(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】二相ステンレス鋼物体の使用
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220921BHJP
C22C 38/44 20060101ALI20220921BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20220921BHJP
C21D 8/00 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C22C38/00 302H
C22C38/44
C21D6/00 102L
C21D8/00 E
(21)【出願番号】P 2019533528
(86)(22)【出願日】2017-12-18
(86)【国際出願番号】 EP2017083410
(87)【国際公開番号】W WO2018114867
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-10-19
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】キヴィサック, ウルフ
【審査官】岡田 眞理
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-050199(JP,A)
【文献】特開2014-114466(JP,A)
【文献】特開2012-188727(JP,A)
【文献】特開2012-224904(JP,A)
【文献】特開2005-194624(JP,A)
【文献】特開2015-063734(JP,A)
【文献】JISハンドブック鉄鋼I,財団法人日本規格協会,2007年01月19日,第1129-1131頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 6/00
C21D 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%(wt%)で:
C 0.03以下;
Si 0.5以下;
Mn 1.0以下;
Ni 5.0から7.0;
Cr 23.0から24.0;
Mo 2.5から4.5;
N 0.1から0.2;
P 0.03以下;
S 0.03以下;
Cu 0.3以下;
Al 0.10以下;
Fe及び不可避不純物である残部;
からなる二相ステンレス鋼を含む溶体化処理物体の海水用途における使用であって、二相ステンレス鋼が、方程式Cr+50N≦35を満たし
、40から60体積%の範囲のフェライト相含有量と、40から60体積%の範囲のオーステナイト相含有量とを有
し、35μm未満のオーステナイトスペーシングを有し、且つ少なくとも31のPREを満たし、PREがCr+3.3Mo+16Nと定義される、使用。
【請求項2】
Niの含有量が6.0から7.0wt%である、請求項1に記載の二相ステンレス鋼を含む溶体化処理物体の使用。
【請求項3】
Nの含有量が0.12から0.20wt%である、請求項1又は2に記載の二相ステンレス鋼を含む溶体化処理物体の使用。
【請求項4】
Moの含有量が2.8から4.0wt%である、請求項1から3のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼を含む溶体化処理物体の使用。
【請求項5】
Cuの含有量が0.2wt%以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼を含む溶体化処理物体の使用。
【請求項6】
二相ステンレス鋼が方程式Cr+50N≦34を満たす、請求項1から5のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼を含む溶体化処理物体の使用。
【請求項7】
二相ステンレス鋼が方程式Cr+50N≦33を満たす、請求項1から6のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼を含む溶体化処理物体の使用。
【請求項8】
物体が、バー、管、シームレス管若しくは溶接管、建築部品、プレート、シート、ストリップ又はワイヤーの形態である、請求項1から7のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼を含む溶体化処理物体の使用。
【請求項9】
物体が、以下の工程:
a.融解;
b.鋳造;
c.熱間加工;
d.冷間加工;
e.前記二相ステンレス鋼の再結晶化温度を上回る温度で実施される溶体化処理
を含む方法によって製造される、請求項1から8のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼を含む溶体化処理物体の使用。
【請求項10】
溶体化処理が1030~1150℃の範囲の温度で実施される、請求項9に記載の二相ステンレス鋼を含む溶体化処理物体の使用。
【請求項11】
海水用途における使用がカソードとしての使用である、請求項1から10のいずれか一項に記載の二相ステンレス鋼を含む溶体化処理物体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水用途における二相(フェライト-オーステナイト)ステンレス鋼から作製された物体の使用に関し、この物体は水素誘起応力腐食(HISC)に対して驚くほど優れた耐性を有する。
【背景技術】
【0002】
高温度ウェル上の海中コンポーネントに使用されている二相及び超二相ステンレス鋼の点食防止のための洋上カソード防食(CP)が、20年以上にわたって使用されてきた。カソード防食は、腐食電位を、金属の腐食率が大幅に低下するレベルまで下げることによる電気化学的保護と定義される。このように、カソード腐食は、金属表面を電気化学セルのカソードにすることにより、当該表面の腐食を低減する技術である。したがって、二相ステンレス鋼がカソードとなり、別の金属が陽極(通常Zn)となる。
【0003】
二相ステンレス鋼は、カソード防食と併用する材料として極めて優れた選択であるが、HISCとしても知られる水素誘起応力腐食割れに関連して過去数年間にいくつかの不具合が発生している。HISCは、応力、カソード防食システムの使用、及び繊細な微小構造を有する材料の使用の組み合わせに起因する非延性モードの故障であり、原子水素拡散により生じる。このような故障は、特に高負荷の適用時にこれら材料がHISCに起因して脆性割れを起こし易くなるため、二相ステンレス鋼の強度と延性に影響する。
【0004】
したがって、海水用途、特に二相ステンレス鋼がカソード防食に用いられる用途(二相ステンレス鋼がカソードとして機能する)において用いられる物体を製造するために用いられる二相(フェライトオーステナイト)ステンレス鋼のさらなる改良が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
したがって、本発明の一態様は、海水用途に用いられる、二相(フェライト-オーステナイト)鋼から作製された物体を提供する。この二相ステンレス鋼物体は、製造方法と併せて、水素誘起応力腐食(HiSC)に対して優れた耐性を提供する元素組成を有している。このように、本発明は、海水用途における、二相(フェライト-オーステナイト)ステンレス鋼で作製された溶体化処理物体の使用に関し、この物体は重量%(wt%)で以下の組成:
C 0.03以下;
Si 0.5以下;
Mn 1.0以下;
Ni 5.0から7.0;
Cr 22.0から26.0;
Mo 2.5から4.5;
N 0.1から0.2;
P 0.03以下;
S 0.03以下;
Cu 0.3以下;
Al 0.10以下;
Fe及び不可避不純物である残部;
を有し、二相ステンレス鋼が、CR 50N≦35の条件を満たし、二相ステンレス鋼が40から60体積%の範囲のフェライト含有量と、40から60体積%のオーステナイト含有量を有する。
【0006】
一実施態様によれば、このような物体の使用は、上記又は下記に定義される、例えばカソードなどの、カソード防食における二相ステンレス鋼合金の使用を含む。
【0007】
本発明の二相ステンレス鋼の元素組成と物体の製造方法とを最適化することにより、二相ステンレス鋼を含む物体は高い耐食性と優れた構造安定性を得る。したがって、本発明の二相ステンレス鋼は、この複合的な最適化により、下記に示すような複数の優れた特性の組み合わせを有することが分かった。
【0008】
このように、本発明は、高い耐食性、高い強度及び靭性を有する二相ステンレス鋼の物体を提供する。また、本発明の物体は、製造が容易で、良好な加工性を有し、例えば継目無チューブへと押出成形することができる。このような組成とその製造方法により、この物体は本質的にシグマ相を含まない(本質的にシグマ相が存在しない)。このことは、溶接中の腐食、脆性破壊、窒化物形成の問題が低減及び/又は除去されることを意味し、極めて有利である。
【0009】
上記又は下記で定義される本発明の物体を製造するための方法は、溶体化処理の工程を含まなくてはならない。溶体化処理は、物体が、上記又は下記に定義される二相ステンレス鋼の再結晶化温度を上回る温度で熱処理されることを意味する。
【0010】
ここで、本発明による二相ステンレス鋼の合金元素及びその組成範囲についてさらに記載する。
【0011】
炭素(C)は、二相ステンレス鋼に含まれる不純物である。Cの含有量が0.03wt%を超えると、粒子境界におけるクロム炭化物の沈殿に起因して耐食性が低下する。したがって、Cの含有量は、0.03wt%以下、例えば0.02wt%以下である。
【0012】
シリコン(Si)は、脱酸のために追加されうる元素である。しかしながら、過剰なSiはシグマ相などの中間相の沈殿を増加させ、したがってSiの含有量は0.5wt%以下である。
【0013】
マンガン(MN)は、ほとんどの二相ステンレス鋼において最大約1.0wt%のレベルで使用される。一つの重要な理由は、Mnが、不純物である硫黄に結合してMnSとなることができ、これが熱間延性に好ましいことである。したがって、この効果を得るために、Mnの含有量は1.0wt%以下である。
【0014】
ニッケル(Ni)は、オーステナイト安定化元素であり、フェライト相とオーステナイト相の間に所望の位相均衡を達成するために存在する必要がある。したがって、Niの含有量は、5.0から7.0wt%、例えば6.0から7.0wt%である。
【0015】
クロム(Cr)は、二相ステンレス鋼を腐食から保護する不動態酸化膜を形成するために必須であるので、二相ステンレス鋼において最も重要な元素である。また、Crの追加は、窒素(N)の溶解性を向上させる。Crの含有量が低すぎると、孔食抵抗が低下する。Crの含有量が高すぎると、HISCに対する耐性が低下する。
図1に示すように、HISC耐性と方程式Cr+50Nとの間には線形関係が見いだされた。このことは、上記又は下記で定義される二相ステンレス鋼内のHISCに対する耐性が、Cr及びN両方の含有量に関連していることを意味している。
図1に見ることができるように、CrとNが高すぎるとHISC に対する耐性は低下するであろう。したがって、Crの含有量は、22.0から26.0wt%、例えば23.0から24.0wt%である。
【0016】
モリブデン(Mo)は、二相ステンレス鋼の表面に形成された不動態酸化膜を安定させるうえで効果的な元素であり、また、応力腐食割れ及び孔食抵抗の向上にも有効である。Moの含有量が2.5wt%未満の場合、応力腐食割れ及び孔食抵抗は十分に高くない。Moの含有量が高すぎる場合、材料を壊れ易くする中間相が形成される危険がある。したがって、Moの含有量は、0.25から4.5wt%、例えば2.8から4.0wt%である。
【0017】
窒素(N)は、溶液硬化により二相ステンレス鋼の強度を高めるために効果的な元素である。Nの含有量が低すぎると、機械的特性及び孔食抵抗が低下するであろう。Nが高すぎると、HISCに対する抵抗が低下するであろう。
図1に示すように、HISC耐性と方程式Cr+50Nの間に線形関係が見られ、したがってNno含有量は、0.10から0.20wt%、例えば0.12から0.20wt%である。
【0018】
リン(P)は、二相ステンレス鋼に含まれる不純物であり、熱間加工性に悪影響を有することがよく知られている。したがって、Pの含有量は、0.03wt%以下、例えば0.02wt%以下に設定される。
【0019】
硫黄(S)は、二相ステンレス鋼に含まれる不純物であり、低温において熱間加工性を劣化させる。したがって、Sの許容可能な含有量は、0.03wt%以下、例えば0.02wt%以下である。
【0020】
銅(Cu)は、溶融物を作製するための出発材料としていずれのスクラップを使用するかに応じて、本発明の二相ステンレス鋼に含まれても含まれなくともよい任意選択的な元素である。Cuはそのようなものとして、二相ステンレス鋼の表面に形成された不動態膜を安定させることができ、低濃度で孔食抵抗と耐食性を向上させることができる。したがって、Cuの許容可能な含有量は、0.3wt%以下、例えば0.2wt%以下である。
【0021】
アルミニウム(Al)は脱酸性元素であり、任意で本発明の二相ステンレス鋼に含まれうる。Al含有量が0.10wt%を上回る場合、シグマ相などの中間相の形成が促進される。また、Alが0.10wt%を上回るレベルで追加される場合、AIN又はNiAlが形成されることがあり、これは機械的特性に影響を与えるであろう。したがって、上記又は以下に記載される特性を有する二相ステンレス鋼を得るために、Al含有量は0.10wt%以下である。
【0022】
驚くべきことに、Cr+50が35以下であるという方程式を満たす(方程式中、Cr及びNの量は重量%である)、上記又は下記に定義される二相ステンレス鋼を含む溶体化処理された物体が、HISCに対してより優れた耐性を有することが見出された(
図1参照)。これは、Crの含有量がNの含有量に関連していることを意味し、即ち上記又は下記に定義される二相ステンレス鋼中のCr及びNの含有量は低いことが分かる(他の既知の二相ステンレス鋼と比較した場合に)。一般的な知識では、HISCの感受性は、以前は二相ステンレス鋼の微細構造に起因しており、二相ステンレス鋼の化学組成には起因していなかったことから、CrとNの関係は予測不能であったことに注意されたい。さらに、このような用途に一般的に用いられる二相グレードは、25wt%のCr含有量と0,25wt%を上回るN含有量を有することが分かる。一実施態様によれば、Cr+50Nは、34以下、例えば33以下である。
【0023】
本発明によれば、上記又は下記に定義される二相ステンレス鋼を含む物体を製造するための方法は、海水用途に使用される前に溶体化処理の工程を含まなければならない。溶体化処理とは、物体が熱処理されることを意味し、この工程により、二相ステンレス鋼の微細構造が改善され、延性及び靭性が向上する。溶体化処理は、二相ステンレス鋼の再結晶化温度を上回る温度で実施されなければならない。一実施態様によれば、溶体化処理温度は1030℃から1150℃の範囲である。一実施態様によれば、溶体化処理に続いて空気中又は水中での急冷が実施される。溶体化処理は、冷間変形、例えば圧搾、屈曲、せん断、ピルガー又は延伸といった冷間加工の後で実施される。
【0024】
二相ステンレス鋼の微細構造は、フェライト系マトリックスに埋め込まれたオーステナイトの島を含む二相構造である。より密に充填されたオーステナイト相(FCC)は、構造内にフェライト系BCC構造より大きな空隙を有する。このような構造は、水素拡散及び水素溶解に関して意味を持つ。水素の拡散速度は、オーステナイト相と比較してフェライト相ではるかに高く、一方水素の溶解度はフェライト相よりオーステナイト相で高い。HISCに起因する亀裂がフェライト相でしばしば生じること、及びオーステナイト相が多くの場合亀裂防止剤として作用することが示されている。このため、本発明では、溶体化処理条件においてフェライト相とオーステナイト相がほぼ同量になるように、物体内で二相の分布を均衡させる。したがって、物体のフェライト相含有量は、オーステナイト相によって均衡されて、40から60体積%、例えば45から55体積%の範囲である。
【0025】
一実施態様によれば、例えば、熱間加工性、機械加工性などの加工性を向上させるために、例えば製造過程で、上記及び下記で定義される二相ステンレス鋼に他の元素を任意で追加することができる。そのような元素の例は、チタン(Ti)、カルシウム(Ca)、セリウム(Ce)、及びホウ素(B)である。追加される場合、このような元素は合計で最大0.5wt%の量である。一実施態様によれば、本発明による二相ステンレス鋼は、上記又は下記に定義される範囲内の、上記又は下記に定義されるすべての元素からなる。
【0026】
二相ステンレス鋼の残部は鉄(Fe)及び不可避不純物である。不可避不純物の例は、意図して添加されたのではない元素及び化合物であるが、例えば二相ステンレス鋼の製造のために使用される材料において不純物として通常生じるため、完全に避けることができない。
【0027】
オーステナイトスペーシング(オーステナイト領域間のフェライトの平均距離)及び粒径といった微小構造の特徴は、製造方法に影響される。オーステナイトスペーシングは、溶体化処理の熱処理の前に、熱間加工及び/又は冷間加工の度合いを高めることにより減少させることができる。オーステナイトスペーシングがより小さい二相ステンレス鋼は、より優れたHISC耐性を有する。一実施態様によれば、溶体化処理された状態において、上記又は下記に定義される二相ステンレス鋼のオーステナイトスペーシングは、35μm未満、例えば5~35μmの範囲、例えば5~20μmの範囲、5~15μmの範囲でありうる。
【0028】
ステンレス鋼の孔食抵抗及び隙間腐食抵抗は、主にCr、Mo及びNのwt%含有量によって決定される。この抵抗を比較するために使用される指標はPRE(孔食抵抗指数)であり、これはCr+3.3Mo+16Nと記述される。二相ステンレス鋼の場合、点食抵抗は、フェライト相及びオーステナイト相両方のPRE値に応じて決まる。このことは、最小のプレ値を有する相が、二相ステンレス鋼の局部耐食性の限界を設定することを意味する。したがって、一実施態様によれば、本発明による二相ステンレス鋼のPREは、少なくとも31、例えば少なくとも34でありうる。
【0029】
保証強さは、寸法を変化させずに材料を変形させることのできる負荷である。溶体化処理された状態での本発明による二相ステンレス鋼の保証強さ(Rp0.2)は、450~700MPaの範囲、例えば475~650MPaの範囲である。
【0030】
伸長性がより高いということは、延性がより高いことを意味し、このような特性は製造方法の形成において考慮される。したがって、本発明の一実施態様によれば、溶体化処理された状態の本発明による二相ステンレス鋼の伸長性(A)は、15~45%の範囲、例えば20~45%の範囲、例えば15~45%の範囲である。
【0031】
二相ステンレス鋼の物体は、従来の方法、即ち鋳造又は鍛造と、それに続く熱間加工及び/又は冷間加工、溶体化処理、及び任意で追加の熱処理により製造することができるか、又は例えば熱間等方圧加圧法(HIP)により粉体製品として製造することができる。本製造方法の重要な工程は、溶体化処理工程であり、これが最終的な微細構造を設定することになる。
【0032】
一実施態様によれば、上記又は下記に定義される二相ステンレス鋼を含む物体は、以下の工程を含む方法により製造される:
a.融解;
b.鋳造;
c.熱間加工;
d.冷間加工;
e.溶体化処理。
【0033】
二相ステンレス鋼物体は:バー、チューブ、継目無又は溶接チューブ、建築部品、例えばフランジ及びカップリング、プレート、シート又はストリップ、或いはワイヤーの形態でありうる。
【0034】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってさらに示される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】3wt%塩化ナトリウム(NaCl)中における4℃での定負荷、即ち二相ステンレス鋼が海水中に露出する環境をシミュレートしたHISC試験を開示している。
【実施例】
【0036】
異なる組成を有する五つの異なる溶融処理金属を、高周波誘導炉中において270kgの溶融処理金属として溶融し、9インチの型を使用してインゴットに鋳造した。表1は、使用した二相ステンレス鋼の組成を示す。本発明による実施例と比較実施例の両方を以下に示す。表1では、ポイントE1及びE2が本発明の実施例1及び2を表し、ポイントC1~C3が比較実施例1~3を表す。
【0037】
【0038】
鋳造後、型を取り外し、インゴットを1050℃で2時間保持してから水中でクエンチした。各インゴットから化学分析用の試料を採取した。化学分析を、X線蛍光分光法及びスパーク原子発光分光法と、燃焼技術とを用いて実施した。
【0039】
得られたインゴットを、ハンマーで130×60~70mmのビレットに鍛造した。鍛造に先立ち、インゴットを、1250-1280℃に加熱して2時間保持した。鍛造ビレットを、120×50mmのビレットに機械加工し、それをRobertson圧延ミルで10~12mmに圧延した。熱間圧延に先立ち、ビレットを1150℃~1220℃に加熱して1.5~2時間保持した。熱間圧延の後で、ビレットを1100℃~1120℃で10分間保持し、次いで空気中で900℃~950℃に冷却し、オイル中でクエンチした。二相ステンレス鋼ビレットを、厚さ7~8mmに冷間冷延し、次いで1000~1150℃での溶体化処理により熱処理し、その後空気中で冷却した。
【0040】
最終的な熱処理工程の後、4℃の3wt% NaCl溶液中において、分銅式圧力基準器による定負荷で、約1050mVSCEのカソード防食下でHISC試験を実施した。試験時間は、500時間又は故障までとし、負荷は保証強さと相関した。実験に先立ち、試料を、電流密度0.02A/cm2で水素を用いて定電流で充電した。
【0041】
HISC試験の結果を分析したところ、驚くべきことに、Cr及びN含有量の低い溶体化処理した二相ステンレス鋼がHISCに対してより優れた耐性を有することが分かった。
図1に示すように、4℃での保証強さ(Rp
0.2)に関するHISC試験において故障を生じない最大負荷間の線形関係と、方程式Cr+50Nに対する線形関係が観察された。
図1では、ポイントE1及びE2が本発明の実施例1及び実施例2を表し、ポイントC1~C3は比較実施例1~3を表している。よって、二相ステンレス鋼から作製された物体は、改善されたHISC耐性を有するために、Cr+50xNが35以下であるという方程式を満たさなければならない。
【0042】
さらに、溶体化処理された二相ステンレス物体を分析した。降伏強度を決定するために、室温で引張り試験(RP0,2及びRm)を実施した。伸長性(A)は、ISO6892-1に準拠して測定された。フェライト含有量は、ASTM E562に従って測定された。オーステナイトスペーシングは、DNV-RP-F112に従って測定された。これら実験の結果を表2に示す。
【0043】
【0044】
表2では、ポイントE1及びE2が本発明の実施例1及び2を表し、ポイントC1~C3が比較実施例1~3を表す。
【0045】
表3の結果に示されるように、本発明の二相ステンレス鋼から作製された溶体化処理物体は、極めて優れた機械的特性と腐食特性を備えた有利な微細構造を有する。これは、前記二相ステンレス鋼から作製された物体が、海水用途において、カソード防食により鋼表面に形成される水素の負荷/応力及び水素の侵入に耐えるであろうことを意味する。したがって、機器損傷のリスクが最小化される又は水素誘起応力腐食による重大な事故のリスクが、存在するとしても低下するため、二相ステンレス鋼物体の耐用年数が延びるであろう。