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特許7144478タンパク質加水分解物を用いたタンパク質-多糖類二重コーティング乳酸菌の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-20
(45)【発行日】2022-09-29
(54)【発明の名称】タンパク質加水分解物を用いたタンパク質-多糖類二重コーティング乳酸菌の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20220921BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20220921BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20220921BHJP
   A23L 33/185 20160101ALI20220921BHJP
   A23L 33/19 20160101ALI20220921BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23L33/125
A23L33/135
A23L33/185
A23L33/19
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020069218
(22)【出願日】2020-04-07
(65)【公開番号】P2020174667
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2020-04-07
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-01
(31)【優先権主張番号】10-2019-0043610
(32)【優先日】2019-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517002731
【氏名又は名称】セル バイオテック カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】ミョンジュン・チョン
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】福井 悟
【審判官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-320473(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0152378(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N1/00
CAplus/BIOSIS/EMBASE/MEDLINE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質-多糖類コーティングの二重コーティングを有する乳酸菌の製造方法であって、前記方法は、次のステップ:
(a)脱脂粉乳、分離大豆タンパク(ISP)、又は脱脂粉乳及び分離大豆タンパク(ISP)の混合物を含むタンパク質水溶液にタンパク質加水分解酵素を処理して、タンパク質加水分解水溶液を製造するステップであって、
前記脱脂粉乳を含むタンパク質水溶液に対する、前記脱脂粉乳の濃度は2.0重量%~5.0重量%であり、前記タンパク質加水分解酵素の濃度は0.003重量%~0.005重量%であり、
前記分離大豆タンパク(ISP)を含むタンパク質水溶液に対する、前記分離大豆タンパク(ISP)の濃度は0.45重量%~0.75重量%であり、前記タンパク質加水分解酵素の濃度は0.015重量%~0.025重量%であり、又は
前記脱脂粉乳及び分離大豆タンパク(ISP)の混合物を含むタンパク質水溶液に対する、前記脱脂粉乳の濃度は1.5重量%~2.0重量%であり、前記分離大豆タンパク(ISP)の濃度は0.30重量%であり、前記タンパク質加水分解酵素の濃度は0.015重量%であり;
(b)前記製造されたタンパク質加水分解水溶液に乳酸菌培養のための糖成分及び窒素源成分を添加して殺菌した後、乳酸菌を接種して培養するステップ;
(c)前記培養して得た乳酸菌の発酵培養液から乳酸菌の菌体を回収するステップ;
(d)前記回収した乳酸菌の菌体に凍結保護剤水溶液及び多糖類水溶液を添加して、混合及び均質化するステップ;及び
(e)前記均質化された乳酸菌菌体水溶液を凍結乾燥させるステップ、
を含み、
前記ステップ(a)における前記脱脂粉乳の加水分解率は、以下のi)の方法を使用して測定した百分率値であり、
前記ステップ(a)における前記分離大豆タンパク(ISP)の加水分解率は、以下のii)の方法を使用して測定した百分率値であり、
前記ステップ(a)における前記脱脂粉乳及び分離大豆タンパク(ISP)の混合物の加水分解率は、以下のi)及びii)の方法を使用して測定した百分率値の平均値であり、
i)前記タンパク質加水分解酵素を処理する前のタンパク質水溶液の吸光度の測定値(始点OD)と前記タンパク質加水分解酵素を処理した後のタンパク質水溶液の吸光度の測定値(終点OD)との差であるΔOD値を前記始点OD値で割った値の百分率値、及び、
ii)前記タンパク質加水分解酵素を処理する前のタンパク質水溶液を遠心分離して得る沈殿物の重さの測定値(始点ppt)と前記タンパク質加水分解酵素を処理した後のタンパク質水溶液を遠心分離して得る沈殿物の重さの測定値(終点ppt)との差であるΔppt値を前記始点ppt値で割った値の百分率値、
前記ステップ(a)における前記脱脂粉乳の加水分解率は、75%~92%であり、
前記ステップ(a)における前記分離大豆タンパク(ISP)の加水分解率は、61%~80%であり、
前記ステップ(a)における前記脱脂粉乳及び分離大豆タンパク(ISP)の混合物の加水分解率は、76%~85%である
ことを特徴とする、タンパク質-多糖類コーティングの二重コーティング層を有する乳酸菌の製造方法。
【請求項2】
前記ステップ(a)における前記脱脂粉乳の加水分解率は、80%~90%であることを特徴とする、請求項1に記載のタンパク質-多糖類コーティングの二重コーティング層を有する乳酸菌の製造方法。
【請求項3】
前記ステップ(a)における前記分離大豆タンパクの加水分解率は、70%~80%であることを特徴とする、請求項1に記載のタンパク質-多糖類コーティングの二重コーティング層を有する乳酸菌の製造方法。
【請求項4】
前記ステップ(a)における前記脱脂粉乳及び分離大豆タンパクの混合物の加水分解率は、78%~83%であることを特徴とする、請求項1に記載のタンパク質-多糖類コーティングの二重コーティング層を有する乳酸菌の製造方法。
【請求項5】
前記ステップ(b)の乳酸菌培養のための糖成分は、混合乳糖、果糖、砂糖(Sucrose)、及びブドウ糖からなる群より選択された1種以上であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のタンパク質-多糖類コーティングの二重コーティング層を有する乳酸菌の製造方法。
【請求項6】
前記ステップ(b)の乳酸菌培養のための窒素源成分は、酵母エキス又は大豆ペプトンであることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載のタンパク質-多糖類コーティングの二重コーティング層を有する乳酸菌の製造方法。
【請求項7】
前記ステップ(d)の凍結保護剤は、トレハロース、マルトデキストリン、マンニトール、及び脱脂粉乳からなる群より選択された1種又はこれらの2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載のタンパク質-多糖類コーティングの二重コーティング層を有する乳酸菌の製造方法。
【請求項8】
前記ステップ(d)の多糖類は、ガム(gum)類、水溶性食物繊維、難消化性マルトデキストリン、不溶性食物繊維、デンプン、レバン(Levan)、及び抵抗性デンプンからなる群より選択された1種以上であることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載のタンパク質-多糖類コーティングの二重コーティング層を有する乳酸菌の製造方法。
【請求項9】
前記乳酸菌は、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、リューコノストック(Leuconostoc)属、ワイセラ(Weissella)属、及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属からなる群より選択された一つ以上の菌株であることを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載のタンパク質-多糖類コーティングの二重コーティングを有する乳酸菌の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法によって製造された、タンパク質-多糖類コーティングの二重コーティングを有する乳酸菌。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法によってタンパク質-多糖類コーティングの二重コーティングを有する乳酸菌を製造し、製造されたタンパク質-多糖類コーティングの二重コーティングを有する乳酸菌を食品組成物に添加する、乳酸菌を含む食品組成物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年4月15日に出願された韓国特許出願第10-2019-0043610号の優先権を主張し、その開示は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
本発明は、タンパク質加水分解物を用いたタンパク質-多糖類二重コーティング乳酸菌の製造方法及びこの方法によって製造された二重コーティングを有する乳酸菌に関する。
【背景技術】
【0003】
乳酸菌(lactic acid bacteria)はラクト酸菌とも言い、哺乳類の腸内に生息して雑菌による異常発酵を防止し、整腸剤としても用いられる重要な細菌である。例えば、ブルガリア乳酸菌(L. bulgaricus)は、最も昔から知られている乳酸菌であって、ヨーグルトの製造に使用され、チーズや発酵バターの製造時のスターターとしても使用される。また、好気性乳酸菌(L. acidophilus)は、ヒト及びすべての哺乳類とその他の動物の腸に存在し、バター又は牛乳の製造や腸内自家中毒の治療に使用される。また、ラクチス乳酸球菌(L. lactis)は、DL-乳酸を生成し、これは常に牛乳中に存在してバター又はチーズの製造に使用され、酪農用乳酸菌として最も重要な菌である。
【0004】
上記のように有用である乳酸菌は、腸に定着して腸管運動を活性化させて便秘や下痢症を改善させ、排便活動を円滑にさせ、その他に免疫力向上、抗高脂血、抗アトピー、ダイエット効果、抗糖尿、抗ガン等の多様な生理活性を示すので、健康機能食品、整腸用医薬品、肌改善用化粧品、飼料添加剤等に広く使用されている。ところで、上述した生理学的効果を発揮するためには、既存のヨーグルト等食品で摂取する量よりもはるかに多い量の乳酸菌を摂取しなければならない。したがって、乳酸菌のみを分離して粉末やカプセル状で簡便に飲む方法が大衆化されている。
【0005】
かかる乳酸菌は、主に発酵産物を用いる他の産業用微生物とは違って、生菌自体を用いるから、流通期間及び摂取時に消化過程中の生存率の維持は非常に重要な問題である。すなわち、乳酸菌は、生菌剤自体として経口摂取時、人体内pHが3以下に下がる胃腸と小腸から分泌する消化酵素及び胆汁酸によって生育が阻害され、大腸に到逹する生菌数が減少するだけでなく、腸内定着率が低下する問題がある。
【0006】
このため、乳酸菌は効用と価値の面で非常に有益な菌であるにもかかわらず、かなり不安定であって、長期間保管して使用することに多くの制約が伴い、これを用いた発酵乳製品及び生菌剤は、製造過程と保管期間中に酸素や酸化ストレスによって生存率が大きく減少して、産業的活用や経口摂取時の効能発揮の障害となっている。
【0007】
上記のような問題点を解決すべく乳酸菌をコーティングする多様な方法が開発されているが、初期にはカプセル剤を用いた腸溶コーティング剤と、ゼラチン、多糖類、ガム類等を用いたマイクロカプセル化等があったが、高価のコーティング剤を使用するか、工程が追加される問題点が指摘されてきた。
【0008】
これを解決するために、高濃度の乳酸菌が生きている二重構造のゼリーを製造する方法、水溶性ポリマー、ヒアルロン酸、多孔性粒子を有するコーティング剤及びタンパク質を追加して4重コーティングする方法(特許文献1)、水溶性ポリマー、機能性水和ヒアルロン酸、多孔性粒子及びタンパク質を用いて、4重コーティングする方法(特許文献2)、腸内生存率を増大させるために、乳酸菌をカゼイン、コーティング剤、食用油脂、ラクトバチルス プランタルムの細胞外高分子物質(Extracellular Polymeric Substance)、及びアルギン酸でコーティングする方法(特許文献3)、腸内定着性向上のためにシルクフィブロインでコーティングする方法(特許文献4)等が競争的に開発されてきている。
【0009】
しかしながら、このように改善した乳酸菌コーティング技術も、乳酸菌の表面を完全にコーティングすることはできず、依然として凍結乾燥生存率、乳酸菌の耐熱性、耐酸性及び耐胆汁性、腸定着性等が十分に優れておらず、保管及び流通過程で生存率が低下するという問題点がある。
【0010】
本明細書において言及された特許文献及び参考文献は、それぞれの文献が参照によって個別且つ明確に特定されたことと同一の程度で本明細書に参照として組み込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】大韓民国特許出願第10-2011-0134486号
【文献】大韓民国特許出願第10-2015-0129986号
【文献】大韓民国特許出願第10-2016-0172568号
【文献】大韓民国特許出願第10-2017-0045326号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、乳酸菌の凍結乾燥生存率、保存安定性、耐酸性、及び耐胆汁性を向上できる乳酸菌コーティング方法を開発すべく研究努力した結果、タンパク質を加水分解した後、これを用いて多糖類及び凍結保護剤とともに乳酸菌を二重コーティングすれば、乳酸菌の凍結乾燥生存率、耐酸性、耐胆汁性を大きく向上できることを実験的に確認して、本発明を完成した。
【0013】
したがって、本発明の目的は、乳酸菌の凍結乾燥生存率、保存安定性、耐酸性、及び耐胆汁性が向上するように、加水分解されたタンパク質を用いて乳酸菌を効果的に二重コーティングする方法を提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、二重コーティングが形成されて、乳酸菌の凍結乾燥生存率、保存安定性、耐酸性、及び耐胆汁性が向上した乳酸菌を提供することにある。
【0015】
本発明のまた別の目的は、上記二重コーティングされた乳酸菌を含む食品組成物を提供することにある。
【0016】
本発明の別の目的及び技術的特徴は、以下の発明の詳細な説明、請求の範囲、及び図面によってより具体的に提示される。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様によれば、次のステップを含むタンパク質-多糖類コーティングの二重コーティングを有する乳酸菌の製造方法を提供する:
(a)タンパク質水溶液にタンパク質加水分解酵素を処理して、タンパク質の加水分解率が45%~95%であるタンパク質加水分解水溶液を製造するステップ;
(b)上記製造されたタンパク質加水分解水溶液に乳酸菌培養のための糖成分及び窒素源成分を添加して殺菌した後、乳酸菌を接種して培養するステップ;
(c)上記培養して得た乳酸菌の発酵培養液から乳酸菌の菌体を回収するステップ;
(d)上記回収した乳酸菌の菌体に凍結保護剤及び多糖類水溶液を添加して、混合及び均質化するステップ;及び
(e)上記均質化された乳酸菌菌体水溶液を凍結乾燥させるステップ。
【0018】
タンパク質加水分解物の製造
本発明において、乳酸菌のコーティングに使用されるタンパク質は、加水分解処理した後に使用する。
【0019】
本発明の一実施態様によれば、タンパク質の加水分解処理は、タンパク質が含まれたタンパク質水溶液にタンパク質加水分解酵素を添加した後、加水分解反応させて行うことができる。
【0020】
本発明の一実施態様によれば、上記タンパク質の加水分解率は、45%~95%の範囲が好ましい。
【0021】
本発明において、タンパク質の加水分解率は、酵素によってタンパク質が加水分解された程度を示す意味であり、i)酵素による加水分解処理前と処理後のタンパク質水溶液の吸光度の差を測定する方法、ii)酵素による加水分解処理前と処理後のタンパク質水溶液を遠心分離して得られる沈殿物の重さの差を測定する方法、又はiii)上記2つの方法を使用して測定した値の平均値によって算出されることができる。
【0022】
本発明の一実施態様によれば、本発明において、上記タンパク質の加水分解率は、タンパク質加水分解酵素を処理する前のタンパク質水溶液の吸光度(OD、Optical Density)測定値(「始点OD」)とタンパク質加水分解酵素を処理した後のタンパク質水溶液の吸光度測定値(「終点OD」)との差であるΔOD値を上記始点OD値で割った値の百分率値(%)である。すなわち、上記タンパク質の加水分解率は、次の算式で算出されることができる:加水分解率(%)=[ΔOD]/[始点OD]×100
【0023】
本発明の別の実施態様によれば、本発明において、上記タンパク質の加水分解率は、タンパク質加水分解酵素を処理する前のタンパク質水溶液を遠心分離して得る沈殿物の重さ測定値(「始点ppt」)とタンパク質加水分解酵素を処理した後のタンパク質水溶液を遠心分離して得る沈殿物の重さ測定値(「終点ppt」)との差であるΔppt値を上記始点ppt値で割った値の百分率値(%)である。すなわち、上記タンパク質の加水分解率は、次の算式で算出されることができる:加水分解率(%)=[Δppt]/[始点ppt]×100
【0024】
本発明の別の実施態様によれば、上記2つの方法で測定した加水分解率の平均値を使用することができる。
【0025】
本発明の一実施態様によれば、乳酸菌コーティングに使用されるタンパク質は、脱脂粉乳、分離大豆タンパク(ISP)、又は脱脂粉乳及び分離大豆タンパク(ISP)の混合物であってもよい。
【0026】
本発明の一実施態様によれば、本発明において、脱脂粉乳の加水分解率は、59%~93%であってもよく、好ましくは75%~92%、より好ましくは80%~90%であってもよい。
【0027】
本発明の一実施態様によれば、本発明において、分離大豆タンパクの加水分解率は、45%~86%であってもよく、好ましくは61%~80%であってもよく、より好ましくは70%~80%であってもよい。
【0028】
本発明の一実施態様によれば、本発明において、上記脱脂粉乳及び分離大豆タンパク混合物の加水分解率は、75%~93%であってもよく、好ましくは76%~85%であってもよく、より好ましくは78%~83%であってもよい。
【0029】
本発明において使用されるタンパク質加水分解酵素は、タンパク質をアミノ酸又はペプチド水準に分解する酵素を意味する。本発明において、タンパク質加水分解酵素は、常用化されたアルカラーゼ(Alcalase)、フラボウルザイム(Flavourzyme)、ニュートラーゼ(Neutrase)、プロタメックス(Protamax)等を選択して使用することができるが、これに限定されない。
【0030】
本発明において、タンパク質を加水分解処理すれば、半水溶性ペプチド(peptide)が生成することと推定される。上記半水溶性ペプチドは、タンパク質加水分解処理時にアミノ酸に完全に加水分解されずに残っているペプチドを意味し、本発明の方法において、加水分解率が高いほど半水溶性ペプチドの量が少なくなり、加水分解率が低いほどその量が増加する。上記半水溶性ペプチドは、凍結乾燥時に細胞に加えられる物理的衝撃によるタンパク質の変性を緩和させて、凍結乾燥生存率を向上させる役割をする。一方、上記半水溶性ペプチドがタンパク質加水分解水溶液内に過量で存在する場合、培養液が疎水性に変化し、これによって乳酸菌の固まりを誘導して、乳酸菌の培養性を抑制することになる。
【0031】
したがって、本発明において、上述した範囲のタンパク質加水分解率より低い場合、加水分解されていない多量の半水溶性ペプチドによって培養液の疎水性が高くなって、乳酸菌が固まり、分裂が円滑にされず、結局、乳酸菌の培養性が悪くなる。逆に、タンパク質加水分解物が上述した範囲のタンパク質加水分解率より高い場合、分解されていない半水溶性ペプチドの量が十分でなく、凍結乾燥時に乳酸菌に加えられる物理的衝撃によるタンパク質変性を十分に緩和できなくなり、凍結生存率が低下する問題点がある。
【0032】
本発明の一実施態様によれば、脱脂粉乳の加水分解時に脱脂粉乳水溶液に対して、脱脂粉乳の濃度は、0.5~10.0重量%、好ましくは1.0~6.0重量%であってもよく、タンパク質加水分解酵素の濃度は、0.0005~0.010重量%、好ましくは0.001~0.008重量%であってもよい。
【0033】
本発明の一実施態様によれば、分離大豆タンパク(ISP)の加水分解時に分離大豆タンパク水溶液に対して、分離大豆タンパクの濃度は、0.10~3.0重量%、好ましくは0.15~1.0重量%であってもよく、タンパク質加水分解酵素の濃度は、0.001~0.10重量%、好ましくは0.005~0.030重量%であってもよい。
【0034】
本発明の一実施態様によれば、脱脂粉乳及び分離大豆タンパク混合物の加水分解時に脱脂粉乳及び分離大豆タンパク混合物水溶液に対して、脱脂粉乳及び分離大豆タンパク混合物の濃度は、0.05~2.0重量%、好ましくは0.10~0.40重量%であってもよく、タンパク質加水分解酵素の濃度は、0.05~4.0重量%、好ましくは0.5~3.0重量%であってもよい。
【0035】
乳酸菌培養及びタンパク質コーティング
上記製造されたタンパク質加水分解水溶液に乳酸菌培養のための糖成分及び窒素源成分を添加して殺菌した後、乳酸菌を接種して培養する。
【0036】
本発明において、上記コーティングの対象となる乳酸菌は、酸を生成し、弱酸性条件でも増殖できる乳酸菌であって、これに限定されることはないが、ラクトバチルス属(Lactobacillus sp.)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium sp.)、ストレプトコッカス属(Streptococcus sp.)、ラクトコッカス属(Lactococcus sp.)、エンテロコッカス属(Enterococcus sp.)、ペディオコッカス属(Pediococcus sp.)、リューコノストック属(Leuconostoc sp.)及びワイセラ属(Weissella sp.)のうちいずれか一つ以上であってもよく、好ましくはラクトバチルス プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス アリメンタリウス(Lactobacillus alimentarius)、ラクトバチルス サケイ(Lactobacillus sakei)、ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス デルブルエッキイー(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)、ロイコノストック メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、エンテロコッカス フェシウム(Enterococcus faecium)、エンテロコッカス フェカリス(Enterococcus faecalis)、ストレプトコッカス サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス ラクチス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス フェカリス(Streptococcus faecalis)、ビフィドバクテリウム インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム ブレーブ(Bifidobacterium breve)、及びラクトコッカス ラクチス(Lactococcus lactis subsp. lactis)からなる群より選択された1種以上であってもよい。
【0037】
また、本発明において、上記乳酸菌として、好ましくはラクトバチルス プランタルムCBT-LP(Lactobacillus plantarum CBT-LP、寄託番号:KCTC 10782BP)、ラクトバチルス デルブルエッキイー亜種ブルガリクスCBT-LG(Lactobacillus delbrueckii sub sp. bulgaricus CBT-LG、寄託番号:KCTC 11864BP)、ラクトバチルス アシドフィルス CBT-LA(Lactobacillus acidophilus CBT-LA、寄託番号:KCTC 11906BP)、ラクトバチルス ラムノサスCBT-LR(Lactobacillus rhamnosus CBT-LR、寄託番号:KCTC 12202BP)、ラクトバチルス ロイテリCBT-LU(Lactobacillus reuteri CBT-LU、寄託番号:KCTC 12397BP)、ラクトバチルス カゼイCBT-LC(Lactobacillus casei CBT-LC、寄託番号:KCTC 12398BP)、ラクトバチルス パラカゼイCBT-LPC(Lactobacillus paracasei CBT-LPC、寄託番号:KCTC 12451BP)、ラクトバチルス ヘルベティカスCBT-LH(Lactobacillus helveticus CBT-LH、寄託番号:KCTC 12670BP)、ビフィドバクテリウム インファンティス CBT-BT(Bifidobacterium infantis CBT-BT、寄託番号:KCTC 11859BP)、ビフィドバクテリウム ラクチスCBT-BL(Bifidobacterium lactis CBT-BL、寄託番号:KCTC 11904BP)、ビフィドバクテリウム ビフィダムCBT-BF(Bifidobacterium bifidum CBT-BF、寄託番号:KCTC 12199BP)、ビフィドバクテリウム ロンガムCBT-BG(Bifidobacterium longum CBT-BG、寄託番号:KCTC 12200BP)、ビフィドバクテリウム ブレーブCBT-BR(Bifidobacterium breve CBT-BR、寄託番号:KCTC 12201BP)、ペディオコッカスペントサセウスCBT-PP(Pediococcus pentosaseus CBT-PP、寄託番号:KCTC 10297BP)、ラクトコッカス ラクチス亜種ラクチス CBT-SL(Lactococcus lactis sub sp. lactis CBT-SL、寄託番号:KCTC 11865BP)、ストレプトコッカス サーモフィルスCBT-ST(Streptococcus thermophilus CBT-ST、寄託番号:KCTC 11870BP)、エンテロコッカス フェカリスCBT-EFL(Enterococcus faecalis CBT-EFL、寄託番号:KCTC 12394BP)、及びエンテロコッカス フェシウムCBT-EF(Enterococcus faecium CBT-EF、寄託番号:KCTC 12450BP)からなる群より選択された1種以上であってもよいが、好ましくはラクトバチルス アシドフィルスCBT-LA(Lactobacillus acidophilus CBT-LA)、ラクトバチルス プランタルムCBT-LP(Lactobacillus plantarum CBT-LP)、ストレプトコッカス サーモフィルスCBT-ST(Streptococcus thermophilus CBT-ST)及びエンテロコッカス フェシウムCBT-EF(Enterococcus faecium CBT-EF)、ビフィドバクテリウム ロンガムCBT-BG(Bifidobacterium longum CBT-BG)からなる群より選択された1種以上であってもよく、より好ましくはストレプトコッカス サーモフィルスCBT-ST(Streptococcus thermophilus CBT-ST)、ビフィドバクテリウム ブレーブCBT-BR(Bifidobacterium breve CBT-BR)、ラクトバチルス アシドフィルスCBT-LA(Lactobacillus acidophilus CBT-LA)であってもよい。
【0038】
本発明において、下記のように乳酸菌のコーティングのための原料としては、乳酸菌の生菌が含まれたものであれば、剤形あるいは製造方法に制限されずに使用されることができるが、好ましくは乳酸菌の培養液を使用することができる。
【0039】
本発明において、上記乳酸菌の培養液を得るための乳酸菌の培養条件も特に制限せず、当該技術分野において乳酸菌の培養のために一般的に使用される条件であれば、制限なく使用されることができるが、例えば、MRS、BL、M17、NB、又はBHI等の培地に乳酸菌を接種して、35~40℃の温度及び窒素ガス又は二酸化炭素ガスで置換された嫌気条件下に6~48時間培養することができる。
【0040】
本発明において、上記乳酸菌の培養のための糖成分は、混合乳糖、果糖、砂糖(Sucrose)、又はブドウ糖を使用することができ、好ましくは菌株の特性に合わせて選択して使用することができる。
【0041】
本発明において、上記乳酸菌の培養のための窒素源成分は、酵母エキス又は大豆ペプトンを使用することができるが、これに限定されない。
【0042】
その他に乳酸菌の培養のために、微量成分として第二リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、塩化カルシウム、クエン酸カリウム、酢酸ナトリウム、L-アスコルビン酸、L-グルタミン酸、L-システイン塩酸塩、ポリソルベート80等をさらに添加することができる。
【0043】
乳酸菌菌体の回収及び濃縮
乳酸菌を培養した培養液から濾液を最大限多く除去して、固形分である乳酸菌菌体(Cell Mass)の比重が高い状態に濃縮する。乳酸菌菌体を稠密に濃縮するほど凍結乾燥乳酸菌の製造において次のような利点を有する:i)トレイ(Tray)当たりの分注量が減少し、蒸発させるべき水分の量も少なくなり、ii)凍結過程で浸透圧差による水分の流出により凍結速度が速く、iii)氷結晶が小さく均一であり、細胞形態の変化も小さくなり、凍結中の乳酸菌細胞膜の損傷が少なくなり、iv)凍結過程での変性も少なく生じる。
【0044】
本発明において、乳酸菌を回収及び濃縮する方法は、特に制限されないが、好ましくは遠心分離法によって回収及び濃縮することができ、例えばディスクタイプ(disc type)の高速遠心分離機又は円筒型(tubular type)の高速遠心分離機を用いて濃縮することができるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
凍結保護剤の添加
本発明の方法において、乳酸菌を凍結乾燥して乳酸菌の保存安定性を増進させることができる。凍結乾燥処理のために回収及び濃縮された乳酸菌菌体に凍結保護剤を添加して、混合及び均質化する。好ましくは凍結保護剤成分が添加された凍結保護剤水溶液を使用することができる。
【0046】
本発明の方法において使用することができる凍結保護剤は、トレハロース、マルトデキストリン、マンニトール、及び脱脂粉乳からなる群より選択された1種又はこれらの2種以上の混合物を使用することができる。好ましくは、凍結保護剤は、トレハロース、マルトデキストリン、マンニトール、及び脱脂粉乳からなる混合物を使用することができる。本発明において、凍結保護剤は、凍結保護剤成分が、1~90重量%、1~80重量%、1~75重量%、1~70重量%、1~65重量%、又は1~60重量%含まれた水溶液の形態で製造して濃縮された乳酸菌菌体に添加して使用することができる。
【0047】
上記凍結保護剤水溶液は、乳酸菌菌体に対して適切な量を添加して使用することができ、好ましくは乳酸菌菌体の重量に対し、0.001~99重量%、0.01~95重量%、0.1~95重量%の範囲で添加して使用することができる。
【0048】
多糖類コーティング
本発明において、乳酸菌の凍結乾燥生存率、耐酸性、及び耐胆汁性を向上させるために、濃縮された乳酸菌を多糖類でコーティングすることができる。
【0049】
多糖類コーティングのために、濃縮された乳酸菌菌体に多糖類成分を添加した後、混合及び均質化する。好ましくは多糖類成分が添加された多糖類水溶液を使用することができる。
【0050】
本発明において、乳酸菌の多糖類コーティングに使用されることができる多糖類は、ガム(gum)類、水溶性食物繊維、難消化性マルトデキストリン、不溶性食物繊維、デンプン、レバン(Levan)、及び抵抗性デンプンからなる群より選択された1種以上であってもよい。上記ガム(gum)類は、キサンタンガム(Xantan gum)、アラビアガム(Arabic gum)、グアーガム(Guar gum)、ゲランガム(Gellan gum)、カラヤガム(Karaya gum)、及びローカストビーンガム(Locust bean gum)からなる群より選択される1種以上の成分であってもよい。上記水溶性食物繊維は、ポリデキストロース(Polydextrose)、グルコマンナン(Glucomannan)、β-グルカン(β-glucan)、ペクチン(Pectin)、又はアルギン酸(Alginic acid)であってもよい。上記不溶性食物繊維は、チコリ抽出粉末、セルロース、ヘミセルロース、リグニン又はイヌリンであってもよい。
【0051】
本発明の一実施態様によれば、上記多糖類コーティングに使用される多糖類は、キサンタンガム及びセルロースの混合物であってもよい。
【0052】
本発明において、多糖類コーティングは、多糖類成分が1~80重量%、1~75重量%、1~70重量%、1~65重量%、1~60重量%、又は1~50重量%含まれた多糖類水溶液の形態に製造して、濃縮された乳酸菌菌体に添加した後、混合及び均質化する方式で行うことができる。
【0053】
上記多糖類水溶液は、乳酸菌菌体の重量に対し適切な量を添加して使用することができ、好ましくは乳酸菌菌体の重量に対し0.001~99重量%、0.01~95重量%、0.1~95重量%の範囲で添加して使用することができる。
【0054】
凍結乾燥
上述したように、タンパク質コーティングされた乳酸菌菌体に凍結保護剤及び多糖類成分を添加し、混合及び均質化した乳酸菌菌体を凍結乾燥する。
【0055】
本発明の別の態様によれば、上記説明された方法によって製造されたタンパク質-多糖類二重コーティングを有する乳酸菌を提供する。
【0056】
本発明のまた別の態様によれば、上記説明された方法によって製造されたタンパク質-多糖類二重コーティングを有する乳酸菌を含む食品組成物を提供する。
【発明の効果】
【0057】
本発明は、タンパク質加水分解物を用いたタンパク質-多糖類二重コーティング乳酸菌の製造方法及びこの方法によって製造された二重コーティングを有する乳酸菌に関する。本発明によって製造されたタンパク質-多糖類二重コーティングを有する乳酸菌は、凍結乾燥生存率、耐酸性、耐胆汁性に非常に優れている。よって、本発明のタンパク質-多糖類二重コーティングを有する乳酸菌は、発酵乳、加工乳、醤類、加工食品、機能性飲料、機能性食品、一般食品等の製造時に非常に有用に用いられることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1図1は、Streptococcus thermophilus CBT ST3培養液(脱脂粉乳6.0%、タンパク質分解酵素0.003%)の顕微鏡観察写真である。
図2図2は、Bifidobacterium breve CBT BR3培養液(分離大豆タンパク0.90%、タンパク質分解酵素0.015%)の顕微鏡観察写真である。
図3図3は、Lactobacillus acidophilus CBT LA1培養液(脱脂粉乳2.0%、分離大豆タンパク0.90%、タンパク質分解酵素0.015%)の顕微鏡観察写真である。
図4図4は、Streptococcus thermophilus CBT ST3を本発明の方法によって二重コーティングした菌体のSEM写真である。
図5図5は、Bifidobacterium breve CBT BR3を本発明の方法によって二重コーティングした菌体のSEM写真である。
図6図6は、Lactobacillus acidophilus CBT LA1を本発明の方法によって二重コーティングした菌体のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本明細書において説明された具体的な実施例は、本発明の好ましい実施態様又は例示を代表する意味であり、これによって本発明の範囲が限定されることはない。本発明の変形と他の用途が本明細書の特許請求の範囲に記載された発明の範囲から逸脱しないということは当業者に明らかである。
【実施例
【0060】
実施例1:タンパク質の加水分解率の測定
1-1. 加水分解率の測定方法
乳酸菌二重コーティングに使用されるタンパク質源として脱脂粉乳(skim milk)、分離大豆タンパク(ISP)、脱脂粉乳及び分離大豆タンパク混合物に対して、タンパク質分解酵素による加水分解率を測定した。脱脂粉乳と分離大豆タンパクがそれぞれ異なる濃度で含まれた濃度別タンパク質水溶液を製造した。製造した濃度別タンパク質水溶液を攪拌器が装着された反応容器に入れて、60℃にて100RPMで懸濁及び均質化した後、製造した懸濁液に1N NaOHを添加して、pH8.2±0.2に調整した。下記表1、表2、及び表3に、脱脂粉乳、分離大豆タンパク、及び脱脂粉乳+分離大豆タンパク混合物の懸濁液をそれぞれ異なる濃度で製造した例を示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
pHを調整した懸濁液にそれぞれ異なる濃度のタンパク質分解酵素(プロテアーゼ、Alcalase)を投入して2時間反応させて、pHを6.8以下にして加水分解した。懸濁液のpH調整前を始点(酵素処理前)、酵素反応2時間後を終点としてタンパク質源に対する加水分解率を測定した。
【0065】
脱脂粉乳の加水分解率は、分光光度計(SHIMADZU、UV-1280)を用いて610nmで吸光度を測定した。
加水分解率S(%)=[ΔOD]/[始点OD]×100%
[ΔOD]=始点OD-終点OD
【0066】
分離大豆タンパク(ISP)の加水分解率は、マイクロ遠心分離機(ハンイル、micro-12)を用いて、13,000rpmで15分間1次遠心分離して上澄み液を廃棄し、さらに15分間2次遠心分離して沈殿物(ppt)の重さを測定した。
加水分解率I(%)=[Δppt]/[始点ppt]×100%
[Δppt]=始点ppt-終点ppt
【0067】
脱脂粉乳及び分離大豆タンパク混合物の加水分解率は、吸光度及びpptの2つの特性を測定して、平均値として計算した。
加水分解率S&I(%)=[加水分解率S+加水分解率I]/2
【0068】
1-2. 加水分解率の測定結果
脱脂粉乳の濃度及び酵素の濃度による脱脂粉乳の加水分解率を測定した結果は、下記表4に示す。
【0069】
【表4】
* 濃度基準:脱脂粉乳溶液基準、w/w%
* 使用酵素:プロテアーゼ(製品名: Alcalase 2.4L FG、製造社:Novozymes A/S Denmark)
【0070】
実験の結果、同じ酵素濃度で、加水分解率は、脱脂粉乳の濃度が増加するほど減少し、酵素の濃度が増加するほど増加する傾向を示した。
【0071】
分離大豆タンパクの濃度と酵素の濃度による分離大豆タンパクの加水分解率を測定した結果は、下記表5に示す。
【0072】
【表5】
* 濃度基準:分離大豆タンパク(ISP)溶液基準、w/w%
* 使用酵素: プロテアーゼ(製品名:Alcalase 2.4L FG、製造社:Novozymes A/S Denmark)
【0073】
同じ酵素濃度で、分離大豆タンパクの加水分解率は、分離大豆タンパクの濃度が増加するほど減少し、酵素の濃度が増加するほど増加する傾向を示した。
脱脂粉乳及び分離大豆タンパクの濃度による加水分解率の測定結果は、下記表6に示す。
【0074】
【表6】
* 濃度基準:脱脂粉乳と分離大豆タンパク混合溶液基準、w/w%
* 使用酵素:プロテアーゼ(製品名:Alcalase 2.4L FG、製造社:Novozymes A/S Denmark)0.015%使用
【0075】
同じ酵素濃度で、加水分解率は、脱脂粉乳及び分離大豆タンパク混合物の濃度が増加するほど減少する傾向を示した。同じ酵素濃度で、分離大豆タンパクは、単独で使用時よりも加水分解率がより高くなっている。
【0076】
実施例2:タンパク質の加水分解率による培養性の測定
2-1:脱脂粉乳の濃度別加水分解率による培養性実験
実施例1で製造したタンパク質加水分解水溶液に混合乳糖30kg、大豆ペプトン6kg、酵母エキス12kg、第二リン酸カリウム1.2kg、硫酸マグネシウム120g、L-アスコルビン酸600g、L-グルタミン酸240g、ポリソルベート-80 600gを溶解させて、最終液量を1,200Lにして、熱交換器(Alfalaval、スウェーデン)を用いて温度130℃、流量1,850L/hの条件で殺菌し、1.2KL容量の嫌気的発酵管に移送してStreptococcus thermophilus CBT ST3種菌5Lを接種した後、アンモニアでpH6.0を維持しながら13時間発酵させた。発酵後、脱脂粉乳及びタンパク質分解酵素の濃度別加水分解率による乳酸菌の培養性を測定した。乳酸菌培養性の測定は、希釈水9mLに培養液1mLを取ってボルテックス(vortexing)を実施した後、十進希釈法で生菌数を分析した。測定結果は、下記表7に示す。
【0077】
【表7】
【0078】
実験の結果、表7に示すように、脱脂粉乳を2%以上、タンパク質分解酵素は0.003%以上使用したとき、優れた培養性を確保することができた。脱脂粉乳の濃度を増加させ続けて、一定水準以降では、酵素分解されていない割合が増加するほど、培養性はむしろ下落する傾向を示した。かかる結果は、図1の顕微鏡写真からも分かるように、分解されていない非共有結合の疎水性の半水溶性ペプチド量の増加によって、培養液の疎水性が高くなって、乳酸菌が固まり、菌の分裂を円滑にできないようにしたためと推定された。
【0079】
2-2:分離大豆タンパクの濃度別加水分解率による培養性実験
脱脂粉乳と同様に実施例1で得た加水分解溶解液にブドウ糖24kg、大豆ペプトン6kg、酵母エキス18kg、酢酸ナトリウム1.2kg、クエン酸カリウム1.2kg、硫酸マグネシウム120g、L-システイン塩酸塩1.8kg、L-アスコルビン酸600g、ポリソルベート-80 1.2kgを溶解させて、最終液量を1,200Lにして、熱交換器(Alfalaval、スウェーデン)を用いて温度130℃、流量1,850L/hの条件で殺菌し、1.2KL容量の嫌気的発酵管に移送して Bifidobacterium breve CBT BR3種菌5Lを接種した後、アンモニアでpH6.5を維持しながら14時間発酵させた。発酵後、分離大豆タンパク及びタンパク質分解酵素の濃度別加水分解率による乳酸菌の培養性を測定した。乳酸菌の培養性の測定は、希釈水9mLに培養液1mLを取ってボルテックスを実施した後、十進希釈法で生菌数を分析した。測定結果は表8に示す。
【0080】
【表8】
【0081】
実験の結果、表8に示すように、分離大豆タンパクを0.45%以上、タンパク質分解酵素は0.015%以上使用したとき、優れた培養性を確保することができた。分離大豆タンパクの濃度を増加させ続けて、一定水準以降では、酵素分解されていない割合が増加するほど、培養性はむしろ少し下落する傾向を示した。かかる結果は、図2の顕微鏡写真からも分かるように、分解されていない半水溶性ペプチド(peptide)量の増加によって培養液の疎水性が高くなって、乳酸菌が固まり、菌の分裂を円滑にできないようにしたためと推定された。
【0082】
2-3:脱脂粉乳と分離大豆タンパク混合物の濃度別加水分解率による培養性実験
実施例1で確保された脱脂粉乳及び分離大豆タンパク混合物の加水分解溶解液に結晶果糖36kg、酵母エキス36kg、第二リン酸カリウム2.4kg、酢酸ナトリウム6kg、硫酸マグネシウム1.2kg、硫酸マンガン6g、L-システイン塩酸塩1.2kg、L-アスコルビン酸1.2kg、ポリソルベート-80 2.4kg、精製塩7.2kgを溶解させ、最終液量を1,200Lにして、熱交換器(Alfalaval、スウェーデン)を用いて温度130℃、流量1,850L/hの条件で殺菌し、1.2KL容量の嫌気的発酵管に移送してLactobacillus acidophilus CBT LA1種菌5Lを接種した後、アンモニアでpH5.5を維持しながら20時間発酵させた。発酵後、脱脂粉乳、分離大豆タンパクの濃度別加水分解率による乳酸菌の培養性を確認した。乳酸菌の培養性の測定は、希釈水9mLに培養液1mLを取ってボルテックスを実施した後、十進希釈法で生菌数を分析した。測定結果は表9に示す。
【0083】
【表9】
【0084】
実験の結果、表9に示すように、脱脂粉乳は1.5%以上、分離大豆タンパクは0.3%水準以上を混合使用したとき、優れた培養性を確保することができた。混合濃度を増加させ続けて一定水準以降に達した場合は、培養性がむしろ減少する傾向を示した。かかる結果は、図3の顕微鏡写真からも分かるように、分解されていない半水溶性ペプチド(peptide)量の増加によって培養液の疎水性が高くなって、菌が固まり、菌の分裂を円滑にできないようにしたためと推定された。
【0085】
実施例3:タンパク質の加水分解率による凍結乾燥生存率の測定
3-1:脱脂粉乳の濃度別加水分解率による凍結乾燥生存率実験
実施例2-1で得た発酵液を4.0L/分間の流速で円筒型(Tubular Type)の高速遠心分離機(RPM15,000以上、G-force13,200以上)を用いて、菌体と残存タンパク質成分を沈積させて、コーティングしながら回収した。トレハロース3kg、マルトデキストリン1kg、マンニトール1kg、脱脂粉乳1kgから作製された凍結保護剤水溶液10Lを加圧殺菌して製造し、キサンタンガム(Xantan gum)20g、セルロース(Cellulose)20gを溶解させた多糖類水溶液10Lを加圧殺菌して製造した。次に、回収菌体と、上記製造した凍結保護剤水溶液及び多糖類水溶液をホイッパーが取り付けられた縦型混合機で、200RPMで撹拌して均質化し、-40℃の予備凍結庫で急速凍結した後、凍結乾燥機の棚温度を0℃から2時間単位で10℃ずつ段階的に昇温して、最終的に37℃の条件で凍結乾燥した。タンパク質分解酵素による加水分解の過程で半水溶性の残存タンパク成分は菌体を包括してタンパク質コーティングを形成し、キサンタンガム(Xantan gum)、セルロース(Cellulose)多糖類成分は、菌体間の結合によって非常に緻密な構造を有する菌塊を形成した。このとき、半水溶性のペプチド量が特定の量に比べて高いほど、菌が固まる傾向を示して培養性が低下し、適正量の半水溶性ペプチドは、凍結乾燥の過程で加えられる熱から菌体を保護して、優れた凍結生存率、加速安定性、耐酸性、耐胆汁性を示した。これによる試験結果は、下記表10に示す。
【0086】
【表10】
* 凍結乾燥生存率(%):凍結乾燥前/後の生菌数と重量を考慮して、凍結乾燥工程後の生存率を確認した。
[凍結乾燥後の1g当たりの生菌数×凍結乾燥後の重量(g)]/[凍結乾燥前の1g当たりの生菌数×凍結乾燥前の重量(g)]×100%
【0087】
上記表10に示すように、脱脂粉乳2%、タンパク質分解酵素0.003%の水準で、最も優れた凍結乾燥生存率(81.5%)を示した。脱脂粉乳の濃度が増加するほど加水分解率は減少し、凍結乾燥生存率は下落する傾向を示す。一定水準の分解されていない半水溶性ペプチドは、細胞に加えられる物理的要因によるタンパク質変性を減少させ、凍結乾燥生存率を向上させることと確認された。培養性及び凍結乾燥生存率を確認した結果、脱脂粉乳2.0%及び酵素0.003%処理時に培養性と凍結乾燥生存率にいずれも優れていた。
【0088】
3-2:分離大豆タンパクの濃度別加水分解率による凍結乾燥生存率実験
実施例3-1で説明された実験方法によって、実施例2-2で得た発酵液を使用して、分離大豆タンパクの濃度別加水分解率による凍結乾燥生存率実験を行った結果を、下記表11に示す。
【0089】
【表11】
* 凍結乾燥生存率(%):凍結乾燥前/後の生菌数と重量を考慮して、凍結乾燥工程後の生存率を確認した。
[凍結乾燥後の1g当たりの生菌数×凍結乾燥後の重量(g)]/[凍結乾燥前の1g当たりの生菌数×凍結乾燥前の重量(g)]×100%
【0090】
上記表11に示すように、分離大豆タンパク0.45%及びタンパク質分解酵素0.015%水準で、優れた凍結乾燥生存率(85.2%)を確保することができた。分離大豆タンパクの濃度が増加するほど加水分解率は減少し、凍結乾燥生存率は下落する傾向を示した。一定水準の分解されていない半水溶性ペプチドは、細胞に加えられる物理的要因によるタンパク質変性を減少させ、凍結乾燥生存率を向上させた。培養性及び凍結乾燥生存率を確認した結果、分離大豆タンパク0.45%及び酵素0.015%処理時に培養性と凍結乾燥生存率にいずれも優れていた。
【0091】
3-3:脱脂粉乳及び分離大豆タンパクの濃度別加水分解率による凍結乾燥生存率実験
実施例3-1で説明された実験方法によって、上記実施例2-3で得た発酵液を使用して、脱脂粉乳及び分離大豆タンパクの濃度別加水分解率による凍結乾燥生存率実験を行った結果は、下記表12に示す。
【0092】
【表12】
* 凍結乾燥生存率(%):凍結乾燥前/後の生菌数と重量を考慮して、凍結乾燥工程後の生存率を確認した。
[凍結乾燥後の1g当たりの生菌数×凍結乾燥後の重量(g)]/[凍結乾燥前の1g当たりの生菌数×凍結乾燥前の重量(g)]×100%
【0093】
上記表12に示すように、脱脂粉乳1.5%、分離大豆タンパク0.3%混合使用時、優れた凍結乾燥生存率(83.1%)を確保することができた。混合濃度が増加するほど加水分解率が減少し、凍結乾燥生存率は下落する傾向を示した。一定水準の分解されていない半水溶性ペプチド(peptide)は、細胞に加えられる物理的要因によるタンパク質変性を減少させ、凍結乾燥生存率を向上させる。培養性及び凍結乾燥生存率を確認した結果、脱脂粉乳及び分離大豆タンパク混合物をそれぞれ1.5%、0.3%処理時に培養性と凍結乾燥生存率にいずれも優れていた。
【0094】
実施例4:二重コーティングによる加速安定性、耐酸性、耐胆汁性実験
乳酸菌をコーティングしていない場合、タンパク質コーティングのみ行った場合、二重コーティングした場合に、加速安定性、耐酸性及び耐胆汁性実験を行った。その結果は、下記表13に記載する。
【0095】
【表13】
* CMC-Na:セルロース
* XG:キサンタンガム
* 加速安定性:希釈水9mLに試料1gを取ってボルテックスを実施した後、十進希釈法で初期生菌数を分析した。さらに試料を40℃で培養した後、1週間単位で4週間まで生菌数分析を行い、初期生菌数に対する生存率を確認した。
* 耐酸性:1M HCl溶液で補正したpH2.1 MRSブロス(broth)溶液9.9mlにそれぞれの試料0.1gを溶解した後、37℃の温度を維持しながら0時間、2時間目の生菌数を分析して、0時間に対する生存率を確認した。
* 耐胆汁性:0.5%オックスゴール(oxgall)が添加されたMRSブロス溶液9.9mlにそれぞれの試料0.1gを溶解した後、37℃の温度を維持しながら0時間、2時間目の生菌数を分析して、0時間に対する生存率を確認した。
【0096】
非コーティング、タンパク質コーティング、二重コーティングの比較分析結果、二重コーティングされた乳酸菌が、非コーティング、単一(タンパク質)コーティングの乳酸菌に比べて、優れた加速安定性、耐酸性、耐胆汁性を確保することができた。細胞に加えられる物理的要因による死滅率が低く、乳酸菌の生理活性機能を消失しなくて済むので、加速安定性、耐酸性、耐胆汁性を向上させる。
【0097】
以上、本発明の特定の部分を詳細に記述したが、当業界における通常の知識を有する者にとってこのような具体的な記述は、単に好ましい実施態様に過ぎず、これに本発明の範囲が制限されるものではない点は明らかである。よって、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とそれの等価物によって定義されると言えよう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6