IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-分析方法および分析装置 図1
  • 特許-分析方法および分析装置 図2
  • 特許-分析方法および分析装置 図3
  • 特許-分析方法および分析装置 図4
  • 特許-分析方法および分析装置 図5
  • 特許-分析方法および分析装置 図6
  • 特許-分析方法および分析装置 図7
  • 特許-分析方法および分析装置 図8
  • 特許-分析方法および分析装置 図9
  • 特許-分析方法および分析装置 図10
  • 特許-分析方法および分析装置 図11
  • 特許-分析方法および分析装置 図12
  • 特許-分析方法および分析装置 図13
  • 特許-分析方法および分析装置 図14
  • 特許-分析方法および分析装置 図15
  • 特許-分析方法および分析装置 図16
  • 特許-分析方法および分析装置 図17
  • 特許-分析方法および分析装置 図18
  • 特許-分析方法および分析装置 図19
  • 特許-分析方法および分析装置 図20
  • 特許-分析方法および分析装置 図21
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】分析方法および分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2252 20180101AFI20220921BHJP
【FI】
G01N23/2252
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020060716
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021162310
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2021-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】村野 孝訓
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-329473(JP,A)
【文献】特開2000-149851(JP,A)
【文献】特開2019-035642(JP,A)
【文献】特開2016-031271(JP,A)
【文献】特開2005-140581(JP,A)
【文献】国際公開第2014/068689(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
G21K 1/00-1/16
G01T 1/00-1/40
G01T 7/00-7/12
A61B 6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料で発生したX線を分光する分光素子と、
前記分光素子で分光されたX線を検出するイメージセンサと、
前記分光素子に入射するX線の入射角を制御する入射角制御機構と、
を含み、
前記イメージセンサがエネルギー分散方向に並んだ複数の検出領域を有する分析装置における分析方法であって、
取得するX線のエネルギーを指定する工程と、
指定されたエネルギーと、指定されたエネルギーのX線を検出する前記検出領域と前記分光素子の結像面との間の距離と、に基づいて前記分光素子に入射するX線の入射角を算出し、算出された前記分光素子に入射するX線の入射角に基づいて前記分光素子に入射するX線の入射角を調整することによって、前記分光素子の結像面を、指定されたエネルギーのX線を検出する前記検出領域に合わせる工程と、
を含む、分析方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記分析装置は、前記試料を移動させる移動機構を有する試料ステージを含み、
前記入射角の調整は、前記試料ステージで前記試料を移動させることによって行われる、分析方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記分光素子を移動させる移動機構を含み、
前記入射角の調整は、前記移動機構で前記分光素子を移動させることによって行われる、分析方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記分光素子を回転させる回転機構を含み、
前記入射角の調整は、前記回転機構で前記分光素子を回転させることによって行われる
、分析方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記試料と前記分光素子の位置関係、および前記分光素子と複数の前記検出領域の位置関係に基づいて、各前記検出領域で検出されるX線のエネルギーを求める工程を含む、分析方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、
取得するX線のエネルギーを指定する工程では、前記分光素子で分光可能なエネルギー範囲のうちから、取得するX線のエネルギーを指定し、
前記分光素子に入射するX線の入射角を、前記分光素子で分光可能なエネルギー範囲のうちから指定されたエネルギーと、指定されたエネルギーのX線を検出する前記検出領域と前記分光素子の結像面との間の距離と、に基づいて算出する、分析方法。
【請求項7】
試料で発生したX線を分光する分光素子と、
前記分光素子で分光されたX線を検出するイメージセンサと、
前記分光素子に入射するX線の入射角を制御する入射角制御機構と、
前記入射角制御機構を制御する制御部と、
を含み、
前記イメージセンサは、エネルギー分散方向に並んだ複数の検出領域を有し、
前記制御部は、指定されたX線のエネルギーと、指定されたエネルギーのX線を検出する前記検出領域と前記分光素子の結像面との間の距離と、に基づいて前記分光素子に入射するX線の入射角を算出し、算出された前記分光素子に入射するX線の入射角に基づいて前記入射角制御機構を制御することによって、前記分光素子の結像面を、指定されたエネルギーのX線を検出する前記検出領域に合わせる、分析装置。
【請求項8】
請求項において、
前記入射角制御機構は、前記試料を移動させる移動機構を有する試料ステージである、分析装置。
【請求項9】
請求項において、
前記入射角制御機構は、前記分光素子を移動させる移動機構である、分析装置。
【請求項10】
請求項において、
前記入射角制御機構は、前記分光素子を回転させる回転機構である、分析装置。
【請求項11】
請求項7ないし10のいずれか1項において、
前記制御部は、前記分光素子で分光可能なエネルギー範囲のうちから指定されたエネルギーと、指定されたエネルギーのX線を検出する前記検出領域と前記分光素子の結像面との間の距離と、に基づいて前記分光素子に入射するX線の入射角を算出する、分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析方法および分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線やX線を試料に照射し、試料から発生するX線を検出して試料の元素分析を行う手法が知られている。
【0003】
このような手法を用いた分析装置として、電子線を試料に照射し、試料から発生した軟X線をミラーで集光して回折格子で分光し、分光された軟X線をX線用のCCDイメージセンサで検出して、スペクトルを取得する軟X線分光装置が知られている。軟X線は、0.01keV~5keV程度の極めて低エネルギーのX線である。
【0004】
軟X線分光装置において、回折格子はX線を高い分解能で分光できる。回折格子が持つ分解能を維持してX線をイメージセンサで検出するためには、回折格子の結像面をCCDイメージセンサの検出面に一致させる必要がある。そのため、例えば、特許文献1に開示された分光装置では、回折格子として不等間隔回折格子を用いることによって、回折格子の結像面をイメージセンサの検出面に合わせた平面としている。これにより、回折格子が持つ分解能を維持できるエネルギー範囲を広げることができ、広いエネルギー範囲で高い分解能のスペクトルを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-35642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、不等間隔回折格子を用いた場合でも、全てのエネルギー範囲で回折格子の結像面をイメージセンサの検出面に一致させることは困難である。そのため、不等間隔回折格子を用いた場合でも、所望のエネルギーにおいて、回折格子本来の高い分解能のスペクトルが得られない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る分析方法の一態様は、
試料で発生したX線を分光する分光素子と、
前記分光素子で分光されたX線を検出するイメージセンサと、
前記分光素子に入射するX線の入射角を制御する入射角制御機構と、
を含み、
前記イメージセンサがエネルギー分散方向に並んだ複数の検出領域を有する分析装置における分析方法であって、
取得するX線のエネルギーを指定する工程と、
指定されたエネルギーと、指定されたエネルギーのX線を検出する前記検出領域と前記分光素子の結像面との間の距離と、に基づいて前記分光素子に入射するX線の入射角を算出し、算出された前記分光素子に入射するX線の入射角に基づいて前記分光素子に入射するX線の入射角を調整することによって、前記分光素子の結像面を、指定されたエネルギーのX線を検出する前記検出領域に合わせる工程と、
を含む。
【0008】
このような分析方法では、指定されたエネルギーに基づいてX線の入射角を調整することによって、回折格子の結像面を、指定されたエネルギーのX線を検出する検出領域に合わせるため、目的のエネルギーにおいて高分解能のX線スペクトルを得ることができる。
【0009】
本発明に係る分析装置の一態様は、
試料で発生したX線を分光する分光素子と、
前記分光素子で分光されたX線を検出するイメージセンサと、
前記分光素子に入射するX線の入射角を制御する入射角制御機構と、
前記入射角制御機構を制御する制御部と、
を含み、
前記イメージセンサは、エネルギー分散方向に並んだ複数の検出領域を有し、
前記制御部は、指定されたX線のエネルギーと、指定されたエネルギーのX線を検出する前記検出領域と前記分光素子の結像面との間の距離と、に基づいて前記分光素子に入射するX線の入射角を算出し、算出された前記分光素子に入射するX線の入射角に基づいて前記入射角制御機構を制御することによって、前記分光素子の結像面を、指定されたエネルギーのX線を検出する前記検出領域に合わせる。
【0010】
このような分析装置では、制御部が、指定されたエネルギーに基づいて入射角制御機構を制御することによって、回折格子の結像面を、指定されたエネルギーのX線を検出する検出領域に合わせるため、目的のエネルギーにおいて高分解能のX線スペクトルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る分析装置の構成を示す図。
図2】イメージセンサの検出面を模式的に示す平面図。
図3】回折格子の結像面を示す図。
図4】X線の入射角と回折格子の結像面の関係を示す図。
図5】イメージセンサの検出面に回折格子の結像面を合わせる手法を説明するための図。
図6】試料と回折格子の位置関係を説明するための図。
図7】入射角を算出する手法を説明するための図。
図8】第1実施形態に係る分析装置の動作の一例を示すフローチャート。
図9】標準試料を測定して取得されたスペクトルを模式的に示す図。
図10図9に示すスペクトルの横軸を検出領域の位置からX線のエネルギーに変換したグラフ。
図11】第1変形例に係る分析装置の動作の一例を示すフローチャート。
図12】X線の入射角と回折格子の結像面の関係を示す図。
図13】イメージセンサの検出面を模式的に示す平面図。
図14】参考例に係る分析装置のイメージセンサの検出面を模式的に示す平面図。
図15】参考例に係る分析装置におけるスペクトル生成方法を説明するための図。
図16】第4変形例に係る分析装置におけるスペクトル生成方法を説明するための図。
図17】行スペクトルのエネルギー軸を補正する処理を説明するための図。
図18】第2実施形態に係る分析装置の構成を示す図。
図19】回折格子移動機構の動作を説明するための図。
図20】第2実施形態の第1変形例に係る分析装置の構成を示す図。
図21】回折格子移動機構の動作の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0013】
1. 第1実施形態
1.1. 分析装置
まず、第1実施形態に係る分析装置について図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る分析装置100の構成を示す図である。
【0014】
分析装置100は、図1に示すように、電子光学系10と、試料ステージ12と、X線集光ミラー20と、回折格子30(分光素子の一例)と、イメージセンサ40と、制御部50と、操作部60と、表示部62と、記憶部64と、を含む。分析装置100は、試料Sに電子線が照射されることによって試料Sで発生する軟X線(以下、単に「X線」ともいう)を分光し、分光された軟X線を検出して軟X線スペクトル(以下、単に「X線スペクトル」ともいう)を取得する軟X線分光装置である。
【0015】
電子光学系10は、試料Sに電子線を照射する。電子光学系10は、例えば、電子銃と、電子銃から放出された電子線を集束して試料Sに照射する照射レンズと、電子線を偏向させる偏向器と、を有している。電子光学系10によって、試料Sの所望の位置に電子線を照射できる。
【0016】
試料ステージ12は、試料Sを支持している。試料ステージ12は、試料Sを、試料Sの高さ方向、すなわち、図示のz方向に移動させる移動機構を有している。z方向は、図示の例では、電子光学系10の光軸に沿った方向である。
【0017】
分析装置100では、試料Sの上方に静電偏向板14が配置されている。試料Sに電子線が照射されることにより、試料Sからは特性軟X線が発生する。さらに、試料SからはX線の他にも、反射電子や二次電子などが発生する。静電偏向板14を配置することで、反射電子や二次電子などを除去することができる。また、静電偏向板14に印加される電位は可変であり、電子線の加速電圧に応じて電位を与えることで、バックグラウンドを低減できる。
【0018】
X線集光ミラー20は、試料Sから放出されるX線を集光させて回折格子30に導く。X線集光ミラー20でX線を集光させることにより、回折格子30に入射するX線の強度を増加させることができる。これにより、測定時間の短縮や、スペクトルのS/N比の向上を図ることができる。
【0019】
回折格子30は、試料Sで発生したX線を分光する。回折格子30にX線を特定の角度で入射させると、波長(エネルギー)ごとに分光されたX線(回折X線)を得ることができる。回折格子30は、例えば、収差補正のために不等間隔の溝が形成された不等間隔回折格子である。回折格子30は、X線を大きな入射角で入射させたときに、回折X線の焦点をローランド円上ではなく、イメージセンサ40の検出面43上に形成する。
【0020】
イメージセンサ40は、回折格子30で分光されたX線(回折X線)を検出する検出器である。イメージセンサ40は、軟X線に対する感度の高い撮像素子である。イメージセンサ40は、例えば、CCD(Charge-Coupled Device)イメージセンサや、CMOS(Complementary MOS)イメージセンサ等である。イメージセンサ40は、例えば、背面照射型のCCDイメージセンサである。
【0021】
操作部60は、ユーザーが操作情報を入力するためのものであり、入力された操作情報を制御部50に出力する。操作部60の機能は、キーボード、マウス、ボタン、タッチパネル、タッチパッドなどのハードウェアにより実現することができる。
【0022】
表示部62は、制御部50によって生成された画像を表示する。表示部62の機能は、LCD(liquid crystal display)、CRT(cathode ray tube)、操作部60としても機能するタッチパネルなどにより実現できる。
【0023】
記憶部64は、制御部50としてコンピュータを機能させるためのプログラムや各種データを記憶している。また、記憶部64は、制御部50のワーク領域としても機能する。記憶部64の機能は、ハードディスク、RAM(Random Access Memory)などにより実現できる。
【0024】
制御部50(コンピュータ)の機能は、各種プロセッサ(CPU(Central Processing
Unit)、DSP(digital signal processor)等)などのハードウェアで、プログラムを実行することにより実現できる。制御部50は、分析装置100を構成する各部を制御する処理や、各種計算処理を行う。
【0025】
制御部50は、エネルギーの指定を受け付ける処理と、指定されたエネルギーに基づいて回折格子30に入射するX線の入射角を調整することによって、回折格子30の結像面を、指定されたエネルギーのX線を検出するイメージセンサ40の検出領域に合わせる処理と、を行う。制御部50の処理の詳細については後述する。
【0026】
図2は、イメージセンサ40の検出面43を模式的に示す平面図である。
【0027】
イメージセンサ40は、図2に示すように、エネルギー分散方向Aに並んだ複数の検出領域2を有している。複数の検出領域2は、検出面43を構成している。各検出領域2は、独立してX線を検出できる。そのため、イメージセンサ40では、回折格子30で分光されて、互いに異なるエネルギー(波長)を持つX線を、独立して検出することができる。検出領域2は、例えば、イメージセンサ40の1つの画素に相当する。なお、検出領域2は、イメージセンサ40の互いに隣り合う複数の画素で構成されていてもよい。
【0028】
図示の例では、イメージセンサ40では、X線の発散方向Bにも、複数の検出領域2が並んでいる。発散方向Bは、エネルギー分散方向Aと直交する。発散方向Bに並んだ複数の検出領域2では、互いに同じエネルギー(波長)を持つX線を検出することができる。
【0029】
分析装置100では、電子光学系10によって試料Sに電子線が照射されると、試料SからX線が発生する。試料Sから発生したX線は、X線集光ミラー20で集光され、回折格子30に入射する。回折格子30に入射したX線は、波長(エネルギー)に応じた出射角で出射されて、イメージセンサ40の検出面43に入射する。検出面43に入射したX線は、エネルギー分散方向Aに並んだ複数の検出領域2で検出される。イメージセンサ40の出力信号から、各検出領域2で検出されたX線の強度の情報を得ることができる。制御部50では、この各検出領域2で検出されたX線の強度の情報に基づいてX線スペクトルを生成する。
【0030】
1.2. 分析方法
次に、分析装置100における分析方法について説明する。分析装置100における分析方法は、取得するX線のエネルギーを指定する工程と、指定されたエネルギーに基づいて回折格子30に入射するX線の入射角を調整することによって、回折格子30の結像面を、指定されたエネルギーのX線を検出する検出領域2に合わせる工程と、を含む。
【0031】
1.2.1. 回折格子の結像面とイメージセンサの検出面の位置関係
図3は、回折格子30の結像面を示す図である。図3には、回折格子30の結像面と、イメージセンサ40の検出面43を示している。
【0032】
図3に示す結像面Fは、回折格子30が理想的に配置されている基準配置における結像面を示している。結像面F-0.2は、回折格子30を基準配置からX線の入射角を-
0.2°ずらした場合の結像面を示している。結像面F+0.5は、回折格子30を基準配置からX線の入射角を+0.5°ずらした場合の結像面を示している。検出面FCCDは、イメージセンサ40の検出面43を示している。
【0033】
なお、図3に示すY軸は、図2のエネルギー分散方向Aに平行な軸である。X軸は、Y軸に直交する軸であり、回折格子30とイメージセンサ40との間の距離を示す軸である。後述する図5に示す例では、X軸は、回折格子30の回折面31に平行であり、Y軸は、イメージセンサ40の検出面43に平行である。
【0034】
図3に示すグラフにおいて、検出面FCCDと結像面が重なっている箇所は、検出面FCCDと結像面が一致していることを意味する。そのため、検出面FCCDと結像面が重なっている箇所では、回折格子30が持つ高いエネルギー分解能を維持した状態でX線スペクトルを取得できる。結像面が検出面FCCDからずれると(デフォーカス)、X線スペクトルの分解能が低下する。
【0035】
図3に示すように、回折格子30が基準配置されている場合、イメージセンサ40の下側では、結像面Fと検出面FCCDが一致しているが、イメージセンサ40の上側では、結像面Fは検出面FCCDからずれている。ここで、イメージセンサ40の上側の検出領域2で検出されるX線のエネルギーは、イメージセンサ40の下側の検出領域2で検出されるX線のエネルギーに比べて、低い。そのため、回折格子30が基準配置されている場合、スペクトルの低エネルギー側では、高いエネルギー分解能が得られない。
【0036】
図4は、X線の入射角と回折格子30の結像面の関係を示す図である。図4には、結像面F、結像面F-0.2、結像面F+0.5、および検出面FCCDを示している。さらに、図4には、277eVのX線、139eVのX線、92eVのX線、69eVのX線、55.4eVのX線について、X線の入射角を変化させたときにX線が結像する位置をそれぞれプロットしている。
【0037】
図4に示すように、回折格子30に対するX線の入射角を変化させることで、結像面の位置が移動する。そのため、X線の入射角を調整することで、所望のエネルギーのX線を検出する検出領域2に回折格子30の結像面を一致させることができる。
【0038】
図5は、イメージセンサ40の検出面43に回折格子30の結像面を合わせる手法を説明するための図である。
【0039】
図5に示すように、試料Sをz方向に移動させることで、回折格子30に対するX線の入射角αが変化する。分析装置100では、試料ステージ12が試料Sをz方向に移動させる移動機構(以下、「z移動機構」ともいう)を有している。そのため、試料ステージ12を用いて試料Sをz方向に移動させることによって、X線の入射角αを調整できる。したがって、分析装置100では、回折格子30の結像面を、所望のエネルギーを検出する検出領域2に一致させることができる。なお、このとき、回折格子30の位置や角度は、固定する。例えば、回折格子30は、基準配置とする。
【0040】
このように、分析装置100では、試料ステージ12がX線の入射角αを制御する入射角制御機構として機能する。
【0041】
1.2.2. 移動量Δzの算出
分析装置100における分析方法では、上述したように、指定されたエネルギーに基づいて試料ステージ12を動作させることによって、回折格子30の結像面を、指定されたエネルギーのX線を検出する検出領域2に合わせる。以下、試料ステージ12で試料Sを
移動させるときの試料Sの移動量Δzの算出方法について説明する。
【0042】
図6は、試料Sと回折格子30の位置関係を説明するための図である。
【0043】
試料Sが初期位置(z=O)に位置している場合の、X線の入射角をαとし、入射長(X線の発生源と回折格子30におけるX線の入射位置との間の距離)をrとし、X線の取り出し角をφとする。このとき、試料Sを初期位置(z=O)からz方向に移動量Δzだけ移動させて試料Sが目的位置z=Pに位置している場合の、X線の取り出し角φ´は、次式で表される。
【0044】
【数1】
【0045】
また、試料Sが目的位置z=Pに位置している場合の、回折格子30に対するX線の入射角α´は、次式で表される。
【0046】
【数2】
【0047】
ただし、ここでは、試料Sに入射する電子線の入射方向と回折格子30の回折面31とがなす角度を47°としている。
【0048】
さらに、試料Sが初期位置(z=O)に位置している場合の、回折格子30の結像位置は、以下の近軸像点(極座標(r´、β´))により展開される。
【0049】
【数3】
【0050】
ただし、σ、R、nは、回折格子30のパラメーターであり、定数である。また、λは、X線の波長である。また、mは回折次数である。
【0051】
X線のエネルギーEと、X線の波長λは、次式の関係を有するため、波長λは、X線のエネルギーEに変換可能である。
【0052】
λ≒1240/E
【0053】
ここで、X線の入射角αが既知であれば、上記式(3)および上記式(4)により、回折格子30の結像面の位置を算出できる。また、目的のエネルギー(波長)が指定されれば、目的のエネルギーを検出する検出領域2aと結像面(r´、β´)との間の距離を求めることができ、さらに、結像面と検出領域2aとが一致するときの入射角α´を算出できる。この入射角α´がわかれば、上記式(2)および上記式(1)を用いて、移動量Δzを算出できる。
【0054】
つまり、上記式(1)、(2)、(3)、(4)を用いることによって、回折格子30
の結像面を、目的のエネルギー(波長)のX線を検出する検出領域2aに一致させるための試料Sの移動量Δzを算出できる。
【0055】
上記では、初期位置(z=O)での入射角αが既知であるとして説明したが、入射角αは、例えば、以下に説明する式(5)を用いて求めることができる。
【0056】
図7は、入射角αを算出する手法を説明するための図である。
【0057】
回折格子30に対するX線の入射角αは、次式で求めることができる。
【0058】
【数4】
【0059】
ただし、dは、回折格子30の格子定数(格子周期)である。Dは、図7に示す回折格子30と検出面43との間の距離(X方向の距離)である。Hは、図7に示す目的のエネルギー(波長)を検出する検出領域2aの高さ(Y方向の高さ)である。
【0060】
なお、式(5)は、回折格子の理論式より導かれる。以下、式(5)について説明する。
【0061】
回折格子の理論式は、次式で表される。
【0062】
d(sinα-sinβ)=mλ
ただし、dは、回折格子30の格子定数(格子周期)である。mは回折次数である。なお、回折次数mは基本的に1である。λはX線の波長である。αは回折格子30に対するX線の入射角である。βは回折格子30に対するX線の出射角である。
【0063】
出射角βは、回折格子30と検出面43との間の距離D、波長λのX線を検出する検出領域2aの高さHから、次式で表される。
【0064】
tanβ=H/D
【0065】
したがって、上記式(5)が得られる。
【0066】
1.3. 分析装置の動作
図8は、分析装置100の動作の一例を示すフローチャートである。
【0067】
制御部50による処理の前に、あらかじめ、試料Sのz方向の位置を、初期位置(z=O)とする。例えば、ユーザーが手動で試料ステージ12を動作させて試料Sの高さを調整することによって、試料Sを初期位置(z=O)としてもよい。なお、制御部50が、試料ステージ12を動作させて、試料Sを初期位置(z=O)としてもよい。試料Sのz方向の位置を初期位置(z=O)とすることによって、回折格子30の結像面は、図3に示す結像面Fとなる。
【0068】
制御部50は、例えば、操作部60から目的のエネルギーを指定する入力を受け付けると、回折格子30の結像面が指定されたエネルギーを検出する検出領域2aに一致するときの入射角α´を算出する(S100)。
【0069】
制御部50は、式(3)および式(4)を用いて、初期位置(z=O)での入射角α
、初期位置(z=O)での入射長r、および目的のエネルギーEから、入射角α´を算出する。
【0070】
初期位置(z=O)での入射角αおよび初期位置(z=O)での入射長rは、あらかじめ記憶部64に記憶されている。なお、初期位置(z=O)での入射角αは、式(5)から算出できる。
【0071】
次に、制御部50は、得られた入射角α´から試料Sのz方向の移動量Δzを算出する(S102)。
【0072】
制御部50は、式(2)を用いて入射角α´から取り出し角φ´を算出し、式(1)を用いて取り出し角φ´から移動量Δzを算出する。
【0073】
次に、制御部50は、試料ステージ12に、算出された移動量Δzだけz方向に試料Sを移動させる(S104)。これにより、回折格子30の結像面を、指定されたエネルギーのX線を検出する検出領域2aに一致させることができる。
【0074】
次に、制御部50は、X線スペクトルを取得する(S106)。
【0075】
分析装置100では、電子光学系10が電子線を試料Sに照射し、試料Sから発生したX線を回折格子30で分光し、分光されたX線をイメージセンサ40で検出することによって、X線スペクトルを取得する。このとき、目的のエネルギーのX線は、検出領域2aで検出される。イメージセンサ40で取得されたX線スペクトルは、制御部50に送られる。
【0076】
以上の処理により、指定されたエネルギーが高分解能なX線スペクトルを得ることができる。
【0077】
なお、もとの基準配置(すなわち、図3に示す結像面Fが得られる配置)でのX線スペクトルが必要な場合には、試料ステージ12を動作させて、試料Sを初期位置(z=O)に戻せばよい。
【0078】
1.4. 作用効果
分析装置100における分析方法は、取得するX線のエネルギーを指定する工程と、指定されたエネルギーに基づいて入射角αを調整することによって、回折格子30の結像面を、指定されたエネルギーのX線を検出する検出領域2aに合わせる工程と、を含む。そのため、目的のエネルギーにおいて高分解能のX線スペクトルを得ることができる。
【0079】
分析装置100における分析方法では、X線の入射角αの調整は、試料ステージ12で試料Sを移動させることによって行われる。そのため、容易に、目的のエネルギーにおいて高分解能のX線スペクトルを得ることができる。
【0080】
分析装置100では、制御部50は、指定されたX線のエネルギーに基づいて試料ステージ12を制御することによって、回折格子30の結像面を、指定されたエネルギーのX線を検出する検出領域2aに合わせる。そのため、分析装置100では、容易に、目的のエネルギーにおいて高分解能のX線スペクトルを得ることができる。
【0081】
1.5. 変形例
1.5.1. 第1変形例
(1)分析装置の構成
まず、第1変形例に係る分析装置について説明する。以下では、上述した分析装置100の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0082】
第1変形例に係る分析装置の構成は、上述した図1に示す分析装置100と同様であり、図示およびその説明を省略する。
【0083】
(2)キャリブレーション
第1変形例に係る分析装置の制御部50は、取得したX線スペクトルのエネルギー軸のキャリブレーションを行う。具体的には、制御部50は、試料Sと回折格子30の位置関係、および回折格子30と複数の検出領域2の位置関係に基づいて、各検出領域2で検出されるX線のエネルギーを求めて、エネルギー軸のキャリブレーションを行う。
【0084】
なお、エネルギー軸のキャリブレーションとは、検出領域2の位置を表す軸をエネルギー軸に変換する場合と、設定されたエネルギー軸を補正して新たにエネルギー軸を設定する場合と、を含む。以下では、検出領域2の位置を表す軸をエネルギー軸に変換する場合について説明する。
【0085】
まず、上述した図8に示す処理を行うことによって、標準試料のX線スペクトルを取得する。
【0086】
図9は、標準試料を測定して取得されたスペクトルを模式的に示す図である。ここでは、エネルギー軸のキャリブレーションが行われていないため、図9に示すスペクトルの横軸はエネルギー分散方向Aにおける検出領域2の位置を示している。図9に示すスペクトルの横軸は、1つの検出領域2を1ピクセルとして、検出領域2の位置を表している。図9に示すスペクトルの縦軸は、検出領域2で検出されたX線の強度を表している。
【0087】
図9に示すスペクトル中のピークのエネルギー値は、標準試料を用いて測定を行ったため、既知である。標準試料は、スペクトルに現れるピークのエネルギー値が既知であるものをいう。
【0088】
図9に示すスペクトルには、P1ピクセル、P2ピクセル、P3ピクセルにそれぞれピークが見られている。図9に示すスペクトルは、標準試料を用いて測定されたものであり、3つのピークのエネルギー値は、既知である。図9に示す例では、P1ピクセルのピークのエネルギー値は、E1eVであり、P2ピクセルのピークのエネルギー値は、E2eVであり、P3ピクセルのピークのエネルギー値は、E3eVである。
【0089】
次に、試料Sと回折格子30の位置関係、回折格子30と複数の検出領域2の位置関係を求める。
【0090】
具体的には、上記式(5)の入射角α、距離D、高さHをパラメーターとして、図9に示すスペクトルから得られた、ピーク位置とエネルギーのデータセットを用いて、最小二乗法等により、これらのパラメーターの最適解を求める。図9に示すスペクトルでは、P1ピクセルとE1eVのセット、P2ピクセルとE2eVのセット、およびP3ピクセルとE3eVのセットが得られる。そのため、これらのデータセットを用いて、上記式(5)の入射角α、距離D、高さHの最適解を求める。
【0091】
入射角α、距離D、および高さHは、回折格子30およびイメージセンサ40の光学配置に関するパラメーターである。すなわち、試料Sと回折格子30の位置関係(光学的な位置関係)および回折格子30とイメージセンサ40の位置関係(光学的な位置関係)に関するパラメーターである。
【0092】
例えば、入射角αは、試料Sと回折格子30の位置関係によって決まるパラメーターである。また、距離Dは、回折格子30の位置、またはイメージセンサ40の位置を変更することで調整することができる。また、高さHは、イメージセンサ40の位置(検出面43の位置)を変更することで調整することができる。すなわち、距離Dおよび高さHは、回折格子30とイメージセンサ40の位置関係によって決まるパラメーターである。
【0093】
次に、各検出領域2で検出されるX線のエネルギーを求める。入射角α、距離D、高さHの最適解を得ることによって、上記式(5)から、エネルギー分散方向Aに並ぶ各検出領域2で検出されるX線のエネルギー(波長)を一義的に求めることができる。
【0094】
図10は、図9に示すスペクトルの横軸を検出領域2の位置(ピクセル)からX線のエネルギー(eV)に変換したグラフである。
【0095】
図10に示すように、上記式(5)から、エネルギー分散方向Aに並ぶ各検出領域2で検出されるX線のエネルギーを求めることにより、スペクトルの横軸を、検出領域2の位置を表す軸からエネルギー軸に変換することができる。このようにして、スペクトルのエネルギー軸のキャリブレーションができる。
【0096】
(3)分析装置の動作
図11は、第1変形例に係る分析装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【0097】
まず、制御部50は、試料SのX線スペクトルを取得する(S200)。
【0098】
具体的には、制御部50は、上述した図8に示す処理により、X線スペクトルを取得する。
【0099】
次に、制御部50は、ピーク位置とエネルギーのデータセットを取得する(S202)。
【0100】
データセットの取得は、標準試料を分析装置で測定することで得られる。例えば、分析装置で標準試料を測定し、図9に示す標準試料のX線スペクトルを取得して、ピーク位置の情報を取得する。また、ピーク位置に対応するエネルギーの情報は、標準試料を測定して得られるピーク(X線種)のエネルギーのデータベースから取得する。当該データベースは、あらかじめ記憶部64に記憶されていてもよい。また、ピーク位置におけるエネルギーの情報は、ユーザーが、操作部60を介して入力してもよい。
【0101】
次に、制御部50は、取得したデータセットを用いて、上記式(5)の入射角α、距離D、高さHをパラメーターとして、最小二乗法等により、これらのパラメーターの最適解を求める(S204)。求められた入射角α、距離D、および高さHは、記憶部64に記憶される。
【0102】
次に、制御部50は、求めた入射角α、距離D、および高さHを上記式(5)に適用して、各検出領域2で検出されるX線のエネルギーを求める(S206)。
【0103】
制御部50は、各検出領域2で検出されるX線のエネルギーに基づいて、X線スペクトルのエネルギー軸を設定する(S208)。
【0104】
制御部50は、横軸がエネルギー軸、縦軸がX線の強度で表されるX線スペクトルを表示部62に表示させる(S210)。制御部50は、X線スペクトルを表示部62に表示
させた後、処理を終了する。
【0105】
第1変形例に係る分析装置におけるキャリブレーション方法では、試料Sと回折格子30の位置関係、および回折格子30と複数の検出領域2の位置関係に基づいて、各検出領域2で検出されるX線のエネルギーを求める工程を含む。具体的には、上記式(5)を用いて、各検出領域2で検出されるX線のエネルギーを求める。
【0106】
このように、第1変形例に係る分析装置におけるキャリブレーション方法によれば、試料Sと回折格子30の位置関係、および回折格子30と複数の検出領域2の位置関係に基づき、回折格子の理論式から、各検出領域2で検出されるX線のエネルギーを求めることができる。したがって、例えば、多項式近似を用いてキャリブレーションする場合と比べて、各検出領域2で検出されるX線のエネルギーを、イメージセンサ40で検出可能な全てのエネルギー範囲で精度よく求めることができる。これにより、X線スペクトルのエネルギー軸を精度よくキャリブレーションすることができる。
【0107】
例えば、多項式近似を用いてX線スペクトルのエネルギー軸を補正する場合、補正に用いられるピークで挟まれたエネルギー範囲の外では、精度が極端に悪くなる。また、多項式近似を用いてX線スペクトルのエネルギー軸を補正する場合、補正に用いられるピークの数が少なければ、設定次数が必然的に低下し、精度も悪化する。
【0108】
これに対して、第1変形例に係る分析装置におけるキャリブレーション方法によれば、回折格子の理論式からX線スペクトルのエネルギー軸を補正することができるため、上述した多項式近似の場合のような問題が生じない。したがって、例えば、エネルギー分散方向Aに並んだ全ての検出領域2において、検出されるX線のエネルギーを精度よく求めることができる。
【0109】
1.5.2. 第2変形例
次に、第2変形例に係る分析装置について説明する。以下では、上述した分析装置100の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0110】
第2変形例に係る分析装置の構成は、上述した図1に示す分析装置100と同様であり、図示およびその説明を省略する。
【0111】
上述したように、分析装置100では、回折格子30の結像面を、指定されたエネルギーのX線を検出する検出領域2aに合わせて、X線スペクトルを取得する。そのため、指定されたエネルギーから離れたエネルギーのX線を検出する検出領域2では、デフォーカス量(検出領域2に対する結像面のずれ)が大きくなってしまう。
【0112】
したがって、第2変形例に係る分析装置では、制御部50は、表示部62にX線スペクトルを表示させるときに、X線スペクトルのうち、指定されたエネルギーに基づき設定されたエネルギー範囲のみを表示させる。そのため、指定されたエネルギーの近傍のX線スペクトルのみが表示部62に表示され、指定されたエネルギーから離れたエネルギー範囲のX線スペクトルは、表示部62に表示されない。
【0113】
また、例えば、制御部50は、デフォーカス量が予め設定された範囲よりも大きくならないように、指定されたエネルギーに基づいて試料Sのz方向の移動量に制限を設けてもよい。
【0114】
第2変形例に係る分析装置では、上記の処理を行うため、低分解能なエネルギー範囲を含むX線スペクトルがユーザーに提供されない。
【0115】
1.5.3. 第3変形例
図12は、X線の入射角と回折格子の結像面との関係を示す図である。
【0116】
図12に示すように、デフォーカス量を大きくすると、検出領域2で検出されるエネルギーがずれる。例えば、デフォーカス量が小さい場合、55.4eVのX線は、検出面FCCDの上端の検出領域2で検出される。ここで、デフォーカス量を+側に大きくすると、55.4eVのX線は、検出面FCCDの上端の検出領域2よりも下側に位置する検出領域2で検出される。このように、デフォーカス量を+側に大きくすることによって、デフォーカス量が小さい場合と比べて、より低エネルギーのX線を検出できる。
【0117】
また、デフォーカス量を-側に大きくすることによって、デフォーカス量が小さい場合と比べて、より高エネルギーのX線を検出できる。
【0118】
このように、デフォーカス量を調整することによって、イメージセンサ40で検出できるエネルギー範囲を変更することができる。
【0119】
1.5.4. 第4変形例
次に、第4変形例に係る分析装置について説明する。以下では、上述した分析装置100の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0120】
第4変形例に係る分析装置では、イメージセンサ40の構成が、上述した分析装置100の例と異なる。
【0121】
図13は、イメージセンサ40の検出面43を模式的に示す平面図である。
【0122】
イメージセンサ40は、図13に示すように、複数行、複数列に並んだ検出領域2を有している。検出面43では、検出領域2が、行方向Cおよび列方向Dに並んでいる。行方向Cと列方向Dとは、互いに直交している。行方向Cは行が延びる方向であり、列方向Dは列が延びる方向である。
【0123】
以下では、行方向Cに並ぶ検出領域2の数をM(Mは2以上の整数)とし、列方向Dに並ぶ検出領域2の数をN(Nは2以上の整数)とする。すなわち、イメージセンサ40は、M×N個の検出領域2を有している。行方向Cに並ぶ検出領域2の数M、および列方向Dに並ぶ検出領域2の数Nは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0124】
M×N個の検出領域2の各々は、回折格子30で分光されたX線を独立して検出可能である。M×N個の検出領域2の各々は、検出信号を出力する。検出信号は、検出領域2で検出されたX線の強度の情報を含む。
【0125】
エネルギー分散方向Aと行方向Cとは、平行ではなく、かつ、垂直ではない。同様に、発散方向Bと列方向Dとは、平行ではなく、かつ、垂直ではない。X線の発散方向Bと列方向Dとがなす角度θは、例えば、次式の関係を満たす。
【0126】
θ=tan-1(1/N)
ただし、0°<θ<90°である。
【0127】
制御部50は、イメージセンサ40におけるX線の検出結果に基づいて、X線スペクトルを生成する。制御部50は、行方向Cに並んだ検出領域2の検出信号に基づいて、行ごとにスペクトル(以下、「行スペクトル」ともいう)を生成して、複数の行スペクトルを
生成する処理と、複数の行スペクトルに基づいてX線スペクトルを生成する処理と、を行う。
【0128】
以下、X線スペクトルを生成する手法について説明する。まず、参考例に係る分析装置におけるスペクトル生成方法について説明する。次に、参考例に係る分析装置の手法と第4変形例に係る分析装置の手法とを比較することで、第4変形例に係る分析装置におけるスペクトル生成方法を説明する。
【0129】
図14は、参考例に係る分析装置のイメージセンサ1040の検出面1043を模式的に示す平面図である。ここでは、イメージセンサ1040が、2048×2048の画素を有しているCCDイメージセンサである場合について説明する。すなわち、イメージセンサ1040では、検出領域1002が行方向Cに2048個、列方向Dに2048個並んでいる。
【0130】
図14に示すように、イメージセンサ1040では、エネルギー分散方向Aと行方向Cとが平行であり、発散方向Bと列方向Dとは平行である。
【0131】
図15は、参考例に係る分析装置におけるスペクトル生成方法を説明するための図である。
【0132】
参考例に係る分析装置では、図15に示すように、列方向Dに並んだ複数の検出領域1002で検出されたX線の強度を積算して、X線スペクトルS2を生成する。
【0133】
参考例に係る分析装置では、列方向DがX線の発散方向Bと平行であるため、同じ列に並ぶ2048個の検出領域1002では、同じエネルギー(波長)のX線が検出される。したがって、列方向Dに並ぶ2048個の検出領域1002で検出されたX線の強度を積算して、X線スペクトルS2を生成する。
【0134】
X線スペクトルS2では、横軸は、X線のエネルギー(波長)を表している。X線のエネルギーは、検出領域2の行方向Cの位置に対応している。また、X線スペクトルS2では、縦軸がX線の強度を表している。このように、X線スペクトルS2は、横軸としてX線のエネルギー(波長)を表すエネルギー軸、および縦軸としてX線の強度を表す強度軸で表される。X線スペクトルS2を構成する点の数は、行方向Cに並ぶ検出領域1002の数に一致する。そのため、X線スペクトルS2を構成する点の数は、2048点である。
【0135】
図16は、第4変形例に係る分析装置におけるスペクトル生成方法を説明するための図である。以下では、上述した参考例に係る分析装置との相違点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0136】
図16に示すように、イメージセンサ40の検出面43は、図14に示すイメージセンサ1040を角度θだけ回転させた状態である。これにより、X線の発散方向Bと列方向Dとがなす角度は、角度θとなる。
【0137】
イメージセンサ40では、図14に示す参考例に係る分析装置と同様に、検出領域2が行方向Cに2048個、列方向Dに2048個並んでいる。すなわち、行方向Cに並ぶ検出領域2の数M=2048であり、列方向Dに並ぶ検出領域2の数N=2048である。そのため、角度θは、θ=tan-1(1/2048)である。
【0138】
イメージセンサ40では、行ごとに行スペクトルS4を生成して、2048個の行スペ
クトルS4を取得する。例えば、まず、1行目において、行方向Cに並んだ2048個の検出領域2で検出されたX線の強度に基づいて、1行目の行スペクトルS4を生成する。次に、2行目において、行方向Cに並んだ2048個の検出領域2で検出されたX線の強度に基づいて、2行目の行スペクトルS4を生成する。2行目以降についても同様の処理を行う。このようにして1行目から2048行目まで行スペクトルS4を生成する処理を繰り返して、2048個の行スペクトルS4を取得する。
【0139】
図17は、行スペクトルS4のエネルギー軸を補正する処理を説明するための図である。
【0140】
2048個の行スペクトルS4は、互いに横軸であるエネルギー軸がずれている。そのため、行スペクトルS4のピークに基づいて、行スペクトルS4のエネルギー軸を補正する。具体的には、図17に示すように、2048個の行スペクトルS4において、対応するピークの位置が同じエネルギー値となるように、各行スペクトルS4のエネルギー軸を補正する。
【0141】
次に、エネルギー軸が補正された、2048個の行スペクトルS4を1つのスペクトルとする。例えば、2048個の行スペクトルS4において、各行スペクトルS4を構成する点を、1つのグラフにプロットする。これにより、X線スペクトルS6を生成することができる。
【0142】
図17に示すX線スペクトルS6は、2048×2048点で構成され、図15に示すX線スペクトルS2と比べて、隣り合う点の間隔が1/2048となる。すなわち、X線スペクトルS6のエネルギー軸の解像度は、X線スペクトルS2のエネルギー軸の解像度と比べて、2048倍となる。
【0143】
上記では、1つの検出領域1002および1つの検出領域2がCCDイメージセンサの1つの画素である場合について説明したが、CCDイメージセンサを構成する画素をビニングした場合についても、同様である。
【0144】
例えば、128×128個の画素を1つの検出領域2とした場合、イメージセンサ40で生成されたX線スペクトルS6は、参考例に係る分析装置で生成されたX線スペクトルS2と比べて、隣り合う点の間隔が1/16となる。すなわち、X線スペクトルS6のエネルギー軸の解像度は、X線スペクトルS2のエネルギー軸の解像度と比べて、16倍となる。
【0145】
第4変形例に係る分析装置では、イメージセンサ40は、複数行、複数列に並んだ検出領域2を有し、イメージセンサ40に入射するX線の発散方向Bと、列方向Dとは、平行ではなく、かつ、垂直ではない。また、制御部50は、行方向Cに並んだ検出領域2の検出信号に基づいて、行ごとに行スペクトルS4を生成して、複数の行スペクトルS4を取得する処理と、複数の行スペクトルS4に基づいて、X線スペクトルS6を生成する処理と、を行う。そのため、第4変形例に係る分析装置では、例えば、X線の発散方向Bと列方向Dとが平行である場合と比べて、X線スペクトルの隣り合う点の間隔を小さくすることができ、X線スペクトルの高解像度化を図ることができる。
【0146】
2. 第2実施形態
2.1. 分析装置
次に、第2実施形態に係る分析装置について、図面を参照しながら説明する。図18は、第2実施形態に係る分析装置200の構成を示す図である。以下、第2実施形態に係る分析装置200において、第1実施形態に係る分析装置100の構成部材と同様の機能を
有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0147】
上述した分析装置100では、試料Sをz方向に移動させることによって、X線の入射角αを調整した。これに対して、分析装置200では、回折格子30を移動させることによって、X線の入射角αを調整する。
【0148】
分析装置200は、図18に示すように、回折格子30を移動させる回折格子移動機構32を含む。回折格子移動機構32は、圧電素子を有し、圧電素子の動作によって回折格子30を移動させる。分析装置200では、回折格子移動機構32が、X線の入射角αを制御する入射角制御機構として機能する。
【0149】
図19は、回折格子移動機構32の動作を説明するための図である。
【0150】
回折格子移動機構32は、図19に示すように、回折格子30を、回折面31の垂線に沿って移動させる。回折格子30を回折面31の垂線に沿って移動させることで、X線の入射角αが変化する。
【0151】
分析装置200では、回折格子移動機構32を用いて回折格子30を回折面31の垂線に沿って移動させることによって、回折格子30の結像面の位置を調整し、回折格子30の結像面を、指定されたエネルギーのX線を検出する検出領域2aに一致させることができる。
【0152】
分析装置200における分析方法は、回折格子30を移動させることによってX線の入射角αを調整する点を除いて、上述した分析装置100における分析方法と同様であり、その説明を省略する。
【0153】
分析装置200では、制御部50が指定されたX線のエネルギーに基づいて回折格子移動機構32を制御することによって、回折格子30の結像面を、指定されたエネルギーのX線を検出する検出領域2aに合わせる。そのため、分析装置200では、上述した分析装置100と同様の作用効果を奏することができる。
【0154】
2.2. 変形例
2.2.1. 第1変形例
図20は、第1変形例に係る分析装置210の構成を示す図である。以下、第1変形例に係る分析装置210において、第2実施形態に係る分析装置200の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0155】
上述した分析装置200では、回折格子30を移動させることによって、X線の入射角αを調整した。これに対して、分析装置210では、回折格子30を回転させることによって、X線の入射角αを調整する。
【0156】
分析装置210は、図20に示すように、回折格子30を回転させる回折格子回転機構34を含む。回折格子回転機構34は、圧電素子を有し、圧電素子の動作によって回折格子30を回転させる。分析装置210では、回折格子回転機構34が、X線の入射角αを制御する入射角制御機構として機能する。
【0157】
図21は、回折格子回転機構34の動作を説明するための図である。
【0158】
回折格子回転機構34は、図21に示すように、所定の軸まわりに、回折格子30を回転させる。これにより、X線の入射角αを変えることができる。
【0159】
分析装置210では、制御部50が指定されたX線のエネルギーに基づいて回折格子回転機構34を制御することによって、回折格子30の結像面を、指定されたエネルギーのX線を検出する検出領域2aに合わせる。そのため、分析装置210では、上述した分析装置200と同様の作用効果を奏することができる。
【0160】
2.2.2. 第2変形例
上述した第1実施形態に係る分析装置100の第1変形例、第2変形例、第3変形例、および第4変形例は、第2実施形態に係る分析装置200にも適用できる。
【0161】
3. その他
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0162】
例えば、上述した実施形態では、図1に示すように、試料Sで発生したX線を回折格子30で分光していたが、試料Sで発生したX線を分光する分光素子はこれに限定されず、X線を連続的にエネルギー分散可能な分光素子であればよい。このような分光素子としては、例えば、ゾーンプレートなどが挙げられる。
【0163】
また、上述した実施形態では、試料Sに電子線を照射していたが、試料Sに電子線以外の一次線を照射して試料SからX線を発生させてもよい。このような一次線としては、X線、紫外光などが挙げられる。
【0164】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0165】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0166】
2…検出領域、2a…検出領域、10…電子光学系、12…試料ステージ、14…静電偏向板、20…X線集光ミラー、30…回折格子、31…回折面、32…回折格子移動機構、34…回折格子回転機構、40…イメージセンサ、43…検出面、50…制御部、60…操作部、62…表示部、64…記憶部、100…分析装置、200…分析装置、210…分析装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21