。ブラダとは、蓄圧気体と流体とを分離するゴム製の隔膜のことである。
【0004】
上記のような機能を有していることから、アキュムレータ用ブラダには気体を封じ込めておくための優れたガス遮蔽性が求められる。また、アキュムレータ用ブラダには使用される液体に応じた優れた耐液性が求められる。
【0005】
そのため、アキュムレータ用ブラダには、一般的に耐液性およびガス遮蔽性に優れたフッ素ゴム組成物が適性を有している。
【0006】
例えば、特許文献1や特許文献2には、アキュムレータ用ブラダと類似の用途であるダイヤフラムにおいてフッ素ゴムが用いられていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-539528号公報
【文献】特表2014-517080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
大容量で寸法の大きいブラダを製造する方法として、ブラダの形状を分割して、各部品毎に架橋成形し、その後それらを接着してつないで一体化するという製造方法がある。しかし、工数やコストの面で課題を有している。そこで、流動性良好な未架橋生地を用いて架橋が起こらない温度で一体成形し、その後架橋するという製造方法を用いることが好ましい。
【0009】
未架橋生地の流動性を向上させるには、使用するゴムポリマーの溶融粘度を下げることが最も効果的であるが、相反して混練加工性が損なわれるという問題点がある。
【0010】
また、フッ素ゴムの架橋系としては、一般にポリオール架橋系が成形安定性が良好であるが、未架橋生地のスコーチタイムが経時的に短くなるという問題点があった。
【0011】
また、架橋ゴムシートのガス遮蔽性をさらに向上させるには、扁平な形状の充填剤を添加することが効果的であるが、混練加工性や生地流動性が損なわれるという問題点があった。
【0012】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、混練加工性、未架橋生地の流動性、未架橋生地の保管性および架橋ゴムのガス遮蔽性をバランス良く満足するフッ素ゴム組成物および当該フッ素ゴム組成物の架橋物からなるフッ素ゴム成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、フッ素ゴム組成物を構成する各成分について種々検討を加えた結果、以下のことを見出した。(1)フッ素ゴムの溶融粘度および充填剤を適正に設定することで、未架橋生地の流動性を大幅に低下させることなく混練加工性を向上させることができる。(2)フッ素ゴムの架橋系をパーオキサイド架橋系にすることで、スコーチタイムの変動を抑制し、未架橋生地の保管安定性を向上させることができる。(3)扁平な形状の充填剤としてタルクを使用し、その含有量を適正に設定することで、混練加工性および生地流動性を大幅に低下させることなく、ガス遮蔽性をさらに向上させることができる。本発明は、これらの知見に基づいて到達することができた。
【0014】
すなわち、本発明は以下のような構成を有している。
本発明のフッ素ゴム組成物は、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンからなるパーオキサイド架橋性三元系フッ素ゴム、非補強性の充填剤パーオキサイド系架橋剤、およびカーボンブラックを含有するフッ素ゴム組成物であって、前記三元系フッ素ゴムは、ムーニー粘度ML1+10(121℃)が10~35であり、前記非補強性の充填剤は、硫酸バリウム、または硫酸バリウムおよびタルクであり、前記三元系フッ素ゴムのムーニー粘度ML1+10(121℃)が20未満のとき、前記三元系フッ素ゴム100質量部に対して前記非補強性の充填剤を50~100質量部含有し、前記三元系フッ素ゴムのムーニー粘度ML1+10(121℃)が20以上のとき、前記三元系フッ素ゴム100質量部に対して前記非補強性の充填剤を25~100質量部含有することを特徴としている。
【0015】
また、本発明のフッ素ゴム組成物は、前記非補強性の充填剤が硫酸バリウムおよびタルクであり、タルクをフッ素ゴム100質量部に対して20質量部以上含有することが好ましい。
【0016】
また、本発明のフッ素ゴム組成物は、アキュムレータのブラダ用またはダイヤフラム用に適している。
【0017】
また、本発明のフッ素ゴム成形品は、前記のフッ素ゴム組成物の架橋物からなる。また、フッ素ゴム成形品は、アキュムレータのブラダまたはダイヤフラムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のフッ素ゴム組成物は、混練加工性、未架橋生地の流動性、未架橋生地の保管性およびガス遮蔽性をバランス良く満足している。また、本発明のフッ素ゴム成形品は、前記フッ素ゴム組成物と同様の特性を有している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明の範囲は、以下に説明する具体例としての実施形態に限定されるわけではない。
【0020】
本実施形態のフッ素ゴム組成物は、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンからなるパーオキサイド架橋性三元系フッ素ゴム(以下、「三元系フッ素ゴム」と記載する。)、非補強性の充填剤およびパーオキサイド系架橋剤を含有している。以下、本実施形態のフッ素ゴム組成物を構成する各成分について説明する。
【0021】
(三元系フッ素ゴム)
三元系フッ素ゴムは、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンの三元共重合体から構成されている。当該三元共重合体は、不飽和結合を有する3種類のフッ素系モノマーが共重合した三元共重合体であり、3種類のフッ素系モノマーの組成比を制御することによって、適切な耐液性、ガス遮蔽性、耐熱性、耐寒性等を付与することが可能である。
【0022】
三元系フッ素ゴムは、パーオキサイド(過酸化物)架橋性である。すなわち、パーオキサイドが熱分解したときに発生するラジカルによって架橋することが可能なゴムである。三元系フッ素ゴムにパーオキサイド架橋性を付与するために、三元共重合体の分子中の一部の水素原子をヨウ素原子や臭素原子で置換したり、ヨウ素や臭素を有するモノマーを共重合させたり、複数の不飽和結合を有するモノマーを共重合させている。
【0023】
フッ素ゴムの架橋系をパーオキサイド架橋系にすることで、フッ素ゴム組成物のスコーチタイムの変動を抑制し、未架橋生地の保管安定性を向上させることができる。
【0024】
三元系フッ素ゴムのムーニー粘度ML1+10(121℃)は、10~35とする。三元系フッ素ゴムのムーニー粘度を前記範囲とすることによって、フッ素ゴム組成物の混練加工性および未架橋生地の流動性をバランス良く満足させることが可能となる。
【0025】
三元系フッ素ゴムとして使用し得るフッ素ゴムとしては、例えば、ソルベイ社製のテクノフロン(登録商標)Pシリーズ、ダイキン工業社製ダイエル(登録商標)Gシリーズ(G-550、G-600等)、旭硝子社製アフラス(登録商標)、デュポン・ダウ・エラストマー社製バイトン(登録商標)、住友3M社製フローレル(登録商標)等を挙げることができる。
【0026】
フッ素ゴム組成物を構成するフッ素ゴムとしては、上記の三元系フッ素ゴム以外に、本発明の効果に支障をきたさない範囲内で、他の種類のフッ素ゴムを加えてもよい。他の種類のフッ素ゴムとしては、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-(パー)フルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-(パー)フルオロメトキシビニルエーテル共重合体等が挙げられる。
【0027】
(充填剤)
フッ素ゴム組成物には、取り扱い性向上や強度補強等のために、充填剤が配合される。充填剤は一般に、補強性の充填剤と非補強性の充填剤とに分類される。補強性の充填剤としては、例えば、カーボンブラック、シリカ等が挙げられる。非補強性の充填剤としては、例えば、硫酸バリウム、タルク、クレー、けいそう土、炭酸カルシウム、二酸化チタン、酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0028】
フッ素ゴム組成物に混練加工性、未架橋生地の流動性等を付与する観点から、非補強性の充填剤を配合することが必要である。上記の充填剤の中でも、特に硫酸バリウムは、フッ素ゴム組成物に添加しても他配合物の物性に影響を与えにくく、低溶融粘度のフッ素ゴムに添加することにより体積効果(コンパウンド中のポリマー分を減らす)によって混練装置からの排出性(混練加工性)を上げることができる。そのため、フッ素ゴム組成物の非補強性の充填剤として、硫酸バリウムを必須の成分として配合する。
【0029】
また、架橋ゴムシートのガス遮蔽性をさらに向上させるには、扁平な形状の非補強性の充填剤を添加することが効果的である。フッ素ゴム組成物に有効な扁平な形状の非補強性の充填剤としては、タルクが有用である。タルクは、フッ素ゴム組成物の混練加工性および生地流動性を大幅に低下させることなく、ガス遮蔽性をさらに向上させることができる。そのため、ガス遮蔽性をさらに向上させたいときは、非補強性の充填剤として、硫酸バリウムに加えてタルクを配合する。
【0030】
従って、非補強性の充填剤としては、硫酸バリウムのみとするか、または硫酸バリウムおよびタルクの混合物とする。非補強性の充填剤の含有量は、合計で、三元系フッ素ゴム100質量部に対して100質量部以下であり、80質量部以下が好ましい。また、ガス遮蔽性をさらに向上させたいときは、非補強性の充填剤として、タルクをフッ素ゴム100質量部に対して20質量部以上含有させることが好ましい。また、タルクの含有量は、フッ素ゴム100質量部に対して100質量部以下であることが好ましい。
【0031】
さらに、フッ素ゴム組成物の混練加工性および未架橋生地の流動性を改善する観点から、非補強性の充填剤の含有量を検討したところ、三元系フッ素ゴムのムーニー粘度に応じて非補強性の充填剤の含有量を変えることが好ましいことが判明した。すなわち、三元系フッ素ゴムのムーニー粘度ML1+10(121℃)が20未満のときは、三元系フッ素ゴム100質量部に対して非補強性の充填剤を50~100質量部含有させる。一方、三元系フッ素ゴムのムーニー粘度ML1+10(121℃)が20以上のときは、三元系フッ素ゴム100質量部に対して非補強性の充填剤を25~100質量部含有させる。三元系フッ素ゴムの溶融粘度が低いときは非補強性の充填剤の含有量を高目に設定し、三元系フッ素ゴムの溶融粘度が高いときは非補強性の充填剤の含有量を低目に設定することにより、フッ素ゴム組成物の加工性を適性化することができる。
【0032】
上記のように、フッ素ゴム組成物の溶融粘度および非補強性の充填剤を適正に設定することによって、未架橋生地の流動性を大幅に低下させることなく、混練加工性を向上させることができる。
【0033】
(パーオキサイド系架橋剤)
フッ素ゴム組成物には、架橋剤として、パーオキサイドが配合される。パーオキサイドには特に制限はなく、公知のものが使用できる。パーオキサイドとしては、例えば、ジt-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α'-ジ(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、t-ブチルクミルパーオキサイド、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、n-ブチル-4,4′-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレート等が挙げられる。パーオキサイドは、通常、前記三元系フッ素ゴム100質量部に対して、0.5~15質量部添加される。
【0034】
(フッ素ゴム組成物)
フッ素ゴム組成物には、架橋性やゴムとしての性能を向上させるために架橋助剤を添加してもよい。架橋助剤としては、公知のものが使用できるが、多官能性不飽和化合物が好ましい。多官能性不飽和化合物としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート、トリアリルトリメリテート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド等が挙げられる。架橋助剤は、通常、前記三元系フッ素ゴム100質量部に対して、0.1~10質量部添加される。
【0035】
フッ素ゴム組成物には、さらに必要に応じて、公知のゴム補強剤、可塑剤、軟化剤、老化防止剤、加工助剤、着色剤、分散剤、難燃剤、離型剤、摩耗性や成形性を改良させる少量の熱可塑性樹脂、ゴム、強度や剛性を向上させる短繊維などの添加剤を、適宜配合することができる。
【0036】
フッ素ゴム組成物の製造には、公知の製造装置を用いることができる。具体的には、ニーダー、バンバリーミキサー、インターミックス、プラネタリーミキサーなどの密閉式混練装置やオープンロールなどの開放式混練装置が使用される。
【0037】
(フッ素ゴム組成物の成形)
フッ素ゴム組成物の成形および架橋によって、架橋成形品を得るためには、公知の製造装置を用いることができる。具体的には、フッ素ゴム組成物は、射出成形機、圧縮成形機、架橋プレスなどによって所定形状のキャビティー内に投入され、適性な条件で加熱架橋されることによって、架橋成形品となる。また、必要に応じて二次架橋が施される。
【0038】
本実施形態のフッ素ゴム組成物は、アキュムレータのブラダ、ダイヤフラム等の用途に好適に用いることができる。
【実施例
【0039】
以下、実施例と比較例により本発明を説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【0040】
(フッ素ゴム組成物の原料)
フッ素系ゴムとして、以下のものを用いた。
(1)パーオキサイド架橋性三元系フッ素ゴム(フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンの三元共重合体):ムーニー粘度ML1+10(121℃):10
(2)パーオキサイド架橋性三元系フッ素ゴム(フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンの三元共重合体):ムーニー粘度ML1+10(121℃):21
(3)パーオキサイド架橋性三元系フッ素ゴム(フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンの三元共重合体):ムーニー粘度ML1+10(121℃):22.5
(4)パーオキサイド架橋性三元系フッ素ゴム(フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンの三元共重合体):ムーニー粘度ML1+10(121℃):35
(5)ポリオール架橋性三元系フッ素ゴム(化学構造フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンの三元共重合体):ムーニー粘度ML1+10(121℃):20
【0041】
パーオキサイド系架橋剤として、以下のものを用いた。
2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン:日油社製、パーヘキサ25B40
補強性の充填剤として、以下のものを用いた。
カーボンブラック:東海カーボン社製、シーストG-SO
非補強性の充填剤として、以下のものを用いた。
硫酸バリウム:堺化学工業社製、硫酸バリウム B-54
タルク:浅田製粉社製、SW-H
クレイ:バンダービルド社製、DIXIE CLAY
【0042】
(フッ素ゴム組成物と架橋シートの製造)
密閉式混練機(ニーダー)およびオープンロールを用いて、表1に記載の成分を配合・混練して、フッ素ゴム組成物の生地を調製した。得られたゴム生地から、プレス加工を行って、約2mm厚さの未架橋ゴムシートを作製した。その後、下記の架橋条件で架橋を行って、0.5mm厚のガス透過試験用の架橋ゴムシートを得た。
パーオキサイド架橋:未架橋生地を180℃で4分間プレス架橋し、その後200℃の雰囲気下で15時間保持した。
ポリオール架橋:未架橋生地を180℃で15分間プレス架橋し、その後150℃の雰囲気下で5時間保持した。
【0043】
<評価項目>
(1)混練加工性
密閉式混練機(ニーダー)で混練した後の排出性が良好であることを、合格の判断基準とした。○;ニーダーからの排出が良好のとき、×;ニーダーからの排出が不良のとき
【0044】
(2)生地保管性
架橋シートの製造作業時において、未架橋生地を放置した際に、スコーチタイムが短かくないことを、合格の判断基準とした。パーオキサイド架橋性の三元系フッ素ゴムは、スコーチタイムが長く、加工作業時において問題ないものであった。しかし、ポリオール架橋系の三元系フッ素ゴムは、スコーチタイムが短いため、加工作業時に一部硬化が始まり、使いづらいものであった。
【0045】
(3)生地流動性
未架橋生地をフローテスターを用いて、以下の条件で生地流動性Qmax(×10-2 [cm3/sec])を測定した。
フローテスター:島津製作所社製CFT500D
φ1mm×1mm、130℃、荷重50kgf、余熱120秒。
評価レベルは下記のとおりである。
○;Qmax≧10、△;1<Qmax<10、×;Qmax≦1
【0046】
(4)ガス遮蔽性
測定装置:GTRテック社製GTR-30XANO、JIS K-6275-1に準拠した。
60℃における窒素ガスの透過量を測定し、ガス透過係数(×10-10 [(cc・cm)/(cm2・sec・cmHg)])を算出した。
評価レベルは下記のとおりである。
○;ガス透過係数<4、△;4≦ガス透過係数≦6、×;ガス透過係数>6
【0047】
混練加工性と生地保管性は、性能の向上が望まれる項目であり、生地流動性とガス遮蔽性は、性能の維持が望まれる項目である。評価結果を表1に示した。尚、比較例1~6のガス遮蔽性は、測定していないので、「-」と記載した。評価レベルが○または△のとき合格と判断した。
【0048】
【表1】
【0049】
表1の評価結果から以下のことが分かった。実施例1~3の結果から、生地流動性の観点から、三元系フッ素ゴムのムーニー粘度ML1+10(121℃)は小さい方が好ましい結果であった。実施例1と比較例1~3との比較から、三元系フッ素ゴムのムーニー粘度ML1+10(121℃)が20未満のとき、混練加工性の観点から、非補強性の充填剤は50質量部以上必要であることが分かる。実施例6は、ムーニー粘度ML1+10(121℃)が20以上の三元系フッ素ゴムを用いたものであるが、混練加工性の観点から、非補強性の充填剤は25質量部以上必要であることが分かる。実施例1~3と実施例4~5との比較から、非補強性の充填剤としてタルクを併用すると、ガス遮蔽性がさらに向上することが分かる。
一方、比較例4~5では、非補強性の充填剤としてクレイを併用すると、混練加工性は改善されないことが分かる。比較例6は、ポリオール架橋性のフッ素ゴムを用いているが、生地保管性に劣っていることが分かる。