(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】神経活動をモニタするためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/377 20210101AFI20220921BHJP
A61B 5/293 20210101ALI20220921BHJP
A61B 5/374 20210101ALI20220921BHJP
A61N 1/36 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
A61B5/377
A61B5/293
A61B5/374
A61N1/36
(21)【出願番号】P 2019564887
(86)(22)【出願日】2018-05-21
(86)【国際出願番号】 AU2018050486
(87)【国際公開番号】W WO2018213872
(87)【国際公開日】2018-11-29
【審査請求日】2021-05-21
(32)【優先日】2017-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】PCT/AU2017/050809
(32)【優先日】2017-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】520083792
【氏名又は名称】ディープ・ブレイン・スティムレーション・テクノロジーズ・ピーティーワイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス・シンクレア
(72)【発明者】
【氏名】ヒュー・マクダーモット
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・ファロン
(72)【発明者】
【氏名】トゥシャラ・ペレラ
(72)【発明者】
【氏名】アーサー・ウェスリー・テヴァタサン
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・ブルース
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0150257(US,A1)
【文献】特表2007-534357(JP,A)
【文献】特表2008-506464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24-5/398
A61N 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経調節システムであって、
脳内の標的神経構造内またはその近くへの植込みに適合した少なくとも1つの電極を有するリード、
前記少なくとも1つの電極の1つ以上に選択的に連結される信号発生器であって、
前記少なくとも1つの電極のうちの1つまたは複数に第1の刺激を生成及び加えることであって、前記第1の刺激が第1の複数の刺激バーストを含む、前記第1の刺激を生成及び加えること、及び
前記少なくとも1つの電極のうちの1つまたは複数に第2の刺激を生成及び加えることであって、前記第2の刺激が第2の複数の刺激バーストを含む、前記第2の刺激を生成及び加えること
を行うように構成される、前記信号発生器、
前記少なくとも1つの電極の1つ以上に選択的に連結され、前記第1の刺激を加えている間の少なくとも一部に、前記脳に植込まれるときに前記少なくとも1つの電極の1つ以上で、神経活動から生成される約200Hzから約500Hzの高周波振動(HFO)を検出するように構成される測定装置、及び
前記測定装置に連結され、前記検出されたHFOの1つ以上の波形特性を判定するように構成された処理装置
を含み、
前記第2の刺激の1つ以上の波形特性は、前記HFOの前記1つ以上の波形特性に依拠する、前記システム。
【請求項2】
前記第1の複数のバーストは、
第1の期間に適用され、第1の波形特性を有する第1のバーストと、
前記第1の期間に続く第2の期間に適用され、第2の波形特性を有する少なくとも1つの第2のバーストと
を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記測定装置が、
前記脳に植込まれた前記少なくとも1つの電極の1つ以上で、前記第1の期間中に第1の高周波振動(HFO)を検出し、前記第2の期間中に少なくとも1つの第2のHFOを検出すること
を行うように構成される、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記HFOの前記1つ以上の波形特性が、前記第1のHFO及び少なくとも第2のHFOの1つ以上の波形特性を含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記HFOの前記1つ以上の波形特性が、以下の
a)周波数;
b)振幅;
c)周波数の変化率;
d)振幅の変化率;及び
e)帯域幅
のうちの1つ以上を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記第1の波形特性及び前記第2の波形特性は、以下の
a)周波数;
b)振幅;
c)パルス幅;
d)相間ギャップ
のうちの1つまたは複数を含む、請求項2または請求項2に従属する請求項3~5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記第1の複数のバースト及び/または前記第2の複数のバーストは、第1のパターン期間によって分離され、
各バーストは、第2のパターン期間によって分離された複数のパルスを含み、
前記第1のパターン期間は前記第2のパターン期間よりも大きい、
請求項1~6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記HFOの前記1つ以上の波形特性が、周波数の変化率を含み、
前記第2の刺激の前記1つ以上の波形特性の前記1つ以上の特性は、前記HFOの前記周波数の前記変化率を最大にするよう構成される、
請求項1~7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記処理装置が、さらに、前記検出されたHFOとHFOテンプレートの間の相関を判定することを行うように構成され、
前記第2の刺激は相関に基づいて生成される、または
前記処理装置が、さらに、前記HFOの前記1つ以上の判定された波形特性と1つ以上の所定の閾値との間の相関を判定することを行うように構成され、
前記第2の刺激は相関に基づいて生成される、
請求項1~8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記処理装置が、さらに、
前記第2の刺激を加えながら、前記脳に植込まれた前記少なくとも1つの電極の1つ以上での神経活動による高周波振動(HFO)を同時に検出すること、及び
前記第2の刺激を加えている間に前記検出されたHFOの1つまたは複数の第2の波形特性を判定すること
を行うように構成される、請求項1~9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記処理装置が、さらに、前記1つ以上の波形特性と1つ以上の第2の波形特性との間の共通の波形特性を比較することを行うように構成される、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記少なくとも1つの電極のうちの1つ以上が前記脳の標的神経構造に配置されていると判定されるまで、前記HFOの1つ以上の第2の波形特性を同時に判定しながら、前記第2の刺激を加えるステップが繰り返される、請求項10または11に記載のシステム。
【請求項13】
前記処理装置が、さらに
前記1つ以上の波形特性または前記1つ以上の第2の波形特性に基づいて、前記脳内の標的神経構造の治療的刺激に使用する前記少なくとも1つの電極のうちの前記1つ以上を選択すること、及び
前記少なくとも1つの電極のうちの選択された1つ以上を介して前記標的神経構造に治療的刺激を加えること
を行うように構成される、請求項10~12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記少なくとも1つの電極が複数の電極を含み、
前記HFOの1つ以上の第2の波形特性を同時に判定しながら、前記第2の刺激を加えるステップが、前記少なくとも1つの電極の異なる組み合わせを使用して、前記少なくとも1つの電極の前記異なる組み合わせのHFO活動のプロファイルを生成することを繰り返す、
請求項10~13のいずれか一項に記載のシステム
。
【請求項15】
前記HFOが約230Hz~約330Hzの間の周波数を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載のシステ
ム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2017年5月22日に出願されたオーストラリアの仮特許出願第2017901934号及び2017年8月2日に出願された国際特許出願PCT/AU2017/050809号からの優先権を主張する。
【0002】
本開示は、脳深部刺激療法(DBS)に関し、特に、DBS中に神経活動をモニタする方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
脳深部刺激療法(DBS)は、運動障害ならびに他の神経障害、例えばてんかん、強迫性障害、及び鬱病に対する確立された治療法である。DBSは、通常、薬剤だけでは症状を適切に制御できない患者に施される。DBSは、通常、視床下核(STN)、淡蒼球内節(GPi)、及び/または視床の脳の特定の神経構造内またはその近くに電極を外科的に植込むことを伴う。電極は通常体内に植込まれ、標的部位に電気パルスを送るように構成された神経刺激装置に接続されている。この電気刺激は、患者の症状と因果関係がある異常な脳活動を乱すと考えられている。刺激パラメータは、神経刺激装置に遠隔で接続された体外のコントローラを使用して調整できる。
【0004】
確立されたDBS技術は運動障害の症状を緩和するのに効果的であることが証明されているが、最先端のデバイスにはいくつかの制限がある。特に、X線イメージング、微小電極記録、臨床評価などの、DBS電極の脳内での正しい位置決めを確実にするための術中検査の確立された技術は、不正確になる可能性がある。その結果、電極は頻繁に最適以下の場所に植込まれ、治療結果が減少し、望ましくない副作用に至る。植込み後、DBS装置は臨床医による手動の調整が必要である。これには通常、臨床医が患者の症状の即時または短期的な改善の主に主観的な評価に基づいて刺激のパラメータを調整することが含まれる。治療効果の出現が遅く、DBSパラメータのスペースが大きいため、好ましいパラメータのセットを見つける作業は時間とコストの面で非効率的であり、最適以下の治療結果につながる可能性がある。さらに、従来のDBSを使用した電気刺激の恒常的な不変の適用は、DBS刺激装置のバッテリー寿命の短縮と同様に、望ましくない副作用を含む最適以下の治療結果につながる可能性がある。
【発明の概要】
【0005】
本開示の第1の態様によれば、脳の刺激に応答する神経活動をモニタする方法であって、
a.脳に植込まれた少なくとも1つの電極の1つ以上に第1の刺激を加えることであって、第1の刺激が第1の複数の刺激バーストを含む、第1の刺激を加えること、
b.第1の刺激を加えている間の少なくとも一部に、脳に植込まれた少なくとも1つの電極の1つ以上で、神経活動による高周波振動(HFO)を検出すること、
c.HFOの1つ以上の波形特性を判定すること、及び
d.第2の複数の刺激バーストを含む第2の刺激を生成することであって、第2の刺激の1つ以上の波形特性が、HFOの1つ以上の波形特性に依拠する、第2の刺激を生成すること、及び
e.脳に植込まれた少なくとも1つの電極の1つ以上に第2の刺激を加えること
を含む、方法が提供される。
【0006】
第1の複数のバーストは、第1の期間に適用され、第1の波形特性を有する第1のバーストと、第1の期間に続く第2の期間に適用され、第2の波形特性を有する少なくとも1つの第2のバーストとを含み得る。
【0007】
脳に植込まれた少なくとも1つの電極の1つ以上での神経活動によるHFOを検出することは、脳に植込まれた少なくとも1つの電極の1つ以上で、第1の期間中に第1の高周波振動(HFO)を検出し、第2の期間中に少なくとも第2のHFOを検出することをさらに含み得る。
【0008】
HFOの1つ以上の波形特性は、第1のHFO及び少なくとも第2のHFOの1つ以上の波形特性を含むことができる。
【0009】
HFOの1つ以上の波形特性は、以下の
a)周波数;
b)振幅;
c)周波数の変化率;
d)振幅の変化率;及び
e)帯域幅
のうちの1つ以上を含んでもよい。
【0010】
第1の波形特性及び第2の波形特性は、以下の
a)周波数;
b)振幅;
c)パルス幅;
d)相間ギャップ
のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0011】
複数のバーストのうちの1つまたは複数は、a)第1の位相と、第1の位相と反対の極性の第2の位相とを有する対称波形、及びb)第1の持続時間にわたって第1の振幅で第1の位相、及び第1の位相とは反対の極性の第2の位相を有する二相性波形であって、第2の位相が第2の振幅及び第2の持続時間を有し、第1の振幅と第1の持続時間の積は、第2の振幅と第2の持続時間の積に実質的に等しい二相性波形のうちの1つを含むことができる。
【0012】
第1の刺激及び/または第2の刺激は、治療的刺激または非治療的刺激であり得る。
【0013】
第1の複数のバーストは、第1のパターン期間によって分離されてもよく、第1の複数のバーストのそれぞれは、第2のパターン期間によって分離された複数のパルスを含む。第1のパターン期間は、第2のパターン期間よりも大きくてもよい。
【0014】
同様に、第2の複数のバーストは、第1のパターン期間によって分離されてもよく、第1の複数のバーストのそれぞれは、第2のパターン期間によって分離された複数のパルスを含む。第1のパターン期間は、第2のパターン期間よりも大きくてもよい。
【0015】
あるいは、第1のパターン期間は、第2のパターン期間に等しくてもよい。
【0016】
第1の複数のバーストの少なくとも1つ内の2つ以上のパルスは、異なる振幅を有し得る。
【0017】
第2の複数のバーストの少なくとも1つ内の2つ以上のパルスは、異なる振幅を有し得る。
【0018】
異なる振幅は、第1の複数のバーストまたは第2の複数のバーストのうちの少なくとも1つのバーストにおいて連続パルスの振幅のランプを生成するように選択されてもよい。
【0019】
第1の複数のバーストのそれぞれにおける最終パルスの振幅は、実質的に同一であってもよい。同様に、第2の複数のバーストのそれぞれにおける最終パルスの振幅は実質的に同一であり得る。
【0020】
第2の刺激の1つ以上の波形特性は、検出されたHFOの特性に依拠して構成される周波数を含んでもよい。
【0021】
周波数は、HFOの周波数を1、2、3または4で割った値に等しくなるように構成されてもよい。
【0022】
HFOの1つ以上の波形特性は、周波数の変化率を含むことができる。
【0023】
第2の刺激の1つ以上の特性は、HFOの周波数の変化率を最大にするように構成され得る。
【0024】
検出されるHFOの周波数は、200Hzから500Hzの間であることが好ましい。
【0025】
この方法は、検出されたHFOとHFOテンプレートの間の相関を判定すること、及び相関に基づいて第2の刺激を生成することをさらに含むことができる。
【0026】
この方法は、HFOの1つ以上の判定された波形特性と1つ以上の所定の閾値との間の相関を判定すること、及び相関に基づいて第2の刺激を生成することをさらに含むことができる。
【0027】
この方法は、HFOの判定された1つ以上の波形特性に基づいて、患者の患者状態を推定することをさらに含むことができる。
【0028】
この方法は、患者の状態の推定に基づいて患者を診断することをさらに含むことができる。
【0029】
この方法は、推定された患者状態に関連する1つ以上の警告を生成すること、及び1つ以上の警告を出力することをさらに含み得る。
【0030】
この方法は、第2の刺激を加えながら、脳に植込まれた少なくとも1つの電極の1つ以上での神経活動による高周波振動(HFO)を同時に検出すること、及び検出された第2の共振応答の1つまたは複数の第2の波形特性を判定することをさらに含むことができる。
【0031】
この方法は、HFOの1つ以上の第1の波形特性及びHFOの1つ以上の第2の波形特性に基づいて、患者に関連する疾患の進行の程度を推定することをさらに含み得る。
【0032】
この方法は、HFOの1つ以上の第1の波形特性及びHFOの1つ以上の第2の波形特性に基づいて、患者に提供される治療の効果を判定することをさらに含むことができる。
【0033】
治療法は、薬物及び脳深部刺激療法の1つ以上を含み得る。
【0034】
少なくとも1つの電極は、脳内の異なる神経構造内に配置される2つ以上の電極を備えてもよい。
【0035】
少なくとも1つの電極は、脳の異なる半球内に配置される2つ以上の電極を備えてもよい。
【0036】
この方法は、第2の刺激を加える間、HFOの1つ以上の第2の波形特性を同時に判定することをさらに含むことができる。
【0037】
この方法は、さらに、1つ以上の波形特性と1つ以上の第2の波形特性との間で共通の波形特性を比較することを含むことができる。
【0038】
この方法は、1つ以上の波形特性と1つ以上の第2の波形特性との間で共通の波形特性の変化の程度を比較することをさらに含むことができる。
【0039】
この方法は、1つ以上の波形特性と1つ以上の第2の波形特性との間で共通の波形特性の変化率を比較することをさらに含むことができる。
【0040】
少なくとも1つの電極のうちの1つ以上が脳の標的神経構造に配置されていると判定されるまで、HFOの1つ以上の第2の波形特性を同時に判定しながら、第2の刺激を加えるステップが繰り返され得る。
【0041】
この方法はさらに、1つ以上の波形特性または1つ以上の第2の波形特性に基づいて、脳内の標的神経構造の治療的刺激に使用する少なくとも1つの電極のうちの1つ以上を選択すること、及び少なくとも1つの電極のうちの選択された1つ以上を介して標的神経構造に治療的刺激を加えることを含むことができる。
【0042】
この方法は、所定の軌道に沿って脳内に少なくとも1つの電極を挿入することをさらに含むことができ、HFOの1つ以上の第2の波形特性を同時に判定しながら、第2の刺激を加えるステップが、少なくとも1つの電極が挿入されて脳の所定の軌道及び標的神経構造に関するHFO活動のプロファイルを生成している間に繰り返される。
【0043】
HFO活動のプロファイルは、標的神経構造に対する1つ以上の電極の位置を判定するために使用され得る。
【0044】
少なくとも1つの電極は、複数の電極を備えてもよい。その場合、HFOの1つ以上の第2の波形特性を同時に判定しながら、第2の刺激を加えるステップが、少なくとも1つの電極の異なる組み合わせを使用して、少なくとも1つの電極の異なる組み合わせのHFO活動のプロファイルを生成することを繰り返すことができる。
【0045】
この方法は、HFO活動のプロファイルに基づいて、少なくとも1つの電極の1つ以上を選択すること、及び少なくとも1つの電極のうちの選択された1つ以上に治療的刺激を加えることをさらに含むことができる。
【0046】
少なくとも1つの電極のうちの選択された1つ以上は、複数の電極を含むことができる。
【0047】
この方法は、さらに
e.脳の標的神経構造内またはその近くの少なくとも1つの電極の1つ以上での刺激によって誘発された標的神経構造からの共振応答を検出すること、及び
f.検出された共振応答の1つ以上の波形特性を判定すること
含むことができる。
【0048】
本開示のさらなる態様によれば、神経調節システムであって、
脳内の標的神経構造内またはその近くへの植込みに適合した少なくとも1つの電極を有するリード、
少なくとも1つの電極の1つ以上に選択的に連結される信号発生器であって、
少なくとも1つの電極のうちの1つまたは複数に第1の刺激を生成及び加えることであって、第1の刺激が第1の複数の刺激バーストを含む、第1の刺激を生成及び加えること、及び
少なくとも1つの電極のうちの1つまたは複数に第2の刺激を生成及び加えることであって、第2の刺激が第2の複数の刺激バーストを含む、第2の刺激を生成及び加えること
を行うように構成される信号発生器、
少なくとも1つの電極の1つ以上に選択的に連結され、第1の刺激を加えている間の少なくとも一部に、脳に植込まれるときに少なくとも1つの電極の1つ以上で、神経活動から生成される高周波振動(HFO)を検出するように構成される測定装置、及び
測定装置に連結され、検出されたHFOの1つ以上の波形特性を判定するように構成された処理装置
を含み、
第2の刺激の1つ以上の波形特性は、HFOの1つ以上の波形特性に依拠するシステムが提供される。
【0049】
第1の複数のバーストは、第1の期間に適用され第1の波形特性を有する第1のバーストと、第1の期間に続く第2の期間に適用され第2の波形の特性を有する少なくとも1つの第2のバーストとを含み得る。
【0050】
測定装置は、脳に植込まれた少なくとも1つの電極の1つ以上で、第1の期間中に第1の高周波振動(HFO)を検出し、第2の期間中に少なくとも1つの第2のHFOを検出することを行うように構成される。
【0051】
HFOの1つ以上の波形特性は、第1のHFO及び少なくとも第2のHFOの1つ以上の波形特性を含み得る。
【0052】
HFOの1つ以上の波形特性は、以下の
a)周波数;
b)振幅;
c)周波数の変化率;
d)振幅の変化率;及び
e)帯域幅
のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0053】
第1の波形特性及び第2の波形特性は、以下の
a)周波数;
b)振幅;
c)パルス幅;
d)相間ギャップ
のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0054】
複数のバーストのうちの1つ以上は、a)第1の位相と、第1の位相と反対の極性の第2の位相とを有する対称波形、及びb)第1の持続時間にわたって第1の振幅で第1の位相、及び第1の位相とは反対の極性の第2の位相を有する二相性波形であって、第2の位相が第2の振幅及び第2の持続時間を有し、第1の振幅と第1の持続時間の積は、第2の振幅と第2の持続時間の積に実質的に等しい二相性波形のうちの1つを含んでもよい。
【0055】
第1の刺激及び/または第2の刺激は、治療的刺激または非治療的刺激であり得る。
【0056】
第1の複数のバーストは、第1のパターン期間によって分離されてもよく、各バーストは、第2のパターン期間によって分離された複数のパルスを含む。追加または代替として、第1の複数のバーストは、第1のパターン期間によって分離されてもよく、各バーストは、第2のパターン期間によって分離された複数のパルスを含む。
【0057】
いずれの場合でも、第1のパターン期間は第2のパターン期間より大きくてもよい。あるいは、第1のパターン期間は、第2のパターン期間以上であってもよい。
【0058】
第1の複数のバーストの少なくとも1つ内の2つ以上のパルスは、異なる振幅を有し得る。追加的または代替的に、第2の複数のバーストの少なくとも1つ内の2つ以上のパルスは、異なる振幅を有し得る。
【0059】
異なる振幅は、第1の複数のバーストまたは第2の複数のバーストのうちの少なくとも1つのバーストにおいて連続パルスの振幅のランプを生成するように選択されてもよい。
【0060】
第1の複数のバーストのそれぞれにおける最終パルスの振幅は、実質的に同一であってもよい。追加的または代替的に、第2の複数のバーストのそれぞれにおける最終パルスの振幅は、実質的に同一であり得る。
【0061】
第2の刺激の1つ以上の波形特性は、検出されたHFOの周波数に依拠して構成される周波数を含むことができる。
【0062】
周波数は、第1のHFO及び/または第2のHFOの周波数を1、2、3または4で割った値に等しくなるように構成されてもよい。
【0063】
HFOの1つ以上の波形特性は、周波数の変化率を含み得る。第2の刺激の1つ以上の波形特性の1つ以上の特性は、HFOの周波数の変化率を最大化するように構成され得る。
【0064】
検出されているHFOの周波数は、好ましくは200Hzから500Hzの間である。
【0065】
システムは、さらに、検出されたHFOをHFOテンプレートと相関させること、及び相関に基づいて第2の刺激を生成することができる。
【0066】
処理装置は、さらに、検出されたHFOとHFOテンプレートとの間の相関を判定すること、及び相関に基づいて第2の刺激を生成することを行うように構成されてもよい。
【0067】
処理装置はさらに、HFOの1つ以上の判定された波形特性と1つ以上の所定の閾値との間の相関を判定すること、及び相関に基づいて第2の刺激を生成することを行うように構成されてもよい。
【0068】
処理装置はさらに、HFOの判定された1つ以上の波形特性に基づいて、患者の患者状態を推定することを行うように構成されてもよい。
【0069】
処理装置はさらに、患者の状態の推定に基づいて患者を診断することを行うように構成されてもよい。
【0070】
処理装置は、さらに、推定された患者状態に関連する1つ以上の警告を生成すること、及び1つ以上の警告を出力することを行うように構成されてもよい。
【0071】
処理装置は、さらに、第2の刺激を加えながら、脳に植込まれた少なくとも1つの電極の1つ以上での神経活動による高周波振動(HFO)を同時に検出すること、及び第2の刺激を加えている間に検出されたHFOの1つまたは複数の第2の波形特性を判定することを行うように構成されてもよい。
【0072】
処理装置は、さらに、HFOの1つ以上の第1の波形特性及びHFOの1つ以上の第2の波形特性に基づいて、患者に関連する疾患の進行の程度を推定することを行うように構成され得る。
【0073】
処理装置は、さらに、HFOの1つ以上の第1の波形特性及びHFOの1つ以上の第2の波形特性に基づいて、患者に提供される治療法の効果を判定することを行うように構成され得る。
【0074】
治療は、薬物または脳深部刺激療法であってよい。
【0075】
少なくとも1つの電極は、脳内の異なる神経構造内に配置される2つ以上の電極を備えてもよい。
【0076】
少なくとも1つの電極は、脳の異なる半球内に配置される2つ以上の電極を備えてもよい。
【0077】
処理装置は、さらに、第2の刺激を適用しながら、HFOの1つ以上の第2の波形特性を同時に判定するように構成されてもよい。
【0078】
処理装置は、さらに、1つ以上の波形特性と1つ以上の第2の波形特性との間で共通の波形特性を比較することを行うように構成されてもよい。
【0079】
処理装置は、さらに、1つ以上の波形特性と1つ以上の第2の波形特性との間の共通波形特性の変化の程度を比較することを行うように構成されてもよい。
【0080】
処理装置は、1つ以上の波形特性と1つ以上の第2の波形特性との間の共通波形特性の変化率を比較することを行うようにさらに構成されてもよい。
【0081】
少なくとも1つの電極の1つ以上が脳の標的神経構造に位置すると判定されるまで、HFOの1つ以上の第2の波形特性を同時に判定しながら、第2の刺激を加えるステップは、繰り返され得る。
【0082】
処理装置は、さらに、1つ以上の波形特性または1つ以上の第2の波形特性に基づいて、脳内の標的神経構造の治療的刺激に使用する少なくとも1つの電極の1つ以上を選択すること、及び少なくとも1つの電極のうちの選択された1つ以上を介して標的神経構造に治療的刺激を加えることを行うように構成され得る。
【0083】
処理装置は、さらに、所定の軌道に沿って少なくとも1つの電極を脳に挿入することを行うように構成でき、HFOの1つ以上の第2の波形特性を同時に判定しながら、第2の刺激を加えるステップが、少なくとも1つの電極が挿入されて脳の所定の軌道及び標的神経構造に関するHFO活動のプロファイルを生成している間に繰り返される。
【0084】
HFO活動のプロファイルは、標的神経構造に対する1つ以上の電極の位置を判定するために使用され得る。
【0085】
少なくとも1つの電極は、複数の電極を備えてもよい。その場合、HFOの1つ以上の第2の波形特性を同時に判定しながら、第2の刺激を加えるステップが、少なくとも1つの電極の異なる組み合わせを使用して、少なくとも1つの電極の異なる組み合わせのHFO活動のプロファイルを生成することを繰り返すことができる。
【0086】
処理装置はさらに、HFO活動のプロファイルに基づいて、少なくとも1つの電極の1つ以上を選択すること、及び少なくとも1つの電極のうちの選択された1つ以上に治療的刺激を加えることを行うように構成されてもよい。
【0087】
少なくとも1つの電極の選択された1つ以上は、複数の電極を備えてもよい。
【0088】
処理装置は、さらに、
e.脳の標的神経構造内またはその近くの少なくとも1つの電極の1つ以上での刺激によって誘発された標的神経構造からの共振応答を検出すること、及び
f.検出された共振応答の1つ以上の波形特性を判定すること
を行うように構成され得る。
【0089】
本開示のさらなる態様によれば、脳内の刺激に応答する神経活動をモニタする方法であって、
a.脳に植込まれた少なくとも1つの電極の1つ以上に第1の刺激を加えることであって、第1の刺激が第1の複数の刺激バーストを含む、第1の刺激を加えること、
b.第1の刺激を加えている間の少なくとも一部に、脳に植込まれた少なくとも1つの電極の1つ以上で、神経活動による高周波振動(HFO)を検出すること、
c.HFOの1つ以上の波形特性を判定すること、及び
d.第2の複数の刺激バーストを含む第2の刺激を生成することであって、第2の刺激の1つ以上の波形特性が、HFOの波形特性の1つ以上の波形特性に依拠する、第2の刺激を生成すること、及び
e.脳に植込まれた少なくとも1つの電極の1つ以上に第2の刺激を加えること
を含み、
第1の複数のバースト及び/または第2の複数のバーストは第1のパターン期間によって分離され、各バーストは第2のパターン期間によって分離された複数のパルスを含み、第1のパターン期間は第2のパターン期間より大きい方法が提供される。
【0090】
いくつかの実施形態では、第1の複数のバーストのうちの少なくとも1つ内の2つ以上のパルスは、異なる振幅を有する。追加的または代替的に、第2の複数のバーストの少なくとも1つ内の2つ以上のパルスは異なる振幅を有する。
【0091】
異なる振幅は、第1の複数のバーストまたは第2の複数のバーストのうちの少なくとも1つのバーストにおいて連続パルスの振幅のランプを生成するように選択されてもよい。
【0092】
第1の複数のバーストのそれぞれにおける最終パルスの振幅は、実質的に同一であり得る。追加的または代替的に、第2の複数のバーストのそれぞれにおける最終パルスの振幅は、実質的に同一であり得る。
【0093】
本開示のさらなる態様によれば、神経調節システムであって、脳内の標的神経構造内またはその近くへの植込みに適合した少なくとも1つの電極を有するリード、
少なくとも1つの電極の1つ以上に選択的に連結される信号発生器であって、
少なくとも1つの電極のうちの1つまたは複数に第1の刺激を生成及び加えることであって、第1の刺激が第1の複数の刺激バーストを含む、第1の刺激を生成及び加えること、及び
少なくとも1つの電極のうちの1つまたは複数に第2の刺激を生成及び加えることであって、第2の刺激が第2の複数の刺激バーストを含む、第2の刺激を生成及び加えること、
を行うように構成される信号発生器、
少なくとも1つの電極の1つ以上に選択的に連結され、第1の刺激を加えている間の少なくとも一部に、脳に植込まれるときに少なくとも1つの電極の1つ以上で、神経活動から生成される高周波振動(HFO)を検出するように構成される測定装置、及び
測定装置に連結され、検出されたHFOの1つ以上の波形特性を判定するように構成された処理装置
を含み、
第2の刺激の1つ以上の波形特性は、HFOのより多い波形特性の1つに依拠し、
第1の複数のバースト及び/または第2の複数のバーストは第1のパターン期間によって分離され、
各バーストは第2のパターン期間によって分離された複数のパルスを含み、
第1のパターン期間は第2のパターン期間より大きい、システムが提供される。
【0094】
いくつかの実施形態では、第1の複数のバーストのうちの少なくとも1つ内の2つ以上のパルスは、異なる振幅を有する。追加的または代替的に、第2の複数のバーストのうちの少なくとも1つ内の2つ以上のパルスは、異なる振幅を有し得る。
【0095】
異なる振幅は、第1の複数のバーストまたは第2の複数のバーストのうちの少なくとも1つのバーストにおいて連続パルスの振幅のランプを生成するように選択されてもよい。
【0096】
第1の複数のバーストのそれぞれにおける最終パルスの振幅は、実質的に同一であり得る。第2の複数のバーストのそれぞれにおける最終パルスの振幅は、実質的に同一であり得る。
【0097】
いくつかの実施形態では、検出されているHFOは、約200Hz~約350Hzの間の周波数を有し得る。
【0098】
いくつかの実施形態では、検出されているHFOは、約230Hz~約330Hzの間の周波数を有し得る。
【0099】
いくつかの実施形態では、HFOは、約250Hz~約300Hzの間の周波数を有し得る。
【0100】
これより図面を参照して、本開示の実施形態が非限定的な例により説明される。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【
図1】脳深部刺激療法(DBS)信号に応答する神経構造からの共振を示すグラフである。
【
図2】パターン化DBS信号に応答する神経構造からの共振を示すグラフである。
【
図3】DBS信号の10個の連続パルスに応答する誘発共振を示すグラフである。
【
図4】継続的なパターン化DBSに対する共振応答の振幅のピークの範囲及び分散を示すグラフである。
【
図5】
図5aは、継続的な非治療的パターン化DBS信号によって誘発される神経の共振を示すグラフの図示である。
図5bは、継続的な治療的パターン化DBS信号によって誘発される神経の共振を示すグラフの図示である。
図5cは、継続的な治療的DBS信号から非治療的DBS信号への移行後の神経の共振を示すグラフの図示である。
図5dは、非治療的DBS信号に応答する誘発共振の推定周波数を示すグラフである。
図5eは、治療的DBS信号に応答する誘発共振の推定周波数を示すグラフである。
図5fは、治療的DBS信号と非治療的DBS信号との間の移行に応答する誘発共振の推定周波数を示すグラフである。
【
図6】
図6aは、継続的な非治療的パターン化DBS信号によって誘発される神経の共振を示すグラフの図示である。
図6bは、継続的な治療的パターン化DBS信号によって誘発される神経の共振を示すグラフの図示である。
図6cは、継続的な治療的DBS信号から非治療的DBS信号への移行後の神経の共振を示すグラフの図示である。
図6dは、非治療的DBS信号に応答する誘発共振の推定周波数を示すグラフである。
図6eは、治療的DBS信号に応答する誘発共振の推定周波数を示すグラフである。
図6fは、治療的DBS信号と非治療的DBS信号との間の移行に応答する誘発共振の推定周波数を示すグラフである。
【
図7】
図7aは、1.5mAの振幅を有するパターン化DBSに応答して2つのピークに発散し始めた誘発共振を示すグラフである。
図7bは、2.25mAの振幅を有するパターン化DBSに応答して2つのピークに発散する誘発共振を示すグラフである。
図7cは、3.375mAの振幅を有するパターン化DBSに応答して2つの別個の誘発された共振ピークを示すグラフである。
【
図8】
図8a~
図8hは、脳深部刺激療法中に脳で記録された高周波振動のスペクトログラムである。
【
図9】
図9a~
図9hは、脳深部刺激療法中に脳で記録された高周波振動のスペクトログラムである。
【
図10】
図10a~
図10hは、脳深部刺激療法中に脳で記録された高周波振動のスペクトログラムである。
【
図11】脳への植込みのための電極リード先端の概略図である。
【
図12】脳の視床下核に植込まれた電極リードの概略図である。
【
図13】DBSを施すためのシステムの概略図である。
【
図14】脳内のDBS電極の位置を特定するプロセスを示すフロー図である。
【
図15】複数の電極での刺激に応答して、複数の電極での共振応答をモニタ及び処理するプロセスを示すフロー図である。
【
図16】
図12に示されるプロセスに従って、刺激信号に応答する脳に植込まれた異なる電極で測定された共振応答のグラフの図示である。
【
図17】
図12に示されるプロセスに従って、異なる電極に加えられる刺激信号に応答する、脳に植込まれた異なる電極で測定された共振応答のグラフの図示である。
【
図18】患者への投薬に基づいてDBS刺激信号のパラメータを判定するプロセスを示すフロー図である。
【
図19】患者への投薬に基づいてDBS刺激信号のパラメータを判定するためのプロセスを示すフロー図である。
【
図20】標的神経構造で誘発された共振に基づいて、閉ループフィードバックで刺激信号を生成するプロセスを示すフロー図である。
【
図21】脳内の神経活動からのHFOに基づいて、閉ループフィードバックで刺激信号を生成するプロセスを示すフロー図である。
【
図22】標的神経構造における誘発共振に基づいて、閉ループフィードバックで刺激信号を生成するための別のプロセスを示すフロー図である。
【
図23】
図17のプロセスによる誘発反応の共振活動特徴に対する治療的刺激期間と非治療的刺激期間との間の切り替えをグラフで示す。
【
図24】
図24aは、本開示の実施形態によるパターン化刺激信号を示す。
図24bは、本開示の実施形態による別のパターン化刺激信号を示す。
【
図25】脳内の神経活動からのHFOに基づいて閉ループフィードバックで刺激信号を生成するための別のプロセスを示すフロー図である。
【
図26A】DBS後の継続した15秒間にわたる200~400Hzのウォッシュアウト及び19の脳半球の最後の15秒間のプレDBSにおけるウォッシュアウトをグラフで示している。
【
図26B】DBS後の継続した15秒間にわたる200~400Hzのウォッシュアウト及び19の脳半球の最後の15秒間のプレDBSにおけるウォッシュアウトをグラフで示している。
【発明を実施するための形態】
【0102】
本開示の実施形態は、脳における神経刺激の改善に関する。DBS装置は通常、130Hzの一定周波数で脳の標的領域に一定振幅の刺激を加える。本発明者らは、そのような刺激の適用が脳の標的領域からの神経反応を誘発するだけでなく、神経反応が先行して認識されていない共振成分(誘発共振神経活動(ERNA))を含むと判定した。従来の周波数での継続的DBSでは、共振活動を観察するのに十分な長さの時間枠を確保できない。しかし、刺激が停止した後に神経刺激をモニタすることにより(刺激信号のパターン化などにより)、共振活動をモニタできる。本発明者らは、本発明の実施形態が、運動疾患に関連する身体的影響、ならびに他の神経学的状態、神経精神障害、感覚障害、及び疼痛の有害な影響の両方を低減する用途を有することに気付いた。
図1~
図7cは、測定されたERNAに対するパターン化刺激と非パターン化刺激の効果を示している。
【0103】
上記に加えて、本発明者らは、EEGやMEGの信号により測定される局所電場電位に反映されるようなニューロンの振動はまたDBSにより影響されることを認識した。特に、脳に植込まれたDBSの電極によって局所電場電位で測定される200~500Hzの範囲の高周波神経振動(HFO)がDBSの影響を受けるように見えることを、本発明者は見出している。この点に気付いたことにより、本発明者らは、測定されたHFOの特性に基づいて最適なDBS治療パラメータを選択する新しい技術を開発することになった。
図1は、パーキンソン病(PD)患者の視床下核(STN)に植込まれた、Medtronic(RTM)製の3387電極リードなどの電極リードを介して、神経刺激装置から供給される130Hzの信号によって刺激された神経回路からの応答をグラフで示している。刺激パルスへの各応答は、ECAP後に発生する誘発共振神経活動(ERNA)の成分とともに、誘発複合活動電位(ECAP)の成分を含む。ECAPは通常、刺激パルスの1~2ミリ秒以内に発生する。グラフは、その後に無刺激期間が続く、60秒間の継続刺激の最後の3つの連続パルスへの応答を示している。
図1に示す最初の2つの刺激パルスのそれぞれに対する誘発された共振応答は、次の刺激パルスの開始により短くカットされ、単一の二次ピークのみが検出されることが見て取れる。ただし、第3の(また最後の)パルスに対する誘発された共振応答は、より長く共振することができるため、約30ミリ秒の刺激後期間で少なくとも7つのピークの減衰振動の形で明確に見ることができる。
【0104】
上述のように、臨床医がDBSパラメータを制御及び調整して、患者の治療効果を引き出すことは知られている。本発明者らは、DBSパラメータを特定の方法で制御することにより、いずれの治療的影響をも与えず、または望ましくない副作用を引き起こすことなく、患者に共振神経反応(ERNA)を引き起こす非治療的刺激を与えられることに気付いた。このような非治療的刺激は、共振神経回路または患者の症状の状態を持続的に変化させることなく、信頼性の高いERNAの測定をするのに使用できる。非治療的刺激は、パルスの短いバーストとそれに続く刺激のない期間を含む刺激を施すことによって達成されることが好ましく、ERNAはこの刺激のない期間中に測定される。そうすることで、患者に提供される総電荷またはエネルギーは治療閾値を下回り、測定されたERNAは患者の自然の状態(治療なし)に関する情報を提供する。代替実施形態では、刺激信号の振幅を治療閾値未満に減少させることにより、患者に提供される全体的な電荷またはエネルギーを減少させることができる。ただし、そうすると、また、ERNAのピークの振幅が小さくなり、観測が困難になる場合がある。
【0105】
上記に加えて、本発明者らは、パターン化刺激を使用して、患者の治療的刺激中に誘発された共振神経活動をモニタ及び分析できるということを判定した。刺激信号をパターン化することにより、最初の共振ピークを過ぎた共振応答、またはより好ましくは2つ以上の共振ピークを過ぎた共振応答をモニタする時間枠を提供しながら、治療的刺激を維持することができる。
【0106】
図2は、本開示の実施形態による、例示的な治療的パターン化DBS刺激20及び関連する誘発共振応答をグラフで示す。パターン化刺激20は、刺激と反応の間の相関関係を示すべくグラフの上方に示されている。パターン化刺激では、他においては継続している130Hzのパルス列から単一のパルスが省略されている。したがって、パルス列は、継続刺激のパルスの複数のバーストを含んでおり、各バーストが第1の期間t
1により分離され、複数のパルスの各々が第2の期間t
2により分離されている。あるパルス(または2つ以上のパルス)を省く前後で刺激を継続させることが、DBSの治療上の性質を維持させるが、パルスを省くことは、次の刺激パルスがその共振を中断する前、複数(この例では3つ)の共振サイクルにわたってERNAの共振をモニタできるようにする。
【0107】
要約すると、非治療的刺激及び治療的刺激をパターン化することにより、誘発反応は、従来の非パターン化刺激の場合よりも長期間にわたってモニタすることができる。したがって、刺激は、好ましくは複数のパルスのバーストで適用され、各バーストは無刺激の第1の期間t1により分離され、各パルスは第2の期間t2により分離される。例えば、刺激信号は、130Hzで一連の10パルスのバーストを含み得る。結果の再現性を高めるために、所定期間無刺激にした後にマルチパルスバーストを繰り返してもよい。例えば、マルチパルスバーストを毎秒繰り返してもよい。第1の期間t1の持続時間は、第2の期間t2の持続時間よりも長い。バーストの持続時間とバースト間の持続時間の比率は、ERNAの関連する特性を簡単かつ効率的にモニタできるように選択できる。いくつかの実施形態では、各バーストの持続時間は、バースト間の無刺激の持続時間の1%から20%の間になるように選択される。
【0108】
他の実施形態では、各バーストの持続時間は、測定されたERNAに対する刺激の影響を最小化するために、または測定されたERNAの特定の特徴を強調するために選択され得る。
図3は、130Hzでの10パルスの適用がERNAにどのように影響し得るかをグラフで示している。最初のパルスに対する応答には、幅の広い低振幅の最初のピークがある。最初のピークは、後続のパルスに対してより大きく、より鋭くなるが、またより早い時間にシフトする。いくつかの実施形態では、バーストに含まれるパルスの最適な数は、バースト(例えば、第4のパルス)全体のERNAのピークの時間のシフトを最小限に抑えながら、共振の振幅を最大化するように選択することができる。他の実施形態では、バーストにおける継続するパルスにわたるERNAの特徴の変化率(例えば、振幅、開始の遅れ)を定義特性として使用することができる。例えば、バースト全体の変化率は、電極の位置、最適パラメータ、患者の状態などを判定するために、及び/または閉ループ制御信号として使用することができる。
【0109】
バースト(例えば10パルス)刺激を使用すると、高振幅誘発神経応答がもたらされ、より継続的なDBSに対する応答よりも、測定が容易になる。
図4は、より継続的なDBSに応答するERNAの最初のピーク振幅の範囲と分散をグラフで示しており、それにおいては1秒ごとに1パルスがスキップされ(左)、またバーストDBS(右)である(1秒あたり10パルスのみ)。バーストDBSに応答するERNAの平均ピーク振幅は約310μVであるが、より継続的なDBSに応答するERNAの平均ピーク振幅は約140μVである。さらに、バースト刺激を使用することにより、いくつかの振動サイクル(20ミリ秒以上)にわたる誘発された共振応答をモニタできることが見て取れる。
【0110】
ERNAの特性を分析することにより、本発明者らは、ERNAの波形特性(固有振動数、減衰係数、エンベロープ、微細構造、開始の遅れ、変化率など)は、患者の様々な生理学的状態に依拠していると判定した。例えば、治療的DBSは目的の神経回路の共振周波数を低下させることがわかっている。
【0111】
図5a、
図5b、及び
図5cは、非治療的刺激間のERNA(
図5a)、治療的刺激間のERNA(
図5b)、及び治療的刺激から非治療的刺激への刺激移行後のERNA(
図5c)の周波数の変動を示す。ERNAの2ピークの最大値の間における時間の遅れの逆数を計算することにより、ERNAの共振周波数を測定した。他の実施形態では、共振周波数は、ERNAの検出されたすべてのピークの最大値の間における時間の遅れの平均の逆数として計算してもよい。さらなる実施形態では、共振周波数は、減衰振動子モデルを共振活動に適合させて、固有周波数を抽出することにより、またはスペクトル分析(例えば、フーリエ変換、ウェーブレット変換)を実行することにより計算され得る。この目的のために、波形のゼロ交差間の時間を推定する、波形の他の特徴を使用するなどの、周波数を推定する他の手法も使用できる。
【0112】
示される例で、パターン化刺激が、
図1及び
図2を参照しながら説明されたのと同じ方法で患者に投与された。
図5a及び
図5bは、パターン化された非治療的及び治療的DBS刺激に対する応答をそれぞれ示す。この例では、非治療的刺激は、残りの120パルス(継続刺激中に存在する)をスキップして、1秒の期間にわたって130Hzの周波数で供給される10パルスのバーストからなっていた。応答の典型的な観測可能な枠(継続(パターン化されていない)DBSの間)は、水平の点線で示している。パターン化された非治療的刺激では、ERNAの振幅と周波数は比較的一定のままであることがわかり、刺激が経時的に標的の神経構造の共振の状態に強く影響しなかったことを示している。さらに、ERNAの2つの共振ピーク(黒で表している)が、非パターン化刺激の典型的な観測可能な枠で見ることができる。次いで、
図5bは、残りの1パルスがスキップされ、3.375mAでの治療的パターン化DBS刺激に対する応答を示しており、それにおいては130Hzの速度で毎秒129パルスが供給されている。
【0113】
治療信号は、ERNAの周波数を低下させ、ひいては、継続的な(パターン化されていない)刺激のために、典型的に観察可能な枠の外側にERNAの第2の共振ピークを移動させる潜在可能性がある。しかし、1つ以上のパルスをスキップして刺激をパターン化することにより、刺激パルスが省略されている期間中の後続のピークとともに、ERNAの共振特性を測定し続けることができる。さらに、第3及び第4の共振ピークの振幅は、非治療的応答と比較して増加していることがわかる。
【0114】
単に周期的なパルス列のパルスを省くのではなく、むしろ刺激をパターン化する代替的な方法は、ERNAのモニタリングを改善する可能性がある。例えば、パルスの振幅は経時的に変調させることができ、例えばバースト内のいくつかのパルスにわたってパルスの振幅を増加させるためのランプ、及び/またはバースト内のいくつかのパルスにわたってパルスの振幅を減少させるためのランプを適用することが挙げられる。ERNAのモニタリングを強化するには、観測枠に先行するパルスに固定の振幅を適用することが有利な場合があり、その振幅が他の時間に適用される振幅と異なる場合(例えば、治療効果を最大化するため)、ランプの振幅にランプを適用して振幅の急激なステップ状の変化を避けることが有利であり得る。
【0115】
次に、
図5cは、非治療的パターン化刺激に切り替えて戻した後の応答を示す。この場合、パターン化された治療的刺激の治療効果は「洗い流され」、ERNAはベースラインの状態に戻る。すべての条件(通常、従来の継続的DBSを使用して測定できるものすべて)での共振活動の最初のピークは、治療的DBSによって大きくは変動しないことがわかる。ただし、刺激のパターン化によって測定可能になったERNA波形の後続部分の特性は、周波数と振幅のはるかに大きい変化を呈する。したがって、より長い期間にわたって応答をモニタすることにより、周波数、振幅、エンベロープ、及び経時変化する振動の微細構造に関する情報を分析できるようになる。
【0116】
この効果は、
図5d、
図5e、及び
図5fによってさらに説明される。
図5dは、非治療的刺激の期間中のERNAの共振周波数が約400~450Hzであることを示している。
図5eに示すように、臨床的に有効な刺激(患者の疾患の症状を積極的に軽減するように動作可能な刺激)はERNAの周波数を約300~350Hzに減らす。
図5fは、治療的刺激が非治療的刺激に置き換えられた後、300~350Hzから約400~450Hzに戻る共振周波数の移行を示している。
【0117】
図6a、
図6b、及び
図6cは、非治療パターン刺激の間のERNA(
図6a)、治療パターン刺激の間のERNA(
図6b)、及び治療的刺激から非治療的刺激に移行した後のERNA(
図6c)の変動のある、異なる患者から得た別の例を示す。この例では、
図5a~
図5eを参照しながら説明したのと同じ方法で、パターン化刺激を患者に与えた。前の例と同様に、初期の非治療的刺激(
図6a)はERNAに目立った変化を引き起こさないこと、及び治療的刺激(
図6b)は共振の周波数の低下を引き起こし、刺激が非治療的パターン刺激に移行して戻った(
図6c)後、ベースラインレベルに戻ることが見て取れる。ただし、この例では、治療的刺激による共振周波数の変化は、各刺激パルスと共振の開始との間の遅れの増加が伴っている。開始の遅れのこの増加により、第2の共振ピークがシフトし、従来の(パターン化されていない)DBSの典型的な観測可能枠の外部で発生する。刺激をパターン化することにより、測定枠は3つの共振ピークを観察するのに十分な長さになり、ERNAを特徴づけることを可能にする。さらに、前の例とは異なり、共振の振幅は治療的刺激によって減少する。
【0118】
図6d、
図6e、及び
図6fは、この例における治療的刺激による共振周波数の低下をさらに示している。ERNAの2つのピークの最大値の間における時間の遅れの逆数を計算することにより、共振周波数を推定した。
図6dでは、非治療的パターン刺激を使用して測定されたERNAの周波数は約350Hzであることがわかる。
図6eの治療パターン刺激を適用することにより、周波数は約250Hzに低下する。周波数は、非治療パターン刺激に移行して戻った後、
図6fのベースラインレベルに戻っていることがわかる。
【0119】
本発明者らは、加えられた刺激に対する誘発神経反応が共振活動を示すだけでなく、いくつかの例では誘発された活動が複数の共振を含んでいると判定した。
図7a、
図7b、
図7cは、それぞれ1.5mA、2.25mA、3.375mAの継続的DBSに応答したERNAを示している。1.5mAでは、共振ERNAは単一のピークとして始まり、それがわずかに分岐し始めて2つのピークになることがわかる。2.25mAでは、優位性は2つのピークのうちの遅い方に切り替わる。しかし、1.5mAで支配的だった初期のピークは、より低い振幅で続く。3.375mAでは、2つのピークが存在し、後ろ側のピークが優勢である。これらの複数の共振ピークは、異なる神経回路の活動に対応していると考えられている。これらの共振応答(または時間的特性やスペクトル特性などの他の特徴)間の相対的な振幅は、治療の状態の指標となり得る。
【0120】
刺激された神経回路の共振挙動の変化と、患者の疾患の症状との間の相関の特定は、DBS療法の諸側面を改善するいくつかの機会を提示する。DBS治療の進行中に、DBS刺激のパラメータを設定し、フィードバックを使用してDBSパラメータをリアルタイムで調整する技術と共に、DBS電極の初期の植込み及びその後の再配置のための技術を含むが、これらに限定されない。
【0121】
前の数段落では、DBSと誘発された共振神経活動の間の関係、すなわちDBSによって誘発された共振応答の分析を提示している。しかし、本発明者らは、DBSが脳内の自発的な神経活動、特に局所電場電位(LFP)で測定可能な高周波振動(HFO)に影響を及ぼし得ることも認識した。
【0122】
DBS刺激中にHFOをモニタする以前の試みは困難であることが証明された。記録装置の品質が比較的低いため、これまで、刺激から生じる局所電場電位の記録にアーティファクトが存在していた。その結果、これまでHFOは脳深部刺激療法中に特徴付けられず、運動疾患の治療にも使用されずにいた。
【0123】
本発明者らは、DBSを使用して施される患者の治療に影響を与えることなく、DBS刺激波形の特性を操作することにより、記録された局所電場電位のアーティファクトを低減できることに気付いた。特に、局所電場電位の記録中に、非対称の刺激のより長い持続時間の低振幅部分に関連する電荷が、記録用電極から受信した電気信号を処理するために使用される装置と結合することが見出されている。特に、この電荷の結合により、記録アンプ(複数可)が非線形状態で動作し、不正確な測定と前述のアーティファクトが生じる。
【0124】
本発明者らは、対称DBS刺激を使用することにより、局所電場電位におけるHFOの視認性を高めるために、電荷結合の事例を減らすことができることを見出した。理想的ではないが、同様の効果はまた、第1の持続時間で第1の振幅の第1の位相と、第1の位相とは逆極性で、第2の位相と第2の持続時間を備える第2の位相とを備え、第1の振幅と第1の持続時間の積が第2の振幅と第2の持続時間の積に実質的に等しい二相性刺激波形を使用することによって、達成させることができる。そうすることで、波形の第1の位相と第2の位相の電荷は、等しくて反対になる。一実施形態では、第2の位相が振幅の半分であり、第1の位相の持続時間の2倍である二相性刺激波形を使用することができる。別の実施形態では、第2の位相が第3の振幅であり、第1の位相の持続時間の3倍である二相性刺激波形を使用することができる。
【0125】
さらに、以下でより詳細に説明するように、パターン化DBS刺激を使用してHFOの可視性を高め、DBS刺激パラメータの設定、DBS電極の配置の誘導、治療及び疾患進捗の追跡に使用できるようにすることができ、閉ループのDBS刺激の制御を促せる。
【0126】
新規のDBS刺激技術を使用して、HFOの正確な記録が取得された。HFOの特性を分析することにより、本発明者らは、HFOの波形特性(固有周波数、帯域幅、振幅、周波数及び/または振幅の変化率など)が患者の様々な生理学的状態に依拠すると判定した。例えば、治療的DBSにより、脳のHFO活動が特定の患者固有の周波数に向かう傾向があることがわかっている。また、HFOがDBSによって駆動される周波数は、DBSの刺激波形の周波数とは無関係であることが見出されている。実際、一般的な患者の脳に異なる周波数のDBS刺激を適用すると、HFOの活動が同じ周波数へと駆動されることが見出されており、一定期間DBSを適用した後、患者の総神経脳活動が振動する固有周波数が存在することを示している。本明細書では、HFO活動傾向のこの周波数を、HFO特性周波数と称する。
【0127】
図8a~
図8hは、測定されたHFO周波数に対する変動のあるDBS刺激振幅の効果を示す一連のスペクトログラムによりこの活動を示している。
【0128】
患者は、患者の視床下核(STN)に植込まれた、Medtronic(RTM)により製造された3387電極リードのような電極リードを介して、神経刺激器から供給される二相性対称パルス波形を含む130Hzのパルス列により刺激された。パルス幅は位相ごとに60μsであった。刺激の振幅は、各スペクトログラムの上部に示されているように、0A~3.375mAの間で段階的に変化した。約1秒の非常に短い刺激のギャップ(刺激なしの期間)が各振幅条件の間の刺激に存在していた。各スペクトログラムでは、縦軸はヘルツ単位の周波数に対応し、横軸は秒単位の時間に対応する。HFOを含む測定された局所電場電位は、各スペクトログラムで明るい色調で示される。色調が白くなるほど、特定の周波数と時間で電極において受信される信号が強くなる。
【0129】
図8aは、ゼロ刺激期間中の測定された局所電場電位を示すスペクトログラムである(秒単位の時間にわたる、ヘルツ単位の周波数範囲にわたるHFO活動)。
図8b及び
図8hは、非治療的パターン化DBSの間のHFO活動を示すスペクトログラムである。
図8c~
図8gは、治療的DBSの間のHFO活動を示すスペクトログラムである。
【0130】
刺激のない期間(
図8aに示される)及び非治療的刺激の期間(
図8b及び
図8hに示される)に、HFO活動の非常にかすかな領域が、それぞれのスペクトログラムに示されているように記録されたことがわかる。この活動は、約230Hz~330Hzという周波数の範囲に広がっている。
【0131】
0.667mAでの治療的DBSの開始により、
図8cに示されるように、HFO活動の非常に強い記録が得られており、特定の周波数(この場合130Hz)でのDBSの適用が、記録された局所電場電位でのHFOの視認性を高めることを示唆している。さらに、0.667mAでの治療的DBSの適用は、30秒後に約260Hzから270Hzでプラトーに達するHFO周波数の経時的な下降傾向を引き起こす。HFO活動周波数(HFOの特徴的な周波数)のこのプラトーは、患者の運動疾患に関連する疾患関連の身体的影響の減少と相関することがわかっている。
【0132】
図8d、
図8e、
図8f及び
図8gに示されるように、1mA、1.5mA、2.25mA、及び3.375mAの振幅を有するDBSの適用中に、経時的なHFO周波数の低下も観察され、それらにおいてはHFO活動の周波数が約260Hzのほぼ同じHFO特性周波数に減少することが見られる。
【0133】
図8c~
図8gのスペクトログラムはまた、記録されたHFO活動の周波数の変化率が振幅の増加とともに増加することを示し、より高い振幅のDBSによりHFO活動がより迅速にその最終的な周波数に到達することを示唆している。ただし、
図8gは、DBS振幅が増加して閾値を超えると、より低いDBS振幅でのHFO活動と比較したとき(
図8c及び
図8dなど)、HFO活動が抑制されることを示している。これは
図8gに例示されており、3.375mAで刺激中のHFO活動がHFO活動の可視性を低下させることを示している。
【0134】
このデータを使用して、治療のための最適な刺激振幅を特定することができる。例えば、振幅は、HFOの特性周波数でHFOを安定させるのに十分高いが、HFOを抑制するほど高くはないように選択できる。
【0135】
上記の測定された260HzのHFO特性周波数は、従来のDBS治療を受けている患者の大部分で有効であることが見出されたデフォルトのDBSのレート(130Hz)の高調波(×2)であることに留意されたい。しかし、デフォルトの130HzのDBSレートは、DBS療法を受けているすべての患者にとって最適な刺激レートであるわけではないことに留意されたい。場合によっては、130HzでのDBS療法は、実際に有害である。本発明者らは、これが患者間のHFO特性周波数の変動による可能性が高いことを認識した。例えば、患者の大部分が約260HzのHFO特性周波数を示す場合があるが、一部の患者は異なるDBSレートがより自分の治療に効果的であることを示す異なるHFO特性周波数を示す場合がある。したがって、
図8a~
図8gにより得られるHFOの測定値は、患者に関連する特徴的な周波数を識別するために使用でき、ひいては、DBS療法の最適な周波数を判定するために使用され得る。
【0136】
上記を考慮して、時間(秒)にわたる周波数範囲(Hz)にわたるHFO活動を示す
図9a~
図9hは、異なる患者のHFO活動に対するDBS振幅の効果のさらなる例を提供する。この例では、130HzのDBSが存在する場合、HFO活動は、
図8a~
図8hに示すHFO活動の患者のHFO特性周波数とは異なる約280HzのHFO特性周波数に駆動される。数人の患者のHFO活動の分析により、治療的DBSの間のHFO活動傾向であるHFO特性周波数が患者固有であり、大きく変動し得る(通常200Hzから350Hzの間)ことが見出された。前述のように、これは、DBS中に患者の総神経脳活動が振動する患者固有の周波数があり、このHFOの特徴的な周波数と相関するようにDBSレートを調整することが好ましい場合があることを示唆している。したがって、HFO活動を使用して、治療に最適な刺激周波数を特定することもできる。
【0137】
HFO特性周波数はDBS刺激周波数とは無関係であることも発見された。
図10a~
図10jは、様々な刺激周波数(
図10aの場合はゼロ刺激)で、DBSを施されている患者の局所領域活動で測定されたHFOのスペクトログラムである。これらの結果は、
図8及び
図9とは異なる患者の測定から取得されている。刺激の周波数ごとに、刺激の開始時に、HFO活動は、DBSの周波数におおよそ関連すると思われる異なる周波数に集中していることがわかる。ただし、各事例において一定期間(約100秒以内)の後、HFO活動の周波数は同じHFO特性周波数、つまり約260Hzになる傾向がある。
図10a~
図10jが関係する患者の治療的処置に最も効果的なDBSレートは130Hzであることがわかった。これはやはり、測定されたHFOの特性周波数の半分である。これもまた、患者のHFO特性周波数が、患者の治療に最も効果的なDBS周波数に関係していることを示唆している。
【0138】
上記の誘発された共振神経活動及びHFO活動の多くの実際の応用が、いくつかの実施形態を参照しながらこれから論じられる。実施形態では、1つ以上の電極リードを使用して、脳の半球の一方または両方の中の1つ以上の神経構造を刺激することができ、各リードは、各リードの先端近くに位置する1つ以上の電極を含む。各電極は、刺激、モニタリング、または刺激とモニタリングの両方に使用できる。これらの電極の1つまたは複数を植込むことができる。植込み電極は、独立して、または脳または頭蓋骨の外側に配置された1つ以上の電極に加えて使用することができる。
【0139】
Medtronic(RTM)DBSリードモデル3387に組み込まれているような典型的なDBS電極リード先端部70が
図11に示されている。リード先端部70は、第1電極72a、第2電極72b、第3電極72c、及び第4電極72dを含む。いったん脳に植込まれると、電極72a、72b、72c、72dのそれぞれを使用して、1つ以上の神経構造に刺激を加える、または神経回路から刺激への誘発反応(ERNAを含む)、及び脳の局所電場電位から測定されたHFO活動をモニタ及び任意選択で記録することができる。他の実施形態では、より多くの電極を備えたリード線、または異なるサイズまたはトポロジーを備えた電極を使用することができる。さらに、DBSリードの1つまたは複数の電極が刺激のために活性化されるか、信号のモニタリングに使用される場合、1つまたは複数の基準電極を遠隔部に配置して電気回路を完成させるために使用することができる。
【0140】
リード先端部70の標的位置は、神経構造に応じて変動する。標的構造の例には、視床下核(STN)、黒質網様部(SNr)、及び淡蒼球内節(GPi)が含まれるが、これらに限定されない。
【0141】
図12は、標的構造、この場合、視床下核(STN)82で脳に植込まれたリード先端部70を示す。電極先端部70と視床下核(STN)82との交差は通常5~6mmの直径を備え、非常に困難な外科的作業になる可能性があることが理解されよう。患者の症状をモニタしている間の、定位イメージング、微小電極記録、術中X線イメージング、治療的刺激の適用などの技術は、現在、電極先端部70の配置に使用されている。しかし、これらの方法は精度を欠いている。さらに、既存の方法では、通常、患者が処置の際に覚醒している必要がある。患者の自発的な反応を利用して、電極が脳の標的構造に対して適切な位置にあることを確認できるためである。このため、DBS療法の多くの潜在的なレシピエントが、外科的処置の間に覚醒していなければならないことに不安を抱いているために選択肢を断る。
【0142】
一連のパターン化刺激を使用して神経標的から誘発共振応答を生成及び測定することにより、標的構造内において電極先端部70の電極の配置をする精度を大幅に高めることができる。そのような技術は、電極が標的神経構造に対して脳内の正しい位置に、はるかに正確に配置できるため、植込み処置の間に患者が覚醒する必要をなくすことができる。これは、電極を十分な精度で配置するために患者のフィードバックを必要とはしないため、手術中に患者が鎮静または全身麻酔下にあることが可能であることを意味する。
【0143】
本開示の実施形態による例示的なDBS供給システム90が
図13に示されている。システム90は、複数の統合電極72a、72b、72c、72dを含む
図11のリード先端部70を、処理装置92、信号発生器94、測定回路96、及び任意選択のマルチプレクサ98と共に含んでいる。処理装置は、中央処理装置(CPU)100、メモリ102、及びCPU 100及びメモリ102の1つまたは複数に通信可能に結合された入出力(I/O)バス104を含む。
【0144】
いくつかの実施形態では、マルチプレクサ98は、電極72a、72b、72c、72dが信号発生器94及び/または測定回路96に接続されるかどうかを制御するために提供される。他の実施形態では、マルチプレクサは不要であり得る。例えば、電極72a、72b、72c、72dは、代わりに、信号発生器94と測定回路96の両方に直接接続されてもよい。
図13では、電極72a、72b、72c、72dのすべてがマルチプレクサ98に接続されているが、他の実施形態では、電極72a、72b、72c、72dのうちの1つまたは一部のみが接続されていてもよい。
【0145】
測定回路96は、1つ以上の増幅器と、ERNAを含む刺激に対する神経応答を測定するためのサンプリング回路を含むがこれらに限定されないデジタル信号処理回路を含むことができる。いくつかの実施形態では、測定回路96は、HFOなどの測定のための局所電場電位を含む受信信号から、他の情報を抽出するように、構成されてもよい。測定回路96はまた、信号発生器94と共に使用して、電極インピーダンスを測定することができる。測定回路96は、処理装置92の外部にあってもよく、または処理装置92内に統合されてもよい。一方の側にある測定回路96及び/または信号発生器94と、他方の側にあるI/Oポートとの間の通信は、有線であっても、無線のリンク、例えば誘導連結、WiFi(RTM)、Bluetooth(RTM)などであってもよい。電力は、少なくとも1つの電源106を介してシステム90に供給されてもよい。電源106は、システム90の要素が患者に植込まれたときに電力を維持できるようにバッテリーを備えてもよい。
【0146】
信号発生器94は、マルチプレクサ98を介して電極72a、72b、72c、72dのうちの1つ以上に連結され、処理装置92から受信した信号に基づいてそれぞれの電極に電気刺激を供給するように動作可能である。その目的で、信号発生器94、マルチプレクサ98、及び処理装置92はまた通信可能に連結されており、その間で情報を転送することができる。
【0147】
図13の信号発生器94、マルチプレクサ98、及び処理装置92は別個の装置として示されているが、他の実施形態では、信号発生器94及びマルチプレクサは処理装置92に統合されてもよい。さらに、いずれの装置とも、植込むことができ、または患者の体外に配置することができる。
【0148】
システム90は、1つ以上の入力装置108及び1つ以上の出力装置110をさらに含むことができる。入力装置108は、キーボード、マウス、タッチパッド、及びタッチスクリーンのうちの1つ以上を含み得るが、これらに限定されない。出力装置の例には、ディスプレイ、タッチスクリーン、ライトインジケータ(LED)、サウンドジェネレータ、及びハプティックジェネレータが含まれる。入力装置108及び/または出力装置110は、例えばERNAの特性、または後続的に引き出される指標(例えば、脳の神経構造に関する電極70の近接度など)に関連するフィードバック(例えば、視覚、聴覚または触覚のフィードバック)を使用者に提供するように構成され得る。また、この目的のために、入力装置108の1つ以上は、例えばタッチスクリーンまたは触覚ジョイスティックなどの出力装置110であってもよい。入力装置108及び出力装置110はまた、処理装置92に有線または無線で接続されてもよい。入力装置108及び出力装置110は、患者に装置の制御(すなわち患者制御装置)を提供するように、または臨床医が刺激設定をプログラムし、ERNA及び/またはHFO特性の刺激パラメータの効果のフィードバックを受信できるように構成することができる。
【0149】
システム90の1つ以上の要素は携帯式であり得る。1つ以上の要素が患者に植込み可能であってもよい。いくつかの実施形態では、例えば、信号発生器94及びリード70は患者に植え込み可能であり、処理装置92は患者の皮膚の外部にあってもよく、RF伝送(例えば誘導、Bluetooth(RTM)など)を介して信号発生器と無線通信で構成されてもよい。他の実施形態では、処理装置92、信号発生器94、及びリード70は、すべて患者の体内に植込まれてもよい。いずれの場合でも、信号発生器94及び/または処理装置92は、患者の体外に位置するコントローラ(図示せず)と無線で通信するように構成されてもよい。
【0150】
本開示の一実施形態は、測定されたERNA及び/またはHFO活動を使用して、脳の標的構造内にリード先端部70を配置するためのシステム及び方法を提供する。リード先端部70を脳に植込む手術中に、脳内の神経構造に対する電極の位置を推定するために上記の低い精度の位置決め技術に頼る代わりに、システム90を使用して、リード先端部70の1つまたは複数の電極から受信した誘発応答信号の強度及び質などの特性に基づいた外科医へのリアルタイムのフィードバックを提供することができる。このフィードバックを使用して、3次元で標的構造内の位置を推定し、電極を再配置するか、異なる軌道に沿って電極を取り外して再植込みするかの決断を知らせることができる。
【0151】
図14は、そのようなプロセスの概略的な例を示している。プロセスは、ステップ112で始まり、
図11を参照しながら説明したような電極リード先端部が、手術中に所定の軌道に沿って標的神経構造に向かって前進する。電極リードを前進させるステップサイズ(または空間分解能)は、外科医及び/または臨床医が選択できる。いくつかの実施形態では、ステップサイズは1mmである。ステップ114では、上記のようなパターン化刺激をリード先端部70の電極に加えることにより、ERNAを含む誘発反応が測定される。刺激は、リード先端部70が植込まれている間ずっと加えられてよい。あるいは、パターン化された信号は、10回などの所定の回数繰り返されてもよい。誘発反応は、刺激を加えるために使用したものと同じ電極で測定するか、1つまたは複数の異なる電極で測定することができる。そうすることにより、標的神経構造に対する各電極の配置のより正確な推定値を得ることができる。電極リード先端部が最大限許容される深さまで挿入されるまで、ステップ112と114が繰り返される。その深さは、標的神経構造内にあるか、それをわずかに超えている場合がある。
【0152】
ステップ112と114を繰り返すことにより、挿入軌道に沿った異なる位置で誘発反応のプロファイルまたはマップを生成することができる。誘発反応のプロファイルは、複数の電極または1つのみの電極からの測定値を含み得る。異なる深さにおける誘発反応のプロファイルは、1つ以上の出力装置110に出力され得る。次いで、誘発反応のプロファイルは、好ましい電極の位置を特定できるかどうかを判定すべく、ステップ118で比較される。好ましい電極の位置を特定することは、異なる挿入位置(例えば、最大の共振を生成する位置)での振幅、減衰率、変化率、及び周波数の相対的な差または空間導関数を含む、異なるERNAの特徴に基づいてもよい。
【0153】
また、好ましい電極の位置を特定することは、テンプレートが他の患者からの記録から得られた記録に由来するテンプレートERNA活動との比較に基づいてもよい。また、誘発反応のプロファイルを使用して、構造の境界及び交差する領域(例えば、内側または外側の領域を過ぎる軌跡)を含む、標的神経構造を通る電極リード70の軌跡を推定することもできる。誘発反応のプロファイルは、標的構造が挿入軌跡と交差しない場合に、標的構造への近接度を推定するためにも使用できる。
【0154】
ステップ120で好ましい電極位置を特定できる場合、ステップ122で電極リード先端部70を再配置でき、電極が好ましい位置に配置されるようにする。あるいは、多数の電極を備えた電極リード先端部を含む実施形態の場合、好ましい位置に最も近い位置にある電極は、治療的刺激を適用する際に、その後使用するために指名することができる。ステップ120で好ましい位置を特定できない場合、外科医及び/または臨床医は電極を除去し、異なる軌道に沿って再植込みすることを選択してもよい。
【0155】
本開示の別の実施形態は、標的神経構造に対する電極のアレイの相対位置を判定し、次いで治療的刺激の適用に使用する好ましい電極を選択するためのシステム及び方法を提供する。このプロセスは、電極植込み手術中に電極の配置を支援するために、または治療的刺激を供給するために装置をプログラミングするときに先行して植込まれる電極で実行できる。刺激は、アレイの複数の電極、例えば、電極アレイ70の場合は電極72a、72b、72c、72dの2つ以上に加えることができる。パターン化刺激レジームが使用される場合、刺激パターンの連続バーストは、電極72a、72b、72c、72dの異なるものに適用されてもよい。あるいは、ある電極に完全な刺激パターンを適用し、その後に別の電極に別の完全な刺激パターンを適用してもよい。そうすることにより、電極アレイのどの電極が標的神経構造の1つまたは複数に治療的刺激を提供するのに最適に配置されているか、例えば電極72a、72b、72c、72dのどれが標的神経構造内に最適に配置されるかに関する判定を下すことができる。
【0156】
図15は、複数の電極のアレイからの誘発反応を測定するための例示的なプロセス130を示している。ステップ132で、X電極のアレイの第1の電極(リード先端部70の場合は電極72a)に刺激が加えられる。適用される刺激は、上記のようなバーストパターン化刺激であってもよい。標的神経構造からの誘発反応は、ステップ134でアレイの電極の1つ以上で測定される。例えば、リード先端部70の場合、誘発反応は、第1の電極72aが刺激されているとき、第2、第3及び第4の電極72b、72c、72dで測定され得る。また、いくつかの実施形態では、刺激電極で受信された誘発反応が記録され、任意選択でメモリに保存されてもよい。各電極で誘発反応が測定されると、刺激用に別の電極が選択される。これは、プロセスがステップ136でX電極のアレイ内のすべての電極が刺激されたかどうか、すなわちプロセスがシステムのすべての電極を循環したかどうかを確認した後、ステップ138に示すようにカウンタを増分することで達成できる。刺激されるべき電極が残っている場合、プロセスは繰り返され、アレイの次の選択された電極に刺激が加えられる。アレイ内のすべての電極が刺激され、各電極での刺激に対する誘発反応が測定及び記録されている場合、結果の測定誘発反応はステップ140で処理される。
【0157】
誘発反応の処理は異なるERNA特徴の比較を含み得、刺激及び測定に使用される電極の異なる組み合わせにわたる、振幅、減衰率、変化率、及び周波数の相対的差異または空間導関数を含む。例えば、処理には、各刺激条件に対して最大の誘発共振振幅を測定する電極の識別が含まれる場合がある。好ましい電極の位置の特定はまた、テンプレートERNA活動との比較に基づいてもよい。テンプレートは、他の患者からの記録、または1つ以上のモデルまたはシミュレーションに由来していてもよい。
【0158】
誘発反応の処理に基づいて、治療的刺激に使用する好ましい電極をステップ142で選択することができる。ERNA処理の結果及び好ましい電極の推奨は、1つまたは複数の出力装置110に出力することができる。手術中にプロセスが実行された場合、ERNA処理の結果を使用して、どの電極が標的神経構造内にあるか、及び電極アレイを再配置するかどうかを判定することもできる。結果は、同じまたは異なる患者の誘発反応を将来処理するための1つ以上のテンプレートを生成するためにも使用できる。
【0159】
図16は、第3の電極72cに加えられるパターン化刺激に基づいて、第1、第2、及び第4の電極72a、72b、72dのそれぞれで測定される誘発反応の例を示す。この例は、
図15に示すプロセス130のステップ132及び134の1回の反復に対応する。刺激電極72cは、交差軸で表される。第1に、新しいパターン化刺激を使用して、数サイクルにわたる共振応答を測定できることが示されている。第2に、第2の電極72bでの応答が最大の振幅であり、第4の電極72dでの応答の振幅が最小の振幅であり、第1の電極72aでの誘発応答の振幅が第2の電極72bよりも大幅に小さいが第4の電極72dよりもわずかに大きいことがわかる。これらの結果は、第2の電極72bが標的神経構造に最も近いまたは標的神経構造内にあり、第1の電極72a及び第4の電極72dが標的神経構造の外にあることを示している。
【0160】
上記の例では誘発反応は3つの電極で測定されたが、他の実施形態では、誘発反応は、任意の構成の1つまたは2つまたは任意の数の電極で測定されてもよい。例えば、電極の様々な組み合わせからERNAを測定及び/または記録できる。追加または代替として、測定電極は、脳または頭蓋骨に植込まれても、及び/または外部に配置されてもよい。
【0161】
図17は、
図13に示されるシステム90のリード先端部70に適用される
図15のプロセス130による刺激に対する例示的な誘発反応をグラフで示す。グラフの各列は、交差パネルにより表される刺激電極による4つの刺激条件の1つを表す、すなわち各列はプロセス130のステップ132及び134の反復である。
図17に示すデータは、患者の脳の視床下核(STN)内に配置された第2の電極72cと第3の電極72dで測定されたものである。これらの電極72c、72bの他方が刺激されると、第2及び第3の電極72b、72cのそれぞれで最大の誘発反応が観察されることがわかる。したがって、別の電極の刺激に応答して各電極で、測定された誘発反応を比較することにより、第1に電極のいずれかが標的神経構造内に配置されているかどうか、第2に電極のいずれかが標的神経構造内の最適な位置に配置されているかどうか、及び第3に、その標的神経構造からの特定の電極の方向及び/または距離を判断できる。いくつかの実施形態では、刺激に対する誘発共振応答の存在、振幅、固有振動数、減衰、変化率、エンベロープ、及び微細構造の1つまたは複数を利用して、電極アレイのうちで最も効果的な電極を特定することができる。さらに、誘発反応は刺激に使用される電極の位置に応じて変動することが見て取れ、
図14に示すプロセスを使用して標的神経構造内の電極の位置を特定できることを示している。
【0162】
図15のプロセス130は、異なる刺激パラメータを使用して(例えば、異なる刺激振幅または周波数を使用して)、またはステップ132で複数の刺激電極(例えば、1つ以上の電極リード線の複数の電極を介して同時に加えられる刺激)で繰り返されてもよい。得られた応答特性は、電流ステアリング(例えば、同時にアクティブである電極間の電流分布を設定すること)及びアクティブ電極(例えば、刺激に使用する電極)の選択を支援するために使用できる。例えば、応答特性を使用して、標的領域に対する活性化の空間的広がりを推定できる。この情報を使用して、2つ以上の電極を使用して刺激プロファイルを整形し、脳の特定の領域に、つまり標的構造に向かって、また臨床医が刺激したくない領域から離れるように、刺激を方向付けることができる。
【0163】
さらなる実施形態では、ERNA及びHFO活動の両方を使用して、様々な医学的状態を標的とするために使用される刺激パラメータを最適化することができる。例えば、リード先端部70などの電極アレイが標的神経構造内に正確に配置されると、治療的DBSの刺激パラメータの設定は、ERNA及び/またはHFO活動を測定し、精度と時間の効率とコストの効率を改善し、望ましくない副作用を削減することで支援できる。
【0164】
誘発された共振活動の変化及び異なる刺激パラメータに対する局所電場電位におけるHFO活動の測定を使用して、刺激の設定を最適化することができる。このようなプロセスにより、治療を患者の個々のニーズに合わせて調整でき、最小限の臨床的介入で実行できるようになる。いくつかの実施形態では、刺激に対する誘発共振応答の存在、振幅、固有振動数、減衰、変化率、エンベロープ、及び微細構造の1つまたは複数を使用して刺激を最適化することができる。同様に、いくつかの実施形態では、DBS刺激中に局所電場電位で測定されたHFOの存在、振幅、周波数、減衰、変化率、エンベロープ、及び微細構造のうちの1つ以上を使用して刺激を最適化することができる。このような応答特性とHFO特性を使用して、刺激波形の振幅、周波数、パルス幅、及び形状を調整できる。
【0165】
最先端技術を使用して設定するのが特に困難な治療的刺激のパラメータは、刺激周波数である。これは、最適な刺激周波数が患者ごとに異なり得ることが1つの理由であり、通常、約90Hzから約185Hzの間である。本開示の実施形態では、ERNA及び/またはHFO活動の上記の特性の1つまたは複数を使用して、刺激の周波数(例えば、バースト内のパルス間の期間t2)を設定することができる。例えば、刺激周波数は、ERNAの推定基本周波数など、ERNAの周波数成分の倍数または約数に近似するように選択される場合がある。別の実施形態では、刺激周波数は、HFO特性周波数など、測定されたHFO活動の特性に依拠するように選択することができる。例えば、刺激周波数は、患者の測定されたHFO特性周波数の半分になるように選択されてもよい。
【0166】
上に挙げたパラメータの一部またはすべてが、互いに相乗効果または有害な作用を有し、したがって治療の有効性を有する可能性があることが理解されよう。したがって、いくつかの実施形態では、機械学習または粒子スワームなどの既知の最適化の技術を実装して、多次元パラメータ空間内のパラメータ値の最適なセットを見つけることができる。そのような技術は、異なるパラメータ設定の選択を試行する反復プロセスを伴い、モニタされたERNA及び/またはHFO活動に基づいて最も効果的なパラメータ値を判定することができる。
【0167】
治療的DBSをさらに最適化するために、ERNA及び/またはHFO活動モニタリング及びDBSパラメータを最適化するための上記の技法は、状態の症状を緩和するための薬物投与の前後に患者に対して実行できる。例えば、そのような薬を服用しているまたは服用していない特定の患者のERNAの記録は、そのような誘発反応状態を再現するようにパラメータを調整できるように、患者に最も利益をもたらす誘発共振反応のベンチマークとして使用できる。同様に、そのような薬を服用しているまたは服用していない特定の患者のHFO活動の記録は、そのようなHFO活動を再現するようにパラメータを調整できるように、患者にとっての最大の利益と相関のあるHFO活動のベンチマークとして使用できる。
【0168】
図18は、薬を服用している患者の刺激に応答するERNAに基づいて刺激パラメータを判定する方法を概略的に示している。ステップ144で、刺激が患者の標的神経構造に植込まれた電極に加えられてから、任意の薬剤が投与され、刺激からのERNAがステップ146で測定及び記録される。その後、患者はステップ148で薬を服用する。例えば、臨床医は、ある用量の薬物(例えば、レボドパ)を患者に投与する場合がある。ステップ150及び152で、刺激のプロセス及び共振応答の測定が繰り返される。次に、薬剤を投与する前後のERNAを使用して、患者の薬用状態に近い刺激パラメータを判定する。特に、DBSパラメータの設定は、投与される場合に、制御されていない症状のERNAから制御された症状のERNAへの移行を複製または近似するように選択できる。
【0169】
図19は、薬を服用している患者の刺激に応答するHFO活動に基づいて刺激パラメータを判定する方法を概略的に示している。ステップ147で、刺激が患者の標的神経構造に植込まれた電極に適用されてから、任意の薬物が投与され、ステップ149で刺激からのHFO活動が測定され記録される。次いでステップ151で患者が投薬される。例えば、臨床医は、ある用量の薬物(例えば、レボドパ)を患者に投与してもよい。ステップ153及び155で、刺激及び共振応答の測定のプロセスが繰り返される。次いで、薬剤を投与する前後のHFO活動を使用して、患者の投薬状態に近い刺激パラメータを判定する。特に、DBSパラメータの設定は、投与されるときに、制御されていない症状のHFO活動から制御された症状のHFO活動への移行を複製または近似するように選択できる。
【0170】
いくつかの実施形態では、システム90がインストールされているとき、またはヘルスケアセンターへの訪問中に、臨床医によって最適化プロセスを実行することができる。追加的または代替的に、最適化は患者によって実行されてもよく、システム90によって自動的に引き起こされてもよい。例えば、システム90は、定期的に(例えば、毎日、毎週、または毎月)最適化プロセスを実施してもよい。他の実施形態では、電源106がバッテリーを含む状況では、バッテリーの交換または再充電で最適化プロセスを開始することができる。最適化プロセスをトリガできる他の条件には、患者が小さな運動課題、重大な運動課題、会話、睡眠、座位にあるかどうかなど、患者の状態の変化が含まれる。
【0171】
いくつかの実施形態では、システム90は、メモリ102に先行して最適化された一連の設定を記憶することができる。これらの記憶された設定は、異なる患者の状態(例えば、微動または粗大運動活性化、睡眠または座位)に対する最適化された設定に対応し得、異なる標的神経構造に適用される刺激が含まれ得る。患者は、患者コントローラを使用して、保存された刺激設定のいずれを任意の所与のときに使用したいのかを選択する能力が与えられ得る。あるいは、システム90は、システム90により電極70から記録された電気生理学的信号(例えば、ERNAまたは局所電場電位(例えば、HFO活動))からの患者の状態の測定に基づいて、またはシステム90の入力装置108(例えば、加速度計)で取得される測定値から、保存された刺激設定のどれを使用するかを自動的に選択できる。
【0172】
脳内のDBS電極の配置の精度を高め、刺激用の電極構成を選択し、刺激パラメータを最適化することに加えて、電極の刺激を制御するためフィードバックを生成するためにERNA及びHFO活動を使用することができる。いくつかの実施形態では、
図13に示すシステム90を使用してフィードバックを実施することができる。
【0173】
一実施形態では、システム90は、好ましい患者の状態に対応する波形テンプレートを使用してもよい。テンプレートは、症状が軽減された患者のERNA及び/またはHFO活動の以前の記録を使用して生成され得る。例えば、薬を服用している患者または効果的な刺激治療を受けている患者から記録されたERNA/HFOテンプレートを使用できる。あるいは、健康な患者から記録されたERNA/HFOテンプレート、例えば運動障害のない患者が使用される場合がある。テンプレートは、1人の患者または複数の患者からの多くの記録の平均から作成できる。いくつかの実施形態では、完全なテンプレートの代わりに、ERNA波形及び/またはHFO活動波形の選択された特徴を使用してもよい。例えば、支配的な周波数及び振幅成分及び/または時間的特徴などのERNAのパラメータを使用して、電極配置の改善及び治療的刺激の制御を可能にすることができる。同様に、特徴的な周波数及び振幅成分などのHFOのパラメータを使用して、電極の配置と治療的刺激の制御を改善することができるようになる。いくつかの実施形態では、異なるERNA特性の好ましい範囲を定義することができる(例えば、刺激は、ERNA周波数が250~270Hz内に留まるように制御される)。同様に、HFOの特徴的な周波数及び振幅成分及び/または時間的特徴などのHFO活動のパラメータは、治療的刺激の制御に使用されてもよい。いくつかの実施形態では、異なるHFO活動の好ましい範囲を定義することができる(例えば、刺激は、HFO周波数の傾向が260Hzに、またはHFO周波数の特性周波数への変化率が所定の閾値率を超えるように制御される)。
【0174】
図13及び
図20を参照すると、いくつかの実施形態では、処理装置92は、命令/信号を信号発生器94に送信して、上記の実施形態に従って事前に較正されてもされていなくてもよい、パターン化刺激信号などの刺激信号を生成してもよい。次に、信号発生器94は、ステップ160で信号を生成し、それをリード先端部70の電極72a、72b、72c、72dの1つに印加することができる(ステップ162)。次に、処理装置92は、ERNAを測定し、ERNAの1つまたは複数のパラメータ(または特性)をモニタすることができる(ステップ164)。次に、処理装置92は、受信したERNAデータを処理することができる(ステップ166)。いくつかの実施形態では、処理装置92は、ERNA(またはその1つ以上のパラメータ)を効果的な治療に関連する共振応答(またはその1つ以上のパラメータ)と比較してもよい。次に、処理装置92は、ERNAデータに基づいて、電極72a、72b、72c、72dの1つに加えられる刺激信号の1つ以上のパラメータを調整するように信号発生器に指示することができる(ステップ168)。
【0175】
図13及び
図21を参照すると、いくつかの実施形態では、処理装置92は、命令/信号を信号発生器94に送信して、上記の実施形態に従って事前に較正されてもされていなくてもよい、パターン化刺激信号などの刺激信号を生成してもよい。次に、信号発生器94は、ステップ161で信号を生成し、それをリード先端部70の電極72a、72b、72c、72dの1つに印加することができる(ステップ163)。次いで、処理装置92は、HFO活動を測定し、HFO活動の1つまたは複数のパラメータ(または特性)をモニタすることができる(ステップ165)。次に、処理装置92は、受信したHFO活動のデータを処理することができる(ステップ167)。いくつかの実施形態では、処理装置92は、HFO活動(またはその1つ以上のパラメータ)を効果的な治療に関連するHFO活動(またはその1つ以上のパラメータ)と比較してもよい。HFO活動データに基づいて、処理装置92は、次いで、信号発生器に、電極72a、72b、72c、72dのうちの1つ以上に加えられる刺激信号の1つ以上のパラメータを調整するよう指示し得る(ステップ169)。
【0176】
いくつかの実施形態では、ステップ161で適用される信号は、それぞれが異なる周波数を有する複数の成分を含んでもよい。例えば、信号は周波数が段階的に増加する場合がある(例えば120Hz、130Hz、140Hz、150Hzなど)。代替的または追加的に、ステップ161で加えられる信号の複数の成分は、それぞれ異なる振幅を有してもよい。例えば、信号の振幅は、コンポーネント間の振幅が段階的に増加する場合がある(例えば、1mA、2mA、3mAなど)。
【0177】
処理装置92は、ステップ167で、HFO活動のHFO特性周波数、すなわち、ステップ161で加えられた信号の存在下でHFO活動が時間とともに駆動される周波数を特定することができる。その場合ステップ169で、信号は、HFO特性周波数に依拠して治療のための刺激率を設定するように調整されてもよい。例えば、刺激のレートは、HFO特性周波数の約数(例えば、fHFO/1、fHFO/2、fHFO/3など)、好ましくはHFO特性周波数の半分の約数になるように選択されてもよい。
【0178】
ステップ161で加えられる信号が、それぞれ異なる振幅を有する複数の成分を含む場合、処理装置92は、ステップ167で、HFO活動が促進され、特定の周波数に駆動され、及び/または抑制され、加えられた信号の振幅を特定することができる。次いで、ステップ169で、信号の振幅は、例えば、所望のHFO活動効果を達成する最低値に調整されてもよい。望ましい効果は、上記の1つまたは複数のテンプレートと比較できる。
【0179】
電極72a、72b、72c、72dのうちの1つ以上で測定されたHFO活動に基づいて最適なDBS周波数及び振幅が判定される反復アプローチが採用され得ることが理解されよう。
【0180】
いくつかの実施形態では、上記のような刺激のバーストは、ERNA及び/またはHFO活動のモニタリングと組み合わせて、治療的な共振状態(例えば、最小限の副作用及び/または最小限の電力消費、を伴う良好な症状の抑制と相関する状態)を識別するために使用され得る。この情報から、好ましい治療状態を作り出すために必要な治療的刺激パラメータを特定することができる。いくつかの実施形態では、これらの刺激パラメータを使用して、標的神経構造に継続治療的DBSを適用してもよい。
【0181】
共振活動を特定するためのプローブバーストは、共振状態及びHFO活動を再評価するために治療的DBSとインターリーブすることができる。これらのプローブバーストは、例えば10秒ごとなど、定期的に実装できる。一実施形態では、10秒ごとに、1秒間プローブバーストが適用され(例えば、130Hzで10パルス)、ERNA及び/またはHFOが評価され得る。次いで、治療的刺激パラメータは、ERNA及び/またはHFOに基づいて調整または維持され得る。例えば、最後のプローブバーストに対してERNAに変化がある場合、刺激パラメータは、ERNAが先行して測定されたERNA及び/またはテンプレートERNAと比較可能になるように、及び/またはERNA特性が望ましい範囲内にあるように調整される。同様に、最後のプローブバーストに対してHFO活動に変化がある場合、刺激パラメータは、ERNAが先行して測定されたHFO及び/またはテンプレートHFOと比較可能になるように、及び/またはHFO特性が望ましい範囲内にあるように調整される。
【0182】
測定されたERNAに基づいて治療的刺激を調整することができる多くの方法がある。いくつかの実施形態では、共振回路が好ましい共振状態にある場合、例えば測定されたERNAがテンプレートに実質的に一致する場合、またはERNA特性が所望の範囲内にある場合、処理装置92からの指示に応じて、信号発生器94により治療的刺激の振幅が低減され得る。逆に、神経回路が好ましい共振状態にない場合、治療的刺激の振幅は、信号発生器94によって増加され得る。
【0183】
いくつかの実施形態では、治療的な共振が検出される場合、DBS刺激は、測定可能なERNAを生成するために次のプローブバーストが適用されるまで、完全にオフにされ得る。次に、次のプローブバーストが適用されたときに、共振がもはや治療するものではなくなった場合、DBS刺激をオンに戻すことができる。
【0184】
いくつかの実施形態では、DBS刺激は、治療的な共振が検出される場合、または、測定可能なERNAを生成するために次のプローブバーストが適用されるまで、完全にスイッチオフされてもよい。次に、次のプローブバーストが適用されたときに、共振がもはや治療するものではなくなった場合、DBS刺激をオンに戻すことができる。
【0185】
いくつかの実施形態では、継続刺激ブロックの長さ(プローブバースト間)及びプローブバーストの持続時間を調整して、ERNA及び/またはHFO活動を最適化することができる。プローブバースト間のより長い継続刺激期間またはブロックは、処理装置92の計算の負荷を軽減し、したがって電力効率を向上させるが、好ましいERNA及び/またはHFOからの、ERNA及び/またはHFOのより大きな変動、したがって、治療の有効性の低減に至る可能性もある。
【0186】
前の数段落では、治療的DBS状態を識別するためバースト刺激を使用することが、ERNAに関連して説明されてきた。しかし、刺激の短いバースト(ERNAに関連して上記で説明したような)を適用すると、その活動の周波数をシフトすることなくHFO活動を促進するように見えることもわかっている。したがって、このようなバーストを使用して、HFOの出力を測定可能なレベルに上げ、同時の治療的DBSを必要とせずに評価することができる。したがって、刺激のバーストは、いくつかの方法でHFO活動のモニタリングと組み合わせて使用することもできる。例えば、強化されたHFO活動は、治療的DBS状態(例えば、副作用の最小化及び/または最小限の電力消費を伴う良好な症状の抑制と相関する状態)の識別に使用できる。さらに、好ましい治療状態を作り出すために必要な治療的刺激パラメータを特定することができる。いくつかの実施形態では、これらの刺激パラメータを使用して、標的神経構造に継続治療的DBSを適用してもよい。
【0187】
ERNAの使用と同様に、測定されたHFOに基づいて治療的刺激を調整することができるいくつかの方法がある。いくつかの実施形態では、測定されたHFO活動が好ましい状態にある場合、例えば、測定されたHFOがテンプレートに実質的に一致する場合、またはHFOの特徴的な周波数が所望の範囲内にある場合、治療的刺激の振幅は、処理装置92からの指示に応じて信号発生器94により低減され得る。逆に、HFOが好ましい状態の外部にある場合、治療的刺激の振幅は、好ましい枠内でHFO活動を再配置するために、信号発生器94によって増加または減少され得る。
【0188】
上記に加えて、非治療的パターン化刺激の適用はまた、HFO活動を増強するので、そのような活動は、薬物の効果、疾患の状態を追跡するため、または電極の配置を支援するため、または脳内に配置された複数の電極のどの電極が、刺激に使用するのに最適な電極であるかを判定するため、に使用することができる。その目的のため、電極の配置とERNAに基づくDBSに使用する電極の選択の両方について、ここで説明した方法と同等の方法を使用して、電極の配置を補助し、刺激に最適な電極を選択することもできる。
【0189】
植込み型及び携帯型DBS装置には、副作用及び電力消費の両方を最小限に抑えながら症状の最良の治療を提供するための固有の要件がある。一実施形態では、閉ループフィードバックを使用してシステム90を動作させる方法が提供され、刺激がオンである時間を最小化する目的で刺激のデューティサイクルが変調される。
図22は、システム90によって実行され得るプロセスを示している。ステップ170で、刺激信号が生成される。刺激信号のパラメータは、ERNA及び/またはHFOの活動を好ましい状態に最適化するように選択される。次に、ステップ172で、期間Tの間、リード先端部70の電極に刺激が加えられる。期間Tは、固定の期間であってもよい。好ましくは、刺激は、ERNAの好ましい状態に達するまで継続的または定期的に適用される。次いで、治療的刺激が停止され、誘発反応が1つ以上の電極で測定され、誘発反応は、刺激電極に加えられるパルスの1つ以上のバーストを含むプローブ刺激に対するものである(ステップ174)。いくつかの実施形態では、プローブ刺激は複数の電極に加えられてもよい。いくつかの実施形態では、刺激電極を使用して、1つ以上の他の電極の代わりに、またはそれに加えて、ERNAを測定することができる。次いで、ERNAが望ましくなくなるまで、システムはこのモニタ状態に維持される。いくつかの実施形態では、測定された応答をテンプレートERNA応答と比較することにより、または測定されたERNA特性を所望の範囲と比較することにより、ERNAが好ましいまたは治療状態にあるかどうかの判定が実行され得る。ステップ176で状態が望ましくないと考えられるとすぐに、ステップ170及び172で刺激信号が再び生成され加えられる。
【0190】
図23は、非治療的パターン化刺激信号(パルスの1つ以上のバーストを含む)184が後に続くパターン化された治療的刺激信号182と、好ましい状態186と好ましい状態に劣る状態188との間で変動するERNAの対応する特性(例えば共振周波数)180とを含む、刺激レジーム178をグラフで比較する。
【0191】
閉ループフィードバックを使用してシステム90を動作させる方法は、ERNAに関連して上記で説明されている。しかし、一実施形態では、閉ループフィードバックを使用してシステム90を動作させる方法が提供され、HFO活動がDBS刺激をリアルタイムで制御するために使用される。
図24は、システム90によって実行され得るプロセスを示している。ステップ204で、刺激信号が生成される。刺激信号のパラメータは、HFO活動を最適な状態に最適化するように選択される。次に、ステップ206で、刺激がリード先端部70の電極に加えられる。好ましくは、刺激は、HFOの好ましい状態に達するまで継続的または周期的に加えられる。刺激信号がリード先端部70に加えられ始めている間、HFO活動は1つ以上の電極で測定される(ステップ174で)。いくつかの実施形態では、刺激信号は複数の電極に加えられてもよい。いくつかの実施形態では、刺激電極は、1つ以上の他の電極の代わりに、またはそれに加えて、HFO活動を測定するために使用され得る。いくつかの実施形態では、システム90は、HFO活動が望ましくなくなるまで、HFO活動をモニタし続ける。いくつかの実施形態では、HFO活動が好ましい状態または治療状態にあるかどうかの判定は、測定された活動をテンプレートHFO活動と比較することにより、または測定されたHFO特性を所望の範囲と比較することにより実行され得る。ステップ210で状態が望ましくないと考えられるとすぐに、ステップ206で刺激信号が調整され、リード先端部70に加えられる。
【0192】
図25は、DBS刺激を制御するためにシステム90によって実行され得る別のプロセスを示している。ステップ204で、刺激信号が生成される。刺激信号のパラメータは、HFO活動を好ましい状態に最適化するように選択される。次に、ステップ206で、刺激がリード先端部70の電極に加えられる。好ましくは、刺激は、HFOの好ましい状態に達するまで継続的または周期的に加えられる。刺激信号がリード先端部70に加えられ始めている間、HFO活動は1つ以上の電極で測定される(ステップ206)。いくつかの実施形態では、刺激信号は複数の電極に加えられてもよい。いくつかの実施形態では、刺激電極は、1つ以上の他の電極の代わりに、またはそれに加えて、HFO活動を測定するために使用され得る。HFO活動が最適な状態に達するまで刺激が適用される。いくつかの実施形態では、HFO活動が最適な状態にあるかどうかの判定は、測定された活動をテンプレートHFO活動と比較することにより、または測定されたHFO特性を所望の範囲と比較することにより実行され得る。ステップ208で、HFO活動が最適な状態にあると測定されると、ステップ210で、例えば、その周波数の振幅を減少させることにより、または刺激を完全に停止することにより、適用されるDBS刺激の振幅または周波数を調整することができる。これにより、ひいてはHFO活動が好ましい状態の外にドリフトする。ステップ212で、HFO活動がもはや好ましい状態ではないと判明した場合、ステップ214でHFO活動を再度調整して、例えば、DBSの刺激の振幅を増加させることにより、または刺激の周波数を調整することにより、HFO活動を好ましい状態に戻すことができる。
【0193】
本明細書に記載の実施形態のパターン化された信号を実装するいくつかの異なる方法がある。
図26a及び
図26bは、2つの例示的なパターニングプロファイルを示している。
図26aでは、パターン化されたプロファイルは、継続刺激ブロック190の後の無刺激192の期間、それに続くパルスのバースト194及び無刺激の別の期間196を含む。無刺激の期間中、ERNAを測定し、(必要に応じて)治療的刺激信号を調整することができる。HFO活動は、刺激のない期間中、または刺激中、またはその両方のいずれかで測定することができ、必要に応じて治療的刺激を適宜調整することができる。
【0194】
代替実施形態では、システムは、
図26bに示されるように、継続刺激198の最終パルスの後、ERNA及び/またはHFO活動をモニタしてもよい。モニタ期間200の後、次いで治療的刺激は期間202の間調整され、その後、調整されたパラメータで治療的刺激198が加えられ得る。このレジームは、周期的なパルスの欠落を伴う継続的な刺激とみなすこともできる。この目的のために、継続刺激はパルスのバーストと見なすことができ、刺激なしの期間は、上記の
図2を参照しながら説明したように、第1の期間t
1と見なすことができる。
【0195】
ERNA及びHFO活動の存在及び振幅は、刺激の振幅に依拠し得る。したがって、ERNAとHFOの両方の測定値の一貫性を維持するために、常に同じパルスパラメータ設定を使用することが望ましい場合がある。特に、パルスパラメータの設定に使用されるパルスとERNAの測定に使用されるパルスに同じ振幅を使用することが望ましい場合がある。したがって、刺激のない期間の前の最後のパルスは、他のパルス(例えば、治療的刺激)によって加えられる刺激の振幅とは無関係の固定の振幅であり、刺激の振幅または他のパルスパラメータへの共振の依拠によるいずれの影響をも最小限に抑えるようにする。
【0196】
上記の実施形態では、単一の電極アレイを使用して誘発神経反応の刺激と記録の双方を行うが、他の実施形態では、電極は、脳半球のいずれかまたは両方の1つまたは複数の標的構造において、複数のプローブまたはリードに分布させることができる。同様に、脳の外部に植込まれたまたは配置された電極を使用して、誘発神経反応の刺激または記録のいずれかを行うか、刺激と記録の両方を行うことができる。いくつかの実施形態では、微小電極とマクロ電極の両方の組み合わせを、任意の予見可能な方法で使用することができる。
【0197】
本発明の実施形態のさらなる適用において、ERNA及び/またはHFO測定値は、疾患または症候群の進行または寛解をモニタするために経時的に記録及び追跡されるか、(例えば、患者の神経学的状態を分類するための)診断ツールとして使用され得る。また、そのような実施形態は、患者の状態(ERNA/HFO活動によって判定される)が望ましくない状態または重大な状態(例えば、パーキンソン病の危機)に向かって悪化した場合に、患者、介護者または臨床医に医療上の警告を発するために使用されてもよい。
【0198】
さらに別の用途では、ERNA及び/またはHFO活動を使用して、薬物投与量の調整などの効果を含む薬物の効果を経時的にモニタすることができる。そのような実施形態はまた、服用が必要なとき、または服用がスキップされたときに、患者に薬物のことを思い出させるべくその警告を発するために使用することもできる。また、ERNA/HFO活動で薬物の効果を追跡することにより、臨床医は、処方したとおりに薬物を服用しているかどうか、または薬物の効果が低下して投薬の調整をする必要があるかどうかに関する情報を得ることができる。
【0199】
HFO活動のさらなる分析と結果の説明
DBSパルスから生じる神経活動を調査して、HFOをバイオマーカーとして使用できるかどうかを判断した。刺激アーティファクトの時間的持続時間を最小化するために、非常に長い第2の位相の従来の非対称的なパルスではなく、広い記録帯域幅と刺激用の対称二相パルスが使用された。
【0200】
パーキンソン病(PD)がDBSの主な用途であるため、手術台で依然覚醒しているPD患者のSTNへ植込みをした直後のDBS電極について、記録を行った。さらに、運動、辺縁系、及び連合機能の調節におけるSTNの役割により、それはジストニア、本態性振戦、てんかん、強迫性障害のDBS治療など、多様な応用に関連する神経標的になる。
【0201】
標準的な130HzのDBSは、複数のピークを観察できるように一時的にパターン化された。2つの新しいパターンを採用した。1秒ごとに1パルスをスキップすることと、1秒ごとに10パルスのバーストを適用することである。「スキップパルス」のパターンは、時間の経過とともに供給されるパルスの総数が0.77%しか減少しないため、標準の130HzのDBSに匹敵する治療効果があると予想された。対照的に、「バースト」のパターンは、継続的DBSに対して最小限の治療効果しかないと予想されていたため、パルスの7.7%のみを供給し、治療がない場合の活動を調査する際有用なプローブとした。
【0202】
DBS植込み手術を受けている12人のPD患者(n=23半球)のSTNにバースト刺激を加え、全事例で同様の形態のHFOを観察し、患者集団全体で測定できるロバストかつ信頼できる信号であることを示した。
【0203】
HFO活動は一般に周波数の広帯域ピークによって特徴付けられるため、マルチテーパースペクトル推定値を計算し、次に200~400Hzの間に生じるピークの周波数及び振幅を判定した。15sの非重複ブロックの平均を比較すると(
図26)、HFOのピーク周波数は、DBS後(Friedman、χ
2(4)=45.18、p<0.001)、最後の45~60sブロックまで有意に減少することがわかった。(Tukey、p=0.077)。このウォッシュアウトの傾向は、ERNAの周波数と一致し、周波数は低くなるが、2つの間に有意な相関がある(ピアソン積モーメント、ρ=0.546、n=152、p<0.001)。DBS直後のHFOピーク周波数の中央値は253Hzであり、3.38mAという治療の条件であるERNA周波数の中央値(256Hz)に匹敵しており、より継続的なスキップパルスの刺激の間、ERNAと同じ周波数でHFO活動が生じていることを示している。
【0204】
HFOピーク振幅に有意差は見られなかった(フリードマン、χ2(4)=2.11、p=0.72)が、それは、ERNA振幅と有意に相関した(ピアソン積モーメント、ρ=0.429、n=152)。HFOピークの非常に小さな振幅(<1μV)により、記録のノイズによって変調効果が不明瞭になる可能性がある。
【0205】
本開示の広範な一般的範囲から逸脱することなく、上述の実施形態に対して多数の変形及び/または修正を行うことができることを当業者は理解するであろう。したがって、本実施形態は、あらゆる点で例示的であり、限定的ではないと見なされるべきである。
【符号の説明】
【0206】
20 刺激
70 電極リード先端部
72 電極
90 システム
92 処理装置
94 信号発生器
96 測定回路
98 マルチプレクサ
100 中央処理装置(CPU)
102 メモリ
104 入出力(I/O)バス
106 電源
108 入力装置
110 出力装置
178 刺激レジーム