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特許7144473結合剤を含まない摩擦ライニング、結合剤を含まない摩擦ライニングを製造するための方法、並びに結合剤を含まない摩擦ライニングの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】結合剤を含まない摩擦ライニング、結合剤を含まない摩擦ライニングを製造するための方法、並びに結合剤を含まない摩擦ライニングの使用
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20220921BHJP
   F16D 69/00 20060101ALI20220921BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C09K3/14 520F
F16D69/00 R
F16D69/02 F
C09K3/14 520C
C09K3/14 520M
C09K3/14 520L
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020048108
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2020152911
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2020-05-20
(31)【優先権主張番号】10 2019 107 368.5
(32)【優先日】2019-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511198863
【氏名又は名称】テーエムデー フリクション サービシス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】ルイス、リヒャルト
(72)【発明者】
【氏名】ペリン、パウロ
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03124814(EP,A1)
【文献】特開2000-345140(JP,A)
【文献】特開平03-282028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
F16D 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10質量%~65質量%の金属割合を有する自動車用の金属含有摩擦ライニングであって、
その製造のために使用されている摩擦ライニング混合物は、結合剤を含まないか、又は用意された摩擦ライニング混合物に関して最大で2.5質量%だけの結合剤を含むこと、及び、
使用されている摩擦ライニング混合物は、膨張化した黒鉛、及び/又は膨張化したバーミキュライトを含むこと、及び、
該摩擦ライニング混合物は、実質的に銅を含有しないこと
を特徴とする金属含有摩擦ライニング。
【請求項2】
使用されている摩擦ライニング混合物は、結合剤を含まないこと
を特徴とする、請求項1に記載の金属含有摩擦ライニング。
【請求項3】
使用されている摩擦ライニング混合物は、鋼繊維を30質量%から65質量%で含むこと
を特徴とする、請求項1又は2に記載の金属含有摩擦ライニング。
【請求項4】
使用されている摩擦ライニング混合物は、膨張化した黒鉛、及び/又は膨張化したバーミキュライトを5質量%から26質量%で含むこと
を特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属含有摩擦ライニング。
【請求項5】
使用されている黒鉛は、0.25mmから1.5mmの粒径を有すること
を特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属含有摩擦ライニング。
【請求項6】
10質量%~65質量%の金属割合を有する自動車用の金属含有摩擦ライニングの製造のために使用される摩擦ライニング混合物であって、
該摩擦ライニング混合物は、結合剤を含まないか、又は摩擦ライニング混合物に関して最大で2.5質量%だけの結合剤を含むこと、及び、
摩擦ライニング混合物は、膨張化した黒鉛、及び/又は膨張化したバーミキュライトを含むこと、及び、
該摩擦ライニング混合物は、実質的に銅を含有しないこと
を特徴とする摩擦ライニング混合物。
【請求項7】
結合剤を含まないことを
特徴とする、請求項6に記載の摩擦ライニング混合物。
【請求項8】
鋼繊維を30質量%から65質量%含むこと
を特徴とする、請求項6又は7に記載の摩擦ライニング混合物。
【請求項9】
膨張化した黒鉛、及び/又は膨張化したバーミキュライトを5質量%から26質量%含むこと
を特徴とする、請求項6~8のいずれか一項に記載の摩擦ライニング混合物。
【請求項10】
使用されている黒鉛は、0.25mmから1.5mmの粒径を有すること
を特徴とする、請求項6~9のいずれか一項に記載の摩擦ライニング混合物。
【請求項11】
金属含有摩擦ライニングを製造するための方法であって、
請求項6~10のいずれか一項に記載の摩擦ライニング混合物が使用されること
を特徴とする方法。
【請求項12】
金属含有摩擦ライニングの製造において、金属含有摩擦ライニングのハードニング及びスコーチのプロセスステップが省略されること
を特徴とする、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の記載)
本出願は、2019年3月22日出願のドイツ特許出願第 10 2019 107 368.5 号の優先権主張に基づくものであり、同出願の全記載内容は、引用をもって本明細書に組み込み記載されているものとする。
【0002】
本発明は、自動車用の摩擦ライニング、好ましくは、乗用車のディスクブレーキ用の摩擦ライニングに関し、該摩擦ライニングは、結合剤(バインダ)を含まないか、又は従来技術と比べて明らかに減少された割合の1つの結合剤又は複数の結合剤を含んでおり、並びに本発明は、該摩擦ライニングを製造するための方法、及び該摩擦ライニングの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
自動車技術では、基本的に4つの異なるカテゴリの摩擦ライニング(摩擦材とも呼ばれる)が区別されており、この際、これらのカテゴリの境界は流動的である。これらの4つの異なるカテゴリは、セミメタリック(半金属)、オーガニック(有機)、ローメタリック(低金属)、そしてセラミックである。全体的には、15種類に至るまでの材料、そしてオーガニック摩擦ライニングの場合には、むしろ30種類に至るまでの材料が摩擦ライニングの製造において使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】DE 10 2014 105 484 A1
【文献】EP 3 124 814 A1
【文献】DE 1 425 261 A1
【文献】GB 931,631 A
【文献】DE 103 48 076 A1
【文献】US 2015/0107945 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以下の分析は、本発明者によるものである。
セミメタリック摩擦ライニングは、好ましくは30質量%から65質量%の金属を含み、該金属は、例えば、黒鉛(グラファイト)、充填材(フィラ)、及び結合剤と混合される。セミメタリック摩擦ライニングは、耐久性が高く、制動時の熱発生が比較的少ないことにより優れている。しかしこれらのライニングにおいて、ブレーキディスクの摩耗が比較的強く、摩擦きしみ音が発生することは、欠点であり得る。
【0006】
オーガニックカテゴリ(NAO=ノンアスベストオーガニックを含む)の摩擦ライニングは、ガラス、ゴム、又はカーボンから得られる繊維から製造される。更に充填材と、結合剤として耐熱性の合成樹脂及び/又は天然樹脂とが付加される。これらの摩擦材料から成るブレーキライニングは、多くの場合、比較的柔らかく静かであるが、比較的早くに摩耗し、より多くのブレーキダストを発生させ、とりわけそれらが熱くなると摩擦抵抗が悪くなり、従って制動性能が悪化する。
【0007】
ローメタリック摩擦ライニングは、好ましくは10質量%から30質量%の金属と、オーガニックカテゴリのためにも使用されるような有機材料との混合物を表す。これらの材料から成るライニングは、特に高い車速において改善された制動特性を有する。しかし欠点は、ここでも特にブレーキダストの発生の増加である。
【0008】
セラミック摩擦ライニングはNAOである。これらのセラミック摩擦ライニングは、セラミック繊維、充填材、及び結合剤から構成され、場合により僅かな金属割合を有することもできる。これらのライニングは、使用される材料と製造プロセスに関して他の摩擦材料よりも確かに高価であるが、それと引き換えに例えばブレーキディスクに発生する摩耗は比較的少ない。
【0009】
上記の全てのカテゴリの摩擦ライニング又は摩擦材料は、これらが多くの場合は天然樹脂又は合成樹脂による結合剤、特にフェノール樹脂による結合剤を有することで共通している。摩擦材料混合物を高温高圧で実際の成形された摩擦ライニングにプレスするプレス過程中、結合剤は、更に液化し、摩擦材料混合物全体に浸透し、炭化ないし樹脂化し、この際、樹脂化過程で発生する揮発成分は、プレス型からないし混合物から出ていく。それにより全ての混合物成分が、樹脂化した結合剤により互いに結合される。この過程をできるだけ完全なものとするために、得られたブレーキライニング、つまり摩擦ライニングが取り付けられた支持プレートは、更に硬化炉において比較的高温で後処理されるか、又はできるだけ完全に硬化(ハードニング)される。このことに関しては、例えば上記特許文献1が参照され、そこでは、摩擦ライニングの熱処理及び/又は熱硬化のための様々な方法が記載されている。
【0010】
しかしこのプロセスステップの後にも、摩擦ライニング内には、まだ硬化されていない結合剤部分(成分)が存在する。そしてブレーキライニングが組み立てられると、未硬化の結合剤部分は、摩擦ライニングにおいて制動時に発生する高温に影響され、摩擦ライニング表面に移動し、このことは、そこで際立った硬化をもたらしてしまう。それにより新しいブレーキライニングないし摩擦ライニングでは、慣らし段階で制動性能が明らかに低下し、このことは、所謂グリーンフェーディングと呼ばれる。この問題を解消するために、支持プレート上にある摩擦ライニングには、取り付け前に所謂スコーチング(表面の焼き入れ)が施される。この過程において、ブレーキライニングは、例えばガス炎又はIR放射を用い、定められた時間の間、熱処理され、この際、摩擦ライニング表面には、ほぼ400℃からほぼ700℃以上の温度が生成される。それにより未硬化の結合剤部分が追い出され、ブレーキライニングは、所謂製造工程において慣らされる。
【0011】
セラミック摩擦ライニングの製造の特殊なケースにおいて、上記特許文献2では、それらの製造において結合剤の省略が提案される。これらの摩擦ライニングは、金属や金属成分を含まず、先ず得られた所謂グリーンボディには、所謂反応性溶融含浸(Reactive Melt Infiltration)が施される必要があり、この反応性溶融含浸では、液状ケイ素又はケイ素合金が、グリーンボディ内に含まれる炭素と反応して(セラミック)炭化ケイ素(SiC)を形成する。
【0012】
更に従来技術には、結合剤を含まない摩擦ライニングが記載されている。
【0013】
上記特許文献3は、結合剤を含まない摩擦ライニングを開示し、該摩擦ライニングは、プレスと焼結により金属繊維と充填材から製造される。この摩擦材料は、クラッチ、ブレーキ、トランスミッションに使用されるべきものとされる。
【0014】
上記特許文献4は、航空機ブレーキ用の摩擦ライニングに関し、該摩擦ライニングも同様に焼結プロセスにより金属繊維と充填材から製造される。
【0015】
上記特許文献5は、同様に、結合剤を使わずに製造することが可能であり且つ焼結された繊維複合材料物から構成され、好ましくはポリアミド繊維から構成される摩擦ライニングに関する。
【0016】
上記特許文献6は、車両ブレーキ用の摩擦ライニングを開示し、該摩擦ライニングは、繊維を基材として製造され、2体積%から30体積%の結合剤の割合を有する。
【0017】
従って本発明の一視点において、結果として得られる摩擦ライニングの品質の高さと特性プロファイルの良好さをもたらすと同時にできるだけ低コストで製造される、更なる摩擦ライニング混合物ないし摩擦ライニングを提供することを目的とした。本発明の他の視点において、併せて、従来技術から既知の欠点を回避でき、又は今まで必要であった方法ステップをできるだけ幅広く回避することのできる対応の製造方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明により、結合剤を含まないか、又は極めて少ない割合の結合剤しか含まない金属含有の摩擦ライニングが提供され、上述の目的の達成に貢献する。
即ち本発明の第1の視点により、10質量%~65質量%の金属割合を有する自動車用の金属含有摩擦ライニングであって、その製造のために使用されている摩擦ライニング混合物は、結合剤を含まないか、又は用意された摩擦ライニング混合物に関して最大で2.5質量%だけの結合剤を含むこと、及び、使用されている摩擦ライニング混合物は、膨張化した黒鉛、及び/又は膨張化したバーミキュライトを含むこと、及び、該摩擦ライニング混合物は、実質的に銅を含有しないこと、を特徴とする金属含有摩擦ライニングが提案される。
更に本発明の第2の視点により、10質量%~65質量%の金属割合を有する自動車用の金属含有摩擦ライニングの製造のために使用される摩擦ライニング混合物であって、該摩擦ライニング混合物は、結合剤を含まないか、又は摩擦ライニング混合物に関して最大で2.5質量%だけの結合剤を含むこと、及び、摩擦ライニング混合物は、膨張化した黒鉛、及び/又は膨張化したバーミキュライトを含むこと、及び、該摩擦ライニング混合物は、実質的に銅を含有しないこと、を特徴とする摩擦ライニング混合物が提案される。
更に本発明の第3の視点により、自動車用の金属含有摩擦ライニングを製造するために、前記摩擦ライニング混合物を使用することが提案される。
更に本発明の第4の視点により、前記金属含有摩擦ライニングを製造するための方法であって、前記摩擦ライニング混合物が使用されること、を特徴とする方法が提案される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の上記の各視点により、上記目的に対応する効果、即ち結果として得られる摩擦ライニングの品質の高さと特性プロファイルの良好さをもたらすと同時にできるだけ低コストで製造される、更なる摩擦ライニング混合物ないし摩擦ライニングが提供され、また従来技術から既知の欠点を回避し、又は今まで必要であった方法ステップをできるだけ幅広く回避することのできる対応の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明において、以下の形態が可能である。
(形態1)
自動車用の摩擦ライニングであって、その製造のために使用されている摩擦ライニング混合物は、結合剤を含まないか、又は用意された摩擦ライニング混合物に関して最大で2.5質量%だけの結合剤を含むこと、及び、使用されている摩擦ライニング混合物は、膨張化した黒鉛、及び/又は膨張化したバーミキュライトを含むこと。
(形態2)
使用されている摩擦ライニング混合物は、結合剤を含まないこと、が好ましい。
(形態3)
使用されている摩擦ライニング混合物は、鋼繊維を30質量%から65質量%で含むこと、が好ましい。
(形態4)
使用されている摩擦ライニング混合物は、膨張化した黒鉛、及び/又は膨張化したバーミキュライトを5質量%から26質量%で含むこと、が好ましい。
(形態5)
使用されている黒鉛は、0.25mmから1.5mmの粒径を有すること、が好ましい。
(形態6)
形態1~5のいずれか1つに記載の摩擦ライニング混合物。
(形態7)
自動車用の摩擦ライニングを製造するために、形態6に記載の摩擦ライニング混合物を使用すること。
(形態8)
形態1~5のいずれか1つに記載の摩擦ライニングを製造するための方法であって、形態6に記載の摩擦ライニング混合物が使用されること。
(形態9)
摩擦ライニングの製造において、摩擦ライニングのハードニング及びスコーチのプロセスステップが省略されること、が好ましい。
【0021】
本発明において、結合剤の割合は、好ましくは、最大で2.5質量%まで(ここで及び以下、全ての質量%の記載は、実際の摩擦ライニングの製造に用いられる用意された摩擦材料混合物に関する)、更に好ましくは、最大で1質量%まで、特に最大で0.9質量%まで、そして特に好ましくは、0質量%である。このためには、特に100℃から200℃の範囲内の熱間プレス(ホットプレス)により硬化する有機結合剤又は無機結合剤が適している。結合剤としては、例えば、フェノール樹脂、ホルムアルデヒドと過剰のフェノールから成る縮合生成物としてのノボラック、ポリイミド、シアネートエステル、フタロニトリル樹脂、及びシリコーン樹脂のような、摩擦ライニングにとって通常の結合剤を使用することができるが、この際、本発明はフェノールノボラック樹脂が好ましい。また結合剤としては、結合剤混合物を使用することもできる。
【0022】
本発明による摩擦ライニングは、好ましくは、30質量%から65質量%の金属割合を有するセミメタリック摩擦ライニングに関するものであるが、所謂ローメタリック範囲(10質量%から30質量%の金属割合)の摩擦ライニング混合物/摩擦ライニングも本発明に含まれる。
【0023】
本発明の目的のために、メタル(金属)又はメタリック(金属的)との用語は、繊維、ウール(綿状のもの)などのような、存在するそれらの全ての形状(ないし形態)において、セミメタル摩擦材料又はローメタル摩擦材料内で存在する全ての金属又は金属合金を含んでいる。
【0024】
形状としては、特に繊維が好ましい。これらの繊維は、細すぎる又は短すぎるべきではなく、それは、さもないと、対応の摩擦ライニングの機械的な安定性が損なわれる可能性があるためである。また長すぎる繊維又はウールも、出発成分を混合する際や、結果として得られる摩擦材料混合物内でそれらを分配する際に、問題をもたらす可能性がある。繊維は、好ましくは、実質的に矩形の横断面を有し、それにより好ましくは、歪められずに形成されている。それにより好ましくは、ブレーキ製造の分野では普通に使用される刻まれた繊維(いわゆる切断した短繊維)が使用される。市販で入手可能なそのような繊維の寸法は、従来技術において及び当業者にとって既知である。
【0025】
金属として、本発明による摩擦ライニングは、好ましくは、鉄又は鋼、特に錆びない特殊鋼(Edelstrahl)、アルミニウム、又は真鍮(黄銅)を含む。銅も同様に適しているだろうが、既存の環境法律規制が原因で使用されない。特に適しているのは、好ましくは上述のパラメータ/寸法を有する繊維として提供される、鉄、鋼、及び特殊鋼である。ここでも、異なる金属を同時に使用することが可能である。
【0026】
摩擦ライニングの製造に用いられる用意された摩擦ライニング混合物において、金属の好ましい割合は、好ましくは少なくとも30質量%、特に少なくとも35質量%、特に好ましくは少なくとも40質量%である。金属の最大割合は、65質量%である。
【0027】
摩擦材料内に存在する金属繊維、特に鋼繊維又は特殊鋼繊維は、通常、摩擦材料混合物のプレス後に得られる摩擦ライニングに対し、必要な機械的安定性と必要な制動特性を与えるためであり、それに十分な量とする。
【0028】
本発明による摩擦ライニングの安定性と特性プロファイルを更に改善するために、良好な特性プロファイルを機械的にもたらす成分に加え、純粋に機械的な方法ではなく追加的に摩擦ライニング成分の結合力を強化する、従って摩擦ライニング自体の結合力を強化する少なくとも1つの更なる成分を使用することが有利であると分かった。この目的のためには、膨張化した黒鉛(expandierter Graphit)と膨張化したバーミキュライト(expandierter Vermiculit)が特に適していると分かった。電極黒鉛は、本発明の目的には適していない。特に適しているのは、膨張化した黒鉛であり、又は膨張黒鉛(Blaehgraphit, exfoliated graphite)とも呼ばれる。黒鉛は、積層した黒鉛層から構成されており、それらの黒鉛層の間には、極めて弱い結合力しかなく、それによりその良好な滑り特性と潤滑特性が説明される。膨張化した黒鉛は、それらの黒鉛層の間に分子を介在させすることにより得られる。通常は硫酸である酸を取り込むことにより、黒鉛が膨張黒鉛に変換される。好ましくは、ほぼ0.25mmからほぼ1.5mm、更に好ましくはほぼ0.5mmからほぼ1mmの粒径を有する黒鉛が使用される。
【0029】
バーミキュライトは、粘土鉱物に属し且つ薄片状の結晶を形成する層状ケイ酸塩に関するものである。膨張マイカ又は膨張化したバーミキュライトは、雲母片岩を処理することにより得られる。この際、未処理のバーミキュライトが熱的に膨張され、それにより層間の化学的に結合した結晶水が追い出され、体積が出発値の35倍に至るまで増加される。本発明によると、膨張化したバーミキュライト又は膨張バーミキュライトが適している。
【0030】
上記の全ての材料は、市販で入手可能である。
【0031】
摩擦ライニング製造において(例えばフェノール樹脂、ノボラックのような)結合剤を完全に省略又は大部分を省略する場合において、膨張化した黒鉛又は膨張化したバーミキュライトを伴わない、本発明による好ましい金属繊維(特に鋼繊維又は特殊鋼繊維)の使用は、十分な又は良好な特性プロファイルを有する摩擦ライニングを得るのに十分であると言える。金属繊維の省略は、望ましい結果をもたらさない。金属繊維(同時に様々なタイプの形状でも)と、膨張化した黒鉛及び/又は膨張化したバーミキュライト(同時に様々なタイプの形状でも)との特定の組み合わせを使用することが好ましい。
【0032】
全般的に、金属繊維は、30質量%から65質量%(冒頭に記載したセミメタリックの摩擦ライニングカテゴリに対応)で使用され、2番目の材料カテゴリ(機械的な固化(Verfestigung)に基づくだけでなく追加的な結合力に作用する、膨張化した黒鉛及び/又は膨張化したバーミキュライト)は、5質量%から26質量%で使用される。この際、質量%の記載は、加圧成形(プレス)すべき用意された摩擦ライニング混合物に関するものである。
【0033】
本発明による摩擦ライニングの製造は、従来技術において及び当業者にとって十分に既知の方法により、出発成分を混合し、摩擦ライニング混合物を高圧高温でプレスすることにより行われる。このための好ましいパラメータは、例えば、45MPaから200MPaの圧力のもと135℃から240℃の温度で50秒から300秒の持続時間(プレス時間)である。
【0034】
以下、本発明の実施例について説明する。尚、以下の実施例は、本発明の理解の容易化のためのものであって、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者により実施可能な付加や置換、開示された各要素の選択ないし選択的組合せ等を排除することを意図するものではない。
【実施例
【0035】
基本的に、本発明による摩擦ライニングを製造するため手順を、以下のように説明することもできる。
【0036】
例えば、以下のような、典型的なセミメタリック摩擦ライニング組成(推定組成例)から出発して考察する:
【0037】
成分 質量%での割合
黒鉛 26
鋼繊維 53.9
フェノール樹脂 0.9
石油コークス* 8.8
フッ化カルシウム** 2.6
炭化ケイ素* 2.6
酸化マグネシウム** 5.2
(注)*は摩擦材(friction material or abrasive)
**はフィラーの夫々代表例である。
本発明は、これらの典型的組成例に限定されるものではない。
【0038】
上記の典型的組成において、成分の鋼繊維と黒鉛、及び場合により結合剤(ここではフェノール樹脂)を計算上取り除くないし減じて(即ち度外視して)計算し、残りの組成物(即ち、石油コークス、フッ化カルシウム、炭化ケイ素、及び酸化マグネシウムの合計19.2質量%)を、本発明では例えば60質量%として、摩擦ライニング混合物に用いる。まだ不足している(残部)40質量%は、本発明において金属繊維と、膨張化した黒鉛及び/又は膨張化したバーミキュライトと、場合により(完全に結合剤を含まない摩擦ライニング組成を望むのではない場合)、結合剤とから構成される。本発明によると、結合剤の割合は、0から最大で2.5質量%である。前記の残りの組成物は、60質量%より多いか又は少ない割合(組成割合)として本発明による摩擦ライニング混合物に用いることもできる。これは、前記の摩擦ライニングカテゴリの通常の成分を含んでいる。
【0039】
摩擦ライニング/摩擦ライニング混合物中に本発明により好ましくは存在しないか又は極めて僅かな割合でのみ含まれる結合剤は、従来技術において摩擦ライニング製造の際に通常に使用される結合剤であることができる。そのための例は、前述のとおりである。結合剤は、基本的に摩擦ライニング製造のプロセス条件のもとで液状であるか、又は液状になりそれから化学的な接着剤として作用する結合剤に関するものである。本発明の目的のために、膨張化した黒鉛、及び膨張化したバーミキュライトは、結合剤には該当しない。なぜなら、これらは粘着性ではなく、本発明による摩擦ライニング組成において圧力下で機械的結合を実現するためのものであるからである。
【0040】
本発明により結合剤(典型的な結合剤ないし液状の結合剤)を完全に省略するか又は少なくとも大部分を省略することにより、高性能の摩擦ライニングの生産が明らかに簡素化され、そのコストが下げられる。結合剤の省略により、生産が極めて安定し、摩擦ライニングは、より簡単に再現(ないし再生)可能である。特にそのような摩擦ライニングでは、ハードニング(硬化炉を含む)及びスコーチ(適切なそのための装備を含む)のプロセスステップを無くすことができることを指摘すべきである。
【0041】
尚、上記の特許文献の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。また本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、更にその基本的技術思想に基づいて、実施形態の変更・調整が可能である。また本発明の全開示の枠内において、種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ、ないし選択が可能である。即ち本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想に従って当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。特に本書に記載した数値範囲については、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし小範囲が別段の記載のない場合でも具体的に記載されているものと解釈されるべきである。